JP2017177040A - セルロースエステル系中空糸膜およびその製造方法 - Google Patents

セルロースエステル系中空糸膜およびその製造方法 Download PDF

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剛平 山村
皓一 高田
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皓一 高田
洋樹 富岡
Hiroki Tomioka
洋樹 富岡
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Abstract

【課題】本発明が解決しようとする課題は、高い分離性能と、高い膜強度を有する、セルロースエステル系中空糸膜およびその製造方法を提供することである。【解決手段】セルロースエステルを含有する樹脂組成物(a)からなる層(A)を少なくとも有する中空糸膜であって、外径が20〜1600μm、内径が14〜1200μmであり、長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上である、セルロースエステル系中空糸膜。【選択図】なし

Description

本発明は、高い分離性能と、高い膜強度を有する中空糸膜およびその製造方法に関する。
セルロース系樹脂はその親水性に起因する透水性能や、塩素系の殺菌剤に強いという耐塩素性能を有することから水処理用膜をはじめとする分離膜として広く用いられている。
例えば特許文献1には、セルロースジアセテートに平均分子量200〜1000の水溶性多価アルコールを混合し、溶融紡糸することで得られる中空糸膜が開示されている。
また特許文献2には、セルローストリアセテートに、N−メチル−2−ピロリドン、エチレングリコール、安息香酸を混合して得た溶液をアーク型ノズルより吐出し、N−メチル−2−ピロリドン/エチレングリコール/水からなる凝固浴に浸漬後、水洗、熱処理を行うことで得られる中空糸膜が開示されている。
特開昭51−70316号公報 特開2012−115835号公報
前述の特許文献1に記載の技術で得られる中空糸膜は、高い透過性能を示すものの、低い分離性能しか実現できない。また、製造時に糸切れが起きやすく、高ドラフト紡糸や高倍率延伸が出来ず、その影響で、得られる中空糸膜の膜強度は不十分である。
特許文献2の技術で得られる中空糸膜は分離性能および透過性能に優れるが、膜強度は低い。
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、高い分離性能と、高い膜強度を有する、セルロースエステル系中空糸膜およびその製造方法に関する。
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、セルロースエステルを含有する樹脂組成物(a)からなる層(A)を少なくとも有する中空糸膜であって、
外径が20〜1600μm、内径が14〜1200μmであり、
長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上である、ことを特徴とする。
このセルロースエステル系中空糸膜は、
1.樹脂組成物を加熱、溶融する工程
2.溶融した樹脂組成物を、口金から空気中に吐出し、ドラフト比10〜200で引き取り、紡出糸を得る工程
3.紡出糸を加熱し、1.5〜3.0の倍率に延伸する工程
を少なくとも実施する方法によって、製造することができる。
セルロースエステル系中空糸膜において、長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上であるということは、セルロースエステルの分子鎖の配向度が高いということを意味する。つまり、セルロースエステルの分子鎖の秩序性が高いということなので、その結果、高い分離性能を得ることができる。また、長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上であることで、実用上、十分に高い膜強度を実現することができる。
本形態のセルロースエステル系中空糸膜は、セルロースエステルを含有する樹脂組成物(a)からなる層(A)を少なくとも有する中空糸膜であって、
外径が20〜1600μm、内径が14〜1200μmであり、
長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上である、ことを特徴とする。
(1)樹脂組成物(a)(層(A)を構成する樹脂組成物)
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(A)は、樹脂組成物(a)から構成される。樹脂組成物とは、単一の樹脂、および複数種の樹脂の混合物を含む概念である。樹脂組成物(a)は、以下の(1−1)〜(1−5)に示した成分を含むことができる。
(1−1)セルロースエステル
セルロースエステル系中空糸膜の層(A)を構成する樹脂組成物(a)は、セルロースエステルを主成分として含有することが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、樹脂組成物(a)の全成分のなかで、重量的に最も多く含まれる成分を指すものとする。
セルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートや、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が、2種類以上のアシル基により封鎖された、セルロース混合エステル、およびそれらの誘導体などが挙げられる。
セルロース混合エステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートオレート、セルロースアセテートステアレートなどが挙げられる。
