JP2016216851A - 偽造防止用紙およびそれを用いた印刷物 - Google Patents

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Abstract

【課題】紙幣や有価証券などの偽造防止のための、非破壊であり、かつ簡易な真偽判定方法の提供。【解決手段】少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されている用紙であって、該一部の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能な印刷物を製造するための、用紙。微細繊維が、静電的及び/又は立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維であってもよい用紙。微細繊維がセルロース繊維であり、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基及び硫酸由来の基から選択される少なくとも1種の置換基が導入された微細繊維であり、置換基導入量が0.01〜3.0mmol/gである、用紙。【選択図】なし

Description

本発明は、微細繊維含有シートに関する。より詳細には、本発明は、紙幣や有価証券などの印刷物を製造するための用紙に関する。本発明の用紙は、真偽を判定することが容易であり、偽造を防止するために有用である。
各種の有価証券類の偽造を防止するため、様々な偽造防止手段が施された偽造防止シートが開発されている。例えば、光輝性を有する細片、スレッド、透かし模様など、複数の偽造防止手段を同一面に設ける偽造防止シート(特許文献1および2)、紙基材に遮光性の塗料を塗工し、光線透過率の差異を付与した偽造防止シート(特許文献3)等が提案されている。
また、石油資源の代替および環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、木材由来のセルロース繊維(パルプ)は、主に紙製品として幅広く使用されてきた。また、繊維径が1μm以下の微細セルロース繊維も知られており、微細セルロース繊維を含有するシートは、高透明、高弾性率、低線膨張係数、フレキシブルな特性を有する等の利点を有し、様々な用途への適用が検討されている(例えば、特許文献4および5)。そして、セルロース微細繊維を用いた半透明または透明領域を一部に設けることにより偽造を防止しようとする提案(特許文献6および7)がなされている。
バクテリアセルロースの小塊を含有させることにより、紙層強度を損なうことなく鑑別性を向上させた偽造防止用紙が提案されている(特許文献8)。
一方、超音波の伝搬速度は媒質により変化するため、超音波伝搬速度を媒質の特徴の指標とし、あるいは対象における超音波の反射または透過を検出することにより対象の非破壊検査を行うことが行われている。例えば、プラスチックフィルム中の超音波の伝搬速度を線膨張率の指標として利用することが検討されている(特許文献9)。また、情報記録媒体の検査において、媒体の情報形成層および基材を透過可能な周波数の超音波を媒体に照射し、透過した超音波の出力データから媒体内に存在する不連続領域の分布を検出して媒体の真偽を判定する方法が提案されている(特許文献10)。
特開2000−96490号公報 特開2010−168716号公報 特開2014−152405号公報 特開2010−007010号公報 特開2014−84431号公報 特開2012−21235号公報 特開2013−231257号公報 特開平6−313297号公報 特開平9−257767号公報 特開2011−194696号公報
これまでの紙幣や有価証券などのための偽造防止手段では、巧妙化した偽造・改竄技術に対しては防止効果が必ずしも十分でないと考えられる。また手段によっては、製造工程が煩雑であり、再生可能資源を適用できる可能性が低いという問題がある。
紙幣や有価証券などの偽造防止のためには、複雑な加工を施した用紙を用いることのみならず、非破壊であり、かつ簡易な真偽判定方法があれば、有用であると考えられる。また、石油資源の代替および環境意識の高まりから、再生可能資源を適用できれば有用であると考えられる。
本発明者らは、超音波伝播速度が弾性係数の関数であることに着目した。微細繊維含有シートは既存の紙やプラスチックフィルムといったフレキシブル材料に対し、高い弾性率を有するため、超音波伝播速度が非常に大きいと予想される。本発明者らの検討によると、実際、特定の機器で測定したセルロース微細繊維含有シートの超音波伝搬速度は、4km/s程度であり、通常の紙の場合の3km/s程度、PET等のプラスチックフィルムの場合の2.5km/s以下とは大きな差があった。そのため、微細繊維含有シートを、印刷物の少なくとも一部に用いることにより、超音波伝播速度の測定のみで、真偽の判定が可能であることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下を提供する。
[1] 少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されている用紙であって、該一部の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能な 印刷物を製造するための、用紙。
[2] 全部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成される、1に記載の用紙。
[3] 微細繊維が静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維である、1または2に記載の用紙。
[4] 微細繊維がセルロース繊維である、1〜3のいずれか一項に記載の用紙。
[5] 微細繊維がリン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基が導入された微細繊維であり、置換基導入量が0.01〜3.0mmol/gである、1〜4のいずれか一項に記載の用紙。
[6] 微細繊維含有シートが、金属粒子、金属酸化物粒子、炭素繊維、炭素粒子からなる群より選択される少なくとも一種のフィラーを含有する、1〜5のいずれか一項に記載の用紙。
[7] 該一部の超音波伝播速度のピーク値 が3.2km/s以上である、1〜6のいずれか一項に記載の用紙。
[8] 微細繊維含有シートの少なくとも一方の側に無機層が形成されている、1〜7のいずれか一項に記載の用紙。
[9] 微細繊維含有シートの少なくとも一方の側に有機層が形成されている、1〜8のいずれか一項に記載の用紙。
[10] 微細繊維含有シートの少なくとも一方の側に、無機層、および無機層に積層された有機層が形成されている、または有機層、および有機層に積層された無機層が形成されている、1〜9のいずれか一項に記載の用紙。
[11] 少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されており、該一部の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能な、紙幣、有価証券または身分、権利もしくは資格を証明するための書類。
[12] 印刷物の真偽判定装置であって 、
(a)印刷物の平面方向および/または厚み方向に超音波を伝播させる超音波伝播機構;および
(b)伝播された超音波の伝播速度を検出する超音波伝播速度検出機構
を備える、装置。
[13] 印刷物が有価証券または紙幣である、12に記載の装置。
[14] 印刷物の真偽判定方法であって、
(a)少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されている印刷物の、該一部の平面方向および/または厚み方向に超音波を伝播させ;そして
(b)伝播された超音波の伝播速度を検出する
工程を含む、印刷物の真偽判定方法。
