本実施形態の流体評価装置によれば、光源は、被測定対象に対して光を照射する。被測定対象の内部には流体が流れている。光は、当該流体に対して照射されることが好ましい。
尚、被測定対象及び流体の一例として、人間や動物等の生体及び血液が挙げられる。或いは、被測定対象及び流体の他の一例として、血液が流れる人工的な管路及び血液が挙げられる。或いは、被測定対象及び流体の他の一例として、光が透過可能な窓を有する管及び透明状のチューブ並びに当該管内又は当該チューブ内を流れる流体(例えば、インク、油、汚水、調味料等の光を散乱する散乱体を少なくとも構成要素として含む流体)が挙げられる。
受光部は、光の被測定対象からの散乱光を受光する。受光部は、被測定対象を透過してきた光(いわゆる、透過光に相当する前方散乱光)を受光してもよいし、被測定対象によって反射された光(いわゆる、反射光に相当する後方散乱光)を受光してもよいし、その両方を受光してもよい。その結果、受光部からは、受光された光に応じた受光信号が出力される。
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる第1情報出力部は、受光信号に含まれる受光量情報(例えば、平均信号強度、受信信号に含まれるDC(Direct Current)成分の信号強度、等)を出力する。尚、本実施形態に係る「受光量情報」は、受光量そのものを示す情報に限らず、受光量に関連する何らかの物理量又はパラメータであってよい。
尚、受光部が被測定対象を透過してきた光(即ち、前方散乱光)を受光する場合には、流体の濃度が高いほど(つまり、光の透過を妨げる散乱体等が流体内に多く含まれているほど)、受光信号の信号強度は小さくなる。他方で、受光部が被測定対象によって反射された光(即ち、後方散乱光)を受光する場合には、流体の濃度が高いほど(つまり、光を反射させる散乱体等が流体内に多く含まれているほど)、受光信号の信号強度は大きくなる。
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる第2情報出力部は、受光信号に含まれる、光のドップラーシフトに起因するビート信号に基づく情報と、受光量情報と、受光量情報及びビート信号に基づく情報の関係を規定する対応関係情報と、に基づいて、流体の流量及び流体の流速の少なくとも一方に関する情報を出力する。
光が被測定対象に照射されると、被測定対象の内部の流体の流れに起因した散乱光が発生する。この散乱光は、流体に含まれる散乱体(特に、移動している散乱体)により散乱された散乱光と、他の固定組織(特に、皮膚組織、窓や流路を形成する透明チューブ、等の移動していない組織)により散乱された散乱光とを含んでいる。移動している散乱体により散乱した散乱光の周波数は、他の固定組織により散乱された散乱光の周波数と比較して、流体の流速に対応したドップラー作用によって変化している。これら2種類の散乱光の相互干渉により、受光信号には、いわゆる周波数差分信号に相当するビート信号が含まれている。第2情報出力部は、このビート信号を解析することにより、ビート情報に基づく情報(例えば、平均周波数、1次モーメント等)を取得する。
ここで、本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、流体の濃度が比較的低い場合には、流体中を移動する散乱体の単位体積当たりの個数が少ないので、受光信号中に含まれる、散乱体の移動により生じる光のドップラーシフトに起因するビート信号のパワーが低下する。他方、被測定対象に照射された光の散乱光の受光結果である受光信号を増幅する増幅器の入力端子の寄生容量に起因したノイズのパワーは変化しないので、ノイズによる影響が相対的に大きくなる。つまり、流体の濃度が比較的低い場合には、増幅器の入力端子の寄生容量に起因したノイズによる影響を強く受けて、被測定対象に照射された光の散乱光の受光結果である受光信号のビート信号が、本来現れるべきものとは異なるものとなってしまうおそれがある。尚、流体の濃度が比較的高い場合においても、同様の技術的問題は相応に生じる可能性がある。従って、従来のように、ビート信号からのみ流量又は流速を求めると、該求められた流量又は流速と実際の流量又は流速とが、誤差範囲を超えて乖離する可能性がある。
血液は、主に赤血球からなる血球成分と、血漿成分とからなる混層流を生じる。赤血球は(直径が7〜8μm(マイクロメートル)、厚さ2μmの)円盤状の形状を有し、流量(流速)により配向特性が変化することが知られている。このため、血液に対して光を照射したときの透過光及び反射光は、同一濃度の血液であっても流量の違いにより変化し、またその逆に、同一流量であっても、濃度の違いにより変化しうる。
そこで本実施形態では、第2情報出力部が、受光量情報及びビート信号に基づく情報の関係を規定する対応関係情報を予め保持している。「対応関係情報」は、実験により、例えば濃度が既知の流体を流したときに、流量又は流速に応じてビート信号に基づく情報と受光量との関係の変化を、複数の濃度について求め、該求められたデータを用いて構築すればよい。尚、本実施形態に係る「対応関係情報」は、例えば、ビート信号に基づく情報、受光量情報及び濃度の関係を示すテーブルであってもよいし、ビート信号に基づく情報、受光量情報及び濃度各々を軸とするマップとして表されていてもよい。
そして、第2情報出力部は、ビート信号に基づく情報と、流体の濃度に応じて変化する受光量情報と、対応関係情報と、に基づいて、流体の流量及び流体の流速の少なくとも一方に関する情報を出力する。従って、本実施形態の流体評価装置は、流体の濃度を考慮しつつ、流体の流量及び流速の少なくとも一方を好適に(言い換えれば、高精度に)求めることができる。
本実施形態に係る流体評価装置の一態様では、対応関係情報は、受光量情報及びビート信号に基づく情報各々を軸とする座標系において、流体の流量又は流体の流速に関するパラメータの複数の値に夫々対応すると共に、受光量情報とビート信号に基づく情報との関係を規定する複数の関係線である。
このように構成すれば、流速情報と受光量情報とから、比較的容易にして流体の流量又は流速に対応する流体の流量又は流速に関するパラメータを求めることができ、実用上非常に有利である。
この態様では、第2情報出力部は、座標系において出力された受光量情報及び出力された受光信号に含まれるビート信号に基づく情報により示される点と、複数の関係線のうち少なくとも一本の関係線とに基づいて、点に対応する流体の流量又は流体の流速に関するパラメータの値を特定することにより、流体の流量及び流体の流速の少なくとも一方に関する情報を出力してよい。
本実施形態に係る流体評価装置の他の態様では、受光部は、散乱光のうち被測定対象を透過した散乱光(即ち、前方散乱光)を受光する第1受光部と、散乱光のうち被測定対象により反射された散乱光(即ち、後方散乱光)を受光する第2受光部と、を有し、第1情報出力部は、第1受光部から出力された受光信号に含まれる第1受光部の受光量に関する情報である受光量情報を出力し、第2情報出力部は、第2受光部から出力された受光信号に含まれる前記ビート信号に基づく情報と、出力された受光量情報と、対応関係情報とに基づいて、流体の流量及び流体の流速の少なくとも一方に関する情報を出力する。
本実施形態に係る流体評価装置の他の態様では、光源は、レーザ光を出射する第1光源と、レーザ光とは異なる光を出射する第2光源と、を有し、受光部は、第1光源から出射されたレーザ光の被測定対象からの第1散乱光を受光し、該受光された第1散乱光に応じて、ビート信号を含む受光信号を出力し、第2光源から出射された光の被測定対象からの第2散乱光を受光し、受光量情報を含む受光信号を出力する。