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は5万〜25万であることが好ましい。Mwが5万以上であることで、加熱、溶融する際のセルロースエステルの熱分解が抑制され、かつ、中空糸膜の膜強度が実用レベルに到達できる。Mwが25万以下とであることで、溶融粘度が高くなりすぎないので、安定した溶融紡糸が可能となる。Mwは6万〜22万であることがより好ましく、8万〜20万であることがさらに好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)とは、GPC測定により算出される値である。その算出方法については、実施例にて詳細に説明する。
例示した各セルロース混合エステルは、アセチル基と他のアシル基(プロピオニル基、ブチリル基、ラウリル基、オレイル基、ステアリル基など)とを有する。樹脂組成物(a)に含有されるセルロース混合エステルにおいて、アセチル基と他のアシル基との平均置換度は、下記式を満たすことが好ましい。
1.0≦(アセチル基の平均置換度+アシル基の平均置換度)≦3.0
0.1≦(アセチル基の平均置換度)≦2.6
0.1≦(アシル基の平均置換度)≦2.6
上記式が満たされることで、分離性能と膜強度とを両立する中空糸膜が実現される。さらに、上記式が満たされることで、中空糸膜の製造において、樹脂組成物(a)を加熱、溶融する際に良好な熱流動性が実現される。なお、平均置換度とは、セルロースのグルコース単位あたりに存在する3つの水酸基のうちアシル基(アセチル基+他のアシル基)が化学的に結合した数を指す。
樹脂組成物(a)は、セルロースエステルを1種類のみ含有してもよいし、2種類以上を含有してもよい。
また、樹脂組成物(a)は、具体例として前記したセルロースエステルのうち、特に、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートの少なくとも一方を含有することが好ましい。これらのセルロースエステルを含有することで、高い分離性能と高い膜強度を有する中空糸膜が実現される。
樹脂組成物(a)のセルロースエステルの含有量は、樹脂組成物(a)全体を100重量%とした際に、70〜100重量%が好ましく、80〜100重量%がより好ましく、90〜100重量%が特に好ましい。
(1−2)セルロースエステルの可塑剤
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(A)を構成する樹脂組成物(a)は、セルロースエステルの可塑剤を含有していてもよい。
セルロースエステルの可塑剤は、セルロースエステルを熱可塑化する化合物であれば特に限定されない。また、1種類の可塑剤だけでなく、2種類以上の可塑剤が併用されてもよい。
セルロースエステルの可塑剤の具体例としては、ポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物、およびそれらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、セルロースエステルとの相溶性が良好であるため、少量添加で可塑化効果を発現して膜強度の低下を抑制する点、溶出後の細孔が微細なものとなり分離性能と透過性能の両立を可能とする点から、ポリアルキレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が400〜2000である、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。
また、樹脂組成物(a)を加熱、溶融する際のセルロースエステルの可塑剤の含有量は、加熱、溶融する前の樹脂組成物(a)を構成する成分の全体を100重量%とした際に、5〜30重量%であることが好ましい。含有量が5重量%以上であることで、セルロースエステルの熱可塑性および中空糸膜の透過性能が良好なものとなる。含有量を30重量%以下とすることで、中空糸膜の分離性能および膜強度が良好なものとなる。セルロースエステルの可塑剤の含有量は、より好ましくは10〜25重量%、さらに好ましくは15〜20重量%である。
セルロースエステルの可塑剤は、樹脂組成物(a)を加熱、溶融、紡出、延伸して中空糸膜の層(A)を形成した後は、層(A)中に残存してもよいし、層(A)から水中に溶出させてもよい。水中に溶出させた場合、可塑剤が抜けた跡が膜中における細孔となり、透過性能が良好となる。
(1−3)酸化防止剤
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(A)を構成する樹脂組成物(a)は、酸化防止剤が含有されていることが好ましい。
酸化防止剤の具体例としては、リン系の酸化防止剤を含有することが好ましく、ペンタエリスリトール系化合物がより好ましい。酸化防止剤を含有している場合、加熱、溶融する際の熱分解が抑制され、その結果、膜強度の向上、膜への着色防止が可能となる。
酸化防止剤の含有量は、加熱、溶融する前の樹脂組成物(a)を構成する成分の全体を100重量%とした際に、0.005〜0.500重量%であることが好ましい。
(1−4)親水性樹脂
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(A)を構成する樹脂組成物(a)は、親水性樹脂を含有していてもよい。親水性樹脂を含有している場合、特に水処理用膜として使用する際に透過性能の向上が可能となる。
本発明における親水性樹脂とは水と親和性が高い樹脂のことであり、水に溶解するか、または、水に対する接触角がセルロースエステルよりも小さい樹脂を指す。
親水性樹脂の具体例としては、前記した性質を有するものであれば特に限定されないが、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、およびそれらの誘導体などが好ましい例として挙げられる。
これらの中でもポリアルキレングリコールが特に好ましく、その具体例としては、重量平均分子量(Mw)が3,000〜100万であるポリエチレングリコール、ポリプリピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。
