以下、監視装置等の実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
(実施の形態)
図1は、本実施の形態の監視装置1の構成を示す図である。
図2は、本実施の形態の監視装置1を説明するための概念図である。
図3は、本実施の形態の監視装置1の送受波器アセンブリ(探触子)7の構成の一例を示す図である。
監視装置1は、送受波器アセンブリ(探触子)7、発振器8、アレイ受信部101、格納部102、時刻取得部103、取得部104、合成部105、信号処理部106、及びパターン生成情報格納部107を備える。
監視装置1は、例えば、監視対象空間50に接して配置される。例えば、監視装置1は、送受波器アセンブリ(探触子)7が、監視対象物51に接するように配置される。なお、図2における監視対象空間50と、送受波器アセンブリ(探触子)7等との大きさの関係等は、必ずしも正確なものではない。
監視対象空間50とは、例えば、監視対象物51を内部に有する空間である。監視対象空間50は、目的領域と考えてもよい。監視対象空間50は、図示しない物体や物体の一部であってもよい。監視対象空間50内には液体等の物体を有していても良い。監視対象空間50は、例えば、生体である。監視対象空間50は、例えば、胎児を有する妊婦であってもよく、胎児を有する妊婦の腹部であってもよい。監視対象物51は、例えば、母体内の胎児心、つまり妊婦の腹部内の胎児心である。胎児心とは、胎児の心臓である。以下、本実施の形態においては、監視対象空間50が、妊婦の腹部であり、監視対象物51が胎児心である場合を例に挙げて説明する。このように、監視対象物51が胎児心等の胎児に関連したものである場合、監視装置1は、胎児監視装置や、胎児監視装置の一部として用いられるものと考えてもよい。ただし、監視対象空間50および監視対象物51は、妊婦の腹部および胎児心以外のものであってもよい。
送受信器アッセンブリ7は、照射開口面10を有しており、照射開口面10から平面波、球面波もしくは円筒面波を、監視対象空間50に対して一様に、もしくは監視対象空間50の一部の領域に対して選択的に、照射する。照射開口面10は、送波開口面とも呼ばれる。発振器8は、振動子9に高周波電力を供給する。高周波電力が供給されることで、発振器8から、平面波、球面波もしくは円筒面波が照射される。
ただし、監視装置1の、超音波を照射するための構成はどのような構成や仕様であってもよい。例えば、超音波を照射するための構成は、目的等にあった超音波の適切な送波あるいは照射が可能なものであればよい。例えば、波の進行方向に直行する面内において2mW/cm2〜10mW/cm2程度の連続波が照射できるものであってもよい。
送受信器アッセンブリ7は、観測開口面11を有しており、この観測開口面11には複数の受波エレメント12を有するアレイ受波器13が配置されている。観測開口面11は、受波開口面とも呼ばれる。
アレイ受波器13は、アレイ受信部101と接続されている。アレイ受波器13は、アレイアンテナとも呼ばれる。アレイ受波器13は、例えば、フェーズドアレイアンテナとして利用可能なものである。また、受波エレメント12は、受波エレメントや、アンテナ素子とも呼ばれる。
アレイ受波器13は、例えば、6x6(=総数36)や、8x8(総数64)、10x10(総数100)等の、マトリクス状等に配列された受波エレメント12を有する2次元アレイである。例えば、各受波エレメント12の受信面は、通常、同一平面状に配列されている。アレイ受波器13の受波エレメント12の分布は、平面形状が正方形となる分布である必要はなく、角の部分を切り捨てた近似的に円形を成すアレイであっても、また中央部近傍に受波エレメント12が配置されていない環状のアレイであってもよい。この場合、この中央部を高周波の照射のための開口部として用いてもよい。例えば、この中央の開口部に振動子9等を配置するようにして、この中央部から高周波を照射するようにしてもよい。
なお、ここでは、監視装置1が、送受波器アセンブリ(探触子)7を有している場合について説明したが、本発明においては、監視装置1が送受波器アセンブリ(探触子)7、あるいはその一部を有していなくても良い。例えば、監視装置1は、発振器8や、振動子9を有していなくても良い。
アレイ受信部101は、アレイ受波器13を構成する複数の受波エレメント12を用いて、受波エレメント12毎に、監視対象空間50内から送出される信号をそれぞれ受信する。アレイ受信部101が受信に用いる複数の受波エレメント12は、アレイ受波器13を構成する一部の受波エレメント12であってもよく、全ての受波エレメント12であってもよい。
アレイ受信部101は、アレイ受波器13の各受波エレメント12とそれぞれ接続されたエレメント受信器15を有していても良い。エレメント受信器15は、例えば、CWドプラ受信機で実現可能である。なお、エレメント受信器15は、個別のアナログ回路により実現されてもよく、初段低雑音増幅器(LNA)だけがアナログ回路で実現され、他の回路が、A/D変換とソフトウエア信号処理との組み合わせ等によって、ソフトウエアにより実現されてもよい。
アレイ受信部101の各エレメント受信器15の出力は、例えば、対応する受波エレメント12が受波した受波信号を、高周波電力を供給する送波側の発振器8から副次的に供給される統一された共通の送波キャリヤ16でもって直交検波器17により直交検波し、さらに適切な予め決められた帯域制限フィルタ18により帯域制限を課したものである。この後、受信信号を、A/D変換器19により、観測しなければならないドプラシフト周波数やダイナミックレンジに鑑みて適切なサンプリングレートおよび振幅分解能(即ちA/D変換のビット数)でA/D変換される。アレイ受信部101は、例えば、受信した信号(以下、受信信号と称す)に、図示しない時計等から取得した受信時刻を対応付けるようにしてもよい。
アレイ受信部101は、例えば、受波エレメント12毎に受信した受信信号を格納部102に蓄積してもよい。例えば、上述したA/D変換器19が、A/D変換した信号を格納部102に蓄積してもよい。ここでは、アレイ受信部101が受信した受信信号を格納部102に蓄積する場合を例に挙げて説明する。なお、アレイ受信部101は、例えば、受信信号に、図示しない時計等から取得した受信時刻を対応付けて、格納部102に蓄積する。また、受信信号に、受信に用いた受波エレメント12の識別子を対応付けて蓄積してもよい。この受波エレメント12の識別子は、例えば、各受波エレメント12にそれぞれ対応付けて、図示しない格納部等に予め格納しておくようにして、蓄積時等に適宜読み出すようにすればよい。
なお、仮に、系全体が上述したように初段低雑音増幅器(LNA)だけがアナログ電子回路でそれ以降がA/D変換とソフトウエア信号処理との有機的配置と結合でもっても実現(実装)される場合には、例えば、A/D変換器19は、ソフトウェアにより実現されてもよい。
なお、アレイ受信部101は、受信デバイス等の、受信のためのハードウェアを含むと考えても、含まないと考えても良い。
