本発明は概して、バイオフィルムの形成を阻害する組成物及び方法に関する。一実施形態では、本発明は、バイオフィルム並びにバイオフィルムによって引き起こされる感染症を処置及び/又は予防するために用いられる。一実施形態では、本発明は、対象の口腔内のバイオフィルムを処置及び/又は予防するために有用である。したがって本発明は、限定はされないが齲蝕、歯肉炎、歯周病のような広範囲の口腔疾患、並びに例えば義歯性口内炎及び口腔カンジダ症のようなバイオフィルムに関連した粘膜感染症を、処置及び/又は予防するために有用である。本発明は医学的な状況でのバイオフィルムの処置又は予防に限定されるものではなく、環境的、商業的、及び産業的な状況でのバイオフィルムの処置又は予防も包含する。
一実施形態では、本発明はバイオフィルムの形成を阻害する組成物を提供する。一実施形態では、前記組成物はバイオフィルムのさらなる蓄積を阻害する。一実施形態では、前記組成物は現存するバイオフィルムの破壊又は分解を促進する。一実施形態では、現存するバイオフィルムの破壊又は分解を促進することによって、バイオフィルムの機械的な破壊が容易になる。一実施形態では、前記組成物が現存するバイオフィルムを弱めて、バイオフィルムの機械的な破壊が容易になる。一実施形態では、前記組成物はバイオフィルムの形成及びさらなる蓄積を阻害する。
一実施形態では、前記組成物はナノ粒子担体(NPC)と少なくとも1つの治療剤とを含む。NPCは、バイオフィルム及びバイオフィルムの形成及び蓄積の危険性がある部位に結合可能であり、これによって少なくとも1つの治療剤の持続性の薬剤送達が提供される。このように、NPCはバイオフィルムが形成される部位を標的とした薬剤送達を提供する。
本発明は、少なくとも3つの臨床的な関連部位へ強く結合できるNPCの発見に部分的に基づいており、少なくとも3つの臨床的な関連部位とは、1)薄膜、すなわち歯及び粘膜表面を覆う唾液フィルム、2)薄膜上に形成され、細菌の接着及び有害細菌(例えばS.ミュータンス)の局所的な蓄積を増大させる細胞外多糖(EPS)、及び3)バイオフィルム内のEPSリッチマトリックスである。このようにNPCは、バイオフィルムの形成及び蓄積に対する「危険性のある」部位へ、及びバイオフィルム内へ付着する、ホーミング装置(治療剤のための)として作用する。
このように、NPCは治療剤を局所に保持する助けとなり、また治療剤の放出が誘発された際には、制御され且つ増強された、持続的な治療剤の薬剤送達を、バイオフィルムの生成が開始され蓄積される部位へ直接提供することによって、バイオフィルムの形成を予防する。NPCはさらに、治療剤をバイオフィルム内へ輸送し、且つ保持することによっても、バイオフィルムのさらなる蓄積を阻害し、現存するバイオフィルムの破壊を促進する。このようにNPCは、バイオフィルムの最初の集合及びさらなる蓄積の両方を阻害し、且つ現存するバイオフィルムの破壊及び分解も促進する、標的化された薬剤送達を提供する。
一実施形態では、前記少なくとも1つの治療剤は抗バイオフィルム剤を含む。前記治療剤としては、バイオフィルムの処置及び/又は予防において少なくとも幾らかの活性を有する、天然、合成、無機、有機、ペプチド、酵素、核酸の小分子、及び同種のもののいずれかが挙げられる。特定の実施形態では、前記治療剤は、アピゲニン、ファルネソール、それらの誘導体、及びそれらの組み合わせを含む。別の実施形態では、前記少なくとも1つの治療剤は、限定はされないが、例としてクロルヘキシジンが挙げられる抗菌剤を含む。別の実施形態では、前記少なくとも1つの治療剤はフッ化物を含む。本明細書では、NPCには治療的有効量の抗バイオフィルム治療剤が負荷可能であることが示される。NPCはまた、負荷した治療剤の制御可能な放出も提供する。
一実施形態では、NPCは、前記少なくとも1つの治療剤を、前記少なくとも1つの治療剤の放出が誘発されるまで保持する。これによって、前記少なくとも1つの治療剤は、最も必要とされる時に最も必要とされる場所でのみ放出されることとなり、薬剤の浪費が避けられる。
一実施形態では、NPCはpHにより活性化され、前記少なくとも1つの治療剤が局所環境のpHに依存した速度で放出される。特定の実施形態では、NPCが通常の生理的pHの範囲から逸脱したpHの局所環境にある際に、治療剤が放出される。例えば一実施形態では、局所のpHが酸性になったときにのみ、治療剤が放出される。例えば特定の実施形態では、病的ではない(生理的ともいう)状態で見出される中性pHにおいて、薬剤は放出されないか、又は最小限に放出されるが、放出がまさしく必要とされる酸性pHにおいて放出速度は増大する。したがって、薬剤が必要とされないときに、薬剤を無駄にすることがなく、薬剤へ過度に曝露される危険性もない。
本発明はまた、バイオフィルム並びにバイオフィルムの形成に関連する疾病を処置及び/又は予防する方法も提供する。一実施形態では、前記方法は、NPCと少なくとも1つの治療剤とを含む組成物を対象へ有効量投与することを含む。
一実施形態では、本発明の前記方法は、対象の薄膜によって覆われた歯の齲蝕原性バイオフィルムの量を減少させるか、又は齲蝕原性バイオフィルムの形成を予防することによって、齲蝕を処置及び/又は予防する。前記方法は、バイオフィルム内へ、並びにバイオフィルムの形成及び蓄積の危険性がある部位への、治療剤の効果的な、持続性の、局所的な送達を提供する。
定義
他に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味をもつ。本明細書に記載されるものと同様であるか又は同等であるいずれの方法及び材料も、本発明を実行又は検証するために用いることができるが、好ましい方法及び材料について記載する。
本明細書で用いられる以下の各用語は、本項でのそれに関連した意味をもつ。
本明細書で用いられる冠詞「a」及び「an」は、1つ又は1つを超えた(すなわち少なくとも1つの)、その冠詞の対象となる物を指す。例として「an element(エレメント)」は、1つのエレメント又は1つを超えたエレメントを意味する。
本明細書で用いられる「約」が、測定可能な値、例えば量、時間的持続、及び同種のものを指す場合、「約」は特定の値から±20%又は±10%、好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、さらになお好ましくは±0.1%の変動を包含することが意図され、このような変動は開示する方法を行う上で適当なものである。
本明細書で用いられる用語「バイオフィルム」は、三次元の、マトリックスに覆われた、多細胞性の特徴を示す微生物集団を指す。したがって、本明細書で用いられる用語バイオフィルムには、表面に付随するバイオフィルム並びに綿状物及び顆粒のような懸濁液中のバイオフィルムが包含される。バイオフィルムは、単一の微生物種を含んでよいか又は混合種の複合体であってよく、細菌、及び真菌、藻類、原虫、又はその他の微生物を含んでもよい。
本明細書で用いられる「疾病」は、動物の健康状態であり、この状態で前記動物は恒常性を維持できず、前記疾病が寛解しない場合に前記動物の健康状態は悪化し続ける。
本明細書で用いられる、動物における「疾患」は、動物が恒常性を維持できる健康状態であるが、その場合の動物の健康状態は、前記疾患が無い状態よりも好ましくない。治療を行わなくても、疾患は、必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こさない。
本発明の組成物に関して本明細書で用いられる「生物学的に活性のある」は、前記組成物が、哺乳類に生物学的応答を誘発することを意味し、前記哺乳類は処置していない哺乳類と比較することによってモニターし、特徴付けることができる。
本明細書で用いられる用語「処置する」は、疾病又は疾患による影響を寛解させるか、疾病又は疾患の進行を遅延、停止、若しくは逆転させることを意味する。前記用語は、疾病若しくは疾患の症状の重症度及び/又は疾病若しくは疾患の症状の頻度を減じることも包含する。
本明細書で用いられる用語「予防する」又は「予防」は、何も起こっていない場合には、疾患又は疾病が発生しないことを意味し、疾患又は疾病が既に発生している場合には、前記疾患又は疾病のさらなる発生がみられないことを意味する。疾患又は疾病に関連する、幾つか又はすべての症状を予防する個体の能力も考慮されるべきである。本明細書では、疾病及び疾患は互換的に用いられる。
本明細書で用いられる用語「医療介入」は、対象の疾病又は疾患による影響を寛解させるか、疾病又は疾患を遅延、停止、又は逆転させるために必要な、1以上の医療的手順又は処置の一組を意味する。医療介入は、問題となっている疾病又は疾患に応じて、外科的な手順を含んでもよい。医療介入は医療の専門家によって全体的又は部分的に行われてよいか、又は可能な場合には対象自身によって、医療の専門家の監督の下に、又は医療の専門家によって提供された文献若しくはプロトコルに従って、全体的又は部分的に行われてもよい。
本明細書で用いられる用語である、組成物の「有効量」又は「治療的有効量」又は「薬剤的有効量」は互換的に用いられ、前記組成物を投与された対象に有益な効果をもたらすために充分な、前記組成物の量を指す。本明細書で用いられる用語「処置する」は、患者又は対象によって経験される症状の頻度を減少させること、又は組成物を投与して、経験される症状の重症度を減じることを意味する。いずれかの個別の事例に適切な治療上の量は、当業者が日常的な実験法を行うことによって決定され得る。
本明細書で用いられる用語「特異的に結合する(「specifically bind」又は「specifically binds」)」は、第1の分子(例えば抗体)が第2の分子(例えば特定の抗原エピトープ)へ優先的に結合するが、必ずしも前記第2の分子のみに結合しなくてもよいことを意味する。
本明細書で用いられる、「予防的な」又は「予防」処置は、疾病若しくは疾患の徴候を呈していないか、又は疾病若しくは疾患の初期の徴候のみを呈している対象へ、前記疾病又は疾患に関連する病変を発生する危険性を低くする目的で投与を行う処置である。
本明細書で用いられる「治療上の」処置は、疾病又は疾患の病変の徴候を呈している対象へ、これらの徴候を減少させるか又は解消する目的で投与を行う処置である。
本明細書で用いられる「薄膜」又は「歯の薄膜」との用語は、歯の表面のエナメル質に形成される薄いタンパク質の膜を指す。特定の場合には、口腔内の様々な細菌種が薄膜にバイオフィルムを形成する可能性があり、このことが、特定の場合には、齲蝕及びその他の口腔疾患を導くこととなる。
本明細書で用いられる用語「薬剤的に許容される」は、化合物の生物学的活性又は特性を無効にしない、比較的無毒の、担体又は希釈剤のような物質を指す。すなわち前記物質は、望ましくない生物学的活性を引き起こさず、また前記物質が含まれる組成物のいずれの成分とも有害な相互作用を起こすことなく個体へ投与され得る。
本明細書で用いられる「薬剤的に許容される担体」は、本発明の単数又は複数の化合物を対象内へ又は対象へ運搬若しくは輸送することに関連する、液体若しくは固体の注入剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又は封入物質のような、薬剤的に許容される物質、組成物、又は担体を意味し、これらは意図された機能を遂行し得る。典型的には、これらの化合物は、1つの臓器又は身体の一部から別の臓器又は身体の一部へ運搬若しくは輸送される。各担体は、製剤のその他の成分に適合するという意味で「許容される」必要があり、且つ患者に対して有害であってはならない。薬剤的に許容される担体として役立ち得る物質の幾つかの例としては、ラクトース、グルコース、及びショ糖のような糖類;コーンスターチ及びジャガイモデンプンのようなデンプン類;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースのようなセルロース及びその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター及び坐薬用ワックスのような賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油のような油類;プロピレングリコールのようなグリコール類;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールのようなポリオール類;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルのようなエステル類;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;及び医薬製剤に用いられるその他の無毒性且つ適合性の物質が挙げられる。本明細書で用いられる「薬剤的に許容される担体」としては、化合物の活性に適合し、且つ対象に対して生理的に許容されるコーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、吸収遅延剤、並びに同種のもののいずれもまた挙げられる。前記組成物には、補助的に作用する化合物もまた取り込まれてよい。
本明細書で用いられる文言「薬剤的に許容される塩」は、薬剤的に許容される無毒性の、無機酸及び有機酸を含む酸類、溶媒和物、水和物、又はそれらの包接化合物から調製される、投与化合物の塩を指す。
本明細書で用いられる用語「ポリマー」は、典型的には共有結合性の化学結合によって連結される反復構造単位から構成される分子を指す。用語「ポリマー」はまた、共重合体及びオリゴマーの用語を包含することも意図される。一実施形態では、ポリマーは、骨格(すなわち、様々な重合された単量体単位間の化学結合のような、ポリマーの中心となる鎖を定義する化学結合性)及び側鎖(すなわちt骨格から離れて伸びる化学結合性)を含む。
本明細書で用いられる用語「対象」は、バイオフィルムに関連する状態を有し得るか、又はバイオフィルムに関連する状態を発生する危険性にあるが、バイオフィルムに関連する状態を有しても有していなくてもよいか、又はバイオフィルムに関連する状態を発生する危険性にあってもなくてもよい、ヒト又は別の哺乳類(例えば霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、及び同種のもの)を指す。本発明の多くの実施形態では、対象はヒトである。このような実施形態では、対象はしばしば「個体」又は「患者」と称される。用語「個体」又は「患者」は、特定の年齢を意味するものではない。
範囲:本開示を通して、本発明の様々な態様は範囲形式で提示され得る。範囲形式による記載は、単に利便性及び簡便性のためであることが理解されるべきであり、本発明の範囲を柔軟性なく限定するものと解釈されてはならない。したがって、範囲についての記載には、その範囲内で可能な部分範囲及び個々の数値のすべてが開示されているとみなされるべきである。例えば1から6のような範囲の記載には、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6などのような部分範囲と共に、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6のような、その範囲内の個々の数も具体的に開示されているとみなされるべきである。このことは、範囲の広さに関係なく適用される。
説明
本発明は、バイオフィルムの形成を阻害する組成物及び方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、バイオフィルム並びにバイオフィルムによって引き起こされる感染症を処置及び/又は予防するために用いられる。バイオフィルムは、全身の様々な感染症に関連することが知られている。バイオフィルムが関係する状態であることから、本発明による処置が有用である状態としては、歯垢、齲蝕、歯肉炎、尿路感染症、カテーテル感染症、中耳感染症、及び埋め込まれた生体材料(例えば人工関節、人工弁など)による感染症が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明は医学的な状況における身体のバイオフィルムの処置又は予防に限定されない。バイオフィルムが、多様な有害問題を導く可能性のある様々な表面を形成し得ることは当該技術分野において公知である。例えば、台所又は浴室の表面におけるバイオフィルムの形成は、居住者の衛生問題となり得る。さらに、船舶工学によるシステム又は船舶におけるバイオフィルムの形成は、腐食及び生物付着を導き得る。したがって本発明は、環境的、商業的、産業的、又はその他の状況で発生し得るバイオフィルムの処置若しくは予防も包含する。
一実施形態では、本発明はバイオフィルムの形成を阻害する組成物を提供する。一実施形態では、前記組成物はバイオフィルムの蓄積を阻害する。一実施形態では、前記組成物は、現存するバイオフィルムの破壊又は分解を促進する。一実施形態では、前記組成物は、少なくとも1つのナノ粒子担体(NPC)及び少なくとも1つのNPCに負荷された少なくとも1つの治療剤を含む。一実施形態では、NPCは、前記少なくとも1つの治療剤の局所的な持続性の薬剤送達を提供する。本発明は、ポリマーベースの陽イオンミセルから構成されるNPCが、薄膜、薄膜(標的となる危険性のある表面)に沿って形成される菌体外多糖(EPS)を含む、バイオフィルムの形成及び発生に関連するすべての表面へ、及びバイオフィルム内のEPSリッチマトリックス(標的となるバイオフィルムの微小環境)へ結合するという驚くべき発見に部分的に基づいている。このように、NPCは、バイオフィルムの形成(唾液によってコートされた表面、例えば薄膜)及び蓄積(EPSによってコートされた表面)の危険性がある領域、並びにバイオフィルム(マトリックス)内を特異的な標的とする。NPCは治療的有効量の治療剤を負荷可能であることから、治療剤の臨床的な関連用量を必用な範囲に効果的に送達するために用いることが可能なことも発見された。さらに、NPCがこのような領域に結合し続けることから、NPCは、持続性で、制御された、局所的な薬剤送達を可能にする、治療剤をこれらの部位に保持するホーミング装置として作用することは、伝統的な治療法にはみられない特色である。外用に基づいた伝統的な治療アプローチは、口中のこれらの臨床的な関連部位に薬剤が保持されないことから、概して不完全なものである。本発明の前記組成物は、適用後の処置部位に治療剤が充分に保持されることから、この制限を克服するものである。
一実施形態では、NPCは前記少なくとも1つの治療剤を、前記少なくとも1つの治療剤の放出が誘発されるまで保持する。このことによって、前記少なくとも1つの治療剤はそれが最も必要とされる時に最も必要とされる場所で放出されるため、薬剤の浪費が避けられる。例えば、限定はされないが、温度、pH、生体分子による認識、及び同種のものを含む、微小環境内の様々な因子によって、NPCからの前記少なくとも1つの治療剤の放出が誘発され得る。
一実施形態では、NPCはpHにより活性化され、前記少なくとも1つの治療剤が局所環境のpHに依存した速度で放出される。特定の実施形態では、NPCが通常の生理的pHの範囲から逸脱したpHの局所環境にある際に、治療剤が放出される。例えば一実施形態では、局所のpHが酸性であるときに、治療剤が放出される。本発明は部分的には、NPC内にpH−反応性エレメントが含まれることに基づく。このように本発明の組成物は、局所環境のpHに依存した、治療剤の制御可能な放出を提供することによって、治療剤が最も必要とされるときにこれを正確に利用可能とする。例えば特定の状態では、口腔疾患(例えば齲蝕)を引き起こすためにはバイオフィルム内の酸性ニッチの発生が必須であるが、その理由は、1)ニッチは、齲蝕を引き起こす、酸を産生する生物の増殖に好ましいこと、2)ニッチはさらなるバイオフィルムの蓄積を誘導すること、及び3)局所の酸性は、酸による歯の溶解を引き起こすことである。NPC内の薬剤は、生理的なpH(病気ではない状態)では最小限に放出される。このように、これらの病的状態において、埋め込まれた治療剤は、それらが最も必要とされるときに局所環境が酸性になればNPCから特異的に放出されるため、有益である。特定の実施形態では、酸性の局所環境における特異的放出は、このような状態で治療剤が最も活性化されるため、有益である。例えば、細菌に対するファルネソールの効果は低いpHで増強され、歯に対するフッ化物の再石灰化能、及び細菌の増殖に対する影響は、酸性pHにおいて劇的に増大する。一実施形態では、pH依存性の薬剤送達速度は、NPCの特定の組成に依存する。このように本発明は、特定のpHにおける特定の放出速度を調整する、様々なNPC組成物を包含する。例えば一実施形態では、本発明のNPCは少なくとも1つの分解可能なテザー及び/又は少なくとも1つの分解可能な結合を含み、分解可能なテザー及び結合の具体的な数が、NPCからのpH依存性の放出速度を決定する。
NPCは、バイオフィルムの形成の危険性がある部位に結合し続け、生物活性剤を保持することによってホーミング装置として機能するため、誘発が起こると、持続性の、制御された局所的な薬剤送達が、バイオフィルムの形成が始まる部位へ直接提供される。NPCはまた、生物活性剤をバイオフィルム内に運搬且つ保持することによって、バイオフィルムのさらなる蓄積を阻害し、現存するバイオフィルムの破壊又は分解を促進する。さらにNPCは、局所環境のpHに依存した、治療剤の制御可能な放出を提供する。
一実施形態では、NPCは少なくとも1つの治療剤を含む。本発明はいずれの特定の治療剤にも限定されないが、NPC内に埋め込むことが可能ないずれかの適切な治療剤を包含する。代表的な治療剤としては、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗バイオフィルム剤、化学療法剤、抗炎症剤、消毒剤、麻酔薬、鎮痛剤、医薬製剤、小分子、ペプチド、核酸、及び同種のものが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、治療剤は抗バイオフィルム剤を含み、前記抗バイオフィルム剤としては、アピゲニン及びその誘導体;フラボン類、フラボノール類、ジヒドロフラボノール類、フラバノン類、及びそれらの誘導体を包含するフラボノイド類;ファルネソール及びその誘導体;テルペン類、テルピネオール類、ジテルペン酸類、ジテルペン類、トリテルペン類、及びそれらの誘導体を包含するテルペノイド類;ムタナーゼ、デキストラナーゼ、及びアミログルコシダーゼ−グルコース酸化酵素を包含するバイオフィルム分解性酵素;並びにローズベンガル、過ホウ酸塩、メタ過ヨウ素酸塩、ソルビトール、キシリトール、1−デオキシノジリマイシン、フラボノイド類、ポリフェノール類、プロアントシアニジン類、タンニン類、及びクマリン類を包含するEPS合成酵素阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
別の実施形態では、前記少なくとも1つの治療剤は抗菌剤を含み、前記抗菌剤としては、クロルヘキシジン及びその誘導体、ビスビグアニド類阻害剤のメンバー、ポビドンヨード、過酸化水素、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、精油抽出物(メントール、チモール、ユーカリプトール、サリチル酸メチル、金属塩(亜鉛、銅、スズイオン)、フェノール類(トリクロサン)、すべての第四級アンモニウム化合物(塩化セチルピリジニウム)、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム、デルモピノール)、すべての天然分子(フェノール類、フェノール酸類、キノン類、アルカロイド類、レクチン類、ペプチド類、ポリペプチド類、インドール誘導体、フルストラミン誘導体、カロラクトン、ハロゲン化フラノン類、オロイジン類似体、アゲラシン、アゲロキシムD)が挙げられるが、これらに限定されない。
別の実施形態では、前記少なくとも1つの治療剤はフッ化物を含む。フッ化物はフッ化物製剤の1つとして含まれてよく、前記フッ化物製剤として、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸塩及びその誘導体、並びにフッ化スズが挙げられるが、これらに限定されない。
一実施形態では、前記組成物は複数の異なるNPCを含み、前記異なるNPCのそれぞれが、異なる治療剤を含む。例えば一実施形態では、前記組成物は、抗バイオフィルム剤を含む第1のNPC、及びフッ化物を含む第2のNPCを含む。別の実施形態では、前記組成物は、抗バイオフィルム剤を含む第1のNPC、広域スペクトルの抗生物質を含む第2のNPC、及びフッ化物を含む第3のNPCを含む。前記異なるNPCのそれぞれは、異なる薬剤送達特性に対して構成することができるため、特定の疾患又は処置に必要とされるような、異なる治療剤を異なる時間に送達することが可能となる。
特定の実施形態では、本発明の組成物は、本発明のNPCを中に取り込むことができる、溶液、発泡体、ペースト、ゲル、ガム、溶解性の基質、錠剤、トローチ剤、又は同種のものである。例えば前記組成物は、バイオフィルムを有するか、又はバイオフィルムが発生する危険性のある表面への適用が可能な、いずれの形であってもよい。歯科応用では、前記組成物は、対象の薄膜又は歯への適用が可能な、いずれの形であってもよい。
本発明はまた、バイオフィルム並びにバイオフィルムの形成に関連する疾患を処置及び/又は予防する方法も提供する。一実施形態では、前記方法は、NPCと少なくとも1つの治療剤とを含む組成物を対象へ有効量投与することを含む。本明細書の他所で考察するように、本発明の組成物は、バイオフィルムマトリックス内に特異的に含まれる前記少なくとも1つの治療剤の、バイオフィルムが形成される部位、バイオフィルムが蓄積する部位、並びに/又はバイオフィルムの形成及び/若しくは蓄積の危険性がある部位における、局所的な持続性の送達を提供する。本発明の組成物は、バイオフィルム並びにバイオフィルムの形成及び蓄積の危険性がある部位に結合することから、本発明の方法では前記組成物を頻繁に適用する必要がない。このように一実施形態では、前記方法は、NPCと少なくとも1つの治療剤とを含む、有効量の組成物の単回適用を含む。
一実施形態では、本発明は、対象の歯の薄膜に沿った齲蝕原性バイオフィルムの量を減少させるか、形成を予防するか、又は蓄積を予防することによって、齲蝕を処置及び予防する方法を含む。前記方法は、バイオフィルム内へ、バイオフィルムが形成及び/又は蓄積される部位へ、又はバイオフィルムの形成及び/又は蓄積の危険性がある部位への、治療剤の効果的な、持続性の、局所的な送達を提供する。一実施形態では、前記方法はNPCからの治療剤のpH依存性の放出を提供する。齲蝕原性バイオフィルムの形成には、バイオフィルム内の酸性ニッチの発生が含まれる。このように一実施形態では、前記方法は、治療剤が正確に最も必要とされるときに局所環境が酸性になれば、NPCから特異的に治療剤が送達されることを含む。
一実施形態では、前記方法によって送達される治療剤は、アピゲニン、ファルネソール、クロルヘキシジン、フッ化物、及びそれらの混合物を含む。しかしながら、前記方法はいずれの特定の薬剤にも限定されない。例えば本発明の方法は、伝統的な手段を用いては送達不可能と思われる特定の治療剤を含むことも可能である。特定の実施形態では、治療剤又は薬剤は、NPC内に埋め込まれるか又は封入される。NPCは、治療的有効量の治療剤を負荷される能力をもつことが示されている。治療剤の局所的且つ条件的な放出によって、前記方法は、特定の場所及び状態で送達されなければ、対象に有害となり得る強い治療剤の送達を含むことが可能になる。例えば、広域スペクトルの抗生物質の口中への伝統的な適用法では、抗生物質が口腔内のすべての細菌種を破壊する可能性があり、それらのうちの幾つかは実際に対象の健康に有益なものであることから、対象に有害となり得る。しかしながら、例えば本発明の方法によって達成されるように、局所的で増強された送達が誘発される際には、病変(例えばバイオフィルム、齲蝕など)に関連する細菌種のみが標的とされ、口腔内の他所にある有益な種は残されるため、同じ薬剤の送達が可能になる。
組成物
本発明は、誘発された際に、持続性で増強された局所的な薬剤送達を提供する、ナノ粒子担体(NPC)を含む組成物を提供する。前記NPCは、標的表面と相互作用する、ポリマーベースのミセル集合体である。本明細書の他所で考察するように、本発明のNPCは、バイオフィルム内、並びにバイオフィルムの形成及び蓄積の危険性がある部位に結合する。一実施形態では、NPCは、埋め込まれた治療剤が局所のpHに依存した速度で送達されるpH−反応性である。好ましい実施形態によれば、NPCは、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、プロピルアクリル酸(PAA)、ブチルメタクリレート(BMA)、又はそれらの共重合体を含む。代表的なNPCの組成物については、その内容が参照により本明細書に援用される、米国特許出願公開第2011/0123636号明細書に記載される。
一実施形態では、前記組成物は、少なくとも1つの治療剤を含むNPCを含む。例えば一実施形態では、NPCは少なくとも1つの抗バイオフィルム剤を含む。
一実施形態では、前記少なくとも1つの治療剤が、リンケージ及び/又はテザーを介してNPC内に結合する。一実施形態では、誘発された際にテザーが分解性となることで、NPCから標的組織内への治療剤の放出が可能となる。それぞれの内容が参照により本明細書に援用される、Benoit et al., 2007, Adv Funct Mater, 17(13): 2085-2093及びBenoit et al., 2006, Biomaterials, 27(36): 6102-6110に記載されるように、テザーの長さ及び数は治療剤の放出速度を決定する。
一実施形態では、前記組成物は複数の異なるNPCを含み、前記異なるNPCのそれぞれが異なる治療剤を含むことによって、局所的で且つ制御された、複数の治療剤の送達が可能になる。
NPCの構造
本明細書の幾つかの実施形態では、複数のブロック共重合体を含むNPCが提供される。特定の実施形態では、NPCはコア及びシェルを含む。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるブロック共重合体のコアブロックはpH依存性の疎水性物質である。特定の実施形態では、前記シェルブロックは親水性である。特定の実施形態では、前記シェルブロックは、おおよそ中性のpHにおいて親水性である。
