JP2017088976A - 多元系被膜形成装置および多元系被膜形成方法 - Google Patents

多元系被膜形成装置および多元系被膜形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 従来よりも簡素かつ廉価な構成であるにも拘らず、多元系被膜の元素別の成膜速度や組成比等の成膜状況を適切に監視できるようにする。【解決手段】 本発明が適用されたイオンプレーティング装置10によれば、真空槽12内にプラズマ300が発生される。このプラズマ300を利用して、それぞれの被処理物100の表面に多元系被膜が形成される。その際、プラズマ300の発光スペクトルが覗き窓70,レンズユニット200および光ファイバ210を介して分光手段としての1台のスペクトロメータによって一括的に測定され、この測定結果に基づいて、多元系被膜の成膜状況が監視される。従って例えば、当該多元系被膜の成膜状況を監視するために光導出路と光フィルタと光検出器とから成るユニットが複数設けられる従来の構成に比べて、イオンプレーティング装置10全体の構成の簡素化かつ廉価化が実現される。【選択図】 図1

Description

本発明は、多元系被膜形成装置および多元系被膜形成方法に関し、特に、被処理物が収容された真空槽の内部にプラズマを発生させると共にこのプラズマを利用して当該被処理物の表面に複数の元素を成分とする多元系被膜を形成する、多元系被膜形成装置および多元系被膜形成方法に関する。
多元系被膜、とりわけ合金組成を持つ多元系被膜は、高機能性被膜として種々展開されている。例えば、AlCrN(窒化アルミニウムクロム)膜やAlTiN(窒化アルミニウムチタン)膜等の窒化物膜は、高硬度被膜として展開されており、BaTiO(チタン酸バリウム)膜やZrPbO(ジルコン酸鉛)膜等の酸化物膜は、高誘電性被膜として展開されている。このような多元系被膜は一般に、プラズマを利用した成膜処理法によって形成され、例えば物理気相成長(Physical Vapor Deposition;PVD)法であればイオン化蒸着法,イオンプレーティング法またはスパッタ法によって形成され、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)法であればプラズマCVD法によって形成される。
この多元系被膜を形成するための成膜処理において、その最中に、いわゆるインプロセスで、当該多元系被膜の形成速度、つまり成膜速度、を測定することが要求される場合がある。この要求に応えるための常套手段として、水晶振動子方式の膜厚モニタが知られている。この水晶振動子方式の膜厚モニタは、水晶振動子を有するセンサを備えている。このセンサは、例えばイオンプレーティング法においては、真空槽内における蒸発源の上方であって、当該蒸発源から被処理物の表面(被処理面)までの距離と略同等の距離だけ当該蒸発源から離れた位置に、設けられる。そして、蒸発源からの蒸発粒子がセンサの水晶振動子に付着することによる当該水晶振動子の振動周波数の変化に基づいて、多元系被膜の膜厚が求められ、ひいては成膜速度が求められる。
しかしながら、この水晶振動子方式の膜厚モニタでは、次のような問題がある。即ち、被膜の材料となる物質の密度が小さいほど、その蒸発粒子が水晶振動子に付着することによる当該水晶振動子の振動周波数の変化が小さいために、高い測定精度が得られない。このため、被膜材料としては、その密度が或る程度以上(一般的にはアルミニウム(Al)の密度(2.7g/cm)と略同等またはそれ以上)であることが必要とされ、ゆえに、適用可能な被膜の種類がかなり制限されてしまう。また、被膜材料の蒸発中に突沸が生じて、この突沸による比較的に大きな粒子が水晶振動子に付着すると、当該水晶振動子の振動周波数が異常に変動し、或いは、当該水晶振動子の振動が停止して、測定不能になる。従って、被膜材料として、安定的に蒸発することも必要とされ、このことによっても、被膜の種類がかなり制限されてしまう。さらに、水晶振動子は、おおよそ1バッチごとに交換が必要であり、しかも、比較的に高価であるため、ランニングコストが嵩む、という問題もある。加えて、多元系被膜の成膜処理においては、当該多元系被膜の材料となる複数の物質別に、言い換えれば複数の元素別に、それぞれの成膜速度を測定することが要求される場合がある。このような要求に応えるために、例えば複数の膜厚モニタ(センサ)が設けられる態様が考えられるが、このように複数の膜厚モニタが設けられたとしても、これら複数の膜厚モニタによって各元素別にそれぞれの成膜速度を測定することは不可能であり、つまり当該要求に応えることはできない。
そこで、この水晶振動方式の膜厚モニタに代わる技術的手段として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、真空槽としてのチャンバ内にプラズマが発生される。そして、このプラズマ中の飛散粒子の光が、光導出路によって、チャンバ内から外部に引き出される。このチャンバの外部に引き出された光は、その特定波長成分のみを通過させる光フィルタを介して、当該チャンバの外部にある光検出器に入射される。光検出器は、自身に入射された光の発光強度を測定する。この発光強度は、プラズマ中の飛散粒子の密度と比例する。この関係を利用して、当該光検出器によって測定された発光強度と、被処理物としての被成膜材(基板)に掛けられているバイアス電圧またはプラズマ中の飛散粒子の加速電圧と、に基づいて、成膜速度が算出される。なお、多元系被膜の成膜処理においては、光導出路と光フィルタと光検出器とから成るユニットが複数設けられることによって、当該多元系被膜を成す各元素別にそれぞれの成膜速度を算出することが可能となる。この場合、各元素別にそれぞれが発光する特定波長のみを通過させる光フィルタが用いられる、とされている。
特開2000−74833号公報(特に請求項9,段落[0019],[0060]および[0067]参照。)
ところが、この従来技術をもってしても、次のような問題がある。即ち、この従来技術では、多元系被膜の成膜処理において、特に当該多元系被膜を成す各元素別にそれぞれの成膜速度を測定する際に、上述の如く光導出路と光フィルタと光検出器とから成るユニットが複数設けられる。このため、これら複数のユニットを含む装置全体の構成が大規模化し、かつ、高価格化する、という問題がある。この問題は、多元系被膜を成す元素の数が多いほど顕著になる。
また、従来技術では、光導出路の光の入射側端部がチャンバ内に位置するために、プラズマ中の飛散粒子が当該光入射側端部にも付着し、つまり当該光入射側端部にも被膜が堆積する。この結果、光導出路によるチャンバ内からチャンバ外への光の引き出しが不可能になり、ひいては成膜速度の測定が不可能になる、という問題もある。因みに、従来技術(特に段落[0010],[0084]および[0095]参照。)によれば、光導出路を用いてチャンバ内のプラズマによる発光をチャンバ外の光検出器に導くことから、飛散粒子の発光強度の測定を、膜堆積などによる影響を受けないで行うことができる、とされているが、ここで言う膜堆積などによる影響を受けないのは、飽くまでも光検出器であり、光導出路の光入射側端部については、必ず当該膜堆積の影響を受ける。従って、上述の如く成膜速度の測定が不可能になる。
それゆえに、本発明は、従来よりも簡素かつ廉価な構成であるにも拘らず、多元系被膜の成膜速度等の成膜状況を適切に監視することができる、多元系被膜形成装置および多元系被膜形成方法を提供することを、目的とする。また、この成膜状況の監視を確実に実現し得るようにすることも、本発明の目的とするところである。
この目的を達成するために、本発明のうちの第1発明は、被処理物が収容された真空槽の内部にプラズマを発生させると共に、このプラズマを利用して当該被処理物の表面に複数の元素を成分とする多元系被膜を形成する多元系被膜形成装置において、窓部材と、分光手段と、監視手段と、を具備する。このうちの窓部材は、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光を透過させる特性を有しており、真空槽の壁部の一部を成すように当該真空槽の壁部に設けられている。そして、分光手段は、この窓部材を介して、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光を真空槽の外部で受けると共に、この光のスペクトルを一括的に測定する。さらに、監視手段は、分光手段によるスペクトルの測定結果に基づいて、多元系被膜の形成状況を監視する。
即ち、本第1発明によれば、被処理物が収容された真空槽の内部にプラズマが発生される。そして、このプラズマを利用して被処理物の表面に多元系被膜が形成される。ここで、プラズマ中には、多元系被膜を成す複数の元素それぞれの粒子が含まれている。そして、それぞれの粒子からは、その元素特有の波長の光が発せられる(励起発光)。また、この光の強度は、当該光を発する粒子の量に相関し、例えば比例する。この光は、真空槽の壁部に設けられた窓部材を介して、当該真空槽の外部にある分光手段によって受けられる。分光手段は、この光のスペクトルを一括的に測定する。そして、この分光手段によるスペクトルの測定結果に基づいて、監視手段が、多元系被膜の形成状況、つまり成膜状況を、監視する。要するに、本第1発明によれば、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光の強度が、1つの分光手段によって一括的に測定される。そして、この分光手段による測定結果に基づいて、多元性被膜の成膜状況が適切に監視され、特に当該多元性被膜を成す各元素別にそれぞれの成膜状況が適切に監視される。
なお、ここで言う多元系被膜の成膜状況は、当該多元系被膜の成膜速度を含んでもよい。この成膜速度は、多元系被膜の成分となる各元素それぞれの発光強度と相関し、厳密には当該発光強度と真空槽内の圧力等の他の所定の成膜条件とに相関する。このことを利用して、当該成膜速度は、例えば多元系被膜の成分となる各元素の一部または全部の発光強度に基づいて、厳密には当該発光強度と他の所定の成膜条件とに基づいて、求められる。また、各元素別にそれぞれの成膜速度が求められてもよい。この場合、当該各元素別の成膜速度は、それぞれの元素ごとの発光強度に基づいて、厳密には当該発光強度と他の所定の成膜条件とに基づいて、求められる。
さらに、ここで言う多元系被膜の成膜状況は、当該多元系被膜を成す各元素の組成比を含んでもよい。この組成比は、当該各元素それぞれの発光強度の相互比に相関する。このことを利用して、当該組成比は、各元素それぞれの発光強度の相互比に基づいて、求められる。