樹脂組成物(a)を加熱、溶融する際の親水性樹脂の含有量は、加熱、溶融する前の樹脂組成物(a)を構成する成分の全体を100重量%とした際に、0.1〜10重量%であることが好ましい。含有量が0.1重量%以上であることで、中空糸膜の透過性能が良好なものとなる。含有量を10重量%以下とすることで、中空糸膜の分離性能および膜強度が良好なものとなる。親水性樹脂の含有量は、より好ましくは1〜9重量%、さらに好ましくは2〜8重量%である。
親水性樹脂は、樹脂組成物(a)を加熱、溶融、紡出、延伸して中空糸膜の層(A)を形成した後は、層(A)中に残存していることが好ましいが、親水性樹脂の一部または全部が層(A)から水中に溶出してもよい。水中に溶出させた場合、親水性樹脂が抜けた跡が膜中における細孔となり、透過性能が良好となる。
(1−5)添加剤
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(A)を構成する樹脂組成物(a)は、本発明の効果を損なわない範囲で(1−1)〜(1−4)に記載した以外の添加剤を含有してもよい。
添加剤の具体例としては、ポリアミド、ポリエステル、セルロースエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリビニル化合物、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどの樹脂、有機滑剤、結晶核剤、有機粒子、無機粒子、末端封鎖剤、鎖延長剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、制電剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、消泡剤、着色顔料、蛍光増白剤、染料などが挙げられる。
(2)樹脂組成物(b)(層(B)を構成する樹脂組成物)
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、樹脂組成物(b)からなる層(B)を有することが好ましい。樹脂組成物(b)は、以下の(2−1)〜(2−5)に示した成分を含むことができる。
(2−1)セルロースエステル
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(B)を構成する樹脂組成物(b)は、セルロースエステルを含有することが好ましい。樹脂組成物(b)にセルロースエステルを含有する場合、層(B)は、層(A)との密着性に優れるものとなる。樹脂組成物(b)は、樹脂組成物(a)と同種のセルロースエステルを含有することがより好ましい。
樹脂組成物(b)に含有できるセルロースエステルの具体例は、前記(1−1)の項で述べたものと同様である。
樹脂組成物(b)に含有できるセルロースエステルの重量平均分子量の好ましい範囲は、前記(1−1)の項で述べたものと同様である。
樹脂組成物(b)に含有されるセルロース混合エステルにおいて、アセチル基と他のアシル基との平均置換度は、下記式を満たすことが好ましい。
1.0≦(アセチル基の平均置換度+アシル基の平均置換度)≦3.0
0.1≦(アセチル基の平均置換度)≦2.6
0.1≦(アシル基の平均置換度)≦2.6
上記式が満たされることで、層(B)は、層(A)との密着性に優れるものとなる。さらに、上記式が満たされることで、中空糸膜の製造において、樹脂組成物(b)を加熱、溶融する際に良好な熱流動性が実現される。
樹脂組成物(b)は、セルロースエステルを1種類のみ含有してもよいし、2種類以上を含有してもよい。
また、樹脂組成物(b)は、具体例として前記したセルロースエステルのうち、特に、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートの少なくとも一方を含有することが好ましい。
樹脂組成物(b)のセルロースエステルの含有量は、樹脂組成物(b)全体を100重量%とした際に、70〜100重量%が好ましく、80〜100重量%がより好ましく、90〜100重量%が特に好ましい。
(2−2)セルロースエステルの可塑剤
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(B)を構成する樹脂組成物(b)は、セルロースエステルの可塑剤を含有していてもよい。
セルロースエステルの可塑剤は、セルロースエステルを熱可塑化する化合物であれば特に限定されない。また、1種類の可塑剤だけでなく、2種類以上の可塑剤が併用されてもよい。
セルロースエステルの可塑剤の具体例は、前記(1−2)の項で述べたものと同様である。
また、樹脂組成物(b)を加熱、溶融する際のセルロースエステルの可塑剤の含有量は、加熱、溶融する前の樹脂組成物(b)を構成する成分の全体を100重量%とした際に、15〜50重量%であることが好ましい。含有量が15重量%以上であることで、セルロースエステルの熱可塑性および製造時の延伸性が良好なものとなる。含有量を50重量%以下とすることで、中空糸膜の膜強度が良好なものとなる。セルロースエステルの可塑剤の含有量は、より好ましくは17〜45重量%、さらに好ましくは20〜40重量%である。
セルロースエステルの可塑剤は、樹脂組成物(b)を加熱、溶融、紡出、延伸して中空糸膜の層(B)を形成した後は、層(B)中に残存してもよいし、層(B)から水中に溶出させてもよい。水中に溶出させた場合、可塑剤が抜けた跡が膜中における細孔となり、透過性能が良好となる。
(2−3)酸化防止剤
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(B)を構成する樹脂組成物(b)は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤の具体例は、前記(1−3)の項で述べたものと同様である。
酸化防止剤を含有している場合、加熱、溶融する際の熱分解が抑制され、その結果、膜強度の向上、膜への着色防止が可能となる。
酸化防止剤の含有量は、加熱、溶融する前の樹脂組成物(b)を構成する成分の全体を100重量%とした際に、0.005〜0.500重量%であることが好ましい。
(2−4)親水性樹脂
