JP2016204289A - 抗がん剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、副作用が全くなく、安全にがんの治療や予防に使用できる抗がん剤を提供することを課題とする。
【解決手段】下記式(1)で表されるフォスファチジルコリン及び下記式(2)で表されるフォスファチジルコリンからなる群より選択される1種以上を有効成分とすることを特徴とする、抗がん剤。
[化1]
【選択図】なし
【解決手段】下記式(1)で表されるフォスファチジルコリン及び下記式(2)で表されるフォスファチジルコリンからなる群より選択される1種以上を有効成分とすることを特徴とする、抗がん剤。
[化1]
【選択図】なし
Description
本発明は、副作用が全くなく、安全にがんの治療や予防に使用できる抗がん剤に関する。
胃がんは、日本において死亡率が肺がんについで2番目に高く、年間11万人(男性1位、女性3位)が罹患している。胃がんに対する従来の抗がん剤としては、TS−1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)、CDDP(シスプラチン)、CPT−11(イリノテカン)、TXL(パクリタキセル)等がある。しかし、これら化学療法では、骨髄細胞抑制によって白血球数や血小板の減少や、貧血が引き起こされ、さらに消化器系の副作用として悪心や嘔吐、下痢、口内炎等が生じる。これらの副作用に加えて、薬剤によっては高頻度に脱毛をきたすこともあり、どれも患者にはとって優しいものではない。その他、分子標的薬として、胃がんではハーセプチンが最近使用されているが、ハーセプチンについても、悪寒、頭痛、発熱、悪心、下痢の他、重度の場合は心不全、アナフィラキシー様症状、肺障害の重篤な副作用(気管支痙攣、重度の血圧低下、急性呼吸促迫症候群等)が報告されている。従って、究極的には抗がん作用を保持し、かつ副作用の全くない抗がん剤の開発が切望される。
一方で、動物の生体内に多く存在し、細胞膜の重要な構成成分であるリン脂質として、フォスファチジルコリン(PC)がある。組織内のPC量と、細胞増殖やがん化の関係について、幾つか報告されている。例えば、非特許文献1には、甲状腺乳頭がん患者より摘出した甲状腺について、イメージング質量顕微鏡(Ultraflex II TOF/TOF; Bruker Daltonics)を用いてPCの含有量を調べたところ、正常部位に比べてがん部位ではPC−34:2〔PC(16:0/18:2)〕が多かったことが報告されている。また、非特許文献2には、マウス胎児皮膚由来の培養細胞株NIH3T3細胞において、PC−36:4〔PC(16:0/20:4)〕がAktのSer473のリン酸化を抑制し、Aktの活性化抑制及び細胞増殖抑制を引き起こすことが報告されている。
Ishikawa,et al.,PLOS ONE,2012,vol.7,e48873.
Koeberle,et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences,2013,vol.110(7),p.2546−2551.
本発明は、副作用が全くなく、安全にがんの治療や予防に使用できる抗がん剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、胃がん組織とその近傍の正常組織におけるPC種についてiMScopeスクリーニングを行い、特定の2種類のPC種が、胃がん特異的に発現が減少していることを見出し、さらに当該2種類のPC種が各種胃がん細胞株に対して抗がん活性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の抗がん剤を提供するものである。
[1] 下記式(1)で表されるフォスファチジルコリン及び下記式(2)で表されるフォスファチジルコリンからなる群より選択される1種以上を有効成分とすることを特徴とする、抗がん剤。
[1] 下記式(1)で表されるフォスファチジルコリン及び下記式(2)で表されるフォスファチジルコリンからなる群より選択される1種以上を有効成分とすることを特徴とする、抗がん剤。
[2] 消化管がんの治療又は予防に用いられる、前記[1]の抗がん剤。
[3] 胃がんの治療又は予防に用いられる、前記[1]の抗がん剤。
[4] がん組織又はがん化が疑われる組織に直接噴霧又は塗布される、前記[1]〜[3]のいずれかの抗がん剤。
[5] 経口投与される、前記[1]〜[3]のいずれかの抗がん剤。
[6] 前記フォスファチジルコリンがミセル又はリポソームを形成している、前記[1]〜[5]のいずれかの抗がん剤。
[3] 胃がんの治療又は予防に用いられる、前記[1]の抗がん剤。
[4] がん組織又はがん化が疑われる組織に直接噴霧又は塗布される、前記[1]〜[3]のいずれかの抗がん剤。
[5] 経口投与される、前記[1]〜[3]のいずれかの抗がん剤。
[6] 前記フォスファチジルコリンがミセル又はリポソームを形成している、前記[1]〜[5]のいずれかの抗がん剤。
本発明に係る抗がん剤は、元々生体内に存在するリン脂質であるPCを有効成分とする。このため、本発明に係る抗がん剤は、副作用を起こすことなく、非常に安全に、がんの治療や予防に使用することができる。
本発明に係る抗がん剤は、下記式(1)で表されるPC(PC−34:2)及び下記式(2)で表されるPC(PC−36:4)からなる群より選択される1種以上を有効成分とすることを特徴とする。
PC−34:2及びPC−36:4は、Aktの活性化抑制により増殖抑制作用を有するものである。このため、本発明に係る抗がん剤は、様々な組織のがんに対して抗がん活性を示し得るが、特に、消化管がんに対して有効であり、胃がん、十二指腸がん、大腸がん、食道がんの治療に用いられることが好ましく、胃がんの治療に用いられることが特に好ましい。
PC−34:2及びPC−36:4は、いずれも元々生体内にあるPC種であり、本発明に係る抗がん剤は、副作用なく安全に使用することができる。このため、本発明に係る抗がん剤は、がん治療のみならず、がん予防にも好適に用いられる。中でも、消化管がんの予防に用いられることが好ましく、胃がん、十二指腸がん、大腸がん、食道がんの予防に用いられることがより好ましく、胃がんの予防に用いられることが特に好ましい。
