JP2016180633A - 内燃機関を動力源として搭載した車両のモード燃費算出装置、およびモード燃費算出方法 - Google Patents

内燃機関を動力源として搭載した車両のモード燃費算出装置、およびモード燃費算出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】内燃機関を動力源とする車両のモード燃費を精度良く算出する。
【解決手段】評価モードを、内燃機関の運転条件(機関回転速度および発生トルク)を示す時系列データに変換し、得られた時系列データに従って、定常燃費マップから定常燃費を読み出していく。更に、読み出した定常燃費をトルク変化速度に基づいて補正し、補正した燃費を用いてモード燃費を算出する。こうすれば、内燃機関の運転条件が刻々と変化することによる燃費への影響を考慮することができるので、モード燃費の算出精度を改善することが可能となる。
【選択図】図2

Description

本発明は、内燃機関を動力源とする車両が、所定の評価モードに従って運転された時のモード燃費を算出する技術に関する。
内燃機関を動力源として搭載した車両は、多くの産業にとって重要な輸送手段となっており、あらゆる場面で広く使用されている。このため、車両による化石燃料の消費が地球環境に与える影響は大きく、車両の走行に伴う燃料消費量をできるだけ抑制することが強く要請されてきた。このことに対応して、車両の燃料消費量には法律上の基準値が設定され、燃料消費量が基準値を超えないようにすることが要請されてきた。そして、この基準値は、その時の技術水準を踏まえて設定され、その後の技術開発によって技術水準が向上すると、新たな基準値が設定されるといったことが繰り返されて今日に至っている。
ここで、当然ながら、長い距離を走行するためには多くの燃料を必要とするから、車両の走行距離が長くなるほど燃料消費量は増加する。そこで、基準値には、単位走行距離あたりの消費量(距離燃費、以下では単に「燃費」と称する)が用いられる。また、車両の燃費は、車両の走行状態によって大きく変化する。そこで、代表的な評価パターン(以下では「評価モード」と呼ぶ)を予め定めておき、その評価モードに従って運転された時の燃費(「モード燃費」と呼ばれる)が基準値として用いられている。尚、評価パターンとしては、車両を走行させる評価パターン(「走行モード」と呼ばれる)が用いられることが多いが、車両の代表的な走行状態を念頭に置いて、内燃機関の機関回転速度や発生トルクを正規化して設定された評価パターンが用いられることもある。
また、モード燃費は、いわゆる乗用車のような小型の車両(軽量車両)では、シャシーダイナモメーターと呼ばれる専用の装置を用いて、評価モードに従って実際に車両を運転することによって計測することが一般的である。これに対して、トラックやバスなどのように大型の車両(重量車両)では、シャシーダイナモメーターを用いた方法ではなく、内燃機関単独で燃料消費量を実測した結果を元に、計算によってモード燃費を求める方法(「シミュレーション法」と呼ばれることがある)が用いられる。この理由は、トラックやバスなどでは大型のシャシーダイナモメーターが必要となることに加えて、乗用車などと異なり内燃機関と変速機と車体との組み合わせが多岐に亘るため、それらの組合せの車両毎に実際の車両を用いて、評価モードに従って運転したのでは手間が掛かりすぎることによる。これに対して、シミュレーション法では、内燃機関の運転条件(機関回転速度および発生トルク)を様々に変えて内燃機関単体での燃料消費量を実測しておけば、変速機や車体との組合せが変わっても、計算によって、簡単に且つ精度良くモード燃費を求めることが可能である(非特許文献1)。
野田、「自動車エネルギー消費効率の評価手法と試験設備」、自動車技術、公益社団法人自動車技術会、平成17年7月、第59巻、第7号、p.74−76
しかし、今日では、シミュレーション法によるモード燃費の算出精度が十分とは言えなくなりつつあるという問題が生じている。これは、技術の進歩によってモード燃費が低減され、それに伴って基準値が小さな値に見直されてきた結果、現状のシミュレーション法が有するモード燃費の算出誤差の大きさが、基準値に対して無視できなくなりつつあるためである。
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、車両のモード燃費を精度良く算出することが可能な技術の提供を目的とする。
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明のモード燃費算出装置は、次の構成を採用した。すなわち、
内燃機関を動力源として搭載し、該内燃機関が発生した発生トルクを伝達機構を介して車輪に伝えることによって走行する車両が、所定の評価モードに従って運転された時の燃料消費量であるモード燃費を算出するモード燃費算出装置であって、
前記車両の重量および前記伝達機構の変速比を少なくとも含んだ車両情報を記憶している車両情報記憶手段と、
前記評価モードの時系列データを前記車両情報に従って変換することにより、前記車両が該評価モードに従って運転された時の前記内燃機関の機関回転速度および前記発生トルクの時系列データを生成する時系列データ生成手段と、
前記機関回転速度および前記発生トルクによって規定される運転条件で前記内燃機関を定常運転した時の、時間あたりの燃料消費量である定常燃費を記憶している定常燃費記憶手段と、
前記機関回転速度および前記発生トルクの前記時系列データに従って前記定常燃費記憶手段から読み出した前記定常燃費を、前記発生トルクの時系列データから求めたトルク変化速度に基づいて補正することによって補正燃費を算出する補正燃費算出手段と、
前記補正燃費を累積することによって前記モード燃費を算出するモード燃費算出手段と
を備えることを要旨とする。
また、上述したモード燃費算出装置に対応する本発明のモード燃費算出方法は、次の構成を採用した。すなわち、
内燃機関を動力源として搭載し、該内燃機関が発生した発生トルクを伝達機構を介して車輪に伝えることによって走行する車両が、所定の評価モードに従って運転された時の燃料消費量であるモード燃費を算出するモード燃費算出方法であって、
前記評価モードの時系列データを読み出す工程と、
