水晶振動子は、圧電効果を有し、そのため水晶片に外部から応力を加えるとその応力に応じて電気が発生し、逆に水晶に電圧を加えると応力が発生して水晶の結晶が変形する。水晶を薄く板状にした水晶板の両側に薄い金属電極を形成し、この電極に交流電圧をかけると水晶板に応力が発生して変形し、交流電圧の正負によって水晶板の変形が繰り返されて振動する。この振動機構を利用して発振回路に応用することができる。このような発振回路は、水晶振動子が持つ固有の振動数を利用するため、安定な発振周波数を得ることができ、基準発振回路として色々な用途に利用されている。
一方、水晶振動子は、電極表面に物質が付着するとその質量に応じて周波数が小さくなる特徴を持っている。この性質を利用して、真空蒸着装置や化学成膜装置において、膜形成過程での膜厚測定に用いることができる成膜センサーとして用いられている。具体的には、水晶振動子により発振回路を構成して、その発振周波数を計測することにより、成膜速度を計測することができる。本発明は、水晶振動子を用いた成膜センサーに関するものである。以下では、水晶振動子を用いた成膜センサーについて具体的に説明するが、本発明は、圧電効果を有するものであれば水晶振動子のほか圧電セラミック等の圧電材料を用いた成膜センサーについても適用できる。
図1は、実験室等で一般的に用いられている従来の成膜センサー1を示している((a)は当該従来の成膜センサー1の正面図であり、(b)はこの正面に垂直でかつ線A−Aを含む平面で切断したときの従来の成膜センサー1の断面図である)。これを、真空蒸着装置にあっては真空チャンバー、あるいは化学成膜装置にあっては成膜反応チャンバーに入れて使用する。従来の成膜センサー1は水晶振動子100と、水晶支持金属線104と105、リード線107と108及びセンサー基盤106から成り立っている。水晶振動子は、薄く研磨仕上げした円盤状の水晶板101と2つの表面に金蒸着により形成した電極102及び103からなる。電極は、水晶板101の両端102A、103Aにおいてそれぞれ水晶支持金属線104と105が導電性ペースト又は金箔により電気的・機械的に接続され、これら水晶支持金属線104と105はリード線107と108に電気的・機械的に接続されている。リード線107と108はセンサー基盤106を貫通している。
実際の使用に当たり、リード線107と108は外部の発振回路に接続される。水晶振動子100は水晶板内で生じる圧電現象により固有の振動数(以下「固有振動周波数」という)の発振をする。この従来の成膜センサー1では、この固有振動周波数を計測して、水晶振動子100の表面に付着した成膜層の膜厚を知ることを測定の原理としている。実際には、膜厚の測定は絶対測定ではなく、膜厚の時間的な変化に対する固有振動周波数の変化を測定し、その時間積分量をもって膜厚の蓄積値として成膜した膜の膜厚(以下、「成膜膜厚」という)を決定している。
水晶振動子100がその表面に付着する物質の質量に応じて周波数が小さくなる変化を感度よく検知するには、理想的には、水晶振動子100が自由空間中に置かれていることが望ましい。一方、水晶支持金属線104と105は水晶振動子100を束縛している。この拘束力はできるだけ小さい方が良いため水晶支持金属線104と105は細い導線が用いられることが理想である。しかし、現実の成膜センサーの使われ方においては、水晶振動子100を自由空間中に置くこと、あるいは束縛力の弱い保持状態の下に置くことは困難である。実際の水晶振動子の使用方法においては、有限の束縛力から起こる保持状態の問題に加えて以下の現実的な問題がある。
従来の膜厚センサー1は、センサー全体をチャンバーに入れて使用する。その際、水晶支持金属線104と105が反応性のガスにより腐食したり、成膜対象物をチャンバーに出し入れする際に膜厚センサー1に触れる等による機械的ストレスが水晶振動子100に加わったりすることにより、従来の膜厚センサー1は安定的に長時間使用することができない。即ち、その機構から雰囲気ガスや機械的ストレスに対する防護が不十分である。
そこで、工業的には図2に示す従来型の成膜センサーユニット220が従来から用いられている。従来型の成膜センサーユニット220は基本的には、水晶振動子200、振動子ホルダー204、金属板バネ208、ばね保持部206、ユニット筒207から成っている。
水晶振動子200は円形状の水晶板201と図面上の手前(以下、「前面」という)表面の円形の周辺部を除いたほぼ全面に金蒸着により形成された前面電極203と、図面上の向こう側(以下、「背面」という)表面の中心部に位置する中心円形部と2つの円弧辺とこの中心円形部と円弧辺を結ぶ帯形状部からなる金蒸着の背面電極202からなっている。この水晶振動子は振動子ホルダー204の内部に形成した円環枠240に接して、振動子ホルダー204の内部に留置される。振動子ホルダー204は金属部材からなりその円状面には窓205が穿たれ、水晶振動子200の前面電極203はこの窓205を介して外部に暴露している。この前面電極203は、窓205を通して真空蒸着装置にあっては真空チャンバーあるいは化学成膜装置にあっては成膜反応チャンバーの内部に暴露しており、これらチャンバーの蒸着ガスや成膜ガスが前面電極203の表面に堆積し、その堆積の結果形成される成膜の膜厚を水晶振動子200の固有振動周波数の変化により捕える。
金属板バネ208は、ばね保持部206の一方の面に取り付けられている。金属板バネ208は、導電性金属例えば銅板やリン青銅板を、円形の形状に整形し、その円形部の周辺を一部切り離し、曲折して円形部の平面より突出できるようにしたものである。突出した部分である先端部208aは、背面電極202に対して電気的接点となっている。金属板バネ208は、ばね保持部206を貫通するボルト209によりばね保持部206に取り付けられている。ばね保持部206は、絶縁性材質により作られた成形部材である。ボルト209は、金属板バネ208が取り付けられたばね保持部206の面とは反対の面においてナット210によりばね保持部206にリード線211とともに固定される。
ユニット筒207は金属より成り、従来型の成膜センサーユニット220の長手方向の構造体である。ユニット筒207は、真空蒸着装置にあっては真空チャンバー、あるいは化学成膜装置にあっては成膜反応チャンバー(以下、総称して「チャンバー」と呼ぶ)内での水晶振動子の位置と蒸着ソース又は成膜ソース(以下、総称して「ソース」と呼ぶ)に対する対面角度を決定する構造体でもある。
図3は従来型の成膜センサーユニット220を組み立てたときの中心軸を含む面を断面としたときの従来型の成膜センサーユニット220の断面を示している。水晶振動子200は、金属板バネ208が水晶振動子200の背面電極202の周辺にある2つの円弧辺と接触し、リード線211からはボルト209と金属板バネ208を介して背面電極202に通電することになる。一方、金属板バネ208の水晶振動子200に対する押圧により、水晶振動子200の前面電極203は振動子ホルダー204に押し付けられ、振動子ホルダー204と前面電極203は通電することとなる。振動子ホルダー204は金属部材からなるため、ユニット筒207より水晶振動子200の前面電極203に通電することとなる。