加えて、本第1発明においては、粒子生成源制御手段が具備されてもよい。この粒子生成源制御手段は、監視手段による監視結果に基づいて、プラズマ中の各元素それぞれの粒子の生成源を制御する。ここで言う粒子生成源としては、例えばイオン化蒸着法やイオンプレーティング法においては、上述の蒸発源がある。また、スパッタ法においては、ターゲットが当該粒子生成源に当たる。さらに、プラズマCVD法を含め、被膜材料にガスが含まれる場合には、このガスの供給源が当該粒子生成源に当たる。
この粒子生成源制御手段は、多元系被膜の成膜状況、特に当該多元系被膜の成膜速度、が一定となるように、制御を行ってもよい。この場合、当該粒子生成源制御手段は、多元系被膜を成す各元素別にそれぞれの成膜速度が一定となるように、制御を行ってもよい。また、当該粒子生成源制御手段は、多元系被膜を成す各元素の組成比が一定となるように、制御を行ってもよい。
ところで、プラズマ中の各元素それぞれの粒子は、被処理物の表面のみならず、真空槽の壁部に設けられた窓部材にも付着し、つまり当該窓部材にも被膜が形成される。そうなると、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光は、この窓部材を透過しなくなり、ひいては分光手段によって受けられなくなる。この結果、多元系被膜の成膜状況の監視が不可能になる。このような不都合を回避するべく、本第1発明においては、透過部材が具備されてもよい。この透過部材は、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光を透過させる特性を有しており、真空槽の内部で窓部材を覆うように設けられる。これにより、窓部材に被膜が形成されることが防止される。そして、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光は、透過部材および窓部材を介して、分光手段によって受けられる。
ただし、この場合は、窓部材に代わって透過部材に被膜が形成されるので、そのような状態が放置されると、やはり不都合である。この不都合を回避するべく、透過部材を更新する更新手段が、さらに具備されてもよい。即ち、この更新手段によって透過部材が適宜に更新されることで、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光に対して当該透過部材および窓部材が透明である状態が維持される。これにより、分光手段は、これら透過部材および窓部材を介して、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光を確実に受けることが可能となる。この結果、多元系被膜の成膜状況の監視が確実に実現される。
ここで、透過部材は、その一部分によって窓部材を覆うものであってもよい。この場合、当該透過部材は、そのうちの未だ窓部材を覆うのに供されていない未使用部分が真空槽の内部に露出しないように、言い換えれば当該未使用部分に被膜が形成されることのないように、設けられるのが、好ましい。そして、更新手段は、透過部材のうち窓部材を覆う部分の位置が未使用部分の領域内に変わるように当該透過部材を移動させることによって更新を行うものであってもよい。
このような透過部材としては、例えば概略帯状のフィルムがある。この場合、更新手段は、当該透過部材としてのフィルムをその長さ方向に移動させることによって更新を行うものであってもよい。
本発明のうちの第2発明は、第1発明に対応する方法の発明である。即ち、本第2発明は、被処理物が収容された真空槽の内部にプラズマを発生させると共に、このプラズマを利用して当該被処理物の表面に複数の元素を成分とする多元系被膜を形成する多元系被膜形成方法において、分光過程と、監視過程と、を具備する。ここで、真空槽の壁部には、当該壁部の一部を成すように窓部材が設けられている。この窓部材は、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光を透過させる特性を有している。その上で、分光過程では、この窓部材を介して、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光を真空槽の外部にある分光手段で受けると共に、この分光手段によって当該光のスペクトルを一括的に測定する。そして、監視過程では、分光過程におけるスペクトルの測定結果に基づいて、多元系被膜の成膜状況を監視する。
上述したように、本発明によれば、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光の強度が、1つの分光手段によって一括的に測定される。そして、この分光手段による測定結果に基づいて、多元性被膜の成膜状況が適切に監視される。従って、光導出路と光フィルタと光検出器とから成るユニットが複数設けられる従来技術に比べて、分光手段を含む装置全体の構成の簡素化かつ廉価化が実現される。また、真空槽の壁部に設けられた窓部材を当該真空槽の内部で覆う透過部材と、この透過部材を適宜に更新する更新手段と、が具備されることによって、プラズマ中の各元素それぞれの粒子から発せられる光に対して当該透過部材および窓部材が透明である状態が維持される。これに対して、従来技術では、光導出路の光入射側端部が膜堆積の影響を受けるために成膜速度の測定が不可能になる。ゆえに、このような従来技術とは異なり、本発明によれば、多元系被膜の成膜状況の監視が確実に実現される。
本発明の一実施形態に係るイオンプレーティング装置の概略構成を示す図である。 図1におけるA−A矢視断面図である。 図1におけるB−B矢視断面図である。 同実施形態におけるレンズユニットの詳細を説明するための図解図である。 同実施形態における蒸発源の制御を担う部分の電気的な構成を示す図解図である。 同蒸発源の坩堝の構成を示す図解図である。 同蒸発源の動作を説明するための図解図である。 同蒸発源の坩堝内の各固体材料に対する電子ビームの照射態様を当該各固体材料の消費状態と併せて示す図解図である。 同電子ビームの照射態様を詳細に示す図解図である。 同実施形態におけるプラズマの発光スペクトルの一例を示す図解図である。 同プラズマ中の特にガス系元素の粒子の発光スペクトルを示す図解図である。 同実施形態におけるプラズマの発光スペクトルと電子銃パワーとの関係を示す図解図である。 同発光スペクトルと被膜材料としてのアルミニウム材料およびクロム材料に対する電子ビームの照射時間比との関係を示す図解図である。 同スペクトル中のアルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度と電子銃パワーとの関係を実際の成膜速度と重ね合わせて示すグラフである。 同実施形態におけるシャッタが開放されてからの経過時間に対するプラズマの発光スペクトルの変化を示す図解図である。 同実施形態の拡張例を示す図解図である。 図16の構成における発光スペクトルの測定要領を説明するための図解図である。
本発明の一実施形態について、図1〜図17を参照して説明する。
本実施形態に係るイオンプレーティング装置10は、多元系被膜、特にAlCrN膜等の合金窒化物膜、を形成するのに好適なものであり、図1〜図3に示すように、概略円筒形の真空槽12を有している。なお、図1は、特に真空槽12の内部に注目して当該真空槽12を含むイオンプレーティング装置10を正面から見た概略図であり、図2は、図1におけるA−A矢視断面図、図3は、図1におけるB−B矢視断面図である。
真空槽12は、概略円筒形である自身の中心軸を水平方向に延伸させた状態にあり、その周壁14の両端の一方側に当たる部分16は、当該真空槽12の前面として前面壁によって閉鎖されており、当該周壁14の両端の他方側に当たる部分18は、真空槽12の後面として後面壁によって閉鎖されている。この真空槽12の周壁14,前面壁16および後面壁18を含む当該真空槽12の筐体は、耐熱性および耐食性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製であり、基準電位としての接地電位に接続されている。なお、詳しい説明は省略するが、この真空槽12の前面壁16および後面壁18は、後述する被処理物100の出し入れやメンテナンス等のために任意に開閉可能とされている。加えて、この真空槽12の筐体(周壁14,前面壁16または後面壁18)の適当な位置に、当該真空槽12の内部と外部とを連通させる図示しない排気口が設けられている。そして、この排気口には、真空槽12の外部において、当該真空槽12の内部を排気するための図示しない排気手段としての真空ポンプが結合されている。また、これら排気口と真空ポンプとを結合する結合手段としての排気管の途中には、真空槽12内の圧力Pcを調整するための図示しない圧力制御手段としての圧力制御装置が設けられている。
真空槽12の内部に注目すると、当該真空槽12の内部の略中央に、粒子生成源、特に気化手段、としての蒸発源20が配置されている。この蒸発源20は、合金窒化物膜の合金成分材料である複数の、例えば2種類の、固体材料22aおよび22bを個別に収容可能な収容手段としての坩堝24と、これら各固体材料22aおよび22bを個別に加熱して蒸発させるための電子ビームeを出力する被膜材料加熱出力手段としての電子銃26と、を有している。この蒸発源20については、後で詳しく説明する。また、蒸発源20の近傍に、被処理物100を加熱するための図示しない被処理物加熱手段としての例えば電熱ヒータが設けられている。
そして、蒸発源20の周りを取り囲むように、複数個の被処理物100,100,…が配置される。具体的には、真空槽12の後面壁18の近傍に、被処理物変位手段としての自公転ユニット28が設けられている。この自公転ユニット28は、複数個の保持手段としてのホルダ30,30,…を有しており、これら各ホルダ30,30,…は、真空槽12の中心軸から当該中心軸を横切る方向に一定の距離を置き、かつ、当該中心軸を中心とする円の円周方向に沿って等間隔に、設けられている。そして、それぞれのホルダ30に、被処理物100が1つずつ取り付けられる。なお、図1〜図3(特に図1)においては、被処理物100(ホルダ30)の個数が16個とされているが、これは飽くまでも一例であって、当該個数は、被処理物100の形状や寸法等の諸状況に応じて適宜に定められる。また、被処理物100として、概略丸棒状のものが例示されているが、この場合、当該被処理物100は、真空槽12の中心軸に沿う方向に延伸するように取り付けられる。
