以下、本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査装置、この大気拡散物質発生源探査装置を用いた大気拡散物質発生源探査システムおよび大気拡散物質発生源探査方法について、添付の図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査システムの一例である大気拡散物質発生源探査システム10のシステム構成例を示した概略図である。
大気拡散物質発生源探査システム10は、例えば、指令側のコンピュータ11と現場側での測定に使用される現場端末12とを、無線通信ネットワーク等の情報を相互伝送可能な手段で相互に接続して構成される。大気拡散物質発生源探査システム10では、コンピュータ11を、本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査装置の一例である大気拡散物質発生源探査装置20として機能させる。
コンピュータ11には、コンピュータを大気拡散物質発生源探査装置20として機能させるプログラム(以下、「PG」と省略する。)である大気拡散物質発生源探査PG14がインストールされており、コンピュータ11は大気拡散物質発生源探査装置20として機能する。大気拡散物質発生源探査装置20として機能するコンピュータ11は、後述する発生源推定分布計算手順、有効測定点選定手順および発生源推定分布データベース(以下、データベースを「DB」と省略する。)作成手順を実行することができる。
また、コンピュータ11は、アクセス可能な記憶領域内に、少なくとも、解析対象となり得る場所(解析対象領域)の地図情報を格納した地図情報DB16と、解析対象領域の風速、風向および乱流エネルギの情報を含む風速場の情報を格納した風速場情報DB17と、事前に解析対象領域の格子点に対して単位発生源強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施して得た発生源推定分布を格納した発生源推定分布DB18を有しており、各DBに格納される情報を読み出して利用することができる。
なお、風速場情報DB17に格納される風速場の情報には風速変動の標準偏差等の情報が含まれる場合もある。また、発生源推定分布DB18は、後述する第2の発生源推定分布計算手順を実行する際には必要となるが、その他の場合には不要である。すなわち、発生源推定分布DB18は、大気拡散物質発生源探査システム10における任意のDBである。
また、図1に示される大気拡散物質発生源探査システム10は、指令側のコンピュータ11が1台の例であるが、コンピュータ11は複数台であっても良い。すなわち、大気拡散物質発生源探査装置20として必要な機能を実現するための計算処理を複数のコンピュータ11に分散して実行させて、複数台のコンピュータ11全体として大気拡散物質発生源探査装置20の機能を実現するようにしても良い。
現場端末12は、例えば、持ち運び可能なコンピュータで構成され、濃度等の測定データを送信する現場データ取得装置40として機能する。現場端末12は、少なくとも、現場で測定して取得した測定データおよび測定場所の情報を送信する機能を有し、現場で取得した測定データを情報伝送可能に接続されるコンピュータ11へ送信する。
また、現場端末12は、必要に応じて、例えば、コンピュータ11から送信される発生源推定分布を表示する機能および発生源の絞り込みに有効な測定点の候補地点を地図情報とともに表示する機能等のコンピュータ11から送信される情報を受信してディスプレイに表示する機能と、全地球測位システム(Global Positioning System:GPS)や無線LAN(Local Area Network)の電波等を利用して現在地の情報を受信し、受信した現在地の情報をコンピュータ11へ送信する機能を有する。
また、現場端末12は、必要に応じて、例えば、記憶装置、表示装置または測定センサ等の外部機器と接続するインターフェイス(以下、「I/F」と省略する。)を有し、I/Fを介して接続される外部機器と情報を受け渡しすることができる。例えば、現場端末12は、I/Fを介して接続される記憶装置から情報をリード(読み出し)およびライト(書き込み)したり、I/Fを介して接続される表示装置に情報を表示させたり、または、I/Fを介して測定センサで検知された物理量を測定データとして取得することができる。
このように構成される大気拡散物質発生源探査システム10では、まず、現場データ取得装置40としての現場端末12から測定現場の位置情報および当該測定現場で測定された濃度(空間濃度値)の情報が大気拡散物質発生源探査装置20としてのコンピュータ11に送られる。
続いて、現場端末12(現場データ取得装置40)から送信された情報に基づくコンピュータ11(大気拡散物質発生源探査装置20)では、大気拡散物質の拡散挙動をラグランジュモデル粒子の大気中での時間挙動追跡によりシミュレーションするための粒子運動方程式を用いて、現場データ取得装置40(現場端末12)から送信された情報に基づく濃度測定位置を起点とし、この起点での強度として現場測定された空間濃度値を用いて、粒子運動方程式を時間反転させ、粒子の発生源方向への逆追跡のシミュレーション(粒子逆追跡シミュレーション)を実行し、現場測定された空間濃度値を与える発生源推定分布を得る。
また、粒子逆追跡シミュレーションを実行したコンピュータ11(大気拡散物質発生源探査装置20)は、得られた発生源推定分布で分布数値をもつ全ての点から選択された一つの点を発生源として仮定した場合における発生源強度または発生源強度に比例する物理量を計算する。
ここで、粒子逆追跡シミュレーションで用いるラグランジュモデル粒子の粒子追跡の基礎式(粒子運動方程式)について説明する。
ラグランジュモデルによって粒子を追跡する場合、拡散物質を複数の粒子で模擬し、大気流体計算から得られる風速場の情報(流速分布情報と乱流エネルギ分布情報)を用いて空間内における各粒子の移動場所を計算し、その位置を追跡する。拡散物質を模擬する粒子の中心位置の座標xi(i=1〜3、ここではi=3が鉛直方向)はラグランジュ粒子追跡法によって次の式(1)から求めることができる。
ここで、粒子移動速度Uiについては、乱流変動速度成分ui’によるランダムな挙動を考慮し、次の式(2)を用いて算出することができる。
また、粒子移動速度Uiを算出する際に重力沈降を考慮する場合には、上記式(2)の右辺に重力沈降を考慮した項(−δi3V)を加算した次の式(3)を用いて算出する。なお、重力沈降速度Vについては、Stokes則を用いて、次の式(4)より求めることができる。