従来型の成膜センサーユニット220の実際の使用においては、発振回路(図3には表示していない)にリード線211とユニット筒207を電気的に接続し、水晶振動子200が発振回路の振動素子要素として接続される。水晶振動子200の固有振動周波数は、発振回路において他の回路要素と共に構成される発振回路全体の発振周波数として測定される。
この従来型の成膜センサーユニット220の特徴は、水晶振動子200が従来型の成膜センサーユニット220全体で防護されている。従って、チャンバー内での位置とソースに対する水晶振動子200の表面が見込む角度が一定となるため、成膜膜厚の測定値の再現性が良い。更に、水晶振動子200が従来型の成膜センサーユニット220全体で防護されているためソースから出る蒸着ガスや反応ガスにより、リード線211の腐食あるいは金属バネ208の腐食が起こらず、安定した水晶振動子200を長期間使用することができる。また、水晶振動子200はその表面での成膜層の形成により、いずれは発振しなくなり、成膜膜厚測定に使用できなくなる。そのときは水晶振動子200の寿命であるとして水晶振動子200を交換する必要がある。この従来型の成膜センサーユニット220では水晶振動子200にはリード線等が直接繋がっていない故に、振動子ホルダー204をこの従来型の成膜センサーユニット220から外して、水晶振動子200を取り換えるだけで極めて容易に水晶振動子200の交換ができ、再度の従来型の成膜センサーユニット220の使用が直ちにできる。ソースに対する水晶振動子200の見込み角度の調整も不要である。このように、メンテナンスが容易なことより、この従来型の成膜センサーユニット220は広く用いられている。
しかし、従来型の成膜センサーユニット220には、以下のような問題がある。
第一の問題として、水晶振動子200を金属板バネ208で押さえているが、その押圧力の発生には、金属板バネ208の円形の銅板あるいはリン青銅板の周辺の一部をその弾性限界を超えて折り曲げ、折り曲げ部の復元力を利用している。即ち、このようにして発生した押圧により突出させた先端部208aが水晶振動子200の保持と背面電極202と前面電極203の通電を実現している。しかし、この押圧は、金属板バネ208の円形周辺の一部をその弾性限界を超えて折り曲げて発生させた折り曲げ部の復元力によるものであって、金属板バネの先端部208aを介した水晶振動子200に対する押圧力は、金属板バネ208の折り曲げ量の不均質、弾性復元力のバラつきにより一定しない。さらに、弾性復元力は時間と共にその復元力は弱くなる。特にチャンバー内の温度が上がる場合は、「焼き鈍し」効果により、復元力は急激に弱くなる。それによって水晶振動子200の背面電極202と前面電極203に対する通電が損なわれ、水晶振動子200を含む発振回路の安定な発振が困難となることがある。この発振の不安定は発振の停止以外に、水晶振動子200の固有振動周波数をシフトさせたりする。固有振動周波数のシフトがあると、成膜膜厚の測定は水晶振動子200の固有振動周波数の変化に基づいて行っているため、従来型の成膜センサー220は成膜膜厚の測定機器として使用できなくなる。
第二の問題としては、水晶振動子200に加わる押圧は本質的には、水晶板201にひずみを作る。このひずみは、水晶振動子200の固有振動周波数をシフトさせたり、振動モードを変えて固有振動周波数の近くに複数のサイドローブを作り固有振動周波数を他の振動周波数にジャンプさせたりする。そのため、押圧力を生じているバネ弾性の時間的な変化に対しては、固有振動周波数のシフトや、測定中の見かけの固有振動周波数のジャンプを生じ、安定した成膜膜厚測定ができなくなる。
第二の問題を水晶の固有振動を支配する振動メカニズムの側面より以下に詳しく説明する。
水晶振動子は、水晶の機械的な振動が圧電効果を介した電荷の発生、従って電流変化として現れるものを電気回路的な動作として検知している。従って、水晶の固有振動の基本は水晶板の振動メカニズムである。水晶振動子として採用されている水晶板の振動には、屈曲振動モード、捩り振動モード、長辺振動モード、幅縦振動モード、幅・長さ縦結合振動モード、輪郭すべり振動モード、厚みすべり振動モードがある。これらは、水晶の結晶から水晶板を切り出す際の結晶軸との関係で決まる。いずれの振動モードであっても、水晶振動子の固有振動は機械的な共振である。水晶振動子のこの共振機械振動は、水晶振動子が自由空間の中に置かれて束縛力がない場合には、上に掲げた水晶発振のモードと、水晶板の実効的弾性係数、水晶板の板厚、質量負荷、空間形状、で決まる。水晶発振のモードは水晶板の結晶軸に対する切り出しで決まり、それ以外のパラメータに対する水晶振動子の固有振動(以下、「機械的共振モード」と言う)の依存性は水晶発振のモードの種別ごとに異なる。水晶板の板厚は振動する水晶板の剛性に関係し、一般には板厚が厚いと固有振動は低くなる。ここで、質量負荷は水晶振動子の表面に付着した成膜の質量である。空間形状は、水晶板内の機械振動を決めるパラメータであり、水晶板の半径方向の振動モードと水晶板の周回の振動モードとが併存する。振動半径方向の機械的共振モードは、水晶板の境界即ち輪郭部が共振機械振動の解放終端となる場合と閉塞終端とがある。
図2に示す従来型の成膜センサーユニット220では、水晶振動子200が振動子ホルダー204に拘束されるため、水晶振動子200の拘束領域は共振機械振動の閉塞終端となり、水晶板に対する振動波の波長は水晶板の直径(拘束領域は除く)の半整数倍となる。一方、周回の機械的共振モードには、水晶板内で描くことのできる閉じた円の周期のゼロを含む整数倍を満たす振動モードである。図4は、水晶振動子200を構成する水晶板201での機械的共振モードをその振動の存在分布を模式的に表している。水晶板201は振動子ホルダー204に拘束されるため、水晶板内の機械振動は振動子ホルダーによる拘束領域の内側の領域で生じる。機械的共振モードのうち、水晶板の半径方向の振動モードとしては1次モード(点線)と2次モード(破線)を示している。水晶板の周回の振動モードとしては1次モード(一点鎖線)を示している。実際に水晶板201の表面又は内部での振動モードは低次モードから高次モードまでの重畳したモードであり、振動の波形は振動モードの種類により様々である。
これら機械的共振モードは水晶板に外部から加わる機械的な負荷により変化する。例えば水晶板の一点に押圧負荷をかけると、そこから機械的なストレスが水晶板全体に広がり、そのストレス下で水晶板の機械振動に関わる実効的な弾性係数が変わる。実効的な弾性係数が変わると、共振機械振動の周波数も変わる。実効的な弾性係数の変化は水晶板の半径方向の振動モードと水晶板の周回の振動モードの両方に影響を与える。
