JP2017014623A - ニッケル−チタン−希土類元素合金および合金の処理方法 - Google Patents

ニッケル−チタン−希土類元素合金および合金の処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】加工性、放射線不透過性、超弾性等において従来のNi−Ti−RE合金類よりも優れたニッケル−チタン−希土類元素合金及びその加工方法の提供。【解決手段】35at.%から65at.%の濃度のニッケル;1.5at.%から15at.%の濃度の希土類元素;0.1at.%までの濃度のホウ素;及び残部のチタンを含むようにする。また、約35at.%から約65at.%の濃度でニッケル、約1.5at.%から約15at.%で希土類元素を含み、残部がチタンであるニッケル−チタン−希土類元素の合金を提供し、臨界温度以下の均質化処理温度領域で該ニッケル−チタン−希土類元素合金を加熱し、該均質化処理温度領域に維持しつつ、合金中に球体の希土類元素リッチ(rare earth-rich)な第2の相を形成することを含む合金加工方法。【選択図】 図1

Description

本出願の開示はニッケル−チタン合金に関し、特には向上した加工性を有するニッケル−チタン−希土類元素合金に関する。
ニッケル−チタン合金は自己拡張可能なステント、ステントグラフト、塞栓の保護フィルタ、および結石除去バスケットのような腔内医学装置の製造に一般的に使用される。そのような装置は、一般的にニチノール(Nitinol)と呼ばれる、等原子量(equiatomic)または近等原子量(near-equiatomic)のニッケル−チタン合金の超弾性または形状記憶挙動を利用する。
非侵襲性映像技術、たとえばエックス線蛍光法などで装置上に放射線不透過マーカーまたはコーティングを使用することでニッケル−チタン医療器具を体外から見えるようにすることができる。例えば、ステントの1または両端に取り付けられた金マーカーは、装置の位置決めを誘導して、X線検査の間、その長さを描写することができる。あるいはまた、医療装置は、放射線不透過性の表面または外層を作成するために、金または別の重金属でメッキされ、クラッド加工され、または他の方法でコーティングされることができる。別のアプローチでは、放射線不透過性のコアを製造するためにステントの管腔の中に重金属シリンダを含むことができる。
本発明は、Ni−Tiの2成分合金と比べて、向上した放射線不透過性を示すニッケル−チタン−希土類(Ni−Ti−RE)合金類に関し、従来のNi−Ti−RE合金類よりも優れた加工性を示すものに関する。合金の延性を向上する合金元素としてホウ素(B)を含むことができる。放射線不透過性および加工性に加えて、Ni−Ti−RE合金はまた、超弾性または形状記憶挙動を示す。そのような合金を処理する方法も開示される。
例示的なNi−Ti−RE合金は、ニッケルを約35at.%から約65at.%で含み、希土類元素を約1.5at.%から約15at.%で含み、最大約0.1at.%までのホウ素を含み、残部はチタンであることができる。
例示のNi−Ti−RE合金を処理する方法は、約35at.%から約65at.%の濃度でニッケルを含み、約1.5at.%から約15at.%で希土類元素を含み、残部がチタンであるニッケル−チタン−希土類元素の合金を提供すること、臨界温度以下の均質化処理温度領域で該ニッケル−チタン−希土類元素合金を加熱すること、および該均質化処理温度領域に維持しつつ、合金中に球体または他の形状の、希土類元素リッチ(rare earth-rich)な第2の相を形成することを含む。
本発明の好ましい特徴について、例示として添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、1つの実施態様によるニッケル−チタン合金の組成範囲を示す三元合金濃度ダイヤグラムである。 図2は、いくつかの希土類元素(RE)とプラチナについての、線吸収係数対光子エネルギーのグラフである。 図3は、プラチナの線吸収係数と、光子エネルギーに関して規格化された、図2の線吸収係数のグラフである。 図4Aは、4つの異なったフィルターレベルについての、相対入射と40kVp管電圧における光子エネルギーのグラフである。 図4Bは、4つの異なったフィルターレベルについての、相対入射と70kVp管電圧における光子エネルギーのグラフである。 図4Cは、4つの異なったフィルターレベルについての、相対入射と80kVp管電圧における光子エネルギーのグラフである。 図4Dは、4つの異なったフィルターレベルについての、相対入射と125kVp管電圧における光子エネルギーのグラフである。 図5は複数のフィルタースキームにおける、40kVp管電圧での、種々のNi−Ti−RE合金類についての計算された累積線吸収係数を示すグラフである。 図6は複数のフィルタースキームにおける、70kVp管電圧での、種々のNi−Ti−RE合金類についての計算された累積線吸収係数(放射線不透過度)を示すグラフである。 図7は複数のフィルタースキームにおける、80kVp管電圧での、種々のNi−Ti−RE合金類についての計算された累積線吸収係数(放射線不透過度)を示すグラフである。 図8は複数のフィルタースキームにおける、125kVp管電圧での、種々のNi−Ti−RE合金類についての計算された累積線吸収係数(放射線不透過度)を示すグラフである。 図9は複数のフィルタースキームにおける、40kVp管電圧での、近等原子量のNi−Tiの2成分合金の放射線不透過度に対する、種々のNi−Ti−RE合金類の放射線不透過度のグラフである。 図10は複数のフィルタースキームにおける、70kVp管電圧での、近等原子量のNi−Tiの2成分合金の放射線不透過度に対する、種々のNi−Ti−RE合金類の放射線不透過度のグラフである。 図11Aは、複数のフィルタースキームにおける、80kVp管電圧での、近等原子量のNi−Tiの2成分合金の放射線不透過度に対する、種々のNi−Ti−RE合金類の放射線不透過度のグラフである。 図11Bは、複数のフィルタースキームにおける、80kVp管電圧での、近等原子量のNi−Tiの2成分合金の放射線不透過度に対する、種々のNi−Ti−RE合金類の放射線不透過度のグラフである。 図12は複数のフィルタースキームにおける、125kVp管電圧での、近等原子量のNi−Tiの2成分合金の放射線不透過度に対する、種々のNi−Ti−RE合金類の放射線不透過度のグラフである。 図13は合金のオーステナイト化最終温度(austenitic final temperature)より高い温度における例示の形状記憶合金についての応力−歪みのグラフである。 図14は例示の形状記憶合金の変態温度曲線である。 図15は例示の形状記憶合金の温度と歪みのグラフである。 図16は、Ni−Ti−RE合金で形成された少なくとも1つの層を含む複合材構造を有する例示のワイヤを示す。 図17Aは、1つ以上のストランドがNi−Ti−RE合金で形成された、7つのワイヤストランドから形成された例示のケーブルにおける模式的な断面図である。 図17Bは、1つ以上のワイヤ構造のストランドがNi−Ti−RE合金で形成された、例示の編組ワイヤ構造の模式的な側面図である。 図18は、カニューレの1つ以上の層がNi−Ti−RE合金で形成された、複合材構造を有する例示のカニューレの模式図である。 図19は、ワイヤのすべてまたは一部がNi−Ti−RE合金で形成された、1つ以上のワイヤから形成された例示のステントの模式図である。 図20は、典型的な大人の下腹部を通過したX線減衰をシミュレートするために医療機器・放射線保健センター(CDRH)によって開発されたファントムの模式図である。 図21は、Ni−Ti−X試料(X=Gd、ErまたはPt)についての、様々な管電圧での蛍光透視モードでCDRHファントムを使用することで決定された、2成分Ni−Tiに対するエックス線コントラストにおける改良の平均を示す棒グラフである。 図22は、Ni−Ti−X試料(X=Gd、ErまたはPt)についての、様々な管電圧での静的モードでCDRHファントムを使用することで決定された、2成分Ni−Tiに対するエックス線コントラストにおける改良の平均を示す棒グラフである。 図23Aは、70kVの管電圧で得られた、2成分Ni−Tiと比較した、様々なNi−Ti−X合金の放射線不透過性の改良を示す棒グラフである。 図23Bは、80kVの管電圧で得られた、2成分Ni−Tiと比較した、様々なNi−Ti−X合金の放射線不透過性の改良を示す棒グラフである。 図23Cは、90kVの管電圧で得られた、2成分Ni−Tiと比較した、様々なNi−Ti−X合金の放射線不透過性の改良を示す棒グラフである。 図23Bは、100kVの管電圧で得られた、2成分Ni−Tiと比較した、様々なNi−Ti−X合金の放射線不透過性の改良を示す棒グラフである。 図23Eは、110kVの管電圧で得られた、2成分Ni−Tiと比較した、様々なNi−Ti−X合金の放射線不透過性の改良を示す棒グラフである。 図23Eは、125kVの管電圧で得られた、2成分Ni−Tiと比較した、様々なNi−Ti−X合金の放射線不透過性の改良を示す棒グラフである。 図24Aは、NiTi−4.5at.%Erにおける、キャストされた時の構造を示す。 図24Bは、925℃での均質化処理の後の、NiTi−7.5at.%Erの構造を示す。 図24Cは、7日間1000℃での均質化処理の後に機械加工をした時の、NiTi−4.5at.%Er合金を示す。 図24Dは、3日間900℃で均質化処理されたNi−Ti−Er合金を示す。 図25Aは、1390℃で加熱された2成分NiTi合金のDSC/DTA反応を示す。 図25Bは、1390℃まで加熱したNiTi−7.5at.%Er合金中のNiEr相の初期溶融のDSC/DTA反応を示す。 図25Cは、NiTi−7.5at.%Er合金が24時間925℃で均質化され、引き続いて固化された時のNiEr相の初期溶融のDSC/DTA反応を示す。 図25Dは、初期溶融を回避するために72時間900℃で均質化したNiTi−7.5at.%Er合金のDSC/DTA反応を示す。 図25Eは、初期溶融を回避するために24時間875℃で均質化したNiTi−7.5at.%Er合金のDSC/DTA反応を示す。 図25Fは、初期溶融を回避するために72時間825℃で均質化したNiTi−7.5at.%Er合金のDSC/DTA反応を示す。で均質化された。 図26はNi−Ti−Nd合金のDSC/DTA反応を示している。 図27はNi−Ti−Gd合金のDSC/DTA反応を示している。 図28Aは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金のキャストされたままの場合のミクロ構造を示す。 図28Bは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を925℃で1日間の熱処理した場合のミクロ構造を示す。 図28Cは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を900℃で1日間の熱処理した場合のミクロ構造を示す。 図28Dは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を900℃で3日間の熱処理した場合のミクロ構造を示す。 図28Eは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を875℃で1日間の熱処理(中心部)した場合のミクロ構造を示す。 図28Fは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を875℃で1日間の熱処理(端部)した場合のミクロ構造を示す。 図28Gは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を825℃で1日間の熱処理(中心部)した場合のミクロ構造を示す。 図28Hは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を825℃で1日間の熱処理(端部)した場合のミクロ構造を示す。 図28Iは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を850℃で3日間の熱処理した場合のミクロ構造を示す。 図28Jは、Ni−Ti−7.5at.%Er合金を825℃で1日間の熱処理をした場合のミクロ構造を示している。 図29は、キャストされた合金の、Er、Pd、Cr、およびB添加の関数としてのNi−Ti−Er合金の硬度データを示している。 図30は、850℃で3日間均質化をした合金の、Er、Pd、Cr、およびBの関数としてのNi−Ti−Er合金の硬度データを示している。 図31A−31Cは、Ni−Ti−4.5at.%Er−35ppm B合金の、850℃への予備加熱後に10mmから2.5mmまでの減圧を受けた熱間鍛造からのデータを示す。 図32A−32Cは、Ni−Ti−6at.%Er−35ppmB合金の、850℃への予備加熱後に10mmから2.5mmまでの減圧を受けた熱間鍛造からのデータを示す。
(定義)
明細書および特許請求の範囲において使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する。
マルテンサイト開始温度(M)は、マルテンサイト相変態を示す形状記憶材料についての、冷却時にマルテンサイトへの相変態を開始する温度である。
マルテンサイト終了温度(M)は、冷却時にマルテンサイトへの相変態が終了する温度である。
オーステナイト開始温度(A)は、オーステナイト相変態を示す形状記憶材料についての、加熱時にオーステナイトへの相変態を開始する温度である。
オーステナイト終了温度(A)は、加熱時にオーステナイトへの相変態が終了する温度である。
R’相開始温度(R’)は、R−相変態を示す形状記憶材料についての、加熱時にR相への変態を開始する温度である。
R’相終了温度(R’)は、加熱時にR−相変態が終了する温度である。
R相開始温度(R)は、R−相変態を示す形状記憶材料についての、冷却時にR相への変態を開始する温度である。
R相終了温度(R)は、冷却時にR−相変態が終了する温度である。