妊娠満期近くの胎児の心拍計測のために特化されることを考えると、この監視装置1において利用される超音波の周波数は1ないし2MHzが好ましく、典型的には1MHz程度が好ましい。例えば1MHzを採用する場合の事を考えると、監視対象空間50が水に近似され得る生体軟部組織である場合における監視対象空間50内の超音波の波長は1.5mmであり、この監視対象空間50内において、いわゆるフェーズドアレイ動作を行なった場合においてグレーティングローブが発生しないためには受波エレメント12間のピッチは波長の半分である0.75mmより広くは取れないこととなる。しかし、漸次漂動する監視対象物51である胎児の心臓を追いかけるという動作に必要な範囲では、受信方向を振る必要がある最大角度は、例えば、前後数度ないし10度程度であり、さほど大きくはない。また、受信レトロディレクティブ処理の動作そのものに取ってはグレーティングローブがあっても作業上は無害である事から、実用的に許容できるエレメントピッチは半波長相当の0.75mmよりは遥かに大きくてもよく、例えば2〜3mm程度であっても十分実用的であり得る。またこのように実務的に差し支えない程度の範囲内でエレメントピッチを広くして少ないエレメント数で開口面積を稼ぐ設計の方が、総合的な受信感度を高く取れるので好ましい。
ここで、超音波ドプラ法により母体内で移動する胎児の心臓の運動に呼応する信号のみを抽出することを考えた場合、受波エレメント12毎のエレメント受信器15は、観測したい運動成分に該当するドプラシフト周波数だけ離れた復調局発周波数を用いるヘテロダイン受信機であってもよい。この観測したい運動成分に該当するドプラシフト周波数は、送受信のキャリヤ周波数(超音波周波数)が1MHzの場合、心筋の運動を監視対象にするならば、実務的観点から見て例えば100Hz程度の周波数になる。ただし、この採用する超音波周波数および観測したいと想定するドプラシフト周波数は、本発明において、どのような値に設定してもよい。
また、この主旨のヘテロダイン受信は直交検波によるホモダイン受信に続くドプラフィルタでもって等価的に代理実現することができるので、エレメント毎の受信電子回路が見掛け上ヘテロダイン受信機かホモダイン受信機かの区別も本質的なものではない。上記のように、かかる信号処理はエレメントの受波信号をそのまま適切なサンプリングレートでA/D変換して取り扱うことにすれば全ての処理を、その後に続くソフトウエアにより実行することができる。
格納部102には、アレイ受信部101が受波エレメント毎に受信した受信信号が格納される。格納部102は、例えば、後述する処理等に必要な時間分の受信信号等が記憶可能な容量を有している。格納部102は、例えば、不揮発性の記憶媒体または揮発性の記憶媒体により実現される。例えば、A/D変換器19は、受信信号を格納部102に蓄積する際に、図示しない時計等から取得した受信時刻を対応付けて蓄積する。なお、受信時刻として、蓄積時刻を用いるようにしてもよい。
格納部102は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。かかることは、他の格納部においても同様である。
時刻取得部103は、アレイ受波器13の少なくとも一部の受波エレメント12を用いて受信した受信信号を用いて、監視対象空間50内の監視対象物51において発生した一のイベントに関連した時刻(以下、イベント関連時刻と称す)を取得する。時刻取得部103は、例えば、アレイ受波器13の少なくとも一部の受波エレメント12を用いてアレイ受信部101が受信した受信信号を用いて、イベント関連時刻を取得する。イベント関連時刻を取得する処理については後述する。時刻取得部103がイベント関連情報を取得するために利用する受信信号は、例えば、格納部102に格納されている受信信号である。ただし、利用する受信信号は、アレイ受信部101が各受波エレメント12を用いて受信して図示しない格納部等に蓄積(例えば一時記憶)した受信信号であってもよい。
監視対象物51において発生したイベントとは、例えば、監視対象物51において発生した事象である。監視対象物51において発生したイベントとは、例えば、監視対象物51において発生した動きである。例えば、監視対象物51が上述したような胎児心である場合、監視対象物51において発生したイベントは、胎児の心臓の動きである。監視対象物51において発生したイベントは、例えば、胎児心の心拍と考えてもよい。以下、本実施の形態においては、イベントが、一の心拍である場合を例に挙げて説明する。
イベント関連時刻とは、例えば、例えば、一のイベントが発生した時刻であってもよく、イベントによって発生した信号や、イベントによって変化した信号を受信した時刻等と考えてもよい。イベント関連時刻は、例えば、イベントが発生したことによって監視対象物51から送出された信号、あるいは、イベントが発生したことによって監視対象物51から送出された信号のうちの、イベントに応じて生じた部分を、アレイ受波器13の少なくとも一部の受波エレメント12が受信した時刻である。イベントに応じて生じた部分は、イベントに応じた箇所と考えてもよい。受波エレメント12が受信した時刻とは、受波エレメント12を用いて、アレイ受信部101が信号やその一部分を受信した時刻と考えてもよい。イベント関連時刻は、イベントが発生したことによって監視対象物51から送出された信号の特定の部分、あるいは、イベントが発生したことによって監視対象物51から送出された信号のうちの、イベントに応じて生じた部分のうちの特定の部分であってもよい。特定の部分とは、例えば受信強度のピークの部分である。
本実施の形態においては、監視装置1は、受信レトロディレクティブ処理を利用して、監視対象空間50内の監視対象物51の自動追尾を行なう。受信レトロディレクティブ処理については後述する。受信レトロディレクティブ処理による追尾を実現するためには、アレイ受波器13に対応した位相分布の初期値の取得等が必要となる。位相分布は、位相分布の情報と考えてもよい。位相分布は、例えば、フェーズマップや、フェーズテンプレートとも呼ばれる。このため、監視装置1の時刻取得部103は、例えば、位相分布の初期値等の取得を行なう。例えば、監視対象物51である胎児心を追尾する受信レトロディレクティブ処理を行なうための、位相分布の初期値の取得は、例えば、心拍現象に同期して、ないし歩調を合わせて行なわれることに特徴がある。言い換えればイベントドリブン的に行われることが特徴である。
時刻取得部103は、まず、受信レトロディレクティブ処理を実行する前のアレイ受信部101が複数の受波エレメント12を用いてそれぞれ受信した受信信号の中から選択的にあるいは一括平均的に一のイベントに関連したイベント関連時刻、例えば、一の心拍現象に関連したイベント関連時刻を取得する。このイベント関連時刻の取得は、イベント関連時刻の予備的な認識や、推定等と考えてもよい。
以下に、時刻取得部103が、一の心拍現象に応じて監視対象物51から送出された信号を用いてイベント関連情報を取得する処理の例を2つ挙げる。なお、本実施の形態における監視対象物51から送出される信号とは、例えば、監視対象物51が発信する信号であってもよく、監視対象物51により反射された信号であってもよい。ここでは、送出される信号が、監視対象物51である胎児心により反射された信号である場合について説明する。
