JP6551998B2 - ウコギ科薬用植物の栽培方法 - Google Patents
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Description
トチバニンジン属の学名Panaxはギリシャ語で「全てを癒す」という意味で、漢方での用途を知っていたリンネが命名したためである。
なお、野菜のニンジンはセリ科であり、本種の近類種ではなく全く別の種である。
また、外国で圃場栽培された輸入品については、残留農薬や重金属成分が検出されるものもあり、その安全性の問題も存在する。
従って、圃場栽培に纏わる種々の困難性から解放され、栽培条件等を容易にコントロール可能で、短期間に収穫が出来、生薬として使用することのできるウコギ科薬用植物を得るのに好適な新たな栽培方法が求められている。
播種から収穫までを人工的に栽培する、ウコギ科薬用植物の栽培方法であって、以下の(a)〜(c)の種子から育苗する工程と、(d)〜(e)の水耕栽培する工程とを、含む。
(a)芽切り種子を実生栽培容器に播種する工程、
(b)前記種子を、気温20℃、相対湿度60%、最大5000ルクス以下、明期14時間の閉鎖型栽培施設で、自動潅水装置によって給水しながら育成する工程、
(c)播種後1ヶ月目に前記自動潅水装置で養液または水を供給しつつ、播種後2ヶ月目〜3ヶ月目まで育成を継続する工程、
(d)前記種子から育成した実生苗を、水耕栽培装置に移植する工程、
(e)前記実生苗を、気温20℃、相対湿度60%、CO2濃度800ppm〜1000ppm、1000ルクス〜1400ルクス、明期16時間の閉鎖型栽培施設で、養液を供給しながら栽培する工程。
そして、地下部組織(以下、「地下部」という)が十分に生育して、薬用成分を蓄積した薬用植物を効率的に供給することができる。
なお、本明細書では、地下部とは、根、根茎、塊茎等、地上部とは、葉、葉柄、茎、果茎、花等をいう。
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。これ以外は、本明細書の必要な箇所で定義されている。
本発明に係るウコギ科薬用植物の栽培方法は、播種した芽切り種子を、閉鎖型栽培施設で育成させて、実生苗とする第1の工程と、前記実生苗を、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期12時間〜20時間の閉鎖型栽培施設で所定の期間、水耕栽培して薬用栽培物とする第2の工程とを含む、栽培方法である。この方法によれば、優れた品質の薬用植物を、外界の影響を実質的に遮断しつつ、従来の圃場栽培と比較して非常に短期間の栽培で得ることが出来る。
キムタオルに包まれたオタネニンジン芽切り種子(長野県産)より、雑菌に汚染された、あるいは損傷したものを除き、発根・発芽したもの、発根のみのものを選別した。
実生栽培容器(例えば、アラシステム(モデル植物のシロイヌナズナ用の屋内育成・種子回収キット:株式会社バイオメディカルサイエンス)のバスケット)に支持体(例えばバーミキュライト)を半分程度詰め、水で湿らせた後、発芽(発根)種子を植付け、支持体を被せた。
以下、この様な芽切り種子の植付けを、「播種」という。
上記のように実生栽培容器に播種(植付け)した種子を、閉鎖温室(20℃、相対湿度60%、14時間明期(太陽光+補光照明で6:00〜20:00、最大5000lux以下になるように遮光))にて、自動潅水装置EY4100(National)を用いて一日1回10分間給水しながら育成した。上記給水は、一日1回10分〜30分でもよい。
なお、すでに発芽した実生は、そのまま植付けると地上部が枯死する株が多かったため、ラップをかぶせて加湿しながら約1週間馴化した。
(1)播種時に発根のみの株、発芽もしている株、いずれも良好に生育した。
(2)平均活着率は、67%(37%〜88%)である。(本葉展開後も、一部株は、根腐れをおこして枯死した。)
(3)本葉が枯れても、地下部が生存していれば、1ヶ月前後で新たな葉が展開してきた。
(4)頻度は少ないが、2芽出てくる株も認められた。ただし、そのいずれも形態は、初出葉と同様であった。
