背景技術のセクションで上述したように、手首装着型転倒検出器内の動きセンサからの測定値の解析に基づく既存の転倒検出方法は、本明細書において「日常生活活動(ADL)」と呼ばれる、歩行、着座等の日常の活動中に発生する、ユーザによる転倒に関連付けられないユーザの手首の通常の動きである手首の動きに起因する誤アラームの回数を制限しつつも十分高い検出率を提供するものではないことが見出されている。
人が偶発的に転倒する場合、バランスを失ってから、地面と衝突し、転倒後に(おそらくは)立ち上がることができない間の転倒の過程は、ユーザのANSにおいて応答を生じさせる。この応答は、受けたストレスの結果として、ユーザの皮膚伝導率、皮膚温度、及び/又は心拍数の変化として測定することができる。しかしながら、動きセンサ測定値のみの解析からは転倒のように見えるかもしれない、着座すること又は椅子の上に意図的に「転倒する」こと等の動きは、このストレス応答を生じさせない。
したがって、自律神経系応答のインジケータとして心拍数及び皮膚伝導率等の生理的特性の測定値を用いることは、このような誤った転倒検出の一部を取り除くのを助け得る。というのは、例えば心拍数の大きな変化は、転倒中の体の「闘争・逃走(flight-or-fight)」反応又は結果として生じる外傷のいずれかに起因して、転倒イベントの周囲でしばしば生じ得るからである。
しかしながら、(例えば)心拍数は、非常にユーザ依存の尺度であり、安静時心拍数レベル及び高心拍数レベルは、例えば、人の健康、フィットネス・レベル、及び年齢等の多くのファクタに依存し得る。より良いコンディショニングを有する(例えば、より健康な)ユーザは、高レベルの身体的活動中、より悪いコンディショニングを有する、同様の活動に対してより高い心拍数を有するユーザよりも、低い心拍数を有する傾向がある。
したがって、本発明は、自律神経系(ANS)応答を示す生理的特性の測定値を用いて転倒を検出するための改善された技術を提供する。詳細には、本発明は、ユーザの一般的コンディションを表すユーザのプロファイルであって、日常活動レベルをANS応答の1つの尺度(又は、複数の尺度)に関連付けるユーザのプロファイルが規定され、次いで、転倒可能性イベントが検出されたときに(例えば、衝突がその後に続く自由落下が検出されたときに)、そのイベントが転倒であるか「ADL」、すなわち、非転倒であるかを判定するために、現在の活動レベル及びANS応答の1以上の尺度が上記プロファイルと比較されることを提供する。
図1において、本発明の一実施形態に従った転倒検出器2が示されている。本発明の好ましい実施形態において、転倒検出器2は、ユーザによりユーザの手首に装着されるよう設計されるが、本発明は、このような使用に限定されるものではなく、転倒検出器2は、代わりに、ユーザの腰部に装着されるよう設計されてもよいし、ユーザの胸部又は背中に装着されるよう設計されてもよいし、ユーザの首の周りにペンダントとして装着されるよう設計されてもよいし、ユーザのポケットに入れられて運ばれるよう設計されてもよいことが理解されよう。
この例示的な実施形態において、転倒検出器2は、プロセッサ8に接続される2つの動きセンサ−加速度計4及び圧力センサ6−を備える。プロセッサ8は、動きセンサ4、6から測定値を受信し、この測定値を処理して転倒検出器2のユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定する。この実施形態において、2つの動きセンサが示されているが、代替実施形態に従った転倒検出器は、1つの動きセンサのみ(例えば、圧力センサ6は除去され加速度計4のみ)を備えてもよいことが理解されよう。さらなる実施形態において、転倒検出器2は、圧力センサ6に加えて、あるいは圧力センサ6の代わりに、ジャイロスコープ及び/又は1以上の筋電図(EMG)センサを備えてもよい。
