本実施形態を以下に図面を参照して説明する。図面において、同一部分には同一の参照符号を付す。また、重複した説明は、必要に応じて行う。
1.第1の実施形態
以下に図1乃至図5を用いて、第1の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第1の実施形態に係る光電気化学反応装置では、第1電極11、光起電力層31、第2電極21、および第1絶縁層22を含む積層体41と、第2電極21に配線51を介して電気的に接続される配管61とで、光電気化学反応セルが構成される。この光電気化学セルがH2Oを含む第1溶液81が充填された溶液槽71内に収容され、配管内61にはCO2を含む第2溶液82が充填される。これにより、酸化還元反応による生成物を分離することができ、かつ、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を高くすることができる。以下に、第1の実施形態について詳説する。
1−1.第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す斜視図である。図2は、第1の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図であり、図1におけるA−A´線に沿った断面図である。図3は第1の実施形態に係る積層体41の一例を示す断面図であり、図4は第1の実施形態に係る積層体41の他の例を示す断面図である。
図1および図2に示すように、第1の実施形態に係る光電気化学反応装置は、積層体41、配線51、および配管61で構成される光電気化学反応セルと、光電気化学反応セルを収容する溶液槽71とを備える。
溶液槽71は、その内部に光電気化学反応セルを収容する。また、溶液槽71は、光電気化学反応セルを浸漬するように、その内部に第1溶液81を収容する。第1溶液81は、例えばH2Oを含む溶液である。このような溶液としては、任意の電解質を含むものが挙げられるが、H2Oの酸化反応を促進するものであることが望ましい。溶液槽71の上面は、光透過率の高い例えばガラスまたはアクリルからなる窓部が設けられる。照射光は、溶液槽71の上方から照射される。この照射光によって、後述する光電気化学反応セルは、酸化還元反応を行う。
また、溶液槽71には、注入口1および回収口2が接続される。注入口1は、溶液槽71内で酸化反応に用いられる液体(第1溶液81)を注入する。回収口2は、溶液槽71内で酸化反応によって生成された気体(例えばO2)を回収する。
光電気化学反応セルは、積層体41、配線51、および配管61で構成され、光エネルギーから化学エネルギーを生成する。光電気化学反応セルの各要素について、以下に詳説する。
図3に示すように、積層体41の一例は、第1電極11、光起電力層31、第2電極21、および第1絶縁層22で構成される。積層体41は、第1方向および第1方向に直交する第2方向に拡がる平板状であり、第2電極21を基材として順次形成される。なお、ここでは、光照射側を表面(上面)とし、光照射側の反対側を裏面(下面)として説明する。
第2電極21は、導電性を有する。また、第2電極21は、積層体41を支持し、その機械的強度を増すために設けられる。第2電極21は、例えばCu、Al、Ti、Ni、Fe、またはAg等の金属板、もしくはそれらを少なくとも1つ含む例えばSUSのような合金板で構成される。また、第2電極21は、導電性の樹脂等で構成されてもよい。また、第2電極21は、SiまたはGe等の半導体基板、イオン交換膜で構成されてもよい。
光起電力層31は、第2電極21上(表面上(上面上))に形成される。光起電力層31は、反射層32、第1光起電力層33、第2光起電力層34、および第3光起電力層35で構成される。
反射層32は、第2電極21上に形成され、下部側から順に形成された第1反射層32aおよび第2反射層32bで構成される。第1反射層32aは、光反射性と導電性を有し、例えばAg、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも一つ含む金属を含む合金で構成される。第2反射層32bは、光学的距離を調整して光反射性を高めるために設けられる。また、第2反射層32bは、光起電力層31のn型半導体層(後述するn型のアモルファスシリコン層33a)と接合する。このため、第2反射層32bは、光透過性があり、n型半導体層とオーミック接触が可能な材料で構成されることが望ましい。第2反射層32bは、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、またはATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物で構成される。
第1光起電力層33、第2光起電力層34、および第3光起電力層35はそれぞれ、pin接合半導体を使用した太陽電池であり、光の吸収波長が異なる。これらを平面状に積層することで、光起電力層31は、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光エネルギーをより効率良く利用することが可能となる。また、各光起電力層は、直列に接続されているため、高い開放電圧を得ることができる。
より具体的には、第1光起電力層33は、反射層32上に形成され、下部側から順に形成されたn型のアモルファスシリコン(a−Si)層33a、真性(intrinsic)のアモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)層33b、およびp型の微結晶シリコン(μc−Si)層33cで構成される。ここで、a−SiGe層33bは、700nm程度の長波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第1光起電力層33は、長波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
また、第2光起電力層34は、第1光起電力層33上に形成され、下部側から順に形成されたn型のa−Si層34a、真性(intrinsic)のa−SiGe層34b、およびp型のμc−Si層34cで構成される。ここで、a−SiGe層34bは、600nm程度の中間波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第2光起電力層34は、中間波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
また、第3光起電力層35は、第2光起電力層34上に形成され、下部側から順に形成されたn型のa−Si層35a、真性(intrinsic)のa−Si層35b、およびp型のμc−Si層35cで構成される。ここで、a−Si層35bは、400nm程度の短波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第3光起電力層35は、短波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
このように、光起電力層31は、各波長領域の光によって電荷分離が生じる。すなわち、正孔が陽極側(表面側)に、電子が陰極側(裏面側)に分離する。これにより、光起電力層31は、起電力を発生させる。
第1電極11は、光起電力層31のp型半導体層(p型のμc−Si層35c)上に形成される。このため、第1電極11は、p型半導体層とオーミック接触が可能な材料で構成されることが望ましい。第1電極は、例えば、Ag、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金で構成される。また、第1電極11は、ITO、ZnO、FTO、AZO、またはATO等の透明導電性酸化物で構成されてもよい。また、第1電極11は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造で構成されてもよい。
また、本例において、照射光は、第1電極11を通過して光起電力層31に到達する。このため、光照射側(図面において上部側)に配置される第1電極11は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、光照射側の第1電極11の光透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上であることが好ましい。または、第1電極11は、光を透過することができる開口部分を有する。開口率は、少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上である。
第1絶縁層22は、第2電極21下(裏面上(下面上))に形成される。第1絶縁層22は、第2電極21と第1溶液81とを電気的に絶縁するために設けられる。第1絶縁層22は、第1溶液81との反応性が低いTiOxまたはAl2O3等の金属酸化物、もしくは有機化合物の樹脂で構成される。