この態様によれば、例えば第1光源として、単色性及び干渉性が高く、且つ広く流通している半導体レーザを用い、第2光源として、例えば流体の一例としての血液の酸素飽和度に依存しない805nm(ナノメートル)の光を出射するLEDを用いることができる。
本実施形態の流体評価方法によれば、上述した実施形態に係る流体評価装置と同様に、流体の濃度を考慮しつつ、流体の流量及び流速の少なくとも一方を好適に求めることができる。尚、本実施形態の流体評価方法についても、上述した実施形態に係る流体評価装置の各種態様と同様の各種態様を採ることができる。
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、当該コンピュータプログラムを格納するRAM(Random Access Memory)、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD−ROM(DVD Read Only Memory)等の記録媒体から、当該コンピュータプログラムを、流体評価装置に備えられたコンピュータに読み込んで実行させれば、或いは、当該コンピュータプログラムを、通信手段を介してダウンロードさせた後に実行させれば、上述した実施形態に係る流体評価装置を比較的容易にして実現できる。これにより、上述した実施形態に係る流体評価装置と同様に、流体の濃度を考慮しつつ、流体の流量及び流速の少なくとも一方を好適に求めることができる。
本発明の流体評価装置に係る実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例では、流体として血液を挙げる。また、被測定対象として、人工透析装置の血流回路を構成するチューブを挙げる。尚、本発明の流体評価装置は、生体の血管内を流れる血液や、血液以外の任意の流体(例えば、インク、油、汚水、調味料等)の評価にも適用可能である。
<第1実施例>
本発明の流体評価装置に係る第1実施例について、図1乃至図12を参照して説明する。本実施例では、評価の一例として、血液の流量を挙げる。
(流体評価装置の構成)
本実施例に係る流体評価装置の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1実施例に係る流体評価装置の構成を示すブロック図である。
図1において、流体評価装置100は、半導体レーザ11、レーザ駆動部12、受光素子21及び31、I−V変換部22及び32、LPF(Low−pass Filter)増幅器23、A/D変換部24及び34、LPF演算部25、流量2次元推定部26、BPF(Band−pass Filter)増幅器33並びに周波数解析部35を備えて構成されている。
レーザ駆動部12は、半導体レーザ11を駆動するための電流(具体的には、半導体レーザ11の閾値電流以上の規定の駆動電流)を発生する。半導体レーザ11は、レーザ駆動部12により発生された駆動電流に従ってレーザ発振する。半導体レーザ11から出射されたレーザ光は、例えばレンズ素子等の光学系(図示せず)を介して、被測定対象である体外循環血液回路(即ち、内部に血液が流れている透明なチューブ)に照射される。該照射されたレーザ光は、体外循環血液回路を構成するチューブや、その内部を流れる血液により散乱及び吸収される。
尚、体外循環血液回路は、半導体レーザ11並びに受光素子21及び31が設置・固定された筺体(図示せず)に、振動等により照射位置がずれないように半固定されている。
受光素子21は、被測定対象に照射されたレーザ光の散乱光(ここでは、前方散乱光)を受光する。受光素子21により受光される散乱光には、体外循環血液回路を構成するチューブ内を流れる血液(特に、当該血液に含まれる、移動している散乱体である赤血球)により散乱された散乱光や、チューブ等の静止している組織により散乱された散乱光が含まれる。
受光素子21は、受光した散乱光の強度に応じた、本発明に係る「受光信号」の一例としての、検出電流(図1における“検出電流1”参照)を出力する。I−V変換部22は、受光素子21から出力された検出電流を電圧信号(図1における“検出電圧1”参照)に変換する。
ここで、受光素子21及びI−V変換部22の一例について、図2を参照して説明を加える。図2は、第1実施例に係る受光素子21及びI−V変換部22の一例を示す回路図である。
図2において、受光素子21は、例えばPIN型半導体によるフォトディテクタPD0により構成されている。I−V変換部22は、増幅器Amp0及び帰還抵抗Rf0により構成されている。ここで、増幅器Amp0は、所謂トランスインピーダンスアンプを構成している。
フォトディテクタPD0のアノードは、例えばグランド電位等の基準電位に接続されている。フォトディテクタPD0のカソードは、増幅器Amp0の反転入力端子に接続されている。増幅器Amp0の非反転入力端子は、例えばグランド電位等の基準電位に接続されている。
フォトディテクタPD0から出力される電流Idt0は、帰還抵抗Rf0により電圧に変換され検出電圧(即ち、電圧信号)として、増幅器Amp0から出力される。
再び図1に戻り、LPF増幅器23は、I−V変換部22から出力された電圧信号に含まれる低域信号成分以外の他の周波数帯域の信号成分をカットした上で増幅する。また、LPF増幅器23は、A/D変換部24におけるエリアシングノイズを低減するために帯域制限も行う。
ここで、I−V変換部22から出力された電圧信号には、例えばスイッチング電源ノイズ等のノイズ成分である高周波信号が含まれている。I−V変換部22から出力された電圧信号がLPF増幅器23に入力されることにより、ノイズ成分を抑制しつつ信号を増幅することができる。
A/D変換部24は、LPF増幅器23から出力された信号である透過信号(図1における“透過信号”参照)に対して、A/D変換処理(即ち、量子化処理)を行う。
LPF演算部25は、A/D変換部24により量子化された透過信号に対して、デジタル信号処理(Digital Signal Processing:DSP)によるLPF演算を行う。LPF演算部25の出力は、透過光量TDCとして、流量2次元推定部26に入力される。尚、LPF演算は、例えばハムノイズ等の高周波ノイズを抑制するための演算である。
受光素子31は、被測定対象に照射されたレーザ光の散乱光(ここでは、後方散乱光)を受光する。受光素子31は、受光した散乱光の強度に応じた、本発明に係る「受光信号」の他の例としての、検出電流(図1における“検出電流2”参照)を出力する。I−V変換部32は、受光素子31から出力された検出電流を電圧信号(図1における“検出電圧2”参照)に変換する。
受光素子31に入射する散乱光には、静止している組織(例えば、体外循環血液回路を構成するチューブ等)により散乱された散乱光と、移動物体である血液に含まれる赤血球により散乱された散乱光と、が含まれる。赤血球により散乱された散乱光には、該赤血球の移動速度に応じたドップラーシフトが生じている。
このため、静止している組織により散乱された散乱光と、赤血球により散乱された散乱光とは、レーザ光の可干渉性により干渉を起こす。受光素子31から出力される検出電流には、この干渉の結果としてのビート信号が含まれる。
ここで、受光素子31及びI−V変換部32の一例について、図3を参照して説明を加える。図3は、第1実施例に係る受光素子31及びI−V変換部32の一例を示す回路図である。
図3において、受光素子31は、例えばPIN型半導体によるフォトディテクタPD1及びPD2により構成されている。図3に示すように、フォトディテクタPD1のカソードとフォトディテクタPD2のカソードとが接続されている。つまり、フォトディテクタPD1及びPD2は、互いに逆向きに直列に接続されている。
