JP2017071670A - 潜熱蓄熱材及びそれを用いる蓄熱システム - Google Patents

潜熱蓄熱材及びそれを用いる蓄熱システム Download PDF

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Abstract

【課題】自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用することができる、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い蓄潜熱熱材を提供すること。【解決手段】リチウム、水素、及び13族元素又は15族元素から構成される化合物を含む、潜熱蓄熱材。【選択図】図7

Description

本開示は、リチウム、水素、及び13又は15族元素から構成される化合物を含み、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い潜熱蓄熱材及びそれを用いる蓄熱システムに関する。
近年、化石燃料の使用削減が求められており、各プロセスの省エネルギー化に加え、未利用熱の利用を推進する必要がある。一次エネルギーの約70%は有効利用されず、環境中に未利用熱として排出されている。例えば、自動車のガソリンエンジンは20%、発電は40%しか、燃料の持つエネルギーを有効利用できていない。このような未利用熱を貯蔵し、元の温度に近い温度で利用できる技術があれば、エネルギー回収、エネルギー再利用の点で非常に有効である。未利用熱源としては、自動車のガソリンエンジンの他に、発電のガスエンジン、ディーゼルエンジン等もある。また、工場、ごみ焼却場等からは多くの熱エネルギーが未利用のまま排出されている。
未利用熱を貯蔵する手段としては、大きく分けて、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱、及び化学蓄熱がある。このうち、顕熱蓄熱として、水を利用した100℃以下の温水蓄熱が知られている。しかし、温水蓄熱には、(1)放熱損失があるため長時間の蓄熱が不可能である、(2)水顕熱量が小さいため、大量の水が必要であり、蓄熱設備のコンパクト化が困難である、(3)出力温度が利用量に応じて非定常で、次第に降下する、等の問題がある。従って、このような未利用熱利用を推進するためには、より効率の高い蓄熱技術を開発する必要がある。
また、化学蓄熱は、物質の吸着、水和等の化学変化を伴うため、材料自体(水、水和塩、パラフィン等)の顕熱または潜熱を利用する蓄熱方法と比べて、単位質量当りの蓄熱量が高くなる。化学蓄熱としては、水蒸気の吸脱着による方法、金属塩へのアンモニア吸収(アンミン錯体生成反応)、アルコール等の有機物の吸脱着反応等が提案されているが、環境負荷及び装置の簡便性を考慮すると水蒸気吸脱着法が最も有利である。
また、潜熱蓄熱は、物質の融解等の相変化を利用したものである。潜熱蓄熱は、顕熱蓄熱に比べて、蓄熱密度が高く、相変化温度が一定であるために熱の取り出し温度が安定であるという利点を有している。このため、潜熱蓄熱の実用化が進んでいる。潜熱蓄熱を用いて蓄熱を行う場合、蓄熱時には、潜熱蓄熱材を加熱して液体状態とする。この後、液体状態が維持されるように、潜熱蓄熱材を保温した状態で保持する。保持された潜熱蓄熱材に蓄えられた熱は、必要なときに、潜熱蓄熱材を結晶化(凝固)させることによって取り出すことができる。
この潜熱蓄熱材のうち、化学蓄熱同等以上に蓄熱密度(単位質量当りの蓄熱量)の高い材料として、水素化リチウム(LiH)が知られている(特許文献1、2)。
特許第2746943号 特許第5498191号
しかしながら、前記特許文献1に記載の蓄熱器、特許文献2に記載の水素電力貯蔵システム及び水素電力貯蔵方法の水素化リチウムにおいて、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であることから、高い重量当り蓄熱密度を有するものの、融点672℃と高温であり、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流の400℃以下の温度範囲から排熱回収及び蓄熱できないという課題があった。
本開示は、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用することができる、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い潜熱蓄熱材及びそれを用いる蓄熱システムを提供することを目的とする。
前記従来の課題を解決するために、本開示は、
リチウム、水素、及び、13族元素又は15族元素から構成される化合物を含む、
潜熱蓄熱材を提供する。
本開示によれば、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用することができる、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い潜熱蓄熱材及びそれを用いる蓄熱システムを提供することができる。