自公転ユニット28は、回転軸32を介して、真空槽12の外部にある駆動手段としてのモータ34に結合されている。このモータ34の駆動力を受けて、自公転ユニット28は、真空槽12の中心軸を中心として各ホルダ30,30,…を図1に矢印36で示す方向(反時計回りの方向)に回転させる。これに伴い、各ホルダ30,30,…に取り付けられている各被処理物100,100,…もまた、真空槽12の中心軸を中心として同じ方向に回転し、言わば公転する。併せて、自公転ユニット28は、それぞれのホルダ30をそれ自身の中心軸を中心として図1に矢印38で示す方向(反時計回りの方向)に回転させる。これに伴い、それぞれの被処理物100もまた、自身の中心軸を中心として同じ方向に回転し、言わば自転する。なお、この自公転ユニット28による各被処理物100,100,…の公転速度は、例えば1rpm程度である。そして、それぞれの被処理物100の自転速度は、例えば公転速度の10倍程度であり、つまり10rpm程度である。
さらに、蒸発源20よりも上方の位置であって、各被処理物100,100,…の公転軌跡よりも下方の位置に、陰極としての概略直線状のフィラメント40と、陽極としての概略物差(細長い平板)状のアノード板42と、が互いに適当な距離を置いて配置されている。
このうちのフィラメント40は、例えば直径が約2mmのタングステン(W)製ワイヤであり、厳密には複数本(例えば3本)のタングステン製ワイヤから成る縒り線である。このフィラメント40は、真空槽12の中心軸に沿う方向に延伸するように、言い換えればそれぞれの被処理物100の延伸方向と平行を成すように、配置されている。そして、このフィラメント40には、真空槽12の外部にある陰極電力供給手段としてのフィラメント用電源装置44から陰極電力としての交流のフィラメント電力Efが供給される。さらに、このフィラメント電力Efには、接地電位を基準とする負電位の直流電力であるフィラメントバイアス電力Efbが重畳される。このため、フィラメント用電源装置44の接地端子と接地電位との間に、当該フィラメントバイアス電力Efbの供給源である陰極バイアス供給手段としてのフィラメントバイアス用電源装置46が設けられている。特に、このフィラメントバイアス用電源装置46は、その出力電圧であるフィラメントバイアス電圧Vbが任意の一定値となるように、いわゆる定電圧制御モードで動作するものである。
一方、アノード板42は、高融点金属製であり、例えばモリブデン(Mo)製である。このアノード板42は、真空槽12の中心軸を含む鉛直面に関して、フィラメント40と略面対称(共役)となる位置に配置されている。具体的には、アノード板42は、その一方主面をフィラメント40側に向けた状態で、厳密には後述する理由により当該一方主面を少し斜め上方に向けた状態で、かつ、それ自身が真空槽12の中心軸に沿う方向に延伸するように、つまりフィラメント40の延伸方向と平行を成すように、配置されている。そして、このアノード板42には、真空槽12の外部にある陽極電力供給手段としてのアノード用電源装置48から接地電位を基準とする正電位の直流電力であるアノード電力Eaが供給される。このアノード用電源装置48もまた、その出力電圧であるアノード電圧Vaが任意の一定値となるように、定電圧制御モードで動作するものである。
加えて、真空槽12内には、フィラメント40およびアノード板42を間に挟んだ状態で、磁界印加手段としての1対の細長い概略直方体状の磁界発生器50および52が配置されている。具体的には、各磁界発生器50および52は、それぞれの一側面を互いに対向させた状態で、厳密には後述する理由により当該それぞれの一側面を少し斜め上方に向けた状態で、かつ、それ自身が真空槽12の中心軸に沿う方向に延伸するように、つまりフィラメント40およびアノード板42それぞれの延伸方向と平行を成すように、配置されている。そして、これら各磁界発生器50および52には、当該各磁界発生器50および52の互いに対向する一側面が互いに異なる磁極(N極およびS極)となるように図示しない永久磁石が内蔵されている。これにより、各磁界発生器50および52間の空間に、つまりフィラメント40およびアノード板42が配置されている空間に、強力な磁界が印加される。
なお、これら各磁界発生器50および52による磁界の印加領域を拡張するべく、当該各磁界発生器50および52は、互いに対向する一側面を上述の如く少し斜め上方に向けた状態で配置されている。そして、このうちのアノード板42側に配置されている磁界発生器52の傾きに合わせて、当該アノード板40もまた、上述の如くその(フィラメント40に向けられた側の)一方主面を少し斜め上方に向けた状態にある。さらに、各磁界発生器50および52による磁界の印加領域のさらなる拡張を図るべく、これら各磁界発生器50および52の外方の側面に、当該側面よりも少し面積の大きい平板状のヨーク54および56が設けられている。
また、これら各磁界発生器50および52による磁界の印加領域よりも下方であって、蒸発源20よりも上方の位置に、ガス供給管58が設けられている。このガス供給管58もまた、粒子生成源として機能し、特に合金窒化物膜の材料の1つである材料ガスとしての窒素(N)ガスを真空槽12内に供給するための材料ガス供給手段として機能する。併せて、当該ガス供給管58は、放電用ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを真空槽12内に供給するための放電用ガス供給手段としても機能する。なお、このガス供給管58の先端にあるノズル58aは、上述のフィラメント40とアノード板42との間の空間に向けられている。また、図示は省略するが、このガス供給管58管には、真空槽12の外部において、当該ガス供給管58内を流れる窒素ガスおよびアルゴンガスの流量を個別に調整するための流量調整手段としての例えばマスフローコントローラと、当該窒素ガスおよびアルゴンガスの流通をオン/オフするための開閉手段としての例えば開閉バルブとが、設けられている。
さらに、各被処理物100,100,…には、各ホルダ30,30,…および自公転ユニット28を介して、バイアス電力供給手段としてのパルス電源装置60から接地電位を基準とする交流の基板バイアス電力Esが供給される。このパルス電源装置60もまた、その出力電圧である基板バイアス電圧Vsが任意の一定値となるように、定電圧制御モードで動作するものである。具体的には、当該基板バイアス電圧Vsは、接地電位よりも高いハイレベルと、当該接地電位よりも低いローレベルと、に交互に遷移する、いわゆるバイポーラ矩形状のパルス電圧である。そして、この基板バイアス電圧Vs(厳密には平均電圧値)は、例えば−5V〜−1000Vの範囲で任意に設定可能とされている。また、この基板バイアス電圧Vsの周波数は、例えば10kHz〜500kHzの範囲で任意に設定可能とされている。加えて、この基板バイアス電圧Vsのデューティ比(パルスの1周期に対するハイレベル期間の比率)もまた、例えば10%〜90%の範囲で任意に設定可能とされている。
そして、真空槽12の周壁14の適宜位置、例えば蒸発源20の特に坩堝24の真上に当たる位置に、当該真空槽12の周壁14の一部を成すように、窓部材としての例えば円板状の覗き窓70が設けられている。具体的には、真空槽12の周壁12の当該適宜位置(坩堝24の真上に当たる位置)に、窓部材取付手段としての適当なフランジ80が設けられており、このフランジ80に、覗き窓70が自身の両主面を鉛直方向に向けた状態で取り付けられている。なお、フランジ80は、例えば概略円筒形の大フランジ部82と、この大フランジ部82よりも径が小さい概略円筒形の小フランジ部84と、を有しており、大フランジ部82が自身の中心軸を鉛直方向に延伸させた状態で真空槽12の周壁14に結合されると共に、この大フランジ部82の上部に小フランジ部84が当該大フランジ部82と同心状に結合されており、その上で、小フランジ部84に覗き窓70が取り付けられた構造のものであるが、これは飽くまでも一例であって、これ以外の構造のものであってもよい。また、覗き窓70は、耐熱性,耐腐食性および耐熱衝撃性を備えると共に、320nm〜900nmの波長領域で90%以上の平坦な光透過特性を示すものであり、例えば硼珪酸ガラス製である。
併せて、フランジ80内には、窓部材保護手段としてのシャッタ90が設けられている。このシャッタ90は、覗き窓70の内側面(つまり真空槽12の内部空間に向けられた側の一方主面)を真空槽12の内部空間に露出させる状態と、当該覗き窓70の内側面を真空槽12の内部空間から遮蔽する状態と、に選択的に遷移可能なものである。このようなシャッタ90は、例えば概略矩形または円形の板状体であり、自身の両主面を鉛直方向に向けた状態で水平方向に移動(スライド)されることで、当該2つの状態に遷移するものであるが、これは飽くまでも一例であって、これ以外の構造のものであってもよい。
加えて、覗き窓70の外側に、つまり真空槽12の外部に、当該覗き窓70を介して真空槽12の内部を覗くように、集光手段としてのレンズユニット200が設けられている。このレンズユニット200は、光導出路としての光ファイバ210の一方端である光入射側端部に取り付けられており、後述するプラズマ300中の粒子から発せられる光を当該光ファイバ210の光入射側端部に入射させるものである。このため、当該レンズユニット200は、図4に示すように、集光レンズ200aを有しており、この集光レンズ200aの焦点Fは、プラズマ300中の適宜位置、例えば当該プラズマ300の濃度が最も高いと考えられる上述したフィラメント40とアノード板42との中間点付近に、設定されている。即ち、当該フィラメント40とアノード板42との中間点付近と、光ファイバ210の光入射側端部とは、集光レンズ200aに関して互いに共役である。なお、図4においては、その見易さを考慮して、プラズマ300の図示を省略してある。また、当該図4においては、フィラメント40およびアノード板42のそれぞれに接続されている配線や各被処理物100,100,…等のようにレンズユニット200の説明に直接関係しない要素についても、それらの図示を省略してある。因みに、レンズユニット200は、図示しない固定手段としての適当な固定具によって例えばフランジ80に固定されている。また、レンズユニット200は、プラズマ300以外からの光、言わば外来光、の影響を出来る限り排除するために、覗き窓70の外側面(つまり真空槽12の外部に向けられた側の他方主面)に近づけて設けられる。この外来光の影響をより確実に排除するために、適当な被覆部材によってレンズユニット200と覗き窓70とが覆われてもよい。