転倒検出器2はまた、転倒が検出された場合に、転倒検出器2が、アラーム信号を、転倒検出器2に関連付けられたベース・ステーション(ベース・ステーションは、次いで、アラームを発することができる、あるいはヘルスケア・プロバイダ又は緊急サービスから助けを呼ぶことができる)又は直接リモート・ステーション(例えば、ヘルスケア・プロバイダのコール・センタ内に配置されている)に送信することを可能にする送信機ユニット10を備えるので、ユーザのために助けを呼ぶことができる。いくつかの実施形態において、転倒検出器2内のプロセッサ8は、ユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定するためのアルゴリズムをセンサ4、6からのデータに対して実行しなくてもよい。代わりに、プロセッサ8及び送信機ユニット10は、センサ4、6からの生データをベース・ステーションに提供することができ、ベース・ステーション内のプロセッサは、ユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定するためのアルゴリズムをセンサ4、6からのデータに対して実行することができる。
転倒検出器2はまた、プロセッサ8に接続されるメモリ・モジュール14であって、動きセンサ4、6からの測定データ、プロセッサ8により使用されるコンピュータ読み取り可能コード、及び/又は以下でより詳細に説明するユーザ・コンディショニング・プロファイルのためのデータを記憶することができるメモリ・モジュール14を備える。
メモリ・モジュール14は、最新の測定データのみを記憶してもよく、測定データはまた、送信機ユニット10を用いて、記憶のために、ベース・ステーション上のリモート・サーバに送信されてもよいし、ベース・ステーションを介してリモート・サーバに送信されてもよいことが理解されよう。
転倒検出器2は、ユーザの1以上の生理的特性を測定するための1以上のセンサ16をさらに備える。生理的特性は、皮膚温度、皮膚伝導率、心拍数、他の心臓に関連する特性、又は、イベントに対するユーザの自律神経系による応答を示し得る任意の他の生理的特性のうちのいずれかを含み得る。
センサ16が皮膚伝導率を測定する手首装着型転倒検出器2において、センサ16は、好ましくは、ユーザの手首の掌側でユーザの皮膚と接触するよう設けられる。いくつかの実施形態において、転倒検出器2は、ユーザの体の異なる位置に配置されるべき複数の皮膚伝導率センサ16を備える。この場合、これら複数の皮膚伝導率センサ16のうちの少なくとも1つは、転倒検出器2の残りのコンポーネントとは別のハウジングに一体化され得る。
当業者により理解されるように、心拍数及び他の心臓に関連する特性を測定するための適切なセンサ16は、心電図(ECG)デバイス又は光電脈波(PPG)デバイスを含む。
ECGは、心臓の電気的活動を測定するのに対し、PPGは、心臓の心拍間隔(beat-to-beat interval)と相関性がある血液量の変化を測定する。また、PPGを使用して、血液の酸素飽和度を測定することもできる。ANS応答と関連する、あるいはANS応答を示す、PPGセンサにより生成される信号の別の有用な特徴は、動脈の伸展性と関連し、交感神経系の緊張のインジケータである、結果として生じる脈波の振幅である。
いくつかの実施形態において、例えば、測定される生理的特性が心拍数であり、転倒検出器2がユーザの手首に装着される場合、ユーザの腕において動脈を介する血液の脈動(pulsing)が、加速度計4からの信号において、心拍として検出可能であり得、この場合、その信号を処理してユーザの心拍数を抽出することができ、別の生理的特性センサ16は必要とされないことが、当業者により理解されよう。
以下において、信号がユーザのANS応答の有用な特徴を示し、ウェアラブル・デバイス2内に実装しやすい、PPGセンサ16を備える本発明の一実施形態が提示される。知られているように、PPGセンサ16は、通常、例えば940nmといった所定の波長の光を人間の組織に送る、例えばLEDといった光源と、透過光又は反射光に反応するフォトダイオード等の感光性センサと、から構成される。両センサが組織の同じ領域に適用される場合、反射光が測定される。光センサが、例えば、指先等の光源と反対の体の別の部分に配置される場合、透過光が測定される。血液量の増加は、反射光の量を増大させるともに、透過光の量を減少させるので、この2つの構成は、逆振幅関係(inverse amplitude relationship)を有する波形を生成する。
