次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本願では、方向を特定するため左右・前後の文言を使用しているが、これは、椅子に普通に腰掛けた人を基準にしている。正面図は着座した人と対向した方向である。念のため、図1に方向を明示している。
本実施形態は、オフィスで多用されている回転椅子に適用している。また、本実施形態の椅子は、人が着座すると背もたれの前部が前進するタイプであり、従って、例えば、特許第4960689公報に開示されている椅子と同じタイプである。
(1).椅子の概略・座の下降機構
まず、図1〜6を参照して、椅子の概略と座の動きとを説明する。図1のとおり、椅子は、主要要素として、脚装置1、座2、背もたれ3を備えている。脚1は、ガスシリンダより成る脚支柱4と放射方向に延びる枝部5とを有しており、各枝部5の先端にはキャスタを設けている。図4に示すように、脚支柱4の上端には、上向きに開口した略箱状のベース6が固定されている。
ベース6の前端部には、樹脂製やアルミダイキャスト製のフロントブロック7がボルトで固定されており、フロントブロック7には、左右一対のフロントリンク8が回動可能に取り付けられている。フロントリンク8は、人が着座していないニュートラル状態で、側面視で鉛直線に対して少し後傾しており、人が着座すると後傾する。後傾角度の規制は、図6から理解できるように、回転軸9に設けたストッパー10が、フロントブロック7の内部に設けた凹所11の底面に当たることによって行われている。フロントリンク8は、図示しないばねにより、ニュートラル状態に戻るように付勢されている。
また、図4〜6に示すように、ベース6は左右側板6aを備えており、ベース6の内部に、左右側板12aを有する傾動体12が配置されており、傾動体12は、左右長手の支軸13によってベース6に回動自在に連結されている。
図6に示すように、傾動体12の後部はベース6の後ろにはみ出ており、傾動体12の後部にリアブロック14が固定されている。そして、図4や図5(B)から理解できるように、リアブロック14は、ベース6の左右外側に位置した前向き腕部14aを有しており、前向き腕部14aの前端部にリアリンク15がピンで連結されている。また、リアブロック14の後部に背支柱16が固定されており、背支柱16の上端に背もたれ3を取り付けている。
図3,6に示すように、座2は、座インナーシェル17の上面にクッション18を張って、このクッション18を表皮材(図示せず)で上から覆った形態であり、座インナーシェル17は、樹脂製の座アウターシェル19に取り付けられている。そして、例えば図4に示すように、座アウターシェル19が、フロントリンク8及びリアリンク15に左右横長姿勢のピン20によって連結されている。人が着座すると、両リンク8,15がばね力に抗して後ろに倒れ回動し、これにより、座2は後退しつつ下降動する。ベース6の上面には蓋6bが固定されており、更に、これらは第1カバー21で覆われている。
図1や図2において、着座者から見て座2の左前部下方にレバー22aが配置されているが、これは昇降用レバーである。図4に示すように、着座者から見て座2の右前部下方には、ロッキングを制御するレバー22bを設けている。
(2).ロッキング機構
図6に示すように、リアブロック14は、傾動体12の後部に、押さえ板24を介してビス(図示せず)で固定されている。従って、リアブロック14は傾動体12と一体に回動する。図6に示すように、支軸13には、ロッキングに抵抗を付与するばね手段の一例として、ねじりコイルばね25が被嵌している。傾動体12が後傾すると、ねじりコイルばね25は、その一端と他端との間隔を狭めるように軸心周りに変形し、これにより、ロッキングに対して抵抗が付与される。
例えば図5に示すように、背支柱16は、左右2本の縦フレーム26を有しており、左右縦フレーム26の上端は連接部27を介して一体に繋がっている。また、左右縦フレーム26の間隔は下に向けて少しずつ広がっており、左右縦フレーム26の下端は、ブロック状のロアジョイント部16aに一体に繋がっており、ロアジョイント部16aが、リアブロック14にビス28(図6参照)で固定されている。