第1絶縁層22は、第2電極21の裏面上に限らず、第2電極21の側面上にも形成されることが望ましい。すなわち、第1絶縁層22は、第2電極21の露出面上に形成される。言い換えると、第1絶縁層22は、第2電極21を覆うように形成され、第2電極21と第1溶液81との間に形成される。
なお、第2電極21の膜厚は、第2電極21の平面寸法(第1方向における寸法および第2方向における寸法)に対して、非常に小さい。このため、第2電極21の露出面の大部分は、第2電極21の下面である。したがって、第1絶縁層22は、少なくとも第2電極21の下面上に形成されればよい。
なお、上記において、3つの光起電力層の積層構造で構成される光起電力層31を例に説明したが、これに限らない。光起電力層31は、2つまたは4つ以上の光起電力層の積層構造から構成されてもよい。または、光起電力層の積層構造の代わりに、1つの光起電力層を用いてもよい。また、前述ではpin接合半導体を使用した太陽電池について説明したが、pn接合型半導体を使用した太陽電池であってもよい。また、半導体層として、SiおよびGeで構成される例を示したが、これに限らず、化合物半導体系、例えばGaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSeで構成されてもよい。さらに、単結晶、多結晶、アモルファス状の種々の形態を適用することができる。また、第1電極11および第2電極21は、光起電力層31の全面に設けられてもよいし、部分的に設けられてもよい。
図4に示すように、積層体41の他の例は、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21で構成される。積層体41の他の例は、上記一例に対して、主に光起電力層31の構造が異なる。
他の例における光起電力層31は、第1光起電力層321、バッファ層322、トンネル層323、第2光起電力層324、トンネル層325、および第3光起電力層326で構成される。
第1光起電力層321は、第2電極21上に形成され、下部側から順に形成されたp型のGe層321aおよびn型のGe層321bの積層構造で構成される。この第1光起電力層321(Ge層321b)上に、第2光起電力層324に用いられるGaInAsとの格子整合および電気的接合のために、GaInAsを含むバッファ層322およびトンネル層323が形成される。
第2光起電力層324は、トンネル層323上に形成され、下部側から順に形成されたp型のGaInAs層324aおよびn型のGaInAs層324bの積層構造で構成される。この第2光起電力層324(GaInAs層324b)上に、第3光起電力層326に用いられるGaInPとの格子整合および電気的接合のために、GaInPを含むトンネル層325が形成される。
第3光起電力層326は、トンネル層325上に形成され、下部側から順に形成されたp型のGaInP層326aおよびn型のGaInP層326bの積層構造で構成される。
他の例における光起電力層31は、図3に示すアモルファスシリコン系の材料を用いた一例における光起電力層31に対して、p型とn型の積層方向が異なるために起電力の極性が異なる。
配管61は、積層体41の上方、すなわち、積層体41に対して光照射側に配置される。言い換えると、配管61は、第1電極11に対向して設けられる。配管61は、その内部に第2溶液82を収容する。配管61は、その外側の第1溶液81と、その内側の第2溶液82とを物理的に分離する。また、配管61は、後述する細孔66を介して第1溶液81から第2溶液82に選択的にイオンを透過させる。配管61は、第1方向および第2方向に任意に延在または屈折する。また、配管61は、分岐してもよい。
第2溶液82は、例えばCO2を含む溶液である。第2溶液82は、CO2の吸収率が高いことが望ましく、H2Oを含む溶液として、NaHCO3、KHCO3の水溶液が挙げられる。また、第1溶液81と第2溶液82とは同じ溶液でもよいが、第2溶液82はCO2の吸収量が高いほうが好ましいため、第1溶液81と第2溶液82とは別の溶液を用いてもよい。また、第2溶液82は、CO2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、CO2を吸収するCO2吸収剤を有することが望ましい。このような電解液として、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4−またはPF6−等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液が挙げられる。または、電解液として、エタノールアミン、イミダゾール、またはピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、または三級アミンのいずれでもかまわない。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、またはヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもかまわない。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、またはクロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもかまわない。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、またはジプロパノールアミン等が挙げられる。置換した炭化水素は、異なってもかまわない。これは、三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、またはメチルプロピルアミン等が挙げられる。三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、またはメチルジプロピルアミン等が挙げられる。イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、または1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。また、イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換されたものとしては、例えば、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、または1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、またはヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンはともに、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4−、PF6−、CF3COO−、CF3SO3−、NO3−、SCN−、(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、またはビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。また、イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で連結した双生イオンでもよい。
また、配管61には、注入口3および回収口4が接続される。注入口3は、配管61内で還元反応に用いられる液体(第2溶液82)を注入する。回収口4は、配管61内で還元反応によって生成された気体(例えばCO)を回収する。
配管61は、例えば第1部分、複数の第2部分、および第3部分からなるレイアウトを有する。第1部分は、第1方向に延在し、注入口3に接続される。複数の第2部分は、第2方向に並行して延在し、それらの一端は第1部分に接続される。第3部分は、第1方向に延在し、複数の第2部分の他端に接続される。また、第3部分は回収口4に接続される。
配管61は、管状の基材62および第2絶縁層63で構成される。
基材62は、配管61の内側に形成され、その内部に第2溶液82を収容する空洞を有する。基材62は、導電性が高く、加工性が高い材料で構成される。そのような材料としては、例えば、Fe、Ni、Co、Cu、またはAl等の金属、もしくはそれらの少なくとも1つを含む合金で構成される。
第2絶縁層63は、配管61の外側に形成され、基材62の外面上に形成される。第2絶縁層63は、第1溶液81と基材62とを電気的に絶縁するために設けられる。第2絶縁層63は、第1溶液81との反応性が低いTiOxまたはAl2O3等の金属酸化物、もしくは有機化合物の樹脂で構成される。
