以下、本発明の一実施形態に係る鋳造装置及び鋳造方法について詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る鋳造装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る鋳造装置を模式的に示す説明図である。また、図2は、図1に示すチャンバー用配管及びチャンバー用吸引装置を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本実施形態の鋳造装置1は、分割鋳型10と、分割筐体20と、チャンバー用吸引装置30と、キャビティー用吸引装置40と、シリンダー50と、保持炉60と、ストーク70と、加圧装置80と、センサー90と、制御装置100とを備えるものである。なお、鋳造装置1は、例えば、トップ中子B1、ウォータージャケット中子B2及びポート中子B3から構成される中子Bを配設したキャビティーAに、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属溶湯Cを充填して図示しないシリンダーヘッドなどの成形品を製造するものである。
そして、分割鋳型10は、キャビティーAの形成に用いられ、下鋳型11と、下鋳型11上で水平方向にスライドする中鋳型13と、上鋳型15とを有するものである。また、分割鋳型10は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属溶湯Cに対して適用可能な従来公知の金型で構成されている。さらに、中子Bやそれに付加される巾木についても、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属溶湯Cに対して適用可能な従来公知の中子や巾木により構成されている。
また、分割筐体20は、チャンバーDの形成に用いられ、下鋳型11が装着された固定側筐体下部21と、上鋳型15が装着された可動側筐体上部23とを含むものである。なお、固定側筐体下部21と可動側筐体上部23との接触部にはゴム製シール部材25が配設されており、これらの間のシール性が確保されている。また、分割筐体20としては、例えば、鋳造工程における圧力や温度などの変化に対する耐圧性や耐熱性を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、分割鋳型と同じ材料により構成された分割筐体を用いてもよいが、異なる材料により構成された分割筐体を用いてもよい。また、例えば、各分割筐体が適用される環境に応じて異なる材料で構成した分割筐体を用いてもよい。なお、図示しないが、下鋳型と固定側筐体下部は装脱可能であり、上鋳型と可動側筐体上部も装脱可能である。
ここで、キャビティーAとチャンバーDとは、下鋳型11上で中鋳型13を閉じた状態とするとともに、分割筐体20を閉じた状態とすることにより形成される。
また、チャンバー用吸引装置30は、チャンバーDに、好ましくは可動側筐体上部に接続されたチャンバー用配管32を介して少なくともチャンバーDの内部を減圧するものである。なお、特に限定するものではないが、チャンバー用配管32は、チャンバーDへ金属溶湯が漏洩した場合であっても影響を受けにくい可動側筐体上部23に配設することが好適である。
ここで、チャンバー用配管及びチャンバー用吸引装置について図面を用いて詳細に説明する。
図2に示すように、チャンバー用吸引装置30は、例えば、密閉空間を真空ないしその近傍まで吸引(減圧)するためのポンプ30Aを備えている。また、図2に示すように、チャンバー用配管のうち、チャンバー用吸引装置30が設けられている主配管32Aには、チャンバーDの内部の圧力を検出する圧力センサー31、主配管32Aの吸引流量を調整する絞りバルブ33、主配管32Aの吸引を制御する開閉バルブ35、チャンバー用吸引装置30の吸引圧力を検出する圧力センサー37、吸引の際に吸引される異物等を除去するためのタンク39が配設されている。さらに、図2に示すように、主配管32Aから分岐した副配管32Bには、大気開放する際に、副配管32Bによる吸引流量を調整する絞りバルブ34、副配管32Bによる吸引を制御する開閉バルブ36が配設されている。
さらに、キャビティー用吸引装置40は、キャビティーAに、好ましくは上鋳型15に接続されたキャビティー用配管42を介してキャビティーAを減圧するものである。なお、図示しないが、キャビティー用配管及びキャビティー用吸引装置についても、上述したチャンバー用配管及びチャンバー用吸引装置と同様の構成を有している。また、図示しないが、キャビティー用配管のキャビティー接続部には金属溶湯の侵入を抑制する多孔質体が配設されている。