本開示の蓄熱材を用いた蓄熱システムの一例を示す図である。 ステンレス密閉パンを用いた場合の装置定数算出のための示差走査熱量評価結果である。 比較例1の水素化リチウムの示差走査熱量評価結果である。 比較例1の水素化リチウムの示差走査熱量評価前のX線回折装置による解析結果である。 比較例1の水素化リチウムの示差走査熱量評価後のX線回折装置による解析結果である。 ステンレス圧力パンを用いた場合の装置定数算出のための示差走査熱量評価結果である。 本開示の実施例1のリチウムアミド(LiNH2)の示差走査熱量評価結果である。 本開示の実施例1のリチウムアミド(LiNH2)の示差走査熱量評価前のX線回折装置による解析結果である。 本開示の実施例1のリチウムアミド(LiNH2)の示差走査熱量評価後のX線回折装置による解析結果である。 アルミパンを用いた場合の装置定数算出のための示差走査熱量評価結果である。 本開示の実施例2のリチウムボロハイドライト(LiBH4)の示差走査熱量評価結果である。 本開示の実施例2のリチウムボロハイドライト(LiBH4)の示差走査熱量評価前のX線回折装置による解析結果である。 本開示の実施例2のリチウムボロハイドライト(LiBH4)の示差走査熱量評価後のX線回折装置による解析結果である。 アルミパンを用いた場合の装置定数算出のための示差走査熱量評価結果である。 本開示の実施例3のLiBH4とLiNH2との混合物の示差走査熱量評価結果である。 本開示の実施例3のLiBH4とLiNH2との混合物の示差走査熱量評価前及び評価後のX線回折装置による解析結果である。 比較例2のメチルリチウム(CH3Li)の示差走査熱量評価結果である。 比較例2のメチルリチウム(CH3Li)の示差走査熱量評価前のX線回折装置による解析結果である。 比較例2のメチルリチウム(CH3Li)の示差走査熱量評価後のX線回折装置による解析結果である。
本開示の第1態様は、
リチウム、水素、及び、13族元素又は15族元素から構成される化合物を含む、
潜熱蓄熱材を提供する。
第1態様の潜熱蓄熱材によれば、高い蓄熱密度、かつ400℃以下の温度範囲で蓄熱することができる。
本開示の第2態様は、例えば、第1態様に加えて、前記化合物が、リチウムアミド(LiNH2)である、潜熱蓄熱材を提供する。第2態様によれば、高い蓄熱密度、かつ400℃以下の温度範囲で蓄熱することができる。
本開示の第3態様は、例えば、第1態様に加えて、前記化合物が、リチウムボロハイドライト(LiBH4)である、潜熱蓄熱材を提供する。第3態様によれば、高い蓄熱密度、かつ400℃以下の温度範囲で蓄熱することができる。
本開示の第4態様は、例えば、第1態様に加えて、前記化合物が、リチウムアミド(LiNH2)とリチウムボロハイドライト(LiBH4)との混合物である、潜熱蓄熱材を提供する。第4態様によれば、高い蓄熱密度、かつ400℃以下の温度範囲で蓄熱することができる。
本開示の第5態様は、例えば、第1〜第4態様のいずれかにかかる潜熱蓄熱材を備える、蓄熱システムを提供する。第5態様によれば、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から400℃以下の温度範囲において排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用することができる。
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。なお、以下の説明は本開示の一例に関するものであり、本開示はこれらによって限定されるものではない。本開示において、水との結合・反応は、水の吸着、吸収と、化学的な水和、水酸化とが複合して起こる現象である。従って、本開示において「水酸化」とは水の吸着、吸収と、化学的な水和、水酸化とが複合して起こる結合・反応現象をいうものとする。
最初に、図1を参照しながら、本実施形態の潜熱蓄熱材を用いた蓄熱システムの一例を説明する。蓄熱システム100は、蓄熱装置10と、熱源装置20と、熱出力装置22と、これらの間で熱媒体を流通させる熱媒体流路14とを備える。蓄熱装置10は、潜熱蓄熱材を収容する容器12を備える。熱媒体流路14には、ポンプ16及び三方弁18が設けられている。熱媒体流路14は、熱媒体が容器12を介して潜熱蓄熱材と熱交換し得るように構成される。
蓄熱をする際には、熱媒体を矢印26の方向に流通させる。熱媒体は、蓄熱装置10と熱源装置20との間で循環し、蓄熱装置10内の潜熱蓄熱材を加熱する。これにより、潜熱蓄熱材が融解する。加熱温度は、潜熱蓄熱材が融解できれば、特に限定されない。
熱回収をする際には、潜熱蓄熱材を冷却して凝固させ、潜熱蓄熱材から熱を放出させる。このとき、熱媒体を矢印28の方向に流通させる。熱媒体は、蓄熱装置10と熱出力装置22との間で循環し、これにより、潜熱蓄熱材から放出した熱を熱出力装置22に回収することができる。回収された熱は、熱出力装置22から、始動時の暖機等の用途に応じて利用される。冷却温度は、潜熱蓄熱材の融点以下であれば、特に限定されない。
以上のように、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用するためには、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い材料が必要となるが、LiHは、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であることから、高い蓄熱密度(2170kJ/kg)を有するものの、固−液相変化温度も672℃と高温である。
これに対して、本実施形態の蓄熱システムは、本開示の潜熱蓄熱材を備え、前記潜熱蓄熱材を、冷却及び/又は加熱することによって、排ガス浄化触媒下流から400℃以下の温度範囲において排熱回収及び蓄熱を行うことができる。本開示の潜熱蓄熱材を使用できる温度範囲の下限値は、特に限定されないが、熱源として利用できる範囲である点から、60℃程度以上であればよい。