この配管61(基材62および第2絶縁層63)は、その外面から内面まで貫通する複数の細孔66を有する。細孔66は、第1電極11における酸化反応により生成されたイオン(例えばHイオン(H+))のみを選択的に配管61内部に通過させる。配管61の基材62は、第2電極21と電気的に接続されているため、細孔66を通過したイオンが配管61の基材62の内側で還元反応によりO2、H2、または有機化合物等に変換される。また、細孔66は、イオンが通過する大きさであればよい。例えば、細孔66の直径(円相当径)の下限は、0.3nm以上であることが好ましい。なお、円相当径とは、((4×面積)/π)0.5で定義されるものである。また、細孔66の形状は円形状に限らず、楕円形状、三角形状、または四角形状であってもよい。細孔66の配置構成は四角格子状に限らず、三角格子状、ランダムであってもよい。また、細孔66にイオン交換膜68を充填してもよい。イオン交換膜68としては、例えばナフィオンまたはフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタまたはセレミオンのようなアニオン交換膜が挙げられる。また、細孔66にガラスフィルタや寒天を充填してもよい。
配線51は、積層体41の第2電極21と、配管61の基材62とを電気的に接続する。より具体的には、配線51は、その一端が例えば第2電極21の下面(裏面)に接して形成される。また、配線51は、その他端が例えば第2絶縁層63を貫通し、基材62の外面に接して形成される。配線51は、導電性を有し、かつ、第1溶液81との反応性が低い材料で構成される。配線51は、例えば絶縁材料で覆われたCu、Al、またはAg等の金属材料のケーブルで構成される。
1−2.第1の実施形態の動作原理
図5は、第1の実施形態に係る光電気化学反応装置の動作原理を示す断面図である。ここでは、図3に示すアモルファスシリコン系材料で構成された光起電力層31を用いた場合の極性を例にして動作を説明する。また、第2溶液82としてCO2が吸収された吸収液を用いた場合について説明する。
図5に示すように、上方から光が照射されると、照射光は第1電極11を通過し、光起電力層31に到達する。光起電力層31は、光を吸収すると、電子およびそれと対になる正孔を生成し、それらを分離する。すなわち、各光起電力層(第1光起電力層33、第2光起電力層34、および第3光起電力層35)において内蔵電位により、n型の半導体層側(第2電極21側)に電子が移動し、p型の半導体層側(第1電極11側)に電子の対として発生した正孔が移動し、電荷分離が生じる。これにより、光起電力層31に起電力が発生する。
光起電力層31内で発生し、カソード電極である第2電極21に移動した電子は、配線51を介して配管61(基材62)に移動する。そして、配管の基材62の内側付近における還元反応に使用される。一方、光起電力層31内で発生し、アノード電極である第1電極11に移動した正孔は、第1電極11付近における酸化反応に使用される。より具体的には、第1溶液81に接する第1電極11付近では(1)式、第2溶液82に接する基材62の内側付近では(2)式の反応が生じる。
2H2O → 4H++O2+4e− ・・・(1)
2CO2+4H++4e− → 2CO+2H2O ・・・(2)
(1)式に示すように、第1電極11付近において、第1溶液81に含まれるH2Oが酸化されて(電子を失い)O2とH+が生成される。そして、第1電極11側で生成されたH+は、第1溶液81内を移動し、配管61に設けられた細孔66を介して配管61の基材62の内側(第2溶液82内)に移動する。
(2)式に示すように、配管61の基材62の内側付近において、第2溶液82に含まれるCO2が還元される(電子を得る)。より具体的には、第2溶液82に含まれるCO2、細孔66を介して移動したH+、および第2電極21および配線51を介して基材62に移動した電子が反応し、COとH2Oとが生成される。
このとき、光起電力層31は、第1電極11で生じる酸化反応の標準酸化還元電位と基材62の内側で生じる還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、(1)式における酸化反応の標準酸化還元電位は1.23[V]であり、(2)式における還元反応の標準酸化還元電位は−0.1[V]である。このため、光起電力層31の開放電圧は、1.33[V]以上の必要がある。なお、より好ましくは、開放電圧は過電圧を含めた電位差以上の必要がある。より具体的には、例えば(1)式における酸化反応および(2)式における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2[V]である場合、開放電圧は1.73[V]以上であることが望ましい。
なお、(2)式に示すCO2からCOへの還元反応だけでなく、CO2からHCOOH、メタン(CH4)、エチレン(C2H4)、CH3OH、エタノール(C2H5OH)等への還元反応も生じさせることが可能である。また、第2溶液82に用いたH2Oの還元反応も生じさせることが可能であり、H2の発生も可能である。また、溶液中の水分(H2O)量を変えることによって、生成されるCO2の還元物質を変えることができる。例えば、HCOOH、CH4、CH3OH、C2H5OH、またはH2等の生成割合を変えることができる。
このように、酸化反応を生じさせる第1電極11に対向させて細孔66が設けられた配管61を設置し、配管61の基材62の内側で還元反応を生じさせる。これにより、第1電極11付近で生成されるO2と、配管61の基材62の内側付近で生成されるCO等の炭素化合物を分離することが可能となる。また、第1電極11に対向して配管61を設置するため、第1電極11付近で発生したH+の移動する距離(第1電極11から基材62への距離)が短くなり、イオン輸送による電位のロスを小さくすることができる。
なお、図4に示すGaAs系からなる光起電力層31を用いた場合、上記と極性が異なるため、反応が反対になる。すなわち、第1電極11付近において還元反応が生じ、配管61の基材62の内側付近において酸化反応が生じる。
1−3.第1の実施形態の効果
上記第1の実施形態によれば、光電気化学反応装置において、第1電極11、光起電力層31、第2電極21、および第1絶縁層22を含む積層体41と、第2電極21に配線51を介して電気的に接続される配管61とで、光電気化学反応セルが構成される。この光電気化学セルがH2Oを含む第1溶液81が充填された溶液槽71内に収容され、配管内61にはCO2を含む第2溶液82が充填される。
このような光電気化学反応装置において、上方から光を照射することにより、光起電力層31で起電力が発生し、第1溶液81に接する第1電極11付近で酸化反応が生じる。第1溶液81としてH2Oを用いた場合、酸化反応によってO2とH+が生成される。酸化反応によって生成されたH+は、第1電極11の上方に対向して設けられた配管61に拡散して細孔66を通って、配管61の基材62の内側へ到達する。第2溶液82に接する基材62は、光起電力層31の第2電極21と電気的に接続されるため、光起電力層31で発生した起電力によりその内側付近で還元反応が生じる。このとき、細孔66を介して移動されたH+が、基材62の内側付近での還元反応に用いられる。第2溶液82としてCO2が吸収された溶液を用いた場合、還元反応によってCOが生成される。
第1の実施形態では、細孔66が設けられた配管61が第1電極11の上方に対向して設置される。このため、第1電極11付近での酸化反応によって生じ、基材62の内側付近での還元反応に用いられるH+の移動距離が短くなり、イオン輸送による電位のロスを低減できる。したがって、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を高くすることができる。
また、配管61を設けたことにより、配管61の外側で酸化反応が行われ、内側で還元反応が行われる。その結果、酸化反応による生成物(例えばO2)を配管61の外側で回収し、還元反応による生成物(例えばCO)を配管61の内側で回収することができる。すなわち、酸化反応よる生成物と還元反応による生成物を分離して回収することができる。
2.第2の実施形態
以下に図6を用いて、第2の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、積層体41の第1電極11上に第1触媒層12が形成され、配管61の基材62の内面上に第2触媒層64が形成される例である。以下に、第2の実施形態について詳説する。
なお、第2の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
2−1.第2の実施形態の構成
図6は、第2の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図である。
図6に示すように、第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、第1電極11上に第1触媒層12が形成され、基材62の内面上に第2触媒層64が形成される点である。
積層体41は、第1電極11、光起電力層31、第2電極21、第1絶縁層22、および第1触媒層12で構成される。第1触媒層12は、第1電極11上に形成される。第1触媒層12は、第1電極11付近における化学反応性を高めるために設けられる。また、配管61は、基材62、第2絶縁層63、および第2触媒層64で構成される。第2触媒層64は、基材62の内面上に形成される。第2触媒層64は、基材62の内側付近における化学反応性を高めるために設けられる。
