JP2017115178A - 工具の表面改質方法および工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】表面の硬度を高め、且つ残留応力を付与することによって耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を向上した工具の表面改質方法および工具を提供する。【解決手段】ショットピーニング装置は、超硬合金粒子30と硬質粒子40をノズルの投射口付近で混合し、圧縮空気に乗せて投射する。超硬合金粒子30は硬質粒子40を粉砕する。硬質粒子40の粉砕粒41は、外形形状において縁部に鋭角な部分を有し、工具1の転造成形面5に食い込んで、すぐには剥がれ落ちない。超硬合金粒子30は、工具1の表層部に衝突し、転造成形面5を叩く。表層部は塑性変形して加工硬化を得られ、且つ圧縮残留応力が付与される。超硬合金粒子30は、粉砕粒41に衝突すると、粉砕粒41を工具1の表層部内に押し込む。工具1の表層部は、粉砕粒41の押し込みによって塑性変形し、更なる加工硬化を得られ、且つ更なる圧縮残留応力が付与される。【選択図】図2

Description

本発明は、ワークを加工する工具の表面改質方法および工具に関する。
ワークを加工するための工具は、表面に欠けや摩耗などが生じ、ワークの加工品に所定の加工寸法が得られなくなると、工具寿命として交換が求められる。工具寿命を延ばすには、工具表面を改質して硬度を高め、且つ圧縮の残留応力を付与することによって、耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を向上させることが有効である。表面改質の手段の一つとして、工具の表面にショットピーニング処理を施すことが知られている。ショットピーニング処理は、表面の欠陥や傷など応力集中が起きやすい部分を滑らかにし、且つ表面に残留応力を付与することができる。例えば、特許文献1に記載の金属材料は、3種類の投射材を用いて3回のショットピーニング処理を施すことで、表面の残留応力を、表面から一定の深さに至る内部まで一様に分布させている。ショットピーニング処理によって表面を改質した金属材料は、耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を高めることができる。
特開2001−225269号公報
しかしながら、例えば高速度鋼などを母材とする工具は、もともとの硬さが700〜1000HVである。高速度鋼に対し、超硬合金等の投射材でショットピーニング処理を行った場合、高速度鋼の硬さと超硬合金の硬さとの差異が小さいため、高速度鋼に付与できる残留応力は比較的小さい。故に、高速度鋼を母材とする工具の表面をショットピーニング処理によって改質し、1000HV以上の硬さを得ることは難しかった。
本発明の目的は、表面の硬度を高め、且つ残留応力を付与することによって耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を向上した工具の表面改質方法および工具を提供する。
本発明の第一態様によれば、ワークを加工するための金属製の工具の表面を改質する工具の表面改質方法であって、投射ノズルから噴射する媒体に投射材を乗せて前記工具の母材の表面に投射するショットピーニング装置の前記投射ノズルに前記投射材の第一導入口と第二導入口を設け、前記第一導入口から投入する前記投射材として超硬合金粒子を投入し、前記第二導入口から投入する前記投射材としてセラミックスを主成分に含む硬質粒子を投入し、前記投射ノズル内で前記超硬合金粒子と前記硬質粒子を混合し、前記媒体に乗せて、前記母材の表面に投射することを特徴とする工具の表面改質方法が提供される。
超硬合金粒子は、ショットピーニング装置によって硬質粒子と混合して母材の表面に投射されることで、硬質粒子を破砕する。硬質粒子の粉砕粒は、外形形状において縁部に鋭角な部分を有し、母材に食い込む。更に超硬合金粒子は、母材に食い込んだ粉砕粒を母材内に叩き込む。これにより、粉砕粒は母材の表面から内部へ向けて深くに食い込み、母材内に埋設される。硬質粒子の埋設によって工具は硬さを高め、耐疲労性と耐摩耗性を向上することができる。また、超硬合金粒子が母材の表層部に残留応力を付与するので、工具は、耐欠損性を向上することができる。
ショットピーニング装置は、予め硬質粒子と超硬合金粒子を混合した投射材を投射するのではなく、投射ノズル内で硬質粒子と超硬合金粒子を混合して投射する。このため、投射前の硬質粒子の破砕が抑えられるので、ショットピーニング装置は、硬質粒子に十分なエネルギーを付与して投射することができる。
第一態様において、前記第一導入口と前記第二導入口は、前記投射ノズルから前記媒体を噴射する投射口の近傍に設けてもよい。ショットピーニング装置は、超硬合金粒子と硬質粒子を投射口から投射する直前に混合することで、硬質粒子の投射ノズル内での破砕を防ぐことができる。故に、ショットピーニング装置は、より確実に、硬質粒子に十分なエネルギーを付与して投射することができる。
第一態様において、前記超硬合金粒子は、粒径が0.1mm以上0.5mm以下でコバルトを12〜16wt%含有し、前記硬質粒子は、粒径が0.5mm以上1.0mm以下であってもよい。硬質粒子の粒径が0.5mm未満の場合、ショットピーニング装置は、硬質粒子に十分なエネルギーを付与できず、母材に食い込ませることが難しい。また、硬質粒子の破砕粒は、比較的小さくなる。粉砕粒は、母材の表面付近に食い込んでも内部深くには食い込みにくくなるので、母材の硬さを十分に高めることが難しい。硬質粒子の粒径が1.0mmより大きい場合、硬質粒子の破砕粒は、比較的大きくなる。粉砕粒は、母材に食い込みにくくなるため、母材の硬さを十分に高めることが難しい。
