以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1〜図4を参照しながら、第1実施形態に係る車両の駆動装置1について説明する。図1は、駆動装置1を車両右側から見た側面図、図2は、駆動装置1の骨子図、図3は、駆動装置1の一部を示す断面図、図4は、図3の要部を拡大した図である。
図1〜図3に示すように、車両の駆動装置1は、FF式のハイブリッド車に搭載されるものであり、車両走行用の駆動源として、例えばエンジンルームに搭載されたエンジン2と、例えば右側の駆動輪36に連結されたドライブシャフト30の周囲に配設された複数のモータ、具体的には、第1、第2及び第3モータ51,52,53が設けられている。なお、図2及び図3においては、便宜上、第1及び第2モータ51,52のみが図示され、第3モータ53の図示が省略されている。
図1及び図2に示すように、エンジン2の車体幅方向の例えば左側にはトランスアクスル3が並設されている。トランスアクスル3は、例えばトルクコンバータ5を介してエンジン2のクランク軸2dに連結された変速機6と、該変速機6の出力を左右のドライブシャフト30,40に伝達する差動装置10とを備えている。
変速機6は例えば有段式の自動変速機であるが、手動変速機または無段変速機であってもよい。変速機6の出力ギヤ7は、差動装置10のデフケース12に固定されたデフリングギヤ14に噛合されており、これにより、エンジン2の出力は変速機6を介して差動装置10のデフケース12に伝達される。変速機6の変速機構及び差動装置10は、トランスアクスルケース4に収容されており、デフケース12は、軸受22(図3参照)を介してトランスアクスルケース4に回転可能に支持されている。
差動装置10及びこれに連結された左右のドライブシャフト30,40は、エンジン2よりも車両後方側に配設されている。差動装置10は、車幅方向の中央よりも左側にオフセットして配置されており、右側のドライブシャフト30は左側のドライブシャフト40よりも長尺とされている。
各ドライブシャフト30,40は、差動装置10に連結されたデフ側シャフト部材31,41と、自在継手34,44を介してデフ側シャフト部材31,41に連結された中間シャフト部材32,42と、一端側において自在継手35,45を介して中間シャフト部材32,42に連結されるとともに他端側において駆動輪36,46に連結された駆動輪側シャフト部材33,43とを備えている。デフ側シャフト部材31,41は、車体幅方向に延びるようにクランク軸2dに平行に配設されている。
差動装置10において、デフケース12を貫通するピニオンシャフト15上には、互いに対向する一対のピニオンギヤ16,17が回転可能に設けられ、これらのピニオンギヤ16,17に跨がって左右のサイドギヤ18,19が噛合されている。デフケース12には、左右のシャフト挿通部12a,12bがサイドギヤ18,19に対応して設けられている。各シャフト挿通部12a,12bには、ドライブシャフト30,40のデフ側シャフト部材31,41が挿通され、デフ側シャフト部材31,41の先端は、サイドギヤ18,19にスプライン嵌合されている。これにより、変速機6から差動装置10のデフケース12に伝達された動力は、走行状況に応じた回転差となるように左右のドライブシャフト30,40に伝達される。
エンジン2は、例えば4つの気筒を有するシリンダブロック2aと、該シリンダブロック2aの上部に固定されたシリンダヘッド2bと、シリンダブロック2aの下部に固定されたオイルパン2cとを備えている。エンジン2は所謂横置き式であり、クランク軸2dは、車体幅方向に延びるように配置されて、シリンダブロック2aに取り付けられている。また、エンジン2の排気管2eは、シリンダヘッド2bから車体後方側に向かって斜め下方に延びるように配設されている。
図2及び図3に示すように、クランク軸2dのトルクコンバータ5側の端部にはドライブプレート2lが設けられている。ドライブプレート2lは、トルクコンバータ5のケース5aに固定されており、これにより、該ケース5aは、クランク軸2dと一体回転するようになっている。
また、クランク軸2dには、エンジン2の始動に用いられるリングギヤ2jを外周に有するスターティングプレート2fが設けられている。スターティングプレート2fは、ドライブプレート2lの軸方向反トルクコンバータ5側に隣接して配置されている。
スターティングプレート2fは、クランク軸2dに固定された円盤状のインナプレート部2gと、該インナプレート部2gの外周部にワンウェイクラッチ2iを介して連結された環状のアウタプレート部2hとを備えている。
図4に示すように、インナプレート部2gは、クランク軸2dに固定された被固定部130と、該被固定部130の径方向外側に配置されてワンウェイクラッチ2iの外輪を構成する外輪部131と、被固定部130と外輪部131とを繋ぐ環状のフランジ部132とを備えている。
被固定部130はフランジ部132の内周部から、外輪部131はフランジ部132の外周部から、それぞれ軸方向トルクコンバータ5側に突出している。被固定部130は、ドライブプレート2lと共に、例えばボルト139を用いてクランク軸2dに固定されており、これにより、インナプレート部2gはクランク軸2dと一体回転する。
アウタプレート部2hは、外輪部131と軸方向にオーバラップするように該外輪部131の径方向内側に配置されてワンウェイクラッチ2iの内輪を構成する内輪部140と、外輪部131の径方向外側に配置された外側環状部141と、内輪部140と外側環状部141を繋ぐ環状の第1フランジ部142と、外側環状部141から径方向外側に拡がる環状の第2フランジ部143とを備えている。
第1フランジ部142は、軸方向における外輪部131とドライブプレート2lとの間に配置されている。内輪部140は第1フランジ部142の内周部から、外側環状部141は第1フランジ部142の外周部から、それぞれ軸方向反トルクコンバータ5側に突出している。
内輪部140は、被固定部130と軸方向にオーバラップするように該被固定部130の径方向外側に配置されている。被固定部130と内輪部140との間には軸受2kが介装されており、該軸受2kを介してアウタプレート部2hがインナプレート部2gに回転可能に支持されている。