一方、水晶板上の一点に押圧負荷をかけた場合における、振動モードに対する局所的な影響は、共振機械振動の空間的存在領域を大きく変える。図5は水晶板201上の点Pに押圧をかけたときの共振機械振動の存在領域を示している。点Pは、振動子ホルダーによる束縛領域に加えて、水晶板201における共振機械振動の固定終端点ともなる。従って、点Pを中心に新たな振動モードが生じる。一方、従来の振動子ホルダーのみを束縛領域とする元の振動モードは、点Pを中心に新たな振動モードにより、その存在領域が浸食される。しかし、元の振動モードと新たな振動モードはこの水晶板201に併存することとなる。前者の領域では、点Pでの押圧負荷によるストレスのため実効的な弾性係数が元の振動周波数に対して高い方に周波数がずれる。一方、後者の領域では、押圧負荷によるストレスが大きいため実効的な弾性係数が元の弾性係数より大きくなる。更に、点Pは水晶板201の拘束点となるため、点Pとその近い周囲にある振動子ホルダーによる束縛領域との間に新たな共振機械振動が発生する。
前者の領域を固有振動領域と呼び、後者の領域を寄生振動領域と呼ぶ。固有振動領域の共振機械振動は押圧が無いときの元の共振機械振動の振動モード(これを「無押圧振動モード」と呼ぶ)に近い。寄生振動領域の共振機械振動は、無押圧振動モードに影響を受けるものの、この「無押圧振動モードとは共通性の少ない振動モードであって、寄生振動領域の共振機械振動の周波数は固有振動領域の共振機械振動の周波数とは基本的には異なる。従って、金属板バネ208の折り曲げ部の立ち上げ角度を大きくして折り曲げ部の先端部208aが強く水晶板201の背面電極202を押すと、水晶振動子200の固有振動周波数が他の周波数にジャンプする現象が起こることがあるが、そのジャンプ先の周波数は、この寄生振動領域の共振機械振動の周波数である。
第三の問題は、水晶振動子200に形成した前面電極203と振動子ホルダー204の電気的な接触の不良である。従来型の成膜センサーユニット220は、振動子ホルダー204に穿いた窓205がソースから出る蒸着ガスや反応ガスに曝されている。その結果として。図6に示すように水晶振動子200の前面電極203の表面に蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層が産生することとなる。このような層の形成は、振動子ホルダー204と水晶振動子200特に前面電極203との間に回り込み層221を形成する。更に、回り込み層221は前面電極203と振動子ホルダー204の間隙においてマイグレーションあるいは浸透現象を生じて、振動子ホルダー204と前面電極203の間の電気的な接触を劣化させ接触抵抗が増大し、最終的には電気的な導通を妨げることになる。このような、接触抵抗の増大と、最終的には電気的導通の遮断は、水晶振動子200を含む発振回路における発振信号のレベル低下と発振の停止となって現れる。発振信号のレベル低下においては、振動子200の非線形効果により、発振周波数のジャンプやふらつきが生じ、従来型の成膜センサーユニット220では水晶振動子200の固有振周波数を利用する成膜速度の測定ができなくなるという問題を生じる。
次に第三の問題を電気回路的の側面から以下に説明する。図7は、水晶振動子を含むコルピッツ発振器を示している。この発振器により水晶振動子の固有振動周波数の発振信号を得ることができる。水晶振動子XはバイポーラトランジスタTrのベースとエミッタの間に挿入されている。図8の上図はこのコルピッツ発振器の等価回路を示している。エミッタ電流によるベース・エミッタ間の正帰還により発振が生じ、その発振が維持される。このとき、発振回路の水晶振動子側と発振回路側の等価回路は図8の下図となる。この発振が生じるための条件としては、発振回路側の負性抵抗値をRiとすると、実効的な負性抵抗値Ri(=|Rn|−Rp)が水晶振動子側の等価抵抗Reより大きいこと、即ち、Ri≧Reが満たされることが必要である(ここで、Rpは回路の抵抗分による損失を生じるその抵抗である)。更にその発振信号が安定して維持されるためには、実効的な負性抵抗値Riが水晶振動子側の等価抵抗Reより十分に大きいこと、すなわち余裕があることが必要である。安定発振条件としては、一般的には、Ri≧5×Reとされている。ここで係数5は余裕の度合いをしており、RiがReに近づく、すなわち係数5が1に近づくにつれて、発振は生じ難くなり、発振をしていても発振信号は小さくその固有振動周波数も安定しなくなる。逆に、係数が10以上になるとき、すなわち発振回路側の負性抵抗が十分に大きいときは発振しやすく、発振は安定的に維持される。
振動子ホルダー204と前面電極203の間の電気的な接触抵抗が増大した場合には、図9に示すように水晶振動子Xには接触抵抗Rcが直列的に加わることとなる。そうすると、図10に示す等価回路から、安定発振条件は、実効的な負性抵抗値RiがRi≧5×(Re+Rc)を満たすことが必要となる。この関係より、接触抵抗Rcが大きくなると、実効的な負性抵抗値Riは係数5を維持することが困難となる。係数が1となれば発振の維持の限界となってしまう。従って、水晶振動子Xの接触抵抗Rcの増大は避けなければならない。この接触抵抗Rcは従来型の成膜センサーユニット220の振動子ホルダー204と前面電極203の間の電気的な接触抵抗Rcである。しかし、この接触抵抗の原因は、蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層が形成されることによる振動子ホルダー204と水晶振動子200に形成された前面電極203との間の回り込み層221と、前面電極203の表面に蓄積し形成された蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層が振動子ホルダー204と前面電極203へのマイグレーションあるいは浸透現象によるものである。
これらにより振動子ホルダー204と前面電極203の間の電気的な接触抵抗は、従来型の成膜センサーユニット220を長時間使用することにより、不可避的に増大することによる。従って、蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層を形成することを目的とした装置に従来型の成膜センサーユニット220が使用される限りは、避けることができない課題として残る。
