以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について詳述する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る多気筒エンジンの排気装置100の概略構成図である。図2は、図1の概略側面図である。図3は、図1の概略正面図である。なお、図1では、後述する移動機構90Aの図示は省略している。
なお、以下の説明では、排気ガスの流れ方向における上流側を「上流側」、排気ガスの流れ方向における下流側を「下流側」、上流側の端部を「上流端部」、下流側の端部を「下流端部」、排気ガスの流れに沿った方向を「上下流方向」と各々称する。
図1に示されるように、本実施形態における多気筒エンジンの排気装置100は、エンジン1に取り付けられるものである。本発明におけるエンジン1は、車幅方向に4つの気筒12a〜12dが並ぶ直列4気筒4サイクルガソリンエンジンである。エンジン1のシリンダヘッド9には、車幅方向に沿って車両の右側から順に、第1気筒12a,第2気筒12b,第3気筒12c,および第4気筒12dが形成されている。
エンジン1は、各気筒12a〜12dにおいて、180℃Aずつずれたタイミングで気筒内の混合気に点火が行われて、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程がそれぞれ180℃Aずつずれるように構成されている。本実施形態では、第1気筒12a→第3気筒12c→第4気筒12d→第2気筒12bの順に点火が行われてこの順に排気行程等が実施される。
図1に示されるように、エンジン1のシリンダヘッド9には、上記混合気に点火を行う点火プラグ15が各気筒12の燃焼室に臨む位置に設けられている。
シリンダヘッド9には、気筒12毎に、2つの吸気ポート17および2つの排気ポート18が形成されている。吸気ポート17は、各気筒12内に吸気を導入するためのものである。排気ポート18は、各気筒12内から排気を排出するためのものである。各吸気ポート17には、当該吸気ポート17を開閉して吸気ポート17と気筒12内部とを連通あるいは遮断するための吸気弁19が設けられている。各排気ポート18には、当該排気ポート18を開閉して排気ポート18と気筒12内部とを連通あるいは遮断するための排気弁20が設けられている。吸気弁19は、吸気弁駆動機構30により駆動されて吸気ポート17を開閉し、排気弁20は、排気弁駆動機構40により駆動されて排気ポート18を開閉する。
吸気弁駆動機構30は、吸気弁19に連結された吸気カムシャフト31と、吸気VVT(Valiable Valve Timing)32とを有している。吸気カムシャフト31は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトの回転に伴い回転して吸気弁19を開閉駆動する。吸気VVT32は、吸気カムシャフト31と同軸に配置されてクランクシャフトにより直接駆動される所定の被駆動軸と吸気カムシャフト31との間の位相差を変更する。これにより、吸気VVT32は、クランクシャフトと吸気カムシャフト31との間の位相差すなわち吸気弁19のバルブタイミングを変更する。吸気VVT32としては、液圧式のものや電磁式のもの等が用いられる。
排気弁駆動機構40は、吸気弁駆動機構30とほぼ同様の構造を有しており、排気弁20およびクランクシャフトに連結された排気カムシャフト41と、排気カムシャフト41とクランクシャフトとの位相差を変更することで排気弁20のバルブタイミングを変更する排気VVT42とを有している。
次に、本実施形態に係る多気筒エンジンの排気装置100の構成について詳説する。
図1に示されるように、多気筒エンジンの排気装置100は、エンジン1の各気筒12a〜12dに各々独立して接続されて下流端が束ねられた4つの独立排気管52と、独立排気管52の下流端に接続された動圧排気系60Aと、動圧排気系60Aの下流端に接続された下流側排気管80と、動圧排気系60Aの後述する可動部62を上下流方向に変位させるための移動機構90A(図2,3参照)とを備えている。
<下流側排気管80の構成>
下流側排気管80は、1つの通路が形成された略円筒状部材である。各気筒12から排出された排気ガスは、後述するように、それぞれ独立して各独立排気管52を通過した後、動圧排気系60A内で合流し、その後、下流側排気管80を通って排気装置100の外部に排出される。下流側排気管80には、触媒装置やマフラー等が配置されている。
<独立排気管52の構成>
独立排気管52は、図1等に示されるように、気筒12の排気ポート18から下流側に延びる部材である。各独立排気管52には、気筒12から排出された排気ガスを動圧排気系60Aに導く独立排気通路52aが形成されている。各独立排気管52は、動圧排気系60Aの上流端に向かって延びており、動圧排気系60Aの上流端付近で束ねられて、動圧排気系60Aの上流端に接続されている。
<動圧排気系60Aの構成>
動圧排気系60Aは、独立排気管52から排出された排気ガスの流速を高めて、その高速の排気ガスにより負圧を発生させ、その負圧で他の独立排気管52から排気ガスを吸い出す(掃気する)ように構成されたものである。図1に示されるように、動圧排気系60Aは、全体として、その流路面積が、下流側に向かって次第に小さくなった後、一定状態を維持して延び、その後、下流側に向かって次第に大きくなるような形状を有している。
図1に示されるように、動圧排気系60Aは、上流端が独立排気管52に接続され、下流端が下流側排気管80に接続された筒状のアウターシェル61と、このアウターシェル61の内部にそれぞれ収容されるノズル部64、可動部62、およびディフューザ部63とを有する。ノズル部64、可動部62、およびディフューザ部63は、この順で上流側から順に配置されている。
<ノズル部64の構成>