手首において測定された反射光の量を示す例示的なフィルタリングされた(DCが除去された)PPG波形が、図2に示されている。2つの連続するピーク(例えば、P1及びP2)の間の距離は、心拍間隔に対応するものであり、その逆数は、心拍数である。心拍数は、本明細書においてr(n)で表され、毎分心拍数(bpm)として測定される。
図1の実施形態には示されていないが、転倒検出器2は、ユーザが転倒したとプロセッサ8が判定した場合にプロセッサ8によりアクティブ化され得る可聴アラーム・ユニットをさらに備えてもよい。転倒検出器2はまた、ユーザが助けを必要とする場合にユーザが手動で可聴アラーム・ユニットをアクティブ化することを可能にする(あるいは、助けを必要としない場合に手動で可聴アラーム・ユニットを非アクティブ化することを可能にする)ボタン(図1には示されていない)を備えてもよい。
図示した実施形態において、転倒検出器2のコンポーネントの全ては、ユーザの皮膚と接触するように配置されることになる単一のハウジングに一体化される。例えば、転倒検出器の一部がユーザの首の周りに装着されるペンダントの形態である(したがって、常にユーザの皮膚と接触するわけではない)代替実施形態において、生理的特性センサ16が、使用中ユーザの皮膚と接触し得るように、生理的特性センサ16は、(1以上の動きセンサ(例えば、加速度計4及び圧力センサ6)を含む)ペンダントとは別個のハウジング内に設けられてもよい。
上述したように、転倒検出器2のユーザが転倒したかどうかを判定することの一部として、日常活動レベルをANS応答の1つの尺度(又は、複数の尺度)に関連付けるユーザのプロファイルが必要とされる。図3は、ユーザ・コンディショニング・プロファイルを生成する方法を示している。この例示する実施形態において、ANS応答の尺度として使用される生理的特性は、r(n)で表されるユーザの心拍数である。
最初のステップであるステップ101において、ユーザの活動レベル及びユーザのANS応答の尺度(すなわち、この実施形態では心拍数)が、予め定められた間隔にわたって測定される。この間隔が、活動レベル及びANS応答尺度のデータ・サンプルが計算されて利用可能である時間期間として定められる場合、予め定められた間隔の長さは、30秒から1分の範囲を取り得る。しかしながら、重要なことは、十分多くの数のデータ点を収集するために、およそ5〜10分の期間Pが定められ、Pは、連続的な間隔又は重なり合う間隔を含むことに留意することである。
活動レベルは、上記間隔にわたるユーザの活動(例えば、動き)のレベル及び/又はタイプの尺度であり、複数の方法により決定され得る。好ましい実施形態において、活動レベルは、転倒検出器2内の動きセンサ4、6からの信号から、プロセッサ8により決定される。他の実施形態において、ユーザが装着する、あるいは運ぶために、加速度計、ジャイロスコープ等といった1以上の動きセンサを含む別のデバイスが提供されてもよい。
活動レベルが、加速度計測定値から決定される場合、加速度計4からの信号は、一定間隔でサンプリングされ得る、3つの直交軸に沿った加速度値を表す。結果として生じる信号は、x(n)、y(n)、及びz(n)で表され、nは、離散時間インデックスである。サンプリング周波数は、例えば、50〜150Hzの間に設定され得る。
1つの単純な実施形態において、瞬間活動レベルα(n)は、加速度ベクトルの大きさ、すなわち、
により与えられ得る。
予め定められた間隔の活動レベルは、その間隔にわたって得られる複数の瞬間活動レベル測定値の平均値とすることができる。この場合、予め定められた間隔の活動レベルは、
で表され、1≦i≦Nであり、Nは、それぞれが長さTの加速度サンプルを有する予め定められた間隔の数である。心拍数も同様に、予め定められた間隔にわたって複数回サンプリングされ、予め定められた間隔の心拍数を
として与えるために平均化され得る。いくつかの実施形態において、
及び
は、
及び
により与えられる。ここで、mは、間隔i内のサンプル・インデックスであり、これらの値を使用して、予め定められた間隔(1≦m≦T)の活動レベル−心拍数ペア