前記車両の重量および前記伝達機構の変速比を少なくとも含んだ車両情報を読み出す工程と、
前記評価モードの時系列データを前記車両情報に従って変換することにより、前記車両が該評価モードに従って運転された時の前記内燃機関の機関回転速度および前記発生トルクの時系列データを生成する工程と、
前記機関回転速度および前記発生トルクによって規定される運転条件で前記内燃機関を定常運転した時の、時間あたりの燃料消費量である定常燃費を予め記憶しておき、前記機関回転速度および前記発生トルクの前記時系列データに従って、前記定常燃費を読み出す工程と、
前記定常燃費を、前記発生トルクの時系列データから求めたトルク変化速度に基づいて補正することによって補正燃費を算出する工程と、
前記補正燃費を累積することによって前記モード燃費を算出する工程と
を備えることを要旨とする。
このような構成を有する本発明のモード燃費算出装置およびモード燃費算出方法においては、評価モードを表す時系列データを車両情報に従って変換することによって、内燃機関の運転条件(機関回転速度および発生トルク)の時系列データを生成する。そして、運転条件の時系列データに従って定常燃費を読み出していく。ここで、定常燃費は、内燃機関の運転条件に対応して予め記憶されている。こうして読み出した定常燃費を、発生トルクの時系列データから求めたトルク変化速度に基づいて補正した後、得られた補正燃費を累積することによって、モード燃費を算出する。
評価モードに従って運転されている間は、内燃機関の運転条件が刻々と変化しており、このような過渡状態での燃費は、たとえ運転条件が同じであっても、定常状態で計測した定常燃費とは異なっている。例えば、評価モード中で車両の加速時を想定した部分での燃費は定常燃費よりも大きな値となることが予想され、逆に減速時を想定した部分での燃費は定常燃費よりも小さな値となることが予想される。そして、このような燃費の違いが、シミュレーション法によるモード燃費の算出誤差の要因になっていると考えられる。そこで、本発明のモード燃費算出装置およびモード燃費算出方法では、トルク変化速度に基づいて定常燃費を補正し、得られた補正燃費を用いてモード燃費を算出する。こうすれば、内燃機関の運転条件が刻々と変化することによる燃費への影響を考慮することができるので、モード燃費の算出精度を改善することが可能となる。
また、上述した本発明のモード燃費算出装置においては、次のようにして補正燃費を算出しても良い。先ず、定常燃費の補正に用いる補正係数と、トルク変化速度との対応関係を記憶しておく。そして、発生トルクの時系列データに基づいて、所定時間幅でのトルク変化速度を求めて、そのトルク変化速度に対応する補正係数を取得する。そして、得られた補正係数を用いて定常燃費を補正することによって、補正燃費を算出することとしても良い。
こうすれば、トルク変化速度を求めるための時間幅を予め適切に設定しておくことで、トルク変化速度を用いて、内燃機関の運転条件の変化を適切に評価することができる。その結果、定常燃費を適切に補正することができるので、モード燃費の算出精度を改善することが可能となる。
また、上述した本発明のモード燃費算出装置においては、複数の時間幅でのトルク変化速度に基づいて補正係数を求めることとしても良い。すなわち、発生トルクの時系列データに基づいて、第1の時間幅(第1の時間内)でのトルク変化速度(第1トルク変化速度)と、第1の時間幅よりも長い第2の時間幅(第2の時間内)でのトルク変化速度(第2トルク変化速度)とを求める。また、第1トルク変化速度と第2トルク変化速度との組合せと、補正係数との対応関係を予め記憶しておく。そして、発生トルクの時系列データから得られた第1トルク変化速度および第2トルク変化速度に基づいて、その組合せに対応する補正係数を求めることとしても良い。
このように、異なる時間幅で求めた複数のトルク変化速度を用いれば、内燃機関の運転条件の変化を、より一層適切に評価することができる。その結果、定常燃費を適切に補正することができるので、モード燃費の算出精度を改善することが可能となる。
また、上述した本発明のモード燃費算出装置においては、評価モードに従って運転している間に実測した時系列データを統計処理することによって生成した対応関係を記憶しても良い。すなわち、先ず、評価モードで運転中の実測燃費を、その時の内燃機関の運転条件に対応する定常燃費で除算することによって、運転中に刻々と変化する瞬間補正係数を算出する。更に、評価モードで運転中の発生トルクの時系列データに基づいて、運転中に刻々と変化するトルク変化速度も求めておく。そして、こうして得られた瞬間補正係数と、トルク変化速度との対応関係を統計処理することによって、瞬間補正係数とトルク変化速度との対応関係を生成する。このようにして得られた対応関係を、補正係数とトルク変化速度との対応関係として記憶しておいてもよい。
評価モードでの運転中に実測したデータに基づいて、補正係数とトルク変化速度との対応関係を生成することができるので、評価モードが内燃機関の運転条件に影響を与える様々な要因を、対応関係に反映させることができる。その結果、より一層、モード燃費の算出精度を改善することが可能となる。
本発明によれば、トラックやバスなどの重量車両を含めて、内燃機関を動力源とする車両のモード燃費を、十分な精度で算出することが可能となる。
シミュレーション法を用いたモード燃費の大まかな算出原理を示す説明図である。 本実施例のモード燃費算出装置10の大まかな内部構成を示すブロック図である。 本実施例のモード燃費算出装置10が補正係数CFを決定するために参照する対応関係の生成方法を示したフローチャートである。 評価モードに従って運転した時の実測データを解析して対応関係を生成する様子を示す説明図である。 トルク変化速度と瞬間補正係数との対応関係を統計処理することによって補正係数CFの回帰式を決定する様子を示す説明図である。 回帰式によって得られる補正係数CFの精度を示す説明図である。 中排気量の内燃機関を搭載した車両について、車両が空積載の場合と最大積載の場合とで内燃機関の運転条件を比較した結果を示す説明図である。 中排気量の内燃機関を搭載した車両について、車両が空積載の場合と最大積載の場合とでトルク変化速度の分布を比較した結果を示す説明図である。 小排気量の内燃機関を搭載した車両について、車両が空積載の場合と最大積載の場合とで内燃機関の運転条件を比較した結果を示す説明図である。 小排気量の内燃機関を搭載した車両について、車両が空積載の場合と最大積載の場合とでトルク変化速度の分布を比較した結果を示す説明図である。 トルク変化速度の算出に用いる時間幅が補正精度に与える影響を示した説明図である。 2つの時間幅で求めたトルク変化速度を用いることによって補正係数CFの算出精度が改善される様子を示した説明図である。