図7に示されるように、ノズル部64は、上下流方向に延びる管状部材であり、独立排気管52の下流端から下流側へ延びている。ノズル部64は、アウターシェル61内の上流端部に配置されている。ノズル部64には、各独立排気通路52から排出された排気がそれぞれ独立して流入する4つのノズル内通路64a(図4,7参照)が形成されている。4つのノズル内通路64aは、4つの独立排気通路52にそれぞれ対応して設けられている。図4,7に示されるように、各ノズル内通路64aは、同一の構造を有しており、ノズル部64の中心軸X1周りに互いに等間隔(90°間隔)に並んでいる。
図7に示されるように、ノズル部64は、ノズル側ストレート部64bと、ノズル側縮径部64cとを有している。
ノズル側ストレート部64bは、独立排気管52の下流端から同一径を維持しつつ下流側に延びる円筒状をなしている。ノズル側ストレート部64b内のノズル内通路64aは、ノズル部64の中心軸X1に沿って直線状に延びている。
図7,9に示されるように、ノズル側ストレート部64bの周壁の下端部には、上流側緩衝部材65が設けられている。上流側緩衝部材65は、ノズル部64の外周面に取り付けられるリング状の部材である。上流側緩衝部材65の外周面は、可動部62における後述の湾曲部62aの内周面に沿った形状(断面円弧状)をなしている。具体的には、上流側緩衝部材65の外周面は、ノズル部64の中心軸X1上の点P1を中心とする半径R1の第1の球面C1の一部をなすように形成されている。つまり、中心軸X1を通る平面で上流側緩衝部材65を切断すると、その切断面の外縁(中心軸X1とは反対側の縁)が円弧状となる。点P1は、中心軸X1上で上流側緩衝部材65よりも上流側に位置している。
上流側緩衝部材65の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、膨張黒鉛とステンレスメッシュとを組み合わせて構成することができる。具体的には、例えば、帯状のステンレスメッシュシートに帯状の膨張黒鉛シートを重ね合わせたものをリング状に巻回し、その巻回したものを外周面が断面円弧状をなすように加圧成形することにより、上流側緩衝部材65を製造することができる。膨張黒鉛を用いたリング状部材は、一般的に、ガスケット等のシールリングとして用いられるものである。本実施形態では、このように一般的に用いられているシールリングを上流側緩衝部材65に用いることにより、上流側緩衝部材65にかかるコストを抑えることができる。
図7に示されるように、上流側緩衝部材65は、可動部62が上流方向に所定位置(後述する可動部62の可動領域の最上流位置)まで変位したときにノズル部64と可動部62との間に挟まれるように配置される。つまり、上流側緩衝部材65は、可動部62が上記所定位置まで変位したときに、可動部62の湾曲部62aに接触するように配置されている。このように配置されることにより、上流側緩衝部材65は、可動部62の上記所定位置からの上流方向への変位を阻止する。すなわち、上流側緩衝部材65は、可動部62の可動領域の最も上流側の位置(最上流位置)を規定する。
ノズル側縮径部64cは、ノズル側ストレート部64bの下流端から下流側に延びており、下流側に向かうに従って縮径する略円錐台形状をなしている。つまり、ノズル側縮径部64cの周壁は、下流側に向かうに従って中心軸X1側に傾斜するよう構成されている。これに伴い、ノズル側縮径部64c内のノズル内通路64aの流路面積は、ノズル側ストレート部64b内のノズル内通路64aの流路面積よりも小さくなっている。詳細には、ノズル側ストレート部64b内の流路面積は上下流方向全体に亘り一定であり、ノズル側縮径部64c内の流路面積は下流側に向かうに従って小さくなっている。ノズル部64の下流端の内径は、例えば、ノズル部64の上流端の内径の約半分に設定されている。
図4,7に示されるように、ノズル側縮径部64cの周壁には、ノズル内通路64aの内側と外側とを連通させる開口部64dが形成されている。図4に示されるように、開口部64dは、ノズル部64の中心軸X1周りに等間隔で(90°間隔で)設けられている。図5に示されるように、ノズル側縮径部64cの周壁の一部が、下流端から上流側に向かって略半円状に切り欠かれることで開口部64dが形成されている。ここで、ノズル側縮径部64cの周壁が、上記のように下流側に向かうに従って中心軸X1側に傾斜していることから、開口部64dは下流側に向けて開口している。
<可動部62の構成>
可動部62は、ノズル部64およびアウターシェル61と同軸上にあって上下流方向に延びる管状部材である。可動部62の中心軸X2は、可動部62がその可動領域の最上流位置にあるとき(図7参照)、および、最下流位置にあるとき(図9参照)に、ノズル部64の中心軸X1およびアウターシェル61の中心軸X3と一致する。
可動部62には、1つの通路が形成されている。可動部62は、独立排気通路52aからノズル内通路64aに流入した排気ガスが通過する通路の流路面積を変更するために、アクチュエータ70により駆動されて上下流方向に変位する。
図7,9に示されるように、可動部62の下流端部は、ディフューザ部63内を上下流方向に変位する。
可動部62は、湾曲部62aと、可動側縮径部62bと、可動側ストレート部62cとを有している。湾曲部62aおよび可動側縮径部62bは、本発明の「流入部」に相当する。可動側ストレート部62cは、本発明の「集合部」に相当する。
図7,9に示されるように、湾曲部62aは、可動部62の上流端から下流側に延びる筒状部分である。湾曲部62aの内周面は、可動部62の中心軸X2上の点P1を中心とする半径R1の第1の球面C1の一部をなすように形成されている。つまり、中心軸X2を通る平面で湾曲部62aを切断すると、その切断面の内縁(中心軸X2側の縁)が円弧状となる。点P1は、中心軸X2上で湾曲部62aよりも上流側に位置している。
可動側縮径部62bは、湾曲部62aの下流端から下流側へ延びる筒状部分であり、ノズル側縮径部64cに沿って延びる形状を有している。すなわち、可動側縮径部62bは、下流側に向かうに従って可動部62の中心軸X2側に傾斜するよう構成されており、下流側に向かうほど径が小さくなる円錐台状に形成されている。これに伴い、可動側縮径部62bの流路面積は下流側に向かうほど小さくなっている。
湾曲部62aおよび可動側縮径部62bは、ノズル部64の下流端部を覆うように配置されている。