幾つかの実施形態では、ブロック共重合体は、(i)複数の疎水性単量体残基、(ii)荷電可能な種を有する複数の陰イオン性単量体残基であって、前記荷電可能な種は、生理的なpHでは陰イオンであり、酸性pHでは実質的に中性か又は非荷電である、複数の陰イオン性単量体残基、及び(iii)任意に、複数の陽イオン性単量体残基、を含む。このような実施形態の幾つかでは、ブロック共重合体における陰イオン種:陽イオン種の比は、生理的なpHにおいて約4:1から約1:4の範囲である。このような実施形態の幾つかでは、ブロック共重合体の疎水性ブロックにおける陰イオン種と陽イオン種の比を改変することによって、本明細書に記載されるNPC活性の改変が可能になる。このような実施形態の幾つかでは、本明細書に記載されるブロック共重合体の疎水性ブロックにおける陰イオン種と陽イオン種の比は、生理的なpHにおいて約1:2から約3:1、又は約1:1から約2:1の範囲である。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCに存在するブロック共重合体は、複数の疎水性基を含むコアセクション(例えばコアブロック)を含む。さらに特定の実施形態では、コアセクション(例えばコアブロック)は、複数の疎水性基及び複数の第1の荷電可能な種又は基を含む。さらになお特定の実施形態では、このような第1の荷電可能な種又は基は、陰性に荷電している、及び/又は陰性に荷電した種又は基に荷電可能(例えばおおよそ中性のpH、又はpH約7.4において)である。幾つかの特定の実施形態では、前記コアセクション(例えばコアブロック)は、複数の疎水性基、複数の第1の荷電可能な種又は基、及び複数の第2の荷電可能な種又は基を含む。さらに特定の実施形態では、第1の荷電可能な種又は基は、陰性に荷電している、及び/又は陰性に荷電した種又は基に荷電可能であり、第2の荷電可能な種又は基は、陽性に荷電している、及び/又は陽性に荷電した種又は基に荷電可能(例えばおおよそ中性のpH、又はpH約7.4において)である。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェル及び/又はブロック共重合体のシェルブロックは、荷電可能な種又は基も含む。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCに存在する1つ以上のブロック共重合体は、陽イオンに荷電可能な複数の種又は基を含むシェルセクションを有する。NPCを取り囲む溶媒中の電解質濃度に依存して(例えばpHに依存して)、これらの陽イオンに荷電可能な種は、陽イオンに荷電しているか、又は非荷電状態である。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、約5のpHにおいて正味が陽イオンの電荷を有する。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、おおよそ中性のpHにおいて正味が中性の電荷を有する。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、おおよそ中性のpH(例えばpH約7.4において)正味が陽イオンの電荷を有する。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、pH約7よりもpH約5においてより大きな、正味が陽イオンの電荷を有する。さらなる、又は代わりの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、pH約7よりもpH約5においてより大きな、公称(又は絶対値)の電荷を有する。
特定の実施形態では、本明細書において、pHの範囲が約6以上、約6.5以上、約7以上、約6から約14、若しくはそれを超える;約6から約10、若しくはそれを超える;約6から約9.5、若しくはそれを超える;約6から約9、若しくはそれを超える;約6から約8.5、若しくはそれを超える;約6から約8、若しくはそれを超える;約6.5から約14、若しくはそれを超える;約6.5から約10、若しくはそれを超える;約6.5から約9.5、若しくはそれを超える;約6.5から約9、若しくはそれを超える;約6.5から約8.5、若しくはそれを超える;約7から約14、若しくはそれを超える;約7から約10、若しくはそれを超える;約7から約9.5、若しくはそれを超える;約7から約9、若しくはそれを超える;約7から約8.5、若しくはそれを超える;約6.2から約7.5、若しくはそれを超える;6.2から7.5;又は約7.2から約7.4であるとき、NPCの形がミセル、偽ミセル、又はミセル様構造であるNPCが提供される。特定の実施形態では、pHが約7、若しくはそれ未満;約6.8、若しくはそれ未満;約6.5、若しくはそれ未満;約6.2、若しくはそれ未満;約6、若しくはそれ未満;約5.8、若しくはそれ未満;又は約5.7、若しくはそれ未満であるとき、本明細書において提供されるNPC、ミセル、偽ミセル、又はミセル様構造は、実質的に若しくは少なくとも部分的に破壊又は分離される。特定の実施形態では、pHの範囲が約6.2から7.5であるとき、NPCの形はミセルである。本明細書で用いられるNPCは、少なくとも記載されたpHにおいて形を有し、且つ記載されたpHの範囲外のpHにおいても、記載された形を有し得ることを理解されたい。
特定の実施形態では、本明細書に記載される「ブロック共重合体」は、コアセクションとシェルセクションとを含む。本明細書で考察するように、前記コアセクションは任意に、コアブロックであるか又はコアブロックを含み、前記シェルセクションは任意に、シェルブロックを含むか又はシェルブロックである。幾つかの実施形態では、このようなブロックの少なくとも1つは勾配ポリマーブロックである。さらなる実施形態では、本明細書で用いられるブロック共重合体は、勾配ポリマーによって任意に置換される(すなわちNPCに用いられるポリマーは、コアセクション及びシェルセクションを有する勾配ポリマーである)。
特定の実施形態では、本発明のNPCはジブロック共重合体を含む。例えば一実施形態では、NPCは、p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)を含むジブロックポリマーを含む。一実施形態では、シェルブロックはp(DMAEMA)を含む。一実施形態では、コアブロックはp(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)共重合体を含む。特定の実施形態では、NPCはナノ粒子である。特定の実施形態では、NPCはミセルである。さらなる実施形態では、NPCは、おおよそ10nmから約200nm、約10nmから約100nm、又は約30〜80nmの大きさのナノ粒子又はミセルである。粒径は、限定はされないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、動的光散乱法(DLS)、電子顕微鏡技術(例えばTEM)、及びその他の方法を含むいずれかのやり方によって決定できる。
特定の実施形態では、シェル及び/又はシェルブロックは、親水性である、及び/又は荷電している(例えば非荷電、陽イオン性、ポリカチオン性、陰イオン性、ポリアニオン性、又は双性イオン性)。特定の実施形態では、シェル及び/又はシェルブロックは、親水性及び中性(非荷電)である。特定の実施形態では、シェル及び/又はシェルブロックは、正の正味電荷を含む。特定の実施形態では、シェル及び/又はシェルブロックは、負の正味電荷を含む。特定の実施形態では、シェル及び/又はシェルブロックは、中性の正味電荷を含む。幾つかの実施形態では、コア及び/又はコアブロックは、疎水性である、及び/又は疎水性の基、部分、単量体単位、種、若しくは同種のものを含む。特定の実施形態では、疎水性コア並びに/又はコアブロックは、複数の疎水性の基、部分、単量体単位、種、若しくは同種のもの、及び荷電可能な複数の種若しくは単量体単位を含む。さらに特定の実施形態では、荷電可能な複数の単量体単位又は種は、陰イオンに荷電可能な複数の単量体単位又は種を含む。さらに特定の実施形態では、荷電可能な複数の単量体単位又は種は、陽イオンに荷電可能な複数の単量体単位又は種を含む。さらになお特定の実施形態では、荷電可能な複数の単量体単位又は種は、複数の陽イオン性の、及び複数の陰イオン性の、荷電可能な単量体単位又は種を含む。幾つかの実施形態では、前記ブロック共重合体のそれぞれは、(1)NPCのシェルを形成する、親水性の、荷電されたブロック(例えば陰イオン性若しくはポリアニオン性;又は陽イオン性若しくはポリカチオン性;又は双性イオン性;又は非荷電)、(2)疎水性ブロック、及び(3)陰イオンに荷電可能な複数の種を含む。幾つかの実施形態では、陰イオンに荷電可能な複数の種は、疎水性ブロック内に存在する。特定の実施形態では、疎水性コア及び/又はコアブロックは、疎水性基、荷電可能な基、若しくはそれらの組み合わせを含んでよいか、又は含まなくてもよいスペーサー単量体単位を任意に含む。幾つかの実施形態では、NPCのコアを形成するか、又はNPCのコア内に存在するポリマーブロック(例えば共重合体の1つ以上のコアブロック)は荷電可能である(例えば、生理的なpHにおいて陽イオン種及び/又は陰イオン種を含む)。幾つかの場合には、本明細書において提供されるNPC(例えばミセル)は、自己会合した複数のブロック共重合体から形成される。特定の場合には、自己会合はブロック共重合体の疎水性ブロックの相互作用を通して起こり、得られたNPC(例えばミセル)は、NPCのコアに存在する疎水性ブロックの疎水性相互作用を通して安定化される。
幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPC(例えばミセル)は、活性(例えば治療剤を送達するNPCの活性)を、哺乳類組織(例えば血清、血漿、唾液、軟部組織など)において少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、又は少なくとも24時間保持する。
様々な実施形態では、本明細書に記載されるNPC(例えばミセル)に用いられるブロック共重合体は、(1)NPCの生物物理学的特性、例えば限定されない例としては、溶解度、水溶解度、安定性、水性溶媒中での安定性、親水性、親油性、疎水性、又は同種のもの;(2)NPC製剤の投与可能な形、又はその他の目的への促進;(3)特異的若しくは選択された型の細胞又は生体構造を標的とするNPCの能力(例えばターゲティング成分を保有することによる);及び/又は(4)NPCの生体適合性を増大させる能力を含むが、これらに限定されない、本明細書において提供されるNPC(例えばミセル)の特定の態様又は機能性に影響するか、又は影響するように選択される。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、以下のうちの1つ以上によって特徴付けられる:(1)水混和性溶媒(例えば限定はされないがエタノール)から水性溶媒(例えばリン酸緩衝食塩水、pH7.4)へ希釈すると、ブロック共重合体の自発性の自己会合が組織的な集合(例えばミセル)を形成することによってNPCが形成される;(2)NPCは希釈に対して安定である(例えばポリマー濃度を100μg/ml、50μg/ml、10μg/ml、5μg/mlまたは1μg/mlと低下させると、臨界安定濃度又は臨界ミセル濃度(CMC)が構成される);(3)NPCは周囲溶媒の高いイオン強度(例えば0.5M NaCl)に対して安定である;及び/又は(4)ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMS)、及びジオキサンを含むが、これらに限定されない有機溶媒の濃度が高くなると、NPCの不安定性も高くなる。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、前述の特性の少なくとも2つを有することによって特徴付けられる。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、前述の特性の少なくとも3つを有することによって特徴付けられる。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、前述の特性のすべてを有することによって特徴付けられる。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、以下のその他の基準によってさらに、又は別に特徴付けられる:(1)個々のブロックの分子量及びその相対的な長さの比は、形成されたNPCの大きさ及びその相対的な安定性を規定するため、減少するか又は増大する、及び(2)シェルを形成する陽イオン性ポリマーブロックの大きさは、陰イオン性治療剤との効果的な複合体の形成及び/又は陰イオン性治療剤の電荷の中和を提供するために変動する。
さらに特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、疎水性小分子、例えば疎水性小分子化合物(例えば疎水性小分子薬剤)をNPCの疎水性コア内に選択的に取り込む。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、リンカー及び/又はテザーによってNPCの1つ以上の成分へ結合された治療剤を含む。
ブロック共重合体
特定の実施形態では、本明細書において提供されるブロック共重合体のコアブロックは、複数の第1の荷電可能な基、種、又は単量体単位、及び複数の第2の荷電可能な種、基、又は単量体単位を含む。特定の場合には、前記第1の荷電可能な基、種、又は単量体単位は、陰性に荷電しているか、又は陰性の種、基、又は単量体単位に荷電可能である。幾つかの場合に、前記第2の荷電可能な基、種、又は単量体単位は、陽性に荷電しているか、又は陽イオン性の種、基、又は単量体単位に荷電可能である。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCを含む水性溶媒のpHが低下すると、ブロック共重合体のコアブロック及びNPCのコアがさらにプロトン化される結果、NPCの形及び/又は大きさが破壊される。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、pH依存性にエンドソーム膜を不安定化する膜不安定化ブロック共重合体を複数含む。様々な実施形態では、膜不安定化ブロック共重合体は、NPC内で集合した場合及び/又はNPCの形に依存せずに存在した場合(例えばミセル集合が分離及び/又は不安定化した場合)に、膜を不安定化させる。幾つかの実施形態では、生理的なpH又はそれに近いpHにおいて、NPCを構成するポリマーの膜不安定化度は最小限であるが、低いpHへの曝露によって、前記ポリマーは膜不安定化性となる。特定の場合には、この膜不安定化状態への移行はポリマー内に取り込まれる弱酸性残基のプロトン化を介して起こり、このようなプロトン化はポリマーの疎水性を増大させる。特定の場合には、ポリマーの疎水性が増大することによってNPCの立体構造が変化し、これによってNPCは膜不安定化性となる(例えば膜の不安定化が引き起こされる)。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCの膜不安定化の機構は、PEI又はその他のポリカチオンのようなポリカチオンによるプロトン・スポンジ膜不安定化機構に、純粋に依存するものではない。幾つかの実施形態では、膜破壊の2つの機構である(a)ポリカチオン(例えばDMAEMA)と(b)疎水化ポリアニオン(例えばプロピルアクリル酸)との組み合わせが、ポリマーによって与えられる膜不安定化の効力に対して相加的又は相乗的に作用する。
幾つかの実施形態では、ポリマーブロックは、例えば限定はされないがポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリエチレングリコール、親水性ブロック、疎水性ブロック、荷電ブロック、又は同種のものから任意に選択される。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCはブロック共重合体を含み、前記ブロック共重合体は非ペプチド性及び/又は非脂質性である。幾つかの実施形態では、NPCを形成するブロック共重合体の骨格は非ペプチド性及び/又は非脂質性である。特定の実施形態では、コアブロックの骨格は非ペプチド性及び/又は非脂質性である。幾つかの実施形態では、シェルブロックは非ペプチド性及び/又は非脂質性である。本明細書で用いられる脂質は、生化学的サブユニットの2つの異なる型であるケトアシル及びイソプレン群、例えば脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質(saccharolipids)、ポリケチド、ステロール脂質、及びプレノール脂質から、完全に、又は部分的に生じる疎水性又は両親媒性分子として大まかに定義される化合物の多様な群である。
幾つかの実施形態では、本明細書において、コアセクション(例えばコアブロック)とシェルセクション(例えばシェルブロック)とを含む複数のブロック共重合体を含むNPCが提供され、コアセクション(例えばコアブロック)の数平均分子量とシェルセクション(例えばシェルブロック)の数平均分子量との比は、いずれかの適切な比において存在する。特定の実施形態では、コアセクション(例えばコアブロック)の数平均分子量とシェルセクション(例えばシェルブロック)の数平均分子量との比が、約1:10から約5:1、約1:1から約5:1、約5:4から約5:1、約1:2から約2:1、約2:1、約1.5:1、約1.1:1、約1.2:1、約1.3:1、約1.4:1、約1.6:1、約1.7:1、約1.8:1、約1.9:1、又は約2.1:1であるブロック共重合体が存在する。幾つかの実施形態では、コアセクション(例えばコアブロック)の数平均分子量とシェルセクション(例えばシェルブロック)の数平均分子量との比が、約2(若しくはそれを超える)から1;約1.5(若しくはそれを超える)から1;約1.1(若しくはそれを超える)から1;約1.2(若しくはそれを超える)から1;約1.3(若しくはそれを超える)から1;約1.4(若しくはそれを超える)から1;約1.6(若しくはそれを超える)から1;約1.7(若しくはそれを超える)から1;約1.8(若しくはそれを超える)から1;約1.9(若しくはそれを超える)から1;又は約2.1(若しくはそれを超える)から1であるブロック共重合体が存在する。特定の実施形態では、コアブロックの数平均分子量とシェルブロックの数平均分子量との比が約2:1である。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有するポリマー(例えばブロック共重合体及び/又はモノブロック共重合体を含むモノブロックポリマー)の少なくとも1つの型を含む。特定の実施形態では、親水性セグメントは親水性ブロックであり、疎水性セグメントは疎水性ブロックである。幾つかの実施形態では、これらのポリマーは非ペプチド性である。別の実施形態では、親水性セグメント及び疎水性セグメントは、モノブロック勾配共重合体の異なる領域である。様々な場合に、「重合体セグメント」は、本明細書に記載されるブロックの所定の物理特性(例えば物理特性、例えば疎水性、親水性、帯電性など)を有するか、又は同様の物理特性(例えば疎水性、親水性、帯電性など)を有する1つ以上のブロックを含むポリマーセクションである。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのポリマーの1つ以上又はすべては、それぞれ、(1)NPCのシェルの少なくとも一部を形成する、任意に荷電された親水性セグメント(例えばシェルブロック);及び(2)コア形成重合体セグメントの疎水性相互作用を通して安定化するNPCの疎水性コアの少なくとも一部を形成する、実質的に疎水性のセグメント(例えばコアブロック)を有する。幾つかの実施形態では、親水性セグメントは中性又は非荷電である。幾つかの実施形態では、親水性セグメントは荷電しており、陽イオン性又はポリカチオン性である。幾つかの実施形態では、親水性セグメントは荷電しており、陰イオン性又はポリアニオン性である。幾つかの実施形態では、親水性セグメントは荷電しており、双性イオン性である。幾つかの場合には、親水性セグメントは、少なくとも3つの機能:(1)NPCのシェルを形成すること、(2)NPCの水中分散性を増大させること、及び(3)1つ以上の治療標的に付着(例えば結合)することを提供し得る。幾つかの実施形態では、ブロック共重合体のコアブロック及び/又はNPCのコアは、荷電可能な又は荷電した種(例えば生理的なpHにおける陰イオン種及び/又は陽イオン種/単量体単位)も含み、膜不安定性である(例えばpH依存性に膜不安定化される)。幾つかの実施形態では、実質的に疎水性のブロック(例えばコアブロック)及び/又はNPCのコアは、1つ以上の荷電可能な種(例えば単量体単位、部分、基、又は同種のもの)を含む。さらに特定の実施形態では、実質的に疎水性のブロック及び/又はNPCのコアは、複数の陽イオン種および複数の陰イオン種を含む。さらになお特定の実施形態では、ブロック共重合体のコアブロック及び/又はNPCのコアは、実質的に同様な数の陽イオン種及び陰イオン種を含む(すなわち疎水性ブロック及び/又はコアは実質的に正味中性である)。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、第1及び第2の荷電可能な種を含む疎水性コアブロックを含む。幾つかの実施形態では、第1の荷電可能な種は本明細書に記載されるとおりであり、第2の荷電可能な種は、プロトン化によって陽イオン種に荷電可能である。特定の実施形態では、第1の荷電可能な種は、酸性pH(例えばエンドソームpH、約6.5未満のpH、約6.0未満のpH、約5.8未満のpH、約5.7未満のpH、又は同種のpH)において非荷電である。特定の実施形態では、第2の荷電可能な種のpKaは約6から約10、約6.5から約9、約6.5から約8、約6.5から約7.5、又はその他のいずれかの適切なpKaである。特定の実施形態では、少なくとも1つの第1の荷電可能な種及び少なくとも1つの第2の荷電可能な種は、単一の単量体単位に存在する。幾つかの実施形態では、第1の荷電可能な種は第1の荷電可能な単量体単位に見出され、第2の荷電可能な種は第2の荷電可能な単量体単位に見出される。特定の実施形態では、第1の荷電可能な種は脱プロトン化によって陰イオン種に荷電可能であり、第2の荷電可能な種はプロトン化によって陽イオン種に荷電可能であり、前記陰イオン種と前記陽イオン種との比は、おおよそ中性のpHにおいて、約1:10と約10:1、約1:6と約6:1、約1:4と約4:1、約1:2と約2:1、約1:2と3:2の間であるか、又は約1:1である。幾つかの実施形態では、前記第1の荷電可能な単量体単位と前記第2の荷電可能な単量体単位との比は、約1:10と約10:1、約1:6と約6:1、約1:4と約4:1、約1:2と約2:1、約1:2と3:2の間であるか、又は約1:1である。
本明細書で用いられる用語「共重合体」は、ポリマーが、2つ以上の異なる単量体が重合した結果であることを意味する。本明細書に記載されるNPCの「モノブロックポリマー」又は「サブユニットポリマー」は、単一の重合工程による合成産物である。モノブロックポリマーとの用語には、共重合体(すなわち1つを超える型の単量体の重合による産物)及びホモポリマー(すなわち単一の型の単量体の重合による産物)が含まれる。「ブロック」共重合体は、本明細書では互換的に用いられる構成単位又は単量体単位の、1つ以上のサブコンビネーションを含む構造を指す。このような構成単位又は単量体単位は、重合した単量体の残基を含む。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるブロック共重合体は、非脂質性の構成単位又は単量体単位を含む。幾つかの実施形態では、ブロック共重合体はジブロック共重合体である。ジブロック共重合体は、2つのブロックを含み、このようなポリマーの概略図は以下のように表され:[AaBbCc...]m-[XxYyZz...]n、各文字は構成単位又は単量体単位を表し、構成単位の下付き文字はそれぞれ特定のブロック内のその単位のモル分率を表し、3個の点は、各ブロックの構成単位が3個を超えて存在し得る(それより少ない可能性もある)ことを表し、m及びnはジブロック共重合体内の各ブロックの分子量を示す。概略図に示すように、幾つかの場合には、各構成単位の数及び性質は、各ブロックに対して別々に制御される。概略図は、各ブロックにおける構成単位の数又は異なる型の構成単位の数の間に何らかの関連性があることを意味するものではなく、そのように解釈されてはならない。また概略図は、特定のブロック内の構成単位のいずれかの特定の数又は配列を示すように意図されたものではない。他に明確な記載がない限り、各ブロックにおいて、構成単位は純粋にランダムな、交互にランダムな、規則的に交互の、規則的なブロックの、又はランダムなブロックの配置に配列される。純粋にランダムな配置は、限定はされないが例えば、x−x−y−z−x−y−y−z−y−z−z−z...の形であってよい。交互にランダムな配置の限定されない代表例は、x−y−x−z−y−x−y−z−y−x−z...の形であってよく、規則的な交互配置の限定されない代表例は、x−y−z−x−y−z−x−y−z...の形であってよい。規則的なブロック配置の限定されない代表例は、...x−x−x−y−y−y−z−z−z−x−x−x...の配置であってよく、ランダムなブロック配置の限定されない代表例は、...x−x−x−z−z−x−x−y−y−y−y−z−z−z−x−x−z−z−z−...の配置であってよい。勾配ポリマーでは、1つ以上の単量体単位の量は、ポリマーのα末端からω末端まで勾配様に増加又は減少する。上に挙げた一般例のいずれも、個々の構成単位若しくはブロック又はブロック内の構成単位の数又はブロックの数の、特定の並置を意味するものではなく、またこれらは、本発明のミセル集合を形成するブロック共重合体の実際の構造に関連するか、又は実際の構造を限定するものとして解釈されてはならない。特定の実施形態では、本明細書において、本明細書に記載されるいずれかのサブユニットポリマー又はサブユニットポリマーの組成が、このようなポリマーがミセルに集合しているか否かに関わらず提供される。
本明細書で用いられる、構成単位を囲む角括弧は、構成単位自体がブロックを形成することを意味するものではなく、そのように解釈されてもならない。すなわち、角括弧内の構成単位は、ブロック内のその他の構成単位、すなわち純粋にランダムな、交互にランダムな、規則的に交互の、規則的なブロックの、又はランダムなブロックの配置と、いずれかの様式によって結合してもよい。本明細書に記載されるブロック共重合体は任意に、交互の、勾配、又はランダムなブロック共重合体である。幾つかの実施形態では、前記ブロック共重合体は、デンドリマー、星型、又はグラフト共重合体である。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCのブロック共重合体は、エチレン性不飽和単量体を含む。本明細書において、用語「エチレン性不飽和単量体」は、少なくとも1つの炭素二重結合又は三重結合を有する化合物として定義される。エチレン性不飽和単量体の例としては、アルキル(アルキル)アクリレート、メタクリレート、アクリレート、アルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリルアミド、スチレン、アリルアミン、アリルアンモニウム、ジアリルアミン、ジアリルアンモニウム、N−ビニルホルムアミド、ビニルエーテル、ビニルスルホネート、アクリル酸、スルホベタイン、カルボキシベタイン、ホスホベタイン、又は無水マレイン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