を形成する。心拍数測定値は、加速度とは異なるサンプリング周波数でサンプリングされてよく、したがって、同じ時間間隔にわたる異なる数のサンプルに基づく。
予め定められた間隔の間の心拍数の別の尺度は、以下の式により定められ得る心拍数の平均変化率であってよい。
この尺度はまた、T個のサンプルにわたって測定されたANS応答がSNS応答に対応するかどうか、すなわち、
であるかどうかを示し得る。
生3D加速度信号のノルムに基づく瞬間活動レベルに加えて、所定の時間期間(例えば1秒間)にわたるノルムの積分に基づくよりロバストな計算が用いられてもよい。上記のように、上記間隔をまたがる複数の時間期間に関する値の平均値が、活動レベル及びANS応答の尺度として使用されてもよい。
活動レベルのよりロバストな推定を提供するために、ローパス・フィルタ、メディアン・フィルタ、又は移動平均フィルタを用いて生3D加速度信号のノルム(すなわち、式(1)に従ったノルム)をさらに処理することにより、活動レベルの他の尺度が、取得され得る。
上記で提供した活動レベルの尺度の代わりに、あるいは上記で提供した活動レベルの尺度に加えて、プロセッサ8は、動きセンサ4、6からの信号を処理して、活動中のユーザの姿勢(例えば、立っている、あるいは横たわっている)を判定することができる。この場合、α(n)の値は、姿勢識別アルゴリズムの出力により与えられ、バイナリ値、すなわち、α(n)=(0,1)を取る。ここで、0は、横たわっていることに対応し、1は、立っていることに対応し得る。他の実施形態において、例えば、歩行、ランニング、着座等の複数のタイプの活動を分類することができるより複雑な姿勢/活動識別アルゴリズムが使用されてもよい。この場合、α(n)は、複数の離散値を取り得る。動きセンサ信号からこうした姿勢及び/又は活動を判定するための適切なアルゴリズムは、当業者に知られるものであり、本明細書でさらに詳細に説明しない。
転倒検出器2により使用される活動レベルの尺度は、ロバスト性と計算複雑性及び電力消費とのトレードオフの観点で選択され得る。
ユーザ・コンディショニング・プロファイルを、転倒可能性イベントを転倒として分類することを支援するのに有用なものにするために、あるいは転倒のようなイベントをユーザの通常の活動として却下するのに有用なものにするために、図3における方法に従って生成されるユーザ・コンディショニング・プロファイルは、ユーザが通常の日常活動を行っているときに収集される活動レベル及び心拍数測定値から生成されるべきである。したがって、ステップ101において、活動レベル−心拍数ペア(α(n),r(n))又は
が、予め定められた間隔に関して決定されると、ステップ103において、転倒可能性イベントが、予め定められた間隔の間に検出されたかどうかが判定される。転倒可能性イベントの検出については、ステップ203に関連して以下でより詳細に説明する。
転倒イベントが、活動レベル−心拍数ペア(α(n),r(n))又は
が決定された予め定められた間隔内で検出された場合、そのペアは破棄され(ステップ105)、その測定値は、ユーザ・コンディショニング・プロファイルを生成する際に使用されない。したがって、方法はステップ101に戻り、活動レベル及びANS応答の尺度が、次の予め定められた間隔に関して決定される。データは、1日に複数回、長さPの期間の間(例えば、2時間おきに5〜10分間)、収集され得るが、データが収集される頻度は、転倒検出器2の電力量(power budget)に依存し得る。
いくつかの実施形態において、長さPのデータ収集期間は、ユーザのより代表的なプロファイルが維持されるように、ユーザの活動レベルに応じてトリガされ得る。例えば、システムが、ユーザの活動レベルが低い期間の間に、十分な活動レベル−心拍数ペア(α(n),r(n))又は
を収集した場合、システムは、データを収集するのを開始してユーザのプロファイルを更新するためにユーザの活動レベルがより高くなる期間を待つ。このような実施形態は、ユーザが眠っている、あるいは活動的でないときにはユーザ・プロファイルは更新されないという利点を提供する。
予め定められた間隔の間に転倒イベントが検出されなかった場合、方法はステップ107に移り、活動レベル−心拍数ペア(α(n),r(n))又は
