以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<<1.物質発生源推定装置の概要>>
図1は、本発明の一実施形態に係る物質発生源推定装置1の概略構成の一例を示す図である。図1を参照すると、物質発生源推定装置1は、車両2、情報処理装置10、分子濃度測定装置20、および風向風速計30を備える。また、物質発生源推定装置1は、図1には示されていないバッテリボックスをさらに備える。
車両2は、情報処理装置10、分子濃度測定装置20、風向風速計30およびバッテリボックスを搭載する輸送機械である。車両2は、例えば、自動車、トラック、バス、二輪車、建設機械、もしくは鉄道車両等の自走可能な車両、または、カート、荷車、貨車、台車、ハンドリフト、パレットトラックもしくは自転車等、他の動力により走行可能な車両であってもよい。車両2は、上述した情報処理装置10、分子濃度測定装置20、風向風速計30およびバッテリボックスを搭載して移動可能であれば特に限定されない。車両2は、例えば、情報処理装置10による発生源の地点に係る推定結果に基づいて、推定した発生源の地点または次の測定地点に移動する。これにより、移動後の測定地点において、再度発生源の地点を推定することができる。
情報処理装置10は、CPU(Central Processor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ストレージ、入出力装置および通信装置等のハードウェア構成を備える情報処理装置により実現される。情報処理装置10は、例えばPC(Personal Computer)、タブレットまたはスマートフォン等により実現されてもよい。情報処理装置10は、分子濃度測定装置20により測定される測定対象物質の分子濃度、並びに風向風速計30により測定される測定地点における風向および風速に基づいて、当該測定地点を含む所定領域内における風流れに相当する対応モデルを選択し、かつ、当該対応モデルを用いて当該測定対象物質の発生源の地点を推定し、または当該発生源の探索に係る処理を行う装置である。情報処理装置10の備える各機能部の構成および機能、並びに情報処理装置10の具体的なハードウェア構成については後述する。
分子濃度測定装置20は、大気ガスに含まれる測定対象物質の分子濃度を測定する装置である。また、分子濃度測定装置20は、ガス導入管21を有する。ガス導入管21は、一端において大気ガスを導入するための導入口を有し、他端において分子濃度測定装置20に接続される。分子濃度測定装置20は、ガス導入管21を介して大気から大気ガスを導入し、導入された大気ガスに含まれる測定対象物質の分子濃度を測定する。ガス導入管21の材質等は特に限定されない。ただし、物質発生源推定装置1の周囲の大気ガスを導入可能とするため、ガス導入管21は、伸縮可能なホース状の構造を有していることが好ましい。
本実施形態に係る分子濃度測定装置20は、測定対象物質の分子濃度の検出可能濃度域が可能な限り広いことが好ましい。また、本実施形態に係る分子濃度測定装置20は、複数種類の測定対象物質を識別することが好ましい。また、本実施形態に係る分子濃度測定装置20は、発生源の地点をリアルタイムで推定するために、分子濃度を短時間で逐次的に測定することが可能である測定装置であることが好ましい。
上記の要件を満たす分子濃度測定装置20として、例えば、レーザ光の照射により測定対象物質をイオン化するレーザイオン化質量分析装置が挙げられる。より具体的には、上記の分子濃度測定装置20は、SPI−MS装置であることが好ましい。
SPI−MS装置は、ターボ分子ポンプ等のポンプによりガスを吸引するガス導入部、レーザ光を発振するレーザ部、ガス導入部により導入されたガスに含まれる分子をレーザ光によりイオン化するイオン化部、およびイオン化された分子の質量分析を行う質量分析部と、により構成される。当該SPI−MS装置により、例えば測定対象物質を一光子でイオン化することができる。したがって、迅速に測定対象物質の質量を分析することができるので、測定対象物質の分子濃度をリアルタイムで測定することが可能となる。例えば、一般的なSPI−MS装置は、ガスが導入されてから約1秒以内に、当該ガスに含まれる分子濃度の測定結果を出力することが可能である。また、一般的なSPI−MS装置による分子濃度の検出下限は、約1ppb程度である。そのため、低濃度の測定対象物質も検出することが可能である。
なお、本実施形態において測定対象物質とは、例えば、環境負荷ガスに含まれる、人体に影響を与え得る有害分子等であり、より具体的には、ベンゼン、ナフタレン、またはクレゾール等の芳香族分子である。また、これらの有害分子は、例えば、石炭、コークスまたはタール等の乾留処理または加熱処理により工場から放出される揮発性分子等であり得る。
分子濃度測定装置20は、測定結果を情報処理装置10に出力する。
風向風速計30は、測定地点における風向および風速を測定する装置である。風向風速計30は車両2の外側に設けられる。測定地点における風向および風速をより精度高く測定するために、風向風速計30は、例えば、二次元音波式の風向風速測定器であることが好ましい。発生源の推定精度を高く維持するためには、本実施形態に係る風向風速計30は、少なくとも16方位の風向、および少なくとも3段階以上の風速を測定可能であることが好ましい。
風向風速計30は、測定結果を情報処理装置10に出力する。
なお、分子濃度測定装置20および風向風速計30は、所定周期で分子濃度、風向および風速を測定する。分子濃度測定装置20による分子濃度の測定のタイミング、並びに風向風速計30による風向および風速の測定のタイミングは、同期されていることが好ましい。当該所定周期は、発生源の推定に要求される迅速性、および分子濃度測定装置20による測定精度に応じて適宜設定される。本実施形態においては、分子濃度測定装置20がSPI−MS装置であれば、当該所定周期は10秒程度であることが好ましい。
バッテリボックスは、バッテリ、インバータ、バッテリチャージャ、およびブレーカ等を備える。バッテリから出力される直流電流は、インバータにより交流電流に変換される。変換された交流電力は、不図示の電源コードを介して分子濃度測定装置20および風向風速計30に供給される。また、変換された交流電力は、情報処理装置10に出力されてもよい。バッテリボックス、およびバッテリボックスに備えられる各構成要素は、公知のものであってよい。
<<2.第1の実施形態(推定処理)>>
<2.1.構成および機能>
次に、本発明の第1の実施形態に係る物質発生源推定装置1−1について説明する。本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1は、発生源の地点の推定する推定処理に係る機能を有する。具体的には、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1は、測定地点における風向および風速に基づいて、所定領域内における風流れに係る複数のシミュレーションモデルから測定地点における風向および風速に対応する対応モデルを選択し、当該対応モデルおよび分子濃度等の測定結果を用いて発生源の地点を推定する。まず、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1の構成の一例について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る物質発生源推定装置1−1の構成の一例を示す図である。図2を参照すると、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1は、情報処理装置100、分子濃度測定装置20、風向風速計30およびバッテリボックス40を備える。分子濃度測定装置20、風向風速計30およびバッテリボックス40については上述した機能と同等の機能を有するので、説明を省略する。以下、情報処理装置100の構成および機能について説明する。