放射線不透過性は材料または物質が、X線のような電磁放射を吸収する能力の尺度である。放射線不透過物質は、優先的に入射エックス線を吸収して、エックス線イメージに高い放射コントラストと良好な可視性を示す傾向がある。放射線不透過性でない材料は、入射エックス線を透過する傾向があり、エックス線イメージで容易に可視化できない場合がある。材料の線吸収係数(マイクロ)は、エックス線放射の吸収能力、すなわちその放射線不透過性のよい指標でありうる。開示の目的のために、累積線吸収係数(以下で詳細に定義して、説明する)は、材料の放射線不透過性を示すものとして使用することができる。
「加工性」という用語は、たとえばローリング、鍛造、押出などの方法によって行われる成形により、異なった形および/または寸法を有するように成形する際の容易さをいう。
「晶粒生成(spheroidization)」という用語は合金内における複数の個別の第二相粒子(「晶粒(spheroids)」)の形成をいう。晶粒は球体形状である必要はない。本明細書で使用される時、晶粒という用語はどんな形状の粒子群も含む。
「希土類元素リッチな第2相」という用語は、ニッケル−チタン−希土類元素合金の2番目の相成分をいい、2番目の相成分は希土類元素を含んでいる。
「近等原子量の2成分ニッケル−チタン合金」という用語は、45at.%から55at.%のニッケルを含み、残りがチタンである2成分合金をいう。
本明細書に記載されるものは、ニッケル、チタン、および少なくとも1種の希土類元素を含むニッケル−チタン合金である。1つの実施態様によれば、ニッケル−チタン合金は、所望の用途に応じた所望の特性を付与することができる少なくとも1つの追加の合金化元素を含む。望ましくは、従来のニッケル−チタン合金と比べて、本発明のニッケル−チタン合金は改良された放射線不透過性を有する。従って、ニッケル−チタン合金を含む医療器具は、エックス線蛍光法などの非侵襲性の撮像法の間、より良い可視性を示すことができる。望ましくは、以下に議論されるように、ニッケル−チタン合金は、医療器具に有利な超弾性または形状記憶特性を有する。
望ましくは、ニッケル−チタン合金の1種以上の希土類元素は周期表のランタニド系列および/または、アクチニド系列から選ばれ、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、Uを含む。ランタン系例またはアクチニド系列の元素でないが、イットリウム(Y)、およびスカンジウム(Sc)は時々希土類元素と呼ばれる。より望ましくは、希土類元素(RE)はLa、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから成る群から選択される。
1つの例示の好適な実施例によれば、希土類元素は合金の濃度で三元位置を占める。言い換えれば、希土類元素の量は、望ましくはニッケルとチタンの量より少ないが、合金中に存在できる任意の追加の合金化元素の量よりも大きい。合金のための例示の組成範囲は図1に図式的に示されている。
1つの実施態様によれば、ニッケル−チタン合金は少なくとも1種の希土類元素を少なくとも約0.1%含むことができる。望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約1.0at.%で少なくとも1種の希土類元素を含む。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約2.5at.%で少なくとも1種の希土類元素を含む。ニッケル−チタン合金が少なくとも約5at.%で少なくとも1種の希土類元素を含むことが望ましい場合がある。
また、ニッケル−チタン合金が約15at.%%以下の量で少なくとも1種の希土類元素を含むことが好ましい。より望ましくは、ニッケル−チタン合金が約12.5at.%%以下の量で少なくとも1種の希土類元素を含むことが好ましい。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金が約10at.%%以下の量で少なくとも1種の希土類元素を含むことが好ましい。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金が約7.5at.%%以下の量で少なくとも1種の希土類元素を含むことが好ましい。最も望ましくは、ニッケル−チタン合金が約5.0at.%%以下の量で少なくとも1種の希土類元素を含むことが好ましい。
一例として、好適な実施態様では、ニッケル−チタン合金は約0.1at.%から約15at.%で、少なくとも1種の希土類元素を含む。望ましくは、ニッケル−チタン合金は約1.0at.%から約12.5at.%で、少なくとも1種の希土類元素を含む。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は約1.0at.%から約10.0at.%で、少なくとも1種の希土類元素を含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は約1.0at.%から約7.5at.%、または約2.5at.%から約7.5at.%で、少なくとも1種の希土類元素を含む。最も望ましくは、ニッケル−チタン合金は約2.5at.%から約5.0at.%で、少なくとも1種の希土類元素を含む。例えばニッケル−チタン合金は約、3.0at.%、3.25at.%、3.5at.%、3.75at.%、または4at.%の少なくとも1種の希土類元素を含む。
好適な実施態様によれば、ニッケル−チタン合金は少なくとも約34at.%のニッケルを含む。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約36.5at.%のニッケルを含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約39at.%のニッケルを含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約44at.%のニッケルを含む。
また、ニッケル−チタン合金は約60at.%以下のニッケルを含むことが好ましい。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は約55at.%以下のニッケルを含む。ニッケル−チタン合金は約50at.%のニッケルを含むことができる。
好適な実施態様によると、ニッケル−チタン合金は少なくとも約34at.%のチタンを含む。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約36.5at.%のチタンを含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約39at.%のチタンを含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は少なくとも約44at.%のチタンを含む。
また、ニッケル−チタン合金が約60at.%以下のチタンを含むことが好ましい。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は約55at.%以下のチタンを含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は約50at.%以下のチタンを含む。
例示の実施態様では、ニッケル−チタン合金は約36.5at.%から約55at.%のニッケル、約36.5at.%から約55at.%のチタン、および約2.5at.%から約12.5at.%の少なくとも1種の希土類元素を含む。別の例示の実施態様では、ニッケル−チタン合金は約39at.%から約55at.%のニッケル、約39at.%から約55at.%のチタン、および約5at.%から約10at.%の少なくとも1種の希土類元素を含む。
ニッケル−チタン合金は、遷移金属元素または他の金属などの1種以上の追加の合金化元素を含むことができる。例えば、追加の合金化元素(AAE)としては、Al、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、TI、Pb、Bi、Po、V、およびミッシュメタルの一種以上を含むことができる。望ましくはニッケル−チタン合金は約14.9at.%以下のAAEを含む。より望ましくは、ニッケル−チタン合金は約9.9at.%以下のAAEを含む。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は約7.4at.%以下のAAEを含む。まして望ましくは、ニッケル−チタン合金は約4.9at.%以下のAAEを含む。最も望ましくは、ニッケル−チタン合金は約1.9at.%以下のAAEを含む。1つの好適な実施例によると、ニッケル−チタン合金は少なくとも約0.1at.%のAAEを含む。望ましくは、1以上の追加の合金化元素がIr、Pt、Au、Re、W、Pd、Rh、Ta、Ag、Ru、Hf、Os、Zr、Nb、およびMoから成る群から選択される時、追加の合金化元素は希土類元素よりも少ない濃度でニッケル−チタン合金中に存在する。
等原子量または均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金は、超弾性または形状記憶挙動を示す場合がある。そのような合金類は一般的にニチノールまたはニチノール合金と呼ばれる。わずかに、ニッケルリッチなニチノール合金、たとえば51at.%Niと49at.%のTiを含むものは、体温においてオーステナイト系であり、医療器具に有用であることが知られている。具体的には、50.6−50.8at.%Niと49.2−49.4at.%Tiを含む合金類は、医療グレードニチノール合金類であると考えられている。
従って、1つの好適実施例によれば、本発明のニッケル−チタン合金は約51at.%のNi、約34at.%のTi、および約15at.%のREを含むことができる。1種以上の追加合金化元素(AAE)が合金内に存在している別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、好ましくは、約51at.%のNi、約34at.%のTi、約(15−x)at.%のRE、および約xat.%のAAEを含み、ここでxは0≦x≦14.9である。望ましくは、希土類元素は合金の三元位置にあり、0≦x≦7.4である。これらの実施例によると、希土類元素はチタンを置換する。あるいはまた、希土類元素は、ニッケルを置換することができ、またはニッケルとチタンの両方を置換することができる。
別の好適な実施例によると、本発明のニッケル−チタン合金は約51at.%のNi、約36.5at.%のTi、および約12.5at.%のREを含むことができる。望ましくは、1種以上の追加の合金化元素(AAE)が合金内に存在している別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、好ましくは、約51at.%のNi、約36.5at.%のTi、約(12.5−x)at.%のRE、および約xat.%のAAEを含み、ここでxは0≦x≦12.4である。望ましくは、希土類元素は合金の三元位置にあり、0≦x≦6.2である。これらの実施例によると、希土類元素はチタンを置換する。あるいはまた、希土類元素は、ニッケルを置換することができ、またはニッケルとチタンの両方を置換することができる。
別の好適な実施例によると、本発明のニッケル−チタン合金は約51at.%のNi、 約39at.%のTi、および約10at.%のREを含むことができる。1種以上の追加の合金化元素(AAE)が合金内に存在している別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、好ましくは、約51at.%のNi、約39at.%のTi、約(10−x)at.%のRE、および約xat.%のAAEを含み、ここでxは0≦x≦9.9である。望ましくは、希土類元素は合金の三元位置にあり、0≦x≦4.9である。これらの実施例によると、希土類元素はチタンを置換する。あるいはまた、希土類元素は、ニッケルを置換することができ、またはニッケルとチタンの両方を置換することができる。
別の好適な実施例によると、本発明のニッケル−チタン合金は約51at.%のNi、約41.5at.%のTi、および約7.5at.%のREを含むことができる。1種以上の追加の合金化元素(AAE)が合金内に存在している別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、好ましくは、約51at.%のNi、約41.5at.%のTi、約(7.5−x)at.%のRE、および約xat.%のAAEを含み、ここでxは0≦x≦7.4である。望ましくは、希土類元素は合金の三元位置にあり、0≦x≦3.7である。これらの実施例によると、希土類元素はチタンを置換する。あるいはまた、希土類元素は、ニッケルを置換することができ、またはニッケルとチタンの両方を置換することができる。
別の好適な実施例によると、本発明のニッケル−チタン合金は約51at.%のNi、約44at.%のTi、および約5.0at.%のREを含むことができる。1種以上の追加の合金化元素(AAE)が合金内に存在している別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、好ましくは、約51at.%のNi、約44at.%のTi、約(5.0−x)at.%のRE、および約xat.%のAAEを含み、ここでxは0≦x≦4.9である。望ましくは、希土類元素は合金の三元位置にあり、0≦x≦2.4である。これらの実施例によると、希土類元素はチタンを置換する。あるいはまた、希土類元素は、ニッケルを置換することができ、またはニッケルとチタンの両方を置換することができる。
別の好適な実施例によると、本発明のニッケル−チタン合金は約51at.%のNi、約46.5at.%のTi、および約2.5at.%のREを含むことができる。1種以上の追加の合金化元素(AAE)が合金内に存在している別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、好ましくは、約51at.%のNi、約46.5at.%のTi、約(2.5−x)at.%のRE、および約xat.%のAAEを含み、ここでxは0≦x≦2.4である。望ましくは、希土類元素は合金の三元位置にあり、0≦x≦1.2である。これらの実施例によると、希土類元素はチタンを置換する。あるいはまた、希土類元素は、ニッケルを置換することができ、またはニッケルとチタンの両方を置換することができる。