接触抵抗Rcを減らす方法として、成膜センサーユニットを含む装置の操作者は、発振信号が不安定となると、蒸着又は成膜処理のバッチを交換する際に、金属板バネ208の水晶振動子200に対する押圧力を高めるため、金属板バネ208の折り曲げ部の立ち上げ角度を大きくして折り曲げ部の先端部208aが強く背面電極202を押すように、金属板バネ208を調整している。しかし、接触抵抗Rcの増加の原因が、成膜対象物に対して被着されるイオンや成膜反応ガスがセンサーマウント204と電極203の間に入り込み、電極を腐食することによる電極のエロージョンやセンサーマウントと電極の間に被着あるいは成膜される膜の残渣あるいはデブリのマイグレーションあるいは浸透現象であるため、金属板バネ208の押圧力を高めることは接触抵抗Rcを下げることにはあまり効果がない。更に、無押圧振動モードが理想的である水晶板内の振動モードを、押圧力を高めることによって生じた水晶振動子への機械的ストレスは、水晶板内の振動モードを水晶板内の元の機械的振動モードから大きく変えることとなる。その結果、第二の問題として指摘した問題を再び生じる。水晶振動子への機械的ストレスが、安定な固有振動周波数領域を抑制したり、固有振動周波数の近くに複数のサイドローブを作り固有振動周波数を他の振動周波数にシフトさせたりジャンプさせたりする。従って、金属板バネ208の押圧力を高めることは固有振動発振機構の観点からは固有振動周波数を不安定にする新な要因を作り出すことにほかならない。
以上説明した問題は従来型の成膜センサーユニットに関して解決すべき課題であり、本発明の課題となっている。具体的には、第一に金属板バネのバネ弾性の時間的な変化でありそのため電気接触が悪化し安定な固有振動周波数が維持できないこと、第二には金属板バネの押圧力が水晶振動子100を自由空間中に置く程度の束縛力の弱い保持状態の下に置くこととなっていないことによる固有振動周波数のシフトやジャンプなどの不安定な発振動作が生じること、第三には、蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層のマイグレーション又は浸透現象による振動子ホルダー204と前面電極203の間の電気的な接触抵抗が不可避的に増大することである。いずれの問題もこの成膜センサーユニットによる成膜測定の寿命を短くする。これに対処する上述した操作者による金属板バネの調整は本質的な問題解決でもなくかえってこの従来型の成膜センサーユニット220の不安定測定の原因を作っている。
本発明では、上記の問題に対する直接の解決手段に加えて、水晶振動子に対する外部からの押圧でたとえ水晶振動子に他の寄生振動が生じて元の固有振動周波数に重畳してこの寄生振動の振動周波数の成分が含まれるようになっても、元の固有振動周波数を検知する手段(以下、「固有振動周波数検知手段」と呼ぶ)を提供する。
第一の問題の解決は、金属板バネ208の折り曲げ部の先端部208aに替えて,電極と接触する導電端部が弾性体により電極に対して押圧力を有し、その押圧が弾性体の弾性変形の限度内で電極と接触するコンタクト部材(以下、「導電接触探針」と呼ぶ)を用いることにより実現ができる。すなわち、そのような導電接触探針の導電端部の電極に対する押圧はその弾性変形限度内であるための押圧が複数の導電接触探針間で一定しており、既存の成膜センサーユニットは水晶振動子の入れ替え毎に電気的接触がバラつき、固有振動周波数が一定しないという問題を解消することができる。更に、押圧の時間的劣化もほとんどなく、導電接触探針を用いることにより振動子に対して安定な電気接続を可能とする。
第二の問題の解決は、上記のような導電接触探針であって、その導電端部が球形の一部あるいは楕円球の一部である形状のものを用いることにより、実現ができる。このような導電接触探針では電極あるいは電極につながる電気接触部に対する接触が点接触であるため、振動子に対して小さな押圧で十分な電気接続、即ち電極に対する小さな接触押圧を実現することができる。その結果、水晶振動子に対する束縛力が弱くなり固有振動周波数のシフトやジャンプなどの不安定発振動作を抑制することができる。
第三の問題の解決は、前面電極への通電を、振動子ホルダーを介することなく前面電極に直接通電することにより実現できる。このような直接通電により、振動子ホルダーと前面電極の間にマイグレーション又は浸透現象による蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層が介在して前面電極への通電を妨げることによって起こる水晶振動子の突然の発振停止を防ぐことができるからである。
本発明は、これら上記の第一から第三の問題の解決を実現する具体的な解決手段である。即ち、成膜振動子として用いられる結晶性の圧電振動板の両方の面にそれぞれ1つの電極が形成された振動子と、先端形状が球形又は楕円球の一部である導電端部とこの導電端部に結合した案内軸と筐体の内部に挿入された弦巻バネからなり、その導電端部がこの弦巻バネの弾性力によりこの筐体の長手方向に押し出す機能を有する2つの導電接触探針と、この振動子を保持する振動子ホルダーと、この導電接触探針を固定する導電接触探針保持部材と、この振動子ホルダー及びこの導電接触探針保持部材を装着する支持部材とから成る成膜センサーユニットであって、この振動子の一方の面である接触面に2つの電気接触部が形成され、それぞれその1つの電極に電気的に接続され、かつこの導電接触探針の導電端部はそれぞれこの電気接触部に接触している成膜センサーユニットを提供するものである。
振動子としては圧電効果を有するものであれば、それを回路エレメントとして共振回路を構成できる。本発明は、以下では水晶振動子を用いた成膜センサーについて具体的に説明するが、本発明には、水晶以外の圧電効果を有するもの例えば圧電セラミック等の圧電材料を用いた成膜センサーも含まれる。
本発明の効果
振動子に対する導電接触探針の押圧は、弦巻バネの弾性限界内で作られるため、時間的に一定し、かつ、弦巻バネの一般的性質から小さな押圧力が容易に実現できる。導電接触探針の導電部の先端は半球状あるいは半楕円球状であるため、導電接触探針は前面電極接触部331の一部と背面電極接触部332と点接触することが可能である。現実の設計上の問題としては、各種の導電接触探針をその押圧や物理形状より選択することにより、水晶板に対する適切な電気接続即ち電極に対する小さな接触押圧を実現することができ、これにより、押圧負荷による水晶板内のストレスが小さくなるため共振機械振動に加えて発生する寄生振動の発生は少なくなる。
振動子に対する押圧負荷が少ない場合は、振動子と振動子ホルダーとの間の接触力も小さくなる。このことにより、チャンバー内への暴露面である振動子の前面が振動子ホルダーとの間に有する間隙において、成膜物資のマイグレーションあるいは浸透現象を生じやすくなる。そのため、蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層のマイグレーション又は浸透現象による振動子ホルダーと振動子の前面に形成された前面電極の間の電気的な接触抵抗が不可避的に増大しやすくなる。しかし、導電接触探針と電極接触部との電気的な接触がチャンバー内への暴露面の背面で行われているため、電極に対する電気的な接触抵抗が不可避的に増大することを避けることができる。
