JP2017001049A - 合金接合材による接合層構造と接合方法並びに半導体装置とその製造方法 - Google Patents

合金接合材による接合層構造と接合方法並びに半導体装置とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】濡れ性を十分に確保しつつ、高温の接合強度が高く、且つ、変態超塑性応力歪緩和機能の利用によって接続信頼性の大幅な向上を図ることができる、合金接合材による接合層構造と接合方法、並びに前記接合層構造を有する半導体装置及びその製造方法を提供する。【解決手段】本発明の接合層構造は、被接合材AとBとを合金接合材によって接合した接合部に形成されるものであって、前記合金接合材がZn−Al共析系合金であり、且つ、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなり、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度を通過させることによって形成される、Al中にZnが片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかで分散した組織を有することを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、高温の接合強度が高く、変態超塑性応力歪緩和機能の利用によって接続信頼性の大幅な向上を図ることができる、合金接合材による接合層構造と接合方法並びに前記接合層構造を有する半導体装置とその製造方法に関する。
パワー半導体素子のダイボンディングやパワモジュールに搭載される半導体素子の実装基板への接合及び実装基板への放熱板の接合には従来からはんだ接合が使用されている。はんだ材としては、Sn−Pb系等の鉛を含むはんだが周知であるが、近年の環境問題への対応からSn−Si型はんだやSn−In型はんだ等の低温はんだ、Sn−Ag−Cu系はんだやSn−Cu系はんだ等の中温はんだの鉛レスはんだが開発・実用化されている。しかしながら、250℃以上で使用する高温はんだについては適当な鉛レスはんだ材がなく、高鉛はんだが使用されている。この高鉛はんだは、構成成分として85質量%以上の鉛を含有しており、前記Sn−Pb共晶はんだに比べて環境への負荷が大きい。
一方、パワーモジュールやパワーエレクトロニクス製品に使用されるパワー半導体素子としては、近年、従来のSiに代わり、耐熱性に優れ、150〜200℃の高温下で性能を安定して発揮できる炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイアモンド(C)及び酸化ガリウム(Ga)等のワイドギャップ半導体への適用が検討されている。製品化が先行するSiC又はGaNの半導体素子は耐熱性に優れるが、それらのワイドギャップ半導体を実装基板等に接合した場合に、耐熱性は半導体素子だけでなく接合材料にも要求される。前記の高鉛はんだ材は高融点を有するものの、環境への負荷が大きく今後の使用が制限されるため、鉛レスの代替はんだの検討が進められている。
鉛レスの代替高温はんだとしては、Au−Sn、Au−Si、Ai−Ge等のAu系はんだ、Bi、Bi−Cu、Bi−Ag等のBi系はんだ、Zn、Zn−Al系はんだ等が報告されている。それらの中で、Zn、Zn−Al系はんだは、より高い融点を有するため、SiC又はGaN等のパワー用ワイドギャップ半導体素子の接合材としての期待が大きい。
Zn−Al系はんだとしては、例えば、特許文献1においてAl:2〜9重量%、Ge及び/又はMg:0.05〜1重量%、残部をZn及び不可避不純物からなる高温はんだ付用Zn合金が開示されている。前記特許文献1に記載のZn−Al系はんだは、380℃付近の共晶温度を有するZn−Al系共晶合金の融点を適当にさらに下げるために、Ge及び/又はMg、又は更にSn及び/又はInが添加されている。
また、特許文献2には、Alを1.0質量%以上及び15.0質量%以下を含有するZn−Al系はんだにおいて、塑性変形を伴う圧延機を用いて作製したシート状のPbフリーはんだ合金が開示されている。このシート状はんだ合金は、高い伸び率と引張強度を有するため、濡れ性及び信頼性に優れ、特に加工性及び応力緩和性に優れる。本発明者等も、Alを17〜30質量%含有するZn−Al共析系合金接合材が所定の温度領域で超塑性現象を発現することに着目し、この超塑性現象を利用することによって加工性や応力緩和性に優れる接合材を特許文献3において提案している。
一方、特許文献4には、Zn/Al/Znクラッド材を用いた接合材料が提案されている。この接合材料は、接続時の加熱によりAl酸化物が溶融部表面に膜を生成することによって起こる濡れ性の低下を抑制するため、Al系合金層がZn系合金層の間に挟まれた構造を有する。前記特許文献4に記載の接合材料は、Zn/Al/Znクラッド材によって良好な濡れ性を確保することができ、接続後にAl系合金層が応力緩衝材として機能するため、高い接続信頼性を得ることができる。
また、特許文献5には、接続に用いる最表面をZn系層にするとともに、前記特許文献4に記載の接合材料では大きな塊として存在していたAl層を複数の小さなAl相に分割することによって、濡れ性が確保でき、耐熱性が高く、応力緩衝機能を有する高信頼な接続材料が提案されている。前記特許文献5に記載の接続材料は、複数のAl系相の粒が浮島状に点在しており、Al系相の平均径を50μm以上にすることが好ましいと記載されている。
特開平11−288955号公報 特開2013−123741号公報 特許第4803834号公報 特開2008−126272号公報 特開2012−629号公報
パワーモジュールやパワーエレクトロニクス製品に使用される接合材料は、融点が高く、被接合材との濡れ性、接合時の加工性、及び接続信頼性の観点から応力緩和性に優れることが必要条件である。また、接合時の温度は、室温まで冷却されるときの大きな温度差から生じる熱膨張係数の差による応力の影響を低減するために比較的低い方が好ましいが、仮に接合温度が高くなっても応力緩和性に優れる接合材料であれば、接続信頼性を十分に確保することができる。したがって、従来のはんだ材料と比べて接合温度が比較的高いZn−Al系はんだでは、応力緩衝性を有する構造を形成することが不可欠である。
しかしながら、前記特許文献1に記載のZn−Al系はんだは、Alの含有量が9質量%以下に規定されており、ZnとAlは共晶合金を造ることによってある程度の柔軟性を持った軟らかい金属となるものの、Znの含有量が多いため、良好な加工性を有するには硬さの点で改良が必要である。また、接合後のZn−Al系はんだ中に応力緩衝材として機能するAl相の存在量が少ないため、応力緩衝性の点で不十分である。
前記特許文献2に記載のZn−Al系はんだは塑性変形によってシート状のものが作製されるが、「Alの含有量は、2.0質量%以上9.0質量%であるとさらに好ましい」と記載されており、Al含有量が9.0質量%を超えるに伴い、強度は高くなるものの、伸び率が低くなる傾向にある。したがって、Al相が応力緩衝能を発現するために十分な比率で、且つ、最適な結晶状態で存在するものとは言えず、接合温度が高くなる点を考慮すると応力緩和性の一層の向上が求められる。
前記特許文献3に記載のZn−Al共析系合金接合材は、微細結晶粒の形成による超塑性現象を利用して比較的低い温度で接合を行うことができ加工性及び応力緩和性に優れる。しかしながら、被接合材の接合面とZn−Al共析系合金接合材とを十分に接合させるため、接合界面層及び接合層の構造を最適化する点については十分に検討されておらず、高温の接合強度の向上が必要であるとともに、接合温度を上げた時に必要な応力緩和性についても、一層の向上が求められる。
また、前記特許文献4に記載のZn/Al/Znクラッド材を用いた接合材料は、接続後に応力緩衝材として機能するAl系合金層が形成されるものの、高温においてAl層中にZnが拡散し、固溶強化したAl系合金層が形成されやすいため応力緩衝機能が低下するという問題がある。この技術課題は前記特許文献5においても指摘されている。加えて、Al合金組成部分が接合層内で大きな塊として残存しやすために、亀裂進展の抑制効果を十分に得ることが難しい。例えば、接合層に微小な亀裂が発生した場合には、その亀裂がAl系合金属層と溶融して形成されるZn−Al合金層との界面で進展しやすく、接合信頼性の点で所望の効果が得られていないのが実情である。そこで、この問題を解決するため、Zn/Al/Znクラッド材においてAl層を薄くし、接合加熱時にAl系合金属層を消失する方法が検討されているが、Al合金組成部分は接合層内で大きな塊として残存しやすいという問題が避けられず、上記で述べたように亀裂進展の抑制効果を十分に得られない。
前記特許文献4に記載のZn/Al/Znクラッド材に対して、前記特許文献5に記載の方法ではAl層を複数の小さなAl相に分割することができるが、50μm以上の大粒径を有するAl系相が接続層内で一列に独立に配列した構造であるため、Al相による応力緩衝機能を十分に得ることが難しい。したがって、パワーモジュールやパワーエレクトロニクス製品へ適用するには接合信頼性が十分でなく、一層の向上が求められている。
さらに、前記特許文献4に記載のZn/Al/Znクラッド材は、Zn系合金層とAl合金層との厚さを精度良く加工し、製造において両者の接合面を最適な状態とするための熟練と細かな調整が必要となる。また、前記特許文献5に記載の接続材料においても、複数のAl系相の金属片(又は粉末)を2枚のZn系層に挟み込み圧延(クラッド圧延)を行って製造するとき、Al系相の粒径を所望の値に制御するため圧延を煩雑な工程で行い、細かな条件によって調製する必要がある。そして、十分な応力緩和性を得るために、Zn系合金層とAl合金層の両者の厚さ、Al相内に含まれるZn相の分散状態を、それぞれ適用するデバイスごとに最適化して変えることが必要である。したがって、前記特許文献4及び5に記載の接続材料は、汎用性のある接続材料とは必ずしも言えなかった。
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、接合材としての濡れ性を十分に確保しつつ、高温の接合強度が高く、且つ、Zn−Al共析合金が有する応力歪緩和機能を利用することによって接続信頼性の大幅な向上を図ることができる、合金接合材による接合層構造と接合方法、並びに前記接合層構造を有する半導体装置及びその製造方法に関する。
本発明は、接合材としてAlの含有量が従来よりも比較的多いZn−Al共析系合金を適用するとともに、接合後に得られるZn−Al共析系合金の接合層において、Alが有する応力緩衝機能が十分に作用するように、Alが所定の配合量で含まれる接合層において発現する変態超塑性応力歪緩和機能を利用することによって、上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、被接合材AとBとを合金接合材によって接合し形成される接合層の構造であって、前記合金接合材がZn−Al共析系合金であり、且つ、前記被接合材A及びBと前記合金接合材(図3参照)との接合部は、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなり、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度を通過させることによって形成される、Al中にZnが片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかの形状で分散した組織を有することを特徴とする合金接合材による接合層構造を提供する。