本発明に係る抗がん剤の投与経路は特に限定されるものではないが、標的となるがん組織又はがん化が疑われる組織に直接接触投与することが好ましい。PC−34:2及びPC−36:4は、他のリン脂質と同様に、リポソーム又はミセルの状態で細胞表面に接着すると、エンドサイトーシス等により細胞内に取り込まれる。つまり、PC−34:2及び/又はPC−36:4のリポソーム又はミセルを有効成分とすることにより、本発明に係る抗がん剤は、標的となるがん組織又はがん化が疑われる組織に直接接触させるだけで、標的組織内の細胞に導入され、抗がん作用を発揮させることができる。
例えば、胃がんの治療又は予防に用いられる場合には、本発明に係る抗がん剤は、経口投与される剤型とすることが好ましい。食後に経口摂取することにより、本発明に係る抗がん剤は胃内で直接胃がん組織に接触できる。同様に、十二指腸がんの治療又は予防に用いられる場合には、本発明に係る抗がん剤は、腸溶性製剤とすることが好ましい。
本発明に係る抗がん剤を噴霧剤とすることにより、消化管内の標的組織に直接噴霧投与することもできる。例えば、カメラで視認した消化管表面に薬剤等を噴霧又は散布することが可能な内視鏡を用いることにより、食道内視鏡検査、胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査を行った際に、がん化している又はがん化が疑われる消化管表面に本発明に係る抗がん剤を噴霧することができる。なお、本発明に係る抗がん剤は、副作用がないため、がん化が疑われない場合であっても、予防処置として消化管全面に噴霧することも好ましい。
PC−34:2及び/又はPC−36:4のリポソーム又はミセルは、常法により形成させることができる。本発明に係る抗がん剤は、リポソーム等を形成するために、PC−34:2及びPC−36:4以外のリン脂質を含有していてもよい。PC−34:2等による抗がん作用を充分に発揮させられる点から、リポソーム等を構成する成分に占めるPC−34:2及び/又はPC−36:4の割合は、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、80%以上がよりさらに好ましく、100%が特に好ましい。
本発明に係る抗がん剤は、通常の方法によって、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤、徐放剤などの経口用固形剤、溶液剤、シロップ剤などの経口用液剤、注射剤、スプレー剤、貼付剤、軟膏剤などに製剤化することができる。本発明に係る抗がん剤としては、PC−34:2及び/又はPC−36:4をリポソーム又はミセルの状態で包含することができるカプセル剤、経口用液剤、注射剤、スプレー剤であることが好ましい。
本発明に係る抗がん剤は、有効成分であるPC−34:2及び/又はPC−36:4に、製剤上の必要に応じて、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等を配合して製剤化される。
賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトールなどの糖類、デンプン、結晶セルロースなどのセルロース類、エリスリトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、カオリンなどが挙げられる。結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D−マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤としては、クロスポビドン(架橋ポリビニルピロリドン)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動化剤としては、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム化合物、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが挙げられる。溶解補助剤としては、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体などが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム、トロメタモール、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。等張化剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトールなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素などが挙げられる。安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロクレゾール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。矯味矯臭剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される甘味料、香料などが挙げられる。着色剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
本発明に係る抗がん剤は、そのまま使用してもよく、その他の成分も含む医薬用組成物として使用することもできる。当該医薬用組成物に含まれるその他の成分としては、例えば、前記の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等が挙げられる。また、当該医薬用組成物は、本発明に係る抗がん剤以外の他の有効成分を含有していてもよい。例えば、PC−34:2及び/又はPC−36:4で形成したリポソームが、他の抗がん剤を内包するように構成されていてもよい。
本発明に係る抗がん剤は、哺乳動物に投与されるものであることが好ましく、ヒトや、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物に投与されるものであることがより好ましく、ヒトに投与されるものであることがさらに好ましい。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<細胞培養>
細胞培養株NIH3T3細胞、TMK−1細胞、MKN−7細胞、MKN−45細胞、AGS細胞、MKN−1細胞、MKN−28細胞、MKN−74細胞、及びKATO−III細胞は、American Type Culture Collectionから購入したものを用いた。