図2に示すように、情報処理装置100は、代表値設定部101、選択部102、発生源地点推定部103、記憶部110および出力部120を備える。
(代表値設定部)
代表値設定部101は、測定地点において分子濃度測定装置20により逐次的に測定される測定対象物質の分子濃度、並びに風向風速計30により逐次的に測定される風向および風速に基づいて、当該測定地点における測定対象物質の代表分子濃度、代表風向および代表風速を設定する。すなわち、代表値設定部101は、所定の測定時間の間に測定される複数の分子濃度、風向および風速に基づいて、一の代表分子濃度、代表風向、および代表風速を設定する。
具体的に説明すると、代表値設定部101は、複数の分子濃度、風向および風速(以下、まとめて測定結果と称する)を取得し、これらの測定結果に基づいて代表分子濃度、代表風向および代表風速(以下、代表値と称する)を設定する。例えば、代表値設定部101は、取得した複数の測定結果のうち、分子濃度が所定の基準値以上を示したときの測定結果を用いて、代表値を設定する。より具体的には、代表値設定部101は、分子濃度が所定の基準値以上を示したときの風向のうち最も頻度の高い風向を代表風向として設定する。そして、代表値設定部101は、代表風向として設定された風向と同時刻に測定された分子濃度および風速に基づいて、代表分子濃度および代表風速を設定する。当該所定の基準値は、発生源の地点における当該発生源から放出される測定対象物質の分子濃度に基づいて設定されることが好ましい。例えば、当該所定の基準値は、人体に有害な影響を与え得る分子濃度である1ppb以上であることが好ましい。また、代表値を精度高く設定するためには、少なくとも30ppb以上であることが好ましい。なお、当該所定の基準値は、測定対象物質の種類に応じて適宜設定される。
代表分子濃度および代表風速は、例えば、代表風向として設定された風向と同時刻に測定された分子濃度および風速の平均値、中央値、または最大値等の統計値であってもよい。これにより、複数の測定対象物質の発生源が所定領域内に存在する場合においても、そのうちの少なくともいずれかの発生源に起因する分子濃度、風向および風速を特定することができる。
図3は、代表値設定部101による代表値の設定処理の一例を説明するための図である。なお、代表値設定部101による実際の設定処理は、CPU等のプロセッサにより実行されるが、図3に示すように、当該設定処理の処理状況および処理結果が表示装置等により可視化して表示されてもよい。これにより、物質発生源推定装置1−1を使用する作業者が当該設定処理の処理状況および処理結果について知得することができる。
図3を参照すると、画面1000には、風向風速分布図1001が表示されている。風向風速分布図1001の円周方向の値は風向の方位(図3に示した例では、東が0度、北が90度、西が180度、南が270度)を示し、風向風速分布図1001の径方向の値は風速の大きさ(図3に示した例では、0.5m/s〜4.0m/s以上)を示している。図3に示す風向風速分布図1001には、複数の測定点が表示されている。これらの測定点は、風向風速計30により測定された風向および風速に対応して風向風速分布図1001にプロットされる。なお、風向風速分布図1001にプロットされる測定点は、分子濃度測定装置20により測定された分子濃度が所定の基準値以上を示したときにおける風向および風速に対応する測定点である。
図3に示すように、複数の測定点のうち、風向が概ね西(180度)である測定点(破線で示す領域1002に囲まれた測定点)の頻度が高いことがわかる。したがって、代表値設定部101は、代表風向を西に設定する。また、図3に示すように、領域1002に囲まれた測定点のうち、風速が3.0m/sである測定点の頻度が最も高いことがわかる。したがって、代表値設定部101は、代表風速を3.0m/sと設定する。
また、代表値設定部101は、所定の期間に得られた複数の測定結果に基づいて、上述した代表値を設定する。しかし、当該所定の期間に得られた複数の測定結果から代表値を設定できない場合(例えば、基準値以上である分子濃度が得られない場合、または得られる風向のばらつきが大きい場合等)、代表値設定部101は、適宜測定結果の取得処理を延長し、さらに多くの測定結果を取得してもよい。上記の所定の期間は、測定結果のサンプル数が十分得ることが可能である期間として、適宜設定され得る。例えば、測定結果が10秒周期で得られる場合、上記の所定の期間は3分(サンプル数=18)であってもよい。
また、風向のばらつきが大きい場合においては、代表値設定部101は、代表風向となり得る一の風向の測定頻度が他の風向の測定頻度と比較して優位な差が生じるまで、上記の所定の期間を延長してもよい。例えば、代表値設定部101は、上記一の風向の測定頻度が、2番目に測定頻度の高い風向に係る当該測定頻度よりも1.5倍以上となるまで、上記所定の期間を延長してもよい。また、代表値設定部101は、上記一の風向に係る測定点が5点以上となるまで、上記所定の期間を延長してもよい。
(選択部)
選択部102は、予め計算された所定領域内における風流れに係る複数のシミュレーションモデルから、代表値設定部101により設定された上記測定地点における代表風向および代表風速に対応する風流れを示すシミュレーションモデル(対応モデル)を選択する。
具体的に説明すると、選択部102は、まず、代表値設定部101から出力された代表値のうち、代表風向および代表風速を取得する。また、選択部102は、記憶部110に記憶されている風流れに係る複数のシミュレーションモデルを取得する。
ここで、上記の風流れに係るシミュレーションモデルについて説明する。本実施形態に係る風流れに係るシミュレーションモデルは、所定領域内における建造物、地形および周辺環境等を反映させた地形データに対して、所定の境界条件を適用させた数値流体シミュレーションを行うことにより構築される。一の境界条件が適用されて構築されたシミュレーションモデルから、上記の所定領域内の任意の地点における風流れ(風向および風速)を把握することができる。
ここで所定領域とは、測定対象物質の放出が起こり得る発生源を含み得る領域である。例えば、所定領域は、工場、発電所、製油所、コンビナート、鉱山または工事現場等、有害物質が生成され得る領域であってもよい。また、所定領域は、上に列挙した有害物質が生成され得る領域の外周部分をさらに含むことが好ましい。当該有害物質が生成され得る領域の外周部分への測定対象物質の漏えいの影響が生じ得るからである。このような所定領域の建造物、地形および周辺環境等が反映された地形データは、公知のモデリング手法によって構築される。
また、所定の境界条件とは、上記の所定領域の境界部分における風の風向および風速である。境界条件は、風向の種類および風速の種類に応じた数だけ適宜用意され、上記所定領域内の風流れに係るシミュレーションは、用意された境界条件の数に応じて適宜実施される。より具体的には、境界条件は、16の方位、および3段階の風速の数(つまり合計48ケース)だけ用意されてもよい。
