JP2017185754A - 印刷物 - Google Patents

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実紀 徳丸
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Abstract

【課題】特別な検証器を必要とせず、かつ、意図しない水または温度環境への暴露と、意図的な改竄とを区別することができる印刷物の提供。【解決手段】基材と、基材の表面の少なくとも一部に設けられたハロクロミックインキ層と、基材の表面の少なくとも一部に設けられた感熱消去可能インキ層とを含むことを特徴とする印刷物。【選択図】図1

Description

本発明は、印刷物に関する。具体的には、本発明は、感熱消去可能なインキを使用した改竄を防止するための印刷物に関する。
最近、感熱消去可能インキを充填したインキリフィルを備えた新式の筆記具が、幅広く市販されている。そのような筆記具の代表的な例は、フリクションボール(商標)、ユニボールファントム(商標)などのボールペンを含む。
感熱消去可能インキは、一般的に、電子供与性発色剤と、電子受容性顕色剤と、変色温度調節剤とを含有するマイクロカプセルを含む(たとえば、特許文献1参照)。インキリフィル中および基材上の筆跡中では、電子供与性発色剤と電子受容性顕色剤との反応により色素が形成された、有色の状態である。変色温度調節剤は、一般的には、5〜50℃の範囲内に融点または曇点を有するエステル化合物である。筆跡を加熱した場合、変色温度調節剤によって電子供与性発色剤と電子受容性顕色剤とが解離し、筆跡は無色に変化する。加熱は、たとえば筆記具に付属するゴム部材と基材との摩擦熱で行うこともできる。無色に変化した筆跡は視認不可能であり、その上から新たな文字などを記載して改竄を行うことができる。
銀行小切手などの有価証券、身分証明書、捺印証書などの証明書類、契約書などの機密書類において、感熱消去可能インキを用いる改竄を防止することが喫緊の課題となってきている。
この課題に関して、特開2015−212327号公報は、消去または改竄を検出できる熱消去可能インキ組成物を提案している(特許文献2参照)。提案されている熱消去可能インキ組成物は、熱変色性マイクロカプセル顔料と、光変色性マイクロカプセル顔料とを含む。熱変色性マイクロカプセル顔料は、常温で有色であり、加熱により透明になる顔料である。光変色性マイクロカプセル顔料は、室内照明環境により無色であり、紫外線照射により発色する顔料である。この熱消去可能インキ組成物による筆跡は、加熱により消去されたとしても、紫外線照射により消去された筆跡を容易に視認することが可能である。したがって、消去または改竄の有無を容易に判別することができる。しかしながら、悪意をもって改竄を意図する者が、必ずしもこの熱消去可能インキ組成物を用いるとは限らない。また、消去された筆跡の視認のためには、紫外線を照射するための検証器が必要であり、その検証には手間がかかる。
一方、特表2014−532105号公報は、pH変化により不可逆的に変色するインキ組成物を印刷した印刷物を提案している(特許文献3参照)。提案されているインキ組成物は、少なくとも1種のハロクロミック化合物と、少なくとも1種の充填剤化合物とを含む。このインキ組成物を印刷した部分に感熱消去可能インキを用いて筆記を行うと、当該部分は不可逆的に色が変化する。その後に、加熱によって感熱消去可能インキを透明に変化させても、前述の不可逆的に変色した部分により、消去された筆跡を容易に視認することができる。したがって、消去または改竄の有無を容易に判別することができる。しかしながら、提案されたインキ組成物は、感熱消去可能インキ以外の液体(たとえば水道水)の接触によっても、不可逆的に変色する。よって、不注意による水との接触と、意図的な改竄とを区別することが困難である。
特開昭60−264285号公報 特開2015−212327号公報 特表2014−532105号公報 特開平8−127768号公報
以上の状況に鑑みて、本発明は、特別な検証器を必要とせず、かつ、意図しない水または温度環境への暴露と、意図的な改竄とを区別することができる印刷物を提供することを目的とする。
本発明の第1の実施態様の印刷物は、基材と、基材の表面の少なくとも一部に設けられたハロクロミックインキ層と、基材の表面の少なくとも一部に設けられた感熱消去可能インキ層とを含むことを特徴とする。
本発明の第2の実施態様の印刷物は、第1の実施態様の印刷物において、ハロクロミックインキ層の少なくとも一部と、感熱消去可能インキ層の少なくとも一部とが重なり合っていることを特徴とする。
本発明の第3の実施態様の印刷物は、第2の実施態様の印刷物において、前記ハロクロミックインキ層が、前記感熱消去可能インキ層の上に配置されていることを特徴とする。
本発明の第4の実施態様の印刷物は、第2の実施態様の印刷物において、前記感熱消去可能インキ層が、前記ハロクロミックインキ層の上に配置されていることを特徴とする。