[2]本発明は、前記接合層が有する組織において、断面を電子顕微鏡を用いて500倍で観測したときのAlの面積比が18%を超え70%未満であることを特徴とする前記[1]に記載の合金接合材による接合層構造を提供する。
[3]本発明は、前記接合層が、22質量%以上68質量%未満のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Zn系からなる組成であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の合金接合材による接合層構造を提供する。
[4]本発明は、被接合材AとBとの間に、Al−Zn共析系合金接合材を介在させ、加圧又は加圧しない状態で前記接合材を、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度で加熱し、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなる半溶融状態又は固相状態の接合層を形成した後、前記相変態温度を通過させる操作を行うことを特徴とする合金接合材による接合方法を提供する。
[5]前記Tより高い温度で半溶融状態又は固相状態の接合層を形成し、前記相変態温度の低温側の温度(T)より低い温度に冷却した後、
前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返すことにより、前記相変態温度を通過させる操作を行うことを特徴とする前記[4]に記載の合金接合材による接合方法を提供する。
[6]前記Tより高い温度で半溶融状態又は固相状態の接合層を形成し、前記Tより低い温度として30℃以下に冷却した後、前記加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返すことを特徴とする前記[5]の記載の合金接合材による接合方法を提供する。
[7]本発明は、前記変態超塑性応力歪緩和現象を発現する温度が270℃を超え360℃未満であることを特徴とする前記[4]〜[6]の何れかに記載の合金接合材による接合方法を提供する。
[8]本発明は、前記接合層が22質量%以上68質量%未満のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Zn系からなる組成であることを特徴とする前記[4]〜[7]の何れかに記載の合金接合材による合金接合材による接合方法を提供する。
[9]本発明は、前記被接合材AとBとの間に介在させた接合材を前記Tより高い温度に加熱した状態で所望の時間保持する操作の前に、超塑性現象を発現する温度領域に加熱した状態で所望の時間保持する操作を行うことを特徴とする前記[4]〜[8]の何れかに記載の合金接合材による接合方法を提供する。
[10]本発明は、前記超塑性現象を発現する温度が200〜410℃であることを特徴とする前記[9]に記載の合金接合材による接合方法を提供する。
[11]本発明は、前記[4]〜[10]の何れかに記載の接合方法であって、前記被接合材AとBとの間に、Alが9質量%を超え68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有するZn−Al共析系合金接合材を介在させ、加圧又は無圧の状態で前記接合材を前記Tより高い温度に加熱し、前記被接合材AとBとの間に、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなる半溶融状態又は固相状態の接合層を形成することを特徴とする合金接合材による接合方法を提供する。
[12]本発明は、半導体基体、該半導体基体に直接又はセラミック基板を介して接合層によって接合された金属基板を備え、前記接合層が前記[1]〜[3]の何れかに記載の構造を有することを特徴とする半導体装置を提供する。
[13]本発明は、前記半導体基体がワイドギャップ半導体であることを特徴とする前記[12]に記載の半導体装置を提供する。
[14]本発明は、半導体基体、該半導体基体に直接又はセラミック基板を介して接合層によって接合された金属基板を備え、前記接合層の構造が前記[4]〜[11]の何れかに記載の接合方法によって形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法を提供する。
[15]本発明は、前記半導体基体がワイドギャップ半導体であることを特徴とする前記[14]に記載の半導体装置の製造方法を提供する。
本発明の接合層構造は、接合材料としてAlが従来よりも比較的多く含まれるZn−Al共析系合金を使用するため応力緩衝機能を有するAlの存在量が増えるだけでなく、Al−Zn共析系合金の変態超塑性応力歪緩和効果を利用した接合方法によってAl中にZnが片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかの形状で一様に分散した組織が形成されるため、高い応力緩和効果が接合層内で十分に得られ、接合信頼性の一層の向上を図ることができる。さらに、Alは熱伝導性の高い金属であるため、本発明の接合層構造は熱伝導性にも優れる。濡れ性に関しても、Zn−Al共析系合金中のZn及びZn−Al共晶の溶融によって十分に確保することができる。
また、本発明による接合層構造は、Zn−Al共析系合金において微細結晶粒構造形成により発現する超塑性現象を利用することによって、被接合材との接合界面の酸化膜層の破壊除去等による清浄化を行うことができ、ボイドの発生が少ない接合界面を形成することができる。したがって、前記Zn−Al共析系合金からなる接合材を、微細結晶粒構造形成による超塑性現象が発現する温度領域に加熱した状態で所望の時間保持した後、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度より高い温度に半溶融又は固相の状態で加熱し、所望の時間保持する操作を行うことによって、接合界面の濡れ性が確保される。その後、前記相変態温度の高温側の温度より高い温度から冷却し、必要に応じて加熱・冷却工程を繰り返して前記相変態温度を通過させることにより高い応力歪緩和効果が十分に得られ、高温の接合強度及び接合信頼性が大幅に向上するため、より高信頼性で、長寿命の接合部形成を実現できる。
本発明の接合層構造及び接合方法によってSiC、GaN、C(ダイヤモンド)及びGa等のワイドギャップ半導体素子を実装した半導体装置は、パワーデバイス又はパワーエレクトロニクス製品等で求められる耐熱性の要求に答えることができ、200℃以上、特に250℃以上の高温使用環境において長期間の使用に耐えることが可能になる。
本発明の接合層構造においてAl含有量が60質量%及び45質量%である接合層構造のそれぞれの例を示す断面SEM写真図及びその模式図である。 Zn−Al共析系合金の平衡状態図である。 超組成現象を利用した本発明の接合方法の一例を示す工程模式図である。 SiC高温パワー半導体の構成例とその接合層構造を示す図である。 本発明の実施例1によるSiC半導体装置の接合プロセスを示す図である。 本発明の実施例1によるSiC半導体装置の接合プロセスの模式図を示す図である。 Zn−Al共析系合金からなる接合層において、Al含有比率とDASとの関係を示す図である。 本発明の実施例1によるSiC半導体装置の接合後の外観写真を示す図である。 本発明の実施例1によるSiC半導体装置の接合信頼性結果を断面写真で示す図である。 本発明の実施例3において測定した接合部せん断強度の加熱温度依存性の結果を示す図である。 本発明の接合層構造を有するダイオードの概略断面図である。 本発明の接合層構造を有するIGBTモジュールの概略平面図である。 第12図のA−A線に沿う概略断面図である。 第12図のB−B線に沿う概略断面図である。 本発明の接合層構造を有する電力用MOSトランジスタの概略平面図である。
本発明による接合層構造の例を図1に示す。図1において、(a)及び(b)は、Al含有量が60質量%及び45質量%である接合層断面をそれぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)で観測したSEM写真図及びその模式図である。図1に示す接合層構造は、被接合材A及びBとしてそれぞれSiC半導体素子及びCu/SiN/Cu基板を用い、Zn−Al共析系合金接合材を使用し、接合層内のAl含有量が60質量%又は45質量%となるように接合を行い、さらにZn−Al共析系合金の変態超塑性応力歪緩和機能を利用することによって得られるものである。これらの接合層を得るための接合方法については、後で詳細に説明する。
本発明の接合層は、被接合材AとBとをZn−Al共析系合金によって接合し形成される接合部の接合層に含まれるAlの含有量が従来より多く含まれるだけでなく、Alの所定の含有量(具体的には22質量%以上68質量%未満の範囲)でみられる変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度を通過させることによって、図1に示すようにAl中にZnが片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかの形状で一様に分散した組織を有することを特徴とする。ここで、相変態温度とは、Zn−Al共析系合金の結晶相が変態するときの温度のことを意味する。図1に示す組織は、Zn−Al共析系合金を相変態温度の最高側の温度より高い温度で加熱し、半溶融状態(固相と液相が混合した状態)又は固相状態で形成した接合層を冷却した後、必要であれば、加熱及び冷却の工程を繰り返すことにより、前記相変態温度領を通過させるときに微結晶粒状のZnがAl中で結晶成長し、片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかの形状を有する結晶に変わる。結果的に、応力緩和機能を有するAlが小粒径(10μm〜100μm)のAl相に分割された形態で形成されるようになる。そして、接合層には、連続的なAl層の形態ではなく、小粒径のAl相がランダムに重積した形態を有する組織が形成される。その組織は、Zn−Al共析系合金の相変態に起因する変態超塑性現象を利用することによって形成されるものであり、温度サイクル時に発生する応力に対して大きな歪を確保できるという応力歪緩和効果が得られる。ここで、変態超塑性現象は必ずしも微細化組織である必要がなく、例として挙げた図1に示す組織でも発生する現象である。したがって、本発明による接合層の組織は、Alの応力緩和機構が接合層内で均等、且つ、十分に発揮されるだけでなく、変態超塑性応力歪緩和機能との相乗効果によって接合信頼性の一層の向上を図ることができる。