超硬合金粒子の粒径が0.1mm未満の場合、ショットピーニング装置は、超硬合金粒子が軽くなるので十分なエネルギーを付与できず、母材に十分な残留応力を付与することが難しい。超硬合金粒子の粒径が0.5mmより大きい場合、ショットピーニング装置は、超硬合金粒子が重くなるので十分な投射速度を与えられず、硬質粒子を適切な大きさに粉砕することが難しい。
また、コバルトを12〜16wt%含有する超硬合金粒子は、母材との衝突によって割れたり欠けたりしにくいので、球形を保ち、母材には食い込みにくい。超硬合金粒子は、0.1〜0.5mmの粒径を維持することで、母材の表面改質に十分なエネルギーを保持したまま母材表面に衝突し、硬質粒子を効率よく母材内に分散させて叩き込むことができる。
第一態様において、前記投射材は、前記超硬合金粒子に対する前記硬質粒子の含有率が、20wt%以上60wt%以下であってもよい。硬質粒子の含有率が20wt%未満の場合、母材に食い込む硬質粒子の粉砕粒の量が少なくなる。粉砕粒は、母材の硬さを十分に高めることが難しい。硬質粒子の含有率が60wt%より多い場合、硬質粒子の量が多くなり、超硬合金粒子が硬質粒子を十分に粉砕することが難しくなる。また、超硬合金粒子と硬質粒子との衝突が増え、粉砕粒を母材内に叩き込むエネルギーを保持した状態の超硬合金粒子が母材の表面に到達しにくくなる。故に超硬合金粒子は硬質粒子の粉砕粒を十分に母材内に埋設しにくい。従って、超硬合金粒子に対する硬質粒子の含有量が20〜60wt%であれば、超硬合金粒子は、硬質粒子を効率よく破砕し、且つ破砕粒を母材内に分散させて食い込ませることができる。
第一態様において、前記ショットピーニング装置は、0.3MPa以上0.9MPa以下の噴射圧で前記媒体を噴射してもよい。媒体の噴射圧が0.3MPa未満の場合、超硬合金粒子は十分なエネルギーを得られない。故に超硬合金粒子は、硬質粒子を十分に粉砕することが難しい。また、超硬合金粒子は、母材に十分な残留応力を付与することが難しい。噴射圧が0.3MPa以上であれば、超硬合金粒子は硬質粒子を十分に粉砕し、且つ母材に十分な残留応力を付与できる。もっとも、母材の表面改質において、噴射圧は0.9MPa以下であれば必要十分である。故に、0.9MPaより大きな噴射圧は過剰な噴射圧といえる。
第一態様では、前記ショットピーニング装置で前記母材の表面を改質した後、更に、前記母材の表面に対し、前記母材の表面から内部へ向けて窒素を浸透させる窒化処理を施してもよい。第一態様の表面改質方法は、硬質層に加えて窒素拡散層を形成することで母材の硬さをより高め、耐疲労性と耐摩耗性を更に向上することができる。また、窒化物の形成によって残留応力が高まるので、第一態様の表面改質方法は、耐欠損性も更に高めることができる。
第一態様において、前記窒化処理では、前記母材の表面から内部へ向けて少なくとも40μm以上の深さに窒素を浸透させてもよい。窒化処理によって形成される窒素拡散層は、40μm以上の深さを有する。即ち、窒素拡散層は、母材の表面から内部へ向けて硬質層よりも深くに達して形成される。従って第一態様の表面改質方法は、硬質層に加えて窒素拡散層を形成することで、耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を高めることができる。
本発明の第二態様によれば、ワークを加工するための金属製の工具であって、前記工具の母材の表層部に、セラミックスを主成分とし、外形形状において縁部に鋭角な部分を有する複数の硬質粒子が前記母材内に分散して埋設された硬質層を備え、前記母材は表面に複数の微細な凹みを有することを特徴とする工具が提供される。硬質層は、硬質粒子を分散して埋設することで硬さを高めることができ、耐疲労性、耐摩耗性を向上できる。なお、主成分とは、硬質粒子中の主材料の含有量が50wt%以上であることを指す。
第二態様において、前記硬質層の硬さは1000HV以上であってもよい。硬質層は1000HV以上の硬さを有するので、ワークを加工するための工具の表層部を構成する層として十分な耐疲労性と耐摩耗性を確保することができる。
第二態様において、前記硬質層は、10μm以下の厚みを有してもよい。硬質層は最大で10μmの深さに達する。故に硬質層は十分な硬さを得ることができ、耐疲労性、耐摩耗性を十分に確保できる。
第二態様において、前記表層部は、前記母材内に窒化物を含む窒素拡散層を備えてもよい。工具は、硬質層に加えて窒素拡散層を形成することで母材の硬さをより高め、耐疲労性と耐摩耗性を向上することができる。また、窒素拡散層には窒化物が形成されるので、工具は、窒化物の形成によって残留応力が高まる。故に工具は、耐欠損性も高めることができる。
第二態様において、前記窒素拡散層は、前記母材の表面から内部へ向けて少なくとも40μm以上の深さを有してもよい。母材の表面から40μm以上の深さを有する窒素拡散層は、硬質層よりも深くに達する。故に工具は、硬質層に加えて窒素拡散層を有することで母材の硬さをより高め、耐疲労性と耐摩耗性を更に向上することができる。
ショットピーニング装置10の概略的な構成を示す図である。 転造成形面5における工具1の表層部の様子を模式的に示す断面図である。 投射材のセラミックス含有量と硬質層2の硬さとの関係を示すグラフである。 噴射圧と硬質層2の硬さとの関係を示すグラフである。 超硬合金粒子30の粒径と硬質層2の硬さとの関係を示すグラフである。 硬質粒子40の粒径と硬質層2の硬さとの関係を示すグラフである。 超硬合金粒子30のコバルト含有量とショットピーニング処理前後の粒径との関係を示すグラフである。 超硬合金粒子30のコバルト含有量と硬さとの関係を示すグラフである。 表面改質の有無と加工数との関係を示すグラフである。 工具1の断面を電子顕微鏡で撮影した写真である。
以下、本発明の一実施形態について説明する。まず、図1を参照し、ショットピーニング装置10の概略的な構成について説明する。ショットピーニング装置10は、例えば圧縮空気19の力でノズル14から投射材を投射し、処理対象のワークにショットピーニング処理を施す公知の装置である。本実施形態では、工具1の表面を改質する手段の一例としてショットピーニング装置10を用い、工具1にショットピーニング処理を施す。工具1は、ショットピーニング装置10が処理対象とするワークの一例である。