様々な実施形態では、本明細書に記載されるNPCのポリマーを提供するために適したいずれかの単量体が用いられる。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCのポリマーの調製に用いるために適した単量体の限定されない例としては、以下の単量体:メタクリル酸メチル、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート(すべての異性体)、ブチルメタクリレート(すべての異性体)、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、メタクリル酸、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、メタアクリロニトリル、アルファ−メチルスチレン、アクリル酸メチル、エチルアクリレート、プロピルアクリレート(すべての異性体)、ブチルアクリレート(すべての異性体)、2−エチルヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アクリル酸、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、アクリロニトリル、スチレン;グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート(すべての異性体)、ヒドロキシブチルメタクリレート(すべての異性体)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、オリゴエチレングリコールメタクリレート、イタコン酸無水物、イタコン酸、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート(すべての異性体)、ヒドロキシブチルアクリレート(すべての異性体)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、トリエチレングリコールアクリレート、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチロールアクリルアミド、ビニル安息香酸(すべての異性体)、ジエチルアミノスチレン(すべての異性体)、アルファ−ビニル安息香酸メチル(すべての異性体)、ジエチルアミノアルファ−メチルスチレン(すべての異性体)、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、トリエトキシシリルプロピルメタクリレート、トリブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルメタクリレート、トリメトキシシリルプロピルアクリレート、トリエトキシシリルプロピルアクリレート、トリブトキシシリルプロピルアクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジメトキシシリルプロピルアクリレート、ジエトキシシリルプロピルアクリレート、ジブトキシシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルアクリレート、酢酸ビニル、酪酸ビニル、ビニルベンゾエート、塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニル、無水マレイン酸、N−アリールマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−アルキルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールv、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、エチレン、プロピレン、1,5−ヘキサジエン類、1,4−ヘキサジエン類、1,3−ブタジエン類、1,4−ペンタジエン類、ビニルアルコール、ビニルアミン、N−アルキルビニルアミン、アリルアミン、N−アルキルアリルアミン、ジアリルアミン、N−アルキルジアリルアミン、アルキレンイミン、アクリル酸類、アルキルアクリレート類、アクリルアミド類、メタクリル酸類、アルキルメタクリレート類、メタクリルアミド類、N−アルキルアクリルアミド類、N−アルキルメタクリルアミド類、N−イソプロピルアクリルアミド、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、エチルビニルベンゼン、アミノスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルビフェニル、ビニルアニソール、ビニルイミダゾリル、ビニルピリジニル、ビニルポリエチレングリコール、ジメチルアミノメチルスチレン、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート、トリメチルアンモニウムエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、トリメチルアンモニウムエチルアクリレート、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート、トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミド、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、及びオクタデシルメタクリレート単量体から選択されるアクリレート類及びスチレン類、並びにそれらの組み合わせの1つ以上が挙げられる。
幾つかの実施形態では、これらの単量体の官能基化された形が任意に用いられる。本明細書で用いられる官能基化された単量体は、マスクされているか又はされていない官能基、例えば重合後に他の部分が付着する基を含む単量体である。このような基の限定されない例は、一級アミノ基、カルボキシル、チオール、ヒドロキシル、アジド、及びシアノ基である。幾つかの適切なマスキング基が利用可能である(例えば、T. W. Greene & P. G. M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis (2nd edition) J. Wiley & Sons, 1991. P. J. Kocienski, Protecting Groups, Georg Thieme Verlag, 1994を参照されたい)。
本明細書に記載するポリマーは、いずれかの適切な方法によって調製される。本明細書において提供されるポリマーを産生するために適切な合成方法の限定されない例としては、陽イオン重合、陰イオン重合、及びフリーラジカル重合が挙げられる。幾つかの場合には、陽イオンによる方法が用いられる際に、単量体は触媒で処理されて重合が開始される。任意に、共重合体を形成するためには1個以上の単量体が用いられる。幾つかの実施形態では、このような触媒は、例えばプロトン酸(ブレンステッド酸)又はルイス酸のようなイニシエーターであり、ルイス酸を用いる場合には、水又はアルコールのような幾つかのプロモーターも任意に用いられる。幾つかの実施形態では、前記触媒の限定されない例として、ヨウ化水素、過塩素酸、硫酸、リン酸、フッ化水素、塩化スルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、三塩化アルミニウム、アルキル塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素錯体、四塩化スズ、五塩化アンチモン、塩化亜鉛、四塩化チタン、五塩化リン、オキシ塩化リン、及びオキシ塩化クロムが挙げられる。特定の実施形態では、ポリマー合成は無希釈で、又はいずれかの適切な溶媒中で行われる。適切な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、及びジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記ポリマー合成は、例えば約−50℃から約100℃、又は約0℃から約70℃のような、いずれかの適切な反応温度にて行われる。
特定の実施形態では、ポリマーはフリーラジカル重合の手段によって調製される。フリーラジカル重合法を用いる際には、(i)単量体、(ii)任意に、共単量体、及び(iii)任意のフリーラジカル源が、フリーラジカル重合過程を開始させるために提供される。幾つかの単量体は、高温で加熱することにより自己開始し得るため、幾つかの実施形態では、フリーラジカル源は任意である。特定の場合には、重合混合物を形成した後、前記混合物は重合条件へ供される。本明細書で考察するように、重合条件は、少なくとも1つの単量体から少なくとも1つのポリマーの形成が引き起こされる条件である。このような条件は、任意にいずれかの適切なレベルに変更され、限定されない例としては、温度、圧力、雰囲気、重合混合物に用いられる出発成分の比、及び反応時間が挙げられる。重合は、いずれかの適切な様式で、例えば溶液、分散剤、懸濁液、エマルション中で、又は原体で行われる。
幾つかの実施形態では、反応混合物中にイニシエーターが存在する。本明細書に記載される重合方法に有用である場合、いずれかの適切なイニシエーターが任意に用いられる。このようなイニシエーターの限定されない例としては、アルキル過酸化物、置換アルキル過酸化物、アリール過酸化物、置換アリール過酸化物、アシル過酸化物、アルキルヒドロペルオキシド、置換アルキルヒドロペルオキシド、アリールヒドロペルオキシド、置換アリールヒドロペルオキシド、ヘテロアルキル過酸化物、置換ヘテロアルキル過酸化物、ヘテロアルキルヒドロペルオキシド、置換ヘテロアルキルヒドロペルオキシド、ヘテロアリール過酸化物、置換ヘテロアリール過酸化物、ヘテロアリールヒドロペルオキシド、置換ヘテロアリールヒドロペルオキシド、アルキルパーエステル、置換アルキルパーエステル、アリールパーエステル、置換アリールパーエステル、及びアゾ化合物のうちの1つ以上が挙げられる。特定の実施形態では、過酸化ベンゾイル(BPO)及び/又はAIBNがイニシエーターとして用いられる。
幾つかの実施形態では、重合過程は、限定はされないが、原子移動ラジカル重合(ATRP)、ニトロキシド媒介リビングフリーラジカル重合(NMP)、開環重合(ROP)、変性移動(DT)、及び可逆的付加フラグメンテーション移動(RAFT)のようないずれかの適切な方法により、リビングモードにおいて実行される。従来の及び/又はリビングの/制御された重合方法を用いて、限定はされないが、ブロック、グラフト、星型、及び勾配共重合体のような様々なポリマー構造が産生され、これによって単量体単位が統計的に若しくは勾配様に鎖全体にわたって分布するか、又はブロック配列若しくはペンダントグラフト内でホモ重合する。別の実施形態では、ポリマーは、キサンテート類による可逆的付加フラグメンテーション鎖移動(MADIX)を介した高分子設計によって合成される(Direct Synthesis of Double Hydrophilic Statistical Di- and Triblock Copolymers Comprised of Acrylamide and Acrylic Acid Units via the MADIX Process”, Daniel Taton, et al., Macromolecular Rapid Communications, 22, No. 18, 1497-1503 (2001))。
特定の実施形態では、本発明のエチレン骨格ポリマーを合成するために、可逆的付加フラグメンテーション鎖移動、すなわちRAFTが用いられる。RAFTはリビング重合過程である。RAFTは、フリーラジカルによる変性鎖移動過程を含む。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるポリマーを調製するためのRAFTを用いた手順においては、限定はされないが例えば、ジチオエステル類、ジチオカーバメート類、トリチオカーボネート類、及びキサンテート類のようなチオカルボニルチオ化合物を用いて、可逆的鎖移動機構による重合を仲介する。特定の場合には、前記化合物のいずれかのC=S基によるラジカル重合反応が、安定化されたラジカル中間体の形成を導く。典型的には、これらの安定化されたラジカル中間体は、標準のラジカル重合に典型的な終止反応を起こさず、前記過程中にC=S結合を再形成して、単量体による再開始又は生長が可能なラジカルを再導入する。ほとんどの場合には、このC=S結合への付加とそれに続く確保されたラジカルのフラグメンテーションの周期は、すべての単量体が消費されるか、又は反応が抑制されるまで継続する。概して、いずれかの特定の時点における低濃度の活性ラジカルが、通常の終止反応を律速する。
幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCに用いられるポリマーは、低い多分散指数(PDI)、すなわち鎖長の相違度の低さを有する。多分散指数(PDI)は、いずれかの適切な方法によって、例えばポリマー鎖の重量平均分子量を数平均分子量で割ることによって、決定できる。数平均分子量は、鎖の数で割った個々の鎖の分子量の和である。重量平均分子量は、分子量をその分子量の分子数で割った値の二乗に比例する。重量平均分子量は常に数平均分子量よりも大きいことから、多分散度は常に1以上である。数が同じに近くなればなるほど、すなわち多分散度が1に近づくほど、ポリマーは単分散に近くなり、すべての鎖は構成単位の数と正確に同じとなる。リビングラジカル重合を用いることで、多分散度の値は1に近くなる。限定はされないが例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、動的光散乱法、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化クロマトグラフィー、及びエレクトロスプレーマスクロマトグラフィーのような多分散度を決定するための方法が、当該技術分野において公知である。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるミセル集合(例えばミセル)のブロック共重合体(例えば膜不安定化ブロック共重合体)は、2.0未満、又は1.8未満、又は1.6未満、又は1.5未満、又は1.4未満、又は1.3未満、又は1.2未満の多分散指数(PDI)を有する。
本明細書に記載される重合過程は、いずれかの適切な溶媒中、又はそれらの混合液中で任意に起こる。適切な溶媒の例としては、水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール)、テトラヒドロフラン(THF)ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、アセトニトリル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、酢酸、ギ酸、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジオキサン、塩化メチレン、エーテル(例えばジエチルエーテル)、クロロホルム、及び酢酸エチルが挙げられる。一態様での前記溶媒には、水、及び水とDMFのような水混和性の有機溶媒との混合液が挙げられる。
特定の実施形態では、本明細書で用いられるポリ(DMAEMA)及びその他の重合体物質(例えばBMA、DMAEMA、及びPAAの共重合体又は共重合体ブロック)は、いずれかの適切な方法によって調製できる。一実施形態では、ポリ(DMAEMA)は、RAFT CTA、ECT、及びラジカルイニシエーターの存在下でDMAEMAを重合することによって調製される。幾つかの実施形態では、一連のジブロック共重合体を調製するために、一ブロックであるポリ(DMAEMA)マクロCTAが用いられ、ここでは第2のブロックがBMA、DMAEMA、及びPAAを含む。その他の特定の実施形態では、ジブロックポリマーにおけるブロックの配向が逆であり、この場合自己集合によって、ポリマーのω末端がNPCの親水性セグメントに曝露される。様々な実施形態では、このことは、多くの合成方法を含む、いずれかの適切な方法によって達成される。例えば幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるブロック共重合体の合成は、PAA/BMA/DMAEMAコア形成疎水性ブロックの調製によって始まり、得られたPAA/BMA/DMAEMAマクロCTAを第2のRAFT重合工程へ供することによって、第2の合成工程にシェル形成親水性荷電ブロックが加えられる。別のアプローチとしては、PAA/BMA/DMAEMAマクロCTAを減少させてチオール末端を形成し、形成されたチオールに予め形成された親水性荷電ポリマーを共有結合させることが挙げられる。この合成アプローチによって、NPCの表面に曝露された重合体鎖のω末端上に反応基を導入する方法が提供されることから、NPCへの化学結合に対する別のアプローチが提供される。
幾つかの実施形態では、ブロック共重合体は、別々の重合過程によって調製された幾つかのポリマーブロックの化学結合によって合成される。
幾つかの場合には、ブロック共重合体は、公知の化学、例えば「クリック」化学を介した、重合後のさらなる官能性の導入のために用いることができる反応基に関連した単量体を含む(例えば「クリック」反応については、Wu, P.; Fokin, V. V. Catalytic Azide-Alkyne Cycloaddition: Reactivity and Applications. Aldrichim. Acta, 2007, 40, 7-17を参照されたい)。
本発明に有用な、代表的なブロック重合体については、その内容が参照により本明細書に援用される、米国特許出願公開第2011/0123636号明細書に記載される。
コア
本明細書の特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのコアが、複数のpH依存性の疎水性物質を含むことが提供される。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのコアは、少なくとも部分的に、実質的に、又は主に、疎水性相互作用によって共に保持される。
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのコアは、複数の第1の荷電可能な種を含む。特定の実施形態では、第1の荷電可能な種は、陰イオン種に荷電されているか、又は荷電可能である。コア内の第1の荷電可能な種のいずれも荷電されていないか、又は幾つか若しくはすべてが荷電されていることを理解されたい。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるポリマーのコアブロックは、複数の第1の荷電可能な種と複数の第2の荷電可能な種とを含む。幾つかの場合には、前記第1の荷電可能な種は、陰イオン種に荷電されているか、又は荷電可能であり、第2の荷電可能な種は、陽イオン種に荷電されているか、又は荷電可能である。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのコアは、複数の第1の荷電可能な種、複数の第2の荷電可能な種、及び複数の疎水性種を含む。
特定の実施形態では、コアが陰イオンに荷電可能な複数の種と陽イオンに荷電可能な複数の種とを含む場合、陰イオンに荷電可能な複数の種の数と陽イオンに荷電可能な複数の種の数との比は、約1:10から約10:1、約1:8から約8:1、約1:6から約6:1、約1:4から約4:1、約1:2から約2:1、約3:2から約2:3、又は約1:1である。幾つかの実施形態では、コアは、陰イオンに荷電した陰イオンに荷電可能な複数の種と、陽イオンに荷電した陽イオンに荷電可能な複数の種を含み、コアに存在する陰イオンに荷電した種の数と陽イオンに荷電した種の数との比は、約1:10から約10:1、約1:8から約8:1、約1:6から約6:1、約1:4から約4:1、約1:2から約2:1、約3:2から約2:3、又は約1:1である。
幾つかの実施形態では、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)、陰イオンに荷電可能な複数の種の数と陽イオンに荷電可能な複数の種の数との比は、約1:10から約10:1、約1:8から約8:1、約1:6から約6:1、約1:4から約4:1、約1:2から約2:1、約2:3から約3:2、約1:1.1から約1.1:1、又は約1:1である。幾つかの実施形態では、コアは、陰イオンに荷電した陰イオンに荷電可能な複数の種と、陽イオンに荷電した陽イオンに荷電可能な複数の種を含み、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)、コアに存在する陰イオンに荷電した種の数と陽イオンに荷電した種の数との比は、約1:10から約10:1、約1:8から約8:1、約1:6から約6:1、約1:4から約4:1、約1:2から約2:1、約2:3から約3:2、約1:1.1から約1.1:1、又は約1:1である。特定の実施形態では、コアに存在する陽性に荷電した種と陰性に荷電した種との比は、おおよそ中性のpHにおいて約1:4から約4:1である。さらに特定の実施形態では、コアに存在する陽性に荷電した種と陰性に荷電した種との比は、おおよそ中性のpHにおいて約1:2から約2:1である。特定の実施形態では、コアに存在する陽性に荷電した種と陰性に荷電した種との比は、おおよそ中性のpHにおいて約1:1.1から約1.1:1である。
特定の実施形態では、第1の荷電可能な種はブレンステッド酸である。特定の場合には、本明細書で用いられる荷電可能な種としては、プロトンの付加若しくは除去(例えばpH依存性に)によって、それぞれ陽イオン性若しくは陰イオン性の種、基、又は単量体単位を供給する種が挙げられる。
幾つかの実施形態では、コアに存在する第1の荷電可能な種は、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも95%陰性に荷電した種である。特定の実施形態では、これらの第1の荷電可能な種は、おおよそ中性のpHにおいて、H+を失うことにより陰イオン種に荷電する。さらなる、又は代わりの実施形態では、コアに存在する第1の荷電可能な種は、やや酸性のpH(例えば約6.5以下のpH、約6.2以下のpH、約6以下のpH、約5.9以下のpH、約5.8以下のpH、又はおおよそのエンドソームpH)において、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、若しくは少なくとも95%中性であるか又は非荷電の種である。
幾つかの実施形態では、第1の荷電可能な種の限定されない例として、カルボン酸無水物、スルホンアミド、スルホン酸、スルフィン酸、硫酸、リン酸、ホスフィン酸、ホウ酸、亜リン酸、又は同種のものが挙げられる。
幾つかの実施形態では、コアに存在する第2の荷電可能な種は、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも95%陽性に荷電した種である。特定の実施形態では、これらの第2の荷電可能な種は、H+の付加により陽イオン種に荷電する。さらなる、又は代わりの実施形態では、コアに存在する第2の荷電可能な種は、やや酸性のpH(例えば約6.5以下のpH、約6.2以下のpH、約6以下のpH、約5.9以下のpH、約5.8以下のpH、又はおおよそのエンドソームpH)において、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、若しくは少なくとも95%陽性に荷電した種である。
シェル
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェルは親水性である。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェルは、複数の荷電可能な種を含む。特定の実施形態では、前記荷電可能な種は、陽イオン種に荷電されているか、又は荷電可能である。その他の特定の実施形態では、前記荷電可能な種は、陰イオン種に荷電されているか、又は荷電可能である。別の実施形態では、NPCのシェルは親水性且つ非荷電(例えば実質的に非荷電)である。このようなシェルブロックには、荷電可能な種のいずれも荷電されていないか、又は幾つか若しくはすべてが荷電されている種が含まれることを理解されたい。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェルは、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)ポリカチオン性である。幾つかの実施形態では、NPCのシェル内の荷電可能な種は、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも95%陽性に荷電した種、基、又は単量体単位である。特定の実施形態では、これらのNPCのシェル内の荷電可能な種は、H+の付加により陽イオン種に荷電する(例えばブレンステッド塩基)。さらなる、又は代わりの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェル内の荷電可能な種は、やや酸性のpH(例えば約6.5以下のpH、約6.2以下のpH、約6以下のpH、約5.9以下のpH、約5.8以下のpH、又はおおよそのエンドソームpH)において、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、若しくは少なくとも95%陽性に荷電した種である。
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェルは、生理的なpHか、又はそれに近いpH(例えばヒトの循環血漿のpH)において陽イオン性である。幾つかの実施形態では、シェルブロックはポリカチオン性である。幾つかの実施形態では、前記シェルは1つ以上の治療剤を含み、前記治療剤はポリアニオン性である。幾つかの実施形態では、複数の治療剤は×陰イオンの総数を含み、本明細書に記載されるNPCのポリカチオン性シェルは、約0.6×、約0.7x、約0.8×、約0.9×、約1.0×、約1.1×、又はそれを超えた陽イオンを含む。
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェルは、親水性且つ非荷電である。本明細書で有用な親水性且つ非荷電の種の限定されない例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、又は同種のものが挙げられる。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCのシェルは、複数の異なる親水性の種(例えば、少なくとも1つの非荷電且つ親水性の種、及び少なくとも1つの荷電された親水性の種)を含む。
粒径
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、いずれかの適切な大きさのナノ粒子である。ナノ粒子の大きさは、コアセクション、シェルセクション、追加のセクション、又はそれらの組み合わせの重合程度を調整することによって、特定の必要性を満たすように調整される。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCの流体力学的直径の平均は、約10nmから約200nmである。さらに特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCの流体力学的直径の平均は、水性溶媒中で、約1nmから約500nm、約5nmから約250nm、約10nmから約200nm、約10nmから約100nm、約20nmから約100nm、約30nmから約80nm、又は同等である。さらになお特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCの流体力学的直径の平均は、おおよそ中性のpH(例えば約7.4のpH)の水性溶媒中で、約1nmから約500nm、約5nmから約250nm、約10nmから約200nm、約10nmから約100nm、約20nmから約100nm、約30nmから約80nm、又は同等である。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCの流体力学的直径の平均は、ヒト血清中で、約1nmから約500nm、約5nmから約250nm、約10nmから約200nm、約10nmから約100nm、約20nmから約100nm、約30nmから約80nm、又は同等である。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCの流体力学的直径の平均は、ヒト唾液中で、約1nmから約500nm、約5nmから約250nm、約10nmから約200nm、約10nmから約100nm、約20nmから約100nm、約30nmから約80nm、又は同等である。
集合
幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは自己集合する。特定の実施形態では、NPCは水性溶媒中で自己集合するか、又は自己集合することができる。幾つかの実施形態では、NPCは、おおよそ中性のpH(例えば約7.4のpH)の水性溶媒中で自己集合するか、又は自己集合することができる。幾つかの実施形態では、NPCは、ブロック共重合体の有機溶液を、おおよそ中性のpH(例えば約7.4のpH)の水性溶媒で希釈することによって、自己集合するか、又は自己集合することができる。幾つかの実施形態では、NPCはヒト血清中で自己集合するか、又は自己集合することができる。幾つかの実施形態では、NPCはヒト唾液中で自己集合するか、又は自己集合することができる。幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは自己集合する。
特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、約6から約9、約6から約8、約6.5から約9、約6.5から約8、約6.5から約7.5、約7から約9、又は約7から約8の範囲の、少なくとも1つのpH値を有する水性溶媒中で自己集合する。本明細書で用いられるミセル集合は、少なくとも本明細書に記載されるpHにおいて自己集合するが、記載されるpH範囲外の1つ以上のpH値においても自己集合し得ることを理解されたい。
幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、いずれかの適切な濃度において自己集合する。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、約2μg/mL、約5μg/mL、約8μg/mL、約10μg/mL、約20μg/mL、約25μg/mL、約30μg/mL、約40μg/mL、約50μg/mL、約60μg/mL、約70μg/mL、約80μg/mL、約90μg/mL、約100μg/mL、又はそれを超える濃度において自己集合する(例えば臨界集合濃度(CAC)、又はNPCが形成される最小濃度を有する)。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、約1μg/mLと約100μg/mLの間の少なくとも1つの濃度において自己集合する。
幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、本明細書に記載されるポリマーの自発性の自己集合によって調製される。特定の実施形態では、本明細書に記載されるポリマーは、(a)水混和性の有機溶媒中のポリマー溶液を水性溶媒によって希釈すること、又は(b)直接溶解して水溶液とすることによって、本明細書において提供されるNPCへと集合する。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるポリマーは、治療剤なしに、本明細書において提供されるNPCへと集合する。