(1)アレイ受波器13を構成する一または二以上の受波エレメント12が出力する信号に対して、それぞれ、胎児の心拍と考えられる周期性を有する信号振幅があるか否かを、順次判断する。そして、周期性を有する信号振幅が検出された場合、この周期性を有する信号振幅が示す部分が胎児の心拍信号であると判断して、胎児の一の心拍信号を検出して、その心拍信号に関連した時刻、例えば、心拍信号の受信時刻等を取得する。例えば、胎児の一の心拍信号を検出して、そのピークレベル到達時刻を取得する。このピークレベル到達時刻が、イベント関連時刻である。なお、どの受波エレメント12を利用するかは問わない。なお、ここでの心拍信号は、受信信号の心拍を示す部分と考えてもよい。
(2)アレイ受波器13を構成する二以上の受波エレメント12の出力の電力和を順次取得し、取得した電力和に、胎児の心拍と考えられる周期性があるか否かを順次判断する。そして、周期性を有する信号振幅が検出された場合、一の胎児の心拍信号を検出して、その心拍信号に関連した時刻を取得する。例えば、一の胎児の心拍信号を検出して、そのピークレベル到達時刻を取得する。このピークレベル到達時刻が、イベント関連時刻である。なお、どの受波エレメント12を利用するかは問わない。また、ここでの二以上の受波エレメント12は、アレイ受波器13を構成する全ての受波エレメント12であってもよい。
ここでの、胎児の心拍信号と考えられる周期性を有する信号振幅等を検出する処理は、例えば、本願発明者である竹内康人による発明である「特許文献2:特公昭56−7592」に開示されている技術等において、公知であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
なお、時刻取得部103による心拍等のイベントに関連した時刻を取得するための上記の(1)、(2)の2つの処理は、あくまでも一例であり、本願発明においては、これらのいずれかに限定される必要はない。同様に、胎児の心拍と考えられる周期性の検出や、周期性を有する信号振幅を検出した場合、どのように、心拍信号に関連した時刻を取得するかは問わない。
なお、アレイ受波器13を用いて受信した信号に対する心拍の推定や、心拍に関連した時刻の取得が困難な場合には、同じ監視対象空間50である妊婦について取得された胎児心電信号、胎児心音信号などの心拍イベント信号を他の装置(図示せず)から、受信するようにしても良い。この場合、時刻取得部103によるイベント関連時刻の取得は、イベント関連時刻の受信や受け付け等と考えてもよい。
また、時刻取得部103は、一旦、位相分布を取得した場合、上記の(1)、(2)で示したような、心拍信号に関連した時刻とを取得する処理を行なわないようにしてもよい。
なお、上述したような例えば信号のピークレベル到達時刻を認識するという作業は、通常、想定されたまたは予定された時間幅の中で信号レベルがこれ以上は上昇しないという事を確認する作業になるため、若干の時間を(時間遅れを)必要とする。このため、作業手続き上そのピーク時刻における到来信号群の位相分布を求めるためには最低その遅延時間分だけは信号群のデータを一時記憶しておく必要がある。従ってこの手続きはごく短時間であっても蓄積一括事後処理の作業様態を採用せざるを得ないことになる。図10に示すように、ここでの「ごく短時間」は典型的には、また原理上も、一心拍周期を超えることはなく、例えばその半分以下程度である。この信号のピークレベル到達時刻を認識するという作業は、例えば、本願発明者である竹内康人の発明(特開昭51−64780号公報)などに記載されている先行技術の一部を援用することにより実現可能である。
上記先行参考技術は、各々多少異なる思考を持つもののおしなべて、評価対象信号41に対して適切な閾値40を設けてこれを超えて信号レベルが上昇して行く時間帯42を捕足し、上昇中が終了した時刻43のあと予定された時間幅44(例えば前述の如く心拍周期の半分程度)だけ待っても再度上昇中が発生しかかった場合においてその「最後に起こった上昇中の終了の時刻43」をもって信号のピーク時刻とする、という手続きを取る。なお、機能上等価なピーク時刻認識のための信号処理手法には無数の類型ないし変形例があり得るので、この作業上必要とされるサブシステムとしてのピーク点認識の手法が本発明を拘束するものではない。
そこで本発明の実施においてはこの「信号レベル上昇中」の時間帯42においてアレイのフェーズのダイヤグラムの一時記憶(1個分あるいはスタック)を更新、追記ないし押し上げし続け、上昇中でない時間帯においては更新、追記ないし押し上げを行わない。而して事後に認証された信号のピークの時刻43における、その更新、追記ないし押し上げを中止された状態の一時記憶の内容が(スタックの場合は最後に押し込まれた最新のものが)該ピーク点において捕捉された位相分布となる。その後、それを必要に応じてノイズ取りや蓋然性検証等の処理の上でその時点で事後追認されたフェーズダイアグラムとして採用し、さらにその結果を必要に応じて前回や前々回のそれと一部更新の形式の移動平均の行程に付す。
この刻々と拍毎に更新されまたは移動平均されつつある位相分布の控えを利用して受波指向性合成をすると、次の拍のピーク時刻におけるアレイの指向性をそのピークを与える信号源の方位角に追尾する如く予め向け続けて待ち受ける事ができる可能性は非常に大きい。なぜなら監視対象のドプラ反射源(例えば胎児心)は次回の拍までのたった1拍分の時間の間にこのシステムの監視可能な覆域から逃げ出してしまう程には移動しない事は十分期待出来るからである。かくしてこの系が成功裏にこのような動作をし続ける限り、目的物(胎児心)が刻々と、しかしながらゆるやかに移動しても系の指向性を常時「追い掛け続ける」ことが出来る。
もちろんこのような位相分布の記述、維持および更新の作業は先述の如く位相分布自体をフレネルパターンで記述、すなわち方位角と焦点距離の数値データに抽象化して記述、また付加的にはフレネル近似で対応可能な範囲の開口寸法の情報に、抽象化して記述した上で行うのが最も計算量が少ないので好ましい。
取得部104は、アレイ受信部101が受波エレメント12毎に受信した各受信信号の、時刻取得部103が取得したイベント関連時刻に対応した部分を用いて、受信レトロディレクティブ処理を行って、監視対象空間内の監視対象物に対応した位相分布を取得する。イベント関連時刻に対応した部分とは、例えば、イベント関連時刻が示す部分である。イベント関連時刻に対応した部分とは、例えば、イベント関連時刻に受信した部分である。位相分布は、例えば、アレイ受波器13を構成する各受波エレメント12に対応して設定される位相分布である。
受信レトロディレクティブ処理とは、信号の送信に用いられるレトロディレクティブ処理を、アレイ受波器13を用いた信号の受信に用いる様にした技術である。受信レトロディレクティブ処理とは、2次元のアレイ状に配置された複数の受波エレメントを用いて、監視対象物から送信される信号を受信し、受信した信号の位相情報、例えば位相の分布を、2次元のアレイ状に配置された複数のアンテナ素子を用いた監視対象物に対する信号の受信に反映させる技術である。レトロディレクティブ処理は、例えば、複数のアンテナ素子が受信した信号の位相情報を用いて、複数のアンテナ素子を用いて送信される信号の処理に用いられる位相分布を取得する処理である。レトロディレクティブ処理については、公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。レトロディレクティブ処理については、例えば、「特許文献3:特開2005−223429」を参照されたい。