ショットピーニング装置10は、コンプレッサ11、ノズル14、ホッパ21,24、ケース(図示略)等を備える。コンプレッサ11は圧縮空気19を生成する公知の空気圧縮装置である。コンプレッサ11は耐圧ホース12を介してノズル14に接続し、圧縮空気19をノズル14に供給する。コンプレッサ11は、耐圧ホース12の接続口に、流量制御弁13を備える。流量制御弁13は、耐圧ホース12に送り出す圧縮空気19の流量を調整し、投射材を乗せてノズル14から噴射する圧縮空気19の噴射圧を制御する。
ホッパ21,24は投射材を収容する公知の貯蔵槽である。ホッパ21は、投射材として超硬合金粒子30を収容する。ホッパ21は供給管22を介してノズル14に接続し、超硬合金粒子30をノズル14に供給する。ホッパ24は投射材として硬質粒子40を収容する。ホッパ24は供給管25を介してノズル14に接続し、硬質粒子40をノズル14に供給する。ホッパ21,24は夫々、供給管22,25との接続部に投射量制御弁23,26を備える。投射量制御弁23,26は夫々、供給管22,25に送り出す投射材の投射量を制御する。投射量制御弁23,26の制御によって、ショットピーニング装置10は、ノズル14から投射する超硬合金粒子30と硬質粒子40の混合比を調整できる。
ノズル14は投射材を投射する筒状の部品である。ノズル14はワークが収容されるケース内に配置される。ノズル14の一端側はテーパ状に形成され、先端部分に投射口17を開口する。ノズル14の他端側は閉じられている。ノズル14は、1本の導入管18と、2つの導入口15,16を有する。導入管18は、ノズル14の軸に沿ってノズル14内を延びる管である。導入管18の一端は投射口17の近くに配置され、投射口17に向けられる。導入管18の他端は、ノズル14の他端からノズル14外に引き出され、耐圧ホース12に接続される。導入管18は、コンプレッサ11から供給される圧縮空気19を投射口17へ向けてノズル14内で噴射する。圧縮空気19は、導入管18からの噴射方向に位置する投射口17へ向かい、投射口17からノズル14外に噴出する。
導入口15,16は、ノズル14の側面で、投射口17の近傍に形成される。導入口15,16には、夫々、ホッパ21,24の供給管22,25が接続される。導入管18を流れる圧縮空気19が投射口17からノズル14外に噴射されるとき、ノズル14内には負圧が生ずる。ホッパ21,24に収容される超硬合金粒子30と硬質粒子40は、負圧によって導入口15,16からノズル14内に引き込まれる。超硬合金粒子30と硬質粒子40はノズル14内で混合され、圧縮空気19に乗って、投射口17から投射される。
本実施形態の硬質粒子40は、例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)またはアルミナ(酸化アルミニウム;Al)等のセラミックスからなる粒子、またはセラミックスを主成分とする粒子である。本実施形態ではアルミナ粒子を用いる。硬質粒子40は、粒径が0.5mm以上、1.0mm以下のものが使用され、投射時に大きな運動エネルギーが与えられる。
本実施形態の超硬合金粒子30は、例えば、タングステンカーバイド(WC)にコバルト(Co)をバインダとして混合し、所定の粒径に造粒したもの焼結した超硬質合金の粒子である。超硬合金粒子30はコバルトを12〜16wt%含有し、粒径が0.1mm以上、0.5mm以下のものが使用される。超硬合金粒子30は、コバルトの混合によって結合力が維持されるので、粉砕、破砕されにくくなる。また、超硬合金粒子30は、硬質粒子40との硬さの差異が小さい。故に超硬合金粒子30は、硬質粒子40と混合されて投射されても摩耗が小さく、粒径を長期間維持できるので、再利用することができる。超硬合金粒子30は、同じ粒径の硬質粒子40の質量よりも重いため、上記のように硬質粒子40よりも粒径の小さな粒子であっても、投射時に大きな運動エネルギーが与えられる。なお、超硬合金粒子30は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ炭化物(Nb炭化物)などを混合してもよい。
上記構成のショットピーニング装置10は、圧縮空気19の流通によって生ずる負圧で投射材を吸引して投射する、いわゆる自吸式の装置である。投射材に圧力を印加し、圧縮空気とともに投射する、いわゆる直圧式のショットピーニング装置は、ノズル14からの投射前に硬質粒子40の粉砕を招く可能性があり、本発明における使用には適さない。
このようなショットピーニング装置10を用いて表面改質を行う工具1は、例えば、円柱状の鋼材の外周面を塑性変形させてねじ山を転造するねじ転造平ダイスである。なお、工具1は一対に設けられるが、図1ではそのうちの一方の工具1を図示する。工具1は、例えば高速度工具鋼から略直方体状に形成される。工具1の一面は転造成形面5であり、ねじ山を転造加工するための歯形が形成される。高速度工具鋼を用いた母材表面のビッカース硬さ(以下、単に「硬さ」という。)は、通常、700〜1000HVである。ショットピーニング処理は、歯形が形成された転造成形面5に施される。
工具1はケース内に配置され、歯形が形成された面にノズル14の投射口17が向けられる。コンプレッサ11から送り出される圧縮空気19は、流量制御弁13の制御によって、0.3MPa以上0.9MPa以下の噴射圧で投射口17から噴射される。ホッパ21,24から供給される投射材は、投射量制御弁23,26の制御によって、超硬合金粒子30に対する硬質粒子40の含有量が、20wt%以上60wt%以下となるように調整される。