幾つかの実施形態では、前記NPCは水溶液中での希釈に安定である。特定の実施形態では、前記NPCは、生理的なpH(ヒトの血液又は唾液のpHを含む)における、おおよそ50からおおよそ100μg/mL、又はおおよそ10からおおよそ50μg/mL、10μg/mL未満、5μg/mL未満、又は2μg/mL未満の臨界安定濃度(例えば臨界ミセル濃度(CMC))での希釈に安定である。本明細書で用いられる「NPCの不安定化」は、NPCを形成する重合体鎖が、少なくとも部分的に脱凝集する、構造的に変化する(例えば大きさの拡大及び/又は形の変化)、及び/又は非晶質超分子構造(例えば非ミセル超分子構造)を形成し得ることを意味する。本明細書では、臨界安定濃度(CSC)、臨界ミセル濃度(CMC)、及び臨界集合濃度(CAC)の用語は互換的に用いられる。
安定性
幾つかの実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、水性溶媒中で安定である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、厳選されたpH、例えばおおよその生理的なpH(例えばヒトの血液又は唾液のpH)において、水性溶媒中で安定である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、おおよそ中性のpHにおいて(例えばpH約7.4において)、水性溶媒中で安定である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCは、哺乳類の血清、哺乳類の血漿、及び/又は哺乳類の唾液中で安定である。NPCの安定性は指定のpHに限定されないが、最低でも、指定のpHを包含するpH値において安定であることを理解されたい。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、おおよそ中性のpHよりも酸性のpHにおいて、実質的に安定性が低い。さらに特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、約7.4のpHよりも約5.8のpHにおいて、実質的に安定性が低い。
特定の実施形態では、前記NPCは、約10μg/mL以上の濃度において(例えばおおよそ中性のpHにおいて)安定である。幾つかの実施形態では、前記NPCは、約100μg/mL以上の濃度において(例えばおおよそ中性のpHにおいて)安定である。
親水性セグメント/ブロックの遮蔽
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは1つ以上の遮蔽剤を含む。幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチド担体ブロック/セグメントは、PEGによって置換された単量体単位である(例えばPEGは側鎖であり、ポリヌクレオチド担体ブロックの骨格を含まない)。幾つかの場合には、本明細書に記載されるミセル集合に用いられる1つ以上のポリマー(例えばブロック共重合体)は、分子量がおおよそ1,000からおおよそ30,000のポリエチレングリコール(PEG)鎖又はブロックを含む。幾つかの実施形態では、PEGが、ポリマー末端基に、又は本明細書において提供されるNPCのポリマーに存在する1つ以上のペンダントの修飾可能基に結合する。幾つかの実施形態では、PEG残基が、本明細書において提供されるNPCのポリマー(例えばブロック共重合体)の親水性のセグメント又はブロック(例えばシェルブロック)内の修飾可能基に結合する。特定の実施形態では、2〜20エチレンオキサイド単位のPEG残基を含む単量体が共重合して、本明細書において提供されるNPCを形成するポリマーの親水性部分を形成する。
幾つかの場合には、遮蔽剤は、酵素による消化に対する治療剤の安定性を増強する。幾つかの場合には、遮蔽剤は、本明細書に記載されるNPCの毒性を減少させる。幾つかの実施形態では、遮蔽剤は、中性且つ親水性の単量体残基を複数含む。幾つかの場合には、遮蔽ポリマーは、前記ポリマーの末端基を介して、膜不安定化性ブロック共重合体に共有結合する。幾つかの実施形態では、遮蔽剤は、ポリマーの1つ以上の単量体残基に付着するペンダント部分に共有結合する。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCの複数の単量体残基は、官能基を介してポリエチレングリコールオリゴマー又はポリマーに共有結合した、ペンダント遮蔽種(例えばポリエチレングリコール(PEG)オリゴマー(例えば20以下の反復単位を有する)又はポリマー(例えば20を超える反復単位を有する))を含む。幾つかの場合には、ブロック共重合体は、前記共重合体の膜不安定化性ブロックのアルファ末端又はオメガ末端に共有結合した、ポリエチレングリコール(PEG)オリゴマー又はポリマーを含む。
分解可能なテザー
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、1つ以上の治療剤を1つ以上のNPCのポリマーに付着させる、1つ以上のリンケージ及び/又はテザーを含む。特定の実施形態では、前記リンケージ及び/又はテザーは分解可能であり、NPCの形又は構造が破壊された際に、これらは分解される。特定の実施形態では、前記リンケージ及び/又はテザーは分解可能であり、局所pHのためにNPCの形又は構造が破壊された際に、これらは分解される。例えば一実施形態では、前記リンケージ及び/又はテザーは、酸性環境のためにNPCの形又は構造が破壊された際に分解される。前記リンケージ及び/又はテザーの分解によって、治療剤がNPCから標的組織内に放出される。特定の実施形態では、分解速度とそれによる薬剤の放出速度は、テザーの構造及び長さ、並びに局所環境のpHに依存する。
一実施形態では、リンケージ及び/又はテザーは乳酸(LA)を含む。LAは、環境への曝露によって(すなわちNPCが解体されると)加水分解的に分解可能である。一実施形態では、NPCのテザーは1〜30のLAリピートを含む。別の実施形態では、前記テザーは1〜10のLAリピートを含む。前記テザーはLAを含む組成物に限定されず、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)を含むがこれに限定されない、いずれの加水分解的に分解可能な単位も包含する。一実施形態では、治療剤の放出速度は、分解可能なテザー内のLAリピートの数によって制御される。例えば特定の実施形態では、放出速度はリピートの数が増加するに従って増大する。別の実施形態では、放出速度はリピートの数が減少するに従って増大する。分解可能なテザーについては、それぞれの内容が参照により本明細書に援用される、Benoit et al., 2007, Adv Funct Mater, 17(13): 2085-2093およびBenoit et al., 2006, Biomaterials, 27(36): 6102-6110にさらに記載される。
治療剤
本明細書の特定の実施形態では、少なくとも1つの研究試薬、少なくとも1つの診断薬、少なくとも1つの治療剤、又はそれらの組み合わせを含むNPCが提供される。幾つかの実施形態では、このような治療剤は、NPCのシェル内、NPCのコア内、NPCの表面上、又はそれらの組み合わせに存在する。
様々な実施形態では、研究試薬、診断薬、及び/又は治療剤は、NPC又はそのブロック共重合体に、いずれかの適切な方法によって付着される。特定の実施形態では、付着は、共有結合、非共有結合性の相互作用、静的相互作用、疎水性相互作用、若しくは同種のもの、又はそれらの組み合わせを介して達成される。幾つかの実施形態では、研究試薬、診断薬、及び/又は治療剤は、ブロック共重合体のシェルブロックに付着される。特定の実施形態では、研究試薬、診断薬、又は治療剤は、ブロック共重合体のシェルブロックを形成する。幾つかの実施形態では、研究試薬、診断薬、又は治療剤は、NPCのシェル内にある。幾つかの実施形態では、研究試薬、診断薬、及び/又は治療剤は、ブロック共重合体のコアブロックに付着される。特定の実施形態では、研究試薬、診断薬、又は治療剤は、ブロック共重合体のコアブロックを形成する。幾つかの実施形態では、研究試薬、診断薬、又は治療剤は、NPCのコア内にある。
幾つかの実施形態では、本明細書において、NPCのシェル内の第1の治療剤と、NPCのコア内の第2の治療剤とを含むNPCが提供される。
特定の実施形態では、本明細書において、少なくとも1〜5、5〜250、5〜1000、250〜1000、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、又は少なくとも50の治療剤を含むNPCが提供される。幾つかの実施形態では、本明細書において、本明細書に記載される複数のNPCを含む組成物が提供され、前記NPCは、平均で少なくとも1〜5、5〜250、5〜1000、250〜1000、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、又は少なくとも50の治療剤を含む。
幾つかの実施形態では、治療剤、診断薬などは、限定されない例として、少なくとも1つのヌクレオチド(例えばポリヌクレオチド)、少なくとも1つの炭水化物、及び少なくとも1つのアミノ酸(例えばペプチド)から選択される。特定の実施形態では、前記治療剤は、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、遺伝子発現調節因子、ノックダウン物質、siRNA、RNAi剤、ダイサー基質、miRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はアプタマーである。その他の特定の実施形態では、前記治療剤は、aiRNAである(哺乳類細胞のRNA干渉を仲介する、非対称性の二本鎖RNA。Xiangao Sun, Harry A Rogoff, Chiang J Li Nature Biotechnology 26, 1379-1382 (2008))。特定の実施形態では、前記治療剤は、タンパク質、ペプチド、ドミナントネガティブタンパク質、酵素、抗体、又は抗体断片である。幾つかの実施形態では、前記治療剤は、炭水化物又は小分子である。
特定の実施形態では、複数のブロック共重合体の1つ以上が、治療剤に付着する。幾つかの実施形態では、複数のブロック共重合体の1つ以上が、第1の治療剤に付着し、複数のブロック共重合体の1つ以上が、第2の治療剤に付着する。
幾つかの実施形態では、治療剤は、いずれかの適切な化学結合技術によって、NPC及び/又は1つ以上のNPCのポリマーへ化学的に結合する。治療剤は、前記ポリマーの末端、又は前記ポリマーのペンダント側鎖へ任意に結合する。幾つかの実施形態では、治療剤を含むNPCは、薬剤と、複数のポリマー(例えばブロック共重合体)を含む既に形成されたNPCとを結合させることによって形成される。別の実施形態では、治療剤を含むNPCは、薬剤とポリマーとを結合させ、続いていずれかの適切な方法、例えば得られた結合体を、薬剤を含むNPCへ自己集合させてNPCを形成することにより、形成される。様々な実施形態では、このようなNPCは任意に、薬剤が結合したポリマーと同様か、同一か、又は異なる非結合型のポリマー(例えばブロック共重合体)をさらに含む。本明細書に記載されるNPCの、ポリマーと治療剤との間の共有結合は、任意に、切断不可能であるか又は切断可能である。特定の実施形態では、1つ以上の薬剤の前駆体が、NPCへ、又はNPCの重合体単位へ付着される。幾つかの実施形態では、1つ以上の薬剤が、切断可能な結合を通して付着される。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCに用いられる切断可能な結合として、限定はされないが、ジスルフィド結合(例えば細胞質の還元環境下で解離するジスルフィド結合)が挙げられる。幾つかの実施形態では、NPC(その成分を含む)と治療剤との間の共有結合性の会合は、限定はされないが、アミン−カルボキシルリンカー、アミン−スルフヒドリルリンカー、アミン−炭水化物リンカー、アミン−ヒドロキシルリンカー、アミン−アミンリンカー、カルボキシル−スルフヒドリルリンカー、カルボキシル−炭水化物リンカー、カルボキシル−ヒドロキシルリンカー、カルボキシル−カルボキシルリンカー、スルフヒドリル−炭水化物リンカー、スルフヒドリル−ヒドロキシルリンカー、スルフヒドリル−スルフヒドリルリンカー、炭水化物−ヒドロキシルリンカー、炭水化物−炭水化物リンカー、及びヒドロキシル−ヒドロキシルリンカーを含む、いずれかの適切な化学結合法を通して達成される。幾つかの実施形態では、結合は、ヒドラゾン及びアセタールリンケージを含むが、これらに限定されないpH感受性の結合及びリンカーによっても行われる。その他のいずれかの適切な結合法も、同じく任意に用いられ、例えば非常に様々な結合化学が利用可能である(例えば、Bioconjugation, Aslam and Dent, Eds, Macmillan, 1998及びその中の章を参照されたい)。
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるNPCのいずれかは、治療剤が付着していない、追加のポリマーをさらに含む。幾つかの実施形態では、追加のポリマーは希釈剤ポリマー又はターゲティング成分担体ポリマーである。特定の実施形態では、本明細書において提供されるNPCのいずれかは、少なくとも1つの第2の治療剤(例えば1つの第2の治療剤)が付着する追加のポリマーをさらに含む。特定の実施形態では、前記少なくとも1つの第2の治療剤(例えば1つの第2の治療剤)は、前記少なくとも1つの治療剤(例えば1つの第1の治療剤)とは異なる。幾つかの実施形態では、ミセル集合内に存在するすべてのポリマーのコア部分(例えばコアブロック)は同様であるか又は同等である。特定の実施形態では、ミセル集合内の1以上の異なるポリマーに含まれるコア部分(例えばコアブロック)は同様か又は同等であるが、非コア部分(例えばシェルブロック)は異なる。
本明細書に記載されるNPCは、標的組織に送達され、標的組織又は対象に効果を発揮することが可能な、いずれかの適切な治療剤を含む。代表的な治療剤としては、抗生物質、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗感染症薬、抗真菌剤、抗バイオフィルム剤、ホルモン、抗体、小分子、ビタミン、ミネラル、ポリペプチド、酵素、核酸、化学療法剤、抗炎症剤、免疫調節剤、麻酔薬、鎮痛剤、及び同種のものが挙げられるが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、少なくとも1つの抗バイオフィルム剤を含む。本明細書には、NPCが、バイオフィルム内の関連する表面のすべて及びバイオフィルムの形成の危険性がある領域へ驚くほど結合することが記載される。このように特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、バイオフィルムのある部位、並びにバイオフィルムの形成及び/又は蓄積の危険性がある領域にとどまり、放出が誘発された際に、これらの場所へ局所的に抗バイオフィルム剤を放出する。抗バイオフィルム剤の例としては、アピゲニン及びその誘導体;フラボン類、フラボノール類、ジヒドロフラボノール類、フラバノン類、及びそれらの誘導体を包含するフラボノイド類;ファルネソール及びその誘導体;テルペン類、テルピネオール類、ジテルペン酸類、ジテルペン類、トリテルペン類、及びそれらの誘導体を包含するテルペノイド類;ムタナーゼ、デキストラナーゼ、及びアミログルコシダーゼ−グルコース酸化酵素を包含するバイオフィルム分解性酵素;並びにローズベンガル、過ホウ酸塩、メタ過ヨウ素酸塩、ソルビトール、キシリトール、1−デオキシノジリマイシン、フラボノイド類、ポリフェノール類、プロアントシアニジン類、タンニン類、及びクマリン類を包含するEPS合成酵素阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは少なくとも1つの抗菌剤を含む。一実施形態では、前記抗菌剤は広域スペクトルの抗菌剤である。適切な抗菌剤の例としては、クロルヘキシジン及びその誘導体、ビスビグアニド類阻害剤のメンバー、ポビドンヨード、過酸化水素、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、精油抽出物(メントール、チモール、ユーカリプトール、サリチル酸メチル、金属塩(亜鉛、銅、スズイオン)、フェノール類(トリクロサン)、すべての第四級アンモニウム化合物(塩化セチルピリジニウム)、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム、デルモピノール)、すべての天然分子(フェノール類、フェノール酸類、キノン類、アルカロイド類、レクチン類、ペプチド類、ポリペプチド類、インドール誘導体、フルストラミン誘導体、カロラクトン、ハロゲン化フラノン類、オロイジン類似体、アゲラシン、アゲロキシムD)が挙げられるが、これらに限定されない。
別の実施形態では、本明細書に記載されるNPCはフッ化物を含む。フッ化物はフッ化物製剤の1つとして含まれてよく、前記フッ化物製剤として、フッ化ナトリウム、モノフルオロりん酸塩及びその誘導体、並びにフッ化スズが挙げられるが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、本発明のNPCは、治療的有効量の、少なくとも1つの治療剤を含む。例えば一実施形態では、NPCのコアに、治療的有効量の、少なくとも1つの治療剤が負荷される。前記治療剤の相対量又は濃度は、NPCの大きさ、治療剤の型、処置または予防される状態、及び同種のものに依存し得る。一実施形態では、前記治療剤は、約0wt%を超えて、又は約5wt%を超えて、又は約10wt%を超えて、又は約15wt%を超えて、又は約20wt%を超えて、又は約30wt%を超えて、又は約50wt%を超えて、又は約75wt%を超えて存在する。例えば本明細書には、本発明のNPCに、最小有効濃度よりもはるかに多量又は高濃度の治療剤が負荷され得ることが示される。このように、本発明の組成物は、治療的有効量の治療剤をNPC内に保持することができる。
特定の実施形態では、前記組成物は、それぞれが異なる治療剤を保有する、複数の異なるNPCを含み、これによって併用療法が提供される。例えば一実施形態では、前記組成物は、抗バイオフィルム剤を含む第1のNPCと、フッ化物を含む第2のNPCとを含む。別の実施形態では、前記組成物は、抗バイオフィルム剤を含む第1のNPCと、広域スペクトルの抗生物質を含む第2のNPCと、フッ化物を含む第3のNPCとを含む。各治療剤は、すべて病的状態の処置を目的とした、異なっているが、補完的でもある作用機構を有する。抗バイオフィルム剤はバイオフィルムの形成を予防し、抗菌剤は悪い細菌を死滅させ、フッ化物はミネラルを再構築する。一実施形態では、治療効果を最大にするために、異なるNPCが異なる割合で混合される。一実施形態では、異なるNPCのそれぞれが、異なる薬剤送達特性に対して構成されることにより、特定の疾患又は処置の必要性に応じて、異なる治療剤が異なる時間に送達されることが可能になる。
医薬組成物及び製剤
本発明はまた、本発明の方法を実行するための、本発明の医薬組成物又はその塩の使用も包含する。このような医薬組成物は、対象への投与に適した形である、本発明の少なくとも1つの化合物、薬剤、NPC、若しくはNPC結合体、又はそれらの塩から成ってよいか、又は前記医薬組成物は、本発明の少なくとも1つの化合物、薬剤、NPC、若しくはNPC結合体、又はそれらの塩、及び1つ以上の薬剤的に許容される担体、1つ以上のさらなる成分、又はこれらの、ある組み合わせを含んでもよい。本発明の化合物、薬剤、NPC、又はNPC結合体は、生理的に許容される塩の形で、例えば当該技術分野において公知の、生理的に許容される陽イオン又は陰イオンと組み合わせて、医薬組成物中に存在してよい。
一実施形態では、本発明の方法の実行に有用な医薬組成物は、1ng/kg/日と100mg/kg/日の間の用量を送達するために投与されてよい。別の実施形態では、本発明の実行に有用な医薬組成物は、1ng/kg/日と500mg/kg/日の間の用量を送達するために投与されてよい。
本発明の医薬組成物中の有効成分、薬剤的に許容される担体、及びいずれかのさらなる成分の相対量は、同一性、大きさ、及び処置される対象の状態に依存して、さらに、前記組成物が投与される経路に依存して変化する。例として、前記組成物は0.1%と100%(w/w)の間の有効成分を含み得る。
本発明の方法に有用な医薬組成物は、経口、直腸、膣、非経口、外用、肺、鼻腔内、頬、眼、又は別の投与経路に適するように開発され得る。本発明の方法の範囲で有用な組成物は、哺乳類の皮膚又はその他のいずれかの組織に直接投与されてよい。その他の意図された製剤としては、リポソーム製剤、有効成分を含む、再シールされた赤血球、及び免疫ベースの製剤が挙げられる。単数又は複数の投与経路は、当業者には容易に明らかであり、処置される疾病の型及び重症度、処置される獣医学の、又はヒトの対象の型及び年齢、並びに同種のものを含む幾つもの数の因子に依存し得る。
本明細書に記載される医薬組成物の製剤は、公知の、又は薬理学の分野で今後開発されるいずれかの方法によって調製されてよい。概して、このような準備方法は、有効成分を担体又は一つ以上のその他の付属成分と会合させる工程、及び次に、必用であるか又は望ましい場合には、製剤を所望の単回若しくは複数回用量の単位の形状とするか又は包装することを含む。
本明細書で用いられる「単位用量」は、所定量の有効成分を含む医薬組成物の、別々の量である。有効成分の量は、概して、対象に投与され得る有効成分の投与量、又はこのような投与量の便利な分画、例えばこのような投与量の2分の1若しくは3分の1に等しい。単位剤形は、単回の一日用量又は複数回の一日用量(例えば一日あたり約1回から4回又はそれを超える回数)のうちの1つに対するものであってよい。複数回の一日用量が用いられる際、単位剤形は各用量に対して同じであるか又は異なっていてもよい。
本明細書において提供される医薬組成物についての記載は、主にヒトへの医療用の投与に適した医薬組成物を対象としたものであるが、当業者は、このような組成物がすべての種類の動物への投与に広く適していることを理解するであろう。ヒトへの投与に適した医薬組成物を改変して、前記組成物を様々な動物への投与に適したものとすることはよく理解されており、通常の技能を有する獣医学の薬理学者は、このような改変をまったく普通に、必要な場合には実験によって設計し、実行するであろう。本発明の医薬組成物の投与が意図される対象としては、ヒト及びその他の霊長類、並びにウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、及びイヌのような商業関連の哺乳類を含む哺乳類が挙げられるが、これらに限定されない。
一実施形態では、本発明の組成物は、1つ以上の薬剤的に許容される賦形剤又は担体を用いて処方される。一実施形態では、本発明の医薬組成物は、治療的有効量の本発明の化合物、薬剤、NPC、又はNPC結合体と薬剤的に許容される担体とを含む。有用な薬剤的に許容される担体としては、グリセロール、水、生理食塩水、エタノール、並びにリン酸塩及び有機酸塩のようなその他の薬剤的に許容される塩溶液が挙げられるが、これらに限定されない。これらの、及びその他の薬剤的に許容される担体の例としては、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1991, Mack Publication Co., New Jersey)に記載される。
前記担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール、並びに同種のもの)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む、溶媒又は分散媒であってよい。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散剤の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、及び同種のものによって達成され得る。多くの場合に、前記組成物には、等張剤、例えば糖類、塩化ナトリウム、並びにマンニトール及びソルビトールのような多価アルコールが含まれることが好ましい。注射用組成物の長期にわたる吸収は、前記組成物に、吸収を遅延させる薬剤、例えばアルミニウムモノステアレート又はゼラチンが含まれることによってもたらされ得る。一実施形態では、薬剤的に許容される担体はDMSO単独ではない。
製剤は、経口、膣、非経口、経鼻、静脈内、皮下、腸内、経腸、又はその他のいずれかの適切な公知の投与方法に適した従来の賦形剤、すなわち薬剤的に許容される有機又は無機の担体物質との混合に用いられてよい。医薬製剤は滅菌されてよく、所望により助剤、例えば潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧緩衝液に作用する塩類、着色料、香味料及び/又は芳香性の物質、並びに同種のものと混合されてもよい。これらは、所望によりその他の活性剤、例えばその他の鎮痛剤と組み合わせてもよい。
本明細書で用いられる「さらなる成分」としては、賦形剤、表面活性剤、分散剤、不活性の希釈剤、造粒剤及び崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味料、香味料、着色料、保存料、ゼラチンのような生理的に分解可能な組成物、水性ビヒクル及び溶媒、油性ビヒクル及び溶媒、懸濁剤、分散剤又は湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、緩衝液、塩類、増粘剤、注入剤、乳化剤、抗酸化剤、抗生物質、抗真菌剤、安定化剤、並びに薬剤的に許容される重合体又は疎水性物質のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物に含まれてもよい、その他の「さらなる成分」は当該技術分野において公知であり、例えばその内容が参照により本明細書に援用される、Genaro, ed.(1985, Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA)に記載される。
本発明の組成物は、前記組成物の総重量の約0.005%から2.0%の保存料を含んでよい。前記保存料は、環境内の混入物に曝露された場合に、腐敗を予防するために用いられる。本発明に有用な保存料の例としては、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン類、イミド尿素、及びそれらの組み合わせから成る群より選択される保存料が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい保存料は、約0.5%から2.0%のベンジルアルコールと0.05%から0.5%のソルビン酸との組み合わせである。
前記組成物は、化合物の分解を阻害する抗酸化剤及びキレート剤を好ましく含む。幾つかの化合物に対する好ましい抗酸化剤は、BHT、BHA、アルファ・トコフェロール、及びアスコルビン酸であり、好ましい範囲は前記組成物の総重量の約0.01重量%から0.3重量%であり、さらに好ましくは、前記組成物の総重量の0.03重量%から0.1重量%の範囲のBHTである。好ましくは、前記キレート剤は、前記組成物の総重量の0.01重量%から0.5重量%存在する。特に好ましいキレート剤としては、エデト酸塩(例えばエデト酸二ナトリウム)及びクエン酸が挙げられ、重量範囲は、前記組成物の総重量の約0.01重量%から0.20重量%であり、さらに好ましい範囲は、前記組成物の総重量の0.02重量%から0.10重量%である。キレート剤は、製剤の有効期間に弊害をもたらし得る、前記組成物中の金属イオンをキレートするために有用である。BHT及びエデト酸二ナトリウムは、幾つかの化合物に対し、それぞれ特に好ましい抗酸化剤及びキレート剤であるが、当業者に知られるように、その他の適切且つ等価な抗酸化剤及びキレート剤が、それらに置き換えられてもよい。
液体懸濁液は、水性又は油性ビヒクル中の有効成分の懸濁液を得るための従来法を用いて調製されてよい。水性ビヒクルとしては、例えば水及び等張生理食塩水が挙げられる。油性ビヒクルとしては、例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、ラッカセイ油、オリーブ油、ごま油、及びココナッツ油のような植物油、分別植物油、及び流動パラフィンのようなミネラルオイルが挙げられる。液体懸濁液は、1つ以上のさらなる成分、例えば限定はされないが、懸濁剤、分散剤又は湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、保存料、緩衝液、塩類、香味料、着色料、及び甘味料をさらに含んでもよい。油性懸濁液は増粘剤をさらに含んでもよい。公知の懸濁剤としては、ソルビトールシロップ、食用硬化油脂、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アカシアゴム、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。公知の分散剤又は湿潤剤としては、レシチンのような天然のリン脂質、アルキレンオキサイドと脂肪酸との縮合物、アルキレンオキサイドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物、アルキレンオキサイドと、脂肪酸及びヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物、又はアルキレンオキサイドと、脂肪酸及びヘキシトール無水物由来の部分エステルとの縮合物(例えばそれぞれ、ポリオキシエチレンステアレート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられるが、これらに限定されない。公知の乳化剤としては、レシチン及びアカシアが挙げられるが、これらに限定されない。公知の保存料としては、メチル、エチル、又はn−プロピル−パラ−ヒドロキシ安息香酸、アスコルビン酸、及びソルビン酸が挙げられるが、これらに限定されない。公知の甘味料としては、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、ショ糖、及びサッカリンが挙げられる。油性懸濁液に対する公知の増粘剤としては、例えば、蜜ろう、固形パラフィン、及びセチルアルコールが挙げられる。