従来、紙幣等の偽造防止のためには、用紙に複雑な加工を施すことに焦点が当てられており、その効果は巧妙化する偽造・改竄手口との“いたちごっこ”であった。対象となる印刷物の少なくとも一部において、微細繊維含有シートを用いることにより、代替材料では達成し得ないパラメータ(超音波伝播速度)を付与できる。そのため、非破壊、確実、簡易、短時間で、得られた測定値に基づき対象印刷物の真偽判定が行える。
さらに、微細繊維含有シートの原材料として再生可能資源を使用できるメリットがある。
印刷物の例。裁断した微細繊維含有シートに対し、インクジェット印刷方式により、図柄の印刷を行った。印刷する図柄は、商品券を模擬したものとした。この例では平面上のすべての領域が、微細繊維含有シートで構成されている。
「部」および「%」は、特に記載した場合を除き、質量に基づく割合(質量部、質量%)を表す。数値範囲「X〜Y」は、特に記載した場合を除き、両端の値を含む。「Aおよび/またはB」は、特に記載した場合を除き、AとBの少なくとも一方であることを指し、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、AとBとの双方であってもよい意である。
本発明は、少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシート(微細繊維含有シート)で構成されている用紙を提供する。本発明の用紙は、少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシート(微細繊維含有シート)で構成されている印刷物であって、該一部(微細繊維含有シート部分)の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能な印刷物を製造するために用いられる。本発明の好ましい態様の一つにおいては、印刷物は、全部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成される。
[微細繊維含有シート]
<繊維原料>
微細繊維の原料としては特に限定されないが、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。
また、繊維原料は特に限定されないが、後述する置換基導入が容易になることからヒドロキシル基またはアミノ基を含むことが望ましい。
繊維原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプから選ばれる。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、などが挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしては、例えば、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロース、キチン、キトサンなどが挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本発明のパルプは上記1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも、化学パルプはセルロース比率が大きいため繊維微細化(解繊)時の微細セルロース繊維の収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維が得られる点で特に好ましいが、特に限定されない。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択されるが、特に限定されない。この軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維を含有するシートは高強度が得られる。
繊維としては、繊維原料と反応する化合物で処理することにより得られる、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入されたものであることが好ましい。繊維原料に置換基を導入することにより分散媒中における繊維の分散性が向上し、後述する微細化(解繊)処理での解繊効率を高めることができる。なお本発明を説明する際、繊維原料または微細繊維として、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入されたもの、特に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入されたセルロースである場合を例に説明することがある。当業者であれば、その説明を適宜、他の繊維原料または微細繊維を用いる場合にも応用して理解することができる。
繊維原料と反応する化合物としては特に限定されない。例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、炭素数10以上のアルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物などが挙げられる。取扱いの容易さ、微細繊維との反応性から、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物が好ましい。これらの化合物が微細繊維とエステルおよび/またはアミドを形成するのがより好ましいが、特に限定されない。
本発明で使用するリン酸由来の基を有する化合物は特に限定されないが、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、繊維原料にリン酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましいが、特に限定されない。
リン酸基を有する化合物としては特に限定されない。例えば、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。
また、反応の均一性およびリン酸由来の基の導入効率が高いことから化合物は水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。化合物の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高いことから7以下であることが好ましい。繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7が特に好ましいが、特に限定されない。
本発明で使用するカルボン酸由来の基を有する化合物は特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。
本発明で使用する硫酸由来の基を有する化合物は特に限定されないが、無水硫酸、硫酸ならびにこれらの塩およびエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、また、繊維原料に硫酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、硫酸が好ましいが、特に限定されない。
置換基導入繊維における置換基の導入量(滴定法による。)は特に限定されないが、繊維1g(質量)あたり0.005α〜0.11αが好ましく、0.01α〜0.08αがより好ましい。置換基の導入量が0.005α以上であれば、繊維原料の微細化(解繊)が容易になり、置換基の導入量が0.11α以下であれば、繊維の溶解が抑制できる。ただし、αは繊維材料と反応する化合物が反応しうる官能基、例えばヒドロキシル基やアミノ基が繊維材料1gあたりに含まれる量(単位:mmol/g)である。
好ましい態様において、繊維には、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基が、特に好ましくはリン酸由来の基が導入される。この態様におけるアニオン基の導入量(複数のアニオン基を含む場合は、合計の導入量)は0.1〜3.0mmol/gであることが好ましく、0.5〜2.5mmol/gであることがより好ましい。アニオン基の導入量がこの下限値以上であれば、より高収率で製造でき、また、導入量がこの範囲内であると、微細繊維状セルロースをスラリー化したときの分散安定性がより高いからである。