当該所定領域内では、建屋、フェンス、製造設備もしくは排気設備等の建造物、高低差等の地形および周辺環境によって、風流れが変化し得る。例えば、風が建屋等に衝突することにより風流れが建屋等に沿って分離したり、風が複数の建屋の隙間を通り抜けることにより風速が大きく変化したりする。そのため、このような所定領域内においては風流れが複雑に変化するため、測定地点における風向および風速が、発生源の地点における風向および風速に一致しているとは限らない。例えば、測定地点における風上方向を測定により知得したとしても、その風上方向に発生源が存在するとは限らない。したがって、単に測定地点における風向および風速の測定結果を用いるだけでは、発生源の地点の方向を推定することは困難である。
そこで、本発明者らは、上記の所定領域内における風流れについて複数シミュレーションを行って複数のモデルを構築し、そのモデルの中から測定地点における風向および風速と最も一致するモデルを用いることに想到した。測定地点において測定される風向および風速が、当該測定地点に対応するモデル上の位置における風流れと最も一致しているモデルが、上記の所定領域内における風流れを最もよく再現していると考えられる。すなわち、測定地点における測定結果から上記の所定領域内の風流れが特定できれば、その風流れに基づいて発生源の地点を推定することが可能となる。
本実施形態に係る選択部102は、記憶部110から取得した複数のシミュレーションモデルの中から、測定地点における風向および風速の測定結果と、当該測定地点に対応するモデル上の位置における風流れとを比較し、当該測定結果と当該風流れとが最も一致するモデルを対応モデルとして選択する。
図4は、所定領域内の一部における風流れに係るシミュレーションモデルの一例を示す図である。図4を参照すると、シミュレーショモデルにおいて、所定領域内の一部に含まれている複数の建屋、タンクおよび煙突に相当する物体が配置されている。また、図中に示されている複数の矢印は、シミュレーショモデルに係る風流れを示す。この矢印の方向は風向を示し、矢印の長さは風速を示す。図4に示すシミュレーションモデルの境界条件として、図の上側を風上とし、図の下側を風下とする風が設定されている。この場合、図4に示すように、建屋の周辺における風流れの風向は境界条件に係る風向とは異なる。また、建屋の周辺における風流れの風速は、局所的に大きくまたは小さく変化していることが示されている。
例えば、測定地点における風向および風速がモデルの風流れと一致した場合、発生源の地点は、当該測定地点における風流れの当該モデル上における風上方向に遡った地点にあると考えられる。このように、測定地点における風向および風速に基づいて選択されたモデルを用いることにより、以降の処理において発生源の地点をより正確に推定することが可能となる。
(発生源地点推定部)
発生源地点推定部103は、代表値設定部101により設定された代表分子濃度および代表風速、選択部102によって選択された対応モデル、並びに記憶部110から取得する、発生源における測定対象物質の想定分子濃度に基づいて、当該発生源の地点を推定する。
具体的に説明すると、まず、発生源地点推定部103は、代表分子濃度、想定分子濃度および代表風速を用いて、測定地点から発生源の地点までの風流れに沿った距離(以下、推定距離と称する)を推定する。
ここで、想定分子濃度とは、発生源における測定対象物質の分子濃度の想定値である。発生源における実際の測定対象物質の分子濃度は未知であることが多いので、想定分子濃度は、発生源としての検出対象等に応じて適宜設定され得る。例えば、想定分子濃度は、1ppmであることが好ましい。
また、発生源の推定処理を進めていくうちに、発生源における測定対象物質の分子濃度が想定分子濃度と大きく乖離すると推測される場合は、当該想定分子濃度の値を適宜調整することも可能である。例えば、発生源における測定対象物質の分子濃度が想定分子濃度よりも大きいと推測される場合、想定分子濃度の値は、当初の値よりもさらに大きい値に再設定されてもよい。一方、発生源における測定対象物質の分子濃度が想定分子濃度よりも小さいと推測される場合、想定分子濃度の値は、当初の値よりもさらに小さい値に再設定されてもよい。想定分子濃度の再設定に係る処理は、詳しくは後述するが、第2の実施形態において発生源の地点の探索を行う場合に、発生源の地点の推定処理の最適化として行われる。これにより、探索精度が向上する。
図5は、発生源(分子濃度=1ppm)からの距離と測定対象物質の分子濃度との関係を風速ごとに示すグラフの一例である。図5に示すように、測定対象物質の分子濃度は、発生源から遠ざかるにつれて分子濃度=0に漸近しながら減少することが分かる。また、風速が高いほど、測定対象物質がより遠くに拡散することが分かる。
図5で示したようなグラフを用いて、推定距離を算出するためのモデルを構築することができる。例えば推定距離をLとすると、推定距離Lは、発生源における測定対象物質の想定分子濃度cs、測定地点Xi(iは測定時刻を示す識別子)における代表分子濃度ciおよび風速viをパラメータとする関数により表現される(L(cs,ci,vi))。
推定距離を示すL(cs,ci,vi)は、例えば、物質の拡散に関する公知のモデル(拡散モデル)に基づいて得られる関数であってもよい。また、推定距離L(cs,ci,vi)は、図5に示すような発生源からの距離と測定対象物質の分子濃度との関係を示す複数の実績データについて重回帰分析等の統計手法を用いて得られる関数であってもよい。測定対象物質の実際の拡散現象を最低限反映し得る関数であれば、推定距離を示すL(cs,ci,vi)を規定する関数は特に限定されない。
本実施形態に係る発生源地点推定部103は、上述した推定距離を示すL(cs,ci,vi)を定義する関数に、発生源における測定対象物質の想定分子濃度cs、測定地点Xiにおける代表分子濃度ciおよび風速viを代入することにより、発生源から測定地点Xiまでの風流れに沿った距離(推定距離L)を推定することができる。
次に、発生源地点推定部103は、選択部102によって選択された対応モデルの示す風流れ、および先に推定された推定距離Lに基づいて、発生源の地点を推定する。具体的には、発生源地点推定部103は、測定地点Xiを起点として、推定距離Lだけモデル上の風流れの風上方向に遡った地点を、発生源の地点として特定する。これにより、発生源の地点を推定することができる。
(記憶部)
本実施形態に係る記憶部110は、ストレージ等の記憶装置により実現される。記憶部110は、例えば、情報処理装置100の有する各機能部の機能を実現するためのプログラム等を記憶する。また、本実施形態に係る記憶部110は、所定領域内の風流れに係る複数のシミュレーションモデルを記憶する。このシミュレーションモデルは、情報処理装置100または外部の情報処理装置により予め計算されて得られるモデルである。また、記憶部110は、発生源地点推定部103において用いられるパラメータ、例えば、発生源における測定対象物質の想定分子濃度を記憶する。その他にも、記憶部110は、分子濃度測定装置20および風向風速計30による測定結果を逐次的に取得して記憶してもよい。
(出力部)
本実施形態に係る出力部120は、情報処理装置100の有する各機能部による出力結果を出力する機能を有する。出力部120は、例えば、入出力装置および通信装置等により実現される。また、本実施形態に係る出力部120は、代表値設定部101、選択部102または発生源地点推定部103に係る各処理の結果を出力する。例えば、出力部120は、図3に示したように、分子濃度測定装置20および風向風速計による測定結果、または代表値設定部101により設定された代表値に係る情報を出力してもよい。また、出力部120は、選択部102により選択された対応モデルに係る情報を出力してもよい。また、出力部120は、発生源地点推定部103により推定される発生源の地点に係る情報を出力してもよい。
<2.2.処理の流れ>