本発明の第5の実施態様の印刷物は、第1〜第4の実施態様の印刷物において、前記ハロクロミックインキ層が一体の層であることを特徴とする。
本発明の第6の実施態様の印刷物は、第1〜第4の実施態様の印刷物において、前記ハロクロミックインキ層が、互いに接続していない複数の部分からなることを特徴とする。
本発明の第7の実施態様の印刷物は、第6の実施態様の印刷物において、前記複数の部分のそれぞれが、円、楕円、多角形、文字、直線、開曲線、閉曲線およびそれらの複合形状からなる群から選択される形状を有することを特徴とする。
本発明の第8の実施態様の印刷物は、第1〜第7の実施態様の印刷物において、前記感熱消去可能インキ層が一体の層であることを特徴とする。
本発明の第9の実施態様の印刷物は、第1〜第7の実施態様の印刷物において、前記感熱消去可能インキ層が、互いに接続していない複数の部分からなることを特徴とする。
本発明の第10の実施態様の印刷物は、第9の実施態様の印刷物において、前記感熱消去可能インキ層を構成する複数の部分のそれぞれが、円、楕円、多角形、文字、直線、開曲線、閉曲線およびそれらの複合形状からなる群から選択される形状を有することを特徴とする。
以上の構成を採用することにより、本発明の印刷物においては、特別な検証器を必要とせずも、意図しない水または温度環境への暴露と、意図的な改竄とを区別することができる。
本発明の1つの構成例を示す断面図である。 本発明の別の構成例を示す断面図である。 本発明の別の構成例を示す断面図である。 本発明の別の構成例を示す断面図である。 本発明の別の構成例を示す断面図である。 本発明の作用効果を説明するための断面図である。
本発明の印刷物は、基材と、基材の表面の少なくとも一部に設けられたハロクロミックインキ層と、基材の表面の少なくとも一部に設けられた感熱消去可能インキ層とを含むことを特徴とする。図1〜図5に、本発明の印刷物の構成例を示す。図1の構成例は、基材10の上に、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30がこの順に設けられた第3の実施態様に係るものである。図2の構成例は、基材10の上に、ハロクロミックインキ層30および感熱消去可能インキ層20がこの順に設けられた第4の実施態様に係るものである。図3の構成例は、基材10の上に、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30がこの順に設けられ、およびハロクロミックインキ層30が互いに接続していない複数の部分からなる第6の実施態様に係るものである。図4の構成例は、基材10の上に、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30がこの順に設けられ、および感熱消去可能インキ層20が互いに接続していない複数の部分からなる第9の実施態様に係るものである。図5の構成例は、基材10の上に、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30がこの順に設けられ、ならびに、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の両方が互いに接続していない複数の部分からなる第9の実施態様の変形に係るものである。
本発明の印刷物は、一般的商品全般、商品包装物、身分証明書(IDカード)、パスポート、運転免許証、銀行小切手、バウチャー、各種商品券、受託証、各種証明書、申請書などの、その上にインキで形成される筆跡の改竄を防止することが求められる任意の形態であってもよい。
基材10は、印刷物の用途に依存して、適当な材料から形成される。たとえば、印刷物がチケットなどの場合には、基材10として、上質紙を用いることができる。印刷物が紙幣、有価証券などの場合には、基材として、それら専用の紙を用いることができる。印刷物がラベルなどの場合には、基材10として、タック加工された上質紙、またはコート紙を用いることができる。あるいはまた、印刷物がラベルなどの場合には、基材10として、脆性を有するフィルム用いてもよい。脆性を有するフィルムは、セルロースアセテート、低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィドのような高結晶性熱可塑性素材のフィルムを含む。
基材10は、印刷物の用途に依存して、堅牢性インキを付着させた印刷層(不図示)をさらに含んでもよい。本明細書において、「堅牢性インキ」とは、後述するハロクロミックインキおよび感熱消去可能インキを変色させる刺激に暴露されても変色しないインキを意味する。
感熱消去可能インキ層20は、印刷物製造後に感熱消去可能インキを含むインキによる筆記が想定される領域に設けられる。以後の記載において、当該領域を「筆記予定領域」と呼ぶことがある。感熱消去可能インキ層20は、筆記予定領域全体を覆う一体の層であってもよいし、筆記予定領域の少なくとも一部を覆う、互いに接続していない複数の部分で構成されていてもよい。