なお、繊維表面の置換基の導入量(滴定法)の測定は、特に記載した場合を除き、次の方法で行うことができる:
絶乾質量で0.04g程度の固形分を含む微細繊維含有スラリーを分取し、イオン交換水を用いて50g程度に希釈する。この微細繊維含有スラリーを撹拌しながら、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した場合の電気伝導度の値の変化を測定し、その値が極小となる時の0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を、滴定終点における滴下量とする。セルロース表面の置換基量XはX(mmol/g)=0.01(mol/l)×V(ml)/W(g)で表される。ここで、V:0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(ml)、W:微細セルロース繊維含有スラリーが含む固形分(g)である。
本発明に用いられる微細繊維含有シートにおいて、含まれる微細繊維の平均繊維幅は、1nm以上であり、2nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。また上限値は1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、シートを構成する微細繊維としての特性が維持され、かつ以下で詳述する超音波伝搬速度を測定することにより、他の素材からなるシートと明確に区別できるからである。なお以下では、本発明、その実施態様、および実施例を、平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有する場合を例に説明することがあるが、その説明は、シートに含まれる微細繊維の平均繊維幅が2〜500nmの場合や3〜300nmの場合にも当てはまる。このような微細繊維は、繊維原料を次に述べる微細化(解繊)処理に供することにより製造できる。
<微細化(解繊)処理>
繊維原料は、解繊処理装置を用いて微細化(解繊)処理される。
解繊処理装置としては特に限定されないが、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
解繊処理の際には、繊維を、水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。希釈後の繊維の固形分濃度は特に限定されないが、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。希釈後の繊維の固形分濃度が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できる。
分散媒としては特に限定されないが、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。また、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。これらは1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、微細繊維含有スラリーの分散安定性を妨げない範囲であれば、上記の水および極性有機溶剤に加えて非極性有機溶媒を使用しても構わない。
微細化(解繊)処理後の微細繊維含有スラリーにおける微細繊維の含有量は特に限定されないが、0.02〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。微細繊維の含有量が前記範囲であれば、後述のシートを製造する際の製造効率に優れ、スラリーの分散安定性に優れる。
置換基導入繊維を用いる態様においては、微細化(解繊)により得られる置換基導入微細繊維の平均繊維幅は特に限定されないが、1〜1000nmであることが好ましく、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは3〜100nmである。微細繊維の平均繊維幅が1nm以上であると、分子の水への溶解が抑えられるため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が十分に発現される。一方、平均繊維幅が1000nm以下であれば、微細繊維としての特長(高透明、高弾性率、低線膨張係数、フレキシブル性)が発揮されやすくなる。
微細繊維に透明性が求められる用途においては、平均繊維幅が30nmを超えると、可視光の波長の1/10に近づき、マトリクス材料と複合した場合には界面で可視光の屈折および散乱が生じ易く、透明性が低下する傾向にある。そのため、平均繊維幅は特に限定されないが、2nm〜30nmが好ましく、2〜20nmがより好ましい。前記のような微細繊維から得られる複合体は、一般的に緻密な構造体となるために強度が高く、可視光の散乱が少ないため高い透明性も得られる。
微細繊維の繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維含有スラリーを調製し、該スラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。本発明における平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維の繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上が好ましい。繊維長が0.1μm以上であれば、後述のシートを製造した際、シートの引裂強度が十分である点で好ましい。繊維長は、TEMやSEM、AFMの画像解析より求めることができる。上記繊維長は、微細繊維の30質量%以上を占める繊維長である。
微細繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は特に限定されないが、20〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が20以上であれば微細繊維含有シートを形成しやすい点で好ましい。軸比が10000以下であればスラリー粘度が低くなる点で好ましい。
<シート化>
得られた微細繊維は、シート化される。
シートは、特に限定されないが、前記微細繊維と前記微細繊維以外の繊維(以下、「追加繊維」という)を少なくとも1種以上混合して調製することもできる。追加繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられるが、特に限定されない。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。前記追加繊維は、必要に応じて化学的処理、解繊処理等の処理を施すことができる。追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施す場合、微細繊維と混合してから化学的処理、解繊処理等の処理を施すこともできるし、追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施してから微細繊維と混合することもできる。追加繊維を混合する場合、微細繊維と追加繊維の合計量における追加繊維の添加量は特に限定されないが、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。特に好ましくは20質量%以下である。
シートの調製に際して、親水性高分子を添加してもよい。親水性高分子としては、特に限定されない。例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉などが挙げられる。また、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体などが挙げられる。