水性溶媒又は油性溶媒中の有効成分の溶液は、液体懸濁液の場合と実質的に同じ方法によって調製されうるが、主な違いは、有効成分が溶媒中に懸濁ではなく溶解されることである。本明細書で用いられる、「油性」液体は、炭素を含む液体分子を含み、水よりも低い極性の性質を示す液体である。本発明の医薬組成物の液体溶液は、液体懸濁液に関して記載した各成分を含んでよく、懸濁剤は有効成分の溶媒中への溶解を必ずしも補助しないであろうことが理解される。水性溶媒としては、例えば、水及び等張生理食塩水が挙げられる。油性溶媒としては、例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、ラッカセイ油、オリーブ油、ごま油、及びココナッツ油のような植物油、分別植物油、及び流動パラフィンのようなミネラルオイルが挙げられる。
本発明の医薬製剤の粉末及び顆粒製剤は、公知の方法を用いて調製されてよい。このような製剤は対象に直接投与されてよく、例えば、錠剤を形成するため、カプセルに充填するため、又は前記製剤に水性若しくは油性のビヒクルを加えて、水性若しくは油性の懸濁液又は溶液を調製するために用いられてもよい。これらの製剤はそれぞれ、1つ以上の分散剤又は湿潤剤、懸濁剤、及び保存料をさらに含んでよい。これらの製剤には、注入剤、及び甘味料、香味料、又は着色料のようなさらなる賦形剤が含まれてもよい。
本発明の医薬組成物は、水中油エマルション又は油中水エマルションの形で調製され、包装され、又は販売されてもよい。油相は、オリーブ油又はラッカセイ油のような植物油、流動パラフィンのようなミネラルオイル、又はこれらの組み合わせであってよい。このような組成物は、1つ以上の乳化剤、例えばアカシアゴム又はトラガカントゴムのような天然ゴム、大豆又はレシチンリン脂質のような天然のリン脂質、ソルビタンモノオレエートのような、脂肪酸とヘキシトール無水物との組み合わせに由来するエステル又は部分エステル、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートのような、このような部分エステルとエチレンオキサイドとの縮合物をさらに含んでよい。これらのエマルションは、例えば、甘味料又は香味料のようなさらなる成分を含んでもよい。
材料に化学組成物を浸透させるか又はコーティングする方法は当該技術分野において公知であり、限定はされないが、表面に化学組成物を沈着又は結合させる方法、材料を合成する間に(すなわち、例えば生理的に分解可能な材料によって)、前記材料の構造内に化学組成物を取り込ませる方法、及び吸収材料に水性若しくは油性溶液又は懸濁液を吸収させる方法であって、その後乾燥させるか又はさせない方法が挙げられる。
特定の実施形態では、本発明の組成物は、対象の歯に沿った外用に適した医薬組成物中に取り込まれる。例えば一実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、ペースト(すなわち練り歯磨き)、口腔洗浄薬、ジェル、チューインガム、溶解性のストリップ、パッチ、発泡体、及び同種のものに取り込まれる。別の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、樹脂及び/又は複合体のような、修復のための歯科材料に取り込まれる。別の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、歯科用バーニッシュ及び歯科充填材のような、虫歯予防のための歯科材料に取り込まれる。
特定の実施形態では、本発明の組成物は、埋め込み型材料におけるバイオフィルムの形成及び/又は蓄積を予防するために、前記埋め込み型材料にコートされる。例えば一実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、限定はされないが、整形外科の埋め込み物(例えばプレート、スクリュー、人工関節など)、組織工学基材、ペースメーカー、心臓ポンプ、インスリンポンプ、呼吸チューブ、中心静脈カテーテル、及び留置カテーテルのような埋め込み物にコートされる。
適切な組成物及び剤形としては、例えば、錠剤、カプセル、カプレット、丸剤、ジェルカプセル、トローチ剤、分散剤、懸濁液、溶液、シロップ、顆粒、ビーズ、経皮パッチ、ゲル、粉末、ペレット、マグマ、トローチ剤、クリーム、ペースト、プラスター、ローション、ディスク、坐薬、経鼻又は経口投与用の液体スプレー、吸入用の乾燥粉末又はエアロゾル製剤、膀胱内投与用の組成物及び製剤、並びに同種のものが挙げられる。本発明に有用な製剤及び組成物は、本明細書に記載される特定の製剤及び組成物に限定されないことが理解されなければならない。
経口投与
経口投与には、錠剤、糖衣錠、液剤、ドロップ、坐薬、又はカプセル、カプレット、及びゲルカプセルが特に適する。経口投与に適するその他の製剤としては、粉末又は顆粒製剤、水性又は油性懸濁液、水性又は油性溶液、ペースト、ジェル、練り歯磨き、口腔洗浄薬、コーティング、含嗽液、チューインガム、バーニッシュ、充填材、口腔及び歯の「溶解ストリップ」、及びエマルションが挙げられるが、これらに限定されない。口腔での使用が意図された組成物は、当該技術分野において公知のいずれかの方法によって調製されてよく、このような組成物は、錠剤の製造に適した不活性且つ無毒性の薬剤用賦形剤から成る群より選択される、1つ以上の薬剤を含んでよい。このような賦形剤としては、例えば、ラクトースのような不活性の希釈剤、コーンスターチのような造粒剤及び崩壊剤、デンプンのような結合剤、及びステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤が挙げられる。
錠剤は、コートされていなくてよいか、又は対象の消化管での崩壊を遅延させるために、公知の方法を用いてコートされていてもよく、これによって有効成分の持続放出と吸収とが可能になる。例として、モノステアリン酸グリセリン又はジステアリン酸グリセリルのような物質が、錠剤をコートするために用いられてよい。さらなる例として、錠剤は、米国特許第4,256,108号明細書、第4,160,452号明細書、及び第4,265,874号明細書に記載される方法を用いて、浸透圧的な制御放出錠剤を形成するためにコートされてよい。錠剤は、薬剤的に洗練された味の良い製剤を提供するため、甘味料、香味料、着色料、保存料、又はこれらのある組み合わせをさらに含んでよい。
有効成分を含む硬カプセルは、ゼラチンのような生理的に分解可能な組成物を用いて製造されてよい。このような硬カプセルは有効成分を含み、さらなる成分、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又はカオリンのような不活性の固形希釈剤をさらに含んでよい。
有効成分を含む軟ゼラチンカプセルは、ゼラチンのような生理的に分解可能な組成物を用いて製造されてよい。このような軟カプセルは、水、又はピーナッツ油、流動パラフィン、若しくはオリーブ油のような油性溶媒と混合した有効成分を含む。
経口投与のために、本発明の組成物は、結合剤、注入剤、潤滑剤、崩壊剤、及び湿潤剤のような薬剤的に許容される賦形剤を用い、従来法によって調製した錠剤又はカプセルの形であってよい。所望により前記錠剤は、適切な方法と、ペンシルベニア州ウェスト・ポイントのColorconから入手可能なOPADRYTMフィルムコーティングシステム(例えばOPADRYTM OY型、OYC型、Organic Enteric OY-P型、Aqueous Enteric OY-A型、OY-PM型、及びOPADRYTM White, 32K18400)のようなコーティングシステムとを用いてコートされてもよい。
経口投与のための液体製剤は、溶液、シロップ、又は懸濁液の形であってよい。液体製剤は、懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、メチルセルロース、又は食用硬化油脂)、乳化剤(例えばレシチン又はアカシア)、非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油性エステル、又はエチルアルコール)、及び保存料(例えばメチル又はプロピルp−ヒドロキシベンゾエート又はソルビン酸)のような薬剤的に許容される添加物を用いて、従来の手段によって調製されてよい。経口投与に適した本発明の医薬組成物の液体製剤は、液体の形、又は水若しくは別の適切なビヒクルによって使用前に再構成することが意図された乾燥製剤の形で、調製され、包装され、又は販売されてよい。
有効成分を含む錠剤は、例えば有効成分を、任意に1つ以上のさらなる成分と共に圧縮するか又は成形することによって作られてよい。圧縮錠は、粉末又は顆粒製剤のようなさらさらした形の有効成分と、任意に1つ以上の結合剤、潤滑剤、賦形剤、表面活性剤、及び分散剤とを混合し、適切な装置内で圧縮することによって調製してよい。成形錠剤は、有効成分、薬剤的に許容される担体、及び少なくとも混合物を湿らせるために充分な液体の混合物を、適切な装置内で成形することによって作られてよい。錠剤の製造に用いられる、薬剤的に許容される賦形剤としては、不活性希釈剤、造粒剤及び崩壊剤、結合剤、及び潤滑剤が挙げられるが、これらに限定されない。公知の分散剤としては、ジャガイモデンプン及びデンプングリコール酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。公知の表面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。公知の希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、結晶セルロース、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、及びリン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。公知の造粒剤及び崩壊剤としては、コーンスターチ及びアルギン酸が挙げられるが、これらに限定されない。公知の結合剤としては、ゼラチン、アカシア、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない。公知の潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカ、及びタルクが挙げられるが、これらに限定されない。
有効成分の出発粉末又はその他の粒状物質を改変するための造粒技術は、医薬分野において公知である。前記粉末は、典型的には結合剤物質と混合して、より大きく且つ永続的な流動性の集塊物又は顆粒となし、これを「造粒」と称す。例えば、溶媒を用いた「湿式」造粒過程は、概して、粉末を結合剤物質と組み合わせ、湿式造粒塊が形成される条件下で、水又は有機溶媒によって湿らせ、その後溶媒を蒸発させることによって特徴付けられる。
溶融造粒では、概して、室温では固体又は半固体である(すなわち比較的低い軟化点又は融点範囲を有する)材料を使用して、基本的に水又はその他の液体溶媒を添加することなく、粉末又はその他の材料の造粒を促進する。融点の低い固体は、融点範囲の温度に熱した際に液化して、結合剤又は造粒溶媒として作用する。液化した固体は、それが接触している粉体の表面を覆うように広がり、冷却すると、最初の材料が互いに結合している固体の造粒塊が形成される。得られた溶融造粒は、経口用剤形を調製するために、打錠機へ供されてよいか、又はカプセル内に封入されてもよい。溶融造粒は、固体での分散又は固溶を形成することによって、有効成分(すなわち薬剤)の溶解速度及び生物学的利用能を改善する。
米国特許第5,169,645号明細書には、改良された流動特性を有する、直接圧縮可能なワックスを含む顆粒について開示されている。前記顆粒は、ワックスと、流動性が改良された特定の添加物とを溶融混合した後、冷却して前記混合物を造粒することによって得られる。特定の実施形態では、単数又は複数のワックスと単数又は複数の添加物とを溶融のために組み合わせた中で、ワックスのみが融解し、別の事例では、単数又は複数のワックス及び単数又は複数の添加物の両方が融解する。
本発明にはまた、本発明の1つ以上の化合物を遅延放出させる層、及び疾病を処置するための薬剤を即時放出させるさらなる層を含む、多層錠剤も含まれる。ワックス/pH感受性ポリマー混合物を用いると、有効成分が捕捉されて遅延放出が確実になる、胃の不溶性組成物が得られる可能性がある。
溶解ストリップは、概してプルランから構成され、有効量の本明細書に記載されるNPCを含浸させてよい。前記溶解ストリップは口腔内で時間をかけて溶解し、前記組成物を口腔内の表面に適用する。したがってNPCは、プルラン材料から放出されることによって、関連する処置部位へ適用される。
チューインガムは、当該技術分野において公知である従来の組成物のような、いずれのチューインガム組成物であってもよい。概して、このような組成物は、香味料、甘味料、着色剤、及び当該技術分野において公知のその他の成分が添加されてよい、チューインガムベースを含む。前記チューインガムベースは、典型的には、ゴム、チクル、レチカスピ(lechi caspi)、ジェルトン、ポリイソブチレン、イソブチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、及び当該技術分野において公知のその他の適切なガムベースのような、天然又は合成のエラストマーである。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、適切なチューインガム組成物内に取り込まれ、対象がガムを噛むことによって、NPCが口腔に放出される。
非経口投与
本明細書で用いられる、医薬組成物の「非経口投与」は、対象組織へ物理的に割れ目を作ることと、前記組織の割れ目を通して医薬組成物を投与することによって特徴付けられる、いずれかの経路による投与を含む。したがって非経口投与としては、前記組成物の注射による、外科的切開を通した前記組成物の適用による、組織を貫通する非手術創を通した前記組成物の適用による、及び同種のものによる医薬組成物の投与が挙げられるが、これらに限定されない。特に非経口投与は、皮下、腹腔内、筋肉内、胸骨内注射、及び腎臓透析による点滴技術を含むことが意図されるが、これらに限定されない。
非経口投与に適した医薬組成物製剤は、無菌水又は無菌等張生理食塩水のような、薬剤的に許容される担体と組み合わせた有効成分を含む。このような製剤は、ボーラス投与又は継続投与に適した形で、調製され、包装され、又は販売されてよい。注射用製剤は、アンプルのような単位剤形として、又は保存料を含む複数用量容器として、調製され、包装され、又は販売されてよい。非経口投与用の製剤としては、油性又は水性ビヒクル中の、懸濁液、溶液、エマルション、ペースト、及び埋め込み可能な持続放出又は生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。このような製剤は、限定はされないが、懸濁剤、安定化剤、及び分散剤のようなさらなる成分を、1つ以上さらに含んでよい。非経口投与用製剤の一実施形態では、有効成分は、再構成した組成物の非経口投与に先立ち、適切なビヒクル(例えば無菌の、発熱物質を含まない水)によって再構成するための乾燥型(すなわち粉末又は顆粒)として提供される。
医薬組成物は、無菌の注射用の、水性若しくは油性懸濁液又は溶液の形で、調製され、包装され、又は販売されてよい。この懸濁液又は溶液は、公知技術に従って処方されてよく、有効成分に加えて、本明細書に記載される分散剤、湿潤剤、又は懸濁剤のようなさらなる成分を含んでよい。このような無菌の注射用製剤は、例えば水若しくは1,3−ブタンジオールのような、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒を用いて調製されてよい。その他の許容される希釈剤及び溶媒としては、リンゲル液、生理食塩水、及び合成モノ−又はジ−グリセリドのような固定油が挙げられるが、これらに限定されない。非経口投与が可能なその他の有用な製剤としては、有効成分を、微結晶型に含む、リポソーム製剤に含む、又は生分解性ポリマー系の成分として含む製剤が挙げられる。持続放出又は埋め込みのための組成物は、エマルション、イオン交換樹脂、やや溶けにくいポリマー、又はやや溶けにくい塩のような、薬剤的に許容される重合体又は疎水性物質を含んでよい。
局所投与
医薬品の局所投与に対する障壁は、表皮の角質層である。角質層は、タンパク質、コレステロール、スフィンゴ脂質、遊離脂肪酸、及びその他の様々な脂質から構成され、角化細胞及び生細胞を含む、高度に抵抗性の層である。化合物が角質層を通り抜ける透過率(流量)を制限する因子の一つは、皮膚表面に負荷又は適用可能な活性物質の量である。皮膚領域の単位あたりに適用される活性物質の量が多いほど、皮膚表面と皮膚のより低い層との間の濃度勾配が大きくなり、皮膚を通る活性物質の拡散力が大きくなる。したがって、より高い濃度の活性物質を含む製剤は、その他の条件がすべて同等で、濃度が低い製剤よりも、多量に、さらに一貫した比率で、活性物質が皮膚を透過する可能性が高くなる。
局所投与に適した製剤としては、塗布薬、ローションのような液体又は半液体製剤、クリーム、軟膏、若しくはペーストのような、水中油又は油中水エマルション、及び液体又は懸濁液が挙げられるが、これらに限定されない。局所的に投与可能な製剤は、有効成分の濃度が、溶媒中の前記有効成分の溶解限度ほど高くてもよいが、例えば約1%から約10%(w/w)の有効成分を含み得る。局所投与用の製剤は、本明細書に記載されるさらなる成分の1つ以上を、さらに含んでもよい。
浸透賦活薬が用いられてもよい。これらの物質は、薬剤が皮膚を通して透過する比率を増大させる。当該技術分野における典型的な賦活薬としては、エタノール、グリセロールモノラウレート、PGML(ポリエチレングリコールモノラウレート)、ジメチルスルホキシド、及び同種のものが挙げられる。その他の賦活薬としては、オレイン酸、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、及びN−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
本発明の組成物の幾つかを局所送達するために許容されるビヒクルの一つは、リポソームを含んでよい。リポソーム組成物及びその使用は当該技術分野において公知である(例えば、米国特許第6,323,219号明細書を参照されたい)。
代わりの実施形態では、局所的に活性のある医薬組成物は、補助剤、抗酸化剤、キレート剤、界面活性剤、発泡剤、湿潤剤、乳化剤、増粘剤、緩衝剤、保存料、及び同種のもののようなその他の成分と任意に組み合わせてよい。別の実施形態では、前記組成物には浸透促進剤又は透過促進剤が含まれ、これは、有効成分が角質層へ入って通り抜ける経皮透過を、浸透賦活薬を含まない組成物に比較して改善する効果を有する。オレイン酸、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、及びN−メチル−2−ピロリドンを含む様々な浸透賦活薬が、当業者に公知である。別の態様では、前記組成物は、角質層の構造の不規則性を増大させることによって、角質層を横断する輸送を増大させるように作用する、ハイドロトロープ剤(hydrotropic agent)をさらに含んでよい。イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、及びキシレンスルホン酸ナトリウムのような様々なハイドロトロープ剤(hydrotropic agent)が、当業者に公知である。
局所的に活性のある医薬組成物は、所望の変化に影響する効果のある量を適用しなければならない。本明細書で用いられる「効果のある量」は、変化が望まれる皮膚表面を覆うために充分な量を意味するものとする。活性化合物は、前記組成物の量の約0.0001重量%から約15重量%含まれていなければならない。さらに好ましくは、活性化合物は、前記組成物の約0.0005%から約5%含まれる必要があり、最も好ましくは、前記組成物の約0.001%から約1%含まれる必要がある。このような化合物は、合成由来であるか、又は天然由来であってよい。
直腸投与
本発明の医薬組成物は、直腸投与に適した製剤として、調製され、包装され、又は販売されてよい。このような組成物は、例えば坐薬、停留浣腸製剤、及び直腸洗浄液又は結腸洗浄液の形であってよい。
坐薬製剤は、有効成分と、通常の室温(すなわち約20℃)では固体であり、対象の直腸温度(すなわち健常人では約37℃)では液体である、非刺激性の薬剤的に許容される賦形剤とを組み合わせて製造されてよい。適切な薬剤的に許容される賦形剤としては、ココアバター、ポリエチレングリコール、及び様々なグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。坐薬製剤は、限定はされないが、抗酸化剤及び保存料のような、様々な追加成分をさらに含んでよい。
停留浣腸製剤、又は直腸洗浄液若しくは結腸洗浄液は、有効成分と、薬剤的に許容される液体担体とを組み合わせて製造されてよい。当該技術分野において公知であるように、浣腸製剤は、対象の直腸の解剖学的形態に適応させた送達装置内に詰められ、これを用いて投与されてよい。浣腸製剤は、限定はされないが、抗酸化剤及び保存料のような、様々な追加成分をさらに含んでよい。
膣内投与
本発明の医薬組成物は、膣内投与に適した製剤として、調製され、包装され、又は販売されてよい。本発明の化合物の、膣内又は膣周囲への投与に関して、剤形には、膣坐薬、クリーム、軟膏、液体製剤、ペッサリー、タンポン、ジェル、ペースト、発泡体、又はスプレーが含まれてよい。膣内又は膣周囲への送達のための坐薬、溶液、クリーム、軟膏、液体製剤、ペッサリー、タンポン、ジェル、ペースト、発泡体、又はスプレーは、治療的有効量の選択された活性剤と、膣内又は膣周囲への薬剤投与に適した、1つ以上の従来の無毒性担体とを含む。本発明の膣内又は膣周囲の製剤は、上記のRemington: The Science and Practice of Pharmacyに開示される従来法を用いて製造されてよい(米国特許第6,515,198号明細書、第6,500,822号明細書、第6,417,186号明細書、第6,416,779号明細書、第6,376,500号明細書、第6,355,641号明細書、第6,258,819号明細書、第6,172,062号明細書、及び第6,086,909号明細書に適応させた、薬剤処方も参照されたい)。膣内又は膣周囲への投与量単位は、迅速に、又は数時間の間に崩壊するように製造されてよい。完全に崩壊する時間は、約10分から約6時間の範囲、例えば約3時間未満であってよい。
材料に化学組成物を浸透させるか又はコーティングする方法は当該技術分野において公知であり、限定はされないが、表面に化学組成物を沈着又は結合させる方法、材料を合成する間に(すなわち、例えば生理的に分解可能な材料によって)、前記材料の構造内に化学組成物を取り込ませる方法、及び吸収材料に水性若しくは油性溶液又は懸濁液を吸収させる方法であって、その後乾燥させるか又はさせない方法が挙げられる。
膣洗浄製剤、又は膣洗浄液は、有効成分と、薬剤的に許容される液体担体とを組み合わせて製造されてよい。当該技術分野において公知であるように、膣洗浄製剤は、対象の膣の解剖学的形態に適応させた送達装置内に詰められ、これを用いて投与されてよい。
膣洗浄製剤は、限定はされないが、抗酸化剤、抗生物質、抗真菌剤、及び保存料のような、様々な追加成分をさらに含んでよい。
頬内投与
本発明の医薬組成物は、頬内投与に適した製剤として、調製され、包装され、又は販売されてよい。このような製剤は、例えば従来法を用いて製造された錠剤又はトローチ剤であってよく、例えば、0.1から20%(w/w)の有効成分を含み、残りは、口中で溶解性又は分解可能な組成物と、任意に、本明細書に記載される1つ以上のさらなる成分とを含む。あるいは、頬内投与に適した製剤は、粉末、又はエアロゾル若しくは噴霧用の有効成分を含む溶液又は懸濁液を含む。このような粉末、エアロゾル、又はエアロゾル製剤は、分散させた際、好ましくは約0.1から約200ナノメートルの範囲の平均粒径又は液滴径を有し、本明細書に記載されるさらなる成分の1つ以上をさらに含んでもよい。本明細書に記載される製剤の例は包括的なものではなく、本発明は、これらの製剤及び本明細書に記載されてはいないが、当業者には公知であるその他の製剤に対するさらなる改変を包含することを理解されたい。
さらなる投与形態
本発明のさらなる剤形は、米国特許第6,340,475号明細書、第6,488,962号明細書、第6,451,808号明細書、第5,972,389号明細書、第5,582,837号明細書、及び第5,007,790号明細書に記載される剤形を含む。本発明のさらなる剤形は、米国特許出願公開第20030147952号明細書、第20030104062号明細書、第20030104053号明細書、第20030044466号明細書、第20030039688号明細書、及び第20020051820号明細書に記載される剤形を含む。本発明のさらなる剤形はまた、国際公開第03/35041号パンフレット、第03/35040号パンフレット、第03/35029号パンフレット、第03/35177号パンフレット、第03/35039号パンフレット、第02/96404号パンフレット、第02/32416号パンフレット、第01/97783号パンフレット、第01/56544号パンフレット、第01/32217号パンフレット、第98/55107号パンフレット、第98/11879号パンフレット、第97/47285号パンフレット、第93/18755号パンフレット、及び第90/11757号パンフレットに記載される剤形も含む。
処置方法
本発明は、バイオフィルム及びバイオフィルムに関連した感染症を処置及び/又は予防する方法であって、少なくとも1つの治療剤を含むNPCを含む組成物を、有効量投与することを含む方法を提供する。本明細書に記載されるように、本明細書に記載されるNPCは、バイオフィルム内の部位、並びにバイオフィルムの形成及び蓄積の危険性がある領域に結合する。このように、本明細書に記載されるNPCは、標的部位で薬剤が必用とされる際に、持続性且つ局所的な治療剤の送達を提供するホーミング組成物として作用する。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCは、治療剤の放出が局所のpHによって影響されるpH−反応性である。例えば特定の状態では、口腔疾患(例えば齲蝕)を引き起こすためにはバイオフィルム内の酸性ニッチの発生が必須であるが、その理由は、1)ニッチは、齲蝕を引き起こす、酸を産生する生物の増殖に好ましいこと、2)ニッチはさらなるバイオフィルムの蓄積を誘導すること、及び3)局所の酸性は、酸による歯の溶解を引き起こすことである。このように特定の実施形態では、本発明のNPCは、特に酸性条件下でNPCミセルの分解を誘導するpH−反応性エレメントを含む。これによって、薬剤が必要とされるとき、特に低いpH条件下での薬剤送達が可能になる一方で、生理的なpHでは送達されないか、又は最小限の送達となる。
本発明の方法は、いずれかの型のバイオフィルム又はバイオフィルムに関連した感染症を処置及び/又は予防するために用いることができる。例えば本明細書には、本発明の組成物の投与がバイオフィルムの形成を阻害し、バイオフィルムのさらなる蓄積を阻害し、現存するバイオフィルムの破壊又は分解を促進し、現存するバイオフィルムを弱めて、バイオフィルムの機械的な破壊を容易にすることが示される。
バイオフィルムが関係する代表的な状態であって、それ故に処置及び/又は予防のために本方法が用いられてよい状態としては、歯垢、齲蝕、歯肉炎、歯周病を含む口腔疾患、並びに、例えば義歯性口内炎及び口腔カンジダ症を含む、バイオフィルムに関連する粘膜感染症が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、尿路感染症、カテーテル感染症、中耳感染症、創傷、及び埋め込まれた生体材料(例えば人工関節、人工弁など)による感染症を含むが、これらに限定されない代表的な疾病又は疾患の処置及び/又は予防のために、本方法を用いてよい。
特定の実施形態では、本発明の方法は齲蝕を処置及び/又は予防する。齲蝕は薄膜上に形成された齲蝕原性バイオフィルムによって発生する。本明細書の他所で考察するように、本明細書に記載されるNPCは、薄膜及び薄膜上に形成されたバイオフィルムに結合する。外用処置に基づく、齲蝕を処置するための伝統的な方法は、唾液及び摂取による迅速な排除のため、治療の可能性の完全な発揮に充分な期間活性剤を口中に保持できないため、不完全である。
本明細書に記載されるNPCは、薄膜、すなわちバイオフィルムにとどまることによって、「危険性のある」表面のバイオフィルムの形成を予防し、さらなるバイオフィルムの蓄積を予防する、持続的で且つ制御された送達が可能になる。さらに、局所送達によって、伝統的な方法では使用に適さない可能性のある、広域スペクトル活性剤の使用が可能になる。伝統的な方法によって起こる可能性のある、広域スペクトル薬剤への口腔全体の曝露は、口腔の健康に対して有害又は有益な細菌及び微生物種を無差別に除去し得る。しかしながら、治療剤が包み込まれていることと、制御された局所的な送達によって、虫歯全体をこれらの強力な薬剤の影響にさらす危険性なしに、これらの薬剤を使用することが可能になる。
本発明は生体のバイオフィルムの処置及び/又は予防に限定されるものではなく、生体外の表面のバイオフィルムを処置及び/又は予防する方法も包含する。例えばバイオフィルムは、浴室、台所、及び特定の工業的環境を含む湿気のある環境における表面に形成され得る。特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、住居の、商業的な、及び工業的な環境における表面に沿ったバイオフィルムの形成若しくは蓄積を処置及び/又は予防する方法に用いられる。前記方法は、抗バイオフィルム剤を含むNPCの有効量を前記表面に適用することを含む。特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、植物、樹木、果実、野菜、及び作物におけるバイオフィルムの形成を処置及び/又は予防する方法に用いられる。前記方法は、抗バイオフィルム剤を含むNPCの有効量を、バイオフィルムを有するか、又はバイオフィルムが形成される危険性のある植物、樹木、果実、野菜、又は作物に適用することを含む。