感熱消去可能インキ層20は、感熱消去可能インキの付着により形成される層である。感熱消去可能インキは、電子供与性(プロトン受容性)発色剤と、電子受容性(プロトン供与性)顕色剤と、変色温度調節剤とを封入したマイクロカプセル顔料を含む。電子供与性(プロトン受容性)発色剤、電子受容性(プロトン供与性)顕色剤、および変色温度調節剤は、当該技術において知られている任意の化合物を含んでもよい(たとえば、特許文献4参照)。なお、電子供与性(プロトン受容性)発色剤、電子受容性(プロトン供与性)顕色剤、および変色温度調節剤の組み合わせは、後述するハロクロミックインキを変色させる刺激(pH変化、水、有機溶剤など)に暴露された際に、変色を起こさないものであることが望ましい。感熱消去可能インキは、水または有機溶剤であってもよい分散媒、光安定剤、分散剤、増粘剤、潤滑剤、防腐剤、抗菌剤などの当該技術において知られている任意の材料をさらに含んでもよい。
感熱消去可能インキは、一般的に、室温において、電子供与性(プロトン受容性)発色剤と電子受容性(プロトン供与性)顕色剤とが反応した有色状態で調製される。感熱消去可能インキを消色温度以上に加熱した場合に、変色温度調節剤の作用により電子供与性(プロトン受容性)発色剤と電子受容性(プロトン供与性)顕色剤とが解離し、感熱消去可能インキは、有色状態から無色状態に移行する。一般的に、消色温度は、−30℃〜60℃の範囲内で調整することが可能である。
感熱消去可能インキは、オフセット印刷用インキ、グラビア印刷用インキ、スクリーン印刷用インキ、インキジェット印刷用インキ、レーザープリンター用トナーなどの当該技術において知られている任意の形態であってもよい。
ハロクロミックインキ層30は、筆記予定領域に設けられる。ハロクロミックインキ層30は、筆記予定領域全体を覆う一体の層であってもよいし、筆記予定領域の少なくとも一部を覆う、互いに接続していない複数の部分で構成されていてもよい。
ハロクロミックインキ層30は、ハロクロミックインキの付着により形成される層である。ハロクロミックインキは、少なくとも1種のハロクロミック化合物を含む。本明細書において、「ハロクロミック化合物」とは、pHの変化により色が変化する材料を意味する。たとえば、ハロクロミック化合物は、7.0以下の遷移pH領域を有してもよい。本明細書において、「遷移pH領域」とは、ハロクロミック化合物の色が変化するpHの領域を意味する。好ましくは、ハロクロミック化合物は、遷移pH領域よりも低いpHにおいて無色または非常に淡色である第1着色状態を呈し、遷移pH領域よりも高いpHにおいて有色である第2着色状態を呈してもよい。なお、ハロクロミック化合物は、前述の感熱消去可能インキを変色させる刺激(熱)に暴露された際に、変色を起こさないものであることが望ましい。
用いることができるハロクロミック化合物の非制限的な例は、マラカイトグリーン、ブリリアントグリーン、エオシンイエロー、エリトロシンB、メチルグリーン、メチルバイオレット、ピクリン酸、クレゾールレッド、クリスタルバイオレット、メタニルイエロー、m−クレゾールパープル、チモールブルー、p−キシレノールブルー、エオシンブルー、ナフトールイエロー2B、キナルジンレッド、2,4−ジニトロフェノール、ブロモクロロフェノール、ブロモフェノールブルー、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールグリーンナトリウム塩、2,5−ジニトロフェノール、アリザリンスルホン酸ナトリウム塩、フロキシンB、メチルレッド、メチルオレンジ、クリソイジン、コチニール、クロロフェノールレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモフェノールレッド、ブリリアントイエロー、レゾール酸、4−ニトロフェノール、o−クレゾールフタレイン、ブロモキシレノールブルー、アリザリン、ニトラジンイエロー、ブロモチモールブルーナトリウム塩、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、フェノールレッドナトリウム塩、3−ニトロフェノール、フェノールフタレイン、モルダントオレンジ、チアゾールイエローG、チモールフタレイン、アリザリンイエローGG、インジゴカーミン、チタンイエローなどを含む。
ハロクロミックインキは、1種または複数種の着色剤(染料または顔料)、水または有機溶剤であってもよい分散媒、光安定剤、分散剤、増粘剤、潤滑剤、防腐剤、抗菌剤などの当該技術において知られている任意の材料をさらに含んでもよい。
ハロクロミックインキは、第1着色状態または第2着色状態のいずれで調製されてもよい。好ましくは、ハロクロミックインキは、有色の第2着色状態で調製される。有色の第2着色状態で調製されたハロクロミックインキは、遷移pH領域を横断するpH変化、水への暴露、有機溶剤への暴露などにより、第1着色状態に移行する。
