(4.詳細な説明)
(4.1 急性腎損傷を治療する方法)
本明細書に提供されるのは、対象の急性腎損傷(AKI)を治療する方法であって、該対象に有効量の胎盤幹細胞を投与することを含む、方法である。ある実施態様において、本明細書に提供されるAKIを治療する方法は、該対象におけるAKIの1以上の症状又は合併症の検出可能な改善をもたらす。ある実施態様において、本明細書に提供されるAKIの治療方法は、該対象におけるAKIの1以上の症状又は合併症の発症の予防をもたらす。
一実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを有する対象のAKIを治療する方法であって、該対象に治療有効量の胎盤幹細胞を投与することを含み、ここで、該治療有効量が、該対象における、AKIの1以上の症状及び/もしくは合併症の検出可能な改善、又はAKIの1以上の症状及び/もしくは合併症の進行の低下をもたらすのに十分な量である、方法である。
別の実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを有する対象のAKIの症状及び/又は合併症を予防する方法であって、該対象に治療有効量の胎盤幹細胞を投与することを含み、ここで、該治療有効量が、該対象におけるAKIの1以上の症状及び/又は合併症の発症を予防するのに十分な量である、方法である。
本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対象は、AKIの何らかの原因のためにAKIを有し得る。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療される対象のAKIは、該対象の1以上の腎臓の直接的な外傷、例えば、AKIを有する対象の1以上の腎臓と、腎臓の外傷を引き起こすもの(例えば、腎臓の鈍器外傷)との接触によって引き起こされる。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療される対象のAKIの症状(複数可)は、直接的な外傷以外のものによって引き起こされ、例えば、AKIは、該対象における別の状態又は疾患の存在に起因する(すなわち、他の状態又は疾患は、AKIの根本的な原因である)。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対象は、以下のもの:急性尿細管壊死(ATN)、自己免疫性腎疾患、コレステロールによる血栓(コレステロール塞栓)、低血圧(例えば、火傷、脱水症、出血、損傷、敗血症性ショック、病気、もしくは外科手術が原因で起こる)による血流の減少、腎臓の血管内で血栓形成を引き起こす障害、腎臓を直接損傷する感染症(例えば、急性腎盂腎炎もしくは敗血症)、妊娠合併症(例えば、胎盤早期剥離もしくは前置胎盤)、及び/又は尿路遮断のうちの1つ又複数(例えば、組合せ)によって引き起こされるAKIを有する。
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される胎盤幹細胞の治療有効量は、該対象におけるAKIの以下の症状:疲労、血便、口臭、口の中の金属味、痣、手の震え、高血圧、鼻血、吃逆、発作、息切れ、排尿パターンの変化(例えば、定期的に排尿する能力の喪失、もしくは夜間の頻尿)、食欲不振、頭痛、吐き気及び嘔吐、不整脈、脇腹の疼痛(例えば、腎血管の血栓症もしくは腎臓の炎症が原因で起こる)、口渇、触知可能な膀胱、四肢の体液貯留(末梢浮腫)及び肺の体液貯留(肺水腫)、並びに/又は心タンポナーデのうちの1つ又は複数の検出可能な改善、又は進行の低下をもたらすのに十分な量である。
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される胎盤幹細胞の治療有効量は、該対象におけるAKIの以下の症状:疲労、血便、口臭、口の中の金属味、痣、手の震え、高血圧、鼻血、吃逆、発作、息切れ、排尿パターンの変化(例えば、定期的に排尿する能力の喪失、もしくは夜間の頻尿)、食欲不振、頭痛、吐き気及び嘔吐、不整脈、脇腹の疼痛(例えば、腎血管の血栓症もしくは腎臓の炎症が原因で起こる)、口渇、触知可能な膀胱、四肢の体液貯留(末梢浮腫)及び肺の体液貯留(肺水腫)、並びに/又は心タンポナーデのうちの1つ又は複数の発症又は進行を予防するのに十分な量である。
AKIの1以上の症状及び/又は合併症の改善又は進行の低下の決定は、客観的に測定可能なパラメーター、例えば、糸球体濾過量の増加、血清クレアチニンレベルの減少、尿クレアチニンレベルの減少、クレアチニンクリアランスの増加、血中尿素窒素(BUN)のレベルの減少、ナトリウム排泄分画(腎臓によって濾過され、尿中に排泄されるナトリウムのパーセンテージ)の減少、及び/又は尿排泄量の安定化(例えば、尿排泄量の増加);並びに主観的に測定可能なパラメーター、例えば、患者の健康、患者によるAKIの症状の改善の認識、AKIと関連する疼痛又は不快感の減少の認識などを含むことができる。
糸球体濾過量(GFR)は、濾過された流体が腎臓を通る流量を指し、ある実施態様において、本明細書に記載の治療方法の効力を評価するために使用することができる。理論によって制限されるつもりはないが、AKIを有する対象は、例えば、AKIを有しない対象と比較して、糸球体濾過量の減少を示す。ある実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を増加させるのに十分な量である。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、又は75%を超えて増加させるのに十分な量である。糸球体濾過量は、当業者に公知の任意の方法によって決定することができる(例えば、Hjorthの文献、2002, Pediatric Nephrology 17:847-851を参照されたい)。
クレアチニンは、主として、糸球体濾過及び近位尿細管分泌を介して腎臓によって血液から濾過される。血液中(例えば、血液の血清又は血漿中)及び尿中のクレアチニンレベルは、腎臓の濾過が不足する場合に上昇する。ある実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを減少させるのに十分な量である。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、又は75%を超えて減少させるのに十分な量である。
血液中のクレアチニンレベルは、当技術分野で周知であるクレアチニンクリアランス試験を用いて決定することができる。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるクレアチニンクリアランスを、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるクレアチニンクリアランスを、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるクレアチニンクリアランスを、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるクレアチニンクリアランスを、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、又は75%を超えて増加させるのに十分な量である。
血中尿素窒素(BUN)試験は、血液中の、タンパク質代謝の廃棄物である尿素窒素の量を測定する。健常対象では、尿素は、腎臓によって血流から除去される。したがって、血液中の尿素窒素のレベルの測定を用いて、本明細書に記載の治療方法の効力を評価することができる。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるBUNのレベルを、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるBUNのレベルを、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるBUNのレベルを、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるBUNのレベルを、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、又は75%を超えて減少させるのに十分な量である。
ナトリウム(Na+)排泄分画は、尿中に排泄された濾過されたNa+量のパーセントを表し、かつ腎臓の近位尿細管によるNa+再吸収の尺度である。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるナトリウム排泄分画を、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるナトリウム排泄分画を、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるナトリウム排泄分画を、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるナトリウム排泄分画を、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、又は75%を超えて減少させるのに十分な量である。
理論によって制限されるつもりはないが、尿排泄量は、AKIを有する対象で影響を受けることがある。ある実施態様において、本明細書に記載の方法によるAKIを有する対象への胎盤幹細胞の投与は、該対象の尿排泄量の安定化をもたらし、例えば、該対象の尿排泄量は、該対象の正常レベルにまで、又は該対象の正常レベルの5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、もしくは75%以内にまで安定化する。一実施態様において、AKIに罹患している対象は、AKIの結果として、尿排泄量が減少している。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象による尿排泄量を、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象による尿排泄量を、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象による尿排泄量を、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象による尿排泄量を、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、又は75%を超えて増加させるのに十分な量である。
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体の糸球体濾過量を決定すること;及び(iii)該糸球体濾過量が、該胎盤幹細胞の投与前の該個体の糸球体濾過量と比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5〜10%、10〜20%、20〜30%増加している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、該糸球体濾過量が胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、該糸球体濾過量が胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを決定すること;並びに(iii)血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルが、該胎盤幹細胞の投与前の該個体の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルと比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5〜10%、10〜20%、20〜30%減少している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体のクレアチニンクリアランスを決定すること;及び(iii)該クレアチニンクリアランスが、該胎盤幹細胞の投与前の該個体のクレアチニンクリアランスと比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5〜10%、10〜20%、20〜30%増加している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、該クレアチニンクリアランスが胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、該クレアチニンクリアランスが胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体の血中尿素窒素(BUN)レベルを決定すること;及び(iii)該BUNレベルが、該胎盤幹細胞の投与前の該個体のBUNレベルと比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5〜10%、10〜20%、20〜30%減少している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、該BUNレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、該BUNレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体のナトリウム排泄分画を決定すること;及び(iii)ナトリウム排泄分画が、該胎盤幹細胞の投与前の該個体のナトリウム排泄分画と比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5〜10%、10〜20%、20〜30%減少している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、ナトリウム排泄分画が該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、ナトリウム排泄分画が該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体の尿排泄量を決定すること;及び(iii)該尿排泄量が、該胎盤幹細胞の投与前の該個体の尿排泄量と比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5〜10%、10〜20%、20〜30%増加している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、該尿排泄量が胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、該尿排泄量が胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIと関連する対象の腎損傷の減少を引き起こすのに十分な量である。例えば、該対象の腎臓は、出血(hemorrhaging)(出血(bleeding))の低下、単核細胞浸潤物の数の低下、及び/又は壊死(例えば、尿細管上皮の壊死)の低下を示す。
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、18歳未満である。具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、13歳未満である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、12歳未満、11歳未満、10歳未満、9歳未満、8歳未満、7歳未満、6歳未満、又は5歳未満である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、1〜3歳、3〜5歳、5〜7歳、7〜9歳、9〜11歳、11〜13歳、13〜15歳、15〜20歳、20〜25歳、25〜30歳、又は30歳よりも年上である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、30〜35歳、35〜40歳、40〜45歳、45〜50歳、50〜55歳、55〜60歳、又は60歳よりも年上である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、60〜65歳、65〜70歳、70〜75歳、75〜80歳、又は80歳よりも年上である。
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、末期腎疾患を有する。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、透析を受けている。