代替の実施態様では、ニッケル−チタン合金は、約50at.%のNi、約(50−y−x)at.%のTi、yat.%のRE、およびxat.%のAAEを含み、ここで前述のようにxは約15以下であり、yは約14.9以下である。別の実施例では、ニッケル−チタン合金は、約52at.%のNi、約(48−y−x)at.%のTi、yat.%のRE、およびxat.%のAAEを含み、xとyは上で説明した領域を有する。あるいはまた、合金は約53at.%のNi、約(47−y−x)at.%のTi、yat.%のRE、およびxat.%のAAEを含むことができる。また、合金は約54at.%のNi、約(46−y−x)at.%のTi、yat.%のRE、およびxat.%のAAEを含むことができ、または約55at.%のNi、約(45−y−x)at.%のTi、yat.%のRE、およびxat.%のAAEを含むことができる。別の実施例では、合金は約56at.%のNi、約(44−y−x)at.%のTi、yat.%のRE、およびxat.%のAAEを含むことができる。1つの好適実施例では、yは(4−x)と等しく、xは、以下の表1に示される例示の値を有する。
エルビウム(Er)は好ましい希土類元素である。Erは、増加した希土類元素濃度の時に、他の希土類元素ほどニッケル−チタン合金のクラッキングまたはもろさを引き起こさないと信じられている。クロム(Cr)は好ましい追加の合金化元素(AAE)である。以下でさらに議論するように、合金のオーステナイト系相変態温度を体温の近くに抑制するのに、クロムの濃度増大が有効であると信じられている。ニッケルリッチな合金類も抑制された変態点を有することが知られている。従って、以下の表2に編集されているのは、ニッケルの濃度増大と共にErとCrを含む数個の好ましいNi−Ti合金組成物である。
パラジウム(Pd)も合金のオーステナイト相変態温度を抑制することに役立つことができ、それはさらに材料の放射線不透過性を改良できる。パラジウムもニッケル−チタン合金のたわみ性と加工性を改良するために有用であることができる。従って、合金化元素としてCrに代えて、またはCrに加えてPdを含むことができる。表3−8には、Pdと、希土類元素(RE=Er、La、Gd、Dy、Sm、またはCe)を含む好ましいTi−Ni−RE合金組成について、ニッケルの濃度増大と共に示される。第四元成分または高次の元素添加として合金組成に鉄(Fe)を含むことは、鉄がニッケル−チタン合金の熱間加工性を改良できるので有用な場合がある。例えば、最大約10at.%のFeはNi−Ti−RE合金への添加に適している場合がある。いくつかの場合には、約3at.%以下、または約1at.%以下のFeは、合金への添加に適している場合がある。
Pdが追加合金化元素(AAE)として含まれているとき、一般に、ニッケル−チタン合金は約6at.%未満のREを含んでいる。例えば、ニッケル−チタン合金は、Pdの量が約0.5at.%から約5at.%、約0.5at.%から約2at.%、約1at.%から約5at.%の場合に、REを約2at.%から約6at.%、約2at.%から約3.5at.%、約3at.%から約6at.%で含むことができる。
ホウ素(B)のわずか少量、最大約0.1at.%の添加で、Ni−Ti−RE合金の総合的な延性を改良できる。本発明者は、Bの粒界偏析が塑性変形の間のスリップを促進でき、その結果、合金の熱および冷加工性を改良すると信じている。
ほう素添加により得られた加工性の改良と、希土類合金化元素によって提供される向上した放射線不透過性のため、好ましいNi−Ti−RE−B合金のファミリーが一連の実験で同定された。エルビウムが希土類合金化元素として使用された実施例3でさらに詳細に議論する。しかしながら、本明細書で議論される全ての合金組成は、少量、たとえば約0.001at.%から約0.1at.%のホウ素の添加により利益を得ることができる。
例えば、Ni−Ti−RE−B合金は、Niを約35at.%から約65at.%の濃度で、希土類元素を最大約15at.%の濃度で、ホウ素を最大約0.1at.%の濃度で含むことができる。この時、残部はチタンである。別の実施例では、Niを約35at.%から約65at.%の濃度で、希土類元素を約1.5at.%から約15at.%の濃度で、ホウ素を最大約0.1at.%の濃度で含むことができる。この時、残部はチタンである。Ni−Ti−RE−B合金中のニッケルの濃度は約45at.%から約55at.%の範囲内であることができる。例えば、ニッケルの濃度は約50at.%であることができる。
希土類元素の濃度は以下の範囲内の一以上であることができる:約1.5at.%から約12at.%、約3at.%から約7.5at.%、または約4.5at.%から約6at.%。望ましくは、希土類元素はエルビウムである。
ホウ素の濃度は以下の範囲内の一以上であることができる:約0.001at.%から約0.1at.%、約0.005at.%から約0.1at.%、約0.01at.%から約0.1at.%、または約0.01at.%から約0.05at.%。1つの実施態様ではホウ素の濃度は約35ppm(ほぼ0.02at.%)である。
合金はさらに追加合金化元素(AAE)を最大約5at.%、たとえば約1at.%から約5at.%の範囲内で含むことができる。例えば、ニッケル−チタン合金は、約50at.%から約51at.%のNi、約3at.%から約6at.%のEr、約1at.%から約5at.%のPd、および約5ppmから約500ppmのホウ素を含むことができる。約10ppmから約100ppm、または約20ppmから約50ppmのホウ素の濃度もニッケル−チタン合金に適当である場合がある。ホウ素を含む好ましい三元合金組成は約51at.%のNi、約4at.%のEr、約3at.%のPd、および約35ppmのホウ素を含む。別の好ましい組成物は約51at.%のNi、約3at.%のEr、約2at.%のPd、および約35ppmのホウ素を含んでいる。
少量、例えば数百ppmの、C、H、N、またはOなどの非金属元素添加物も、ニッケル−チタン合金中に存在することができる。しかしながら、合金の組成を特定するために使用される合金要素の計算には、非金属元素は一般に含まれない。望ましくは、高密度および/または大きなサイズの炭化物、酸化物、窒化物または複合炭窒化物粒子を形成するのを避けるために、C、O、およびNの量は米国試験材料協会(ASTM)標準F2063と一致される。これはニッケル−チタン合金の、よりよく電解研磨された表面と、より良い疲れ寿命をもたらすことができる。望ましくは、水素は、合金の水素ぜい性を最小にするためにASTM標準F2063で制御される。前述のASTM規格はここに参考として援用する。
ニッケル−チタン合金は、合金の組成と加工履歴に依存する相構造を有する。希土類元素はニッケルおよび/またはチタンと、固溶体を形成する。希土類元素も、ニッケルおよび/またはチタンと、1種以上の2成分金属間化合物相を形成できる。言い換えれば、希土類元素は特定比率で、ニッケルおよび/またはチタンと結合できる。理論によって拘束されることは望まないが、希土類元素の大部分は好ましい三元合金添加元素として設定され、チタンの代わりをし、ニッケルと1種以上の金属間化合物相、たとえばNiRE、NiRE、NiREまたはNiREなどを形成すると信じられている。しかしいくつかの場合には、希土類元素はニッケルの代わりをし、チタンと結合して、TiREなどの固溶体または化合物を形成する。ニッケル−チタン合金は、組成および熱処理に依存して、NiTi、NiTi、および/またはNiTiなどのニッケルとチタンの1種以上の金属間化合物相を含むことができる。希土類添加はニッケルとチタン原子の両方と三元金属間化合物相、たとえばNiTiREなどを形成できる。様々なNi−Ti−RE合金類におけるいくつかの例示の相が以下の表9で同定される。また1種以上の追加合金化元素がニッケル−チタン合金中に存在している場合、追加の合金化元素はニッケル、チタンおよび/または希土類元素と金属間化合物相を形成できる。
ニッケル−チタン合金の相構造は実験的および/または、コンピュータを利用する方法で決定できる。例えば、X線回折、中性子線回折、および/または、電子線回折などの回折法を使うことができる。あるいはまた、CALPHAD法(PHAse DiagramsのCALculation)を使うことができる。「多組成多相平衡の熱力学的モデリング」、JOM49、12(1997)、14−19は、CALPHAD法の実行について議論する。(この文献は参考として援用する)。CALPHAD法を行うのに多くの市販のソフトウェアプログラムを使用でき、例えば、ChemSage、MTDATAおよびThermo−Calcが使用できる。例えば、Thermo−Calcプログラムは状態図について計算するために、ユーザによって提供されたデータと、元素についての既存の公表データの組み合わせを使用する。プログラムはNiTiのためのいくつかの既存データを含んでいるが、科学文献から得られた希土類系のための熱力学方程式のデータを提供しなければならない。これらの2セットの情報から三元相図を構成できる。プロセスは、公知の相データを入力することを伴い、さらにプログラムに未知の追加相を加えて、元素と相の間の相互作用を操作する。次に、これらの操作から得られた1セットの方程式は、知られているかまたは予想される状態図の不動点または特徴に適用できる。そして、プログラムは特定のデータからダイヤグラムを計算し、与えられたパラメータ類を最適化する。
置換機構、すなわち、希土類元素がニッケルまたはチタンを置換しているか否かについて、エネルギー特性を決定するために最初からの上部構造計算を使用できる。また、これらの計算はエネルギー的に好ましいコンフィギュレーションの機械的性質への希土類元素置換の効果を明らかにする。対象となる合金類のエネルギー特性がいったん決定すると、準経験的原子間ポテンシャルを、最初からのデータと、利用可能な実験データをフィットし、合金類について説明するすることができる。例えば、温度と圧力(ストレス)への相安定度の依存性のような、ニッケル−チタン合金の動的挙動を予測し、説明するのにこれらのポテンシャル模型を利用できる。該動的挙動はMとA温度を示唆することができる。
希望の合金組成を選択する際に、放射線不透過性、変態点(M、M、R’s、R’、R、R、A、A)、および機械的性質を含む、ニッケル−チタン合金の様々な特性への希土類合金化元素の効果を考えることができる。
材料の放射線不透過性は、その有効原子番号(Zeff)、密度(ρ)および入射X線光子のエネルギー(E)に依存する線吸収係数μに関係する。
線吸収係数μは、材料の密度ρに比例し、(μ/ρ)は質量吸収係数として知られている材料定数である。質量吸収係数の単位は、cm−1である。
線吸収係数μはいくつかの希土類元素について計算され、比較のためプラチナについても計算された。結果は図2に示されている。図3では、線吸収係数μはプラチナの線吸収係数μPtに関して規格化されて示されている。数字は、希土類元素の吸収が、約40〜80keVの光子エネルギー範囲でピークに達する傾向があることを示し、いくつかの希土類元素がこの領域でのプラチナの吸収を超えていることを示す。
いくつかのNi−Ti−RE合金組成についても線吸収係数が計算された。これは以下で説明する。計算は、希土類合金添加元素の、ニッケル−チタン医療器具の放射線不透過性を改良する可能性を評価するために、シミュレートされたエックス線条件の下で行われた。
典型的なX線診断では、少なくとも1個のフィルタがソースと患者の間に置かれている状態で、患者と相対してエックス線ソースまたはチューブが配置される。診断エックス線チューブは典型的には、食品医薬品局(FDA)の規制に従い、約2.5mmの厚さの内蔵のアルミニウムフィルタを有する。放出されたエックス線ビームの更なるフィルタリングを達成するために追加フィルタが使用できる。タングステン・フィラメントからの電子が管電圧によって加速されて、エックス線管の中でWまたはW/Re陽極に衝突するとき、X線光子は発生される。診断的方法のためには、典型的には管電圧は約50kVpから約150kVpまでの範囲内にある。衝突により発生するエックス線はベリリウムの窓を通過してソースと患者の間に配置された1種以上のフィルタを通ることができる。また、空気および患者の組織を通り抜けるとき、エックス線は、フィルタリングまたは減衰効果を受ける。
エックス線管から放出されたエックス線ビームは、単波長ではなく、さまざまなエネルギーの光子の分布を含んでいる。図4A−4Dを参照すれば、X線光子の最大エネルギーは管電圧に対応する。例えば、70kVp(図4B)の管電圧では、エックス線ビームの最大エネルギーは70keVである。エックス線ビームは、最大光子エネルギーの約1/3に対応するエネルギーでピーク強度(最大数の光子)を有する。しかしながら、ピーク強度は1種以上のフィルタの使用で、より高いエネルギーに移行できる。また、体組織を通過したエックス線ビームの減衰などの効果は、より高いエネルギーに最大強度のシフトを引き起こすことができ、この現象はビームハードニングと呼ばれる。例えば、図4Bに示されているように、エックス線ビームのピーク強度は、エックス線ソースと患者の間の2.5mmのアルミニウムフィルタに加えて0.2mmの銅のフィルタを含むことによって、約35keVから約45keVに移行できる。0.2mmの銅のフィルタを0.3mmの銅のフィルタに取り替えることによって、エックス線ビームのピーク強度は約50keVに移行できる。概して、1種以上のフィルタはフィルタを通過する放射線のピーク強度の5keVから30keVのシフトを引き起こすことができる。
物質を通過したエックス線の強度Iは、入射強度I、材料厚x、および線吸収係数μに関係する:
=I−μx
実質的にエックス線を透過する材料または組織は、エックス線イメージで容易に可視化できない。対照的に、放射線不透過物質は、特定のエネルギー範囲のエックス線を吸収して、エックス線イメージによるハイコントラストと良い可視化を示す傾向がある。材料の線吸収係数の大きさはエックス線放射の吸収能力、すなわち放射線不透過性の良い指標であることができる。