本発明の印刷物において、第1および第2の着色状態のハロクロミックインキが有色状態の感熱消去可能インキとは異なる色を呈し、感熱消去可能インキ層20の着色状態(有色または無色)に無関係に、ハロクロミックインキ層30の変色ならびに感熱消去可能インキ層20の変色を容易に判別可能にすることが望ましい。
本発明の印刷物において、無色または非常に淡色である第1着色状態のハロクロミックインキ層30は、その下に存在する有色状態の感熱消去可能インキ層20を視認できるように構成することが望ましい。また、無色状態の感熱消去可能インキ層20は、その下に存在する第1着色状態または第2着色状態のハロクロミックインキ層30を視認できるように構成することが望ましい。
本発明の印刷物において、感熱消去可能インキ層20の少なくとも一部を、ハロクロミックインキ層30層の少なくとも一部に重なるように配置することが望ましい。さらに望ましくは、感熱消去可能インキ層20とハロクロミックインキ層30との重なり合った部分に、インキによる筆跡の少なくとも一部が必然的に形成される構成を有する。
たとえば、図1に示すように、筆記予定領域全体を覆う一体の感熱消去可能インキ層20を設け、感熱消去可能インキ層20の上に、筆記予定領域全体を覆う一体のハロクロミックインキ層30を設けてもよい。この場合、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30は、同一の形状を有する。さらに、印刷物を使用する期間全体にわたって、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の両方を容易に視認できるように、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の着色の濃度を調整することが望ましい。
あるいはまた、図2に示すように、筆記予定領域全体を覆う一体のハロクロミックインキ層30を設け、ハロクロミックインキ層30の上に、筆記予定領域全体を覆う一体の感熱消去可能インキ層20を設けてもよい。この場合にも、印刷物を使用する期間全体にわたって、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の両方を容易に視認できるように、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の着色の濃度を調整することが望ましい。
図1および図2の構成においては、筆記予定領域の全体にわたって感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の両方が設けられているため、筆跡は、必然的に、感熱消去可能インキ層20とハロクロミックインキ層30との重なり合った部分に形成される。
さらに、図3に示すように、筆記予定領域全体を覆う一体の感熱消去可能インキ層20を設け、感熱消去可能インキ層20の上に、互いに連続していない複数の部分からなるハロクロミックインキ層30を設けてもよい。この場合、ハロクロミックインキ層30の複数の部分を、緻密に配置することが望ましい。
あるいはまた、図4に示すように、筆記予定領域に、互いに連続していない複数の部分からなる感熱消去可能インキ層20を設け、感熱消去可能インキ層20の上に、筆記予定領域全体を覆う一体のハロクロミックインキ層30を設けてもよい。この場合、感熱消去可能インキ層20の複数の部分を、緻密に配置することが望ましい。
さらに、図5に示すように、筆記予定領域に、互いに連続していない複数の部分からなる感熱消去可能インキ層20を設け、感熱消去可能インキ層20の上に、互いに連続していない複数の部分からなるハロクロミックインキ層30を設けてもよい。この場合、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の複数の部分を、緻密に配置することが望ましい。なお、図5においては、感熱消去可能インキ層20を構成する1つの部分と、ハロクロミックインキ層30を構成する1つの部分とが、同一形状を有して重なり合う構成を示した。しかしながら、感熱消去可能インキ層20を構成する1つの部分と、ハロクロミックインキ層30を構成する1つの部分とが、部分的に重なり合う構成を採用してもよい。また、感熱消去可能インキ層20およびハロクロミックインキ層30の複数の部分が重なり合うことなく、両者ともに基材10上に配置される構成を採用してもよい。
また、図3〜図5においては、感熱消去可能インキ層20の上にハロクロミックインキ層30を設ける構成を例示したが、ハロクロミックインキ層30の上に感熱消去可能インキ層20を設ける構成を採用してもよい。