図5(B)のとおり、ロアジョイント部16aの前半分ほどは、リアブロック14に下方から重なっている。また、ロアジョイント部16aには左右一対の前向き係合部29を設けており、これら前向き係合部29は、リアブロック14に形成した係合溝30に下方から嵌まっている。
着座者が背もたれ3にもたれかかると、背支柱16とリアブロック14と傾動体12とは、ねじりコイルばね25を弾性変形させながら、支軸13を中心にして一体に後傾動する。また、リアリンク15はリアブロック14に連結しているので、リアリンク15もリアブロック14と一体に動くが、リアリンク15の取り付け部である前向き腕部14aの先端部は、支軸13よりも少し手前に位置しているため、リアリンク15は、ロッキングに際して少し上昇する。
従って、ロッキングに対して、ねじりコイルばね25のみでなく着座者の体重の一部も抵抗として作用するが、この着座者の抵抗の大きさは着座者の体重に比例するため、ねじりコイルばね25を大型化することなく、適度のロッキング抵抗を得ることができる。つまり、ロッキングに対する抵抗が、着座者した人の体重に自動に比例するのであり、このため、ねじりコイルばね25を小型化することができる。
図4,5に示すように、リアブロック14及びアジョイント部16aの上面は、左右一対の第2カバー31で覆われている。背支柱16は、樹脂製又はアルミダイキャスト製である。同様に、フロントブロック6及びリアブロック14も、脂製又はアルミダイキャスト製である。リアブロック14のうち、おおむね支軸13と同じ前後位置の個所には、肘当てを取り付けるための側面視略三角形の肘当て支持ボス32が左右外向きに突設されており、肘当て支持ボス32には、肘当て取り付け穴33が左右外向きに開口している。
(3).背もたれの前進機構
既述のとおり、人が着座すると背もたれ3の下端部が前進する。この背もたれ3の前進動は、図7に全体を表示した第1連動リンク35及び第2連動リンク36によって行われる。第1連動リンク35は、左右横長の基部35aと、基部35aの左右両端から手前に延びるアーム部35bと、基部35aの左右中間部から後ろ向きに延びる押動部35cとを有しており、図4に示すように、基部35aは、ベース6の後ろにおいて、リアブロック14及びロアジョイント部16aとに重なっている。
左右のアーム部35bはベース6の左右外面に配置されており、図7(A)(B)に示すように、アーム部35bの前後中途部に枢支穴37が形成されており、図7(A)及び図8(B)に示すように、枢支穴37の個所が、ピンを兼用する段付きボルト35dによって、リアブロック14の前向き腕部14aに回動自在に連結されている(なお、図8(B)では、段付きボルト35dは1つしか表示していない。)。従って、第1連動リンク35は、枢支穴37の個所を中心にしてシーソー状に上下回動し得る。
段付きボルト35dは、アーム部35bの左右内側から枢支穴37に挿通している。他方、リアブロック14の前向き腕部14aには、図8(B)に符号14fで示すように、上向きに開口したナット保持穴が枢支穴37と連通した状態に空いており、段付きボルト35dは、ナット保持穴14fにねじ込まれている。図8(C)に示すように、リアブロック14の前向き腕部14aに、段付きボルト35dの先端を逃がす貫通穴14eが空いている。
図8(A)(B)から理解できるように、リアブロック14には、第1連動リンク35のアーム部35aが嵌まり込む凹部14cを形成している。また、リアブロック14における前向き腕部14aの先端部には、アーム部35bの先端の回動を許容する空間14dが形成されている。
アーム部35bの先端は、リアリンク15の軸受け部15aに下向き突設した係合爪38に係合している。係合爪38は、リアリンク15がニュートラル状態のときに、水平に対して若干後傾した姿勢で後ろ向きに延びており、アーム部35bの先端には、係合爪38が上から嵌まる上向き開口の係合溝39を形成している。従って、人が着座してリアリンク15が後傾すると、第1連動リンク35は、その前端は下降して後端は上昇するように回動する。
第1連動リンク35における押動部35cの後端(上端)には、第2連動リンク36の下端部が上からの嵌め込みによって連結されている。すなわち、押動部35cの後端に、第2連動リンク36の下端が外側から嵌まり込んでいる。この場合、押動部35cと第2連動リンク36とは、相対姿勢が変化しないように嵌まり合っている。