ここで、地上部は枯れても、新芽ができてくる部分(根と葉柄の境目付近)が生きていれば、再生可能であるので、葉の生死にかかわらず、根を含む新芽ができる部分より下が生きている株すべてを「活着株」としてカウントした。つまり、表1の「本葉展開+本葉枯れ+本葉未伸長」の合計を「活着株数」としている。
実験1〜10のうち、実験1は、播種後40日目、実験2〜5は、播種後31日目、実験6〜10は、播種後28日目で観察したものである。
表1の播種後約1ヶ月(31日目/28日目)の実験2〜10においてそれぞれ生育の良好な51株ずつの生育状況をコントロールとして記録したのち移植して、その後、例えば、自動水やりタイマーEY4200P−H(Panasonic)を用いて、実生栽培容器(例えば、前記アラシステム)へ、容器あたり、約500mLの養液(大塚A処方1/8濃度)を一日一回供給して2週間栽培したものの生育と、自動潅水装置で一日1回10分間水のみを供給して2週間栽培したものの生育と、養液供給開始前の生育とを、比較した。なお、養液供給を開始したか否かという点を除いて、移植の前後において栽培条件の変更はしていない。
一方、播種後28日目に移植した株(上記播種後31日目のよりやや小さい株)では、その後の約2週間の栽培で成長が認められ、その度合いは養液を供給した方が大きかった。この様に、小さめの株では生育初期に養液供給した方がその後の生育が速くなる傾向が見られた。
養液又は水の供給方法は、実施例3と同様である。また、養液又は水の供給方法以外の点においても、栽培条件は、実施例3と同様である。
上記水供給のみで生育した水育苗、および、養液供給で生育した養液育苗について、それぞれ5株ずつをサンプリングし、葉及び根の大きさ、新鮮重量などを指標に生育を比較した(1)。
さらに、地上部と地下部に分け、凍結乾燥後、HPLCによりギンセノシド類を分析した(2)。
(根の生育):養液育苗では、根の先端が褐変化し、主根の伸長が止まり、根の基部が水育苗に比べ有意に肥大化(表3、t検定:p=0.0000002)して、側根が伸長していた(図1の(a))のに対し、水育苗では、主根の伸長が続き、養液育苗と比べて基部はあまり肥大しなかった(図1の(b))。
つまり、最大根長は水育苗で、最大根径は養液育苗で大型化していた。
なお、圃場栽培で生薬として良好に栽培できたものは、基部が肥大化して薬効成分が蓄積されている。
(地上部の生育):葉の大きさ、草丈に顕著な違いは認められなかった。
(葉色):養液育苗では、緑色であるのに対し、水育苗では、栽培1ヶ月程度より葉の緑が抜けはじめ、黄緑から黄色に変化した。特に葉脈間の色が抜け、ところどころ、赤の斑紋が認められた。
なお、例えば、地上部を料理のツマなどで利用する場合には、約1ヶ月目までは、水育苗だけでも見た目は良く、葉色が綺麗である。
収穫したオタネニンジンを、地上部と地下部に分け、ミルロック凍結真空乾燥機TEMPO85(ミルロック社)を用いて2日間凍結乾燥した。得られた凍結乾燥物の全量をビーズ破砕装置(MS−100、株式会社トミー精工)を用いて破砕し、60%メタノール2mLを加えて、15分間振り混ぜ、遠心し、上清を分取した。さらに残留物に60%メタノール2mLを加えて同様の操作を行い、上清を合わせたのち、5mLにメスアップした。この液2.5mLをとり、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液750μLを加えて30分間放置した後、0.1mol/L塩酸を750μL加え、さらに60%メタノールで5mLとした。このうち500μLを、Ultrafree(登録商標)−MC Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)にアプライし、12,000×gで1〜2分間遠心分離した。得られた溶出液のうち、25μL(地下部)あるいは50μL(地上部)をHPLC分析に供した。
今回は、凍結乾燥物でHPLC分析を行ったが、これに限定されず、通常の乾燥物でHPLC分析を行っても良い。
Waters Alliance HPLC system(2795 separation module、2996 photodiode array detector)(Waters社)にて、以下の条件で分析した。