具体的には、図6,7に示されるように、可動部62が最上流位置に変位しているときには、可動部62の湾曲部62aおよび可動側縮径部62bは、ノズル側ストレート部64bの下流端部、ノズル側縮径部64c、および上流側緩衝部材65を覆う。そして、湾曲部62aの内周面は、上流側緩衝部材65の外周面に接触する。この状態において、湾曲部62aおよび可動側縮径部62bとノズル側縮径部64cとは互いに接してはいないものの、その距離は小さく、互いに近接した状態となる。
一方、図8,9に示されるように、可動部62が最下流位置に変位しているときには、湾曲部62aおよび可動側縮径部62bは、ノズル側縮径部64cを覆う。この状態において、湾曲部62aの内周面は、上流側緩衝部材65の外周面から大きく離間する。
隆起部62dは、可動側縮径部62bの下流端部に設けられている。図6〜9に示されるように、隆起部62dは、可動側縮径部62bの外周面から径方向外側へ隆起しており、可動側縮径部62bの全周に亘って形成されている。隆起部62dの下流側部分は、周方向全体に亘ってリング状に切り欠かれている。この切欠部には、リング状の下流側緩衝部材66が取り付けられている。
下流側緩衝部材66の外周面は、後述するアウターシェル61の膨出部61eの内周面(凹面)に沿った形状(断面円弧状)をなしている。具体的には、図9に示されるように、下流側緩衝部材66の外周面は、可動部62の中心軸X2上の点P2を中心とする半径R2の第2の球面C2の一部をなすように形成されている。つまり、中心軸X2を通る平面で下流側緩衝部材66を切断すると、その切断面の外縁(中心軸X2とは反対側の縁)が円弧状となる。点P2は、中心軸X2上で下流側緩衝部材66よりも上流側に位置している。
下流側緩衝部材66は、上流側緩衝部材65と同様の材料で構成することができる。
図8,9に示されるように、下流側緩衝部材66は、可動部62が下流方向に所定位置(後述する可動部62の可動領域の最下流位置)まで変位したときにアウターシェル61と可動部62との間に挟まれるように配置される。つまり、下流側緩衝部材66は、上記所定位置まで変位したときに、アウターシェル61の膨出部61eの内周面に接触するように配置されている。このように配置されることにより、下流側緩衝部材66は、可動部62の上記所定位置からの下流方向への変位を阻止する。すなわち、下流側緩衝部材66は、可動部62の可動領域の最も下流側の位置(最下流位置)を規定する。
図6,7に示されるように、可動部62が最上流位置に変位している状態では、可動側縮径部62bはノズル部側縮径部64cのほぼ全体と近接する結果、図7の矢印に示すように、可動側縮径部62bによってノズル部側縮径部64cの各開口部64dが実質的に塞がれた状態となる。具体的には、可動側縮径部62bとノズル部側縮径部64cの間には、若干の隙間があるものの、その隙間は狭いため、可動側縮径部62bとノズル部側縮径部64cの間の空間には、殆ど排気ガスが流れない。従って、独立排気通路52からノズル内通路64aに流入した排気は、開口部64dからノズル部64外に流出することなくノズル内通路64aを通過し、ノズル内通路64aの下流端から下流側に流れていく。
一方、図8,9に示されるように、可動部62が上記最上流位置から下流側に変位して、最下流位置に到達すると、可動側縮径部62bはノズル部側縮径部64cから下流側に大きく離間する。これに伴い、これら縮径部62b,64c間には通路が形成されるとともに、各開口部64dは開放される。このため、可動部62が最下流位置に変位した状態では、独立排気通路52からノズル内通路64aに流入した排気ガスの一部は、可動側縮径部62bとノズル部側縮径部64cとの間に形成された通路(以下、「外部通路64e」と称する)を通って下流に流れていく。すなわち、図9に矢印で示すように、独立排気通路52からノズル内通路64aに流入した排気ガスは、ノズル内通路64aに加えてこの外部通路64eを通過する。
このように、本実施形態では、可動部62の位置が、最上流位置と、これよりも下流側の位置とに変位することで、独立排気通路52からノズル内通路64aに流入した排気ガスが通過する通路が、ノズル内通路64aのみと、ノズル内通路64aおよび外部通路64eとに切り替えられ、これにより、排気ガスが通過する通路の流路面積が切り替えられる。すなわち、可動部62の位置が最上流位置とされることで、排気ガスが通過する通路の流路面積は最小とされ、可動部62の位置が最上流位置よも下流側とされることで、この流路面積が最小よりも大きくされる。そして、この流路面積の切替に伴って、ノズル内通路64aから下流に排出される排気の速度が切り替えられる。具体的には、可動部62の位置が最上流位置とされて排気ガスが通過する通路の流路面積が最小とされると、この排気がノズル内通路64aから下流側に排出される速度は高くなる。一方、可動部62の位置が最下流位置とされて上記排気が通過する通路の流路面積が最大とされると、排気ガスがノズル内通路64aから下流側に排出される速度は低く抑えられる。
ここで、各ノズル内通路64aは各独立排気通路52とそれぞれ個別に連通している。そのため、ノズル内通路64a内の排気は他のノズル内通路64a内の排気と混合することなく流下する。これに対して、可動部側縮径部とノズル部側縮径部との間の空間は、中心軸X1周りの全周で連通している。しかしながら、上記のように開口部64dが下流向きに開口していることから、外部通路64eにおいても、独立排気通路52およびノズル内通路64aを通過した排気ガスは、他の独立排気通路52、64aを通過した排気とほとんど混合することなく、独立して流下する。
可動側ストレート部62cは、各独立排気通路52からそれぞれ排出されてノズル内通路64a、あるいはノズル内通路64aおよび外部通路64eを独立して通過した排気ガス、すなわち、各気筒12a〜12dから排出された排気ガスが、合流する部分である。
可動側ストレート部62cは、各気筒12a〜2dから排出された排気が合流し、十分に混合して良好に整流化されるように、その流路面積が下流側部分で一定とされている。