図3に示すように、アモルファスシリコン系の材料からなる光起電力層31を用いた場合、第1触媒層12は、アノード側に形成され、酸化反応を促進する。第1溶液81として水溶液、すなわち、H2Oを用いた場合、第1電極11はH2Oを酸化してO2とH+を生成する。このため、第1触媒層12は、H2Oを酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H2Oを酸化してO2とH+を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、Ni−Fe−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等の三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物、もしくは、Ru錯体またはFe錯体等の金属錯体が挙げられる。また、第1触媒層12の形状としては、薄膜状に限らず、格子状、粒子状、またはワイヤー状であってもよい。
同様に、図3に示すように、アモルファスシリコン系の材料からなる光起電力層31を用いた場合、第2触媒層64は、カソード側に形成され、還元反応を促進する。第2溶液82としてCO2を吸収させた吸収液を用いた場合、CO2を還元して炭素化合物(例えば、CO、HCOOH、CH4、CH3OH、C2H5OH、C2H4)等を生成する。このため、第2触媒層64は、CO2を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、CO2を還元して炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、Au、Ag、Cu、Pt、C、Ni、Zn、C、グラフェン、CNT(carbon nanotube)、フラーレン、ケッチェンブラック、またはPd等の金属、もしくは、それらを少なくとも1つ含む合金、あるいは、Ru錯体またはRe錯体等の金属錯体が挙げられる。また、第2溶液82に水溶液、すなわち、H2Oを用いた場合、H2Oを還元してH2を生成する。このため、第2触媒層64は、H2Oを還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H2Oを還元してH2を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、Ni、Fe、Pt、Ti、Au、Ag、Zn、Pd、Ga、Mn、Cd、C、グラフェンといった金属もしくはそれらを少なくとも一つ含む合金が挙げられる。また、第2触媒層64の形状としては、薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
一方、図4に示すGaAs系の材料からなる光起電力層31を用いた場合、上記図3の場合と起電力の極性および酸化還元反応が反対となる。このため、第1触媒層12は還元反応を促進させる材料、第2触媒層64は酸化反応を促進させる材料で構成される。すなわち、上記図3の場合に対して、第1触媒層12の材料と第2触媒層64の材料とを入れ替える。このように、光起電力層31の極性と、第1触媒層12および第2触媒層64の材料とは任意である。光起電力層31の極性に応じて第1触媒層12および第2触媒層64の酸化還元反応が決まり、その酸化還元反応によって各材料を選択する。
また、本例において、照射光は、第1電極11と同様、第1触媒層12を通過して光起電力層31に到達する。このため、光起電力層31に対して光照射側に配置される第1触媒層12は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、照射面側の第1触媒層12の光透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より望ましくは30%以上である。
また、光起電力層31の表面上、または第1電極層11と第1触媒層12との間に図示せぬ保護層を配置してもよい。保護層は、導電性を有するとともに、酸化還元反応において光起電力層31の腐食を防止する。その結果、光起電力層31の寿命を延ばすことができる。また、保護層は、必要に応じて光透過性を有する。保護層としては、例えばTiO2、ZrO2、Al2O3、SiO2、またはHfO2等の誘電体薄膜が挙げられる。また、その膜厚は、トンネル効果により導電性を得るため、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
第1触媒層12および第2触媒層64の作製方法としては、スパッタ法または蒸着法等の薄膜作製手法、もしくは、触媒材料を分散させた溶液を用いた塗布法または電着法等を用いることができる。
なお、第1触媒層12および第2触媒層64は、いずれか一方のみが形成されてもよい。
2−2.第2の実施形態の効果
上記第2の実施形態によれば、積層体41の第1電極11上に第1触媒層12が形成され、配管61の基材62の内面上に第2触媒層64が形成される。これにより、第1の実施形態に比べて、触媒の酸化還元反応の促進効果により酸化還元反応の過電圧を低減させることができ、光起電力層31で発生した起電力をより有効利用できる。したがって、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を第1の実施形態よりも高くすることができる。
3.第3の実施形態
以下に図7乃至図9を用いて、第3の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第3の実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、配管61上に反射部材91が設けられる例である。以下に、第3の実施形態について詳説する。
なお、第3の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
3−1.第3の実施形態の構成
図7乃至図9は、第3の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成1乃至3を示す断面図である。
図7乃至図9に示すように、第3の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、配管61上に反射部材91が設けられる点である。
反射部材91は、配管61上に形成される。すなわち、反射部材91は、配管61に対して光照射側に設けられる。反射部材91は、配管61の全面に沿って形成されることが望ましいが、部分的に形成されてもよい。反射部材91は、光透過性がある材料からなる。また、反射部材91は、中空の構造、すなわち、内部に空気が導入できるような構造である。また、全反射の角度範囲を広くするために、反射部材91の材料は空気との屈折率差が大きいほうが好ましい。より具体的には、反射部材91の屈折率は、1.2以上、好ましくは1.3以上の材料がよい。このような材料としては、例えばアクリル、またはポリカーボネート等の樹脂、もしくはガラス等が挙げられる。また、全反射条件を満たさない角度から照射される光も反射させるために、中空構造の内部にAlまたはAg等の反射率の高い金属をコーティングしてもよい。
図7の構造1に示すように、反射部材91の断面形状は、反射または屈折を生じさせる形状であり、例えば三角形状である。構造1では、上方から照射した光は、反射部材91と反射部材91の内側の空気との界面で全反射し、第1電極11を介して光起電力層31に入射することができる。
なお、図8の構造2に示すように、反射部材91の断面形状は円形状であってもよい。構造2では、構造1と同様、上方から照射した光は、反射部材91と反射部材91の内側の空気との界面で全反射し、第1電極11を介して光起電力層31に入射することができる。
また、図9の構造3に示すように、反射部材91の断面形状は逆三角形状であってもよい。構造3では、上方から照射した光は、反射部材91の内部(内側の空気)に入射する。内部に入射した光は、反射部材91の内側の空気と反射部材91との界面、および反射部材91と反射部材91の外側の空気との界面で屈折し、第1電極11を介して光起電力層31に入射することができる。
また、構造1および構造3の場合(反射部材91の断面形状が三角形状および逆三角形状の場合)、光起電力層31に入射する光を増加させるため、底辺wと高さhの比率h/wは大きいほうが好ましい。より具体的には、h/wが0.5以上、好ましくはh/wが1以上である。
3−2.第3の実施形態の効果
上記第3の実施形態によれば、配管61上、すなわち、配管61に対して光照射側に反射部材91が設けられる。これにより、配管61に入射する光、すなわち、配管61によって遮られて光起電力層31に入射できない光が、反射部材91で反射(または屈折)する。そして、反射部材91で反射(または屈折)した光が、光起電力層31に入射することができる。これにより、第1の実施形態に比べて、光の利用効率が向上し、光起電力層31で発生する光起電力を向上させることができる。したがって、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を第1の実施形態よりも高くすることができる。
