JP2016147966A - 多孔質フィルム - Google Patents
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Abstract
Description
しかしながら、1,4−ジオキサンは、発癌性の問題があり、得られたポリ乳酸多孔膜中に残存した場合、細胞に対して悪影響を及ぼすことが懸念される。
本発明に係る溶媒の凍結と抽出は、特別な装置を使用することなく、また、煩雑な操作を必要とすることなく、簡便に低コストで実施することができ、従来法に比べて生産性、経済性が大幅に改善される。
本発明の多孔質フィルムは生体親和性ポリマーからなり、好ましくは脂肪族ポリエステルを主成分とする。ここで主成分とは、ポリマー中の成分として、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90〜100重量%以上含むことをいう。
また、ポリ乳酸の重量平均分子量は、5万以上40万以下であるのが好ましく、特に10万以上25万以下であるのがより好ましい。ポリ乳酸の重量平均分子量がこの範囲の下限値以上であれば、好ましい実用物性を得ることができ、上限値以下であれば、溶媒への溶解性、製膜性が良好である。
また、ポリ乳酸のガラス転移温度は、0〜100℃であるのが好ましく、特に50〜70℃であるのがより好ましい。ポリ乳酸のガラス転移温度がこの範囲の下限値以上であれば好ましい実用物性を得ることが可能であり、上限値以下であれば、溶媒への溶解性、製膜性が良好である。
本発明の多孔質フィルムは、生体親和性ポリマー以外の第2成分を1種類以上含有するものであっても良い。第2成分としては、生体に悪影響を及ぼすものでなければよく、特に制限はないが、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸;ポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンなどの糖質;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどのリン脂質;FGF(繊維芽細胞増殖因子)、EGF(上皮増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、TGF−β(β型形質転換増殖因子)、NGF(神経増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、BMP(骨形成因子)などの細胞増殖因子;などが挙げられる。
次に本発明で用いる溶媒について説明する。
生体親和性ポリマーを溶解させる溶媒として代表的なものとしては、ジメチルスルホキシドやスルホラン、1,4−ジオキサンが挙げられる。なかでも得られる多孔質フィルムの孔径の観点から、融点が15〜30℃を示す溶媒が好ましく、このような溶媒としては、ジメチルスルホキシドやスルホラン等が該当する。融点が15℃未満の溶媒では得られる多孔質フィルムの孔径が小さく、細胞培養足場材としては好ましくない。特に、得られる多孔質フィルムの孔径、細胞への毒性を考慮するとジメチルスルホキシドが最も好ましいことから、本発明では、溶媒としてジメチルスルホキシドを用いる。
なお、溶媒としてジメチルスルホキシド以外のものを併用する場合、用いる全溶媒中のジメチルスルホキシドの割合は50重量%以上、特に80重量%以上、とりわけ90重量%以上であることが好ましく、溶媒としてジメチルスルホキシドのみを用いることが最も好ましい。
本発明における多孔質フィルムは、上記の溶媒を用いた生体親和性ポリマーの混合溶液を基材上に塗布した後、溶媒の凍結と抽出によって得られる。以下、各工程について説明する。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。
(I)生体親和性ポリマーと溶媒を混合して、混合溶液を調製する工程
(II)前記混合溶液を基材上に塗布し、前記混合溶液の塗布層を形成する塗布工程
(III)前記塗布層を冷却し、溶媒を凍結させる凍結工程
(IV)前記凍結塗布層を水に浸漬させつつ基材を剥離させ、溶媒を抽出除去する溶媒抽出工程
(V)得られた多孔質フィルム中の水分を除去する乾燥工程
工程(I)では、生体親和性ポリマーと溶媒を混合して混合溶液を調製する。