上述したように、覗き窓70は、320nm〜900nmという波長領域において90%以上の平坦な光透過特性を示すが、集光レンズ200aおよび光ファイバ210もまた、同波長領域において高い光透過特性を示し、詳しくは同波長領域を含む十分に広い波長領域において高い光透過特性を示す。そして、この光ファイバ210の他方端である光出射側端部は、図5に示すように、分光手段としてのスペクトロメータ220に接続されている。
スペクトロメータ220は、光ファイバ210を介して自身に入射される光のスペクトルを測定するものであり、このスペクトロメータ220によるスペクトルの測定結果は、粒子生成源制御手段としての例えばパーソナルコンピュータ230に与えられる。なお、スペクトロメータ220は、例えば200nm〜1050nmの波長領域に対応可能な小型ものであり、具体的にはオーシャンオプティクス社製の「USB2000+」という型式(シリーズ)のものである。また、このスペクトロメータ220は、USB(登録商標:Universal Serial Bus)ケーブルを介してパーソナルコンピュータ230と接続されており、当該USBケーブルを介してパーソナルコンピュータ230から供給される電力によって駆動する。
パーソナルコンピュータ230は、上述した蒸発源20を制御するものであり、厳密には自身に接続されたスキャンコントローラ240を介して当該蒸発源20を制御するものである。そのために、パーソナルコンピュータ230(のハードディスク)には、専用の制御プログラムがインストールされている。また、スキャンコントローラ240には、蒸発源20の電源手段である電子銃電源装置250も接続されている。
ここで、蒸発源20に改めて注目すると、当該蒸発源20は、上述の如く坩堝24を有しており、この坩堝24は、2種類の固体材料22aおよび22bを個別に収容可能とされている。具体的には、坩堝24は、図6に示すように、互いに径の異なる同心円筒状の2つの周壁部24aおよび24bと、これら各周壁部24aおよび24bの一方端側を閉鎖するように当該各周壁部24aおよび24bの一方端に結合された円板状の底壁部24cと、から成り、言わば2重皿のような形状をしている。このような形状から、内側の周壁部24aの内側面と底壁部24cの内側面とによって囲まれた言わば短円柱状の内側収容部24dと、内側の周壁部24aの外側面と外側の周壁部24bの内側面と底壁部24cの内側面とによって囲まれた言わば概略リング状の外側収容部24eと、が形成されており、つまり2つの収容部24dおよび24eが形成されている。そして、内側収容部24dに2種類の固体材料22aおよび22bの一方が収容されると共に、外側収容部24eに当該2種類の固体材料22aおよび22bの他方が収容される。なお、内側収容部24dの直径(内径)Maは、例えば60mm〜100mmであり、当該内側収容部24dの深さ寸法Mbは、15mm〜25mmである。そして、外側収容部24eの幅寸法(内側周壁部24aの外側面の半径と外側周壁部24bの内側面の半径との相互差)Mcは、例えば20mm〜40mmであり、当該外側収容部24eの深さ寸法Mbは、内側収容部24dのそれと同じである。この坩堝24は、例えば銅(Cu)製であり、図示しない水冷機構によって水冷される。
また、蒸発源20は、電子銃26を有しており、この電子銃26は、図5に示した電子銃電源装置250からスキャンコントローラ240を介して供給される電子銃駆動電力Egを受けて駆動し、つまり当該図5に破線の矢印26aで示される如く電子ビームeを出力する。この電子ビームeは、上述した2種類の固体材料22aおよび22bに交互に照射され、言い換えればそうなるように電子銃26が制御される。この電子銃26の制御は、スキャンコントローラ240から当該電子銃26に供給されるスキャン制御信号Scに従う。電子銃26は、このスキャン制御信号Scの供給を受けて、図7(a)に示す如く電子ビームeを内側の(収容部24dに収容されている)固体材料22aに照射する状態と、図7(b)に示す如く当該電子ビームeを外側の(収容部24eに収容されている)固体材料22bに照射する状態と、に交互に(言わば周期的に)遷移する。これにより、各固体材料22aおよび22bは、個別に加熱され気化する。
より具体的には例えば、合金窒化物膜としてAlCrN膜が形成される場合には、内側収容部24dに固体材料22aとしてアルミニウム材料が収容されると共に、外側収容部24eに固体材料22bとしてクロム材料が収容される。なお、ここで言うアルミニウム材料とは、その純度が99%以上のものであり、好ましくは99.99%以上のいわゆる高純度のものであり、例えば直径が2mm〜5mmのロッド状の素材が5mm〜10mm程度の長さに、言わばペレット(円柱)状に、切断されたものである。このようなペレット状のアルミニウム材料が内側固体材料22aとして採用されることで、例えば当該内側固体材料22aとして内側収容部24dの形状に応じた言わばそれ専用のものが採用される場合に比べて、当該内側固体材料22aの低コスト化が図られる。そして、ここで言うクロム材料は、その純度が99%以上のものであり、好ましくは99.99%以上の高純度のものであり、例えば直径が1mm〜5mmのグラニュール(粗粒)状のものである。このようなグラニュール状のクロム材料が外側固体材料22bとして採用されることで、例えば当該外側固体材料22bとして外側収容部24eの形状に応じた専用のものが採用される場合に比べて、当該外側固体材料22bの低コスト化が図られる。その上で、電子銃26は、内側の固体材料22aとしてのアルミニウム材料に対して、例えば図8(a)に破線26bで示すように、内側収容部24d(坩堝24)の中心から少し外れた比較的に小さな矩形状の領域に絞って電子ビームeを照射し、厳密には当該領域26b内において電子ビームe(の照射位置)をスキャンさせる。そして、外側の固体材料22bとしてのクロム材料に対しては、電子銃26は、当該図8(a)に破線26cで示すように、外側収容部24eの円周方向における一部を完全に覆うほどの大きさの矩形状領域にわたって電子ビームeを照射し、厳密には当該領域26c内において電子ビームeをスキャンさせる。
なお、内側固体材料22aとしてのアルミニウム材料は、比較的に熱伝導性(熱伝導率)が高い。従って、このアルミニウム材料22aを効率的に加熱するために、上述の如く当該アルミニウム材料22aに対する電子ビームeの照射領域26bが比較的に小さめに絞られる。これにより、アルミニウム材料22aは、効率的に加熱されて気化し、厳密には蒸発する。一方、外側固体材料22bとしてのクロム材料もまた、電子ビームeの照射を受けて加熱されて気化するが、厳密には昇華する。このため、上述の如くクロム材料22bに対する電子ビームeの照射領域26cが外側収容部24eの円周方向における一部を完全に覆うほどの大きさとされており、これにより、後述する如く当該クロム材料22bが満遍なく気化(昇華)する。
ここで、電子ビームeは、図9に示すように、アルミニウム材料(内側固体材料)22aに対する照射領域26bにおいて、坩堝24の半径方向を横切る方向(図9の左右方向)にfxという周波数でスキャンされると共に、当該坩堝24の半径方向(図9の上下方向)にfyという周波数でスキャンされ、言わば概略ジグザグ状にスキャンされる。このアルミニウム材料22aに対する照射領域26bにおけるスキャンは、Taという時間にわたって行われる。また、電子ビームeは、クロム材料(外側固体材料)22bに対する照射領域26cにおいても同様に、坩堝24の半径方向を横切る方向にfxという周波数でスキャンされると共に、当該坩堝24の半径方向にfyという周波数でスキャンされ、つまり概略ジグザグ状にスキャンされる。このクロム材料22bに対する照射領域26cにおけるスキャンは、Tbという時間にわたって行われる。電子ビームeは、これら各照射領域26bおよび26cにおけるスキャンを交互に繰り繰り返し行い、つまりアルミニウム材料22aに対する言わば内側照射領域26bとクロム材料22bに対する言わば外側照射領域26cとの間を交互に繰り返し往復する。なお、電子ビームeが各照射領域26bおよび26cの一方から他方に移動する際には、当該電子ビームeは、瞬時に直線状に移動する。また、坩堝24の半径方向を横切る方向における電子ビームeのスキャン周波数fxは、例えば250Hz〜1kHzの範囲で任意に設定可能であり、好ましくは500Hzとされる。そして、坩堝24の半径方向における電子ビームeのスキャン周波数fyは、例えば20Hz〜100Hzの範囲で任意に設定可能であり、好ましくは50Hzとされる。さらに、電子ビームeが坩堝24の半径方向において1往復するのに要する時間2・Tsは、例えば500ms〜4sの範囲で任意に設定可能であり、好ましくは500msとされ、言わば片道(Ts)で250msとされる。加えて、この電子ビームeのスキャン時間Tsが一定とされた状態で、内側照射領域26bにおけるスキャン時間Taと外側照射領域26cにおけるスキャン時間Tbとの相互比である照射時間比Ta:Tbについても、任意に設定可能とされている。
この電子ビームeの各方向におけるスキャン周波数fxおよびfy,スキャン時間Ts(または2・Ts),照射時間比Ta:Tb,各照射領域26bおよび26cそれぞれの形状や大きさ等は、図5に示したパーソナルコンピュータ230によって設定される。また、電子ビームeの強さ、つまり電子銃26のパワーEB、についても、パーソナルコンピュータ230によって任意に設定可能とされている。そして、このパーソナルコンピュータ230によって設定された条件に従って、上述のスキャン制御信号Scが生成される。さらに、パーソナルコンピュータ230は、スペクトロメータ220によるスペクトルの測定結果に基づいて、スキャン制御信号Scを適宜に更新し、言わば蒸発源20をフィードバック制御する。このフィードバック制御については、後で詳しく説明する。
加えて、上述の図7や図8(a)に示すように、坩堝24は、その中心を軸としてこれら各図に矢印24fで示される方向(例えば図8(a)における反時計回りの方向)に比較的にゆっくりと、例えば10°/min〜50°/minという速度で、好ましくは20°/minという速度で、回転し、厳密にはそうなるように蒸発源20が構成されている。これにより、アルミニウム材料22aおよびクロム材料22bのそれぞれが満遍なく気化し、とりわけ、昇華性物質であるクロム材料24aについても満遍なく気化する。