I−V変換部32は、増幅器Amp1、Amp2及びAmp3、帰還抵抗Rf1、Rf2、並びに抵抗Ra1、Rb1、Ra2及びRb2により構成されている。
フォトディテクタPD1のアノードは、増幅器Amp1の反転入力端子に接続されている。増幅器Amp1の非反転入力端子は、例えばグランド電位等の基準電位に接続されている。フォトディテクタPD2のアノードは、増幅器Amp2の反転入力端子に接続されている。増幅器Amp2の非反転入力端子は、例えばグランド電位等の基準電位に接続されている。増幅器Amp1の出力は、増幅器Amp3の非反転入力端子に入力される。増幅器Amp2の出力は、増幅器Amp3の反転入力端子に入力される。
上述の如く受光素子31を構成すれば、フォトディテクタPD1及びPD2各々から出力される電流のうち、該フォトディテクタPD1及びPD2の夫々に入射する散乱光に含まれる定常光成分に相当するDC成分を低減又は除去することができる。他方で、入射する散乱光に含まれる信号光成分に相当するAC(Alternate Current)成分を主に含む電流を検出電流として出力することができる。
具体的には、フォトディテクタPD1の出力電流をId1、フォトディテクタPD2の出力電流をId2とすると、フォトディテクタPD1及びPD2は、互いに極性が逆に直列接続されているので、受光素子31による検出電流は、
Idt=Id2−Id1・・・・・(1)
となる。
フォトディテクタPD1が受光した散乱光と、フォトディテクタPD2が受光した散乱光とは、光の波長を基準長さとすると、経路が互いに異なっているので、およそ無相関の電流信号となる。このため、上記式(1)のように減算することにより、ビート信号の強度は√2倍となる。他方で、出力電流に含まれるDC成分は、減算により相殺される。
受光素子31は、フォトディテクタPD1の出力電流のDC成分と、フォトディテクタPD2の出力電流のDC成分とを相殺させつつ、AC成分としてのビート信号を効率良く検出することができる。
このように、DC成分が低減又は除去されるので、I−V変換部32を構成する、所謂トランスインピーダンスアンプである、増幅器Amp1及びAmp2の検出感度が比較的高く設定されたとしても、飽和を防止することができる。具体的には、帰還抵抗Rf1及びRf2各々の抵抗値を比較的高く設定することができ、電流電圧変換感度を向上させることができる。この結果、検出S/N比(Signal to Noise Ratio)を向上させることができる。
上述の如く、増幅器Amp1及びAmp2各々の非反転入力端子は、基準電位に接続されている。そして、帰還抵抗Rf1又はRf2の負帰還作用により、増幅器Amp1及びAmp2各々の非反転入力端子と反転入力端子とはイマジナリシュート状態であり、おおよそ同一電位となる。
この結果、フォトディテクタPD1のアノードと、フォトディテクタPD2のアノードとは同一電位となり、フォトディテクタPD1及びPD2は、所謂発電モードで動作する。すると、所謂発電モードにより、暗電流が抑制され、暗電流ゆらぎによるノイズを抑制することができる。
増幅器Amp1から出力される出力電圧Vd1は、
Vd1=Rf1・Idt・・・・・(2)
となる。増幅器Amp2から出力される出力電圧Vd2は、
Vd2=−Rf2・Idt・・・・・(3)
となる。
増幅器Amp3は、出力電圧Vd1及びVd2を差動増幅し、検出電圧Voutを出力する。差動増幅により、例えば電源ノイズやハム等の同相ノイズが除去される。
ここで、抵抗Ra1及び抵抗Ra2を抵抗値Raに設定し、抵抗Rb1及び抵抗Rb2を抵抗値Rbに設定すると、検出電圧Voutは、
Vout=(Rb/Ra)(Vd1−Vd2)・・・・・(4)
と表すことができる。
帰還抵抗Rf1及び帰還抵抗Rf2を抵抗値Rfに設定すると、式(2)、(3)及び(4)から、検出電圧Voutは、
Vout=2Rf(Rb/Ra)Idt・・・・・(5)
と表すことができる。
再び図1に戻り、BPF増幅器33は、I−V変換部32から出力された電圧信号に含まれる所定周波数帯域の信号成分以外の他の周波数帯域の信号成分をカットした上で増幅する。
具体的には、BPF増幅器33は、例えばハム信号等の低周波信号、及び、例えばスイッチング電源ノイズ等である高周波信号をカットして、所定周波数帯域の信号成分に相当するビート信号を増幅し出力する。
A/D変換部34は、BPF増幅器33から出力されたビート信号に対して、A/D変換処理を行い、量子化されたビート信号であるビートデータを出力する。
周波数解析部35は、ビートデータに対して、例えばDSPにより、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)等の周波数解析を行い、パワースペクトルP(f)を出力する。該出力されたパワースペクトルP(f)は、流量2次元推定部26に入力される。
ここで、周波数解析の一具体例を、図5を参照して説明する。図5は、周波数解析の一例を示す概念図である。
図5において、A/D変換部34から出力されたビートデータは、周波数解析部35の、例えばメモリ等により構成されるバッファに蓄積される。尚、バッファの容量は、例えばFFTの実行するためのポイント数nに相当する。
バッファからの出力であるバッファデータに対し、ハニング窓で、FFTを実行するための前処理が施される。その後、ハニング窓の窓関数により制限されたデータに対し、FFT部においてnポイントのFFT演算が行われる。
FFT部によるFFT演算の結果は、複素共役部による複素共役処理の後、パワースペクトルP(f)としてn/2ポイントのデータが出力される。
再び図1に戻り、流量2次元推定部26は、パワースペクトルP(f)に基づいて、1次モーメント1stM及び平均周波数fmを算出する。
ここで、1次モーメント及び平均周波数の算出方法の一具体例を、図6を参照して説明する。図6は、1次モーメント及び平均周波数の算出方法の一例を示す概念図である。
図6において、流量2次元推定部26の1次モーメント積算部は、パワースペクトルP(f)と周波数ベクトルfとを乗算し、規定帯域(ここでは、f0〜f1)で積算することにより、1次モーメントとして、1stM=Σ{f・P(f)}を出力する。
流量2次元推定部26の積算部は、パワースペクトルP(f)を、規定帯域(ここでは、f0〜f1)で積算し、Ps=Σ{P(f)}を出力する。流量2次元推定部26の除算部は、1次モーメント1stMを、積算部の出力であるPsで除算した値を、平均周波数fmとして出力する。
(流量推定)
次に、以上のように構成された流体評価装置100による流量の推定処理(つまり、流量2次元推定部26における処理)について説明する。
LPF演算部25から出力された透過光量TDCと、血液の濃度に対応するヘマトクリット値Hctとの関係は、例えば図4のようになる。図4は、ヘマトクリット値と透過光量の関係の一例を示す図である。
図4に示すように、血液の濃度が高くなると(即ち、ヘマトクリット値Hctが大きくなると)、例えば赤血球による光の散乱や吸収が増加することに起因して、透過光量TDCは減衰する。
ここで、本願発明者の研究によれば、透過光量TDCは、ヘマトクリット値Hctに応じて主に変化するが、体外循環血液回路を構成するチューブ内を流れる血液の流速にも依存していることが、判明している。
また、周波数解析部35から出力されたビート信号のパワースペクトルP(f)と、周波数fとの関係は、例えば図7のようになる。図7は、周波数とパワースペクトルの関係の一例を示す図である。