内輪部140及び外輪部131は、例えばスプラグからなるロック要素133と共に、ワンウェイクラッチ2iを構成している。ロック要素133は、内輪部140に対する外輪部131の相対回転を内輪部140から外輪部131への動力伝達時には阻止するように且つこれと反対方向の動力伝達時には許容するように、内輪部140と外輪部131との間に介装されている。これにより、ワンウェイクラッチ2iは、アウタプレート部2hからインナプレート部2gへの動力伝達時にのみロックされ、これと反対方向の動力伝達時には空転することで該動力伝達を遮断するように構成されている。
外側環状部141は、外輪部131と軸方向にオーバラップするように該外輪部131の径方向外側に配置されている。外輪部131と外側環状部141との間には、これらの相対回転を許容するシール部材2mが介装されている。第2フランジ部143の内周部は、外側環状部141に固定されているが、第2フランジ部143と外側環状部141を一体に設けるようにしてもよい。
以上のように構成されたスターティングプレート2fにおいて、被固定部130、内輪部140、外輪部131、外側環状部141及び第2フランジ部143は、径方向内側からこの順で並ぶように且つ軸方向において相互にオーバラップするように配置されている。
リングギヤ2jは、アウタプレート部2hの第2フランジ部143の外周に形成されている。クランク軸2dとリングギヤ2jとの間に設けられた上述のワンウェイクラッチ2iは、リングギヤ2jからの動力をクランク軸2d側へ伝達し、クランク軸2dからリングギヤ2j側への動力伝達を遮断する。
図1〜図3に示すように、右側のドライブシャフト30のデフ側シャフト部材31上には、第1、第2及び第3モータ51,52,53をユニットケース55に収容した状態でユニット化してなるモータユニット50が配設されている。モータユニット50は、エンジン2の後方且つ差動装置10の右側に生じるスペースを利用して配設されている。
図1に示すように、第1、第2及び第3モータ51,52,53は、軸方向から見てドライブシャフト30を囲むように配置されている。具体的に、第1モータ51は、車体前後方向においてドライブシャフト30とオーバラップするように該ドライブシャフト30の上方に隣接して配設されている。また、第1モータ51は、車体上下方向においてクランク軸2dとオーバラップするように、シリンダブロック2aの車体後方側に隣接して配設されている。
第2モータ52は、ドライブシャフト30の車体後方側に隣接して配設されており、第3モータ53は、ドライブシャフト30の下方に隣接して配設されている。また、第3モータ53は、車体上下方向においてオイルパン2cとオーバラップするように該オイルパン2cの車体後方側に近接して配置されている。
図3に示すように、ユニットケース55は、相互に結合された第1、第2、第3ケース部55a,55b,55cを備えている。第1、第2、第3ケース部55a,55b,55cは、軸方向の反差動装置10側からこの順で配置されている。また、ユニットケース55は、第1ケース部55aの反差動装置10側の開口部を塞ぐ第1カバー部55dと、第3ケース部55cの差動装置10側の開口部を塞ぐ第2カバー部55eとを備えている。
第1モータ51は、ユニットケース55の第1ケース部55aに固定されたステータ56と、ステータ56の径方向内側に回転可能に設けられたロータ57と、ロータ57と一体回転するようにロータ57の内周に固定された出力軸(ロータ軸)58とを備えている。
同様に、第2モータ52は、ユニットケース55の第1ケース部55aに固定されたステータ156と、ステータ156の径方向内側に回転可能に設けられたロータ157と、ロータ157と一体回転するようにロータ157の内周に固定された出力軸(ロータ軸)158とを備えている。また、図示は省略するが、第3モータ53は、第2モータ52と同様のステータ156、ロータ157及び出力軸158を備えている。
各モータ51,52,53のステータ56,156は、磁性体からなるステータコアにコイルが巻回されて構成されている。各モータ51,52,53のロータ57,157は、筒状の磁性体で構成されており、ステータ56,156に電力が供給されたときに生じる磁力により回転する。
各モータ51,52,53の出力軸58,158は、ドライブシャフト30の周囲においてドライブシャフト30に平行に配置されるように軸受101,102,103,104を介してユニットケース55の第1ケース部55a及び第1カバー部55dに支持されており、これにより、以下のように簡素に構成された動力伝達経路を介して、各モータ51,52,53の動力をデフケース12に伝達可能となっている。
第1、第2及び第3モータ51,52,53の軸方向の差動装置10側には、それぞれ、モータ51,52,53の出力を減速する減速機として機能し得るプラネタリギヤ機構60,160が配設されている。これらのプラネタリギヤ機構60,160は、いずれもユニットケース55の第2ケース部55bに収容されている。
なお、第3モータ53に対応するプラネタリギヤ機構は、図2及び図3において図示が省略されているが、第2モータ52に対応するプラネタリギヤ機構160と同様の構成を有する。
各プラネタリギヤ機構60,160は、第1回転要素としてのリングギヤ62,162、第2回転要素としてのキャリヤ63,163、及び、第3回転要素としてのサンギヤ61,161を備えている。
第1モータ51に対応するプラネタリギヤ機構60において、サンギヤ61は第1モータ51の出力軸58に常時連結されており、これにより、第1モータ51の出力がサンギヤ61に入力される。
プラネタリギヤ機構60の軸方向差動装置10側には、上述したエンジン始動用のリングギヤ2jを介してクランク軸2dに連結可能な第1駆動軸76が配設されている。第1駆動軸76は、ドライブシャフト30の周囲において、第1モータ51の出力軸58と同一軸線上、すなわち、第1モータ51及びプラネタリギヤ機構60の軸心と同一軸線上に配置されている。
図4に示すように、第1駆動軸76の反差動装置10側の端部には、出力軸58の差動装置10側の端部の外側に相対回転可能に嵌合された嵌合部76aが設けられている。嵌合部76aは、ユニットケース55の第2ケース部55bに軸受106を介して回転可能に支持されている。