測定波長:203nm、カラム:TSKgel ODS−100V(4.6mm×15cm、5μm;東ソー株式会社)、ガードカラム:TSKgel guardgel ODS−100V 5μm(3.2mm×1.5cm;東ソー株式会社)、流速1.0ml/min、カラム温度:40℃、移動相:(A)水/アセトニトリル混液(4:1)、(B)アセトニトリル、グラジエント条件:0→20min:(A)100→0%、20→22min:(A)0%、22→23min:(A)0→100%、23→25min:(A)100%
グラジエントをかける方法により、HPLC分析を行い、ギンセノシドRb1、Rc、Rd、それぞれの標品を用いて作成した検量線をもとに、オタネニンジン凍結乾燥物の上記ギンセノシド含量を定量した(n=5、HPLC反復回数=3)。
なお、図3の棒グラフは、左からRb1、Rc、Rdの順で、縦軸は、これらギンセノシドの含量(%乾燥重量)を示す。
一方、地上部におけるギンセノシド含量は、水育苗よりも養液育苗の方が、高い傾向が認められた。
上記のWaters Alliance HPLC systemにて、以下の条件で分析した。
測定波長:203nm、カラム:TSKgel ODS−100V(4.6mm×15cm、5μm)、ガードカラム:TSKgel guardgel ODS−100V 5μm(3.2mm×1.5cm)、カラム温度:30℃、移動相:水/アセトニトリル混液(4:1)。
流速1.2ml/minにて、日本薬局方に従った条件で、Rg1が28分付近に溶出し、Reと分離可能であった(図4)。
日本薬局方に準拠した方法により、HPLC分析を行い、ギンセノシドRg1の標品を用いて作成した検量線をもとに、ギンセノシドRg1含量を定量した(n=5、HPLC反復回数=1)。
地下部の含量は、養液育苗と水育苗で違いはなかったが、地上部の含量は、養液育苗の方が、水育苗よりも高い傾向にあった。
なお、上記水耕栽培の条件は、上記に限定するものではなく、例えば、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期12時間〜20時間、500ルクス〜10000ルクス、CO2濃度350ppm〜1500ppmとしてもよい。
なお、播種後、養液供給開始までは、水のみが供給され(実施例2参照)、播種後28日目に養液を供給(実施例3参照)後は、収穫時まで養液の供給を継続した。
なお、播種後102日目の養液供給開始までは、水のみが供給され、102日目以降は、収穫時まで養液の供給を継続した。
(b)バブリング方式:実生苗の地下部を、約3cm×9cmに切った底面給水マット(アクアサプライヤfマットSR180:ふじもと農材企画)で包み込み、スポンジで挟んで、発泡スチロール板に固定し、on:15min、off:30minの条件でポンプを運転して養液に空気を送り込んだ。養液育苗の苗は根が短かったので養液には先端のみが浸かっている状態である。
(c)ミスト方式:実生苗をスポンジで挟んで、発泡スチロール板に固定し、on:2min、off:5minの条件でポンプを運転して、養液を実生苗の地下部に対して噴霧した。養液循環ポンプ条件は、on:15min、off:15minとした。
上記(A)養液育苗区、(B)水育苗区のそれぞれについて、144日目に水耕栽培装置へ移植し、水耕栽培装置栽培期間(144日目〜351日目(207日間))中に(a)〜(c)方式にて養液を供給しながら栽培した場合の生育状況を、比較した。
最大根長については、播種後102日目まで水供給で育成した水育苗の場合、その後収穫まで養液供給する際に、基本型の(a)方式(底面灌水)(表8の栽培法4.に該当)をはじめ、(b)方式(バブリング)(表8の栽培法5.に該当)、(c)方式(ミスト)(表8の栽培法6.に該当)のどの方式で水耕栽培しても、総じて最大根長が長い傾向であった(平均73.0mm、97.0mm、84.9mm)が、播種後28日目から養液供給で育成した養液育苗の場合は、(a)方式(表8の栽培法1.に該当)又は(b)方式(表8の栽培法2.に該当)で水耕栽培を行った場合は、最大根長は、上記水育苗の場合に比べてあまり長くならず(平均41.3mm、49.3mm)、(c)方式(ミスト)の場合は、96.2mmと充分長く成長していた。