これらの個々の効果から、本発明の成膜センサーユニットによれば、振動子の発振が安定し、長期の使用が可能であることにより、安定な成膜測定を長期間可能とする成膜センサー装置を提供することができる。
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図11は実施例1であって、本発明の構成を詳細に示している。振動子300の背面と前面にはそれぞれ背面電極302と前面電極303が形成される点において、ばね保持部206(図2、3、6参照)が導電接触探針保持部材306にそして金属バネ208と先端部208a(図2、3、6参照)が導電接触探針314、315に置き換わり、ナット210とリード線211(図2、3参照)がそれぞれ2つのナット310、311とリード線312、313に置き換わり、その他の部分は従来型の成膜センサーユニット220(図2、3参照)と同じである。
この水晶振動子300は振動子ホルダー304の内部に形成した円環枠340に接して、振動子ホルダー304の内部に留置される。振動子ホルダー304は金属部材からなりその円状面には窓305が穿たれ、水晶振動子300はその前面電極303を含むこの窓305を介して前面が真空チャンバーあるいは化学成膜装置にあっては成膜反応チャンバーの内部に暴露している。
その結果、水晶振動子300の表面に堆積する膜の膜厚を水晶振動子300の固有振動周波数の変化により捕えることについては、従来型の成膜センサーユニットと変わるところはない。
本実施例では、振動子ホルダー304は支持部材であるユニット筒307の先端に装着されて、水晶振動子300はソースに対する適切な距離と方向を保つようにチャンバー内に配置される。この点についても従来型の成膜センサーユニット220と変わるところはない。導電接触探針保持部材306はユニット筒307に装着され、導電接触探針保持部材306が従来型の成膜センサーユニット220のばね保持部206と同様に絶縁材料でできているので、導電接触探針314、315はユニット筒307からは電気的に隔絶されている。
しかし、従来の水晶振動子200(図2参照)と実施例1の水晶振動子300は電極パターンが異なる。図12A、図12B、図12Cは、本発明の実施例1における電極パターン、即ち、一方の面である接触面に2つの電気接触部が形成されそれぞれが水晶板の各面に形成した電極に電気的に接続されるパターンを示している。図12Aは水晶振動子300の前面、図12Bはその背面そして図12CはD−D線でカットした水晶振動子300の断面を示している。
実施例1の水晶振動子300は、従来の背面電極202(図2参照)と比較すると、背面電極202の一部として形成されていた電気接触部が新たに2つの電気接触部(以下、「前面電極接触部331」と「背面電極接触部332」と呼ぶ)として振動子300の背面に形成されている点において異なる。前面電極接触部331と背面電極接触部332はそれぞれ前面電極303と背面電極302に電気的に繋がっている。
具体的には、前面電極接触部331の一部と背面電極接触部332はともに背面電極302を金蒸着で形成する際同時にパターン化して形成する。更に前面電極接触部331の一部は前面電極303を金蒸着で形成する際同時にパターン化して形成する。背面側の前面電極接触部331の一部と前面側の前面電極接触部331の一部は、別の金蒸着工程、即ち結晶性の圧電振動板である水晶板301の厚み方に対して垂直の方から金蒸着する工程により形成した架橋部333を介して前面電極接触部331は前面電極303に形態的にも電気的にも繋がっている。
図13は実施例1の成膜センサーユニット320を組み立てたときの中心軸を含む面を断面としたときの成膜センサーユニット320の断面を示している。水晶振動子300は、導電接触探針314、315が水晶振動子300の前面電極接触部331及び背面電極接触部332と接触し、リード線312、313からはそれぞれ、ナット310、311と導電接触探針314、315を介して背面電極302と前面電極303に通電されることになる。導電接触探針314、315の水晶振動子200に対する押圧により、前面電極接触部331及び背面電極接触部332と接触し背面電極302と前面電極303に電気的な接続が可能となる。
導電接触探針314、315は、その構造から弾性変形の限度内での電極との電気的接触により押圧が時間的に一定し振動子に対して安定な電気接続を可能とすること、及び前面電極接触部331の一部と背面電極接触部332との接触が点接触として小さな押圧で十分な電気接続、即ち電極に対する小さな接触押圧を実現することができる。
図14は導電接触探針314、315の構造を示す断面図である。具体的には、導電端部341は案内軸342の先端に形成されることにより案内軸342はこの導電端部341に結合している。案内軸342は筐体343の内部に収納され、筐体343内部に挿入された弦巻バネ344が係止部346を介して案内軸342を筐体343の長手方向に押し出す構造となっている。案内軸342は探針ロッド受345にガイドされ、かつ案内軸342には筐体343の内部に収納された弦巻バネ344の押し戻し力とそれを受ける係止部346により作り出された押圧が加わり、導電端部341は導電接触探針314、315の長手方向でかつ外部に向かって押し出される。その結果、導電接触探針314、315は導電端部341を、案内軸342を介して筐体の長手方向に押し出す機能を有する。
押圧は、弦巻バネ344の弾性限界内で作られるため、時間的に一定し、かつ、弦巻バネ一般の性質から小さな押圧力が容易に実現できる。導電部341の先端は半球状あるいは半楕円球状であるため、導電接触探針314、315は前面電極接触部331の一部と背面電極接触部332と点接触することが可能である。現実の設計上の問題としては、各種の導電接触探針をその押圧や物理形状より選択することにより、水晶板301に対する適切な電気接続即ち電極に対する小さな接触押圧を実現することができ、これにより、押圧負荷による水晶板301内のストレスが小さくなるため共振機械振動に加えて発生する寄生振動の発生は少なくなる。
2つの導電接触探針314、315は電気的に絶縁されるよう接触探針保持部306は絶縁部材で作られている。2つの導電接触探針314、315の接触探針保持部306に対する取り付けは、導電接触探針314、315の外部筐体にスクリューを形成してナット310,311でネジ締めをしている。しかし、確実な取り付けができるなら、例えば、2つの導電接触探針314、315を接触探針保持部306に嵌合させても良い。