超硬合金粒子30と硬質粒子40は、負圧によってホッパ21,24から供給され、ノズル14内で混合される。超硬合金粒子30と硬質粒子40は、圧縮空気19に乗って、投射口17から投射される。硬質粒子40は、投射口17の直前で超硬合金粒子30と混合されて投射される。故に硬質粒子40は、予め超硬合金粒子30と混合された状態でノズル14に輸送されて投射される場合と比べ、ノズル14の内壁との衝突や超硬合金粒子30との衝突による破砕が抑制される。従って硬質粒子40は、投射時の運動エネルギーを維持することができる。
図2に示すように、ノズル14から投射された超硬合金粒子30と硬質粒子40は、工具1の転造成形面5に衝突する。硬質粒子40は、工具1との衝突で粉砕される。また、硬質粒子40は、後から転造成形面5に到達した超硬合金粒子30に衝突された場合、あるいは工具1に衝突する前に空中で超硬合金粒子30と衝突した場合にも粉砕される。粉砕された硬質粒子40は、外形形状において縁部に鋭角な部分を生ずる。硬質粒子40の鋭角な部分は、転造成形面5に食い込む際の抵抗を小さくできる。よって、粉砕された硬質粒子40の粉砕粒41は、転造成形面5に突き刺さるように食い込んで、すぐには剥がれ落ちない。
超硬合金粒子30は、工具1との衝突で転造成形面5を叩き、複数の微細な凹みを形成する。超硬合金粒子30は、転造成形面5に略均一に複数の凹みを形成し、工具1に、いわゆる梨地状の表面加工を施す。工具1の表層部は塑性変形し、加工硬化を得られる。また、工具1の表層部には、圧縮残留応力が付与された硬質層2が形成される。
更に超硬合金粒子30は、転造成形面5に食い込んだ硬質粒子40の粉砕粒41に衝突すると、粉砕粒41を工具1の表層部内に押し込む。表層部内に押し込まれた粉砕粒41は、転造成形面5から工具1の内部へ向けて、例えば10μmの深さに到達する。工具1の表層部は、粉砕粒41が押し込まれることによって更に塑性変形し、更なる加工硬化を得られる。また、工具1の表層部には、粉砕粒41の食い込みによって、より大きな圧縮残留応力が付与される。このように、ショットピーニング処理が施されることによって、工具1の表層部に形成される硬質層2は、1000HV以上の硬さを得ることができる。
なお、工具1に向けて投射された超硬合金粒子30は、ケース内下部に設けられる回収機構(図示略)によって回収され、硬質粒子40と分別された後、ホッパ21に還元される。
ショットピーニング処理による表面改質後、工具1には、窒化処理が施される。窒化処理は、窒素を含む雰囲気中に暴露し、加熱することで、工具1の表層部に窒素を浸透拡散させて硬化させる公知の処理である。窒化処理には、塩浴窒化処理、塩浴軟窒化処理、ガス窒化処理、ガス軟窒化、イオン窒化処理等が知られている。本実施形態の工具1には、例えば、イオン窒化処理を施すとよい。イオン窒化処理は、転造成形面5を曝した真空炉内に窒素と水素の混合ガスを満たし、グロー放電によって発生させたN+イオンを工具1の表層部内に浸透させる処理である。イオン窒化処理によって、工具1の表層部には、窒素が浸透し拡散した窒素拡散層3が形成される。窒素拡散層3は、転造成形面5から工具1の内部へ向けて、例えば40μm以上の深さを有する。窒素拡散層3の形成によって、工具1は硬度を更に向上させ、耐疲労性、耐摩耗性を高めることができる。また、工具1は、表層部には窒化物の生成によって圧縮残留応力が高められるので、耐欠損性を向上させることができる。故に工具1は、工具寿命を延ばすことができる。
上記のように転造成形面5における工具1の表層部に硬質層2および窒素拡散層3を形成するために行うショットピーニング処理および窒化処理の有効性について評価を行うため、評価試験を行った。
[実施例1]
まず、工具1の転造成形面5に施すショットピーニング処理の条件と、処理後に得られる転造成形面5の硬さとの関係について評価するための評価試験を行った。この評価試験では、工具1のサンプルを63個用意した。評価試験に用いたサンプルは、JISに規定するSKH51高速度工具鋼鋼材を用い、 L50mm×B50mm×H10mmの寸法で作製したねじ転造平ダイスである。サンプルは、3個ずつ21種に分類した。表面を改質する前のサンプルを#21とし、JIS Z 2244に準じて#21の硬さを測定したところ、890HVであった。なお、工具1の表層部の硬さは、1種あたり3個のサンプルに対して夫々ビッカース硬さを測定し、それらの平均値を算出して求めた。
次に、#1〜#20のサンプル夫々の転造成形面5に対し、以下の(1)〜(4)の各条件を組み合わせ、ショットピーニング処理を施した。ショットピーニング装置10には、新東工業株式会社製のエアノズル式ショットピーニング装置(ノズル等改良品)を用いた。
条件(1) 投射量制御弁23,26の制御によって、超硬合金粒子30に対する硬質粒子40の含有量を10〜80wt%の範囲で調整し、投射材におけるセラミックス含有量の違いによる評価を行った。
条件(2) 流量制御弁13の制御によって、ショットピーニング装置10の噴射圧を0.1〜1.0MPaの範囲で調整し、噴射圧の違いによる評価を行った。
条件(3) タングステンカーバイドにコバルトを16wt%含有させて、0.05〜1.2mmの範囲の粒径に造粒した超硬合金粒子30を用意し、粒径の違いによる評価を行った。
条件(4) アルミナを用い、0.3〜1.2mmの範囲の粒径に造粒した硬質粒子40を用意し、粒径の違いによる評価を行った。
#1〜#20の各サンプルには、夫々、ショットピーニング処理を4時間施した後、#21と同様に工具1の表層部の硬さの平均値を求めた。この評価試験の結果を表1に示す。
(1)の条件による評価