本実施形態では、可動側ストレート部62cの上流側部分は、下流側に向かうほど流路面積が小さくなるよう構成される一方、下流側部分は、流路面積一定で下流側に延びている。具体的には、可動側ストレート部62cの上流側部分は、中心軸X2を中心として下流側に向かうに従って縮径する略円錐台形状をなしており、可動側ストレート部62cの下流側部分は、径が一定の円筒状をなしている。可動側ストレート部62cの上流側部分は、可動側縮径部62bの下流端に連続して延びおり、可動側ストレート部62cの下流側部分は、この上流側部分の下流端から流路面積一定で延びている。
可動側ストレート部62cの下流側部分の外周面には、その外周面から径方向外側に突出するフランジ部62eが設けられている。フランジ部62eは、可動側ストレート部62cと一体に形成されている。
<ディフューザ部63の構成>
ディフューザ部63は、下流側に向かうに従って流路面積が拡大するよう構成された筒状部分である。具体的には、ディフューザ部63の上流側部分63aは上下流方向に径が一定の円筒状をなしている。この上流側部分63aよりも下流側の部分63bは、下流側に向かうほど径が大きい略円錐台状をなしている。
ディフューザ部63の内側には、上流側から可動側ストレート部62cの下流端部が挿通されている。ディフューザ部63の上流側部分63aの内径は、可動側ストレート部62cの下流端部の外径よりも大きい寸法に設定されている。具体的には、可動部62が最上流位置にあるときおよび最下流位置にあるとき(図6〜9、10(a),(c)、11(a),(c)参照)に、可動側ストレート部62cの下流端部の外周面がディフューザ部63の上流側部分63aの内周面から離間する一方、偏心カム80の回転に伴って可動側ストレート部62cがピボット支持部82に最も接近したとき(図10(b)参照)に、可動側ストレート部62cの下流端部の外周面がディフューザ部63の上流側部分63aの内周面に当接するように、ディフューザ部63の上流側部分63aの内径が設定されている。可動部62の変位時には、可動側ストレート部62cの下流端部が、ディフューザ部63内において、ディフューザ部63の軸方向に沿って上下流方向に移動しつつ、ディフューザ部63の径方向に移動する。ディフューザ部63は、アウターシェル61に固定されている。本実施形態では、ディフューザ部63は、アウターシェル61に溶接されている。
<アウターシェル61の構成>
アウターシェル61は、ノズル部64、可動部62、ディフューザ部63、上流側緩衝部材65、下流側緩衝部材66、後述の操作部75、被操作部92、偏心カム80、外輪部81a、揺動アーム81b,81c、ピボット部81dを収容する管状部材である。図6,7に示されるように、アウターシェル61は、上流から順に、第1部分61a、第2部分61b、第3部分61c、および第4部分61dを有する。
第1部分61aは、可動部62の上流側部分、ノズル部64、および上流側緩衝部材65を囲んで(覆って)おり、上下流方向に同一径を維持しつつ下流側へ円筒状に延びている。
第2部分61bは、可動部62の可動側縮径部62b、隆起部62d、下流側緩衝部材66、およびストレート部62cの上流側部分を囲んで、下流側に延びている。第2部分61bは、下流に向かうに従って中心軸X2側に傾斜するように構成されており、下流側に向かうほど径が小さくなる円錐台状に形成されている。
第2部分61bにおける上下流方向の下流端部には、その周方向全体に亘って、外側に膨出する膨出部61eが形成されている。膨出部61eは、上下流方向に所定の長さに亘って形成されている。具体的には、膨出部61eの上下流方向の長さは、下流側緩衝部材66の上下流方向の長さとほぼ同じとなっている。膨出部61eの内周面は、下流側緩衝部材66の外周面に沿った形状(断面円弧状)に形成されている。具体的には、図9に示されるように、膨出部61eの内周面は、アウターシェル61の中心軸X3上の点P2を中心とする半径R2の第2の球面C2の一部をなすように形成されている。つまり、中心軸X3を通る平面で膨出部61eを切断すると、その切断面の内縁(中心軸X3側の縁)が円弧状となる。点P2は、中心軸X3上で膨出部61eよりも上流側に位置している。
第3部分61cは、可動側ストレート部62cの円筒状の下流側部分、操作部75、被操作部92、偏心カム80、外輪部81a、揺動アーム81b,81c、およびピボット部81dを囲んでいる。
第3部分61cは、偏心カム80および外輪部81aを収容するカバー部61fと、ピボット部81dを支持するピボット支持部82とを有している。
カバー部61fは、アウターシェル61における膨出部61eの下流側で径方向外側に膨出する部分である。カバー部61fは、円筒状のブッシュ(図示略)を介して、シャフト73Aを回転自在に支持している。
ピボット支持部82は、アウターシェル61における膨出部61eの下流側で径方向外側に突起状に膨出する部分である。ピボット支持部82は、アウターシェル61におけるカバー部61fとは径方向反対側に形成されている。ピボット支持部82は、その内側に径方向外側に延びる円筒状のスライド支持面82a(図6〜10,12参照)を有している。スライド支持面82aは、後述する球状のピボット部81dを、ピボット部81dとシャフト73Aとを結ぶ方向A(図10参照)にスライド変位可能に支持する。
第4部分61dは、ディフューザ部63を囲んでおり、ディフューザ部63の外形に沿って略円錐台形状に形成されている。ディフューザ部63は、この第4部分61dに固定されている。
<移動機構90Aの構成>
可動部62を変位させるための移動機構90Aについて説明する。
図2,3に示されるように、本実施形態における移動機構90Aは、アクチュエータ70と、レバー部94と、シャフト73A(本発明の「カムシャフト」に相当する)と、揺動アーム81a,81b(図6〜10,12参照)と、操作部75と、被操作部92と、偏心カム80と、ピボット部81dと、ピボット支持部82と、外輪部81aとを備えている。外輪部81a、揺動アーム81b,81c、操作部75、およびピボット部81dは、一体に形成されている。
レバー部94は、ロッド72とシャフト73とを繋ぐ板状の部材である。レバー部94の一端部は、ロッド72の先端部(アクチュエータ本体71とは反対側の端部)に揺動可能に接続されている。ロッド72の変位(前進および後退)に伴い、レバー部94は、シャフト73Aを中心として、上下流方向に沿って揺動する。