また、シリンダー50は、チャンバーDの外部に配設され、中鋳型13の水平方向へのスライド駆動に用いられるものであり、例えば、シリンダーロッド51とシリンダー53と保持部55とを含むものである。なお、これに限定されるものではなく、従来公知のアクチュエータを利用することができる。また、特に限定するものではないが、この保持部55は、分割鋳型20を保持するものとしても機能することが好適である。さらに、シリンダーロッド51は固定側筐体下部21を貫通しており、中鋳型と係合している。これは、固定側筐体下部21は、可動側筐体上部23と比較して殆ど移動させることがなく、シリンダーを併せて移動させる必要がないためである。また、図示しないが、シリンダーロッドと固定側筐体下部との間には、これらの間のシール性を確保するとともに、シリンダーロッドのスライドを阻害しにくいシール部材が配設されている。さらに、図示しないが、チャンバーの外部に配設され、上鋳型の垂直方向へのスライド駆動に用いられる同様のシリンダーを備えていてもよい。
一方、保持炉60は、チャンバーDの外部であって、かつ、キャビティーAが形成された状態の分割鋳型10の下部に配設されている。なお、保持炉20は、金属溶湯Cを保持している。
また、ストーク70は、キャビティーAに充填される金属溶湯Cの流路であり、上端部70aが分割鋳型10の湯口10aに接続され、かつ、下端部70bが保持炉60に保持された金属溶湯Cに浸漬されている。なお、図示しないが、湯口には従来公知の多孔質体が配設されている。
さらに、加圧装置80は、保持炉60に接続された配管82を介して保持炉60の内部を加圧するものである。このとき、加圧装置80は、保持炉60に保持された金属溶湯Cを湯口10aまで供給するようにしてもよい。
また、センサー90としては、例えば、型閉じを検知するための型閉じセンサー91を有するものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。すなわち、図示しないが、これに加えて、湯口への金属溶湯の到達を検知するための金属溶湯湯口到達センサーやキャビティーにおける金属溶湯の充填を検知するためのキャビティー金属溶湯充填センサー、キャビティーにおける金属溶湯の凝固を検知するためのキャビティー金属溶湯凝固センサーを有するものを適用することもできる。
上記型閉じセンサー91としては、例えば、従来公知の位置決めセンサーを適用した型閉じセンサーを挙げることができる。
そして、上記金属溶湯湯口到達センサーとしては、例えば、湯口近傍に配設される温度センサー、さらには、保持炉内に配設される湯面高さセンサーや圧力センサーなどを適用することができる。
また、上記キャビティー金属溶湯充填センサーとしては、例えば、キャビティー近傍のキャビティー用配管に配設される温度センサーや圧力センサー、さらには、保持炉内に配設される湯面高さセンサーや圧力センサーなどを適用することができる。
さらに、上記キャビティー金属溶湯凝固センサーとしては、例えば、キャビティー近傍のキャビティー用配管に配設される温度センサーなどを適用することができる。
そして、制御装置100としては、例えば、型閉じセンサー91からの入力に応じて、加圧装置80を制御し、型閉じセンサー91及び加圧装置80のうちの少なくとも1つからの入力に応じて、チャンバー用吸引装置30を制御し、型閉じセンサー91及び加圧装置80のうちの少なくとも1つからの入力に応じて、キャビティー用吸引装置40を制御する一体又は別体の制御装置を適用することができる。
このような制御装置を適用する場合には、例えば、予備実験によって予め取得した、位置や、圧力、温度、型閉じからの経過時間等によって、加圧及び吸引を制御する制御データを制御装置に格納しておけばよい。
しかしながら、制御装置は、上述のものに限定されるものではない。すなわち、図示しないが、制御装置としては、例えば、型閉じセンサーと、加圧装置、金属溶湯湯口到達センサー、キャビティー金属溶湯充填センサー及びキャビティー金属溶湯凝固センサーのうちの少なくとも1つとからの入力に応じて、加圧装置を制御し、型閉じセンサー、加圧装置、金属溶湯湯口到達センサー、キャビティー金属溶湯充填センサー及びキャビティー金属溶湯凝固センサーのうちの少なくとも1つからの入力に応じて、チャンバー用吸引装置を制御し、型閉じセンサー、加圧装置、金属溶湯湯口到達センサー、キャビティー金属溶湯充填センサー及びキャビティー金属溶湯凝固センサーのうちの少なくとも1つからの入力に応じて、キャビティー用吸引装置を制御する一体又は別体の制御装置を適用することもできる。