図7に示すように、血液の流速が比較的低いとき、即ち、体外循環血液回路を構成するチューブ内を流れる散乱体としての赤血球の流れる速度が比較的遅いとき、低周波成分が高周波成分に比べて著しく多くなる(図7の破線参照)。他方、血液の流速が比較的高いとき、即ち、赤血球の流れる速度が比較的速いとき、高周波成分が比較的多くなる(図7の実線参照)。これは、移動体(ここでは、赤血球)の速度が速くなると、ドップラーシフト量が増加し、ビート信号の周波数スペクトルの周波数が比較的高い領域の成分が増加するためである。
このようなパワースペクトルP(f)に基づいて求められた1次モーメント1stM及び平均周波数fm各々と、流速との関係は、例えば図8のようになる。図8は、流速と、1次モーメント又は平均周波数との関係の一例を示す図である。
図8に示すように、1次モーメント1stM(図8の破線参照)及び平均周波数fm(図8の実線参照)の両方とも、流速が増加に伴い増加する。しかしながら、1次モーメント1stM及び平均周波数fmの両方とも、流速だけでなく、散乱体を含む流体の濃度(ここでは、ヘマトクリット値Hct)にも依存している。
ここで、平均周波数fmが、散乱体を含む流体の濃度に依存する理由について、図9を参照して説明する。図9は、流体の速度を一定にて測定したビート信号のパワースペクトルを、複数の流体濃度について実測した実測値の一例である。図9において、実線は、高濃度の流体についての実測値を示しており、一点鎖線は、低濃度の流体についての実測値を示している。また、太い破線は、アンプノイズを示しており、細い破線は、アンプノイズが無い場合の低濃度の流体についての理論値を示している。
アンプノイズは、増幅器初段のトランスインピーダンスアンプが発生するノイズが支配的であり、周波数が増加するに従い増加する。このアンプノイズはアンプ入力端子の寄生容量が関連している。アンプノイズの周波数特性は微分特性を有している。このため、周波数が高くなるほど、ノイズパワーが増加する。
流体の濃度が高くなると、該流体に含まれる散乱体の単位体積当たりの数が増加するので、測定されるビート信号のパワーは周波数全体にわたり増加する。他方、流体の濃度が低くなると、該流体に含まれる散乱体の単位体積当たりの数が低下するので、測定されるビート信号のパワーは周波数全体にわたり低下する。
アンプノイズはビート信号のパワーには依存しないので、ビート信号のパワーが比較的小さい低濃度の流体は、アンプノイズの影響が比較的大きく、特に高周波領域においてビート信号のパワーが見かけ上増加する。他方で、ビート信号のパワーが比較的大きい高濃度の流体は、アンプノイズの影響を殆ど受けない。
流体の速度を一定にしているため、理論上、流体の速度に比例する平均周波数fmは、流体の濃度が変化しても一定となる。しかしながら、アンプノイズの影響により、高濃度の流体についての実測値から得られる平均周波数(図9における黒丸参照)と、低濃度の流体についての実測値から得られる平均周波数(図9における太線白丸参照)と、は異なる(仮に、アンプノイズの影響がなければ、低濃度の流体の平均周波数は、図9に細線白丸で示す値となる)。
アンプノイズの影響を低減するために、半導体レーザ11のパワーを増大させるという対策も考えられるが、例えば消費電力の増大や、作業者や被験者の眼等への悪影響が生じる可能性がある。つまり、安全性や消費電力の観点から半導体レーザ11のパワー増大には限度がある。
上述の如く、透過光量TDCは、ヘマトクリット値Hct(即ち、濃度)及び流速に依存し、パワースペクトルP(f)、並びに、該パワースペクトルP(f)から求められる平均周波数fm及び1次モーメント1stMは、流速及び濃度に依存する。本願発明者は、透過光量TDCと、平均周波数fm又は1次モーメント1stMとの2つのパラメータに基づいて、血液のヘマトクリット値Hctと、流量又は流速との少なくとも一方を求めるという着想に至った。
尚、パワースペクトルP(f)、平均周波数fm及び1次モーメント1stMの求め方は、上述した方法に限定されず、公知の各種態様を適用可能である。
本実施例では、透過光量TDCと、平均周波数fm又は1次モーメント1stMとから血液の流量Qを求める方法について説明する。
流量2次元推定部26(図1参照)には、例えば図10に示すような、透過光量TDCと平均周波数fmとの関係を、流量毎に示すマップデータが予め格納されている。
図10において、Line1、Line2及びLine3は、夫々、例えば、流量Q=50[ミリリットル/分]のときの透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線、流量Q=100[ミリリットル/分]のときの透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線、及び、流量Q=150[ミリリットル/分]のときの透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線、を示している。
図10において、領域Ar1は、Line1の図面下側の領域を意味し、領域Ar2は、Line1及びLine2の間の領域を意味し、領域Ar3は、Line2及びLine3の間の領域を意味し、領域Ar4は、Line3の図面上側の領域を意味する。
図10に示すようなマップデータは、典型的には、濃度が既知の流体(ここでは、血液)に光を照射したときに得られる透過光量TDCと、平均周波数fmとの実測値を、複数の流量(流速)について求め、該求められた複数の実測値に基づいて、一の流量に対応する実測値から透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線(例えば“Line1”等)を取得することにより構築すればよい。
図10において、透過光量TDCを“x”、平均周波数fmを“y”とすると、流量Q=50[ミリリットル/分]を示すLine1は、“y=K1・x+C1”と表せる。同様に、流量Q=100[ミリリットル/分]を示すLine2は、“y=K2・x+C2”と表され、流量Q=150[ミリリットル/分]を示すLine3は、“y=K3・x+C3”と表される。尚、“K1”、“C1”、“K2”、“C2”、“K3”及び“C3”は、図10に示すマップデータを構築するために用いた実測値から求まる定数である。
本実施例に係る流量推定処理について、図10に加え、図11のフローチャートを参照して説明する。尚、LPF演算部25から出力された透過光量TDCに対応する値を“xi”と、周波数解析部35から出力されたパワースペクトルP(f)に基づく平均周波数fmに対応する値を“yi”とする。
図11において、流量2次元推定部26(図1参照)は、先ず、図10のLine1を示す“y=K1・x+C1”という式に、当該流体評価装置100による計測結果“xi”(即ち、透過光量TDCの計測値)を代入して、Line1上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“y1”を求める。続いて、流量2次元推定部26は、該求められた“y1”と、当該流体評価装置100による計測結果“yi”(即ち、平均周波数fmの計測値)とを比較する(ステップS101)。
具体的には、流量2次元推定部26は、“yi”から“y1”を減算する(即ち、“yi−y1=yi−(K1・xi+C1)”)。この演算結果が負であれば、Line1上の点(xi,y1)の方が、計測結果(xi,yi)より大きいことになる(即ち、計測結果は、マップデータ上においてLine1の下側に存在することとなる)。他方、演算結果が負でなければ、計測結果(xi,yi)は、Line1上の点(xi,y1)と等しい又は点(xi,y1)より大きいことになる(即ち、計測結果は、マップデータ上においてLine1上又はLine1の上側に存在することとなる)。