監視対象物51から送出される信号について行なわれる本願の受信レトロディレクティブ処理の基本的な考え方は、受波開口面における信号波の位相分布を観測して取得し、取得した位相分布をそのまま受信信号の復調に採用すること、即ち各受波エレメント12を用いて受信した信号を、位相分布に応じて合成すること、でもって受波指向性を、到来波面の到来方向(方位角)、即ち信号の到来方向に合わせるという点にある。つまり、位相分布を受信に利用する点が、位相分布を送信に利用するレトロディレクティブ処理とは異なる。同様に、取得した位相分布を信号の送波に再利用することで、送波指向性を、到来波面の到来方向(方位角)に合わせることも可能である。これを別な表現では位相共役(フェーズコンジュゲート)処理を行うと言う場合もある。また光学的にはコーナーリフレクターと同じ動作を行っていると言っても良い。これは信号源(反射源も含む)に常に受信指向性を向けておく、すなわち追尾する手続きの一般形として、フェーズドアレイ型のレーダーやソーナーでは良く行われる技術である。また、これはエコーを求めるための送信ビームの追尾にも採用され、送受一体として追尾レーダー、追尾ソーナーに採用される。
また、通常のレトロディレクティブ処理においては、送信先から送信されるパイロット信号を複数のアンテナ素子で受信して、その位相差から、送信時に利用する位相分布を取得するが、本実施の形態の受信レトロディレクティブ処理においては、イベント関連時刻に複数の受波エレメント12を用いて受信した各信号の位相分布を、受信に利用する位相分布(例えば、受波エレメント12を用いて受信した各信号を合成する際に用いる位相分布)として用いる。なお、イベント関連時刻に複数の受波エレメント12を用いて受信した各信号の位相分布に対して、補正等の予め決められた処理を行なったものを位相分布等として取得しても良い。
ここでは、例えば、受信レトロディレクティブ処理として、受波開口面11における信号波の位相分布を取得し、その位相分布を受信信号の復調に採用することでもって受波指向性を、また送波に再利用することで送波指向性を、信号の到来方向(方位角)に合わせる場合について説明する。ここではまず最も重要である受波指向性を合わせる場合について説明する。
取得部104は、例えば、アレイ受波器13を構成する各受波エレメント12が受信した信号の、時刻取得部103が取得したイベント関連時刻(例えば、ピークレベル到達時刻)に対応した部分、具体例を挙げるとイベント関連時刻に受信した部分を用いて、各受波エレメント12が受信した信号毎の位相の情報、あるいは、各受波エレメント12が受信した受信信号間の位相差を取得することで位相分布を取得する。例えば、取得部104は、上記のように取得した各受波エレメント12に対する位相の情報や、一の受波エレメント12の位相を基準とした各受波エレメント12の位相差の情報を、位相分布として取得する。例えば、各受波エレメント12に対して取得した受信時の位相の情報や、一の受波エレメント12の位相を基準とした各受波エレメント12の受信時の位相差の情報を、そのまま位相分布として取得する。取得する位相分布は、例えば、アレイ受波器13の位相分布と考えてもよく、アレイ受波器13を構成する各受波エレメント12に対応する位相分布と考えてもよい。なお、受信した信号から、位相や位相差の情報を取得する処理は公知技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
各受波エレメント12が受信した信号の、イベント関連時刻において各受波エレメント12が受信した部分は、イベントの発生時に監視対象物51から送出された信号であると考えることができる。また、各受波エレメント12が同じ時刻に受信した、一の監視対象物51から送出された一の信号の位相は、通常、監視対象物から送出される信号の伝搬方向と各受波エレメント12とがなす角度に応じて異なるものとなる。このため、上記のようにして取得した位相分布が、アレイ受波器13を構成する各受波エレメント12で受信した信号を合成して、監視対象物51が存在する方向から送信された信号を方位角と焦点を定めて取得する際に用いられる位相分布となる。もちろんこの位相分布は別途必要に応じてアレイ受波器13を構成する各受波エレメント12から、監視対象物51に向けて方位角と焦点を定めて信号を送信する際に用いる事も出来る。
なお、取得部104は、アレイ受信部101が受波エレメント毎に取得した各受信信号の、後述する信号処理部106が取得したイベント時期情報が示す部分を用いて、上記のような処理を行って、監視対象空間50内の監視対象物51に対応した位相分布を取得して、取得した位相分布で一つ前に取得していた位相分布を更新してもよい。例えば、一旦、時刻取得部103が取得したイベント関連時刻を用いて取得部104が位相分布を取得し、この取得した位相分布を用いて、合成部105が、各受波エレメント12を用いてアレイ受信部101が受信した受信信号の合成が行なった後は、後述する信号処理部106が、この合成部105が出力する合成した信号を用いて取得したイベント時期情報を利用して、位相分布を取得するようにしてもよい。
信号処理部106が取得するイベント時期情報は、イベントに応じて送出された信号を受信した時点や、受信したことを検出した時点に出力される受信(あるいは検出)時点を示す情報であってもよく、受信した時刻や、検出した時刻を示す上述したイベント関連時刻と同様の情報であってもよい。例えば、監視対象物51が胎児心である場合、心拍信号を受信したことを検出した時点に出力される、受信(あるいは検出)時点を示す情報であってもよく、心拍信号を受信した時刻や、検出した時刻を示す上述したイベント関連時刻と同様の情報であってもよい。受信信号の、イベント時期情報が示す部分とは、例えば、イベント時期情報が、検出時点を示す情報である場合、イベント時期情報が出力された時点に受信した部分であってもよく、イベント時期情報が、イベント関連時刻と同様の情報である場合、このイベント時期情報の時刻が示す部分や、イベント時期情報の時刻に受信された部分である。
このようにすることで、監視対象物51が移動した場合においても、監視対象物51に追従して監視対象物51から送出される情報を受信することができる。なお、この場合、取得部104は、信号処理部106が取得した全てのイベント時期情報について位相分布を取得しても良く、一部のイベント時期情報に対してだけ位相分布を取得してもよい。例えば、信号処理部106が取得するイベント時期情報のうちの、予め決められた数のイベント時期情報を隔てたイベント時期情報毎に、位相分布を取得しても良い。
取得部104は、受信レトロディレクティブ処理を行って取得した位相分布に対して、ノイズ取り処理を行なうようにしてもよい。