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(B)を構成する樹脂組成物(b)は、親水性樹脂を含有していてもよい。親水性樹脂を含有している場合、特に水処理用膜として使用する際に透過性能の向上が可能となる。
親水性樹脂の具体例は、前記(1−4)の項で述べたものと同様である。
樹脂組成物(b)を加熱、溶融する際の親水性樹脂の含有量は、加熱、溶融する前の樹脂組成物(b)を構成する成分の全体を100重量%とした際に、5〜50重量%であることが好ましい。含有量が5重量%以上であることで、中空糸膜の透過性能が良好なものとなる。含有量を50重量%以下とすることで、中空糸膜の膜強度が良好なものとなる。親水性樹脂の含有量は、より好ましくは8〜45重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。
親水性樹脂は、樹脂組成物(b)を加熱、溶融、紡出、延伸して中空糸膜の層(B)を形成した後は、層(B)中に残存していることが好ましいが、親水性樹脂の一部または全部が層(B)から水中に溶出してもよい。水中に溶出させた場合、親水性樹脂が抜けた跡が膜中における細孔となり、透過性能が良好となる。
(2−5)添加剤
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の層(B)を構成する樹脂組成物(b)は、本発明の効果を損なわない範囲で(2−1)〜(2−4)に記載した以外の添加剤を含有してもよい。
添加剤の具体例は、前記(1−5)の項で述べたものと同様である。
(3)膜の層構成
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、層(A)のみで構成されてもよいし、少なくとも層(A)を含んでいれば、層(B)などの別の層を含んだ2層以上で構成されてもよい。2層以上で構成される場合、層(A)以外の層が層(A)を支持することが可能となり、膜の分離性能を維持しながら透過性能を向上させるための層(A)の薄膜化が可能となる点で好ましい。
中空糸膜が層(A)と層(B)とを有する場合、各層は膜の厚み方向、つまり径方向において積層されることが望ましい。層(A)が外層、内層のいずれであっても構わないが、層(A)が外層であることが好ましい。
また、中空糸膜が3層以上で構成される場合も、その積層順序に特に制限は無いが、層(A)が最外層であることが好ましい。
中空糸膜が、互いに同じ組成を有しかつ異なる開孔率を有する複数の層を有する場合、これらの層は、それぞれ別の層と認識されるので、この中空糸膜は、「2層以上」で構成される中空糸膜に該当する。
本発明のセルロースエステル系中空糸膜が、2層以上で構成される場合は、層(A)に加え、層(B)を有することが好ましい。層(B)を有することで、製造時に高倍率で延伸することが可能となり、結果として、膜強度の向上、膜の分離性能の向上が可能となる。
(4)膜の構造
層(A)、層(B)は、厚み方向の断面構造が均質であることが好ましい。ここでいう厚み方向の断面とは、中空糸製造時の機械方向(長手方向)と垂直な方向(繊維径方向)と、膜の厚み方向の断面のことをいう。
また、ここでいう断面構造が均質とは、倍率1,000倍の走査型電子顕微鏡で、前記した膜の厚み方向の断面について、膜の一方の表面側からもう一方の表面側に向かって、厚み方向に連続して観察した際に、構造の変化が確認できない状態を意味する。ここで膜の表面形状に影響した断面構造の歪み等については構造の変化とはみなさない。
例えば、溶媒を含まず、加熱溶融させた樹脂組成物を口金から吐出後、冷却、固化させた中空糸膜、樹脂組成物を溶媒に溶解させた溶液を口金から吐出後、厚み方向に均一に固化させ、溶液中の溶媒を厚み方向に均一に抽出させた膜などは、前記した構造の変化が確認できず、断面構造が均質な膜となる。
一方、樹脂組成物を溶媒に溶解させた溶液を口金から吐出後、厚み方向に不均一に固化させた場合、例えば、両表面又は片表面を急激に、内部をゆっくり固化させた場合は、溶液中の溶媒の抽出が厚み方向に不均一となりやすい。よって、膜の厚み方向において構造の変化が確認され、断面構造が不均質な膜となりやすい。非溶媒相分離法、熱誘起相分離法などにより、膜の厚み方向の一部に緻密な分離機能層を有するような一般的に非対称膜と呼ばれる膜は、断面構造が不均質な膜となる。
(5)膜の断面形状
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の外径は20〜1600μmである。外径が20μm未満の場合、中空部を流れる流体の圧損の影響で透過性能が悪化する。外径が1600μmを超える場合、単位体積あたりの膜面積が小さくなる影響でモジュールあたりでの透過流量が不足する。中空糸膜の外径は30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、60μm以上であることが特に好ましい。また、中空糸膜の外径は1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることがさらに好ましく、95μm以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の内径は14〜1200μmである。内径が14μm未満の場合、中空部を流れる流体の圧損の影響で透過性能が悪化する。内径が1200μmを超える場合、単位体積あたりの膜面積が小さくなる影響でモジュールあたりでの透過流量が不足する。本発明の中空糸膜の内径は22μm以上であることが好ましく、28μm以上であることがより好ましく、36μm以上であることがさらに好ましく、42μm以上であることが特に好ましい。また、本発明の中空糸膜の内径は700μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがより好ましく、180μm以下であることがさらに好ましく、68μm以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロースエステル系中空糸膜全体の膜厚みは3〜200μmであることが好ましい。膜厚みが3μm以上であると中空糸膜の径方向の座屈に耐えることができ、200μm以下であると透過性能が良好となる。膜厚みは5〜150μmであることがより好ましく、7〜75μmであることがさらに好ましく、8〜35μmであることが特に好ましい。
