JP2017012011A - イソペンテニル二リン酸のメチル化方法及びメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法 - Google Patents

イソペンテニル二リン酸のメチル化方法及びメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法 Download PDF

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ラディカ ヴェンカテサン
Venkatesan Radhika
ラディカ ヴェンカテサン
七重 上田
Nanae Ueda
七重 上田
均 榊原
Hitoshi Sakakibara
均 榊原
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Abstract

【課題】 微生物由来の酵素を利用して、高炭素数の分岐鎖状アルコールの原料となる化合物を効率的に製造する方法を提供すること。【解決手段】 R.fasciansからiP等のサイトカイニンと同様の活性を有するメチル化サイトカイニンを同定し、前記メチル化サイトカイニンが、fas4遺伝子がコードするイソペンテニル基転移酵素と、fas4遺伝子の上流に存在する2つのメチルトランスフェラーゼ様遺伝子がコードする2種のタンパク質とによって生合成されることを見い出した。さらに、前記2種のタンパク質はいずれもイソペンテニル二リン酸を特異的にメチル化する酵素活性を有し、それらを利用することで高炭素数の分岐鎖状アルコールの原料となる化合物を効率的に製造することが可能であることを見い出した。【選択図】 なし

Description

本発明はイソペンテニル二リン酸のメチル化方法及びメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法に関する。詳しくは、イソペンテニル二リン酸を特異的にメチル化することが可能なタンパク質を用いたイソペンテニル二リン酸のメチル化方法、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法、及びメチル化イソペンテニル二リン酸の用途に関する。
炭素数が5以上の高炭素数の分岐鎖状アルコールは、従来から医薬、農薬、香料、化成品等の幅広い分野で用いられており、近年では、燃料価格の高騰、環境汚染、化石燃料の枯渇等の問題から、化石燃料の代替燃料としても注目されている。このような高炭素数の分岐鎖状アルコールを生産する手段としては、安全性や環境負荷の観点から、酵素や微生物を使用した方法の開発がなされており、例えば、Zhangら、PNAS、2008年、105巻、20683〜20688頁(非特許文献1)には、大腸菌においてケトメチルバレラートから3−メチル−1−ペンタノールを生産する方法が記載されている。
また、イソペンテニル二リン酸(IDP)は、サイトカイニン(CK)の生合成に用いられるジメチルアリル二リン酸(DMADP)の異性体であり、ほとんどの植物において生合成されている。イソペンテニル二リン酸は脱リン酸させ、還元させることによって容易に炭素数5の分岐鎖状アルコールであるイソペンタノールを得ることができるため、高炭素数の分岐鎖状アルコールの原料として有用である。しかしながら、メチルペンタノール(炭素数6)等に比べると炭素数が少ないため、化石燃料の代替燃料としては未だ不十分であった。
ところで、植物の適切な成長においては、サイトカイニンやオーキシン等の植物ホルモンの植物体内バランスが適切に調節されることが必要である。天然に存在するサイトカイニンは、N6位に異なる側鎖を有するアデニン誘導体であり、主なサイトカイニンとしては、N−(Δ−イソペンテニル)アデニン(iP)、トランスゼアチン(tZ)、シスゼアチン(cZ)、ジヒドロゼアチン(DZ)のようなN6位がプレニル化したイソプレノイドサイトカイニンが知られている。これらのサイトカイニンの生合成においてはジメチルアリル二リン酸及びアデノシンリン酸を基質とするイソペンテニル基転移酵素(IPT)が触媒として機能しており、例えば、iPは、イソペンテニル基転移酵素によってジメチルアリル二リン酸及びアデノシンリン酸からiPヌクレオチドが合成され、次いで、サイトカイニン活性化酵素(LOG)によってiPヌクレオチドからリボースリン酸が外されることで生合成される。また、tZは、iPヌクレオチドのプレニル側鎖のトランス末端が水酸化されてtZヌクレオチドが合成され、次いで、サイトカイニン活性化酵素によってtZヌクレオチドからリボースリン酸が外されることで生合成される。
多くの植物病原菌は、異常な器官形成を引き起こす植物ホルモンを自ら合成したり、宿主の炭素代謝を改変して上記植物ホルモンのバランスを崩すことで病原性を発揮している。例えば、グラム陽性菌の放線菌Rhodococcus fascians(ロドコッカス・ファシアンス(R.fascians))は、植物に感染すると、leafy gall(葉状瘤)として知られる、葉の奇形及びシュートの過剰形成症状をひきおこすことが知られている。R.fasciansの病原性決定因子はfas遺伝子座(複数のサイトカイニン生合成遺伝子をコードするオペロン)内に存在していることがわかっており(Stes Eら、Annual Review of Phytopathology、2011年、49(1)(非特許文献2))、例えば、上記サイトカイニンの生合成を触媒するイソペンテニル基転移酵素をコードしているfas4遺伝子は病原性を発揮するために不可欠であるとされている(Stes Eら、FEMS Microbiology Letters、2013年、342(2)、187−195頁(非特許文献3))。
しかしながら、R.fasciansにはこのようにfas遺伝子群が存在しているにもかかわらず、gall形成を引き起こす他の病原菌(Pantoea agglomerans, Agrobacterium tumefaciens、 Pseudomonas savastonoi等)と比べて、培養濾液から検出されるサイトカイニン濃度が非常に低い。さらに、leafy gallの表現型は非常に特徴的であり、上記の他の病原菌のいずれによってもleafy gall形成は引き起こされない。そのため、R.fasciansによるleafy gallの形成とサイトカイニンとの関係は未だ明らかではなかった。さらに、R.fasciansは、既知のサイトカイニンに加えて新規のサイトカイニンを合成するのではないかと長い間考えられてきたが、そのような分子種はこれまで発見されていなかった(Goethals Kら、Annual Review of Phytopathology、2001年、39、27−52頁(非特許文献4))。
また、fas4遺伝子の上流には2つのメチルトランスフェラーゼ様遺伝子が存在していることがわかっていたが、これらのメチルトランスフェラーゼ様遺伝子の機能は未だ知られていなかった(非特許文献2)。
Zhangら、PNAS、2008年、105巻、20683〜20688頁 Stes Eら、Annual Review of Phytopathology、2011年、49(1) Stes Eら、FEMS Microbiology Letters、2013年、342(2)、187−195頁 Goethals Kら、Annual Review of Phytopathology、2001年、39、27−52頁
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、微生物由来の酵素を利用して、高炭素数の分岐鎖状アルコールの原料となる化合物を効率的に製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、先ず、後述の実施例において示すとおり、R.fasciansのfas4遺伝子の上流に存在する2つのメチルトランスフェラーゼ様遺伝子(以下、場合により、それぞれ「mt1遺伝子」及び「mt2遺伝子」という)とサイトカイニン合成との関係を調べるために、大腸菌においてfas4遺伝子、mt1遺伝子及びmt2遺伝子(fas4mt1mt2);fas4遺伝子及びmt1遺伝子(fas4mt1);並びに、fas4遺伝子及びmt2遺伝子(fas4mt2)をそれぞれ外来的に共発現させ、得られた培養濾過物を質量分析(MS)によって分析した。その結果、fas4mt1mt2及びfas4mt2の濾過物からはいずれも、アデニン骨格を持ち、かつ、分子量218の化合物と一致するピーク、及び、分子量232の化合物と一致するピークが検出され、分子量218及び分子量232の2つのサイトカイニン様の化合物が得られることが明らかになった(図3)。なお、fas4mt1の濾過物からは分子量218の化合物がわずかに検出された。これらの化合物の構造を高分解能MS及びNMR分析によって決定したところ、fas4mt2及びfas4mt1mt2の濾過物から得られる前記サイトカイニン様の化合物は、モノ・メチル化されたiP(モノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン(式(1))、以下、場合により「1MeiP」という)とジ・メチル化されたiP(ジメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン(式(2))、以下、場合により「2MeiP」という)とであることが明らかになった。