例えば、取得部104は、受信レトロディレクティブ処理を行って取得した位相分布に対して、ノイズ取り処理である2次元フィルタ処理を行うようにしてもよい。ノイズ取りフィルタ処理は、例えば、ソフトウェアを実行することで行なわれる処理である。2次元フィルタ処理は、例えば、突出した異常な値を持つエレメントのデータを補間代用する処理や、いわゆるスペックルノイズを抑圧する処理などである事が出来る。2次元フィルタ処理としては、例えば、通常の画像処理等において用いられる2次元フィルタ処理と同様の処理が利用可能である。ただし、取得部104が、ノイズ取り処理として、どのような2次元フィルタ処理を行なうかについては問わない。また、ノイズ取り処理として、2次元フィルタ処理以外のフィルタ処理を用いてもよい。
取得部104は、受信レトロディレクティブ処理を行って取得した位相分布において、ニュートンリング状の分布の検出を行い、検出された場合に、位相分布を、ニュートンリング型の位相分布パターンで置き換えるノイズ取り処理を行うようにしてもよい。置き換えに用いられる位相分布パターンは、例えば、検出されたニュートンリング状の分布に類似する形状を有する位相分布パターンである。置き換えに利用可能な一または二以上の位相分布パターンは、例えば、図示しない格納部等に格納される。
アレイ受波器13の各受波エレメント12の出力が、例えば、仮にドプラフィルタ15を経由したとすると、その出力は、図4に示すように、ある注目するドプラシフト周波数の成分に関して同相(i)および直交(q)の一対を成す複素信号21であると理解される。その振幅が該当する運動中の反射源の強さであり、位相すなわちn番目の信号の値(i,q)のベクトルの成す角度θnが反射源の瞬時位相角である(図5(a))。この振幅項は無視し、単位円上に投影した瞬時位相角だけの情報とする(図5(b))と、瞬時位相角の開口面全体に渡っての分布が、位相分布22である(図6)。しかしながら、それは時間的および空間的に見るとゆらぎを持つ。信号振幅が大きく確定的である受波エレメント12においてはこの位相項も時間的に安定していると期待されるが、信号振幅が小さいもしくは殆どあるいは全部がノイズであると思われる受波エレメント12においてはこの位相角も不安定になる。
アレイ受波器13全体としてみて、有意と考えられる信号を受信している時には、この位相分布は、例えば、開口面が平面で反射源が有限距離にある場合を考えると、図7に示す模式図のように、いずれかの位置を中心とするニュートンリング様のパターン22aになる。そこで、時間軸上であるサンプリング時刻におけるこの得られた位相分布をそのまま用いて事後指向性合成すると、粗雑な意味で受信レトロディレクティブ処理を実施したことになる。ここで事後指向性合性とは、エレメントの受信信号の位相項を全部「巻き戻して」位相を統一して加算することで1つの信号データを得ることである。巻き戻すとは、図8に示すように、iとqの成すベクトルにその位相を逆回転して直交成分がゼロになり同相成分だけが有意な値となるようにする処理である。これは位相項だけの成す単位円上の一点のベクトル(図5(b))を用いて1回の複素乗算で実施できる。これはまた、座標軸を回転させる処理と言っても良い(図8の23)。結果としてこの受信レトロディレクティブ処理は出力信号1チャンネルだけが得られる。注目すべき点は、もし全体として信号対雑音比が悪すぎる場合には位相分布が確定しないので、ただ単にアレイ受波器13全体の振幅を加算しただけの信号に帰結する、という点である。
しかるに、図9(a)に示すように、位相分布に何らかのニュートンリング様の成分が認められる場合にはそれを検出同定し、図9(b)に示すように、このニュートンリング様の成分に近い、ノイズの存在しないニュートンリングパターン24に位相分布を置き換えること(言い換えれば空間的に浄書すること)で、受信品質を大幅に向上させることができる。このニュートンリング様の成分の検出同定は、例えば、予め候補となるニュートンリング状のパターン群を図示しない格納部等に用意しておき、位相分布に対して、それらとのマッチングの程度を算出することで、ニュートンリング様のパターンを検出同定することができる。ニュートンリング様のパターンは、ニュートンリング形状のパターンと考えてもよい。ここでのマッチングの算出は、例えば、相関、類似度を算出することである。例えば、予め、ニュートンリング状のパターンと、このパターンの特徴量のデータとの組を、一以上図示しない格納部等に用意しておき、位相分布に対して類似する特徴量を有する部分を検出することで、適合するニュートンリング状のパターンを検出同定してもよい。また、一以上のニュートンリング状の位相分布パターンを図示しない格納部等に予め用意しておき、このニュートンリング状の位相分布パターンと、受信信号を用いて取得した位相分布とのパターンマッチングを行なって、類似度の高い(例えば、最も類似度が高い)ニュートンリング状の位相分布パターンを位相分布内において検出同定するようにしてもよい。あるサンプリング時刻において適切なニュートンリング状の位相分布パターンが推定された場合、それはその前後の相当の区間に渡って利用可能である。すなわち信号源(ドプラ反射源)、つまり、監視対象物51が移動したり消長したりしない限り、かかる受信レトロディレクティブ処理の役に立つ可能性は高い。ニュートンリング状の位相分布パターンは、ニュートンリング状の位相分布パターンを有するテンプレートと考えてもよい。なお、ニュートンリング状の位相分布パターンは、以下においては、ニュートンリング状パターンと呼ぶ場合がある。
また、各サンプリング時刻において検出同定された位相分布のうちの、サンプリング時刻の順番にそった予められた時間長の期間内の複数の位相分布を、バイアス除去を行なった後に平均化したり、個々の位相分布に対してノイズ低域フィルタの適用などのノイズ取り処理を行なうことにより、品質向上を図ることができる。なお、ニュートンリング様のパターンの検出同定を併用する場合、この検出同定は、上記のような時間的、あるいは空間的なノイズ取り処理のあとで行うことが好ましい
なお、上述したような、ニュートンリング状パターンはパターンそれ自体を2次元データとして持つ代りに方位角と焦点距離の2つの情報だけで管理運用することができる。すなわち方位角とはアレイの中心とニュートンリング状パターンの中心(apex)(25)との位置ずれ、焦点距離とはそのニュートンリング状パターンの鋭さないし曲率、である。実行する時にはそれらの情報に基づきその都度、計算を行なって、一以上のパターンを取得するか、あるいは、事前計算を行なうことによって作成した一以上のパターンを有する表を準備かによって、位相分布に利用するためのニュートンリング状のパターンの2次元データとする。つまり、取得部104は、置き換えに用いられるニュートンリング型の分布パターンを、後述するパターン生成情報格納部107に予め格納されている一以上のパターン生成情報を用いて生成するようにしてもよい。パターン生成情報は、方位角と焦点距離とを有する情報である。
また、この方位角と焦点距離を決めてアレイのデータ全体をニュートンリング状パターンで2次元コンボリューション処理すると言うプロセスは、処理結果の1点(1回線の信号データ)から見ると受信レトロディレクティブ処理であるが、コンボリューションの位置関係を2次元的のずらしながらアレイ全体を処理すればそれは取りも直さずフレネル変換を行っていることを意味する。ゆえにこのニュートンリング状パターンは一種のフレネルゾーンプレートであると言っても良い。が、一般的な用語の定義に遡るとフレネルゾーンプレートという用語は2値化された、すなわち0°か180°かの選択しか存在しないパターンを、もしくはさらに簡素化して透過か阻止かだけしか選択肢がないパターンを強く示唆するので、ここではあえて区別して表現している。