これらの細胞の細胞培養は、10%ウシ胎児血清(FBS)と、100U/mLペニシリン(Life Technologies社製)と100μg/mLストレプトマイシン(Life Technologies社製)を含有するRPMI1640培地(SIGMA社製)中で行った。
細胞培養株NIH3T3細胞、TMK−1細胞、MKN−7細胞、MKN−45細胞、AGS細胞、MKN−1細胞、MKN−28細胞、MKN−74細胞、及びKATO−III細胞は、American Type Culture Collectionから購入したものを用いた。
これらの細胞の細胞培養は、10%ウシ胎児血清(FBS)と、100U/mLペニシリン(Life Technologies社製)と100μg/mLストレプトマイシン(Life Technologies社製)を含有するRPMI1640培地(SIGMA社製)中で行った。
<ウェスタンブロッティング>
以下の実施例において、ウェスタンブロッティングは次のようにして行った。
細胞又は組織をSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)サンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl,pH6.8,2% SDS,10% グリセロール,5% 2−メルカプトエタノール)で溶解しライゼートを調製した。10μgのライゼートを95℃で3分間加熱した後、8% SDSポリアクリルアミド電気泳動を行った。電気泳動後のタンパク質をPVDF(ポリフッ化ビニリデン)メンブレン(Amersham HybondTM−P;GE Healthcare社製)にトランスファーした後、1%スキムミルク含有TBS(Tris−bufferd saline)−T(20mM Tris−HCl,pH7.4, 0.01% Tween 20)で1時間ブロッキングした。
ブロッキング後のメンブレンに対して、一次抗体を4℃で一晩反応させた後、TBS−Tで当該メンブレンを3回洗浄した後、さらに二次抗体と室温で1時間反応させた。シグナルは、Pierce western Blotting Substrate Plus(Thermo SCIENTIFIC社製)とAmersham Hyperfilm(登録商標)ECL(GE Healthcare社製)を使用して検出した。
以下の実施例において、ウェスタンブロッティングは次のようにして行った。
細胞又は組織をSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)サンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl,pH6.8,2% SDS,10% グリセロール,5% 2−メルカプトエタノール)で溶解しライゼートを調製した。10μgのライゼートを95℃で3分間加熱した後、8% SDSポリアクリルアミド電気泳動を行った。電気泳動後のタンパク質をPVDF(ポリフッ化ビニリデン)メンブレン(Amersham HybondTM−P;GE Healthcare社製)にトランスファーした後、1%スキムミルク含有TBS(Tris−bufferd saline)−T(20mM Tris−HCl,pH7.4, 0.01% Tween 20)で1時間ブロッキングした。
ブロッキング後のメンブレンに対して、一次抗体を4℃で一晩反応させた後、TBS−Tで当該メンブレンを3回洗浄した後、さらに二次抗体と室温で1時間反応させた。シグナルは、Pierce western Blotting Substrate Plus(Thermo SCIENTIFIC社製)とAmersham Hyperfilm(登録商標)ECL(GE Healthcare社製)を使用して検出した。
使用した一次抗体は、抗Akt(pan)抗体(1:1000;Cell Signaling TECHNOLOGY社製)、 抗pT308 Akt抗体(1:1000;Cell Signaling TECHNOLOGY社製)、抗pS473 Akt抗体(1:1000;Cell Signaling TECHNOLOGY社製)、抗Ras抗体(1:20000;Millipore社製)、抗β−tubulin抗体(1:2000;SIGMA社製)、抗LPCAT3抗体(1:20000;Cloud−Clone社製)、である。また、使用した二次抗体は、抗マウスIgG HRP(horseradish peroxidase)標識抗体又は抗ラビットIgG HRP標識抗体(いずれもGE Healthcare社製)である。
[実施例1]
(1)PC種のスクリーニング
副作用の全くない抗がん剤の発見を目指すため、胃がん特異的に発現が減少しているPC種のスクリーニングをiMScopeにて行った。iMScopeは、光学顕微鏡と質量分析計を融合した分析計測機器である。
(1)PC種のスクリーニング
副作用の全くない抗がん剤の発見を目指すため、胃がん特異的に発現が減少しているPC種のスクリーニングをiMScopeにて行った。iMScopeは、光学顕微鏡と質量分析計を融合した分析計測機器である。
<病理サンプル>
全ての患者サンプルは浜松医科大学病院のものを使用した。手術検体から摘出した胃がん部と隣接する正常胃粘膜部分は、摘出後液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。本研究は、浜松医科大学倫理委員会の承認を得て行われた。
全ての患者サンプルは浜松医科大学病院のものを使用した。手術検体から摘出した胃がん部と隣接する正常胃粘膜部分は、摘出後液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。本研究は、浜松医科大学倫理委員会の承認を得て行われた。
<イメージングマススペクトロメトリ用サンプル調製>
凍結組織(病理サンプル)を30分間−20℃に静置した後、クリオスタット(CM1950;Leica Microsystems社製)を使用して8μm厚の組織切片を作製した。組織切片は、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)にて胃がん部と正常胃粘膜を同定した。隣接切片を、ITO(indium−tin−oxide)コートスライドグラス(Bruker Daltonics社製)に載せて溶かし、接着させた。その後、作製した切片をゆっくりと室温にし、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB;SIGMA社製)を均一に蒸着させた。
