JP2017106058A - 薄膜製造方法、成膜装置、及び薄膜形成材 - Google Patents

薄膜製造方法、成膜装置、及び薄膜形成材 Download PDF

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Abstract

【課題】スパッタリングを用いた成膜中変化するプラズマによって薄膜の膜質が変化することを抑制する。【解決手段】薄膜の形成は、第18族元素のうち互いに異なる元素の第1希ガスと第2希ガスを少なくとも用いて、スパッタリングで処理対象部材に行う。この薄膜の形成中に、成膜室で発生するプラズマ中の前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光強度比を求める。この発光強度比に応じて、第18族元素のうち、前記第1希ガス及び第2希ガスと異なる第3希ガスを前記成膜室に供給することにより、あるいは前記第3希ガスの供給を調整することにより、前記プラズマの電子温度を調整して前記薄膜の膜質を調整する。【選択図】 図1

Description

本発明は、スパッタリングを用いて薄膜を形成する薄膜形成方法及び成膜装置と、薄膜を形成した薄膜形成材に関する。
部品の表面にダイヤモンドライクカーボン(以降、DLCという)層等の硬質皮膜を形成して部品の耐摩耗性向上や摩擦係数の低下を図ることが行われている。このような硬質皮膜の形成は、例えば、物理蒸着法(以降、PVDという)によって行われる。皮膜を形成する部品には、合成樹脂材や金属部材が用いられる。
硬質皮膜を形成するPVDでは、一般的に、成膜室内でプラズマを生成して成膜する。このため、成膜室でプラズマを制御することにより成膜を制御することが必要である。
プラズマの性質を決めるパラメータである電子温度及び電子密度は、従来より、ラングミュアプローブによる計測結果から求められてきた。これに対して、マイクロ波干渉計システムによる電子密度計測に加えて電子温度の計測も可能とし、簡便に電子密度および電子温度を計測することができる技術も知られている(特許文献1)。
特開2001−57299号公報
ところで、プラズマは成膜室内で生成されるため、成膜を続けていくと成膜室の壁面に堆積した膜の影響でプラズマ電位が変化し、プラズマ中のイオンエネルギも変化する。これにより、硬質皮膜の膜質も変化していく。このため、成膜中、プラズマ電位と深く関係するプラズマの電子温度をオンラインで精度良く計測し、プラズマの生成を制御することが好ましい。しかし、従来のラングミュアプローブでは、成膜中の堆積性の高いプラズマの電子温度の計測はできず、上記マイクロ波干渉計システムを用いた技術でも計測可能な電子密度領域や真空容器の大きさに制限があり、十分に精度のよい電子温度の計測はできなかった。このため、成膜中変化するプラズマによって薄膜の膜質が変化することを十分に抑制することは難しかった。
そこで、本発明は、成膜中変化するプラズマによって薄膜の膜質が変化することを抑制することができる薄膜製造方法及び成膜装置を提供するとともに、薄膜を形成した薄膜形成材を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、処理対象部材の表面に薄膜を形成する薄膜製造方法である。当該薄膜製造方法は、
成膜室中で、第18族元素のうち互いに異なる元素の第1希ガスと第2希ガスを少なくとも用いて、スパッタリングで処理対象部材に薄膜を形成するステップと、
前記薄膜の形成中に、前記成膜室で発生するプラズマ中の前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光強度比を求めるステップと、
前記薄膜の形成中の前記発光強度比に応じて、第18族元素のうち、前記第1希ガス及び第2希ガスと異なる元素の第3希ガスを前記成膜室に供給することにより、あるいは前記第3希ガスの供給を調整することにより、前記プラズマの電子温度を調整して前記薄膜の膜質を調整するステップと、を備える。
前記成膜室内の前記第1希ガス、前記第2希ガス、及び前記第3希ガスの予め定めた分圧条件において、前記発光強度比が許容範囲からはずれているとき、前記成膜室の壁面を洗浄するタイミングであると判定するステップを、更に備えることが好ましい。
前記発光強度比は、前記プラズマ中の各位置で求められ、前記発光強度比が予め定めた範囲から外れた前記成膜室内の領域に対して選択的に、前記第3希ガスを供給することで、あるいは前記第3希ガスの供給を調整することで、前記電子温度の分布を調整する、ことが好ましい。
前記電子温度が予め定めた範囲内にはいるように、前記成膜室へ供給する前記第3希ガスの量を調整する、ことが好ましい。