フレネル変換はフーリエ変換に2次元曲率のある位相分布を付加したものと理解される。ただし、その曲率が現実の波面との間で2次近似が成り立つ範囲でという前提であるとする。フーリエ変換は波面の傾きだけを色々変えて観測する事であるから、位相分布で見ると傾きと密度が異なる縞状の(もしくは波状トタン屋根型の)パターンだけに帰結する。この傾きと密度で方位角が決まるが、これだけでは受信波面は平面波のまま、すなわち無限遠点にピントが合った状態となる。これにさらに2次元曲面の波面の成すニュートンリング状の位相分布をつけ足すとフレネル変換になり、特定の距離にピントが合った状態になる。図11(a)のような、至近距離でない場合のように、位相分布22全体がフレネル変換の近似の範囲に入る場合とは異なり、図11(b)のように、至近距離においては、位相分布22に、近似で対応できない領域が存在するため、付加実施される曲率が現実の波面との間で2次近似が成り立つ範囲26内の受波エレメント12を処理対象の受波エレメント12を制限することでこの技術思想を維持することができる。近似が成り立たなくなる限界は、適宜自由に設定可能であるが、例えば1/4波長以上ずれ始めた場合、精度が低下するため、除外の対象とする程度で十分である。このように至近距離では結果に貢献せず、逆に夾雑物を与えるのみとなり得る受波エレメント12を除外してビームフォーミングないし受波焦点合成をするという思想は「ダイナミックアパーチュア」等と呼ばれ、汎用される通常のパルスエコー方式の超音波診断装置では古来常套技術であり、例えば典型的にはUSP4180790等に見られる。本発明の実施においてもこの技術を注意深く適用すれば効果が大きいと考えられる。
一方先にも述べた通り、この受信レトロディレクティブ処理の作業はそれ自身では方位角および焦点(信号源までの距離)が合った1チャンネルの信号をもたらすのみである。しかし、同じ位相分布を適用しつつアレイ全体への信号処理を1点抽出ではなく2次元フレネル変換に変更すると、方位角とピントが合ったままで目的反射源を中心として近傍の別な関心あり得るドプラ反射源多数を含んだドプライメージを得る事が出来る。この近傍の別な関心あり得る反射源とは、例えば胎児心の場合、受信レトロディレクティブアレイ構築のための主たる最強のドプラ反射源は心筋にするのが自然な成り行きであるがその傍らで心臓の各々の弁の動き、また心臓内外ないし近傍の血流である事が出来る。もちろんこの作業のための必要計算量は相当な物になりサンプリング時刻ごとにこれを実施するのは実際的ではない。それ故に目的のドプラ信号源が存在し得る心拍周期内の時間帯と方位角領域に処理を絞って、必要ならば多少の時間遅延を許容して一時記憶から事後処理的に行う事が好ましい。整合している位相分布を適用済みのアレイデータに対して、結果がフレネル変換になるために必要な付加処理は単純な2次元フーリエ変換である。
取得部104は、アレイ受信部101が受波エレメント12毎に受信した受信信号中の最も検出しやすい心拍信号成分を用いて、受信レトロディレクティブ処理を行って、位相分布を取得してもよい。最も検出しやすい心拍信号成分とは、例えば、最もレベルが高い、あるいは、レベルが閾値以上の心拍信号成分や、振幅が最も大きい、もしくは、振幅が閾値以上の心拍信号成分や、心拍信号において支配的な心拍信号成分である。
取得部104は、例えば、受信レトロディレクティブ処理において、アレイ受波器13の受波エレメント12ごとの固有のゲイン誤差、位相誤差、およびエレメントの近傍の至近距離の媒質のアベレーションのうちの一以上をバイアスデータとして検出してアレイ受信部101が各受波エレメント12毎に受信した受信信号を補正するようにしてもよい。例えば、比較的長い時間幅に渡ってエレメントのデータの統計を取るとかすると、隣接する近傍の、あるいはアレイ全体の、信号レベルや位相の統計値からのずれ(偏差値)をエレメントの個性として把握する事が出来るので、その個性の情報をバイアスデータとして採用する事が出来る。原理上開口面には長時間統計的には振幅や位相に偏りのない(すなわち平均化すれば振幅は一定、位相はゼロの、さらに言い換えるとランダムな)入射波が到来していると見なせるから、元来均一で得あるあるべき所に、エレメントの個性としてその信号振幅の大きさの統計値がアレイ全体より大小に偏っていたらその偏りはエレメントのゲインの固有のずれを意味する。それ故に時々刻々のエレメントの振幅データをその偏りの逆数の係数を掛けて平準化すればかかるバイアスを捨象する事が出来る。また位相差がゼロに収束せずある値に収束したらそれがエレメントの位相の固有のずれを意味するから時々刻々のエレメントの位相データからその値を常々差し引く事でかかるバイアスを捨象する事が出来る。
合成部105は、アレイ受信部101が、アレイ受波器13の複数の受波エレメント12毎に受信した受信信号を、取得部104が取得した位相分布に応じて合成して出力する。例えば、各受波エレメント12を用いて受信した受信信号を、取得部104が取得した位相分布を用いて一つに合成することで、監視対象物51から送出された信号を選択的に取得することが可能となる。なお、受波エレメント12毎に受信した受信信号を位相分布に応じて合成する処理は、フェイズドアレイアンテナ等の技術において公知であるため、ここでは、詳細な説明は省略する。
合成部105は、取得部104が一つ前に取得した位相分布を更新した場合、合成部105は、この取得部104が更新した位相分布を用いて、アレイ受信部101の複数の受波エレメントがそれぞれ受信した受信信号を合成するようにしてもよい。このようにすることで、監視対象物51の動きに追従して、監視対象物51から送出される信号を受信することが可能となる。
合成部105は、例えば、上述したように取得部104が位相分布に対してノイズ取り処理を行なった場合、このノイズ取り処理された位相分布を用いて、格納部102に蓄積された受波エレメント毎に受信された受信信号を合成してもよい。
なお、監視対象空間50が妊婦の腹部であり、監視対象物51が胎児心であり、イベントが心拍である場合、上述したように、取得部104が、アレイ受信部101が受波エレメント12毎に受信した受信信号中の最も検出しやすい心拍信号成分を用いて、受信レトロディレクティブ処理を行って、位相分布を取得した場合、合成部105は、例えば、取得部104が取得した位相分布を用いて、この受信レトロディレクティブ処理に用いた心拍信号成分以外の心拍信号成分を合成するようにしてもよい。
合成部105が合成する受信信号は、アレイ受信部101がリアルタイムに各受波エレメント12を用いて受信した各受信信号であってもよく、格納部102に格納されている受信信号であってもよい。例えば、合成部105は、アレイ受信部101が各受波エレメント12を用いてそれぞれ受信した受信信号を、取得部104が取得した位相分布を用いてリアルタイムに合成してもよい。また、例えば、格納部102に格納された過去にアレイ受信部101が各受波エレメント12を用いてそれぞれ受信した受信信号を合成するようにしてもよい。これにより、過去に受信された受信信号から、監視対象物51から送出された信号を選択的に取得することができる。