ここで特に、図8(a)に注目すると、外側照射領域26cは、クロム材料22bが収容されている外側収容部24eをはみ出しており、詳しくは内側周壁部24aおよび外側周壁部24bそれぞれの一部を含むように設定されている。従って、この外側照射領域26cに含まれている内側周壁部24aおよび外側周壁部24bそれぞれの一部が電子ビームeの照射を受けて加熱されて溶融する等の不都合が生じることが懸念される。しかしながら、内側周壁部24aおよび外側周壁部24bを含む坩堝24は、上述の如く水冷されている。また、このように内側周壁部24aおよび外側周壁部24bそれぞれの一部に電子ビームeが照射されるとは言え、外側照射領域26cという比較的に広い領域にわたってスキャンしている当該電子ビームeがそのスキャン過程の途中で当該内側周壁部24aおよび外側周壁部24bそれぞれの一部に照射されるに過ぎないので、言い換えれば電子ビームeが当該内側周壁部24aおよび外側周壁部24bそれぞれの一部に集中的に照射される訳ではないので、ここで懸念されるような不都合は生じない。
さらに、図8(a)によれば、外側照射領域26cは、アルミニウム材料22aが収容されている内側収容部24dの一部をも含んでいる。言い換えれば、外側照射領域26c内をスキャンする電子ビームeは、内側収容部24dに収容されているアルミニウム材料22aの一部にも照射される。従って、この一部のアルミニウム材料22aが加熱されて蒸発すること、言わば当該アルミニウム材料22aが不本意に蒸発すること、が懸念される。しかしながら、アルミニウム材料22aは、上述の如く熱伝導性が高いので、このようなアルミニウム材料22aに対して外側照射領域26c内をスキャンする電子ビームeが照射されても、当該アルミニウム材料22aが蒸発する程度にまで加熱されることはなく、つまり当該アルミニウム材料22aが不本意に蒸発することはない。
このようにして外側照射領域26cが設定されることによって、昇華性物質であるクロム材料22bが満遍なく気化し、つまり図8(b)に示す如く(外側収容部24eの)全体にわたって概ね均一に消費される。なお、アルミニウム材料22aについては、気化する際に溶融するので、やはり図8(b)に示す如く(内側収容部24dの)全体にわたって概ね均一に消費される。
なお、図8(a)において、電子ビームeは、当該図8(a)における下方側から飛翔して、アルミニウム材料22aおよびクロム材料22bのそれぞれに照射される。また、ここで採用されている電子銃26は、自身から遠い位置ほど電子ビームeを小さく絞り易い、という特性を有している。このため、照射領域26bを小さく絞る必要のあるアルミニウム材料22aについて、電子銃26から遠い位置にある内側収容部24dに収容され、そのような必要のないクロム材料22bについては、当該内側収容部24dよりも電子銃26に近い位置にある外側収容部26aに収容される。
さて、このような構成のイオンプレーティング装置10によれば、合金窒化物膜としての例えばAlCrN膜を形成することができる。なお、このAlCrN膜の形成に際しては、上述の如く坩堝24の内側収容部24dにアルミニウム材料22aが収容されると共に、外側収容部24eにクロム材料22bが収容される。そして、真空槽12内の各ホルダ30,30,…に被処理物100が1個ずつ取り付けられる。
その上でまず、真空槽12内の圧力Pcが10−3Pa程度になるまで当該真空槽12内が真空ポンプによって排気され、いわゆる真空引きされる。そして、この真空引きの後、上述の電熱ヒータによって各被処理物100,100,…が約400℃に加熱され、いわゆるベーキング処理が行われる。そして、このベーキング処理の後、真空槽12内にアルゴンガスが供給される。このときのアルゴンガスの供給流量は、例えば40mL/min〜100mL/minとされ、真空槽12内の圧力Pcは、例えば3×10−2Pa〜1×10−1Pa程度に維持される。この状態で、フィラメント40にフィラメント電力Efが供給される。すると、フィラメント40が加熱されて、当該フィラメント40から熱電子が放出される。併せて、フィラメント電力Efにフィラメントバイアス電力Efbが重畳される(厳密にはこの時点では未だ当該フィラメントバイアス電力Efの供給源であるフィラメントバイアス用電源装置46からフィラメント40に電流が流れていないのでフィラメントバイアス電圧Vfbが印加される)と共に、アノード板42にアノード電力Eaが供給される(厳密にはこの時点では未だ当該アノード電力Eaの供給源であるアノード用電源装置48からアノード板42にアノード電流Iaが流れていないのでアノード電圧Vaが印加される)。すると、フィラメント40から放出された熱電子がアノード板42に向かって加速される。この過程で、熱電子がアルゴンガスの粒子に衝突して、その際の衝撃によって当該アルゴンガスの粒子が放電する。この結果、アーク放電による高密度なプラズマ300が発生する。なお、フィラメントバイアス電圧Vfbとアノード電圧Vaとの総和によって、熱電子の加速度が制御され、プラズマ300の安定化が図られる。因みに、フィラメントバイアス電圧Vfbは、例えば−20V〜−40Vとされる。そして、アノード電圧Vaは、例えば40V〜60Vとされる。また、アノード板42に流れる電流、言わばアノード電流Iaは、例えば30Aに維持される。このアノード電流Iaは、フィラメント40の加熱温度によって制御され、つまり当該フィラメント40からの熱電子の放出量によって制御される。さらに、プラズマ300が発生している空間には各磁界発生器50および52による磁界が印加されているので、上述の熱電子は螺旋運動をしながら加速され、これにより、当該熱電子がアルゴンガス粒子に衝突する機会が増えて放電が顕著となり、プラズマ300のさらなる高密度化が図られる。
この高密度なプラズマ300が発生している状態で、モータ34が駆動される。すると、各被処理物100,100,…が自転しながら公転して、プラズマ300の空間内に順次送り込まれる。そして、各被処理物100,100,…に基板バイアス電力Esが供給される(厳密にはこの時点では未だ当該基板バイアス電力Esの供給源であるパルス電源装置60から各被処理物100,100,…に電流が流れていないので基板バイアス電圧Vsが印加される)と、このうちのプラズマ300の空間内にあるそれぞれの被処理物(母材)100の表面に当該プラズマ300中のアルゴンイオンが照射される。このとき例えば、基板バイアス電圧Vsが−100Vとされることによって、当該アルゴンイオンが被処理物100の表面に対して高いエネルギ(高速)で衝突する。これにより、被処理物100の表面がアルゴンイオンによって洗浄され、いわゆるイオンボンバードが行われる。さらに、蒸発源20のアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bのいずれか一方または両方が気化される。なお、蒸発源20は、上述の如くアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bの両方を個別に気化させることができるが、いずれか一方のみを気化させることもでき、厳密にはそうなるように電子銃26がスキャン制御信号Scに従って制御されることもある。この蒸発源20からの気化粒子は、プラズマ300によってイオン化される。そして、このイオン化された気化粒子もまた、プラズマ300の空間内にあるそれぞれの被処理物100の表面に対して高いエネルギで照射される。これにより、被処理物100の表面が当該イオン化された気化粒子によって洗浄され、いわゆるメタンボンバードが行われる。
このイオンボンバードおよびメタルボンバードが所定の期間にわたって行われた後に、AlCrN膜を形成するための成膜処理が行われる。
即ち、真空槽12内へのアルゴンガスの供給流量が0mL/min〜60mL/minの範囲で適当に設定され、例えば30mL/minとされる。そして、このアルゴンガスに加えて真空槽12内に窒素ガスが供給される。この窒素ガスの供給流量は、次に説明する蒸発源20からのアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bそれぞれの気化量との兼ね合いに応じて適宜に設定され、例えば50mL/min〜300mL/minの範囲で適宜に設定される。併せて、蒸発源20のアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bが個別に気化され、つまり当該アルミニウム材料22aおよびクロム材料22bが上述の如く電子ビームeによって個別に加熱されて気化される。この蒸発源20からのアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bそれぞれの気化量は、特に当該アルミニウム材料22aおよびクロム材料22bに対する電子ビームeの照射時間比Ta:Tbと、電子銃26のパワーEBと、によって制御される。なお、坩堝24の半径方向を横切る方向における電子ビームeのスキャン周波数fxは、例えば500Hz一定とされ、当該坩堝24の半径方向における電子ビームeのスキャン周波数fyは、例えば50Hz一定とされる。そして、スキャン時間Tsは、例えば250ms一定とされ、各照射領域26bおよび26cそれぞれの形状は、図8(a)に示した一定の形状とされ、当該各照射領域26bおよび26cそれぞれの大きさもまた、適当な一定の寸法とされる。
真空槽12内に供給された窒素ガスの分子は、プラズマ300によって励起状態とされまたはイオン化される。これと同様に、蒸発源20からのアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bそれぞれの気化粒子もまた、プラズマ300によってイオン化される。そして、これらイオン化された各粒子、つまり窒素イオン,アルミニウムイオンおよびクロムイオンは、プラズマ300の空間内にあるそれぞれの被処理物100の表面に照射される。この結果、それぞれの被処理物100の表面に窒素とアルミニウムとクロムとの化合物であるAlCrN膜が形成される。なお、この成膜処理時の基板バイアス電圧Vsは、例えば−10V〜−150Vとされ、おおよそ−50Vとされる。
この成膜処理が所定の期間にわたって行われた後、蒸発源20によるアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bの気化動作が停止され、つまり電子銃26による電子ビームeの出力が停止される。併せて、真空槽12内へのアルゴンガスおよび窒素ガスの供給が停止される。そして、各被処理物100,100,…への基板バイアス電力Esの供給が停止される。さらに、フィラメント40へのフィラメント電力Efおよびフィラメントバイアス電力Efbの供給が停止されると共に、アノード板42へのアノード電力Eaの供給が停止される。そして、真空槽12内が高真空状態に維持されながら、所定の冷却期間が置かれる。このとき、各被処理物100,100,…を自公転させるためのモータ34は、駆動されたままの状態であってもよいし、停止されてもよい。そして、冷却期間の経過後、真空槽12内の圧力が大気圧に戻され、当該真空槽12内が外部(大気)に開放されて、その上で、当該真空槽12内から各被処理物100,100,…が外部に取り出される。これにより、成膜処理を含む一連の処理(1バッチ)が終了する。