感熱消去可能インキ層20またはハロクロミックインキ層30のいずれかを互いに接続していない複数の部分から形成する場合、複数の部分のそれぞれは、円、楕円、多角形、文字、直線、開曲線、閉曲線およびそれらの複合形状からなる群から選択される形状を有してもよい。これによって、印刷物の筆記予定領域に意匠を付与することができる。
本明細書において、複数の部分からなる層(感熱消去可能インキ層20および/またはハロクロミックインキ層30)が「緻密に配置される」とは、インキ筆記により形成される筆跡の少なくとも一部が必然的に当該層の上に形成されるように配置されることを意味する。緻密に配置されているか否かは、複数の部分のそれぞれの形状に依存して判断される。たとえば、複数の部分が、円、多角形、文字、閉曲線、またはそれらの複合形状からなる場合、隣接する2つの部分の間隔を、インキ筆記により形成される筆跡の幅以下とすることができる。
第1表に示す成分を混合して、オフセット印刷用ハロクロミックインキを調製した。
Figure 2017185754
次に、第2表に示す成分を混合して、相溶体を調製した。
Figure 2017185754
得られた相溶体をエポキシ樹脂膜で封入して、マイクロカプセル形態の熱変色性組成物を調製した。さらに、得られた熱変色性組成物を用いて、スクリーン印刷用感熱消去可能インキを調製した。
続いて、基材10(しらおい(日本製紙、米坪70kg/m2))の上に、スクリーン印刷用感熱消去可能インキをスクリーン印刷し、オフセット印刷用ハロクロミックインキをオフセット印刷して、印刷物を得た。印刷物は、図6に示すように、感熱消去可能インキ層20の上にハロクロミックインキ層30が形成された領域A、ハロクロミックインキ層30のみが形成された領域B、および感熱消去可能インキ層20のみが形成された領域Cを有した。印刷物の領域Aは、第2の着色状態のハロクロミックインキおよび有色状態の感熱消去可能インキに起因する色を呈し、領域Bは、第2の着色状態のハロクロミックインキに起因する色を呈し、領域Cは、有色状態の感熱消去可能インキに起因する色を呈した。
(実験A)
得られた印刷物に対して、フリクションボール(商標、パイロットコーポレーション)を用いて筆記を行い、図6に示すように、領域A、領域Bおよび領域Cのそれぞれに筆記インキ層40を有する筆記済み印刷物を形成した。以後、筆記インキ層40の下に位置する感熱消去可能インキ層20および/またはハロクロミックインキ層30を「筆跡部」と称し、筆記インキ層40が存在しない位置の感熱消去可能インキ層20および/またはハロクロミックインキ層30を「非筆跡部」と称する。
筆記済み印刷物を形成した時点において、筆記インキに含まれる分散媒(水、有機溶剤など)により、領域Aおよび領域Bの筆跡部のハロクロミックインキ層30は、有色の第2の着色状態から淡色の第1の着色状態に移行した。
筆記インキ層40を消色させるように、筆記済み印刷物をドライヤーで加熱した。
領域Aにおいては、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。しかしながら、ハロクロミックインキ層30は、筆跡部において第1の着色状態にあり、非筆跡部において第2の着色状態にあった。したがって、ハロクロミックインキの第1及び第2の着色状態の相違により、筆記インキ層40が消色したにもかかわらず、依然として筆跡を視認することができた。また、非筆跡部において感熱消去可能インキ層20が消色しているため、実験後の領域Aの非筆跡部は、実験前とは異なる色を呈した。
領域Bにおいては、筆記インキ層40が消色した。領域Aと同様に、筆跡部の第1の着色状態のハロクロミックインキ層30と、非筆跡部の第2の着色状態のハロクロミックインキ層30とにより、依然として筆跡を確認することができた。
領域Cにおいては、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。よって、領域Cにおいては、筆跡を視認できないものの、感熱消去可能インキ層20の消色により、基材10の色を視認できた。
以上のように、領域AおよびBにおけるハロクロミックインキ層30の変色による筆跡の視認、ならびに領域Cにおける基材10の色の視認により、意図的な改竄の可能性を容易に認識することができた。
(実験B1)
得られた印刷物に対して、実験Aと同様の筆記を行い、筆記済み印刷物を形成した。筆記済み印刷物を形成した時点において、筆記インキに含まれる分散媒(水、有機溶剤など)により、領域Aおよび領域Bの筆跡部のハロクロミックインキ層30は、有色の第2の着色状態から淡色の第1の着色状態に移行した。
続いて、筆記済み印刷物に対して、水を滴下した。
この時点において、領域Aの非筆跡部のハロクロミックインキ層30が第1の着色状態に移行した。しかしながら、領域Aの筆跡部、ならびに領域Aの非筆跡部の感熱消去可能インキ層20は、水濡れ前の着色状態を維持した。よって、領域Aの非筆跡部は、水濡れ前とは異なり、感熱消去可能インキ層20のみに起因する色が視認できた。