線吸収係数は、オーストリア、ウィーンのInstitut f.Biomed.Technik und PhysikのRobert Nowotnyにより開発されたXMuDatと呼ばれるソフトウェアプログラムを使用して、いくつかのNi−Ti−RE合金組成物について計算された。XMuDatは処方学的に興味がもたれる材料のための様々な光子相互作用係数の提示と計算のためのコンピュータプログラムである。1keVから50MeVの光子エネルギー範囲の質量減衰、質量エネルギートランスファー、および質量エネルギー吸収係数のデータが利用できる。プログラムの計算のために、J M. Boone, A E. Chavez;Medical Physics 23, 12 (1996) 1997-2005から収集された光子相互作用係数が使用される。
様々な診断X線管電圧とフィルタースキームの効果が検討され、以下の表10にまとめられた。様々な管電圧におけるフィルターのない光子の生データは、Horst Aichinger, Joachim Dierker, Sigrid Joite-BarHss and Manfred Sabel, Radiation Exposure and Image Quality in X-Ray Diagnostic Radiology:Physical Principles and Clinical Applications, Springer:ベルリンから取られた。W/Re陽極から発生するエックス線ビームの波長特性と、様々なフィルタによるビーム減衰の役割も考慮に入れられた。
計算の最初の段階として、様々な合金組成の質量吸収係数Aalloyが混合物アプローチの規則を使用することで計算された:
alloy=pANi+qATi+rARE
式中
変数ANi、ATi、およびAREは元素の質量吸収係数を表し、それぞれの元素について、質量吸収係数(μ/ρ)と同じである。変数MTi、MNi、およびMREはそれぞれの元素の分子量を表し、a、b、およびcは合金中のそれぞれの元素の原子割合である。原子割合の見積もりでは、希土類元素がチタンを置換したと考えられた。この仮定は、周期表で、希土類元素がニッケルよりもチタンに近いことに基づく。ニッケルの放射線不透過性が、診断X線検査のための対象となるエネルギー範囲でのチタンの放射線不透過性に匹敵しているので、具体的な置換はNi−Ti−RE合金中の希土類元素の原子割合ほど重要でないと信じられている。
いったん質量吸収係数Aalloyを所定の合金組成について得ると、線吸収係数μalloyが、Aalloyと合金の密度ρalloyの積として計算された。密度ρalloyは、上記の混合物アプローチと同じ規則を使用して計算された。
次に、それぞれの合金組成について、エックス線ビームの多波長性を考慮に入れて、累積線吸収係数μ alloyが計算された。W/Re陽極について様々なX線管電圧において異なったレベルのフィルトレーションでエックス線強度分布を使用して、光子確率分布が計算された。所定のエネルギーでのそれぞれの光子確率と上記で決定されたμalloyを掛けて、次いで全体のエネルギースペクトルにわたり値を合計することにより、様々な管電圧とフィルトレーションレベルで累積線吸収係数μ alloyを得た。得られた値μ alloy、または放射線不透過性は、原子百分率(at.%)での様々なNi−Ti−RE合金組成、管電圧およびフィルトレーションスキームについて、図5−8にグラフィカルに示されている。計算データは、Ni−Ti−Pt、Ni−Ti−Pd、およびNi−Ti−W合金についても、比較のために提示された。
Ni−Ti−RE合金類は、2成分のニチノール合金と比較して改良された放射線不透過性示すことが望ましい。したがって、様々なNi−Ti−RE合金組成について得られた累積線吸収係数μ alloyは、2成分のニチノールの累積線吸収係数μ NiTiに対して規格化され、その結果、次式で示される相対放射線不透過性Rrelの値を得る。
rel=(μ alloy/μ NiTi
50.6at.%Niの、わずかにニッケルリッチな組成物が、2成分のニチノールについてμ NiTiを計算するために想定された。このアプローチを使用して、Ni−Ti−RE合金類の放射線不透過性と、均等原子量の2成分のNi−Ti合金の放射線不透過性とを比較することが可能である。相対放射線不透過性値Rrelが、原子百分率(at.%)、管電圧、およびフィルトレーションスキーム、たとえばフィルタなし、Alフィルタ、Cuフィルタ、または図20に示されるCDRHファントムについて種々のNi−Ti−REについて図9−12にグラフィカルに示される。Ni−Ti−Pt、Ni−Ti−Pd、およびNi−Ti−W合金についてのデータも、比較のためのために示される。
図9−12における計算データは、Ni−Ti−RE合金類の放射線不透過性は、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金のものよりも大きいことを示す。Ni−Ti−RE合金類は、15keVから125keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から3.2倍の累積吸収係数μ alloy(放射線不透過性)を示す。例えば、これは図12に示され、これは125kVpの管電圧に対応している。Ni−Ti−RE合金類は、15keVから80keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から2.7倍の累積吸収係数μ alloy(放射線不透過性)を示す。例えば、これは図11に示され、これは80kVpの管電圧に対応している。Ni−Ti−RE合金類は、15keVから70keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から2.5倍の累積吸収係数μ alloy(放射線不透過性)を示す。例えば、これは図10に示され、これは70kVpの管電圧に対応している。
ニッケル−チタン合金に二個以上の希土類元素、および/または追加の合金化元素を使用することによって、個々の合金化元素の放射線不透過性と一致する放射線不透過性を累積的に増加することができる。
望ましくは、ニッケル−チタン合金は、15keVから150keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から8倍の放射線不透過性(すなわち、相対放射線不透過性Rrelが約1から約8の範囲である)を示す。また、ニッケル−チタン合金は、15keVから125keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から8倍の放射線不透過性を示す。他の実施態様によると、15keVから80keV、15keVから70keV、または15keVから60keVの範囲内の放射線に暴露された際に、放射線不透過性は近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から8倍の範囲であることができる。
より望ましくは、ニッケル−チタン合金は、15keVから150keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から8倍の放射線不透過性(すなわち、相対放射線不透過性Rrelが約1.2から約8の範囲である)を示す。ニッケル−チタン合金は、15keVから125keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から8倍の放射線不透過性を示す。他の実施態様によると、15keVから80keV、15keVから70keV、または15keVから60keVの範囲内の放射線に暴露された際に、放射線不透過性は近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から8倍の範囲であることができる。
さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は、15keVから150keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から5倍の放射線不透過性(すなわち、相対放射線不透過性Rrelが約1.2から約5の範囲である)を示す。ニッケル−チタン合金は、15keVから125keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から5倍の放射線不透過性を示す。他の実施態様によると、15keVから80keV、15keVから70keV、または15keVから60keVの範囲内の放射線に暴露された際に、放射線不透過性は近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から5倍の範囲であることができる。
ニッケル−チタン合金は、上記の範囲のいずれかのエネルギーを有する放射線(すなわち、15keVから150keV、15keVから125keV、15keVから80keV、15keVから70keV、または15keVから60keV)に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から5倍の放射線不透過性を示すことがさらに好ましい。
好適な実施例によると、ニッケル−チタン合金は30keVから60keVの範囲内のエネルギーでピーク強度を有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から8倍の放射線不透過性を示す。ニッケル−チタン合金は、35keVから55keV、または40keVから50keVの範囲内のエネルギーでピーク強度を有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1から8倍の放射線不透過性を示すことが好ましい。
別の好適実施例によると、ニッケル−チタン合金は30keVから60keVの範囲内のエネルギーでピーク強度を有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から5倍の放射線不透過性を示す。ニッケル−チタン合金は、35keVから55keV、または40keVから50keVの範囲内のエネルギーでピーク強度を有する放射線に暴露された際に、近等原子量2成分ニッケル−チタン合金の約1.2から5倍の放射線不透過性を示すことが好ましい。
図9−12に示された計算データによれば、Ni−Ti−RE合金類の放射線不透過性は、フィルター選択に依存して、70kVpから125kVpまでの範囲の管電圧において、Ni−Ti−Pdのそれと匹敵するか、またはより良好である。図9−12は、それぞれ40kVp、70kVp、80kVp、および125kVpの管電圧に対応している。図11を参照すると、たとえば、2.5mmのAlフィルタと0.3mmのCuフィルタを使用した場合、7.5at.%のNdを含むニッケル−チタン合金は、約1.9の相対放射線不透過性Rrelを有し、7.5at.%のPdを含むニッケル−チタン合金は、同じ条件で約1.7の相対放射線不透過性Rrelを有する。望ましくは、Ni−Ti−RE合金類の放射線不透過性は、Ni−Ti−Pdが60kVpから150kVpまでの範囲の管電圧において、Ni−Ti−Pdのそれと匹敵するか、またはより良好である。
また、計算されたデータから、Ni−Ti−RE合金類の放射線不透過性は、希土類合金添加元素がより高い濃度のときに増加することが観測できる。再び図11Aを参照すると、例えば、それぞれの合金組成物について最大の放射線不透過性(μ relの最大値)は、計算で考えられた中で最も高い希土類元素濃度(15at.%)で達成される。
異なる量のErを含み、さらにいくつかの合金ではPd、Cr、および/またはBを含むNi−Ti−REのエックス線不透明性における改良を示す追加データが図23Aから23Fに提供される。このデータは、異なった管電圧、具体的には70kV、80kV、90kV、100kV、110kV、および125kVで、たとえば約0.5mmの厚さ、および約0.75mmの厚さのサンプルについて得られた。同様の厚さの2成分のNi−Tiと比べて、棒グラフはそれぞれの合金類の放射線不透過性の改良を示している。グラフで指定された合金類は、以下の表11に示された組成を有する。
データは先に提示された、物質を通過した際のエックス線強度および他の変数(入射強度、厚さなど)の間の関係に基づいて行われた。これは以下のように書き換えることができる。
T=(I/I)=e−μx
スクリーンまたはプリントアウトされたエックス線イメージを見るとき、医師は、グレースケール内にハンスフィールド スケール(Hounsfield Scale)により定義される異なる明暗の領域を見るであろう。ハンスフィールド スケールは、空気の値を−1000とし、水の値を0とし、より密な物質がより高い値を有する。しかしながら、物質の実際の特性はその減衰効果に基づいている。それは、物質とその厚さの両方に依存する。スクリーンの上の明るさは、エックス線のどのくらいを妨げるかによって決定される:より多くの光子が妨げられると、より明るく見える。したがって、医師が見る明るさはいくつの光子がサンプルの上に輝くかに依存する(入射強度または光量子束)。
理想的な状況では、すべてのサンプルが同じ光量子束を受けるが、現実にはエックス線エミッタと画像装置の両方でこれはありそうもない。したがって、それらが異なった光量子束の領域にある場合に、同じ厚さと物質のサンプルは同じ明るさを示さない場合がある。それらの可視性の客観的尺度を入手する方法は、それぞれのサンプルについて、受けている光量子束に対して標準化し、その周囲のバックグラウンドにより決定することである。
材料の減衰μと厚さxが同じであれば、透過度Tは同じである。lはバックグラウンドの明るさから測定された光量子束であり、lはサンプルの明るさである。したがって、Tは、lでlを割ることによって得られて、位置にかかわらず同じになるだろう。
エックス線イメージによるサンプルの明るさはハウンズフィールドスケールで−1024(真暗)から+3056(完全に明るい)までのスケールで測定される。これらは可能な光量子束の画分に調整される:−1024は1になり(エックス線イメージの真暗は、すべての光子が通ることを意味する)、そして、+3056は0になる(完全に明るいは、すべての光子が止められることを意味する)。