第1駆動軸76は、嵌合部76aから径方向外側に拡がるフランジ状の連結部76bを介してリングギヤ62に常時連結されている。連結部76bは第1駆動軸76に一体に設けられているが、第1駆動軸76に別体の連結部76bを連結させるようにしてもよい。
第1駆動軸76の差動装置10側の端部には、第2カバー部55eを貫通してユニットケース55の外側に突出する貫通部76cが設けられている。貫通部76cの外周には筒状部材77がスプライン嵌合されており、これにより、筒状部材77は第1駆動軸76と一体回転する。
貫通部76c及び筒状部材77は、筒状部材77の外周と第2カバー部55eの内周との間に介装された軸受105を介してユニットケース55に回転可能に支持されている。また、筒状部材77の外周と第2カバー部55eの内周との間には、第2カバー部55eに対する貫通部76c及び筒状部材77の相対回転を許容するオイルシール107が介装されている。
筒状部材77におけるユニットケース55からの突出部分は、エンジン始動用のリングギヤ2jの近傍に配置されており、該筒状部材77の突出部分の外周には、リングギヤ2jに常時噛み合うピニオンギヤ78が設けられている。このようにしてピニオンギヤ78が設けられた第1駆動軸76は、クランク軸2dに平行に配設されているため、ピニオンギヤ78とリングギヤ2jとの良好な噛み合いを容易に実現できる。
第1駆動軸76上には、該第1駆動軸76を固定するブレーキ74が配設されている。ブレーキ74は、第1駆動軸76の外周に固定されたハブ109と、ユニットケース55の第3ケース部55cの内周にスプライン嵌合された固定側摩擦板110と、ハブ109の外周にスプライン嵌合された回転側摩擦板111とを備えている。固定側摩擦板110と回転側摩擦板111は、軸方向において交互に配置されている。
これらの摩擦板110,111の軸方向の一方側には、第3ケース部55cの内周にスプライン嵌合されたリテーナ112が配設されている。リテーナ112の軸方向反摩擦板110,111側には、第3ケース部55cの内周に固定された例えばCリングからなる抜け止め部材114が配設されており、該抜け止め部材114によって、リテーナ112が軸方向に位置決めされている。また、摩擦板110,111を挟んでリテーナ112の軸方向反対側には、第3ケース部55cの内周にスプライン嵌合された押圧部材113が配設されている。
押圧部材113の軸方向反摩擦板110,111側には締結用ピストン120が配設されている。締結用ピストン120によって押圧部材113が軸方向の摩擦板110,111側に押圧されると、摩擦板110,111は、リテーナ112と押圧部材113とによって軸方向の両側から挟み込まれることで締結され、これにより、第1駆動軸76がユニットケース55に固定される。
さらに、ブレーキ74は、締結用ピストン120を軸方向の摩擦板110,111側へ常時付勢するリターンスプリング122と、押圧部材113を反摩擦板110,111側へ押圧することで摩擦板110,111を解放させる解放用ピストン124とを備えている。解放用ピストン124は、摩擦板110,111を挟んで締結用ピストン120の軸方向反対側に配設されている。解放用ピストン124の周方向の所定箇所には、押圧部材113に向かって軸方向に延びる爪部125が設けられている。
このように構成されたブレーキ74は、ノーマルクローズタイプの摩擦締結要素であり、解放用ピストン124の非作動時には、リターンスプリング122の付勢力によって、締結用ピストン120が押圧部材113を介して摩擦板110,111を常時押圧し、これにより、ブレーキ74の締結状態が維持される。
解放用ピストン124が作動するように油圧制御が行われると、解放用ピストン124は、その爪部125の先端において、締結用ピストン120による摩擦板110,111側への押圧力に抗して、押圧部材113を反摩擦板110,111側へ押圧する。これにより、摩擦板110,111の締結が解除されると、ユニットケース55に対する第1駆動軸76の連結が遮断されて、第1駆動軸76の回転が可能となる。
ただし、ブレーキ74の具体的な構成は特に限定されるものでなく、ブレーキ74として、例えば、ノーマルオープンタイプのものを用いてもよい。
ブレーキ74が締結された状態において、プラネタリギヤ機構60のリングギヤ62は、第1駆動軸76を介してユニットケース55に固定される。この状態で第1モータ51の動力がサンギヤ61に入力されると、リングギヤ62が反力要素として機能し、プラネタリギヤ機構60によって減速された回転がキャリヤ63から出力される。
キャリヤ63には、第1モータ51とプラネタリギヤ機構60との間に配置された動力伝達用のスリーブ66が常時連結されている。スリーブ66は、第1モータ51の出力軸58の外側に相対回転可能に嵌合されている。スリーブ66の外周には、キャリヤ63と一体回転するギヤ70が設けられている。
図3に示すように、第2モータ52に対応するプラネタリギヤ機構160において、サンギヤ161は第2モータ52の出力軸158に常時連結されており、これにより、第2モータ52の出力がサンギヤ161に入力される。
リングギヤ162の軸方向差動装置10側の端部には、径方向内側に延びる環状の連結部材164が連結されており、該連結部材164の内周部は、例えばスプライン嵌合によってユニットケース55の第2ケース部55bに固定されている。これにより、リングギヤ162は、連結部材164を介してユニットケース55に固定されている。
したがって、第2モータ52の動力がサンギヤ161に入力されると、リングギヤ162が反力要素として機能し、プラネタリギヤ機構160によって減速された回転がキャリヤ163から出力される。
キャリヤ163には、第2モータ52とプラネタリギヤ機構160との間に配置された動力伝達用のスリーブ166が常時連結されている。スリーブ166は、第2モータ52の出力軸158の外側に相対回転可能に嵌合されている。スリーブ166の外周には、キャリヤ163と一体回転するギヤ170が設けられている。