ある実施態様において、本明細書に記載のAKIを治療する方法は、治療有効量の胎盤幹細胞及び第二の療法(例えば、第二の治療剤)の対象への投与を含む。該第二の治療剤は、該対象におけるAKIの治療で使用される薬剤又はAKIの一因もしくは原因となる疾患もしくは状態の治療で使用される薬剤であることができる。ある実施態様において、該第二の療法は、ステロイド、抗生物質、利尿薬、免疫調節剤、又は免疫抑制剤である。具体的な実施態様において、該第二の療法は、透析である。別の具体的な実施態様において、該第二の療法は、高血圧の治療で使用される療法、例えば、利尿薬、β遮断薬、ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、α遮断薬、α2受容体アンタゴニスト、末梢アドレナリン受容体、又は血管拡張薬(vasoldilator)である。そのような実施態様に従って、胎盤幹細胞を、対象に、該第二の療法の投与の前に、その後に、又はそれと同時に投与することができる。「前に」又は「後に」とは、該胎盤幹細胞が、該第二の療法と比べて、約15分を超える時間、例えば、約20、30、40、50、60分、又はそれより長い時間のいずれかを超える時間を隔てて投与されることを意味する。「同時に」とは、胎盤幹細胞の投与が、該第二の療法の投与と重なるか、又は該投与の約15分以内に行われることを意味する。
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対象に、胎盤幹細胞を、抗血栓剤、例えば、デキストラン、ヘパリン、ジクマロール、アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、及びアブシキシマブと組み合わせて投与する。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対象に、胎盤幹細胞を、抗炎症剤、例えば、DMSO、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンと組み合わせて投与する。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対象に、胎盤幹細胞を、抗血栓剤及び抗炎症剤と組み合わせて投与する。そのような実施態様に従って、胎盤幹細胞を、対象に、抗血栓剤及び/又は抗炎症剤の投与の前に、その後に、又はそれと同時に投与することができる。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞を、抗血栓剤及び抗炎症剤を含む組成物に入れて、本明細書に記載の方法に従って、AKIを有する対象に投与する。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞を、デキストラン及びDMSOを含む組成物に入れて、本明細書に記載の方法に従って、AKIを有する対象に投与する。
AKIと関連する症状もしくは合併症を有しているか、又はそれを経験している対象を、AKIの進行中の任意の時点で、又はAKIの症状もしくは合併症が現われる前の任意の時点で、胎盤幹細胞(及び任意に、1以上の追加の治療剤)で治療することができる。例えば、対象を、AKIの症状もしくは合併症が現われた直後に、又はAKIの症状もしくは合併症が現われてから1、2、3、4、5、6日以内に、又はAKIの症状もしくは合併症が現われてから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、13、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50日、もしくはそれより長い日数以内に、又はAKIの症状もしくは合併症が現われてから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくはそれより長い年数以内に治療することができる。対象を、AKIの臨床経過中に1回又は複数回治療することができる。AKIを治療するための本明細書に記載の方法に従って、AKIを有する対象を、胎盤幹細胞、及び任意に1以上の治療剤で連続的に治療して、AKIの症状又は合併症の発症を予防することができ、例えば、該対象に、胎盤幹細胞を、特定のレジメンに従って(例えば、毎日、1日おきに、週に1回、週に2回、週に3回、2週間毎に、3週間毎に、4週間毎に、月に1回、3カ月毎に、6カ月毎に、又は年に1回)投与することができる。
一実施態様において、AKIを有する対象に、約3億個の用量の胎盤幹細胞を投与する。しかしながら、投与量は、対象の身体特性、例えば、体重によって変動することができ、用量当たり100万〜100億個の胎盤幹細胞、用量当たり1,000万〜10億個、又は用量当たり1億〜5億個の胎盤幹細胞の範囲であることができる。一実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用されるある用量の胎盤幹細胞は、ボーラス注射又はカテーテルによる投与に好適な血液バッグ又は同様のバッグに含まれる。本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、単一用量、又は複数用量で投与することができる。胎盤幹細胞が、本明細書に記載の方法に従って、複数用量で投与される場合、該用量は、AKIの1以上の症状もしくは合併症の発生もしくは進行を予防するように、AKIの1以上の症状もしくは合併症の重症度を軽減するように、又はAKIの1以上の症状もしくは合併症を管理もしくは改善するように設計された治療レジメンの一部であることができる。別の実施態様において、AKIを有する対象に、約、少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個の用量の胎盤幹細胞が投与される。
本明細書に記載の方法において有用な胎盤幹細胞は、本明細書に開示される胎盤幹細胞のいずれかであることができる(第4.2節を参照されたい)。具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、CD10+、CD34-、CD105+胎盤幹細胞である。別の具体的な実施態様において、該CD10+、CD34-、CD105+胎盤幹細胞はさらに、CD200+である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞はCD200を発現し、かつHLA-Gを発現しないか; CD73、CD105、及びCD200を発現するか; CD200及びOCT-4を発現するか;又はCD73及びCD105を発現し、かつHLA-Gを発現しないか;又は前述のもののいずれかの組合せである。具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、CD10+、CD105+、CD200+、CD34-胎盤幹細胞である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、CD117-である。
一実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、細胞バンク、例えば、胎盤幹細胞バンクに由来するものである。
(4.2 胎盤幹細胞及び胎盤幹細胞集団)
本明細書中に記載される方法に使用するための胎盤幹細胞は、胎児起源又は母親起源のどちらかであることができる(すなわち、母親又は胎児のどちらかの遺伝子型を有することができる)。胎盤幹細胞の集団、又は胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、もっぱら胎児起源もしくはもっぱら母親起源の胎盤幹細胞を含むことができ、又は胎児起源と母親起源の両方の胎盤幹細胞の混合集団を含むことできる。胎盤幹細胞、及び胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、以下で論じられる形態的特性、マーカー特性、及び培養特性によって特定し、選択することができる。
本明細書に開示される方法において有用な、単離された胎盤幹細胞、例えば、単離された多能性胎盤幹細胞、及びそのような単離された胎盤幹細胞の集団は、多能性細胞又は幹細胞の特徴を有し、かつ該幹細胞を含む細胞又は細胞の集団を同定及び/又は単離するために使用することができる複数のマーカーを発現する組織培養表面接着性ヒト胎盤幹細胞である。本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞及び胎盤細胞集団(例えば、2以上の単離された胎盤幹細胞)には、胎盤、又はその任意の部分(例えば、絨毛膜、胎盤葉など)から直接得られる胎盤幹細胞、及び胎盤細胞含有細胞集団が含まれる。単離された胎盤細胞集団には、培養下の単離された胎盤幹細胞の集団(すなわち、2以上の該単離された胎盤幹細胞)、及び容器、例えば、バッグ中の集団も含まれる。本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞は、骨髄由来間葉系細胞でも、脂肪由来間葉系幹細胞でも、臍帯血、胎盤血、もしくは末梢血から得られる間葉系細胞でもない。本明細書に記載の方法及び組成物において有用な胎盤細胞、例えば、胎盤多能性細胞及び胎盤幹細胞は、本明細書に、並びに例えば、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第7,311,904号;第7,311,905号;及び第7,468,276号;並びに米国特許出願公開第2007/0275362号に記載されている。
(4.2.1 物理的及び形態的特性)
培養下において、本明細書に提示される方法で使用される胎盤幹細胞は、いくつかの細胞質突起が中央の細胞体から伸びている、全般的に線維芽細胞様の星状の外観をしている。しかしながら、該胎盤幹細胞は、線維芽細胞よりも多くの数のそのような突起を示すので、該胎盤幹細胞は、同じ条件下で培養された線維芽細胞と形態的に区別できる。形態的に、胎盤幹細胞は、培養下で一般により丸みを帯びた又は敷石状の形態を示す造血幹細胞とも区別可能である。
(4.2.2 細胞表面マーカー、分子マーカー、及び遺伝子マーカー)
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、初代培養で又は細胞培養で培養したとき、組織培養基材、例えば、組織培養容器表面(例えば、組織培養プラスチック)に接着し;かつCD10+、CD34-、CD105+である。別の実施態様において、本明細書に記載の方法で使用されるCD10+、CD34-、CD105+胎盤幹細胞はさらに、CD200+である。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、神経表現型の細胞、骨表現型の細胞、及び/又は軟骨表現型の細胞に分化する潜在能力を有する。
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD45-又はCD90+である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD80-及びCD86-である。ある具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞はさらに、例えば、RT-PCRによって検出可能な、OCT-4+である。
本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞は通常、例えば、免疫局在化によって検出可能な、α平滑筋アクチン(αSMA)を発現しない。本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞は通常、フローサイトメトリーによって検出可能な、MHCクラスI分子、例えば、HLA-A,B,Cを発現しない。
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+であり、かつCD38-、CD45-、CD80-、CD86-、CD133-、HLA-DR,DP,DQ-、SSEA3-、SSEA4-、CD29+、CD44+、CD73+、CD90+、CD105+、HLA-A,B,C+、PDL1+、及び/又はABC-p+のうちの1つ又は複数である。また別の実施態様において、任意のそのような細胞はまた、RT-PCRによって検出可能な、Oct-4+である。他の実施態様において、上記のCD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞のいずれかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD29+、CD38-、CD44+、CD54+、SH3+、又はSH4+のうちの1つ又複数である。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD117-、CD133-、KDR-(VEGFR2-)、HLA-A,B,C+、HLA-DP,DQ,DR-、もしくはプログラム死-1リガンド(PDL1)+のうちの1つもしく複数、又はこれらの任意の組合せである。
別の実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD13+、CD29+、CD33+、CD38-、CD44+、CD45-、CD54+、CD62E-、CD62L-、CD62P-、SH3+(CD73+)、SH4+(CD73+)、CD80-、CD86-、CD90+、CD106/VCAM+、CD117-、CD144/VE-カドヘリンlow、CD184/CXCR4-、CD200+、CD133-,ABC-p+、KDR-(VEGFR2-)、HLA-A,B,C+、HLA-DP,DQ,DR-、HLA-G-、もしくはプログラム死-1リガンド(PDL1)+のうちの1つもしくは複数、又はその任意の組合せである。また別の実施態様において、任意のそのような細胞はまた、RT-PCRによって検出可能な、Oct-4+である。別の実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD13+、CD29+、CD33+、CD38-、CD44+、CD45-、CD54/ICAM+、CD62E-、CD62L-、CD62P-、SH3+(CD73+)、SH4+(CD73+)、CD80-、CD86-、CD90+、CD106/VCAM+、CD117-、CD144/VE-カドヘリンlow、CD184/CXCR4-、CD200+、CD133-、ABC-p+、KDR-(VEGFR2-)、HLA-A,B,C+、HLA-DP,DQ,DR-、HLA-G-、及びプログラム死-1リガンド(PDL1)+である。
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞のいずれかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、ABC-p+であるか、又は逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって検出可能な、OCT-4+(POU5F1+)であり、ここで、ABC-pは、胎盤特異的ABC輸送体タンパク質(乳癌耐性タンパク質(BCRP)又はミトキサントロン耐性タンパク質(MXR)としても知られる)であり、OCT-4は、オクタマー-4タンパク質(POU5F1)である。
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞のいずれかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、MHC-I+(例えば、HLA-A,B,C+)、MHC-II-(例えば、HLA-DP,DQ,DR-)、又はHLA-G-のうちの1つ又複数である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の胎盤幹細胞のいずれかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、MHC-I+(例えば、HLA-A,B,C+)、MHC-II-(例えば、HLA-DP,DQ,DR-)、及びHLA-G-である。
ある実施態様において、本明細書に提供される方法は、本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞の集団を含む組成物の投与を含む。例となる細胞の集団は、本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を含み、ここで、該細胞の集団は、例えば、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%単離された胎盤幹細胞を含む;すなわち、該集団内の細胞の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%は、単離された胎盤幹細胞である。
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞の集団内の細胞の少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、90%、85%、90%、95%、98%、又は99%は、非母親起源である。
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤幹細胞の集団は、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞の特徴、例えば、上記の特徴を示さない胎盤細胞から単離されている。