また、本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、中空糸膜全体の膜厚みにおける層(A)の厚みが0.01〜20μmである。層(A)の厚みが0.01μm未満の場合、分離性能が悪化し、20μmを超える場合、透過性能が悪化する。層(A)の厚みは0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましく、0.5μm以上であることが特に好ましい。また、層(A)の厚みは10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。
本発明のセルロースエステル系中空糸膜の中空率は、中空部を流れる流体の圧損と座屈圧との関係から、20〜55%であることが好ましく、25〜50%であることがより好ましく、30〜45%であることがさらに好ましい。
中空糸膜の外径、内径、中空糸膜全体の膜厚み、中空率を前記範囲とする方法は特に限定されないが、例えば、中空糸膜を製造する際の、紡糸口金の吐出孔の形状を変更すること、ドラフト比を変更すること等で調整できる。また、層(A)、層(B)の厚み比を調整する方法も特に限定されないが、例えば、中空糸膜を製造する際の、紡糸口金内の各々の層を構成する樹脂組成物の流路間隙の形状を変更すること、ギヤポンプ等で各々の層を構成する樹脂組成物の押出機からの吐出量を変更すること等で調整できる。
(6)開孔率
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、層(A)の開孔率をH、層(B)の開孔率をHとしたとき、以下の関係式を満たすことが好ましい。
<H
この関係式を満たすことで、透過性能と分離性能の両立が可能となる。開孔率の測定条件は実施例にて詳細に説明する。
層(A)の開孔率Hは、0〜35%であることが好ましく、0〜25%であることがより好ましく、0〜15%であることがさらに好ましく、0〜5%であることが特に好ましい。層(A)の開孔率Hを前記範囲とすることで、透過性能と分離性能の両立が可能となる。
層(B)の開孔率Hは、5〜70%であることが好ましく、10〜60%であることがより好ましく、15〜50%であることがさらに好ましく、20〜40%であることが特に好ましい。層(B)の開孔率Hを前記範囲とすることで、透過性能が良好となる。
層(A)および層(B)の開孔率を調整する方法は特に限定されないが、例えば、前述した好ましい種類、量の、可塑剤および/または親水性樹脂を含んだ樹脂組成物を用いて紡糸した中空糸膜の各々の層から、可塑剤および/または親水性樹脂を水中に溶出させて細孔を形成する方法などが挙げられる。
(7)膜透過流束
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、特に水処理用膜として使用する際に良好な透過性能を発現するために、膜透過流束は5L/m/day以上であることが好ましい。膜透過流束の測定条件は実施例にて詳細に説明する。膜透過流束は10L/m/day以上であることがより好ましく、20L/m/day以上であることがさらに好ましく、30L/m/day以上であることがさらにより好ましく、50L/m/day以上であることが特に好ましい。膜透過流束は高い方が好ましいが、塩阻止率とのバランスから上限は500L/m/dayである。
(8)塩阻止率
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、特に水処理用膜として使用する際に良好な分離性能を発現するために、塩阻止率は80.0%〜99.5%であることが好ましい。塩阻止率の測定条件は実施例にて詳細に説明する。塩阻止率は85.0〜99.5%であることがより好ましく、90.0〜99.5%であることがさらに好ましく、92.5〜99.5%であることがさらにより好ましく、95.0〜99.5%であることが特に好ましい。
(9)5%伸長時の応力
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上である。なお、本発明でいう長手方向とは、製造時の機械方向である。5%伸長時の応力の測定条件は実施例にて詳細に説明する。
セルロースエステル含有中空糸膜において、5%伸長時の応力が60MPa以上であるということは、セルロースエステルの分子鎖の配向度が高いということを意味する。つまり、セルロースエステルの分子鎖の秩序性が高いということなので、その結果、高い塩阻止性能を得ることができる。
長手方向の5%伸長時の応力を60MPa以上とするための方法は特に限定されないが、紡糸時のドラフト比、延伸時の延伸条件を、それぞれ後述する好ましい範囲とする方法が挙げられる。5%伸長時の応力は80MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましく、120MPa以上であることがさらに好ましい。長手方向の5%伸長時の応力は伸度とのバランスの点から300MPa以下であることが好ましい。
(10)引張強度
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、長手方向の引張に対する膜強度を発現するために、引張強度は100MPa以上であることが好ましい。引張強度の測定条件は実施例にて詳細に説明する。引張強度は120MPa以上であることがより好ましく、140MPa以上であることがさらに好ましく、160MPa以上であることが特に好ましい。引張強度は伸度とのバランスの点から300MPa以下であることが好ましい。
(11)配向度
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、層(A)が長手方向において1.5〜3.0の配向度を有することが好ましい。配向度が1.5以上であることで、高い分離性能と高い膜強度を両立することができる。