が、以前に収集された活動レベル−心拍数ペアのセット(すなわち、以前の予め定められた間隔の間に収集されたペア)に追加される。
次いで、ステップ109において、活動レベル及びANS応答(心拍数)の結合確率関数(これがユーザ・コンディショニング・プロファイルを表す)が、セット内の測定値から決定される。
いくつかの実施形態において、結合確率関数は、p(α,r)で表される結合確率密度関数(pdf)であり、これは、セット内の活動レベル−心拍数ペアから推定され得る。
結合確率関数を決定するための例示的な技術は、M個の混合を含むガウス混合モデルを用い、以下の式により与えられる。
ここで、β
iは、混合要素iからα及びrを得る(draw)確率を表し、すなわち、
であり、Θ={θ1,θ2,...,θM}である。
パラメータθ
iは、平均及び共分散により特徴付けられる基礎となるガウス密度関数を特徴付ける(describe)ものであり、すなわち、
であり、ここで、μiは、2次元平均ベクトルであり、
は、混合要素iの2行2列の共分散行列であり、これらにより、
との結果になる。ここで、x=[α,r]
Tである。
観測された活動レベル及び心拍数値に対する混合モデルの最大尤度を増加させるパラメータΘ及びβiは、当業者に知られている期待値最大化(EM)アルゴリズム等のアルゴリズムを用いて推定され得る。
一実施形態において、混合モデルは、最初にα及びrの全ての観測された値を記憶することにより更新され、次いで、確率密度関数が、EMアルゴリズムを用いて決定される。
別の実施形態において、これらの値は記憶されず、確率密度関数推定アルゴリズムの一バージョン(例えば、オンライン・バージョン)が、p(α,r|Θ)を更新するために使用される。
確率密度関数の推定のために、他のアルゴリズム及びモデルが使用されてもよく、そのようなアルゴリズム及びモデルは、当業者に知られていることが理解されよう。
さらなる実施形態において、混合のM個の要素は、1日の異なる部分に割り当てられ、独立して更新され得る。ユーザの典型的な活動レベルは、1日を通じて変わり得るものであり(例えば、ユーザは、朝に定期的に散歩に出かけるが、午後はあまり活動的でないことがある)、したがって、1日の異なる部分についてそれぞれの関数(プロファイル)が存在し得るので、この実施形態は有用である。
メモリ・サイズに対する制約が存在し得るさらなる実施形態において、確率密度関数は、X個の新たな(α,r)データ点を用いて更新する前に、最初にX個の最も古い(α,r)データ点を破棄することにより更新される。いくつかの実装において、この再サンプリングは、それらデータ点のタイムスタンプに基づかなくてもよいが、代わりに、データ・セット内のその時点での最近傍値(the nearest neighbour)を置換することに基づく。
本発明のさらに別の実施形態において、心拍数測定値が、間隔ごとの平均心拍数に対応する場合、結果として生じる心拍数値は、最も近い5ごとの毎分心拍数に量子化され得(例えば、87は85になる)、活動レベルに対する別々の確率密度関数が、量子化された各値について推定される。
実際、確率関数は、離散データを用いて推定されるので、確率密度関数は、(離散的)確率質量関数により近似される。上述した方法以外の確率質量関数を推定する他の方法も存在し、効率化の目的のために、この推定の単純化された形態が実行されてもよいことが理解されよう。
ステップ109において、結合確率関数が決定されると、方法はステップ101に戻り、次の予め定められた間隔を待つ。
図4におけるフローチャートは、上述したプロファイルを利用する、本発明に従った、ユーザによる転倒を検出する方法を示している。ステップ201及びステップ203において、転倒検出器2は、ユーザの動きの測定値から、ユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定する。