また親水性高分子の代わりに親水性の低分子化合物を用いることもできる。親水性の低分子化合物としては、特に限定されない。例えば、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコールなどが挙げられる。親水性高分子、または親水性の低分子化合物を添加する場合の添加量は、特に限定されない。例えば、微細繊維の固形分100質量部に対し好ましくは1から200質量部、より好ましくは1から150質量部、さらに好ましくは2から120質量部、特に好ましくは3から100質量部である。
シートの調製は、特に限定されないが、典型的には下記の抄紙法、塗工法などに拠ることができる。
<抄紙法>
微細繊維含有スラリーを通常の抄紙で用いられる長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機のほか、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機、さらに手抄き等公知の抄紙方法で抄紙され、一般の紙と同様の方法でシート化することが可能である。つまり、微細繊維含有スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得ることが可能である。スラリーの濃度は特に限定されないが、0.05〜5質量%が好ましい。濃度が0.05質量%以上であれば、濾過をより短い時間で行うことができ、濃度が5質量%以下であれば、均一なシートが得られやすいという点で好ましい。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
微細繊維を含むスラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の微細セルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記スラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、前記ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備え、前記搾水セクションから前記乾燥セクションにかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水セクションで生成された前記ウェブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥セクションに搬送される製造装置を用いる方法などが挙げられる。
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
<塗工法>
塗工法は、微細繊維含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維含有層を基材から剥離することにより、シートを得る方法である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。基材の質は、特に限定されないが、微細繊維含有スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。その中で、適当なものを単独、または積層して使用するのが好適である。例えば、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板およびそれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。微細繊維含有スラリーを基材上に塗工するには、上記基材に所定のスラリー量を塗工することが可能な各種コーターを使用すれば良い。特に限定されないが、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター等が使用できる。中でもダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアドクターコーター等の塗工方式によるものが均一な塗工には有効である。
乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、40〜120℃とすることが好ましく、40〜105℃とすることがより好ましい。加熱温度を前記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、前記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および微細繊維の熱による変色を抑制できる。
微細繊維含有シートの厚みには特に限定されないが、好ましくは1μm以上、さら
に好ましくは5μm以上である。また、通常1000μm以下であり、好ましくは5〜250μmである。
<脱離工程>
本発明においては、微細繊維含有シートを製造する際、上記以外の他の工程を含んでいてもよい。例えば、置換基導入繊維を用いる態様においては、微細繊維をシート化した後に、導入された置換基の全部または一部を脱離させる工程を含んでいてもよい。
置換基を脱離させるに際しては、水および/またはアルコールを使用することができる。アルコールには、多価アルコールが含まれ、多価アルコールを用いる場合、脱離は、シートを多価アルコールで煮沸することで達成でき、またシートを多価アルコールの蒸気で処理することでも達成できる。水および/または沸点の低いアルコールを用いる場合、脱離は、シートを多価アルコール蒸気で処理することで達成できる。
脱離する能力が高いという観点からは、多価アルコールを使用することが好ましい。多価アルコールとは、アルコールのうち2以上のOH基を有するものをいう。多価アルコールを用いる場合、OH/C比率が0.15以上のものを用いることが好ましい。より好ましくは0.2以上であるものを用いる。「OH/C比率」とは、分子に含まれる炭素(C)原子あたりのOH基の個数をいい、例えば、エチレングリコール(C262)のOH/C比率は1であり、ジエチレングリコール(C4103)のOH/C比率は0.67である。
多価アルコールであってOH/C比率が0.2以上であるものの例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、グリセリン(グリセロール、1,2,3−プロパントリオール)である。他の例は、ペンタンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、糖アルコールである(例えば、ソルビトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール)である。
置換基を脱離させるに際しては、蒸気を使用してもよい。蒸気の種類は、特に限定されず、OH基を有する物質の蒸気であれは、導入した置換基の脱離を行うことができると考えられる。置換基を脱離する能力が高いという観点からは、蒸気は、水蒸気および/またはアルコール蒸気であることが好ましい。アルコールの例として、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、およびt−ブタノール、ならびに上述の多価アルコールが挙げられる。特に好ましい蒸気の例の一つは、水蒸気である。水蒸気は、水やメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、好ましくは炭素数1以上6以下、より好ましくは炭素数1以上3以下のアルコールを含んでいてもよい。また、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3以上6以下のケトン;直鎖または分岐状の炭素数1以上6以下の飽和炭化水素または不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素を含んでいてもよい。