この混合溶液において、生体親和性ポリマーと溶媒との比率は特に限定はされないが、混合溶液における生体親和性ポリマーの濃度は、溶媒への溶解性、空孔率、空孔サイズの観点から、50重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。また、得られる多孔質フィルムの強度の観点から、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、5重量%以上がさらに好ましい。
工程(I)で調製した混合溶液を塗布する基材は、耐熱性及び平滑性に優れるものが好ましい。この観点から、基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリイミド等のフィルムが好ましい。基材フィルムの厚みには特に制限はないが、取り扱い性等の面から25〜500μm程度のものが好ましい。
基材には、混合溶液との親和性を高めるために、表面に親水化処理を施してもよい。親水化処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ処理、親水性モノマーのグラフト処理等が挙げられる。
溶媒の凍結は、基材上の塗布層を基材ごと冷却して溶媒を凍結固化することによって実施される(以下、溶媒を凍結させた塗布層を「凍結塗布層」と称す場合がある。)。冷却温度は用いる溶媒の種類によって異なるが、−50〜+15℃が好ましく、−30〜−5℃がより好ましい。
この凍結に要する時間は、通常30秒〜5分程度でよく、凍結乾燥を行う従来法に比べて凍結時間を大幅に短縮することができる。
溶媒の抽出は、溶媒が凍結固化された塗布層を基材ごと塗布層が下面となるように水に浮かべ、基材を剥離させた後に、固化している塗布層を水に浸漬させることによって実施される。即ち、基材上の凍結塗布層は、水に接触すると塗布溶媒が一部水に溶解して抽出されることで基材から剥離する。基材から剥離した凍結塗布層は、水よりもわずかではあるが比重が重いことから水中に沈降してゆくため、そのまま水に浸漬させて溶媒の抽出を行うことができる。
溶媒の抽出に用いる水の温度は0〜10℃が好ましく、3〜7℃がより好ましい。水の温度が高すぎると、凍結した溶媒が抽出される前に液体になってしまい、多孔質構造が得られない可能性がある。
上記の抽出工程(IV)で水中に浸漬させたことによって凍結塗布層の溶媒が抽出除去され、多孔質フィルムが得られる。得られた多孔質フィルムは抽出溶媒の水を含むものであるため、水分を除去するために、乾燥を行う。このときの乾燥温度は30〜90℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
本発明の多孔質フィルムについて、後述の実施例の項に記載される方法で測定された溶媒(この溶媒とは、生体親和性ポリマー混合溶液の調製に用いた溶媒であり、溶媒としてジメチルスルホキシドのみを用いた場合はジメチルスルホキシドが該当する。)の残留量は好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.08重量%以下であり、更に好ましくは0.05重量%以下である。
多孔質フィルムの溶媒残留量が1重量%を超える場合、細胞の培養に悪影響を与える可能性がある。そのため、最終的に得られる多孔質フィルムにおける溶媒残留量は0.1重量%以下であることが好ましい。
多孔質フィルムの溶媒残留量を0.1重量%以下とするには、空孔率の増加、溶媒抽出時間の延長、または数回に分けて溶媒抽出を行えばよい。
即ち、例えば、凍結温度を低くすることにより、溶媒の微細結晶化で溶媒の凍結結晶を小さくし、この溶媒を抽出除去した後の細孔の孔径を小さくすることができ、逆に凍結温度を高くすることで、孔径を大きくすることができる。
また、混合溶媒の生体親和性ポリマー濃度を上げることにより空孔率を小さく、また、透気度を高くすることができ、逆に生体親和性ポリマー濃度を下げることにより空孔率を大きく、透気度を低くすることができる。
また、凍結温度を低くすることにより空孔率を小さく、また、透気度を高くすることができ、逆に凍結温度を高くすることにより空孔率を大きく、透気度を低くすることができる。
厚みは、1/1000mmのダイアルゲージにて、多孔質フィルムの面内を不特定に5箇所測定し、その平均値として算出した。
空孔率は100mm×100mmのサイズに切断した多孔質フィルムのサンプルについて、次式にて算出した。
空孔率(%)=(1−見掛け密度/真比重)×100