転倒検出器2内のプロセッサ8(又は、上述した代替実施形態ではベース・ステーション内のプロセッサ)は、動きセンサ測定値から、転倒に関連付けられる1つの特徴又は様々な特徴に関する値を抽出することにより、ユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定する。したがって、ステップ201において、転倒検出器2により認識される加速度及び空気圧変化が、加速度計4及び空気圧センサ6を用いて測定され、ユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定するために、これらの測定値がプロセッサ8により解析される。
転倒は、例えば、結果として大きな衝突をもたらしその後にユーザがあまり動けない期間が続く、約0.5〜1.5メートル(この範囲は、転倒検出器2が装着されることになる体の部分及びユーザの身長に応じて異なり得る)の高さの変化により、概して特徴付けられ得る。したがって、従来のように、転倒が発生したかどうかを判定するために、プロセッサ8は、センサ測定値を処理して、高さの変化(これは、通常は圧力センサ6からの測定値から導出されるが、圧力センサ6からの測定値とともに加速度計4からの測定値から導出されてもよいし、例えば、圧力センサ6が含まれない場合、代わりに加速度計4からの測定値から導出されてもよい)、高さの変化が生じる時間の周囲の最大活動レベル(すなわち、衝突)(これは、通常は加速度計4からの測定値から導出される)、及び衝突後のユーザが相対的に活動的でない期間(これも、通常は加速度計4からの測定値から導出される)を含む特徴に関する値を抽出する必要がある。他の特徴が検出アルゴリズムをさらに向上させ得ることが理解されよう。例えば、転倒時の向きの変化の検出は、信号が転倒に起因するものであるという尤度を高めることができる。
ユーザによる転倒可能性は、上記特徴のサブセット又は全てが測定値において特定される場合に特定され得る。すなわち、転倒可能性は、必要とされる高さ変化、衝突、及び活動的でない期間のうちの任意の1以上が測定値において検出される場合に特定され得る。
ステップ201においてプロセッサ8により実行される解析については、本明細書でさらに詳細に説明しないが、当業者は、加速度計測定値及び/又は圧力センサ測定値からユーザが転倒した可能性があるかどうかを判定するために適用できる様々なアルゴリズム及び技術を認識するであろう。
ステップ201において、転倒可能性が検出されなかった場合(すなわち、転倒の特徴が、加速度計4及び/又は圧力センサ6からの測定値から明らかでない場合、又は転倒可能性が検出されるために、転倒の不十分な特徴が存在する場合)、方法はステップ201に戻り、測定値の次のセットに対して繰り返す。
ステップ201/ステップ203において、転倒可能性が検出された場合、方法はステップ205に移り、プロセッサ8は、転倒可能性イベントに関連付けられているユーザの活動レベル及びユーザのANS応答(例えば、心拍数)の尺度を決定する。活動レベル及びANS応答の尺度は、転倒可能性イベントが発生する直前及び/又は転倒可能性イベントが発生した直後に収集される、適切なセンサ(例えば、加速度計4及び生理的特性センサ16)からの測定値から決定され得る。適切なセンサからの測定値が処理される、転倒可能性イベントの前及び/又は後の時間の長さ(したがって、処理されるべき、センサからの測定データの量)は、転倒検出器2の電力量に依存し得る。いくつかの実施形態において、転倒可能性イベントの前の2分間における測定値及び/又は転倒可能性イベントの後の2分間における測定値が処理される。
活動レベル及びANS応答の尺度は、図3のステップ101を参照して上述したように決定され得る。したがって、瞬間活動レベル及び瞬間的なANS応答の尺度が決定され得るか、あるいは、予め定められた時間期間の活動レベルの平均値及びANS応答の平均値が取得され得る。いくつかの実施形態において、プロセッサ8は、イベントをまたがる活動レベル及びANS応答の変化の尺度を決定することができる、すなわち、プロセッサ8は、イベント前の活動レベル/心拍数尺度と、イベント後の活動レベル/心拍数尺度と、を決定して、その差を計算することができる。