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.モード燃費を算出するシミュレーション法の概要 :
B.本実施例のモード燃費算出装置 :
B−1.装置構成 :
B−2.対応関係の生成方法 :
C.補正係数CFの算出精度の改善方法 :
C−1.第1の改善方法 :
C−2.第2の改善方法 :
C−3.第3の改善方法 :
A.モード燃費を算出するシミュレーション法の概要 :
本実施例のモード燃費算出装置(およびモード燃費算出方法)について説明する準備として、従来から行われてきたシミュレーション法でモード燃費を算出する原理について、概要を説明しておく。
図1は、シミュレーション法を用いたモード燃費の大まかな算出原理を示す説明図である。シミュレーション法では、先ず始めに、モード燃費を算出しようとする評価モードのデータを取得する。ここで評価モードとは、実際に車両が道路上を走行する場合を想定して、標準的と考えられる評価パターンを設定したものである。評価モードは、図1(a)に例示されるように、時間の経過に対する車速の変化として規定されることが通常であるが、車速の変化に替えて道路勾配の変化で規定される場合もある。あるいは、時間の経過に対する車速および道路勾配の変化として、評価モードを規定することも可能である。更には、車両が道路上を走行する代表的な走行パターンを想定して内燃機関の運転条件の変化パターンを設定し、その変化パターンを内燃機関の運転範囲で正規化することによって評価モードを規定することもできる。何れの場合でも、評価モードは車両の走行が念頭に置かれており、車速を要素として含んでいる。そして、車速を時間で積分すれば走行距離が得られるから、同じ評価モードで走行した車両は同じ走行距離を走行することになる。従って、評価モードを走行するために要した燃料消費量を求めれば、同じ走行距離での燃費を比較することができる。
続いて、シミュレーション法では、評価モードの時系列データを、内燃機関の運転条件(発生トルクおよび機関回転速度)を表す時系列データに変換する。この変換に際しては、運転者が運転状況に応じて適切な変速タイミングで、適切な変速段に変速する操作をアルゴリズム化した変速プログラムを用いて、評価モードでの運転中の変速機の変速タイミングおよび変速段を決定する。このような変速プログラムは既に実用化されているので詳細な説明は省略するが、変速プログラムに対して、内燃機関の様々な機関回転速度での発生トルクに関する情報や、車体側での発生トルクの伝達機構に関する情報や、車両の走行抵抗に関する情報や、車両重量に関する情報を入力しておけば、モード走行時の変速機の変速タイミングおよび変速段を決定することができる。そして、変速機の変速タイミングおよび変速段が決まれば、評価モードの時系列データを機関回転速度の時系列データに変換することができる。図1(b)には、図1(a)の評価モードを変換して得られた機関回転速度の時系列データが例示されている。
また、時系列データに示された車速の時間変化(加速度)は、タイヤが路面に伝えるべき駆動力に対応している。そして、変速機の変速タイミングおよび変速段が決まれば、タイヤがその駆動力を伝えるために内燃機関が発生させなければならない発生トルクも決まってしまう。このため、評価モードの時系列データを、内燃機関が発生するべき発生トルクの時系列データに変換することもできる。図1(c)には、図1(a)の評価モードを変換して得られた発生トルクの時系列データが例示されている。
こうして得られた機関回転速度および発生トルクの時系列データは、評価モードでの運転中に内燃機関の運転条件が刻々と変化していく様子を表している。そして、内燃機関の運転条件に対する燃費(単位時間あたりの燃料消費量)は、その運転条件で実際に内燃機関を運転することによって、予め計測しておくことができる。図1(d)には、内燃機関の運転条件に対する燃費の計測結果(「定常燃費マップ」と呼ばれる)が例示されている。そこで、評価モードに従って運転条件が刻々と変化する中での、その時々の運転条件で定常燃費マップの燃費を累積する。例えば、図1(d)に示した例では、運転条件Aから、運転条件B、運転条件C、運転条件Dと運転条件が変化しているが、その変化途中も含めて、その時々の運転条件での定常燃費マップの燃費を累積する。こうした操作を、図1(b)および図1(c)に示した時系列データの全体に対して行えば、評価モードに従って運転するために要した燃料消費量を求めることができる。そして、求めた燃料消費量を走行距離で除算すればモード燃費が得られることになる。
シミュレーション法では、以上のような原理に基づいて、評価モードで運転した時のモード燃費を算出する。ところが、シミュレーション法で累積する燃費は、内燃機関を定常運転した時の燃費である。例えば、図1(d)で、定常燃費マップの運転条件Bに設定されている燃費は、運転条件Bで内燃機関を定常運転した時の燃費であって、運転条件Aから変化してきた時の燃費と一致するとは限らない。また、運転条件Aから時間をかけてゆっくりと運転条件Bに変化したのであれば、定常運転した時の燃費と大きな違いは無いと考えられるが、運転条件Aから短時間で変化してきた場合は、同じ運転条件Bでの燃費であっても、定常運転したときの燃費とは異なることが予想される。シミュレーション法の誤差の多くは、このような点に起因するものと考えられる。