本実施形態の潜熱蓄熱材は、リチウム、水素、及び、13族元素又は15族元素から構成される化合物のみから実質的に構成されるものが望ましい。実質的に前記化合物のみから構成されるとは、潜熱蓄熱材に含まれる他の成分の含有量が5.0wt%未満であり、3.0wt%未満が望ましく、1.0wt%未満がより望ましく、0.5wt%未満がさらに望ましい。
本実施形態の潜熱蓄熱材に用いる前記化合物が含有する13族元素としては、ホウ素、アルミニウム等が挙げられ、ホウ素が望ましい。本実施形態の潜熱蓄熱材に用いる前記化合物が含有する15族元素としては、窒素が望ましい。
リチウム、水素及び13族元素から構成される化合物としては、リチウムアミド(LiNH2)が望ましい。
リチウム、水素及び15族元素から構成される化合物としては、リチウムボロハイドライト(LiBH4)が望ましい。
本実施形態の潜熱蓄熱材は、前記化合物を1種単独で使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。2種以上の混合物、例えば、LiNH2とLiBH4との混合物が望ましい。LiNH2とLiBH4との混合物を用いることにより、共晶を形成し、凝固点降下が生じるため、LiNH2及びLiBH4を単独で使用した場合と比較して、固−液相変化温度を更に低温化することができる。
以下に、実施例により本開示の蓄熱材をより詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されない。
以下の実施例及び比較例において、蓄熱密度の評価に用いる示差走査熱量測定(DSC)には、示差走査熱量計(TA Instruments製 DSC Q10)を用いた。示差走査熱量評価前及び後の試料の構造解析には、X線回折装置(Rigaku 製 RINT2000)を用いた。試料の重量は、電子天秤(PERKIN ELMER製 AD-6)を用いて測定した値である。なお、蓄熱密度の算出における測定容器による補正に用いる補正データの測定には、固−液相変化に伴う融解熱量が既知であるインジウム(モル融解熱量:3.281kJ/mol、原子量:114.82)を用いた。
<比較例1>
リチウム、水素から構成される化合物として、LiHについて、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:10deg/min、温度範囲:室温〜715℃とした。また、試料として、1.56mgのLiH(Alfa Aesar 製 41596)をステンレス密閉パンに入れて、評価を行った。
評価に当たり、示差走査熱量計及びステンレス密閉パンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、図2に示すように、蓄熱密度の測定値は33kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は0.866であると算出した。
図3に、LiHを用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。固−液相変化温度は672℃であり、蓄熱密度は、測定値である2506kJ/kgに装置定数0.866を乗じた2170kJ/kgである。
また、図4及び図5に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前後の試料は何れもLiHであり、示差走査熱量評価における吸熱ピークは、化学変化ではなく、物理変化(固−液相変化)に起因することが確認された。
以上のように、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用するためには、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い材料が必要となるのに対して、LiHは、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であることから、高い蓄熱密度(2170kJ/kg)を有するものの、固−液相変化温度も672℃と高温であった。
<実施例1>
リチウム、水素、及び窒素から構成される化合物としてリチウムアミド(LiNH2)について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜450℃とした。また、試料として、2.79mgのLiNH2(Alfa Aesar 製686050)をステンレス圧力パンに入れて、評価を行った。
評価に当たり、示差走査熱量計及びステンレス圧力パンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、図6に示すように、蓄熱密度の測定値は25.93kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は1.102であると算出した。
図7に、LiNH2を用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果から、1、2回目の測定値を平均すると、固−液相変化温度は371℃であり、蓄熱密度は、測定値である588.2kJ/kgに装置定数1.102を乗じた648kJ/kgである。
また、図8及び図9に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前後の試料は何れもLiNH2であり、示差走査熱量評価における吸熱ピークは、化学変化ではなく、物理変化(固−液相変化)に起因することが確認された。