ところで、プラズマ300中には上述の如くアルゴンイオン,窒素イオン,アルミニウムイオンおよびクロムイオンを含む様々な粒子が含まれている。そして、これらの粒子は、それぞれ特有の波長の光を発し、これにより、プラズマ300全体が発光して見える。このプラズマ300中のそれぞれの粒子から発せられる光は、上述のレンズユニット200によって捉えられ、詳しくは当該レンズユニット200の集光レンズ200aを介して光ファイバ210の光入射側端部に入射(集光)される。そして、この光ファイバ210の光入射側端部に入射された光は、当該光ファイバ210内を伝搬して、当該光ファイバ210の光出射側端部から出射され、つまりスペクトロメータ220に入射される。スペクトロメータ220は、自身に入射された光のスペクトルを測定する。なお、このスペクトロメータ220によるスペクトルの測定時には、上述したシャッタ90は開放される。そして、当該スペクトルの測定が終了すると、シャッタ90は閉鎖される。また、レンズユニット200と、このレンズユニット200による観測地点である焦点Fと、の間を、各被処理物100,100,…が通過するので、これら各被処理物100,100,…が当該間に存在しないときに(そのようなタイミングで)、スペクトル測定が行われる。
このスペクトロメータ220によるスペクトルの測定結果の一例を、図10に示す。この図10は、アルゴンガスの流量が30mL/min、窒素ガスの流量が115mL/min,真空槽12内の圧力Pcが9×10−2Pa,電子銃26のパワーEBが6.75kW,照射時間比Ta:Tbが9:3,アノード電流Iaが30A,アノード電圧Vaが50V,フィラメントバイアス電圧Vfbが−30Vであるときの、スペクトルである。なお、基板バイアス電圧Vsは、このスペクトルには無関係である。また、電子銃26のパワーEBについては、その電流成分Igが750mAとされ、電圧成分Vgが9kVとされることによって、6.75kWとされる。
この図10に示すスペクトルによれば、466.3nmという波長のアルミニウムイオン(Al)のピークが見られる。このアルミニウムイオンのピークの大きさは、当該アルミニウムイオンの発光強度を示し、このアルミニウムイオンの発光強度は、プラズマ300中の当該アルミニウムイオンの量に相関し、概ね比例する。そして、396.1nmという波長のアルミニウムラジカル(Al)のピークが見られる。このアルミニウムラジカルのピークの大きさもまた、当該アルミニウムラジカルの発光強度を示し、このアルミニウムラジカルの発光強度は、プラズマ300中の当該アルミニウムラジカルの量に相関し、概ね比例する。また、プラズマ300中のアルミニウムラジカルの量は、当該プラズマ300中のアルミニウムイオンの量に相関し、概ね比例する。従って、このスペクトルにおけるアルミニウムラジカルまたはアルミニウムイオンのピークの大きさに基づいて、プラズマ300中のアルミニウムイオンの量を推測することができる。なお、アルミニウムラジカルのピークの方がアルミニウムイオンのピークよりも大きいことから、プラズマ300中のアルミニウムイオンの量を推測する際には、アルミニウムラジカルのピークの大きさに基づくのが適当である。
また、この図10に示すスペクトルによれば、520.8nmという波長のクロムラジカル(Cr)のピークが見られる。併せて、425.4nmという波長のクロムラジカルのピークが見られると共に、357.8nmという波長のクロムラジカルのピークが見られ、さらに、530nm前後の波長領域にもクロムラジカルのピークが見られる。これらのクロムラジカルのピークの大きさもまた、当該クロムラジカルの発光強度を示し、このクロムラジカルの発光強度は、プラズマ300中の当該クロムラジカルの量に相関し、概ね比例する。また、このプラズマ300中のクロムラジカルの量は、当該プラズマ300中のクロムイオンの量に相関し、概ね比例する。従って、このスペクトルにおけるクロムラジカルのピークの大きさに基づいて、特にその中で最も大きなピークの当該大きさに基づいて、プラズマ300中のクロムイオンの量を推測することができる。なお、このスペクトルにおいては、クロムイオンのピークは顕著には見られない。
これらのアルミニウムおよびクロムという言わば金属系元素の粒子のピークに比べて、アルゴンおよび窒素という言わばガス系元素の粒子のピークは遥かに小さい。例えば、真空槽12内にアルゴンガスおよび窒素ガスが供給される一方、蒸発源20によるアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bの気化動作が停止された状態で、つまりこれらアルミニウム材料22aおよびクロム材料22bに対する電子ビームe−の照射が停止された状態で、当該真空槽12内にプラズマ300が発生されたときのスペクトルの一例を、図11に示す。なお、この図11は、アルゴンガスの流量が55mL/min、窒素ガスの流量が30mL/min,真空槽12内の圧力Pcが9×10−2Pa,アノード電流Iaが30A,アノード電圧Vaが50V,フィラメントバイアス電圧Vfbが−30Vであるときの、スペクトルである。
この図11に示すスペクトルによれば、391.5nmという波長の窒素イオン(N )のピークが見られる。この窒素イオンのピークの大きさは、当該窒素イオンの発光強度を示し、この窒素イオンの発光強度は、プラズマ300中の当該窒素イオンの量に相関し、概ね比例する。また、357.7nmという波長の2価の窒素イオン(N 2+)のピークも見られる。この2価の窒素イオンのピークの大きさもまた、当該2価の窒素イオンの発光強度を示し、この2価の窒素イオンの発光強度は、プラズマ300中の当該2価の窒素イオンの量に相関し、概ね比例する。さらに、425nm前後の波長領域に窒素ラジカル(N )のピークが見られる。この窒素ラジカルのピークの大きさもまた、当該窒素ラジカルの発光強度を示し、この窒素ラジカルの発光強度は、プラズマ300中の当該窒素ラジカルの量に相関し、概ね比例する。また、このプラズマ300中の窒素ラジカルの量は、当該プラズマ300中の窒素イオンの量に相関し、概ね比例する。従って、このスペクトルにおける窒素イオンまたは窒素ラジカルのピークの大きさに基づいて、プラズマ300中の窒素イオンの量を推測することができる。なお、この図11に示すスペクトルにおいては、391.5nmという波長の(1価の)窒素イオンのピークが他のピークよりも大きいことから、プラズマ300中の窒素イオンの量を推測する際には、この391.5nmという波長のピークの大きさに基づくのが適当である。
併せて、この図11に示すスペクトルによれば、750nm〜820nm付近の波長領域にアルゴンラジカル(Ar)のピークが見られる。このアルゴンラジカルのピークの大きさもまた、当該アルゴンラジカルの発光強度を示し、このアルゴンラジカルの発光強度は、プラズマ300中の当該アルゴンラジカルの量に相関し、概ね比例する。また、このプラズマ300中のアルゴンラジカルの量は、当該プラズマ300中のアルゴンイオンの量に相関し、概ね比例する。なお、当該スペクトルにおいては、アルゴンイオンのピークは顕著には見られない。
ここで、図10に改めて注目すると、上述したように、この図10におけるアルミニウムラジカルのピークの大きさは、プラズマ300中のアルミニウムイオンの量に相関し、クロムラジカルのピークの大きさは、当該プラズマ300中のクロムイオンの量に相関する。従って、この図10におけるアルミニウムラジカルのピークの大きさとクロムラジカルのピークの大きさとの相互比は、プラズマ300中のアルミニウムイオンの量とクロムイオンの量との相互比に相関することになる。このプラズマ300中のアルミニウムイオンの量とクロムイオンの量との相互比は、蒸発源20によるアルミニウム材料22aの気化量とクロム材料22bの気化量との相互比に相関する。そして、このアルミニウム材料22aの気化量とクロム材料22bの気化量との相互比は、AlCrN膜を構成するアルミニウムとクロムとの組成比に相関する。
このことを利用して、パーソナルコンピュータ230は、スペクトロメータ230によるスペクトルの測定結果に基づいて、詳しくは当該スペクトルに含まれるアルミニウムラジカルのピークの大きさとクロムラジカルのピークの大きさとの相互比に基づいて、AlCrN膜を構成するアルミニウムとクロムとの組成比を求める。言わば、パーソナルコンピュータ230は、この組成比というAlCrN膜の成膜状況を監視する監視手段としても機能する。
この組成比に相関するアルミニウム材料22aの気化量とクロム材料22bの気化量との相互比は、主に電子銃26のパワーEBと、照射時間比Ta:Tbと、によって変わる。例えば図12に、電子銃26のパワーEB(厳密にはその電流成分Ig)が適宜に変更されたときのスペクトルを示す。なお、この図12は、アルゴンガスの流量が30mL/min、窒素ガスの流量が90mL/min〜125mL/min,真空槽12内の圧力Pcが1×10−1Pa,照射時間比Ta:Tbが9:3,アノード電流Iaが30A,アノード電圧Vaが50V,フィラメントバイアス電圧Vfbが−30Vであり、電子銃26のパワーEBの電圧成分Vgが9kVとされ、当該電子銃26のパワーEBの電流成分Igが300mA〜750mAの範囲で適宜に変更されたときの、スペクトルを示す。また、窒素ガスの流量については、上述の図11を含め、事前の実験によって種々取得された窒素ラジカルのピークの測定結果を参考にして適宜に設定され、特に電子銃パワーEBに応じて適宜に設定される。具体的には、電子銃パワーEBの電流成分Igが300mAまたは400mAであるときに、当該窒素ガスの流量は90mL/minとされ、電子銃パワーEBの電流成分Igが500mAであるときに、窒素ガスの流量は110mL/minとされる。そして、電子銃パワーEBの電流成分Igが600mAであるときに、窒素ガスの流量は120mL/minとされ、電子銃パワーEBの電流成分Igが700mAまたは750mAであるときに、窒素ガスの流量は125mL/minとされる。
この図12に示すスペクトルによれば、電子銃パワーEB(電流成分Ig)が大きいほど、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれのピークが大きくなる。ただし、電子銃パワーEBの大きさによって、アルミニウムラジカルのピークの大きさとクロムラジカルのピークの大きさとの相互比が変わる。これは即ち、電子銃パワーEBの大きさによって、アルミニウム材料22aの気化量とクロム材料22bの気化量との相互比が変わることを、意味する。