特定の実施形態では、本発明の方法は、NPC及び包み込まれた治療剤を含む組成物の有効量を、バイオフィルムを含む表面に適用すること、及び前記バイオフィルムを機械的に除去することを含む。例えば本明細書には、本発明の組成物がバイオフィルムの構造又は足場を弱めて、バイオフィルムの機械的な除去を容易にし得ることが記載されている。例えば特定の実施形態では、前記方法は、バイオフィルムを含む薄膜に本発明の組成物を適用すること、及び、例えば歯ブラシ又はその他の道具を用いて前記バイオフィルムを機械的に除去することを含む。
投与/投薬
投与計画は、有効量を構成するものについて影響を与え得る。治療用製剤は、疾病の診断前又は後に、対象へ投与されてよい。さらに、幾つかに分割した投与量、及び交互の投与量が、1日に若しくは連続的に投与されてよいか、又は用量は連続的に点滴若しくはボーラス投与されてもよい。さらに、前記治療用製剤の投与量は、治療的又は予防的な状況の緊急度に比例して増大又は減少させてよい。
本発明のいずれかの組成物の投与経路としては、経口、経鼻、直腸、非経口、舌下、経皮、経粘膜(例えば舌下、舌、(経)頬、(経)尿道、膣(例えば経膣及び膣周囲)、鼻(内)及び(経)直腸)、膀胱内、肺内、十二指腸内、胃内、髄腔内、皮下、筋肉内、皮内、動脈内、静脈内、気管支内、吸入、及び局所投与が挙げられる。
本発明の組成物の、対象、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒトへの投与は、公知の手順を用いて、疾病の予防又は処置に有効な投与量及び期間によって行われてよい。治療効果を達成するために必要な治療用化合物の有効量は、使用する特定の化合物の活性、投与時間、前記化合物の排泄速度、処置期間、前記化合物と併用するその他の薬剤、化合物、又は物質、処置される対象の疾病又は疾患の状態、年齢、性別、体重、状態、全般的な健康及び以前の病歴のような因子、及び医学分野で公知である同種の因子に従って変動し得る。投与量の投与計画は、至適な治療応答がもたらされるように調整されてよい。例えば、幾つかに分割した用量が1日に投与されてよいか、又は用量は、治療的な状況の緊急度に比例して減少させてもよい。本発明の治療用化合物の有効用量範囲の例は、限定はされないが、約1から5,000mg/kg体重/1日である。当業者は、関連する因子について調査を行い、過度の実験を行うことなく、治療用化合物の有効量を決定することができる。
前記化合物は、1日に数回の頻度で対象に投与されてよいか、又はそれよりも少ない頻度、例えば1日1回、1週間に1回、2週間に1回、1か月に1回、又はそれよりもさらに少ない頻度、例えば数か月に1回若しくは1年に1回以下投与されてもよい。1日あたりに投与される化合物の量は、限定はされないが、毎日、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、又は5日おきに投与されてよいことを理解されたい。例えば、1日あたり5mgの用量の、1日おきの投与を月曜日に開始すると、それに続く第1の1日あたり5mgの用量は水曜日に投与され、それに続く第2の1日あたり5mgの用量は金曜日に投与される。投薬頻度は、当業者には容易に明らかであり、例えば限定はされないが、処置される疾病の型及び重症度、動物の型及び年齢などのようないずれかの数の因子に依存し得る。
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投与量の程度は、対象に毒性を示すことなく、特定の対象、組成物、及び投与方法に対する望ましい治療応答を達成するために効果的な有効成分の量を得るために変動させてよい。
当該技術分野における通常の技能を有する医師、例えば医師、歯科医師、又は獣医師は、必用とされる医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方するであろう。例えば、医師又は獣医師は、医薬組成物に用いられる本発明の化合物の用量を、望ましい治療効果を達成するために必要とされる量よりも低い量から開始して、望ましい効果が達成されるまで投与量を次第に増大させることができる。
特定の実施形態では、投与の容易さと均一な投与量のため、化合物を単位剤形中に処方することが特に有利である。本明細書で用いられる単位剤形は、処置される対象に対する単一の投与量として適するように物理的に分離された単位を指し、各単位は、必用とされる医薬ビヒクルと共同して所望の治療効果が得られるように算出された、所定量の治療用化合物を含む。本発明の単位剤形は、(a)治療用化合物に固有の特性及び達成されるべき特定の治療効果、及び(b)対象の疾病を処置するためにこのような治療用化合物を製造する/処方することに対する、当該技術分野に固有の制限によって決定され、これらに直接依存する。
一実施形態では、本発明の組成物は、1日あたり1回から5回の範囲、又はそれを超える投与量によって対象に投与される。別の実施形態では、本発明の組成物は、限定はされないが毎日1回、2日おきに1回、3日おきに1回から1週間に1回、及び2週間おきに1回のような範囲の投与量によって対象に投与される。本発明の組成物の様々な組み合わせの投与頻度が、限定はされないが、年齢、処置される疾病又は疾患、性別、全般的な健康を含む多くの因子、及びその他の因子に依存して対象ごとに変動し得ることは、当業者には容易に明らかであろう。このように本発明は、いずれの特定の投与計画にも限定されるものと解釈されてはならず、いずれかの対象に対する正確な投与量及び投与される組成物は、対象についてのその他のすべての身体的因子を考慮することによって決定されるであろう。
本発明の化合物は、約1mgから約10,000mg、約20mgから約9,500mg、約40mgから約9,000mg、約75mgから約8,500mg、約150mgから約7,500mg、約200mgから約7,000mg、約3050mgから約6,000mg、約500mgから約5,000mg、約750mgから約4,000mg、約1mgから約3,000mg、約10mgから約2,500mg、約20mgから約2,000mg、約25mgから約1,500mg、約50mgから約1,000mg、約75mgから約900mg、約100mgから約800mg、約250mgから約750mg、約300mgから約600mg、約400mgから約500mg、及びそれらの間の全体的又は部分的な増分のすべての範囲で投与されてよい。
幾つかの実施形態では、本発明の化合物の用量は約1mgから約2,500mgである。幾つかの実施形態では、本明細書に記載される組成物に用いられる本発明の化合物の用量は、約10,000mg未満、又は約8,000mg未満、又は約6,000mg未満、又は約5,000mg未満、又は約3,000mg未満、又は約2,000mg未満、又は約1,000mg未満、又は約500mg未満、又は約200mg未満、又は約50mg未満である。同様に、幾つかの実施形態では、本明細書に記載される第2の化合物(すなわち本発明の組成物によって処置した疾病と同じか又は別の疾病を処置するために用いる薬剤)の用量は、約1,000mg未満、又は約800mg未満、又は約600mg未満、又は約500mg未満、又は約400mg未満、又は約300mg未満、又は約200mg未満、又は約100mg未満、又は約50mg未満、又は約40mg未満、又は約30mg未満、又は約25mg未満、又は約20mg未満、又は約15mg未満、又は約10mg未満、又は約5mg未満、又は約2mg未満、又は約1mg未満、又は約0.5mg未満、及びそれらの全体的又は部分的な増分のすべてである。
一実施形態では、本発明は、治療的有効量の本発明の化合物又は結合体が、単独で、又は第2の医薬製剤と組み合わせて入れられた容器と、対象の疾病の1つ以上の症状を処置、予防、又は減少させるための、前記化合物又は結合体の使用に対する指示書とを含む、包装された医薬組成物に関する。
用語「容器」は、医薬組成物を入れるいずれの入れ物も包含する。例えば一実施形態では、容器は医薬組成物を含む包装である。別の実施形態では、容器は医薬組成物を含む包装ではなく、すなわち容器は、包装された医薬組成物若しくは包装されていない医薬組成物と、医薬組成物の使用のための指示書とを含む、箱又はバイアルのような入れ物である。さらに、包装技術は当該技術分野において公知である。医薬組成物を含む包装には医薬組成物の使用のための指示書が含まれてよく、前記指示書は、包装された製品に対して高い機能的な関連性を有することを理解されなければならない。しかしながら、意図された機能、例えば対象の疾病を処置若しくは予防すること、又は対象へ造影剤若しくは診断薬を送達することを実行する化合物の能力に関する情報を含み得ることが理解されなければならない。
一実施形態では、前記組成物は、対象によって彼らの体内の部位へ投与される。別の実施形態では、前記組成物は医療専門家(例えば医師、歯科医師、歯科衛生士、獣医師など)によって投与される。例えば一実施形態では、歯科医師が、本明細書に記載されるNPCを対象の歯へ直接適用する。一実施形態では、歯科医師が、本明細書に記載されるNPCをバイオフィルムの形成及び蓄積の危険性がある部位へ適用する。別の実施形態では、歯科医師が、本明細書に記載されるNPCをバイオフィルムが既に活発に発生している部位へ適用する。
制御放出製剤及び薬剤送達システム
本発明は、治療剤の放出が誘発された際に、前記治療剤を制御放出するための組成物とシステムとを包含する。例えば本明細書の他所で考察するように、本発明のNPCは、少なくとも1つの治療剤が必要とされる時に必要とされる場所で、前記少なくとも1つの治療剤を放出する。放出の誘発は、限定はされないが、温度、pH、特定の分子又は生体分子の活性の存在、及び同種のものを含む、処置又は予防される部位の微小環境内の様々な因子によって達成され得る。
特定の場合には、本発明の医薬組成物の制御放出製剤又は持続放出製剤は、例えばpH感受性ドメイン又はプロテアーゼ切断性断片を備えたタンパク質を用いて製造されてよい。幾つかの場合には、使用される剤形は、様々な割合における望ましい放出特性が提供されるように、例えば、ヒドロプロピルメチルセルロース、その他のポリマーマトリックス、ゲル、浸透性膜、浸透圧システム、多層コーティング、微粒子、リポソーム、若しくはミクロスフェア、又はそれらの組み合わせを用いて、前記剤形の中に含まれる1つ以上の有効成分の遅延放出又は制御放出として提供され得る。本発明の医薬組成物と共に使用するための、本明細書に記載される制御放出製剤を含む、当業者に公知の適切な制御放出製剤は容易に選択できる。このように、制御放出に適応される、錠剤、カプセル、ジェルカプセル、トローチ剤、及びカプレットのような、経口投与に適した単一の単位剤形は、本発明に包含される。
ほとんどの制御放出医薬品の共通の目的は、それらの対応物が非制御状態で達成した結果を超えて、薬剤療法を改善することである。理想的には、最適に設計された制御放出製剤の医療における使用は、状態を最小限の時間内に治癒又は制御するように用いられた、原薬の最小量によって特徴付けられる。制御放出製剤の利点としては、薬剤活性の延長、投与頻度の減少、及び対象による服薬尊守の上昇が挙げられる。加えて、制御放出製剤は、作用又は薬剤の血中濃度のようなその他の特性の開始時間に影響するように使用できることから、副作用の出現に影響を与え得る。
ほとんどの制御放出製剤は、所望の治療効果が迅速に得られる量の薬剤を最初に放出し、次にこのレベルの治療効果が維持されるように、その他の量の薬剤を長期間にわたって徐々に且つ継続的に放出するように設計される。特定の実施形態では、本明細書に記載されるNPCの制御放出製剤によって、薬剤が最も必要とされる時に、治療剤を正確に放出することが可能になる。別の実施形態では、本明細書に記載されるNPCの制御放出製剤によって、治療剤の活性が最も高い状態で、治療剤を正確に放出することが可能になる。薬剤のこのような定常濃度を体内に維持するためには、薬剤は、体内で代謝され、排泄される薬剤の量を置き換えられる速度で、剤形から放出されなければならない。
有効成分の制御放出は、様々な誘導因子、例えばpH、温度、酵素、水、又はその他の生理的な状態若しくは化合物によって刺激され得る。本発明に関連した用語「制御放出成分」は、本明細書では、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、浸透性膜、リポソーム、若しくはミクロスフェア、又はそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、有効成分の制御放出を促進する単数又は複数の化合物として定義される。
特定の実施形態では、本発明の製剤は、短期間の、迅速に停止される、及び制御された、例えば、持続放出、遅延放出、及びパルス放出製剤であってよいが、これらに限定されない。
持続放出との用語は、薬剤が長期間にわたって徐々に放出され、必ずしもそうではないが、長時間にわたって薬剤の血中濃度を実質的に一定にし得る薬剤を指す、従来の意味で用いられる。時間は1か月以上であってよく、ボーラス形式で投与した薬剤量と同じ量が長く放出されなければならない。
持続放出のために、化合物は、前記化合物に持続放出特性を与える適切なポリマー又は疎水性材料と共に処方されてよい。このように、本発明の方法を使用するための化合物は、例えば注射による微粒子の形で、又は埋め込みによるウェハー若しくはディスクの形で投与されてよい。
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の化合物は、持続放出製剤を用いて、単独で、又は別の医薬製剤と併用して対象に投与される。
本明細書で用いられる遅延放出との用語は、その従来の意味において、薬剤投与後、幾らか遅れて最初の薬剤放出が起こる薬剤を指し、必ずしもそうではないが、その遅延には約10分間から約12時間までが含まれる。
本明細書で用いられるパルス放出との用語は、その従来の意味において、薬剤投与後に、前記薬剤のパルスされた血漿特性が示されるように放出される薬剤を指す。
即時放出との用語は、その従来の意味において、薬剤投与後直ちに放出される薬剤を指すように用いられる。
本明細書で用いられる短期間は、薬剤投与後、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分間、約20分間、又は約10分間まで、及びそれらを含む時間、並びにそれらの全体的若しくは部分的な増分のいずれか又はすべての時間の、いずれの期間も指す。
本明細書で用いられる、迅速に停止されるとは、薬剤投与後、約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分間、約20分間、又は約10分間まで、及びそれらを含む時間、並びにそれらの全体的又は部分的な増分のいずれか及びすべての時間の、いずれの期間も指す。
当業者は、日常の実験以上のものを用いることなく、本明細書に記載される特定の手順、実施形態、請求項、及び実施例に対する多数の均等物を認識するか、又は確認できるであろう。このような均等物は本発明の範囲内であり、添付の請求項によって保護されるものとみなされる。例えば、反応時間、反応の大きさ/量、及び溶媒のような実験用試薬、触媒、圧力、大気条件、例えば窒素雰囲気、及び還元剤/酸化剤を含むが、これらに限定されない反応条件における、当該技術分野において認識されている代替物を用いた、日常の実験以上のものを用いない改変は、本出願の範囲内であることが理解されなければならない。
本明細書において値及び範囲が示されているいずれの箇所でも、これらの値及び範囲によって包含されるすべての値及び範囲は、本発明の範囲内に包含されるように意図されることを理解されたい。さらに、これらの範囲内のすべての値、及び値の範囲の上限又は下限もまた、本出願によって意図されるものである。
以下の実験による実施例への参照によって、本発明をさらに詳細に記載する。これらの実施例は例示の目的のみによって提供され、他に記載のない限り、限定を意図するものではない。このように、本発明は以下の実施例によって限定されるものと解釈されてはならず、本明細書において提供される教示の結果として明らかにされる、いずれかの、及びすべての変動も包含すると解釈されるべきである。
さらなる記載なしに、当業者は、以前の記載及び以下の例示的な実施例を用いて、本発明の化合物を製造及び利用し、特許請求されている方法を実行することが可能であると考えられる。したがって以下の作業実施例は、本発明の好ましい実施形態を特に指摘するものであり、それ以外の開示を限定するとは、どのようにも解釈されるべきではない。
実施例1:pHにより活性化されるナノ粒子担体を介した、抗バイオフィルム剤の制御放出。
環境からの刺激に積極的に応答するナノ材料及びナノスケールシステムは、画期的な薬剤送達システムとして用いられ得る。本明細書には、抗バイオフィルム剤を保持し、局所的に送達するための面白いアプローチについて記載される。このアプローチでは、薄膜(バイオフィルムの形成の危険性がある部位)及びEPSリッチマトリックス(バイオフィルム内の)の両方に結合する、多用途のナノ粒子担体(NPC)が用いられる。この非細胞傷害性及び非殺菌性の、ポリマーベースのナノ担体は、酸性環境内で治療剤の制御放出を促進するpH−反応性エレメントも含む。証明された2つの抗バイオフィルム剤(ファルネソール及びアピゲニン)は、化学的にNPCへ結合され、低いpH値でNPCから放出され得る。ファルネソールは、酸性pHで有効な膜ターゲティング抗菌剤であり、一方でアピゲニンはEPS合成の阻害剤である。しかしながら、どちらの薬剤も口中に至適に保持されない。本明細書には、pHにより活性化されたナノ粒子が、異なる抗バイオフィルム剤の局在を増強させ、活発なバイオフィルム集合が起こっている部位における、in situでの制御された持続放出を提供したことによって、in vivoでの齲蝕の発生に対する薬剤の効力を増強させたことが記載されている。本明細書に記載される実施例は、臨床的な関連のある短時間曝露処置の投与計画によって、確立された混合種の齲蝕原性バイオフィルムモデルを用いたバイオフィルム対照に対する、本薬剤送達アプローチの有効性を(NPCなしで送達される薬剤に対して)比較した。さらに、NPCにより送達される薬剤が、in vivoでの齲蝕症の発生の妨害にさらに有効であるか否か(NPCなしの薬剤送達に対して)について試験するための実験を設計した。NPCベースの薬剤送達法を、現在の齲蝕予防の「基準法」(フッ化物)及び抗菌療法(クロルヘキシジン)と比較する。本明細書に示すデータは、NPCが治療剤を特定の局所環境へ送達する可能性を実証している。このデータは、NPCベースの治療法を用いて口腔バイオフィルムを制御する能力を実証するが、バイオフィルムはほとんどの感染症に関連していることから、口腔を超えた関連性がある。
以下に、実験で用いた材料及び方法について記載する。
材料及び方法
in vitro混合種の齲蝕原性バイオフィルム及びげっ歯類の齲蝕モデルの両方を用いて、NPC薬剤送達アプローチの有効性を、NPCを用いない薬剤送達に対して評価した。唾液の存在下での有効性と遅延性の生物活性の組み合わせ(短時間の局所曝露後)は、in vivoでの有効性の可能性を増大させるために必用である。このように、NPCに結合させた薬剤の局所への毎日の適用に基づいた、臨床的な関連のある処置用の投与計画を用いた。
In vitro
NPCにより送達される薬剤が、(1)最初のバイオフィルム集合を破壊できるか否か、(2)バイオフィルムのさらなる蓄積を予防できるか否か、及び(3)唾液の存在下で予め形成されたバイオフィルムの分解を促進するか否か、又はさらなる蓄積を予防するか否かについて試験する。
処置用製剤
NPCを結合した薬剤と遊離薬剤(NPCに結合していない)を、以下の処置/実験群:1)NPC−アピゲニン、2)NPC−ファルネソール、3)NPC−アピゲニン+ファルネソール、4)NPCのみ(NPC対照)、5)アピゲニン、6)ファルネソール、7)アピゲニン+ファルネソール、及び8)ビヒクル対照のために用いる。これらの薬剤を、以前に行われたように、1日2回、1分間適用する(Koo et al, 2005, J Dent Res, 84(11): 1016-1020; Falsetta et al., 2012, Antimicrob Agents Chemother, 56(12): 6201-6211)。薬剤送達の最適化のため、NPCリンカーを系統的に変化させることで、薬剤放出速度、濃度、及び薬剤放出の長さを調整して治療効果を最大にする。薬剤の取り込み量及び分解可能なテザーの長さ/化学的性質を変化させて、アピゲニン及びファルネソールの送達/有効性を増大させる。
バイオフィルムの形成
齲蝕原性バイオフィルムの発生に関連する生態学的及び生化学的変化の力学を模倣する確立されたin vitroモデルを用いて、sHAディスク上に混合種バイオフィルムを形成する(Klein et al., 2012, PLoS One, 7(9): e45795, Xiao et al, 2012, PLoS Patholg, 8(4): e1002623)。S.ミュータンスUA159(証明された齲蝕原性病原体)、アクチノミセス・ネスルンディATCC12104、及びストレプトコッカス・オラリスATCC35037(初期の生着菌)を用いる。図6に、バイオフィルム発生の異なる段階を表すバイオフィルム除去の時点を含む、実験計画を示す(Xiao et al, 2012, PLoS Patholg, 8(4): e1002623)。以下のバイオフィルムの特性:1)生物量、2)構造の組織化、及び3)遺伝子発現について試験する。
生物量及び3Dバイオフィルム構造
以前に詳しく記載されたように、共焦点蛍光画像法と生科学的方法との組み合わせを用いて、バイオフィルムの生物量及び3D空間組織を分析する(Koo et al, 2005, J Dent Res, 84(11): 1016-1020; Xiao et al, 2012, PLoS Patholg, 8(4): e1002623)。簡単に述べると、EPSをAlexa Fluor 647によって標識する一方で、細菌細胞をSyto9によって標識する(Xiao et al, 2012, PLoS Patholg, 8(4): e1002623)。カスタムレーザーと対物レンズを備えたOlympus FV1000二光子顕微鏡を用いて画像を取得し、AMIRA(3D再構築のため)及びCOMSTAT-DUOSTAT(バイオフィルム生物量、EPS、及び比率の定量化のため)によって解析する。乾燥重量、タンパク質/EPS含量、及び生細胞(コロニー形成単位:CFU/乾燥重量又はCFU/タンパク質)を決定するため、標準的な生化学的方法及び培養法を用いる(Koo et al, 2005, J Dent Res, 84(11): 1016-1020)。
遺伝子発現
アピゲニン及びファルネソールにより直接影響されることが知られている、S.ミュータンス遺伝子であるgtfBCD(EPS合成)及びatpD(酸耐性)遺伝子の発現をモニターするため、RT−qPCRを行う(Falsetta, 2012, Antimicrob Agents Chemother, 56(12): 6201-6211)。バイオフィルムに対して最適化したプロトコルを用いて、処置したバイオフィルムそれぞれからRNAを抽出し、精製する(Klein et al., 2012, PLoS One, 7(9): e45795, Xiao et al, 2012, PLoS Patholg, 8(4): e1002623)。標準的な手順に従い、cDNAを合成した後に遺伝子特異的なプライマーを用いた増幅を行う(Klein et al., 2012, PLoS One, 7(9): e45795, Xiao et al, 2012, PLoS Patholg, 8(4): e1002623)。遺伝子発現アッセイを補足するためには、ノーザンブロット及びRNAseqアッセイもまた用いる。
In vivo
動物実験
NPCにより送達される有効な薬剤を、歯の齲蝕のげっ歯類モデルを用いて評価する。簡単に述べると、雌のSprague−Dawley SPFラットの口にS.ミュータンスUA159を感染させる(Koo et al., 2005, J Dent Res, 84(11): 1016-1020)。ラットを無作為に実験群に分ける。群には、NPCにより送達される最も有効な薬剤及びNPC対照が含まれる。加えて、陽性対照として、臨床的に証明された抗齲蝕剤(フッ化物;NaFとして250ppm)及び広域スペクトル殺菌剤(クロルヘキシジン;0.12%v/v)が(及びそれらのビヒクル対照も)含まれる。動物に5週間Diet2000(56%ショ糖)を摂取させ、且つ5%(w/v)ショ糖水を自由に摂取させることにより、齲蝕原性歯垢バイオフィルムの形成を誘導する。ラクダのブラシを用いて、外用処置を1日に2回(週末を含む)適用する。実験期間の後、動物をCO2により窒息死させる。
歯垢の生化学的評価
顎を無菌的に解剖し、歯垢を除去して、(1)S.ミュータンス及び培養可能な細菌叢のすべてを培養(MSB寒天及び血液寒天)及びPCRベースの方法を用いて計数すること、及び(2)EPS含有量について分析する。
齲蝕の評価
歯を、Larsonによって改変されたKeyeのシステムに従った齲蝕スコアリングに供する。
統計解析
in vitroデータ(画像解析、生化学分析、及び遺伝子発現分析からの)及びin vivoデータ(齲蝕スコア及び微生物の係数)を、JMPバージョン8.0(SAS Institute Inc.)を用い、有意性のレベルを0.05に設定して解析する。
以下、実験結果について記載する。
唾液の存在下で、NPCは薄膜及びEPSマトリックスに結合する。
ナノ粒子担体(NPC)を、それらの化学組成及び機能性に基づいて選択する。これらは特定の表面と静電気的に相互作用するポリマーベースの陽イオンミセルから構成され、pH−反応性エレメントを含む。NPCは、様々な薬剤の酸性pHにおける送達に非常に効果的であり(Benoit et al, 2010, Mol Pharm, 7(2): 442-455)、ヒト細胞に対する毒性がなく、非殺菌性である。図2は、NPC(pH−反応性エレメント及び薬剤送達エレメントを含む)の大まかな構造、及びpHによって誘発されるNPCによる薬剤放出の包括的な原理を示す。NPCは、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)−b−ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート−co−プロピルアクリル酸−co−ブチルメタクリレート)(pDMAEMA-b-p(DMAEMA-co-PAA-co-BMA))を含む(図2A)。図2Bは、NPCのpH依存的な構造を示す。外側のエレメント(黒で示す)は、生理的なpHの下でプロトン化され、薄膜に高い結合活性をもつように設計された。BMAを含む内側のエレメント(青で示す)は、生理的なpHの下での電荷がほぼ中性となり、疎水性となるように設計された。内側のエレメントは、低いpHの環境下でさらにプロトン化され、NPCを分解してナノ粒子コアから単数又は複数の薬剤を放出させる。
最初に、唾液の存在下で、薄膜をコートしたヒドロキシアパタイト(HA)ビーズ表面に、選択したNPCが結合するか否かについて試験した。薄膜をコートしたHAビーズと共にインキュベートする前に、NPCを唾液と混合した。NPCの曝露後(1から60分)、リン酸緩衝液を用いてビーズを充分に洗浄して、いずれの未結合物質も除去した後、共焦点画像によって分析した。
データは、NPCが、唾液の存在下であっても強力且つ均一に薄膜へ結合することを示す(図3A)。混合物のボルテックスによってビーズを激しく洗浄した後でも、NPCは結合したままであったことから、結合は堅固であると考えられる。1)薄膜をコートした表面(危険性のある部位)にバイオフィルムが形成されたこと、及び2)現在利用できる治療剤のほとんどは、局所的な短時間の適用後に口中に保持されないことから、薄膜上のNPCの保持は、高い関連事項である。次に、薄膜をコートしたHA表面に形成されたEPS及び/又はEPSリッチバイオフィルムマトリックスへNPCが結合するか否かについて試験した。薄膜をコートしたHA上に固定化されたS.ミュータンスGtfBをショ糖と共にインキュベートして、in situでEPSを形成させた。その後、唾液の存在下で(上記のように)、薄膜をコートしたHAに形成されたEPS(青に標識)にNPCが結合し得るか否かについて試験した。図3Bにはっきりと示すように、NPCは、表面に形成されたEPSへ効果的に結合した。この観察もまた、表面上のEPSが、ストレプトコッカス・ミュータンス(証明された齲蝕原性生物)のような病原生物の結合部位として作用し、前記表面上に有害細菌の蓄積を促進することから、臨床的に重要なものである。結合モチーフをもたないNPC(図2Aの構造を参照されたい)は、薄膜又はEPSへ接着しなかった。このように、ナノ担体は非特異的には結合しない。
続いて、NPCのバイオフィルムマトリックスへの結合能を評価した。バイオフィルムをその発生の間にNPCへ曝露した。NPCによる処置後、バイオフィルムを洗浄していずれの未結合物質も除去した。3Dバイオフィルムの再構成によって、NPC(赤で示す)はバイオフィルム全体にわたって分布し、EPSリッチマトリックスに結合することが示された(図3C)。これによって、NPCはバイオフィルム内に保持されることが示された。さらに、NPCは、S.ミュータンスに対するどのような抗菌活性も有していない。
抗バイオフィルム剤は、NPCへ化学的に結合され、長時間にわたりpH低下の関数として放出される。
以前に行われたように(Benoit et al, 2006, Biomaterials, 27(36): 6102-6110)、薬剤を放出可能なテザーを含めたNPCを合成した。放出された薬剤は、それらの未変化の対応物に比較して、構造又は活性に違いがない。これらの共重合体には、ファルネソールを放出可能な、アピゲニンを放出可能な、又はファルネソール及びアピゲニンの両方を放出可能なテザーが含まれる。