前記薄膜の厚さが増えるに従がって、前記電子温度が上昇するように、前記成膜室へ供給する前記第3希ガスの量を調整する、ことが好ましい。
前記第1希ガス及び前記第2希ガスは、アルゴンガス及びキセノンガスであり、
前記第3希ガスは、ネオンガスである、ことが好ましい。
前記薄膜は、水素含有率が15原子%以下であり、炭素を主成分として含むことが好ましい。
本発明の他の一態様は、処理対象部材の表面に薄膜を形成する成膜装置である。当該成膜装置は、
第18族元素のうち互いに異なる元素の第1希ガス、第2希ガス、及び第3希ガスを別々に貯留するガス源と、
前記第1希ガス及び前記第2希ガスを少なくとも用いて生成されるプラズマを用いてターゲット材からスパッタ粒子を生成するスパッタ源と、
前記スパッタ粒子が堆積するように、前記スパッタ源に対向した位置に処理対象部材が配置される成膜室を備える成膜容器と、
前記薄膜の形成中、前記プラズマ中の前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光強度比を求めるために、前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光を受光する受光器と、
前記薄膜の膜質を調整するために、前記薄膜の形成中に、前記薄膜の形成中の前記発光強度比に応じて、前記成膜室に前記第3希ガスを供給する、あるいは、供給する前記第3希ガスの量を調整する供給量調整器と、を備える。
前記成膜室内の前記第1希ガス、前記第2希ガス、及び前記第3希ガスの予め定めた分圧条件において、前記発光強度比が許容範囲からはずれているか否かを判定すること、及び前記発光強度比が前記許容範囲からはずれているとき、前記成膜室の壁面を洗浄するタイミングであると判定すること、を行う処理装置を、さらに備えることが好ましい。
前記受光器は、前記プラズマの発光から前記第1希ガスの元素の発光と前記第2希ガスの元素の発光を分離する光学フィルタと、前記プラズマ中の各位置における、前記第1希ガスの元素の発光と前記第2の希ガスの元素の発光を別々に受光する受光素子と、を含み、
前記成膜装置は、受光によって得られる前記第1希ガスの元素の発光強度と前記第2希ガスの元素の発光強度から前記プラズマ中の各位置における前記発光強度比を求める部分を備える処理装置を備え、
前記第3希ガスの前記成膜室への供給口は、前記成膜室の壁面に分散して複数設けられており、
前記処理装置は、前記電子温度の分布を調整するために、前記発光強度比が予め定めた範囲から外れた前記成膜室内の領域に前記第3希ガスを供給するように、前記第3希ガスの供給口の一部を選択すること、及び選択した供給口における前記第3希ガスの供給量を設定すること、を行う、ことが好ましい。
本発明の更に他の一態様は、薄膜形成材であって、
部材と、
前記部材の表面に設けられた薄膜と、を含み、
前記薄膜の前記部材の側に位置する下層と、前記下層に比べて前記薄膜の表面の側に位置する上層とは、含有成分は同じであるが、硬さが異なり、前記下層の硬さは、前記上層の硬さに比べて低い、ことを特徴とする薄膜形成材である。
前記薄膜は、水素含有率が15原子%以下であり、炭素を主成分として含むことが好ましい。
上述の薄膜製造方法及び成膜装置によれば、成膜中変化するプラズマによって薄膜の膜質が変化することを抑制することができる。さらに、上述の薄膜形成材によれば、部材から剥離し難い薄膜を形成することができる。
本実施形態の薄膜製造方法を行う本実施形態の成膜装置の構成の一例を説明する図である。 アルゴンの発光強度に対するキセノンの発光強度の比と、電子温度の関係の一例を示す図である。 アルゴンの電子衝突励起断面積σ(E)の一例を示す図である。 ターゲット材に流れるターゲット電流と電子温度の関係の一例を示す図である。 本実施形態で形成した薄膜のラマン散乱スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
本発明の薄膜製造方法、成膜装置、及び薄膜形成材の一実施形態について詳細に説明する。
(成膜装置)
図1は、本実施形態の薄膜製造方法を行う本実施形態の成膜装置の構成の一例を説明する図である。図1に示す成膜装置10は、DCマグネトロンスパッタリングを用いて処理対象部材の表面に薄膜を形成する装置である。本実施形態では、磁石を用いたマグネトロンスパッタリングを用いるが、磁石を用いないスパッタリングを用いることもできる。