以上、本発明の第1の実施形態に係る物質発生源推定装置1−1の構成および機能について説明した。次に、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1による推定処理の流れについて説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態に係る物質発生源推定装置1−1による推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。図6を参照すると、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1では、まず、測定対象物質の分子濃度の測定、並びに風向および風速の測定が行われる(ステップS101)。具体的には、測定地点において、分子濃度測定装置20は測定対象物質の分子濃度の測定を行い、風向風速計30は風向および風速の測定を行う。これらの測定は逐次的に繰り返し行われる。
次に、複数の測定結果に基づいて、代表分子濃度、代表風向および代表風速が設定される(ステップS103)。具体的には、代表値設定部101は、分子濃度測定装置20および風向風速計30による測定地点における複数の測定結果に基づいて、代表値を設定する。
次いで、測定地点における代表風向および代表風速に基づいて、所定領域内の風流れに係るシミュレーションモデルから一の対応モデルが選択される(ステップS105)。具体的には、選択部102は、記憶部110から取得した複数のシミュレーションモデルから、測定地点における代表風向および代表風速からなる風流れと最も一致するシミュレーションモデルを対応モデルとして選択する。
次に、代表分子濃度、代表風速、発生源における測定対象物質の想定分子濃度および選択された対応モデルを用いて、当該測定対象物質の発生源の地点が推定される(ステップS107)。具体的には、発生源地点推定部103は、代表分子濃度、代表風速および想定分子濃度を用いて、測定地点から発生源までの風流れに沿った推定距離を算出する。そして発生源地点推定部103は、当該推定距離を選択された対応モデルに適用させることにより、発生源の地点を推定する。
<2.3.効果>
以上、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1による処理の流れについて説明した。本実施形態に係る物質発生源推定装置1−1によれば、発生源の地点の推定処理が行われる。具体的には、物質発生源推定装置1−1によれば、測定結果に基づいて設定される測定地点における代表値(代表風向、代表風速)から、当該測定地点に対応する位置における風流れが当該代表風向および代表風速と最も一致するシミュレーションモデル(対応モデル)が選択される。そして、測定地点から発生源までの風流れに沿った距離を推定し、当該距離を選択した対応モデルに適用させることにより、発生源の地点が推定される。
かかる構成によれば、所定領域内の風流れについて予め計算されたモデルを用いて、発生源の地点が推定される。対象測定物質の分子濃度の測定地点における風流れと最も一致する風流れを示すモデルを用いることにより、所定領域内に存在する建造物または地形等により複雑化する風流れに則して発生源の地点を推定することができる。すなわち、上記のような風流れに係るシミュレーションモデルを用いることにより、測定地点における測定対象物質の分子濃度および風流れを把握することができる。これにより、建物の立地および周辺環境を考慮した上での測定対象物質の発生源の地点の推定が可能となる。よって、発生源の地点の推定精度をより向上させることができる。
<<3.第2の実施形態(探索処理)>>
<3.1.構成および機能>
次に、本発明の第2の実施形態に係る物質発生源推定装置1−2について説明する。本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2は、上述した第1の実施形態に係る物質発生源推定装置1−1に、さらに発生源の地点の探索処理に係る機能が追加される。すなわち、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2は、測定対象物質等の測定、発生源の地点の推定、移動、および発生源の探索の完了についての判定を逐次的に繰り返す。これにより、物質発生源推定装置1−2は、発生源に近づきながら発生源の地点の推定を行うので、発生源をより迅速に特定することが可能である。以下、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2の構成の一例について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る物質発生源推定装置1−2の構成の一例を示す図である。図7を参照すると、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2は、情報処理装置200、分子濃度測定装置20、風向風速計30およびバッテリボックス40については上述した機能と同等の機能を有するので、説明を省略する。以下、情報処理装置200の構成および機能について説明する。
図7に示すように、情報処理装置200は、代表値設定部201、濃度判定部202、選択部203、発生源地点推定部204、距離判定部205、移動地点設定部206、記憶部210および出力部220を備える。なお、代表値設定部201、選択部203、発生源地点推定部204、記憶部210および出力部220の機能は、本発明の第1の実施形態に係る代表値設定部101、選択部102、発生源地点推定部103、記憶部110および出力部120の機能と基本的に同一である。本実施形態に係る各機能部の機能が第1の実施形態に係る各機能部の機能と異なる部分については、本実施形態の説明の中で適宜補足する。
(代表値設定部)
代表値設定部201は、上記の第1の実施形態に係る代表値設定部101に係る機能を有する。本実施形態に係る代表値設定部201は、さらに、設定した代表値を記憶部210に記憶する。具体的に説明すると、代表値設定部201は、代表値の設定処理を行うごとに、当該代表値の設定に係る測定地点Xi(第1測定地点に相当、iは測定時刻を示す識別子)と当該代表値(代表分子濃度ci、代表風向Di、代表風速vi)とを関連付けて記憶部210に記憶する。
(濃度判定部)
濃度判定部202は、測定地点Xiにおける代表分子濃度ciに基づいて、測定対象物質の発生源の地点の推定が完了したか否かを判定する機能を有する。濃度判定部202により当該発生源の地点の推定が完了したと判定された場合、物質発生源推定装置1−2による発生源の探索処理は終了する。
例えば、濃度判定部202は、代表分子濃度ciが発生源における測定対象物質の想定分子濃度cs以上である場合に、発生源の地点の推定が完了したと判定してもよい。代表分子濃度ciが想定分子濃度cs以上である場合、測定地点Xiの近傍において発生源が存在する確率が高く、目視または公知の簡易分析装置等により発生源を特定することが可能だからである。
また、濃度判定部202により当該発生源の地点の推定が完了してないと判定された場合、物質発生源推定装置1−2による発生源の探索処理は継続する。この場合、濃度判定部202は、代表分子濃度ciに基づいて、その後に行われる処理の内容を変えてもよい。