4.第4の実施形態
以下に図10を用いて、第4の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第4の実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、配管61において第2絶縁層63の外面上に反射層65が形成される例である。以下に、第4の実施形態について詳説する。
なお、第4の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
4−1.第4の実施形態の構成
図10は、第4の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図である。
図10に示すように、第4の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、第2絶縁層63の外面上に反射層65が形成される点である。
配管61は、基材62、第2絶縁層63、および反射層65で構成される。反射層65は、第2絶縁層63の外面上に形成される。反射層65は、配管61によって照射される光が遮られることを防止するために設けられる。反射層65の光反射率は、少なくとも10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。このような材料としては、Al、Ag、Fe、Ni、またはCo等の金属、もしくはこれらの元素を1つ以上含む例えばSUS等の合金が挙げられる。また、反射層65は、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、またはマグネシウム酸化物等の複数の酸化物層が積層された構造でもよい。
上方から照射した光は、反射層65と液体との界面で反射し、第1電極11を介して光起電力層31に入射することができる。
4−2.第4の実施形態の効果
上記第4の実施形態によれば、配管61において第2絶縁層63の外面上に反射層65が形成される。これにより、配管61に入射する光、すなわち、配管61によって遮られて光起電力層31に入射できない光が、反射層65で反射する。そして、反射層65で反射した光が、光起電力層31に入射することができる。これにより、第1の実施形態に比べて、光の利用効率が向上し、光起電力層31で発生する光起電力を向上させることができる。したがって、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を第1の実施形態よりも高くすることができる。
5.第5の実施形態
以下に図11乃至図15を用いて、第5の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第5の実施形態に係る光電気化学反応装置では、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21を含む積層体41と、積層体41に隣接して形成されるイオン透過部材21aとで、光電気化学反応セルが構成される。この光電気化学反応セルがH2Oを含む第1溶液81が充填された第1溶液槽72と、CO2を含む第2溶液82が充填された第2溶液槽73とを分離する。そして、イオン透過部材21aに対して光入射側に反射部材101が配置される。これにより、酸化還元反応による生成物を分離することができ、かつ、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を高くすることができる。以下に、第5の実施形態について詳説する。
なお、第5の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
5−1.第5の実施形態の構成
図11は、第5の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す斜視図である。図12は、第5の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図であり、図11におけるB−B´線に沿った断面図である。図13は第5の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成の一例を示す平面図であり、図14は第5の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成の他の例を示す平面図である。
図11および図12に示すように、第5の実施形態に係る光電気化学反応装置は、積層体41およびイオン透過部材21aで構成される光電気化学反応セルと、反射部材101と、光電気化学反応セルおよび反射部材101を収容する溶液槽71と、を備える。
溶液槽71は、その内部に光電気化学反応セルおよび反射部材101を収容する。溶液槽71は、光電気化学反応セルによって分離される第1溶液槽72と第2溶液槽73とを有する。
第1溶液槽72は、光電気化学反応セルの第1電極11および反射部材101を浸漬するように、その内部に第1溶液81を収容する。第1溶液81は、例えばH2Oを含む溶液である。このような溶液としては、任意の電解質を含むものが挙げられるが、H2Oの酸化反応を促進するものであることが望ましい。第1溶液槽72の上面は、光透過率の高い例えばガラスまたはアクリルからなる窓部が設けられる。照射光は、第1溶液槽72の上方から照射される。この照射光によって、後述する光電気化学反応セルは、酸化還元反応を行う。
また、第1溶液槽72には、図示せぬ注入口および回収口が接続される。注入口は、第1溶液槽72内で酸化反応に用いられる液体(第1溶液81)を注入する。回収口は、第1溶液槽72内で酸化反応によって生成された気体(例えばO2)を回収する。
第2溶液槽73は、光電気化学反応セルの第2電極21を浸漬するように、その内部に第2溶液82を収容する。第2溶液82は、例えばCO2を含む溶液である。第2の溶液10は、CO2の吸収率が高いことが望ましく、H2Oを含む溶液として、NaHCO3、KHCO3の水溶液が挙げられる。また、第1溶液81と第2溶液82とは同じ溶液でもよいが、第2溶液82はCO2の吸収量が高いほうが好ましいため、第1溶液81と第2溶液82とは別の溶液を用いてもよい。また、第2の溶液は、CO2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、CO2を吸収するCO2吸収剤を有することが望ましい。このような電解液として、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4−またはPF6−等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液が挙げられる。または、電解液として、エタノールアミン、イミダゾール、またはピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、または三級アミンのいずれでもかまわない。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、またはヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもかまわない。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、またはクロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもかまわない。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、またはジプロパノールアミン等が挙げられる。置換した炭化水素は、異なってもかまわない。これは、三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、またはメチルプロピルアミン等が挙げられる。三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、またはメチルジプロピルアミン等が挙げられる。イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、または1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。また、イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換されたものとしては、例えば、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、または1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、またはヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンはともに、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF4−、PF6−、CF3COO−、CF3SO3−、NO3−、SCN−、(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、またはビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。また、イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で連結した双生イオンでもよい。