DCマグネトロンスパッタリングでは、減圧空間内で、薄膜を形成しようとする処理対象部材26に対向する位置にある電極30に電圧を印加すると、プラズマPが生成する。プラズマP中のイオン化した希ガスが電極30の前面に設けられたターゲット材32に向かって加速、衝突し、ターゲット材32の物質がスパッタされてスパッタ粒子となり、処理対象部材26に堆積する。ターゲット材32の裏側には、磁石28が設けられ、電圧の印加によって生成されるプラズマPの電子は磁石28の磁界により磁力線に絡みついた軌道をとり、ターゲット材32近傍に閉じ込められる。このためプラズマPがターゲット材32近傍に集中し、処理対象部材26に対して効率のよい皮膜形成が可能となる。
このようなDCマグネトロンスパッタリングを用いた成膜装置10は、ガス源12と、マグネトロンスパッタ源14と、成膜容器16と、受光器20と、供給量調整器22と、処理装置38と、排気装置60と、を主に備える。
ガス源12は、第18族元素のうち互いに異なる複数の元素のガスを貯留する部分である。ガス源12は、本実施形態では、アルゴンガス(第1希ガス)、ネオンガス(第3希ガス)、及びキセノンガス(第2希ガス)それぞれを別々に貯留するAr源12a、Ne源12b、及びXe源12cを含む。
Ar源12a、Ne源12b、及びXe源12cは、それぞれマスフローコントローラ22a、22b、及び22cを通して、成膜室18に接続されており、アルゴンガス、ネオンガス、及びキセノンガスの供給量が調整されて、Ar源12a、Ne源12b、及びXe源12cから成膜室18に各ガスが供給される。マスフローコントローラ22a、22b、及び22cは、成膜室18中のアルゴンガス、ネオンガス、及びキセノンガスの分圧を調整するために、各ガスの供給量を調整する。本実施形態において、アルゴンガス、ネオンガス、及びキセノンガスを用いるのは、スパッタリングのためにプラズマPを生成するとともに、このプラズマPを制御して、処理対象部材26の表面に形成される薄膜の性質(例えば、ビッカース硬さ)を調整するためである。この点については、後述する。
マグネトロンスパッタ源14は、アルゴンガス及びキセノンガスを少なくとも用いてプラズマPを生成する。マグネトロンスパッタ源14は、磁石28と、電極30と、ターゲット材32と、スパッタリング用DC電源34と、を含む。
成膜室18中には、電極30と対向するように処理対象部材26を配置する載置台24が設けられている。したがって、成膜室18では、ターゲット材32から生成されたスパッタ粒子が処理対象部材26に堆積するように、マグネトロンスパッタ源14の電極30に対向した位置に処理対象部材26が配置される。電極30及びターゲット材32は、この順番で成膜室18の内側に向かうように重なって設けられている。電極30及びターゲット材32は、減圧雰囲気の成膜室18内に設けられる。ターゲット材32と処理対象部材26との間にプラズマPが生成される。電極30には、負のDC電圧が印加される。これにより、プラズマPが生成され、プラズマP中の電子が、磁石28の磁界によりターゲット材32近傍に閉じ込められる。プラズマP中のイオン化したアルゴン等の元素は、電極30に向かって加速し、ターゲット材32に衝突する。これにより、ターゲット材32の成分がスパッタ粒子として飛び出し、処理対象部材26の表面に膜成分として付着する。本実施形態では、処理対象部材26に、バイアス用電源36から載置台24を通してバイアス電圧(負の電圧)を印加する。これにより、処理対象部材26への薄膜の形成を促進することができる。ターゲット材32は、成膜する材料に合わせて適宜選択される。ダイヤモンドライクカーボン層を硬質皮膜として形成する場合、ターゲット材32として黒鉛が好適に用いられる。また、金属皮膜を形成する場合、ターゲット材32として銅やチタン等の金属材料が好適に用いられる。
載置台24は、図示しない回転駆動装置に連結されており、処理対象部材26の表面に薄膜が周上に形成されるように載置台24は回転する。すなわち、処理対象部材26の表面が全周にわたってプラズマPの生成領域に向くように、処理対象部材26は回転する。
本実施形態では、スパッタリング用DC電源34を用いてDC電圧を電極30に印加するが、スパッタリング用DC電源34は連続式でもパルス式でも用いることができる。パルス式の場合、DCパルス電圧のパルス幅は、数μ〜数1000μ秒である。パルス周波数やデューティー比は適宜設定される。また、スパッタリング用DC電源34の代わりに、高周波電圧電源を用いることもできる。
成膜容器16の側壁には、排気管が接続されている。この排気管には、排気装置60が設けられている。排気装置60は、排気制御バルブ62と、ターボ分子ポンプ64と、ドライポンプ66と、を備える。これにより、成膜容器16には、成膜中、アルゴンガス、キセノンガス、さらには、必要に応じてネオンガスが供給されながら、同時に不要となったガスは排気される。こうして、成膜装置10は、成膜室18内の各ガスの分圧を調整しながら、成膜中の全圧を例えば0.1〜10Paに制御することができる。