水晶板301に対する押圧負荷が少ない場合は、水晶板301と振動子ホルダー304との間の接触力も小さくなる。このことによる影響は、チャンバー内への暴露面である水晶板301の前面が振動子ホルダー304との間に有する間隙において、成膜物資のマイグレーションあるいは浸透現象を生じやすくなる。即ち上述の第三の問題である、蒸着膜層あるいは化学反応による成膜層のマイグレーション又は浸透現象による振動子ホルダー304と前面電極303の間の電気的な接触抵抗が不可避的に増大することである。しかし、本第一の発明では前面電極303の給電は水晶板301の背面側の前面電極接触部331を介して行われる。そのため、従来型の成膜センサーユニット220で見られた電極に対する電気的な接触抵抗が不可避的に増大することを避けることができ、たとえ導電接触探針314、315の押圧が小さくても確実にかつ安定な成膜測定を行うことができる。導電接触探針314と背面電極接触部332と電気的な接触及び、導電接触探針315と前面電極接触部331との電気的な接触がいずれも、チャンバー内への暴露面の背面で行われているからである。
本発明では、導電接触探針をその押圧や物理形状や特性により選択することにより、押圧負荷による水晶板301内のストレスを小さくし、新たな寄生振動の発生を抑えることができるという特徴を有する。しかし、水晶振動子300は自由空間の中に置かれて束縛力がない状態ではなく、必ず水晶板の境界即ち輪郭部が閉塞終端であるがために、どうしても水晶振動子300の周辺部においては寄生振動の発生をなくすることは困難である。そうすると、水晶振動子を含む発振回路のQ値が下がり、発振周波数のふらつきを生じ、水晶振動子300の固有振動周波数が不安定となる可能性は残る。
この問題の解決をするには、寄生振動が存在してもできるだけ固有振動周波数を検知しその検知状態を維持する固有振動周波数検知手段が必要である。以下の実施例2では、その固有振動周波数検知手段の一つを具現化して提供している。
すでに述べたように、水晶板上の中心部が水晶板周辺の束縛力の影響をあまり受けない振動領域であり、水晶板の周辺部は周辺束縛力を強く受ける振動領域である。前者は固有振動領域であり後者は束縛力の少ない中心部と周辺部束縛力との競合により生じる寄生振動を生じる寄生振動領域である。寄生振動は、束縛力の大きさ及び分布と、水晶板切り出しで決まる振動モード(屈曲振動モード、捩り振動モード、長辺振動モード、幅縦振動モード、幅・長さ縦結合振動モード、輪郭すべり振動モード、厚みすべり振動モード)の種類により決まる。これら固有振動領域あるいは寄生振動領域では、振動に対して圧電効果を介して水晶の表面に電荷を発生させる。この電荷の時間変化が水晶板の表面に形成した電極において交流電流として働き、水晶板の外部に構成した発振回路と協働して発振器を構成することとなる。従って、水晶板の表面の電極が大きいと固有振動領域及び寄生振動領域を包含するため、発振器は固有振動及び寄生振動の周波数を有することとなる。一方、電極が水晶板の表面の中心部に小さく形成されている場合には固有振動領域のみを包含するため、発振器は固有振動を多く含み寄生振動の周波数の影響が少なくなる。
従って、水晶の表面の中心に電極を小さく形成すると水晶振動子が固有振動を多く含み寄生振動の周波数の影響を少なくする点において効果がある。
具体的には、実施例2では、実施例1の成膜センサーユニットおいて、結晶性の圧電振動板の両方の面にそれぞれ1つの電極が形成された振動子が、それぞれの電極は円形であってその直径は圧電振動板である水晶板の直径の約10パーセントから80パーセントの直径となる成膜センサーユニットを構成している。最小値は、固有振動の信号を、寄生振動や高調波振動に基づく信号及びその他の信号源の信号を抑えつつ捕えることができる限度において最小の電極サイズである。最大値は、寄生振動による信号を相対的に減少させる効果が見られる限度において最大の電極サイズである。
本発明に係る成膜センサーユニットでは、前面電極に対する通電は、振動子ホルダーを介して行われるのではなく、導電接触探針、前面電極接触部、架橋部を介して行われる。そのため、前面電極が振動子ホルダーに電気的に接触するために、振動子ホルダーに穿いた窓より大きくするとの設計上の制限は課せられない。そのため、固有振動周波数検知手段の一つである実施例2における電極の直径は圧電振動板である水晶板の直径の約10パーセントから80パーセントの直径とする構成は、本発明に係る実施例1で実現する成膜センサーユニットの機能を減じることなく容易に実現できる。
図15Aと図15Bは、実施例2に係る水晶振動子400を示している。水晶板401の表面に形成した背面電極402、前面電極403は、実施例1と比較して、背面電極302、前面電極303より小さくなっているだけで、水晶板401、前面電極接触部431、背面電極接触部432、架橋部433を有することにおいては実施例1と比較して、同じである。
寄生振動の現実的な問題は、寄生振動が存在する場合は発振回路のQ値が下がり、周波数のシフトが生じやすくなることである。シフト量が多いと水晶振動子による成膜膜厚の安定測定ができなくなる。即ち測定寿命が尽きることとなる。従って、寄生振動の少ない水晶振動子を事前に選ぶことは重要なことである。この点において実施例2における効果が現実の水晶振動子に現れていることを検証する。寄生振動が少ないことは、図8又は図10の水晶振動子側の等価回路において、インピーダンスのバラつきが小さいことに相当する。寄生振動が多いことは水晶振動子には各種振動モードが含まれる。一方、水晶振動子側の等価回路においては、回路インピーダンスはそれぞれの振動モードの共振周波数を中心に大きく変化する。この点に着目すると、寄生振動の少ない水晶振動子はクリスタルインピーダンスの値(図8及び10の水晶振動子側の等価回路のインピーダンスであって、「CI値」と呼ばれている)のバラつきが少ない。実際には、水晶振動子を実施例1に係る成膜センサーユニット320に装着した状態でCI値を測定し、その値(「水晶電流値」と呼ぶ)を測定値としている。
図16では、実施例1の成膜センサーユニット320に実施例2による水晶振動子400を装着した場合の水晶電流値と、比較として、従来型の成膜センサーユニット220に従来の水晶振動子200を装着した場合の水晶電流値(図16では、「従来技術」に該当する)を示している。実施例2の水晶振動子400においては、背面電極402及び前面電極403の直径を最適化したものを採用している。この水晶振動子400では、水晶電流値のバラつきは、従来の水晶振動子200を従来型の成膜センサーユニット220に装着して測定した水晶電流値のバラつきの約30%である。
寄生振動の影響を小さくするには、水晶板の表面の電極を中心部にできるだけ小さく形成することが望ましい。しかし、小さくすればするほど、水晶の表面に圧電効果により発生した電荷が電極において交流電流として現れる際にその量は少なくなる。即ち電流量は低下する。図8又は図10の等価回路では、電流量が低下することは、Reが大きくなることを意味し、そのため、却って実効的な負性抵抗値Riが満たすべき安定発振条件であるRi≧5×(Re+Rc)は、満たされにくくなる。即ち水晶振動子の測定寿命は短くなりやすい。このことより、電極を水晶板の表面の中心部に小さく形成するについては、限度がある。そこで、寄生振動の影響を小さくすること及び十分な安定発振条件を備えることのバランスとして、水晶振動子の電極の直径を水晶板の直径に対して適正化したものを採用している。