領域Bの非筆跡部のハロクロミックインキ層30が第1の着色状態に移行した。一方、領域Bの筆跡部は、水濡れ前の第1の着色状態を維持した。
領域Cにおいて、筆跡部、ならびに領域Cの非筆跡部の感熱消去可能インキ層20は、水濡れ前の有色状態を維持した。
(実験B2)
実験B1の水濡れ後の筆記済み印刷物の筆跡部を、フリクションボール(商標、パイロットコーポレーション)付属のゴムチップの摩擦により消去した。
領域Aにおいては、ゴムチップにより摩擦された部分で、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。しかしながら、摩擦されていない部分において、感熱消去可能インキ層20は有色状態を維持した。この結果、領域Aの摩擦された部分は、第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈し、摩擦されていない部分は有色状態の感熱消去可能インキの色を呈した。
領域Cにおいても、領域Aと同様に、ゴムチップにより摩擦された部分で、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。しかしながら、摩擦されていない部分において、感熱消去可能インキ層20は有色状態を維持した。この結果、領域Cの摩擦された部分は、基材10の色を呈し、摩擦されていない部分は有色状態の感熱消去可能インキの色を呈した。
一方、感熱消去可能インキ層20が存在しない領域Bは、ゴムチップの摩擦に起因する変化が認められなかった。
以上のように、領域Aおよび領域Cに異なる色の部分が存在することにより、部分的な加熱による筆跡の消去の試みを視認することが可能であった。
(実験B3)
実験B1の水濡れ後の筆記済み印刷物をドライヤーにより全面加熱した。
領域AおよびCの全面において、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。この結果、領域Aは、全体的に第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈した。一方、領域Cは、全体的に基材10の色を呈した。また、感熱消去可能インキ層20が存在しない領域Bは、ドライヤーによる加熱に起因する変化が認められなかった。
以上のことから、領域A〜Cのいずれにおいても、筆跡の確認はできないものの、筆記前の印刷物とは異なる色を呈した。
(実験B4)
得られた印刷物に対して、水を滴下した。この時点において、領域Aおよび領域Bのハロクロミックインキ層30は、有色の第2の着色状態から淡色の第1の着色状態に移行した。
続いて、実験Aと同様の筆記を行い、筆記済み印刷物を形成した。この時点においては、領域A〜Cのいずれにおいても、非筆跡部における変色は認められなかった。
最後に、実験B3と同様に、筆記済み印刷物をドライヤーにより全面加熱した。
領域A〜Cの全面において、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。この結果、領域AおよびBは、全体的に第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈した。一方、領域Cは、全体的に基材10の色を呈した。
以上のことから、領域A〜Cのいずれにおいても、筆跡の確認はできないものの、筆記前の印刷物とは異なる色を呈した。
実験B1の結果から、たとえ非意図的な水濡れによりハロクロミックインキ層30による筆跡の保存機能が無効化されたとしても、感熱消去可能インキ層20の存在により筆記インキの消去を意図した加熱の有無を判別できることが分かった。また、実験B2の結果から、ハロクロミックインキ層30による筆跡の保存機能が無効化された状態であっても、意図的な改竄の有無を判別できることが分かった。なお、実験B3およびB4の結果から、筆記予定領域全体の加熱による筆記インキの消去の試みがなされたとしても、改竄の意図を明確に認識でないものの、改竄の可能性を認識することができた。以上の結果を総合すると、本発明の印刷物を用いることにより、改竄の可能性を容易に認識することができた。
(実験C1)
得られた印刷物に対して、実験Aと同様の筆記を行い、筆記済み印刷物を形成した。次いで、実験B2と同様に、フリクションボール(商標、パイロットコーポレーション)付属のゴムチップの摩擦により消去した。最後に、加熱後の筆記済み印刷物に対して、水を滴下した。
領域Aにおいては、ゴムチップにより摩擦された部分で、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。また、水を滴下する時点において、領域Aの非筆跡部のハロクロミックインキ層30が第1の着色状態に移行した。しかしながら、よって、領域Cのゴムチップにより摩擦されていない部分で、感熱消去可能インキ層20は、有色状態を維持した。この結果、領域Aの摩擦された部分は、第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈し、摩擦されていない部分は有色状態の感熱消去可能インキの色を呈した。