また、本発明者らは、1MeiP及び2MeiPの活性を調べるために、シロイヌナズナの野生型及びahk3ahk4の2重変異体(サイトカイニン認識機能が欠損している変異体)を、iP、tZ、1MeiP及び2MeiPの存在下でそれぞれ生育させ、根の成長を観察した。その結果、1MeiP及び2MeiPの存在下では、iP及びtZの存在下と同様に、野生型では主根成長が阻害されたのに対して、変異体では主根成長が阻害されなかった(図5A及び図5B)。さらに、サイトカイニン情報伝達系の主要構成因子であり、外因性のサイトカイニンに応答して誘導されるタイプA ARR5及びARR6の遺伝子発現は、iPに応じた誘導と同様に、1MeiP及び2MeiPの濃度に依存して誘導された(図6A及び図6B)。これらの結果から、1MeiP及び2MeiPが標準的なサイトカイニンと同等の活性を有していることが明らかになった。
また、本発明者らは、植物体内での1MeiP及び2MeiPの安定性を調べるために、シロイヌナズナの野生型に13Cラベルした等量のiP(13C−iP)、非ラベルの1MeiP及び2MeiPを与えてこれらの植物体内における残存量を測定した。その結果、1MeiP及び2MeiPは13C−iPに比べて残存量が多く、1MeiP及び2MeiPはiPと比較して植物体内で安定であることが明らかになった。
さらに、本発明者らは、mt1遺伝子及びmt2遺伝子にコードされるタンパク質の活性を調べるために、大腸菌においてmt1遺伝子及びmt2遺伝子をそれぞれ外来的に共発現させて得られたタンパク質(以下、場合により、それぞれ「MT1」及び「MT2」という)の活性を測定した。その結果、MT1及びMT2はいずれもジメチルアリル二リン酸(DMADP)は基質にせず、イソペンテニル二リン酸(IDP)の側鎖末端を特異的にメチル化する酵素活性を有していることが明らかになった。さらに、イソペンテニル二リン酸とMT1との反応、イソペンテニル二リン酸とMT2との反応においては、それぞれ、互いに構造の異なる反応産物が得られることがガスクロマトグラフィー/質量分析(GC−MS)により明らかになった。すなわち、MT2によってイソペンテニル二リン酸の側鎖末端がモノ・メチル化され、更に二重結合部位の転移による異性化が起こった3メチル2ペンテニル二リン酸(Me−DMADP)が得られることが明らかになった。また、MT1によっては、構造決定にはいたらなかったものの、側鎖末端がモノ・メチル化されたイソペンテニル二リン酸(Me−IDP)が得られることが明らかになり、さらに、Me−IDPをMT2の基質にすることによって、イソペンテニル二リン酸がジ・メチル化、異性化された3エチル2ペンテニル二リン酸(2Me−DMADP)が得られることが明らかになった(図1)。また、fas4遺伝子がコードするイソペンテニル基転移酵素(以下、場合により「FAS4」という)によって、Me−DMADPからは1MeiPが、2Me−DMADPからは2MeiPが、それぞれ得られることが明らかになった。図1に、MT1、MT2及びFAS4による1MeiP及び2MeiPの合成経路を示す。
これらのMe−IDP及びMe−DMADPは、イソペンタノールよりも炭素数が多く化石燃料の代替燃料としても有用性が高い、3−メチル−1−ペンタノール及び3−エチル−1−ペンタノールを簡便に合成することが可能な原料にもなる。図2に、Me−IDPから得られる2Me−DMADP、並びに、Me−DMADPをそれぞれ原料とする3−エチル−1−ペンタノール及び3−メチル−1−ペンタノールの合成経路を示す。
このように、本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、R.fasciansから、iP等のサイトカイニンと同様の活性を有するメチル化サイトカイニン(1MeiP及び2MeiP)を同定し、前記メチル化サイトカイニンが、fas4遺伝子がコードするイソペンテニル基転移酵素(Fas4)と、fas4遺伝子の上流に存在する2つのメチルトランスフェラーゼ様遺伝子(mt1遺伝子及びmt2遺伝子)がコードする2種のタンパク質(MT1及びMT2)とによって生合成されることを見い出した。さらに、本発明者らは、前記2種のタンパク質(MT1及びMT2)はいずれもイソペンテニル二リン酸を特異的にメチル化する酵素活性を有し、それらを利用することで高炭素数の分岐鎖状アルコールの原料となる化合物を効率的に製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、イソペンテニル二リン酸を特異的にメチル化することが可能なタンパク質を用いたイソペンテニル二リン酸のメチル化方法、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法、及びメチル化イソペンテニル二リン酸の用途に関し、より詳しくは、以下のとおりである。
[1]以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をイソペンテニル二リン酸に接触させてイソペンテニル二リン酸をメチル化せしめる工程を含むことを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化方法。
(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。
[2]以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を培養して発現させた組み換えタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてイソペンテニル二リン酸をメチル化せしめる工程を含むことを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化方法。
(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。
[3]以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をイソペンテニル二リン酸に接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程を含むことを特徴とする、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法。
(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。
[4]以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を培養して発現させた組み換えタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程を含むことを特徴とする、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法。
(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。
[5]前記メチル化イソペンテニル二リン酸が3メチル2ペンテニル二リン酸又は3エチル2ペンテニル二リン酸であることを特徴とする、[3]又は[4]に記載のメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法。
[6][5]に記載の製造方法で得られた3メチル2ペンテニル二リン酸又は3エチル2ペンテニル二リン酸を脱リン酸させ、還元させて3−メチル−1−ペンタノール又は3−エチル−1−ペンタノールを得ることを特徴とする、3−メチル−1−ペンタノール又は3−エチル−1−ペンタノールの製造方法。
[7][5]に記載の製造方法で得られた3メチル2ペンテニル二リン酸又は3エチル2ペンテニル二リン酸にイソペンテニル基転移酵素を接触させてモノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン又はジメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニンを得ることを特徴とする、モノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン又はジメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニンの製造方法。
[8]以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含有することを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物。
(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。
[9]以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を含有することを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物。
(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。