#1,#2,#11,#18,#19のサンプルは、粒径0.4mmの超硬合金粒子30に粒径0.6mmの硬質粒子40が10〜80wt%の範囲で含有されるように調整した投射材を、噴射圧0.7MPaで4時間投射したものである。図3に示すように、硬質粒子40の含有率を20〜60wt%に調整してショットピーニング処理を行ったサンプル#2,#11,#18は、処理後の工具1の表層部の硬さが1000HV以上であった。これに対し、硬質粒子40の含有率が10wt%のサンプル#1と、80wt%のサンプル#19は、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さが、ショットピーニング処理前のサンプル#21よりは向上したものの1000HVには満たなかった。
(1)の条件による評価によれば、硬質粒子40の含有率が20wt%未満の場合、工具1の転造成形面5に食い込む硬質粒子40の粉砕粒41の量が少なくなる。このため、工具1の表層部の硬さを1000HV以上に高めることは難しいことが分かった。一方、硬質粒子40の含有率が60wt%より多い場合、硬質粒子40の量が多くなり、超硬合金粒子30が硬質粒子40を十分に粉砕することが難しくなる。また、超硬合金粒子30と硬質粒子40との衝突が増え、粉砕粒41を工具1の表層部に叩き込むエネルギーを保持した状態の超硬合金粒子30が転造成形面5に到達しにくくなる。故に超硬合金粒子30は硬質粒子40の粉砕粒41を十分に工具1の表層部内に埋設しにくく、工具1の表層部の硬さを1000HV以上に高めることは難しいことが分かった。従って、超硬合金粒子30に対する硬質粒子40の含有量が20〜60wt%であれば、超硬合金粒子30は硬質粒子40を効率よく破砕し、且つ粉砕粒41を工具1の表層部内に分散させて食い込ませることができることが分かった。
(2)の条件による評価
#3〜#5,#10,#17のサンプルは、粒径0.4mmの超硬合金粒子30に粒径0.6mmの硬質粒子40が40wt%含有されるように調整した投射材を、噴射圧0.1〜1.0MPaの範囲で4時間投射したものである。図4に示すように、噴射圧を0.2MPa以上でショットピーニング処理を行ったサンプル#4,#5,#10,#17は、処理後の工具1の表層部の硬さが1000HV以上であった。また、噴射圧が0.1〜0.3MPaの範囲では、噴射圧が高くなるほど工具1の表層部の硬さを向上できるが、噴射圧0.3MPa以上になると、処理後の工具1の表層部の硬さは1050HV以上となるものの、ほぼ一定の硬さとなった。これに対し、噴射圧0.1MPaでショットピーニング処理を行ったサンプル#3は、処理後の工具1の表層部の硬さが1000HVには満たなかった。
(2)の条件による評価によれば、噴射圧が0.3MPa以上であれば、超硬合金粒子30は硬質粒子40を十分に粉砕し、且つ工具1の表層部に十分な残留応力を付与できることが分かった。そして、噴射圧が0.3MPa以上あれば、ショットピーニング処理による表面改質の効果を十分に得られることが分かった。噴射圧が0.3MPa未満の場合、超硬合金粒子30は十分なエネルギーを得られない。故に超硬合金粒子30は、硬質粒子40を十分に粉砕することが難しい。また、超硬合金粒子30は、母材に十分な残留応力を付与することが難しい。もっとも、工具1の表面改質において、噴射圧は0.9MPa以下であれば必要十分である。故に、0.9MPaより大きな噴射圧は過剰な噴射圧といえる。
(3)の条件による評価
#6,#7,#10,#14,#15のサンプルは、粒径が0.05〜1.2mmの範囲の超硬合金粒子30に粒径0.6mmの硬質粒子40が40wt%含有されるように調整した投射材を、噴射圧0.7MPaで4時間投射したものである。図5に示すように、粒径が0.1〜0.4mmの範囲の超硬合金粒子30を用いてショットピーニング処理を行ったサンプル#7,#10は、処理後の工具1の表層部の硬さが1000HV以上であった。これに対し、超硬合金粒子30の粒径が0.05mmのサンプル#6と、0.6mmのサンプル#14と、1.2mmのサンプル#15は、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さが、ショットピーニング処理前のサンプル#21よりは向上したものの1000HVには満たなかった。
(3)の条件による評価によれば、超硬合金粒子30の粒径が0.1mm未満の場合、超硬合金粒子30の質量が軽く、ショットピーニング装置10は超硬合金粒子30に十分なエネルギーを付与できない。なお、#16のサンプルは、粒径が0.05mmの超硬合金粒子30を用い、噴射圧を1.0MPaに高めてショットピーニング処理を行ったものであるが、処理後の工具1の表層部の硬さを1000HV以上にすることはできなかった。故に、粒径が0.1mm未満の超硬合金粒子30は、工具1の表層部に十分な残留応力を付与することが難しいことが分かった。一方、超硬合金粒子30の粒径が0.4mmより大きい場合、超硬合金粒子30が重くなるので、ショットピーニング装置10は十分な投射速度を与えられない。このため、硬質粒子40を適切な大きさに粉砕することが難しい。よって、超硬合金粒子30の粒径が0.1〜0.4mmであれば、ショットピーニング装置10は、超硬合金粒子30に十分なエネルギーと投射速度を与えられることが分かった。なお、図5のグラフによれば、ショットピーニング装置10は、超硬合金粒子30の粒径が0.5mmであっても十分に、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さを1000HV以上にすることができることが分かる。従って、超硬合金粒子30は、粒径が0.1〜0.5mmであれば、硬質粒子40を十分に粉砕し、且つ工具1の表層部に十分な残留応力を付与できることが分かった。
(4)の条件による評価
#8〜#13のサンプルは、粒径0.4mmの超硬合金粒子30に粒径が0.3〜1.2mmの範囲の硬質粒子40が40wt%含有されるように調整した投射材を、噴射圧0.7MPaで4時間投射したものである。図6に示すように、粒径が0.4〜1.1mmの範囲の硬質粒子40を用いてショットピーニング処理を行ったサンプル#9〜#12は、処理後の工具1の表層部の硬さが1000HV以上であった。これに対し、硬質粒子40の粒径が0.3mmのサンプル#8と、1.2mmのサンプル#13は、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さが、ショットピーニング処理前のサンプル#21よりは向上したものの1000HVには満たなかった。