演算結果が負である(即ち、“yi−(K1・xi+C1)<0”)と判定された場合(ステップS101:Yes)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine1の下側の領域である領域Ar1に存在すると判定する(ステップS102)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、流量Qを推定する(ステップS103)。図10に示すように、領域Ar1は、Line1の下側にあるので、流量2次元推定部26は、Line1に基づく外挿処理により、計測結果に対応する流量Qを推定する。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、Line1を示す“y=K1・x+C1”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line1上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“yH”(上述した、“y1”と同一値)を求める。つまり、yH=K1・xi+C1である。
流量2次元推定部26は、次に、求められた“yH”と計測結果“yi”との差分に推定係数α2を乗算し、50を加算する(Line1が、流量Q=50[ミリリットル/分]に対応するため)ことにより、流量Qを求める。つまり、流量Q=50+α2(yi−yH)である。
ステップS101の処理において、演算結果が負でない(即ち、“yi−(K1・xi+C1)≧0”)と判定された場合(ステップS101:No)、流量2次元推定部26は、図10のLine2を示す“y=K2・x+C2”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line2上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“y2”を求める。続いて、流量2次元推定部26は、該求められた“y2”と、計測結果“yi”とを比較する(ステップS104)。
比較結果が負である(即ち、“yi−(K2・xi+C2)<0”)と判定された場合(ステップS104:Yes)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine1とLine2との間の領域である領域Ar2に存在すると判定する(ステップS105)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、流量Qを推定する(ステップS106)。図10に示すように、領域Ar2は、Line1及びLine2の間にあるので、流量2次元推定部26は、Line1及びLine2に基づく補間処理により、計測結果に対応する流量Qを推定する。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、Line1を示す“y=K1・x+C1”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line1上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“yL”を求める。つまり、yL=K1・xi+C1である。
同様に、流量2次元推定部26は、Line2を示す“y=K2・x+C2”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line2上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“yH” (上述した、“y2”と同一値)を求める。つまり、yH=K2・xi+C2である。
次に、流量2次元推定部26は、計測結果“yi”が、求められた“yL”及び“yH”各々からどの程度離れているかを求め、例えば流量Q=50[ミリリットル/分]に対して補正することにより、流量Qを求める。つまり、流量Q=50+(100−50){(yi−yL)/(yH−yL)}である。
ステップS104の処理において、比較結果が負でない(即ち、“yi−(K2・xi+C2)≧0”)と判定された場合(ステップS104:No)、流量2次元推定部26は、図10のLine3を示す“y=K3・x+C3”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line3上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“y3”を求める。続いて、流量2次元推定部26は、該求められた“y3”と、計測結果“yi”とを比較する(ステップS107)。
比較結果が負である(即ち、“yi−(K3・xi+C3)<0”)と判定された場合(ステップS107:Yes)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine2とLine3との間の領域である領域Ar3に存在すると判定する(ステップS108)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、流量Qを推定する(ステップS109)。
具体的には、流量2次元推定部26は、Line2を示す“y=K2・x+C2”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line2上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“yL”を求める。つまり、yL=K2・xi+C2である。
同様に、流量2次元推定部26は、Line3を示す“y=K3・x+C3”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line3上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“yH” (上述した、“y3”と同一値)を求める。つまり、yH=K3・xi+C3である。
次に、流量2次元推定部26は、計測結果“yi”並びに、求められた“yL”及び“yH”に基づいて、流量Q=100+(150−100){(yi−yL)/(yH−yL)}という式に従って、流量Qを求める。
ステップS107の処理において、比較結果が負でない(即ち、“yi−(K3・xi+C3)≧0”)と判定された場合(ステップS107:No)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine3上又はLine3の上側の領域である領域Ar4に存在すると判定する(ステップS110)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、流量Qを推定する(ステップS111)。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、Line3を示す“y=K3・x+C3”という式に、計測結果“xi”を代入して、Line3上で、透過光量TDCが“xi”となる平均周波数fmの値である“yL”(上述した、“y3”と同一値)を求める。つまり、yL=K3・xi+C3である。
流量2次元推定部26は、次に、求められた“yL”と計測結果“yi”との差分に推定係数β2を乗算し、150に加算する(Line3が、流量Q=150[ミリリットル/分]に対応するため)ことにより、流量Qを求める。つまり、流量Q=150+β2(yi−yL)である。
尚、上述した流量の推定には、図10に示すような、透過光量TDCと平均周波数fmとの関係を、流量毎に示すマップデータに代えて、透過光量TDCと1次モーメント1stMとの関係を、流量毎に示すマップデータを用いて行われてよい。