図4に示すように、1つの分解可能なテザーの長さに対して6日までポリマーからファルネソールが持続送達され、全体的な用量は係留された薬剤濃度によって制御されるが、放出速度は環境のpH(低いpHはさらに迅速な放出をもたらす)並びに分解可能なテザーの化学的性質及び長さによって制御される(Benoit et al, 2006, Biomaterials, 27(36): 6102-6110)。最初の実験条件では、NPCからは、多価係留のために、NPC単独の用量に比較して10〜20×モル濃度のファルネソール(100μMまで。これは最小発育阻止濃度をはるかに超える)が送達された。薬剤送達システムは、付着表面及び齲蝕原性バイオフィルム内で通常みられる低いpH値(pH4〜5)において、ファルネソール及びアピゲニンが長時間にわたって最大放出されるように、さらに最適化され得る。同時に、薬剤の放出が生理的な中性pHでは最小になるようにさらに調整することができる。
まとめると、本明細書に提示するデータは、理想的な抗バイオフィルム剤担体となり得る非常に革新的で実現可能な技術を示している(図5を参照されたい)。この技術は、局所pHが酸性になったとき(正確には薬剤が最も有効になったとき)、持続的で且つ制御された薬剤放出を促進する「ホーミング装置」を組み入れている。NPCに結合していない薬剤に比較して、NPCにより送達される薬剤は、バイオフィルムの集合と蓄積とをさらに効果的に中止させる。特定の理論に制約されるものではないが、NPCにより送達される薬剤は、分解を誘発する可能性がある。さらに、NPCの送達は、混合種バイオフィルム内のS.ミュータンス病原遺伝子の抑制を増強し得る。
齲蝕のIn vivoモデル
NPCにより送達される薬剤は、齲蝕原性バイオフィルムの形成及びin vivoでの空洞形成を、さらに効果的に中止させる(NPCなしで送達された薬剤に比較して)。さらに、NPCにより送達される薬剤は、細菌コロニー形成(バイオフィルムの形成)並びに齲蝕性病変部の発生率及び重症度の減少に対して、フッ化物及びクロルヘキシジンに匹敵する(又はそれより優れている可能性もある)。前記データは、臨床的な設定での治療剤の局所送達に対する、pHにより活性化されるNPCの有効性及び有用性を支持する。
本明細書に提示するデータは、この技術の発展の基礎を提供する。別の実施形態では、送達システムにフッ化物が取り込まれることにより、in situでの抗バイオフィルム剤と抗齲蝕剤との同時放出が可能になる。加えて別の実施形態では、活発な炎症過程が起こっている部位(例えば歯周炎)に通常みられる酸性環境内への局所送達のために、抗炎症剤及び麻酔薬のようなその他の薬剤がNPCに結合される。本技術は明らかに、バイオフィルムによって引き起こされるその他のヒト疾病又は工業的な問題であっても、それらを予防/処置するために用いることができる。NPC化学の低価格及び柔軟性によって、消費者に利益をもたらす様々な製品の開発が可能になる。NPC結合薬剤は、毎日の口腔の健康維持のための製品(例えば洗口液/練り歯磨き)又は歯科医院での処置のための製品(例えば外用ジェル、バーニッシュ、又は修復材料)中に含まれてよいことが予想される。
実施例2:歯科応用における、抗バイオフィルム剤の標的化された制御放出のための、pHにより活性化されるナノ粒子
本明細書に提示する実験は、ポリ(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート(BMA)、及び2−プロピルアクリル酸(PAA)(pDMAEMA−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA))を含むジブロック共重合体の活性、並びにこのようなポリマーが、歯の表面を標的として、抗バイオフィルム剤であるファルネソールを封入及び送達する能力を探求するために行われる。陽イオン性NPC並びに幾つかの対照ポリマー及びミセルを合成し、それらが静電気的な相互作用を通して歯の表面を標的とする能力について試験した。これらのNPCについては、ファルネソールを負荷し、バイオフィルム微小環境に一致する低いpHに応答して担体の結合を増大させた後、ミセルコアの破壊を通してファルネソール放出を引き起こす能力も分析した。そして、NPCを介したファルネソール送達による抗菌効力及び抗バイオフィルム効力について試験した。
ジブロックは〜21nmの陽性に荷電したナノ粒子へ自己集合し、〜15.9mVのゼータ電位を示す陽イオン性ナノ粒子コロナと、陰性に荷電した歯の表面との静電気的な相互作用により、歯の表面の模倣物に対して〜215L*mmol-1の吸着親和性を示す。さらに、疎水性コアのため、これらのNPCはファルネソールを〜27wt%まで負荷する。ナノ粒子は、歯のバイオフィルムを模倣した酸性pHの微小環境においてコアの不安定化をもたらすpH反応性を示すことから、ファルネソールは、pH依存性の様式でpH4.5及び7.2それぞれにおいて、t1/2=7.3及び14.7hによって放出される。そして、ナノ粒子抗菌活性及び抗バイオフィルム活性について評価した。S.ミュータンスの生存率は、ファルネソールを負荷したナノ粒子による処置後に3log減少した。加えて、臨床的な関連のあるナノ粒子処置用の投与計画を用いた後に、S.ミュータンスのバイオフィルムコロニー形成単位において50%の減少が観察された。このようにNPCは、標的化され局所化された薬剤送達、及び歯のバイオフィルム微小環境に一致する低いpHによって迅速に誘発される放出を通した薬剤効力の増大によって、抗バイオフィルム剤の送達に大きな可能性を有する。
以下に、これらの実験で用いた材料及び方法について記載する。
材料
化学物質及び材料は、他に記載のない限りSigma-Aldrichから供給された。エチルスルファニルチオカルボニルスルファニルペンタン酸(ECT)及びプロピルアクリル酸(PAA)は、以前に記載したように合成した(Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Murthy et al., 1999, J Control Release, 61(1):137-43)。2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)はメタノールから再結晶化した。ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及びブチルメタクリレート(BMA)は使用前に蒸留し、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルメタクリレートは塩基性アルミナを通して濾過し、阻害物質を除去した。
ポリマー合成
ポリマーは、ポリマー分子量及び多分散度指数(Mw/Mn、PDI<1.3)について正確に制御する、可逆的付加フラグメンテーション鎖移動(RAFT)重合によって合成した。具体的には、以下のポリマーを合成した:p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)、p(DMAEMA)、p(DMAEMA)−p(BMA)、及びp(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)。RAFT重合は、単量体、イニシエーターとしての2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、及び連鎖移動剤(CTA)としてのECTの存在下で行った。各ポリマーに対する特定の反応条件の詳細を以下に記載する。
ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、p(DMAEMA)の合成
3グラム(3g)のジメチルホルムアミド(DMF)(40wt%単量体)及び2gの蒸留DMAEMAを反応器内に導入した。最初の単量体とCTAとの比([M]0:[CTA]0)について、Mnは、対照として用いたp(DMAEMA)が16.0kDa、p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)とのブロック共重合体の合成にマクロCTAとして用いたp(DMAEMA)が9.1kDa、及びp(BMA)とのブロック共重合体の合成に用いたものが22.8kDaであった(図7C)。CTAとイニシエーターとの比([CTA]0:[I]0)は10:1であった。反応は、重合(t=6h)のために60°Cの油浴に移す前、シュレンク管により40分間窒素を用いてパージした。得られたポリマー(p(DMAEMA))は、30:70ジエチルエーテル:ペンタン中の沈殿及び遠心分離によって分離した。p(DMAEMA)ポリマーをアセトンに再溶解させ、ペンタン中に3回沈殿させた後、真空中で一晩乾燥させた。
ポリ(ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルメタクリレート)、p(PEGMA)、macroCTAの合成
2グラム(2g)のDehibitを通したポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルメタクリレート(360g/モル)と、3gのDMF及びCTAとを、最初の単量体とCTAの比([M]0:[CTA]0)が150において組み合わせた。窒素を用いて溶液を40分間パージした後、60℃にて6時間反応させた。CTAとイニシエーターの比([CTA]0:[I]0)は10:1であった。得られたp(PEGMA)マクロCTAを、30:70ジエチルエーテル/ペンタン中の沈殿及び遠心分離によって分離した。p(PEGMA)ポリマーをアセトンに再溶解させ、続いてペンタン中に3回沈殿させた後、真空中で一晩乾燥させた。
p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ブロック共重合体の合成
9.1kDa p(DMAEMA)マクロCTAを用いて、p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)のジブロック共重合体を合成した。DMAEMA、PAA、及びBMAの、望ましい化学量論的な量(それぞれ25:25:50%)を、DMFに溶解したp(DMAEMA)マクロCTA(25wt%単量体、[M]0:[CTA]0=250:1)に加えた。AIBNをイニシエーターとした、CTAとイニシエーターとの比([CTA]0:[I]0)は10:1であった。AIBNの添加後、窒素を用いて溶液を40分間パージした後、60℃にて24時間反応させた。得られたジブロック共重合体を、30:70ジエチルエーテル/ペンタン中の沈殿及び遠心分離によって分離した。ポリマーをアセトンに再溶解させ、続いてペンタン中に3回沈殿させた後、真空中で一晩乾燥させた。
p(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ブロック共重合体の合成
18.7kDa p(PEGMA)マクロCTAを用いて、p(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)のジブロック共重合体を合成した。DMAEMA、PAA、及びBMAの、望ましい化学量論的な量(それぞれ25:25:50%)を、DMFに溶解したp(PEGMA)マクロCTA(25wt%単量体)([M]0:[CTA]0=250:1)に加えた。AIBNをイニシエーターとした、CTAとイニシエーターとの比([CTA]0:[I]0)は10:1であった。AIBNの添加後、窒素を用いて溶液を40分間パージした後、60℃にて24時間反応させた。得られたジブロック共重合体を、30:70ジエチルエーテル/ペンタン中の沈殿及び遠心分離によって分離した。ポリマーをアセトンに再溶解させ、続いてペンタン中に3回沈殿させた後、真空中で一晩乾燥させた。
p(DMAEMA)−b−p(BMA)ブロック共重合体の合成
22.8kDa p(DMAEMA)マクロCTAを用いて、p(DMAEMA)−b−p(BMA)のジブロック共重合体を合成した。BMAの望ましい化学量論的な量を、DMFに溶解したp(DMAEMA)マクロCTA(25wt%単量体)([M]0:[CTA]0=250:1)に加えた。AIBNをイニシエーターとした、CTAとイニシエーターとの比([CTA]0:[I]0)は10:1であった。AIBNの添加後、窒素を用いて溶液を40分間パージした後、60℃にて24時間反応させた。得られたジブロック共重合体を、30:70ジエチルエーテル/ペンタン中の沈殿及び遠心分離によって分離した。ポリマーをアセトンに再溶解させ、続いてペンタン中に3回沈殿させた後、真空中で一晩乾燥させた。
ポリマー標識
すべてのポリマーは、Texas Red(登録商標)スルホニルクロリド(Thermo Scientific, 米国)によって標識し、この標識は0.25wt%ポリマーと、2*10-4wt%Texas Red(登録商標)のトリエチルアミン(TEA)及びジメチルホルムアミド(DMF)溶液(1%v/v)とのインキュベーションを通して行った。標識したポリマーは、3500kDa MWCO膜(Spectra/Por(登録商標), Spectrum Labs,カリフォルニア州ランチョ・ドミンゲス)を用いて、脱イオン化蒸留水(ddH2O)に対して透析することにより精製した。透析水は1日2回、5日間交換し、ポリマーは凍結乾燥を通して回収した。
ポリマーの性質決定
ポリマー組成物の分子量決定及び確認
すべてのポリマーの絶対分子量及び多分散度(Mw/Mn、PDI)を、miniDAWN TREOS多角度光散乱(MALS)検出器(Wyatt Technologies,カリフォルニア州サンタバーバラ)及び屈折率検出器(Shimadzu Technologies,カリフォルニア州サンタクララ);カラム:ガード、TSK Gel Super H-H;ゲル分離、TSK Gel HM-N, Tosoh Bioscience, Montgomeryville, PA,ペンシルベニア州モンゴメリービル))を備えたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC, 1200 Series(Shimadzu Technologies,カリフォルニア州サンタクララ)によって決定した。0.05M LiBrを含むHPLCグレードのDMFを、60℃にて流速0.35mL/分の移動相として用いた。p(DMAEMA)(0.06ml/g)(Gallow et al., 2012, Polymer (Guildf), 53(5):1131-7; Kryuchkov et al., 2011, Macromolecules, 44(13):5209-17; Vesterinen et al., 2011, eXPRESS Polym Lett, 5(9):754-65)及びPEG(0.13ml/g)(Liu et al., 2012, Langmuir, 28(8):3831-9)について報告されているdn/dc値を用いて、絶対分子量を決定した。第2のブロック組成物を確認するため、pH−反応性ブロックを含んだブロック共重合体((p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA))を、以前に記載したように1H NMR分光法(Bruker Avance 400)を通して分析した(Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9)。
NPCの形成及び性質決定
p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)、p(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)、及びp(DMAEMA)−b−p(BMA)のナノ粒子の大きさ、多分散指数(PDI)、及びゼータ電位を、Zetasizer(Malvern Instruments,英国)を用いて測定した。大きさの測定は0.2mg/ml及び2.7mg/mlにて行った。ゼータ電位は0.2mg/ml及びpH7.2にて測定したが、p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)については、歯の表面に結合する粒子の表面電荷に相関するようにpH(3.4〜10.5)の範囲にてゼータ電位を測定した。
NPCの臨界ミセル濃度(CMC)
p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)から構成されるミセルベースNPCのCMCを、PRODAN(登録商標)(Molecular Probes,オレゴン州ユージーン)の蛍光発光におけるソルバトクロミックシフトを用いて概算した(Adhikary et al., 2009, J Phys Chem B, 113(35):11999-2004; Rodriguez et al., 2010, J Biomed Opt, 13(1):014025)。簡単に述べると、メタノールに溶解したPRODAN(登録商標)を黒い96ウェルプレートに分注した。一晩乾燥させた後、ある濃度範囲(0〜2mg/ml)のミセル溶液を添加し、一晩インキュベートして、PRODAN(登録商標)の最終濃度を5.45*10-4mg/mlとした。PRODAN(登録商標)の発光を、疎水性相及び親水性相それぞれにおけるPRODAN(登録商標)の発光に対応する2波長(Ex/Em1:360nm/436nm及びEx/Em2:360nm/518nm)において測定した。発光比(疎水性相/親水性相、Em1/Em2)をlog(ミセル濃度)に対してプロットし、CMCを、発光比がポリマー濃度によって増大し始める濃度として決定した(図11)。
歯の模倣物の表面へのポリマーの吸着
歯の表面模倣物の作製
歯の表面を模倣する3つの材料、コートされていないヒドロキシアパタイト(HA)、唾液をコートしたヒドロキシアパタイト(sHA)、及び齲蝕原性バイオフィルムのマトリックスの重要な成分であるグルカンをコートしたヒドロキシアパタイト(gsHA)、を用いてポリマーの吸着を評価した。緩衝液(dd−H2O,pH6.5中の、50mM KCl、1mM KPO4、1mM CaCl2、1mM MgCl2、0.1mM PMSF、及び0.02% NaN3)を用いて、ヒドロキシアパタイト(CHTTM, BioRad)ビーズを2回洗浄した。洗浄したHAビーズをヒト唾液と共にインキュベートして、唾液をコートしたヒドロキシアパタイト(sHA)を得た。gsHAの表面は、他所に記載されるように(Schilling et al., 1992, Infect Immun, 60(1):284-95)、Alexa Fluor(登録商標) 647によって標識したデキストラン(Ex/Em:647nm/668nm)(Life Technologies)の存在下で、sHAビーズを精製したグルコース転移酵素B(GtfB)及びショ糖と共にインキュベートして、sHA表面にグルカンを形成することによって産生した。グルカン層の形成は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV1000 Olympus,米国)を用いて観察することで確認した(Klein et al., 2009, Appl Environ Microbiol, 75(3):837-41)(図12)。
ポリマー結合の評価
歯の表面へのポリマー吸着は、1μMのTexas Red(登録商標)によって標識したポリマーと歯の表面との37℃における1時間のインキュベーションを3通り行うことによって、量的評価を行った。吸着されたポリマーの量は、Infinite N200 PROマイクロプレートリーダー(Tecan,スイス)によって測定した、吸着前と吸着後の、Texas Red(登録商標)のシグナル(Ex/Em:550nm/617nm)の違いに基づいて分析した。結果は、85μMのポリマー溶液と共に37℃にて1時間インキュベートしたHA、sHA、及びgsHA表面の、共焦点レーザー走査型顕微鏡による画像処理によって確認した。共焦点像は、ImageJソフトウェア(v.1.47)を用いて、ポリマーによる表面領域のカバー率を解析した。簡単に述べると、像を8ビットに変換し、固有の閾値(“Moments”)を適用して、像を標準化した。標準化された領域それぞれの5つの独立した領域を、解析のために選択した。あるpH範囲(3.4〜10.5)におけるNPC及びp(DMAEMA)のヒドロキシアパタイト(HA)への結合もまた定量化し、p(DMAEMA)の三級アミン残基のプロトン化がどのように吸着に影響するかについて調べた。
吸着平衡曲線
NPCのHA、sHA、及びgsHAへの吸着を、0〜15μMの濃度のにおいてさらに分析し、GraphPad Prismソフトウェア(v.6.03)によって、ラングミュア平衡曲線を吸着平衡データにフィットさせた。前記フィットから、吸着親和性定数(Ka[L*mmol-1])及び様々な歯の表面の模倣物へ吸着されたNPCの最大量(Xmax[mmole/m2])を算出した。NPCの吸着は、製造者から提供されたヒドロキシアパタイトビーズの平均半径及び密度(それぞれ80nm及び0.63g/ml)に従って算出した、前記ビーズの表面領域に対して表した。
抗バイオフィルム剤であるファルネソールの、ポリマーミセルへの負荷及びポリマーミセルからの放出
薬剤負荷
Tangら(Tang et al., 2003, Biomacromolecules, 4(6):1636-45)と同様に、超音波処理によってミセルにファルネソールを負荷した。簡単に述べると、ある濃度範囲(0.2〜1.5mg/ml)におけるファルネソールエマルションを、超音波ホモジナイザー(Sonic Raptor 250, Omni International, ジョージア州ケネソー)を用いた、ddH2O中での40%出力による超音波処理によって調製した。次にエマルションを、ガラスシンチレーションバイアル中で2.7mg/mlのp(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ミセルと混合した。これらの溶液をバスソニケーター(50 HT, VWR)中に5分間置いた。検量線に基づき、700nmにおけるファルネソールエマルションの吸収の変化(濁りの測定として)を、負荷した薬剤の量と関連付けた。負荷したファルネソールの量に従い、以下の式の負荷能力及び効率を算出した。
Wtloadedは負荷した薬剤の量、Wtmicelleはミセルの量、及びWt0はエマルション中のファルネソールの最初の量を表す。この方法の算出した負荷能力及び効率を確認するため、高圧液体クロマトグラフィーを用いた(HPLC)。簡単に述べると、ファルネソールを負荷したNPCを3kDa遠心式フィルターユニット(Amicon Ultra(登録商標) 0.5 ml, Millipore, 米国)を用いて濃縮し、PBSを用いた遠心分離によってさらに2回洗浄した。C18カラムを用い(Kromasil(登録商標) Eternity, 4.6 mm × 50 mm, Supelco, ペンシルベニア州ベルフォント)、流速0.5ml/分にて、MeOH:H2Oの10%から90%の勾配によって20分間HPLC(Shimadzu Technologies,カリフォルニア州サンタクララ)を行い、UV吸光度(210nm)の検出によって残余物中のファルネソールの量を測定し、負荷能力を決定した。両側コルモゴロフ・スミルノフ検定に基づくと、2つのデータセットが統計学的に等しい(p<0.01)ことから、HPLC分析は薬剤負荷分析の単純化された方法であると言える(図13)。
ファルネソールを負荷する前及び後両方のナノ粒子の大きさを、透過型電子顕微鏡を用いて調べた。簡単に述べると、ミセルにファルネソールを、負荷能力0wt%、18.4wt%、及び27wt%において負荷し、炭素をコートしたニッケルグリッドに移した後、造影剤としての2%(w/v)リンタングステン酸の存在下で2〜5分間乾燥させた。11メガピクセルErlangshenデジタルカメラシステム(Gatan,カリフォルニア州プレザントン)に取り付けたHitachi 7650透過型電子顕微鏡(Hitachi,イリノイ州ショウンバーグ)を用いて、遊離NPC及び負荷NPCの像を拡大率200000×にて撮影した。
薬剤放出
透析を用いて、負荷されたミセルからのファルネソールの放出を定量化した。簡単に述べると、ファルネソールの負荷は、経験的に同定した、最適化された負荷効力(17.5wt%)においてPBS中で行った。薬剤を負荷したミセルをpH4.5又はpH7.2のPBS中に入れ、37°Cにて6〜8kDa透析膜(Spectra/Por(登録商標), Spectrum Labs,カリフォルニア州ランチョ・ドミンゲス)を通し、液を毎日交換して透析を行った。0、1、2、3、4、及び7日目に、上に詳細に記載したように、HPLCによってファルネソールを定量化した。遊離ファルネソールの濃度が、推定される溶解限度である1.7mg/L(US EPA; Estimation Program Interface (EPI) Suite V.3.12)よりも高い時点はみられなかった。GraphPad Prism(登録商標) ソフトウェア(v.6.03)を用いて、一次放出動態を想定する放出データのフィットを行った。フィットに従い、放出速度定数であるkr、及び放出半減時間であるt1/2を、以下の一次放出方程式を用いて算出した。
%放出は時間tにおいて放出された薬剤の%であり、kobsは、以下の関連性に従い、放出半減時間に換算した、観察された薬剤放出の動態定数である。
いったんフィットパラメータを決定すると、以下のフィット方程式の一次導関数を算出して、長時間にわたるファルネソールの放出を評価した。
抗菌活性及び抗バイオフィルム活性並びにナノ粒子を介したファルネソールの放出
ストレプトコッカス・ミュータンスUA159(ATCC 700610、血清型c、齲蝕原性生物のモデルとして用いる)を、細胞生存率及びバイオフィルムの形成に対する、ナノ粒子を介したファルネソールの放出の効果を評価するために用いた。S.ミュータンスUA159細胞を、1%(w/v)グルコースを含む、限外濾過(10kDa膜)したトリプトン−酵母抽出物ブロス(UFTYE、pH7.0)中で、対数期の中頃まで増殖させた後(37℃、5%CO2にて)、遠心分離(5,500×g、10分、4℃)によって回収した。次に細胞を0.89% NaClによって3回洗浄した後、遠心分離(5,500×g、10分、4℃)によって回収した。Branson Sonifier 450(20Wにおいて、5秒間隔で4回の10秒パルス、Branson Ultrasonics Co.,米国コネティカット州)を用いて細胞懸濁液の超音波処理を行い、単一細胞懸濁液が得られたことを光学顕微鏡によって確認した。細胞調製物の吸光度(600nm)を、1.5×109のS.ミュータンスのコロニー形成単位/ml(CFU/ml)に対応する0.5±0.05に調整した。
細胞懸濁液(各1ml)を遠心分離して、細胞ペレットを1mlの1×PBS、pH7.0中の処理溶液[NPC−対照(1.47mg/ml NPC)、NPC−ファルネソール(0.3mg/mlファルネソールを負荷した1.47mg/ml NPC)、又はPBS対照(1×PBS、pH7.0)]中に再懸濁した。細胞を、処理液と共に37℃にて1時間振盪機内でインキュベートした。インキュベーション後、各懸濁液の0.1mlの一定分量を10倍に希釈し、0.1mlを血液寒天プレートにまいた。各細胞懸濁液の残りの0.9mlを1×PBS、pH7.0によって3回洗浄して、残余のポリマー薬剤を除去した。3回目の洗浄時、0.45mlの一定分量を2つ準備し、遠心分離した。各条件について、1つの細胞ペレットを、0.45mlの1×PBS、pH7.0に再懸濁し、懸濁液の0.1mlを連続希釈してまいた。各条件のもう1つの細胞ペレットを、0.45mlの1×PBS、pH4.0に再懸濁した。両懸濁液を2時間及び4時間インキュベートして、NPC処理に対するpHの効果を分析した。各時点で、各懸濁液の一定分量を10倍希釈して血液寒天プレートにまいた。(CFU計数器についての情報)を用いてCFUを計数する前に、プレートを48時間(37℃、5%CO2)インキュベートした。
バイオフィルムを処理するために、5種の処理液、すなわち遊離NPC(1×PBS、pH7.0中の1.47mg/ml NPC)、NPC−ファルネソール(1×PBS、pH7.0中で0.3mg/mlファルネソールを負荷した1.47mg/ml NPC)、遊離ファルネソール(1×PBS、pH7.0、15% エタノール(EtOH)中の0.3mg/ml ファルネソール)、遊離ファルネソールのビヒクル対照(1×PBS、pH7.0、15% EtOH)、及びPBS(1×PBS、pH7.0)を用いた。有効濃度では水性溶媒中に不溶性であり、S.ミュータンスバイオフィルムの発生には効果のないことが予め示されている(Koo et al., 2003, J Antimicrob Chemother, 52(5):782-9)遊離ファルネソールを可溶化するためのビヒクルとして、15%v/vエタノールを用いた。他所に記載されるように(Koo et al., 2010, J Bacteriol, 192(12):3024-32)、S.ミュータンスUA159のバイオフィルムを、唾液をコートしたヒドロキシアパタイト(sHA)表面(直径12.7mm、深さ1mm、Clarkson Chromatography Products Inc., ペンシルベニア州サウス・ウィリアムズポート)に形成した。特注ホルダーを用いてHAディスクを垂直に配置し、1%ショ糖を含むUFTYE(pH7.0)中で、37°C、5%CO2にて増殖させた。ディスクを上記の溶液によって10分間前処置し、無菌生理食塩水を用いて2回洗浄した後、培地中に戻した。第1の処理は、唾液による薄膜形成(sHA)後に直接適用し、次に処理したディスクをS.ミュータンス(105CFU/ml)を含む培地へ移した。ディスク上にバイオフィルムを中断させることなく6時間形成させ、その時点で第2の処置を適用した。次の日に、バイオフィルムを6時間ごとに全部で3回処理し、培地を2回交換した。48時間後に、バイオフィルムの乾燥重量あたりのコロニー形成単位(CFU)の量を評価した。簡単に述べると、以前に記載したように(Koo et al., 2003, J Antimicrob Chemother, 52(5):782-9)、バイオフィルムを除去して均質化した後、血液寒天プレート上にまき、37℃、5%CO2にてインキュベートした後、CFUを計数した。
統計解析