加えて、近年では、いわゆる過給を行うことによって、内燃機関の排気量を増加させることなく発生トルクを増加させたり、あるいは発生トルクはそのままで排気量を小さくしたりする技術が採用されるようになってきた。過給を行った場合、運転条件が切り換わっても、新たな運転条件での過給の効果が得られるようになるまでには遅れが生じることが知られている。従って、過給を行う内燃機関が多くなってきたことも、シミュレーション法の誤差を大きくしている可能性がある。こうした点に鑑みて、本実施例のモード燃費算出装置では、シミュレーション法によるモード燃費の算出精度を大幅に改善するべく、以下のような方法を採用した。
B.本実施例のモード燃費算出装置 :
B−1.装置構成 :
図2は、本実施例のモード燃費算出装置10の大まかな内部構成を示すブロック図である。図示されるように、本実施例のモード燃費算出装置10は、時系列データ生成部11と、車両情報記憶部12と、定常燃費記憶部13と、補正燃費算出部14と、対応関係記憶部15と、モード燃費算出部16とを備えている。尚、これらの「部」は、モード燃費算出装置10がモード燃費を算出するために備える機能に着目して、モード燃費算出装置10の内部を便宜的に分類した抽象的な概念であり、モード燃費算出装置10がこれらの部に物理的に区分されることを表すものではない。従って、これらの「部」は、CPUで実行されるコンピュータープログラムとして実現することもできるし、LSIやメモリーを含む電子回路として実現することもできるし、更にはこれらを組合せることによって実現することもできる。また、本実施例のモード燃費算出装置10は、いわゆるマイクロコンピューターによって実現されている。
時系列データ生成部11は、評価モードの時系列データを受け取って、内燃機関の機関回転数を示す時系列データ(図1(b)参照)と、内燃機関の発生トルクを示す時系列データ(図1(c)参照)とを生成する。また、これら時系列データを生成するに際しては、車両情報記憶部12から車両情報を読み出して使用する。
車両情報記憶部12は、いわゆるメモリーであり、車両情報として、車両に搭載された内燃機関に関する情報と、車両から内燃機関を除いた車体に関する情報と、内燃機関を含めた車両に関する情報とが記憶されている。ここで、内燃機関に関する情報としては、内燃機関の運転可能な機関回転速度に関する情報や、様々な機関回転速度での最大発生トルクに関する情報などを記憶している。また、車体に関する情報としては、変速機の変速段毎の変速比や、ディフェレンシャルギアの最終減速比、タイヤ半径などの情報や、車体の空気抵抗係数、前面投影面積などの情報を記憶している。更に、内燃機関を含めた車両に関する情報としては、転がり抵抗係数や、空車時車両重量、最大積載量、乗員定数などを記憶している。
定常燃費記憶部13もメモリーであり、図1(d)に例示したいわゆる定常燃費マップ、すなわち様々な運転条件(機関回転速度および発生トルク)で内燃機関を定常運転した時の単位時間あたりの燃料消費量(定常燃費)を記憶している。
補正燃費算出部14は、時系列データ生成部11から受け取った機関回転速度および発生トルクの時系列データに従って、対応する運転条件での定常燃費を定常燃費記憶部13から読み出す。また、発生トルクの時系列データに基づいて発生トルクの変化速度(以下では、トルク変化速度)を取得すると、対応関係記憶部15から補正係数CFを読み出す。そして、定常燃費記憶部13から読み出した定常燃費に、対応関係記憶部15から読み出した補正係数CFを乗算することによって補正燃費を算出する。
対応関係記憶部15には、補正係数CFとトルク変化速度との対応関係が、トルク変化速度から補正係数CFを算出する計算式の形態で予め記憶されている。このような計算式を求める方法については、後ほど詳しく説明する。また、定常燃費を補正するための補正係数CFが、トルク変化速度によって決定されると考えて良い理由についても後述する。尚、補正係数CFとトルク変化速度との対応関係は、計算式の形態に限らず、例えば、トルク変化速度に対して補正係数CFを設定したマップの形態で記憶しておいても良い。
モード燃費算出部16は、補正燃費算出部14によって得られた補正燃費を累積することによって、評価モードに従って運転するために要する燃料消費量を求めた後、その燃料消費量を、評価モードに対応する走行距離で除算することによってモード燃費を算出する。
このように本実施例のモード燃費算出装置10は、定常燃費マップから読み出した定常燃費をそのまま累積するのではなく、内燃機関の運転条件が変化することを考慮して定常燃費を補正した燃費(補正燃費)を累積する。このため、モード燃費の算出精度を大きく向上させることが可能となる。もっとも、こうしたことが実現可能となったのは、定常燃費を補正するための補正係数CFを精度良く決定できるようになったためである。そこで、以下では、先ず始めに、補正係数CFとトルク変化速度との対応関係を生成する方法について説明し、その後、トルク変化速度に基づいて補正係数CFを決定することが可能な理由について説明する。
B−2.対応関係の生成方法 :
図3は、補正係数CFとトルク変化速度との対応関係を生成する方法を示したフローチャートである。図示したフローチャートの方法で補正係数CFとトルク変化速度との対応関係を生成するためには、評価モードに従って運転したときの燃費(単位時間あたりの燃料消費量)の時系列データを実測しておく必要がある。尚、以下では、実際に評価モードでの運転中に実測した燃費を「実測燃費」と称することにする。また、評価モードに従って運転している時の内燃機関の機関回転速度および発生トルクの時系列データも予め取得しておく必要がある。
尚、実測燃費を計測する方法としては、いわゆるカーボンバランス法や、燃料流量を測定する方法などが存在するが、これらの方法による燃費の計測には大きな遅れ時間が含まれており、瞬間的な燃費の変化を計測することができない。そして、このことは、補正係数CFの算出精度を低下させる要因となる。従って、実測燃費は、内燃機関の制御コンピューターが燃料噴射量を制御するために用いる内部データを取得して、その内部データを用いて算出することが望ましい。また、内燃機関の機関回転速度や発生トルクは、実測燃費を計測した時の内燃機関の機関回転速度および発生トルクを計測することが望ましい。
こうして、評価モードでの運転中の実測燃費、機関回転速度、発生トルクの時系列データを予め用意しておく。その上で、図3に示した対応関係生成処理を開始すると、先ず始めに、これらの時系列データを読み込む(S100)。