(4)の条件による評価によれば、硬質粒子40の粒径が0.4mm未満の場合、ショットピーニング装置10は、この大きさの硬質粒子40に十分なエネルギーを付与できない。このため、硬質粒子40が工具1の転造成形面5に衝突しても食い込みにくく、超硬合金粒子30に押し込まれる前に、転造成形面5から剥がれ落ちてしまう。また、粒径が0.4mm未満であるので、硬質粒子40の粉砕粒41は比較的小さくなる。粉砕粒41は、工具1の転造成形面5付近に食い込んでも表層部内深くには食い込みにくくなるので、工具1の表層部の硬さを十分に高めることが難しい。なお、図6のグラフによれば、ショットピーニング装置10は、硬質粒子40の粒径が0.5mmであっても十分に、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さを1000HV以上にすることができることが分かる。#9のサンプルによれば、粒径0.4mmの硬質粒子40を用いた場合、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さは1005HVである。しかし、処理後に超硬合金粒子30を回収する際の分別の手間を考慮すると、硬質粒子40の粒径は0.5mm以上であることが好ましい。
一方、硬質粒子40の粒径が1.1mmより大きい場合、硬質粒子40の粉砕粒41は、比較的大きくなる。この場合、粉砕粒41は工具1の転造成形面5に食い込みにくくなるため、工具1の表層部の硬さを十分に高めることが難しい。なお、図6のグラフによれば、ショットピーニング装置10は、硬質粒子40の粒径が1.0mmであっても十分に、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さを1000HV以上にすることができることが分かる。#12のサンプルによれば、粒径1.1mmの硬質粒子40を用いた場合、ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さは1000HV丁度である。ショットピーニング処理後の工具1の表層部の硬さをより確実に1000HV以上とするには、硬質粒子40の粒径は1.0mm以下であることが好ましい。
[実施例2]
次に、超硬合金粒子30に含有するコバルトの含有量で、ショットピーニング処理に適した含有量について評価するため、評価試験を行った。この評価試験では、コバルトの含有量を10〜18wt%の範囲で調整した粒径0.7mm未満の超硬合金粒子30を造粒した。ショットピーニング処理前に、コバルトの含有量ごとに、超硬合金粒子30の粒径を測定し、粒径分布を調べた。そして超硬合金粒子30のみを投射材とし、コバルトの含有量ごとに噴射圧0.6MPaで4時間投射を行った後、超硬合金粒子30を回収し、ショットピーニング処理後の粒径を測定して粒径分布を調べた。この評価試験の結果を図7のグラフに示す。
コバルトを18wt%含有する超硬合金粒子30のうち、粒径が0.5mm以上の粒子は、ショットピーニング処理前には存在したが、処理後にはなくなった。粒径が0.3mm以上0.5mm未満の粒子は、全体に占める割合がショットピーニング処理後に減少した。粒径が0.3mm未満の粒子は、全体に占める割合がショットピーニング処理後に増加した。同様に、コバルトを10wt%含有する超硬合金粒子30のうち、粒径が0.6mm以上の粒子は、ショットピーニング処理前には存在したが、処理後にはなくなった。粒径が0.3mm以上0.6mm未満の粒子は、全体に占める割合がショットピーニング処理後に減少した。粒径が0.3mm未満の粒子は、全体に占める割合がショットピーニング処理後に増加した。一方、コバルトを12〜16wt%含有する超硬合金粒子30は、ショットピーニング処理後に、粒径が0.5mm以上の粒子がわずかに減少し、粒径が0.2mm未満の粒子がわずかに増加する傾向にはあるものの、粒径分布に大きな変化はみられなかった。
図8に示すように、コバルト含有量が10wt%の超硬合金粒子30の硬さは、1350HVである。また、コバルト含有量が18wt%の超硬合金粒子30の硬さは、1150HVである。コバルト含有量が12,14,16wt%の超硬合金粒子30の硬さは、夫々、1300,1230,1200HVである。超硬合金粒子30の硬さは、コバルトの含有量に対し、ほぼ反比例する。
実施例2の評価試験の結果によれば、コバルト含有量が10wt%の超硬合金粒子30は、コバルト含有量が12〜16wt%の超硬合金粒子30と比べて硬いが靱性が低く、工具1との衝突によって粉砕されやすいことが分かった。また、コバルト含有量が18wt%の超硬合金粒子30は、コバルト含有量が12〜16wt%の超硬合金粒子30と比べて柔らかく、摩耗しやすいため、粒径を長期間維持しにくいことが分かった。コバルトを12〜16wt%含有する超硬合金粒子30は、工具1との衝突によって割れたり欠けたりしにくいので、球形を保ち、硬質粒子40とは違って工具1の表層部に食い込みにくい。従って、超硬合金粒子30は、粒径を維持することで、工具1の表面改質に十分なエネルギーを保持したまま転造成形面5に衝突し、硬質粒子40を効率よく表層部内に分散させて叩き込むことができる。
[実施例3]