本発明によれば、新規なイソペンテニル二リン酸のメチル化方法及びメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法を提供することが可能となる。
また、本発明の方法によって得られるメチル化イソペンテニル二リン酸を用いることにより、化石燃料の代替燃料としても有用な高炭素数の分岐鎖状アルコールを容易に得ることが可能となる。さらに、本発明の方法によって得られるメチル化イソペンテニル二リン酸を用いることにより、サイトカイニンと同様の活性を有し、かつ、植物体内で安定なメチル化サイトカイニンを容易に得ることも可能となる。また、MT1及びMT2はいずれもイソペンテニル二リン酸に対する基質特異性が高く副反応による副生成物の生成が少ないため、メチル化イソペンテニル二リン酸を効率的に製造することが可能となる。
1MeiP及び2MeiPの合成経路である。 3−メチル−1−ペンタノール及び3−エチル−1−ペンタノールの合成経路である。 実施例1で得られた培養生成物のマスクロマトグラムの結果を示すグラフである。 実施例1で得られた分子量218の化合物の高分解能エレクトロスプレー−イオン化質量分析の結果を示すグラフである。 実施例1で得られた分子量232の化合物の高分解能エレクトロスプレー−イオン化質量分析の結果を示すグラフである。 実施例1のiP、tZ及び1MeiPと主根の長さとの関係を示すグラフである。 実施例1のiP、tZ及び2MeiPと主根の長さとの関係を示すグラフである。 実施例1のiP、1MeiP及び2MeiPの濃度とARR5のACT8に対する相対発現量との関係を示すグラフである。 実施例1のiP、1MeiP及び2MeiPの濃度とARR6のACT8に対する相対発現量との関係を示すグラフである。 実施例1の13C−iP、1MeiP及び2MeiPの残存量を示すグラフである。 実施例2で得られた反応生成物のエレクトロスプレー−イオン化質量分析の結果を示すグラフ(m/z=245)である。 実施例2で得られた反応生成物のエレクトロスプレー−イオン化質量分析の結果を示すグラフ(m/z=259)である。 実施例2で得られた反応生成物のエレクトロスプレー−イオン化質量分析の結果を示すグラフ(m/z=273)である。 イソプレノールのガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 プレノールのガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 実施例2でIDP及びMT2を用いて得られた反応生成物を脱リン酸させた後のガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 3−メチル−2−ペンテン−1−オールのガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 実施例2でIDP、MT1及びMT2を用いて得られた反応生成物を脱リン酸させた後のガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 3−エチル−2−ペンテン−1−オールのガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 実施例2でIDP及びMT1を用いて得られた反応生成物を脱リン酸させた後のガスクロマトグラフ質量分析の結果を示すグラフである。 実施例3の高速液体クロマトグラフィー分析の結果を示すグラフである。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
<イソペンテニル二リン酸のメチル化活性を有するタンパク質(MTタンパク質)>
本発明のイソペンテニル二リン酸のメチル化方法及びメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法は、イソペンテニル二リン酸のメチル化活性を有するタンパク質を用いるものである。
本発明において、イソペンテニル二リン酸のメチル化活性を有するタンパク質(MT1及びMT2:以下、場合により「MTタンパク質」と総称する)とは、イソペンテニル二リン酸の4位又は5位の炭素原子に結合した水素原子をメチル基に置換するメチル化活性を示すタンパク質(メチルトランスフェラーゼ)を意味する。
本発明者らは、上記のように、R.fasciansにおいて、fas4遺伝子の上流に存在する2つのメチルトランスフェラーゼ様遺伝子(mt1遺伝子及びmt2遺伝子)がコードする2種のタンパク質(mt1遺伝子がコードするタンパク質:MT1、mt2遺伝子がコードするタンパク質:MT2)がイソペンテニル二リン酸を特異的にメチル化する酵素活性を有することを見い出した。R.fascians由来のmt1遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号1に、R.fascians由来のmt2遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号2に、R.fascians由来のMT1のアミノ酸配列を配列番号3に、R.fascians由来のMT2のアミノ酸配列を配列番号4に、それぞれ示す。したがって、本発明に係る「MTタンパク質」の態様には、「(a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質」が含まれる。
また、自然界において、ヌクレオチド配列の変異によってコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、例えば、R.fascians由来のMT1及び/又はMT2をコードするR.fascians由来のmt1遺伝子及び/又はmt2遺伝子のヌクレオチド配列情報が得られた場合、そのヌクレオチド配列を改変し、そのコードするアミノ酸配列とは異なるが、イソペンテニル二リン酸をメチル化する酵素活性を維持した又はより向上させたMT1及び/又はMT2を調製することもできる。したがって、本発明に係る「MTタンパク質」の他の態様には、「(b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質」も含まれる。ここで「複数」とは、改変後のタンパク質が、イソペンテニル二リン酸をメチル化する活性を有する範囲におけるアミノ酸の改変数であり、通常1〜80個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜20個、更に好ましくは1〜数個(例えば、1〜10個、1〜8個、1〜4個、1〜2個)である。
このような改変体をコードするポリヌクレオチドは、当業者であれば、例えば、R.fascians由来のMT1及びMT2をコードする遺伝子(mt1遺伝子及びmt2遺伝子)のヌクレオチド配列情報に基づき、公知の部位特異的変異誘発(site−directed mutagenesis)法等を利用して調製することが可能である。
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、R.fascians由来のMT1及び/又はMT2をコードする遺伝子(mt1遺伝子及びmt2遺伝子)のヌクレオチド配列情報が得られた場合、ハイブリダイゼーション技術やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術により、R.fascians以外の他の菌から、MT1及び/又はMT2をコードするポリヌクレオチド(相同遺伝子)をそれぞれ取得することが可能である。したがって、本発明にかかる「MTタンパク質」の態様には、「(c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質」も含まれる。
このような相同遺伝子を単離するためには、通常、厳密な条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。「厳密な条件」とは、ハイブリダイゼーション後のメンブレンの洗浄操作を、高温下低塩濃度溶液中で行うことを意味し、例えば、2×SSC濃度(1×SSC:15mMクエン酸3ナトリウム、150mM塩化ナトリウム)、0.5% SDS溶液中で60℃、20分間の洗浄条件が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションは、例えば、公知であるECLダイレクトDNA/RNAラベリング・検出システム(アマシャムファルマシアバイオテク社製)に添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
さらに、このような方法にて取得された相同遺伝子がコードするタンパク質は、通常、配列番号3又は4に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有する。したがって、本発明に係る「MTタンパク質」の態様には、「(d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質」も含まれる。配列の同一性は、例えば、NCBIのBLASTP(アミノ酸レベル)のプログラムを利用して決定することができる。また、配列番号3及び4に記載のアミノ酸配列との相同性は、それぞれ70%以上あればよいが、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)である。