続いて、従来のシミュレーション法と同様に、機関回転速度および発生トルクの時系列データに従って定常燃費マップの定常燃費を読み出すことにより、定常燃費の時系列データを生成する(S101)。図4(a)には、このようにして得られた定常燃費の時系列データの一部分が拡大して例示されている。また、図4(b)には、S100で読み込んだ実測燃費の時系列データの対応する部分が例示されている。図4(a)に示した定常燃費の時系列データと図4(b)に示した実測燃費の時系列データとを比較すると、両者は全体的に良く一致している。しかし詳しく見ると、微妙な部分が異なっている。この違いが、評価モードでの運転中に内燃機関の運転条件(機関回転速度および発生トルク)が変化することによる影響と考えられる。
そこで、定常燃費を実測燃費に補正するための係数を考える。定常燃費の時系列データは図4(a)に示されており、実測燃費の時系列データは図4(b)に示されているから、図4(b)の実測燃費の時系列データを、図4(a)の定常燃費の時系列データで除算することによって、瞬間補正係数の時系列データを生成することができる(S102)。図4(c)には、このようにして得られた瞬間補正係数の時系列データの一部分が拡大して示されている。
続いて、発生トルクの時系列データから、トルク変化速度の時系列データを生成する(S103)。発生トルクの時系列データは、一定のサンプリング間隔で発生トルクを計測することによって得られた離散データであるから、発生トルクの時間微分を求めることはできない。そこで、一定時間幅(ここでは、0.1秒間)での発生トルクの変化量を求めることによって、トルク変化速度の時系列データを生成する。図4(d)には、このようにして得られたトルク変化速度の時系列データの一部分が拡大して示されている。
このようにして得られた瞬間補正係数およびトルク変化速度の時系列データは、評価モードでの運転に伴って、瞬間補正係数およびトルク変化速度が刻々と変化する様子を表している。従って、瞬間補正係数およびトルク変化速度のデータの組が、時系列データのサンプル数に相当する個数、得られたことになる。そこで、これらのデータを、トルク変化速度に対する瞬間補正係数としてプロットしたところ、図5に示す結果が得られた。図5を見れば明らかなように、瞬間補正係数とトルク変化速度との間には強い相関が存在する。すなわち、図4(c)および図4(d)に示した時系列データでは、瞬間補正係数およびトルク変化速度の何れも一見、ランダムに変動しているようにしか見えない。しかし、一見ランダムに見える瞬間補正係数は、その時のトルク変化速度に応じて決まっていたことになる。
そこで、図5に例示した分布に基づいて、図中に破線で示したように、トルク変化速度から補正係数CFを求めるための対応関係を決定する(S104)。本実施例では、図5に示したデータを回帰分析することによって、補正係数CFをトルク変化速度の一次式で近似する計算式を求めて、この計算式をトルク変化速度と補正係数CFとの対応関係とした。こうして、トルク変化速度と補正係数CFとの対応関係が得られたら、図3に示す対応関係生成処理を終了する。図2に示した対応関係記憶部15は、このようにして生成した対応関係が記憶されている。
図6には、図4(d)に例示した時系列データのトルク変化速度から補正係数CFを算出して、図4(c)に例示した時系列データの瞬間補正係数と比較した結果が示されている。仮に、トルク変化速度から算出した補正係数CFと瞬間補正係数とが一致するなら、図6中に示した太い破線の上にプロットされる筈である。
図示されるように、全てのプロットが太い破線の上に載っているわけではなく、従って、トルク変化速度から算出した補正係数CFと瞬間補正係数とが完全に一致するわけではない。ちなみに、補正係数CFと瞬間補正係数との相関係数を算出したところ、相関係数は0.64程度となり、改善の余地を有する値となった。しかし、そうは言っても、瞬間補正係数が1.0よりも大きな値となる場合(定常燃費を大きめに補正しなければならない場合)には、計算によって求めた補正係数CFも1.0より大きくなり、しかも補正の程度が大きくなる程、補正係数CFの値も大きくなっている。また、瞬間補正係数が1.0よりも小さな値となる場合(定常燃費を小さめに補正しなければならない場合)には、計算によって求めた補正係数CFも1.0より小さくなり、補正の程度が大きくなる程、補正係数CFの値も1.0よりも小さな値となっている。このことから明らかなように、定常燃費マップから得られた定常燃費を補正係数CFで補正してやれば、実測燃費に近付けることができる。そして、本実施例のモード燃費算出装置10では、補正係数CFで補正した燃費を累積しているので、シミュレーション法によるモード燃費の算出精度を大幅に向上させることが可能となる。
以上に説明したように、トルク変化速度と補正係数CFとの対応関係(上述した説明では回帰式)を求めておけば、定常燃費マップから読み出した定常燃費を補正係数CFで補正することによって、近似的な実測燃費を算出することができる。但し、トルク変化速度と補正係数CFとの対応関係を求めるためには、実際に評価モードで車両(あるいは内燃機関)を運転して、実測燃費の時系列データを計測しておく必要がある。ここで、トルク変化速度と補正係数CFとの対応関係を求めておけば定常燃費から実測燃費を近似することができると言っても、その対応関係を求めるために実測燃費が必要なのでは、定常燃費から実測燃費を近似する意味が無い。しかし、トルク変化速度と補正係数CFとの対応関係を求めておくことの本当の意義は、ある条件で求めた対応関係を、異なる条件にも適用可能なことにある。以下、この点について説明する。
図7は、中程度の排気量の内燃機関が搭載された車両を想定して、評価モードで運転した時に、その内燃機関で用いられた運転条件の実測結果をプロットした説明図である。図7(a)には、使用する運転条件の範囲が小さくなるように車両を空積載の状態として、更に、空車時車両重量や変速比、タイヤ半径などについても、運転条件の範囲が小さくなるように適切に設定して実測した結果が示されている。また、図7(b)には、使用する運転条件の範囲が大きくなるように車両を最大積載の状態として、更に、空車時車両重量や変速比、タイヤ半径などについても、運転条件の範囲が大きくなるように適切に設定して実測した結果が示されている。