上述した式(1)〜(8)に基づいて、得られた粒子の空間内における分布および各粒子周りの濃度分布情報を用いて各粒子からの影響を積算することで、評価対象とする地点の濃度を計算することができる。各粒子を追跡することにより得られた各粒子の位置座標情報(xk,yk,zk)を用いて評価対象とする地点(X,Y,Z)の濃度χ(X,Y,Z)[g/m3]は次の式(9)を用いて算出することができる。
なお、上述した現場端末12は、一例として持ち運び可能なコンピュータで構成される例であるが、必ずしも、持ち運び可能なコンピュータで構成される必要はない。現場端末12は、解析対象領域の格子点となる箇所から測定結果を得られ、得られた測定結果をコンピュータ11へ送信することができる限りにおいて任意に構成することができる。例えば、解析対象領域の格子点となる箇所に、濃度を検知する測定センサを備え、測定センサが取得した測定結果をコンピュータ11へ送信する固定式の現場端末12としても良い。この場合、コンピュータ11が計算に必要な測定点(現場端末12)を選択して測定結果を取得することになる。
次に、本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査装置について説明する。
図2は、大気拡散物質発生源探査システム10における大気拡散物質発生源探査装置20(指令側)の構成を示す概略図である。
大気拡散物質発生源探査装置20は、入力部21と、表示部22と、地図・風速場情報処理部23と、通信部24と、粒子逆追跡計算部25と、濃度計算部26と、発生源推定計算部27と、表示処理部28と、発生源絞り込み処理部29と、発生源推定分布抽出処理部30と、記憶部31と、発生源強度校正処理部32と、有効測定点候補選定部33と、制御部34と、を備える。記憶部31には、少なくとも、地図情報DB16および風速場情報DB17が読み出し可能に保持される。
なお、一例として図2に示される大気拡散物質発生源探査装置20では、大気拡散物質発生源探査装置20が、後述する第2の発生源推定分布計算手順を実行する際に参照が必要となる発生源推定分布DB18についても記憶部31に保持されているが、第2の発生源推定分布計算手順を実行しない場合には省略することができる。
入力部21は、例えば、コンピュータとインターフェイスを介して接続される入力装置またはコンピュータ自身が備えるキーボードやマウス等の入力手段によって実現される。入力部21は、情報の入力を受け付け、受け付けた情報を制御部34に与える。
表示部22は、例えば、コンピュータとインターフェイスを介して接続される表示装置またはコンピュータ自身が備えるディスプレイ等の表示手段によって実現される。表示部22は、表示要求を受け取ると、当該表示要求に応じた内容を画面表示する。
地図・風速場情報処理部23は、位置情報を検索キーとして地図情報DB16から位置情報に基づく位置を含む所定範囲の地図情報を抽出し取得する機能と、風速場情報DB17から解析対象領域の風速、風向および乱流エネルギを含む風速場の情報を抽出し取得する機能とを有する。上記検索キーは、ユーザが入力部21に入力することで与えることができる。
通信部24は、大気拡散物質発生源探査装置20と現場データ取得装置40との間で、データを送受信する機能を有する。通信部24は、制御部34から受け取ったデータを現場データ取得装置40へ送信する一方、現場データ取得装置40から送られたデータを制御部34へ与える。
粒子逆追跡計算部25は、通常の粒子追跡シミュレーションで用いる数式情報を有しており、時間を追って粒子の時間挙動を追跡する通常の粒子追跡とは逆、すなわち、時間を遡って粒子の時間挙動を追跡する逆追跡をシミュレートする粒子逆追跡シミュレーションを実行する機能を有する。
ここで、大気拡散物質発生源探査装置20において実行される粒子逆追跡シミュレーションとは、通常の粒子追跡シミュレーションで用いる上述の式(1)〜(10b)におけるΔtを負の値にすることで、時間反転で粒子の挙動を追跡するシミュレーションである。但し、上述した式(6)、(10a)および(10b)の右辺のΔtについては、負の値ではなく絶対値を使用する。
また、粒子逆追跡シミュレーションの実行時においては、形式として上述した式(9)の右辺の発生源強度Qに、現場で測定した濃度[g/m3]の数値を、逆追跡を開始する時点における粒子の位置(以下、「逆追跡発生点」と称する。)における強度[g/s]として使用する。
濃度計算部26は、評価対象領域の濃度分布を計算するのに必要な数式情報として上述した式(9)、(10a)および(10b)の情報を有しており、この式(9)、(10a)および(10b)の情報、風速場情報DB17から得られた評価対象領域の流速分布情報並びに粒子逆追跡計算部25から得られた各粒子の位置情報並びに各粒子周りの濃度の広がりの情報に基づいて、各粒子からの寄与を積算し、濃度分布を計算する機能を有する。
濃度計算部26は、濃度分布を計算する機能を用いて、各粒子に対して、粒子逆追跡計算部25が粒子逆追跡シミュレーションを実行して得た上述の式(9)の左辺の濃度[g/m3]の数値を計算し、各粒子について求められる濃度を積算することによって、例えば、後述する図3に示されるような空間濃度分布を得る。濃度計算部26が得る空間濃度分布は、探査すべき物質(大気拡散物質)の位置の確率分布である発生源推定分布を得る際に用いられる。
発生源推定計算部27は、評価対象領域における大気拡散物質の発生源推定分布を計算するのに必要な数式情報として後述する式(11)の情報を有しており、式(11)の情報と濃度計算部26が得た濃度分布とに基づいて発生源推定分布を得る機能を有する。発生源推定計算部27が得ることができる発生源推定分布は、1つの濃度測定点に対して1つなので、後述する有効測定点候補選定手順(発生源の絞り込み)を行いたい場合には、複数の濃度測定点に対して、それぞれ得られる発生源推定分布が必要となる。
発生源推定計算部27が得る発生源推定分布は、濃度測定を行った現場において測定された濃度(例えば、濃度χ0)を生ぜしめる発生源位置としては、当該発生源推定分布で分布数値をもつ全ての点で可能性があることを意味する。すなわち、現場で測定した濃度をχ0とし、濃度計算部26が得た解析対象領域内における任意の点(X,Y,Z)における濃度をχ1とした場合、濃度χ1から発生源推定強度[g/s]の数値をχ0(χ0/χ1)として対応させることができるため、点(X,Y,Z)における発生源強度G[g/s]または発生強度に比例する物理量は、次の式(11)で求めることができる。ただし、式(11)右辺のCは比例定数であり、発生源の絞り込み処理においては一定値である。通常はC=1として問題ない。