一方、最大根幅については、水育苗の場合は、(a)方式だけでなく、(b)、(c)の方式でも、5.2mm〜6.3mm程度であったが、養液育苗の場合は、(a)方式では7.6mm、(b)方式では、9.4mm、(c)方式では10.6mmと、総じて最大根幅が大きくなっていた。なお、根幅は、根径ともいう。
また、肥大(根幅5mm以上)根長については、水育苗の場合は、(a)方式では3.1mm、(b)方式では、8.6mm、(c)方式では9.3mmと、(a)方式に比べて、(b)、(c)方式による方が、顕著に長いとの結果を得た。一方、養液育苗の場合は、(a)方式では11.6mm、(b)方式では、17.9mm、(c)方式では12.5mmと、(b)方式が(a)、(c)方式に比べて、顕著に長いとの結果であった。
表8の、全体新鮮重量については、水育苗は、基本型(a)方式の297mgに比較して、(b)、(c)方式では、423mg、413mgと増加し、養液育苗は、(a)方式460mgに比較して、(b)、(c)方式では、839mg、729mgと、2倍近く増量した。
一方、根乾燥重量については、水育苗は、(a)方式の67mgに比較して、(b)、(c)方式では、97mg、108mgと増加し、他方、養液育苗は、(a)方式の98mgに比較して、(b)、(c)方式では、188mg、184mgと、約2倍も増加するという優れた結果を得た。
一方、播種から102日目までは水のみ供給して育成した水育苗で、播種後102日目から養液を供給する、底面潅水方式(a)による栽培では顕著な根の成長は認められず、ミスト方式(c)やバブリング(不織布)方式(b)による栽培では根肥大部の伸長が促進され、根の乾燥重量がやや増加した。
また、養液育苗(表8の栽培法1.〜3.)は、水育苗(表8の栽培法4.〜6.)より、総じて最大根幅、肥大根長、新鮮重量、根乾燥重量が増大した。
なお、上記径(根径)とは、乾燥状態での根径(根幅)を意味する。
(ギンセノシド類の抽出)
オタネニンジンサンプルを50℃の乾燥機で2日間乾燥(重量変化がなくなるまで)→乾燥物全量を2500rpm、30sec×3の条件でビーズ破砕(トミー精工MS−100)→破砕物のうち、100mg(満たない場合は全量使用)に60%メタノール3mLを数回に分けて加えて、15分間振り混ぜる→遠心分離し、上清を新しいプラスチックチューブへ、残留物には60%メタノール2mLを加えて同様の操作を繰り返す→遠心分離した上清を合わせ、60%メタノールを加えて正確に5mLにメスアップ→そのうち2.5mLを正確にとり、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液750μLを加えて30分間放置→0.1mol/Lの塩酸750μLを加えて、中和→中和後、60%メタノールを加えて正確に5mLにメスアップ→このうち500μLをUltrafree(登録商標)−MC Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)にアプライ→12,000×gで1〜2分間遠心分離し、溶出液を別容器にとる→溶出液のうち200μLをポリプロピレンバイアルに移し、20μLを分析。
(使用標品)
ギンセノシドRb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、Re、Rf、Rg1、Rg2、Rh1、F1、F2(合計12種)
(HPLC分析条件)
使用機器:Waters Alliance HT HPLC system(2795 separation module、2996 photodiode array detector)
カラム:TSKgel ODS−100V(4.6mm×25cm、5μm;東ソー株式会社)
ガードカラム:TSKgel guardgel ODS−100V 5μm(3.2mm×1.5cm;東ソー株式会社)
カラム温度:40℃、流速:0.6mL/min、測定波長:203nm、移動相:(A)アセトニトリルと(B)MilliQ水のグラジエント