例えば、濃度判定部202は、代表分子濃度ciと、一時刻前の測定地点Xi−1における代表分子濃度ci−1との比較結果に基づいて、その後に行われる処理の内容を変えてもよい。より具体的には、代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1以上である場合、測定地点Xiが発生源の地点に近づきつつあると考えられる。そのため、濃度判定部202は、その後の処理として、代表値設定部201により設定された代表値等を用いて、測定地点Xiにおける発生源の地点の推定処理を行うよう指示してもよい。この場合、濃度判定部202の次の処理として、選択部203に係る処理が実行される。一方、代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1未満である場合、測定地点Xiが発生源から遠ざかっていると考えられる。そのため、濃度判定部202は、その後の処理として、測定地点Xi−1の方向に戻るように指示してもよい。この場合、濃度判定部202の次の処理として、移動地点設定部206に係る処理が実行される。
なお、濃度判定部202による代表分子濃度ciを用いた判定処理は、上述した例に限られない。例えば、濃度判定部202は、代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1未満である場合においても、その後の処理として、代表値設定部201により設定された代表値等を用いて、測定地点Xiにおける発生源の地点の推定処理を行うよう指示してもよい。例えば、代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1よりも大きく下回った場合、移動により発生源の地点を通り過ぎてしまい、測定地点Xiが発生源の地点よりも風上方向に位置してしまうことが考えられる。このような場合、後述する移動地点設定部206でも説明するように、測定結果が元の水準に戻ったか否かを濃度判定部202は判定する。
また、代表分子濃度ciが想定分子濃度cs以上である場合には、濃度判定部202により発生源の地点の推定が完了したと判定される。しかし、判定後において発生源が特定できないときは、物質発生源推定装置1−2による処理が再開されてもよい。このとき、想定分子濃度csの値は、さらに高い値に再設定されてもよい。例えば、想定分子濃度csの値は、代表分子濃度ciよりも高い値に再設定されてもよい。これにより、物質発生源推定装置1−2による発生源の地点の探索処理をさらに進めることができる。
また、代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1未満であることに基づく判定が濃度判定部202により頻発して行われる場合、想定分子濃度csの設定値が実際の発生源における測定対象物質の分子濃度よりも高い可能性が存在する。また、繰り返し発生源の地点の探索処理を行っているのにもかかわらず、代表分子濃度ciと想定分子濃度csとの差が縮まらない場合、想定分子濃度csの設定値が実際の発生源における測定対象物質の分子濃度よりも高い可能性が存在する。このとき、想定分子濃度csの値をさらに低く再設定することが好ましい。再設定に係る処理は、濃度判定部202による判定処理において、適切な時機に行われ得る。例えば、濃度判定部202による判定処理が、探索処理開始時から所定の回数を上回った場合に、想定分子濃度csの設定値の再設定に係る処理が行われてもよい。
なお、測定地点Xi−1における代表分子濃度ci−1、および想定分子濃度csは、記憶部210から取得される。
(選択部)
選択部203は、上記の第1の実施形態に係る選択部102に係る機能を有する。本実施形態に係る選択部203は、測定地点Xiにおける代表風向Di、代表風速viに対応する風流れを示す対応モデルを選択する。
(発生源地点推定部)
発生源地点推定部204は、上記の第1の実施形態に係る発生源地点推定部103に係る機能を有する。本実施形態に係る発生源地点推定部204は、測定地点Xiにおける代表分子濃度ciおよび代表風速vi、発生源における測定対象物質の想定分子濃度cs、並びに選択部203によって選択された対応モデルを用いて、当該発生源の地点を推定する。具体的には、発生源地点推定部204は、まず代表分子濃度ci、代表風速viおよび想定分子濃度csを用いて、測定地点から発生源の地点までの風流れに沿った距離(推定距離)を推定する。この推定距離は、推定距離L(cs,ci,vi)として表される。
そして、発生源地点推定部204は、測定地点Xiを起点として、推定距離Lだけモデル上の風流れの風上方向に遡った地点を、発生源の地点として特定する。
(距離判定部)
距離判定部205は、測定地点と、発生源地点推定部204により推定された発生源の地点(推定発生源)との距離に基づいて、測定対象物質の発生源の地点の推定が完了したか否かを判定する機能を有する。距離判定部205により当該発生源の地点の推定が完了したと判定された場合、物質発生源推定装置1−2による発生源の探索処理は終了する。
例えば、距離判定部205は、測定地点Xiと推定発生源との距離が所定距離以下である場合に、発生源の地点の推定が完了したと判定してもよい。所定距離が十分短ければ、目視または公知の簡易分析装置等により発生源を特定することが可能だからである。一方で、距離判定部205により当該発生源の地点の推定が完了してないと判定された場合、物質発生源推定装置1−2による発生源の探索処理は継続する。
ここで、測定地点Xiと推定発生源との距離は、例えば、発生源地点推定部204により推定された推定距離Lであってもよい。また、測定地点Xiと推定発生源との距離は、測定地点Xiと推定発生源との直線距離であってもよい。前者と後者のいずれかを距離判定部205における判定処理に用いるかは、例えば、所定領域における建造物または地形等に応じて決定されてもよい。具体的には、上記の所定領域において建造物が多く設けられている場合は、風流れが当該建造物によって遮蔽されたり蛇行したりすると考えられる。この場合、測定地点Xiと推定発生源との距離として、推定距離Lが用いられることが好ましい。一方、所定領域において建造物があまり設けられておらず、所定領域が見通しのよい領域である場合は、測定地点Xiと推定発生源との距離として、測定地点Xiと推定発生源との直線距離が用いられてもよい。
本実施形態においては、例えば、推定距離Lが所定距離Rs以下である場合、距離判定部205は発生源の地点の推定が完了したと判定する。一方、推定距離Lが所定距離Rsを上回る場合、距離判定部205は当該発生源の地点の推定が完了してないと判定し、物質発生源推定装置1−2による発生源の探索処理を継続させる処理を行う。当該所定距離Rsは、例えば、分子濃度測定装置20のガス導入管21が延伸可能であり、ガス導入管21から導入されたガスが分子濃度測定装置20に到達するまでの導入時間がリアルタイム性を損なわない程度であるような距離であることが好ましい。例えば、当該導入時間が1秒以内であるとすれば、当該所定距離Rsは5m程度である。また、当該導入時間をさらに短縮させたい場合は、当該所定距離Rsをさらに短く設定することが好ましい。当該所定距離Rsは、記憶部210から取得される。
(移動地点設定部)
移動地点設定部206は、濃度判定部202または距離判定部205による判定結果に応じて、新たな測定地点(移動地点)を設定する。移動地点設定部206は、例えば、測定地点Xiにおける風流れ(代表風向Diおよび代表風速viに基づいて選択された対応モデルに示す風流れ)に基づいて移動地点Xi+1(第2測定地点に相当)を設定する。
例えば、移動地点設定部206は、測定地点Xiにおける風流れの、測定地点Xiよりも風上方向に移動地点Xi+1を設定する。移動地点Xi+1は、測定地点Xiから所定の移動距離だけ風上方向に設定される。当該所定の移動距離は、例えば、所定領域の長辺または短辺のいずれかの長さに応じて設定されてもよい。また、当該所定の移動距離は、対応モデル上における風流れの風上方向において、風向または風速が変化し得る地点までの距離等であってもよい。