このような制御装置を適用する場合には、例えば、型閉じからの経過時間を考慮しないで、実際の位置や、温度、圧力等によって、加圧及び吸引を制御すればよい。もちろん、予備実験によって予め取得した圧力や温度によって、加圧及び吸引を制御する制御データを制御装置に格納してもよい。なお、上述した各制御データは、上述した型閉じセンサー、金属溶湯湯口到達センサー、キャビティー金属溶湯充填センサー、キャビティー金属溶湯凝固センサーなどの各種センサーを用いた予備実験により適宜設定することができる。
そして、鋳造装置1は、成形品を製造するに際して、チャンバーDの外部に配設されたシリンダー50などが、下鋳型11、下鋳型11上で水平方向にスライドする中鋳型13、及び上鋳型15を有する分割鋳型10と、下鋳型11が装着された固定側筐体下部21及び上鋳型15が装着された固定側筐体上部23を有する分割筐体20とを用いて、下鋳型11上で中鋳型13を閉じた状態とするとともに、分割筐体20を閉じた状態として、キャビティーAとチャンバーDとを形成する。
また、鋳造装置1は、成形品を製造するに際して、チャンバー用吸引装置30が、チャンバーDに、好ましくは可動側筐体上部23に接続されたチャンバー用配管32を介してチャンバーDの内部を減圧してもよい。
さらに、鋳造装置1は、成形品を製造するに際して、キャビティー用吸引装置40が、キャビティーAに、好ましくは上鋳型15に接続されたキャビティー用配管42を介してキャビティーAの減圧を減圧してもよい。このとき、キャビティー用吸引装置40自体が、金属溶湯CをキャビティーA全体に供給するようにしてもよい。また、上述したように、加圧装置80により少なくとも湯口10aまで供給された金属溶湯Cをキャビティー用吸引装置40がキャビティーA全体に供給するようにしてもよい。
また、鋳造装置1は、成形品を製造するに際して、加圧装置40が、保持炉60に接続された配管82を介して保持炉60の内部を加圧し、保持炉60に保持された金属溶湯Cを湯口10aまで供給するようにしてもよい。
上述のように、所定の分割鋳型、分割筐体及びシリンダーを備え、所定のシリンダーにより所定の分割鋳型の下鋳型上で中鋳型を閉じた状態とするとともに、所定の分割筐体を閉じた状態として、キャビティーとチャンバーとを形成することにより、中鋳型を確実に水平方向へスライド駆動させることができる。これにより、スライド駆動する分割筐体によりストークが押しつぶされることなく、また、チャンバー体積を小さくすることができるため、シール性を確保することができる。また、分割筐体が、上下方向に開閉可能であるため、分割鋳型を取り出しやすく、後述する金型内部清掃(必要に応じて行われる湯口のフィルタ用多孔質体の交換作業を含む。)工程や中子セット準備作業工程、中子エアブロー工程などを容易なものとすることができるという副次的な利点もある。
また、本実施形態の鋳造装置においては、上述のように、シリンダーの保持部が、固定側筐体下部の保持部を兼ねていることが好適である。このような構成とすることにより、シリンダーと固定側筐体下部との相対的な位置が維持され、中鋳型をより確実に水平方向へスライド駆動させることができる。
さらに、本実施形態の鋳造装置においては、上述のように、可動側筐体上部に接続されたチャンバー用配管を介して少なくともチャンバーの内部を減圧するチャンバー用吸引装置と、上鋳型に接続されたキャビティー用配管を介してキャビティーを減圧するキャビティー用吸引装置と、を備えていることが好適である。このような構成とすることにより、減圧度や減圧速度における分割鋳型の分割面のクリアランスやキャビティー体積、キャビティーの外側におけるチャンバー体積への依存を小さくすることができる。そのため、減圧度や減圧速度を適切な範囲に安定させることができ、鋳込み速度を速くすることが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。また、キャビティー用吸引装置のみを利用してキャビティーを直接減圧した場合に起こり得る分割鋳型の分割面のクリアランスなどからの空気の流入が抑制ないし防止され、空気巻き込みによる欠陥を低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。