尚、流量2次元推定部26は、流量Qに加えて又は代えて、血液の流速を求めてよい。この場合、流量2次元推定部26は、例えば求められた流量Qに基づいて流速を求めてもよいし、例えば図10に示すようなマップデータを流速について構築して、該構築されたマップデータに基づいて流速を求めてもよい。流量Qから流速を求める方法には、公知の各種態様を適用可能である。
(効果)
次に、本実施例に係る流体評価装置100の効果について、図12を参照して説明する。図12(a)は、平均周波数のみから流量を推定した場合の推定結果の一例である。図12(b)は、透過光量及び平均周波数から流量を推定した場合の推定結果の一例である。図12に示す推定結果は、流量(即ち、体外循環血液回路を構成するチューブ内を流れる血液の流量Q)を一定に保って、血液の濃度(ヘマトクリット値Hct)を変化させた場合の推定結果である。
平均周波数fmのみから流量Qを推定した場合、図12(a)に示すように、濃度が低くなるほど、推定された流量Qは大きくなっている。つまり、平均周波数fmのみから流量Qを推定すると、濃度が低くなるほど誤差が大きくなってしまう。
他方で、本実施例のように、透過光量TDC及び平均周波数fmから流量Qを推定した場合、図12(b)に示すように、流量Qは濃度に依存せず一定である。即ち、流体評価装置100によれば、血液の濃度の影響を受けずに、流量Qを精度良く求めることができる。
本実施例に係る「半導体レーザ11」及び「レーザ駆動部12」は、本発明に係る「光源」の一例である。本実施例に係る「受光素子21及び31」は、本発明に係る「受光部」、「第1受光部」及び「第2受光部」の一例である。本実施例に係る「LPF演算部25」は、本発明に係る「第1情報出力部」の一例である。本実施例に係る「周波数解析部35」及び「流量2次元推定部26」は、本発明に係る「第2情報出力部」の一例である。
本実施例に係る「パワースペクトルP(f)」、「平均周波数fm」及び「1次モーメント1stM」は、本発明に係る「ビート信号に基づく情報」の一例である。本実施例に係る「透過光量TDC」は、本発明に係る「受光量情報」の一例である。本実施例に係る「流量Q」は、本発明に係る「流量又は流速に関するパラメータ」の一例である。図10に示す「マップデータ」は、本発明に係る「対応関係情報」の一例である。図10の「Line1」、「Line2」及び「Line3」は、本発明に係る「関係線」の一例である。
<第1変形例>
次に、本実施例に係る流体評価装置の第1変形例について、図13を参照して説明する。尚、第1変形例について、上述した第1実施例と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示す。図13は、第1実施例の第1変形例に係る流量推定の概念を示す概念図である。
本変形例では、計測結果(xi,yi)が、マップデータの領域Ar2又は領域Ar3(図10参照)に存在し、補間処理により流量Qを求める方法が、上述した第1実施例と異なる。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、計測点PからLine1へおろした垂線の長さdL、及び、該計測点PからLine2へおろした垂線の長さdHを求める(図13参照)。
ここで、長さdL={yi−(K1・xi+C1)}/{√(1−K12)}であり、長さdH={(K2・xi+C1)−yi}/{√(1−K22)}である。
次に、流量2次元推定部26は、長さdL及び長さdHを用い、計測点Pが、例えば流量Q=50[ミリリットル/分](即ち、Line1)からどの程度ずれているかを求めることにより、流量Qを求める。具体的には、流量2次元推定部26は、“流量Q=50+(100−50){dL/(dL+dH)}”という式に従って、流量Qを求める。
<第2変形例>
次に、本実施例に係る流体評価装置の第2変形例について、図14を参照して説明する。尚、第2変形例について、上述した第1実施例と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示す。図14は、図1と同趣旨の、第1実施例の第2変形例に係る流体評価装置の構成を示すブロック図である。
図14において、本変形例に係る流体評価装置200は、半導体レーザ11、レーザ駆動部12、受光素子21、I−V変換部22、LPF増幅器23、A/D変換部24及び42、LPF演算部25、流量2次元推定部26、BPF増幅器41並びに周波数解析部43を備えて構成されている。
受光素子21から出力される検出電流には、レーザ光のドップラーシフトに起因するビート信号が含まれる。
BPF増幅器41は、I−V変換部22から出力された電圧信号に含まれる所定周波数帯域の信号成分以外の他の周波数帯域の信号成分をカットした上で増幅する。
具体的には、BPF増幅器41は、例えばハム信号等の低周波信号、及び、例えばスイッチング電源ノイズ等である高周波信号をカットして、所定周波数帯域の信号成分に相当するビート信号を増幅し出力する。
A/D変換部42は、BPF増幅器41から出力されたビート信号に対して、A/D変換処理を行い、量子化されたビート信号であるビートデータを出力する。
周波数解析部43は、ビートデータに対して、例えばDSPにより、FFT等の周波数解析を行い、パワースペクトルP(f)を出力する。該出力されたパワースペクトルP(f)は、流量2次元推定部26に入力される。
<第3変形例>
次に、本実施例に係る流体評価装置の第3変形例について、図15を参照して説明する。尚、第3変形例について、上述した第1実施例と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示す。図15は、図1と同趣旨の、第1実施例の第3変形例に係る流体評価装置の構成を示すブロック図である。
図15において、本変形例に係る流体評価装置300は、半導体レーザ11、レーザ駆動部12、LED51、LED駆動部52、受光素子21及び31、I−V変換部22及び32、LPF増幅器23、A/D変換部24及び34、LPF演算部25、流量2次元推定部26、BPF増幅器33並びに周波数解析部35を備えて構成されている。
半導体レーザ11は、単色性及び干渉性が高く、且つ広く流通している、例えば780nmの波長のレーザ光を出射可能な半導体レーザである。LED51は、血液の酸素飽和度に依存しない、例えば805nmの波長の光を出射可能なLEDである。
レーザ駆動部12及びLED駆動部52各々には、レーザ光とLED光とが交互に被測定対象に照射されるように(即ち、時分割駆動されるように)、信号LD_En及び信号LED_Enが入力される。また、レーザ駆動部12とA/D変換部34とが同期して作動するように、該A/D変換部34にも信号LD_Enが入力される。同様に、LED駆動部52とA/D変換部24とが同期して作動するように、該A/D変換部24にも信号LED_Enが入力される。
本変形例に係る「半導体レーザ11」及び「LED51」は、夫々、本発明に係る「第1光源」及び「第2光源」の一例である。
<第2実施例>
本発明の流体評価装置に係る第2実施例について、図16乃至図19を参照して説明する。第2実施例では、流量に代えて又は加えて、血液の濃度を示す指標であるヘマトクリット値が推定されること以外は、上述した第1実施例と同様である。よって、第2実施例について、第1実施例と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、図16乃至図19を参照して説明する。