図8は、測定地点から移動地点までの移動距離の設定方法の一例を説明するための図である。図8に示すように、所定領域における建屋等に囲まれた道路の一部に物質発生源推定装置1−2が位置しており、発生源S1が図のX印で示す地点にあると仮定する。この場合、物質発生源推定装置1−2は、矢印Riに示すように、風流れW1、W2、W4およびW6を遡ることにより、発生源S1に到達することができる。しかし、例えば、図8に示すように、交差点C1においては、風流れW2およびW3が合流し得る。すなわち、交差点C1は、風流れが変化しやすい地点であると考えられる。そのため、移動地点設定部206は、測定地点において風流れW1の風上方向に発生源S1が存在し得ることは推定できるが、発生源S1から放出された測定対象物質が風流れW2およびW3のいずれかに乗って流れてきたかを正しく推定することが困難な場合が生じ得る。
そこで、移動地点設定部206は、風流れが変化しやすい交差点C1を、次の移動地点として設定し得る。これにより、交差点C1において、再度発生源の地点が推定される。そうすると、発生源S1から放出された測定対象物質は風流れW2から流れてきていると推定できるので、風流れW2の風上方向に次の移動地点が設定され得る。これを交差点C2およびC3において繰り返し行うことにより、確実に発生源S1にたどり着くことができる。
また、移動地点設定部206は、発生源地点推定部204により推定された発生源の地点と、測定地点Xiとに基づいて、移動地点Xi+1を設定してもよい。例えば、移動地点設定部206は、推定された発生源の地点を移動地点Xi+1として設定してもよい。これにより、発生源の地点に迅速に近づくことができるので、発生源の探索処理にかかる時間が短縮され得る。また、移動地点設定部206は、推定された発生源の地点と測定地点Xiとの間におけるいずれかの地点(例えば中間地点)を、移動地点Xi+1として設定してもよい。これにより、発生源地点推定部204に係る推定処理により生じ得る推定誤差の影響を加味しつつ、確実に発生源の地点に近づくことができる。
上述した移動地点設定部206による移動地点Xi+1の設定方法は上述した例だけではなく、推定された発生源の地点に近づくことが可能であれば特に限定されない。また、上述した設定方法は、物質発生源推定装置1−2による探索処理の状況等に応じて適宜変更されてもよい。例えば、探索処理の初期においては、移動地点Xi+1までの移動距離は比較的大きく設定されてもよく、探索処理が進行し推定される発生源の地点までの距離が近づくにつれて、当該移動距離は小さく設定されてもよい。探索処理を実行する時点における測定地点Xiおよび推定される発生源の地点等、または探索処理の状況等に応じた移動距離となるよう、移動地点設定部206は適宜移動地点Xi+1を設定することが好ましい。
さらに、濃度判定部202において測定地点Xiにおける代表分子濃度ciが、一時刻前の測定地点Xi−1における代表分子濃度ci−1を下回ると判定された場合、移動地点設定部206は、測定地点Xi−1における風流れの、測定地点Xiよりも風下方向に次の移動地点Xi+1(第3測定地点に相当)を設定することが好ましい。代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1を下回る場合は、測定地点Xi−1から測定地点Xiへの移動が、発生源の地点から遠ざかる移動であるか、または発生源の地点を通り過ぎる移動であることが考えられる。また、場合によっては、発生源の地点の風上側に移動してしまう場合も存在する。そのため、発生源の探索処理を継続することが困難となってしまう可能性も存在する。
上述した場合においては、測定地点Xiは、測定地点Xi−1における風流れの風上方向に位置する。そのため、移動地点設定部206は、測定地点Xi−1における風流れの、測定地点Xiよりも風下方向に移動地点Xi+1を設定する。例えば、移動地点設定部206は、測定地点Xi−1を移動地点Xi+1として設定してもよい。これにより、発生源の地点から遠ざかった場合においても、ふたたび測定地点を発生源の風下側に位置させることが可能となる。また、移動地点設定部206は、測定地点Xiと測定地点Xi−1との間のいずれかの地点を移動地点Xi+1として設定してもよい。
代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1を大きく下回る場合、上述したように、移動により物質発生源推定装置1−2が発生源の地点を通り過ぎてしまい、物質発生源推定装置1−2が発生源の風上側に位置してしまっていることが考えられる。この場合、移動地点設定部206は、濃度判定部202において代表分子濃度ciが元の分子濃度の水準に戻ったと判定されるまで、適宜測定地点xiよりも風下方向に移動地点xi+1を設定し続けてもよい。
なお、代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1を下回る場合において、移動地点設定部206は、風下方向に移動地点Xi+1を設定するほかに、測定地点Xiにおける風流れ、または推定された発生源の地点と測定地点Xiとに基づいて移動地点Xi+1を設定してもよい。この設定方法は、発生源の地点から測定地点Xiが遠ざかっている際に有効である。
移動地点設定部206により設定された移動地点Xi+1に係る情報は、適宜記憶部210および出力部220に出力される。
(記憶部・出力部)
本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2は、代表値設定部201、濃度判定部202、選択部203、発生源地点推定部204、距離判定部205および移動地点設定部206に係る一連の処理を探索処理として適宜繰り返し実施する。探索処理に用いられる情報は適宜記憶部210から取得され、探索処理により得られる情報は適宜記憶部210または出力部220に出力される。
本実施形態に係る記憶部210は、上記の実施形態に係る記憶部110に係る機能を有する。本実施形態に係る記憶部210は、例えば、代表値設定部201により設定された代表値、および移動地点設定部206により設定された移動地点Xi+1に係る情報を適宜記憶する。また、記憶部210は、濃度判定部202および距離判定部205に、各判定処理に用いられる情報(想定分子濃度cs、過去の代表値等)を適宜出力する。
本実施形態に係る出力部220は、上記の実施形態に係る出力部120に係る機能を有する。出力部220は、一連の探索処理の結果を出力する。例えば、出力部220は、濃度判定部202および距離判定部205による判定結果を出力してもよい。また、移動地点設定部206は、設定した移動地点Xi+1に係る情報を出力してもよい。さらに、物質発生源推定装置1−2の車両2が自動制御により移動可能である場合、出力部220は、移動地点Xi+1に係る情報を車両2の走行を制御する制御装置等に出力してもよい。これにより、車両2は、移動地点Xi+1へと自律的に移動することができる。
<3.2.処理の流れ>
以上、本発明の第2の実施形態に係る物質発生源推定装置1−2の構成および機能について説明した。次に、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2による探索処理の流れについて説明する。
図9は、本発明の第2の実施形態に係る物質発生源推定装置1−2による探索処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9を参照すると、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2では、まず、測定地点Xiにおける測定対象物質の分子濃度の測定、並びに風向および風速の測定が行われる(ステップS201)。具体的には、測定地点において、分子濃度測定装置20は測定対象物質の分子濃度の測定を行い、風向風速計30は風向および風速の測定を行う。これらの測定は逐次的に繰り返し行われる。