また、本実施形態の鋳造装置においては、上述のように、分割鋳型で形成されたキャビティーに、分割鋳型の下部に配設された保持炉に保持された金属溶湯を、上端部が分割鋳型の湯口に接続され、かつ、下端部が保持炉に保持された金属溶湯に浸漬されたストークを介して充填して成形品を製造する鋳造装置であって、保持炉の内部の加圧により保持炉に保持された金属溶湯を少なくとも湯口まで供給する加圧装置と、を備え、キャビティー用吸引装置が、少なくとも湯口まで供給された金属溶湯をキャビティー全体に供給することが好適である。このような構成とすることにより、金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
つまり、加圧装置を利用して、保持炉の内部を加圧することにより、金属溶湯を少なくとも湯口まで供給することによって、保持炉に保持された金属溶湯を、分割鋳型と中子とを用いて形成するような複雑な形状を有するキャビティーを介して湯口まで吸引により供給する必要がない。そのため、充填性向上の阻害要因となる複雑な形状を有するキャビティーにおける吸引抵抗を考慮する必要がない。また、キャビティー用吸引装置のみを利用してキャビティーを直接減圧した場合に起こり得る分割鋳型の分割面のクリアランスなどからの空気の流入が抑制ないし防止される。これにより、キャビティー用吸引装置のみを利用してキャビティー全体に金属溶湯を供給する場合と比較して、製造する際に使用するエネルギーロスを低減するとともに、空気巻き込みによる欠陥を低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。
なお、特に限定されるものではないが、本発明は、高速・高圧で金属溶湯をキャビティーに充填するダイカスト法に適用するよりも、低速・低圧で金属溶湯をキャビティーに充填する低圧鋳造法に適用することが効果的である。これは、ダイカスト法において流入する空気よりも低圧鋳造法において流入する空気及び元々存在する空気の方が、金属溶湯の充填性を低減させ易いためである。
また、本実施形態の鋳造装置においては、チャンバー用吸引装置によるチャンバーの最終到達内部圧力を、キャビティー用吸引装置によるキャビティーの最終到達内部圧力より低くすることが好適である。
つまり、最終到達圧力において、後述するキャビティーの内部圧力よりチャンバーの内部圧力を低くすると、空気巻き込みによる欠陥の低減化などが可能となり、金属溶湯の充填性をさらに向上させることが可能となる。
さらに、本実施形態の鋳造装置においては、上述のように、型閉じを検知するための型閉じセンサーと、型閉じセンサーからの信号に応じて、加圧装置を制御し、型閉じセンサー及び加圧装置のうちの少なくとも1つからの信号に応じて、チャンバー用吸引装置を制御し、型閉じセンサー及び加圧装置のうちの少なくとも1つからの信号に応じて、キャビティー用吸引装置を制御する一体又は別体の制御装置とを備えることが好適である。
このように、加圧装置による所定の加圧をするに際して、チャンバー用吸引装置による所定の吸引(減圧)をするとともに、キャビティー用吸引装置による所定の吸引(減圧)をすることにより、製造する際に使用するエネルギーロスのさらなる低減化、鋳込み速度の適切な範囲でのさらなる安定化、空気巻き込みによる欠陥の低減化などが可能になる。これにより、金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る鋳造装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に係る鋳造装置を模式的に示す説明図である。なお、上記の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
図3に示すように、本実施形態の鋳造装置1Aは、分割鋳型10として、キャビティーAと、分割鋳型10の外部であるチャンバーDの空間Daとを連通する連通経路10bを有するものを用いている点が相違する。なお、図3中点線で示す10bは、チャンバー用配管42に干渉しない位置に配設されている連通経路である。また、図3に示すように、連通経路10bの吸引口10cに対して、トップ中子B1やポート中子B3が配設されている。また、図中実線及び点線でそれぞれ示す13A及び15Aは、極めて細い連通経路10aを形成するために用いた中鋳型13及び上鋳型15と同様の鋼材である。