アルコールの使用量は、置換基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、シート質量に基づき、適宜決定することができる。いずれのアルコールを用いる場合も、例えば、シート1質量部に対し、アルコール1〜100質量部を用いることができる。シート1質量部に対するアルコールの使用量が1質量部以上であれば、脱離を効率的に行うことができる点で好ましい。
脱離工程のための温度は、置換基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、140℃以上とすることができ、160℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましい。ただし、繊維原料の分解が抑えられる温度を選択することが好ましく、特に限定されないが、例えば繊維原料としてセルロースを用いた場合は250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、加熱の際には適宜、酸または塩基等の添加剤を加えてもよい。
脱離工程のための時間は、置換基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されない。例えばアルコールとしてOH/C比率が1の多価アルコールであるグリセリンを用い、180℃で実施する場合は、10〜120分とすることができ、15〜90分が好ましく、15〜60分がより好ましい。他のアルコールを用いた場合も同様とすることができる。
脱離工程は、所望の程度にまで導入置換基が脱離されるまで行うことができる。脱離後の置換基の量は特に限定されないが、例えば導入時の70%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。あるいは脱離工程は、脱離後のシートの置換基の導入量として、0.7mmol/g以下となるまで行うことができる。0.5mmol以下となるまで行うことが好ましく、0.1mmol/g以下となるまで行うことがより好ましく、0.047mmol/gとなるまで行うことがさらに好ましい。置換基含有量が少ないほうが当該シートを加熱した際の黄変等を抑制できる。なお、本発明でシートについて置換基導入量というときは、特に記載した場合を除き、蛍光X線分析により測定した値をいう。測定に際しては、必要に応じ、置換基導入量が既知であるシートを作製し、適切な原子の特性X線強度を置換基導入量に対してプロットし、検量線を作成して用いることができる。
<中和度変更工程>
本発明の一の実施態様においては、繊維原料に静電的および/また立体的な官能性を持つ置換基としてリン酸基が導入される。この場合、機械処理後のスラリーを、基材に塗工された状態とする前に、置換基導入繊維の中和度を変更する工程を有していてもよい。リン酸基が繊維に導入された際には、通常、中和度2(中和度100%ともいう。)である。
例えば、セルロース繊維にリン酸のナトリウム塩を用いてリン酸基を導入し、水酸化ナトリウムによるアルカリ処理を行った場合、導入後の中和度2(中和度100%)の状態は、セルロース−O−P(=O)(−O-Na+)(−O-Na+)と表される。工程(d)においてアルコールを用いた置換基脱離を行う場合、アルコールが持つ水酸基上の電子対がリン酸基のリンに対し、求核攻撃しやすくなる状態が好ましい。中和度2(中和度100%)の場合、リン酸基はマイナスの電荷が強くなり、求核攻撃しにくくなる。また、セルロース−O−P(=O)(−O-+)(−O-+)と表される中和度0(中和度0%)の状態では、リン酸基間の水素結合が強くなり、求核攻撃しにくくなる。このため、中和度を変更することにより、リン酸基のマイナス電荷量およびリン酸基間の水素結合の影響を小さくすることができ、置換基の脱離効率が向上する。なお、本明細書では、繊維の例としてセルロース繊維を用いた場合を例に説明することがあるが、当業者であれば、その説明を他の種類の繊維を用いた場合にも適用して理解することができる。
中和度を変更する手段は、特に限定されないが、例えば、中和度2(中和度100%)の微細繊維を懸濁液にして、イオン交換処理することが挙げられる。イオン交換処理は、目的の効果が十分に得られ、かつ操作が簡便である点でも好ましい。イオン交換処理に際しては、陽イオン交換樹脂を用いる。また、対イオンとしては通常はH+イオンを用いる。適切な量の陽イオン交換樹脂で十分な時間処理することにより、中和度0(中和度0%)の微細繊維を得ることができる。得られた中和度0(中和度0%)の微細繊維と、中和度を変更していない中和度2(中和度100%)の微細繊維とを適切な比で混合することにより、中和度が0(中和度0%)〜2(中和度100%)の間の種々の中和度の微細繊維を得ることができる。
イオン交換処理に際して、強酸性イオン交換樹脂および弱酸性イオン交換樹脂のいずれも用いることができるが、強酸性のものを用いることが好ましい。具体的には、スチレン系樹脂あるいはアクリル系樹脂にスルホン酸基あるいはカルボキシ基を導入したものを用いることができる。イオン交換樹脂の形状は、特に限定されず、細粒(粒状)、膜状、繊維、液状等、種々のものを用いることができるが、微細繊維の懸濁液を効率よく処理するとの観点からは、粒状であることが好ましい。具体的な例としては、市販の、アンバージェット1020、同1024、同1060、同1220(オルガノ株式会社)が挙げられる。他の例としては、アンバーライトIR−200C、同IR−120B(以上、東京有機化学(株)社)、レバチットSP 112、同S100(バイエル社製)、GEL CK08P(三菱化学)、Dowex 50W−X8(ダウ・ケミカル)等が挙げられる。
イオン交換処理は、具体的には、粒状のイオン交換樹脂と繊維懸濁液(スラリー)を混合し、必要に応じ攪拌・振とうしながら、一定時間イオン交換樹脂と微細繊維とを接触させた後、イオン交換樹脂とスラリーとを分離することによる。
イオン交換樹脂で処理する際、スラリーの固形分の濃度やイオン交換樹脂との比は、特に限定されず、当業者であれば、イオン交換を効率的に行うとの観点から、適宜設計できる。以降の工程でシート化のための処理が容易である濃度としてもよい。具体的には、スラリーの濃度は、0.05〜5質量%が好ましい。濃度が0.05質量%以上であれば処理時間が短縮できる点で好ましい。また濃度が5質量%以下であればイオン交換がより効率的に行われる点で好ましい。またこのような濃度範囲のスラリーを用いる場合、例えば、見掛け密度800〜830g/L−R、水分保有能力36〜55%、総交換容量1.8eq/L−Rの強酸性イオン交換樹脂を用いる。このとき、スラリー体積1に対し、1/50〜1/5イオン交換樹脂を用いることができる。処理時間も特に限定されず、当業者であれば、イオン交換を効率的に行うとの観点から、適宜設計できる。例えば、0.25〜4時間かけて処理することができる。
中和度変更工程は、所望の程度にまで中和度が変更されるまで行うことができる。また上述したように、中和度2(中和度100%)の繊維と中和度0(中和度0%)の繊維とを適切な比で混合することにより、中和度を調節してもよい。いずれの場合であっても、中和度は0(中和度0%)〜2(中和度100%)とすることができ、0.3(中和度15%)〜2(中和度100%)とすることが好ましく、0.3(中和度15%)〜1.7(中和度85%)とすることがより好ましい。
<その他>
微細繊維含有シートの製造においては、必要に応じて、洗浄工程、異物除去工程、遠心分離等による精製工程、脱塩工程を採用しても良いが、特に限定されない。脱塩工程は、繊維の純度が高まる点で好ましい。脱塩工程を行う場合、手段は特に限定されず、濾過方式による洗浄、透析、イオン交換等が挙げられる。
[印刷物、用紙]
