〔第1の実施の形態〕
図1は、本実施の形態に係るEFG結晶製造装置の一部の垂直断面図である。このEFG結晶製造装置10は、Ga2O3系融液12を受容するルツボ13と、このルツボ13内に設置されたスリット14aを有するダイ14と、スリット14aの開口部14bを除くルツボ13の上面を閉塞する蓋15と、平板状のβ−Ga2O3系種結晶(以下、「種結晶」という)20を保持する種結晶保持具21と、種結晶保持具21を昇降可能に支持するシャフト22とを有する。
ルツボ13は、Ga2O3系粉末を溶解させて得られたGa2O3系融液12を収容する。ルツボ13は、Ga2O3系融液12を収容しうる耐熱性を有するイリジウム等の金属材料からなる。
ダイ14は、Ga2O3系融液12を毛細管現象により上昇させるためのスリット14aを有する。
蓋15は、ルツボ13から高温のGa2O3系融液12が蒸発することを防止し、さらにスリット14aの上面以外の部分にGa2O3系融液12の蒸気が付着することを防ぐ。
図2は、β−Ga2O3系単結晶の成長中の様子を表す斜視図である。
主面20aは、平板状の種結晶20の主面であり、側面20bは、平板状の種結晶20の主面20aに交わる面である。主面26aは、β−Ga2O3系単結晶25の平板状の部分の主面であり、側面26bは、β−Ga2O3系単結晶25の平板状の部分の主面26aに交わる面である。
β−Ga2O3系単結晶25の結晶方位は種結晶20の結晶方位と等しく、例えば、種結晶20の主面20aとβ−Ga2O3系単結晶25の主面26aは平行であり、種結晶20の側面20bとβ−Ga2O3系単結晶25の側面26bは平行である。
成長させたβ−Ga2O3系単結晶25の平板状の部分を切り出してβ−Ga2O3系基板を形成する場合は、β−Ga2O3系基板の所望の主面の面方位にβ−Ga2O3系単結晶25の主面26aの面方位を一致させる。例えば、(101)面を主面とするβ−Ga2O3系基板を形成する場合は、主面26aの面方位を(101)とする。
β−Ga2O3系単結晶25の成長方向に垂直かつ主面26aに平行な方向を幅方向w、平板状のβ−Ga2O3系単結晶25の厚さ方向に平行な、幅方向wに直交する方向を厚さ方向tとする。
β−Ga2O3系単結晶25及び種結晶20は、β−Ga2O3単結晶、又は、Cu、Ag、Zn、Cd、Al、In、Si、Ge、Sn、Mg、Nb、Fe等の元素が添加されたβ−Ga2O3単結晶である。
図3は、β−Ga2O3系結晶の単位格子を示す。図3中の単位格子2がβ−Ga2O3系結晶の単位格子である。β−Ga2O3系結晶は単斜晶系に属するβ-ガリア構造を有し、不純物を含まないβ−Ga2O3結晶の典型的な格子定数はa0=12.23Å、b0=3.04Å、c0=5.80Å、α=γ=90°、β=103.8°である。
β−Ga2O3系単結晶は、(100)面における劈開性が強く、結晶成長の肩広げの過程で(100)面を双晶面(対称面)とする双晶が生じやすい。そのため、β−Ga2O3系単結晶25からなるべく大きな基板を切り出すために、(100)面がβ−Ga2O3系単結晶25の成長方向に平行になるように、β−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させることが好ましい。
以下に、本実施の形態のβ−Ga2O3系単結晶25の育成方法の一例について述べる。
例えば、β−Ga2O3系単結晶25の育成は、窒素雰囲気又は窒素と酸素の混合雰囲気下で行われる。
まず、種結晶20を下降させて、ダイ14のスリット14a内を毛細管現象により開口部14bまで上昇したGa2O3系融液12に接触させる。次に、Ga2O3系融液12と接触した種結晶20を引き上げることにより、平板状のβ−Ga2O3系単結晶25を成長させる。
このとき、β−Ga2O3系単結晶25の平板状の部分に、種結晶20に付着したGa2O3系融液12の蒸発物の結晶方位等の結晶情報が引き継がれないように、β−Ga2O3系単結晶25を成長させる。種結晶20に付着した蒸発物の結晶方位は、種結晶20の結晶方位と異なるため、β−Ga2O3系単結晶25の種結晶20から結晶情報を引き継いだ部分と、蒸発物から結晶情報をひきついだ部分との結晶方位が異なり、β−Ga2O3系単結晶25の多結晶化や双晶化が起きるためである。
図4(a)〜(c)は、第1の実施の形態に係るβ−Ga2O3系単結晶を成長させる工程を表す。図4(a)〜(c)は、幅方向wに平行な方向から視た側面図である。