図示は省略するが、第3モータ53にも、同様のスリーブ166及びギヤ170が対応して設けられており、第3モータ53の出力は、対応するプラネタリギヤ機構160によって減速されてギヤ170に伝達される。
ドライブシャフト30のデフ側シャフト部材31上には、該デフ側シャフト部材31の外側に相対回転可能に嵌合された筒状の第2駆動軸82が配設されている。第2駆動軸82の差動装置10側端部は、差動装置10のデフケース12における右側のシャフト挿通部12aにスプライン嵌合している。これにより、第2駆動軸82は、デフケース12と一体回転すると共に、差動装置10及びドライブシャフト30,40を介して駆動輪36,46に連結されている。
第2駆動軸82の外周とトランスアクスルケース4の内周との間、及び、第2駆動軸82の外周とユニットケース55の第3ケース部55cの内周との間には、それぞれケース4,55に対する第2駆動軸82の相対回転を許容するオイルシール24,94が介装されている。
第2駆動軸82の反差動装置10側の端部には、第2駆動軸82と一体回転する統合ギヤ80が設けられている。統合ギヤ80は、第2駆動軸82に一体に設けられているが、第2駆動軸82の外周に別体の統合ギヤ80を固定するようにしてもよい。
第2駆動軸82は、統合ギヤ80よりも反差動装置10側において、ユニットケース55の第1ケース部55aに軸受96を介して回転可能に支持されている。また、軸受96よりも反差動装置10側において、第2駆動軸82と第3ケース部55cとの間には、第3ケース部55cに対する第2駆動軸82の回転を許容するオイルシール95が介装されている。
統合ギヤ80には、第1、第2及び第3モータ51,52,53に対応する上記ギヤ70,170が噛み合っている。これにより、第2駆動軸82は、統合ギヤ80に噛み合うギヤ70,170が設けられた各スリーブ66,166を介して、各プラネタリギヤ機構60,160のキャリヤ63,163に常時連結されている。
統合ギヤ80は、これに噛み合う各ギヤ70,170よりも大径であり、これにより、各ギヤ70,170の回転は減速されて統合ギヤ80に伝達される。そのため、各モータ51,52,53の出力は、プラネタリギヤ機構60,160による減速と、ギヤ70,170と統合ギヤ80との噛み合い部における減速とによってトルクが増大されて、第2駆動軸82を介してデフケース12に伝達される。
以上のようにデフケース12に連結された第1、第2及び第3モータ51,52,53は、車両駆動に利用可能となっている。
具体的に、エンジン2の駆動中において第1〜第3モータ51,52,53の少なくとも1つが駆動されると、デフケース12においてエンジン2からの動力にモータ51,52,53からの動力が統合され、この統合された動力がドライブシャフト30,40を介して駆動輪36,46に伝達される。これにより、モータ51,52,53によるトルクアシスト機能が果たされる。
一方、エンジン2が停止された状態で第1〜第3モータ51,52,53の少なくとも1つが駆動されると、該モータ51,52,53からの動力が差動装置10及びドライブシャフト30,40を介して駆動輪36,46に伝達されることで、駆動源としてモータ51,52,53のみが用いられるモータ走行が実現される。
また、いずれのモータ51,52,53も、発電機としても機能することが可能となっており、車両の減速走行中において、駆動輪36,46側から伝わる力によってロータ57,157が回転駆動されることで、運動エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ回生を行うことが可能となっている。
以上のように構成された第1、第2及び第3モータ51,52,53からデフケース12に至る動力伝達経路は、エンジン2からデフケース12に至る動力伝達経路から独立している。そのため、エンジン2側の動力伝達経路に関連する構成を変更することなく、予めアセンブリされたモータユニット50をドライブシャフト30上に搭載して、第2駆動軸82をデフケース12のシャフト挿通部12aにスプライン嵌合させるだけで、モータ51,52,53からデフケース12に至る動力伝達経路を容易に構築できる。したがって、このようにモータユニット50を追加するだけで、エンジン自動車を容易にハイブリッド車に変更することが可能である。
また、第1モータ51の動力は、上述したブレーキ74の締結・解放によって、第1駆動軸76又は第2駆動軸82のいずれかに選択的に伝達されるように構成されている。これにより、第1モータ51は、第2駆動軸82を介した動力伝達による上記の車両駆動やエネルギ回生に加えて、第1駆動軸76を介した動力伝達によるエンジン2の始動にも兼用することが可能となっている。
具体的には、ブレーキ74の締結によって、プラネタリギヤ機構60のリングギヤ62が固定された状態では、上記のように第1モータ51の出力軸58が第2駆動軸82を介してデフケース12に連結されることで、第1モータ51が車両駆動やエネルギ回生に利用される。
一方、ブレーキ74の解放によって、リングギヤ62及び第1駆動軸76の回転が可能とされた状態では、プラネタリギヤ機構60を介して第1駆動軸76上のピニオンギヤ78に常時連結された出力軸58を有する第1モータ51によって、ピニオンギヤ78を回転駆動することができ、これにより、第1モータ51がエンジン2の始動に利用される。
ピニオンギヤ78は、リングギヤ2jよりも小径であり、ピニオンギヤ78に対するリングギヤ2jのギヤ比は例えば15程度である。これにより、ブレーキ74が解放された状態で第1モータ51からピニオンギヤ78に伝達されるトルクは、ピニオンギヤ78とリングギヤ2jとの間において増大されてエンジン2のクランク軸2dに伝達され、これにより、クランキングを行うことが可能となっている。
ピニオンギヤ78はリングギヤ2jに常時噛み合っているが、クランク軸2d側からピニオンギヤ78への動力伝達は、スターティングプレート2fのインナプレート部2gとアウタプレート部2hとの間に設けられた上記のワンウェイクラッチ2iが空転することで遮断されるため、エンジン2の駆動中に、その動力がピニオンギヤ78に伝達されることは防止される。