上記の実施態様のいずれかの別の具体的な実施態様において、列挙された細胞マーカー(複数可)(例えば、分化マーカー又は免疫原性マーカー(複数可)のクラスター)の発現は、フローサイトメトリーによって決定される。別の具体的な実施態様において、該マーカー(複数可)の発現は、RT-PCRによって決定される。
遺伝子プロファイリングにより、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞、及びそのような単離された胎盤幹細胞の集団が、他の細胞、例えば、間葉系幹細胞、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞と区別可能であることが確認される。本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞は、その発現が、単離された胎盤幹細胞において、骨髄由来間葉系幹細胞と比較して、有意により高い1以上の遺伝子の発現に基づいて、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞と区別することができる。例えば、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞は、細胞を同等の条件下で成長させたとき、その発現が、単離された胎盤幹細胞において、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも有意に高い(すなわち、少なくとも2倍高い)1以上の遺伝子の発現に基づいて、骨髄由来間葉系幹細胞と区別することができ、ここで、該1以上の遺伝子は、ACTG2、ADARB1、AMIGO2、ARTS-1、B4GALT6、BCHE、C11orf9、CD200、COL4A1、COL4A2、CPA4、DMD、DSC3、DSG2、ELOVL2、F2RL1、FLJ10781、GATA6、GPR126、GPRC5B、ICAM1、IER3、IGFBP7、IL1A、IL6、IL18、KRT18、KRT8、LIPG、LRAP、MATN2、MEST、NFE2L3、NUAK1、PCDH7、PDLIM3、PKP2、RTN1、SERPINB9、ST3GAL6、ST6GALNAC5、SLC12A8、TCF21、TGFB2、VTN、ZC3H12A、又は前述のもののいずれかの組合せである。例えば、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる米国特許出願公開第2007/0275362号を参照されたい。ある具体的な実施態様において、該1以上の遺伝子の該発現は、例えば、RT-PCR、又は例えば、U133-Aマイクロアレイ(Affymetrix)を用いるマイクロアレイ解析によって決定される。別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、DMEM-LG(例えば、Gibco製); 2%胎仔ウシ血清(例えば、Hyclone Labs製); 1×インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS); 1×リノール酸-ウシ血清アルブミン(LA-BSA); 10-9Mデキサメタゾン(例えば、Sigma製); 10-4Mアスコルビン酸2-リン酸(例えば、Sigma製);上皮成長因子10ng/mL(例えば、R&D Systems製);及び血小板由来成長因子(PDGF-BB) 10ng/mL(例えば、R&D Systems製)を含む培地中で、何回かの集団倍加、例えば、約3〜約35回の集団倍加の間、培養したとき、該1以上の遺伝子を発現する。別の具体的な実施態様において、該胎盤細胞に特異的な遺伝子は、CD200である。
これらの遺伝子の代表的で具体的な配列は、GenBankにおいて、受託番号NM_001615(ACTG2)、BC065545(ADARB1)、(NM_181847(AMIGO2)、AY358590(ARTS-1)、BC074884(B4GALT6)、BC008396(BCHE)、BC020196(C11orf9)、BC031103(CD200)、NM_001845(COL4A1)、NM_001846(COL4A2)、BC052289(CPA4)、BC094758(DMD)、AF293359(DSC3)、NM_001943(DSG2)、AF338241(ELOVL2)、AY336105(F2RL1)、NM_018215(FLJ10781)、AY416799(GATA6)、BC075798(GPR126)、NM_016235(GPRC5B)、AF340038(ICAM1)、BC000844(IER3)、BC066339(IGFBP7)、BC013142(IL1A)、BT019749(IL6)、BC007461(IL18)、(BC072017)KRT18、BC075839(KRT8)、BC060825(LIPG)、BC065240(LRAP)、BC010444(MATN2)、BC011908(MEST)、BC068455(NFE2L3)、NM_014840(NUAK1)、AB006755(PCDH7)、NM_014476(PDLIM3)、BC126199(PKP-2)、BC090862(RTN1)、BC002538(SERPINB9)、BC023312(ST3GAL6)、BC001201(ST6GALNAC5)、BC126160又はBC065328(SLC12A8)、BC025697(TCF21)、BC096235(TGFB2)、BC005046(VTN)、及びBC005001(ZC3H12A)に見出すことができる。
ある具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、該細胞を同等の条件下で成長させたとき、ACTG2、ADARB1、AMIGO2、ARTS-1、B4GALT6、BCHE、C11orf9、CD200、COL4A1、COL4A2、CPA4、DMD、DSC3、DSG2、ELOVL2、F2RL1、FLJ10781、GATA6、GPR126、GPRC5B、ICAM1、IER3、IGFBP7、IL1A、IL6、IL18、KRT18、KRT8、LIPG、LRAP、MATN2、MEST、NFE2L3、NUAK1、PCDH7、PDLIM3、PKP2、RTN1、SERPINB9、ST3GAL6、ST6GALNAC5、SLC12A8、TCF21、TGFB2、VTN、及びZC3H12Aの各々を、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも検出可能な程度に高いレベルで発現する。
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、CD200及びARTS1(1型腫瘍壊死因子のアミノペプチダーゼ調節因子); ARTS-1及びLRAP(白血球由来アルギニンアミノペプチダーゼ); IL6(インターロイキン-6)及びTGFB2(形質転換成長因子、β2); IL6及びKRT18(ケラチン18); IER3(前初期応答(immediate early response)3)、MEST(中胚葉特異的転写物ホモログ)及びTGFB2; CD200及びIER3; CD200及びIL6; CD200及びKRT18; CD200及びLRAP; CD200及びMEST; CD200及びNFE2L3(核因子(赤血球由来2)様3);又はCD200及びTGFB2を、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも検出可能な程度に高いレベルで発現し、ここで、該骨髄由来間葉系幹細胞は、該単離された胎盤幹細胞が経た継代数と同等の培養継代数を経たものである。他の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、ARTS-1、CD200、IL6、及びLRAP; ARTS-1、IL6、TGFB2、IER3、KRT18、及びMEST ;CD200、IER3、IL6、KRT18、LRAP、MEST、NFE2L3、及びTGFB2; ARTS-1、CD200、IER3、IL6、KRT18、LRAP、MEST、NFE2L3、及びTGFB2;又はIER3、MEST、及びTGFB2を、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも検出可能な程度に高いレベルで発現し、ここで、該骨髄由来間葉系幹細胞は、該単離された胎盤幹細胞が経た継代数と同等の培養継代数を経たものである。
上に言及した遺伝子の発現は、標準的な技術によって評価することができる。例えば、遺伝子(複数可)の配列に基づくプローブを個々に選択し、従来の技術によって構築することができる。該遺伝子の発現は、例えば、該遺伝子のうちの1つ又は複数に対するプローブを含むマイクロアレイ、例えば、Affymetrix GENECHIP(登録商標)ヒトゲノムU133A 2.0アレイ(Santa Clara, California)で評価することができる。これらの遺伝子の発現は、特定のGenBank受託番号の配列が修正された場合でも評価することができる。なぜなら、修正された配列に特異的なプローブを、周知の標準的な技術を用いてすぐに作製することができるからである。
これらの遺伝子の発現のレベルを用いて、単離された胎盤幹細胞の集団の素性を確認するか、細胞の集団が少なくとも複数の単離された胎盤幹細胞を含むものであることを確認するか、又は同様のことを行うことができる。例えば、その素性が確認される単離された胎盤幹細胞の集団は、クローン性であり、例えば、単一の単離された胎盤幹細胞から拡大された単離された胎盤幹細胞の集団、又は胎盤幹細胞の混合集団、例えば、複数の単離された胎盤幹細胞から拡大される単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団、もしくは本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞と少なくとも1つの他のタイプの細胞とを含む細胞の集団であることができる。
これらの遺伝子の発現のレベルを用いて、単離された胎盤幹細胞の集団の素性を確認するか、細胞の集団が少なくとも複数の単離された胎盤幹細胞を含むものであることを確認するか、又は同様のことを行うことができる。例えば、その素性が確認される単離された胎盤幹細胞の集団は、クローン性であり、例えば、単一の単離された胎盤幹細胞から拡大された単離された胎盤幹細胞の集団、又は胎盤幹細胞の混合集団、例えば、複数の単離された胎盤幹細胞から拡大される単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団、もしくは本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞と少なくとも1つの他のタイプの細胞とを含む細胞の集団であることができる。
上記の遺伝子の発現のレベルを用いて、単離された胎盤幹細胞の集団を選択することができる。例えば、細胞の集団、例えば、クローン性に拡大された胎盤幹細胞は、上記の遺伝子のうちの1つ又は複数の発現が、該細胞の集団由来の試料において、骨髄由来間葉系幹細胞の同等の集団よりも有意に高い場合に選択することができる。そのような選択は、複数の単離された胎盤幹細胞集団由来の集団、その素性が不明である複数の細胞集団由来の集団などについてのものであることができる。
単離された胎盤幹細胞は、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞対照における1以上のそのような遺伝子の発現のレベルと比較したときの、該1以上の遺伝子の発現のレベルに基づいて選択することができる。一実施態様において、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞を含む試料における該1以上の遺伝子の発現のレベルが対照として使用される。別の実施態様において、ある条件下で試験される、単離された胎盤幹細胞に対する対照は、該条件下での骨髄由来間葉系幹細胞における該1以上の遺伝子の発現のレベルを表す数値である。
本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞は、初代培養下、又は例えば、DMEM-LG(Gibco)、2%胎仔ウシ血清(FCS)(Hyclone Laboratories)、1×インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS)、1×リノール酸-ウシ血清アルブミン(LA-BSA)、10-9Mデキサメタゾン(Sigma)、10-4Mアスコルビン酸2-リン酸(Sigma)、上皮成長因子(EGF)10ng/ml(R&D Systems)、血小板由来成長因子(PDGF-BB)10ng/ml(R&D Systems)、及び100Uペニシリン/1000Uストレプトマイシンを含む培地中での増殖中に、上記の特徴(例えば、細胞表面マーカー及び/又は遺伝子発現プロファイルの組合せ)を示す。
本明細書に開示される胎盤幹細胞のいずれかのある実施態様において、該細胞は、ヒトである。本明細書に開示される胎盤細胞のいずれかのある実施態様において、該細胞マーカー特徴又は遺伝子発現特徴は、ヒトマーカー又はヒト遺伝子である。
本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞又は該単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団の別の具体的な実施態様において、該細胞又は集団は、拡大されたものであり、例えば、少なくとも、約、もしくは多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20回継代されたものであるか、又は少なくとも、約、もしくは多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、もしくは40回の集団倍加の間、増殖させられたものである。ある実施態様において、該細胞又は集団は、3〜10回、3〜8回、3〜6回、又は4、5、6、7、もしくは8回継代されたものである。ある実施態様において、該細胞又は集団は、3〜5回、5〜10回、10〜15回、15〜20回、20〜25回、又は3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回の集団倍加を経たものである。該単離された胎盤幹細胞又は該単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団の別の具体的な実施態様において、該細胞又は集団は、初代分離株である。本明細書に開示される、単離された胎盤幹細胞、又は単離された胎盤幹細胞を主に含む細胞の集団の別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、胎児起源である(すなわち、胎児の遺伝子型を有する)。
ある実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、成長培地、すなわち、増殖を促進するように調合された培地中での培養中、例えば、成長培地中での増殖中には分化しない。別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、増殖するためにフィーダー層を必要としない。別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、フィーダー細胞層が存在しないというだけの理由で、フィーダー層の非存在下の培養では分化しない。
別の実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤細胞は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性アッセイによって評価したとき、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)について陽性である。そのようなアッセイは、当技術分野で公知である(例えば、Bostian及びBettsの文献、Biochem.J., 173, 787(1978)を参照されたい)。具体的な実施態様において、該ALDHアッセイは、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性のマーカーとして、ALDEFLUOR(登録商標)(Aldagen社, Ashland, Oregon)を使用する。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞の約3%〜約25%がALDHについて陽性である。別の実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、ほぼ同じ細胞数を有しかつ同じ条件下で培養された骨髄由来間葉系幹細胞の集団よりも少なくとも3倍、又は少なくとも5倍高いALDH活性を示す。