なお、本探索処理が初回に行われる場合は、測定地点X1は図10に示すような地点において行われることが好ましい。図10は、探索処理の初回における測定地点X1として推奨される地点を説明するための図である。図10に示される太枠は、測定対象エリア(所定領域)RAに相当する。測定対象エリアRA内に発生源S2が存在すると仮定する。
まず、測定地点X1として、測定対象エリアRAの外周領域SA1において測定対象物質が検出される地点であることが好ましい。本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2は、測定対象エリアRAの外部への測定対象物質の漏えいを防ぐための技術である。そのため、外周領域SA1において測定対象物質が検出されれば、当該測定対象物質が外部に漏えいしている確率が高い。したがって、外周領域SA1において測定対象物質が検出される地点を、初回の探索処理における測定地点X1として設定することが好ましい。
また、測定地点X1として、測定対象エリアRAの中心領域SA2に含まれる地点であることが好ましい。発生源S2の地点が不明である場合において、発生源S2へのアクセス性が最も高いためである。
また、測定地点X1として、測定対象エリアRAの風下側の領域SA3に含まれる地点であることが好ましい。発生源S2から放出される測定対象物質は全体的に風下側に流れていくので、領域SA3において当該測定対象物質が検出されやすいためである。
なお、上述した領域SA1〜SA3において測定対象物質が検出されない場合は、物質発生源推定装置1−2は、測定対象物質が検出されるまで、測定対象エリアの任意の地点において測定を継続する。
図9を再度参照すると、次に、複数の測定結果に基づいて、代表分子濃度ci、代表風向Diおよび代表風速viが設定される(ステップS203)。具体的には、代表値設定部201は、分子濃度測定装置20および風向風速計30による測定地点における複数の測定結果に基づいて、代表値を設定する。
次いで、代表分子濃度ciと想定分子濃度csとの比較に基づく判定が行われる(ステップS205)。具体的には、濃度判定部202は、代表分子濃度ciと想定分子濃度csとの大小を比較する。代表分子濃度ciが想定分子濃度cs以上である場合(S205/YES)、濃度判定部202は、探索処理を終了すると判定する(ステップS207)。ただし上述したように、探索処理の終了後において発生源を特定できない場合、想定分子濃度csを修正したうえで、再度探索処理が再開され得る。一方、代表分子濃度ciが想定分子濃度csを下回る場合(S205/NO)、代表分子濃度ciと測定地点Xi−1における代表分子濃度ci−1との比較に基づく判定が行われる(ステップS209)。具体的には、濃度判定部202は、代表分子濃度ciと代表分子濃度ci−1との大小を比較する。
ステップS209において代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1を下回る場合(S209/YES)、移動地点Xi+1として、測定地点Xiの風下方向に設定される(ステップS211)。具体的には、濃度判定部202は判定結果を移動地点設定部206に出力し、移動地点設定部206は、測定地点Xi−1における風流れの、測定地点Xiよりも風下方向に、移動地点Xi+1を設定する。この場合、選択部203、発生源地点推定部204および距離判定部205に係る処理は行われず、物質発生源推定装置1−2が移動地点Xi+1に移動したあと、再度ステップS201に係る処理が行われる。
一方、ステップS209において代表分子濃度ciが代表分子濃度ci−1以上である場合(S209/NO)、測定地点Xiにおける風流れを示す対応モデルが選択される(ステップS213)。具体的には、選択部203は、記憶部110から取得した複数のシミュレーションモデルから、測定地点Xiにおける代表風向Diおよび代表風速viからなる風流れと最も一致するシミュレーションモデルを対応モデルとして選択する。
次に、測定対象物質の発生源の地点が推定される(ステップS215)。具体的には、発生源地点推定部204は、代表分子濃度ci、代表風速vi、想定分子濃度csおよび選択部203において選択された対応モデルを用いて、発生源の地点を推定する。より具体的には、発生源地点推定部204は、代表分子濃度ci、代表風速viおよび想定分子濃度csを用いて測定地点Xiから発生源までの風流れに沿った推定距離Liを算出し、推定距離Liを選択された対応モデルに適用させることにより、発生源の地点を推定する。
次いで、測定地点Xiと、推定された発生源の地点との距離に基づいて、測定対象物質の発生源の地点の推定が完了したか否かが判定される(ステップS217)。具体的には、距離判定部205は、推定距離Li(または測定地点Xiと発生源との直線距離)が、所定距離Rs以下であるか否かに基づいて、発生源の地点の推定の完了の是非を判定する。推定距離Liが所定距離Rs以下である場合(S217/YES)、濃度判定部202は、探索処理を終了すると判定する(ステップS219)。
一方、ステップS217において推定距離Liが所定距離Rsを上回る場合(S217/NO)、移動地点Xi+1が設定される(ステップS221)。具体的には、移動地点設定部206は、測定地点Xiにおける上記風流れ等に基づいて、移動地点Xi+1を設定する。そして、物質発生源推定装置1−2は、車両2による走行により、設定された移動地点Xi+1に移動する(ステップS223)。そのあと、再度ステップS101の処理が行われる。本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2は、当該処理を終了することが判定されるまで、図9に示すような探索処理を繰り返し行う。
<3.3.効果>
以上、本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2による処理の流れについて説明した。本実施形態に係る物質発生源推定装置1−2によれば、本発明の第1の実施形態に係る推定処理を用いて、さらに発生源の地点に到達するための探索処理が行われる。具体的には、物質発生源推定装置1−2によれば、測定地点または発生源の地点における分子濃度または両地点間の距離を用いて探索処理の継続または終了についての判定が行われ、また、対応モデルの示す風流れまたは発生源の地点の推定結果等を用いて、逐次測定地点の移動が行われる。
かかる構成によれば、物質発生源推定装置1−2は測定ごとに発生源の地点を推定し、推定結果等に基づいて探索のために移動し、移動後に再度推定処理および探索処理が実行される。これにより、単に発生源の地点を推定するだけではなく、実際に測定対象物質を放出している発生源の地点へと近づくことができる。したがって、建物の立地や周辺環境を考慮した上での測定対象物質の発生源の地点の探索を、より確実に、かつより効率的に行うことが可能となる。
<<4.ハードウェア構成図>>
次に、図11を参照して、上記の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成について説明する。図11は、本発明の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図11に示すハードウェア構成は、図1、図2および図7に示す情報処理装置10(100、200)を構成し得るものである。