そして、第2連動リンク36の上端には、側面視で前向きに開口したクリップ部40を形成している一方、背もたれ3を構成する背枠41のロアフレーム42には、クリップ部40を左右から挟むような左右のリブ43を設け、左右のリブ43に、クリップ部40が弾性に抗しての変形によって嵌まり込むピン部44を一体に設けている。
例えば図5(A)から容易に理解できるように、第2連動リンク36の上端は、第1連動リンク35の回動支点よりも遥かに上に位置している。従って、着座によって第1連動リンク35が回動すると、第2連動リンク36は全体として手前に移動する。これにより、背もたれ3は、その下端が前進するように姿勢が変化する。従って、前記した特許第4960689号公報の椅子と同様の効果が発揮される。
さて、背もたれが前進する移動量は、人が腰掛ける姿勢によって変化すべきである。つまり、背もたれの前進によって、人が前方へ押し出されることなく、浅く腰掛けた姿勢でも深く腰掛けた姿勢でも人の背中に当たった状態で止まるように工夫する必要がある。そこで、第1連動リンク35のアーム部35bのうち枢支穴37の後側の部位を変形許容部35b′となし、この変形許容部35b′を上下方向に撓み変形させることにより、背もたれ3の下部が人の背中(腰部)に当たった状態でそれ以上前進しないようにしつつ、リアリンク15が回動することを許容している。
このような機能は特許文献1も有しており、特許文献1では、ばね手段によって、人の腰掛け深さの位置の違いを吸収していたが、本実施形態のように第1連動リンク35の弾性変形を利用すると、部材点数を抑制してコストを大幅に抑制できると共に、組み立ての手間の抑制や組み付け精度の向上に貢献できる利点がある。
(4).背部の概要
次に、本願発明の核心である背部を、図9以下の図面も参照して説明する。例えば図9に示すように、背もたれ3は、前後に開口した背枠41と、背枠41の前面に重なった上下のシート保持枠46,47と、着座者の体圧を受ける可撓性シート48とを有している。可撓性シート48は、編地や織地のようなメッシュ状生地であり、横方向に強い弾性力が発揮されるように、強弾性糸を編み込んで(或いは織り込んで)いる。例えば図9や図11から判るように、上下のシート保持枠46,47の突き合わせ面は、水平面に対して傾斜している。正確には、両者の突き合わせ面は、正面視において、左右外側が低くて内側が高くなるように傾斜している。
図9に部分的に示すように、可撓性シート48の周囲には、樹脂テープ等からなる帯状の縁部材49を縫着等で固定しており、縁部材49は、シート保持枠46,47の裏面に装着(係止)されている。可撓性シート48は、シート保持枠46,47の前から裏側に巻き込まれているので、シート保持枠46,47は可撓性シート48によって全体が隠れているが、透けて見えることは有り得る。
また、シート保持枠46,47は、上シート保持枠46と下シート保持枠47とに分割されているが、可撓性シート48は1枚である。上シート保持枠46と下シート保持枠47との上下高さの比率は、任意に設定できる。
背枠41は、上下方向に長い左右のサイドフレーム50と、左右サイドフレーム50の上端に繋がったアッパーフレーム51と、左右サイドフレーム50の下端間に繋がったロアフレーム42とで構成されており、全体的には、正面視で概ね四角形になっている。
他方、アッパーフレーム51は折り曲げ状部を構成するものであり、その全体がサイドフレーム50の後ろに位置しており、側面視では、後ろ下向きに向かうように折り返された形態になっている。
他方、上シート保持枠46は、背枠41のサイドフレーム50に手前から重なるサイドメンバー52と、左右サイドフレーム50の上端に一体に繋がったアッパーシェル53とを有している。アッパーシェル53はアッパーメンバーと同じ意味であり、左右サイドメンバー52の上端間に延びる横長装架部53aと、横長装架部53aから後ろ下向きに曲がったカール部53bとを有しており、カール部53bが、背枠41のアッパーフレーム51に固定されている。左右サイドフレーム50の上端間を結ぶ線を基準線とすると、横長装架部53aは、平面視で少し後ろ向き凸状に湾曲しているものの、概ね、基準線に沿って延びている。