本発明においては、印刷物または印刷物の製造のための用紙は、少なくとも一部が上述の微細繊維含有シートにより構成される。印刷物または印刷物の製造のための用紙は、全部が微細繊維含有シートにより構成されていてもよいが、微細繊維含有シートにより構成される一部以外の領域が存在してもよい。
微細繊維含有シートで構成される部分の形状は、特に限定されない。図柄形状とすることもでき、抄紙方向と直交する横縞状としてもよい。
一部のみを微細繊維含有シートで構成する場合、異なる繊維からなる他の部分との繊維間(領域間)の結合は、同一繊維同士の結合と同様に、繊維の絡み合いおよび繊維同士の水素結合や化学結合、接着剤を用いた接着等によることができる。合成繊維においては、熱融着性繊維やバインダー繊維による熱融着接合によってもよい。
微細繊維含有シートから構成される部分は半透明または透明であり得るが、特に限定されない。本発明は、前掲特許文献6および7のように半透明または透明領域を一部に設けることにより偽造を防止しようとするものではないので、半透明または透明でなくてもよい。
作製した印刷物または用紙へは、単色印刷または多色印刷を行うことができる。印刷方式は特に限定されず、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、インクジェット印刷方式等が利用できる。従来技術の偽造防止のための印刷技術を適用してもよい。
本発明により製造される印刷物は、特に限定されないが、銀行券(紙幣)、株券、債券等の有価証券、各種証明書および重要書類等の形態とすることができる。各種証明書および重要書類の例として、IDカード、通行証、登録証、入場券、旅券、出入国証が挙げられる。
[超音波伝搬速度の測定]
本発明においては、印刷物は、少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されており、該一部の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能である。
超音波伝播速度は、SST(Sonic Sheet Tester,超音波伝播速度測定計)により測定することができる。具体的には、野村商事株式会社から販売されているSSTシリーズの測定計、またはこれと同等の測定計により測定することができる。典型的なSSTは、被検体であるフィルムやシート等を載置して回転する測定台と、超音波を発振する振動子を備えた発振端子と、上記振動子から発振される超音波を受信する受信端子とを備えている。超音波は、典型的には周波数25MHzのものが使用される。そして、上記発振端子と受信端子を、測定台上に載置された被検体の上面に、所定距離(150mm)隔てて接触させ、発振端子から、超音波をパルス状に発振させる。このとき、被検体中を超音波が伝播し、受信端子まで到達するまでの時間を測定し、上記所定距離と時間から、超音波伝播速度を算出する。
また、上記測定台を発振端子を中心として回転させながら、所定角度(θ)の各軸ごとに上述のように超音波伝播速度を360°にわたって測定してもよい。上記測定角度θを10°間隔に設定し、一の被検体に対して36個のプロットを打ってもよい。プロットの数は特に限定されない。例えば12個以上とすることができ、72個以下としてもよい。特に記載した場合を除き、360°にわたる一度の測定で最大となる軸(ピーク軸)の測定値をピーク値といい、最小となる軸(ディープ軸)の測定値をディープ値という。なお、本発明で超音波伝搬速度というときは、特に記載した場合を除き、ピーク値を指す。超音波伝搬速度の測定は、典型的には、周波数25MHzの超音波で行うことができる。
SSTによる測定は、被検体の物性、特に,ヤング率が温度によって変動することを抑止するため、特定の温度、例えば25℃±2℃程度の範囲で行うとよい。
本測定装置によれば、1回の超音波伝播速度の測定に要する時間は1〜2秒程度であり、測定台を発振端子を中心として回転させながら360°にわたって測定した場合の所要時間は、通常約3分以内である。例えば12個のプロットを打った場合の所要時間は10秒程度である。印刷物における微細繊維を含有するシートで構成された部分について、ピーク値を持つ軸を一定の方向に設定すれば、当該軸のみの測定で真偽判別が可能となり、プロット数をさらに減じることが可能である。その場合の測定所要時間はさらに短縮が可能であろう。
本発明者らの検討によると、平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成された少なくとも一部の超音波伝播速度のピーク値は、PET等のプラスチックフィルムの場合の2.5km/s以下とは十分に区別できる程度に大きい。具体的には、3.2km/s以上であり、3.4km/s以上である場合もあり、3.6km/s以上である場合もある。プラスチックフィルム等と区別がより明確であるとの観点からは、該一部の超音波伝播速度のピーク値は、より大きな値であることが好ましい。
真偽判定は、測定された超音波伝搬速度に基づき、適宜行うことができる。超音波伝播速度に加えて、弾性率、全光線透過率およびヘーズからなる群より選択されるいずれかを、補助的に用いてもよい。対象となるシート、用紙または印刷物の測定値が、真のシート、用紙または印刷物の測定値より一定以上異なれば、真偽判定が可能となる。本発明者らの検討により、平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートの超音波伝搬速度は、通常の紙の場合とは大きな差があることが分かっている。そのため、対象となるシート等における超音波伝搬速度値が真のシート等の値に対して差があるといえる場合、例えば対象となるシート等における超音波伝搬速度値が真のシート等の値の90%以下のときに、真偽判定が行える。すなわち、90%以下のとき、「偽」と判断することができる。弾性率、全光線透過率およびヘーズについても同様に、対象シート等の測定値と真のシート等との測定値に差があるといえる場合、例えば90%以下のときに真偽判定のための補助基準とすることができる。
本発明は、印刷物の真偽判定装置も提供する。装置は、典型的には、(a)印刷物の平面方向および/または厚み方向に超音波を伝播させる超音波伝播機構;および(b)伝播された超音波の伝播速度を検出する超音波伝播速度検出機構を備える。既存のSSTとしては、被検体の大きさは少なくともA5の大きさが必要であるが、紙幣や有価証券はより小さく、それらの判定のためには、より小型の装置が適する。紙幣等の判定に用いるのに適した大きさの超音波伝播速度測定計はこれまで存在せず、本発明によって新規に提供される。
[複合化等]
印刷物または用紙の微細繊維含有シート部分は、水に対する耐性(耐水性、耐湿性、撥水性)を付与するため、無機層、有機層を積層してもよい。微細繊維含有シートは、後述するように置換基脱離処理されていれば黄変が抑えられ、そのため積層化に際しては、通常であれば黄変を促進する加熱工程やUV照射工程を含んでもよく、種々の手段を採りうる。積層化によって得られる複合シートは、微細繊維含有シートからなる基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層とを含むことが好ましい。無機層と有機層とを積層する場合、順番は特に限定されないが、基材シートの表面にまず有機層を積層することは、無機層を形成するための面を平滑にし、形成される無機層をより欠陥の少ないものとすることができる点で好ましい。また、有機層および無機層以外の他の構成層、例えば、上層の接着を容易にするための易接着層を含んでいてもよい。
無機層、有機層等の層数は特に限定されない。フレキシブル性や透明性を維持しつつ、耐湿性を十分にするとの観点からは、片側について、例えば、無機層と有機層とを交互に2層〜15層積層することが好ましく、3層〜7層積層することがより好ましい。
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