また、第2溶液槽73には、図示せぬ注入口および回収口が接続される。注入口は、第2溶液槽73内で還元反応に用いられる液体(第2溶液82)を注入する。回収口は、第2溶液槽73内で還元反応によって生成された気体(例えばCO)を回収する。
光電気化学反応セルは、積層体41およびイオン透過部材21aで構成され、光エネルギーから化学エネルギーを生成する。光電気化学反応セルの各要素について、以下に詳説する。
積層体41は、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21で構成される。複数の積層体41は、第2方向に並行して延在する。積層体41は、第2電極21を基材として順次形成される。
第2電極21は、第2溶液槽73側に配置され、第2溶液槽73に収容される。第2電極21は、導電性を有する。また、第2電極21は、積層体41を支持し、その機械的強度を増すために設けられる。第2電極21は、例えばCu、Al、Ti、Ni、Fe、またはAg等の金属板、それらを少なくとも1つ含む例えばSUSのような合金板で構成される。また、第2電極21は、導電性の樹脂等で構成されてもよい。また、第2電極21は、SiまたはGe等の半導体基板、イオン交換膜で構成されてもよい。第2電極21は、第1方向において後述するイオン透過部材21aに隣接し、イオン透過部材21aと一体である。
光起電力層31は、第2電極21上に形成される。光起電力層31は、各波長領域の光によって電荷分離が生じる。すなわち、正孔が陽極側(表面側)に、電子が陰極側(裏面側)に分離する。これにより、光起電力層31は、起電力を発生させる。
第1電極11は、第1溶液槽72側に配置され、第1溶液槽72に収容される。第1電極11は、光起電力層31上に形成される。第1電極11は、例えば、Ag、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金で構成される。また、第1電極11は、ITO、ZnO、FTO、AZO、またはATO等の透明導電性酸化物で構成されてもよい。また、第1電極11は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造で構成されてもよい。
また、本例において、照射光は、第1電極11を通過して光起電力層31に到達する。このため、光照射側(図面において上部側)に配置される第1電極11は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、光照射側の第1電極11の光透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上であることが好ましい。または、第1電極11は、光を透過することができる開口部分を有する。開口率は、少なくとも10%以上、より好ましくは30%以上である。
イオン透過部材21aは、第1方向において積層体41の第2電極21に隣接し、第2電極21と一体である。言い換えると、イオン透過部材21aは、第2電極21に連続して形成される。すなわち、イオン透過部材21aは、積層体41において第1電極11および光起電力層31をパターニングすることによって第2電極21が露出されたものである。イオン透過部材21aは、第1方向に隣接する2つの積層体41の間に形成される。すなわち、イオン透過部材21aと積層体41とは、第1方向に沿って交互に形成される。これらイオン透過部材21aおよび積層体41(第2電極21)によって、第1溶液槽72と第2溶液槽73とが物理的に分離される。また、イオン透過部材21aは、後述する細孔22またはスリット23を介して第1溶液81から第2溶液82に選択的にイオンを透過させる。
イオン透過部材21aの第1溶液槽72側の表面上には、第3絶縁層111が形成される。第3絶縁層111は、第1溶液81とイオン透過部材21aとを電気的に絶縁するために設けられる。第3絶縁層111は、第1溶液81との反応性が低いTiOxまたはAl2O3等の金属酸化物、もしくは有機化合物の樹脂で構成される。
図13に示すように、イオン透過部材21aおよび第3絶縁層111は、その表面から裏面まで貫通する複数の細孔22を有する。細孔22は、第1溶液槽72における第1電極11の酸化反応により生成されたイオン(例えばHイオン(H+))のみを選択的に第2溶液槽73に通過させる。細孔22を通過したイオンは、第2溶液槽73の第2電極21で還元反応によりO2、H2、または有機化合物等に変換される。
また、細孔22は、イオンが通過する大きさであればよい。例えば、細孔22の直径(円相当径)の下限は、0.3nm以上であることが好ましい。また、複数の細孔22の総面積S1とイオン透過部材21aの面積S2との面積比S1/S2は、機械強度を損なわないように、0.9以下、好ましくは0.6以下である。また、細孔22の形状は円形状に限らず、楕円形状、三角形状、または四角形状であってもよい。細孔22の配置構成は四角格子状に限らず、三角格子状、ランダムであってもよい。また、細孔22にイオン交換膜を充填してもよい。イオン交換膜としては、例えばナフィオンまたはフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタまたはセレミオンのようなアニオン交換膜が挙げられる。また、細孔22にガラスフィルタや寒天を充填してもよい。
なお、図14に示すように、イオン透過部材21aおよび第3絶縁層111は、その表面から裏面まで貫通し、かつイオン交換膜が充填された複数のスリット23を有してもよい。スリット23は、第1溶液槽72における第1電極11の酸化反応により生成されたイオン(例えばHイオン(H+))のみを選択的に第2溶液槽73に通過させる。
反射部材101は、イオン透過部材21aの上方で、かつ直上に対応して形成される。すなわち、反射部材101は、イオン透過部材21aの光照射側で、かつイオン透過部材21aにオーバーラップして形成される。このため、第1方向における反射部材101の寸法は、イオン透過部材21aの寸法と同程度である。反射部材101は、イオン透過部材21aの全面に沿って形成されることが望ましいが、部分的に形成されてもよい。
反射部材101は、光透過性がある材料からなる。また、反射部材101は、中空の構造、すなわち、内部に空気が導入できるような構造である。また、全反射の角度範囲を広くするために、反射部材101の材料は空気との屈折率差が大きいほうが好ましい。より具体的には、反射部材101の屈折率は、1.2以上、好ましくは1.3以上の材料がよい。このような材料としては、例えばアクリル、またはポリカーボネート等の樹脂、もしくはガラス等が挙げられる。また、全反射条件を満たさない角度から照射される光も反射させるために、中空構造の内部にAlまたはAg等の反射率の高い金属をコーティングしてもよい。
反射部材101の断面形状は、反射または屈折を生じさせる形状であり、例えば三角形状である。しかし、これに限らず、反射部材101の断面形状は、円形状または逆三角形状であってもよい。反射部材101によって、上方から照射した光を反射または屈折させることができ、第1電極11を介して光起電力層31に入射させることができる。
また、反射部材101の断面形状が三角形状および逆三角形状の場合、光起電力層31に入射する光を増加させるため、底辺wと高さhの比率h/wは大きいほうが好ましい。より具体的には、h/wが0.5以上、好ましくはh/wが1以上である。
5−2.第5の実施形態の動作原理
図15は、第5の実施形態に係る光電気化学反応装置の動作原理を示す断面図である。ここでは、図3に示すアモルファスシリコン系材料で構成された光起電力層31を用いた場合の極性を例にして動作を説明する。また、第2溶液82としてCO2が吸収された吸収液を用いた場合について説明する。
図15に示すように、上方から光が照射されると、照射光は第1電極11を通過し、光起電力層31に到達する。光起電力層31は、光を吸収すると、電子およびそれと対になる正孔を生成し、それらを分離する。すなわち、光起電力層31において内蔵電位により、第2電極21側に電子が移動し、第1電極11側に電子の対として発生した正孔が移動し、電荷分離が生じる。これにより、光起電力層31に起電力が発生する。