アッパーフレーム51は、側面視でサイドフレーム50の上端から後ろ下向きに折り返された形状になっている。このため、特段の措置を講じていないと、可撓性シート48の上端部では、当該可撓性シート48のテンションだけで着座者の身体を支えねばならず、すると、十分な身体支持力を保持できずに、身体が後ろにずれて不快感を与えたり、安定性が悪くなったりする虞がある。
これに対して本実施形態では、アッパーフレーム51を折り返しても、アッパーシェル53の横長装架部53aによって身体を支持できるため、身体が後ろにずれて不快感を与えたり、安定性が悪くなったりすることを無くすことができる。
図示の例では、横長装架部53aの前面は平面視で前向き凹状に緩く湾曲しており、可撓性シート48の前面の上端部が横長装架部53aの前面に重なっているが、横長装架部53aを、可撓性シート48の前面上端との間に間隔が空くように、後ろ側に大きく湾曲させる(曲率半径を小さくする)ことも可能である。この場合は、着座者の背中が横長装架部53aに当たることを防止又は抑制できる。人の背中に対する緩衝手段としては、横長装架部53aの前面に、ウレタンシート等の緩衝材を配置することも可能である。
下シート保持枠47の大部分は、背枠41のロアフレーム42に重なった水平状部47aで構成されており、水平状部47aの左右両端に、背枠41のサイドフレーム50の下部に重なる起立部47bを一体に設けている。
本実施形態では、背枠41のアッパーフレーム51と上シート保持枠46のカール部53bとが一体になって、折り曲げ状部を構成している。そこで、枠体41のアッパーフレーム51は、カール部53bで後ろからも覆われている。図2に示すように、カール部53bの全体が可撓性シート48で覆われている。また、アッパーフレーム51及びカール部53bの手前には、左右全長にわたって空間が空いている。
(5).背枠41及びその取り付け構造
次に、背もたれ3の詳細を説明する。まず、背枠41の構造と、背支柱16への取り付け構造を説明する。例えば図9から理解できるように、背枠41を構成するサイドフレーム50とロアフレーム42とは、前向きに開口した断面V形になっている。従って、着座者の体圧によって容易に変形するものではない。サイドフレーム50は、その下寄り部位が最も前になるように側面視で湾曲している。従って、可撓性シート48にはランバーサポート部が形成されている。他方、ロアフレーム42は、平面視で前向き凹状に緩く曲がっている。
図9や図15から理解できるように、サイドフレーム50は、基本的には前向き開口V型の横断面形状であるが、上端部はコ字形の浅い溝状になっている。他方、アッパーフレーム51のうちサイドフレーム50に連続した左右端部は、側面視でU形に曲がった平板状のヒンジ部54になっている。このヒンジ部54が変形して背もたれ3の姿勢が変化することにより、背もたれ3は、着座によって下端が前進する。
本実施形態では、ヒンジ部54はアッパーフレーム51の左右端部で構成されているが、サイドフレーム50の上端部もヒンジ部54の一部とすることは可能である。すなわち、サイドフレーム50とアッパーフレーム51との連接部をヒンジ部54と成すことが可能である(サイドフレーム50とアッパーフレーム51との境界は、厳密には特定し難いので、サイドフレーム50とアッパーフレーム51との連接部がヒンジ部54になっている見た方が合理的であるとも云える。)。
アッパーフレーム51において、容易な変形が許容されているのは左右端部であるヒンジ部54だけであり、ヒンジ部54を除いた部分は、着座者の体圧で容易には変形しない剛体構造になっている。そして、背支柱16の連接部27は背面視で上向き凸に湾曲している一方、アッパーフレーム51の左右中間部に、背支柱16の連接部27に上から嵌まるように下向きに開口したドーム部55を形成している。例えば図2に示すように、カール部53bの左右中間部にも、連接部27と嵌まり合う円弧状の下向き開口溝55′が形成されている。
また、アッパーフレーム51のうちドーム部55を挟んだ左右両端の部位は、左右外側に向けて高くなるように(ドーム部55に向けて低くなるように)傾斜しており、アッパーフレーム51を全体として見ると、背面視では、下向き凸に湾曲したナベ形状になっている。これに対応して、カール部53bも、背面視で下向き凸に湾曲したナベ形状になっている。