また、領域Bにおいては、ゴムチップにより摩擦された部分で、筆記インキ層40が消色した。そして、水を滴下した時点において、非筆跡部のハロクロミックインキ層30が第1の着色状態に移行した。よって、領域Bにおいて、筆跡を視認することはできなかったものの、領域B全体が第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈した。
さらに、領域Cにおいては、ゴムチップにより摩擦された部分で、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。水を滴下した時点での変化は認められなかった。一方、領域Cのゴムチップにより摩擦されていない部分で、感熱消去可能インキ層20は、有色状態を維持した。この結果、領域Cの摩擦された部分は、第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈し、摩擦されていない部分は有色状態の感熱消去可能インキの色を呈した。
以上のように、筆跡を視認することはできなかったものの、領域Aおよび領域Cに異なる色の部分が存在することにより、部分的な加熱による筆跡の消去の試みを視認することが可能であった。
(実験C2)
得られた印刷物に対して、実験Aと同様の筆記を行い、筆記済み印刷物を形成した。次いで、実験Aと同様にドライヤーによる加熱を行った。最後に、加熱後の筆記済み印刷物に対して、水を滴下した。
領域Aの筆記インキ層40、ならびに領域Aの非筆跡部の感熱消去可能インキ層20は、ドライヤーによる加熱の時点で消色した。また、水を滴下する時点において、領域Aの非筆跡部のハロクロミックインキ層30が第1の着色状態に移行した。よって、領域Aにおいて、筆跡を視認することはできなかったものの、領域A全体が第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈した。
領域Bにおいても、領域Bの筆記インキ層40は、ドライヤーによる加熱の時点で消色した。また、水を滴下した時点において、非筆跡部のハロクロミックインキ層30が第1の着色状態に移行した。よって、領域Bにおいて、筆跡を視認することはできなかったものの、領域B全体が第1の着色状態のハロクロミックインキの色を呈した。
さらに、領域Cの筆記インキ層40ならびに感熱消去可能インキ層20は、ドライヤーによる加熱の時点で消色した。なお、領域Cにおいては、水を滴下した時点での変化は認められなかった。よって、領域Cにおいて、筆跡を視認することはできなかったものの、領域C全体が基材10の色を呈した。
以上のことから、領域A〜Cのいずれにおいても、筆跡の確認はできないものの、筆記前の印刷物とは異なる色を呈した。
実験C1の結果から、筆記予定領域の部分的加熱による筆記インキの消去の試みの後に、非意図的な水濡れによりハロクロミックインキ層30による筆跡の保存機能が無効化されたとしても、感熱消去可能インキ層20の存在により意図的な改竄(すなわち、部分的加熱)の有無を判別できることが分かった。また、実験C2の結果から、筆記予定領域全体の加熱による筆記インキの消去の試みがなされたとしても、改竄の意図を明確に認識でないものの、改竄の可能性を認識することができた。以上の結果を総合すると、本発明の印刷物を用いることにより、改竄の可能性を容易に認識することができた。
(実験D1)
得られた印刷物に対して、実験Aと同様の筆記を行い、筆記済み印刷物を形成した。次いで、筆記済み印刷物を24時間にわたって60℃の高温環境に放置した。最後に、実験Aと同様にドライヤーによる加熱を行った。
領域Aにおいては、高温環境での放置により、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。しかしながら、ハロクロミックインキ層30は、筆跡部において第1の着色状態にあり、非筆跡部において第2の着色状態にあった。また、ドライヤーによる加熱終了時においても、ハロクロミックインキ層30は、筆跡部において第1の着色状態にあり、非筆跡部において第2の着色状態にあった。したがって、ハロクロミックインキの第1及び第2の着色状態の相違により、筆記インキ層40が消色したにもかかわらず、依然として筆跡を視認することができた。また、非筆跡部において感熱消去可能インキ層20が消色しているため、実験後の領域Aの非筆跡部は、実験前とは異なる色を呈した。
領域Bにおいては、高温環境での放置により、筆記インキ層40が消色した。しかしながら、領域Aと同様に、ドライヤーによる加熱終了時においても、筆跡部の第1の着色状態のハロクロミックインキ層30と、非筆跡部の第2の着色状態のハロクロミックインキ層30とにより、依然として筆跡を確認することができた。