特許文献1に記載された吸引差圧鋳造方法にあっては、分割鋳型とともに中子を用いて形成するような複雑な形状を有する成形品の製造について何ら検討がなされていない。そのため、分割鋳型とともに中子を用いて形成するような複雑な形状を有する成形品の製造において、溶湯が中子に接触した際に中子に含まれる粘着剤等が燃焼して発生する中子ガスによってガス欠陥が生じ、これによっても金属溶湯の充填性が低下する場合がある。
これに対して、本実施形態の鋳造装置においては、上述のように、キャビティーと、分割鋳型の外部であるチャンバーの空間とを連通する連通経路を有する分割鋳型を用いることにより、溶湯が中子に接触した際に中子に含まれる粘着剤が燃焼等して発生する中子ガスを連通経路を通じて逃がすことが可能となり、キャビティーの圧力上昇を低減させることが可能となる。これにより、たとえ、キャビティー用配管から中子ガス等を排出することができない場合であっても、連通経路を通じて中子ガス等を排出することができるため、ガス欠陥を低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。
ここで、連通経路としては、例えば、キャビティー用配管と比較して極めて細くした、通過抵抗が大きいものを挙げることができる。これにより、チャンバーの内部の減圧直後に連動して減圧されることはない。その一方で、これにより、キャビティー用配管を通じてキャビティーから中子ガス等を直接排出することができず、キャビティーの圧力が上昇した場合に中子ガス等を連通経路を通じて排出することができる。
また、本実施形態の鋳造装置においては、上述のように、連通経路の吸引口に対して、中子又は中子に付加された巾木が配設されていることが好適である。
このように、連通経路の吸引口に対して、中子や巾木を配設することによって、溶湯が中子に接触した際に中子に含まれる粘着剤等が燃焼して発生する中子ガスを連通経路及びチャンバー用配管を通じて効率良く逃がすことができる。また、鋳込み速度の適切な範囲でのさらなる安定化、空気巻き込みによる欠陥の低減化などが可能になる。これにより、ガス欠陥をより低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
さらに、本実施形態の鋳造装置においては、連通経路が、中鋳型、上鋳型、及び中鋳型と上鋳型との間のうちの少なくとも1つに形成されていること好適である。
このように、連通経路を中鋳型や上鋳型、これらの間などに形成することによって、溶湯が中子に接触した際に中子に含まれる粘着剤等が燃焼して発生する中子ガスを連通経路及びチャンバー用配管を通じて効率良く逃がすことができる。また、鋳込み速度の適切な範囲でのさらなる安定化、空気巻き込みによる欠陥の低減化などが可能になる。これにより、ガス欠陥をより低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る鋳造方法、具体的には、本発明の第1又は第2の実施形態に係る鋳造装置を使用した鋳造方法について詳細に説明する。なお、本発明の鋳造方法は、必ずしも本発明の鋳造装置を使用する必要はないが、本発明の鋳造装置を使用することが好ましい。
本実施形態の鋳造方法は、工程(1)を含み、好ましくは工程(3)と、工程(4)とを含む。ここで、工程(1)は、キャビティーの形成に用いられ、下鋳型、下鋳型上で水平方向にスライドする中鋳型、及び上鋳型を含む分割鋳型と、チャンバーの形成に用いられ、下鋳型が装着された固定側筐体下部及び上鋳型が装着された可動側筐体下部を含む分割筐体とを用いて、チャンバーの外部に配設され、中鋳型をスライド駆動させるためのシリンダーであって、シリンダーロッドが固定側筐体下部を貫通し、中鋳型と係合しているシリンダーにより下鋳型上で中鋳型を閉じた状態とするとともに、固定側筐体下部上で可動側筐体上部を閉じた状態として、キャビティーとチャンバーとを形成する工程である。また、工程(3)は、工程(1)の後に、チャンバー用吸引装置により可動側筐体上部に接続されたチャンバー用配管を介して少なくともチャンバーの内部を減圧する工程である。さらに、工程(4)は、工程(1)の後に、好ましくは工程(3)の後に、キャビティー用吸引装置により上鋳型に接続されたキャビティー用配管を介してキャビティーを減圧する工程である。