本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団のいずれかのある実施態様において、該細胞の集団内の胎盤幹細胞は、母親の遺伝子型を有する細胞を実質的に含まず;例えば、該集団内の胎盤幹細胞の少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%は、胎児の遺伝子型を有する。本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団のいずれかのある他の実施態様において、該胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、母親の遺伝子型を有する細胞を実質的に含まず;例えば、該集団内の細胞の少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%は、胎児の遺伝子型を有する。
上記の単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤幹細胞を含む細胞集団のいずれかの具体的な実施態様において、該細胞、例えば、該細胞の全て、又は該集団内の該細胞の少なくとも約95%もしくは約99%の核型は、正常である。上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞の集団のいずれかの別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞は、非母親起源である。
本明細書に開示される胎盤細胞の実施態様のいずれかの具体的な実施態様において、胎盤細胞は遺伝的に安定であり、正常な2倍体染色体数及び正常な核型を示す。
上記のマーカーの組合せのいずれかを有する、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞、又は本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞の集団を、任意の比で組み合わせることができる。上記の単離された胎盤幹細胞又は集団のうちのいずれか2つ以上を組み合わせて、単離された胎盤幹細胞集団を形成させることができる。例えば、単離された胎盤幹細胞の集団は、上記のマーカー組合せのうちのあるものによって定義される単離された胎盤幹細胞の第一の集団と、上記のマーカー組合せのうちの別のものによって定義される単離された胎盤幹細胞の第二の集団とを含むことができ、ここで、該第一の集団と第二の集団は、約1:99、2:98、3:97、4:96、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、96:4、97:3、98:2、又は約99:1の比で組み合わされる。同様に、上記の単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤幹細胞集団のうちのいずれか3つ、4つ、5つ、又はそれより多くを組み合わせることができる。
本明細書に記載の方法及び組成物において有用な単離された胎盤幹細胞は、例えば、酵素的消化(第4.5.3節参照)もしくは灌流(第4.5.4節参照)を伴うか又はこれらを伴わない胎盤組織の破壊によって得ることができる。例えば、単離された胎盤幹細胞の集団は、臍帯血が抜かれ、かつ残留血液を取り除くように灌流された哺乳動物胎盤を灌流すること;該胎盤を灌流溶液で灌流すること;及び該灌流溶液を回収すること(ここで、灌流後の該灌流溶液は、単離された胎盤幹細胞を含む胎盤細胞の集団を含む);及び該細胞の集団から該胎盤幹細胞を単離することを含む方法に従って産生することができる。具体的な実施態様において、灌流溶液を臍帯静脈と臍帯動脈の両方に通し、それが胎盤から浸出した後に回収する。別の具体的な実施態様において、灌流溶液を臍帯静脈に通して臍帯動脈から回収するか、又は臍帯動脈に通して臍帯静脈から回収する。
様々な実施態様において、胎盤の灌流から得られる細胞の集団内に含まれる、単離された胎盤幹細胞は、該胎盤幹細胞の集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも99.5%である。別の具体的な実施態様において、灌流によって回収される単離された胎盤幹細胞は、胎児細胞と母親細胞を含む。別の具体的な実施態様において、灌流によって回収される単離された胎盤幹細胞は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも99.5%胎児の細胞である。
別の具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、灌流によって回収される(単離される)、本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞の集団を含む組成物であり、ここで、該組成物は、胎盤幹細胞を単離するために使用される灌流溶液の少なくとも一部を含む。
本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞の集団は、組織破壊酵素で胎盤組織を消化して、胎盤幹細胞を含む胎盤細胞の集団を得ること、及び該胎盤細胞の残りから胎盤幹細胞を単離すること、又は実質的に単離することにより産生することができる。胎盤の全体又は任意の部分を消化して、本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を得ることができる。具体的な実施態様において、例えば、該胎盤組織は、全胎盤(例えば、臍帯を含む)、羊膜、絨毛膜、羊膜と絨毛膜の組合せ、又は前述のもののいずれかの組合せであることができる。他の具体的な実施態様において、組織破壊酵素は、トリプシン又はコラゲナーゼである。様々な実施態様において、胎盤を消化することにより得られる細胞の集団に含まれる単離された胎盤幹細胞は、該胎盤細胞の集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも99.5%である。
上記の単離された胎盤幹細胞の集団、及び単離された胎盤幹細胞の集団は、通常、約、少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個、又はそれより多くの単離された胎盤幹細胞を含むことができる。本明細書に記載の方法において有用な単離された胎盤幹細胞の集団は、例えば、トリパンブルー排出によって決定したとき、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%の生存している単離された胎盤幹細胞を含む。
上記の胎盤幹細胞、又は胎盤幹細胞の集団のいずれかについて、胎盤幹細胞の細胞又は集団は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、もしくは20回、又はそれより多く継代されたか、或いは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、もしくは40回、又はそれより多くの集団倍加の間拡大された細胞であり、或いはこれらの細胞を含むことができる。ある実施態様において、該細胞又は胎盤幹細胞の集団は、3〜10回、3〜8回、3〜6回、又は4、5、6、7、もしくは8回継代された細胞であるか、或いはこれらの細胞を含むことができる。ある実施態様において、該細胞又は胎盤幹細胞の集団は、3〜5回、5〜10回、10〜15回、15〜20回、20〜25回、又は3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回の集団倍加を経た細胞であるか、或いはこれらの細胞を含むことができる。
上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞の集団のいずれかの具体的な実施態様において、該細胞、又は該集団内の細胞の少なくとも約95%もしくは約99%の核型は、正常である。上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞集団のいずれかの別の具体的な実施態様において、該細胞、又は該細胞の集団内の細胞は、非母親起源である。
上記のマーカーの組合せのいずれかを有する単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤幹細胞の集団を任意の比で組み合わせることができる。上記の胎盤幹細胞集団のいずれか2つ以上を単離又は濃縮して、胎盤幹細胞集団を形成させることができる。例えば、上記のマーカー組合せのうちのあるものによって定義される胎盤幹細胞の第一の集団を含む単離された胎盤幹細胞の集団を、上記のマーカー組合せのうちの別のものによって定義される胎盤幹細胞の第二の集団と組み合わせることができ、ここで、該第一の集団と第二の集団は、約1:99、2:98、3:97、4:96、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、96:4、97:3、98:2、又は約99:1の比で組み合わされる。同様に、上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞集団のうちのいずれか3つ、4つ、5つ、又はそれより多くを組み合わせることができる。
上記の胎盤幹細胞の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞は、IL-6、IL-8、及び単球走化性タンパク質(MCP-1)を構成的に分泌する。
ある実施態様において、上記の胎盤細胞の集団は、約、少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個、又はそれより多くの胎盤幹細胞を含むことができる。ある実施態様において、上記の胎盤細胞の集団は、約1×105〜約1×106、約1×105〜約1×107、約1×106〜約1×107、約1×106〜約1×108、約1×107〜約1×108、約1×107〜約1×109、約1×108〜約1×1010、約1×109〜約1×1010、又は約1×1010〜約1×1011個の胎盤幹細胞を含むことができる。
ある実施態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞は、1〜100ng/mLのVEGFへの4〜21日間の暴露後に、免疫局在化によって検出したとき、CD34を発現しない。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、組織培養プラスチックに接着する。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、例えば、血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、又は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの血管新生因子の存在下、例えば、MATRIGEL(商標)などの基材上で培養したとき、内皮細胞が新芽又は管状構造を形成するのを誘導する。
別の態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞、或いは細胞の集団、例えば、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞の集団、又は該細胞の集団内の細胞の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、もしくは98%が胎盤幹細胞である細胞の集団は、VEGF、HGF、IL-8、MCP-3、FGF2、フォリスタチン、G-CSF、EGF、ENA-78、GRO、IL-6、MCP-1、PDGF-BB、TIMP-2、uPAR、又はガレクチン-1のうちの1つもしく複数、又は全てを、例えば、1つ又は複数の細胞が成長する培養培地中に分泌する。別の実施態様において、該胎盤幹細胞は、低酸素条件(例えば、約5%未満のO2)下で、正常酸素条件(例えば、約20%又は約21%O2)と比較して増加したレベルのCD202b、IL-8、及び/又はVEGFを発現する。
別の実施態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞を含む細胞の集団のいずれかは、該胎盤幹細胞と接触している内皮細胞の集団における新芽又は管状構造の形成を引き起こすことができる。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、ヒト内皮細胞と共培養され、これにより、I型及びIV型コラーゲンなどの細胞外マトリクスタンパク質、並びに/又は血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、もしくは塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの血管新生因子の存在下、例えば、胎盤コラーゲン又はMATRIGEL(商標)などの基材中又は該基材上で、少なくとも4日間培養したとき、新芽もしくは管状構造が形成され、又は内皮細胞新芽の形成が支持される。別の実施態様において、本明細書に記載の胎盤幹細胞を主に含む細胞の集団のいずれかは、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、又はインターロイキン-8(IL-8)などの血管新生因子を分泌し、それにより、I型及びIV型コラーゲンなどの細胞外マトリクスタンパク質の存在下、例えば、胎盤コラーゲン又はMATRIGEL(商標)などの基材中又は該基材上で培養したとき、ヒト内皮細胞が新芽又は管状構造を形成するのを誘導することができる。
他の実施態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞を含む上記の細胞の集団のいずれかは、血管新生因子を分泌する。具体的な実施態様において、該細胞の集団は、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び/又はインターロイキン-8(IL-8)を分泌する。他の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞を主に含む細胞の集団は、1以上の血管新生因子を分泌し、それにより、ヒト内皮細胞がインビトロ創傷治癒アッセイで遊走するのを誘導する。他の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞を主に含む細胞の集団は、ヒト内皮細胞、内皮前駆細胞、筋細胞、又は筋芽細胞の成熟、分化、又は増殖を誘導する。
(4.2.3 培養下での成長)
本明細書に提供される方法において有用な胎盤細胞の成長は、あらゆる哺乳動物細胞に関して、成長のために選択される特定の培地に、ある程度依存する。最適条件下において、そのような胎盤幹細胞は、通常、3〜5日で数が倍になる。培養中、本明細書に提供される胎盤幹細胞は、培養下の基材、例えば、組織培養容器(例えば、組織培養ディッシュプラスチック、フィブロネクチンコーティングプラスチックなど)の表面に接着し、単層を形成する。
本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞を含む単離された胎盤細胞の集団は、適切な条件下で培養したとき、胚様体様体を形成することができ、すなわち、細胞の三次元クラスターが接着幹細胞層上に成長する。間葉系幹細胞、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞は、培養下で胚様体様体を発生させない。
(4.2.4 分化)
本明細書に提供される方法において有用な胎盤細胞は、ある実施態様において、運命が決定した(committed)異なる細胞系譜に分化可能である。例えば、ある実施態様において、該胎盤細胞は、脂肪生成系譜、軟骨形成系譜、神経性系譜、又は骨形成系譜の細胞に分化することができる。そのような分化は、例えば、当技術分野で公知の、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞を類似の細胞系譜に分化させるための任意の方法によって、又は本明細書中の別所に記載の方法によって達成することができる。胎盤細胞を特定の細胞系譜に分化させる具体的な方法は、例えば、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第7,311,905号及び第8,057,788号に開示されている。
本明細書に提供される胎盤幹細胞は、インビトロ、インビボ、又はインビトロとインビボの両方で、特定の細胞系譜に分化する能力を示すことができる。具体的な実施態様において、本明細書に提供される胎盤幹細胞は、特定の細胞系譜への分化を引き起こすか、又はそれを促進する条件下に置かれたとき、インビトロで分化することができるが、インビボ、例えば、NOD-SCIDマウスモデルでは、検出可能な程度に分化しない。
(4.3 胎盤細胞を得る方法)
(4.3.1 幹細胞回収組成物)