このようにして形成される本発明の接合層が有する組織は、断面を電子顕微鏡で(SEM)で測定したときのAlの面積比が18%を超え70%未満であることを特徴とする。この面積比は、接合層に含まれるAl含有量を質量%で規定したときの22質量%以上68質量%未満の範囲にほぼ対応するものであり、本発明の接合層に含まれるAl量を接合層断面のSEM測定によって容易に規定できる物理量である。Alの面積比は、接合層を500倍でSEM測定を行い、Al及びZnの元素分析をエネルギー分散型X線分光法(EDX)等で行ったSEM−EDX画像について、図1に示すように、Alが黒色に近い濃色として観測されるため、画像を白と黒だけの情報にして二値化処理する画像解析によって求めることができる。
前記被接合材AとBとの組合せは、例えば、半導体素子と金属フレーム、半導体素子とプリント基板、セラミック基板又は金属基板等の実装基板、及び前記実装基板と放熱板等であるが、前記被接合材AとBを個別に特定する必要はない。本発明において接合層構造として着目するのは、前記被接合材A及びBの両者がZn−Al共析系合金を介して接合して形成される接合部の接合面である。それに対して、前記被接合材A及びBのどららか一方だけが前記Zn−Al共析系合金接合材と接触する接合面は、他方の接合面が拘束されていないため発生応力が相対的に小さくなる。したがって、本発明の接合部は、前記被接合材A及びBのどちらか小さな面積を有する方の被接合材の接合面内、又はどちらとも同じ面積を有する被接合材の接合面内に存在する接合層に着目する。そして、それらの接合層に含まれるAlの含有量及びその結晶組織を規定することが本発明において重要な因子となる。
本発明で利用する変態超塑性応力歪緩和機能は、結晶粒を非常に微細化すると現れる微細結晶粒超塑性(前記特許文献3を参照)とは異なり、応力を加えながら、変態点を通過するような加熱冷却を繰り返すことによって超塑性加工を行うものである。本発明者等が詳細に検討した結果、低応力の効果を有する接合層構造は、Zn−Al共析系合金接合材においてAlが22質量%以上68質量%未満で発現する変態超塑性応力歪緩和機能を利用することによって従来以上の非常に高い応力緩和効果が得られることが分かった。このような変態超塑性応力歪緩和機能を利用することによって具体的に応力緩和機能を有する接合層を形成した従来例はほとんど見当たらず、Alの含有量の多い接合層構造の形成において特に有効な方法であることは全く認識されていなかった。
本発明の接合層を変態超塑性を利用して形成する方法を、図2に示すZn−Al共析系合金の平衡状態図を用いて説明する。図2において、斜線で示す領域を囲む高温側の相変態温度(T)及び低温側の相変態温度(T)を通過させることにより変態超塑性の効果が得られるが、例として、Zn−22%Alを用いて、前記Tより高い温度として450℃以上[ケース(I)]又は450℃未満[ケース(II)]で加熱し、それぞれ半溶融状態の接合層を形成した後、相変態温度(T及びT)を通過させた場合を説明する。また、前記Tより高い温度で加熱するものの、接合層は固相状態のままで形成した後、相変態温度(T及びT)を通過させた例をケース(III)として説明する。
図2において加熱温度を相変態温度(T)より高い450℃とした場合、この温度においてはAlは固相であるがZnは液相であるため、加圧により、液相Znは接合部の外部に押し出され、その結果、Alの組成は固相線の22質量%から増加し、30質量%をやや超える。図1においてa1→b1に相当するが、これをケース(I)とする。
ケース(I)において、alの組成が30質量%をやや超える接合層はこのまま冷却することによって、図2においてc1で示す相変態温度(T)を通過する(図においてb1→c1)。さらに、冷却が進むと、図2においてd1で示す低温側の相変態温度(T)を通過する(図においてc1→d1)。さらに、前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返し、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度を通過させる操作を行う。このように、相変態温度T及びTで加熱冷却が繰り返されるため、応力緩和機能を有する接合層が形成される。
また、図2においてb1→e1のように加熱温度を固相線(450℃)から液相線の温度まで加熱し、同時に加圧することにより、さらにZnが接合層の外部に押し出されて排出され、Alの組成が60質量%である接合層が形成される(図においてe1→f1)。その後、加圧した状態で冷却すれば、前記と同様に、c2で示す変態超塑性点(T)及びd2で示す相変態温度(T)を通過するため(図においてf1→c2→d2)、Alが60質量%の接合層が形成される。一方、Alが45質量%の接合層を得る場合は、図2においてb1から液相線の温度に到る途中の温度(e2)で加熱加圧を行うことにより(図においてb1→e2)、Alの組成が45質量%となる接合層を形成する(図においてe2→f2)。その後、加圧した状態で冷却することによって、前記と同様に、c3で示す変態超塑性点及びd3で示す相変態温度を通過するため(図においてf2→c3→d3)、そのままAlが45質量%である接合層が形成される。変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度を通過させる操作は、さらに、前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び固相状態のままで前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返す工程を加えてもよい。
本発明の接合層は、前記のケース(I)以外にも、Zn−22%Alを用いて450℃よりも低い温度を半溶融温度として使用することにより形成することが可能である。例えば、加熱温度を430℃とすれば、加圧により、液相Znは接合部の外部の押し出され、その結果、Alの組成を固相線の22質量%から増加させ、28質量%に高くすることができる。図1においてa2→b2に相当するが、これをケース(II)とする。
ケース(II)において、Alの組成が28質量%である接合層はこのまま冷却することによって、図2においてc4で示す高温側の相変態温度(T)を通過する(図においてb2→c4)。さらに、冷却が進むと、図2においてd4で示す低温側の相変態温度(T)を通過する(図においてc4→d4)。このように、変態超塑性点に相当する相変態温度T及びTを通過させる操作により、応力緩和機能を有する接合層が形成される。さらに、ケース(II)においても、前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び固相状態のままで前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返す工程を加えてもよい。
ケース(II)は、変態超塑性応力歪現象を利用した本発明の接合層を得るときの接合をケース(I)より低い温度で行うことができるため、接合工程及び接合装置に対する負荷を低減することが可能となる。SiC、GaN、C(ダイヤモンド)、Ga等のワイドギャップ半導体素子は従来のシリコン(Si)よりも耐熱性を有する半導体素子であるものの、短時間耐熱温度等を考慮すると、接合時の加熱温度は少なくとも600℃未満が好ましく、より好ましくは500℃以下であり、特に好ましくは450℃以下である。そのため、接合を450℃より低温で行いたい場合には、ケース(II)の方法に従って、Alの組成が22質量%以上30質量%未満である接合層を形成することを行う。
次に、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度で加熱するものの、接合層を固相状態で形成し、そのまま変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度を通過させた場合のケース(III)について説明する。
ケース(III)は、Zn−Al共析系合金接合材を半溶融状態まで加熱する必要がない。例えば、図2に示すように、Alの含有量が28質量%、30質量%、45質量%及び60質量%において、それぞれb2〜c4、b1〜c1、f2〜c3及びf1〜c2の各点間の何れかの温度に加熱して固相状態で接合層を形成した後、冷却しながら、c4、c1、c3及びc2で示される相変態温度(T)及びd4、d1、d3及びd2で示される相変態温度(T)を通過させる。前記ケース(I)及び(II)と同様に、さらに、前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び固相状態のままで前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返す工程を追加してもよい。
本発明の接合層は、図2から分かるように、斜線で囲む領域の高温側の相変態温度(T)より高い温度であれば、半溶融又は固相状態にかかわらず、接合時にいずれの温度を採用しても同じ効果が得られる。そして、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度としては、具体的に低温側で270℃を超え、高温側で360℃未満に設定することが好ましい。この温度範囲は、本発明で使用するZn−Al共析系合金接合においてAlが22質量%以上68質量%未満の範囲で観測される相変態点として一般的に定義される277℃〜352℃を含み、温度測定の誤差を考慮した範囲で規定されるものである。
本発明において、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度を通過させる操作は、接合層を形成した後に前記Tより高い温度から室温まで単に冷却するだけの工程でも、変態超塑性応力歪緩和現象を有する組織を接合層内に形成できる。本発明においては、冷却によってAl中に分散するZnの結晶粒を小さくした状態に保った状態で、さらに、前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返す工程を加えることが好ましい。それによって、前記Tより高い温度から単に徐冷するだけの工程よりも、変態超塑性応力歪緩和現象の発現が顕著になり、接合層に含まれるAlによる応力緩衝機能が十分に発揮され、従来と比べて高い応力緩和機構を有する接合部を得ることができる。
前記Tより高い温度で半溶融状態又は固相状態の接合層を形成した後に該接合層を冷却する工程を行うときに設定する前記Tより低い温度としては、100℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。さらに、前記接合層を冷却する工程だけでなく、前記加熱・冷却工程においても、前記Tより低い温度として30℃以下に設定することが、変態超塑性応力歪緩和現象の発現及び接合コストの低減の点から特に好ましい。