例えば、同じ物質の同じ厚さの2個のサンプルは、同じ映像にあるが、異なった領域にある。1つは、2356の明るさと1656のバックグラウンドを有し、差は700である。もう1つは、2156の明るさと1256のバックグラウンドを有し、差は900である。2つはグレースケールにおける明るさにおける異なった相対的な改良を有するように見えるが、完全に明るい3056に対して調整すると以下の通りになる。
そうであるべきでように、同じになる。上で説明した方法で変更されたCFモード静止画像の結果は、図23Aから23Fに提供する。データが示しているように、2成分のNi−Ti合金と比較して、最も高い量の希土類合金化元素を含む合金類は、エックス線可視化で最も大きい改良を示している。概して、合金の組成と厚さによって、改良は約5%から60%以上まで及ぶ。
また、ニッケル−チタン合金の放射線不透過性への希土類元素の影響を考えることに加えて、合金の超弾性、および機械的な性質への影響を考慮するのも望ましい。望ましくは、希土類元素の高濃度のときに達成された改良された放射線不透過性は、ニッケル−チタン合金の超弾性、および機械的な性質への合金化元素の高濃縮度効果に対してバランスをとることができる。
好適な実施例によると、ニッケル−チタン合金は超弾性または形状記憶挙動を示す。すなわち、ニッケル−チタン合金はそれが「記憶」していて、前の形または立体配位に戻る可逆的な相変態を行う。ニッケル−チタン合金は低温の相(マルテンサイト)と、より高温の相(オーステナイト)の間で変形する。オーステナイトは、より強い相という特徴を有し、マルテンサイトは約8%の回復可能な歪みまで変形できる。形状を変化させるためにマルテンサイト相で合金に与えられた歪みは、オーステナイトへの逆相変態の完了の際に実質的に回復され、合金が前の形に戻るのを許容する。歪回復はストレスの印加と解放(超弾性の効果)および/または温度の変化(形状記憶効果)により駆動される。
図13の応力ひずみ図は、例示されたニッケル−チタン合金の、合金のオーステナイト系最終温度(A)より高い温度での超弾性の効果について説明する。ストレスσを加えると、最初の立体配位の合金は、ストレス誘起マルテンサイトの形成の結果、オーステナイトからマルテンサイトに変態し始める。合金のマルテンサイト相は、ほぼ一定のストレスにおいて歪みを数パーセント吸収できる。この実施例において8%の歪みに対応するσのストレスでは、マルテンサイト変態は完了し、合金は2番目の立体配位に変形された。ストレスの解放のときに、マルテンサイトは、オーステナイトに変態して戻り始め、合金はσの低いプラトーストレスで歪みを回復する。その結果、ニッケル−チタン合金は最初の立体配位に戻る。
図14は例示のニッケル−チタン形状記憶合金のための典型的な変態温度曲線を示している。ここで、Y軸は合金内のマルテンサイトの量を表し、横軸は温度を表す。温度A、またはそれ以上の温度においては、ニッケル−チタン合金は完全にオーステナイト系構造を有する。矢印をたどると、合金は温度Mに冷却される。そのポイントではマルテンサイト相への変態が始まる。更なる冷却は材料中のマルテンサイトの割合の増大につながる。最終的には、図14に示されているように、温度Mで完全にマルテンサイト構造になる。
図15を参照する。図15は例示のニッケル−チタン形状記憶合金について歪みと温度を示す。温度Mで完全なマルテンサイト構造が得られ、これは最初の立体配位から2番目の立体配位に歪みを加えられる(ストレスシンボルσによって示されているように)。合金は数パーセントの回復可能な歪み(この実施例では8%)を受ける。相変態を逆にし、歪みを回復するために、合金の温度を上昇する。再び矢印をたどると、温度Aにニッケル−チタン合金を暖かくすることができ、このポイントで合金はオーステナイト相への変態を開始する。さらに暖まると、オーステナイトの変態が進み、合金は次第に最初の立体配位を回復する。最終的に、材料は温度A、またはそれ以上において、オーステナイト相(0%のマルテンサイト)にへの変態を終了し、8%の歪みを完全に回復した。
1つの実施態様によれば、ニッケル−チタン合金は、より高い温度のオーステナイト相とより低い温度のマルテンサイト相に加えて、中間温度R−相を含むことができる。言い換えれば、R−相はオーステナイトから冷却するときに、マルテンサイトより前に現れることができる。同様に、R−相はマルテンサイトから暖まるとき、オーステナイトより前に現れることができる。ニッケル−チタン合金がR−相を含んでいるかどうかは、合金の組成と加工履歴に依存する。
開示の目的のために、変形ストレスを除去したときに回復可能な歪み(少なくとも約0.5%の弾性歪み)の実質的な量を提供するニッケル−チタン合金は、マルテンサイトとオーステナイトの間の相変態により駆動されるか否かにかかわらず、超弾性合金と呼ばれることができる。例えば、オーステナイトとR−相の間の、ストレス、および/または温度誘導相変態により約0.75%の回復可能な歪みを得ることができる(ニチノール合金を使用する、Johnson Mathey、サンノゼ(カリフォルニア)(2004)p.17)。また、冷間加工されたマルテンサイトのニッケル−チタン合金は、オーステナイトへの相変態なしで、数パーセント(例えば、3−4%)の回復可能な歪みを提供できることが知られている(Duerig, T.W. et al. , Linear Superelasticity in Cold-Worked Ni-Ti, Engineering Aspects of Shape Memory Alloys, Butterworth-Heinemann Ltd., London (1990) pp. 414-419)。望ましくは、本明細書記載のニッケル−チタン合金は、約0.5%から約10%の範囲内の回復可能な歪みを提供する。より望ましくは、回復可能な歪みは約2%から約10%の範囲内にある。さらに望ましくは、回復可能な歪みは約3%から約10%の範囲内にある。最も望ましくは、回復可能な歪みは約5%から約10%の範囲内にある。
望ましくは、医療器具は本明細書に記載されたニッケル−チタン合金を含む少なくとも1つの要素を含んでいる。要素はワイヤ、リボン、ボタン、バー、ディスク、シート、ホイル、または別のキャストまたは成形物のニッケル−チタン合金で、一部又は全部が形成されることができる。1つの実施態様によれば、要素は、構造の1以上の部分がNi−Ti−RE合金で形成される複合材構造を有し、構造の1以上の部分は異なる材料で形成される。例えば、要素は別個の構成要素を含むことができ、たとえば層、クラッド、フィラメント、ストランド、ケーブル、粒子、繊維、および/または相などを含むことができ、1以上の構成要素はNi−Ti−RE合金から形成され、1以上が異なる材料から形成されることができる。異なる材料は均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金であることができ、1つの実施態様では、以下から成る群から選択された1種以上の元素を含む:
Al、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Tc、Cd、In、Sn、Sb、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、V、Ir、Pt、Au、Re、W、Pd、Rh、Ta、Ag、Ru、Hf、Os、Zr、Nb、およびMo。モノリシックな成分と比べて、そのような複合材構造は最適化された改良された放射線不透過性および最適な超弾性および/または、機械的性質を提供できる。
本明細書に記載されたニッケル−チタン合金を含む要素は、少なくとも1本のワイヤを含むことができる。ワイヤは例えばコア層と、コア層の周りに配置された1種以上の外側の層を含む複合材構造を有することができる。望ましくは、層の一以上はNi−Ti−RE合金で形成される。層の一以上は異なる材料で形成できる。異なる材料は、2成分ニッケル−チタン合金または上記の元素の一以上を含む材料であることができる。図16に示された実施態様によると、ワイヤ1600はNi−Ti−RE合金で作られたコア層1610と、均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金で作られた外側の層1620を含むことができる。あるいはまた、コア層1610が均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金で作られ、外側の層1620をNi−Ti−RE合金で作ることができる。例えば、ワイヤ1600を、複数の同軸層を含むプリフォームを引き抜きまたは押し出して、複合材構造を形成することができる。あるいはまた、めっきまたは他の堆積手段によって、1以上の層をコア層にコーティングすることによって、ワイヤ1600を形成できる。
本発明の実施態様によれば、要素は2、3、4、5、6またはそれ以上のワイヤであって、それぞれのワイヤが全体または一部が開示されるニッケル−チタン合金で作られているものを含む。また、均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金または放射線不透過性の金属のような、異なる材料で全体または一部作られた1以上のワイヤも企図される。図17Aおよび17Bを参照する。たとえば要素は複数のワイヤストランド1700がねじられた状態にあるもの(すなわちケーブル)1710を含むことができる。また複数のワイヤ1700が編まれたもの1720を含むこともできる。ここで1以上のストランドはNi−Ti−RE合金で作られ、ストランドの一以上は均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金で作られている。
別の実施態様によれば、要素は、医療器具分野で一般的な術語として使用されるチューブまたは「カニューレ」を含む。カニューレは複合材構造を有することができる。1つの実施態様によれば、多層状チューブからカニューレを形成できる。例えば図18を参照して、カニューレ1800はNi−Ti−REの1以上の同軸層1810と、別の材料、たとえば2成分ニッケル−チタン合金または放射線不透過性の金属の1以上の同軸層1820、1830を含むことができる。同軸のチューブを引き抜きまたは押出すことにより、多層状チューブを形成できる。あるいはまた、チューブ中に形成されたクラッドシートから多層状チューブを調製することができる。
別の実施態様によると、たとえばリボン、ボタン、棒、リベット、球、ディスク、シート、またはホイルなどのような、キャストまたは加工された形状を有することができる。
上記の要素は個別または組み合わせて、挿入可能または移植可能な医療器具、たとえばステント、ステントグラフト、ワイヤガイド、放射線不透過性のマーカーもしくはマーカーバンド、トルクアブルカテーテル、イントロデューサーシース、歯科矯正弧線、またはまたは操作、牽引、もしくは閉塞装置、たとえばグラスパー、スネア、バスケット(例えば、結石除去またはマニピュレーションバスケット)、血管性プラグフィルター、もしくは塞栓保護フィルターなどに使用できる。
1つの実施態様によると、装置はステントである。ニッケル−チタン合金でステントのすべてまたは一部をすることができる。ステントはさらにそれに添付の移植材料を含むことができる。望ましくは、ステントは自己拡張型ステントである。しかしながら、バルーン拡張型ステントも、開示されるNi−Ti−RE合金の利益を得ることができる。当技術分野で公知の技術を使用することにより、1種以上のワイヤまたはチューブ(カニューレ)からのカット(例えば、レーザー切断)からステントを形成できる。カニューレは、上で説明したように、複合材構造を持つことができる。図19に示された他の実施態様によれば、ステント1900は1以上のワイヤを含むワイヤ構造を有することができる。ワイヤ構造の一部はNi−Ti−REで形成することができ、ワイヤ構造の一部は、たとえば2成分ニッケル−チタン合金のような異種材料で形成できる。そのようなステントの1以上のワイヤは上で説明したようにして形成できる。ステントはさらに例えば、パクリタクセルなどの薬を含む治療学的な表面コーティングを含むことができる。治療学的な表面コーティングは、再狭窄、および処理部位におけるミネラルの堆積を防止するのを助けることができる。
別の実施態様によれば、装置は、高いエックス線コントラストを提供する放射線不透過性のマーカーまたはマーカーバンド(「マーカー」)である。そのような放射線不透過性のマーカーは、Ni−Ti−REと2成分ニッケル−チタンとの類似性のために、その他の材料(例えば、PtまたはAu)で形成された放射線不透過性マーカーよりも、ニッケル−チタン医療器具により容易に接着できる。さらに、Ni−Ti−RE放射線不透過性マーカーは、その他の材料より、ニッケル−チタンベースの装置と共に使用される場合に電気的腐食に対してより抵抗性を有する。1つの実施態様によると、Ni−Ti−RE放射線不透過性マーカーの超弾性特性は、カテーテル、ステント、ワイヤガイドまたは他の医療器具にマーカーを取り付ける際の助けとなる。マーカーの装置への確保を容易にするため、マーカーはNi−Ti−RE合金のAに対応する温度またはそれ以上の温度において完全に拡張するか、または収縮するように設計できる。例えば、Ni−Ti−REマーカーバンドが、カテーテルの周りで収縮しフィットするようにされることができ、またはNi−Ti−REマーカーは、ステントの小さな穴の中にしっかりとフィットするように拡張できる。当技術分野で公知の機械加工技術、たとえばスエージ処理でTi−Ni−RE放射線不透過性のマーカーを形成できる。薄膜Ni−Ti−REチューブからマーカーバンドを切り出すことができる。
本明細書の開示にしたがって患者の中の医療器具を画像化する方法は、約34at.%から約60at.%のニッケル、約34at.%から約60at.%のチタン、および約0.1at.%から約15at.%の少なくとも1つの希土類元素を含むニッケル−チタン合金から作られた少なくとも1つの要素を有する医療器具を患者の部位に送達することを含んでいる。希土類元素はLa、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、およびUから成る群から選択される。