例えば、各々のサンプリング時刻において取得された位相分布は、サンプリング時刻の方向に適宜時間長に渡りバイアス除去の上での平均化、低域フィルタ適用などのノイズ取り処理をする事でさらに品質向上を図ることができる。ニュートンリングパターンの同定はかかる時間的空間的なノイズ取り処理のあとで行うことが、さらなる改良の手段である事ができる。
前記のサンプリング時刻の方向へのノイズ取り処理は、同一拍の中での先行するサンプリング時刻におけるフェーズマップもしくはフェーズテンプレートのデータを用いることの他に、先行する拍のもしくは先行する何拍かのフェーズマップもしくはフェーズテンプレートのデータまでも援用して行うことも好ましい実施例であり得る。
合成部105の出力は、合成した受信信号の出力である。ここでの出力は、例えば、信号処理部106への出力や、ディスプレイへの表示、プロジェクターを用いた投影、プリンタへの印字、音出力、外部の装置への送信、記録媒体への蓄積、他の処理装置や他のプログラム等への処理結果の引渡し等を含む概念である。合成部105は、出力デバイスを有していても良く、有していなくても良い。
信号処理部106は、合成部105が合成して出力した信号に対して、予め決められた一以上の処理を行なう。信号処理部106は、例えば、合成部105が合成して出力した信号を用いて、監視対象物51において発生したイベントに関連した時期を示す情報(以下、イベント時期情報と称す)を取得する。イベント時期情報は、イベントに応じて送出された信号を受信した時点や、受信したことを検出した時点に出力される受信(あるいは検出)時点を示す情報であってもよく、受信した時刻や、検出した時刻を示す上述したイベント関連時刻と同様の情報であってもよい。
信号処理部106が行なう一以上の処理は、例えば、通常のドプラ信号ベースの胎児監視装置(図示せず)が、妊婦の腹部等から受信した信号を用いて行なう処理と同様の処理である。例えば、以下の特許文献4に記載されているような、合成部105が出力した信号に対して、ドプラ受信機等に相当する処理を行ない、後続のフィルタ、検波、AGC/ALCなどの処理を行なった後に、心拍を検出し、心拍数計測を行なう処理である(特許文献4:米国特許第3991365号明細書)。
信号処理部106がイベント時期情報を取得する処理は、どのような処理であってもよい。例えば、信号処理部106は、例えば、時刻取得部103がイベント関連時刻を取得する処理と同様の処理を行なって、イベント時期情報を取得してもよい。また、例えば、監視対象空間50が妊婦であり、監視対象物51が胎児心であり、イベントが心拍である場合、信号処理部106は、合成部105が出力する信号に対して、超音波ドプラ法と同様の処理を行なうこと等により、心拍信号を受信した(あるいは検出した)時点を示すイベント時期情報や、心拍信号を受信した(あるいは検出した)時刻を示すイベント時期情報を取得しても良い。
なお、信号処理部106がどのような処理を行うかは問わない。例えば、監視対象物51から得られた超音波を用いて行なわれる処理であれば、どのような目的でどのような処理を行なっても良い。
信号処理部106は、予め決められた一以上の処理を行なうことで取得した情報を出力するようにしてもよい。ここでの出力は、上述した合成部105の出力と同様の概念である。例えば、信号処理部106は、取得したイベント時期情報を、取得部104に対して出力してもよい。例えば、信号処理部106は、イベント時期情報を取得した直後に、取得したイベント時期情報を取得部104に出力する。なお、信号処理部106は、取得したイベント時期情報の全てを取得部104に出力してもよく、出力しなくてもよい。例えば、予め決められた数のイベント時期情報毎に、一のイベント時期情報を取得部104に出力してもよい。
パターン生成情報格納部107には、上述したような、監視対象物51から送出される信号が入射される方位角と、監視対象物51との距離とを有する1以上のパターン生成情報が格納される。
なお、上述した超音波を監視対象空間50に照射する振動子9は、照射する超音波ビームの太さが、前記受信レトロディレクティブ処理により取得された位相分布により特定される受信ビームの太さよりも太い、または、受信焦点の大きさよりも大きい振動子であることが好ましい。超音波ビームや受信ビームの太さとは、例えば、超音波ビームや受信ビームの直径である。このような構成にすることで、信号源となる監視対象物51が、監視対象空間50内において移動しても、受波信号が見失われる可能性を低下させることができる。
例えば、前記の例示された開口寸法(40x40mm)および受波エレメント数(8x8=64)の2次元アレイのアレイ受波器13を前記の周波数(1MHz)で運用すると、典型的な胎児心の腹壁からの深さ(7〜15cm)において音響学的似正しくピントが合った時の焦点の寸法は方位方向に3〜6mmと、結構鋭い物になる。胎児は静かにしているとは限らず突然自ら動いて(胎動をして)1拍の時間の間にこの範囲から逃げ出してしまう可能性はあり得る。そこで、そのような場合に対応する対策としては獲得した位相分布で実施する受信レトロディレクティブ操作において故意にピントをぼかしておく、例えば焦点寸法を10〜20mmの間の値となるように位相分布を修飾する事も好ましい施策であることができる。また追尾が拍ごとに刻々と成功裏に行われている限り前記のごとき鋭い焦点を用い、もし追尾が成功しなかった場合には全く振り出しに戻るのではなく心拍が再度捕捉されるまで前回までに維持できていた位相分布を「順次ぼかして」試行を続ける事も好ましい手法であることができる。位相分布をぼかす処理としては、通常の画像処理のぼかし処理と同様の処理が利用可能である。
次に、監視装置1の動作の一例について図12のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)監視装置1は、監視対象空間50に対し、振動子9から超音波の照射を開始する。例えば、監視対象空間50である妊婦の腹部に対して超音波の照射を開始する。
(ステップS102)アレイ受信部101は、アレイ受波器13の各受波エレメント12を用いて、監視対象空間50内から送出される信号を、順次、受信する。例えば、妊婦の腹部から送出される信号を受信する。
(ステップS103)アレイ受信部101は、受信した信号を格納部102に蓄積する。例えば、受波エレメント12の識別子と、受信時刻と対応付けて蓄積する。受波エレメント12の識別子は、例えば、座標であってもよい。
(ステップS104)時刻取得部103は、アレイ受信部101が受波エレメント12毎に受信した信号の1以上を用いて、イベント関連時刻を取得する。例えば、観察対象である胎児心の心拍周期に相当する部分を検出して、一の心拍信号を受信した際の受信時刻をイベント関連時刻として取得する。アレイ受信部101が受波エレメント12毎に受信した信号としては、ステップS103で格納された信号を用いてもよい。