さらに、成膜容器16の側壁には、プラズマPの発光を受光し、所定の波長の発光強度を計測するように、受光器20が設けられている。受光器20は、成膜容器16の外側に設けられている。成膜容器16の側壁に設けられた窓を介してプラズマPの発光が受光器20に入射できるようになっている。
受光器20は、プラズマP中のアルゴンとキセノンの発光強度比を求めるために、アルゴンとキセノンの所定の波長の発光を受光する。具体的には、受光器20は、ビームスプリッタ40と、光学フィルタ42、48と、結像レンズ44、50と、受光素子46、52と、を含む。受光器20は、成膜中、プラズマP中の2種類の所定の波長の発光強度を計測する装置である。
ビームスプリッタ40は、プラズマPの光を分割する。光学フィルタ42は、分割した一方のプラズマPの光から、所定の波長、例えば745〜755nmの波長(アルゴンの発光のうちの所定の波長)の光を選択的に通過させて分離する。光学フィルタ42を通過した光は結像レンズ44を介して受光素子46の受光面で結像する。受光素子46は結像した像を撮像する。また、光学フィルタ48は、ビームスプリッタ40で分割された他方の光から、所定の波長、例えば825〜835nmの波長(キセノンの発光のうち所定の波長)の光を選択的に通過させて分離する。光学フィルタ48を通過した光は結像レンズ50を介して受光素子52の受光面で結像する。受光素子52は結像した像を撮像する。受光素子46,52で得られた画像データは、処理装置38に送られる。本実施形態では、撮像により得られる2つの波長の発光強度は、後述するように、プラズマPの電子温度を求めるために用いられる。すなわち、受光素子46、52は、プラズマP中の各位置における所定の波長の光、具体的にはアルゴンの発光の像とキセノンの発光の像それぞれを別々に受光する。
処理装置38は、受光器20から送られた画像データを用いて、アルゴンの発光及びキセノンの発光のうち所定の波長の2つの発光強度の比(発光強度比)を求め、この発光強度比に基づいて、成膜中のプラズマPの電子温度をオンラインで求める。発光強度は、画像データのデータ値に対応するので、2つの画像データの予め定められた位置あるいは範囲におけるデータ値の比を求めることにより、発光強度比を求めることができる。発光強度比から電子温度を求める点は、後述する。
処理装置38は、求めた電子温度に応じて、ネオンガスの供給量を設定して、マスフローコントローラ22bでネオンガスの成膜室18内への供給する量を制御する。求めた電子温度に対してどの程度電子温度を調整するかについては、処理装置38で設定される。したがって、処理装置38は、電子温度の調整しようとする量と、ネオンガスの成膜室18への供給量との関係を、予め記憶しておき、この関係を用いて、求めた電子温度から目標とする電子温度になるように、ネオンガスの供給量を定めることができる。ネオンガスは、プラズマPの電子温度を変化させる機能を備えており、ネオンガスの供給量が増えるほど、成膜室18内のネオンガスの分圧は増えるので電子温度が上昇する。この電子温度の上昇により、処理対象部材26の表面に形成される薄膜の硬さを硬くすることができる。したがって、マスフローコントローラ22bは、薄膜の膜質を調整するために、薄膜の形成中に、薄膜の形成中の上記発光強度比に応じて、成膜室18にネオンガスを供給する供給量調整器、あるいは、供給するネオンガスの量を調整する供給量調整器である。
このような成膜装置10を用いた成膜中、成膜室18の壁面に堆積した膜の影響でプラズマ電位が変化し、プラズマ中のイオンエネルギも変化する。これにより、形成された薄膜の膜質も変化していく。このため、本実施形態では、成膜中、プラズマPの電子温度をオンラインで精度良く計測し、計測結果に基づいてプラズマPを制御する。
すなわち、本実施形態の薄膜製造方法では、成膜装置10は、アルゴンガス及びキセノンガスを少なくとも用いて生成されるプラズマPを用いてマグネトロンスパッタリングで処理対象部材26に薄膜を形成する。この薄膜の形成中に、処理装置38は、成膜室18で発生するプラズマP中のアルゴンとキセノンの所定波長の発光強度比を求める。処理装置38は、薄膜の形成中の発光強度比に応じて、ネオンガスを成膜室18に供給する供給量を設定する。あるいは処理装置38は、すでにネオンガスを供給している場合は、すでに供給しているネオンガスの供給量の調整を行う。この設定あるいは調整に基づいて、マスフローコントローラ22bは、ネオンガスの供給を調整することにより、プラズマPの電子温度を調整して薄膜の膜質を調整する。