(a)水育苗での各ギンセノシドの含量(%乾燥重量)および収量(mg/根)
従来の圃場栽培から得られた、長野県産6年生根(6年間圃場で栽培した圃場栽培品)、長野県産5年生根、長野県産3年生根、長野県産2年生根、茨城県産2年生根の、各圃場栽培品、及び、市場品生薬試料(市販のニンジン生薬)の、各ギンセノシドの含量結果を、表12に示した。
ここで、前述したように、日本薬局方(第16改正)には、生薬「人参」として、「人参」性状(径0.5cm以上)を有することの他に、薬用成分規格値(ギンセノシドRg1:0.10%以上、ギンセノシドRb1:0.20%以上)を満たすことが規定されている。
(1)本実施例の水耕栽培品は、わずか、播種後351日という栽培期間で、上記日本薬局方記載の「人参」性状(径0.5cm以上)と薬用成分規格値(ギンセノシドRg1:0.10%以上、ギンセノシドRb1:0.20%以上)を達成することができただけでなく、上記日本薬局方の規格値に対して、Rg1は、2.5倍〜3.8倍、Rb1は2.1倍〜3.4倍というかなり高い含量が得られた(表11、図6参照)。
なお、本実施例の水耕栽培のうち、Rg1含量は、水育苗法で上記日本薬局方規格値の2.5倍〜3.8倍、養液育苗法で上記規格値の3.4倍〜3.7倍、また、Rb1含量は、水育苗法で上記日本薬局方規格値の1.9倍〜3.2倍、養液育苗法で上記規格値の2.1倍〜3.4倍となり、水育苗法、養液育苗法の違いに関わらず、上記規格値より一層高い含量を得ることが出来た(表11、図6)。
(2)本実施例の水耕栽培品において、底面灌水方式、バブリング方式、ミスト方式の各栽培法による顕著な含量の違いはないが、バブリング方式では全体的に含量が高く、底面潅水方式では含量が低い傾向にあった(表11、図6)。
(3)本実施例の水耕栽培品は、従来の2年〜6年生の圃場栽培品や市場品生薬試料に匹敵する値の各ギンセノシド含量を有する(表11、図6、表12、参照)。
(4)水耕栽培品は、全体としてRe含量が高く、その意味においては2年生根(圃場栽培)のギンセノシド組成に近い傾向にあった(表11、12、参照)。
(5)各ギンセノシド含量に関して全体的に成績が良かったのは、養液育苗でバブリング方式により栽培した場合であった。
(6)収量に関して、特にRg1、Rb1については、水育苗法(表9)と養液育苗法(表10)の平均値を検討すると、水育苗法あるいは養液育苗法の中では、底面灌水式栽培より、バブリング方式、ミスト方式の方がより多い収量を示しており、また、水育苗法と養液育苗法とを比較すると、養液育苗法が全体的に多い収量を示し、特に、バブリング方式、次にミスト方式での収量の増大が顕著であった(表9、表10)。
(7)圃場栽培品に関しては、2〜6年生の圃場栽培品の成分比較を行うと、Rg1は栽培年数が増えると増加し、Re、Rc、Rdは逆に減少し、Rb1は年生に依存しない傾向にあった(表12)。
(8)本実施例の、わずか、播種後351日という栽培期間で、日本薬局方記載の生薬「人参」性状(径0.5cm以上)と薬用成分規格値(ギンセノシドRg1:0.10%以上、ギンセノシドRb1:0.20%以上)を全て達成することができたのは、養液育苗を、バブリング方式、あるいは、ミスト方式により水耕栽培した場合であった。
水育苗を用いる方法を含めて、上記以外の方法は、上記薬用成分規格値は351日目で既にクリアしているため、さらに栽培を続けて、最大根幅(根径)が5mm以上となるのを待って収穫することもできる。
ギンセノシドとは、サポニンの一種で、高麗人参(オタネニンジン)などの有効成分として知られている。ギンセノシドの効能の仕組みはあまり明らかになっていないが、様々な効果があるとされ、歴史的にも臨床試験的にもその効能はかなり高いと考えられている。実際、ギンセノシドの効果・効能としては、免疫力強化、脳機能の活性化、記憶力向上などがあるとされている。
(1)Rg1:記憶学習機能改善作用、中枢神経興奮作用、抗疲労・疲労回復作用、抗血栓効果、性機能改善効果(血管拡張効果)等。
(2)Rb1:中枢神経抑制作用、催眠作用、鎮痛作用、精神安定作用等。