本実施例に係る流体評価装置100の流量2次元推定部26(図1参照)は、例えば図16に示すような、透過光量TDCと平均周波数fmとの関係を、ヘマトクリット値毎に示すマップデータ、及び、例えば図17に示すような、透過光量TDCと1次モーメント1stMとの関係を、ヘマトクリット値毎に示すマップデータの少なくとも一方が予め格納されている。
図16において、Line1、Line2及びLine3は、夫々、例えば、ヘマトクリット値Hct=35%のときの透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線、ヘマトクリット値Hct=30%のときの透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線、及び、ヘマトクリット値Hct=25%のときの透過光量TDCと平均周波数fmとの関係線、を示している。
図17において、Line1、Line2及びLine3は、夫々、例えば、ヘマトクリット値Hct=35%のときの透過光量TDCと1次モーメント1stMとの関係線、ヘマトクリット値Hct=30%のときの透過光量TDCと1次モーメント1stMとの関係線、及び、ヘマトクリット値Hct=25%のときの透過光量TDCと1次モーメント1stMとの関係線、を示している。
図16及び図17において、領域Ar1は、Line1の図面左側の領域を意味し、領域Ar2は、Line1及びLine2の間の領域を意味し、領域Ar3は、Line2及びLine3の間の領域を意味し、領域Ar4は、Line3の図面右側の領域を意味する。
図16及び図17に示すようなマップデータは、典型的には、濃度が既知の流体(ここでは、血液)に光を照射したときに得られる透過光量TDCと、平均周波数fm又は1次モーメント1stMとの実測値を、複数の流速について求め、該求められた複数の実測値に基づいて、一の濃度の流体についての透過光量TDCと、平均周波数fm又は1次モーメント1stMとの関係線(例えば“Line1”等)を取得することにより構築すればよい。
パワースペクトルP(f)から求められる平均周波数fm及び1次モーメント1stMは、上述の如く、例えばアンプノイズの影響を受ける。また、透過光量TDCは、流体に含まれる散乱体の影響を受けると、本願発明者は考えている。このため、実測値から、図16及び図17に示すようなマップデータを構築することが、最終的に求められるヘマトクリット値Hctの精度や信頼性の観点から望ましい。特に、図16及び図17からわかるように、Line1、Line2及びLine3各々の傾きは、ヘマトクリット値Hctにより異なることが、本願発明者の実験により判明しているので、例えばシミュレーション等の実測以外の方法によりマップデータを構築することは極めて困難である。
図16において、透過光量TDCを“x”、平均周波数fmを“y”とすると、ヘマトクリット値Hct=35%を示すLine1は、“y=−K35・x+C35”と表せる。同様に、ヘマトクリット値Hct=30%を示すLine2は、“y=−K30・x+C30”と表され、ヘマトクリット値Hct=25%を示すLine3は、“y=−K25・x+C25”と表される。尚、“K35”、“C35”、“K30”、“C30”、“K25”及び“C25”は、図16に示すマップデータを構築するために用いた実測値から求まる定数である。
図17において、透過光量TDCを“x”、1次モーメント1stMを“y”とすると、ヘマトクリット値Hct=35%を示すLine1は、“y=−K35・x+C35”と表せる。同様に、ヘマトクリット値Hct=30%を示すLine2は、“y=−K30・x+C30”と表され、ヘマトクリット値Hct=25%を示すLine3は、“y=−K25・x+C25”と表される。尚、“K35”、“C35”、“K30”、“C30”、“K25”及び“C25”は、図17に示すマップデータを構築するために用いた実測値から求まる定数である。
以下説明する本実例に係るヘマトクリット推定処理には、図16及び図17に示すマップデータのいずれも用いることができるが、ここでは、図16に示すマップデータを用いて説明する。
本実例に係るヘマトクリット推定処理について、図16に加え、図18のフローチャートを参照して説明する。尚、LPF演算部25から出力された透過光量TDCに対応する値を“xi”と、周波数解析部35から出力されたパワースペクトルP(f)に基づく平均周波数fmに対応する値を“yi”とする。
図18において、流量2次元推定部26(図1参照)は、先ず、図16のLine1を示す“y=−K35・x+C35”という式に、当該流体評価装置100による計測結果“yi”(即ち、平均周波数fmの計測値)を代入して、Line1上で、平均周波数fmが“yi”となる透過光量TDCの値である“x1”を求める。続いて、流量2次元推定部26は、該求められた“x1”と、当該流体評価装置100による計測結果“xi”(即ち、透過光量TDCの計測値)とを比較する(ステップS201)。
具体的には、流量2次元推定部26は、“x1”から“xi”を減算する(即ち、“x1−xi=(C35−yi)/K35−xi”)。この演算結果が正であれば、Line1上の点(x1,yi)の方が、計測結果(xi,yi)より大きいことになる(即ち、計測結果は、マップデータ上においてLine1の左側に存在することとなる)。他方、演算結果が正でなければ、計測結果(xi,yi)は、Line1上の点(x1,yi)と等しい又は点(x1,yi)より大きいことになる(即ち、計測結果は、マップデータ上においてLine1上又はLine1の右側に存在することとなる)。
演算結果が正である(即ち、“(C35−yi)/K35−xi>0”)と判定された場合(ステップS201:Yes)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine1の左側の領域である領域Ar1に存在すると判定する(ステップS202)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、ヘマトクリット値Hctを推定する(ステップS203)。
ここで、ヘマトクリット値Hctの推定について、図16を参照して説明を加える。図16に示すように、領域Ar1の計測点P1は、Line1の左側にあるので、流量2次元推定部26は、Line1に基づく外挿処理により、計測点P1に対応するヘマトクリット値Hctを推定する。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、Line1を示す“y=−K35・x+C35”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line1上で、平均周波数fmが“yi”となる点P2に係る透過光量TDCの値である“xH”(上述した、“x1”と同一値)を求める。つまり、xH=(C35−yi)/K35である。
流量2次元推定部26は、次に、求められた“xH”と計測結果“xi”との差分に推定係数αを乗算し、35を加算する(Line1が、ヘマトクリット値Hct=35%に対応するため)ことにより、ヘマトクリット値Hctを求める。つまり、ヘマトクリット値Hct=35+α(xH−xi)である。
再び図18に戻り、ステップS201の処理において、演算結果が正でない(即ち、“(C35−yi)/K35−xi≦0”)と判定された場合(ステップS201:No)、流量2次元推定部26は、図16のLine2を示す“y=−K30・x+C30”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line2上で、平均周波数fmが“yi”となる透過光量TDCの値である“x2”を求める。続いて、流量2次元推定部26は、該求められた“x2”と、計測結果“xi”とを比較する(ステップS204)。