ところが、リングギヤ2jが固定されていない状態では、ワンウェイクラッチ2iの外輪部131の回転がロック要素133を介して内輪部140に伝達されることがあり、これにより、クランク軸2dの回転がワンウェイクラッチ2iを介してリングギヤ2jに伝達され得る。エンジン2の駆動中において、このようなリングギヤ2jの連れ回りが生じると、該リングギヤ2jの回転は、これに常時噛み合うピニオンギヤ78に増速されて伝達されるため、該ピニオンギヤ78が破損したり、ピニオンギヤ78の回転が第1駆動軸76を介して第1モータ51に伝達されることで第1モータ51の過回転が生じたりする可能性がある。
この問題に対して、本実施形態では、ブレーキ74の締結によって第1駆動軸76を固定しておくことで、該第1駆動軸76に設けられたピニオンギヤ78に常時噛み合うリングギヤ2jを固定できる。そのため、エンジン2の始動を行わないときにはブレーキ74を締結しておくことで、エンジン2の駆動中におけるリングギヤ2jの連れ回りを防止でき、これにより、ピニオンギヤ78の破損や第1モータ51の過回転を抑制できる。
なお、上記のような常時噛み合い式のピニオンギヤ78に代えて、クランキングを行うときのみリングギヤ2jに噛み合うように第1駆動軸76上をスライド可能に設けられた飛び込み摺動式のピニオンギヤを用いてもよい。なお、この場合において、クランク軸2dの回転が完全に停止していない状態でリングギヤ2jに飛び込み摺動式のピニオンギヤを噛み合わせるときは、クランク軸2dの回転にピニオンギヤの回転を同期させるように第1モータ51の回転を制御しながらピニオンギヤの摺動を行えばよい。
第1モータ51によるエンジン2の始動は、停車中又は車両走行中のエンジン2の停止状態に行うことが可能である。車両走行中に第1モータ51によってエンジン2を始動させるときは、第2及び第3モータ52,53の少なくとも一方による車両駆動を並行して行うことができる。そのため、モータ走行を行いながら、第1モータ51によってエンジン2を始動させることができる。
停車中又は車両走行中のいずれにおいても、クランキングのための第1モータ51の駆動は、ブレーキ74が解放されることで第1駆動軸76の回転が可能とされた状態で行われる。
そのため、停車中のエンジン停止状態において、例えば、シフトレンジが駐車レンジ又は中立レンジであり、ブレーキペダルが踏み込まれたとき、ブレーキ74は自動的に解放されるように制御され、これにより、第1モータ51によるクランキングが可能になる。その後、運転者による始動操作によって、第1モータ51によるクランキングが行われ、エンジン2が完爆すると、第1モータ51が停止されると共に、ブレーキ74は自動的に締結されるように制御される。これにより、第1モータ51から第2駆動軸82及び差動装置10を介した駆動輪36,46までの動力伝達が可能になることで、第1モータ51による車両駆動又はエネルギ回生が可能になる。
また、車両走行中のエンジン停止状態において、例えば、スロットル開度が所定値以上であるとき、ブレーキ74は自動的に解放されるように制御され、これにより、第1モータ51によるクランキングが可能になる。その後、運転者による始動操作によって、第1モータ51によるクランキングが行われ、エンジン2が完爆すると、第1モータ51が停止されると共に、ブレーキ74は自動的に締結されるように制御される。これにより、第1モータ51から第2駆動軸82及びデフケース12を介した駆動輪36,46までの動力伝達が可能になることで、第1モータ51による車両駆動又はエネルギ回生が可能になる。
エンジン2の始動のために、ブレーキ74が解放された状態で第1モータ51が駆動されるとき、駆動輪36,46に連結されたプラネタリギヤ機構60のキャリヤ63は、路面から反力を受けることで反力要素として機能する。
なお、この第1モータ51によるエンジン始動が停車状態で行われる場合、第1モータ51側から受ける反力によって駆動輪36,46が回転することを防止するためには、例えば、駆動輪36,46に連結された第2及び第3モータ52,53の出力軸158が回転しないようにこれらのモータ52,53の少なくとも一方を制御したり、停車状態が確実に維持されるようにホイールブレーキの制動力を制御したり、第2及び第3モータ52,53の少なくとも一方に対応するプラネタリギヤ機構160のキャリヤ163とユニットケース55との間にブレーキ74とは別のブレーキを設けた上で、該ブレーキを電動ポンプ等による油圧供給によって締結することで、キャリヤ163を介して駆動輪36,46を固定したりすればよい。
一方、第1モータ51によるエンジン始動が車両走行中に行われる場合、第1モータ51側から受ける反力によって駆動輪36,46の回転が減速することを防止するためには、当該反力を相殺するようなトルクが駆動輪36,46に伝達されるように第2及び第3モータ52,53の少なくとも一方の出力トルクを増大させればよい。
上記のようにキャリヤ63が反力要素として機能した状態で、第1モータ51からサンギヤ61に入力された回転は、リングギヤ62から第1駆動軸76へ出力される。なお、停車状態又は低車速での走行状態では、キャリヤ63の回転が停止又は低速となることで、サンギヤ61に入力される回転の方向と、リングギヤ62から出力される回転方向とは互いに反対となる。
第1モータ51によるエンジン始動が行われるとき、プラネタリギヤ機構60は、サンギヤ61に入力された回転を減速させてリングギヤ62から出力する減速機として機能し得るように構成されることが好ましい。これにより、クランキングトルクの増大を図りつつ、第1モータ51の小型化を図ることが可能になる。
第1モータ51からプラネタリギヤ機構60を介して第1駆動軸76上のピニオンギヤ78に伝達された回転は、ピニオンギヤ78とリングギヤ2jとの間において更に減速されて、スターティングプレート2fのアウタプレート部2h、ロックされたワンウェイクラッチ2i、及びインナプレート部2gを介してクランク軸2dに伝達される。