(3)Re:抗高血糖効果、肝臓の損傷を保護する効果、骨髄細胞分裂促進作用等。
(4)Rc:鎮痛作用、高脂血または糖尿病の改善効果、中枢神経抑制作用、蛋白質および脂質の合成促進等。
(5)Rd:副腎皮質ホルモン分泌促進作用等。
播種後351日目までは、実施例5に示すものと同じ条件で、オタネニンジン実生苗を育成し、水耕栽培をした。播種後351日目以降は、引き続き同じ水耕栽培装置と閉鎖型栽培施設とを用いて、相対湿度60%、CO2濃度800ppm〜1000ppm、1000ルクス〜1400ルクスで明期16時間の条件下で、オタネニンジン実生苗の水耕栽培を行った。但し、温度条件については、播種後353日目に20℃から10℃へ変更し、さらに、播種後465日目に10℃から15℃へ変更をして栽培をした。そして、温度条件を10℃に変更後、112日目(播種後465日目)、123日目(播種後476日目)、145日目(播種後498日目)、167日目(播種後520日目)に、オタネニンジンの成育調査を行った。栽培条件等は、以下の表13に示す通りであり、表13中の用語のうち表7と同じ用語は、表7と同じ意味である。また、栽培した個体数は、後述の表14中にnとして示している。
オタネニンジン芽切り種子を、バーミキュライト(有限会社タカムラ)を充填したツリーポット(株式会社山利製作所)に播種し、適宜、水を供給しながら、肥料分を加えずに育成した。播種後約2カ月を経過した後に、芽切り種子が順次発芽し、播種から約7カ月後に、成育の比較的揃った12株(播種から約5カ月後に発芽した株:すなわち、約2カ月育成した実生苗)を、バーミキュライトを充填した別のツリーポットに移植し、「大塚A処方1/8濃度」を養液として、底面潅水方式に準じて水耕栽培を行った。なお、水耕栽培の途中において、カビ、虫等が発生することを防止するため、充填したバーミキュライトの上面に、より排水性の高いビーナスライト(芙蓉パーライト株式会社)を約1cmの厚さで充填した。
オタネニンジンは自然環境下では、秋に地上部が枯死して、翌春に新芽が萌芽して成育するが、この際、冬の低温に晒されることが萌芽誘導の引き金となっていることが知られていた。また、3〜5℃で90日〜120日程度の低温処理を施すことで、高い確率で萌芽が誘導されることも知られていた。しかしながら、実施例6及び7では、オタネニンジンの地上部の成育が可能な10℃〜15℃という温度条件において、高い確率で新芽の萌芽も誘導できることが示された。なお、萌芽の誘導が可能になれば、新葉の展開および成長によって、オタネニンジンの地下部のさらなる肥大や伸長を誘導し得る。
つまり、栽培条件を人工的にコントロールすることで、従来の圃場栽培に関する種々様々な問題を解消することができ、複数のギンセノシド成分含量と根径に関して、日本薬局方で規定された基準値を満たす栽培品を、安全性の高い高品質の状態で、短期間に、安定して供給することが出来る。
さらに、本発明によれば、適切な栽培管理を行うことにより、無農薬栽培や多角栽培が可能となり、薬用のウコギ科植物の国内生産の活性化を推進することが可能であり、また、労働人口の確保にも繋がり得る。
1)播種から収穫までの栽培条件を制御するためのウコギ科薬用植物の栽培方法であって、播種した芽切り種子を、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期10時間〜18時間の閉鎖型栽培施設で、1ヶ月間〜2ヶ月間育成させて実生苗とする第1の工程、前記実生苗を、水耕栽培装置へ移植して、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期12時間〜20時間の閉鎖型栽培施設でさらに4ヶ月間〜12ヶ月間以上栽培して薬用栽培物とする第2の工程、を含む、栽培方法。
2)上記1)の栽培方法において、前記第1の工程は、気温20℃、相対湿度60%、明期14時間であり、前記第2の工程は、気温20℃、相対湿度60%、明期16時間である、栽培方法。
例えば、気温、照度などの栽培条件、水や養液の供給方法、養液の組成や濃度、苗や水耕栽培開始後の栽培日数などは、栽培技術・養液の組成・分析技術の進展等により、適宜、修正や追加することが可能である。