図13(A)に示すように、左右背支柱16の上端部に、左右外側に張り出した枝杆56が一体に形成されている一方、アッパーフレーム51のうちドーム部55の左右両側の部分には、枝杆56が嵌まる溝57を形成している。このように、アッパーフレーム51を枝杆56に嵌め込むことにより、支持強度のアップとねじれ防止機能強化とが図られている。
アッパーフレーム51と枝杆56とは、両者に下方から挿通したビスで締結されている。アッパーフレーム51には、ビスが螺合するナットを配置している。図9や図13(A)には、枝杆56のビス挿通穴58が見えている。図9に示すように、背支柱16を構成する左右縦フレーム26は、前向きに開口した平断面V形の溝状の形態になっている。従って、背支柱16も、着座者の体圧で容易に変形することは想定していない(着座者にクッション性を付与するような変形は想定していないという意味であり、全く変形しない完全な剛体であるという意味ではない。)。
(6).背枠へのシート保持枠の取り付け構造
本実施形態では、背枠41へのシート保持枠46,47の取り付けは、まず、上シート保持枠46を背枠41に取り付けてから、次いで、図13(B)に示すように、下シート保持枠47を背枠41に重ねる、という手順で取り付けられる。従って、上シート保持枠46のカール部53bが背枠41のアッパーフレーム51に嵌合することと、上シート保持枠46のサイドメンバー52が背枠41のサイドフレーム50に嵌合することとが、一連に行われる。尚、シート保持枠46,47には、後述の方法で予め可撓性シート48が取り付けられている。
そして、例えば図14に示すように、カール部53bとアッパーフレーム51との嵌合手段として、アッパーフレーム51に、左右中間から外側に向かって、順に、第1係合穴60,第2係合穴61,第3係合穴62が、左右一対ずつ上向きに開口するように形成されている一方、カール部53bの前面には、各係合穴60,61,62に対応して、第1〜第3の係合突起63〜65を設けている。
この場合、第1係合溝60は後ろと上とに開口した単純な形状であるが、第2係合溝61は上内面を有する後ろ向き開口の袋状で、第3係合穴62は、下向きにも開口した袋状になっている。一方、第2係合突起65は側面視でT型の爪形状であり(図9も参照)、第2係合穴61には弾性に抗しての変形によって嵌まる。そして、第2係合穴61に、第2係合突起65の上端が第2係合穴62の上内面に当接して、アッパーシェル53は(カール部53bは)上向き動不能に保持される。第2係合突起65の上部の前面は、弾性に抗して第2係合穴61に嵌まり込むことがスムースになるように、側面視で傾斜している(弾性変形により、上端の爪部が前後に移動する。)。
第3係合突起66は側面視L型の爪形状であり、この第3係合突起66が第3係合穴62に嵌まることにより、アッパーシェル53は(カール部53bは)、前後ずれ不能に保持される。なお、アッパーフレーム51には、ハンガーとベッドレストを取り付けることができるが、この点の説明は省略する。
図11,12では、背枠41は手前から見た状態に表示して、シート保持枠46,47は後ろから見た状態(180°程度反転させた状態)に表示している。これら図11,12から理解できるように、第1シート保持枠46のサイドメンバー52に、縦長の第1位置決め突起67と下向き鉤爪68との対を上下に3対後ろ向き突設している一方、背枠41のサイドフレーム50には、位置決め突起67を左右から挟む左右一対の第1触れ止め突起69と、下向き鉤爪68が上から嵌まる平面視門型の第1爪キャッチ70を上下に3段ずつ形成している。
下シート保持枠47を背枠41に取り付ける手段としては、まず、下シート保持枠47における起立部47の上端に上向き鉤爪71を突設し、その下方に第2位置決め突起72を形成し、更に、水平状部47aの左右両端に横向き鉤爪73を設ける一方、背枠41のサイドフレーム50には、上向き鉤爪71が下方から嵌まる第2爪キャッチ74と、第2位置決め突起72が手前から嵌まる第2触れ止め片75とを形成し、更に、ロアフレーム42には、横向き鉤爪73が係合する側面視門型の第3爪キャッチ76を設けている。