比較結果が正である(即ち、“(C30−yi)/K30−xi>0”)と判定された場合(ステップS204:Yes)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine1とLine2との間の領域である領域Ar2に存在すると判定する(ステップS205)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、ヘマトクリット値Hctを推定する(ステップS206)。
ここで、ヘマトクリット値Hctの推定について、図16を参照して説明を加える。図16に示すように、領域Ar2の計測点P3は、Line1及びLine2の間にあるので、流量2次元推定部26は、Line1及びLine2に基づく補間処理により、計測点P3に対応するヘマトクリット値Hctを推定する。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、Line1を示す“y=−K35・x+C35”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line1上で、平均周波数fmが“yi”となる点P4に係る透過光量TDCの値である“xL”を求める。つまり、xL=(C35−yi)/K35である。
同様に、流量2次元推定部26は、Line2を示す“y=−K30・x+C30”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line2上で、平均周波数fmが“yi”となる点P5に係る透過光量TDCの値である“xH” (上述した、“x2”と同一値)を求める。つまり、xH=(C30−yi)/K30である。
次に、流量2次元推定部26は、計測結果“xi”が、求められた“xL”及び“xH”各々からどの程度離れているかを求め、例えばヘマトクリット値Hct=35%に対して補正することにより、ヘマトクリット値Hctを求める。つまり、ヘマトクリット値Hct=35−(35−30){(xi−xL)/(xH−xL)}である。
再び図18に戻り、ステップS204の処理において、比較結果が正でない(即ち、“(C30−yi)/K30−xi≦0”)と判定された場合(ステップS204:No)、流量2次元推定部26は、図16のLine3を示す“y=−K25・x+C25”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line3上で、平均周波数fmが“yi”となる透過光量TDCの値である“x3”を求める。続いて、流量2次元推定部26は、該求められた“x3”と、計測結果“xi”とを比較する(ステップS207)。
比較結果が正である(即ち、“(C25−yi)/K25−xi>0”)と判定された場合(ステップS207:Yes)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine2とLine3との間の領域である領域Ar3に存在すると判定する(ステップS208)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、ヘマトクリット値Hctを推定する(ステップS209)。
具体的には、流量2次元推定部26は、Line2を示す“y=−K30・x+C30”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line2上で、平均周波数fmが“yi”となる透過光量TDCの値である“xL”を求める。つまり、xL=(C30−yi)/K30である。
同様に、流量2次元推定部26は、Line3を示す“y=−K25・x+C25”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line3上で、平均周波数fmが“yi”となる透過光量TDCの値である“xH” (上述した、“x3”と同一値)を求める。つまり、xH=(C25−yi)/K25である。
次に、流量2次元推定部26は、計測結果“xi”並びに、求められた“xL”及び“xH”に基づいて、ヘマトクリット値Hct=30−(30−25){(xi−xL)/(xH−xL)}という式に従って、ヘマトクリット値Hctを求める。
ステップS207の処理において、比較結果が正でない(即ち、“(C25−yi)/K25−xi≦0”)と判定された場合(ステップS207:No)、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)が、マップデータ上においてLine3の右側の領域である領域Ar4に存在すると判定する(ステップS210)。
続いて、流量2次元推定部26は、計測結果(xi,yi)を用いて、ヘマトクリット値Hctを推定する(ステップS211)。
具体的には、流量2次元推定部26は、先ず、Line3を示す“y=−K25・x+C25”という式に、計測結果“yi”を代入して、Line3上で、平均周波数fmが“yi”となる透過光量TDCの値である“xL”(上述した、“x3”と同一値)を求める。つまり、xL=(C25−yi)/K25である。
流量2次元推定部26は、次に、求められた“xL”と計測結果“xi”との差分に推定係数βを乗算し、25から減算する(Line3が、ヘマトクリット値Hct=25%に対応するため)ことにより、ヘマトクリット値Hctを求める。つまり、ヘマトクリット値Hct=25−β(xi−xL)である。
尚、本実施例では、Line1、Line2及びLine3各々を1次関数により表したが、1次関数に限らず、例えば2次関数、3次関数等の他の関数により表されてよい。ヘマトクリット値Hctを求める際の外挿処理及び補間(内挿)処理に、線形近似を用いたが、該線形近似に限らず、他の近似が用いられてよい。
図16及び図17各々のマップデータは、Line1、Line2及びLine3の3本の関係線に限らず、4本以上の関係線を含んで構成されていてよい。更に、マップデータは、2次元(ここでは、透過光量TDC及び、平均周波数fm又は1次モーメント1stM)に限らず、例えば透過光量TDC、平均周波数fm及びヘマトクリット値Hctをパラメータとする3次元マップ又はテーブルであってもよい。
(効果)
次に、本実施例に係る流体評価装置100の効果について、図19を参照して説明する。図19(a)は、透過光量のみからヘマトクリット値を推定した場合の推定結果の一例である。図19(b)は、透過光量及び平均周波数からヘマトクリット値を推定した場合の推定結果の一例である。図13に示す推定結果は、血液濃度(即ち、ヘマトクリット値Hct)を一定に保って、流速を変化させた場合の推定結果である。
透過光量TDCのみからヘマトクリット値Hctを推定した場合、図19(a)に示すように、流速が高くなるほど、ヘマトクリット値Hctも大きくなっている。つまり、透過光量TDCのみからヘマトクリット値Hctを推定すると、流速が高くなるほど誤差が大きくなってしまう。
他方で、本実施例のように、透過光量TDC及び平均周波数fmからヘマトクリット値Hctを推定した場合、図19(b)に示すように、ヘマトクリット値Hctは流速に依存せず一定である。即ち、流体評価装置100によれば、血液の流速の影響を受けずに、ヘマトクリット値Hctを精度良く求めることができる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う流体評価装置及び方法、コンピュータプログラム並びに記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。