凍結組織(病理サンプル)を30分間−20℃に静置した後、クリオスタット(CM1950;Leica Microsystems社製)を使用して8μm厚の組織切片を作製した。組織切片は、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)にて胃がん部と正常胃粘膜を同定した。隣接切片を、ITO(indium−tin−oxide)コートスライドグラス(Bruker Daltonics社製)に載せて溶かし、接着させた。その後、作製した切片をゆっくりと室温にし、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB;SIGMA社製)を均一に蒸着させた。
<イメージングマススペクトロメトリとそのデータ解析>
全てのイメージングマススペクトロメトリは、四重極型イオントラップを装備した大気圧Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization(MALDI)であるiMScope(島津製作所製)で行った。マススペクトルの取得はiMScopeのソフトウェアで行った。ソフトウェアにより目的とするサンプルの解析領域、走査するレーザーの間隔、レーザー径、走査する各点に照射するレーザーの数、解析対照とするm/zの範囲を設定した。各設定はレーザー照射が7.5μm間隔、レーザー径が最小、m/zが500−1200、レーザーショット数が200/pixelで1000Hzであった。得られたマススペクトルデータは、ClinProTools 2.2(Bruker Daltonics社製)によって、ベースラインの差し引き、スムージング、total ion currentでのノーマライズ、ピークピキングを行った。その際のtotal ion currentは、スペクトル中の全ピークの和とした。スペクトル処理のパラメーターは、ベースライン(Top Hat algorithm, minimal baseline width set 10%)、解像度(500ppm)、スムージング(Savitzky Golay, 5cycle, 2m/z幅)とした。ピークピッキングは、シグナル/ノイズ閾値5で行った。胃がん部位と隣接する正常胃粘膜部分(正常胃部位)のシグナル強度は、ClinProt Peak Statistic Calculationで計算した。多変量統計解析は、supervised neural networkアルゴリズムで行った。その際の有意差の検定は、Welch’s t−testを使用した。
全てのイメージングマススペクトロメトリは、四重極型イオントラップを装備した大気圧Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization(MALDI)であるiMScope(島津製作所製)で行った。マススペクトルの取得はiMScopeのソフトウェアで行った。ソフトウェアにより目的とするサンプルの解析領域、走査するレーザーの間隔、レーザー径、走査する各点に照射するレーザーの数、解析対照とするm/zの範囲を設定した。各設定はレーザー照射が7.5μm間隔、レーザー径が最小、m/zが500−1200、レーザーショット数が200/pixelで1000Hzであった。得られたマススペクトルデータは、ClinProTools 2.2(Bruker Daltonics社製)によって、ベースラインの差し引き、スムージング、total ion currentでのノーマライズ、ピークピキングを行った。その際のtotal ion currentは、スペクトル中の全ピークの和とした。スペクトル処理のパラメーターは、ベースライン(Top Hat algorithm, minimal baseline width set 10%)、解像度(500ppm)、スムージング(Savitzky Golay, 5cycle, 2m/z幅)とした。ピークピッキングは、シグナル/ノイズ閾値5で行った。胃がん部位と隣接する正常胃粘膜部分(正常胃部位)のシグナル強度は、ClinProt Peak Statistic Calculationで計算した。多変量統計解析は、supervised neural networkアルゴリズムで行った。その際の有意差の検定は、Welch’s t−testを使用した。
各PC種の胃がん部位と正常胃部位のシグナル強度及び正常胃部位に対する胃がん部位の強度比([胃がん部位]/[正常胃部位])を表1に示す。この結果、PC−34:2及びPC−36:4が、胃がん組織において優位に発現減少している分子として同定された。図1に、正常胃部位と胃がん部位のHE染色像(上段)、PC−34:2のシグナル強度画像(中段)、及びPC−36:4のシグナル強度画像(下段)を示す。
(2) 抗がん活性の確認
PC−34:2及びPC−36:4の抗がん活性を、KrasV12を過剰発現させたNIH3T3細胞(KrasV12過剰発現細胞)を用いて調べた。
PC−34:2及びPC−36:4の抗がん活性を、KrasV12を過剰発現させたNIH3T3細胞(KrasV12過剰発現細胞)を用いて調べた。
<KrasV12発現ベクターの作製>
pcDNA3.1−KrasV12を鋳型にして、PrimeSTAR HS DNA polymerase(Takara社製)とフォワードプライマー(5’−CTCCGCGGATCCAAGCTTGCTGAAA−3’)(配列番号1)とリバースプライマー(5’−AGGGGCGGATCCTCATTACATAA−3’)(配列番号2)を用いてPCRを行い、cDNAを増幅した。増幅したcDNAをpQCXIN(BD Clontech社製)のBamHIサイトにクローニングし、KrasV12発現用ベクター(pQCXIN−KrasV12)を作製した。
pcDNA3.1−KrasV12を鋳型にして、PrimeSTAR HS DNA polymerase(Takara社製)とフォワードプライマー(5’−CTCCGCGGATCCAAGCTTGCTGAAA−3’)(配列番号1)とリバースプライマー(5’−AGGGGCGGATCCTCATTACATAA−3’)(配列番号2)を用いてPCRを行い、cDNAを増幅した。増幅したcDNAをpQCXIN(BD Clontech社製)のBamHIサイトにクローニングし、KrasV12発現用ベクター(pQCXIN−KrasV12)を作製した。