光起電力層31内で発生し、カソード電極である第2電極21に移動した電子は、第2電極21付近における還元反応に使用される。一方、光起電力層31内で発生し、アノード電極である第1電極11に移動した正孔は、第1電極11付近における酸化反応に使用される。より具体的には、第1溶液81に接する第1電極11付近では(1)式、第2溶液82に接する第2電極21付近では(2)式の反応が生じる。
(1)式に示すように、第1電極11付近において、第1溶液81に含まれるH2Oが酸化されて(電子を失い)O2とH+が生成される。そして、第1電極11側で生成されたH+は、第1溶液81内を移動し、イオン透過部材21aおよび第3絶縁層111の細孔22(またはスリット23)を介して第2溶液槽73に移動する。
(2)式に示すように、第2電極21付近において、第2溶液82に含まれるCO2が還元される(電子を得る)。より具体的には、第2溶液82に含まれるCO2、細孔22(またはスリット23)を介して移動したH+、および第2電極21に移動した電子が反応し、COとH2Oとが生成される。
なお、図4に示すGaAs系からなる光起電力層31を用いた場合、上記と極性が異なるため、反応が反対になる。すなわち、第1電極11付近において還元反応が生じ、配管61の基材62の内側付近において酸化反応が生じる。
5−3.第5の実施形態の効果
上記第5の実施形態によれば、光電気化学反応装置において、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21を含む積層体41と、積層体41に隣接して形成されるイオン透過部材21aとで、光電気化学反応セルが構成される。この光電気化学反応セルがH2Oを含む第1溶液81が充填された第1溶液槽72と、CO2を含む第2溶液82が充填された第2溶液槽73とを分離する。そして、イオン透過部材21aに対して光入射側に反射部材101が配置される。
このような光電気化学反応装置において、光を照射することにより、光起電力層31で起電力が発生し、第1溶液81に接する第1電極11付近で酸化反応が生じる。第1溶液81としてH2Oを用いた場合、酸化反応によってO2とH+が生成される。酸化反応によって生成されたH+は、イオン透過部材21aに拡散して細孔22(またはスリット23)を通って、第2溶液槽73の第2電極21へ到達する。第2溶液82に接する第2電極21は、光起電力層31で発生した起電力によりその付近で還元反応が生じる。このとき、細孔22(またはスリット23)を介して移動されたH+が、第2電極21付近での還元反応に用いられる。第2溶液82としてCO2が吸収された溶液を用いた場合、還元反応によってCOが生成される。
第5の実施形態では、イオン透過部材21aの細孔22(またはスリット23)を介して第2電極21に還元反応に用いられるH+の移動させることができる。これにより、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を高くすることができる。
また、積層体41で溶液槽71を分離することにより、第1溶液槽72で酸化反応が行われ、第2溶液槽73で還元反応が行われる。その結果、酸化反応による生成物(例えばO2)を第1溶液槽72で回収し、還元反応による生成物(例えばCO)を第2溶液槽73で回収することができる。すなわち、酸化反応よる生成物と還元反応による生成物を分離して回収することができる。
また、イオン透過部材21aの上方、すなわち、イオン透過部材21aに対して光照射側に対向して反射部材101が設けられる。これにより、イオン透過部材21aに入射する光、すなわち、光起電力層31に入射できない光が、反射部材101で反射(または屈折)する。そして、反射部材101で反射(または屈折)した光が、光起電力層31に入射することができる。これにより、光の利用効率が向上し、光起電力層31で発生する光起電力を向上させることができる。したがって、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を高くすることができる。
6.第6の実施形態
以下に図16を用いて、第6の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第6の実施形態は、第5の実施形態の変形例であり、第1電極11の表面上(上面上)に第1触媒層12が形成され、第2電極21の裏面上(下面上)に第2触媒層64が形成される例である。以下に、第6の実施形態について詳説する。
なお、第6の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
6−1.第6の実施形態の構成
図16は、第6の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図である。
図16に示すように、第6の実施形態において、第5の実施形態と異なる点は、第1電極11上に第1触媒層12が形成され、基材62の内面上に第2触媒層64が形成される点である。
積層体41は、第1電極11、光起電力層31、第2電極21、第1触媒層12、および第2触媒層64で構成される。第1触媒層12は、第1電極11の表面上に形成される。第1触媒層12は、第1電極11付近における化学反応性を高めるために設けられる。また、第2触媒層64は、第2電極21の裏面上に形成される。第2触媒層64は、第2電極21付近における化学反応性を高めるために設けられる。
図3に示すように、アモルファスシリコン系の材料からなる光起電力層31を用いた場合、第1触媒層12は、アノード側に形成され、酸化反応を促進する。第1溶液81として水溶液、すなわち、H2Oを用いた場合、第1電極11はH2Oを酸化してO2とH+を生成する。このため、第1触媒層12は、H2Oを酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H2Oを酸化してO2とH+を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、Ni−Fe−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等の三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物、もしくは、Ru錯体またはFe錯体等の金属錯体が挙げられる。また、第1触媒層12の形状としては、薄膜状に限らず、格子状、粒子状、またはワイヤー状であってもよい。
同様に、図3に示すように、アモルファスシリコン系の材料からなる光起電力層31を用いた場合、第2触媒層64は、カソード側に形成され、還元反応を促進する。第2溶液82としてCO2を吸収させた吸収液を用いた場合、CO2を還元して炭素化合物(例えば、CO、HCOOH、CH4、CH3OH、C2H5OH、C2H4)等を生成する。このため、第2触媒層64は、CO2を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、CO2を還元して炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、Au、Ag、Cu、Pt、C、Ni、Zn、C、グラフェン、CNT、フラーレン、ケッチェンブラック、またはPd等の金属、もしくは、それらを少なくとも1つ含む合金、あるいは、Ru錯体またはRe錯体等の金属錯体が挙げられる。また、第2溶液82に水溶液、すなわち、H2Oを用いた場合、H2Oを還元してH2を生成する。このため、第2触媒層64は、H2Oを還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H2Oを還元してH2を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。このような材料として、Ni、Fe、Pt、Ti、Au、Ag、Zn、Pd、Ga、Mn、Cd、C、グラフェンといった金属もしくはそれらを少なくとも一つ含む合金が挙げられる。また、第2触媒層64の形状としては、薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
一方、図4に示すGaAs系の材料からなる光起電力層31を用いた場合、上記図3の場合と起電力の極性および酸化還元反応が反対となる。このため、第1触媒層12は還元反応を促進させる材料、第2触媒層64は酸化反応を促進させる材料で構成される。すなわち、上記図3の場合に対して、第1触媒層12の材料と第2触媒層64の材料とを入れ替える。このように、光起電力層31の極性と、第1触媒層12および第2触媒層64の材料とは任意である。光起電力層31の極性に応じて第1触媒層12および第2触媒層64の酸化還元反応が決まり、酸化還元反応によって各材料を選択する。
また、本例において、照射光は、第1電極11と同様、第1触媒層12を通過して光起電力層31に到達する。このため、光起電力層31に対して光照射側に配置される第1触媒層12は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、照射面側の第1触媒層12の光透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より望ましくは30%以上である。