また、発生源推定計算部27は、得られた発生源推定分布において分布数値をもつ全ての点から一つの点を発生源として仮定した場合に現場で測定された濃度(空間濃度値)、すなわち、粒子逆追跡シミュレーション実行時に設定される粒子逆追跡発生点の濃度と、上記式(11)に基づいて、仮定した発生源における発生源強度または発生源強度に比例する物理量を計算する機能(発生源強度等計算機能)を有する。発生源推定計算部27は、発生源強度等計算機能を用いて、得られた発生源推定分布において分布数値をもつ各点について、その点が発生源となる場合の発生源強度または発生源強度に比例する物理量を計算することができる。
また、発生源推定計算部27は、各測定位置によって測定時刻が異なる場合、粒子逆追跡シミュレーションを実施する際の時間の起点を各測定位置での測定時刻とする一方、粒子逆追跡シミュレーションで遡る時刻は同じに設定して発生源推定分布を得る。各測定位置について同時刻の発生源推定分布を得ることにより、放出源の放出強度が時間的に変動する場合についても発生源候補の絞り込みを行うことができる。
表示処理部28は、情報を表示部22等の表示手段に表示するための表示情報を生成する機能を有する。表示処理部28は、例えば、地図・風速場情報処理部23が取得した所定範囲の地図情報に基づく当該所定範囲の地図と、濃度計算部26が得た濃度分布または発生源推定計算部27が得た発生源推定分布とを重ね合わせた表示内容等を表示するための表示情報を生成し、生成した表示情報を制御部34へ与える。
発生源絞り込み処理部29は、任意の構成要素であり、発生源推定計算部27が得た発生源推定分布が複数存在する場合、すなわち、測定点が複数存在する場合、各発生源推定分布において発生源位置としての確度が等値または同程度となる領域を抽出する(絞り込む)機能を有する。発生源絞り込み処理部29が抽出する領域は、各測定点で測定される濃度を与える領域であり、大気拡散物質の発生源となり得る領域である。
発生源推定分布抽出処理部30は、任意の構成要素であり、現場で測定された気象条件および現場の測定点の位置を検索キーとして、後述する第2の発生源推定分布計算手順を実行する際に参照する発生源推定分布DB18に格納される気象条件および測定点位置に合致するまたは気象条件が近接する発生源推定分布を抽出する機能を有する。
なお、発生源推定分布DB18は、例えば、後述する図11に示されるように、発生源強度が例えば単位強度等の所定の強度の場合において、解析対象領域内の各格子点および各気象条件について発生源推定計算部27が得た複数個の発生源推定分布をデータベース化したものである。このデータベース化の作業は、大気拡散物質発生源探査装置20の外部で行っても良いし、例えば、発生源推定分布抽出処理部30に発生源推定分布DB18の作成機能を持たせる等して大気拡散物質発生源探査装置20の内部で行っても良い。
記憶部31は、データの読み出し(リード)および書き込み(ライト)が可能な記憶領域を有し、当該記憶領域にデータを保持する機能を有する。記憶部31には、地図・風速場情報処理部23、粒子逆追跡計算部25、濃度計算部26、発生源推定計算部27、表示処理部28、発生源絞り込み処理部29、発生源推定分布抽出処理部30、発生源強度校正処理部32、有効測定点候補選定部33および制御部34がアクセスしてデータの読み出しおよび書き込みを行う。
発生源強度校正処理部32は、任意の構成要素であり、後述する第2の発生源推定分布計算手順を実行する際に、得られた発生源推定分布に対して必要な強度校正を行う。より詳細には、発生源推定分布から推定される発生源強度(発生源推定強度)は現場測定点(粒子逆追跡発生点)の濃度の2乗に比例することを考慮した強度校正を行う。例えば、発生源推定分布DB18を作成する際に解析対象領域の格子点に対して設定した発生源強度が単位強度である場合、実際に現場で測定された濃度の2乗を掛ける演算処理を行う。
有効測定点候補選定部33は、任意の構成要素であり、有効な測定点候補を選定する機能を有し、後述する有効測定点候補選定手順を実行する。
制御部34は、大気拡散物質発生源探査装置20の全体の処理を制御する手段であり、入力部21、表示部22、地図・風速場情報処理部23、通信部24、粒子逆追跡計算部25、濃度計算部26、発生源推定計算部27、表示処理部28、発生源絞り込み処理部29、発生源推定分布抽出処理部30、記憶部31、発生源強度校正処理部32および有効測定点候補選定部33と相互にデータを授受し、これらを制御する機能を有する。
制御部34は、入力部21から情報を受け取ると、入力部21が受け付けた情報の種類に応じて、表示部22、地図・風速場情報処理部23、通信部24、粒子逆追跡計算部25、濃度計算部26、発生源推定計算部27、表示処理部28、発生源絞り込み処理部29、発生源推定分布抽出処理部30、記憶部31、発生源強度校正処理部32および有効測定点候補選定部33の何れかに、入力を受け付けた情報に基づいて要求を与える。
また、制御部34は、表示処理部28が生成した表示情報を受け取ると、受け取った表示情報を表示要求とともに表示部22に与える。表示部22では、与えられた表示情報に基づく表示内容が表示される。
続いて、大気拡散物質発生源探査装置20が得る濃度分布および発生源推定分布について説明する。
図3は、大気拡散物質発生源探査装置20で行う粒子逆追跡シミュレーションによる濃度分布の一例である。
粒子逆追跡シミュレーションによる濃度分布は、濃度計算部26が、現場で測定した濃度[g/m3]の数値を粒子逆追跡シミュレーション開始位置での強度[g/s]として濃度計算を行うことによって、例えば、図3に示されるような濃度分布が得られる。図3に示される濃度分布は、粒子逆追跡発生点P1で測定した濃度がχ0であり、χ0を粒子逆追跡シミュレーション開始位置での強度として濃度計算を行って得られる濃度分布である。
ここで、濃度分布に現れる粒子逆追跡発生点を囲う閉曲線は、濃度の等値線35(35a,35b,35c)である。一例として図3に示される濃度分布に現れる濃度の等値線35a,35b,35cは、それぞれ、濃度χ1,χ2,χ3の等値線である。つまり、濃度の等値線35a,35b,35cの各線上の点は、それぞれ同じ濃度χ1,χ2,χ3である。
図4は、大気拡散物質発生源探査装置20で行う粒子逆追跡シミュレーションによる大気拡散物質の発生源推定分布の一例である。
粒子逆追跡シミュレーションによる発生源推定分布は、発生源推定計算部27が、上述した式(11)を用いて濃度を発生源推定強度に変換する計算をすることによって、得られた濃度分布を変換することによって得られる。例えば、図4に示される発生源推定分布は図3に示される濃度分布を変換することにより得られる。