2つの図を比較すれば明らかなように、車両の積載状態や車両重量、変速比、タイヤ半径などによって用いられる運転条件は大きく変化する。これは、例えば積載量や車両重量が大きくなると加速時に車輪が路面に対して加えなければならない駆動力が大きくなるため、内燃機関が発生すべき発生トルクが大きくなり、更には、駆動力が不足する場合には変速機をシフトダウンすることとなって機関回転速度も増加するためである。このように、車両の積載状態や車両重量、変速比、タイヤ半径などが異なれば内燃機関の運転条件も大きく異なったものとなる。
しかし、補正係数CFは定常燃費から実測燃費を近似するための係数であることに鑑みると、補正係数CFは、評価モードの走行中に内燃機関がどのような運転条件で用いられるかではなく、運転条件がどのように変化するかということに最も大きく影響される筈である。そこで、図7に示した2つの条件での実測データを、トルク変化速度の出現頻度を用いて整理した。
図8(a)は、図7(a)に示した空積載状態での実測データをトルク変化速度の出現頻度で整理した結果を表している。例えば、図中でトルク変化速度0Nm/sに対して棒グラフに示された値は、トルク変化速度が−20Nm/s〜20Nm/sの範囲内となるデータの出現頻度を示している。また、図8(b)は、図7(b)に示した最大積載状態での実測データをトルク変化速度の出現頻度で整理した結果を表している。図8(a)と図8(b)とでは、内燃機関の運転条件は大きく異なっているにも拘わらず(図7参照)、トルク変化速度の頻度分布は驚くほどよく似ている。これは、運転条件は違っていても、運転条件の変化の仕方はほとんど同じであることを示している。
以上では、内燃機関の排気量が中程度の排気量であった場合のデータを例に用いて説明したが、内燃機関の排気量が中程度以外の場合でも全く同様なことが成り立つ。図9は、排気量が小さい内燃機関が搭載された車両を想定して、評価モードで運転した時に、その内燃機関で用いられた運転条件の実測結果をプロットした説明図である。図9(a)には、車両が空積載の状態での実測結果が示されており、図9(b)には、最大積載の状態での実測結果が示されている。尚、図9(a)および図9(b)の何れについても、車両の積載状態だけでなく、空車時車両重量や変速比、タイヤ半径などの条件が適宜変更されている。
図9から明らかなように、内燃機関の排気量が小さい場合でも、車両の積載状態や車両重量、変速比、タイヤ半径などによって内燃機関の運転条件は大きく変化する。一方、図9に示した2つの条件での実測データを、トルク変化速度の出現頻度を用いて整理すると、図10に示した結果が得られる。図10(a)は、図9(a)に示した空積載の状態でのトルク変化速度の出現頻度を表しており、図10(b)は、図9(b)に示した最大積載の状態でのトルク変化速度の出現頻度を表している。図10(a)と図10(b)とを比較すれば明らかなように、トルク変化速度の頻度分布はほとんど同じとなる。このように、どのような排気量の内燃機関の場合でも、車両の積載状態や車両重量、変速比、タイヤ半径などの違いによって運転条件が違っても、運転条件の変化の仕方はほとんど変わらないと考えられる。
ここで、前述したように、内燃機関の運転条件の違いは定常燃費に反映されており、補正係数CFは、運転条件が変化することによる影響を補正するものである。そして、上述したように、車両の積載状態や車両重量、変速比、タイヤ半径などの車体側の条件が違っても運転条件の変化の仕方はほとんど同じとなる。従って、どのような車体側の条件(積載状態や車両重量、変速比、タイヤ半径など)で補正係数CFを求めた場合でも、その補正係数CFを、異なる車体側の条件での補正係数CFとして流用することが可能と考えられる。
以上のことから、本実施例のモード燃費算出装置10では、ある車体側の条件(変速機の変速比や、ディフェレンシャルギアの最終減速比、タイヤ半径、前面投影面積、空気抵抗係数、転がり抵抗係数、空車時車両重量、最大積載量など)で、評価モードに従って車両(あるいは内燃機関)を運転して、トルク変化速度と補正係数CFとの対応関係を求めておけば、車体側の条件が変わっても、その車体側の条件に対応するモード燃費を精度良く算出することが可能となる。
C.補正係数CFの精度改善方法 :
以上では、トルク変化速度という1つの変数によって補正係数CFが決まる最も単純な方法について説明した。しかし、以下のようにすれば、補正係数CFの精度を改善することができ、その結果、モード燃費の算出精度を向上させることが可能となる。
C−1.第1の改善方法 :
前述したように、補正係数CFは内燃機関の運転条件が変化することによる影響を補正するものである。そして、運転条件の変化は、発生トルクの変化だけでなく、機関回転速度の変化にも現れる。従って、補正係数CFが、トルク変化速度と、機関回転速度の変化速度(以下では、「機関回転加速度」と称する)という2つの変数によって決定されるものとしてもよい。この場合は、補正係数CFを求めるための対応関係は、トルク変化速度および機関回転加速度の組と、補正係数CFとを対応付ける対応関係となる。
このような第1の改善方法で用いる対応関係は、図3および図4を用いて前述した方法とほぼ同様な方法で生成することができる。すなわち、前述した方法では、発生トルクの時系列データからトルク変化速度の時系列データを生成して(図3のS103)、瞬間補正係数とトルク変化速度との対応関係を回帰分析によって決定した(S104)。これに対して、第1の改善方法では、機関回転速度の時系列データから、機関回転加速度の時系列データを生成する。そして、トルク変化速度および機関回転加速度を説明変数とし、瞬間補正係数を目的変数として重回帰分析を実行すれば、トルク変化速度および機関回転加速度の組と、補正係数CFとを対応付ける対応関係を決定することができる。
こうすれば、トルク変化速度の影響だけでなく、機関回転加速度の影響も考慮して補正係数CFを求めることができるので、補正係数CFの精度を改善することができる。尚、実際に解析してみると、補正係数CFは、主にトルク変化速度に依存して決定され、機関回転加速度の影響はトルク変化速度に比べて小さいという結果が得られている。従って、機関回転加速度は、トルク変化速度と同等に補正係数CFを決定するパラメーターではなく、補正係数CFの精度を改善する補助的なパラメーターであると考えられる。