上記成膜の開始時点で、成膜室18内のアルゴンガス、キセノンガス、及びネオンガスの、予め定めた分圧条件(ネオンガスの分圧は0であってもよい)において、上記発光強度比が許容範囲からはずれているとき、処理装置38は、成膜室18の壁面を洗浄するタイミングであると判定し、オペレータに報知することが好ましい。上記発光強度比が許容範囲をはずれた場合、成膜室18の壁面の膜の形成に起因してプラズマPの電子温度が低くなりすぎて、所望の膜質を有する薄膜を形成することができない。この点から、処理装置38が、成膜室18の壁面を洗浄するタイミングであることを判定することが好ましい。
処理装置38は、マスフローコントローラ22bを通して、電子温度が予め定めた範囲内にはいるように、例えば、電子温度が一定の値を維持するように、成膜室18へ供給するネオンガスの量を調整することが好ましい。これにより、成膜室18の壁面に膜が堆積しても薄膜の厚さ方向の硬さの分布を均一にすることができる。硬さは、例えばビッカース硬さやヌープ硬さを含む。
また、処理対象部材26に形成する薄膜と処理対象部材26との間に、硬さに大きな違いがある場合、薄膜が、処理対象部材26の微小変形に追従できず、処理対象部材26から剥離する場合がある。薄膜の剥離を抑制するために、処理対象部材26と接触する薄膜の下層部分の側では、硬さの程度が比較的低い膜を形成し、薄膜の上層の側では、下層に比べて硬さの程度が比較的高い膜を形成することが好ましい。このような薄膜を形成する場合、処理装置38は、マスフローコントローラ22bを通して、薄膜の厚さが増えるに従がって、電子温度が上昇するように、成膜室18へ供給するネオンガスの量を調整する(増大させる)ことが好ましい。
また、本実施形態では、受光素子46、52から出力される撮像した画像の画像データを用いて、処理装置38が発光強度比を求めるので、発光強度比は、この画像データから、プラズマP中の各位置において求めることができる。この場合、処理装置38は、マスフローコントローラ22bを介して、発光強度比が予め定めた範囲から外れた成膜室18内の領域に対して選択的に、ネオンガスを供給することで、あるいはネオンガスの供給を調整することで、プラズマPの電子温度の空間分布を調整することが好ましい。このとき、受光器20は、一方向からの画像を撮像するだけでなく、異なる方向から画像を撮像して画像データを出力し、複数方向の撮像画像の画像データから、処理装置38はプラズマP中の発光強度比の空間分布を求めてもよい。この場合、ネオンガスの成膜室18への供給口は、成膜室18の複数の壁面に分散して複数設けられる。処理装置38は、電子温度の分布を調整するために、発光強度比が予め定めた範囲から外れた成膜室18内の領域にネオンガスを供給するように、ネオンガスの供給口のうち、どの供給口を選択するかを、発光強度比の空間分布に基づいて定め、さらに、選択した供給口におけるネオンガスの供給量を上記空間分布における発光強度比に応じて設定することが好ましい。また、すでにネオンガスが成膜室18に供給されている場合、求めた発光強度比に応じてネオンガスの供給量を調整することが好ましい。これにより、プラズマPの電子温度を所定の空間分布に、例えば均一な空間分布に調整することができる。
本実施形態では、アルゴン及びキセノンの発光強度を計測することが、電子温度を正確に求めることができる点から好ましい。また、電子温度を調整するためのガスとして、ネオンガスを用いることが好ましい。ネオンガスの供給は、他の第18族元素の希ガスに比べて、プラズマPの電子温度に大きな影響を与える。
このような薄膜製造方法においてダイヤモンドライクカーボンを薄膜として処理対象部材26に形成する場合、炭素を主成分として含むことが好ましい。特に、水素含有率が15原子%以下で、炭素を主成分として含むことが好ましい。主成分とは、薄膜中の炭素の含有率が50原子%以上であることをいう。
本実施形態では、受光器20は、光学フィルタ42,48及び撮像する受光素子46,52を備えるが、これらに代えて、プラズマP中の特定の位置における発光強度を計測するために、分光器と光電子増倍管やフォトダイオード等の光検出器を用いることもできる。
(発光強度比と電子温度)