透気度は、王研式透気度計を用いてJIS P8117(2009年)に準拠して測定した。なお、透気度が99999秒/100mLであるという結果は、王研式透気度計の測定上限に達しており、その値を示すサンプルについては、無多孔質構造であると定義する。透気度が小さいことは、多孔質フィルムの厚み方向に良好な連通孔が形成されていることを示す。
走査型電子顕微鏡(SEM)にて多孔質フィルムの表面部及び断面部を観察した。
表面及び断面のSEM像から比較的均一に孔が形成されている場合は○、孔の形成がまばらであるような場合には×とし、評価を行った。
得られたSEM像から孔サイズを計測し、孔径とした。
溶媒残留量は多孔質フィルムを150℃にて30分加熱した後ヘッドスペース部をガスクロマトグラフィー分析して残留溶媒量を測定し、多孔質フィルムに対する含有量を算出した。
ジメチルスルホキシド(ナカライテスク社製)90重量部に、ネイチャーワークス社製のポリ乳酸(商品名:「Nature Works 4060D」、L体/D体:88/12モル%、重量平均分子量(Mw):176000、ガラス転移温度:58℃)を10重量部加え、70℃にてスターラーで3時間程度撹拌し、均一な溶液を塗布液として得た。この溶液を100μm厚のポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上に厚み300μm程度になるように塗布し、−5℃に設定した冷凍庫内に1分間静置した後、5℃の水に塗布層が水と接するようにして浮かべ、基材フィルムを剥離させた後に、固化している塗布層を水に浸漬させた。その後、水中からフィルムを取り出し、水分を拭き取り、50℃にて30分間乾燥させ、ポリ乳酸多孔質フィルムを得た。このポリ乳酸多孔質フィルムの各評価結果を表1に示す。また、得られたポリ乳酸多孔質フィルムの表面と断面のSEM画像を図1に示した。なお、表1中ジメチルスルホキシドは「DMSO」と記載する。
冷凍庫内の設定温度を−20℃とした以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸多孔質フィルムを作成した。このポリ乳酸多孔質フィルムの各評価結果を表1に示す。また、得られたポリ乳酸多孔質フィルムの表面と断面のSEM画像を図2に示した。
冷凍庫内の設定温度を−35℃とした以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸多孔質フィルムを作成した。このポリ乳酸多孔質フィルムの各評価結果を表1に示す。また、得られたポリ乳酸多孔質フィルムの表面と断面のSEM画像を図3に示した。
溶媒としてジメチルスルホキシドの代りに1,4−ジオキサンを用い、冷凍庫内の設定温度を−20℃とした以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸多孔質フィルムを作成した。このポリ乳酸多孔質フィルムの各評価結果を表1に示す。また、得られたポリ乳酸多孔質フィルムの表面と断面のSEM画像を図4に示した。表1中、1,4−ジオキサンは「1,4−DOX」と記載する。
実施例1〜3では、連通孔を有するポリ乳酸多孔質フィルムが得られた。加えて、溶媒残留量も1重量%以下の濃度であり、細胞に対する悪影響の懸念が少ない。また、SEM画像から、凍結温度が低いほど、多孔構造はより密な構造を形成しやすくなっていることが確認された。これは、過冷却度の大きい状態ほど溶媒が凍結(結晶化)する際に結晶核が増加し、最終的に形成される結晶サイズが小さくなることに起因していると考えられる。
Claims (6)
- ジメチルスルホキシドを溶媒とする生体親和性ポリマーの混合溶液を基材上に塗布後、該溶媒の凍結と抽出によって製造された多孔質フィルム。
- 前記溶媒の残留量が0.1重量%以下であり、かつ、連通孔を有することを特徴とする請求項1に記載の多孔質フィルム。
- 前記生体親和性ポリマーが脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質フィルム。
- 前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項3に記載の多孔質フィルム。
- 前記溶媒凍結温度が−50〜+15℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質フィルム。
- 前記溶媒抽出温度が0〜10℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質フィルム。
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