ここで、発生源推定分布に現れる濃度測定点を囲う閉曲線は、発生源推定強度の等値線36(36a,36b,36c)である。一例として図4に示される発生源推定分布に現れる発生源推定強度の等値線36a,36b,36cは、それぞれ、濃度χ1,χ2,χ3から得られる発生源推定強度χ0(χ0/χ1),χ0(χ0/χ2),χ0(χ0/χ3)の等値線である。
つまり、発生源推定強度の等値線36a,36b,36cは、現場測定位置(現場測定点)P2で観測した濃度χ0[g/m3]を与える大気拡散物質の発生源が当該等値線の位置にある場合に、それぞれ同じ発生源推定強度χ0(χ0/χ1),χ0(χ0/χ2),χ0(χ0/χ3)となることを示す。
続いて、大気拡散物質発生源探査装置20が行う発生源の絞り込み手法および有効測定点候補の選定手法について説明する。
図5は、大気拡散物質発生源探査装置20が得た複数の大気拡散物質の発生源推定分布から発生源を絞り込む手法を説明する説明図である。
大気拡散物質発生源探査装置20が得る発生源推定分布は、当該発生源推定分布で分布数値をもつ全ての点が発生源となる可能性があるため、1つの発生源推定分布のみからでは、発生源を特定することはできない。しかしながら、現場測定位置(現場測定点)が異なる複数の測定データがある場合、それぞれの測定位置を起点とする粒子逆追跡の結果も違ってくるため、同じ評価対象地域に対して複数の異なる発生源推定分布を得ることができる。
各発生源推定分布において強度が同じになる領域は、現場の各測定点の情報(位置および濃度)と整合する発生源であるため、強度が同じにならない領域よりも、発生源としての確度が高いと判断できる。すなわち、発生源の推定強度毎に発生源位置が絞り込まれたことになる。大気拡散物質発生源探査装置20では、発生源絞り込み処理部29が、各発生源推定分布において強度が同じになる領域を抽出することで、発生源の位置を絞り込むことができる。
図5に示される例で大気拡散物質の発生源を絞り込む手法を説明すれば、解析メッシュ37上には、現場測定点P3から得られた第1の発生源推定分布(図5において示される実線)と現場測定点P4から得られた第2の発生源推定分布(図5において示される破線)との二つの発生源推定分布がある。
図5において示される白星印の領域X1は、第1の発生源推定分布においても、第2の発生源推定分布においても発生源推定強度の等値線36a,36bの間にある強度が同じになる領域である。このことは、発生源強度が発生源推定強度の等値線36a,36bの間にある強度と推定される場合、第1の発生源推定分布の等値線36a,36bと第2の発生源推定分布の等値線36a,36bに囲まれる白星印の領域X1内に発生源が絞り込まれることを意味する。
同様に、図5において示される第1の発生源推定分布の等値線36b,36cと第2の発生源推定分布の等値線36b,36cに囲まれる黒星印の領域X2では、発生源の強度が発生源推定強度の等値線36b,36cの間にある強度と推定される場合、この黒星印の領域X2内に発生源が絞り込まれることになる。
なお、実際の数値処理においては、対象地域を図5に例示するような格子点に分割し、この格子点毎に発生源推定強度毎の分布重なりの度合いを評価することが考えられる。また、発生源推定強度も連続値で扱うのではなく、強度を何段階かにグループ分け(離散化)して、図5で例示されているように強度グループ毎に分布の重なり具合を評価することが考えられる。
さらに、発生源位置としての確度が高い位置(領域)の表示方法としては、発生源位置としての確度の高さ(発生源推定分布の重なりが多いこと)に応じて、色分けをしたり、確度の等値線分布で表示したりすることが考えられる。このような表示方法などによって、発生源位置としての確度が高い位置(領域)を評価対象地域(解析対象領域)の地図上に表示することで探査作業を効率化することができる。
図6は、大気拡散物質発生源探査装置20が得た複数の大気拡散物質の発生源推定分布から発生源の絞り込みに有効な有効測定点候補を選定する手法を説明する説明図である。
図6に示されるように、解析メッシュ37上に、既に2点の現場測定情報があり、現場測定点P5から得られた第1の発生源推定分布(図6において示される実線)と現場測定点P6から得られた第2の発生源推定分布(図6において示される破線)との二つの発生源推定分布が既にある場合、発生源推定強度毎の二つの発生源推定分布の重なり具合から発生源位置として確度の高い位置が絞り込まれる。
図6において示される第1の発生源推定分布の等値線36a,36bと第2の発生源推定分布の等値線36a,36bに囲まれる白星印の領域X3と、第1の発生源推定分布の等値線36b,36cと第2の発生源推定分布の等値線36b,36cに囲まれる黒星印の領域X4は、発生源推定強度が異なる発生源位置候補である。図6に示される発生源推定分布の例において、発生源位置候補となる領域は、上記の2つ以外にも存在するが、説明を簡略化する観点から二つの領域X3,4から何れか一つの領域に絞り込まれる場合の例を説明する。
ここからさらに発生源位置として確度の高い位置を絞り込むために有効な測定点候補を選定する際に、現場の風向から判断して、既に測定した位置に対して単純に下流域に設定するのは効果的ではない。既に測定した位置に対して単純に下流域で測定した場合に得られる発生源推定分布は、その測定点より上流側の測定点から得られている発生源推定分布に類似したものとなり、発生源位置を絞り込むための有効な情報にならない可能性があるためである。
そこで、次に測定すべき現場の測定点の位置は、既に測定された位置の単純な下流域ではなく、風向に対して垂直方向または上流方向の範囲から選ぶことが好ましいと考えられる。図6に示される例では、風向(図6において右上方向から左下方向)に対して垂直方向かつ既に測定された現場測定点P5,P6の位置よりも上流方向(図6において右方向)の領域にある測定候補点P7で取得される測定結果は、発生源位置を絞り込むための有効な情報になり得る。
大気拡散物質発生源探査装置20において、図6に示される発生源推定分布が得られており、有効測定点候補選定部33が、さらに発生源位置として確度の高い位置を絞り込む際に有効と考えられる測定点を測定候補点P7として選定した場合、測定候補点P7で既に測定された位置での濃度値辺りから開始して、想定される測定濃度をパラメータとして候補点を逆追跡粒子発生点とする発生源推定分布を作成する。
測定候補点P7を現場測定点として作成した第3の発生源推定分布を既に得られている第1,2の発生源推定分布と重ね合わせ、それまでに得られている発生源位置候補点を絞り込めるかどうか判断する。図6に示される例では、第3の発生源推定分布(図6において示される点線)とさらに同程度の強度で重なるのは、黒星印の領域X4であり、二つの領域X3,4から一つに絞り込むことができる。