配向度が高くなることで、セルロースエステルの分子鎖間隔が均一になることから、水素結合部位が等間隔に分散し、水の吸着および透過を促進するとともに、塩等の分離対象物質の進入を阻害するためではないかと考えられる。そのため、配向度が1.7以上、2.0以上、2.3以上、2.6以上であるとより高い効果を得ることができる。
一方で、配向度が3.0以下であることで、製造時の糸切れが抑制されるので、生産性の低下が抑制される。
配向度は、FT−IRにより測定される。具体的な測定方法については、実施例で説明する。
(12)膜の種類
本発明のセルロースエステル系中空糸膜は、特に水処理に利用可能な膜である。水処理用膜としては、具体的には、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、正浸透膜などが挙げられる。本発明は特に、ナノ濾過膜、逆浸透膜および正浸透膜に好ましく適用される。
(13)製造方法
次に、本発明のセルロースエステル系中空糸膜を製造する方法について具体的に説明するがこれに限定されるものではない。
本発明のセルロースエステル系中空糸膜を製造する方法は、
1.樹脂組成物を加熱により溶融する工程
2.溶融した樹脂組成物を、口金から空気中に吐出し、ドラフト比10〜200で引き取り、紡出糸を得る工程
3.紡出糸を加熱し、1.5〜3.0の倍率に延伸する工程。
を有する。
本発明の中空糸膜を構成する樹脂組成物を得るにあたっては、加熱によって溶融された材料を混練する方法が用いられる。使用する装置については特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の公知の混合機を用いることができる。中でも可塑剤や親水性樹脂の分散性を良好とする観点から、二軸押出機の使用が好ましい。水分や低分子量物などの揮発物を除去できる観点から、ベント孔付きの二軸押出機の使用がより好ましい。得られた樹脂組成物は、一旦ペレット化し、再度加熱、溶融させて溶融紡糸に用いてもよいし、直接紡糸口金に導いて溶融紡糸に用いてもよい。一旦ペレット化する際には、ペレットを乾燥して、水分量を200ppm(重量基準)以下とした樹脂組成物を用いることが好ましい。
加熱温度は特に限定されず、溶融によって得られる製膜原料によって紡糸ができるような温度を、材料に応じて設定することができる。
上記の方法で溶融した樹脂組成物を、中央部に気体の流路を配した二重管ノズルを有する紡糸口金から空気中に吐出する。中空糸膜が2層以上で構成される場合は、上記の方法で溶融した各層の樹脂組成物を、中央部に気体の流路を配した多重管ノズルを有する紡糸口金内で合流、複合化する。このとき、紡糸口金内の各々の層を構成する樹脂組成物の流路間隙の形状は、樹脂組成物の溶融粘度、製造する複合中空糸膜の所望の断面形状に合わせて適宜変更する。また、各々の層を構成する樹脂組成物の口金からの吐出量は、製造する複合中空糸膜の所望の断面形状にあわせて例えばギヤポンプの回転数等で適宜変更する。続いて、複合化した樹脂組成物を、多重管ノズルを有する紡糸口金から空気中に吐出する。
空気中に吐出された樹脂組成物は、冷却もしくは加熱筒(チムニー)を通過後、 ドラフト比10〜200で引き取り、紡出糸を得る。ドラフト比は20〜150であることが好ましく、30〜120であることがより好ましく、40〜100であることがさらに好ましい。
上記の方法で得た紡出糸は、さらに延伸工程により延伸される。延伸方法は特に限定されないが、例えば、紡出糸を加熱ロール上で搬送すること、および/または、乾熱オーブン中を通過させることよって延伸を行う温度まで昇温し、ロール間の周速差を用いて1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。延伸時における糸の温度は、60〜160℃が好ましく、70〜140℃がより好ましく、80〜120℃がさらに好ましい。延伸時における合計の延伸倍率は1.5〜3.0倍である。1.7〜3.0倍が好ましく、1.9〜3.0倍がより好ましく、2.1〜3.0倍がさらに好ましい。また必要に応じ、延伸中あるいは延伸後に熱固定を施してもよい。熱固定温度は80〜180℃であることが好ましい。
このようにして得られた中空糸膜はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液等によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
(14)モジュール
上記のようにして得られた本発明の中空糸膜は、従来公知の方法により中空糸膜モジュールとして組み込むことが可能である。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
[測定および評価方法]
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めたものである。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)セルロース混合エステルの平均置換度
セルロースにアセチル基およびアシル基が結合したセルロース混合エステルの平均置換度の算出方法については下記の通りである。
80℃で8時間の乾燥したセルロース混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
(2)セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)
セルロースエステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件のもと、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒:テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
(3)中空糸膜の外径(μm)