相同遺伝子がコードするMTタンパク質は、R.fasciansとは異なる微生物から単離された遺伝子にコードされるタンパク質であってもよい。このようなMTタンパク質としては、例えば、Streptomyces turgidiscabies(ストレプトマイセス・ツルギジスカビエス(St.turgidiscabies))由来のMT1及びMT2が挙げられる。St.turgidiscabies由来のmt1遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号5に、St.turgidiscabies由来のmt2遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号6に、St.turgidiscabies由来のMT1のアミノ酸配列を配列番号7に、St.turgidiscabies由来のMT2のアミノ酸配列を配列番号8に、それぞれ示す。R.fasciansとSt.turgidiscabiesとの間において、mt1遺伝子のヌクレオチド配列の相同性は73%、mt2遺伝子のヌクレオチド配列の相同性は74%、MT1のアミノ酸配列の相同性は76.6%、MT2のアミノ酸配列の相同性は73.9%である。
他方、例えば、イソペンテニル二リン酸と構造が一部共通する炭素数が10のゲラニル二リン酸(GPP)をメチル化する酵素としてゲラニル二リン酸メチルトランスフェラーゼ(GPPMT)が知られているが、Streptomyces coelicolor(St.coelicolor)由来のGPPMTをコードする遺伝子のヌクレオチド配列とR.fascians由来のmt1遺伝子のヌクレオチド配列及びmt2遺伝子のヌクレオチド配列との相同性はそれぞれ54%及び56%であり、St.coelicolor由来のGPPMTのアミノ酸配列とR.fascians由来のMT1のアミノ酸配列及びMT2のアミノ酸配列との相同性はそれぞれ38.7%及び39%である。なお、後述するとおり、本発明に係るMT1及びMT2により、イソペンテニル二リン酸はメチル化されるが、ゲラニル二リン酸はメチル化されない。
また、上述の各種MTタンパク質が、イソペンテニル二リン酸をメチル化する活性を有していることは、例えば、イソペンテニル二リン酸及び必要に応じて塩化マグネシウム等を含む緩衝液と各MTタンパク質とをインキュベーションし、インキュベーション後の溶液中にメチル化イソペンテニル二リン酸が得られることをガスクロマトグラフ質量分析等によって確認することで評価することができる(実施例2を参照のこと)。このような活性としては、例えば、得られたメチル化イソペンテニル二リン酸量から算出されるKcatが、MT1については配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質におけるKcatの50%以上であることが好ましく、MT2については配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質におけるKcatの50%以上であることが好ましい。
本発明に係るMTタンパク質は、公知の方法を適宜利用して得ることできる。例えば、先ず、R.fascians等の目的の微生物から慣行法によってMTタンパク質をコードするDNAを単離する。次いで、単離したDNAを含む発現ベクターを調製し、これを宿主微生物に導入した形質転換体を培養してMTタンパク質を発現させることにより、培養物から本発明に係るMTタンパク質を組み換えタンパク質として得ることができる。
前記DNAの単離方法としては、例えば、目的の微生物から抽出したゲノムDNA、又は、目的の微生物から抽出したmRNAを基に合成したcDNAを、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター、BACベクター等のベクターと連結してDNAライブラリー又はcDNAライブラリーを作製し、mt1遺伝子(例えば、配列番号1に記載のヌクレオチド配列)及びmt2遺伝子(例えば、配列番号2に記載のヌクレオチド配列)に基づいて作成したプローブを用いたハイブリダイゼーションによって前記ライブラリーから所望のゲノムDNA又はcDNAを単離する方法;mt1遺伝子(例えば、配列番号1に記載のヌクレオチド配列)及びmt2遺伝子(例えば、配列番号2に記載のヌクレオチド配列)に基づいて作成したプライマーを用いて、目的の微生物のゲノムDNAを鋳型としたPCRを実施し、増幅したDNA断片を適当なベクターと連結することによって所望のゲノムDNAを単離する方法;人工的に化学合成する方法が挙げられる。
前記発現ベクターは、宿主微生物内で複製可能で、かつ、そのポリヌクレオチド配列がコードするタンパク質を発現可能な状態で含むベクターであり、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、前記発現ベクターは、宿主微生物に導入された場合、その宿主微生物のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。前記発現ベクターの構築の手順及び方法は、公知の方法を適宜利用することができる。また、前記発現ベクターは、これを実際に宿主微生物に導入してMTタンパク質を発現させるために、本発明に係るMTタンパク質をコードするDNAの他に、その発現を制御するポリヌクレオチド配列や微生物を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいることが好ましい。前記発現を制御するポリヌクレオチド配列としては、例えば、プロモーター、ターミネーター、又はシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が挙げられる。前記遺伝子マーカーとしては、形質転換体の選択方法に応じて適宜選択することができ、例えば、薬剤耐性をコードする遺伝子や栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
前記宿主微生物としては、特に限定されず、例えば、糸状菌、酵母、大腸菌、放線菌などが挙げられる。また、必要に応じて、特定の機能が欠損するように既に形質転換されたものや変異体であってもよい。これらの微生物に前記発現ベクターを導入する形質転換は、公知の方法に従って実施することができる。本発明に係るMTタンパク質は、こうして調製した形質転換体を適当な培地で培養することにより、その培養物(例えば培養微生物細胞)から回収することができる。形質転換体の培養条件としては、例えば、宿主微生物の培養条件を適用することができる。また、培養物からMTタンパク質を回収する方法としては、例えば、MTタンパク質を宿主微生物(例えば大腸菌)内で発現させ、形質転換体の培養終了後、培養微生物細胞を遠心分離や濾過等によって回収し、細胞を破砕して得られる液を粗酵素として用いることもできる。さらに、この上清液を、限外濾過法等によって濃縮し、防腐剤等を加えて濃縮酵素とすることもできる。また、前記粗酵素又は前記濃縮酵素を、例えば、塩析法、有機溶媒沈殿法、膜分離法、クロマト分離法を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることによって精製してもよい。或いは、精製用タグを付加したMTタンパク質を宿主微生物(例えば大腸菌)内で発現させ、その粗抽出液をタグ付きタンパクの精製用カラムに通した後にタグ付きタンパク質を溶出させることで精製してもよい。
<イソペンテニル二リン酸のメチル化方法、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法>
本発明は、MT1及び/又はMT2をイソペンテニル二リン酸に接触させてイソペンテニル二リン酸をメチル化せしめる工程を含むイソペンテニル二リン酸のメチル化方法、並びに、MT1及び/又はMT2をイソペンテニル二リン酸に接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程を含むメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法を提供する。
本発明においては、図1に示すように、MT1をイソペンテニル二リン酸に接触させることにより、イソペンテニル二リン酸の5位がモノ・メチル化されたモノメチルイソペンテニル二リン酸(Me−IDP)が得られる。また、MT2をイソペンテニル二リン酸に接触させることにより、4位がモノ・メチル化され、更に二重結合部位の転移による異性化が起こった3メチル2ペンテニル二リン酸(Me−DMADP)が得られる。さらに、MT1及びMT2をイソペンテニル二リン酸に接触させることにより、MT1によって得られたMe−IDPがMT2によって更にメチル化され、イソペンテニル二リン酸がジ・メチル化され、更に異性化された3エチル2ペンテニル二リン酸(2Me−DMADP)が得られる。なお、MT2によって得られたMe−DMADPは、MT1及びMT2によっては更にメチル化されない。また、MT1及びMT2は基質特異性が高く、例えば、イソペンテニル二リン酸の異性体であるジメチルアリル二リン酸(DMADP)や、イソペンテニル二リン酸と構造が一部共通するゲラニル二リン酸(GPP)はMT1及びMT2の基質にはならない。