本開示では、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、15族元素として原子量の小さい第2周期の窒素から構成されるLiNH2とすることにより、アニオン(NH2−)サイズの大きいイオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性を高めることができる。
このため、LiHの固−液相変化温度:672℃と比較して、固−液相変化温度を低温化(371℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料:NaOH(80)/NaC(20)(固−液相変化温度:370℃、蓄熱密度:370kJ/kg)より高い蓄熱密度:648kJ/kgを実現できた。
<実施例2>
リチウム、水素、及びホウ素から構成される化合物としてリチウムボロハイドライト(LiBH4)について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜450℃とした。また、試料として、6.32mgのLiBH4(Alfa Aesar 製686026)をアルミパンに入れて、評価を行った。
評価に当たり、示差走査熱量計及びアルミパンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、図10に示すように、蓄熱密度の測定値は24.85kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は1.150であると算出した。
図11に、LiBH4を用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果から、1、2回目の測定値を平均すると、固−固相転移温度は114℃であり、蓄熱密度(固−固相転移)は192kJ/kgであり、固−液相変化温度は286℃であり、蓄熱密度(固−液相変化)は、測定値である314.1kJ/kgに装置定数1.150を乗じた361kJ/kgである。
また、図12及び図13に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前後の試料は何れもLiBH4とアルミパンに起因するアルミニウム(Al)であり、示差走査熱量評価における吸熱ピークは、化学変化ではなく、物理変化(固−固相転移、及び固−液相変化)に起因することが確認された。
本開示では、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、13族元素として原子量の小さい第2周期のホウ素から構成されるリチウムボロハイドライト(LiBH4)とすることにより、更にアニオン(BH4 -)サイズの大きいイオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性が高めることができる。また、114℃にて結晶構造中のリチウムイオン(Li+)と錯イオン(BH4 -)の位置関係が変わる。
このため、LiHの固−液相変化温度:672℃、LiNH2の固−液相変化温度:371℃と比較して、固−固相転移、及び固−液相変化温度を更に低温化(286℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料:NaNO2、(固−液相変化温度:282℃、蓄熱密度:216kJ/kg)よりも高い蓄熱密度:361kJ/kgを実現できた。更に、固−液相変化に加えて、固−固相転移による蓄熱利用(温度114℃、蓄熱密度192kJ/kg)も可能となる。
<実施例3>
リチウム、水素、及び13族元素としてホウ素から構成される化合物としてLiBH4と、リチウム、水素、及び15族元素として窒素から構成される化合物としてLiNH2との混合物について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜450℃とした。また、試料として、LiBH4(Alfa Aesar 製686026)、LiNH2(Alfa Aesar 製 686050)を用い、下記の手順に基づき、ミリング処理を行った。
(1)グローブボックス内にて、モル比でLiBH4:LiNH2=1:3になるようにLiBH4とLiNH2をミリングポットに入れ、スパチュラで軽く攪拌する。
(2)ミリングポットにFeボール20個を入れ、Ar雰囲気の状態でミリングポットを閉め、グローブボックスから取出す。
(3)粉砕機(FRITSCH製 遊星型ボールミルP-7)に、ミリングポットをセットし、回転数370rpmで60分間ミリング処理を行う。
上記ミリング処理を行った試料1.46mgをアルミパンに入れて、評価を行った。
評価に当たり、示差走査熱量計及びアルミパンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、図14に示すように、蓄熱密度の測定値は38.11kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は0.750であると算出した。
図15に、LiNH2とLiBH4の混合物を用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果から、1、2回目の測定値を平均すると、固−液相変化温度は220℃であり、蓄熱密度(固−液相変化)は、測定値である408.5kJ/kgに装置定数0.750を乗じた306kJ/kgである。
また、図16に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前の試料は、Li4(BH4)(NH23であり、示差走査熱量評価後の試料は、Li4(BH4)(NH23、Li3(BN2)、及びアルミパンに起因するアルミニウム(Al)である。示差走査熱量評価前及び後の試料の変化は、350℃前後における水素発生に起因する。