前記Tより高い温度から前記Tより低い温度への冷却効果は低温域の温度が低いほど大きくなり、接合層内に形成される結晶粒がより小さくなるため、変態超塑性応力歪緩和現象を効果的に発現できるような細かな結晶組織を形成することができる。本発明は、高温→室温の冷却工程において、前記Tより低い温度が30℃以下であれば、急冷効果が高く、低温まで冷却するための方法及び装置等が簡略化できるため実用的である。また、前記加熱・冷却工程の繰返し回数は1回に限定されず2回以上行ってもよい。前記加熱・冷却工程の繰返し回数を2回以上行うときは、何れの繰返しにおいても前記Tより低い温度を30℃以下に設定するのが実用的である。本発明においては、1回の前記加熱・冷却工程で変態超塑性応力歪緩和現象を十分に発現させることが可能であるため、接合方法の簡略化及び接合時間の短縮化の点から、前記加熱・冷却工程は1回であることが好ましい。
また、前記加熱・冷却工程において、前記Tより高い温度に再加熱するときの温度は、図2に示すb2、b1、f2及びf1をそれぞれ結ぶ線より低い温度にすることが必要である。すなわち、接合層を固相状態に維持した状態で加熱するためである。仮に、半溶融状態を示す高温域まで加熱すると、Al中に分散するZnの結晶粒組織が変化するため、好ましくない。なお、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度を通過させる操作のときに行う前記加熱・冷却工程の具体例は、後程、図3を用いて説明する。
本発明で使用するZn−Al共析系合金接合材に含まれるAlの含有量は、従来と比べて相対的に多いものであれば任意に選択することができる。具体的にはAlが9質量%を超え68質量%未満であるZn−Al共析系合金接合材を用いて、Znが接合層から押し出されて排出される加熱温度及び接合加圧時の圧力を選ぶことによって、接合後の接合層に含まれるAlの含有量を22質量%以上68質量%未満に調整すればよい。応力緩和機能を発現する程度は、形成された接合層に含まれるAlの含有量に応じて決まる。このとき、Zn−Al共析系合金接合材に含まれるAlが22質量%以上68質量%未満であれば、その組成ですでに変態超塑性応力歪緩和機能を利用した接合を行うことができるため、必ずしも接合時に使用する圧力は高くする必要がなく、より低圧で、場合によっては無圧で接合を行ってもよい。このようにして応力緩和機能を有する接合層を形成することができる。
本発明においてZn−Al共析系合金接合材に含まれるAlの含有量が9質量%以下であると、接合層に含まれるAl含有量を22質量%以上に調整するために接合時に使用する圧力を高くする必要があるため、温度制御等の工程管理が煩雑になる。それだけでなく、接合時に溶出するZn量が多くなるため半導体素子の実装面積を小さくすることに制約を受ける等の別の悪影響が生じる場合がある。加えて、接合材から接合層へ調整するときの厚さ変化が大きくなることから、接合層の厚さを設計値に合せて製造することが難しくなる。また、Zn−Al共析系合金接合材を接合材として使用する場合、前記特許文献2及び3に示唆されているように、Alが9質量%以下では微細結晶粒による超塑性現象が有効に発現しない。そのため、後述するように、超塑性現象を利用することによって、より効果的な接合方法を行うことができるという本発明の別の効果を得ることが難しくなる。一方、Zn−Al共析系合金接合材に含まれるAlの含有量が68質量%以上では、図2に示すように、変態超塑性応力歪緩和現象を利用することができない。したがって、本発明においては、Zn−Al共析系合金接合材に含まれるAlの含有量が9質量%を超え68質量%未満であることが好ましい。
本発明で使用するZn−Al共析系合金は、構成成分としてAl及びZnを含むことが必須であるが、融点を下げたり、加工性、高温強度、疲労強度(耐クリープ性)又は応力緩和性を向上させる目的で、それら以外にもCu、Mg、Ge、Sn、In、Ag、Ni、Pを微量成分として2質量%未満で添加しても良い。これらの微量成分が2質量%を超えると、Zn−Al共析系合金が脆くなり、本発明の特徴である応力緩和効果が失われる。
本発明においては、後述するように、超塑性現象を利用し、且つ、高温強度や疲労強度(耐クリープ性)を向上させる点を特に着目し、それらの効果に対して最も有効な微量成分として、前記の微量成分の中でもCu及びMgの少なくとも何れかの元素を含有することが好ましい。Cu及びMgの含有量は、共析系合金の全重量100質量部に対してそれぞれ0〜1.5質量%及び0〜0.05質量%の範囲が好ましい。Cu及びMgの含有量がそれぞれ1.5質量%及び0.05質量%を超えると、Zn−Al共析系合金が脆くなり、本発明の特徴である応力緩和効果が失われる。
前記Zn−Al共析系合金は、Cu、Mg、Ge、Sn、In、Ag、Ni、Pの微量成分、好ましくはCu及びMgの少なくとも何れかの元素を微量成分を含有する場合も含めて、所定の合金比率になるように秤量配合し、融点以上の温度で均一に溶解した後、所望の形状を有する鋳型に流し込んだ母合金(インゴット)から得られる。インゴットの製造方法としては、例えば、99.9質量%以上のZnとAl、場合によっては微量添加成分として例えば99.9質量%以上のCu、Mgを準備し、それらを組成のバラツキがなく、できるだけ均一に混合できるように切断及び粉砕等により細かにしたものを、所定の合金比率になるように秤量し黒鉛製るつぼに入れる。次いで、黒鉛製るつぼに入った各合金成分の混合物を高周波溶解炉等の溶解炉に入れ、酸化を防止するために窒素、アルゴン等の不活性気体を流しながら加熱溶解させ、溶融状態で均一に混合する。十分に溶解したことを確認した後、高周波電源を切り、溶湯を溶解炉から取り出して鋳型に流しこんで、Zn−Al共析系合金のインゴットを製造することができる。必要に応じて、表面傷を除去するために、インゴットの表面部分をスライス盤などで面削しても良い。また、前記微量添加成分として、例えばCu又はMgを高純度のAl及びZnと混合させるときに、Cu又はMgの代わりに、Al−Cu又はAl−Mgの母合金の形で、所定の合金比率になるように秤量配合してから溶解する方法を使用しても良い。
本発明のZn−Al共析系合金は、溶解によって各合金組成の結晶が均一に近い状態で分布した組織を有するインゴットを接合材として適用しているため、前記特許文献4に開示されているZn/Al/Znクラッド材とは異なり、Al系合金だけからなる層又は大きな塊がZn−Al合金層と分離して形成されることを抑制することができる。したがって、Al系合金層とZn−Al合金層との間で形成される広範囲な界面の存在によって亀裂(クラック)が進展しやすくなるというZn/Al/Znクラッド材が有する技術課題を解決することが可能になる。なお、均一溶解によってクラック進展を抑制するという効果は、Zn−Al共析系合金に含まれるAlの含有比率が高くなるにつれて徐々に小さくなる傾向にあるが、Alの含有比率が68質量%未満である本発明の接合層構造においては、クラック進展の抑制に対してある程度の効果が得られることが分かった。
また、本発明の接合層は、前記特許文献5に開示されている複数のAl系相の粒が浮島状に整列した接合層と異なり、小粒径のAl相がランダムに重積した形態を有する組織を有する。さらに、変態超塑性応力歪緩和機能を利用する接合が行われるため、応力緩和性及びクラック進展の抑制に対して従来技術よりも優れた効果を得ることができる。
以上のように、本発明の接合層構造は、Alが22質量%を超え68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなり、好ましくは22質量%以上68質量未満のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Znからなる組成である。また、半溶融状態で接合を行うときに、接合温度を450℃未満のより低温で行いたい場合には、22質量%以上30質量%以下のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Znからなる組成となるように接合層の形成を行う。
次に、本発明の接合方法について説明する。本発明の接合方法は、前記で説明したような被接合材AとBとを用いて、両者の間に、Alが9質量%を超え68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の前記微量金属を有するZn−Al共析系合金接合材を介在させ、無圧で又は加圧しながら前記接合材を変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度に加熱した状態で所望の時間保持する操作を1回又は2回以上繰り返し、前記被接合材AとBとの間に、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなる半溶融状態又は固相状態の接合層を形成する。このようにして、Alが22質量%以上68%質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の前記微量金属を有する接合層を形成した後に、前記で説明した方法に従って変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度を通過させる操作を行うことが基本的な工程である。この工程において、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する温度領域とは、前記で説明したように、低温側が270℃を超え、高温側が360℃未満である。
本発明の接合層構造を無圧で形成するときは、前記被接合材AとBとの間に、Alが22質量%を超え68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の前記微量金属を有するZn−Al共析系合金接合材を介在させ、そのままの状態で前記接合材を変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度に加熱した状態で所望の時間保持する操作を1回又は2回以上繰り返す。このとき、比較的融点の低いラメラ構造のZnは溶解しながら、非接合材A及びBのどちらかの自重により被接合材との接合面から外部へ押し出される。半溶融温度領域に加熱したZn−Al共析系合金接合材にかかる圧力は非常に低いため、結果的にZn−Al共析系合金接合材の変形が小さく、接合層の厚さの変化も接合前後で小さくなる。
一方、本発明の接合層構造を加圧で形成するときは、Alの含有量が9質量%と低いZn−Al共析系合金接合材を使用することができる。すなわち、Alが9質量%を超え68質量%未満(好ましくは60質量%未満)で、残部がZn及び2質量%未満の前記微量金属を有するZn−Al共析系合金接合材を用いて、前記で説明したような被接合材A及びBを用いて、両者の間に介在させたZn−Al共析系合金接合材を変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度高温側の温度(T)より高い温度に加熱した状態で所望の時間保持する操作を行うときに、同時に加圧を行う。この工程において、Alの含有量が22質量%未満の場合は、加熱を半溶融状態となる高温まで行う。半溶融温度領域に加熱する場合は、Zn−Al共析系合金接合材を加圧することによって変形し、比較的融点の低いラメラ構造のZnが溶解しながら被接合材との接合面から外部へ押し出され、他方、その半溶融温度領域では溶解しないAlは前記接合面の内側に留まる傾向にある。Zn−Al共晶は融点がやや低いため、一部が前記接合面の外部へ押し出される場合もあるが、Al(α相)との相互作用により前記接合面の内部に留まるものが存在する。ここで、半溶融温度領域に加熱した状態で所望の時間保持する操作は1回だけに限定されず、必要に応じて2回以上繰り返しても良い。このようにして、接合層に含まれるAlの含有量を22質量%以上68質量%未満に調整する。