領域Cにおいては、高温環境での放置により、筆記インキ層40および感熱消去可能インキ層20が消色した。よって、領域Cにおいては、筆跡を視認できないものの、感熱消去可能インキ層20の消色により、基材10の色を視認できた。
(実験D2)
得られた印刷物を、24時間にわたって60℃の高温環境に放置した。続いて、実験Aと同様の筆記を行い、筆記済み印刷物を形成した。最後に、実験Aと同様にドライヤーによる加熱を行った。
領域Aにおいては、高温環境での放置により、感熱消去可能インキ層20が消色した。しかしながら、ハロクロミックインキ層30は、第2の着色状態にあった。引き続く筆記により、筆跡部のハロクロミックインキ層30は、第1の着色状態移行した。一方、非筆跡部のハロクロミックインキ層30は第2の着色状態にあった。さらに、筆記後のドライヤーによる加熱終了時において、筆記インキ層40が消色した。しかしながら、ハロクロミックインキ層30は、筆跡部において第1の着色状態にあり、非筆跡部において第2の着色状態にあった。したがって、ハロクロミックインキの第1及び第2の着色状態の相違により、筆記インキ層40が消色したにもかかわらず、依然として筆跡を視認することができた。また、非筆跡部において感熱消去可能インキ層20が消色しているため、実験後の領域Aの非筆跡部は、実験前とは異なる色を呈した。
領域Bにおいては、高温環境での放置による変化は認められなかった。引き続く筆記により、筆跡部のハロクロミックインキ層30は、第1の着色状態に移行した。一方、非筆跡部のハロクロミックインキ層30は第2の着色状態にあった。さらに、筆記後のドライヤーによる加熱終了時において、筆記インキ層40が消色した。しかしながら、領域Aと同様に、ドライヤーによる加熱終了時においても、筆跡部の第1の着色状態のハロクロミックインキ層30と、非筆跡部の第2の着色状態のハロクロミックインキ層30とにより、依然として筆跡を確認することができた。
領域Cにおいては、高温環境での放置により、感熱消去可能インキ層20が消色した。また、筆記後のドライヤーによる加熱終了時において、筆記インキ層40が消色した。よって、領域Cにおいては、筆跡を視認できないものの、感熱消去可能インキ層20の消色により、基材10の色を視認できた。
実験D1およびD2の結果を総合すると、改竄を意図しない不注意の加熱(すなわち、高温環境での放置)を受けたとしても、本発明の印刷物においては、改竄を意図する加熱(すなわち、ドライヤーによる加熱)に起因する、領域AおよびBにおけるハロクロミックインキ層30の変色による筆跡、ならびに領域Cにおける基材10の色を視認することができた。したがって、本発明の印刷物に対する意図的な改竄の可能性を容易に認識することができた。
10 基材
20 感熱消去可能インキ層
30 ハロクロミックインキ層
40 筆記インキ層

Claims (10)

  1. 基材と、基材の表面の少なくとも一部に設けられたハロクロミックインキ層と、基材の表面の少なくとも一部に設けられた感熱消去可能インキ層とを含むことを特徴とする印刷物。
  2. 前記ハロクロミックインキ層の少なくとも一部と、前記感熱消去可能インキ層の少なくとも一部とが重なり合っていることを特徴とする請求項1に記載の印刷物。
  3. 前記ハロクロミックインキ層が、前記感熱消去可能インキ層の上に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の印刷物。
  4. 前記感熱消去可能インキ層が、前記ハロクロミックインキ層の上に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の印刷物。
  5. 前記ハロクロミックインキ層が一体の層であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷物。
  6. 前記ハロクロミックインキ層が、互いに接続していない複数の部分からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷物。
  7. 前記複数の部分のそれぞれが、円、楕円、多角形、文字、直線、開曲線、閉曲線およびそれらの複合形状からなる群から選択される形状を有することを特徴とする請求項6に記載の印刷物。
  8. 前記感熱消去可能インキ層が一体の層であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷物。
  9. 前記感熱消去可能インキ層が、互いに接続していない複数の部分からなることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷物。
  10. 前記感熱消去可能インキ層を構成する複数の部分のそれぞれが、円、楕円、多角形、文字、直線、開曲線、閉曲線およびそれらの複合形状からなる群から選択される形状を有することを特徴とする請求項9に記載の印刷物。
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