有機層を形成するマトリクス樹脂は、特に限定されない。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の前駆体が加熱により重合硬化した硬化物)、または光硬化性樹脂(光硬化性樹脂の前駆体が放射線(紫外線や電子線等)の照射により重合硬化した硬化物)等を用いることができる。これらは1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
[フィラー等の使用]
微細繊維含有シート部分には、分散剤、定着剤、紙力剤、水溶性高分子、顔料、色材等の内添材料を含有させることができる。インクの定着性を上げるためには、既存のサイズ剤を添加してもよい。微細繊維含有シート部分には、フィラー(填料)を含有させてもよい。フィラーは、有機物であっても、無機物であってもよい。炭素、金属および金属酸化物からなる群より選択されるいずれかからなるものを好ましく用いることができる。より具体的には、銀粉、金粉、銅粉およびニッケル粉等の金属フィラー、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化鉄およびセラミック等の無機フィラーが挙げられる。また、カーボンおよびゴム系フィラー等の有機フィラー、ガラス、砂などが挙げられる。種類および形状等にかかわらず特に制限なく使用することができる。
フィラーは、所望する機能に応じて使い分けることができる。例えば、金属フィラーは、樹脂組成物に導電性、熱伝導性およびチキソ性を付与し、非金属無機フィラーは、樹脂層に熱伝導性、低熱膨張性および低吸湿性を付与する。また、有機フィラーは樹脂層に靭性等を付与する。
これら金属フィラー、無機フィラーまたは有機フィラーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、金属フィラー、無機フィラーまたは絶縁性のフィラーが好ましい。半導体装置用接着材料に求められる、導電性、熱伝導性、低吸湿特性および絶縁性が付与される。さらに無機フィラーまたは絶縁性のフィラーの中では、シリカフィラーがより好ましい。樹脂ワニスに対する分散性が良好でかつ、熱時の高い接着力を付与できる。
フィラーの平均粒子径(特に記載した場合を除き、累積の50%粒子径を指す。以下同じ。)は、特に限定されないが、100μm以下であるものを使用することができる。平均粒子径が50μm以下であることがより好ましい。平均粒子径の下限は、特に限定されないが、取り扱い性の観点から、0.001μm以上であることが好ましい。
フィラーの添加量は、付与する特性または機能に応じて決められる。繊維100質量部に対して、フィラーは0.1質量部〜200質量%が好ましく、1質量%〜100質量%がより好ましい。フィラーを増量させることによって、目的の機能を有効に向上させることができる。
フィラーの固形分を含有する液への添加の時期および混合方法は、適宜とすることができる。混合には、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロールおよびボールミル等の分散機を適宜使用することができる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の範囲は実施例により限定されない。
[実施例1]
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
未叩解針葉樹クラフトパルプ(王子ホールディングス社製)を絶乾質量で1000gに、尿素、リン酸ナトリウム(リン原子とナトリウム原子のモル比Na/P=1.45)、水からなる薬液を含浸させ、圧搾し、余剰の薬液を搾り取り、薬液含浸パルプを得た。薬液含浸パルプは絶乾質量で1000gのパルプ、950gの尿素、リン原子として400gのリン酸ナトリウム、1200gの水を含んでいた。薬液含浸パルプを150℃に加熱したオーブンで乾燥、加熱処理し、パルプにリン酸基を導入した。乾燥、加熱工程を経た薬液含浸パルプに、25Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを25Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが11〜13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再び25Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、リン酸変性セルロース繊維を得た。
<機械処理>
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製「Panda Plus 2000」)で、操作圧力120MPaにて5回パスさせた。さらに、湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で、245MPaの圧力にて5回パスさせ微細セルロース繊維分散液を得た。微細セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の平均繊維幅は、4.2nmであった。
<シート化>
微細セルロース繊維含有分散液をダイヘッドより工程基材上に押出した後、80℃で熱風乾燥して微細繊維含有シートを得た。なお、工程基材としてはポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いた。得られた微細繊維含有シートを工程基材から剥離し、坪量を測定したところ、45.1g/m2であった。
<図柄の印刷>
得られた微細繊維含有シートをA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。裁断した微細繊維含有シートに対し、インクジェット印刷方式により、図1に示す図柄の印刷を行った。印刷する図柄は、商品券を模擬したものとした。以上の工程により、平面上の全ての領域が微細繊維含有シートで構成された偽造防止用紙を用いた印刷物を得た。
[実施例2]
<機械処理>
針葉樹晒クラフトパルプ(王子ホールディングス社製、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)は550ml)を濃度3.0%になるように水を加え、ディスインテグレーターで離解して、パルプ分散液を得た。パルプ分散液に対し、熊谷理機工業株式会社製レファイナー「KRK高濃度ディスクリファイナー」で50回の叩解処理を行った。さらにエムテクニック社製高速分散機「クレアミクス11S」にて回転数6500rpmで90分間の微細化処理を行い、微細セルロース繊維分散液を得た。
微細セルロース繊維分散液中のセルロース繊維の平均繊維幅は140nmであった。
<シート化>
微細セルロース繊維分散液の濃度が約1.5%になるように水を加えて希釈した。希釈した微細セルロース繊維分散液をダイヘッドより工程基材上に押出した後、80℃で熱風乾燥して微細繊維含有シートを得た。なお、工程基材としてはポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いた。得られた微細繊維含有シートを工程基材から剥離し、坪量を測定したところ、44.8g/m2であった。
<図柄の印刷>
得られた微細繊維含有シートをA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。裁断した微細繊維含有シートに対し、インクジェット印刷方式により、図1に示す図柄の印刷を行った。印刷する図柄は、商品券を模擬したものとした。以上の工程により、平面上の全ての領域が、微細繊維含有シートで構成された偽造防止用紙を用いた印刷物を得た。
[比較例1]
プリンター用紙(富士ゼロックス社製「C2r」、繊維幅1000nm超過の繊維により構成される。)をA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。その後、実施例1と同様に図柄の印刷を行い、印刷物を得た。