シャフト73Aは、円柱状の部材であり、レバー部94からアウターシェル61に向かって延びている。シャフト73Aのレバー部94側の端部は、レバー部94に固定されている。レバー部94の揺動に伴い、シャフト73Aは、その軸心Q(図6,8参照)周りに回転(回動)する。
図6〜10,12に示されるように、偏心カム80は、可動部62の可動側ストレート部62cよりもその径方向外側の位置に設けられた円板状のカムであり、その偏心位置にシャフト73Aが固定され、シャフト73Aの回転に伴って回転する。偏心カム80の径方向の中心C(図6,8,11参照)は、シャフト73Aの回転に伴い、上下流方向に変位しつつ、シャフト73Aの軸心Qとピボット部81dとを結ぶ方向A(図10参照)に変位する。
具体的には、偏心カム80の径方向の中心Cがシャフト73Aの軸心Qよりも上流側に位置する状態(図6,7,10(a),11(a)参照)において、シャフト73Aが図6における反時計回り方向(左回り方向)に回転することにより、偏心カム80の中心Cがシャフト73Aの軸心Qに対して上下流方向の同じ位置に並ぶ状態(図10(b),11(b)参照)を経て、偏心カム80の中心Cがシャフト73Aの軸心Qよりも下流側に位置する状態(図8,9,10(c),11(c)参照)に遷移する。
また、偏心カム80の径方向の中心Cがシャフト73Aの軸心Qよりも下流側に位置する状態(図8,9,10(c),11(c)参照)において、シャフト73Aが図8における時計回り方向(右回り方向)に回転することにより、偏心カム80の中心Cがシャフト73Aの軸心Qに対して上下流方向の同じ位置に並ぶ状態(図10(b),11(b)参照)を経て、偏心カム80の中心Cがシャフト73Aの軸心Qよりも上流側に位置する状態(図6,7,10(a),11(a)参照)に遷移する。
偏心カム80の中心Cが最も上流側に位置する状態(図6,7参照)では、シャフト73Aの軸心Qが、偏心カム80の中心Cを通り、かつ、上下流方向に沿った基準線X4の近傍に位置する(図11(a)参照)。すなわち、基準線X4とシャフト73Aの軸心Qとの距離S3は、ゼロ近傍の値とされる。なお、図11(a)における直線X5は、シャフト73Aの軸心Qを通り、かつ、基準線X4と平行な線である。また、図11(a)では、図を見易くするために、距離S3がシャフト73Aの半径程度に図示されているが、実際には、距離S3はシャフト73Aの半径よりも小さく設定される。
この状態では、可動部62の位置が最上流位置(図6,7参照)となり、これにより、独立排気通路52からノズル内通路64aに流入した排気ガスが通過する通路が、ノズル内通路64aのみとなる。その結果、排気ガスが通過する通路の流路面積が最小となる。
一方、偏心カム80の中心Cが最も下流側に位置する状態(図8,9参照)では、シャフト73Aの軸心Qが、偏心カム80の中心Cを通り、かつ、上下流方向に沿った基準線X4の近傍に位置する(図11(c)参照)。すなわち、基準線X4とシャフト73Aの軸心Qとの距離S4は、ゼロ近傍の値とされる。なお、図11(c)における直線X5は、シャフト73Aの軸心Qを通り、かつ、基準線X4と平行な線である。また、図11(c)では、図を見易くするために、距離S4がシャフト73Aの半径程度に図示されているが、実際には、距離S4はシャフト73Aの半径よりも小さく設定される。
この状態では、スライド部62の位置が最下流位置(図8,9参照)となり、これにより、独立排気通路52からノズル内通路64aに流入した排気ガスが通過する通路が、ノズル内通路64aおよび外部通路64eとなる。その結果、排気ガスが通過する通路の流路面積が図6,7の場合よりも大きくなる。
図6〜10,12に示されるように、外輪部81a(本発明の「変位部」に相当)は、偏心カム80の外周に回転自在に外嵌めされた円環状の部材である。外輪部81aは、偏心カム80の回転に伴って、上下流方向に変位しつつ、シャフト73Aの軸心Qとピボット部81dとを結ぶ方向A(図10参照)に変位する。つまり、外輪部81aは、偏心カム80の中心Cの動きに合わせて変位する。図10(b)に示される状態、すなわち、可動部62が最上流位置と最下流位置の間の中央位置にあるときに、外輪部81aおよび可動側ストレート部62cがピボット支持部82に最も接近する。
揺動アーム81b,81cは、本発明の「連結部」に相当する棒状の部材である。図6〜10,12に示されるように、揺動アーム81bは、外輪部81aと操作部75とを連結し、揺動アーム81cは、操作部75とピボット部81dとを連結する。揺動アーム81bおよび揺動アーム81cは、各々、外輪部81aとピボット部81dとを結ぶ方向に延びており、これらは同一直線上に配置されている。
揺動アーム81b,81cは、シャフト73Aの回動に伴い、ピボット部81dを中心として、上下流方向に沿って揺動する(図6〜10参照)。つまり、揺動アーム81b,81cは、ピボット部81dの中心Nを揺動中心として、この揺動中心N周りに揺動する。
なお、図7,9において、点Kは、シャフト73Aの軸心Qとピボット部81dの中心Nとを結ぶ直線L1と中心軸X1,X2との交点であり、点Mは、偏心カム80の中心Cとピボット部81dの中心Nとを結ぶ直線L2と中心軸X1,X2との交点である。
ピボット部81dは、揺動アーム81cの先端部に設けられた球状部分である。ピボット部81dは、スライド支持部82のスライド支持面82aに当接しつつ、ピボット部81dとシャフト73Aとを結ぶ方向A(図10参照)にスライド変位する。
図2,3に示される例では、アクチュエータ70は、直動型のダイアフラム式アクチュエータである。アクチュエータ70は、ロッド72と、ダイアフラム(図示略)が内蔵され、ロッド72を往復運動させるアクチュエータ本体71とを有する。ロッド72は、アクチュエータ本体71からアウターシェル61の中心軸X3に対して傾斜した方向に延びている。アクチュエータ本体71が作動することにより、ロッド72は、アクチュエータ本体71と接離する方向に直線的に変位する(下流側に向かって前進および上流側に向かって後退する)。