次に、本実施形態に係る工具1の表面を改質する処理を行ったことの効果を確認するため、評価試験を行った。この評価試験では、実施例1と同様に、工具1のサンプルを9個用意した。サンプルは3個ずつ3種類に分類した。#31のサンプルは、表面を改質する前のサンプルである。#32と#33のサンプルには、夫々、実施例1と同様に、ショットピーニング処理を施した。ショットピーニング処理では、#32と#33のサンプルに対し、コバルトを16wt%含有する粒径0.4mmの超硬合金粒子30に、粒径0.6mmのアルミナからなる硬質粒子40が40wt%含有されるように調整した投射材を、噴射圧0.7MPaで4時間投射した。更に、#33のサンプルには、窒化処理を施した。窒化処理では、#33のサンプルに対するイオン窒化処理を施し、転造成形面5から50μmの深さに達する窒素拡散層3を形成した。なお、JIS G 0562に準じて窒素拡散層3の深さを測定し、窒素拡散層3の形成を確認した。
#31〜#33のサンプルを用い、夫々、炭素鋼(S45C)からなるM8×1.25のねじの転造加工を行い、各サンプルの寿命を調べた。転造後のねじの寸法を測定し、公差を含めて所定の寸法精度が得られなくなったときの加工数を、各サンプルの寿命とした。なお、加工数における100未満の数は、切り捨てるものとする。この評価試験の結果を図9のグラフに示す。
表面改質を行わなかった#31のサンプルは、寿命と判断されたときの加工数が、平均値で45000個であった。また、寿命に至るまでの加工数のばらつき(最大加工数と最小加工数との差分)が6400個もあった。これに対し、ショットピーニング処理のみを施した#32のサンプルでは、寿命と判断されたときの加工数が平均値で47500個となり、2500個分増加した。また、寿命に至るまでの加工数のばらつきは4500個となり、1900個分減少した。更に、窒化処理を施した#33のサンプルでは、寿命と判断されたときの加工数が平均値で60000個に増え、#31に対して15000個分増加した。そして、寿命に至るまでの加工数のばらつきは2700個となり、#31に対して3700個分減少した。
超硬合金粒子30と硬質粒子40が適切に配合されたショットピーニング処理を施し、硬質層2を形成することによって、工具1は、表面改質がなされない場合と比べて表層部の硬さが一様に向上し、且つ残留応力が一様に付与される。加えて、表層部に窒素を一様に拡散させる窒化処理を施し、窒素拡散層3を形成することによって、工具1は、硬さと残留応力を更に向上させることができる。故に工具1は、表面改質がなされない場合と比べ、耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を安定して高めることができ、寿命を大きく延ばし、且つ加工数のばらつきを抑制することができることが分かった。
[実施例4]
硬質粒子40の粉砕粒41が、工具1の硬質層2に埋設されたことを確認するため、EPMA(Electron probe microanalysis)による分析を行った。工具1の断面の電子顕微鏡写真と、EPMAによる分析結果を図10に示す。なお、図10において、工具1の転造成形面5は紙面左側に位置し、紙面右方向が、表層部の内部方向である。従って、ショットピーニング処理において投射材を投射した方向は、紙面左側から右側へ向かう方向である。EPMAによる分析は、工具1の転造成形面5付近を切断し、断面を鏡面研磨した後、走査ラインSに沿って側定点を0.1μmずつ移動させながら測定した。測定点に対応する位置におけるアルミニウムの検出結果は、Alとして電子顕微鏡写真に重ねて示す。
EPMAの分析結果によれば、工具1の硬質層2内に、アルミニウムが検出されている。電子顕微鏡写真では、アルミニウムが検出された位置に、粉砕粒41が埋設されている状態を観察することができる。転造成形面5付近にはアルミニウムが検出されておらず、粉砕粒41は、明らかに転造成形面5よりも工具1の内部側に埋設されている。工具1の断面の電子顕微鏡写真と、EPMAによる分析結果に基づけば、ショットピーニング処理によって工具1の表層部内に硬質粒子40の粉砕粒41が叩き込まれることによって、硬質層2が形成されることを確認できた。
なお、工具1の転造成形面5には、ショットピーニング処理によって、梨地状の複数の微細な凹みが形成されている。金属表面において、このような複数の微細な凹みは、例えば、ショットピーニング処理の痕跡として見受けられることが多い。金属表面にショットピーニング処理を施した場合、表層部に残留応力が付与されるので、金属は、耐欠損性を向上することができる。
以上、説明したように、超硬合金粒子30は、ショットピーニング装置10によって硬質粒子40と混合して工具1の転造成形面5に投射されることで、硬質粒子40を破砕する。硬質粒子40の粉砕粒41は、外形形状において縁部に鋭角な部分を有し、工具1に食い込む。更に超硬合金粒子30は、工具1に食い込んだ粉砕粒41を、工具1の表層部内に叩き込む。これにより、粉砕粒41は工具1の転造成形面5から表層部内へ向けて深くに食い込み、表層部内に埋設される。硬質粒子40の埋設によって工具1は硬さを高め、耐疲労性と耐摩耗性を向上することができる。また、超硬合金粒子30が工具1の表層部に残留応力を付与するので、工具は、耐欠損性を向上することができる。
また、ショットピーニング装置10は、予め硬質粒子40と超硬合金粒子30を混合した投射材を投射するのではなく、ノズル14内で硬質粒子40と超硬合金粒子30を混合して投射する。このため、投射前の硬質粒子40の破砕が抑えられるので、ショットピーニング装置10は、硬質粒子40に十分なエネルギーを付与して投射することができる。
更に、ショットピーニング装置10は、超硬合金粒子30と硬質粒子40を投射口17から投射する直前に混合することで、硬質粒子40のノズル14内での破砕を防ぐことができる。故に、ショットピーニング装置10は、より確実に、硬質粒子40に十分なエネルギーを付与して投射することができる。
ショットピーニング処理によって形成される硬質層2は、硬質粒子40を分散して埋設することで硬さを高めることができ、耐疲労性、耐摩耗性を向上できる。また、硬質層2は1000HV以上の硬さを有するので、ねじを転造加工するための工具1の表層部を構成する層として十分な耐疲労性と耐摩耗性を確保することができる。硬質層2は最大で10μmの深さに達する。故に硬質層2は十分な硬さを得ることができ、耐疲労性、耐摩耗性を十分に確保できる。