また、図13に、照射時間比Ta:Tbが適宜に変更されたときのスペクトルを示す。なお、この図13は、アルゴンガスの流量が30mL/min、窒素ガスの流量が140mL/min〜160mL/min,真空槽12内の圧力Pcが1×10−1Pa,電子銃パワーEBが6.75kW(=Ig×Vg=750mA×9kV),アノード電流Iaが30A,アノード電圧Vaが50V,フィラメントバイアス電圧Vfbが−30Vであり、照射時間比Ta:Tbが9:1〜9:4の範囲で適宜に変更されたときの、スペクトルである。また、窒素ガスの流量については、照射時間比Ta:Tbに応じて適宜に設定される。具体的には、照射時間比Ta:Tbが9:1または9:2であるときに、当該窒素ガスの流量は140mL/minとされ、照射時間比Ta:Tbが9:3であるときに、窒素ガスの流量は150mL/minとされ、さらに、照射時間比Ta:Tbが9:4であるときに、窒素ガスの流量は160mL/minとされる。
この図13に示すスペクトルによれば、照射時間比Ta:Tbが変わると、アルミニウムラジカルのピークの大きさとクロムラジカルのピークの大きさとの相互比が変わる。また例えば、アルミニウム材料22aへの電子ビームeの照射時間Taに対するクロム材料22bへの当該電子ビームeの照射時間Tbの比率(=Tb/Ta)が大きいほど、クロムラジカルのピークが大きくなる。これは即ち、照射時間比Ta:Tbによっても、アルミニウム材料22aの気化量とクロム材料22bの気化量との相互比が変わることを、意味する。
このことを利用して、パーソナルコンピュータ230は、スペクトロメータ230によるスペクトルの測定結果に基づいて、例えば当該スペクトルに含まれるアルミニウムラジカルのピークの大きさとクロムラジカルのピークの大きさとの相互比が一定となるように、蒸発源20の電子銃26のパワーEBと照射時間比Ta:Tbとを制御し、つまり上述したフィードバック制御を行う。これにより、AlCrN膜のアルミニウムとクロムとの組成比が一定となり、当該AlCrN膜の品質の安定化が図られる。
さらに、図14に、電子銃パワーEB(厳密にはその電流成分Ig)とアルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度との関係を示す。この図14に示すように、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度は、電子銃パワーEBに対して概ね比例する。加えて、この図14に、AlCrN膜の実際の成膜速度を重ね合わせて示す。この実際の成膜速度は、試験用の被処理物100(テストピース)としてのシリコン(Si)ウェハに所定時間(約20分間)にわたってAlCrN膜の成膜処理を施し、その膜厚を当該所定時間(成膜処理時間)で除した結果である。この実際の成膜速度から分かるように、当該実際の成膜速度もまた、電子銃パワーEBに対して概ね比例する。即ち、当該実際の成膜速度は、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度と相関する。言い換えれば、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルの一方または両方に基づいて、AlCrN膜の実際の成膜速度を推測し得ることが、期待される。
このことを利用して、パーソナルコンピュータ230は、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度の一方または両方に基づいて、つまりスペクトロメータ230によって測定されたスペクトルに含まれるアルミニウムラジカルのピークの大きさとクロムラジカルのピークの大きさとの一方または両方に基づいて、AlCrN膜の成膜速度を求める。ただし、AlCrN膜の成膜速度は、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度のみならず、真空槽12内の圧力Pcや基板バイアス電圧Vs等の他の所定の成膜条件にも依存する。従って厳密には、パーソナルコンピュータ230は、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度の一方または両方と、当該所定の成膜条件と、に基づいて、AlCrN膜の成膜速度を求める。そのために、パーソナルコンピュータ230(の記憶領域)には、これらアルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれの発光強度と、所定の成膜条件と、が種々に設定された環境下で実際にAlCrN膜の成膜処理が行われたときの当該AlCrN膜の成膜速度の測定結果が、いわゆるテーブルデータとして、予め記憶(データベース化)されている。そして、パーソナルコンピュータ230は、AlCrN膜の成膜速度を求める際に、このテーブルデータを参照する。
このように、パーソナルコンピュータ230は、AlCrN膜の成膜速度を言わば監視するが、当該AlCrN膜を構成するアルミニウムおよびクロムそれぞれの成膜速度を個別に監視することもできる。この場合、パーソナルコンピュータ230は、上述のテーブルデータを参照しつつ、アルミニウムラジカルの発光強度と所定の成膜条件とに基づいて、AlCrN膜を構成するアルミニウムの成膜速度を求めると共に、クロムラジカルの発光強度と当該所定の成膜条件とに基づいて、AlCrN膜を構成するクロムの成膜速度を求める。
加えて、パーソナルコンピュータ230は、AlCrN膜の成膜速度が一定となるように、とりわけ当該AlCrN膜を構成するアルミニウムおよびクロムそれぞれの成膜速度が一定となるように、蒸発源20を制御する。具体的には、パーソナルコンピュータ230は、アルミニウムラジカルの発光強度が一定となると共に、クロムラジカルの発光強度が一定となるように、蒸発源20の電子銃26のパワーEBと照射時間比Ta:Tbとを制御し、つまりフィードバック制御を行う。これにより、AlCrN膜の上述した組成比が一定になるのと合わせて、当該AlCrN膜の膜厚が均一となり、当該AlCrN膜の品質のさらなる安定化が図られる。
ここで改めて、図1〜図4に注目すると、プラズマ300中のアルミニウムイオンやクロムイオン等の各粒子は、各被処理物100,100,…それぞれの表面のみならず、覗き窓70の表面(内側面)にも付着し、つまり当該覗き窓70の表面にもAlCrN膜が形成される。なお、覗き窓70の表面は、上述のシャッタ90によって遮蔽されているものの、このシャッタ90は、スペクトロメータ220によるスペクトルの測定時には開放されるため、やはり当該覗き窓70の表面にAlCrN膜が形成されてしまう。そうなると、プラズマ300中のそれぞれの粒子から発せられる光は、この覗き窓70を透過しなくなり、ひいてはスペクトロメータ220によるスペクトルの測定が不可能になる。
例えば図15に、シャッタ90が開放されてからの経過時間に対するスペクトルの変化を示す。この図15は、アルゴンガスの流量が30mL/min、窒素ガスの流量が115mL/min,真空槽12内の圧力Pcが9×10−2Pa,電子銃26のパワーEBが6.75kW(=Ig×Vg=750mA×9kV),照射時間比Ta:Tbが9:3,アノード電流Iaが30A,アノード電圧Vaが50V,フィラメントバイアス電圧Vfbが−30Vであるときの、スペクトルである。
この図15に示すスペクトルによれば、シャッタ90が開放されてからの経過時間が長くなるほど、アルミニウムラジカルおよびクロムラジカルそれぞれのピークの大きさが小さくなり、併せて、アルミニウムイオンのピークの大きさもまた小さくなる。これは、覗き窓70の表面にAlCrN膜が形成されることによって、プラズマ300中のそれぞれの粒子から発せられる光に対する当該覗き窓70の光透過率が低下することによる。この状態が放置されると、覗き窓70は不透明になり、ひいては上述の如くスペクトロメータ220によるスペクトルの測定が不可能になる。
この不都合を回避するべく、例えば図16に示すように、真空槽12内において覗き窓70の表面を覆う透過部材としての透明フィルム400が設けられてもよい。この透明フィルム400は、これを含むフィルムユニット402によって提供される。このフィルムユニット402は、当該透明フィルム400がロール状に巻かれた巻き軸404と、この巻き軸404に巻かれた透明フィルム400を巻き取る巻き取り軸406と、を有しており、上述したフランジ80の小フランジ部84に代えて設けられたフィルム収容フランジ500内に設置される。具体的には、当該フィルム収容フランジ500は、覗き窓70を間に挟んで水平方向に互いに距離を置いて形成された2つの室502および504を有している。そして、これら2つの室502および504の一方である巻き軸収容室502内に巻き軸404が収容されると共に、当該2つの室502および504の他方である巻き取り軸収容室504内に巻き取り軸406が収容されるように、これら2つの室502および504を有するフィルム収容フランジ500内にフィルムユニット402が設置される。なお、各室502および504は、それぞれの内部にプラズマ300中の粒子が極力入り込まないような構造とされており、言わば当該それぞれの内部が真空槽12内から遮蔽された構造とされている。そして、透明フィルム400のうち、これら各室502および504の外部にある部分については、真空槽12内に露出した状態にあり、この露出した部分によって、覗き窓70の表面が覆われている。ここで言う透明フィルム400は、比較的に高い耐熱性を有しており、また、覗き窓70と略同様、320nm〜900nmの波長領域で90%以上の平坦な光透過特性を示すものであり、例えばPET(Poly Ethylene Terephthalate)樹脂製である。
このようなフィルムユニット402が設けられることで、つまり真空槽12内において覗き窓70の表面が透明フィルム400によって覆われることで、当該覗き窓70の表面にAlCrN膜が形成されるのが防止される。そして、プラズマ300中のそれぞれの粒子から発せられる光は、当該透明フィルム400および覗き窓70を介してレンズユニット200(集光レンズ200a)に入射され、ひいては光ファイバ210を介してスペクトロメータ220に入射される。ただし、この場合は、覗き窓70の表面に代わって透明フィルム400の表面にAlCrN膜が形成される。そこで、この覗き窓70の表面を覆っている透明フィルム400は、適宜に更新され、詳しくは巻き取り軸406によって適宜に巻き取られる。