絞り込みの程度および効果は、地図上の格子点の数の大小や、絞り込み面積の大小等により定量化する。候補測定点毎に想定される濃度値を複数点設定する場合には、測定点の絞り込み効果を複数設定した濃度値により重みつき平均(濃度値中心値に対応する絞り込み効果値の重みを最も大きくして平均する)ことなどが考えられる。
測定候補点毎に絞り込み効果が定量化したうえで、コンピュータ画面の地図上にその候補点と効果値を等値線分布などで表示すること等により、発生源位置の絞り込みに有効な次の測定点の候補を簡単に把握することができる。
このように構成される大気拡散物質発生源探査装置20によれば、濃度測定位置を逆追跡発生点として設定し、現場測定された濃度値を発生源強度として設定して逆追跡シミュレーションを行い、逆追跡シミュレーションの結果得られた空間濃度分布位置を探査すべき大気拡散物質の位置の確率分布である発生源推定分布を得ることができるので、大気拡散物質の発生源をより迅速に探査することができる。
また、逆追跡シミュレーションの結果得られた空間濃度から探査すべき大気拡散物質の発生源強度に比例する量を評価し発生源を推定することができるので、大気拡散物質の発生源強度をより迅速に探査することができる。
さらに、大気拡散物質発生源探査装置20によれば、異なる測定点から得られる各発生源推定分布において強度が同じになる領域を抽出することで、発生源の位置を絞り込むことができる。すなわち、より迅速に大気拡散物質の発生源を探査することができる。
さらにまた、発生源推定分布DB18を用いて発生源推定分布を得る大気拡散物質発生源探査装置20によれば、逆追跡シミュレーションをその都度実行して発生源推定分布を得る大気拡散物質発生源探査装置20よりも計算負荷を軽減することができる。計算負荷の軽減は、単独のコンピュータ11(スタンドアローン)で計算処理を行なわなければならない場合に有効である。
なお、発生源推定分布が完全に一致していなくても、測定場所および気象条件が一致し、かつ、濃度が近接した値を採る発生源推定分布を発生源推定分布DB18から抽出し強度校正をすることで発生源推定分布を得ることができるため、計算負荷を軽減することができる。
一方、大気拡散物質発生源探査装置20では、有効測定点候補選定部33が、さらに発生源位置として確度の高い位置を絞り込む際に有効と考えられる測定候補点を既に測定した測定点の位置および風向を考慮して選定することができる。例えば、既に測定した測定点の上流方向かつ風向に対して垂直方向となる範囲から選ぶことで、より効率的に発生源位置を絞り込むことができる。すなわち、同じ面積まで発生源となり得る領域を絞り込むのに必要な測定点の点数をより少なく抑えることができる。
次に、本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査システムの現場側に適用される装置について説明する。
図7は、大気拡散物質発生源探査システム10における現場データ取得装置40(現場側)の構成を示す概略図である。
なお、以下の説明では、測定したい濃度を与える大気拡散物質を検知する測定センサ54がI/F部53に接続されており、測定センサ54が濃度等の測定対象として検知した物理量を測定データとして取得する機能と、現場で測定して取得した測定データおよび測定場所の情報を送信する機能と、大気拡散物質発生源探査装置20から送信される情報を受信してディスプレイに表示する機能と、現在地の情報を受信する機能と、受信した現在地の情報を大気拡散物質発生源探査装置20へ送信する機能と、を有する現場データ取得装置40の例について説明する。
現場データ取得装置40は、入力部41と、表示部42と、通信部43と、地図情報処理部45と、位置情報取得部46と、位置情報通知部47と、表示処理部49と、記憶部51と、測定制御部52と、I/F部53と、制御部55とを備える。なお、記憶部51には、少なくとも、地図情報DB16が読み出し可能に保持される。
入力部41は、例えば、コンピュータとインターフェイスを介して接続される入力装置またはコンピュータ自身が備えるキーボードやマウス等の入力手段によって実現される。入力部41は、情報の入力を受け付け、受け付けた情報を制御部55に与える。
表示部42は、例えば、コンピュータとインターフェイスを介して接続される表示装置またはコンピュータ自身が備えるディスプレイ等の表示手段によって実現される。表示部42は、表示要求を受け取ると、当該表示要求に応じた内容を画面表示する。
通信部43は、現場データ取得装置40と大気拡散物質発生源探査装置20との間で、データを送受信する機能を有する。通信部43は、制御部55から受け取ったデータを大気拡散物質発生源探査装置20へ送信する一方、大気拡散物質発生源探査装置20から送られたデータを制御部55へ与える。
地図情報処理部45は、例えば、記憶部51等の読み出し可能な記憶領域に格納される地図情報DB16から位置情報を検索キーとして位置情報に基づく位置を含む所定範囲の地図情報を抽出し取得する機能を有する。上記検索キーは、ユーザが入力部41に入力することで与えることができる。
位置情報取得部46は、GPSや無線LANの電波等を利用して現在地の情報を受信する機能を有する。また、位置情報通知部と47は、位置情報取得部46が受信した現在地の情報を指令側のコンピュータ11である大気拡散物質発生源探査装置20へ通知する機能を有する。
表示処理部49は、情報を表示部42等の表示手段に表示するための表示情報を生成する機能を有する。表示処理部49は、例えば、大気拡散物質発生源探査装置20から受信した情報等を表示するための表示情報を生成し、生成した情報を制御部55へ与える。
記憶部51は、データの読み出し(リード)および書き込み(ライト)が可能な記憶領域を有し、当該記憶領域にデータを保持する機能を有する。記憶部51には、地図情報処理部45、位置情報取得部46、位置情報通知部と47、表示処理部49、測定制御部52および制御部55がアクセスしてデータの読み出しおよび書き込みを行う。
測定制御部52は、任意の構成要素であり、I/F部53を介して接続される測定センサ54を制御する機能を有し、少なくとも、測定センサ54が濃度等の測定対象とする物理量を検知すると、検知した物理量を測定データとして取得することができる。測定制御部52が有する測定センサ54の制御機能は、予め測定センサ54の制御機能を実現するプログラムを現場データ取得装置40にインストールしておくことで現場データ取得装置40に持たせることができる。