以下、プラズマPにおける発光と電子温度の関係を説明する。プラズマPにおける発光は、励起状態の原子が、安定状態あるいは準安定状態に遷移する際に発光する。上述の実施形態では、受光器20は、アルゴンとキセノンの発光のうち所定の波長の光を計測する。アルゴンでは、例えば4p’[1/2]から4s[3/2] へ遷移するときの波長750.4nmの光の発光強度を計測するように、あるいは5p’[1/2]から4s’[1/2] へ遷移するときの波長419.8nmの光の発光強度を計測するように、光学フィルタ42のフィルタ特性が設定される。キセノンでは、例えば6p[1/2]から6s[3/2] へ遷移するときの波長828.0nmの光の発光強度を計測するように、光学フィルタ48のフィルタ特性が設定される。
一般に、励起状態の原子が発する光の発光強度は、励起状態にある原子の密度(励起状態密度)に比例する。この励起状態密度は、励起状態の生成速度/励起状態の消滅速度で表すことができる。下記式(1)は、原子(本実施形態では、アルゴン、キセノン、ネオン)の励起状態から特定の準安定状態iへの遷移によって生じる発光の発光強度を定める式である。
Figure 2017106058
上記式(1)において、量子効率Ω及び電子密度nは未知であるが、それ以外のパラメータは既知であり、あるいはその値を求めることができる。基底状態密度nAg、及びnは、それぞれのガスの分圧から求めることができる。各準安定状態密度n Amについては、各準安定状態の原子個数が一定となる状態、すなわち、準安定状態の生成と、準安定状態の消滅とが一致する制限を与えることで得られる連立方程式を解くことにより、各準安定状態密度n Amを算出することができる。ここで、準安定状態の生成は、
・基底状態から電子衝突により励起状態になり、励起状態から準安定状態に遷移する過程、
・ある準安定状態から電子衝突により励起状態になり、励起状態から別の準安定状態に遷移する過程、
・基底状態からから電子衝突により準安定状態に遷移する過程、を含む。
一方、準安定状態の消滅は、
・準安定状態から電子衝突により励起状態に遷移する過程、
・準安定状態から電子衝突による脱励起により基底状態に遷移する過程、
・準安定状態から雰囲気ガスとの衝突クエンチングにより基底状態もしくは他の励起状態に遷移する過程、
・準安定状態原子が壁への拡散によりそのエネルギを失う過程、
・準安定状態から電子衝突によるイオン化する過程、を含む。
本実施形態では、アルゴンの4p’[1/2]から4s[3/2] へ遷移するときの波長750.4nmの光の発光強度、あるいは5p’[1/2]から4s’[1/2] へ遷移するときの波長419.8nmの光の発光強度IArと、キセノンの、6p[1/2]から6s[3/2] へシフトするときの波長828.0nmの光の発光強度IXeとの比(発光強度比)を求める。このとき、検出器固有の値である量子効率Ωはキセノンとアルゴンとの間で略同一であり、発光強度比では量子効率Ωは除去される。準安定状態密度nAmの計算に必要な電子密度neの情報は,ラングミュアプローブ法などにより予め短時間で取得しておくことができる。
ここで、アルゴン及びキセノンそれぞれにおけるパラメータkg,x、km,x、n Amは、電子温度の関数である。このため、電子温度と発光強度比の関係は、発光強度比を計算することにより、図2に示すように表される。ここで、レート係数kg,xは、下記式(2)に従がって算出する。電子衝突励起断面積σ(E)は、文献等から既知である。図3は、アルゴンの4s’[1/2] から4p[3/2]へ励起する電子衝突励起断面積σ(E)を示す図である。電子エネルギ分布関数ve(E)はマクスウェル分布である。
Figure 2017106058
図2は、アルゴンの発光強度IArに対するキセノンの発光強度IXeの比IXe/IArと、電子温度T eの関係の一例を示す図である。発光強度IArは、アルゴンの励起状態4p’[1/2]から準安定状態4s[3/2] へ遷移するときの波長750.4nmの光の発光強度であり、IXeは、キセノンの、励起状態6p[1/2]から準安定状態6s[3/2] へ遷移するときの波長828.0nmの光の発光強度である。
したがって、処理装置38は、図2に示すような発光強度比と電子温度の関係を予め参照データとして記憶しておき、受光器20から送られてくる画像データから発光強度比を求め、この発光強度比を用いて電子温度T eを算出する。