胎盤細胞は、本明細書に提供される方法に従って回収及び単離することができる。通常、幹細胞は、生理的に許容し得る溶液、例えば、幹細胞回収組成物を用いて、哺乳動物胎盤から得られる。幹細胞回収組成物は、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、関連する米国特許出願公開第2007/0190042号に詳細に記載されている。
幹細胞回収組成物は、幹細胞の回収及び/又は培養に好適な任意の生理的に許容し得る溶液、例えば、生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、クレブス溶液、改変クレブス溶液、イーグル溶液、0.9%NaClなど)、培養培地(例えば、DMEM、HDMEMなど)などを含むことができる。
幹細胞回収組成物は、回収時から培養時まで胎盤細胞を保存する、すなわち、胎盤細胞の死を防止し、又は胎盤細胞の死を遅延させ、死滅する細胞の集団内の胎盤細胞の数を減少させるなどに役立つ1以上の成分を含むことができる。そのような成分は、例えば、アポトーシス阻害剤(例えば、カスパーゼ阻害剤もしくはJNK阻害剤);血管拡張剤(例えば、硫酸マグネシウム、抗高血圧薬、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出ホルモン、ニトロプルシドナトリウム、ヒドララジン、アデノシン三リン酸、アデノシン、インドメタシンもしくは硫酸マグネシウム、ホスホジエステラーゼ阻害剤など);壊死阻害剤(例えば、2-(1H-インドール-3-イル)-3-ペンチルアミノ-マレイミド、ピロリジンジチオカルバメート、もしくはクロナゼパム); TNF-α阻害剤;及び/又は酸素運搬ペルフルオロカーボン(例えば、臭化ペルフルオロオクチル、臭化ペルフルオロデシルなど)であることができる。
幹細胞回収組成物は、1以上の組織分解酵素、例えば、メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、RNアーゼ、又はDNアーゼなどを含むことができる。そのような酵素としては、コラゲナーゼ(例えば、コラゲナーゼI、II、III、又はIV、クロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)由来のコラゲナーゼなど);ディスパーゼ、サーモリシン、エラスターゼ、トリプシン、LIBERASE、ヒアルロニダーゼなどが挙げられるが、これらに限定されない。
幹細胞回収組成物は、殺菌又は静菌有効量の抗生物質を含むことができる。ある非限定的な実施態様において、抗生物質は、マクロライド(例えば、トブラマイシン)、セファロスポリン(例えば、セファレキシン、セフラジン、セフロキシム、セフプロジル、セファクロール、セフィキシム、もしくはセファドロキシル)、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン(例えば、ペニシリンV)、又はキノロン(例えば、オフロキサシン、シプロフロキサシン、もしくはノルフロキサシン)、テトラサイクリン、ストレプトマイシンなどである。特定の実施態様において、抗生物質は、グラム陽性及び/又はグラム陰性細菌、例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などに対して活性がある。
幹細胞回収組成物は、以下の化合物のうちの1つ又は複数を含むこともできる:アデノシン(約1mM〜約50mM); D-グルコース(約20mM〜約100mM);マグネシウムイオン(約1mM〜約50mM);一実施態様において、内皮の完全性及び細胞の生存能力を維持するのに十分な量で存在する分子量20,000ダルトン超の巨大分子(例えば、約25g/l〜約100g/lもしくは約40g/l〜約60g/lで存在する合成もしくは天然に存在するコロイド、デキストランもしくはポリエチレングリコールなどの多糖類);酸化防止剤(例えば、約25μM〜約100μMで存在するブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、グルタチオン、ビタミンC、もしくはビタミンE);還元剤(例えば、約0.1mM〜約5mMで存在するN-アセチルシステイン);細胞内へのカルシウムの流入を防止する薬剤(例えば、約2μM〜約25μMで存在するベラパミル);ニトログリセリン(例えば、約0.05g/L〜約0.2g/L);一実施態様において、残留血液の凝固の防止を助けるのに十分な量で存在する抗凝血剤(例えば、約1000ユニット/l〜約100,000ユニット/lの濃度で存在するヘパリンもしくはヒルジン);又はアミロライド含有化合物(例えば、約1.0μM〜約5μMで存在するアミロライド、エチルイソプロピルアミロライド、ヘキサメチレンアミロライド、ジメチルアミロライド、もしくはイソブチルアミロライド)。
(4.3.2 胎盤の回収及び取扱い)
通常、ヒト胎盤は、出産後、娩出の直後に回収される。好ましい実施態様において、胎盤は、インフォームドコンセントの後、かつ患者の全病歴を取得してその胎盤と関連付けた後に、患者から回収される。この病歴は、分娩後も継続することが好ましい。そのような病歴を用いて、胎盤又は胎盤から回収される幹細胞のその後の使用を調整することができる。例えば、ヒト胎盤細胞は、その病歴を踏まえて、その胎盤と関係がある乳児のための、又はその乳児の両親、兄弟姉妹、もしくは他の血縁者のための個別化医療目的で使用することができる。
胎盤細胞の回収の前に、臍帯血及び胎盤血を取り除く。ある実施態様において、分娩後に、胎盤内の臍帯血を回収する。胎盤は、従来の臍帯血回収プロセスにかけることができる。通常、針又はカニューレを用い、重力の助けを借りて、胎盤を放血させる(例えば、Andersonの米国特許第5,372,581号; Hesselらの米国特許第5,415,665号を参照されたい)。通常、針又はカニューレを臍帯静脈内に留置し、胎盤を穏やかに揉んで、胎盤からの臍帯血の排出を助けることができる。そのような臍帯血回収は、例えば、LifeBank社, Cedar Knolls, N.J., ViaCord, Cord Blood Registry and Cryocellによって商業的に行われてもよい。臍帯血回収中の組織破壊を最小限に抑えるために、胎盤から重力排出し、それ以上操作しないことが好ましい。
通常、例えば、灌流又は組織分離による臍帯血の回収及び幹細胞の回収のために、胎盤を、分娩室又は出産室から別の場所、例えば、実験室に輸送する。胎盤は、滅菌した断熱輸送装置(胎盤の温度を20〜28℃に維持する)に入れて、例えば、臍帯の近位部をクランプした胎盤を、滅菌したジップロック式プラスチックバッグに入れ、次いで、これを断熱容器に入れることによって、輸送することが好ましい。別の実施態様において、胎盤は、2005年9月19日に出願された係属中の米国特許出願第11/230,760号に概ね記載されているような臍帯血回収キットに入れて輸送される。好ましくは、胎盤は、分娩から4〜24時間後に実験室に移送される。ある実施態様において、臍帯近位部を、臍帯血回収前に、好ましくは、胎盤ディスク(placental disc)への挿入部から4〜5cm(センチメートル)以内のところでクランプする。他の実施態様において、臍帯近位部を、臍帯血回収後、ただし、胎盤のさらなる処理前にクランプする。
胎盤は、幹細胞回収前に、滅菌条件下、かつ室温又は5〜25℃(摂氏)の温度のどちらかで保管することができる。胎盤を灌流して残留臍帯血を取り出す前に、胎盤を、48時間よりも長い期間、好ましくは4〜24時間の期間、保管することができる。胎盤は、5〜25℃(摂氏)の温度で、抗凝血剤溶液に入れて保管することが好ましい。好適な抗凝血剤溶液は、当技術分野で周知である。例えば、ヘパリン又はワルファリンナトリウムの溶液を使用することができる。好ましい実施態様において、抗凝血剤溶液は、ヘパリンの溶液(例えば、1:1000溶液中、1%w/w)を含む。放血された胎盤は、胎盤細胞が回収される前に、最大で36時間保管されることが好ましい。
哺乳動物の胎盤又はその一部は、いったん、一般に上記の通りに回収及び調製されれば、当技術分野で公知の任意の様式で処理することができ、例えば、灌流又は破壊し、例えば、1以上の組織破壊酵素で消化して、幹細胞を得ることができる。
(4.3.3 胎盤組織の物理的破壊及び酵素的消化)
一実施態様において、幹細胞を、例えば、上の第4.5.2節に記載の幹細胞回収組成物を用いて、器官の物理的破壊、例えば、酵素的消化によって、哺乳動物胎盤から回収する。例えば、胎盤又はその一部を、例えば、緩衝液、培地、又は幹細胞回収組成物と接触させながら、例えば、圧搾するか、剪断するか、細かく切り刻むか、さいの目状に切るか、みじん切りにするか、液体に浸して柔らかくするか、又は同様に処理して、その後、その組織を1以上の酵素で消化することができる。胎盤又はその一部を、物理的に破壊し、1以上の酵素で消化し、その後、得られた材料を、緩衝液、培地、又は幹細胞回収組成物に浸漬させ又は混合することができる。任意の物理的破壊方法は、該破壊方法が、例えば、トリパンブルー排出によって決定したとき、該器官中の細胞の複数、より好ましくは過半数、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は99%を生存状態にしておくという条件で使用することができる。
胎盤は、物理的破壊及び/又は酵素的消化並びに幹細胞回収の前に、構成要素に解剖することができる。例えば、胎盤細胞は、羊膜、絨毛膜、胎盤葉、もしくはその任意の組合せ、又は臍帯、或いはこれらの任意の組合せから得ることができる。好ましくは、胎盤細胞は、羊膜及び絨毛膜、又は羊膜-絨毛膜及び臍帯を含む胎盤組織から得られる。一実施態様において、幹細胞は、羊膜-絨毛膜及び臍帯から、約1:1の重量比で得られる。通常、胎盤細胞は、胎盤組織の小さなブロック、例えば、体積が約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、又は約1000立方ミリメートルである胎盤組織のブロックの破壊によって得ることができる。
好ましい幹細胞回収組成物は、1以上の組織破壊酵素、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、パパイン、キモトリプシン、及び/又はエラスターゼを含む。セリンプロテアーゼは、血清中のα2ミクログロブリンによって阻害されることがあるため、消化のために使用される培地は、通常、無血清である。細胞回収の効率を高めるために、EDTA及びDNアーゼが、酵素消化手順において一般的に使用される。幹細胞が粘性の消化産物中に捕捉されることを避けるために、消化残渣を希釈することが好ましい。
組織消化酵素の任意の組合せを使用することができる。胎盤細胞を遊離させるために、プロテアーゼを、組み合わせて、すなわち、2以上のプロテアーゼを同じ消化反応で使用することもできるし、連続的に使用することもできる。例えば、一実施態様において、胎盤又はその一部を、最初に2mg/mlの適量のコラゲナーゼIで30分間消化し、その後、0.25%トリプシンで37℃で10分間消化する。セリンプロテアーゼは、他の酵素の使用後に続けて使用することが好ましい。
別の実施態様において、幹細胞回収組成物を用いて幹細胞を単離する前に、幹細胞を含む幹細胞回収組成物に、又はその中で組織を破壊及び/もしくは消化する溶液に、キレート剤、例えば、エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N'N'-四酢酸(EGTA)又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加することにより、組織をさらに破壊することができる。
胎盤全体又は胎盤の一部が、胎児細胞と母親細胞の両方を含む場合(例えば、胎盤の一部が、絨毛膜又は胎盤葉を含む場合)、回収される胎盤細胞は、胎児起源と母親起源の両方に由来する胎盤細胞の混合物を含むことになることが理解されるであろう。胎盤の一部が、母親細胞(例えば、羊膜)を全く含まないか又は無視できる数しか含まない場合、回収される胎盤細胞は、ほとんど胎児性胎盤細胞だけを含むことになる。
(4.3.4 胎盤の灌流)
胎盤細胞、例えば、胎盤幹細胞は、哺乳動物胎盤の灌流によって得ることもできる。哺乳動物胎盤を灌流して幹細胞を得る方法は、例えば、Haririの米国特許出願公開第2002/0123141号、及び2005年12月29日に出願された「胎盤細胞を回収及び保存するための改良された組成物及び該組成物の使用方法(Improved Composition for Collecting and Preserving Placental cells and Methods of Using the Composition)」という表題の関連する米国仮特許出願第60/754,969号に開示されている。
胎盤細胞は、例えば、灌流溶液としての幹細胞回収組成物を用いて、例えば、胎盤血管系を通して、灌流によって回収することができる。一実施態様において、哺乳動物胎盤は、臍帯動脈と臍帯静脈のどちらか又は両方に灌流溶液を通すことにより灌流される。胎盤を通る灌流溶液の流れは、例えば、胎盤への重力による流れを用いて達成することができる。好ましくは、灌流溶液は、ポンプ、例えば、蠕動ポンプを用いて、胎盤に強制的に通される。臍帯静脈には、例えば、滅菌チューブなどの滅菌された接続器具に接続されたカニューレ、例えば、TEFLON(登録商標)又はプラスチックカニューレを挿入することができる。この滅菌された接続器具は、灌流マニフォールドに接続される。
灌流に備えて、胎盤は、臍帯動脈及び臍帯静脈が胎盤の最も高い位置に位置するように方向付けられる(例えば、吊るされる)ことが好ましい。胎盤は、灌流流体、例えば、本明細書に提供される幹細胞回収組成物を、胎盤血管系に、又は胎盤血管系及び周囲組織に通すことにより灌流することができる。一実施態様において、臍帯動脈及び臍帯静脈は、柔軟なコネクタを介して灌流溶液のリザーバに接続されたピペットに同時に接続される。灌流溶液は、臍帯静脈及び臍帯動脈に通される。灌流溶液は、血管壁から滲出し及び/又は血管壁を通過して胎盤の周囲組織に至り、妊娠中に母親の子宮に付着していた胎盤の表面から、好適な開放容器中に回収される。灌流溶液を臍帯開口部に通して導入し、母親の子宮壁と接続していた胎盤壁の開口部から流出又は浸出させることもできる。別の実施態様において、灌流溶液を臍帯静脈に通して臍帯動脈から回収するか、又は臍帯動脈に通して臍帯静脈から回収する。
一実施態様において、臍帯近位部を灌流中にクランプし、より好ましくは、胎盤ディスクへの臍帯挿入部から4〜5cm(センチメートル)以内のところでクランプする。
放血プロセス中の哺乳動物胎盤からの灌流流体の最初の回収物は、通常、臍帯血及び/又は胎盤血の残留赤血球のために色が付いている。灌流が進み、残留臍帯血細胞が胎盤から洗い流されるにつれて、灌流流体は、より無色になっていく。最初に胎盤を放血させるのに、通常、30〜100ml(ミリリットル)の灌流流体で十分であるが、観察された結果に応じて、より多い又はより少ない灌流流体を使用することができる。
胎盤細胞を回収するために使用される灌流液の体積は、回収されるべき幹細胞の数、胎盤の大きさ、単一の胎盤から行われるべき回収の回数などに応じて変動し得る。様々な実施態様において、灌流液の体積は、50mL〜5000mL、50mL〜4000mL、50mL〜3000mL、100mL〜2000mL、250mL〜2000mL、500mL〜2000mL、又は750mL〜2000mLであり得る。通常、胎盤は、放血後、700〜800mLの灌流液を用いて灌流される。
胎盤は、数時間又は数日間にわたって、複数回灌流することができる。胎盤が複数回灌流されることになる場合、それを、無菌条件下、容器(container)又は他の好適な容器(vessel)中で維持又は培養し、幹細胞回収組成物、或いは抗凝血剤(例えば、ヘパリン、ワルファリンナトリウム、クマリン、ビスヒドロキシクマリン)を含むかもしくはこれを含まない、及び/又は抗菌剤(例えば、β-メルカプトエタノール(0.1mM);ストレプトマイシン(例えば、40〜100μg/ml)、ペニシリン(例えば、40U/ml)、アンホテリシンB(例えば、0.5μg/ml)などの抗生物質を含むかもしくはこれらを含まない、標準的な灌流溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)などの通常の生理食塩水)を用いて灌流することができる。一実施態様において、単離された胎盤は、該胎盤が、灌流及び灌流液の回収前に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、もしくは24時間、或いは2もしくは3日間、又はそれより長い日数の間、維持又は培養されるように、灌流液を回収することなく、ある期間維持又は培養される。灌流された胎盤は、さらにもう1回以上、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、又はそれより長い時間、維持し、例えば、700〜800mLの灌流流体を用いて、再び灌流することができる。胎盤は、1、2、3、4、5回、又はそれより多くの回数、例えば、1、2、3、4、5、又は6時間に1回、灌流することができる。好ましい実施態様において、回収される有核細胞の数が100細胞/mlを下回るまで、胎盤の灌流と、灌流溶液、例えば、幹細胞回収組成物の回収が繰り返される。異なる時点での灌流液をさらに主観的に(subjectly)処理して、時間に応じた細胞、例えば、幹細胞の集団を回収することができる。異なる時点からの灌流液をプールすることもできる。