測定制御部52は、制御部55によって制御され、測定制御部52が取得した測定データは、まず、制御部55に与えられ、続いて、制御部55から通信部43へ与えられ、通信部43から大気拡散物質発生源探査装置20へ送られる。
I/F部53は、任意の構成要素であり、例えば、測定センサ54等の外部機器との接続インターフェイスである。I/F部53に測定センサ54を接続することによって、測定センサ54で検知された物理量を測定データとして取得できる。
制御部55は、現場データ取得装置40の全体の処理を制御する手段であり、入力部41、表示部42、通信部43、地図情報処理部45、位置情報取得部46、位置情報通知部47、表示処理部49、記憶部51、測定制御部52およびI/F部53と相互にデータを授受し、これらを制御する機能を有する。
制御部55は、入力部41から情報を受け取ると、入力部41が受け付けた情報の種類に応じて、表示部42、通信部43、地図情報処理部45、位置情報取得部46、位置情報通知部47、表示処理部49、記憶部51、測定制御部52およびI/F部53の何れかに、入力を受け付けた情報に基づいて要求を与える。
また、制御部55は、表示処理部49が生成した表示情報を受け取ると、受け取った表示情報を表示要求とともに表示部42に与える。表示部42では、与えられた表示情報に基づく表示内容が表示される。
なお、図7に示される現場データ取得装置40は、一例であり、図7に示される形態に限定されない。図7に示される現場データ取得装置40から任意の機能を追加または省略した形態を採用することもできる。
例えば、測定結果を手入力して送信するのであれば、図7に示される現場データ取得装置40から測定制御部52およびI/F部53を省略した現場データ取得装置40を構成することもできるし、現在地の情報を手入力して送信するのであれば、図7に示される現場データ取得装置40から位置情報取得部46および位置情報通知部47を省略した現場データ取得装置40を構成することもできる。
次に、本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査方法について説明する。本発明の実施形態に係る大気拡散物質発生源探査方法は、例えば、大気拡散物質発生源探査装置20が大気拡散物質発生源推定分布計算手順および有効測定点候補選定手順を実行することによって、大気拡散物質発生源推定分布を得て、得られた大気拡散物質発生源推定分布から有効な測定点となり得る候補点(有効測定点候補)を絞り込んで、大気拡散物質の発生源を迅速に探査する方法である。
図8は大気拡散物質発生源探査装置20が行う大気拡散物質の発生源推定分布計算手順の一例である第1の発生源推定分布計算手順を説明する処理フロー図である。
第1の発生源推定分布計算手順では、まず、入力部21から解析対象領域を入力して設定する(ステップS1)。入力された解析対象領域の情報は、入力部21から制御部34を介して地図・風速場情報処理部23に与えられ、地図・風速場情報処理部23が地図情報DB16から解析対象領域の地図情報を抽出し取得する。また、入力された解析対象領域の情報は、粒子逆追跡シミュレーションを実行する粒子逆追跡計算部25にも与えられる。
続いて、設定した解析対象領域について、地図・風速場情報処理部23が風速場情報DB17から解析対象領域の風速、風向および乱流エネルギを含む風速場の情報を抽出し取得する(ステップS2)。
続いて、粒子逆追跡計算部25は、現場データ取得装置40から送信される現場の測定点の位置情報に基づく現場の測定点の位置を粒子逆追跡シミュレーションの逆追跡発生点に設定し(ステップS3)、現場データ取得装置40から送信される現場の測定点での濃度測定値を、粒子逆追跡シミュレーション開始位置での強度[g/s]として設定する(ステップS4)。
続いて、粒子逆追跡計算部25は、粒子逆追跡シミュレーションを実行して、粒子の発生および風速場での挙動を追跡する(ステップS5)。すなわち、上述した式(1)〜(8)までの計算を行う。
続いて、濃度計算部26は、上述の式(9)の左辺の濃度[g/m3]の数値を計算し、各粒子について求められる濃度を積算することで、評価対象とする地点の濃度を計算する(ステップS6)。すなわち、上述の式(9)、(10a)および(10b)を用いて粒子の分布から濃度分布を計算する。
続いて、発生源推定計算部27は、上述の式(11)を用いて、濃度計算部26が得た濃度分布を発生源推定強度に変換する計算を行い、発生源推定分布を得る(ステップS7)。ステップS7が完了すると、第1の発生源推定分布計算手順の全処理ステップ(ステップS1〜S7)を終了する。
このような第1の発生源推定分布計算手順によれば、濃度測定位置を逆追跡発生点として設定し、現場測定された濃度値を発生源強度として設定して逆追跡シミュレーションを行い、逆追跡シミュレーションの結果得られた空間濃度分布位置を探査すべき大気拡散物質の位置の確率分布である発生源推定分布を得ることができる。また、逆追跡シミュレーションの結果得られた空間濃度から探査すべき大気拡散物質の発生源強度に比例する量を評価し発生源を推定することができる。従って、大気拡散物質の発生源および発生源強度をより迅速に探査することができる。
また、異なる複数の測定点に対して、第1の発生源推定分布計算手順を実行し、異なる複数の測定点から得られる各発生源推定分布において強度が同じになる領域を抽出することで、発生源の位置を絞り込むことができる。すなわち、より迅速に大気拡散物質の発生源を探査することができる。
図9は大気拡散物質発生源探査装置20が行う有効測定点候補選定手順の処理手順を説明する処理フロー図である。
有効測定点候補選定手順は、大気拡散物質発生源探査装置20が既に一つ以上の発生源推定分布を得ている状況下で行われる。有効測定点候補選定手順では、まず、有効測定点候補選定部33が、先の発生源推定分布を得る際に粒子逆追跡シミュレーションの発生点として使用した解析対象領域内の現場測定した位置と風向の情報を用いて、解析対象領域内において既に現場測定した位置よりも下流でない位置または当該現場測定した位置よりも上流の位置で、既に現場測定した位置と風向に対して垂直方向に離れる領域から次の測定候補点を選定する(ステップS11)。
続いて、有効測定点候補選定部33は、ステップS11で選定した測定候補点で想定される濃度値を、既に測定された測定位置のうち候補点に近接している位置での測定濃度を中心値として複数設定する(ステップS12)。
続いて、粒子逆追跡計算部25、濃度計算部26および発生源推定計算部27が、測定候補点とステップS12で設定した複数値の想定濃度の各々に基づいて、粒子逆追跡シミュレーションを行って発生源推定分布を作成する(ステップS13)。