中空糸膜の長手方向と垂直な方向(繊維径方向)と、膜の厚み方向の断面を光学顕微鏡により観察、撮影し、中空糸の外径(μm)を算出した。なお、中空糸の外径は、中空糸10本を用いて算出し、その平均値とした。
(4)中空糸膜の内径(μm)
中空糸膜の長手方向と垂直な方向(繊維径方向)と、膜の厚み方向の断面を光学顕微鏡により観察、撮影し、中空糸の内径(μm)を算出した。なお、中空糸の内径は、中空糸10本を用いて算出し、その平均値とした。
(5)層(A)の厚み(μm)
膜の長手方向と垂直な方向(幅方向)と、膜の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡により観察、撮影し、層(A)の厚み(μm)を算出した。なお、層(A)の厚みは、中空糸膜10本についてそれぞれ任意の10箇所を観察して算出し、その平均値とした。
(6)開孔率H、H(%)
層(A)および層(B)の、表面(外表面または内表面)または断面をそれぞれ走査型電子顕微鏡にて倍率3万倍で観察、撮影し、得られた断面写真の上に、透明なフィルムやシートを重ねて、細孔に該当する部分を油性インキ等で塗りつぶす。次いで、イメージアナライザーを用いて、当該領域の面積を求める。この測定を任意の30個の細孔で行い、数平均することで平均孔面積(m)を算出した。次に、平均孔径を算出した写真の中の3μm四方あたりの細孔数を数えて、1m当たりの細孔数に換算することで細孔密度(個/m)を算出した。開孔率は、求めた平均孔径と細孔密度から次式により計算して求めた。ここで、開孔率の算出には、細孔径(楕円状や棒状である場合は短径)が1nm以上である細孔を観察し、その孔面積および細孔密度を用いる。
開孔率(%)=(平均孔面積)×(細孔密度)×100
なお、層(A)の観察場所が表面の場合は層(B)の観察場所も表面とし、層(A)の観察場所が断面の場合は層(B)の観察場所も断面とした。また、層(A)および層(B)の表面が露出しており観察可能である場合は、原則として表面における細孔を観察する。ただし、露出していない場合や、中空糸の径が小さく内表面の観察が不可能である場合は、断面を測定する。
(7)透過性能(膜透過流束(L/m/day))
イソプロピルアルコールの10wt%水溶液に1時間浸漬して親水化を行った中空糸膜に、濃度500ppm、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム水溶液を操作圧力0.75MPaで供給して、膜ろ過処理を行い、得られた透過水量に基づいて、下記式により膜透過流束を求めた。
膜透過流束(L/m/day)=1日あたりの透過水量/膜面積
(8)分離性能(塩阻止率(%))
膜透過流束と同条件で膜ろ過処理を行い、得られた透過水の塩濃度を測定した。得られた透過水の塩濃度および供給水の塩濃度から、下記式に基づいて塩阻止率を求めた。なお、透過水の塩濃度は、電気伝導度の測定値より求めた。
塩阻止率(%)=100×{1−(透過水中の塩化ナトリウム濃度/供給水中の塩化ナトリウム濃度)}
なお、前記(7)、(8)においては、以下のように小型モジュールを作成して膜ろ過処理を行った。
中空糸膜を束ねて、プラスチック製パイプに挿入した後、熱硬化性樹脂をパイプに注入し、末端を硬化させて封止した。封止させた中空糸膜の端部を切断することで中空糸膜の開口面を得て、外径基準の膜面積が約0.1mの評価用小型モジュールを作製した。
(9)5%伸長時の応力(MPa)
温度20℃、湿度65%の環境下において、引張試験機(オリエンテック社製テンシロン UCT−100)を用い、試料長100mm、引張速度100mm/minの条件にて5%伸長時の応力(MPa)を測定した。なお測定回数は5回とし、その平均値を5%伸長時の応力とした。
(10)引張強度(MPa)
温度20℃、湿度65%の環境下において、引張試験機(オリエンテック社製テンシロン UCT−100)を用い、試料長100mm、引張速度100mm/minの条件にて引張強度(破断強度)(MPa)を測定した。なお測定回数は5回とし、その平均値を引張強度とした。
(11)配向度
1回反射ATR付属装置を付けたBioRad DIGILAB社製FTIR(FTS−55A)を用い、25℃、8時間真空乾燥を行った中空糸膜試料を用い、長手方向と、長手方向と垂直な方向(幅方向あるいは径方向)について、S偏光ATRスペクトル測定を行った。なお、ATR結晶にはGeプリズムを用い、入射角45°、積算回数256回、偏光子にはワイヤーグリッドを用い、S偏光にて実施した。得られたATRスペクトルから長手方向と、長手方向と垂直な方向(幅方向あるいは径方向)で、バンド強度が変化する2つのバンドを用いて、そのバンド強度比を配向パラメータとして算出した。例えば、セルロースアセテートプロピオネートの中空糸膜の場合は、1062cm−1付近のバンド(ピラノース環(―C―O―C―))、および、1164cm−1付近のバンド(プロピオル基(―C―O―))の強度を、中空糸膜の長手方向および径方向でそれぞれ測定し、以下の式から配向度を求めた。
配向度=(長手方向の1062cm−1付近のバンド強度/長手方向の1164cm−1付近のバンド強度)/(径方向の1062cm−1付近のバンド強度/径方向の1164cm−1付近のバンド強度)
[セルロースエステル(C)]
(C1)
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃ で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
[セルロースエステルの可塑剤(P)]
(P1)
重量平均分子量600のポリエチレングリコール
[酸化防止剤(O)]
(O1)
ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
[親水性樹脂(H)]
(H1)
重量平均分子量8300のポリエチレングリコール
[中空糸膜の製造]
(実施例1)