前記接触方法としては、イソペンテニル二リン酸及び必要に応じて塩化マグネシウム等を含む緩衝液に、MT1及び/又はMT2を添加してインキュベーションする方法が挙げられる(実施例2を参照のこと)。また、2Me−DMADPを得る場合には、先ずMT1を添加して反応液中のイソペンテニル二リン酸を反応させてMe−IDPを得た後にMT2を添加することが好ましい。
前記インキュベーションの条件としては、酵素反応が阻害されない条件であれば特に制限されず、例えば、15〜37℃において0.1〜24時間であることが好ましい。また、イソペンテニル二リン酸の濃度としては、反応液中に5〜500μMであることが好ましく、MTタンパク質の濃度としては、反応液中に1〜20μMであることが好ましい。
MT1及びMT2としては、精製、粗精製、或いは濃縮されたタンパク質の形態で用いることができ、例えば、上記MTタンパク質の調製において述べた方法で得られる粗酵素、濃縮酵素、及びこれらの精製物を用いてもよい。また、MT1及びMT2の基質となるイソペンテニル二リン酸としては、特に制限されず、植物体内や微生物体内で合成されたものであっても化学的に合成されたものであってもよい。
さらに、前記接触方法としては、MT1及び/又はMT2をコードするDNAが導入された形質転換体を含む培養系において発現させたMT1及び/又はMT2と接触させてもよい。したがって、本発明は、MT1及び/又はMT2をコードするDNAが導入された形質転換体を培養して発現させた組み換えタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてイソペンテニル二リン酸をメチル化せしめる工程を含むことを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化方法、並びに、MT1及び/又はMT2をコードするDNAが導入された形質転換体を培養して発現させた組み換えタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程を含むことを特徴とする、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法を提供する。
前記形質転換体及びその培養方法としては、例えば、上記MTタンパク質の調製において述べた形質転換体及びその培養方法が挙げられる。前記形質転換体としては、MT1を調製する場合にはMT1をコードするDNAが導入された形質転換体、MT2を調製する場合にはMT2をコードするDNAが導入された形質転換体、MT1とMT2との混合組成物を調製する場合にはMT1をコードするDNA及びMT2をコードするDNAが導入された形質転換体が挙げられる。また、後述するサイトカイニンを製造することを目的とする場合には、工程数が少なく簡易であるという観点から、前記形質転換体としては、更にFAS4をコードするDNAが導入された形質転換体であることが好ましい。なお、複数種のタンパク質をコードするDNAを宿主微生物に導入する場合、それらは同一の発現ベクター上にあっても別の発現ベクター上にあってもよい。
また、培養系において発現させたMT1及び/又はMT2と接触させるイソペンテニル二リン酸は、培養系に添加されたイソペンテニル二リン酸であってもよく、当該培養系における前記形質転換体内で合成されたものであってもよく、それらの両方であってもよい。
本発明においては、連続的に基質及びMTタンパク質の供給が可能であり、かつ、工程数が少なく簡易であるという観点から、前記形質転換体においてMTタンパク質を発現させると共に基質となるイソペンテニル二リン酸を合成させて、イソペンテニル二リン酸とMT1及び/又はMT2とを培養物中で接触させ、培養物中にメチル化イソペンテニル二リン酸を得ることが好ましい。このような形質転換体を調製するために用いられる宿主微生物としては、ほとんどの宿主微生物となり得る微生物においてイソペンテニル二リン酸は合成され、例えば、上記MTタンパク質の調製において述べた宿主微生物が挙げられる。これらの中でも、イソペンテニル二リン酸を大量に合成可能であることから、放線菌が好ましい。
なお、培養物中に得られたメチル化イソペンテニル二リン酸は、形質転換体の培養終了後、培養微生物細胞を遠心分離や濾過等によって除去して得られる上清液を、例えば、塩析法、有機溶媒抽出法、膜分離法、クロマト分離法を単独で又は2種以上を組み合わせて精製することによって回収することができる。
<イソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物>
本発明は、上記のMT1及び/又はMT2を含有するイソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物、並びに、上記のMT1及び/又はMT2をコードするDNAが導入された形質転換体を含有するイソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物を提供する。
本発明のイソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物としては、前記MTタンパク質又はMTタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体以外に、他のタンパク質、培養液、担体又は媒体、賦形剤(例えば、乳糖、塩化ナトリウム、ソルビトール等)、界面活性剤、防腐剤等が更に含有されていてもよい。他のタンパク質としては、例えば、イソペンテニル基転移酵素活性を有するFAS4、サイトカイニン活性化酵素、牛血清アルブミン等が挙げられる。
本発明のイソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物を用いることにより、上記の方法でMTタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させて該イソペンテニル二リン酸をメチル化せしめることができる。MT1を含有する組成物を用いることでMe−IDPが;MT2を含有する組成物を用いることでMe−DMADPが;MT1及びMT2を含有する組成物を用いるか、又は、MT1を含有する組成物の後にMT2を含有する組成物を用いることで2Me−DMADPが;それぞれ得られる。また、例えば、MT2及びFAS4を含有する組成物を用いるか、又は、MT2を含有する組成物の後にFAS4を含有する組成物を用いることで1MeiPが;MT1、MT2及びFAS4を含有する組成物を用いるか、又は、MT1を含有する組成物、MT2を含有する組成物、FAS4を含有する組成物を順に用いることで2MeiPが;それぞれ得られる。
<アルコールの製造>
本発明のメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法において得られたメチル化イソペンテニル二リン酸は、二リン酸を脱リン酸させ、炭素−炭素二重結合を還元させることによって、高炭素数の分岐鎖状アルコールを容易に得ることができる。図2に示すように、メチル化イソペンテニル二リン酸がMT2によって得られた3メチル2ペンテニル二リン酸(Me−DMADP)である場合、得られるアルコールは3−メチル−1−ペンタノールであり、メチル化イソペンテニル二リン酸がMT1及びMT2によって得られた3エチル2ペンテニル二リン酸(2Me−DMADP)である場合、得られるアルコールは3−エチル−1−ペンタノールである。イソペンタノールは分岐鎖状アルコールであるため化石燃料の代替燃料として有用であるが、3−メチル−1−ペンタノール及び3−エチル−1−ペンタノールはイソペンタノールよりも炭素数が更に多いため、化石燃料の代替燃料として更に有用である。
前記脱リン酸の方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、プロテインホスファターゼを用いる方法、アルカリフォスファターゼを用いる方法、酸性フォスファターゼを用いる方法等が挙げられる。前記還元の方法としても、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、水素を添加する方法や、プレニルレダクターゼを用いる方法等が挙げられる。前記脱リン酸及び還元は同時に行っても、脱リン酸の後に還元を行っても、還元の後に脱リン酸を行ってもよい。
<サイトカイニンの製造>
本発明のメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法において得られたメチル化イソペンテニル二リン酸は、イソペンテニル基転移酵素を接触させることにより、メチル化サイトカイニンを容易に得ることができる。図1に示すように、メチル化イソペンテニル二リン酸がMT2によって得られた3メチル2ペンテニル二リン酸(Me−DMADP)である場合、得られる化合物はiPがモノ・メチル化されたモノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン(1MeiP)であり、メチル化イソペンテニル二リン酸がMT1及びMT2によって得られた3エチル2ペンテニル二リン酸(2Me−DMADP)である場合、得られる化合物はiPがジ・メチル化されたジメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン(2MeiP)である。これらのメチル化サイトカイニン(メチル化されたiP)はiP等の標準的なサイトカイニンと同等の活性を有しており、かつ、iPと比較して植物体内で安定であるため、新規のサイトカイニンとして有用である。