発振器用の水晶振動子としては、厚みすべり振動モードを持つATカット型振動子が多く用いられている。その大きな特徴は、水晶板の厚みが発振周波数を決める重要なパラメータであることにより、水晶板の厚みの制御により固有振動周波数を選ぶことができることにあり、その他、他のカット角の振動子に比べて広い温度範囲で安定した周波数が得られることもATカット型振動子が多用されている理由である。
寄生振動の影響を小さくする方法としては、実施例2では水晶板の表面の電極を中心部に小さく形成した水晶振動子を用いるものであるが、これ以外に、実施例3として水晶振動子の振動領域から水晶振動子に対する束縛点である2つの導電接触探針の接触位置を離れた位置に置く方法がある。
具体的には、水晶振動子によく用いられるATカット型水晶振動子の、厚みすべり振動モードを利用する。厚みすべり振動モードは水晶板の断面において図17に示すように、平らな水晶板を上から押さえながら、横方向にずらしたような振動モードである。振動は原理的には水晶板の厚み内に閉じ込められるため、その周波数fは水晶板の厚みtに対して、f〔kHz〕=1665/t〔mm〕となる。ATカット型水晶振動子では、厚みすべり振動モードには振動の伝わり易さが非等方向性であるため、振動領域は図18に示すように、結晶軸方向により振動領域が異なる。具体的には水晶板上の結晶軸X方向に長径を有する楕円形をしている。そこで2つの導電接触探針の接触位置をこの振動領域から離れた位置にするために結晶軸X方向とは直角の結晶軸Z方向(楕円型振動領域の短径方向)に設ける。
具体的には、実施例3では、実施例1に係る成膜センサーユニットおいて、結晶性の圧電振動板はATカットの水晶板であって、結晶軸X方向に直角な方向にオリエンテーションフラットが設けられ、前記2つ電気接触部は結晶軸Z方向に配列されており、前記導電接触探針の導電端部はそれぞれ該電気接触部に接触している成膜センサーユニットを構成している。
すでに図18により説明したように、ATカット型水晶振動子では結晶軸Z方向に2つの導電接触探針の接触位置を設けると、これらの接触位置は、振動領域より離れた位置にある。結晶軸Z方向が、楕円形の振動領域の短軸方向となるからである。従って、2つの導電接触探針の接触位置が結晶軸Z方向となるように当該電気接触部をATカット型水晶板に形成すれば同一の効果が得られる。しかし、水晶板上に電極を形成する際に同じ工程あるいはこの工程に付加する追加工程で電気接触部を形成する際、水晶板毎に結晶方位を検査し決定することは困難である。そこで、ATカット型水晶板にオリエンテーションフラットを設けておけば、容易に水晶板の結晶軸方向を知ることができ、正しい方向即ち結晶軸Z方向に接触位置が水晶板上に位置するように電気接触部を形成することができる。
図19は実施例3の構成を詳細に示している。水晶板501は結晶軸Z方向に平行となるよう、その一部を研削などの加工によりオリエンテーションフラット541が形成されている。水晶板501の背面には背面電極502及び前面電極接触部531と背面電極接触部532が形成されている。これら背面電極502及び前面電極接触部531と背面電極接触部532はオリエンテーションフラットに平行であって、水晶板501の直径を通る線を中心線としてほぼ鏡像関係となるように形成する。そうすると2つの導電接触探針の接触位置が前面電極接触部531と背面電極接触部532上であって、かつ振動領域より最も離れたところに位置するようになる。水晶の全面の電極等のパターンは実施例2と同じであるので詳説は省く。
もちろん水晶振動子がATカット型水晶板であれば、電極の直径を水晶板の直径に対してその割合を数値限定してもあるいは数値限定しなくても、直接実施例1に係る成膜センサーユニットに適用することも可能である。
実施例1ないし実施例3をさらに改良したものとして、水晶振動子に与える導電接触探針の押圧を水晶板において局所化する構成がある。即ち、実施例1ないし実施例3では、2つの導電接触探針314、315は水晶板に押圧を与え、その押圧は振動子ホルダー304の内周の円環係止部340の全体で受けていた。そのため、水晶振動子300、400、500はその周辺が束縛領域となり、自由空間に置かれた水晶振動子とは振動モードが異なり、寄生振動を減らすのには限界があった。
そこで、実施例4では、導電接触探針の押圧を水晶板において局所化し、水晶振動子を自由空間に置かれた状態に近い構成を提供している。
具体的には、実施例4では、実施例1ないし実施例3に係る成膜センサーユニットおいて、前記振動子を保持する振動子ホルダーには前記導電接触探針と対抗する部分に振動子に接触する受座部が設けられている成膜センサーユニットを構成する。
図20には実施例4の構成を示している。実施例4は、実施例1ないし実施例3に包含される振動子ホルダー304に替えて、2つの導電接触探針314、315の接触位置に対抗する位置に水晶振動子500を受ける2つの受座部521を具備していることを特徴とする成膜センサーユニットである。
即ち、実施例4は図20に示すように、実施例1ないし実施例3に係る水晶振動子300、400、500を新たに改良した振動子ホルダー504と組み合わせて使用する成膜センサーユニット520である。図21では、成膜センサーユニット520の要部の断面を示している。簡単のために、ユニット筒やリード線等は省き、接触探針保持部506、導電接触探針314(図21の中では明示されていない)、315は、水晶振動子500に設けたオリエンテーションフラット541との関係が明確になるように省いてはいない。例えば、実施例4では、振動子ホルダー504内にあって、水晶振動子500の2つの導電接触探針の接触位置に対抗する位置に水晶振動子500を受ける2つの受座部521を、振動子ホルダー504の内部に形成した円環枠540に設けている。受座部521は振動子ホルダー504の水晶振動子500と対抗する内部の面に、その対抗する内部から水晶振動子500に向けて少し突出して設けている。そうすると、振動子500を束縛する部分は、円環枠540ではなく、導電接触探針314(図21の中では明示されていない)、315と2つの受座部521を組みとした2つの部分のみに係るため、水晶振動子500を束縛する部位はこの2か所のみとなり、水晶振動子500の他の部位は束縛されない。即ち、振動子500は自由空間に置かれた状態に近い。