任意の理論に束縛されることを望まないが、胎盤の放血及び十分な時間の灌流の後、胎盤細胞は、放血及び灌流された胎盤の微小循環に移動すると考えられ、この微小循環中で、該胎盤幹細胞を、好ましくは、灌流によって回収容器中に洗い入れることにより回収する。単離された胎盤を灌流することは、残留臍帯血を除去するだけではなく、胎盤に酸素を含む適切な栄養を提供するためにも役立つ。胎盤は、残留臍帯血細胞を除去するために使用したのと同様の溶液を用いて、好ましくは抗凝血剤を添加しないで、培養及び灌流することができる。
本明細書に記載の灌流は、該溶液で灌流されていないか、又は幹細胞を得るために別の方法で(例えば、組織破壊、例えば、酵素的消化によって)処理されていない哺乳動物胎盤から得ることができる数よりも有意に多くの胎盤細胞の回収をもたらす。この文脈において、「有意により多くの」とは、少なくとも10%多いことを意味する。灌流は、例えば、胎盤又はその一部が培養された培養培地から得ることができる胎盤細胞の数よりも有意に多くの胎盤細胞を生じさせる。
幹細胞は、1以上のプロテアーゼ又は他の組織破壊酵素を含む溶液を用いる灌流によって、胎盤から単離することができる。具体的な実施態様において、胎盤又はその一部(例えば、羊膜、羊膜及び絨毛膜、胎盤小葉もしくは胎盤葉、又は前述のもののいずれかの組合せ)を25〜37℃にし、200mLの培養培地中で1以上の組織破壊酵素とともに30分間インキュベートする。灌流液由来の細胞を回収し、4℃にし、5mM EDTA、2mMジチオスレイトール、及び2mMβ-メルカプトエタノールを含む冷たい阻害剤混合物で洗浄する。数分後、胎盤細胞を、本明細書中の別所に記載の冷たい(例えば、4℃の)幹細胞回収組成物で洗浄する。
受け皿法(pan method)を用いる灌流、すなわち、灌流液が胎盤の母親側から滲出した後に回収される灌流によって、胎児細胞と母親細胞の混合物が得られることが理解されよう。結果として、この方法によって回収された細胞は、胎児起源と母親起源の両方の胎盤細胞の混合集団を含む。対照的に、灌流流体が1つ又は2つの胎盤血管に通され、単に残りの血管を通して回収される、胎盤血管系に通すだけの灌流は、ほとんど胎児起源のみの胎盤細胞の集団の回収という結果をもたらす。
(4.3.5 胎盤細胞の単離、選別、及び特徴付け)
哺乳動物胎盤由来の幹細胞は、灌流によって得られるものであれ、酵素的消化によって得られるものであれ、最初に、フィコール勾配遠心分離によって他の細胞から純化する(すなわち、単離する)ことができる。そのような遠心分離は、遠心分離速度などについて、任意の標準的なプロトコルに従うことができる。一実施態様において、例えば、胎盤から回収された細胞を、室温で15分間の5000×gでの遠心分離(これによって、細胞は、例えば、混入する破片及び血小板から分離される)によって灌流液から回収する。別の実施態様において、胎盤灌流液を約200mlに濃縮し、Ficoll上に穏やかに重層し、22℃で20分間、約1100×gで遠心分離し、細胞の低密度界面層をさらなる処理のために回収する。
細胞ペレットを、新鮮な幹細胞回収組成物、又は幹細胞維持に好適な培地、例えば、2U/mlヘパリン及び2mM EDTA(GibcoBRL, NY)を含むIMDM無血清培地に再懸濁させることができる。全単核細胞画分を、例えば、製造業者の推奨手順に従って、Lymphoprep(Nycomed Pharma, Oslo, Norway)を用いて単離することができる。
本明細書で使用されるように、胎盤細胞、例えば、胎盤幹細胞を「単離すること」は、該幹細胞が無傷の哺乳動物胎盤内で通常関連している細胞の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%を取り除くことを意味する。器官由来の幹細胞は、該幹細胞が無傷の器官内で通常関連している細胞の50%未満を含む細胞の集団内に存在する場合、「単離された」ものとなる。
灌流又は消化によって得られる胎盤細胞を、例えば、0.2%EDTA(Sigma, St. Louis MO)を含む0.05%トリプシンの溶液を用いる示差的なトリプシン処理によって、例えば、さらに又は最初に単離することができる。他の接着性の集団が、通常、20〜30分間を超えるインキュベーションを必要とするのに対し、胎盤細胞は、通常、約5分以内にプラスチック表面から剥離するので、示差的なトリプシン処理が可能である。剥離した胎盤細胞は、トリプシン処理、及び例えば、トリプシン中和溶液(TNS, Cambrex)を用いるトリプシン中和の後、回収することができる。接着細胞の単離の一実施態様において、一定分量の、例えば、約5〜10×106個の細胞を、いくつかのT-75フラスコ、好ましくは、フィブロネクチンコーティングしたT75フラスコの各々に入れる。そのような実施態様において、該細胞を、市販の間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)(Cambrex)を用いて培養し、組織培養インキュベーター(37℃、5%CO2)内に入れることができる。10〜15日後、接着していない細胞を、PBSで洗浄することによりフラスコから除去する。その後、PBSをMSCGMに置き換える。フラスコを、様々な接着細胞型の存在について、特に、線維芽細胞様細胞の集塊の同定及び拡大のために、毎日調べることが好ましい。
哺乳動物胎盤から回収される細胞の数及び種類は、例えば、フローサイトメトリー、細胞選別、免疫細胞化学(例えば、組織特異的抗体もしくは細胞マーカー特異的抗体による染色)、蛍光活性化細胞選別(FACS)、磁気活性化細胞選別(MACS)などの標準的な細胞検出技術を用いて形態及び細胞表面マーカーの変化を測定することにより、光学顕微鏡もしくは共焦点顕微鏡法を用いて細胞の形態を調べることにより、並びに/又はPCR及び遺伝子発現プロファイリングなどの当技術分野で周知の技術を用いて遺伝子発現の変化を測定することによりモニタリングすることができる。これらの技術は、1以上の特定のマーカーについて陽性である細胞を特定するためにも使用することができる。例えば、CD34に対する抗体を用いて、上記の技術を用いて、細胞が、検出可能な量のCD34を含むかどうかを決定することができ;もし含むのであれば、その細胞はCD34+である。同様に、細胞が、RT-PCRによって検出されるのに十分なOCT-4 RNA、又は最終分化した細胞、例えば、線維芽細胞よりも有意に多くのOCT-4 RNAを産生するならば、その細胞は、OCT-4+である。細胞表面マーカー(例えば、CD34などのCDマーカー)に対する抗体、及びOCT-4などの幹細胞特異的遺伝子の配列は、当技術分野で周知である。
胎盤細胞、特に、フィコール分離、示差接着、又はその両方の組合せによって単離された細胞を、例えば、蛍光活性化細胞選別装置(FACS)を用いて選別することができる。蛍光活性化細胞選別(FACS)は、細胞を含む粒子を、該粒子の蛍光特性に基づいて分離するための周知の方法である(Kamarchの文献、1987, Methods Enzymol, 151:150-165)。対象粒子中の蛍光部分のレーザーによる励起によって、わずかな電荷が生じ、混合物からの正の粒子と負の粒子の電磁分離が可能になる。一実施態様において、細胞表面マーカー特異的抗体又はリガンドを別々の蛍光標識で標識する。細胞を細胞選別装置に通して処理し、使用される抗体に結合する能力に基づく細胞の分離が可能になる。FACSで選別された粒子を、96ウェル又は384ウェルプレートの対象ウェルに直接堆積させて、分離及びクローニングを容易にすることができる。
ある選別スキームにおいて、胎盤由来の幹細胞を、例えば、マーカーCD10、CD34、CD38、CD44、CD45、CD73、CD80、CD86、CD90、CD105、CD200、SSEA3、SSEA4、及び/又はHLA-Gの発現に基づいて選別する。これは、幹細胞を培養下でのその接着特性に基づいて選択する手順と関連させて達成することができる。例えば、幹細胞の接着性による選択は、マーカー発現に基づく選別の前又は後に行うことができる。一実施態様において、例えば、細胞を、最初に、そのCD34発現に基づいて選別し; CD34-細胞を保持し、CD200+ HLA-G+である細胞を他の全てのCD34-細胞から分離する。別の実施態様において、胎盤由来の細胞を、そのマーカーCD200及び/又はHLA-Gの発現に基づいて選別し;例えば、これらのマーカーのどちらかを提示する細胞を、さらなる使用のために単離する。例えば、CD200及び/又はHLA-Gを発現する細胞を、具体的な実施態様において、そのCD73及び/もしくはCD105、又は抗体SH2、SH3、もしくはSH4によって認識されるエピトープの発現、或いはCD34、CD38、又はCD45の発現の欠如に基づいて、さらに選別することができる。例えば、一実施態様において、胎盤細胞を、CD200、HLA-G、CD73、CD105、CD34、CD38、及びCD45の発現又はその欠如によって選別し、CD200+、HLA-G-、CD73+、CD105+、CD34-、CD38-、及びCD45-である胎盤細胞を、さらなる使用のために他の胎盤細胞から単離する。別の選別システムにおいて、胎盤細胞を、CD10、CD105、及びCD200の発現によって選別し、得られた集団から、CD34を発現する細胞を除外する。
別の実施態様において、磁気ビーズを用いて、細胞を分離することができる。該細胞を、磁気ビーズ(直径0.5〜100μm)に結合するその能力に基づいて粒子を分離する方法である磁気活性化細胞選別(MACS)技術を用いて選別することができる。特定の細胞表面分子又はハプテンを特異的に認識する抗体の共有結合的付加を含む、種々の有用な修飾を、磁気ミクロスフェアに対して行うことができる。次いで、ビーズを細胞と混合し、結合させる。次いで、細胞を磁場に通して、特異的な細胞表面マーカーを有する細胞を完全に分離する。一実施態様において、次いで、これらの細胞を単離し、さらなる細胞表面マーカーに対する抗体に結合した磁気ビーズと再び混合することができる。該細胞を再び磁場に通して、両方の抗体に結合した細胞を単離する。次いで、そのような細胞を希釈して、別々のディッシュ、例えば、クローン単離用のマイクロタイターディッシュに入れることができる。
胎盤細胞を、細胞形態及び成長特性に基づいて特徴付け、及び/又は選別することもできる。例えば、胎盤細胞を、例えば、培養下で線維芽細胞様外観を有するものと特徴付けること、及び/又はそのような外観に基づいて選択することができる。胎盤細胞を、胚様体様体を形成するその能力を有するものと特徴付けること、及び/又はそのような能力に基づいて選択することもできる。一実施態様において、例えば、線維芽細胞様の形状であり、CD73及びCD105を発現し、かつ培養下で1以上の胚様体様体を産生する胎盤細胞を、他の胎盤細胞から単離する。別の実施態様において、培養下で1以上の胚様体様体を産生するOCT-4+胎盤細胞を他の胎盤細胞から単離する。
別の実施態様において、胎盤細胞をコロニー形成単位アッセイによって同定し、特徴付けることができる。コロニー形成単位アッセイは、当技術分野で一般に知られており、例えば、Mesen Cult(商標)培地(Stem Cell Technologies社, Vancouver British Columbia)がある。
胎盤細胞を、生存、増殖能力、及び寿命について、当技術分野で公知の標準的な技術、例えば、(生存を評価するための)トリパンブルー排出アッセイ、二酢酸フルオレセイン取込みアッセイ、ヨウ化プロピジウム取込みアッセイ;及び(増殖を評価するための)チミジン取込みアッセイ、MTT細胞増殖アッセイを用いて評価することができる。寿命は、当技術分野で周知の方法によって、例えば、延長培養下での集団倍加の最大数を決定することにより決定することができる。
胎盤細胞を、当技術分野で公知の他の技術、例えば、所望の細胞の選択的成長(陽性選択)、望ましくない細胞の選択的破壊(陰性選択);例えば、大豆凝集素を用いる、混合集団における示差細胞凝集力に基づく分離;凍結-解凍処置;濾過;従来のゾーン遠心分離;遠心水簸(向流遠心分離);単位重力分離;向流分配;電気泳動;などを用いて、他の胎盤細胞から分離することもできる。
(4.4 胎盤細胞の培養)
(4.4.1 培養培地)
単離された胎盤細胞、又は胎盤細胞集団、又は胎盤細胞が生じる細胞もしくは胎盤組織を用いて、細胞培養物を惹起又は播種することができる。細胞は、通常、コーティングされていないか、又は細胞外マトリクスもしくはリガンド、例えば、ラミニン、コラーゲン(例えば、天然もしくは変性)、ゼラチン、フィブロネクチン、オルニチン、ビトロネクチン、及び細胞外膜タンパク質(例えば、MATRIGEL(BD Discovery Labware, Bedford, Mass.))でコーティングされているかのいずれかの、滅菌された組織培養容器に移される。
胎盤細胞は、幹細胞の培養のために許容し得ると当技術分野で認識されている、任意の培地中及び任意の条件下で培養することができる。好ましくは、該培養培地は、血清を含む。胎盤細胞は、例えば、ITS(インスリン-トランスフェリン-セレン)、LA+BSA(リノール酸-ウシ血清アルブミン)、デキストロース、L-アスコルビン酸、PDGF、EGF、IGF-1、及びペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM-LG(ダルベッコの改変必須培地、低グルコース)/MCDB 201(ニワトリ線維芽細胞基本培地); 10%胎仔ウシ血清(FBS)を含むDMEM-HG(高グルコース); 15%FBSを含むDMEM-HG; 10%FBS、10%ウマ血清、及びヒドロコルチゾンを含むIMDM(イスコフの改変ダルベッコ培地); 10%FBS、EGF、及びヘパリンを含むM199; 10%FBS、GlutaMAX(商標)、及びゲンタマイシンを含むα-MEM(最小必須培地); 10%FBS、GlutaMAX(商標)、及びゲンタマイシンを含むDMEMなどの中で培養することができる。好ましい培地は、2%FBS、ITS、LA+BSA、デキストロース、L-アスコルビン酸、PDGF、EGF、及びペニシリン/ストレプトマイシンを含む、DMEM-LG/MCDB-201である。
胎盤細胞を培養するために使用することができる他の培地としては、DMEM(高又は低グルコース)、イーグルの基本培地、ハムのF10培地(F10)、ハムのF-12培地(F12)、イスコフの改変ダルベッコ培地、間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)、ライボヴィッツのL-15培地、MCDB、DMIEM/F12、RPMI 1640、改良DMEM(Gibco)、DMEM/MCDB201(Sigma)、及びCELL-GRO FREEが挙げられる。
培養培地に、例えば、血清(例えば、胎仔ウシ血清(FBS)、好ましくは、約2〜15%(v/v);ウマ科動物(ウマ)血清(ES);ヒト血清(HS));β-メルカプトエタノール(BME)、好ましくは、約0.001%(v/v); 1以上の成長因子、例えば、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、白血病抑制因子(LIF)、血管内皮成長因子(VEGF)、及びエリスロポエチン(EPO); L-バリンを含むアミノ酸;並びに例えば、ペニシリンG、ストレプトマイシン硫酸塩、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、及びナイスタチンなどの、微生物混入を制御するための1以上の抗生物質及び/又は抗真菌剤を含む1以上の成分を、単独で又は組み合わせて補充することができる。
(4.4.2 胎盤細胞の拡大及び増殖)
胎盤幹細胞をいったん単離すれば(例えば、該幹細胞又は幹細胞の集団がインビボで通常関連している胎盤細胞の少なくとも50%から分離すれば)、該幹細胞又は幹細胞の集団をインビトロで増殖及び拡大することができる。同様に、胎盤幹細胞をいったん産生すれば、そのような細胞をインビトロで増殖及び拡大することもできる。例えば、胎盤幹細胞を、組織培養容器、例えば、ディッシュ、フラスコ、マルチウェルプレートなどの中で、胎盤幹細胞が70〜90%コンフルエントまで増殖するのに十分な時間、すなわち、胎盤幹細胞及びその子孫が組織培養容器の培養表面積の70〜90%を占めるようになるまで培養することができる。
胎盤幹細胞を、培養容器に、細胞成長を可能にする密度で播種することができる。例えば、胎盤幹細胞を、低密度(例えば、約1,000〜約5,000個の細胞/cm2)から高密度(例えば、約50,000個以上の細胞/cm2)で播種することができる。好ましい実施態様において、胎盤幹細胞は、大気中約0〜約5体積パーセントのCO2下で培養される。いくつかの好ましい実施態様において、胎盤幹細胞は、大気中約2〜約25パーセントのO2下で、好ましくは、大気中約5〜約20パーセントのO2下で培養される。胎盤幹細胞は、約25℃〜約40℃、好ましくは37℃で培養されることが好ましい。胎盤幹細胞は、インキュベーター内で培養されることが好ましい。培養培地は、静置されるか、又は例えば、バイオリアクターを用いて撹拌されることができる。胎盤幹細胞は、(例えば、グルタチオン、アスコルビン酸、カタラーゼ、トコフェロール、N-アセチルシステインなどを添加して)低酸化ストレス下で成長させることが好ましい。