加圧しながら半溶融温度領域で一定時間保持して形成した後の接合層の厚さは、接合層に含まれるAlの含有量に応じて調整を行うが、最初の接合材の厚さに対して4/5〜2/5の範囲に加圧変形させることが実用的である。接合後に形成される接合層の具体的な厚さは、ボイドレス接合、接合信頼性及び熱伝導性の観点から20μm〜300μmが実用的である。この接合層の厚さは、前記の無圧の状態で接合層を形成する場合でも同じ範囲にすることが好ましい。接合後の整合層の厚さが20μ未満ではボイドレス接合が困難であるだけでなく、接合信頼性の低下が顕著になる。また、接合層の厚さが300μmを超えると、熱伝導性を向上させるという効果が十分に得られない。本発明の接合層構造は、Al含有量が比較的多く、接合面の垂直方向において熱伝導性がZnより優れるAlの含有比率が高くなっているため、従来技術のZn−Al共析系合金と比べて高い熱伝導性を有することも大きな特徴となっている。この特徴を十分に活かせる接合層の厚さは200μm以下、好ましくは150μm以下である。
一方、接合層を固相状態で形成するときは、接合材の押出しがほとんどないため、Al含有量を22質量%以上68質量%未満に設定した接合材を使用するが、接合時の加圧によって接合材と被接合材との密着性が向上し、接合材と被接合材との界面で金属元素の相互拡散が生まれ、接合強度の向上という効果を期待できる。このときの接合層の厚さも、20〜300μmが実用的であり、好ましくは20〜150μmである。
さらに、本発明の接合方法は、変態超塑性応力歪緩和機能に加えて、超塑性現象を利用した工程を含むことが好ましい。すなわち、接合時に接合材を変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度で加熱し、半溶融状態又は固相状態で無圧又は加圧しながら維持する工程の前に、超塑性流動を利用する工程を採用する。それによって、被接合材との接合界面の酸化膜層の破壊除去等による清浄化を行い、ボイドの発生が少ない接合界面を形成することができる。
Alが9質量%を超え68質量%以下で、残部がZn及び2質量%未満の前記微量金属成分を有するZn−Al共析系合金接合材は、Alの含有量が従来よりも比較的多く、280〜410℃(α’領域)又は200〜275℃(α+β領域)の温度領域で1〜30分加熱し、接合材に微細結晶粒の形成による超塑性現象を発現させることによって優れた加工性を有することが知られている(例えば、前記特許文献3を参照)。しかしながら、この超塑性現象が接合界面の清浄化及び高密着化によるボイドレス接合に対して効果があることは従来の接合技術においてほとんど認識されておらず、本発明の接合層構造を形成する上で鍵となる技術である。したがって、本発明の接合層構造を変態超塑性の利用によって形成する方法は、前記200〜410℃の温度で発現する超塑性現象と組み合わせることによって低応力機能を一層高めた接合層を形成することができる。特に、接合材を固相状態のままで接合層を形成する場合は、前記超塑性現象を利用することによって接合材と被接合材との密着性をより高めることができるため、前記変態超塑性応力歪緩和機構と組合わせることによって、接合強度及び接合信頼性の一層の向上を図ることが可能になるため、本発明では好適である。
本発明の接合層構造を変態超塑性の利用によって形成する方法は、例えば、図3に示すような方法で超塑性現象と組み合わせることができる。図3は、200〜275℃の温度領域の加熱で発現する超塑性現象及び変態超塑性の両者の機能を利用したときの接合法の工程模式図であり、主に接合層形成工程及び加熱・冷却工程から構成される。加熱・冷却工程は変態超塑性の機能を発現させるために1回又は2回以上行うものであり、図3には例として2回までの加熱・冷却工程を示している。図3の上部に示すように、固相状態のZn−Al共析系合金接合材1を半導体素子2(被接合材Aに相当するもの)のメタライズした部分3の面とCu基板/Ni/Cuめっき膜の構成を有する基板4(被接合材Bに相当するもの)のCuめっき膜5が形成された面との間に介し、上下両面から加圧しながら200〜275℃で加熱することによって超塑性現象が発現し、前記接合材の変形が容易となる。接合材1は非接合材の接合面に強く押し付けられスクラブされる状態が発生するため、被接合材との接合界面に存在する酸化膜層の破壊除去等による清浄化を行うことができる。加えて、超塑性現象による加工性の付与により、固相状態のZn−Al共析系合金接合材は被加工材によって押しつけられるため、清浄面同士の密着性が十分に向上し、ボイドの発生が少ない接合界面を形成することができる。
引き続き加圧を保持しながら、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度域、具体的には360〜600℃まで温度を上げて加熱した状態で所定の時間保持することによって、接合材の半溶融又は接合材と被接合材との密着性だけでなく、被接合材と接合材の間で相互拡散が促進される。Zn−Al共析系合金接合材は、被接合材との相互拡散の促進が通常350℃付近の温度から起こるため、前記Tより高い温度域(360℃以上)では相互拡散層6の形成によって強固な接合界面を形成することができる。本発明において半溶融状態を示す温度域で接合を行う場合は、半溶融温度域としてZn−Al合金の共晶温度より高い380℃を超え、600℃未満の範囲で接合工程が行われるが、半溶融状態を十分に維持するには410℃を超える温度が実用的である。また、固相状態で接合する場合は、図2に示すように、接合材のAl含有量に応じて、360℃以上600℃未満の範囲である。以上のようにして、図3の接合層形成工程を経て、本発明の接合層が形成される。
さらに、図3の下部に示すように、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度(TH0)で半溶融状態又は固相状態の接合層を形成し、該接合層を前記変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度の低温側の温度(T)より低い温度(TL1)まで冷却した後、前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度(TH1)に加熱する工程、前記TH1から前記Tより低い温度(TL2)に冷却する工程からなる加熱・冷却工程(1)により、前記変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度を通過させる操作を行う。さらに、加熱・冷却工程を追加する場合は、前記TL2の温度からTより高い温度(TH2)に加熱する工程、及び前記TH2から前記Tより低い温度(TL3)に冷却する工程からなる加熱・冷却工程(2)の操作を行う。必要に応じて、3回目以降の加熱・冷却工程を追加してもよいが、本発明においては、加熱・冷却工程(1)だけで変態超塑性応力歪緩和機能が十分に得られるため、接合コストの低減のために1回の加熱・冷却工程を行うのが好ましい。
本発明においては、前記で述べたように、図3に示すTL1が100℃以下、好ましくは30℃以下である。さらに、図3に示すTL2及びTL3が100℃以下、好ましくは30℃以下であれば、変態超塑性応力歪緩和機能の発現効果が高くなる。図3においてTL1、L2及びTL3は、必ずしも同じ温度である必要はなく、100℃以下、好ましくは30℃以下の何れかの温度を設定することができる。また、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する温度領域の最高温度(T)より高い温度として設定するTH1、H2及びTH3も、同じ温度である必要はないが、半溶融による結晶組織の変化を抑えるため、接合層が固相状態を維持できる温度に設定する。
本発明の接合層構造を加圧で形成するときに使用する圧力は50MPa以下が好ましく、30Mpa以下がより好ましい。圧力が50MPaを超えると、接合材の半溶融温度における加圧によって接合層が薄くなりすぎるため、接合信頼性の向上を図ることが困難になる。加圧するときの圧力を50MPa以下、より好ましくは30MPa以下に設定することによって、超塑性現象及び変態超塑性の両者の機能を利用した接合層構造を形成することが容易になる。
加圧による接合層形成方法は超塑性現象を利用することによって接合界面の清浄化と密着性向上を図ることができるため、半溶融状態を示す温度域に昇温し、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなる接合層を形成した後、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する相変態温度T及びTを通過させる操作を行うことによってより一層の応力緩和効果を得ることができる。
一方、加圧しない状態で接合層を形成する方法は、前記で述べたように、前記加圧による接合層形成方法と比べてAl含有量が多いZn−Al共析系合金接合材、具体的には22質量%を超え68質量%未満のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Zn系からなるZn−Al共析系合金を接合材として適用するときに利用する接合方法である。この方法は、超塑性現象を発現する200〜410℃の温度域において外部から加圧を行わないため、前記加圧による接合層形成方法と比べて接合界面の清浄化と密着性向上の効果が小さくなる。しかしながら、被接合材A又はBの自重により、結果的に接合面を低圧で加圧することになるため、接合材を超塑性現象を示す温度域で一定時間保持すれば、接合界面の清浄化と密着性の向上を図ることが可能となる。加えて、Al含有量の多いZn−Al共析系合金接合材は、Alの熱伝導性がZnに比べて約2倍あり、熱伝導性に優れるという特徴を有するため、無圧に近い状態でも短時間で接合材全体を半溶融温度領域に加熱することができる。それによって、相対的に融点が低いZn及びZn−Al共晶の溶融が促進され、接合材の濡れ性を十分に確保できるという効果が得られる。さらに、加圧しない状態で行う接合層形成方法は、前記加圧による接合層形成方法と比べて無圧又は低圧で接合を行うことから、接合装置の簡略化を図る上で好適な接合方法である。
本発明の接合層構造は、耐熱性、接続信頼性及び熱伝導性の要求が強いパワー半導体素子のダイボンディングやパワモジュールに搭載される半導体素子の実装基板への接合及び実装基板への放熱板の接合において形成される接合層として適用することができる。例えば、図4に示すように、Cu/SiN/Cu構造の金属フレーム上に、接合材としてZn−Al共析系合金を介して、Al配線/SiC/メタライズの構造を有するSiC半導体素子を上記の第1又は第2の形成方法によってダイボンディングして形成される本発明の接合層構造を有するSiC高温パワー半導体等が挙げられる。