<リン脂質の調製>
各種リン脂質(卵黄PC、PC−34:2、及びPC−36:4)はAvanti Polar Lipidsから購入した。各種リン脂質は、クロロホルムに溶解し、暗所下、−80℃で保存した。各種リン脂質のリポソームは、40℃で20分間超音波処理することによって形成した。形成したリポソームは、10%又は5%FBS含有RPMI1640培地に添加して懸濁した後、細胞へ加えた。
各種リン脂質(卵黄PC、PC−34:2、及びPC−36:4)はAvanti Polar Lipidsから購入した。各種リン脂質は、クロロホルムに溶解し、暗所下、−80℃で保存した。各種リン脂質のリポソームは、40℃で20分間超音波処理することによって形成した。形成したリポソームは、10%又は5%FBS含有RPMI1640培地に添加して懸濁した後、細胞へ加えた。
<フォーカスフォーメーションアッセイ>
まず、KrasV12過剰発現細胞を準備した。具体的には、細胞密度が1.3×105/3.5cmディッシュとなるように播いてから24時間後のNIH3T3細胞に、250ngのpQCXIN−K−rasV12ベクターを、lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、トリプシンで細胞を剥がし、1枚の3.5cmディッシュから回収した細胞を4枚の10cmディッシュに播いた。
まず、KrasV12過剰発現細胞を準備した。具体的には、細胞密度が1.3×105/3.5cmディッシュとなるように播いてから24時間後のNIH3T3細胞に、250ngのpQCXIN−K−rasV12ベクターを、lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、トリプシンで細胞を剥がし、1枚の3.5cmディッシュから回収した細胞を4枚の10cmディッシュに播いた。
この4枚の10cmディッシュに播種された細胞に、リポソーム化した各種リン脂質(終濃度60μM)を含む又は含まない5%FBS含有RPMI1640培地で培養し、4日毎に培地を交換した。播種から14日後に、各ディッシュに形成されたフォーカス数を計測した。
播種から14日後の各ディッシュ中の細胞の透過光画像を図2に、各ディッシュに形成されたフォーカス数の計測結果を図3に、それぞれ示す。また、各ディッシュの細胞のRas及びβ−チューブリンの発現量をウェスタンブロッティングにより確認した。ウェスタンブロッティングの結果も図3に示す。この結果、卵黄PCリポソームを培地に添加したKrasV12過剰発現細胞では、リポソーム無添加のものと同程度のフォーカスが形成されていた。これに対して、PC−34:2又はPC−36:4のリポソームを培地に添加したKrasV12過剰発現細胞では、形成されたフォーカス数が有意に減少しており、PC−34:2及びPC−36:4が、KrasV12過剰発現細胞の増殖を抑制し、抗がん活性を示すことがわかった。
[実施例2]
胃がん由来の8種の培養細胞株(TMK−1細胞、MKN−7細胞、MKN−45細胞、AGS細胞、MKN−1細胞、MKN−28細胞、MKN−74細胞、及びKATO−III細胞)に対して、卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖試験は、Cell Counting Kit(Dojindo Laboratories社製)を使用して行った。
具体的には、96ウェルプレートに3×103個/ウェルの細胞密度になるように細胞を播き、リポソーム化した各種PCを終濃度60μMとなるように含有する培地で培養した。リポソーム処理後から0、24、又は48時間後に、10μLのWST−8を加え、37℃で2時間静置した。静置後の各ウェルについて、マイクロプレートリーダー(Synergy HT with KC4;セントラル科学貿易社製)を用いて450nmの吸光度を測定した。
胃がん由来の8種の培養細胞株(TMK−1細胞、MKN−7細胞、MKN−45細胞、AGS細胞、MKN−1細胞、MKN−28細胞、MKN−74細胞、及びKATO−III細胞)に対して、卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖試験は、Cell Counting Kit(Dojindo Laboratories社製)を使用して行った。
具体的には、96ウェルプレートに3×103個/ウェルの細胞密度になるように細胞を播き、リポソーム化した各種PCを終濃度60μMとなるように含有する培地で培養した。リポソーム処理後から0、24、又は48時間後に、10μLのWST−8を加え、37℃で2時間静置した。静置後の各ウェルについて、マイクロプレートリーダー(Synergy HT with KC4;セントラル科学貿易社製)を用いて450nmの吸光度を測定した。
測定結果を図4〜5に示す。この結果、全ての培養細胞株において、PC処理後48時間後には、卵黄PCを添加した細胞よりも、PC−34:2、又はPC−36:4を添加した細胞のほうが、450nmの吸光度が小さく、PC−34:2及びPC−36:4が、胃がん由来の培養細胞株に対して広く抗がん活性を有することが確認された。
[実施例3]
非がん培養細胞株であるNIH3T3細胞と、胃がん由来の培養細胞株MKN−28細胞に対して、卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを濃度を振って導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。なお、MKN−28細胞は、実施例2において、PC−34:2及びPC−36:4のがん細胞に対する増殖抑制作用が比較的強かった細胞株である。
非がん培養細胞株であるNIH3T3細胞と、胃がん由来の培養細胞株MKN−28細胞に対して、卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを濃度を振って導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。なお、MKN−28細胞は、実施例2において、PC−34:2及びPC−36:4のがん細胞に対する増殖抑制作用が比較的強かった細胞株である。