図2に示されるように、レバー部94の一端部(可動部62側の端部)は、ロッド72の先端部に揺動可能に接続され、レバー部94の他端部(反可動部62側の端部)は、シャフト73Aに固定されている。レバー部94とロッド72との接続部は、レバー部94とシャフト73Aとの接続部(固定部)よりも、アウターシェル61の中心軸X3側に位置している。
本実施形態では、シャフト73Aの回転に伴って偏心カム80が回転することにより、スライド部62の位置が、最上流位置(図6,7参照)と、これよりも下流側の位置(図8,9参照)とに変位し、これにより、排気ガスが通過する通路の流路面積が切り替えられる。
ロッド72、レバー部94、シャフト73Aにより、ロッド72の直線運動をシャフト73Aの回転運動に変換するリンク機構が構成され、偏心カム80、外輪部81a、揺動アーム81a,81b、ピボット部81d、およびピボット支持部82により、シャフト73Aの回転運動を揺動アーム81a,81bの揺動運動に変換するカム機構が構成されている。
図6〜9に示されるように、操作部75は、揺動アーム81bと揺動アーム81cの間に設けられている。操作部75は、下流側に向かうほど径が小さくなる円錐台状の周壁からなり、その周壁の外周面および内周面は球面状に湾曲している。操作部75の上流側端部は、揺動アーム81bの可動部62側の端部および揺動アーム81cの可動部62側の端部と一体に形成されている。操作部75の厚みは、その全体で一定となっている。
操作部75は、揺動アーム81b,81cと共にピボット部81dの中心N周りに、上下流方向に沿って揺動する。
操作部75を上流側もしくは下流側から見ると、操作部75は、可動側ストレート部62cの外径よりも大きな内径を有して可動側ストレート部62cを包囲するリング状をなしている。操作部75の中央部には、可動側ストレート部62cが挿通される挿通孔75a(図6,8参照)が形成されている。挿通孔75aの径は、可動側ストレート部62cの外径よりも大きく、後述の第1の被操作部78の外径よりも小さい。
操作部75は、上流側に操作部75の内周面である第1面を有し、下流側に操作部75の外周面である第2面を有している。
操作部75の第1面は、断面円弧状の凹面をなしている。具体的には、操作部75の第1面は、可動部62の中心軸X2上の点P3を中心とする半径R3の第3の球面C3の一部で構成されている。
可動部62がその可動領域の最上流位置にあるときの中心点P3(以下、「最上流位置の中心点P3」と称する)と、可動部62がその可動領域の最下流位置にあるときの中心点P3(以下、「最下流位置の中心点P3」と称する)とは、シャフト73Aの軸心Qとピボット部81dの中心Nとを結ぶ直線L1(シャフト73Aから中心軸X2に下した垂線)と可動部62の中心軸X2との交点K(図7,9参照)よりも上流側に位置している。
可動部62がその可動領域の最上流位置にあるときには、交点Mが、可動部62の中心軸X2、ノズル部64の中心軸X1、およびアウターシェル61の中心軸X3上で且つ交点Kよりも上流側に位置する(図7参照)。一方、可動部62がその可動領域の最下流位置にあるときには、交点Mが、可動部62の中心軸X2、ノズル部64の中心軸X1、およびアウターシェル61の中心軸X3上で且つ交点Kよりも下流側に位置する(図9参照)。
可動部62が最上流位置にあるときの交点Kと交点Mとの距離(図7参照)は、可動部62が最下流位置にあるときの交点Kと交点Mとの距離(図9参照)に等しい。
操作部75の第2面は、断面円弧状の凸面をなしている。具体的には、操作部75の第2面は、第3の球面C3の中心点P3を中心とする半径R4の第4の球面C4の一部で構成されている。
図6〜9に示されるように、被操作部92は、可動側ストレート部62cの下流側部分の外周面に設けられている。被操作部92は、操作部75をスライド可能に上下流方向の両側から支持する内壁面を有する溝部93(図7,9参照)を含んでいる。溝部93の内壁面は、操作部75の第1面に沿った凸面、および操作部75の第2面に沿った凹面により形成されている。
被操作部92は、上記凸面を有する第1の被操作部78と、上記凹面を有して第1の被操作部78とは別体の第2の被操作部76とを含む。溝部93は、第1の被操作部78の凸面と第2の被操作部76の凹面との間に形成される。溝部93の幅(凸面と凹面との間隔)は、操作部75の厚みとほぼ同じである。第1の被操作部78および第2の被操作部76は、可動側ストレート部62cの外周面の全周に沿ってリング状に形成されている。
第1の被操作部78は、第2の被操作部76の上流側に配置されている。第1の被操作部78は、その凸面が下流側を向くように配置されている。第1の被操作部78の上流側の面は、可動部62におけるフランジ部62eの下流側の面に当接している。第1の被操作部78は、上流側緩衝部材65と同様の材料で構成することができる。
第1の被操作部78の凸面は、断面円弧状をなしている。具体的には、第1の被操作部78の凸面は、第3の球面C3(半径R3よりも僅かに小さな半径の球面でもよい)の一部で構成されている。つまり、第1の被操作部78の凸面は、操作部75の第1面に沿っており、操作部75の第1面に接触している。操作部75の第1面は、第1の被操作部78の凸面に対してスライド可能である。
第2の被操作部76は、その凹面が上流側を向くように配置されている。第2の被操作部76は、可動側ストレート部62cの外周面に固定される円筒状の固定部76bと、固定部76bの上流端から上流側に延びて操作部75の第2面を支持する支持部76aとを有する。支持部76aは、上流側に向かうほど径が大きくなる円錐台状の周壁である。支持部76aの上流側の面が、第2の被操作部76の上記凹面となっている。
第2の被操作部76の凹面は、断面円弧状をなしている。具体的には、第2の被操作部76の凹面は、第4の球面C4(半径R4よりも僅かに大きな半径の球面でもよい)の一部で構成されている。つまり、第2の被操作部76の凹面は、操作部75の第2面に沿っており、操作部75の第2面に接触している。操作部75の第2面は、第2の被操作部76の凸面に対してスライド可能である。