セルロースエステル(C1)74重量%、重量平均分子量600のポリエチレングリコール(P1)25.9重量%、酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(O1)0.1重量%を二軸押出機にて240℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、層(A)用の樹脂組成物(a)を得た。このペレットを80℃で8時間真空乾燥を行った。
また、セルロースエステル(C1)74重量%、重量平均分子量600のポリエチレングリコール(P1)17.9重量%、酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(O1)0.1重量%、重量平均分子量8300のポリエチレングリコール(H1)8重量%を二軸押出機にて240℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、層(B)用の樹脂組成物(b)を得た。このペレットを80℃で8時間真空乾燥を行った。
乾燥させた、層(A)用の樹脂組成物(a)のペレット、層(B)用の樹脂組成物(b)のペレットを、それぞれ別々の二軸押出機に供給し230℃で溶融混練したのち、ギヤポンプにて樹脂組成物(a):樹脂組成物(b)=1:10の吐出量比となるように押出量を調整した。続いて外層が層(A)、内層が層(B)となるように、中央部に気体の流路を配した多重管ノズルを有する紡糸口金内に導入し、口金内で複合化させた。その後、口金孔(外径4.6mm、内径3.7mm、スリット巾0.45mm、孔数4)より下方に紡出した。この紡出した中空糸を、口金の下面から冷却装置(チムニー)上端までの距離が30mmとなるように冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、ドラフト比が35となるようにワインダーで巻き取った。この紡出糸を、乾熱オーブン中を通過させることよって120℃に昇温し、ロール間の周速差を用いて延伸倍率2.1倍として巻き取った。得られた中空糸膜の物性を表1に示した。なお、本実施例の中空糸膜では、イソプロピルアルコールの10wt%水溶液に1時間浸漬する前後における重量変化から、溶融紡糸する際に添加した重量平均分子量600のポリエチレングリコール、重量平均分子量8300のポリエチレングリコールは、それぞれ全量が中空糸膜から水中に溶出していた。
(実施例2)
ドラフト比を30、延伸倍率を2.6倍とした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の構造、物性を表1に示した。
(実施例3)
層(A)用の樹脂組成物(a)として、セルロースエステル(C1)74重量%、重量平均分子量600のポリエチレングリコール(P1)21.9重量%、酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(O1)0.1重量%、重量平均分子量8300のポリエチレングリコール(H1)4重量%を用いた以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の構造、物性を表1に示した。
(比較例1)
ドラフト比を400とし、延伸しなかった以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の構造、物性を表1に示した。
(比較例2)
ドラフト比を400とした以外は実施例1と同様に紡出糸を得て、実施例1と同様に延伸倍率2.1倍で延伸しようとしたところ、糸切れが発生した。
なお、実施例2、3、比較例1の中空糸膜では、イソプロピルアルコールの10wt%水溶液に1時間浸漬する前後における重量変化から、溶融紡糸する際に可塑剤として添加した重量平均分子量600のポリエチレングリコール、重量平均分子量8300のポリエチレングリコールは、それぞれ全量が中空糸膜から水中に溶出していた。
Figure 2017177040
本発明は、分離性能に優れ、高い膜強度を有するセルロースエステル系中空糸膜およびその製造方法である。本発明の中空糸膜は、海水、かん水、下水、排水などから工業用水、飲料水などを製造するための水処理用膜、人工腎臓や血漿分離などの医療用膜、果汁濃縮などの食品・飲料工業用膜、排気ガス、炭酸ガスなどを分離するガス分離膜、燃料電池セパレーターなどの電子工業用膜などに用いることができる。前記水処理用膜の種類としては、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、正浸透膜などに好ましく用いることができる。

Claims (5)

  1. セルロースエステルを含有する樹脂組成物(a)からなる層(A)を少なくとも有する中空糸膜であって、
    外径が20〜1600μm、内径が14〜1200μmであり、
    長手方向の5%伸長時の応力が60MPa以上である、
    セルロースエステル系中空糸膜。
  2. 樹脂組成物(b)からなる層(B)をさらに有し、
    層(A)の開孔率H、層(B)の開孔率Hが、H<Hを満たす、請求項1に記載のセルロースエステル系中空糸膜。
  3. 層(A)の厚みが0.01〜20μmである、請求項2に記載のセルロースエステル系中空糸膜。
  4. 層(A)が長手方向において1.5〜3.0の配向度を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステル系中空糸膜。
  5. 中空糸膜の製造方法であって、次の1〜3の工程を少なくとも実施することを特徴とする中空糸膜の製造方法。
    1.セルロースエステルを含有する樹脂組成物を加熱により溶融する工程
    2.溶融した樹脂組成物を、口金から空気中に吐出し、ドラフト10〜200で引き取り、紡出糸を得る工程
    3.紡出糸を加熱し、1.5〜3.0の倍率に延伸する工程
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JP2020054801A (ja) * 2018-09-07 2020-04-09 旭化成株式会社 収着材料、特定物質捕捉システムおよび特定物質捕捉方法

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