望ましくは、患者は15keVから125keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露され、医療器具を画像化する。より望ましくは、画像化のためのエネルギーは15keVから80keVの範囲内である。さらに望ましくは、画像化のためのエネルギーは15keVから70keVまで、または15keVから60keVの範囲内である。また、放射線は30keVから60keVの範囲内にエネルギーピーク強度を有することが好ましい。より望ましくは、放射線は35keVから55keVの範囲内にエネルギーピーク強度を有する。さらに望ましくは、放射は40keVから50keVの範囲内にエネルギーピーク強度を有する。
放射線に患者を暴露するために、患者はエックス線ソースに相対して位置し、少なくとも1個のフィルタがエックス線ソースと患者の間に配置される。フィルタは、たとえばアルミニウムフィルタ(例えば、2.5mmのアルミニウムフィルタ)、および/または、銅フィルタ(例えば、0.1mmの銅のフィルタ、0.2mmの銅のフィルタ、または0.3mmの銅のフィルタ)であることができる。望ましくは、エックス線ソースは60kVpから150kVpまでの範囲内の電圧(「管電圧」)で作動される。
本明細書に開示された医療器具を使用する方法は、ニッケル−チタン合金を含む少なくとも1つの要素を含む医療器具を提供することを含んでいる。医療器具(例えば、ステント、ステントグラフト、牽引装置、または塞栓保護フィルタ)は、本発明の一態様にしたがって、デリバリシステムに積み込むことができる。次に、患者内に医療器具を挿入し、次に、処理部位に送達することができる。処理部位に置かれると、装置を展開できる。医療器具を送達して展開するのに、形状記憶および/または超弾性の効果を使用できる。
超弾性の効果が送達と展開に利用される好適な実施例によると、抑制メンバーにより送達立体配位で装置を維持できる。例えば、自己拡張可能なステントは、ステントの上にある管状の送達シースにより、容器内に圧縮された直径で典型的に維持される。抑制メンバー(例えば、送達シース)を取り去り、ストレスを解放すると、マルテンサイトはオーステナイトに変態し、医療器具は展開された立体配位に達する(回復する)ことができる。例えば、自己拡張可能なステントは、圧縮された直径から拡張した直径に拡張し、容器壁と接触する。送達と展開の間、身体の希望の位置に装置を置くことを合金の放射線不透過性が助ける。
この実施態様によると、ニッケル−チタン合金は人体温度(37C)以下であるオーステナイト終了温度(A)を有し、抑制メンバーの除去がオーステナイト相への変態の引き金となるのに十分であるようにする。望ましくはAは約−15℃から約37℃の範囲内にあってもよい。さらに望ましくは、Aは約−15℃から約20℃の範囲内にあってもよい。1つの実施態様では、ニッケル−チタン合金のオーステナイト開始温度(A)は、望ましくは約−25℃から約20℃の範囲内である。
あるいはまた、ニッケル−チタン合金を含む医療器具を送達して、展開するのに形状記憶効果を利用できる。言い換えれば、適用された(取り除かれた)ストレスの代わりに温度変化によりマルテンサイトからオーステナイトまでの変態を制御できる。例えば、送達シースの収縮の代わりに加熱することによって、先の実施例のステントを展開できる。この実施態様によると、ニッケル−チタン合金は体温(37℃)以下であるオーステナイト終了温度(A)を有する。医療器具は、用品を体内に送達する前およびその間に、A以下の温度に保持され、好ましくはA未満に維持され、それによりニッケル−チタン合金のマルテンサイト組織を維持する。用品は、オーステン構造に変態して、その結果、ほぼ体温に暖められると展開する。マルテンサイト構造のオーステナイトへの速すぎる変態を防ぐために、送達の間の装置を冷却することは望ましい。装置が身体内を進められているとき、冷却により、たとえば装置を通して、または装置のデリバリ系を通して冷たい流体をフラッシュすることにより、温度A以下に装置を保つことができる。望ましくは、ニッケル−チタン合金は、少なくとも約27℃のA値を有する。ただし約27℃未満のAも可能である。さらに望ましくは、ニッケル−チタン合金は、少なくとも約32℃のA値を有する。また、Aが約37℃を超えないことが好ましい。
形状記憶効果を利用する別の実施例では、ニッケル−チタン合金のAは体温(37℃)より高いが、周囲の組織にダメージを与えるかもしれない温度よりは低い。好ましくは、Aは少なくとも約38℃である。Aが約58℃よりも高くないことが好ましい。より望ましくは、Aは約50℃よりも高くない。この実施態様によると、冷却または抑制することにより要素のマルテンサイト構造を維持することなく、医療器具は身体を通って処理部位に進められる。装置が処理部位の適所にあるとき、装置はAまたはそれ以上の温度まで暖かくされ、マルテンサイトをオーステナイトに変態し、装置は展開された立体配位に展開される。加熱を伴うことができ、例えば、たとえば装置を通して、または装置のデリバリ系を通して暖かい流体をフラッシュすることができる。いったん展開した立体配位を得ると、加熱を止める。そして、装置は身体通路内に展開した立体配位で残る。通路の中で医療器具が適所にある際に、ニッケル−チタン合金のオーステン構造を維持するために、該ニッケル−チタン合金のM、および望ましくはMは体温よりも低く選択される。オーステナイトはマルテンサイトより強いので、医療器具が展開されるときにニッケル−チタン合金のオーステナイト相を保有することが望ましい。マルテンサイト終了温度(M)とマルテンサイト開始温度(M)が体温よりも低くない場合には、マルテンサイトへの望ましくない相変態を防止するために、連続的に装置を加熱することが必要であるかもしれない。
合金類の組成と処理を制御することによって、本発明のニッケル−チタン合金の変態温度を所望のように調整できる。ニッケル対チタンの比率の小さな変化に変態温度は敏感であり、また希土類または他の合金化元素の存在にも敏感である。例えば、正確に1:1の比率でニッケル原子とチタン原子を含む量論的なニッケル−チタン合金のAは、一般に100℃以上であるのに対し、過剰のニッケルを含む若干量論的ではない合金(例えば約50.6at.%から約50.8at.%のNi)のAは一般に約0℃である。したがって、合金内のチタンに対するニッケルの比率を増加させると、希望のレベルにAを引き下げる手段が提供される。
希土類または他の合金化元素の存在も、変態温度の上昇または低下を提供するか、または温度ヒステリシスの大きさを変更できる。希土類合金化元素の適切な濃度、タイプおよび/または組み合わせを選択することによって、Aおよび他の変態温度を所望温度範囲内に微調整できる。その上、希望の変態温度を得るために、1種以上の希土類合金化元素と組み合わせて1種以上の追加合金化元素を含むことができる。例えば、クロム、パラジウム、コバルト、および/または鉄の添加はAの低下に有効である場合がある。バナジウム、および/または、コバルトの添加は、Mの低下に有効である場合がある。銅はR−相を排除するために有用である。
実際には、ニッケル−チタン合金に存在している相の相変態温度を決定するために、当技術分野で公知の示差走査熱量計(DSC)のテクニックを使用できる。DSC測定は、「熱分析によるニッケル−チタン合金の変態温度のためのS標準試験方法」のタイトルの米国材料試験協会の(ASTM)標準のF2004−05により行うことができる。これは参考として援用する。あるいはまた、一定負荷熱膨張計および屈曲および自由回復試験は、変態温度を測定するのに使うことができる。屈曲および自由回復試験は、「屈曲および自由回復による、ニッケル−チタン形状記憶合金の変態温度のための標準試験方法」のタイトルの米国材料試験協会(ASTM)の標準のF2082−03により行うことができる。これは参考として援用する。金属と合金の相変態温度を決定するために、電気抵抗測定も当技術分野で知られている。たとえば、4プローブ一定電流技術を使用して、電圧を記録しつつ、対象となる合金を加熱冷却することによって、そのような測定を行うことができる。電気抵抗測定を使用して、温度と同様に負荷応力の関数として、ニッケル−チタン合金に起こる相変態を特徴付けることが可能である。
好適な実施例によると、ニッケル−チタン合金は生物適合性である。患者に導入される場合、生体適合性材料または装置は、大多数の患者において有害反応または応答を引き起こさないだろう。ニッケル−チタン合金の生物学的適合性は、米国材料試験協会(ASTM)規格F748−04の「材料と装置のためのジェネリック生物学的試験方法を選択するための標準手法」、F813−01の「医療器具のための材料の直接接触細胞培養評価のための標準手法」、および/または、F895−84の「細胞毒性のための寒天内拡散法細胞培養スクリーニングの標準試験方法」により評価できる。さらに、「医療器具の生物学的評価パート−1:評価と試験」のタイトルの、 International Standards Organization (ISO) Standard No. 10993 and/or the U.S. Pharmacopeia (USP) 23 および/または 米国食品医薬局 (FDA) blue book memorandum No. G95-1は、ニッケル−チタン合金および/または、合金を含む医療器具の生物学的適合性を評価することにおいて有益であるかもしれない。前述の規格は、細胞毒性、感染力、発熱原性、刺激能、反応性、溶血活性、発癌性、および/または、免疫原生の評価のために設計された実施と方法を詳しく説明し、ここに参考として援用する。生物学的適合性が接触する身体組織のタイプと接触時間の関数であるので、一般に、試験に必要とされる量は用途に依存する。例えば、短期間接触のバスケットについての生体適合性試験要件は、永久的に移植されるステントのものと実質的に異なっている。
本明細書に開示されるニッケル−チタン合金および該合金を含む医療器具を製造するために、希望の量の合金化元素を含む溶融物が形成され、次いで固体(例えば、インゴット)に冷却される。例えば、約34at.%から約60at.%のニッケル、約34at.%から約60at.%のチタン、および約0.1at.%から約15at.%の少なくとも1つの希土類元素が溶融物に加えられる。約14.9at.%までの追加合金元素も溶融物に含まれることができる。望ましくは、高純度原料(Ti> 99.7wt純度、およびNi>99.99wt%純度)は不活性ガスまたは真空雰囲気中で溶かされる。
限定されるものではないが、真空誘導溶解(VIM)、真空消耗電極式アーク溶解(VAR)、および電子ビーム融解法を、溶融物を形成するのに使用できる。一般に、再融解はインゴット内が満足できる均質なミクロ構造を得るために望ましい。例えば、連続したVARプロセスまたはVIM/VARの二重溶融過程を使うことができる。
インゴットは、例えば、圧伸、熱間圧延、または鍛造によって最初の形状(例えば、棒、ロッド、中空チューブ、またはプレート)に熱間加工される。一般に熱間加工は、インゴットの鋳造組織を精錬して、機械的性質を改良するために使われる。熱間加工は、一般に約700℃から約950℃の範囲内の温度で行われ、複数の熱間加工と再加熱サイクルを必要とする。例えば、8時間の期間にわたって再加熱を行うことができる。望ましくは、キャストされた際のデンドリティックミクロ構造(dendritic microsiructure)を均質化するために、熱間加工の間、インゴットは約90%の最低変形を受けることができる。熱間加工の前に、所定の時間昇温状態で、インゴットをソーキングすることを含む溶液熱処理を行い、次いで急冷することは有益である場合がある。溶液熱処理は合金のミクロ構造の均質化を支援し、たとえば約750℃から約1150℃の範囲内の温度で行うことができる。望ましくは、Ni−Ti−Er合金類の場合では、溶液化熱処理は、以下に議論されるように約750℃から約875℃の範囲内の温度で行われる。
次に、最初の形状(棒、ロッド、チューブ、またはプレート)は、たとえば冷延伸または冷間圧延で冷間加工できる。冷間加工は典型的には、約600℃から約800℃の範囲内の温度でのインターパスアニーリング処理と組み合わせたいくつかのパスを含む。インターパスアニーリング処理は、冷間加工の間のオーステナイト結晶粒の再結晶と成長により材料を柔らかする。ここでは30−40%の変形が典型的に付与される。いくつかの場合には、冷間加工での付与は、約30−50%の範囲である。ワイヤを形成するために冷延伸が採用される場合には、延伸のストレスを低下するために、たとえばモリブデンジスルフィドまたは他の適当な潤滑剤とともに多結晶ダイヤモンドダイが使用される。
機械作業(例えば、ドリリング、筒状の心なし研削、またはレーザー切断)を要素を制作するために使うことができる。また、ワイヤ編組または巻線などの他の操作を行うこともできる。
熱処理は、希望の最終形状の「記憶」を付与して、要素の形状記憶/超弾性、および機械的な性質を最適化するのに使われる。一般に、これは「ヒートセット」と呼ばれる。ヒートセットの処理の数、期間、および温度は変態点を変更できる。典型的に、最終形状を付与して、要素の形状記憶/超弾性、および機械的な性質を最適化するのに、350℃から550℃のヒートセット温度が適切である。望ましくは、ヒートセットは、約350℃から約550℃の範囲内の温度で、最終形状で抑制しつつ、要素をアニーリングすることを伴う。より望ましくは、450℃から550℃の範囲内のヒートセットまたはアニーリング温度が適切である。過剰のニッケル原子を含む合金(例えば、約50.6から約50.8at.%のNi)では、例えば、上で説明したヒートセット処理はニッケルリッチ析出物を形成する場合があり、その結果、マトリックスのニッケル含有量を減少させて、変態温度の増加を引き起こす場合がある。析出物もニッケル−チタン合金の引張り強度を改良できる。これらのニッケルリッチ粒子群の析出物は、オーステナイトからの熱可塑性マルテンサイト相への変態を得るために望ましい場合がある。