これにより、上記の減速によって十分に増大された第1モータ51の出力トルクを利用して、クランキングを行うことが可能となっている。そのため、小出力の第1モータ51を用いても、大きなクランキングトルクを得ることが可能となり、これにより、第1モータ51の大型化を抑制しつつ、エンジン2の冷間時やエンジン2が高圧縮比タイプである場合等においても、確実にエンジン2を始動させることができる。また、車両駆動用の第1モータ51がエンジン2の始動用として兼用されることで、エンジン始動専用のスタータモータを廃止することが可能になる。したがって、駆動装置1の構造の簡素化及びコンパクト化を実現できる。
また、本実施形態によれば、ブレーキ74の締結と解放を切り換えるだけで、第1モータ51の動力伝達相手を第1駆動軸76と第2駆動軸82との間で切り換えることができ、これにより、第1モータ51の機能が車両駆動機能とエンジン始動機能との間で切り換えられる。
通常、1つのモータの動力を2つの駆動軸に選択的に伝達させるためには、モータと2つの駆動軸との間の各動力伝達経路にクラッチを設ける構成が採用される。しかも、上述のワンウェイクラッチ2iの連れ回りを防止するためには、リングギヤ2jやピニオンギヤ78を固定するためのブレーキも必要となることから、全部で3つの係合要素を設ける必要がある。これに対して、本実施形態では、これら3つの係合要素の機能が1つのブレーキ74で果たされるため、係合要素の削減が実現され、モータユニット50の構成の簡素化及びコンパクト化を図ることができる。
また、本実施形態によれば、ドライブシャフト30上に第2駆動軸82が配設され、ドライブシャフト30の周囲において第2駆動軸82に平行に配設された第1駆動軸76の軸線上に、第1モータ51及びプラネタリギヤ機構60が配設されているため、第1モータ51からプラネタリギヤ機構60を介して出力される動力を第1駆動軸76及び第2駆動軸82に伝達するための各動力伝達経路を簡素に構成できる。したがって、第1モータ51を車両駆動とエンジン始動に兼用するための構成を簡素化できるため、モータユニット50のコンパクト化及び簡素化を効果的に果たすことができる。
[第2実施形態]
図3及び図4を参照しながら、第2実施形態に係る車両の駆動装置201について説明する。図3は、駆動装置201を車両右側から見た側面図であり、図4は、駆動装置201の骨子図である。なお、第1実施形態と同様の構成要素については、図3及び図4において同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
図3及び図4に示すように、車両の駆動装置201は、FF式のハイブリッド車に搭載されるものであり、車両走行用の駆動源として、第1実施形態と同様のエンジン2と、例えば右側の駆動輪36に連結されたドライブシャフト30上に配設されたモータ251とを備えている。
エンジン2のクランク軸2dは、第1実施形態と同様のトランスアクスル3を介して、左右のドライブシャフト30,40に連結可能とされている。また、クランク軸2dには、第1実施形態と同様のドライブプレート2l及びスターティングプレート2fが設けられており、該スターティングプレート2fのアウタプレート部2hの外周にリングギヤ2jが形成されている。
右側のデフ側シャフト部材31上には、モータ251をユニットケース255に収容した状態でユニット化してなるモータユニット250が配設されている。該モータユニット250は、エンジン2の後方且つ差動装置10の右側に生じるスペースを利用して配設されている。
図4に示すように、モータ251は、ユニットケース255に固定されたステータ256と、ステータ256の径方向内側に回転可能に設けられたロータ257と、ロータ257と一体回転するようにロータ257の内周に固定された出力軸(ロータ軸)258とを備えている。
ステータ256は、磁性体からなるステータコアにコイルが巻回されて構成されている。ロータ257は、筒状の磁性体で構成されており、ステータ256に電力が供給されたときに生じる磁力により回転する。出力軸258は、車体幅方向に延びる筒状部材であり、ドライブシャフト30の外側に相対回転可能に嵌合されている。出力軸258は、軸受を介してユニットケース255に支持されている。
モータ251の軸方向の差動装置10側には、モータ251の出力を減速する減速機259として機能し得る第1、第2プラネタリギヤ機構260,270が配設されている。第1、第2プラネタリギヤ機構260,270は、ドライブシャフト30上に配設されており、ユニットケース255に収容されている。
第1プラネタリギヤ機構260は、第1回転要素としての第1リングギヤ262、第2回転要素としての第1キャリヤ263、及び、第3回転要素としての第1サンギヤ261を備えている。同様に、第2プラネタリギヤ機構270は、第1回転要素としての第2リングギヤ272、第2回転要素としての第2キャリヤ273、及び、第3回転要素としての第2サンギヤ271を備えている。
第1サンギヤ261はモータ251の出力軸258に常時連結されており、これにより、モータ251の出力がサンギヤ261に入力される。第1キャリヤ263は第2サンギヤ271に常時連結されており、第2リングギヤ272はユニットケース255に固定されている。
モータ251は、連結機構277を介してクランク軸2dに連結可能とされている。連結機構277は、ドライブシャフト30上に配設された動力伝達用のスリーブ278と、該スリーブ278に平行に配設された第1駆動軸282とを備えている。
スリーブ278は、モータ251と第1プラネタリギヤ機構260との間の軸方向位置においてモータ251の出力軸258の外側に相対回転可能に嵌合されている。スリーブ278は、第1プラネタリギヤ機構260の第1リングギヤ262に常時連結されている。スリーブ278上には、該スリーブ278と一体回転するようにドライブギヤ280が設けられている。ドライブギヤ280は、スリーブ278及び第1プラネタリギヤ機構260を介してモータ251の出力軸258に常時連結されている。
第1駆動軸282は、ドライブシャフト30の周囲において該ドライブシャフト30及びクランク軸2dに平行に配設されている。第1駆動軸282上には、ドライブギヤ280に噛み合うドリブンギヤ286が第1駆動軸282と一体回転するように設けられている。ドリブンギヤ286はドライブギヤ280よりも大径である。第1駆動軸282は、差動装置10側に向かってユニットケース255の外側に突出するように配設されており、第1駆動軸282の該突出部分にピニオンギヤ288が設けられている。