C−2.第2の改善方法 :
上述した実施例では、補正係数CFを決定するトルク変化速度は、一定時間幅(0.1秒間)での発生トルクの変化速度を求めて使用した。ここで、前述したように補正係数CFは、内燃機関の運転条件が変化することによる影響を補正するものであり、補正の対象となる物理的な現象は、内燃機関の吸排気系の条件が定常状態になるまでの遅れが主であると考えられる。すなわち、この遅れの影響を、一定時間幅(0.1秒間)で求めたトルク変化速度を用いて評価していることになる。そうであれば、吸排気系が有する遅れ時間と、同程度の長さの時間幅でトルク変化速度を求めてやれば、遅れ時間の影響を最も正確に評価できるものと考えられる。そして、このようなトルク変化速度に基づいて補正係数CFを決定してやれば、補正係数CFの精度を改善できる筈である。そこで、トルク変化速度を求める時間幅を様々に変更して補正係数CFの計算式を求め、それぞれの計算によって得られた補正係数CFを瞬間補正係数(=実測燃費/定常燃費)と比較した。
図11は、トルク変化速度を求める時間幅が、0.1秒の場合と、0.5秒の場合と、1.0秒の場合とで、補正係数CFと瞬間補正係数との相関係数を算出した結果を比較した説明図である。瞬間補正係数は実測データから求めた真の補正係数であるから、相関係数が1.0に近付くほど、補正係数CFの算出精度が高いことになる。
図11に示されるように、トルク変化速度を求める時間幅の設定を変更することによって、補正係数CFの瞬間補正係数に対する相関係数は大きく変動する。このことは、最適な時間幅が存在することを示すものと考えられる。また、時間幅0.5秒や、時間幅1.0秒では、時間幅の設定が長すぎて、吸排気系の遅れの程度を正確に反映するトルク変化速度を得ることができなかったものと考えられる。更に、時間幅0.1秒の相関係数もそれほど高い値ではないことを考えると、最適な時間幅は、おそらく、0.1秒〜0.5秒の範囲に存在するものと予想される。図11には、最適な時間幅が存在すると予想される時間範囲に斜線を付して表示してある。従って、このような時間範囲で試行錯誤を繰り返すことによって適切な時間幅を選択してやれば、補正係数CFの算出精度を改善することができる。
C−3.第3の改善方法 :
上述した第2の改善方法では、試行錯誤によって適切な時間幅を選択する必要がある。しかし、以下のようにすれば、試行錯誤によって適切な時間幅を決定しなくても、補正係数CFの算出精度を改善することが可能である。
例えば、図11に示した例では、最適な時間幅は0.1秒〜0.5秒の時間範囲に存在すると考えられるが、仮に最適な時間幅が0.1秒よりも少しだけ長い時間(例えば、0.15秒)だったとする。この場合、時間幅0.1秒で求めたトルク変化速度を用いれば、最適な時間幅でのトルク変化速度を用いた場合とほぼ同じ程度に、内燃機関の吸排気系の遅れを表現し得ると考えられる。しかし、最適な時間幅よりも少しだけ短い時間幅を用いているので、吸排気系の遅れの中でゆっくりと変化する成分は十分に評価できなくなっており、その分だけ、時間幅0.1秒での相関係数は最適な時間幅での相関係数よりも低くなる。そして、最適な時間幅よりも短い時間幅を用いたことによって評価できなくなった、ゆっくりと変化する遅れ成分は、最適な時間幅よりも長い時間幅0.5秒での評価を用いて補うことになる。
また、最適な時間幅が(0.15秒ではなく)0.2秒だったとする。最適な時間幅が0.15秒から0.2秒に増加すると言うことは、内燃機関の吸排気系の遅れの中でゆっくりと変化する成分の割合が大きくなっていることを意味している。従って、最適な時間幅が0.15秒から0.2秒に増加すると、時間幅0.1秒のトルク変化速度を用いて評価し得る割合は小さくなり、それに伴って、時間幅0.5秒のトルク変化速度を用いて補う割合は大きくなると考えられる。
最適な時間幅が0.5秒に近い場合にも全く同様なことが当て嵌まる。すなわち、最適な時間幅が0.5秒に近い場合には、時間幅0.5秒のトルク変化速度を用いて吸排気系の遅れのほとんどを評価し得るが、最適な時間幅が短くなるに従って、時間幅0.5秒のトルク変化速度を用いて評価し得る割合が小さくなり、それに伴って、時間幅0.1秒のトルク変化速度を用いて補う割合が大きくなると考えられる。
このことから、1つの時間幅でトルク変化速度を算出することを前提として、吸排気系の遅れを正確に評価し得る最適な時間幅を選択するのではなく、最適な時間幅より短い時間幅と、最適な時間幅より長い時間幅の2つの時間幅を用いれば、固定の時間幅でも吸排気系の遅れを正確に評価し得ると考えられる。
第3の改善方法では、このような考え方に基づいて、最適な時間幅より短い時間幅(ここでは0.1秒)で求めたトルク変化速度(ΔT0.1)と、最適な時間幅より長い時間幅(ここでは0.5秒)で求めたトルク変化速度(ΔT0.5)の2種類のトルク変化速度に対する補正係数CFの対応関係を設定する。このような対応関係も、図3を用いて前述した方法と、ほぼ同様にして設定することができる。
すなわち、図3を用いて前述した方法では、発生トルクの時系列データから時間幅0.1秒でのトルク変化速度(ΔT0.1)の時系列データを生成して(S103)、瞬間補正係数とトルク変化速度(ΔT0.1)との対応関係を回帰分析によって決定した(S104)。これに対して、第3の改善方法では、発生トルクの時系列データから時間幅0.5秒でのトルク変化速度(ΔT0.5)の時系列データも生成する。そして、重回帰分析を行うことによって、トルク変化速度(ΔT0.1)およびトルク変化速度(ΔT0.5)から補正係数CFを算出する重回帰式を決定することができる。尚、時間幅0.1秒でのトルク変化速度(ΔT0.1)は、本発明における「第1トルク変化速度」に対応し、時間幅0.5秒でのトルク変化速度(ΔT0.5)は、本発明における「第2トルク変化速度」に対応する。
