JP2017018056A - 温水ストレス栽培方法 - Google Patents

Abstract

【課題】本発明は簡便かつ低廉に植物中のポリフェノール含有量を増加させる栽培方法を提供する。【解決手段】ポリフェノール含有量が増加した植物の栽培方法であって、前記植物に温水を噴霧する工程を含むことを特徴とする方法。【選択図】図１

Description

本発明は、植物に温水ストレスを与えることにより機能性成分を増加させる栽培方法に関する。

植物に何らかの環境ストレスを付与すると、植物の体内では生体防御メカニズムによりさまざまな変化が生じることが知られている。近年、植物のこのような性質を農作物の栽培に適用する試みがなされている。
例えば、アイスプラントに対してｐＨの変動や温度の上昇などの種々のストレスの何れかを与えることにより、アイスプラント中の抗酸化成分などの機能性成分を増加・蓄積させる方法が開示されている（特許文献１）。また、イチゴ葉やハーブ類植物に対して温湯の噴霧や浸漬等による熱ショックを与えることにより、揮発性成分の放出を促進させて、その抗菌作用により植物の病害を抑制する方法が開示されている（特許文献２）。

ところで、ミズナ（水菜、学名：Brassica rapa var. laciniifolia）はアブラナ科の越年草であり、独特な歯ざわりが特徴で生食の他、鍋物、煮物、漬物などにも使われる。本来は冬から春にかけて旬を迎える植物だが、水耕栽培のものが周年出回っている。中でも赤ミズナは茎が赤紫色であり、ポリフェノールであるフラボノイドの一種、アントシアニンを豊富に含む。アントシアニンは抗酸化作用を有することが知られており、昨今の健康志向の高まりからも赤ミズナは好まれている。

国際公開パンフレット２０１３／１１８７６０号 特開２０１５−９７５１８号公報

農作物に付加価値をつける目的から、農作物（植物）中に含まれる機能性成分を増加させる方法には需要がある。
しかしながら、特許文献１に開示される方法はアイスプラントに特化したものであり、植物の対ストレス反応は様々であるところ、植物の種類、付与ストレス、及び得られる反応・効果の関係について該文献の知見を一般化できるとはいえない。また、農作事業として運用するには、手順の簡便さや低廉であることも求められる。
かかる状況に鑑み、本発明は簡便かつ低廉に植物の機能性成分、特にポリフェノール含有量を増加させる栽培方法を提供することを目的とする。

上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者は、植物に温水ストレスを与えると該植物中のポリフェノール含有量が増加することを見出し、本発明を完成した。

すなわち、本発明は以下の通りである。
［１］ポリフェノール含有量が増加した植物の栽培方法であって、前記植物に温水を噴霧する工程を含むことを特徴とする方法（以降、「本発明の方法」とも記す）。
［２］前記温水の温度が３０〜５５℃であることを特徴とする、［１］に記載の方法。
［３］水耕栽培であることを特徴とする、［１］又は［２］に記載の方法。
［４］前記温水を噴霧する工程を、植物の苗の定植から収穫までの期間に行うことを特徴
とする、［１］〜［３］のいずれかに記載の方法。
［５］前記植物が赤ミズナであることを特徴とする、［１］〜［４］のいずれかに記載の方法。
［６］前記ポリフェノールがアントシアニンであることを特徴とする、［１］〜［５］のいずれかに記載の方法。
［７］生重量１００ｇあたり１０ｍｇ以上のアントシアニンを含有する赤ミズナ。

本発明により、ポリフェノール含有量が増加した植物を簡便かつ低廉に栽培することができる。

実施例の各収穫物中のアントシアニン総量を表すグラフ。

本発明の方法は、ポリフェノール含有量が増加した植物の栽培方法であって、前記植物に温水を噴霧する工程を含むことを特徴とする。温水噴霧という手段によって、植物に簡便かつ低廉にストレスを付与することができる。
本発明において、温水とは植物の栽培における通常の気温よりも高く、植物体が変性する温度よりも低い温度のものをいい、具体的には３５〜５５℃が好ましく、４０〜５０℃がより好ましい。
また、温水の噴霧は、植物体が濡れる程度の量で、噴霧部位の温度が一時的に３５〜５５℃に上がるように行う。具体的には、例えば噴霧部位１箇所につき１〜２０秒間、温水を噴霧するが、特に限定されない。噴霧部位としては、対象植物の葉、茎、根、花弁、種子、果実、果穂等の何れでもよく、また全体に噴霧しても一部分にだけ噴霧してもよいが、好ましくは植物体全体に噴霧する。噴霧は、例えば霧吹き（スプレー）やジョウロ等で行うことができ、植物体への水滴の重量負荷が過剰になるのを避けるため、霧吹きがより好ましい。

本発明の方法における温水の噴霧工程は、対象植物の苗の定植から収穫までの生育期間に行うことが好ましい。対象植物を種から本培地に植えた場合は、例えば２〜４葉齢まで生育した後収穫までの生育期間に行うことが好ましい。
この期間に、少なくとも１回以上温水噴霧工程を行い、例えば１日１回毎日行うことが好ましいが、頻度、回数及び期間は特にこれに限定されない。