それら以外にも、通常の半導体装置のダイボンディング用の接続材料、気密封止を必要とする半導体装置の金属キャップとモジュール基板との接続材料、又はフリップチップを必要とする半導体装置のバンプとして適用したときに形成される接続層としても適用が可能である。例えば、通常の半導体装置としては、半導体素子と該半導体素子を接続するフレームと、一端が外部端子となるリードと、該リードの半導体素子の電極とを接続するワイヤと、前記半導体素子及び前記ワイヤを樹脂封止する封止用レジンとを有し、前記半導体素子と前記フレームがZn−Al共析系合金接合材を介して上記の第1又は第2の形成方法によって接合して形成される本発明の接合層構造を構成するものである。
以下において、本発明に基づく実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。ここでは、本発明の接合層構造を有するパワーデバイスとして、SiC高温パワー半導体を搭載した金属フレーム、ダイオード、IGBTモジュール及び電力用MOSトランジスタの例を説明する。
<実施例1>
本実施例において、SiC半導体素子とCu/SiN/Cu絶縁基板とを、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金の接合材(厚さ200μmおよび300μm)を介して接合して得られる実半導体装置の接合部微細構造及び接合信頼性を評価した。本実施例の実半導体装置は図4に示す構成と構造を有し、SiC半導体素子のサイズは4.7mm×4.7mmである。本実施例によるSiC半導体装置の接合プロセスを図5に示す。また、図5に示す接合プロセスに従って行った接合方法の模式図を図6に示す。
図5に示すように、接合プロセスは、窒素ガス雰囲気中(本実施例においては非酸化性雰囲気であれば良く、窒素の他にも、アルゴン、ヘリウムあるいは水素を含む非酸化性混合ガスを使用することができる。)、18MPaで加圧しながら250℃約20分間保持した後、加圧した状態で450℃まで昇温し、その温度で約20分間保持してから徐冷を行う。250℃の加熱は、Zn−Al共析系合金の超塑性現象を利用することによって接合面の表面清浄化および密着化を促進させるために採用したプロセスである。450℃で接合後、図2に示すf2の点から冷却を行い、c3(約350℃)及びd3(277℃)の各変態超塑性点を通過させることによって、本実施例による接合層構造を得た。f2からの冷却は、変態超塑性応力歪緩和現象を発現する効果が生まれる結晶組織を形成するだけの時間を確保するため、徐冷で行った。徐冷は室温まで行い、その後の加熱・冷却工程は繰り返さなかった。
図6に示すように、Zn−Al共析系合金系接合材はZn及びZn−Al合金等が接合面から押し出され、厚さが初期の200μmの場合は約140μmと薄くなる。その結果、接合層に含まれるAl含有量が42質量%(63原子%)となった。Al含有量は接合層のAl(α相)の結晶組織の緻密さとして定義されるデンドライドアームスペーシング(DAS)と相関関係があり、あらかじめ図7に示すような関係曲線が得られているため、AlのDAS測定結果から求めることができる。本実施例の接合層はDASの測定結果が0.16μmであったため、図7に示す曲線から求めたAl含有量は42質量%(63原子%)となる。
デンドライドアームスペーシング(DAS)の値は、軽金属協会指定の二次技法により測定した値である。測定方法は、前記被接合材A及びBの両者がZn−Al共析系合金を介して接合して形成される接合面を、接合面に対して垂直方向に切り出し、接合面全体を樹脂に埋め込んだ後、観察可能な状態までエメリー紙及びバフ研磨によって鏡面仕上げを行い、エッチングの後、200〜400倍程度の光学顕微鏡を用いて組織観察を行う。顕微鏡組織観察して、α−Al晶[Al(α相)]の樹枝状晶(デンドライド)の実質的に平行に成長している2次アームの複数本(n本とする、ただしnは5本以上)を視野に選び、それらのデンドライドアームとほぼ直交するように直線Pを引き、n本のデンドライドアームが直線Pを横切る距離Liを、それらのデンドライドアームの本数nより1本少ない数、すなわち(n−1)で除し、これをDASとする。つまり二次デンドライドアームスペーシング(DAS)=Li/(n−1)とする。この測定を数視野繰り返した後、平均値をDASとして求める。
図8に接合後の外観写真を示す。図8から分かるように、接合後はAl−ZnハンダがSiC半導体素子から押し出されて、周辺に溶出していることが分かる。溶出したAl−ZnハンダのZn含有量は、初期のAl−Zn接合材よりも多く含まれていた。図8に示す半導体装置の接合層断面を電子顕微鏡によって測定したSEM画像を、Al元素分析(SEM−EDX)によって画像解析して求めたAlの面積比は60%であった。
このようにして接合が行われたSiC半導体装置を用いて温度サイクル試験を行い、試験後の接合部を垂直方向に切断し研磨した後の断面をほぼ中央部で観察した断面写真を図9に示す。図9に示す結果は、−40⇔200℃の条件で500サイクルの後、さらに50⇔300℃の条件で1000サイクルを追加して温度サイクル試験を行った後のものである。図9において、(a)及び(b)は、それぞれ拡大率を変えて示した断面写真である。
図9に示すように、本実施例の接合層はボイドレスであり、−40⇔200℃×500サイクル+50⇔300℃×1000サイクルの非常に厳しい条件で行った温度サイクル試験後でもSiC/Al−Znハンダ接合材及びAl−Znハンダ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されず、変態超塑性を利用したより高い応力緩和機能の発現によって非常に優れた接続信頼性を有することが確認された。また、接合面の濡れ性についても十分に確保されていることが分かる。また、初期の厚さが300μmのAl−Znハンダを用いて接合を行った場合でも、前記200μmの場合と同様に優れた接続信頼性の結果が得られた。
<実施例2>
前記実施例1の温度サイクル評価試験において使用したものと同じSiC半導体素子とCu/SiN/Cu絶縁基板を用い、接合材として、22質量%Al−78質量%Zn系を両者の被接合材の間に介在させて接合を行った。本実施例の接合プロセスは、、窒素ガス雰囲気中、18MPaで加圧しながら室温から450℃まで昇温し、その温度で5〜10分間保持し接合を行った後、図2に示すf2の点から冷却を行い、c3(約350℃)及びd3(277℃)の各相変態温度を通過させることによって、本実施例による接合層構造を得た。本実施例の接合プロセスは、250℃約20分間保持する工程を省略しており、超組成現象を利用しない点で前記実施例1で採用した図5に示す接合プロセスとは異なる。22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合材は450℃の半溶融状態の加熱工程後に、厚さが初期の200μmから約140μmと薄くなった。
このようにして形成された接合層はボイドレスであり、Al(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)の測定結果に基づいて、図7に示す関係曲線から求めたAl含有量が、前記実施例1の場合と同じように42質量%であった。また、接合後に得られた半導体装置の接合層断面を電子顕微鏡によって測定したSEM画像を、Al元素分析(SEM−EDX)によって画像解析して求めたAlの面積比は60%である。接合後の実半導体装置の温度サイクル試験を−40℃⇔200℃×500サイクル+50℃⇔300℃×1000サイクルの非常に厳しい条件で行い、500サイクル、800サイクル及び1000サイクルの各サイクル終了後の接合部について断面観察して接合信頼性を評価した。その結果、800サイクル後は、SiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されなかったものの、1000サイクル後においてSiC/はんだ接合材の接合界面に両端縁から進展した微小な亀裂の存在が観測された。
本実施例による接合層において温度サイクルで評価した半導体装置の接続信頼性が前記実施例1による接合層と比べてやや低下した理由を次の実施例3で説明する。
<実施例3>
本発明の接合層構造によって得られる接合部のせん断強度について基礎的な実験を行った。接合材として溶解鋳造して得られた22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金を用い、図3に示す接合層形成工程に従って接合部せん断強度測定用の試料を作製した。この実験では、図4に示す半導体素子2を使用する代わりにCu基板/Ni/Cuめっき膜からなる被接合材4を2枚使用した。厚さ60μmのZn−Al共析系合金接合材を前記Cu基板/Ni/Cuめっき膜からなる2枚の被接合材の間に介して、窒素ガス雰囲気中で加圧しながら250℃10分間保持した後、その状態で半溶融状態を示す温度である390℃まで昇温し、同じ390℃の温度で5分間保持してから室温まで徐冷した。加圧は、5MPa、10MPa及び24MPaの3条件でそれぞれ条件を変えて行った。
Zn−Al共析系合金接合材は、加圧しながら390℃で5分間保持することによって400℃以下の融点を有するZn−Al合金等が接合面から押し出されて変形し、加圧条件5MPa、10MPa及び24MPaにおいて厚さが60μmから、それぞれ55μm、54μm及び52μmと薄くなった。接合後の接合層についてAl(α相)のデンドライドアームスペーシング(DAS)を測定した結果、加圧条件5MPa、10MPa及び24MPaにおいて、DASの値はそれぞれ0.22μm、0.21μm及び0.20μmであった。これらDASの値から図7に示す曲線を用いて接合層に含まれるAl含有量を求めると、Al含有量は30〜34質量%となる。
本実施例においては、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金を用いて、超塑性現象が起きない条件でも同様の接合実験を行った。すなわち、前記Cu基板/Ni/Cuめっき膜からなる2枚の被接合材の間に介した前記Zn−Al共析系合金を、24MPaで加圧しながら室温から250℃10分間の加熱工程を経由しないで、そのまま390℃まで昇温し、390℃の温度で5分間保持した後、室温まで徐冷した。接合後の接合層に含まれるAlのDAS測定値は0.21μmであった。
<参考例1>
参考として、本実施例のZn−Al共析系合金接合材の代わりに、従来の高温鉛はんだ(Pb−Sn−Ag)を用いて従来の接合方法にしたがって接合層を形成した。
このようにして得られた実施例3及び参考例1の接合部について測定したせん断強度の加熱温度依存性の結果を図10に示す。図中のせん断強度は、測定個数n=4としたときの平均値である。図10に示すように、本発明のZn−Al共析系合金接合材は、従来の高温鉛はんだと比べて接合強度が非常に高い接合層を形成することができ、250℃以上の高温においても大きなせん断強度を有し、優れた高温接合強度を有することが分かった。一方、本発明のZn−Al共析系合金接合材による接合層であっても超塑性現象を利用しない場合は、せん断強度が従来の高温鉛はんだ(参考例1)と比べてやや向上するものの、その効果は小さい。このように、従来のZn−Al合金と比べて相対的にAl含有量が多い本発明のZn−Al共析系合金を接合材として使用する場合は、接合面の表面洗浄化及び密着化の効果を得るために、超塑性現象を利用することが好ましいことが分かった。