(ステップS105)取得部104は、ステップS104で取得したイベント関連時刻と、アレイ受信部101が受波エレメント12毎に受信した受信信号とを用いた受信レトロディレクティブ処理を行なうことにより、位相分布を取得する。取得した位相分布は、図示しない格納部等に蓄積する。なお、取得部104は、取得した位相分布に対して、一以上のノイズ取り処理等を行なうようにしてもよい。
(ステップS106)合成部105は、ステップS105で取得した位相分布を用いて、ステップS102でアレイ受信部101が受波エレメント12毎に取得する受信信号を合成し、合成した信号を、信号処理部106に出力する。これにより、監視対象物51である胎児心から送出される信号を取得して出力することができる。
(ステップS107)信号処理部106は、合成部105で合成された信号を用いて、イベント時期情報を取得する。例えば、取得するイベント時期情報は、胎児心の心拍信号が検出された時点を示す情報である。信号処理部106は、取得した情報を、取得部104に出力する。
(ステップS108)信号処理部106は、合成部105で合成された信号や、ステップ107で取得したイベント時期情報等を外部、例えば、合成された信号を利用する後続の図示しない利用装置等に出力する。後続の利用装置は、例えば、胎児の心拍計測を行なう装置等である。また、例えば、図示しない外部のスピーカー等に出力することで、ドプラ信号音を出力することができる。また、信号処理部106は、上記の外部に出力する処理に加えて(あるいは変えて)、合成部105で合成された信号や、ステップS107で取得したイベント時期情報等を用いて、予め決められた一以上の処理(ただし、イベント時期情報を取得する処理は除く)を行なうようにしても良く、この処理により取得された情報を、図示しない他の装置等に出力してもよい。予め決められた一以上の処理は、例えば、胎児心の監視に関連した処理である。なお、合成部105が、合成した情報を図示しない外部の装置等に出力するようにし、信号処理部106が、ステップS107で示した処理以外の処理を行なわない場合、このステップS108は、省略してもよい。
(ステップS109)取得部104は、イベント時期情報の受信に応じて、位相分布を新たに取得し、取得した位相分布で、一つ前に取得した位相分布を更新する。位相分布の取得処理は、ステップS105と同様である。なお、取得部104は、例えば、予め決められた時間が経過した毎に受信したイベント時期情報についてだけ、位相分布を新たに取得するようにしても良い。
(ステップS110)合成部105は、ステップS109で更新された位相分布を用いて、ステップS102でアレイ受信部101が受波エレメント12毎に取得する受信信号を合成し、合成した信号を、信号処理部106に出力する。そして、ステップS107に戻る。このようにして、ステップS107からステップS109の処理を繰り返すことで、例えば、一心拍ごとに位相分布を取得することによって、監視対象となる胎児心を追尾することが可能となる。また、例えば、後続の図示しない利用装置に必要な合成受信結果の信号ないしそれに関する情報を供給し続けることができる。
図12のフローチャートにおいて、何らかの不都合によりかかる受信レトロディレクティブアレイを含む信号獲得の動作が滞りもしくは途切れてしまった場合には、可及的にその時点で保持されていたフェーズテンプレートを援用しつつ蓋然性ある信号が受信されるのを待つ。さらにそれでも一定時間の後に蓋然性ある信号の獲得が回復出来なかった場合には振り出しに戻って処理の再開を試みる。また勿論電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。
以上、本実施の形態によれば、監視対象物の動きに追従して、監視対象物51から送出される信号を適切に取得することができる。これにより、適切に、監視対象物を監視することができる。
特に、本実施の形態によれば、位相分布の初期値を自動で取得することができるため、監視開始時に、監視対象物の位置に合わせて、アレイ検波器等の設置を行なう必要がなく、容易にかつ高精度が監視を行なうことができる。
なお、上記各実施の形態において、各処理(各機能)は、単一の装置(システム)によって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置によって分散処理されることによって実現されてもよい。
また、上記各実施の形態では、信号処理行程を含む監視装置がスタンドアロンである場合について説明したが、監視装置はセンサ側に寄り添う如く実装されたスタンドアロンの装置であってもよく、また近距離伝送を介した近隣の集中的資源によるエッジコンピューティングの形式を採るサーバ・クライアントシステムによる実装であってもよい。またさらにこれらの分散処理を行う計算および記憶の資源はネットワーク上の仮想空間に分布するクラウドコンピューティング形式で実装される事も妨げない。分散処理ないし分散実装の場合には、出力部や受付部は、通信回線を介して入力を受け付けたり、画面を出力したりすることになる。
また、上記各実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、あるいは、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、格納部(例えば、ハードディスクやメモリ等の記録媒体)にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、等価な機能が分散実行のためのネットワークコマンドを介してクラウドコンピューティング形式で実装される事も妨げない。
なお、上記各実施の形態における監視装置を実現するソフトウェアは、ネットワークコマンドを介してクラウド上の仮想空間に等価な機能が構築される場合も含め、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、コンピュータを、アレイ受波器を構成する複数の受波エレメントを用いて、受波エレメント毎に、監視対象空間内から送出される信号をそれぞれ受信するアレイ受信部と、アレイ受波器の少なくとも一部の受波エレメントを用いて受信した受信信号を用いて、監視対象空間内の監視対象物において発生した一のイベントに関連した時刻であるイベント関連時刻を取得する時刻取得部と、アレイ受信部が受波エレメント毎に受信した各受信信号の、イベント関連時刻に対応した部分を用いて、受信レトロディレクティブ処理を行って、監視対象空間内の監視対象物に対応した位相分布を取得する取得部と、アレイ受信部が複数の受波エレメント毎に受信した受信信号を、取得部が取得した位相分布に応じて合成して出力する合成部として機能させるためのプログラムである。
なお、上記プログラムにおいて、上記プログラムが実現する機能には、ハードウェアでしか実現できない機能は含まれない。例えば、情報を取得する取得部や、情報を出力する出力部などにおけるモデムやインターフェースカードなどのハードウェアでしか実現できない機能は、上記プログラムが実現する機能には含まれない。
また、このプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。