本発明の方法において、植物の栽培は、水耕栽培、土壌栽培、及び培地栽培のいずれで行ってもよいが、通年栽培できる点や病害リスク抑制の観点から水耕栽培が好ましい。
水耕栽培は、一般的な方法で行えばよい。例えば、対象植物の種子をウレタンマットなどの保水性のある資材に播き、２〜４葉齢まで育苗箱で育成した後、水耕装置に定植してさらに育成する。播種資材、育苗箱、水耕装置などは一般的な水耕栽培用のものを用いればよく、また、水耕液は、対象植物ごとに適宜選択すればよい。
土壌栽培は、路地栽培又はハウス栽培での一般的な方法で行えばよい。例えば、対象植物の種子を土壌培地に播き、適宜肥料を与えて栽培する。
培地栽培は、ヤシガラ、ピートモス、バーミキュライトなどの人工調製土壌培地を用いるものであり、一般的な方法で行えばよい。例えば、対象植物の種子を人工調製土壌培地に播き、適宜肥料を与えて栽培する。

本発明の方法において、植物の水耕、土壌又は培地栽培は、ハウスまたは太陽光併用型植物工場で行うことがより好ましい。さらに、天候に左右されない安定生産の観点から、室内等の閉鎖型環境下、例えば、完全制御型の植物工場内で行われることが好ましい。
特に、水耕栽培を植物工場で行えば、水耕棚による省スペース化の観点や、光、室温、湿度等の制御容易性等の観点から、特に好ましい。

本発明の方法の対象となる植物としては、特に限定されないが、葉野菜が好ましく、また、通常ポリフェノールを含有する植物が好ましく、より好ましくはフラボノイドを含有する植物が好ましく、さらに好ましくはアントシアニンを含有する植物が好ましい。例えば赤ミズナ、紫キャベツ、赤シソ等が好ましく挙げられる。
本発明の方法によれば、対温水ストレス反応により植物体中でポリフェノールが増加し蓄積する。その結果、通常の栽培、すなわち温水ストレスを与えずに栽培した場合に生育する植物中に含まれるポリフェノール含有量の、好ましくは１．５倍以上、より好ましくは２倍以上、さらに好ましくは３倍以上にポリフェノール含有量を増加させることができる。

本発明の方法の対象植物としては赤ミズナが特に好ましく、一般的なミズナがアントシアニンを生重量１００ｇあたり１〜２ｍｇ含有するのに比べて、赤ミズナは通常アントシアニンを生重量１００ｇあたり４〜５ｍｇ含有する。
本発明の方法によれば、アントシアニンを生重量１００ｇあたり好ましくは６ｍｇ以上、より好ましくは８ｍｇ以上、さらに好ましくは１０ｍｇ以上含有する赤ミズナを得ることができる。

ポリフェノール含有量が増加した植物は、それ自体を農作物として供することができるほか、ポリフェノールを任意の方法で抽出して天然由来の機能性素材として利用することもできる。

以下、本発明について実施例を挙げより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。

＜赤ミズナの栽培＞
赤ミズナの苗（２〜４葉齢、播種後１４日）を水耕栽培用培地に定植し、１４日間、人工日照時間１６時間、２５℃で水耕栽培し、定植後１５日目に収穫した。定植期間中は１日１回、赤ミズナの茎及び葉の全体が濡れる程度に、霧吹きを用いて５０℃の温水を噴霧して温水ストレスを与えた。
比較のため、温水噴霧処理を行わない点以外は同様に比較例の赤ミズナを栽培した。また参考として、通常のミズナも比較例と同様に栽培した。
収穫時の生育状態の外観は、温水噴霧処理の有無で違いはなかった。

＜アントシアニンの定量＞
収穫した各ミズナに含有されるアントシアニン総量を、吸光度法を用いて測定した。ミズナの植物体全体（葉、茎、及び根）を粗く裁断し、その５ｇに１％塩酸−メタノールを５０ｍＬ加えて粉砕した。１００ｍＬメスフラスコに移し、振とう・超音波処理を行い抽出した。１％塩酸−メタノールで１００ｍＬに定容した後、遠心分離を行い、上澄みを希釈したものを試料溶液とした。この試料溶液に対して、分光光度計を用いて５３０ｎｍの吸光度を測定した。なお、本手法では標準物質としてシアニジンを使用して、シアニジン相当量としてアントシアニン総量を測定した。
結果を図１に示す。温水ストレスを与えて栽培した赤ミズナは生重量１００ｇあたり１１．８ｍｇのアントシアニン総量を含有し、ストレスを与えなかった場合の２．８倍増加した。

本発明により、ポリフェノール含有量が増加した植物を簡便かつ低廉に栽培することができる。機能性成分として有用なポリフェノールが増加した植物は、農作物に付加価値をつけることができ、また植物から抽出したポリフェノールを天然由来の機能性素材としても利用し得るため、産業上非常に有用である。

Claims (7)

1. ポリフェノール含有量が増加した植物の栽培方法であって、前記植物に温水を噴霧する工程を含むことを特徴とする方法。
2. 前記温水の温度が３０〜５５℃であることを特徴とする、請求項１に記載の方法。
3. 水耕栽培であることを特徴とする、請求項１又は２に記載の方法。
4. 前記温水を噴霧する工程を、植物の苗の定植から収穫までの期間に行うことを特徴とする、請求項１〜３のいずれか一項に記載の方法。
5. 前記植物が赤ミズナであることを特徴とする、請求項１〜４のいずれか一項に記載の方法。
6. 前記ポリフェノールがアントシアニンであることを特徴とする、請求項１〜５のいずれか一項に記載の方法。
7. 生重量１００ｇあたり１０ｍｇ以上のアントシアニンを含有する赤ミズナ。