図10に示すように、本実施例においては、加圧条件を5MPa、10MPa及び24MPaと変えてもせん断強度の変化が小さく、接合時に印加する圧力は接合強度に対して顕著な影響を与えない。このように、接合層の接続強度に影響を与える因子は、接合プロセスで使用する圧力よりも、超塑性現象の利用の有無の方が重要であると考えられる。したがって、本発明の接合層構造を有する半導体装置の接続信頼性をさらに向上させるためには、210〜410℃で発現する超塑性現象を利用することが有効である。
<実施例4>
22質量%Al−Zn共析系合金接合材(厚さ150μm)を用い、半導体装置として前記実施例1と同じ構成を有するSiC半導体素子とCuの回路を形成したSiN基板とを用いて、図3に示す接合プロセスに従って行った。まず250℃に加熱して前記接合材に超塑性現象を発現させ、接合界面の清浄化を行った後、前記接合材の半溶融領域の430℃に加熱して接合し、30℃以下の室温まで急冷を行った。さらに、加熱・冷却工程を1回だけ行い、それ以上は繰り返さなかった。加熱・冷却工程(1)として採用したTL1→TH1→TL2の条件は、室温→370℃→室温である。加圧力は10MPaとし、加圧は加熱・冷却工程(1)の工程が終了するまで行い、 そのときの雰囲気はアルゴン+3%水素とした。
接合した後に形成された接合層は、Al含有量がDASの測定結果から28質量%であった。また、接合後に得られた半導体装置の接合層断面を電子顕微鏡によって測定したSEM画像を、Al元素分析(SEM−EDX)によって画像解析して求めたAlの面積比は45%であった。
このようにして接合を行ったSiC/Al−Zn/SiNモジュールの信頼性試験を以下の条件下で行った。−40℃〜200℃で500回、その後50℃〜300℃で1000回の条件で温度サイクル試験を行い、断面構造を光学顕微鏡およびSEMで観察した。その結果、接合部にはハンダおよびSiCのいずれにもクラックは発生せず、モジュールは高い信頼性を示すことが判明した。
本実施例の接合層は、半溶融状態を示す温度が430℃と前記実施例1の場合の450℃よりも低い温度で接合することによって形成できるとともに、半導体装置の接続信頼性を大幅に向上することができる。したがって、半溶融状態で接合温度を450℃より低温で行いたい場合には、Alの組成が22質量%以上30質量%未満である接合層の形成を行うことができる。
また、前記加熱・冷却工程(1)を行わないで、430℃から30℃以下の室温に徐冷して作製したSiC/Al−Zn/SiNモジュール(Ref)を作製し、本実施例4で作製したSiC/Al−Zn/SiNモジュールと接合信頼性を対比すると、−40℃〜200℃で500回+50℃〜300℃で1000回の条件による温度サイクル試験では両者とも優れた信頼性を有するが、例えば、−40℃〜200℃で500回+50℃〜300℃で2000回のより厳しい条件では、前記モジュール(Ref)においてSiC/はんだ接合材の接合界面に両端縁から進展した微小な亀裂の存在が観測されたのに対し、本実施例4のモジュールは接合界面にクラックの発生が全く観測されなかった。本実施例4のモジュールは、430℃で接合層を形成し、急冷後に加熱・冷却工程を1回加えており、この加熱・冷却工程を採用することによって接合信頼性の大幅な向上が図れたものと考えられる。
<実施例5>
45質量%Al−Zn共析系合金接合材(厚さ140μm)を用い、半導体装置として前記実施例1と同じ構成を有するSiC半導体素子とCuの回路を形成したSiN基板とを用いて、図3に示す接合プロセスに従って無圧の状態で接合を行った。まず250℃に加熱して前記接合材に超塑性現象を発現させ、接合界面の清浄化を行った後、図2においてf2〜c3の間の温度である420℃に加熱し、その温度で約20分間保持して固相状態で前記接合材の接合を行い、次いで30℃以下の室温まで急冷を行った。さらに、加熱・冷却工程を1回だけ行い、それ以上は繰り返さなかった。加熱・冷却工程(1)として採用したTL1→TH1→TL2の条件は、室温→380℃→室温である。加圧力は20MPaとし、加圧は加熱・冷却工程(1)の工程が終了するまで行い、 そのときの雰囲気はアルゴン+3%水素とした。
接合した後に形成された接合層は、接合面から押し出された接合材の量がわずかであり、Al含有量が45〜46質量%であることをDASの測定結果から確認した。また、接合後に得られた半導体装置の接合層断面を電子顕微鏡によって測定したSEM画像を、Al元素分析(SEM−EDX)によって画像解析して求めたAlの面積比は65%であった。
このようにして接合を行ったSiC/Al−Zn/SiNモジュールの信頼性試験を以下の条件下で行った。−40℃〜200℃で500回、その後50℃〜300℃で1000回の条件で温度サイクル試験を行い、断面構造を光学顕微鏡およびSEMで観察した。その結果、接合部にはハンダおよびSiCのいずれにもクラックは発生せず、モジュールは高い信頼性を示すことが判明した。
<参考例2>
本発明の接合層構造は、変態超塑性応力歪緩和機能を利用することが大きな特徴であるが、その効果を明確にするため、前記実施例1と同じZn−Al共析系合金接合材を用いて、変態超塑性応力歪緩和機能を利用しないで接合を行ったときの半導体装置の接続信頼性を評価した。
前記実施例1と同じように、SiC半導体素子(サイズ:4.7mm×4.7mm)とCu/SiN/Cu絶縁基板とを、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金の接合材(厚さ200μm)を介して接合した。本参考例によるSiC半導体装置の接合プロセスは、窒素ガス雰囲気中、18MPaで加圧しながら250℃約20分間保持した後、加圧した状態で450℃まで昇温し、その温度で約20分間保持し均一相とした後に急冷し、一気に室温まで温度を下げることによって(α+α’の二相分離を生じさせるようにした。本参考例の接合プロセスは、450℃の加熱から室温まで急冷させることにより、実質的にc3(約350℃)及びd3(277℃)の各相変態温度を通過させる工程が省略されたことと同じであり、変態超塑性応力歪緩和機能を利用しないという点で、図5に示す実施例1の接合プロセスとは異なる。
形成された接合層は、Zn−Al共析系合金系接合材の厚さが初期の200μmから約140μmと薄くなり、接合層に含まれるAl含有量をDASの測定結果から求めると、前記実施例1と同じように42質量%(63原子%)となった。また、接合後に得られた半導体装置の接合層断面を電子顕微鏡によって測定したSEM画像を、Al元素分析(SEM−EDX)によって画像解析して求めたAlの面積比は60%であった。
このようにして接合が行われたSiC半導体装置を用いて、−40⇔200℃の条件で500サイクルの後、さらに50⇔300℃の条件で500サイクル、800サイクル、1000サイクルの温度サイクル試験を行い、試験後の接合部を垂直方向に切断し研磨した後の断面をほぼ中央部で観察した。その結果、温度サイクル試験後の接合層はボイドレスであり、500サイクル後は、SiC/はんだ接合材及びはんだ接合材/Cu界面の両界面には亀裂が観測されなかったものの、800サイクル後においてSiC/はんだ接合材の接合界面に両端縁から進展した微小な亀裂の存在が観測された。さらに、1000サイクル後では大きな亀裂に進展することが分かった。
なお、本参考例による接合層は、従来の高温鉛はんだやPb−Sn−Agはんだを用いて従来の接合方法に従って形成する接合層構造と比べて、優れた接続信頼性を有することは確認されているが、上記で説明したように前記実施例1〜5の接合層と比べると接続信頼性の低下がみられる。このように、本発明の接合層は、変態超塑性応力歪緩和機能を利用することによって、高い応力緩和効果が十分に得られ、接合信頼性の一層の向上を図ることができたものと容易に理解できる。
<実施例6>
図11は本発明のZn−Al共析系合金接合材を使用したダイオードを示す。図において、7は底部が閉鎖され上端が開放された例えば銅製の円筒状ヒートシンク、8はダイオード機能を備えたシリコンチップ、9は銅−インバー(鉄ニッケル合金)−銅からなる緩衝板、10は円板部10aと円板部から垂直に伸びるリード10bとからなるリード電極で、円筒状ヒートシンク7の底部上にZn−Al共析系合金接合材11を介して緩衝板9が、その上にZn−Al系合金接合材12を介してシリコンチップ8が、その上にZn−Al共析系合金接合材13を介してリード電極4の円板部4aが、それぞれ接合されている。シリコンチップ8、緩衝板9及び円板部10aのZn−Al共析系合金接合材と接する面にはNi−Pめっき膜を形成している。Zn−Al共析系合金接合材11、12,13としては、22質量%Al−78質量%Zn系からなる合金を用い、前記実施例1又は4に示す接合プロセスに従って、円筒状ヒートシンク1と、緩衝板9と、シリコンチップ8と、リード電極10の円板部10aとの接合を行う。また、図11に示す14は円筒状ヒートシンク1内に充填したシリコンゴムである。かかる構成のダイオードは所定数の貫通孔を有する冷却フィンの貫通孔に圧入されて自動車用整流装置に使用される。この種整流装置はエンジンルームに配置され、熱的及び機械的に過酷な環境で使用されることから、高温でかつ機械的強度の高い接合材が要求されている。本発明のZn−Al共析系合金接合材による接合層構造を有することにより、250℃以上の高温に耐え、延性と強度を有する接合部を実現できる。この実施例ではシリコンチップを使用した場合を説明したが、シリコンチップの代わりに炭化珪素(SiC)チップを使用することが出来る。炭化珪素チップは500℃でも安定した特性を保持できることから、接合材が固液共有状態に相変態する温度近くまで使用可能な高温ダイオードを実現できる。
<実施例7>
図12、図13及び図14は本発明Zn−Al共析系合金接合材を用いた300A級IGBTモジュールの平面図及び断面図を示したものである。