図11を参照すると、情報処理装置900は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、情報処理装置900は、更に、バス907を介してCPU901、ROM903及びRAM905と接続される、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919と、を備える。
CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913又はリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、情報処理装置900内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。上記の実施形態では、CPU901は、図2に示す情報処理装置100および図7に示す情報処理装置200の有する各機能部を構成し得るものである。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等、作業者が操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、情報処理装置900の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。更に、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いて作業者により入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路等から構成されている。情報処理装置900の作業者は、入力装置909を操作することにより、情報処理装置900に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報を作業者に対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプ等の表示装置や、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリ等がある。出力装置911は、例えば、情報処理装置900が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、情報処理装置900が行った各種処理により得られた結果を、テキスト又はイメージで表示する。また、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。上記の実施形態では、出力装置911は、図2に示す出力部120および図7に示す出力部220の一部または全部を構成し得るものである。
ストレージ装置913は、情報処理装置900の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや、CPU901によって処理される各種データ、外部から取得した各種のデータ等を格納する。上記の実施形態では、ストレージ装置913は、図2に示す記憶部110および図7に示す記憶部210を構成し得るものである。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、情報処理装置900に内蔵あるいは外付けされる。情報処理装置900は、ドライブ915を介して、リムーバブル記録媒体921に記録されている各種の情報を取得することができる。また、情報処理装置900は、ドライブ915を介して、各種の情報をリムーバブル記録媒体921に記録することができる。リムーバブル記録媒体921は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク又は半導体メモリ等の等の各種のメディアである。例えば、リムーバブル記録媒体921は、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ又はSDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)又は電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を情報処理装置900に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、情報処理装置900は、接続ポート917を介して、外部接続機器923から各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりすることができる。上記の実施形態では、例えば、図2に示す情報処理装置100および図7に示す情報処理装置200は、接続ポート917を介して、分子濃度測定装置20および風向風速計30から測定データを取得し得る。また、図7に示す出力部220は、車両2の制御装置と接続ポート917を介して接続し得る。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。通信装置919は、例えば、有線又は無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)若しくはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ又は各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。情報処理装置900は、通信装置919によって、通信網925を介して接続される外部機器から各種の情報を受信することができる。また、情報処理装置900は、通信装置919によって、通信網925を介して接続される外部機器に対して、各種の情報を送信することができる。上記の実施形態では、例えば、図2に示す情報処理装置100および図7に示す情報処理装置200は、通信装置919によって、通信網925を介して、分子濃度測定装置20および風向風速計30から測定データを取得し得る。また、図7に示す出力部220は、車両2の制御装置と通信装置919によって、通信網925を介して接続し得る。
以上、図11を参照して、本実施形態に係る情報処理装置900のハードウェア構成の一例について説明した。
<<5.まとめ>>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態に係る物質発生源推定装置1は大気ガスに含まれる測定対象物質の分子濃度の測定結果を用いて、当該測定対象物質を放出する発生源の地点を推定するが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、物質発生源推定装置は、建築構造物の内部空間、または坑道等の地下空間等における測定対象物質の発生源の地点を推定してもよい。
また、上記実施形態に係る分子濃度測定装置20の測定対象である測定対象物質は芳香族分子であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。他の実施形態においては、測定対象物質は、分子濃度測定装置20により分子濃度が測定可能である分子であれば、特に限定されない。
また、図1、図2および図7に示す構成は、あくまで本実施形態に係る物質発生源推定装置1の一例であり、物質発生源推定装置1の具体的な構成はかかる例に限定されない。物質発生源推定装置は、上述した本実施形態に係る物質発生源推定方法を実現可能に構成されればよく、一般的に想定され得るあらゆる構成を取ることができる。例えば、上記の実施形態に係る物質発生源推定装置1は、発生源の地点の推定のみを行う場合は、情報処理装置10等を必ずしも車両2に積載しなくてもよい。