続いて、有効測定点候補選定部33は、ステップS13で得られた発生源推定分布と既に得ている発生源推定分布との重ね合わせを行う。このとき、地図上の格子点の数の大小や、絞り込み面積の大小等、発生源位置としての確度が等値または同程度となる領域の大小に基づいて絞り込みの程度および効果を定量化する(評価値を求める)(ステップS14)。
このステップS14を、ステップS12で設定した複数値の想定濃度の各々について実施すると(ステップS15でYESの場合)、続いて、有効測定点候補選定部33は、測定候補点の想定濃度毎の発生源位置絞り込み効果を重みつき平均(濃度値中心値に対応する絞り込みの程度および効果の評価値の重みを最も大きくして平均)して発生源位置絞り込み効果の重みつき平均を算出する(ステップS16)。
このステップS16を、ステップS11で選定した次の測定候補点の全てについて実施すると(ステップS17でYESの場合)、続いて、表示処理部28が発生源位置の絞り込みの効果について次の測定候補点の各々に対して定量化した効果値を地図上に表示する表示情報を生成する。生成された表示情報は表示部22に与えられ、表示部22に次の測定候補点の各々に対して発生源位置の絞り込み効果を表す効果値が地図上に表示される(ステップS18)。
続いて、有効測定点候補選定部33は、発生源位置の絞り込みの効果の効果値が高い次の測定候補点を抽出する(ステップS19)。ここで、ステップS19で抽出する次の測定候補点は定量化した効果値の最高値を1つ抽出しても良いし、効果値に対して閾(しきい)値を設定して当該閾値以上の効果値となる複数個の次の測定候補点を抽出しても良い。ステップS19が完了すると、有効測定点候補選定手順の全処理ステップ(ステップS11〜S19)を終了する。
一方、ステップS12で設定した複数値の想定濃度の各々について、ステップS14を実施していない場合(ステップS15でNOの場合)、有効測定点候補選定手順はステップS12に進み、ステップS12以降の処理ステップが実行される。また、ステップS11で選定した次の測定候補点の全てについて、ステップS16を実施していない場合(ステップS17でNOの場合)、有効測定点候補選定手順はステップS11に進み、ステップS11以降の処理ステップが実行される。
なお、有効測定点候補選定手順は、ステップS17が完了した後、ステップS18を省略してステップS19に進んでも良い。すなわち、次の測定候補点の各々に対して定量化した効果値を表示部22に表示することなく、有効測定点候補選定部33が発生源位置の絞り込みの効果の効果値の高い次の測定候補点を抽出しても良い。また、有効測定点候補選定手順は、ステップS19を省略して有効測定点候補選定手順の全処理ステップを終了しても良い。すなわち、次の測定候補点の各々に対して定量化した効果値を表示部22に表示することで、ユーザに発生源位置の絞り込みの効果の高い発生源位置の情報を提供することをもって有効測定点候補選定手順の全処理ステップを終了としても良い。
図10は大気拡散物質発生源探査装置20が行う大気拡散物質の発生源推定分布計算手順の一例である第2の発生源推定分布計算手順を説明する処理フロー図である。
第2の発生源推定分布計算手順は、第1の発生源推定分布計算手順のように現場での濃度測定を行う都度、粒子逆追跡シミュレーションを行うのではなく、想定し得る条件下で予め発生源推定分布を得ておき、それをデータベース化した発生源推定分布DB18を整備しておき、発生源探査の際には、発生源推定分布抽出処理部30が発生源推定分布DB18から現場で測定された測定結果(条件)と合致するまたは最も近い発生源推定分布を抽出することで、発生源推定分布を得るものである。
第2の発生源推定分布計算手順では、まず、現場データ取得装置40から送信される現場で測定された気象条件、現場の測定点の位置および濃度の情報を大気拡散物質発生源探査装置20が取得する(ステップS21)。ここで、気象条件には、風向および風速の情報が含まれる。風向および風速の情報は、離散的に設定した数値パラメータとして与えられる。大気拡散物質発生源探査装置20が取得した気象条件、現場の測定点の位置および濃度の情報は、発生源推定分布抽出処理部30に与えられる。
続いて、発生源推定分布抽出処理部30は、与えられた気象条件および現場の測定点の位置の情報を検索キーとして、当該検索キーと合致する条件下で得られた発生源推定分布を発生源推定分布DB18から抽出する。このとき、当該検索キーと発生源推定分布を得る際における粒子逆追跡シミュレーションの条件とが必ずしも完全一致するとは限らないので、最も近い条件での発生源推定分布を抽出する(ステップS22)。
続いて、発生源推定分布抽出処理部30が発生源推定分布を抽出すると、制御部34により制御される発生源強度校正処理部32が、実際に現場で測定された空間濃度値を使って発生源強度の校正を行う(ステップS23)。より詳細には、発生源強度が濃度の2乗に比例することを考慮し、実際に現場で測定された濃度が抽出される発生源推定分布を作成する際に設定した逆追跡発生点の濃度の何倍かを求め、それを2乗することで発生源推定分布を得ることができる。
このことは、発生源推定分布DB18を作成する際の逆追跡発生点の濃度がχ0=1の場合(単位強度となる場合)に、現場で測定された濃度がR1であれば、上述した式(11)において、χ0=R1とすることに相当する。ステップS23が完了すると、第2の発生源推定分布計算手順の全処理ステップ(ステップS21〜S23)を終了する。
このような第2の発生源推定分布計算手順によれば、取得した現場の測定点の気象条件および位置の情報を検索キーとして発生源推定分布DB18に格納される発生源推定分布から条件が合致する発生源推定分布を抽出するため、第1の発生源推定分布計算手順よりも計算負荷を軽減することができる。また、完全に合致する発生源推定分布が存在しないとしても、最も近接した値をとる発生源推定分布を発生源推定分布DB18から抽出し強度校正をすることで発生源推定分布を得ることができるため、第1の発生源推定分布計算手順よりも計算負荷を軽減することができる。
さらに、第2の発生源推定分布計算手順では、大気拡散物質発生源探査装置20での計算負荷が第1の発生源推定分布計算手順よりも軽減されるため、より短時間で演算処理結果である発生源推定分布を得ることができる。すなわち、より迅速に大気拡散物質の発生源および発生源強度を探査することができる。
図11は大気拡散物質発生源探査装置20が第2の発生源推定分布計算手順を行う際に参照する発生源推定分布DB18を作成する手順(以下、「発生源推定分布DB作成手順」と称する。)を説明する処理フロー図である。