図4は、ターゲット材32として黒鉛を用い、ネオンガスの成膜室18への供給量を調整することにより計測されるターゲット材32に流れるターゲット電流と、計測で得られた発光強度比から上述の方法で得られる電子温度の関係の一例を示す図である。ターゲット電流が大きくなる程、電子温度は略上昇することがわかる。このとき、ターゲット電流1A(電子温度1.2eV)とターゲット電流2A(電子温度1.35eV)の状態を維持して成膜したときの薄膜の硬さは、ターゲット電流1Aの条件では4GPaであり、ターゲット電流2Aの条件では7GPaであった。すなわち、ターゲット電流が高くなるほど、電子温度が高くなり、薄膜が硬くなることがわかる。図5は、ターゲット電流1Aとターゲット電流2Aの条件で形成した薄膜のラマン散乱スペクトルの測定結果の一例を示す図である。ターゲット電流1A、2Aのいずれの条件でも、波数1550cm−1付近において散乱強度のピークを有するが、ターゲット電流2Aの条件の方が、ラマン散乱スペクトルのバックグランドのレベルがターゲット電流1Aの条件に比べて低い。これは、ターゲット電流1Aの条件における薄膜中のアモルファス状態のカーボンが減少し、結晶化したカーボン(sp3混成軌道やsp2混成軌道で結合したカーボン)が増加していること、すなわち、硬質なダイヤモンドライクカーボンが形成されていることを表す。
したがって、本実施形態における成膜方法では、電子温度を調整することにより、薄膜の膜質を調整することができることがわかる。具体的には、電子温度T eを高くするほど、硬質な薄膜を形成できることがわかる。電子温度Teは、プラズマP中のアルゴンの発光強度とキセノンの発光強度の比から求めることができる。
本実施形態では、薄膜の形成中にプラズマPのアルゴンとキセノンの発光強度比に応じて、ネオンガスを成膜室に供給することにより、あるいはネオンガスの供給を調整することにより、プラズマPの電子温度T eを調整して薄膜の膜質を調整することができる。成膜中、成膜容器16の壁面に堆積する膜によってプラズマPの電位が変化し、この電位の変化によって薄膜の膜質が変化し易い。このため、本実施形態では、プラズマPの電位が低下しないように、ネオンガスを供給する、あるいはネオンガスの供給を調整する。これにより電子温度を所望の範囲に調整することができる。
本実施形態では、さらに、部材と、この部材の表面に設けられた薄膜と、を含む薄膜形成部材を提供することができる。このとき、薄膜の部材の側に位置する下層と、下層に比べて薄膜の表面の側に位置する上層とは、含有成分は同じであるが、硬さが異なり、下層の硬さは、上層の硬さに比べて低い。このような薄膜は、薄膜の最表層では硬く、しかも、部材の変形に追従して下層が変形するので、部材から剥離し難い。この場合の、薄膜は、炭素を主成分として含むことが好ましい。特に、薄膜は、水素含有率が15原子%以下で、炭素を主成分として含むことが好ましい。主成分とは、薄膜中の炭素の含有率が50原子%以上であることをいう。
このような薄膜は、上述の薄膜製造方法あるいは成膜装置10において、薄膜の厚さが増えるに従がって、ネオンガスの供給量を増やして電子温度を上昇させることにより上記薄膜を容易に形成することができる。
本実施形態では、プラズマP中のアルゴン及びキセノンの発光を計測し、電子温度T eを算出する一方、ネオンガスを用いて電子温度を調整するが、計測する発光は、アルゴン及びキセノンの発光に制限されず、第18族元素の発光であればよい。また、電子温度を調整するために用いるネオンガスの代わりに、他の第18族元素のガスを用いてもよい。
以上、本発明の薄膜製造方法、成膜装置、及び薄膜形成材について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
10 成膜装置
12 ガス源
12a Ar源
12b Ne源
12c Xe源
14 マグネトロンスパッタ源
16 成膜容器
18 成膜室
20 受光器
22 供給量調整器
24 載置台
26 処理対象部材
28 磁石
30 電極
32 ターゲット材
34 スパッタリング用DC電源
38 処理装置
40 ビームスプリッタ
42,48 フィルタ
44,50 結像レンズ
46,52 受光素子
60 排気装置
62 排気制御バルブ
64 ターボ分子ポンプ
66 ドライポンプ

Claims (12)

  1. 処理対象部材の表面に薄膜を形成する薄膜製造方法であって、
    成膜室中で、第18族元素のうち互いに異なる元素の第1希ガスと第2希ガスを少なくとも用いて、スパッタリングで処理対象部材に薄膜を形成するステップと、
    前記薄膜の形成中に、前記成膜室で発生するプラズマ中の前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光強度比を求めるステップと、
    前記薄膜の形成中の前記発光強度比に応じて、第18族元素のうち、前記第1希ガス及び第2希ガスと異なる元素の第3希ガスを前記成膜室に供給することにより、あるいは前記第3希ガスの供給を調整することにより、前記プラズマの電子温度を調整して前記薄膜の膜質を調整するステップと、を備えることを特徴とする薄膜製造方法。