いくつかの実施形態において、転倒可能性が、加速度計4の測定値及び/又は圧力センサ6の測定値の解析から検出されたときのみ(又は、単に少なくとも0.5メートルの高さの変化が圧力センサ6からの測定値において検出されたときのみ)、生理的特性センサ16はアクティブ化されるので、転倒検出器2の電力消費を低減させることができる。ステップ201における解析は、プロセッサ8により、実質的にリアルタイムに、あるいはほんの少しの遅延をもって実行されるので、生理的特性センサ16は、転倒イベントが発生した直後にアクティブ化される。加速度計4とは別のセンサを使用して活動レベルを決定する場合、その別のセンサは、上述した生理的特性センサと同じように、転倒可能性の検出後にアクティブ化される。
代替実施形態において、生理的特性センサ16は、転倒検出器2が使用中であるときはいつでも(すなわち、転倒可能性がまだ検出されていないときでも)、絶えず又は頻繁に生理的特性を測定してもよい。このようにして、転倒可能性が検出されるとすぐに、プロセッサ8は、生理的特性測定値を利用することができる。再度、加速度計4とは別のセンサを使用して活動レベルを決定する場合、その別のセンサは、上述した生理的特性センサと同じように、転倒検出器2が使用中であるときはいつでも、絶えず又は頻繁にアクティブ化され得る。
ステップ207において、プロセッサ8は、決定された活動レベル及びANS応答(例えば、心拍数)を、図3における方法に従って決定された、通常の日常活動を表すプロファイルと比較して、決定された活動レベル及びANS応答がそのプロファイルと整合するかどうかを判定する。
いくつかの実施形態において、ステップ207は、プロファイルを用いて、ユーザが決定された活動レベル及びANS応答を有して行動している尤度を決定することを含み得る。このような実施形態において、尤度値p(xe|Θ)が計算され得る。ここで、xe=[αe,re]Tは、ステップ205において決定される転倒可能性イベントを特徴付ける活動レベル及びANS応答(例えば、心拍数)を表す。
他の実施形態において、対数尤度を計算して、例えば、ガウス・モデルが使用される場合の計算を単純化してもよい。
図5は、M=3であるガウス混合モデルを用いた、ユーザの活動レベル及び心拍数(αi,ri)の例示的な結合分布の等高線図である。この例において、活動レベルは、上記の式(1)を用いて計算され、値は、平均値を取り除いた後に128個のサンプルごとに平均化されている。一般に、最も外側の等高曲線の外側にあるデータ点(すなわち、活動レベル及び心拍数のペア(αi,ri))は、低い尤度を有する。ユーザが所与の活動レベル及びANS応答を有して行動している尤度は、この曲線からデータ点までの距離が増すとさらに低下する。
ステップ209において、プロセッサ8は、ステップ207の結果を用いて、ステップ201において検出された転倒可能性が、ユーザによる実際の転倒であるかどうかを判定する。
ステップ207において、決定された活動レベル及びANS応答が、ユーザのコンディショニング及び通常の日常活動を表すプロファイルと整合すると判定された場合(例えば、決定された行動の尤度が高い場合)、その行動は、ユーザによる日常活動に関連している可能性が高く、転倒可能性イベントが「非転倒」として分類される。
しかしながら、ステップ207において、決定された活動レベル及びANS応答が、プロファイルと整合しない(おそらくは活動レベルが低くANS応答が異常である)と判定された場合、例えば、行動の尤度が低い場合、その行動は、ユーザによる通常の日常活動に関連していない可能性が高く、ステップ201において特定された転倒可能性イベントが、ユーザによる実際の転倒として分類される。
尤度p(xe|Θ)が決定される上述したステップ207の実施形態において、実際の転倒は、外傷を生じさせていることがあり、しばしば、より高い心拍数を伴うがほとんど動きを伴わないので、p(xe|Θ)の値は、転倒イベントに関して非常に低い。したがって、このような実施形態において、転倒可能性が実際の転倒であるかどうかを判定するために、ステップ207において計算された尤度関数p(xe|Θ)の値が、閾値ηthresと比較される。p(xe|Θ)の値が、閾値ηthres未満である場合、ステップ201において検出された転倒可能性イベントは、転倒として分類され得る。p(xe|Θ)の値が、閾値ηthres以上である場合、ステップ201において検出された転倒可能性イベントは非転倒として分類される。