発生源推定分布DB作成手順は、発生源強度を単位強度として、解析対象領域内の各格子点および各気象条件にについて第1の発生源推定分布計算手順を実行して得ることができる。より詳細には、まず、解析対象領域を設定し(ステップS31)、設定した解析対象領域で予想される気象条件(境界条件)毎に風速場の情報を取得する(ステップS32)。ステップS31およびステップS32は、第1の発生源推定分布計算手順のステップS1およびステップS2と同様にして行われる。
続いて、粒子逆追跡計算部25は、設定した解析対象領域内の格子点を粒子逆追跡シミュレーションの逆追跡発生点に設定し(ステップS33)、設定した各格子点について単位強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施する(ステップS34)。すなわち、上述した式(1)〜(8)までの計算を行う。
続いて、濃度計算部26が、上述の式(9)、(10a)および(10b)を用いて粒子の分布から濃度分布を計算し、さらに、発生源推定計算部27が、上述の式(11)を用いて、濃度計算部26が得た濃度分布を発生源推定強度に変換する計算を行い、発生源推定分布を得る(ステップS35)。ここで得られた発生源推定分布は、粒子逆追跡シミュレーション実施時の気象条件および格子点と関連付けられ、発生源推定分布DB18として保存される(ステップS36)。
ここで、設定した解析対象領域内の全格子点について単位強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施しており(ステップS37でYESの場合)、全ての気象条件について単位強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施している場合(ステップS38でYESの場合)には、ステップS38を完了し、発生源推定分布DB作成手順の全処理ステップ(ステップS31〜S38)を終了する。
一方、設定した解析対象領域内に、単位強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施していない格子点が残っている場合(ステップS37でNOの場合)、発生源推定分布DB作成手順は、ステップS33に進み、ステップS33以降の処理ステップが実行される。
また、設定した解析対象領域内の全格子点について単位強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施している(ステップS37でYESの場合)が、単位強度の粒子逆追跡シミュレーションを実施していない気象条件が残っている場合(ステップS38でNOの場合)には、発生源推定分布DB作成手順は、ステップS32に進み、ステップS32以降の処理ステップが実行される。
なお、上述の発生源推定分布DB作成手順において、粒子逆追跡シミュレーションを実施する際の発生源強度を単位強度とした例を説明しているが、発生源強度は必ずしも単位強度でなくても良い。但し、発生源強度を単位強度とすると、第2の発生源推定分布計算手順において実行される発生源強度の校正処理ステップ(ステップS23)での計算が簡易になる利点がある。
以上、大気拡散物質発生源探査装置20、大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および大気拡散物質発生源探査方法によれば、濃度測定位置を逆追跡発生点として設定し、現場測定された濃度値を発生源強度として設定して逆追跡シミュレーションを行い、逆追跡シミュレーションの結果得られた空間濃度分布から位置を探査すべき大気拡散物質の位置の確率分布である発生源推定分布を得ることができるので、大気拡散物質の発生源をより迅速に探査することができる。
また、大気拡散物質発生源探査装置20、大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および大気拡散物質発生源探査方法によれば、逆追跡シミュレーションの結果得られた空間濃度から探査すべき大気拡散物質の発生源強度に比例する量を評価し発生源を推定することができるので、大気拡散物質の発生源強度をより迅速に探査することができる。
さらに、大気拡散物質発生源探査装置20、大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および大気拡散物質発生源探査方法によれば、異なる測定点から得られる各発生源推定分布において強度が同じになる領域を抽出することで、発生源の位置を絞り込むことができる。すなわち、より迅速に大気拡散物質の発生源を探査することができる。
さらにまた、発生源推定分布DB18を用いて発生源推定分布を得る大気拡散物質発生源探査装置20、当該大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および第2の発生源推定分布計算手順を備える大気拡散物質発生源探査方法によれば、逆追跡シミュレーションをその都度実行して発生源推定分布を得る大気拡散物質発生源探査装置20、当該大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および第1の発生源推定分布計算手順を備える大気拡散物質発生源探査方法よりも計算負荷を軽減することができる。
また、発生源推定分布DB18を用いて発生源推定分布を得る大気拡散物質発生源探査装置20、当該大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および第2の発生源推定分布計算手順を備える大気拡散物質発生源探査方法では、発生源推定分布が完全に一致していなくても、最も近接した値をとる発生源推定分布を発生源推定分布DB18から抽出し強度校正をする(実際に現場で測定された濃度の2乗を掛ける)ことで発生源推定分布を得ることができるため、計算負荷を軽減することができる。
一方、大気拡散物質発生源探査装置20、大気拡散物質発生源探査装置20を用いた大気拡散物質発生源探査システム10および大気拡散物質発生源探査方法では、大気拡散物質発生源探査装置20の有効測定点候補選定部33が、さらに発生源位置として確度の高い位置を絞り込む際に有効と考えられる測定候補点を既に測定した測定点の位置および風向を考慮して選定することができる。例えば、既に測定した測定点の上流方向かつ風向に対して垂直方向となる範囲から選ぶことで、より効率的に発生源位置を絞り込むことができる。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施例以外にも様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。