このように、下鋳型、下鋳型上で水平方向にスライドする中鋳型、及び上鋳型を有する分割鋳型と、下鋳型が装着された固定側筐体下部及び上鋳型が装着された可動側筐体上部を有する分割筐体とを用いて、チャンバーの外部に配設され、中鋳型をスライド駆動させるためのシリンダーであって、シリンダーロッドが固体側筐体下部を貫通し、中鋳型と係合しているシリンダーにより下鋳型上で中鋳型を閉じた状態とするとともに、固定側筐体下部上で可動側筐体上部を閉じた状態として、キャビティーとチャンバーとを形成することにより、中鋳型を確実に水平方向へスライド駆動させることができる。これにより、スライド駆動する分割筐体によりストークが押しつぶされることなく、また、チャンバー体積を小さくすることができるため、シール性を確保することができる。また、分割筐体が、上下方向に開閉可能であるため、分割鋳型を取り出しやすく、後述する金型内部清掃(必要に応じて行われる湯口のフィルタ用多孔質体の交換作業を含む。)工程や中子セット準備作業工程、中子エアブロー工程などを容易なものとすることができるという副次的な利点もある。
工程(3)と工程(4)を含む構成とすることにより、減圧度や減圧速度における分割鋳型の分割面のクリアランスやキャビティー体積、キャビティーの外側におけるチャンバー体積への依存を小さくすることができる。そのため、減圧度や減圧速度を適切な範囲に安定させることができ、鋳込み速度を速くすることが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。また、キャビティー用吸引装置のみを利用してキャビティーを直接減圧した場合に起こり得る分割鋳型の分割面のクリアランスなどからの空気の流入が抑制ないし防止され、空気巻き込みによる欠陥を低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。
そして、本実施形態の鋳造方法においては、分割鋳型で形成されたキャビティーに、分割鋳型の下部に配設された保持炉に保持された金属溶湯を、上端部が分割鋳型の湯口に接続され、かつ、下端部が保持炉に保持された該金属溶湯に浸漬されたストークを介して充填して成形品を製造するに際して、工程(1)の後で、かつ、工程(3)及び工程(4)の前に、加圧装置による保持炉の内部の加圧により保持炉に保持された金属溶湯を少なくとも湯口まで供給する工程(2)を含み、工程(4)において、少なくとも湯口まで供給された金属溶湯を上記キャビティー全体に供給することが好適である。これにより、金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
つまり、加圧装置を利用して、保持炉の内部を加圧することにより、金属溶湯を少なくとも湯口まで供給することによって、保持炉に保持された金属溶湯を、分割鋳型と中子とを用いて形成するような複雑な形状を有するキャビティーを介して湯口まで吸引により供給する必要がない。そのため、充填性向上の阻害要因となる複雑な形状を有するキャビティーにおける吸引抵抗を考慮する必要がない。また、キャビティー用吸引装置のみを利用してキャビティーを直接減圧した場合に起こり得る分割鋳型の分割面のクリアランスなどからの空気の流入が抑制ないし防止される。これにより、キャビティー用吸引装置のみを利用してキャビティー全体に金属溶湯を供給する場合と比較して、製造する際に使用するエネルギーロスを低減するとともに、空気巻き込みによる欠陥を低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性を向上させることができる。
そして、本実施形態の鋳造方法においては、加圧装置による所定の加圧をするに際して、チャンバー用吸引装置による所定の吸引(減圧)をするとともに、キャビティー用吸引装置による所定の吸引(減圧)をすることが好適である。
ここで、加圧装置による所定の加圧とは、加圧装置による保持炉の内部の加圧を開始し、次いで、湯口に金属溶湯が到達するまで、加圧装置による保持炉の内部の加圧を継続し、さらに、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるまで、加圧装置による保持炉の内部の加圧を継続又は保持し、さらに、キャビティー全体の金属溶湯が凝固するまで、加圧装置による保持炉の内部の加圧を継続又は保持し、しかる後、加圧装置による保持炉の内部の加圧を終了することをいう。