前記イソペンテニル基転移酵素としては、例えば、fas4遺伝子にコードされるFAS4が挙げられる。
前記接触方法としては、メチル化イソペンテニル二リン酸(Me−DMADP又は2Me−DMADP)及び必要に応じて塩化マグネシウム等を含む緩衝液に、イソペンテニル基転移酵素を添加してインキュベーションする方法が挙げられる。
前記メチル化イソペンテニル二リン酸としては、例えば、上記のイソペンテニル二リン酸のメチル化方法又はメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法で得られるものを用いることができる。また、上記のイソペンテニル二リン酸のメチル化方法又はメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法に用いられる形質転換体を含む培養系にイソペンテニル基転移酵素を添加してインキュベーションしてもよい。
さらに、本発明のサイトカイニンの製造においては、上記のイソペンテニル二リン酸のメチル化方法又はメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法に用いられる形質転換体として、FAS4をコードするDNAが更に導入された形質転換体を用いることが好ましい。それにより、培養物中において発現したMTタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程と、メチル化イソペンテニル二リン酸にFAS4を接触させてメチル化サイトカイニンを得る工程とを連続的に実施することができるため、工程数が少なく簡易に、前記メチル化サイトカイニンを得ることができる。このような形質転換体としては、MT1をコードするDNA及びFAS4をコードするDNA;MT2をコードするDNA及びFAS4をコードするDNA;又はMT1をコードするDNA、MT2をコードするDNA及びFAS4をコードするDNA;がそれぞれ宿主微生物に導入された形質転換体が挙げられる。
なお、培養物中に得られたメチル化サイトカイニンは、形質転換体の培養終了後、培養細胞を遠心分離や濾過等によって除去して得られる上清液を、例えば、塩析法、有機溶媒抽出法、固相抽出法、膜分離法、クロマト分離法を単独で又は2種以上を組み合わせて精製することによって回収することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例において、R.fasciansとしては、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms)から入手したRhodococcus fascians 6162(ATCC 35014、Tilford 1936)を用いた。
(実施例1)
<培養生成物の調製−メチル化サイトカイニンの製造−>
先ず、mt1遺伝子の翻訳領域(mt1、配列番号1に記載のヌクレオチド配列、NCBI accession:JN093091、領域:76291−77142)及びmt2遺伝子の翻訳領域(mt2、配列番号:2に記載のヌクレオチド配列、NCBI accession:JN093097、領域:77182−78033)を、PCR法を用いてR.fasciansから抽出したDNAを鋳型としてそれぞれ増幅させた。また、fas4遺伝子の翻訳領域(fas4、NCBI accession:Z29635、領域:4267−5034)についても、PCR法を用いてR. fasciansから抽出したDNAを鋳型として増幅させた。次いで、得られた各PCR産物を、fas4mt1、fas4mt2、fas4mt1mt2の組み合わせとなるようにpCOLD−IVベクター(タカラ社製)に導入し、発現ベクターを調製した。各発現ベクターをpG−Tf2で形質転換した大腸菌BL21(DE3)に導入し、アンピシリンを用いて形質転換体を選抜し、変更M9培地(組成:1M ソルビトール、1×M9塩、1% カザミノ酸、2% スクロース、1mM 硫酸マグネシウム、0.1mM 塩化カルシウム、5μg/mL チアミン、2.5mM ベタイン、50μg/mL アンピシリン、25μg/mL カナマイシン、20μg/mL クロラムフェニコール、5ng/mL テトラサイクリン、0.5mM IPTG)において、15℃で20時間培養した。
培養終了後、0.45μmの膜濾過を行って培養物を濾過し、セルフリーの大腸菌濾過液を、SPEカートリッジ(OASIS HLB 6g、次いで、1Mのギ酸で平衡化したOASIS MCX 6g、Waters社製)に通した。次いで、MCXカートリッジをメタノール及び0.35M NHOHで順に洗浄した後、0.35M−NHOHの60%(v/v)メタノール水溶液を用いて培養生成物を溶出させた。溶出液は乾燥させ、Sephadex−LH20(GE Healthcare社製)で精製し、得られた画分は、セミ分取HPLC(Symmetry C18、5.0μm、19×100mm、流量:6mL/min、移動相:2%(v/v)の酢酸を含むアセトニトリル)によって更に精製した。
<培養生成物の分析>
先ず、得られた培養生成物について、質量分析を実施した。エレクトロスプレー−イオン化四重極型タンデム質量分析(UPLC−ESI−qMSMS)は、Quattro Premier XE(Waters社製)を用い、UPLCは、AQUITY UPLC BEH C18 ODSカラム(2.1×100mm、1.7μm、Waters社製)を使い、2成分の傾斜濃度勾配(溶媒A:0.06%(v/v)酢酸;溶媒B:0.06%(v/v)酢酸 メタノール)を250μL/minの流速で用いた。分離には99%の溶媒A及び1%の溶媒Bから、55.0% 溶媒A+45.0% 溶媒Bへと直線的に4分間で濃度上昇させた後、30.0% 溶媒A+70.0% 溶媒Bへと直線的に3分間で濃度上昇させ、その後、1.0% 溶媒A+99.0% 溶媒Bに1分間で上昇させた。その後、4分間で99.0% 溶媒A+1.0% 溶媒Bに戻し、数分間平衡化させた。また、キャピラリーは3.13kVの電圧で保持した。その結果、fas4mt1mt2及びfas4mt2の濾過物からはいずれも、分子量218の化合物と一致するピーク、及び、分子量232の化合物と一致するピークが検出された。図3には、得られた培養生成物のマスクロマトグラムの結果を示す。図3において、(a)から(e)は、サイトカイニンの基本骨格であるアデニン環に由来する物質をm/z=136でモニターしたもの、(f)及び(g)は、それぞれ、m/z=218及び232でモニターしたものであり、ピーク2は分子量218の化合物と一致するピーク、ピーク3は分子量232の化合物と一致するピークである。また、図3中、fas4mt1、fas4mt2、fas4mt1mt2は、遺伝子が当該組み合わせとなるように調製した発現ベクターを導入した形質転換体の培養物から得られた培養生成物、Empは上記DNAを含まない発現ベクターを導入した形質転換体の培養物から得られた培養生成物を、それぞれ用いた結果を示し、StandardはiP(分子量204)を用いた結果を示す。
また、得られた培養生成物のうち、fas4mt1mt2及びfas4mt2の濾過物から得られた、分子量218の化合物及び分子量232の化合物について、高分解能質量分析器Q-Exactive(Thermo Scientific社製)を用いてフラグメンテーションパターンの分析と、解析プログラムMass Frontier(Thermo Scientific社製)によるフラグメントの構造解析予測を行った。図4Aに分子量218の化合物について得られた結果を、図4Bに分子量232の化合物について得られた結果を、それぞれ示す。
また、得られた培養生成物のうち、fas4mt1mt2及びfas4mt2の濾過物から得られた、分子量218の化合物、及び、分子量232の化合物について、NMR分析を実施した。NMRスペクトルはAvancell−700分光計(Bruker社製、H:700.154MHz、13C:176.061 MHz)、5mmφのinverse triple resonanceを備えた低温プローブを用いて298Kで測定した。結果を以下に示す。
分子量218の化合物:
H NMR(DMSO−d):δ(ppm)=12.86(s,1H),8.17(s,1H),8.01(s,1H),7.61(s,1H),5.32(t,6.2Hz,1H),4.08(br.s,2H),1.98(q,6.93 Hz,2H),1.7(s,3H),0.95(t,7.39Hz, 3H);
分子量232の化合物:
H NMR(DMSO−d):δ(ppm)=12.91(s,1H),8.17(s,1H),8.06(s,1H),7.67(s,1H),5.25(t,6.2Hz,1H),4.08(br.s,2H),2.13(q,7.5Hz,2H),1.99(q,7.3Hz,2H),0.97(t,7.4Hz,3H),0.94(t,7.4Hz,3H)。