ピニオンギヤ288は、第1駆動軸282に固定又は一体に設けられている。ピニオンギヤ288は、第1駆動軸282、スリーブ278及び第1プラネタリギヤ機構260を介して、モータ251の出力軸258に常時連結されている。
図3に示すように、ピニオンギヤ288は、車体前後方向においてドライブシャフト30とオーバラップするように該ドライブシャフト30の上方に隣接して配設されている。また、ピニオンギヤ288は、車体上下方向においてクランク軸2dとオーバラップするように、シリンダブロック2aの車体後方側に隣接して配設されている。
図4に示すように、ピニオンギヤ288は、リングギヤ2jに常時噛み合っている。ピニオンギヤ288が設けられた第1駆動軸282は、クランク軸2dに平行に配置されているため、ピニオンギヤ288とリングギヤ2jとの良好な噛み合いを容易に実現できる。
ピニオンギヤ288は、リングギヤ2jよりも小径であり、ピニオンギヤ288に対するリングギヤ2jのギヤ比は例えば15程度である。これにより、モータ251側から伝達されるトルクが、ピニオンギヤ288とリングギヤ2jとの間において増大されてエンジン2のクランク軸2dに伝達されることで、クランキングを行うことが可能となっている。
ピニオンギヤ288はリングギヤ2jに常時噛み合っているが、クランク軸2d側からピニオンギヤ288への動力伝達は、スターティングプレート2fのインナプレート部2gとアウタプレート部2hとの間に設けられた上記のワンウェイクラッチ2iが空転することで遮断されるため、エンジン2の駆動中に、その動力がピニオンギヤ288に伝達されることは防止される。
第1駆動軸282上には、該第1駆動軸282を固定するブレーキ284が配設されている。エンジン2の駆動中には、このブレーキ284の締結によって第1駆動軸282を固定しておくことで、該第1駆動軸282に設けられたピニオンギヤ288に常時噛み合うリングギヤ2jを固定できる。そのため、エンジン2の始動を行わないときにはブレーキ284を締結しておくことで、エンジン2の駆動中におけるリングギヤ2jの連れ回りを防止でき、これにより、ピニオンギヤ288の破損やモータ251の過回転を抑制できる。
なお、上記のような常時噛み合い式のピニオンギヤ288に代えて、クランキングを行うときのみリングギヤ2jに噛み合うように第1駆動軸282上をスライド可能に設けられた飛び込み摺動式のピニオンギヤを用いてもよい。なお、この場合において、クランク軸2dの回転が完全に停止していない状態でリングギヤ2jに飛び込み摺動式のピニオンギヤを噛み合わせるときは、クランク軸2dの回転にピニオンギヤの回転を同期させるようにモータ251の回転を制御しながらピニオンギヤの摺動を行えばよい。
第1、第2プラネタリギヤ機構260,270の差動装置10側には、ドライブシャフト30の外側に相対回転可能に嵌合された筒状の第2駆動軸290が配設されている。第2駆動軸290は、第2キャリヤ273に常時連結されている。第2駆動軸290の差動装置10側端部は、差動装置10のデフケース12における右側のシャフト挿通部12aにスプライン嵌合している。これにより、第2駆動軸290はデフケース12と一体回転すると共に、差動装置10及びドライブシャフト30,40を介して駆動輪36,46に連結されている。
このように構成されたモータ251からデフケース12に至る動力伝達経路は、エンジン2からデフケース12に至る動力伝達経路から独立しているため、エンジン2側の動力伝達経路に関連する構成を変更することなく、予めアセンブリされたモータユニット250をドライブシャフト30上に搭載して、第2駆動軸290をデフケース12のシャフト挿通部12aにスプライン嵌合させるだけで、モータ251からデフケース12に至る動力伝達経路を容易に構築できる。したがって、このようにモータユニット250を追加するだけで、エンジン自動車を容易にハイブリッド車に変更することが可能である。
以上のように構成されたモータユニット250において、モータ251は、車両駆動とエンジン2の始動に兼用することが可能となっている。また、モータ251は、発電機としても機能することが可能となっており、車両減速時に駆動輪36,46側から伝達された運動エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ回生を行うことが可能とされている。
モータ251が車両駆動に用いられるときは、ブレーキ284が締結された状態でモータ251が駆動される。ブレーキ284の締結によって、第1プラネタリギヤ機構260の第1リングギヤ262は、第1駆動軸282を介してユニットケース255に固定される。この状態でモータ251の動力が第1サンギヤ261に入力されると、第1リングギヤ262が反力要素として機能し、第1プラネタリギヤ機構260によって減速された回転が第1キャリヤ263から出力される。
このように第1プラネタリギヤ機構260から出力された回転は、第2プラネタリギヤ機構270の第2サンギヤ271に入力され、第2プラネタリギヤ機構270によって更に減速されて、第2キャリヤ273から出力される。
このようにして第1、第2プラネタリギヤ機構260,270からなる減速機259によって減速されたモータ251の動力は、第2駆動軸290を介してデフケース12に伝達される。
したがって、エンジン2の駆動中においてモータ251が駆動されると、デフケース12においてエンジン2からの動力にモータ251からの動力が統合され、この統合された動力がドライブシャフト30,40を介して駆動輪36,46に伝達される。これにより、モータ251によるトルクアシスト機能が果たされる。
一方、エンジン2が停止された状態でモータ251が駆動されると、該モータ251からの動力が差動装置10及びドライブシャフト30,40を介して駆動輪36,46に伝達されることで、駆動源としてモータ251のみが用いられるモータ走行が実現される。
また、車両の減速走行中において、ブレーキ284が締結された状態では、駆動輪36,46側から伝わる力によってロータ257が回転駆動されることで、モータ251でのエネルギ回生が行われる。