いったん、70〜90%のコンフルエンスが得られれば、胎盤幹細胞を継代することができる。例えば、該細胞を、当技術分野で周知の技術を用いて、酵素処理、例えば、トリプシン処理して、組織培養表面から分離することができる。該胎盤幹細胞をピペッティングによって取り出し、計数した後、約20,000〜100,000個の幹細胞、好ましくは、約50,000個の胎盤幹細胞を、新鮮な培養培地を含む新しい培養容器に継代する。通常、新しい培地は、幹細胞を取り出した培地と同じ種類である。本明細書に提供されるのは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、もしくは20回、又はそれより多くの回数継代された胎盤幹細胞の集団、及び該胎盤幹細胞の集団の組合せである。
(4.5 胎盤幹細胞の保存)
胎盤幹細胞を保存する、すなわち、長期保管を可能にする条件、又は例えば、アポトーシスもしくは壊死による細胞死を阻害する条件下に置くことができる。
胎盤幹細胞は、例えば、2005年12月25日に出願された「胎盤細胞を回収及び保存するための改良された組成物及び該組成物の使用方法(Improved Composition for Collecting and Preserving Placental Cell and Methods of Using the Composition)」という表題の関連する米国仮特許出願第60/754,969号に記載されているような、アポトーシス阻害剤、壊死阻害剤、及び/又は酸素運搬ペルフルオロカーボンを含む組成物を用いて保存することができる。
一実施態様において、本明細書に提供されるのは、胎盤幹細胞を保存する方法であって、該胎盤幹細胞を、アポトーシス阻害剤及び酸素運搬ペルフルオロカーボンを含む幹細胞回収組成物と接触させることを含む、方法であり、ここで、該アポトーシス阻害剤は、該アポトーシス阻害剤と接触させられていない胎盤幹細胞の集団と比較したとき、胎盤幹細胞の集団におけるアポトーシスを低下させ又は防止するのに十分な量で、かつそれに十分な時間存在する。具体的な実施態様において、該アポトーシス阻害剤は、カスパーゼ阻害剤である。別の具体的な実施態様において、該アポトーシス阻害剤は、JNK阻害剤である。より具体的な実施態様において、該JNK阻害剤は、該胎盤幹細胞の分化も増殖も調節しない。別の実施態様において、該幹細胞回収組成物は、該アポトーシス阻害剤及び該酸素運搬ペルフルオロカーボンを別々の相に含む。別の実施態様において、該幹細胞回収組成物は、該アポトーシス阻害剤及び該酸素運搬ペルフルオロカーボンをエマルジョン中に含む。別の実施態様において、該幹細胞回収組成物は、乳化剤、例えば、レシチンをさらに含む。別の実施態様において、該アポトーシス阻害剤及び該ペルフルオロカーボンは、幹細胞と接触させる時点で、約0℃〜約25℃である。別のより具体的な実施態様において、該アポトーシス阻害剤及び該ペルフルオロカーボンは、幹細胞と接触させる時点で、約2℃〜10℃又は約2℃〜約5℃である。別のより具体的な実施態様において、該接触は、該胎盤幹細胞の輸送中に実施される。別のより具体的な実施態様において、該接触は、該胎盤幹細胞の集団の凍結及び解凍中に実施される。
別の実施態様において、胎盤幹細胞は、該胎盤幹細胞をアポトーシス阻害剤及び臓器保存化合物と接触させることを含む方法によって保存することができ、ここで、該アポトーシス阻害剤は、アポトーシス阻害剤と接触させられていない胎盤幹細胞と比較したとき、胎盤幹細胞のアポトーシスを低下させ又は防止するのに十分な量でかつそれに十分な時間存在する。具体的な実施態様において、臓器保存化合物は、UW溶液(米国特許第4,798,824号に記載されており; ViaSpanとしても知られている; Southardらの文献、Transplantation 49(2):251-257(1990)も参照されたい)、又はSternらの米国特許第5,552,267号に記載されている溶液である。別の実施態様において、該臓器保存化合物は、ヒドロキシエチルデンプン、ラクトビオン酸、ラフィノース、又はこれらの組合せである。
別の実施態様において、胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき胎盤幹細胞を、灌流中に、アポトーシス阻害剤及び酸素運搬ペルフルオロカーボン、臓器保存化合物、又はこれらの組合せを含む幹細胞回収組成物と接触させる。別の実施態様において、胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき該胎盤幹細胞を、組織破壊、例えば、酵素的消化のプロセス中に接触させる。別の実施態様において、胎盤細胞を、灌流による回収の後に、又は組織破壊、例えば、酵素的消化による回収の後に、該幹細胞回収化合物と接触させる。
通常、胎盤幹細胞の回収、濃縮、及び単離中には、低酸素及び機械的ストレスによる細胞ストレスを最小限にするか又は排除することが好ましい。したがって、本方法の別の実施態様において、胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき胎盤幹細胞は、回収、濃縮、又は単離中、該保存中に6時間未満、低酸素状態に暴露され、ここで、低酸素条件は、正常な血中酸素濃度未満である酸素の濃度である。より具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、該保存中に2時間未満、該低酸素状態に暴露される。別のより具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、回収、濃縮、又は単離中に、1時間未満もしくは30分未満、該低酸素状態に暴露されるか、又は低酸素状態に暴露されない。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、回収、濃縮、又は単離中に、剪断ストレスに暴露されない。
本明細書に記載の、胎盤幹細胞、及び胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき胎盤幹細胞は、例えば、小型の容器、例えば、アンプル中の凍結保存培地に入れて凍結保存することができる。好適な凍結保存培地としては、例えば、成長培地を含む培養培地、又は細胞凍結培地、例えば、市販の細胞凍結培地、例えば、C2695、C2639、もしくはC6039(Sigma)が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な実施態様において、細胞凍結培地は、デキストラン(例えば、デキストラン40)及びDMSO(ジメチルスルホキシド)を含む。凍結保存培地は、例えば、約10%(v/v)の濃度のDMSO(ジメチルスルホキシド)を含むことが好ましい。凍結保存培地は、追加の物質、例えば、Plasmalyte、メチルセルロースを含むことができ、グリセロールは含まれていても含まれていなくてもよい。幹細胞は、凍結保存中、約1℃/分で冷却することが好ましい。好ましい凍結保存温度は、約-80℃〜約-180℃、好ましくは、約-125℃〜約-140℃である。凍結保存された細胞は、液体窒素に移した後、使用のために解凍することができる。いくつかの実施態様において、例えば、アンプルがいったん約-90℃に到達したら、液体窒素保管エリアに移す。凍結保存された細胞は、約25℃〜約40℃、好ましくは、約37℃の温度で解凍することが好ましい。
(4.6 胎盤細胞を含む組成物)
本明細書に提供される方法は、本明細書に提供される胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞の集団を含む組成物を使用することができ、該組成物は、任意の生理的に許容し得る又は医学的に許容し得る化合物、組成物、又は装置と組み合わせることができる。
(4.8.1 凍結保存された胎盤細胞)
本明細書に提供される胎盤細胞を、後で使用するために保存する、例えば、凍結保存することができる。幹細胞などの細胞の凍結保存方法は、当技術分野で周知である。胎盤幹細胞は、対象に容易に投与できる形態で調製することができる。例えば、本明細書に記載の胎盤幹細胞は、医療用途に好適な容器内に入れることができる。そのような容器は、例えば、滅菌プラスチックバッグ、フラスコ、ジャー、バイアル、又は胎盤細胞集団を容易に分注することができる他の容器であることができる。例えば、容器は、血液バッグ、又はレシピエントへの液体の静脈内投与に好適な他のプラスチック製の医学的に許容し得るバッグであることができる。容器は、該胎盤幹細胞の凍結保存を可能にするものであることが好ましい。
凍結保存された胎盤幹細胞は、単一のドナー又は複数のドナーに由来する胎盤幹細胞を含むことができる。該胎盤幹細胞は、意図されるレシピエントと完全にHLAが適合するものであっても、部分的又は完全にHLAが適合しないものであってもよい。
したがって、一実施態様において、本明細書に提供されるのは、容器に入った胎盤幹細胞を含む組成物である。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、デキストラン及びDMSOを含む培地に入っている。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、凍結保存されるか、又は凍結保存されたものである。別の具体的な実施態様において、容器は、バッグ、フラスコ、バイアル、又はジャーである。より具体的な実施態様において、該バッグは、滅菌プラスチックバッグである。より具体的な実施態様において、該バッグは、該胎盤幹細胞の静脈内投与に好適であるか、又は該投与を可能にするか、又は該投与を容易にする。該バッグは、投与前又は投与中の、胎盤幹細胞と1以上の他の溶液、例えば、薬物との混合を可能にするために相互接続された、複数の内腔又は区画を含むことができる。別の具体的な実施態様において、該組成物は、組み合わされた幹細胞集団の凍結保存を容易にする1以上の化合物を含む。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、生理的に許容し得る水溶液中に含まれる。より具体的な実施態様において、該生理的に許容し得る水溶液は、0.9N NaCl溶液である。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、該胎盤幹細胞のレシピエントとHLAが適合する。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、該胎盤幹細胞のレシピエントと、少なくとも部分的にHLAが適合しない。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、複数のドナーに由来するものである。
(4.8.2 医薬組成物)
単離された胎盤幹細胞の集団、又は該単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、インビボで、例えば、本明細書に提供される方法で使用するための医薬組成物に製剤化することができる。そのような医薬組成物は、医薬として許容し得る担体、例えば、生理食塩水、又はインビボ投与のための他の認可された生理的に許容し得る溶液中に、胎盤幹細胞、又は単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団を含む。本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を含む医薬組成物は、本明細書中の別所に記載の、該単離された胎盤幹細胞集団、又は単離された胎盤幹細胞のいずれか、又は任意の組合せを含むことができる。該医薬組成物は、胎児の、母親の、又は胎児と母親の両方の単離された細胞を含むことができる。本明細書に提供される医薬組成物は、単一の対象、臍帯、もしくは胎盤から、又は複数の対象、臍帯、もしくは胎盤から得られた単離された胎盤幹細胞をさらに含むことができる。本明細書中の別所に記載の該胎盤幹細胞のいずれかを、下記のような医薬組成物に製剤化することができる。具体的な実施態様において、本明細書に提供される医薬組成物は、胎盤幹細胞並びに抗血栓剤(例えば、デキストラン)及び/又は抗炎症剤(例えば、DMSO)を含む。別の具体的な実施態様において、本明細書に提供される医薬組成物は、胎盤幹細胞並びに抗血栓剤(例えば、デキストラン)及び抗炎症剤(例えば、DMSO)を含む。
本明細書に提供される医薬組成物は、任意の数の単離された胎盤幹細胞を含むことができる。例えば、単離された胎盤幹細胞の単回単位用量は、様々な実施態様において、約、少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個、又はそれより多くの単離された細胞を含むことができる。
本明細書に提供される医薬組成物は、50%又はそれより多くの生存細胞を含む(すなわち、集団内の細胞の少なくとも50%が機能している又は生きている)細胞の集団を含む。好ましくは、集団内の細胞の少なくとも60%が生存している。より好ましくは、該医薬組成物中の集団内の細胞の少なくとも70%、80%、90%、95%、又は99%が生存している。
本明細書に提供される医薬組成物は、例えば、生着を促進する1以上の化合物(例えば、抗T細胞受容体抗体、免疫抑制薬など);安定化剤、例えば、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA))、デキストラン40、ゼラチン、ヒドロキシエチルデンプン、plasmalyteなどを含むことができる。
ある実施態様において、該胎盤幹細胞は、凍結保存の前又は後のどちらかに、例えば、アルギネートに封入することができる。ある他の実施態様において、該胎盤幹細胞は、例えば、局所注射又は局所投与用途のための多血小板血漿と組み合わせることができる。具体的な実施態様において、該多血小板血漿は、自己多血小板血漿であり、例えば、該胎盤幹細胞が投与される対象にとって自己のものである。他の具体的な実施態様において、該多血小板血漿は、該胎盤幹細胞が投与される対象にとって同種異系のものである。別の具体的な実施態様において、該多血小板血漿は、胎盤灌流液に由来する。他の具体的な実施態様において、組成物中の胎盤幹細胞と多血小板血漿の容積対容積比、又は胎盤幹細胞の数と血小板の数の比は、約10:1〜1:10;約100:1〜1:100であるか;又は約1:1である。
一実施態様において、該医薬組成物は、実質的に、又は完全に非母親起源である、すなわち、胎児表現型を有する単離された胎盤細胞を含み;例えば、少なくとも約90%、95%、98%、99%、又は100%が、非母親起源である。
具体的な実施態様において、該医薬組成物は、胎盤から得ていない幹細胞をさらに含む。
本明細書に提供される組成物、例えば、医薬組成物中の単離された胎盤幹細胞は、単一のドナー又は複数のドナーに由来する胎盤幹細胞を含むことができる。該単離された胎盤細胞は、意図されるレシピエントと完全にHLAが適合するものであっても、部分的又は完全にHLAが適合しないものであってもよい。
(4.9 胎盤細胞を含むマトリクス)
さらに本明細書に提供されるのは、胎盤幹細胞を含むマトリクス、ヒドロゲル、スキャフォールドなどである。本明細書に提供される胎盤幹細胞は、天然のマトリクス、例えば、羊膜材料などの胎盤生体材料に播種することができる。そのような羊膜材料は、例えば、哺乳動物胎盤から直接切除された羊膜;固定された又は加熱処理された羊膜、実質的に乾燥している(すなわち、<20%H2Oの)羊膜、絨毛膜、実質的に乾燥している絨毛膜、実質的に乾燥している羊膜と絨毛膜などであることができる。胎盤幹細胞を播種することができる好ましい胎盤生体材料は、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、Haririの米国特許出願公開第2004/0048796号に記載されている。
本明細書に提供される胎盤細胞は、例えば、注射に好適なヒドロゲル溶液に懸濁させることができる。そのような組成物のための好適なヒドロゲルとしては、RAD16などの自己集合ペプチドが挙げられる。胎盤幹細胞は、例えば、局所注射用のアルギネートもしくは多血小板血漿、又は他のフィブリン含有マトリクスと組み合わせることもできる。一実施態様において、胎盤幹細胞を含むヒドロゲル溶液を、例えば、鋳型中で硬化させて、該細胞がその中に分散している埋め込み用のマトリクスを形成させることができる。そのようなマトリクス中の胎盤幹細胞を、該細胞が埋め込み前に有糸分裂によって拡大されるように培養することもできる。ヒドロゲルは、例えば、共有結合、イオン結合、又は水素結合によって架橋されて、水分子を捕捉してゲルを形成する3次元の開放格子構造を生成させる有機ポリマー(天然又は合成)であることができる。ヒドロゲル形成材料としては、イオンによって架橋される、アルギネート及びその塩などの多糖類、ペプチド、ポリホスファジン、並びにポリアクリレート、又はそれぞれ温度もしくはpHによって架橋されるポリエチレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマーなどのブロックポリマーが挙げられる。いくつかの実施態様において、ヒドロゲル又はマトリクスは生分解性である。