そして、背もたれ3の組み立てに際しては、まず、上シート保持枠46を上から下に向けて移動させることにより、カール部53bをアッパーフレーム51に装着するのと同時に、サイドメンバー52をサイドフレーム50に嵌め込み装着する。このとき、上シート保持枠46のサイドメンバー52とカール部53bとにより、背枠41の上部が前後から挟まれた状態になっているため、上シート保持枠46を、背枠41に対してスムースに装着できる。
また、サイドメンバー52とサイドフレーム50との関係について述べると、サイドメンバー52の下向き動により、第1位置決め片67が第1触れ止め片69の間に嵌まり込むと共に、下向き鉤爪68が第1爪キャッチ70に上から入り込む。これにより、サイドメンバー52は左右方向と前後方向とにずれ不能に保持される。サイドフレーム50への上シート保持枠46の嵌め込みの終期に、アッパーシェル53をアッパーフレーム51に押し付けて、係合突起63〜65を係合穴60〜62に嵌め込む。
そして、上シート保持枠46を背枠41に取り付けた状態で、図13(B)に示すようにして、まず、下シート保持枠47の上向き鉤爪71を、サイドフレーム50の第2爪キャッチ74に下方から嵌め込んで、左右の第2爪キャッチ74を支点にした状態で、下シート保持枠47を背枠41に押し付けると、第2位置決め突起72が第2触れ止め片69の間に嵌まり込むと共に、横向き鉤爪73が、その弾性に抗して変形することにより、第3爪キャッチ76に係合する。
そして、上下のシート保持枠46,47は1枚の可撓性シート48に取り付けられているため、下シート保持枠47を背枠41に装着すると、上下シート保持枠46,47は可撓性シート48によって互いに近づくように引かれる。このため、上下シート保持枠46,47と上下動不能に保持される。図6に示すように、下シート保持枠47は、背枠41のロアフレーム42にビス77で固定されている。ビス77は左右中間部に位置しており、第2連動リンク36の上端部で隠れている。このため、美観を悪化させることなく、下シート保持枠47をロアフレーム42に固定できる。
図9や図16に示すように、アッパーフレーム51の左右中間部(ドーム部55の上端部)には、前向きと上向きに開口した蟻溝78を設けており、蟻溝78に手前からナット(図示せず)を嵌め込むことができる。そして、背支柱16の上端とドーム部55の上端とには、蟻溝78に連通するビス穴79が空いている。下方からナットにビスをねじ込むことにより、ハンガー(図示せず)を取り付けることができる。
図15では、サイドメンバー52とサイドフレーム50との装着関係を表示している。縁部材49は、シート保持枠46,47に設けたボス80に掛け止めしている。そこで、縁部材49には、ボス80が嵌まる穴81を飛び飛びで空けている。ボス80は、カール部53bの外周縁の前面にも突設している。縁部材49には、鉤爪68,71,73と位置決め突起67,72との干渉を回避するための切り抜き穴が、飛び飛びで多数形成されている。
例えば図10,14に示すように、上シート保持枠46のカール部53bには、軽量化等のため、縦長のスリット82の群が左右に並べて形成されている。また、横長装架部53aの左右両端とサイドメンバー52との間には、前向きに開口した切り込み83が形成されている。この切り込み83により、サイドメンバー52とアッパーシェル53との相対的な弾性変形が容易化されて、背枠41のヒンジ部54の変形を容易にしている。つまり、ヒンジ部54の近傍箇所において、サイドメンバー52とアッパーシェル53とを縁切りすることにより、ヒンジ部54の変形に対してアッパーシェル53が抵抗として作用しないように配慮しているのであり、その結果、ヒンジ部54の変形が容易になる。
また、切り込み83の存在により、アッパーシェル53は、後ろ向きに曲がるような状態に多少は変形しやすくなっている。このため、人の背中が横長装架部53aに当たったときの緩衝作用に優れている。切り込み83は、左右中間部に1か所だけ形成したり、適当な間隔で左右方向に3つ以上形成たりというように、数は任意に設定できる。