Claims (12)
- 播種から収穫までの栽培条件を制御するためのウコギ科薬用植物の栽培方法であって、
播種した芽切り種子を、閉鎖型栽培施設で育成させて、実生苗とする第1の工程と、
前記実生苗を、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期12時間〜20時間の閉鎖型栽培施設で所定の期間、水耕栽培して薬用栽培物とする第2の工程と、
を含む、栽培方法。 - 前記第1の工程が、播種した芽切り種子を、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期10時間〜18時間の閉鎖型栽培施設で、1ヶ月間〜2ヶ月間育成させて実生苗とする工程であり、
前記第2の工程が、前記実生苗を、水耕栽培装置へ移植して、気温10℃〜25℃、相対湿度30%〜90%、明期12時間〜20時間の閉鎖型栽培施設でさらに4ヶ月間〜12ヶ月間以上栽培して薬用栽培物とする工程である、
請求項1に記載の栽培方法。 - 前記第1の工程は、照度が最大でも5000ルクスであり、前記第2の工程は、照度が500ルクス〜10000ルクス、CO2濃度が350ppm〜1500ppmである、請求項1または2に記載の栽培方法。
- 前記第1の工程は、気温10℃〜25℃、相対湿度45%〜75%、明期12時間〜16時間であり、前記第2の工程は、気温10℃〜25℃、相対湿度45%〜75%、明期12時間〜18時間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の栽培方法。
- 前記第1の工程は、給水に水または養液を用い、前記第2の工程は、給水に養液を用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の栽培方法。
- 前記第1の工程は、自動ポンプで一日1回10分〜30分間給水する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の栽培方法。
- 前記第2の工程は、底面灌水方式、バブリング方式、または、ミスト方式で水耕栽培する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の栽培方法。
- 前記底面灌水方式は、栽培容器の底面に養液を満たすことで前記植物へ養液を供給して栽培する方法であり、前記バブリング方式は、前記植物の地下部へ空気バブル含有の養液を供給して栽培する方法であり、前記ミスト方式は、養液を植物の地下部へ噴霧して栽培する方法である、請求項7に記載の栽培方法。
- 前記ウコギ科薬用植物は、トチバニンジン属植物である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の栽培方法。
- 前記第2の工程は、前記閉鎖型栽培施設内の気温を10℃〜17℃として栽培する期間を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の栽培方法。
- 播種から収穫までを人工的に栽培する、ウコギ科薬用植物の栽培方法であって、以下の(a)〜(c)の種子から育苗する工程と、(d)〜(e)の水耕栽培する工程とを、含むことを特徴とする栽培方法。
(a)芽切り種子を実生栽培容器に播種する工程、
(b)前記種子を、気温20℃、相対湿度60%、最大5000ルクス以下、明期14時間の閉鎖型栽培施設で、自動潅水装置によって給水しながら育成する工程、
(c)播種後1ヶ月目に前記自動潅水装置で養液または水を供給しつつ、播種後2ヶ月目〜3ヶ月目まで育成を継続する工程、
(d)前記種子から育成した実生苗を、水耕栽培装置に移植する工程、
(e)前記実生苗を、気温20℃、相対湿度60%、CO2濃度800ppm〜1000ppm、1000ルクス〜1400ルクス、明期16時間の閉鎖型栽培施設で、養液を供給しながら栽培する工程。 - 前記工程(d)で移植した後、前記工程(e)は、その後少なくとも4ヶ月間〜12ヶ月間栽培する、請求項11に記載の栽培方法。
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