発明者は、より良い加工性につながるニッケル−チタン希土類元素合金を均質化する改良方法を開発した。均質化熱処理は合金の溶融およびキャスティングの後に行われるが、一般に先に説明したように合金の更なる加工の前に行われる。改良方法の開発は、ミクロ構造が希土類元素リッチな金属間相の樹枝状晶間セルラーネットワーク(interdendritic cellular network)を含む際に、Ni−Ti−RE合金類の機械加工の間に起こることがある樹枝状晶間クラックと破壊によって動機づけられた。均質化熱処理の目的は、樹枝状晶間セルラーネットワークの形成および/または破壊を防止し、合金の加工性と機械的性質を改良することである。
方法は、均一化温度で臨界温度以上で、1以上の希土類元素リッチな第二の相の晶粒生成が起こることができるくらいの時間、ニッケル−チタン−希土類元素合金を熱処理することを含む。ここで晶粒生成とは、合金内での複数の別個の粒子または析出物の形成をいう。脆さを与える樹枝状晶間セルラーネットワークとは異なり、晶粒とも呼ばれるこれらの粒子は、合金へ良好な特性(たとえば延性および加工性)を付与する。それらは球体である必要はないが、望ましくは、晶粒は好ましくはサイズが小さく、分散性に優れる。臨界温度は、希土類元素リッチな第二の相の溶融が開始する温度であることができる。溶融の開始とは、合金のマトリックスが溶融する前の、第二の相の溶融をいう。
発明者は、臨界温度以下の均一化温度を維持することにより、Ni原子の固体拡散と移動(migration)が起こると信じている。この処理の間、REリッチな相の界面エネルギーは樹枝状晶間領域を濡らすのには好ましくなくなって、代わりに、REリッチな相の晶粒が形成される。所定の合金系のREリッチな第二の相の溶融開始温度を決定するために、示差熱分析(DTA)を使うことができる。Ni−Ti−Er合金類の場合では、溶融開始温度は約925℃であることがわかった。Ni−Ti−7.5at.%Gdにおいても類似な効果を見ることができる。それは、処理がNi−Ti−REシステムに一般的に適切であることを示唆する。
表12はいくつかのNi−Ti−RE合金系におけるREリッチな第二の相の溶融開始温度の値を提供する。Ni−Ti−Er、Ni−Ti−Gd、およびNi−Ti−Ndシステムのための値は、7.5at.%のEr、Gd、またはNdを含む合金類のDTA測定値に基づいている。Ni−Ti−Dy値は状態図分析に基づいている。表に記載された均一化温度範囲は、例えば約2.5at.%REから約12.5at.%RE、または約5at.%REから約10at.%REのような、さまざまなRE濃度範囲でNi−Ti−RE合金類に適当であると予想される。さらに、以下でさらに議論するように、説明された均質化処理温度領域も、それぞれの合金類の熱間加工に適するかもしれない。
REリッチな相の晶粒生成は、均一化温度と溶融開始温度との差が大きくなると、より好ましくなる。しかしながら、低い温度での均質化処理の有益な効果は、あまりに温度が低いと固体拡散が非常に遅くなり、晶粒生成が機能しないという問題により打ち消される場合がある。発明者は、以下で説明する熱処理実験に基づいて、Ni−Ti−Er合金類については、約750℃から約875℃の範囲内の温度での均質化処理が有利であると信じている。
晶粒生成プロセスが動力学的に駆動されるので、均質化温度はREリッチな相のセルラー・ネットワークを破壊することにおける鍵となる要因である。晶粒生成は即座には起こらず、むしろ適当な時間をかけて起こる。一般に、均質化のための時間は、約24時間から約72時間である。
均質化熱処理を受ける合金は、約40at.%から約60at.%の濃度のNi、約1.5at.%から約12at.%の濃度の希土類元素と、残部のチタンを含むことができる。また先に言及された希土類元素(RE)のいずれも均質化合金において使うことができ、約3at.%から約7.5at.%のRE、または約4.5at.%から約6at.%のREを含むことができる。合金は、最大約0.1at.%の濃度のホウ素をさらに含むことができる。
望ましくは、希土類元素はエルビウムであり、エルビウムの濃度は約3at.%から約7.5at.%である。別の実施例では、均質化合金は約45at.%から約55at.%の濃度のNi、約4.5at.%から約6の濃度のエルビウム、約0.001at.%から約0.1at.%の濃度のホウ素と、残部のチタンを含むことができる。Ni−Ti−Er合金系において、臨界温度は約925℃であり、均一化温度は約750℃から約875℃の間であることができる。先に述べたように、他の例示の合金類システムのための適当な均質化処理温度領域は表12に提供される。
均質化熱処理は、典型的には不活性ガス(例えば、Ar、He、N)、真空、または減圧雰囲気で行われる。熱処理が空気中で行われる場合、合金は一般に、シリカまたはガラスビーズが充填されたCu−Niチューブの中に缶詰めにされるか、または石英管の中にカプセル化される。方法はさらに均質化熱処理の後に、合金を冷却する炉を伴うことができる。あるいはまた、合金は、均質化の後に水で急冷されることができる。
均一化温度に維持しつつ、固体拡散とその結果としての晶粒生成を促進するために、合金に圧力を加えることができる。すなわち、合金は均質化熱処理の間、熱間処理できる。あるいはまた、合金は臨界温度以下の温度で、均質化した後、熱間加工できる。熱間加工温度は、望ましくは、溶融開始温度を超えないで、均質化処理温度領域の中であることができる。方法は、固体状態移行を向上するために、均質化処理、および/または、熱間加工の間、電場を合金に適用することができる。
合金も、Erリッチの第二の相の晶粒生成または精錬を助けるために温度サイクルに供されることができる。温度サイクルは臨界温度の上下の温度の間で行うことができる。例えば、合金は臨界温度(例えば、溶融開始温度)に関して±50℃の温度の間でサイクルできる。あるいはまた、合金は臨界温度より低い2つの温度の間でサイクルできる。例えば、以下でさらに議論するように、Ni−Ti−Er合金類の場合では、合金を500℃以上で925℃未満の温度に加熱し、この範囲内の温度に冷却し、サイクルすることができる。熱間加工工程の後に、合金を冷間加工し、合金にクラックの発生無しに、寸法を少なくとも30%低減できる。
好適な実施態様によると、本明細書に開示されるニッケル−チタン合金は、少なくとも約1350メガパスカルの極限引張り強さを有する。一般に当業者に知られているように、材料の極限引張り強さ(または、引張り強度)は、材料の破壊なしで引っ張り力に耐えることができる最大の工学応力に対応している。工学応力はF/Aと定義される。ここでFは引張力を示し、Aは力を加える前の試料の初期断面積である。望ましくは、米国材料試験協会(ASTM)規格F2063の「医療器具と手術による移植のためのニッケル−チタン形状記憶合金への標準の細目」、および/または、F2516「ニッケル−チタン超弾性材料の引張試験に関する標準試験方法」に従って、合金類の引張り試験が行われる。それは、参考として援用する。
二通りの形状記憶効果が望ましいニッケル−チタン合金のケースでは、2番目の形状を設定するためにより低温で追加の「訓練」を行うことができる。
実施例1:選択されたNi−Ti−RE合金類の溶融およびキャラクタリゼーション
数個の希土類元素でドーピングされたニッケル−チタン合金のインゴットは、真空誘導溶解(VIM)を使用して製造された。具体的には希土類元素をそれぞれ7.5at.%を含む、Ni−Ti−Er、Ni−Ti−La、Ni−Ti−Gd、およびNi−Ti−Ndが溶融された。Ni−Ti−7.5at.%のPtインゴット、および2成分ニッケル−チタン合金が比較のためにVIMによって製造された。高さ3インチ、直径2.25インチのインゴットを、圧延し、プレートを形成した。それぞれのNi−Ti−Xプレートは、圧延の結果としていくらかの樹枝状晶間クラッキングを示した。Erでドーピングされたニッケル−チタン合金が最も良く圧延に耐えた。圧延板は24時間、850℃でソーキングされ、高さが1インチ(2.54センチメータ)よりわずかに大きいサイズに熱間圧延された。それぞれの試料の重量%の組成は表13に示される。また、炭素、酸素、および窒素不純物の濃度は百万分率(ppm)で示されている。
圧延の前に、キャストされた試料の表面は、公知のブリネル硬さ試験のためのサンプルを調製するために研磨された。そのようなテストは、既知の負荷の下で特定の直径の球状圧子を試料の表面に押し、テストの後にへこみの直径(d)を測定することを含む。次に、使用された負荷(キログラム)を、実際のへこみの表面積(平方ミリメートル)で割ることによって、ブリネル硬度数(BHN)を得ることができる。キャストされたままのもの、および研磨されたものについての硬度試験から得られたブリネル硬度数は以下の表14に提示される。直径1.68mmの鋼球が、10秒の滞留時間で、30kgの圧力でそれぞれの試料の表面に押し込まれた。4つのへこみがそれぞれのサンプルに付けられ、それぞれのへこみについて2回の直径測定が行われた(d、d)。塑性変形へのより大きい耐性を示す試料では、より大きい平均BHN硬度数が得られる、(すなわち、より大きな硬度を示す)。より柔らかい試料からはより低い平均BHN硬度数が得られる。表14にみられるように、Ni−Ti−RE試料は、2成分のNi−Ti試料よりも低い硬度を示した。Ni−Ti−Ptのサンプルは、2成分のNi−Ti試料よりも高い硬度を示した。
熱間圧延された試料のミクロ構造は、エネルギー分散式X線分光器(EDS)を備えた走査電子顕微鏡(SEM)を使用して調査された。SEMは、合金類の観察される領域の高い倍率での観察を許容した。EDSは局所的な化学情報を提供した。一緒に使用することにより、ツールは、希土類元素が、Ni−Ti−RE試料の結晶粒界に分離される傾向があることを示した。合金のミクロ構造は、樹枝状晶形態を示し、酸化物とカーバイドの析出物を含んでいた。組成的な不均一性は、人体温度付近での形状記憶相変態を抑制できると信じられている。本当に、試料を−150℃から80℃まで及ぶ温度で加熱冷却することによって行われたDSC実験は、相変態をしないことを明らかにした。従って発明者は、850℃を超えた温度、または約700℃から約900℃の範囲内での長期間(例えば、2−3日間)の均質化熱処理は、Ni−Ti−REインゴットの組成的な均質性を改良して、体温近くでの形状記憶挙動のために適当な相構造を得るために有利であると信じられている。
Ni−Ti−RE合金とNi−Ti−Ptのエックス線コントラストを2成分ニチノール合金のエックス線コントラストと比較する実験がPicker Clinix RF X線蛍光透視装置と、米食品医薬品局(FDA)の医療機器・放射線保健センター(CDRH)により開発されたファントムを使用して行われた。ファントムは、典型的な大人の下腹部を通過したX線減弱をシミュレートするのに使用された。特には、ファントムは5フィート8インチで約165ポンドの大人の上部胃腸管を表すように設計され、23センチメータの後部と前部の間の厚さを有する。図20にファントムの大きさが示される。ファントムは主としてポリメチルメタクレート(PMMA)とアルミニウムで構成される。
3つの三元ニッケル−チタン合金試料が放射線不透過性の実験に使用された。それぞれ7.5at.%のEr、7.5at.%のGd、および7.5at.%のPtを含んでいた。実験は蛍光透視モードおよび静的モードでCDRHファントムを使用して行われた。それぞれの試料を通った放射線強度と背景強度の強度は様々な管電圧で測定された。それぞれの電位において、試料を通過した放射線を背景強度から引くことによって、エックス線コントラストの値を得た。次に、エックス線コントラスト値は2成分Ni−Tiのサンプルについて得られたX線コントラストにより規格化され、相対エックス線コントラスト値をそれぞれの試料について得た。結果を表15および16に示す。
エックス線コントラストデータに示されたように、2成分ニチノール合金に対してそれぞれの三元合金は放射線不透過性の改良を示した。表15は、蛍光透視モードで様々な電位でCDRHファントムを使用して決定された、合金類の相対エックス線コントラスト値を示している。図21は使用された電位の範囲内のそれぞれの合金についての相対エックス線コントラストの平均値を示す。全体的に見て、Ni−Ti−Gd合金は最も高いエックス線コントラストを示し、40−110kVの電位範囲内で1.50の平均相対エックス線コントラストを示した。Ni−Ti−Er合金は同じ電位範囲内で1.48の平均相対エックス線コントラストを示し、Ni−Ti−Pt合金は1.45の平均相対エックス線コントラストを示した。
表16は、静的なモードで、様々な電位でCDRHファントムを使用して決定された、合金類の相対エックス線コントラスト値を示している。図22は使用された電位の範囲内のそれぞれの合金についての相対エックス線コントラストの平均値を示す。全体的に見て、Ni−Ti−Pt合金は最も高いエックス線コントラストを示し、60−100kVの電位範囲内で1.35の平均相対エックス線コントラストを示した。Ni−Ti−Er合金は同じ電位範囲内で1.34の平均相対エックス線コントラストを示し、Ni−Ti−Gd合金は1.29の平均相対エックス線コントラストを示した。
望ましくは、40keVから110keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された時に、Ni−Ti−RE合金のエックス線コントラストは、均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金のものの1から約2倍の範囲内にある。より望ましくは、40keVから110keVの範囲内のエネルギーを有する放射線に暴露された時に、Ni−Ti−RE合金のエックス線コントラストは、均等原子量の2成分ニッケル−チタン合金のものの約1.2から約1.9倍の範囲内にある。
表17に示された組成を有する12の追加合金類が溶融される。溶融およびキャスティングの後、合金類は1000℃で72時間の均質化熱処理を受けることができる。先に説明したように、均質化された合金類は機械加工されて試料にすることができる。
実施例2: 均質化熱処理
希土類元素(RE)リッチの金属間相は樹枝状晶間偏析する傾向があり、結論として樹枝状晶間セルラー・ネットワークを形成する傾向がある。合金の機械加工の間、このセルラー・ネットワークの存在は樹枝状晶間クラッキングと破壊につながることがある。