以上の結果から、fas4mt1mt2及びfas4mt2の組み合わせとなるように調製した発現ベクターを導入した形質転換体の培養物から得られた培養生成物は、モノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン(1MeiP、分子量218)及びジメチルN−(Δ−イソペンテニル(2MeiP、分子量232)であることが確認された。
<1MeiP及び2MeiPの評価>
iP、tZ、1MeiP及び2MeiPを水で100nMに希釈し、これをそれぞれ含む寒天プレート上においてシロイヌナズナの野生株(WT、コロンビア種(Col−0))及びCK受容体ahk3ahk4の2重変異体(ahk3ahk4、Higuchi Mら、PNAS、2004年、101(23)、8821−8826頁に記載の変異体)を発芽させ、根の成長を観察した。7日間生育後の主根の長さを示すグラフを図5A〜図5Bに示す。図中、Controlは、iP、tZ、1MeiP又は2MeiPを用いずに生育させた結果を示す。
また、iP、1MeiP及び2MeiPの濃度が0〜10−6Mとなるように水で希釈した溶液をそれぞれ準備し、22℃において、蛍光灯(100μmol・m−2・s−1、16時間点灯/8時間消灯 サイクル)の下で2週間生育させたWTの根に各溶液をそれぞれ真空で1時間浸透させ、その後直ちに液体窒素(−80℃)で凍らせた。次いで、RNEasy Plant Mini kit(QIAGEN社製)を用いてRNAを抽出し、遺伝子特異的プライマー、KAPA SYBR FAST qPCRキット(Kapa Biosystems社製)、及びStepOne Plus Real−Time PCR System(Applied Biosystem社製)を用いて定量的RT−PCRを行い、各植物体におけるARR5、ARR6及びACT8の遺伝子発現解析を行った。ARR5及びARR6のACT8に対する相対発現量(%)を示すグラフを図6A及び図6Bにそれぞれ示す。
さらに、13CでラベルしたiP、非ラベルの1MeiP及び2MeiPの濃度が1μMとなるように水で希釈した溶液をそれぞれ準備し、22℃において、蛍光灯(100μmol・m−2・s−1、16時間点灯/8時間消灯 サイクル)の下で2週間生育させたWTの苗の根に各溶液をそれぞれ真空で1時間浸透させた。次いで、苗を水に移し、一定の時間間隔で苗を回収して各植物体内における13C−iP、1MeiP及び2MeiPの残存量を定量した。結果を図7に示す。
以上の結果から、1MeiP及び2MeiPは標準的なサイトカイニンと同等の活性を有しており、かつ、iPに比べて植物体内で安定であることが確認された。また、1MeiP及び2MeiPは、R.fasciansに感染したタバコ(Nicotiana tabacum L cv. Petit Havana)の葉において検出されることも確認された。
(実施例2)
<培養生成物の調製−MTタンパク質の調製−>
先ず、mt1遺伝子の翻訳領域及びmt2遺伝子の翻訳領域を、PCR法を用いてR.fasciansから抽出したDNAを鋳型としてそれぞれ増幅させた。次いで、得られた各PCR産物をそれぞれpCOLD−Iベクター(タカラ社製)に導入して発現ベクターを調製した。各発現ベクターをpG−Tf2で形質転換した大腸菌BL21(DE3)に導入し、アンピシリンを用いて形質転換体を選抜し、変更M9培地(組成:1M ソルビトール、1×M9塩、1% カザミノ酸、2% スクロース、1mM 硫酸マグネシウム、0.1mM 塩化カルシウム、5μg/mL チアミン、2.5mM ベタイン、50μg/mL アンピシリン、25μg/mL カナマイシン、20μg/mL クロラムフェニコール、5ng/mL テトラサイクリン、0.5mM IPTG)において、15℃で20時間培養した。
培養終了後、遠心によって大腸菌細胞を回収し、Lysisバッファー(50mM リン酸緩衝液 pH8.0、300mM NaCl、1mM MgCl、5mM βメルカプトエタノール、10mM イミダゾール)にけん濁し、塩化リゾチーム処理(1mg/mL)で細胞壁を消化した。その後、超音波処理で細胞膜を破壊し、遠心によって不溶物を除いた上清を、Ni−NTA superoseカラム(キアゲン社製)に通し、洗浄バッファー(50mM リン酸緩衝液 pH8.0、300mM NaCl、1mM MgCl、5mM βメルカプトエタノール、20mM イミダゾール、15% グリセロール)でカラムを洗浄後、溶出バッファー(50mM リン酸緩衝液 pH8.0、300mM NaCl、1mM MgCl、5mM βメルカプトエタノール、250mM イミダゾール、15% グリセロール)で溶出することにより、発現させたMTタンパク質(Hisタグ−組み換えタンパク質)をそれぞれ得た。mt1を含む発現ベクターを導入した形質転換体の培養物から得られたタンパク質をMT1、mt2を含む発現ベクターを導入した形質転換体の培養物から得られたタンパク質をMT2とした。
<MTタンパク質の活性評価−イソペンテニル二リン酸(IDP)のメチル化−>
各培養生成物から得られたMT1及びMT2の濃度がそれぞれ40μg/100μLとなるように、MTバッファ(50mMのトリス−HCl(pH 8.0)、50mMのNaCl、10mMのMgCl、1mg/mLのウシ血清アルブミン、0.5mMのジチオスレイトール)、2.5mMのS−アデノシルメチオニン(SAM、和光純薬社製)、基質として100μMのIDP、DMADP又はGPPと混合して全量を100μLとし、30℃で20時間反応させた(MT1、MT2)。また、MT1及びMT2の濃度がいずれも40μg/100μLとなるように組み合わせ、前記MTバッファ、2.5mMのS−アデノシルメチオニン(SAM、和光純薬社製)、100μMのIDP、DMADP又はGPPと混合して全量を100μLとし、30℃で20時間反応させた(MT1+MT2)。
各反応生成物について、エレクトロスプレー−イオン化質量分析を行った。エレクトロスプレー−イオン化質量分析(HPLC−ESI−MS)は、Micromass ZQ 2000(Waters社製)を用い、HPLCは、AS11−HCカラム(250×2mm、13μM、Dionex社製)を使い、2成分の傾斜濃度勾配(溶媒A:0.05%(v/v)アンモニア水、9%(v/v)メタノール、pH 10.6;溶媒B:1Mアンモニウム・ギ酸塩、9%(v/v)メタノール、pH 9.3)を250μL/minの流速で用いた。分離には95%の溶媒A及び5%の溶媒Bから、100%の溶媒Bへと直線的に40分間で濃度上昇させ、その後20分間の平衡状態を保った。また、キャピラリーは3.5kVの電圧において250℃で保持した。結果を図8A〜図8Cに示す。図8AはIDP及びDMADP(いずれもm/z=245)のピークを、図8Bはm/z=259に近い分子量を有する化合物のピークを、図8Cはm/z=273に近い分子量を有する化合物のピークを、それぞれ示す。また、図中、controlは、たんぱく質を添加せずに得られた生成物の分析結果を示す。これより、MT1又はMT2によってIDPから分子量がm/z=259に近い化合物が、MT1及びMT2によってIDPから分子量がm/Z=273に近い化合物が、それぞれ得られることが確認された。
さらに、各反応生成物について、それぞれアルカリホスファターゼ(タカラ社製)を添加して15〜30分間反応させて脱リン酸させ、反応物をジエチルエーテルで抽出して精製し、無水MgSOで乾燥させ、溶媒を留去して、n−ヘキサンに懸濁させた。得られたヘキサン懸濁液について、5975C triple−axis mass selective detector (Agilent Technologies社製)を備えた7890A GCシステムを用いてフラグメンテーションパターンのガスクロマグラフ質量分析(GC−MS)を行った。IDP及びMT2を用いて得られた反応生成物、IDP、MT1及びMT2を用いて得られた反応生成物、IDP及びMT1を用いて得られた反応生成物の分析結果を、それぞれ順に、図9C、図9E及び図9Gに示す。また、イソプレノール、プレノール、3−メチル−2−ペンテン−1−オール、3−エチル−2−ペンテン−1−オールを用いて得られた反応生成物の分析結果を、それぞれ順に、図9A、図9B、図9D、及び図9Fに示す。
以上の結果から、MT2によってIDPの4位がモノ・メチル化され異性化が起こったMe−DMADP(m/z=259)が、MT1及びMT2によって、IDPがジ・メチル化され異性化が起こった2Me−DMADP(m/z=273)が、それぞれ得られることが確認された。なお、入手可能な標品とのフラグメントパターンが一致しなかったことから構造の同定にはいたらなかったものの、MT1によってIDPがモノ・メチル化されることは確認された。さらに、MT1及びMT2を用いてもDMADP及びGPPはメチル化されず、MT1及びMT2はIDPに対して高い基質特異性を有していることが確認された。
(実施例3)
<培養生成物の調製>
先ず、fas4遺伝子の翻訳領域を、PCR法を用いてR.fasciansから抽出したDNAを鋳型として増幅させた。次いで、得られた各PCR産物をpCOLD−Iベクター(タカラ社製)に導入して発現ベクターを調製し、実施例2に記載の方法と同様にして精製し、Hisタグ−組み換えタンパク質(FAS4)を得た。また、実施例2と同様にしてMT1及びMT2を得た。
<連続的な活性の評価−メチル化サイトカイニンの製造−>