[比較例2]
セロファンフィルム(フタムラ化学社製「PL−DG#500」)をA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。その後、実施例1と同様に図柄の印刷を行い、印刷物を得た。
[比較例3]
セロファンフィルム(レンゴー社製「セロファン」)をA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。その後、実施例1と同様に図柄の印刷を行い、印刷物を得た。
[比較例4]
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ社製「ルミラーS10#50」)をA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。その後、実施例1と同様に図柄の印刷を行い、印刷物を得た。
[比較例5]
TAC(セルローストリアセテート)フィルム(富士フイルム社製「フジタック」)をA5サイズ(21.0mm×14.8mm)に裁断した。その後、実施例1と同様に図柄の印刷を行い、印刷物を得た。
[評価]
<方法>
実施例1、2、および比較例1〜5で作製した印刷物について、以下の評価方法に従って評価を実施した。
(1)超音波伝播速度
超音波伝播速度計(野村商事社製「SST−2500」)を用いて、印刷物の超音波伝播速度を測定した。なお、超音波の波長は25MHz、プロット数は12、温度は23℃で測定を実施した。
(2)弾性率
算出した超音波伝播速度の最大値、最小値より、下記の式に従って弾性率を算出した。
(式)弾性率 = 密度×(超音波伝播速度)2
なお、印刷物の密度は、印刷物の坪量を、膜厚計(マール社製「ミリトロン1202D」)で測定した厚さで除して算出した。
(3)全光線透過率
JIS規格K7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製「HM−150」)を用いて、印刷物の図柄が印刷されていない部分の全光線透過率を測定した。
(4)ヘーズ
JIS規格K7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製「HM−150」)を用いて、印刷物の図柄が印刷されていない部分のヘーズを測定した。
(5)印刷物の真偽判定
実施例1、および2で得られた印刷物を真の印刷物、比較例1〜5で得られた印刷物を偽の印刷物とし、超音波伝播速度、弾性率、全光線透過率、ヘーズを真偽判定基準とし、各々の組み合わせで真偽判定を行った。なお、超音波伝播速度、弾性率、全光線透過率については偽の印刷物の値が真の印刷物の値に対して90%以下のときに真偽判定が可、とした。ヘーズについては真の印刷物の値が偽の印刷物の値に対して90%以下のときに真偽判定が可能、とした。
<結果>
結果を表1、および表2に示した。
表1から明らかなように、微細繊維含有シートを用いて印刷物を製造した実施例1、および2では、比較例1〜5で製造した印刷物に対して超音波伝播速度、弾性率が高い結果となった。表2に示すとおり、超音波伝播速度、弾性率を真偽判定基準とした場合、実施例1と比較例1〜5、および実施例2と比較例1〜5の全ての組み合わせで真偽判定が可能であった。超音波伝播速度、弾性率が真偽判定基準として有効なパラメータであることが分かった。
全光線透過率を真偽判定基準とした場合、実施例1で得られた印刷物は、比較例1で得られた印刷物との真偽判定が可能であったが、比較例2〜5で得られた印刷物との真偽判定はできなかった。また、実施例2で得られた印刷物は、比較例1で得られた印刷物との真偽判定が可能であったが、比較例2〜5で得られた印刷物との真偽判定はできなかった。全光線透過率は真偽判定基準として補助的に使用できるパラメータであることが分かった。
ヘーズを真偽判定基準とした場合、実施例1で得られた印刷物は、比較例1〜4で得られた印刷物との真偽判定が可能であったが、比較例5で得られた印刷物との真偽判定はできなかった。また、実施例2で得られた印刷物は、比較例1で得られた印刷物との真偽判定が可能であったが、比較例2〜5で得られた印刷物との真偽判定はできなかった。ヘーズは真偽判定基準として補助的に使用できるパラメータであることが分かった。
Figure 2016216851
Figure 2016216851

Claims (14)

  1. 少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されている用紙であって、該一部の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能な印刷物を製造するための、用紙。
  2. 全部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成される、請求項1に記載の用紙。
  3. 微細繊維が静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維である、請求項1または2に記載の用紙。
  4. 微細繊維がセルロース繊維である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の用紙。
  5. 微細繊維がリン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基が導入された微細繊維であり、置換基導入量が0.01〜3.0mmol/gである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の用紙。
  6. 微細繊維含有シートが、金属粒子、金属酸化物粒子、炭素繊維、炭素粒子からなる群より選択される少なくとも一種のフィラーを含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の用紙。
  7. 該一部の超音波伝播速度のピーク値が3.2km/s以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の用紙。
  8. 微細繊維含有シートの少なくとも一方の側に無機層が形成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の用紙。
  9. 微細繊維含有シートの少なくとも一方の側に有機層が形成されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の用紙。
  10. 微細繊維含有シートの少なくとも一方の側に、無機層、および無機層に積層された有機層が形成されている、または有機層、および有機層に積層された無機層が形成されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の用紙。
  11. 少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されており、該一部の超音波伝搬速度を測定することにより真偽判定が可能な、紙幣、有価証券、または身分、権利もしくは資格を証明するための書類。
  12. 印刷物の真偽判定装置であって、
    (a)印刷物の平面方向および/または厚み方向に超音波を伝播させる超音波伝播機構;および
    (b)伝播された超音波の伝播速度を検出する超音波伝播速度検出機構
    を備える、装置。
  13. 印刷物が有価証券または紙幣である、請求項12に記載の装置。
  14. 印刷物の真偽判定方法であって、
    (a)少なくとも一部が平均繊維幅2〜1000nmの微細繊維を含有するシートで構成されている印刷物の、該一部の平面方向および/または厚み方向に超音波を伝播させ;そして
    (b)伝播された超音波の伝播速度を検出する
    工程を含む、印刷物の真偽判定方法。
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