また、チャンバー用吸引装置による所定の吸引(減圧)とは、加圧装置による保持炉の内部の加圧の開始から湯口に金属溶湯が到達するまでの間に、チャンバー用吸引装置によるチャンバーに、好ましくは可動側筐体上部に接続されたチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を開始し、次いで、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるまで、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を継続又は保持し、さらに、キャビティー全体の金属溶湯が凝固するまで、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を継続又は保持し、しかる後、加圧装置による保持炉の内部の加圧を終了する際に、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を終了することをいう。なお、特に限定されるものではないが、最終到達圧力において、後述するキャビティーの内部圧力よりチャンバーの内部圧力を低くすることが好適である。このような構成とすると、空気巻き込みによる欠陥の低減化などが可能となり、金属溶湯の充填性をさらに向上させることが可能となる。
さらに、キャビティー用吸引装置による所定の吸引(減圧)とは、湯口に金属溶湯が到達したときに、キャビティー用吸引装置によるキャビティーに、好ましくは上鋳型に接続されたキャビティー用配管を介したキャビティーの減圧を開始し、次いで、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるまで、キャビティー用吸引装置によるキャビティー用配管を介したキャビティーの減圧を継続し、しかる後、キャビティー全体に金属溶湯が供給されてからチャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を終了するまでの間に、キャビティー用吸引装置によるキャビティー用配管を介したキャビティーの減圧を終了することをいう。
このように、加圧装置による所定の加圧をするに際して、チャンバー用吸引装置による所定の吸引(減圧)をするとともに、キャビティー用吸引装置による所定の吸引(減圧)をすることにより、製造する際に使用するエネルギーロスのさらなる低減化、鋳込み速度の適切な範囲でのさらなる安定化、空気巻き込みによる欠陥の低減化などが可能になる。これにより、金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
また、本実施形態の鋳造方法においては、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるまで、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を継続若しくは保持する際、又はキャビティー全体の金属溶湯が凝固するまで、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を継続若しくは保持する際に、チャンバー用吸引装置による上述した連通経路及びチャンバー用配管を介したキャビティーの減圧を開始し、しかる後、加圧装置による保持炉の内部の加圧を終了する際に、チャンバー用吸引装置による上述した連通経路及びチャンバー用配管を介したキャビティーの減圧を終了することが好適である。
このように、上述した連通経路を有する分割鋳型を用いることにより、溶湯が中子に接触した際に中子に含まれる粘着剤等が燃焼して発生する中子ガスを連通経路及びチャンバー用配管を通じて逃がすことができる。これにより、ガス欠陥を低減することが可能となるなど金属溶湯の充填性をさらに向上させることができる。
以下、本実施形態の鋳造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る鋳造装置を使用した鋳造方法の一例を模式的に示す説明図である。
図4に示すように、本例の鋳造方法は、工程(E)の鋳造工程の前工程として、従来公知の金型内部清掃工程(工程(A))、中子セット準備作業工程(工程(B))、中子エアブロー工程(工程(C))及び型閉じ工程(工程(D))を有し、鋳造工程の後工程として、従来公知の冷却工程(工程(F))及び型開き工程(工程(G))を有する。