群の間の有意性を、P<0.01のp値において、二元配置AVOVAと、それに続く多重比較のためのテューキー検定によって評価した。あるいは、結合対pH及びゼータ電位の傾向を示すピアソン相関の有意性(r2>0)を、相関なし(r2=0)に比較して、両側t検定によりP<0.01のp値において評価した。すべてのフィットに対し、適合したR2>0.98によって、一次放出動態に対する適合度及びラングミュア吸着平衡を評価し、残りに対してはダゴスティーノとピアソン共同の(K2)正規性検定をP<0.05のp値において行った。
以下に、実験結果を記載する。
ポリマー構造及び機能
本実験で用いたすべてのポリマーは、ポリマー分子量及び多分散度指数(Mw/Mn、PDI<1.3)を正確に制御するRAFT重合を介して形成された。ミセルベースのナノ粒子担体(NPC)を形成するpH−反応性 p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)並びに歯の表面の模倣物への吸着に対する対照として用いたポリマーの構造、組成、及び物理的特性を、図7Aから図7Cに詳細に示す。p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ジブロックは、第1と第2のブロックの比が等しい、2段階のRAFT重合によって合成した(図7A)。第1の、陽性に荷電した9.5kDa p(DMAEMA)ブロックを合成した(PDI=1.3)(図7A及び図7C)。このp(DMAEMA)マクロCTAから、pH−反応性 p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)の第2のブロックを付加して(Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9)(図7A)、NPCポリマーの全体的な分子量を17.8kDa(PDI=1.1)とした(図7C)。ミセルベースのナノ粒子を形成する対照ジブロックを同様に合成した(図7B)。p(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ポリマー(C2)を、全体的なMnがそれぞれ18.7kDa(PDI=1.08)及び29.0kDa(PDI=1.09)の第1のブロックによって合成し(図7C)、一方でp(DMAEMA)−b−p(BMA)ポリマー(C3)は、全体的なMnが22.8kDa(PDI=1.08)のコロナ及び37kDa(PDI=1.01)によって合成した(図7C)。
p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ジブロックを、低い臨界ミセル濃度(CMC)(0.008mg/ml、図11)を有する〜21nmの単分散ミセル(PDI=0.2)に自己集合させる。ミセルベースのナノ粒子担体(NPC)について測定されたCMCは、同様なポリマー組成を有するジブロックについて報告された値(0.002mg/ml)に匹敵した(Convertine et al., 2010, Biomacromolecules, 11(11):2904-11)。p(DMAEMA)は、三級アミン残基のために、生理的なpHにて50%がプロトン化した(pKa〜7.5)(Van de Wetering et al., 1999, Bioconjug Chem, 10(4):589-97; van de Wetering et al., 1998, Macromolecules, 31(23):8063-8)。NPCコロナは、p(DMAEMA)と水性溶媒との相互作用によって集合し、NPCの正のゼータ電位(Ζ=+15.9mV)をもたらすが(図7C)、NPCコアは、p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ブロックのBMA残基間の疎水性相互作用の結果として集合する(Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9; Manganiello et al., 2012, Biomaterials, 33(7):2301-9; Convertine et al., 2010, Biomacromolecules, 11(11):2904-11)。
p(DMAEMA)(C1)、及びp(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)(C2)とp(DMAEMA)−b−p(BMA)(C3)とのジブロックを含む対照ポリマーを、歯の表面に結合するp(DMAEMA)コロナとナノ粒子の構造の役割を実証するために用いた(図7B)。このように、中性又は正のゼータ電位を有するナノ粒子を用いた(図7C)。例えば、p(PEGMA)コロナ及びpH−反応性コアを有する21nm(直径PDI=0.37)ナノ粒子(C2)は、わずかに負のゼータ電位(Ζ=−1.6mV)を有する(図7C)。あるいは、pH−反応性PAA及びDMAEMA残基をもたない、p(DMAEMA)コロナ及びp(BMA)コアを有する38nmミセル(直径PDI=0.21)(C3)は、NPCに対して同様のゼータ電位(Ζ=+17.2mV)を有する(図7C)。16.0kDa p(DMAEMA)(PDI=1.01)は、p(DMAEMA)アミン残基がプロトン化されている場合、pH7.2における電荷を介した結合の陽性対照として用い、前記アミン残基が脱プロトン化されている場合には、pH10.5における陰性対照として用いた。p(DMAEMA)は、単独ではナノ粒子を形成しないため、p(DMAEMA)に対する直径、PDI、及びゼータ電位は測定できない。
様々な歯の表面の模倣物へのナノ粒子の吸着
表面への吸着は、幾つかの因子、すなわち全体的な電荷、荷電した残基の密度、分子量、三次分子構造、pH、及びイオン強度に依存する(Gorbunoff et al., 1984, Anal Biochem, 136(2):440-5; Bhat et al., 2004, Macromol Rapid Commun, 25(1):270-4; Sakai et al., 2007, J Colloid Interface Sci, 314(2):381-8)。したがって、3種の歯の表面の模倣物を用いてポリマーの結合を評価し(図8)、前記3種の歯の表面の模倣物とは、歯のミネラル又は歯のエナメル質を模倣する、何もコートしていないヒドロキシアパタイト(HA)、歯の薄膜を模倣する、唾液をコートしたヒドロキシアパタイト(sHA)(Weerkamp et al., 1988, J Dent Res, 67(12):1483-7; Koo et al., 2002, Antimicrob Agents Chemother, 46(5):1302-9; Lendenmann et al., 2000, Adv Dent Res, 14(1):22-8; Ambatipudi et al., 2010, J Proteome Res, 9(12):6605-14; Koo et al., 2000, Caries Res, 34(5):418-26)、及びバイオフィルムが形成される間のEPS分泌の最初の段階を模倣する、唾液の薄膜及びグルカンをコートしたヒドロキシアパタイト(gsHA)(Koo et al., 2010, J Bacteriol, 192(12):3024-32; Ambatipudi et al., 2010, J Proteome Res, 9(12):6605-14; Rozen et al., 2001, FEMS Microbiol Lett, 195(2):205-10)である。
図8Aに示すように、NPCは、pH7.2においてHA、sHA、及びgsHAに対し、それぞれ67%、60%、及び44%結合し、これはp(DMAEMA)の70%、76%、及び79%に比較される(図8A)。このデータにより、p(DMAEMA)コロナの三級アミン残基は、これらが生理的なpHにて50%プロトン化していることから(Van de Wetering et al., 1999, Bioconjug Chem, 10(4):589-97; van de Wetering et al., 1998, Macromolecules, 31(23):8063-8)、歯の模倣物の表面への結合に関与することが示される。特定のいずれかの理論に制約されるものではないが、NPCのsHA及びgsHAへの結合が、プロトン化されたp(DMAEMA)に比較して減少していることは(pH7.2にて)、唾液(sHA)及びグルカン(gsHA)の添加によって、HA表面をスクリーニングすることに関連し得る。これらのさらなる表面成分はp(DMAEMA)の結合に対して効果を示さなかったが、p(DMAEMA)と薄膜タンパク質又は陰性に荷電したグルカンとのH結合若しくは集合のような、別の相互作用に起因する可能性がある。pH7.2におけるp(DMAEMA)に比較して、脱プロトン化されたp(DMAEMA)(pH10.5における)はHAに結合せず(0.5%)、sHA(25.9%)及びgsHA(36.2%)にもほとんど顕著には結合しなかった(図8A)。脱プロトン化されたp(DMAEMA)(pH10.5における)のsHA及びgsHAへの結合は、別の結合機構(例えばH結合、疎水性相互作用、又は薄膜タンパク質若しくはグルカンとの集合)も支持する。
次に、NPCの結合を、同様にナノ粒子を形成するポリマー(C2及びC3)と比較した(図8A、図7B、及び図7C)。これらには、p(DMAEMA)−b−p(BMA)と(p(PEGMA)−b−(DMAEMA−co−BMA−PAA))とのブロック共重合体から形成されたナノ粒子も含まれた(図7B〜図7C)。p(DMAEMA)−p(BMA)は、結合に対して、pH−反応性ナノ粒子コアではなく、p(DMAEMA)コロナが役割を果たしていることを確認するために用いた。p(DMAEMA)−b−p(BMA)ポリマーは、すべての歯の模倣物の表面に対してNPCと同様に結合した(HA(58%)、sHA(56%)、gsHA(49%))(図8A)。NPCの吸着を、p(PEGMA)コロナを有するポリマー及びpH−反応性p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)コアを有するポリマーに対して評価し、中性で、親水性のコロナを有するナノ粒子は(p(DMAEMA)とは異なり)結合しないことを確認した。p(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)ナノ粒子は、歯の模倣物の表面にNPCの約半分のレベルではあったが、結合した(25%、32%、25%)(図8A)。
歯の表面の模倣物へのポリマーの結合を、共焦点画像法によって確認した(図8B)。定量化データと同様に、共焦点像は、sHA及びgsHAの両表面に対するNPC、p(DMAEMA)−b−p(BMA)、及びp(DMAEMA)の結合が、p(PEGMA)コロナを有するナノ粒子の結合よりも大きいことを示した。同様に、sHA及びgsHAの%ポリマーカバー率は以下のように観察された。図8Cに示すように、p(DMAEMA)による90%及び87%、p(DMAEMA)−b−p(BMA)による94%及び92%、並びにNPCによる91%及び89%に比較して、p(PEGMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)によっては21%及び19%であった。
p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)から構成されるミセルベースのナノ粒子担体(NPC)が最大の吸着と、固有のpH−反応性の挙動とを示したことから(Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9)、これらを用いて、さらに洗練された吸着実験を行った(図8D)。吸着データに対するラングミュアフィットによれば(図8G)、歯の表面へのNPCの平均最大結合能力(Xmax)は〜21μmol/m2であり、吸着親和性定数(Ka)は〜215L*mmol-1であった。様々な歯の表面間で、これらの値に統計的な違いはなかった。この吸着の親和性は、ヒドロキシアパタイトに対する幾つかのビスホスホネートの親和性よりも数桁高いことが見出されたが、吸着能力は、ヒドロキシアパタイトに対するビスホスホネートのそれと同程度であったことから(Claessens et al., 2000, Langmuir, 16(3):1360-7; Al-Kattan et al., 2010, Adv Eng Mater, 12(7):B224-B233; Pascaud et al., 2012, Biomed Mater, 7(5):054108; Leu et al., 2006, Bone, 38(5):628-36; Sato et al., 1991, J Clin Invest, 88(6):2095-105)、NPCの吸着は速いが、吸着最大量は同様であることが暗示される。特に、ヒドロキシアパタイトに対して例外的に高い親和性をもつことが知られているビスホスホネートのKaは1〜13.8L*mmol-1の範囲であったが(Claessens et al., 2000, Langmuir, 16(3):1360-7; Al-Kattan et al., 2010, Adv Eng Mater, 12(7):B224-B233; Pascaud et al., 2012, Biomed Mater, 7(5):054108; Leu et al., 2006, Bone, 38(5):628-36; Sato et al., 1991, J Clin Invest, 88(6):2095-105)、NPCの親和性よりも〜20から〜60倍弱かった(〜221から〜229L*mmol-1の親和性)。しかしながらその他の文献では、幾つかのビスホスホネートの高い親和性(〜720から3470L*mmol-1)が報告されており、これはおそらく、異なるか、又は間接的な測定法の結果によるものである(Nancollas et al., 2006, Bone, 38(5):617-27; Henneman et al., 2008, J Biomed Mater Res A, 85(4):993-1000)。ビスホスホネートの最大吸着能力(Xmax)は2.17〜2.31μmol/m2であり(Claessens et al., 2000, Langmuir, 16(3):1360-7; Al-Kattan et al., 2010, Adv Eng Mater, 12(7):B224-B233; Pascaud et al., 2012, Biomed Mater, 7(5):054108)、歯の表面に対するNPCの最大吸着と同様である(19.5〜23.4μmol/m2)。また、HA、sHA、及びgsHAに対するNPCの親和性(Ka=〜215L*mmol-1、Xmax=〜21μmol/m2)(図8G)は、アレンドロン酸、ビスホスホネートによって官能基化された幾つかの型のナノ粒子よりも大きかった。アレンドロン酸−官能基化Au NPのHAに対するKaは、官能基化されていないAu NPよりも増大していたが(〜4.5μmol アレンドロン酸/m2)、Au NPのKaは、本明細書に記載するNPCのわずか〜25%であった(Ross et al., 2011, J Biomed Mater Res A, 99(1):58-66)。同様に、アレンドロン酸−官能基化ナノ粒子のHAへの結合能は低かった(Chen et al., 2009, Antimicrob Agents Chemother, 53(11):4898-902)。特定のいずれかの理論に制約されるものではないが、NPCの結合が改善されている理由は、官能基化ナノ粒子に比べて、NPCコロナでは荷電されたアミンの密度が高いことであると考えられる(Gorbunoff et al., 1984, Anal Biochem, 136(2):440-5)。
p(DMAEMA)の結合を、酸性pHにおいても試験した。HAへのp(DMAEMA)の結合は、アミン残基のプロトン化の増大のため、生理的な条件よりも酸性pHにおいてさらに強い(図8E)。このようにDMAEMAは、局所的に酸性pHとなる病的状態での、陰性に荷電した歯の表面を標的とする薬剤に適している(Xiao et al., 2012, PLoS Pathog, 8(4):e1002623)。p(DMAEMA)と同様に、HAへのNPCの結合も低いpHにおいて増大した(図8E)。しかしながら、結合をpH10.5にて行った際、p(DMAEMA)のアミンは脱プロトン化された状態であり、図8Aで示したデータと同様に、このアルカリpHにおいて、NPCはpH7.2にて観察された結合に比較して〜70%がHAに結合したが、p(DMAEMA)の結合は0%であった(図8E)。このことにより、歯の表面に対するNPCの結合には、その他の因子が影響している可能性が示唆される。これらの因子としては、歯の表面との異なった相互作用をもたらし得る、ナノ粒子の大きさ、及びナノ粒子表面のアミン残基の形又は密度が挙げられ得る(Gorbunoff et al., 1984, Anal Biochem, 136(2):440-5)。したがって、結合のさらなる分析をナノ粒子のゼータ電位の関数として行った(図8F)。NPCの結合は、ナノ粒子溶液のpHを変更することによって変化するゼータ電位(図14)と関連していた。NPCの結合とゼータ電位との間には、有意な正の相関が観察された(図8F)。特定のいずれかの理論に制約されるものではないが、酸性pHにおけるNPCの高い結合、及び高いゼータ電位(図8E〜図8F)は、NPCと、HAの陰性に荷電した基との相互作用に寄与する、p(DMAEMA)のアミンのプロトン化が増大するためであると考えられる(Gorbunoff et al., 1984, Anal Biochem, 136(2):440-5)。
ファルネソールの薬剤負荷及びpHにより誘発される放出
p(DMAEMA)−b−p(DMAMEA−co−BMA−co−PAA)NPCに、ファルネソールを、その最小発育阻止濃度(MIC)よりも〜26%高い27%wtまで負荷した(図13A)(Jabra-Rizk et al., 2006, Antimicrob Agents Chemother, 50(4):1463-9; Koo et al., 2002, Antimicrob Agents Chemother, 46(5):1302-9)。ナノ粒子内のファルネソールの濃度は、担体の非存在下での推定される溶解限度(〜1.7*10-3mg/ml)よりも〜440倍高い。27.0wt%での負荷に伴い、NPCの大きさは20.5nmから60.3nmまで拡大し、一方で負荷効率は、負荷濃度の範囲全体にわたって〜90%を超えていた(図13B)。NPCの球状の形及び大きさの増大は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、負荷していない対照と、ファルネソールを18.4wt%及び27.0wt%負荷したNPCに対して確認した(図9A)。薬剤負荷による、大きさに対する同様な効果は、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)−b−ポリ(エチレングリコール)(PLGA−b−PEG)、及びポリスチレン−b−ポリ(エチレングリコール)(PS−b−PEG)から形成されたジブロックミセル(Zhu, 2013, Biomaterials, 34(38):10238-48)、並びにp(DMAEMA)−p(BMA)(Benoit et al., 2010, Mol Pharm, 7(2):442-55)について報告されている。18.5wt%を負荷した場合の、ファルネソール及びNPCの特定の量から算出したNPC直径の増大は〜16.8nmであり、これは、18.5wt%付加におけるナノ粒子の大きさを測定した際、〜16.5nmに増大したことに類似する。加えて、同様なp(DMAEMA)コロナを有するナノ粒子については比較的大きな直径(45nm)が報告され、これはp(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)コアを有するナノ粒子よりも2倍大きかった(Convertine et al., 2010, Biomacromolecules, 11(11):2904-11)。したがって、特定のいずれかの理論に制約されるものではないが、ナノ粒子の大きさの増大は、全体的なナノ粒子コアの体積を効果的に増大させる、ファルネソールとNPCコアの疎水性残基との集合及び疎水性相互作用によるものと考えられる。
NPCからのファルネソールの放出はpHの関数として評価した(図9B)。ファルネソールの放出は、pH4.5ではpH7.2に比較して2倍速く、これは一次動態定数によって定量化した(kpH=4.5=0.094 1/時間、kpH=7.2=0.047 1/時間)。加えて、ファルネソール放出の半減期を定量化し、pH4.5及びpH7.2における放出がそれぞれ、t1/2=7.3時間及びt1/2=14.7時間であることが見出された。酸性pHにおける、より速い放出は、報告されているNPCコアのpH−反応性の挙動によると考えられる(Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9; Wang and Rempel, 2013, J Polym Sci Part A Polym Chem, 51(20):4440-50; Fan et al., 2012, Biomacromolecules, 13(12):4126-37; Manganiello et al., 2012, Biomaterials, 33(7):2301-9)。特に、低いpHでは、DMAEMA残基(pKa=7.2)は、pH7.2における50%のプロトン化に比較して完全にプロトン化された。このように、コアの全体的な電荷は静電反発をもたらし、ナノ粒子コアを不安定化してファルネソールの放出を誘発する(Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9)。低いpHでの同様の効果は、ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)三級アミンコアを有するナノ粒子でも観察される(Wang and Rempel, 2013, J Polym Sci Part A Polym Chem, 51(20):4440-50; Fan et al., 2012, Biomacromolecules, 13(12):4126-37; Manganiello et al., 2012, Biomaterials, 33(7):2301-9)。
長時間にわたるファルネソール放出速度をモデル化し、得られた予測を図9B(挿入グラフ)に示す。pH4.5における最初の放出速度は、1時間あたり、pH7.2における〜4%に比較して〜8%であった。したがってpH4.5において、ナノ粒子は1 MICに等しい量の薬剤を〜1/2時間後に放出し、これはpH7.2における〜1時間に比較される(図9Bの挿入グラフ)。またpH4.5において、ファルネソールの放出速度は経時的に減少するが、pH7.2における放出速度は比較的安定である。さらに、放出速度は〜12時間後には等しくなる。しかしながら、pH4.5ではほとんどすべての薬剤(75%)が放出されるのに対し、pH7.2における完全な放出には〜30時間が必要とされる。このように、バイオフィルムの微小環境に一致する低いpHでは、ファルネソールの放出は迅速である。
負荷NPCの抗菌効果及び抗バイオフィルム効果
薬剤を負荷したNPCをS.ミュータンスと共に1時間インキュベートすることによって、薬剤を負荷したNPCの抗菌活性を評価した(図9D〜図9E)。処理後に細菌を洗浄して、pH7.2またはpH4.5のPBSに移し、薬剤を負荷したNPCの長期間の効果を判定した(図9D〜図9E)。薬剤を負荷したNPCに曝露した後、S.ミュータンスの生存率は、負荷していないナノ粒子及びPBS対照に比較して〜3log(図9D〜図9Eのt0を参照されたい)減少した。しかしながら、細菌を洗浄してpH7.2に移した後、2時間及び4時間にCFUの数にさらなる減少は観察されなかった(図9D)。特定のいずれかの理論に制約されるものではないが、ファルネソールの時間的な効果が見られない理由は、負荷NPCへの1時間の曝露後、細菌の生存率が実質的に〜3log減少したこと、及び処理後にNPC溶液を除去して細菌細胞を洗浄したことにあると考えられる。相対的に、細胞をpH4.5に移した後には、CFUの減少率は長時間にわたり安定であったことから(図9E)、低いpHによってS.ミュータンスの生存率が損なわれ、おそらくファルネソールによって処理した後は、低いpHでの培養に対する感受性が増大したことが暗示される。
図10Aに示すように、S.ミュータンスベースのバイオフィルムに臨床的な関連のある処置用の投与計画を用いて、ファルネソールの抗バイオフィルム活性を評価した。遊離ファルネソール(15%EtOHにおける)又はNPC−ファルネソール処置溶液(0.27mg/ml)中のファルネソールの量は、それらのMICよりも〜10×から〜20×多く(<〜0.028mg/ml)、水性溶媒中のそれらの溶解限度よりも〜440×多かった(1.7*10-3mg/ml)。NPC−ファルネソールによって処理したサンプルでは、バイオフィルムの乾燥重量あたり〜50%の、CFUの有意な減少が観察された(図10B)。対照的に、同じ用量の遊離ファルネソール、又は遊離NPCの対照、又はファルネソールビヒクル対照(15%EtOH)による処理では、PBSに対するCFUに影響は見られなかった(図10B)。NPC−ファルネソールの抗バイオフィルム効果は、危険性のある表面及びバイオフィルム内に保持され、S.ミュータンスのバイオフィルム内でpHが酸性になると、NPCが局所的に最適に放出されて、非常に高濃度のファルネソールとなる結果として観察されると考えられる(図7C)。遊離ファルネソールはバイオフィルムの形成を予防できなかったが、NPCによって送達されたファルネソールは、細菌の生存の有意な減少(図9D〜図9E)及びバイオフィルム形成の予防(図10B)に充分なものであった。このことにより、バイオフィルムの微小環境にみられる低いpHによって誘発されるNPCからのファルネソールの局所的な放出と共に、バイオフィルム及び/又は歯の表面へのNPCの結合、又はNPCと細菌膜との結合/相互作用が効果を仲介することが示唆される。例えばバイオフィルム表面の細菌へNPCが付着することによって、ファルネソールのin situでの有効濃度が増大し得るため、さらに実質的な治療効果が得られる(Koo et al., 2003, J Antimicrob Chemother, 52(5):782-9; Jabra-Rizk et al., 2006, Antimicrob Agents Chemother, 50(4):1463-9; Kaneko et al., 2011, J Antibiot (Tokyo), 64(8):547-9)。また、陽イオン性ナノ粒子は、生体膜と相互作用することが知られており(Benoit et al., 2010, Mol Pharm, 7(2):442-55; Benoit et al., 2011, Biomacromolecules, 12(7):2708-14; Convertine et al., 2009, J Control Release, 133(3):221-9)、このためにファルネソールが細菌膜に取り込まれて膜の完全性を損なうか(Koo et al., 2003, J Antimicrob Chemother, 52(5):782-9; Jabra-Rizk et al., 2006, Antimicrob Agents Chemother, 50(4):1463-9)、又は細菌細胞内で薬剤を放出したり、特定の代謝経路を阻害する可能性がある(Kaneko et al., 2011, J Antibiot (Tokyo), 64(8):547-9)。
処理したバイオフィルムを、特注の装置を用いてバイオフィルム表面に直接適用する、制御された一定のせん断力(0から1.785N/m2の範囲)に供して実験を行った。せん断応力の適用後、表面に残っているバイオフィルムの乾燥重量(生物量)を測定した。ファルネソールを負荷したNPCは、せん断応力の適用後、遊離ファルネソール及び遊離NPCの両方に比較して、バイオフィルムがより多く除去されていることが観察された(図10C)。
p(DMAEMA)−b−p(DMAEMA−co−BMA−co−PAA)NPCは、ヒドロキシアパタイトに対するビスホスホネートの親和性よりも〜20倍高い親和性によって、歯の表面へ強く吸着する(Al-Kattan et al., 2010, Adv Eng Mater, 12(7):B224-B233)。ナノ粒子の親和性は、歯の表面及びバイオフィルムの全体的な負の電荷と相互作用する、外側のp(DMAEMA)コロナの陽性に荷電したアミン残基によるものと考えられ、NPCによる同様な吸着の挙動は、p(DMAEMA)単独に対して、及びp(DMAEMA)−b−p(BMA)ナノ粒子に対して観察される。水への溶解度が最小であるファルネソールは、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.ミュータンス)のような通常の口腔細菌に対するその最小発育阻止濃度(MIC)よりも、〜26.7倍高い濃度でナノ粒子に負荷され、そこから放出され得る(Koo et al., 2002, Antimicrob Agents Chemother, 46(5):1302-9)。pH−反応性ファルネソールの迅速な放出は、ナノ粒子の送達が、歯への投与計画に一致する比較的短い処置の時間枠に対して、及び病的な歯のバイオフィルムにおける低いpHの微小環境に対して有益であり得ることを示している。加えて、負荷NPCの優れた抗バイオフィルム活性が示された。このように、NPCは抗バイオフィルム剤の送達に対して大きな可能性を有し、齲蝕原性バイオフィルムに対する、局所的な、迅速な、誘発される放出によって、その有効性を増大させる。
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