図24Aは、NiTi−4.5at.%のEr合金のErリッチな第2相の樹枝状晶間偏析を示している。同様のネットワークがNiTi−7.5at.%のErインゴットでも形成され、図24Bに示されているように925℃での均質化処理の後にさえ続く。この第二の相の樹枝状晶間偏析は、REでドープされたNi−Ti合金を、たとえば冷間圧延などの機械加工の間、樹枝状晶間破壊を起こす傾向を示すようになる。図24Cは、7日間1000℃で均質化されたNiTi−4.5at.%のErのサンプルの破壊を示す。
この問題を解決するために、発明者は希土類元素リッチな第2の相の樹枝状晶間セルラーネットワークの形成を損ない、および/または避けるために適当な熱処理パラメータを同定した。3日間900℃で均質化されたNi−Ti−4.5at.%Erの顕微鏡写真である図24Dに示されるように、球体のまたはほとんど球体のRE−NiおよびRE−Ni組成物の析出を引き起こす。発明者は、本明細書で説明したようにして均質化されたNi−Ti−RE合金類が、間欠熱処理を有する従来の熱間および冷間加工に耐えることができると信じている。
925℃またはより高い温度におけるNi−Ti−Er合金類の均質化は、DSC/DTAのテクニックで観測されたようにErリッチな第2相の溶融開始を伴う。925℃近傍におけるNiTi−7.5at.%のEr内の初期の溶融が図25Cに示されている。この温度を通した徐冷はErリッチな相の固体化をもたし、固体化の間、この相は樹枝状晶領域の表面を再度濡らす。従って、セルラー・ネットワークは再形成され、均質化処理熱処理の意図された効果を無効にすることができる。
図25A−25Fは以下のDSC/DTA反応を示す:(A)1390℃まで加熱された2成分NiTi合金;(B)1390℃に加熱されたNiTi−7.5at.%のEr内の初期の溶融;(C)NiTi−7.5at.%のEr合金が、925℃で24時間均質化され、次いで固体化された時のNiEr相の初期溶融;(D)初期溶融を避けるために72時間900℃で均質化したNiTi−7.5at.%のEr合金;(E) (D)と同じだが、24時間875℃(E)、24時間825℃(F)均質化。
発明者は、925℃未満の温度での均質化処理が、Ni−Ti−Er合金類における初期溶融を避けることができると発見した。この初期溶融温度から均一化処理温度が低ければ低いほど、セルラー・ネットワークを再び形成するというリスクが低くなる。
発明者は、臨界温度以下で均一化処理温度を維持することにより、Ni原子の固体拡散と移動が許容され、晶粒生成を促進すると信じている。Ni−Ti−Er合金類の場合では、臨界温度は925℃であることが見いだされた。発明者は、以下で説明する熱処理実験に基づいて、Ni−Ti−Er合金類については、約750℃から約875℃の範囲内の温度での均質化処理が有利であると信じている。また、これらの実験は、約24時間から約72時間が晶粒生成のための適当な時間であることを示した。
均質化熱処理実験は、1cm×1.5cm×1.5cmの50Ni−42.5Ti−7.5Er(at.%)の試料で行われた。試料は、少なくとも24時間、水平管炉で窒素雰囲気で熱処理された。昇温速度は20℃/分であり、試料は炉で冷却された。図28Aから28Hは以下を示す。(A)キャストされたままのミクロ構造、(B)925℃で1日間熱処理した後のミクロ構造、(C)900℃1日間熱処理した後のミクロ構造、(D)900℃で3日間熱処理した後のミクロ構造、(E)875℃で1日間熱処理した後のミクロ構造(中心部)、(F)875℃で1日間熱処理した後のミクロ構造(端部)、(G)825℃で1日間熱処理した後のミクロ構造(中心部)、(H)825℃で1日間熱処理した後のミクロ構造(端部)。
第2の相は高温(例えば、925℃)では凝集するが、約900℃およびそれ以下では、1日だけの熱処理の後にネットワークが破壊されるという証拠がある。また、より低温(例えば、825℃および875℃)では、破壊されたEr第2相のネットワーク構造が、より短い間に発展するように見える。図28Iおよび28Jは、それぞれ850℃で3日間の熱処理と、825℃で1日間の熱処理が類似するミクロ構造を与えることを示す。
温度サイクリング実験が、均質化されたNi−Ti−7.5at.%のEr試料を空気中で0℃と500℃の間をサイクルさせた場合の効果を研究するために行われた。1日間825℃で均質化された試料は、50℃/分の速度で500℃まで加熱され、500℃で4時間維持され、次に炉内でできるだけ速く冷却された。試料は3回サイクルされた。試料構造の顕微鏡写真は、500℃への温度サイクリングは第2相のネットワーク分布にほとんど又は全く影響を与えないことを示唆する。試料を二度800℃まで熱サイクルされた後に、試料内のインクルージョンのサイズは約10マイクロメートルに制限されているように見えた。80℃への熱サイクルの前では最大約20マイクロメートルのインクルージョンがあった。925℃未満で500℃以上の温度での合金の繰り返しのサイクルはさらなる晶粒生成を助けることができる。しかしながら、合金の硬度は大きくなることがある。
合金を初期融解ゾーン(例えば、Ni−Ti−Erの場合では925℃)を超えた温度まで合金を加熱し、合金がNiTi、NiEr、および/またはNiErの準二成分平衡系の液体/固体(L+Sとして従来より知られている)の領域になるようにすることによって、微細析出物の形のREリッチな相の微細化を達成できる。合金は予定された時間、その温度で維持され、次いで空気、水、塩水または油中で急速冷却されることができる。より微細な析出を達成するために何度かこの処理を繰り返すことができる。例えば、REリッチな相の微細化を向上するために、臨界温度(初期溶融温度)の周囲で合金を温度サイクルできる。臨界温度(例えば、第2相の初期溶融温度)の約±50℃の温度の間で熱サイクルを行うことは有利であるかもしれない。例えば、Ni−Ti−Er合金類の場合では、約875℃と約975℃の間で温度サイクリングを行うことができる。この処理は、エルビウムのNiTiマトリックス内への拡散を促進し、より微細な(Ni、Er)粒子群の析出を高めることができる。また、臨界温度の約±25℃、または±75℃の温度の間でも効果的に熱サイクルを行うことができる。
均質化/溶体化処理中、またはそれに続く機械加工は、REリッチな相の片の非圧縮性の破壊を引き起こす場合があり、それにより、合金のノッチ感度を増加させて、さらなる加工、特には低温加工を行うことを不可能にする。Ni−Ti−Er合金類の場合における、約750℃から約850℃の間の迅速な反復加熱サイクルは、(Ni,Er)リッチな相における十分なミクロ運動を引き起こすことができ、その結果それらが再び広がり、更なる加工を可能にする。
また、均質化処理熱処理に続いて、急速に試料を冷却する(急冷する)効果が調査された。キャスト試料は、1日間、窒素中で900℃で熱処理され、次に水で冷却された(水急冷)。急冷は、Er相ネットワークを破壊するのを助けるかもしれないが、(Ni,Er)相の脆化が起こった。
均質化処理温度領域の中にある昇温状態でインゴットを保持しつつ加圧することにより、晶粒生成を促進する固体拡散を高めることができる。従来の熱間加工方法(例えば、ローリング、押出、スエージンジ、または鍛造)の手段でそのような圧力を加えることができる。このアプローチは均一化温度での保持時間をかなり減少させることができる。800℃での均質化された合金の熱間鍛造は、外見上大きい塊がなく、微細なErネットワークを含む合金を与える。望ましくは、Ni−Ti−RE合金はすべての熱間加工操作について、臨界温度以下に維持される。
個体状態での移動の更なる増大は、加圧の間に電場を適用し、電場の向きにREリッチな相の破壊された塊の流れを引き起こすことによって達成される。たとえば放電プラズマ焼結でのように、必要な温度に合金を加熱する手段として電場を使用できる。移動の指向性の程度は、界面エネルギーが晶粒生成に好ましくない程度であることができる。しかしながら、先に説明したように処理された合金は、REリッチなネットワークの壊れている性質のため、さらなる加工に敏感に反応するかもしれない。
巨視的には、おそらくインゴットの端方向に、REリッチな相が移動する場所で、過剰な移動を避けるために注意が必要である。そのような巨視的な、表面に出る移動は、インゴットの外部表面へのREリッチな相の蓄積のため、破壊されたネットワークの有益効果を打ち消すことができる。これが起こる場合には、希土類元素がインゴットの内部で激しく消耗され、合金の放射線不透過性を減少させる場合がある。
Erの添加は磁化率に最小の効果を持っている。それはMRI適合を画定する。熱処理は、より顕著な影響を磁化率に与える。しかしながら、均質化されたNi−Ti−Er合金類の磁化率は316Lステンレス鋼より良いままで残る。
実施例3:Ni−Ti−RE合金類へのほう素添加
Ni−Ti−RE合金、特にNi−Ti−Er合金の挙動へのホウ素添加の影響を調べるため、以下の組成のボタンをホウ素の有無とともに溶融し、加工性が評価された。
2成分で非ホウ素の希土類元素でドーピングされたニチノール合金と比較して、ホウ素の付加は、キャストされたままの均質化された希土類元素でドーピングされたニチノールに低下したビッカース(Vicker)硬度数をもたらした。例えば均質化の後に、組成物3はVicker硬度166を示したのに対し、2成分ニチノールはビッカース硬度230以上を示した。Er、Pd、Cr、およびB添加の関数としての様々なNi−Ti−Er合金類のための硬度データは、キャストされたままの合金、および850℃で3日間均質化された合金について、それぞれ図29および30に示される。850℃の予備加熱後の、10mmの直径ビレットの高さ10mmからの高さ2.5mm(75%の減少または1:4の面積増加)への組成物3および4の合金の熱間鍛造は、2つのハンマータイプ鍛造ストライクを使用した場合にクラックがなかった。図31A−31Bと32A−32Bにそれぞれ示す。組成物3の合金はクラックなしで、断面の約30%を減少する冷ロール加工を行うことができた。
Ni−Ti−RE合金類に比較して改良された延性を有し、2成分のNi−Ti合金と比較して優れた放射線不透過性を示すニッケル−チタン−希土類元素(Ni−Ti−RE)合金について説明された。延性を向上するためにNi−Ti−RE合金類にホウ素を追加できる。望ましくは、希土類元素はエルビウムである。また、改良された加工性および放射線不透過性を有するNi−Ti−RE合金を作る方法が説明された。Ni−Ti−RE合金は、望ましくは、超弾性または形状記憶挙動を示して、医療器具、および他の用途に使うことができ、たとえばアクチュエータや密封プラグに使用できる。
本発明は特定の実施態様を参照しつつ詳細に説明されたが、本発明から逸脱することなく他の実施態様を行うことも可能である。特許請求の範囲の精神および範囲は、本明細書に含まれた実施態様の記載に限定されるものではない。特許請求の範囲の意味に含まれるすべての実施態様は、文字通りのものおよびそれらの等価物が含まれる。さらに先に説明した効果は必ずしも本発明の唯一の効果であるというわけではない。また説明した効果のすべてが本発明のあらゆる実施態様で達成されるというわけではない。

Claims (16)

  1. 以下を含むニッケル−チタン−希土類元素合金:
    35at.%から65at.%の濃度のニッケル;
    1.5at.%から15at.%の濃度の希土類元素;
    0.001at.%から0.1at.%の濃度のホウ素;および
    残部のチタン。
  2. 該希土類元素がLa、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから成る群から選択される、請求項1記載の合金。
  3. 該希土類元素がErである、請求項2記載の合金。
  4. 該希土類元素の濃度が1.5at.%から12at.%である、請求項1から3のいずれか1項記載の合金。
  5. 該希土類元素の濃度が3at.%から7.5at.%である、請求項1から4のいずれか1項記載の合金。
  6. 該希土類元素の濃度が4.5at.%から6at.%である、請求項1から5のいずれか1項記載の合金。
  7. ホウ素の濃度が0.005at.%から0.1at.%である、請求項1から6のいずれか1項記載の合金。
  8. ホウ素の濃度が0.01at.%から0.05at.%である、請求項1から7のいずれか1項記載の合金。
  9. ホウ素の濃度が35ppmである、請求項1記載の合金。
  10. ニッケルの濃度が45at.%から55at.%である、請求項1から9のいずれか1項記載の合金。
  11. 37℃から−15℃のAf温度を有し体温で超弾性である、請求項1から10のいずれか1項記載の合金。
  12. 20℃から−15℃のAf温度を有する、請求項1から11のいずれか1項記載の合金。
  13. 45at.%から55at.%の濃度のニッケル、
    4.5at.%から6at.%の濃度のエルビウム、
    0.005at.%から0.1at.%の濃度のホウ素、および
    残部のチタンを含む請求項1記載の合金であって、2成分のニッケル−チタン合金のものより優れた放射線不透過性を有する合金。
  14. 請求項1から13のいずれか1項記載のニッケル−チタン−希土類元素合金を含む少なくとも1つの要素を含む医療器具。
  15. 該少なくとも1つの要素が、
    少なくとも1本のワイヤ;および/または
    カニューレ;および/または
    少なくとも1つのステント、および
    高いエックス線コントラストを提供する放射線不透過性のマーカーまたはマーカーバンドである、請求項14記載の医療器具。
  16. 該少なくとも1つの要素が、少なくとも1本のワイヤであって、コア層と、該コア層の周りに配置された1つ以上の外側の層を含む複合材料構造を有し、該層の1以上がニッケル−チタン合金から形成されるワイヤ;および/または、
    ニッケル−チタン合金の1以上の同軸層を含む構造を有するカニューレ;および/または、
    少なくとも1つのステント、および
    高いエックス線コントラストを提供する放射線不透過性のマーカーまたはマーカーバンドである、請求項14または15記載の医療器具。

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