図12は本発明の一実施例であり、1個の300A級モジュール単位の平面図を示したものである。また、図13は図12のA−Aに沿う断面図、図14は図12のB−B線に沿う断面図である。図において、101は放熱板及び支持板として機能する金属基板、102は金属基板101上に2枚並べて、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層103を介して、前記実施例1又は4に示す接合プロセスに従って接合固着された例えばAlNからなるセラミックス基板、104は各セラミックス基板102上に形成した例えばNi/Cuからなる回路層で、回路層104は分離された異なる形状を有する3個の部分、即ち、T字型のコレクタ共通電極となる第1の部分104a、エミッタ電極となる片状の第2の部分104b、ゲート電極となる片状の第3の部分104cからなり、第1の部分104aが中央部に、第1の部分104aの脚部一側に第2の部分104bが、他方側に第3の部分104cが配置されている。第2の部分104b及び第3の部分104cはNi層上にAl層105が形成されている。106はそのアノード側が回路層104の第1の部分104aの脚部上に3個並べて、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層107を介して、前記実施例1又は4に示す接合プロセスに従って接合されたIGBTチップ、108はそのカソード側が第1の部分104aの上辺部上に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層109を介して、前記実施例1又は4に示す接合プロセスに従って接合されたダイオードチップ、110はIGBTチップ106のエミッタ層上に形成したAlを主成分とする金属層111と第2の部分104b上のAl層105とを超音波ボンディングによって接続した直径500μmAl−0.1〜1質量%X(Cu、Fe、Mn、Mg、Co、Li、Pd、Ag、Hfから選ばれた少なくとも一種類の金属)ボンディングワイヤ、112はIGBTチップ105のゲート層上に形成したAlを主成分とする金属層113と第3の部分104c上のAl層105とを超音波ボンディングによって接続した直径500μmAl−0.1〜1質量%X(同上)ボンディングワイヤ、114はダイオードチップ108のアノード層上に形成したAlを主成分とする金属層115と第2の部分104b上のAl層105とを超音波ボンディングによって接続したAl−0.1〜1質量%X(同上)ボンディングワイヤである。これによって、1枚のセラミックス基板102上に3個の並列接続されたIGBTチップ106と1個のダイオードチップ108とが逆並列接続された回路要素が形成され、1枚の金属基板101上に2個の回路要素が形成される。インバータを構成する場合には、1枚の金属基板101上の2個の回路要素を直列接続し、これを3個並列接続して、各回路要素の接続点を交流出力端子に、並列接続点を直流入力端子にすればよい。電流容量を増やすときはIGBTチップ106及びダイオードチップ108の並列接続数を増やし、高電圧化するときはIGBTチップ106及びダイオードチップ108の直列接続数を増やせばよい。
<実施例8>
図15は本発明のZn−Al共析系合金接合材から形成される接合層構造を有する電力用MOSトランジスタを示す概略断面図である。図において、21は放熱板及び支持板として機能する金属基板、22は金属基板21上に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層23により、前記実施例4に示す接合プロセスに従って接合固着された例えばAlNからなるセラミックス基板、24はセラミックス基板22上に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層25により、前記実施例1又は4に示す接合プロセスに従って接合固着された電力用MOSトランジスタ基体、26、27及び28は電力用MOSトランジスタ基体のアノード領域、カソード領域及びゲート領域に設けられたアルミニウムからなるアノード電極、カソード電極及びゲート電極である。ゲート電極28は当然のことながら絶縁層29を介してゲート領域上に設けられている。30及び31はカソード電極27及びゲート電極28に、22質量%Al−78質量%Zn系からなるZn−Al共析系合金接合層32及び33により、前記実施例1又は4に示す接合プロセスに従って接合固着されたカソード外部電極及びゲート外部電極である。これらカソード外部電極30及びゲート外部電極31は間に、例えば樹脂を充填して一体構造にしてもよい。この実施例の特徴は、カソード電極27及びゲート電極28とカソード外部電極30及びゲート外部電極31をボンディングワイヤを使用せずに直接接合している点にある。この実施例におけるMOSトランジスタ基体24はシリコン及び炭化珪素を使用することが出来る。炭化珪素基体を使用する場合には炭化珪素が500℃でも安定した特性を保持できることから、接合材が固液共有状態に相変態する温度近くまで使用可能な高温MOSトランジスタを実現できる。
本発明のZn−Al共析系合金接合材から形成される接合層構造はIGBTモジュールに限らず一般のパワーモジュール、ダイオードモジュールなどにも適用することができる。
以上のように、本発明の接合層構造は応力緩衝機能を有するAlの存在量が増えるだけでなく、Al−Zn共析系合金の変態超塑性応力歪緩和効果を利用した接合方法によってAl中にZnが片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかの形状で均一に分散した組織が形成されるため、高い応力緩和効果が接合層内で十分に得られ、接合信頼性の一層の向上を図ることができる。さらに、接合層に含まれるAlが従来と比べて多いため、熱伝導性も向上させることができる。また、本発明で使用するZn−Al共析系合金が有する超塑性現象を利用することによって、接合界面の濡れ性が確保されるとともに応力緩和効果が得られるため、高温の接合強度及び接合信頼性が大幅に向上し、長寿命の接合部形成を実現できる。したがって、本発明の接合層構造によってSiC又はGaN、C(ダイヤモンド)及びGa等のワイドギャップ半導体素子を実装した半導体装置は、パワーデバイス又はパワーエレクトロニクス製品等で求められる耐熱性の要求に答えることができ、200℃以上、特に250℃以上の高温使用環境において長期間の使用に耐えることが可能になる。本発明の勢接続構造は、一般のパワーモジュール、ダイオードモジュールなどの他の半導体装置にも適用することができ、その有用性は極めて高い。
1・・・Zn−Al共析系合金接合材、2・・・半導体素子、3・・・メタライズ部分、4・・・Cu基板、5・・・Cuめっき膜、6・・・相互拡散層、7・・・円筒状ヒートシンク、8・・・シリコンチップ、9・・・緩衝板、10・・・リード電極、11,12,13・・・Zn−Al共析系合金接合材、14・・・シリコーンゴム。

Claims (15)

  1. 被接合材AとBとを合金接合材によって接合し形成される接合層の構造であって、
    前記合金接合材がZn−Al共析系合金であり、且つ、
    前記被接合材A及びBと前記合金接合材との接合部は、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなり、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度を通過させることによって形成される、Al中にZnが片状、棒状及び樹枝状の少なくとも何れかの形状で分散した組織を有することを特徴とする合金接合材による接合層構造。
  2. 前記接合層が有する組織において、断面を電子顕微鏡を用いて500倍で観測したときのAlの面積比が18%を超え70%未満であることを特徴とする請求項1に記載の合金接合材による接合層構造。
  3. 前記接合層が、22質量%以上68質量%未満のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Zn系からなる組成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金接合材による接合層構造。
  4. 被接合材AとBとの間に、Al−Zn共析系合金接合材を介在させ、加圧又は加圧しない状態で前記接合材を、変態超塑性応力歪緩和機能を発現する相変態温度の高温側の温度(T)より高い温度で加熱し、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなる半溶融状態又は固相状態の接合層を形成した後、前記相変態温度を通過させる操作を行うことを特徴とする合金接合材による接合方法。
  5. 前記Tより高い温度で半溶融状態又は固相状態の接合層を形成し、前記相変態温度の低温側の温度(T)より低い温度に冷却した後、
    前記Tより低い温度から固相状態で前記Tより高い温度に加熱する工程、及び前記Tより高い温度から前記Tより低い温度に冷却する工程からなる加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返すことにより、前記相変態温度を通過させる操作を行うことを特徴とする請求項4に記載の合金接合材による接合方法。
  6. 前記Tより高い温度で半溶融状態又は固相状態の接合層を形成し、前記Tより低い温度として30℃以下に冷却した後、前記加熱・冷却工程を1回又は2回以上繰り返すことを特徴とする請求項5の記載の合金接合材による接合方法。
  7. 前記変態超塑性応力歪緩和現象を発現する温度が270℃を超え360℃未満であることを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の合金接合材による接合方法。
  8. 前記接合層が22質量%以上68質量%未満のAl−0〜1.5質量%Cu−0〜0.05質量%Mg−Zn系からなる組成であることを特徴とする請求項4〜7の何れかに記載の合金接合材による合金接合材による接合方法。
  9. 前記被接合材AとBとの間に介在させた接合材を前記Tより高い温度に加熱した状態で所望の時間保持する操作の前に、超塑性現象を発現する温度領域に加熱した状態で所望の時間保持する操作を行うことを特徴とする請求項4〜8の何れかに記載の合金接合材による接合方法。
  10. 前記超塑性現象を発現する温度が200〜410℃であることを特徴とする請求項9に記載の合金接合材による接合方法。
  11. 請求項4〜10の何れかに記載の接合方法であって、前記被接合材AとBとの間に、Alが9質量%を超え68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有するZn−Al共析系合金接合材を介在させ、加圧又は無圧の状態で前記接合材を前記Tより高い温度に加熱し、前記被接合材AとBとの間に、Alが22質量%以上68質量%未満で、残部がZn及び2質量%未満の微量金属成分を有する組成からなる半溶融状態又は固相状態の接合層を形成することを特徴とする合金接合材による接合方法。
  12. 半導体基体、該半導体基体に直接又はセラミック基板を介して接合層によって接合された金属基板を備え、前記接合層が請求項1〜3の何れかに記載の構造を有することを特徴とする半導体装置。
  13. 前記半導体基体がワイドギャップ半導体であることを特徴とする請求項12に記載の半導体装置。
  14. 半導体基体、該半導体基体に直接又はセラミック基板を介して接合層によって接合された金属基板を備え、前記接合層の構造が請求項4〜11の何れかに記載の接合方法によって形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
  15. 前記半導体基体がワイドギャップ半導体であることを特徴とする請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
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