本開示では、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、13族元素として原子量の小さい第2周期のホウ素から構成されるLiBH4と、リチウム及び水素に加えて、15族元素として原子量の小さい第2周期の窒素から構成されるLiNH2との混合物とすることにより、共晶を形成し、凝固点降下が生じるため、LiH、LiNH2、及びLiBH4と比較して、固−液相変化温度を更に低温化(220℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料よりも高い蓄熱密度を実現できる。
このため、LiHの固−液相変化温度:672℃、LiNH2の固−液相変化温度:371℃と比較して、固−固相転移、及び固−液相変化温度を更に低温化(286℃)することができるとともに、同温度範囲の従来材料:NaOH(20)/NaNO2(80)、(固−液相変化温度:232℃、蓄熱密度:252kJ/kg)よりも高い蓄熱密度:306kJ/kgを実現できた。
<比較例2>
リチウム、水素、14族元素として炭素から構成される化合物として、メチルリチウム(CH3Li)について、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価を行った。
示差走査熱量測定の測定条件は、アルゴン雰囲気(流量:50sccm)、圧力:0.1MPa、昇温レート:5deg/min、温度範囲:室温〜380℃とした。また、試料は、メチルテトラハイドロフラン(CH347O)に溶解したCH3Li(Aldrich製 710873)を再結晶化後、80℃にてベーキング処理を行ったものを、使用した。1.07mgの試料をステンレス圧力パンに入れて、評価を行った。
評価に当たり、実施例1と同様に、示差走査熱量計及びステンレス圧力パンを用いた場合の装置定数を算出した。試料として、インジウムを用いて評価を行った結果、図6に示すように、蓄熱密度の測定値は25.93kJ/kgであった。この結果に基づき、インジウムの融解熱量、原子量を用いて算出される蓄熱密度28.575kJ/kgに補正するための装置定数は1.102であると算出した。
図17に、CH3Liを用いた試料の固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度、蓄熱密度の評価結果を示す。この結果、1、2回目ともに、固−液相変化に伴う吸熱ピークではなく、発熱ピークが観察された。
また、図18及び図19に、示差走査熱量評価前及び後の試料のX線回折装置による解析結果を示す。この結果から、示差走査熱量評価前の試料は、CH3Liであるのに対して、示差走査熱量評価後の試料は、リチウムカーバイド(Li22)、水素化リチウム(LiH)、酸化リチウム(Li2O)、塩化リチウム(LiCl)であり、CH3Liが、Li22及びLiHに分解する発熱反応が生じていると推定される。
このように、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム及び水素に加えて、14族元素として炭素から構成されるCH3Liとした場合、CH3Liの分解反応が生じるため、固−液相変化温度の低温化及び同温度範囲の従来材料より高い蓄熱密度を実現することができなかった。
以上のことから、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム、水素、及び、13又は15族元素から構成される化合物とすることにより、イオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性が高まるため、LiHと比較して、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度を低温化することができるとともに、同温度範囲の従来材料よりも高い蓄熱密度を実現できる。
本開示にかかる潜熱蓄熱材によれば、イオン性の強い共有結合型分子、かつ低分子量であるLiHに対して、リチウム、水素に加えて、13、又は15族元素から構成される化合物とすることにより、イオン結合型分子となり、結晶構造の不安定性が高まるため、水素化リチウムと比較して、固−固相転移、及び/又は固−液相変化温度を低温化することができるとともに、同温度範囲の従来材料よりも高い蓄熱密度を実現できるため、400℃以下の温度範囲で蓄熱可能であり、かつ蓄熱密度の高い材料が必要となる、自動車、ガスエンジンヒートポンプ等の排ガス浄化触媒下流から排熱回収及び蓄熱し、始動時の暖機等に利用することができる。

Claims (5)

  1. リチウム、水素、及び、13族元素又は15族元素から構成される化合物を含む、
    潜熱蓄熱材。
  2. 前記化合物が、リチウムアミド(LiNH2)である、請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
  3. 前記化合物が、リチウムボロハイドライト(LiBH4)である、請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
  4. 前記化合物が、リチウムアミド(LiNH2)とリチウムボロハイドライト(LiBH4)との混合物である、請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材を備える、蓄熱システム。
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