  2. 前記成膜室内の前記第1希ガス、前記第2希ガス、及び前記第3希ガスの予め定めた分圧条件において、前記発光強度比が許容範囲からはずれているとき、前記成膜室の壁面を洗浄するタイミングであると判定するステップを、更に備える請求項1に記載の薄膜製造方法。
  3. 前記発光強度比は、前記プラズマ中の各位置で求められ、前記発光強度比が予め定めた範囲から外れた領域に対して選択的に、前記第3希ガスを供給することで、あるいは前記第3希ガスの供給を調整することで、前記電子温度の分布を調整する、請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
  4. 前記電子温度が予め定めた範囲内にはいるように、前記成膜室へ供給する前記第3希ガスの量を調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
  5. 前記薄膜の厚さが増えるに従がって、前記電子温度が上昇するように、前記成膜室へ供給する前記第3希ガスの量を調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
  6. 前記第1希ガス及び前記第2希ガスは、アルゴンガス及びキセノンガスであり、
    前記第3希ガスは、ネオンガスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
  7. 前記薄膜は、水素含有率が15原子%以下であり、炭素を主成分として含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜製造方法。
  8. 処理対象部材の表面に薄膜を形成する成膜装置であって、
    第18族元素のうち互いに異なる元素の第1希ガス、第2希ガス、及び第3希ガスを別々に貯留するガス源と、
    前記第1希ガス及び前記第2希ガスを少なくとも用いて生成されるプラズマを用いてターゲット材からスパッタ粒子を生成するスパッタ源と、
    前記スパッタ粒子が堆積するように、前記スパッタ源に対向した位置に処理対象部材が配置される成膜室を備える成膜容器と、
    前記薄膜の形成中、前記プラズマ中の前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光強度比を求めるために、前記第1希ガスの元素と前記第2希ガスの元素の発光を受光する受光器と、
    前記薄膜の膜質を調整するために、前記薄膜の形成中に、前記薄膜の形成中の前記発光強度比に応じて、前記成膜室に前記第3希ガスを供給する、あるいは、供給する前記第3希ガスの量を調整する供給量調整器と、を備えることを特徴とする成膜装置。
  9. 前記成膜室内の前記第1希ガス、前記第2希ガス、及び前記第3希ガスの予め定めた分圧条件において、前記発光強度比が許容範囲からはずれているか否かを判定すること、及び前記発光強度比が前記許容範囲からはずれているとき、前記成膜室の壁面を洗浄するタイミングであると判定すること、を行う処理装置を、さらに備える請求項8に記載の成膜装置。
  10. 前記受光器は、前記プラズマの発光から前記第1希ガスの元素の発光と前記第2希ガスの元素の発光を分離する光学フィルタと、前記プラズマ中の各位置における、前記第1希ガスの元素の発光と前記第2の希ガスの元素の発光を別々に受光する受光素子と、を含み、
    前記成膜装置は、受光によって得られる前記第1希ガスの元素の発光強度と前記第2希ガスの元素の発光強度から前記プラズマ中の各位置における前記発光強度比を求める部分を備える処理装置を備え、
    前記第3希ガスの前記成膜室への供給口は、前記成膜室の壁面に分散して複数設けられており、
    前記処理装置は、前記電子温度の分布を調整するために、前記発光強度比が予め定めた範囲から外れた領域に前記第3希ガスを供給するように、前記第3希ガスの供給口の一部を選択すること、及び選択した供給口における前記第3希ガスの供給量を設定すること、を行う、請求項8または9に記載の成膜装置。
  11. 部材と、
    前記部材の表面に設けられた薄膜と、を含み、
    前記薄膜の前記部材の側に位置する下層と、前記下層に比べて前記薄膜の表面の側に位置する上層とは、含有成分は同じであるが、硬さが異なり、前記下層の硬さは、前記上層の硬さに比べて低い、ことを特徴とする薄膜形成材。
  12. 前記薄膜は、水素含有率が15原子%以下であり,炭素を主成分として含む、請求項11に記載の薄膜形成材。
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