ここで、L1は、保持炉の内部の圧力を示し、例えば、配管に配設される圧力センサーにより検知される値を適用することができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、加圧装置による加圧力の値を適用することもできる。また、L2は、チャンバーの内部の圧力を示し、例えば、チャンバー用配管に配設される圧力センサーにより検知される値を適用することができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、チャンバー用吸引装置による減圧力の値を適用することもできる。さらに、L3は、キャビティーの圧力を示し、例えば、キャビティー用配管に配設される圧力センサーにより検知される値を適用することができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、キャビティー吸引装置による減圧力の値を適用することもできる。
まず、L1で示すように、型閉じされたときを示すT1において、加圧装置による保持炉の内部の加圧を開始する。次いで、湯口に金属溶湯が到達するときを示すT2まで、加圧装置による保持炉の内部の加圧を継続する。さらに、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるときを示すT3まで、加圧装置による保持炉の内部の加圧を継続又は保持する。さらに、キャビティー全体の金属溶湯が凝固するときを示すT4まで、加圧装置による保持炉の内部の加圧を継続又は保持し、しかる後、加圧装置による保持炉の内部の加圧を終了する。なお、T5は、加圧装置による加圧(及び後述するチャンバー用吸引装置による減圧)が解除されたときを示し、T6は、離型可能な強度まで成形品の温度が低下したときを示す。
また、L2で示すように、加圧装置による保持炉の内部の加圧の開始のときを示すT1から湯口に金属溶湯が到達するときを示すT2までの間に、チャンバー用吸引装置によるチャンバーに接続されたチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を開始する。次いで、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるときを示すT3まで、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を継続し、さらに、キャビティー全体の金属溶湯が凝固するときを示すT4まで、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を継続する。しかる後、加圧装置による保持炉の内部の加圧を終了するときを示すT5の際に、チャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を終了する。
さらに、L3で示すように、湯口に金属溶湯が到達したときを示すT2において、キャビティー用吸引装置によるキャビティーに接続されたキャビティー用配管を介したキャビティーの減圧を開始する。次いで、キャビティー全体に金属溶湯が供給されるときを示すT3まで、キャビティー用吸引装置によるキャビティー用配管を介したキャビティーの減圧を継続する。しかる後、キャビティー全体に金属溶湯が供給されたときを示すT3からチャンバー用吸引装置によるチャンバー用配管を介したチャンバーの内部の減圧を終了するまでの間に、キャビティー用吸引装置によるキャビティー用配管を介したキャビティーの減圧を終了する。
次に、鋳造により得られる成形品について図面を参照しながら詳細に説明する。図5は、本発明の第1又は第2の実施形態に係る鋳造装置を使用した鋳造方法の他の一例により得られた成形品を模式的に示す斜視図である。
図5に示すように、成形品Eは、アルミニウム合金製のシリンダーヘッドであり、分割鋳型のキャビティーの形状に相当する形状を有している。なお、図中のEaは連通経路やキャビティー用配管に由来するバリを示す。
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態においては、金属溶湯として、アルミニウムやアルミニウム合金を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、鉄や銅、真鍮などについても適用することができる。
そして、例えば、上記実施形態においては、分割鋳型と中子とを用いて形成するような複雑な形状を有する成形品として、シリンダーヘッドを例示したが、これに限定されるものではなく、シリンダーブロックについても適用することができる。
また、例えば、上述した実施形態においては、金属溶湯を湯口まで供給する際に、保持炉の内部を加圧する加圧装置を利用する場合を例示したが、これに限定されるものではなく、これに代えて、電磁ポンプを利用して少なくとも湯口まで金属溶湯を供給してもよい。