また、光起電力層31の表面上、または第1電極層11と第1触媒層12との間に図示せぬ保護層を配置してもよい。保護層は、導電性を有するとともに、酸化還元反応において光起電力層31の腐食を防止する。その結果、光起電力層31の寿命を延ばすことができる。また、保護層は、必要に応じて光透過性を有する。保護層としては、例えばTiO2、ZrO2、Al2O3、SiO2、またはHfO2等の誘電体薄膜が挙げられる。また、その膜厚は、トンネル効果により導電性を得るため、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
第1触媒層12および第2触媒層64の作製方法としては、スパッタ法または蒸着法等の薄膜作製手法、もしくは、触媒材料を分散させた溶液を用いた塗布法または電着法等を用いることができる。
なお、第1触媒層12および第2触媒層64は、いずれか一方のみが形成されてもよい。
6−2.第6の実施形態の効果
上記第6の実施形態によれば、第1電極11の表面上に第1触媒層12が形成され、第2電極21の裏面上に第2触媒層64が形成される。これにより、第5の実施形態に比べて、触媒の酸化還元反応の促進効果により酸化還元反応の過電圧を低減させることができ、光起電力層31で発生した起電力をより有効利用できる。したがって、太陽光から化学エネルギーへの変換効率を第5の実施形態よりも高くすることができる。
7.第7の実施形態
以下に図17を用いて、第7の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第7の実施形態は、第5の実施形態の変形例であり、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21を含む積層体41と、スリット122を有する支持基板121とで、光電気化学反応セルが構成される例である。以下に、第7の実施形態について詳説する。
なお、第7の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
7−1.第7の実施形態の構成
図17は、第7の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図である。
図17に示すように、第7の実施形態において、第5の実施形態と異なる点は、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21を含む積層体41と、スリット122を有する支持基板121とで、光電気化学反応セルが構成され、スリット122を覆うように積層体41が形成される点である。
光電気化学反応セルは、積層体41および支持基板121で構成される。
支持基板121は、第1溶液槽72と第2溶液槽73との間に形成される。支持基板121は、イオンを透過させるために、その表面から裏面まで貫通する複数のスリット122を有する。支持基板121は、機械的強度が強く、例えばCu、Al、Ti、Ni、Fe、またはAg等の金属板、もしくはそれらを少なくとも1つ含む例えばSUSのような合金板で構成される。支持基板121の近傍で化学反応が生じないようにするために、支持基板121と第2電極とが電気的に絶縁される。このため、支持基板121と第2電極との間に図示せぬ絶縁層が設けられる。または、支持基板121の表面を絶縁層で被覆してもよい。または、支持基板121は、樹脂等で構成されてもよい。また、支持基板121は、イオン交換膜で構成されてもよい。
積層体41は、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21で構成される。積層体41は、支持基板121の表面上に形成され、スリット122を覆うように形成される。これにより、積層体41および支持基板121によって、第1溶液槽72と第2溶液槽73を物理的に分離することができる。また、第2電極21は、第1溶液81と電気的に絶縁されることが望ましい。このため、第2電極21と第1溶液81とが接する領域(例えば、第2電極の側面上)には図示せぬ絶縁層が設けられる。
このとき、第1電極11は第1溶液81に接する一方、第2電極21はスリット122を介して第2溶液82に接する。これにより、第1電極11付近において第1溶液81に含まれる例えばH2Oの酸化反応が行われ、第2電極21付近において第2溶液82に含まれる例えばCO2の還元反応が行われる。
また、支持基板121の露出領域(積層体41が形成されない領域)には、その表面から裏面まで貫通する複数の図示せぬ細孔が形成される。細孔は、第1溶液槽72における第1電極11の酸化反応により生成されたイオン(例えばHイオン(H+))のみを選択的に第2溶液槽73に通過させる。細孔を通過したイオンは、第2溶液槽73の第2電極21で還元反応によりO2、H2、または有機化合物等に変換される。
また、細孔は、イオンが通過する大きさであればよい。例えば、細孔の直径(円相当径)の下限は、0.3nm以上であることが好ましい。また、複数の細孔22の総面積S1とイオン透過部材21aの面積S2との面積比S1/S2は、機械強度を損なわないように、0.9以下、好ましくは0.6以下である。また、細孔の形状は円形状に限らず、楕円形状、三角形状、または四角形状であってもよい。細孔の配置構成は四角格子状に限らず、三角格子状、ランダムであってもよい。また、細孔にイオン交換膜を充填してもよい。イオン交換膜としては、例えばナフィオンまたはフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタまたはセレミオンのようなアニオン交換膜が挙げられる。また、細孔にガラスフィルタや寒天を充填してもよい。
なお、支持基板121の露出領域に、その表面から裏面まで貫通し、かつイオン交換膜が充填された複数の図示せぬスリットが形成されてもよい。スリットは、第1溶液槽72における第1電極11の酸化反応により生成されたイオン(例えばHイオン(H+))のみを選択的に第2溶液槽73に通過させる。
また、支持基板121自体がイオン交換膜で構成される場合、露出領域における上記細孔およびスリットは不要である。
また、支持基板121にスリット122を形成する代わりに、複数の支持基板121をラインアンドスペースで配置してもよい。この場合、複数の支持基板121のスペース領域を覆うように、支持基板121上に積層体41が配置される
7−2.第7の実施形態の効果
上記第7の実施形態によれば、第1電極11、光起電力層31、および第2電極21を含む積層体41と、スリット122を有する支持基板121とで、光電気化学反応セルが構成され、スリット122を覆うように積層体41が形成される。これら積層体41および支持基板121によって、第1溶液槽72と第2溶液槽73とを分離する。これにより、第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
8.第8の実施形態
以下に図18を用いて、第8の実施形態に係る光電気化学反応装置について説明する。
第8の実施形態は、第5の実施形態の変形例であり、反射部材101の代わりに、第1溶液槽72の上面部分の内側に楔形の凹部が形成される例である。以下に、第8の実施形態について詳説する。
なお、第8の実施形態において、上記各実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
8−1.第8の実施形態の構成
図18は、第8の実施形態に係る光電気化学反応装置の構成を示す断面図である。
図18に示すように、第8の実施形態において、第5の実施形態と異なる点は、反射部材101の代わりに、第1溶液槽72の上面部分の内側に楔形の凹部131が形成される点である。
凹部131は、イオン透過部材21aの上方で、かつ直上に対応して形成される。すなわち、凹部131は、イオン透過部材21aの光照射側で、かつイオン透過部材21aにオーバーラップして形成される。このため、第1方向における凹部131の寸法は、イオン透過部材21aの寸法と同程度である。凹部131は、イオン透過部材21aの全面に沿って形成されることが望ましいが、部分的に形成されてもよい。第1溶液槽72の上面部分の内側に形成された凹部131によって、上方から照射した光を反射または屈折させることができ、第1電極11を介して光起電力層31に入射させることができる。
8−2.第8の実施形態の効果
上記第8の実施形態によれば、反射部材101の代わりに、第1溶液槽72の上面部分の内側に楔形の凹部131が形成される。これにより、反射部材101を形成することなく、光を反射または屈折させることができ、第1電極11を介して光起電力層31に入射させることができる。
また、凹部131を形成することにより、凹部131に第1溶液槽72で生成された気体を収集し、外部に回収することも可能である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。