いくつかの実施態様において、マトリクスは、その場で重合可能なゲルを含む(例えば、米国特許出願公開第2002/0022676号; Ansethらの文献、J. Control Release, 78(1-3):199-209(2002); Wangらの文献、Biomaterials, 24(22):3969-80(2003)を参照されたい)。
いくつかの実施態様において、ポリマーは、荷電側鎖基又はその一価のイオン性塩を有する、水、緩衝塩類溶液、又は水性アルコール溶液などの水溶液に、少なくとも部分的に溶解可能である。カチオンと反応することができる酸側鎖基を有するポリマーの例は、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸のコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)、及びスルホン化ポリマー、例えば、スルホン化ポリスチレンである。アクリル酸又はメタクリル酸とビニルエーテルモノマー又はビニルエーテルポリマーとの反応によって形成される酸側鎖基を有するコポリマーを使用することもできる。酸基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン化(好ましくは、フッ素化)アルコール基、フェノール性OH基、及び酸性OH基である。
胎盤幹細胞を3次元フレームワーク又はスキャフォールドに播種し、インビボに埋め込むことができる。そのようなフレームワークは、任意の1以上の成長因子、細胞、薬物、或いは組織形成を刺激し又は本明細書中の別所に記載の方法の実施を別の形で強化もしくは改善する他の成分と組み合わせて埋め込むことができる。
本明細書に記載の方法で使用することができるスキャフォールドの例としては、不織マット、多孔性発泡体、又は自己集合ペプチドが挙げられる。不織マットは、グリコール酸と乳酸の合成の吸収性コポリマー(例えば、PGA/PLA)(VICRYL, Ethicon社, Somerville, N.J.)から構成される繊維を用いて形成させることができる。フリーズドライ又は凍結乾燥などのプロセスによって形成される、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーから構成される、発泡体(例えば、米国特許第6,355,699号参照)をスキャフォールドとして使用することもできる。
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用されるスキャフォールドは、コラーゲン、例えば、胎盤コラーゲンから構成されない。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用されるスキャフォールドは、コラーゲン、例えば、胎盤コラーゲンを含まない。
別の実施態様において、スキャフォールドは、ナノ繊維スキャフォールド、例えば、電界紡糸ナノ繊維スキャフォールドであるか、又はこれを含む。より具体的な実施態様において、該ナノ繊維スキャフォールドは、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、I型コラーゲン、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンのコポリマー(PVDF-TrFE)、ポリ(-カプロラクトン)、ポリ(L-ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)[P(LLA-CL)](例えば、75:25)、及び/又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)とI型コラーゲンのコポリマーを含む。ナノ繊維スキャフォールド、例えば、電界紡糸ナノ繊維スキャフォールドを製造する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Xuらの文献、Tissue Engineering 10(7):1160-1168(2004); Xuらの文献、Biomaterials 25:877-886(20040; Mengらの文献、J. Biomaterials Sci., Polymer Edition 18(1):81-94(2007)を参照されたい。
本明細書に記載の胎盤幹細胞は、限定されないが、モノ-、ジ-、トリ-、α-トリ-、β-トリ-、及びテトラ-リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムマグネシウム、BIOGLASS(登録商標)などの生体活性ガラス、並びにこれらの混合物を含む、生理的に許容し得るセラミック材料に播種するか、又は該セラミック材料と接触させることができる。現在市販されている多孔性の生体適合性セラミック材料としては、SURGIBONE(登録商標)(CanMedica社, Canada)、ENDOBON(登録商標)(Merck Biomaterial France, France)、CEROS(登録商標)(Mathys, AG, Bettlach, Switzerland)、及び石灰化コラーゲン骨移植用製品、例えば、HEALOS(商標)(DePuy社, Raynham, MA)、並びにVITOSS(登録商標)、RHAKOSS(商標)、及びCORTOSS(登録商標)(Orthovita, Malvern, Pa.)が挙げられる。フレームワークは、天然及び/又は合成材料の混合物、ブレンド、又は複合体であることができる。
別の実施態様において、胎盤幹細胞は、例えば、生体吸収性材料、例えば、PGA、PLA、PCLのコポリマーもしくはブレンド、又はヒアルロン酸でできたマルチフィラメント糸から構成されることができるフェルトに播種するか、又は該フェルトと接触させることができる。
本明細書に記載の胎盤幹細胞は、別の実施態様において、複合体構造であり得る発泡体スキャフォールドに播種することができる。そのような発泡体スキャフォールドは、有用な形状に成形することができる。いくつかの実施態様において、細胞接着を増強するために、胎盤細胞の接種前に、フレームワークを、例えば、0.1M酢酸で処理し、次いで、ポリリジン、PBS、及び/又はコラーゲン中でインキュベートする。マトリクスの外側表面を、例えば、マトリクスのプラズマコーティング、又は1以上のタンパク質(例えば、コラーゲン、弾性繊維、網状繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸など)、細胞マトリクス、並びに/もしくは他の材料、例えば、限定されないが、ゼラチン、アルギネート、寒天、アガロース、及び植物ゴムなどの添加によって修飾して、細胞の接着又は成長及び組織の分化を向上させることができる。
いくつかの実施態様において、スキャフォールドは、スキャフォールドを非血栓形成性にする材料を含むか、又は該材料で処理される。これらの処理及び材料は、内皮成長、移動、及び細胞外マトリクス沈着を促進し、持続させることもできる。これらの材料及び処理の例としては、天然材料、例えば、基底膜タンパク質、例えば、ラミニン及びIV型コラーゲン、合成材料、例えば、EPTFE、及びセグメント化ポリウレタン尿素シリコーン、例えば、PURSPAN(商標)(The Polymer Technology Group, Berkeley, Calif.)が挙げられるが、これらに限定されない。スキャフォールドは、ヘパリンなどの抗血栓剤を含むこともできるし;スキャフォールドを、胎盤幹細胞を播種する前に、表面電荷を変化させるように処理する(例えば、プラズマコーティングする)こともできる。
(5.実施例)
(5.1 実施例1)
本実施例は、胎盤幹細胞を急性腎損傷の治療で使用することができることを示している。
(5.1.1 材料及び方法)
(5.1.1.1 研究設計)
250〜280gの重量の雄のスプラーグ-ドーリーラット(BioLasco, Taiwan)を、下の表1に概略が記載されているような、6つの治療群のうちの1つに割り当てた。
各々の群の麻酔ラットの腹腔を正中切開によって露出させ、両腎動脈を、血管鉗子を用いて45分間閉塞させることにより、急性腎損傷(虚血-再灌流)を第2群〜第6群で誘導した。模擬対照動物(第1群)には、両腎動脈を閉塞させないで、同一の外科的処置を受けさせた。腎臓鉗子を取り除いた後、血液の再灌流を示す色の変化を確実にもたらすために、腎臓をさらに1分間観察した。対照ビヒクルのDMEM(「PL」)又は凍結培地(デキストラン及びDMSOを含むDMEM(フェノールレッド非含有);「FM」);並びにPL又はFMのどちらかに入った胎盤幹細胞を、再流又は外科手術後すぐに、静脈内投与した。
全ての試験動物の体重を、外科手術の24時間及び48時間前、外科手術の直前、並びに外科手術の24時間、48時間、及び72時間;並びに96時間後に決定した。
尿及び血漿中のNa+及びK+濃度(K+/Na+アッセイキット(Toshiba, Japan))、尿及び血漿中のクレアチニンレベル(クレアチニンアッセイキット(Denka Seiken, Japan))、並びに血中尿素窒素(BUN)レベル(BUNアッセイキット(Denka Seiken, Japan))の決定のために、外科的処置の前、並びに再灌流の8時間、24時間、48時間、72時間、及び96時間後(出血のみ)、尿及び血液試料を回収した。0.4mlの血液を、尾静脈を経由して、8時間、24時間、48時間、及び72時間で回収し; 2mlの血液を、大静脈を経由して、96時間で回収した。
全ての動物を安楽死させ、外科手術後4日目(96時間)に解剖した。解剖時に、右腎臓を摘出し、氷冷生理食塩水中ですすぎ、10%中性緩衝ホルマリン中で保存した。各々を縦方向に切り取り、パラフィンブロックに加工し、4〜6ミクロンで薄切し、組織病理学的検査のためにヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
データを、一元配置ANOVA、次いで、ダネットの検定又は対応のないt-検定によって解析した。p<0.05で有意とみなす。
(5.1.2 結果)
(5.1.2.1 体重)
模擬対照(第1群)動物の平均体重増加は、外科的処置から96時間後、該処置前の体重と比較して最小(〜3%)であった。虚血-再灌流動物(第1群〜第5群)では、後続の処置に関係なく、平均体重減少は、外科手術後96時間の間、1〜10%の範囲であった。FM中の胎盤幹細胞(第4群)又は6×106細胞/ラットの用量のPL中の胎盤幹細胞(第6群)で処置した動物は、それぞれ、対応するビヒクル対照FM及びPLと比較して、体重増加の改善を示す傾向があった。
(5.1.2.2 腎重量)
絶対的かつ標準化された(体重で標準化された左右腎重量の合計)腎重量は、後続の処置に関係なく、模擬対照と比較して、虚血-再灌流処置を受けた全ての動物で有意に増加した。FM中の胎盤幹細胞を受容した動物(第4群)は、腎重量の増加を減じるように見えたが、標準化された腎重量は、対照ビヒクルのFMで処置した動物の腎重量よりも有意に少なかった。
(5.1.2.3 腎機能評価)
(5.1.2.3.1 尿及び血漿解析)
虚血-再灌流処置を受けた動物における尿量の有意な増加を模擬対照と比較して観察した。虚血-再灌流から72時間後にFM中の6×106個の胎盤幹細胞を受容した動物は、正常尿量の回復の改善を示した。
模擬動物由来の尿及び血漿試料中のナトリウム及びカリウムのレベルは正常であり、研究期間の全体を通して狭い範囲で維持された。虚血-再灌流処置を受けた動物の尿中のナトリウム及びカリウムのレベルは、調べた全ての時点で模擬動物におけるレベルよりも有意に低かったが、それでも正常範囲内であった。同様に、虚血-再灌流処置を受けた動物由来の血漿中のナトリウム及びカリウムのレベルは正常範囲内であった。
模擬対照動物由来の尿試料中のクレアチニンレベルは、研究期間の全体を通して、かなり一定のままであった。対照的に、尿クレアチニンレベルの有意な低下が、虚血-再灌流処置を受けた全ての動物で観察され、その後、虚血-再灌流前のレベルの40〜68%にまで徐々に回復した。FM中の胎盤幹細胞を受容した動物(第4群)は、虚血-再灌流から48及び72時間後、FMビヒクルで処置した虚血-再灌流動物と比較して、尿クレアチニンレベルの有意により良好な回復を示した。
模擬群の動物は、調べた全ての時点で、その血漿クレアチニンレベルを正常範囲に維持したが、虚血-再灌流処置を受けた全ての動物は、早い時点で血漿クレアチニンのレベルを上昇させ、虚血-再灌流から24時間後に最大になり、その後、血漿クレアチニンは時間経過とともに徐々に低下した。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、虚血-再灌流後に測定した全ての時点で、FMビヒクルで処置した動物(第3群)よりも有意に低い血漿クレアチニンレベルを有していた。PL中の胎盤幹細胞で処置した動物(第5群及び第6群)もまた、PLビヒクルで処置した動物(第2群)と比較して、用量依存的な様式で、血漿クレアチニンレベルの低下を示した。
模擬群の動物のBUNレベルは、全研究期間を通して、正常範囲にあった。虚血-再灌流処置を受けた動物は、BUNレベルの上昇を示した。虚血-再灌流を受けた動物を胎盤幹細胞で処置したとき、BUNレベルの低下の改善の傾向が観察された。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、虚血-再灌流から24時間、48時間、及び72時間後、対照ビヒクルのFMで処置した動物(第3群)と比較して、BUNレベルの減少を示し、24時間と48時間の差は、統計的に有意であった。PL中の胎盤幹細胞で処置した動物(第5群及び第6群)のBUNレベルもまた、用量関連低下を示し:第5群の動物は、対照ビヒクルで処置した群(第2群)と同程度のBUNのレベルを示したが、より高い用量の胎盤幹細胞を受容した第6群の動物は、ビヒクル対照群と比較して低下したBUNのレベルを示した。
(5.1.2.3.2 クレアチニンクリアランス(CCr))
模擬対照群の動物は、全研究期間を通して、正常なクレアチニンクリアランスを有していた。虚血-再灌流処置を受けた動物は、模擬対照よりも低いクレアチニンクリアランス有しており、腎機能障害を示した。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、ビヒクルのFMで処置した動物(第3群)と比較して、全研究期間にわたって、クレアチニンクリアランスの有意な改善を示した。PL中の6×106個の胎盤幹細胞で処置した動物(第6群)は、8時間の時点で、対照ビヒクルのPLで処置した動物(第2群)よりも良好なクレアチニンクリアランスを示した。
(5.1.2.3.3 Na+排泄分画)
模擬対照群の動物は、研究期間の全体を通して、そのNa+排泄分画(FENa)を常に正常範囲に維持した。虚血-再灌流処置を受けた動物は全て、Na+排泄のパーセンテージの増加を示した。概して、胎盤幹細胞による虚血-再灌流の処置(第4〜6群)は、Na+排泄分画の減少をもたらした。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、虚血-再灌流から24時間、48時間、及び72時間後、対照ビヒクルのFMで処置した動物(第3群)と比較して、Na+再吸収の有意な改善を示した。PL中の胎盤幹細胞で処置した動物(第5群及び第6群)もまた、対照ビヒクルのPLで処置した動物(第2群)と比較して、FENaの低下の傾向を示した。
(5.1.2.4 組織病理学的評価)
調べた腎臓の尿細管上皮傷害の最も顕著な組織学的特徴は、拡張尿細管、出血、尿細管内ガラス状物質、間質性単核細胞浸潤物、及び尿細管上皮の壊死であった。拡張尿細管、出血、及び単核細胞浸潤物は、ビヒクル対照(第2群及び第3群)と比較して、胎盤幹細胞で処置した動物(第4群、第5群、及び6群)で重症度がわずかに低かった。さらに、尿細管上皮の壊死は、ビヒクル対照(第2群及び第3群)と比較して、胎盤幹細胞で処置した動物(第4群、第5群、及び第6群)で頻度及び重症度が明らかに低かった。
(5.1.3 結論)
結論として、DMEMのみ又はデキストラン及びDMSOを含む培地(凍結培地)中の胎盤幹細胞は、ラットにおいて虚血/再灌流傷害によって誘導される腎臓の機能障害に対する防御を引き起こすことができ、胎盤幹細胞を急性腎損傷の治療で使用することができることを示した。
(等価物:)
本明細書に開示される組成物及び方法は、本明細書に記載の具体的な実施態様によって範囲が限定されるべきではない。実際、記載されているものに加えて、組成物及び方法の様々な変更が、前述の説明から、当業者に明らかになるであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
様々な刊行物、特許、及び特許出願が本明細書に引用されており、これらの開示は、引用により完全に本明細書中に組み込まれる。