より詳しくは、例えば今、スペクトル測定のためにシャッタ90が開放されることによって透明フィルム400の表面(厳密には覗き窓70の表面を覆っている側とは反対側の面)に多少のAlCrN膜が形成され、その後、当該シャッタ90が閉鎖された状態にある、とする。この状態をレンズユニット200が設けられている側から見た図を、図17(a)に示す。なお、この図17(a)において、円形の短破線で示される部分202は、レンズユニット200(集光レンズ200a)の入射瞳である。そして、網掛模様が付された円形部分600は、透明フィルム400の表面に形成されたAlCrN膜を示す。
この図17(a)に示す状態において、再度、スペクトル測定が行われる際には、図17(b)に示すように、巻き取り軸406によって透明フィルム400が適量分だけ巻き取られる。この間、シャッタ90は閉鎖された状態にある。その上で、図17(c)に示すように、シャッタ90が開放され、この状態で、スペクトル測定が行われる。その後、シャッタ90が閉鎖されて、図17(a)に示した状態となる。
このようにして覗き窓70の表面を覆っている透明フィルム400が適宜に更新されることで、プラズマ300中のそれぞれの粒子から発せられる光に対して当該透明フィルム400および覗き窓70が透明である状態が維持される。これにより、スペクトロメータ220によるスペクトル測定が確実に実現されるようになる。
なお、図17(a)に示した状態から図17(b)に示した状態に遷移するのに要する時間、つまり透明フィルム400の巻き取り動作に要する時間は、数秒間であり、例えば5秒程度である。そして、図17(c)に示した状態にあるときに、つまりシャッタ90が開放された状態にあるときに、上述の如くスペクトロメータ220によるスペクトル測定が行われるが、このスペクトル測定に要する時間は、1秒間未満であり、例えば0.3秒間〜0.5秒間程度である。そして、このスペクトル測定に要する時間に応じた適当な時間にわたって、シャッタ90が開放された状態が維持される。このスペクトル測定は、一定の周期で、例えば数秒間〜数分間の間隔で、繰り返される。即ち、図17の(a)〜(c)に示した状態が、当該一定の周期で繰り返される。このときの透明フィルム400の巻き取りおよびシャッタ90の開閉は、基本的には図示しないモータやアクチュエータ等の適当な駆動機構による駆動力を利用して自動で行われるが、手動で行われてもよい。また、図示は省略するが、透明フィルム400の弛みを防止するべく、当該透明フィルム400に適当な張力を付与する張力付与機構が設けられてもよい。
以上のように、本実施形態によれば、AlCrN膜の成膜速度および組成比という当該AlCrN膜の成膜状況が監視されると共に、蒸発源20が適宜に制御されることで当該成膜状況が一定とされるが、そのために必要なスペクトル測定は、分光手段としての1台のスペクトロメータ220によって一括的に行われる。従って、光導出路と光フィルタと光検出器とから成るユニットが複数設けられる上述の従来技術に比べて、当該分光手段としてのスペクトルメータ220を含むイオンプレーティング装置10全体の構成の簡素化かつ廉価化が実現される。
また、真空槽12内の内部において覗き窓70の表面が透明フィルム400で覆われると共に、この透明フィルム400における当該覗き窓70の表面を覆っている部分が適宜に更新されることで、プラズマ300中のそれぞれの粒子から発せられる光に対して当該透明フィルム400および覗き窓70が透明である状態が維持される。従って、光導出路の光入射側端部が膜堆積の影響を受けるために成膜速度の測定が不可能になる従来技術とは異なり、多元系被膜の成膜状況の監視および蒸発源200の適宜の制御が確実に実現される。
なお、本実施形態で説明した内容は、飽くまでも本発明の1つの具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
例えば、粒子生成源制御手段としてのパーソナルコンピュータ230は、上述したように監視手段としても機能するが、この監視手段は、当該粒子生成源制御手段としてのパーソナルコンピュータ230とは異なる要素によって実現されてもよい。また、これら粒子生成源制御手段および監視手段は、パーソナルコンピュータ230という言わば汎用の機器ではなく、それぞれ専用の機器によって実現されてもよい。
そして、本実施形態においては、多元系被膜としてAlCrN膜を形成する場合について説明したが、これに限らない。例えば、AlCrN膜以外の上述したAlTiN膜等の窒化物膜、或いはBaTiO膜やZrPbO膜等の酸化物膜等の様々な多元系被膜を形成する場合にも、本発明を適用することができる。
さらに、覗き窓70については、硼珪酸ガラス製とされたが、これに限らず、例えばフッ化カルシウム(CaF2)製やフッ化マグネシウム(MgF2)製、或いは光学用合成石英(SiO2)製とされてもよい。これらフッ化カルシウム,フッ化マグネシウムおよび光学用合成石英は、硼珪酸ガラスの光透過波長領域の下限値である320nmよりも波長の短い200nm付近のいわゆる紫外線領域においても90%以上の高い光透過特性を有するので、このような短い波長領域においてもスペクトル測定をする必要がある場合には、つまりそのような被膜を形成する場合には、当該フッ化カルシウム,フッ化マグネシウムおよび光学用合成石英のいずれかを素材とする覗き窓70が採用されるのが、好ましい。この場合は、レンズユニット200(集光レンズ200a)および光ファイバ210についても、同様の光透過特性を示すものが採用されることが、肝要である。なお、青板(並ガラス)等の比較的に熱膨張係数が高い素材は、当該覗き窓70としては適さない。
加えて、本実施形態においては、真空槽12内の状態を目視で確認するための覗き窓70を利用してレンズユニット200が設けられたが、これに限らない。即ち、当該覗き窓70以外に専用の窓部材を設け、この専用の窓部材にレンズユニット200が設けられてもよい。この場合も、当該専用の窓部材として、必要とされる波長領域において高い光透過特性を示す素材製のものが採用されることが、肝要である。
そして、透明フィルム400については、ロール状のものが採用されたが、これに限らず、例えば平板状のものが採用されてもよい。この場合も、当該平板状の透明フィルムは適宜に更新されること、つまりはそうなるようにフィルムユニット402が構成されることが、好ましい。
また、透明フィルム400は、PET樹脂製とされたが、これ以外の樹脂製のもの、或いはガラス質製のものとされてもよい。特に、紫外線領域においても高い光透過特性が要求される場合には、上述の光学用合成石英等のように、当該要求に応え得る素材製のものが採用されることが、肝要である。
さらに、本実施形態においては、イオンプレーティング装置10を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、イオン化蒸着法やスパッタ法等のイオンプレーティング法以外の物理気相成長法を用いる成膜装置、或いはプラズマCVD法等の化学気相成長法を用いる成膜装置にも、本発明を適用することができる。
10 イオンプレーティング装置
12 真空槽
70 覗き窓
100 被処理物
200 レンズユニット
210 光ファイバ
300 プラズマ

Claims (10)

  1. 被処理物が収容された真空槽の内部にプラズマを発生させると共に該プラズマを利用して該被処理物の表面に複数の元素を成分とする多元系被膜を形成する多元系被膜形成装置において、
    上記プラズマ中の上記複数の元素それぞれの粒子から発せられる光を透過させる特性を有しており上記真空槽の壁部の一部を成すように該壁部に設けられた窓部材と、
    上記窓部材を介して上記光を上記真空槽の外部で受けると共に該光のスペクトルを一括的に測定する分光手段と、
    上記分光手段による上記スペクトルの測定結果に基づいて上記多元系被膜の形成状況を監視する監視手段と、
    を具備することを特徴とする、多元系被膜形成装置。
  2. 上記多元系被膜の形成状況は該多元系被膜の形成速度を含む、
    請求項1に記載の多元系被膜形成装置。
  3. 上記多元系被膜の形成状況は該多元系被膜を構成する上記複数の元素の組成比を含む、
    請求項1または2に記載の多元系被膜形成装置。
  4. 上記監視手段による監視結果に基づいて上記複数の元素それぞれの上記粒子の生成源を制御する粒子生成源制御手段をさらに具備する、
    請求項1ないし3のいずれかに記載の多元系被膜形成装置。
  5. 上記粒子生成源制御手段は上記多元系被膜の形成状況が一定となるように制御を行う、
    請求項4に記載の多元系被膜形成装置。
  6. 上記真空槽の内部において上記窓部材を覆うように設けられ上記光を透過させる特性を有する透過部材をさらに具備し、
    上記分光手段は上記透過部材および上記窓部材を介して上記光を受ける、
    請求項1ないし5のいずれかに記載の多元系被膜形成装置。
  7. 上記透過部材を更新する更新手段をさらに具備する、
    請求項6に記載の多元系被膜形成装置。
  8. 上記透過部材はその一部分によって上記窓部材を覆うと共に該透過部材のうち未だ該窓部材を覆うのに供されていない未使用部分については上記真空槽の内部に露出しないように設けられ、
    上記更新手段は上記透過部材における上記一部分の位置が上記未使用部分の領域内に変わるように該透過部材を移動させることによって更新を行う、
    請求項7に記載の多元系被膜形成装置。
  9. 上記透過部材は概略帯状のフィルムであり、
    上記更新手段は上記フィルムをその長さ方向に移動させることによって更新を行う、
    請求項8に記載の多元系被膜形成装置。
  10. 被処理物が収容された真空槽の内部にプラズマを発生させると共に該プラズマを利用して該被処理物の表面に複数の元素を成分とする多元系被膜を形成する多元系被膜形成方法において、
    上記プラズマ中の上記複数の元素それぞれの粒子から発せられる光を透過させる特性を有する窓部材が上記真空槽の壁部の一部を成すように該壁部に設けられており、
    上記窓部材を介して上記光を上記真空槽の外部にある分光手段で受けると共に該分光手段によって該光のスペクトルを一括的に測定する分光過程と、
    上記分光過程における上記スペクトルの測定結果に基づいて上記多元系被膜の形成状況を監視する監視過程と、
    を具備することを特徴とする、多元系被膜形成方法。
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