本実施形態では、可撓性シート48はシート保持枠46,47に装着しているため、可撓性シート48の取り付け作業を簡単かつ正確に行える。更に、シート保持枠46,47を上下に分割し、背枠41に対して、下シート保持枠47を回動させて取付ける方式にしているが、下シート保持枠47は回動スパンを大きくして強い力を掛けることができるため、背枠41に対して、シート保持枠46,47を取付ける工程で、可撓性シート48に、テコの原理で強いテンションを付与することができる。この点、本実施形態の利点の一つである。
アッパーシェル53は、可撓性シート48の取り付けと保形との機能を併有しているが、アッパーシェル53をシート保持枠46,47に一体化しているため、それだけ構造が簡単化になると共に、可撓性シート48の取り付け精度も向上できる。この点も、本実施形態の利点の一つである。
本実施形態のように、背支柱16の上端の連接部27を円弧状に湾曲させて、カール部53bと噛み合わせた形態にすると、前後方向からの外力と平面視でねじる外力に対して高い抵抗を発揮して、剛性を高めることができる。更に、枝杆56は連接部27の上端よりも少し低くなっているため、前後方向からの外力に対する抵抗は一層向上している。
(7).その他
以上、本願発明の一例を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、保形部材はアッパーシェルには限らず、棒状の部材や平板状の部材であってもよい(いずれにしても、平面視で基準線に対して後ろに少し撓んだ形態であるのが好ましい。)。アッパーシェルを採用する場合、変形し易くするための手段として、左右長手のスリットを1本又は複数本多段に形成してもよい。
シート保持枠を使用せずに、メッシュ状等の可撓性シートを背枠に直接取り付けることも可能である。また、シート保持枠を使用する場合、縁部材を使用せずに、可撓性シートを、縫着やタッカー止め、或いは接着等によって、シート保持枠に取り付けることも可能である。
更に、シート保持枠を使用する場合、上下に分割せずに全体を一体化してもよい。或いは、上下3つ以上に分割したり、左右のサイドメンバーとロアメンバーとアッパーシェルとの4つの部分に分割したりすることも可能である。シート保持枠を左右の複数個に分割することも可能である。
着座によって背もたれの下部が前進するタイプの椅子に適用する場合、背もたれの姿勢変更を可能にする手段としては、実施形態のように背枠にヒンジ部を設けることには限らない。例えば、背支柱の枝杆56に、上向きに開口した左右横長の軸受け部を設ける一方、アッパーフレームに、軸受け部に上から嵌まる左右横長の軸部を設けるといったことも可能である(軸受け部をアッパーフレームに設けて、軸部を枝杆56に設けてもよい。)。或いは、アッパーフレームと背支柱とを左右横長のピン(支軸)で連結することも可能である。
着座によって背もたれの下部を前進させることに代えて、背もたれを、非着座状態で下部を前進させておいて、人の腰掛け深さに応じて背もたれの下部が後ろに押される構成を採用することも可能である(背もたれの下部の後退はばね手段で後ろから支えることになる。)。この場合は、座は、必ずしも下降させたり後退させたりする必要はないが、着座によって座を下降及び後退させてもよい。
図示した実施形態では、アッパーフレームを背支柱に固定しているが、サイドフレームを背支柱に固定することも可能である。この場合、アッパーフレームの左右中間部に手を当てて後ろに引くことが可能になる。アッパーシェルのうち少なくとも横長装架部の外面(前面)に、ウレタン等の緩衝材を重ね配置することも可能である。また、アッパーシェルの横長装架部とカール部とを別部材で構成するというように、アッパーシェルを前後複数の部材で構成することも可能である。
背支柱も、左右中間部に1本だけ配置した形態や、2本の縦フレームを平行に配置した形態など、様々な態様を採用できる。また、本願発明は、着座しても座の側面視姿勢が変化しないタイプの椅子にも適用できるのであり、この場合は、背もたれの下部や上下中途部を背支柱に固定したらよい。また、この場合は、背枠のヒンジ部は不要になる。
実施形態では、背もたれ(或いは背もたれ本体)の上端部と折り曲げ状部とによって側面視で逆U型の形態になっているが、逆V形に形成したり、下向き開口コ字型に形成したりすることも可能である。また、カール部は、背面視で逆三角形状や逆台形状のシャープなラインを有する形態に形成することも可能である。