MT1又はMT2の濃度が40μg/100μLとなるように、MTバッファ(50mMのトリス−HCl(pH 8.0)、50mMのNaCl、10mMのMgCl、1mg/mLのウシ血清アルブミン、0.5mMのジチオスレイトール)、2.5mMのSAM(和光純薬社製)及び100μMのIDPと混合して全量を100μLとし、30℃で20時間反応させた(MT1、MT2)。次いで、FAS4が40μg/100μLとなるように更に添加して25℃で2時間反応させた。また、一方のMTタンパク質(MT1又はMT2)を用いて上記条件で反応させた後、他方のMTタンパク質(MT2又はMT1)が40μg/100μLとなるように更に添加して30℃で20時間反応させ(MT1−>MT2、MT2−>MT1)、更にその後、FAS4が40μg/100μLとなるように更に添加して25℃で2時間反応させた。
各反応生成物について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:Alliance 2695/ZQ−MS2000、Waters社製)、Symmetry C18 ODSカラム(5μm、2.1×150mm、Waters社製)を用いて、流速0.25ml/minで0.1% 酢酸の状態からメタノールの直線グラジエント(0%で1min、0〜50%まで15minで上昇、その後、50〜70%まで6minで上昇)で分析を行った。結果を図10に示す。
以上の結果から、MT2によって得られたMe−DMADPはFAS4によって1MeiPとなり、MT1、MT2の順に作用させて得られた2Me−DMADPはFAS4によって2MeiPとなることが確認された。また、MT1によって得られたMe−IDPはFAS4の基質にはならず、MT2、MT1の順に作用させても2Me−DMADPはわずかしか得られなかった。これより、1MeiP及び2MeiPは図1に示す経路で合成されることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、新規なイソペンテニル二リン酸のメチル化方法及びメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法を提供することが可能となる。
また、本発明の方法によって得られるメチル化イソペンテニル二リン酸を用いることにより、化石燃料の代替燃料としても有用な高炭素数の分岐鎖状アルコールを容易に得ることが可能となる。さらに、本発明の方法によって得られるメチル化イソペンテニル二リン酸を用いることにより、サイトカイニンと同様の活性を有し、かつ、植物体内で安定なメチル化サイトカイニンを容易に得ることも可能となる。また、MT1及びMT2はいずれもイソペンテニル二リン酸に対する基質特異性が高く副反応による副生成物の生成が少ないため、メチル化イソペンテニル二リン酸を効率的に製造することが可能となる。
配列番号:1
<223> ロドコッカス・ファシアンス mt1
配列番号:2
<223> ロドコッカス・ファシアンス mt2
配列番号:3
<223> ロドコッカス・ファシアンス MT1
配列番号:4
<223> ロドコッカス・ファシアンス MT2
配列番号:5
<223> ストレプトマイセス・ツルギジスカビエス mt1
配列番号:6
<223> ストレプトマイセス・ツルギジスカビエス mt2
配列番号:7
<223> ストレプトマイセス・ツルギジスカビエス MT1
配列番号:8
<223> ストレプトマイセス・ツルギジスカビエス MT2

Claims (9)

  1. 以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をイソペンテニル二リン酸に接触させてイソペンテニル二リン酸をメチル化せしめる工程を含むことを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化方法。
    (a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
    (d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  2. 以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を培養して発現させた組み換えタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてイソペンテニル二リン酸をメチル化せしめる工程を含むことを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化方法。
    (a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
    (d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  3. 以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をイソペンテニル二リン酸に接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程を含むことを特徴とする、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法。
    (a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
    (d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  4. 以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を培養して発現させた組み換えタンパク質とイソペンテニル二リン酸とを接触させてメチル化イソペンテニル二リン酸を得る工程を含むことを特徴とする、メチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法。
    (a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
    (d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  5. 前記メチル化イソペンテニル二リン酸が3メチル2ペンテニル二リン酸又は3エチル2ペンテニル二リン酸であることを特徴とする、請求項3又は4に記載のメチル化イソペンテニル二リン酸の製造方法。
  6. 請求項5に記載の製造方法で得られた3メチル2ペンテニル二リン酸又は3エチル2ペンテニル二リン酸を脱リン酸させ、還元させて3−メチル−1−ペンタノール又は3−エチル−1−ペンタノールを得ることを特徴とする、3−メチル−1−ペンタノール又は3−エチル−1−ペンタノールの製造方法。
  7. 請求項5に記載の製造方法で得られた3メチル2ペンテニル二リン酸又は3エチル2ペンテニル二リン酸にイソペンテニル基転移酵素を接触させてモノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン又はジメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニンを得ることを特徴とする、モノメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニン又はジメチルN−(Δ−イソペンテニル)アデニンの製造方法。
  8. 以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質を含有することを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物。
    (a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
    (d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
  9. 以下の(a)〜(d)に記載のタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換体を含有することを特徴とする、イソペンテニル二リン酸のメチル化用組成物。
    (a)配列番号3又は4のアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3又は4のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (c)配列番号1又は2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと厳密な条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするタンパク質
    (d)配列番号3又は4のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN114934094A (zh) * 2022-06-27 2022-08-23 南京大学 短链异戊烯基转移酶活性检测方法

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