以上のように構成された移動機構90Aでは、アクチュエータ本体71の駆動によってロッド72が変位すると、レバー部94がシャフト73Aを支点として揺動し、これに伴いシャフト73Aがその軸心Qを中心として回転(回動)する。シャフト73Aの回転に伴い、偏心カム80が回転して、外輪部81aが上下流方向に変位する。これにより、揺動アーム81b,81cおよび操作部75が、ピボット部81dを中心として揺動する。操作部75の揺動に伴い、被操作部92は、操作部75を溝部93内でスライドさせつつ可動部62を上下流方向に変位させる(図7,9参照)。
次に、移動機構90Aの構成部材に作用する力について、図11,12を参照しつつ説明する。図11(a),12は、可動部62が可動領域の最上流位置にあるときの偏心カム80の状態を示しており、図11(b)は、可動部62が可動領域の中流位置にあるときの偏心カム80の状態を示しており、図11(c)は、可動部62が可動領域の最下流位置にあるときの偏心カム80の状態を示している。なお、図12において、移動機構90A全体で力が釣り合っているものとする。
可動部62の内部には、下流側に向かって排気ガスが流れている。このため、図12に示されるように、可動部62は下流側に向かう方向の押圧力F1を排気ガスから受け、その押圧力F1は被操作部92を介して操作部75に伝達される。操作部75が受けた押圧力F1の一部の力F6が、揺動アーム81bを介して外輪部81aに伝達され、力F1から力F6を差し引いた力F4が、揺動アーム81cを介してピボット部81dに伝達される。つまり、力F1の大きさは、力F4の大きさと力F6の大きさの和に等しい。そして、下流側へ向かう方向の力F6が、外輪部81aから偏心カム80に伝達され、下流側へ向かう方向の力F4が、ピボット部81dからピボット支持部82に伝達される(図12参照)。
外輪部81aから力F6を受けた偏心カム80は、外輪部81aに対して、上流側に向く方向の力F2(反作用の力)を作用させる(図11(a),12参照)。力F2は、排気ガスが偏心カム80を回転させようとする力(以下、「排気ガスによるカム回転力」と称する)に対抗する分力(図11(a),12における時計回り方向の力)f22と、排気ガスがシャフト73Aを下流側へ押圧する力に対抗する分力(上流側に向く力)f21とに分けられる。分力f22は、アクチュエータ70の駆動力F3(図12参照)から得られる力である。なお、図11,12における直線L3は、力f21の作用線であり、力f21の作用点とシャフト73Aの軸心Qとを通る直線である。直線L4は、力f22の作用線であり、アクチュエータ70のロッド72が進退する方向に平行な直線である。
アクチュエータ70は、偏心カム80に分力f22を作用させるために、分力f22と向きが同じで、かつ、分力f22に基づく大きさの力F3でロッド72を引っ張ればよい。アクチュエータ70のアクチュエータ本体71が、ロッド72を力F3で引っ張ることにより、可動部62の上下流方向の位置を保持することができる。なお、図12における力f31は、力F3の上下流方向の分力であり、力f32は、直線L3に平行な方向の分力である。
図11(a)〜(c)から分かるように、図11(a)に示される状態では、分力f22が図11(b),(c)に示される状態と比べて格段に小さくなっている。これは、偏心カム80と外輪部81aとの間で、排気ガスによるカム回転力(分力f22と大きさが同じで逆向きの力)が低減され、そのカム回転力は、可動部62が可動領域の最上流位置にあるとき(図11(a)参照)に最も低減されるためである。つまり、力F6の作用点(図11においては偏心カム80の上流端部)において力F6と直線L3とがなす角度θが小さい程、換言すれば距離S3が小さい程、排気ガスによるカム回転力が小さくなる。このことから、アクチュエータ70に小さい引張力F3を発生させるだけで、可動部62が最上流位置にある状態を保持できることが分かる。
これに対し、図13に示されるように、レバー部94がシャフト73(図外のアウターシェルに回転自在に支持されている)を介して揺動アーム74に固定されている場合には、排気ガスがシャフト73を回転させようとする力が、揺動アーム74とレバー部94との間で低減されないため、アクチュエータ70は本実施形態における力F3よりも大きな駆動力(引張力)F7を発生させる必要がある。なお、図13における力f71は、力F7の上下流方向の分力であり、力f72は、力F7のレバー部94に沿った方向の分力である。
<制御系の構成>
次に、本実施形態に係る排気装置100の制御系統について説明する。本実施形態の排気装置100は、その各部が図外のECU(Electronic Control Unit)によって統括的に制御される。ECUは、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
アクチュエータ本体71は、ECUによりオンオフ制御され、ロッド72の位置を第1の位置と第2の位置との2つの位置で切り替えるようになっており、これに伴い可動部62は、その位置が最上流位置と最下流位置との2つの位置で切り替えられるようになっている。例えば、アクチュエータ70がオンとされることで、可動部62は最上流位置とされ、オフとされることで、可動部62は最下流位置とされる。
以下、具体的に説明する。ECUは、車両の運転状態(運転領域)を検出する図外のセンサから車両の運転状態を入力し、その運転状態に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、排気装置100の各部を制御する。
本実施形態では、図14に示すように、運転領域として、エンジン回転数が低くエンジン負荷が高い低速高負荷領域(第1領域)A1と、エンジン回転数が低くエンジン負荷が低い低速低負荷領域(第2領域)A2と、エンジン回転数が高くエンジン負荷が高い高速領域(第3領域)A3とが設定されている。
以下、各運転領域で実施される制御内容について説明する。
(低速高負荷領域A1における制御)
低速高負荷領域A1では、可動部62が最上流位置に変位するように、ECUによりアクチュエータ70が制御される。具体的には、低速高負荷領域A1では、ECUは、アクチュエータ70をオンとする制御を行う。