また、工具1は、硬質層2に加えて窒素拡散層3を形成することで表層部の硬さをより高め、耐疲労性と耐摩耗性を向上することができる。また、窒素拡散層3には窒化物が形成されるので、工具1は、窒化物の形成によって残留応力が高まる。故に工具1は、耐欠損性も高めることができる。
窒化処理によって形成される窒素拡散層3は、40μm以上の深さを有する。即ち、窒素拡散層3は、工具1の転造成形面5から表層部内へ向けて硬質層2よりも深くに達して形成される。従って工具1は、硬質層2に加えて窒素拡散層3が形成されることによって、耐疲労性、耐摩耗性、耐欠損性を高めることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内での変更が可能である。上記実施形態では、本発明に係る表面改質方法が適用される工具の一例としてねじ転造平ダイスを説明したが、これに限らない。本発明は、ねじ転造平ダイスの代わりに転造丸ダイス、プラネタリ式ダイス等、種々の転造ダイスに適用されてもよい。また、本発明は歯車やスプライン等、ねじ以外の種々の部品を転造加工する転造ダイスにも適用されてもよい。
本実施形態では、硬質粒子40としてアルミナ粒子を用いたが、これに限らず、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)など、その他のセラミックス粒子を用いてもよい。また、硬質粒子40は、セラミックスからなる粒子に限らず、セラミックスを主成分として含有する粒子であってもよい。
ショットピーニング装置10は圧縮空気19に硬質粒子40と超硬合金粒子30を乗せてノズル14から投射したが、圧縮空気19に限らず、不活性ガス等の気体や水等の液体をノズル14から噴射する媒体として用い、投射材を投射してもよい。
工具1は、高速度工具鋼から形成したが、これに限らず、ダイス鋼から形成してもよいし、炭素工具鋼、低合金工具鋼など、他の鋼材から形成してもよい。
本実施形態では、ショットピーニング処理を施した工具1の表層部に更に窒化処理を施したが、窒化処理は行わなくてもよい。
なお、本発明においては、転造成形面5が工具の「表面」に相当する。ノズル14が「投射ノズル」に相当する。圧縮空気19が「媒体」に相当する。導入口15,16が、夫々、「第一導入口」,「第二導入口」に相当する。
1 工具
2 硬質層
3 窒素拡散層
5 転造成形面
10 ショットピーニング装置
14 ノズル
15,16 導入口
17 投射口
19 圧縮空気
30 超硬合金粒子
40 硬質粒子
41 粉砕粒

Claims (12)

  1. ワークを加工するための金属製の工具の表面を改質する工具の表面改質方法であって、
    投射ノズルから噴射する媒体に投射材を乗せて前記工具の母材の表面に投射するショットピーニング装置の前記投射ノズルに前記投射材の第一導入口と第二導入口を設け、
    前記第一導入口から投入する前記投射材として超硬合金粒子を投入し、
    前記第二導入口から投入する前記投射材としてセラミックスを主成分に含む硬質粒子を投入し、
    前記投射ノズル内で前記超硬合金粒子と前記硬質粒子を混合し、前記媒体に乗せて、前記母材の表面に投射することを特徴とする工具の表面改質方法。
  2. 前記第一導入口と前記第二導入口は、前記投射ノズルから前記媒体を噴射する投射口の近傍に設けたことを特徴とする請求項1に記載の工具の表面改質方法。
  3. 前記超硬合金粒子は、粒径が0.1mm以上0.5mm以下でコバルトを12〜16wt%含有し、
    前記硬質粒子は、粒径が0.5mm以上1.0mm以下であること
    を特徴とする請求項1または2に記載の工具の表面改質方法。
  4. 前記投射材は、前記超硬合金粒子に対する前記硬質粒子の含有率が、20wt%以上60wt%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の工具の表面改質方法。
  5. 前記ショットピーニング装置は、0.3MPa以上0.9MPa以下の噴射圧で前記媒体を噴射することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の工具の表面改質方法。
  6. 前記ショットピーニング装置で前記母材の表面を改質した後、更に、前記母材の表面に対し、前記母材の表面から内部へ向けて窒素を浸透させる窒化処理を施すことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の工具の表面改質方法。
  7. 前記窒化処理では、前記母材の表面から内部へ向けて少なくとも40μm以上の深さに窒素を浸透させることを特徴とする請求項6に記載の工具の表面改質方法。
  8. ワークを加工するための金属製の工具であって、
    前記工具の母材の表層部に、セラミックスを主成分とし、外形形状において縁部に鋭角な部分を有する複数の硬質粒子が前記母材内に分散して埋設された硬質層を備え、
    前記母材は表面に複数の微細な凹みを有することを特徴とする工具。
  9. 前記硬質層の硬さは1000HV以上であることを特徴とする請求項8に記載の工具。
  10. 前記硬質層は、10μm以下の厚みを有することを特徴とする請求項8または9に記載の工具。
  11. 前記表層部は、前記母材内に窒化物を含む窒素拡散層を備えたことを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の工具。
  12. 前記窒素拡散層は、前記母材の表面から内部へ向けて少なくとも40μm以上の深さを有することを特徴とする請求項11に記載の工具。
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