図21は、実施例4に係る成膜センサーユニット520をその長手方向を含む平面でカットした断面図であって、水晶振動子500を束縛する部位は導電接触探針315の導電端部341と受座部521であることが分かる。この図より分かるように、水晶板501の半分は導電接触探針315と1つの受座部521でのみ束縛され、水晶板501は全体として導電接触探針314と315及び2つの受座部521の2か所で束縛され、水晶板501は自由空間に置かれた状態に近い。そのため、寄生振動の発生をさらに少なくすることが可能である。
ATカット水晶板を用いた水晶振動子の固有振動はf〔kHz〕=1665/t〔mm〕で与えられるため、水晶板の厚みが大きいほど、固有振動周波数は低い。一方寄生振動周波数は固有振動周波数より高い場合が多い。更に水晶板の厚みが大きいほど、押圧に対するストレスが少なく寄生発振は少ない。逆に言うなら、更に水晶板の厚みが小さいほど、押圧に対するストレスが多く寄生発振は多くなる。
この性質を利用して、ATカットをした水晶板を用いた水晶振動子の寄生振動を固有振動に対して相対的にさらに低減化する方法として、実施例5がある。
具体的には、この実施例5では、実施例3に係る成膜センサーユニットおいて、前記水晶板は、中央部の厚みが周辺部の厚みより大きくした成膜センサーユニットを構成する。
図22は実施例5における成膜センサーユニット620の要部の断面を示している。水晶板601は中央部に圧電歪信号を受ける電極が形成されている。水晶板601の中央部はその周辺部より厚いため、水晶板の中央部は周辺で生じる押圧に対するストレスが少なく、かつ中央部における固有振動周波数は周辺部における固有振動数よりも低い。そのため、例え周辺部で寄生振動が生じても、寄生振動の発生に伴う高い振動周波数の影響は受けにくい。従って、水晶振動子600の振動周波数は安定したものとなり、さらに長時間の測定に使用することができる。
図23は実施例6における回転式成膜センサーユニットを示している。具体的には、図23の(A)は実施例6における回転式成膜センサーユニットの主要部品の組み立てを示し、図23の(B)は図23の(A)の中の一点鎖線で表記した矢印により指定した矢視図であって実施例6における回転式成膜センサーユニットの要部の断面を示している。当該回転式センサーユニットでは、6つ水晶振動子を保持しており、一度にはそのうちの一つの水晶振動子のみを外部に選択的に暴露して使用し、水晶振動子の測定寿命が来るたびに回転機構により順次残りの水晶振動子に切り替えて成膜膜厚の測定をするものである。そして、一連の水晶振動子を全て使い切った後に、一度に全ての水晶振動子を交換する。こうした交換方法を採用することにより、成膜膜厚測定システムの保守の省力化を図ることができる。
実施例6のセンサーユニットの要部は、振動子ホルダー704と接触探針保持部709からなる。振動子ホルダー704には6つの窓705が穿たれ、それぞれに水晶振動子が装着される。個々の振動子は、水晶板601とその表面に形成した背面電極602と前面電極603等からなる。背面電極602には導電接触探針415が、前面電極603には導電接触探針414が、それぞれ接触を介して繋がり発振信号を受ける。導電接触探針414は接触探針保持部709に繋がり、さらに接触探針保持部709を介して信号処理部(図示せず)に繋がる。一方、導電接触探針415は、絶縁部材である接触探針絶縁前部支持体408、接触探針絶縁後部支持体407及び接触探針絶縁鞘416により接触探針保持部709に固定されている、導電接触探針415は、電気的には個々に独立しており別の配線線材を介して信号処理部(図示せず)に繋がる。このようにして、導電接触探針415は、そのペアとなる導電接触探針414の電気接続が独立しているか共通しているかの如何に関わらず、個別に信号処理部に信号を伝えることができる。このようにして6つの水晶振動子を順次測定に供することができる。
なお、水晶板601は実施例5に示したATカット水晶板でその中央部はその周辺部より厚くしたものでも、平板水晶板でも良い。また、6つ水晶振動子を用いる構造でなくても、2、4、10、12個の水晶振動子を順次回転移動させて交換できるものであっても良い。
以上、本発明に係る実施例1から実施例6を説明した。これらの実施例の特徴及び効果をまとめると以下のようになる。
本実施例1に係る成膜センサーユニットでは、導電接触探針の採用により水晶振動子の入れ替え毎に電気的接触がバラつくことによる固有振動周波数が一定しない問題を避け、かつ長期間の振動子の使用に対しても電気接続の劣化による不安定な振動を生じにくいことを実現している。即ち、本発明により安定的にかつ長期間の成膜膜厚測定の実現をすることができる。更に、前面電極への通電を、導電接触探針を使用することにより振動子ホルダーと前面電極の間にマイグレーション又は浸透現象による前面電極への通電不良を妨げることができ、水晶振動子の突然の発振停止を防ぐことができる。
実施例2に係る成膜センサーユニットでは、水晶振動子の固有振動の圧電効果は水晶振動子の表面に設けた電極により検出されるところその電極を水晶板の中心部に限定した範囲の大きさとすることによって水晶の固有振動を捕えやすくしかつ寄生振動は捕えにくくすることにより、例え寄生振動があっても安定的に水晶の固有振動の検出を維持することができる。
実施例3に係る成膜センサーユニットでは、水晶振動子として一般によく使用されているATカット型水晶振動子の厚みすべり振動モードについて、振動領域より離れた位置に導電接触探針の接触点を設けることにより安定的に水晶の固有振動を発生させることができ、安定的に成膜膜厚の測定をすることができる。
実施例4に係る成膜センサーユニットでは、水晶振動子に接触する部材を導電接触探針と受座部の組みだけに限定し、これら2つの部材のみにより水晶振動子に対する接触点を水晶振動子上の2点に局在化させることにより、水晶振動子が自由空間に置かれた状態に近い状態にして、寄生振動の発生をさらに少なくすることができ、安定的に成膜膜厚の測定をすることができる。
実施例5に係る成膜センサーユニットでは、ATカットをした水晶板を用いた水晶振動子の寄生振動を固有振動に対して相対的にさらに低減化することができ、さらに、安定的に成膜膜厚の測定をすることができる。
実施例6に係る成膜センサーユニットでは、測定寿命に至った水晶振動子をその度ごとに一つずつ変更するのではなく、一つの水晶振動子が測定寿命に至ったときにはこれを回転機構により他の水晶振動子に置き換え、一連の水晶振動子を全て使い切ったのちに一度に全ての水晶振動子を交換する。こうした交換方法を採用することにより、成膜膜厚測定システムの保守の省力化を図ることができる。
また、電極前面電極接触部を蒸着により形成するのに、上記の実施例に用いられている金以外に、アルミニウム、クロムその他の金属であってチャンバー内の蒸着ガスや反応ガスに対して耐蝕性のある金属を用いても良い。更に、本発明は実施例1ないし実施例6にのみ限定されるのではなく、これら実施例の組み合わせたものや、本発明が提供する課題解決手段の本質的かつ特徴的な技術思想の範囲内であって技術常識や既存技術により代替え、変更、追加、削除を行ったものも含む。