この制御は、主として、エゼクタ効果を高めて、このエゼクタ効果により各気筒12a〜12d内の掃気を促進してエンジントルクを確保することを目的として実施される。
(低速低負荷領域A2における制御)
低速低負荷領域A2では、可動部62が最下流位置に変位するように、ECUによりアクチュエータ70が制御される。具体的には、低速低負荷領域A2では、ECUは、アクチュエータ70をオフとする制御を行う。
この制御は、主として、気筒12a〜12d内に残留ガス量を確保して、吸気のポンピングロスを抑制するとともに、燃焼温度を低く抑えて冷却損失の増大を抑制し、これにより、適正なエンジントルクを確保することを目的として実施される。
(高速領域A3における制御)
高速領域A3では、可動部62が最下流位置に変位するように、ECUによりアクチュエータ70が制御される。具体的には、高速領域A3では、ECUは、アクチュエータ70をオフとする制御を行う。
この制御は、主として、背圧を低く抑え、これにより掃気性能を高めて、高いエンジントルクを確保することを目的として実施される。
以上説明したように、本実施形態によれば、可動部62が上流側に変位した状態を保持するためにアクチュエータ70(直動型アクチュエータ)に必要とされる駆動力(引張力)を低減することができ、これにより、アクチュエータ70の小型化を図ることができる。詳しく説明すると、可動部62が上流側に変位した状態(可動側縮径部62bの流路面積が小さくなった状態)を保持するためには、排気ガスの圧力によって可動部62が下流側に変位しないように、可動部62を上流側に変位させる向きの駆動力(引張力)F3をアクチュエータ70に発生させる必要がある。本実施形態では、アクチュエータ70と可動部62との間に、偏心カム80および偏心カム80の回動に伴って上下流方向に変位する外輪部81aが介在しているため、排気ガスによるカム回転力が、偏心カム80と外輪部81aとの間で低減され、これにより、排気ガスによるカム回転力に対抗するためにアクチュエータ70に必要とされる駆動力F3が低減される。
また、本実施形態によれば、排気ガスが可動部62を下流側へ押圧する力が、ピボット支持部82および偏心カム80の双方に伝達されるため、その押圧力がピボット支持部82と偏心カム80とに分散される(力F4と力F6)。これにより、排気ガスによるカム回転力が低減され、その結果、アクチュエータ70に必要とされる駆動力F3を低減することができる。
また、本実施形態によれば、可動部62がその可動領域の最上流位置にあるときには、シャフト73Aの軸心Qが、偏心カム80における径方向の中心Cを通り、かつ、上下流方向に沿った基準線X4の近傍に位置しているため、排気ガスによるカム回転力がゼロ近傍の大きさとなる。これにより、アクチュエータ70に必要とされる駆動力F3(図12参照)を格段に低減することができる。
また、本実施形態によれば、ピボット支持部82が、ピボット部81dを、ピボット部81dとシャフト73Aとを結ぶ方向A(図10参照)にスライド変位可能に支持しているため、可動部62を上下流方向にスムースに変位させることができる。
また、本実施形態によれば、操作部75の第1面および第2面は、被操作部92の溝部93の内壁面により、上下流方向の両側から広い接触面積で支持されるため、操作部75が被操作部92に接触することによるかじり、固着、および過度の摩耗の発生が抑制され、がたつきが生じにくくなって接触音の発生も抑制される。
なお、上記実施形態では、全ての気筒12a〜12dが、各々独立して(各々個別に)独立排気通路52に接続されており、これによりエンジン1に接続される独立排気通路52の数が4つとされているが、これに限られない。例えば、気筒12のうち第1気筒12aと第4気筒12dとが、各々独立して独立排気通路52,52に接続される一方、排気行程が隣り合わず排気順序が連続しない第2気筒12bと第3気筒12cとが、中途部で二股状に分岐した1つの独立排気通路52に接続されてもよい。詳細には、第2気筒12bと第3気筒12cに接続されている独立排気通路52は、その中途部で下流側から上流側に向かって2つの通路に分岐しており、その一方の分岐通路に第2気筒12bが接続され、他方の分岐通路に第3気筒12cが接続されてもよい。このような構成とすることにより、エンジン1に接続される独立排気通路52の数が3つとなり、排気装置の構造が簡素化される。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図15,16を参照しつつ説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
図15,16に示されるように、第2実施形態においては、揺動アーム81dの中央部に、揺動アーム81dの長手方向に沿って直線状に延びるスリット部81eが設けられている。このスリット部81eは、少なくとも可動部62側に開口する長孔であり、図15,16に示される例では、可動部62側および反可動部62側に開口している。揺動アーム81dは、外輪部81aとピボット部81dとスリット部81eとを連結している。スリット部81eは、本発明の「操作部」に相当する。
また、可動側ストレート部62cの外周面には、当該外周面からスリット部81e側へ突出する突起部62fが設けられている。突起部62fは、スリット部81eに挿入された状態でスリット部81eの内壁面に摺接しており、スリット部81e内でその長手方向に沿ってスライド変位可能となっている。
第2実施形態においては、シャフト73Aの回転に伴って、揺動アーム81dがピボット部81dを中心として、上下流方向に沿って揺動する。そして、この揺動に伴い、突起部62fがスリット部81e内をその長手方向に沿ってスライド変位する。突起部62fは、揺動アーム81dから、スリット部81eの内壁面から上下流方向の力を受けるため、可動部62は上下流方向に変位する(図15,16参照)。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様、アクチュエータに必要とされる駆動力を低減して、アクチュエータの小型化を図ることができる。