図12には、このようにして、2つの時間幅でのトルク変化速度を用いて補正係数CFを算出した結果が示されている。図中に示した条件aは、時間幅0.1秒でのトルク変化速度(ΔT0.1)を用いて補正係数CFを算出した場合を表している。また、条件bは、時間幅0.1秒でのトルク変化速度(ΔT0.1)と、時間幅0.5秒でのトルク変化速度(ΔT0.5)を用いて補正係数CFを算出した場合を表している。更に、参考のための条件cとして、3つの時間幅を用いた場合、すなわち、時間幅0.1秒でのトルク変化速度(ΔT0.1)と、時間幅0.5秒でのトルク変化速度(ΔT0.5)と、時間幅1.0秒でのトルク変化速度(ΔT1.0)とを用いて補正係数CFを算出した場合を表している。
図12(a)に示されるように、条件bでの相関係数は、条件aでの相関係数よりも大きく増加している。このことは、最適な時間幅よりも短い時間幅でのトルク変化速度と、最適な時間幅よりも長い時間幅でのトルク変化速度とを用いて補正係数CFを決定することで、補正係数CFの算出精度を大きく改善可能なことを表している。
また、条件bと条件cとを比較すると、2つの条件での相関係数にはほとんど違いがない。このことは、トルク変化速度を求めるための時間幅は、最適な時間幅よりも短い時間と、最適な時間幅よりも長い時間の2種類を設定しておけば十分であり、それ以上に増やしても、補正係数CFの算出精度の大きな改善効果は期待できないことを示していると考えられる。
以上、本発明について各種の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。
本発明は、内燃機関を動力源として搭載した車両のモード燃費を、精度良く算出することができるので、車両の燃費の評価を初めとして、燃費を改善するための各種技術の開発や改良、評価などに好適に適用することができる。
10…モード燃費算出装置、 11…時系列データ生成部、
12…車両情報記憶部、 13…定常燃費記憶部、
14…補正燃費算出部、 15…対応関係記憶部、
16…モード燃費算出部。

Claims (5)

  1. 内燃機関を動力源として搭載し、該内燃機関が発生した発生トルクを伝達機構を介して車輪に伝えることによって走行する車両が、所定の評価モードに従って運転された時の燃料消費量であるモード燃費を算出するモード燃費算出装置であって、
    前記車両の重量および前記伝達機構の変速比を少なくとも含んだ車両情報を記憶している車両情報記憶手段と、
    前記評価モードの時系列データを前記車両情報に従って変換することにより、前記車両が該評価モードに従って運転された時の前記内燃機関の機関回転速度および前記発生トルクの時系列データを生成する時系列データ生成手段と、
    前記機関回転速度および前記発生トルクによって規定される運転条件で前記内燃機関を定常運転した時の、時間あたりの燃料消費量である定常燃費を記憶している定常燃費記憶手段と、
    前記機関回転速度および前記発生トルクの前記時系列データに従って前記定常燃費記憶手段から読み出した前記定常燃費を、前記発生トルクの時系列データから求めたトルク変化速度に基づいて補正することによって補正燃費を算出する補正燃費算出手段と、
    前記補正燃費を累積することによって前記モード燃費を算出するモード燃費算出手段と
    を備えるモード燃費算出装置。
  2. 請求項1に記載のモード燃費算出装置であって、
    前記トルク変化速度と、前記定常燃費の補正に用いる補正係数との対応関係を記憶している対応関係記憶手段を備え、
    前記補正燃費算出手段は、前記発生トルクの時系列データに基づいて所定時間幅での前記トルク変化速度を求めた後、該トルク変化速度に対応する前記補正係数を取得して前記定常燃費を補正することにより、前記補正燃費を算出する手段である
    モード燃費算出装置。
  3. 請求項2に記載のモード燃費算出装置であって、
    前記対応関係記憶手段は、第1の時間幅での前記トルク変化速度である第1トルク変化速度と、前記第1の時間幅よりも長い第2の時間幅での前記トルク変化速度である第2トルク変化速度との組合せと、前記補正係数との前記対応関係を記憶している手段であり、
    前記補正燃費算出手段は、前記第1トルク変化速度と前記第2トルク変化速度との組合せに対応する前記補正係数を取得して前記定常燃費を補正することにより、前記補正燃費を算出する手段である
    モード燃費算出装置。
  4. 請求項2または請求項3に記載のモード燃費算出装置であって、
    前記対応関係記憶手段は、前記対応関係として、
    前記評価モードに従って運転中の前記内燃機関で実測された時間あたりの燃料消費量である実測燃費を、前記運転条件に対応する前記内燃機関の前記定常燃費で除算することによって得られた瞬間補正係数と、前記評価モードで運転中の前記トルク変化速度との対応関係を統計処理することによって生成された対応関係を記憶している手段である
    モード燃費算出装置。
  5. 内燃機関を動力源として搭載し、該内燃機関が発生した発生トルクを伝達機構を介して車輪に伝えることによって走行する車両が、所定の評価モードに従って運転された時の燃料消費量であるモード燃費を算出するモード燃費算出方法であって、
    前記評価モードの時系列データを読み出す工程と、
    前記車両の重量および前記伝達機構の変速比を少なくとも含んだ車両情報を読み出す工程と、
    前記評価モードの時系列データを前記車両情報に従って変換することにより、前記車両が該評価モードに従って運転された時の前記内燃機関の機関回転速度および前記発生トルクの時系列データを生成する工程と、
    前記機関回転速度および前記発生トルクによって規定される運転条件で前記内燃機関を定常運転した時の、時間あたりの燃料消費量である定常燃費を予め記憶しておき、前記機関回転速度および前記発生トルクの前記時系列データに従って、前記定常燃費を読み出す工程と、
    前記定常燃費を、前記発生トルクの時系列データから求めたトルク変化速度に基づいて補正することによって補正燃費を算出する工程と、
    前記補正燃費を累積することによって前記モード燃費を算出する工程と
    を備えるモード燃費算出方法。
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