モータ251によるエンジン2の始動は、停車中又は車両走行中のエンジン2の停止状態に行うことが可能である。いずれにしても、クランキングのためのモータ251の駆動は、ブレーキ284が解放されることで第1駆動軸282の回転が可能とされた状態で行われる。したがって、第1実施形態と同様に、運転状態に応じてブレーキ284を自動的に解放させることで、モータ251によるエンジン2の始動が可能になり、エンジン2が完爆するとブレーキ284を自動的に締結することで、モータ251による車両駆動又はエネルギ回生が可能になる。
なお、モータ251とは別の車両駆動用(例えば後輪駆動用)のモータが搭載される場合には、該モータの動力を利用したモータ走行を行いながら、モータ251によってエンジン2を始動させることができる。
ブレーキ284が解放された状態で第1モータ51によるエンジン始動が行われるとき、駆動輪36,46に連結された第2キャリヤ273と、ユニットケース255に固定された第2リングギヤ271は反力要素として機能し、これにより、第2プラネタリギヤ機構270における残りの回転要素である第2サンギヤ271と、これに常時連結された第1キャリヤ263も反力要素として機能する。
なお、モータ251によるエンジン始動が停車状態で行われる場合、モータ251側から受ける反力によって駆動輪36,46が回転することを防止するためには、例えば、停車状態が確実に維持されるようにホイールブレーキの制動力を制御したり、第2駆動軸290をユニットケース255に固定するためのブレーキを設けた上で、該ブレーキを電動ポンプ等による油圧供給によって締結することで、第2駆動軸290を介して駆動輪36,46を固定したりすればよい。
一方、モータ251によるエンジン始動が車両走行中に行われる場合、モータ251側から受ける反力によって駆動輪36,46の回転が減速することを防止するためには、例えば、当該反力を相殺するようなトルクを、モータ251とは別のモータから駆動輪36,46に伝達させるようにすればよい。
ブレーキ284が解放された状態でモータ251が駆動されたとき、モータ251から第1サンギヤ261に入力された回転は、第1リングギヤ262からスリーブ278を介して第1駆動軸282へ出力される。ここで、第1プラネタリギヤ機構260は、第1サンギヤ261に入力された回転を減速させて第1リングギヤ162から出力する減速機として機能し得るように構成されることが好ましい。これにより、クランキングトルクの増大を図りつつ、モータ251の小型化を図ることが可能になる。
モータ251から第1プラネタリギヤ機構260を介して第1駆動軸282上のピニオンギヤ288に伝達された回転は、ピニオンギヤ288とリングギヤ2jとの間において更に減速されて、スターティングプレート2fのアウタプレート部2h、ロックされたワンウェイクラッチ2i、及びインナプレート部2gを介してクランク軸2dに伝達される。
これにより、第1実施形態と同様、上記の減速によって十分に増大されたモータ251の出力トルクを利用して、クランキングを行うことが可能となっている。そのため、小出力のモータ251を用いても、大きなクランキングトルクを得ることが可能となり、これにより、モータ251の大型化を抑制しつつ、エンジン2の冷間時やエンジン2が高圧縮比タイプである場合等においても、確実にエンジン2を始動させることができる。また、車両駆動用のモータ251がエンジン2の始動用として兼用されることで、エンジン始動専用のスタータモータを廃止することが可能になる。したがって、駆動装置1の構造の簡素化及びコンパクト化を実現できる。
また、第1実施形態と同様、ブレーキ284の締結と解放を切り換えるだけで、モータ251の動力伝達相手を第1駆動軸282と第2駆動軸290との間で切り換えることができ、これにより、モータ251の機能が車両駆動機能とエンジン始動機能との間で切り換えられる。そのため、係合要素の削減が実現され、モータユニット250の構成の簡素化及びコンパクト化を図ることができる。
また、第2実施形態によれば、ドライブシャフト30上に配設された第2駆動軸290の軸線上にモータ251及び第1、第2プラネタリギヤ機構260,270が配設され、ドライブシャフト30の周囲において第2駆動軸290に平行に配設された第1駆動軸282上にピニオンギヤ288が設けられているため、モータ251から第1プラネタリギヤ機構260を介して出力される動力を第1駆動軸282及び第2駆動軸290に伝達するための各動力伝達経路を簡素に構成できる。したがって、モータ251を車両駆動とエンジン始動に兼用するための構成を簡素化できるため、モータユニット250のコンパクト化及び簡素化を効果的に果たすことができる。
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述の実施形態では、FF式のハイブリッド車を例に挙げて本発明を説明したが、本発明は、FR式又は四輪駆動式のハイブリッド車に適用することも可能である。
また、上述の第1実施形態では、車両駆動とエンジン始動に兼用されるモータ51とは別に、デフケース12に連結された車両駆動専用のモータ52,53が2つ設けられる例を説明したが、車両駆動専用のモータの個数は特に限定されるものでない。
さらに、本発明において、車両駆動専用のモータは、必ずしも、車両駆動とエンジン始動に兼用されるモータと同じ車軸の周囲に配設される必要はなく、例えば、前輪用の車軸の周囲又は前輪用の車軸上に兼用のモータを配設すると共に、後輪用の車軸の周囲又は後輪用の車軸上に車両駆動専用のモータを配設するようにしてもよい。
また、モータの出力を減速して駆動輪側に伝達する減速機が、上述の第1実施形態では1つのプラネタリギヤ機構で構成され、第2実施形態では2つのプラネタリギヤ機構で構成されているが、減速機を構成するプラネタリギヤ機構の個数は特に限定されるものでない。
さらに、上述の第1、第2実施形態では、第1駆動軸に常時連結された第1回転要素がリングギヤ、第2駆動軸に常時連結された第2回転要素がキャリヤ、モータの出力部に常時連結された第3回転要素がサンギヤである例を説明したが、第1、第2及び第3回転要素は、それぞれ、サンギヤ、キャリヤ及びリングギヤのいずれで構成されてもよい。