具体的には、細胞に添加するリポソーム濃度を、1、10、50、100、500、又は2000nMとし、WST−8の培地への添加をリポソーム処理後48時間経過時点のみとした以外は、実施例2と同様にして細胞増殖試験を行った。PC処理後48時間後の各ウェルの450nmの吸光度の測定結果を図6に示す。この結果、NIH3T3細胞では、リポソームの種類による増殖性の変化は観察されなかった。これに対して、MKN−28細胞では、リポソーム濃度が100nM以上において、PC−34:2及びPC−36:4により細胞増殖が抑制されており、この細胞増殖抑制作用はリポソーム濃度依存的に高くなっていた。
[実施例4]
実施例2において、PC−34:2及びPC−36:4のがん細胞に対する増殖抑制作用が比較的強かったMKN−7細胞と、PC−34:2等のがん細胞に対する増殖抑制作用が比較的弱かったTMK−1細胞に対して、卵黄PC又はPC−34:2のリポソームを濃度を振って導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。
実施例2において、PC−34:2及びPC−36:4のがん細胞に対する増殖抑制作用が比較的強かったMKN−7細胞と、PC−34:2等のがん細胞に対する増殖抑制作用が比較的弱かったTMK−1細胞に対して、卵黄PC又はPC−34:2のリポソームを濃度を振って導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。
具体的には、細胞に添加するリポソーム濃度を、1、10、50、100、500、又は2000nMとし、WST−8の培地への添加をリポソーム処理後48時間経過時点のみとした以外は、実施例2と同様にして細胞増殖試験を行った。PC処理後48時間後の各ウェルの450nmの吸光度の測定結果を図7に示す。この結果、TMK−1細胞及びMKN−7細胞の両方において、PC−34:2による細胞増殖抑制作用が観察された。
[実施例5]
MKN−7細胞、MKN−28細胞、及びTMK−1細胞に対して、実施例3と同様にして、卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを60μM添加した細胞について、PC処理後48時間経過後のAktのリン酸化状態を、抗Akt(pan)抗体、抗pT308 Akt抗体、及び抗pS473 Akt抗体を用いたウェスタンブロッティングにより調べた。
MKN−7細胞、MKN−28細胞、及びTMK−1細胞に対して、実施例3と同様にして、卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを60μM添加した細胞について、PC処理後48時間経過後のAktのリン酸化状態を、抗Akt(pan)抗体、抗pT308 Akt抗体、及び抗pS473 Akt抗体を用いたウェスタンブロッティングにより調べた。
ウェスタンブロッティングにより各抗体で染色されたバンドを図8に示す。この結果、いずれの細胞においても、PC−34:2又はPC−36:4を導入した細胞では、卵黄PCを導入した細胞に比べて、pT308 Aktのバンドが薄くなっており、AktのT308のリン酸化が抑制されていること、すなわち、PC−34:2及びPC−36:4がAktのリン酸化を標的としていること、が確認された。
[実施例6]
ヌードマウスに、胃がん細胞株MKN−28細胞及びTMK−1細胞を移植した担がんモデルに卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを投与し、腫瘍組織の大きさの経時的変化を測定し、各PCの抗がん活性を調べた。
ヌードマウスに、胃がん細胞株MKN−28細胞及びTMK−1細胞を移植した担がんモデルに卵黄PC、PC−34:2、又はPC−36:4のリポソームを投与し、腫瘍組織の大きさの経時的変化を測定し、各PCの抗がん活性を調べた。
具体的には、PBS(リン酸生理食塩水)(−)に懸濁した胃がん細胞を5週齢のメスヌードマウス(BALB/c Jcl nu/nu;日本クレア社から購入)の皮下に移植した。MKN−28細胞の移植用懸濁液は、1×106/100μLに調製し、TMK−1細胞の移植用懸濁液は、5×105/100μLに調製した。その後、経時的に腫瘍の長径と短径を計測した。腫瘍体積V(mm3)は、下記式により求めた。式中、aは腫瘍の長径(mm)、bは腫瘍の短径(mm)である。
V= a × b2 × 0.5
腫瘍体積が100mm3前後に達してから、各種リン脂質の接種を開始した。リン脂質の接種は、1回の接種量がマウスの体重当たり10mg/kgとなるように、3日に1回、尾静脈注射にて接種させた。なお、各リン脂質は、溶媒(0.5% 生理食塩水、0.5%エタノール)に溶解させた後、37℃で均一になるまで超音波処理し、リポソームを形成させた状態でマウスに接種させた。実験終了後、腫瘍組織はウェスタンブロッティング用に−80℃保存した。全てのマウスは、浜松医科大学附属動物実験施設で維持し、餌と水をad libitumで与え、気温を23±2℃、照明(12時間の明暗サイクル)にて飼育した。
TMK−1細胞を移植した担がんモデルについて、腫瘍体積の測定結果を図9に示し、PC接種開始から27日目の腫瘍組織の写真を図10に示し、当該腫瘍組織中のAktのリン酸化状態を、抗Akt(pan)抗体、抗pT308 Akt抗体、及び抗pS473 Akt抗体を用いたウェスタンブロッティングにより調べた結果を図11に示す。同様に、MKN−28細胞を移植した担がんモデルについて、腫瘍体積の測定結果を図12に示し、PC接種開始から18日目の腫瘍組織の写真を図13に示す。この結果、PC−34:2又はPC−36:4を接種した担がんモデルでは、卵黄PCを接種した担がんモデルよりも有意に腫瘍組織が小さく、胃がん細胞の増殖が抑制されていることが確認された。また、PC−34:2又はPC−36:4を接種した担がんモデル中の腫瘍組織では、AktのT308のリン酸化が抑制されていることも確認された。さらに、全ての担がんモデルにおいて、全く副作用は見られなかった。これらの結果から、PC−34:2及びPC−36:4は、in vivoにおいても、副作用を示すことなく、有意な抗がん活性を持つことがわかった。
[実施例7]
食道がん由来の培養細胞株KYSE150細胞と2種の大腸がん由来の培養細胞株HCT116細胞及びDLD−1細胞に対して、卵黄PC又はPC−34:2のリポソームを導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖試験は、実施例2と同様にして行った。