ηthresの値は、データに依存するものであり、現在の確率密度関数の広がり、又は、例えばガウス混合モデルが使用される場合には混合モデルの個々の成分に応じて設定され得る。閾値はまた、多数のユーザから収集された以前のデータに基づいてもよい。
閾値は、全般的なパフォーマンスを決定付け得るものであり、誤アラームの回数と実際の転倒の見逃された検出との間のトレードオフをしばしば伴う。閾値は、アプリケーションに必要とされる所与のレベルのパフォーマンスに達するよう設定されるべきである。
別の実施形態において、システムは、最初は、固定された閾値と、多数のユーザから収集された以前のトレーニング・データに基づく初期確率密度関数推定と、を用いてよいし、閾値は、最初は、年齢、運動性(mobility)、及びサブスクリプション時の全般的な心臓健康状態等のユーザの個人データを用いて設定されてよい。ユーザが、転倒検出器2上の別のプッシュ・ボタンを使用すること等のユーザ入力を介して、あるいは、例えば、転倒検出器2上の2以上のボタンを押下することにより、検出された転倒(すなわち、アラームがトリガされる場合)が実際には誤アラームであったかどうかを転倒検出器2に通知する転倒除去オプション(fall rejection option)に基づいて、閾値はその後更新され得る。このようにして、より個人向けにされた閾値が設定され得る。所定の動き特徴は、しばしば、ADLと実際の転倒とを依然として識別できないので、デバイスを補正するためにユーザ・フィードバックを使用する手法は、生理的データを使用しないシステムにおいて、あまり信頼性の高いものではないであろう。この場合、そのようなユーザ・フィードバック手法を使用することは、実際には、見逃される実際の転倒の増大をもたらす可能性がある。別の実施形態において、転倒検出器2に関連付けられている、コール・センタ内のコンピュータが、誤アラーム中に収集された活動レベル及び心拍数データに基づいて閾値を調整するために、転倒検出器2に信号を送信してもよい。
ユーザが転倒したと判定された場合、プロセッサ8は、ユーザのための助けを得るためにアラームをトリガすることができる。アラームをトリガした後、方法はステップ201に戻りユーザのモニタリングを続けることができる。ステップ209において、ユーザは転倒していないと判定された場合、アラーム又はアラートはトリガされず、方法はステップ201に戻りユーザのモニタリングを続ける。
したがって、従来の技術と比較して増大した転倒検出信頼性を提供する、転倒を検出する方法及び転倒検出器が提供される。
図面及び上記記載において、本発明を詳細に図示及び説明したが、このような図及び記載は、限定的なものではなく、例示的なものと考えられるべきである。本発明は、開示した実施形態に限定されるものではない。
開示した実施形態に対する他の変形が、図面、本開示、及び請求項を検討することから、特許請求される発明を実施する際に、当業者により理解され、もたらされ得る。請求項において、用語「備える(comprising)」は、他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「a」又は「an」は、複数を排除しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項中に記載されたいくつかのアイテムの機能を満たしてもよい。所定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されるという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用され得ないことを示すものではない。コンピュータ・プログラムは、他のハードウェアとともに提供される、あるいは他のハードウェアの一部として提供される光記憶媒体又はソリッドステート媒体等の適切な媒体上に記憶/配布され得るが、コンピュータ・プログラムはまた、インターネット又は他の有線通信システム若しくは無線通信システムを介して等、他の形態で配布されてもよい。請求項中のいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。