食道がん由来の培養細胞株KYSE150細胞と2種の大腸がん由来の培養細胞株HCT116細胞及びDLD−1細胞に対して、卵黄PC又はPC−34:2のリポソームを導入し、細胞増殖に対する影響を調べた。細胞増殖試験は、実施例2と同様にして行った。
各ウェルの450nmの吸光度を測定した結果を図14に示す。この結果、全ての培養細胞株において、PC処理後48時間後には、卵黄PCを添加した細胞よりも、PC−34:2を添加した細胞のほうが、450nmの吸光度が小さく、PC−34:2が、胃がん由来の培養細胞株のみならず、食道がん由来の培養細胞株や大腸がん由来の培養細胞株に対しても抗がん活性を有することが確認された。
[参考例1]
PC−34:2及びPC−36:4は、リゾリン脂質アシル基転移酵素の1種であるLPCAT3(lysophosphatidylcholine acyltransferase 3)により合成される。そこで、胃がん患者から採取されたFFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)組織について、LPCAT3発現量を調べた。
PC−34:2及びPC−36:4は、リゾリン脂質アシル基転移酵素の1種であるLPCAT3(lysophosphatidylcholine acyltransferase 3)により合成される。そこで、胃がん患者から採取されたFFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)組織について、LPCAT3発現量を調べた。
FFPE組織のLPCAT3発現量は、免疫組織染色の染色強度から調べた。具体的には、まず、FFPE組織からTMA(組織マイクロアレイ)を3μm厚、直径2mmの小切片として作製した。TMAは、714個(357個の正常胃粘膜と357個の胃がん部)の組織切片を含んでいた。脱パラフィンした切片をマイクロ波で抗原賦活化し、一次抗体で処理した。一次抗体として抗LPCAT3マウスモノクローナル抗体(1:200;Cloud−Clone社製)を使用した。一次抗体後の切片は、Histofine Simple Stain MAX−PO(Nichirei社製)で染色した。胃がん及び正常胃粘膜におけるLPCAT3の発現量は、染色強度から4段階にスコア化した(青色はスコア0、青−茶色はスコア1、茶色はスコア2、明るい茶色はスコア3)。
正常胃粘膜(図中、「Adjacent tissue」)と胃がん部(図中、「Tumor」)のLPCAT3の発現量スコアの結果を図15に示す。この結果、胃がん部におけるLPCAT3の発現量は、正常胃粘膜よりも明らかに低くなっていた。
また、胃がん患者のうち、LPCAT3発現量スコアが0又は1の患者群(LPCAT3低発現群)と、2又は3の患者群(LPCAT3高発現群)とについて、生存曲線を調べた。生存曲線は、手術日から死亡又は最終受診日までの期間をもとに算出した。Kaplan−Meier法とlog−rank testを使用し、LPCAT3低発現群とLPCAT3高発現群の差を解析した。計算はRのグラフィカルインターフェイスであるEZRソフトウェア(Saitama Medical Center製)を用いて行った。
LPCAT3低発現群とLPCAT3高発現群の生存曲線を図16に示す。この結果、LPCAT3高発現群に比べてLPCAT3低発現群では生存率が低かった。
[参考例2]
剖検例(がんなし)の胃から採取された5種の病理サンプルと実施例2において使用した8種の胃がん由来培養細胞株について、LPCAT3の発現を、抗LPCAT3抗体及び抗β−tubulin抗体を用いたウェスタンブロッティングにより確認した。ウェスタンブロッティングの結果を図17に示す。この結果、8種の胃がん由来培養細胞株では、LPCAT3の発現量が低かった。
剖検例(がんなし)の胃から採取された5種の病理サンプルと実施例2において使用した8種の胃がん由来培養細胞株について、LPCAT3の発現を、抗LPCAT3抗体及び抗β−tubulin抗体を用いたウェスタンブロッティングにより確認した。ウェスタンブロッティングの結果を図17に示す。この結果、8種の胃がん由来培養細胞株では、LPCAT3の発現量が低かった。
[参考例3]
KrasV12を過剰発現させたNIH3T3細胞(KrasV12過剰発現細胞)におけるLPCAT3の発現量の細胞増殖への影響を調べた。
KrasV12を過剰発現させたNIH3T3細胞(KrasV12過剰発現細胞)におけるLPCAT3の発現量の細胞増殖への影響を調べた。
<LPCAT3発現用ベクターの作製>
ヒト精巣のRNAを鋳型としてSuperScript III(Life Technologies社製)とpolyAプライマーを用いて逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型にPhusion polymerase(NEW ENGLAND BioLabs社製)とフォワードプライマー(5’−GCGAGATCTATGGCGTCCTCAGCGGAGGGGGACG−3’)(配列番号3)とリバースプライマー(5’−GCGCTCGAGTTATTCCATCTTCTTTAACTTCTCT−3’)(配列番号4)とを用いてPCRを行い、LPCAT3のcDNAを増幅した。増幅したcDNAをpcDNA3.1(+)(Life Technologies社製)のBamHI−XhoIサイトにクローニングし、LPCAT3発現用ベクター(pcDNA3.1(+)−LPCAT3)を作製した。
ヒト精巣のRNAを鋳型としてSuperScript III(Life Technologies社製)とpolyAプライマーを用いて逆転写反応を行い、得られたcDNAを鋳型にPhusion polymerase(NEW ENGLAND BioLabs社製)とフォワードプライマー(5’−GCGAGATCTATGGCGTCCTCAGCGGAGGGGGACG−3’)(配列番号3)とリバースプライマー(5’−GCGCTCGAGTTATTCCATCTTCTTTAACTTCTCT−3’)(配列番号4)とを用いてPCRを行い、LPCAT3のcDNAを増幅した。増幅したcDNAをpcDNA3.1(+)(Life Technologies社製)のBamHI−XhoIサイトにクローニングし、LPCAT3発現用ベクター(pcDNA3.1(+)−LPCAT3)を作製した。
<フォーカスフォーメーションアッセイ>
まず、KrasV12過剰発現細胞を準備した。具体的には、細胞密度が1.3×105/3.5cmディッシュとなるように播いてから24時間後のNIH3T3細胞に、250ngのpQCXIN−K−rasV12ベクターと250ngのpcDNA3.1(+)−LPCAT3ベクター又はpcDNA3.1(+)ベクターを、lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、トリプシンで細胞を剥がし、1枚の3.5cmディッシュから回収した細胞を4枚の10cmディッシュに播いた。播種から14日後に、各ディッシュに形成されたフォーカス数を計測した。
まず、KrasV12過剰発現細胞を準備した。具体的には、細胞密度が1.3×105/3.5cmディッシュとなるように播いてから24時間後のNIH3T3細胞に、250ngのpQCXIN−K−rasV12ベクターと250ngのpcDNA3.1(+)−LPCAT3ベクター又はpcDNA3.1(+)ベクターを、lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、トリプシンで細胞を剥がし、1枚の3.5cmディッシュから回収した細胞を4枚の10cmディッシュに播いた。播種から14日後に、各ディッシュに形成されたフォーカス数を計測した。
各ディッシュに形成されたフォーカス数の計測結果を図18に示す。また、各ディッシュの細胞のRas及びβ−チューブリンの発現量をウェスタンブロッティングにより確認した。ウェスタンブロッティングの結果も図18に示す。この結果、KrasV12の過剰発現により亢進された細胞増殖能は、LPCAT3の過剰発現により抑制されることが確認された。
[参考例4]
LPCAT3を安定的に過剰発現させる株を作製し、LPCAT3の過剰発現の細胞増殖への影響を調べた。
LPCAT3を安定的に過剰発現させる株を作製し、LPCAT3の過剰発現の細胞増殖への影響を調べた。
<GFP−LPCAT3発現用ベクターの作製>
まず、参考例3で得たLPCAT3のcDNAを、GFP融合タンパク質の発現用ベクターpEGFP−C1(Clontech社製)のXhoI−BamHIサイトにクローニングし、GFP−LPCAT3発現用ベクター(pEGFP−C1−LPCAT3ベクター)を作製した。
まず、参考例3で得たLPCAT3のcDNAを、GFP融合タンパク質の発現用ベクターpEGFP−C1(Clontech社製)のXhoI−BamHIサイトにクローニングし、GFP−LPCAT3発現用ベクター(pEGFP−C1−LPCAT3ベクター)を作製した。
<GFP−LPCAT3安定発現株の作製>
細胞密度が5×106/3.5cmディッシュとなるように播いてから24時間後のMKN−28細胞に、4μgのpEGFP−C1−LPCAT3ベクター又はpEGFP−C1ベクターを、lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後細胞を10cmディッシュに播き、250μg/mLのG418を含む培地に交換し、さらに14日間培養(3日毎にG418添加培地を交換)することによって、GFP−LPCAT3を恒常的に発現する細胞(GFP−LPCAT3安定発現株)を2種類(クローンNo.18及び20)と、GFPを恒常的に発現する細胞(GFP安定発現株)を1種類をそれぞれ選抜した。GFP−LPCAT3及びGFPの発現は、蛍光顕微鏡によって確認した。
細胞密度が5×106/3.5cmディッシュとなるように播いてから24時間後のMKN−28細胞に、4μgのpEGFP−C1−LPCAT3ベクター又はpEGFP−C1ベクターを、lipofectamine 2000(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後細胞を10cmディッシュに播き、250μg/mLのG418を含む培地に交換し、さらに14日間培養(3日毎にG418添加培地を交換)することによって、GFP−LPCAT3を恒常的に発現する細胞(GFP−LPCAT3安定発現株)を2種類(クローンNo.18及び20)と、GFPを恒常的に発現する細胞(GFP安定発現株)を1種類をそれぞれ選抜した。GFP−LPCAT3及びGFPの発現は、蛍光顕微鏡によって確認した。
得られたGFP−LPCAT3安定発現株及びGFP安定発現株の増殖性を調べた。具体的には、96ウェルプレートに3×103個/ウェルの細胞密度になるように細胞を播いて72時間培養した。培養開始から0、24、48、及び72時間後に、10μLのWST−8を加え、37℃で2時間静置した。静置後の各ウェルについて、マイクロプレートリーダー(Synergy HT with KC4;セントラル科学貿易社製)を用いて450nmの吸光度を測定した。
測定結果を図19に示す。この結果、培養開始から48〜72時間後では、2種類のGFP−LPCAT3安定発現株のほうがGFP安定発現株よりも450nmの吸光度が小さく、増殖が有意に減少していた。
Claims (6)
- 下記式(1)で表されるフォスファチジルコリン及び下記式(2)で表されるフォスファチジルコリンからなる群より選択される1種以上を有効成分とすることを特徴とする、抗がん剤。
- 消化管がんの治療又は予防に用いられる、請求項1に記載の抗がん剤。
- 胃がんの治療又は予防に用いられる、請求項1に記載の抗がん剤。
- がん組織又はがん化が疑われる組織に直接噴霧又は塗布される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗がん剤。
- 経口投与される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗がん剤。
- 前記フォスファチジルコリンがミセル又はリポソームを形成している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗がん剤。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2015085850A JP2016204289A (ja) | 2015-04-20 | 2015-04-20 | 抗がん剤 |
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