まず、双晶を含まない平板状の種結晶20を用意する。本実施の形態では、後述するように、β−Ga2O3系単結晶25の幅方向wの肩広げを行わないため、種結晶20の幅方向wの幅が、ダイ14の幅方向wの幅(ダイ14の長手方向の幅)以上であることが好ましい。
そして、図4(a)に示されるように、種結晶20を降下させてダイ14の表面のGa2O3系融液12に近づける。ここで、種結晶20には、Ga2O3系融液12の蒸発物23が付着している。種結晶20の降下速度は、例えば、5mm/minである。
次に、図4(b)に示されるように、種結晶20をGa2O3系融液12に接触させた後、引き上げる。種結晶20をGa2O3系融液12に接触させた後の引き上げるまでの待機時間は、温度をより安定させて熱衝撃を防ぐために、ある程度長いことが好ましく、例えば、1min以上である。なお、種結晶20の底面上の蒸発物23は、種結晶20がGa2O3系融液12に接触する際にGa2O3系融液12中に溶融する。
種結晶20を引き上げる際には、β−Ga2O3系単結晶25を成長させながら、厚さ方向tの幅を狭める(ネッキング)。これにより、β−Ga2O3系単結晶25の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分25bの成長が種結晶20付近で途切れ、種結晶20の結晶情報を引き継いだ部分25aのみが成長を続ける。
ネッキングにより部分25bの成長を効果的に途切れさせるためには、β−Ga2O3系単結晶25の厚さ方向tの幅を100μm(片側50μm)以上狭めることが好ましい。
なお、幅方向wのネッキングは行わなくてもよい。種結晶20の幅方向wの幅がダイ14の幅方向wの幅以上である場合は、種結晶20の側面20b上の蒸発物23がGa2O3系融液12に接触しないため、この蒸発物23の結晶情報はβ−Ga2O3系単結晶25に引き継がれない。また、種結晶20の側面20b上の蒸発物23がGa2O3系融液12に接触した場合は、幅方向wのネッキングを行わない場合、種結晶20の側面20b上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分の成長は途切れないが、後の工程において幅方向wの肩広げを行わないため、この部分の体積が増加することはなく、大きな問題にはならない。
本実施の形態におけるネッキングは、表面張力により種結晶20に引き上げられるGa2O3系融液12の自由表面(メニスカス)の形状を、温度を調整して制御することにより行われる。具体的には、Ga2O3系融液12の温度を高くするほど、幅の狭まりが大きくなる。
本実施の形態においては、厚さ方向tのネッキングを行い、幅方向wのネッキングをまったく又はほとんど行わないため、Ga2O3系融液12の厚さ方向tに交わる面の温度を幅方向wに交わる面の温度よりも高くした状態で、種結晶20を引き上げる。
通常、単結晶のネッキングは、種結晶の欠陥に起因する転位の発生を防ぐために行われるが、本実施の形態においては、β−Ga2O3系単結晶25の平板状の部分に蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分25bが含まれることを防止することを主な目的としている。
続けて、図4(c)に示されるように、β−Ga2O3系単結晶25を成長させながら、厚さ方向tに肩を広げる。このとき、β−Ga2O3系単結晶25の幅方向wには肩を広げない。
このとき、温度を徐々に下げながら種結晶20を引き上げて肩広げを開始し、例えば、β−Ga2O3系単結晶25の厚さがダイ14の短手方向の幅と等しくなるまで厚さ方向tに肩を広げる。なお、厚さ方向tに交わる面全体で肩広げが始まるまで温度を徐々に下げ続けることが好ましい。
例えば、厚さ6mmの種結晶20を用いて平板状の部分の厚さが12mmであるβ−Ga2O3系単結晶25を育成する場合は、1℃/minで温度を下げ、質量の増加速度が2000mg/minを超えた後、温度の降下速度を0.15℃/minに変更して5℃下げ、その後温度を一定に保つ。また、厚さ12mmの種結晶20を用いて平板状の部分の厚さが18mmであるβ−Ga2O3系単結晶25を育成する場合は、1℃/minで温度を下げ、質量の増加速度が2400mg/minを超えた後、温度の降下速度を0.15℃/minに変更して5℃下げ、その後温度を一定に保つ。
その後、所望の大きさになるまでβ−Ga2O3系単結晶25の育成を続ける。少なくとも種結晶20の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継ぐ部分25bの成長が肩広げ前に途切れているため、β−Ga2O3系単結晶25の肩広げ後に形成される平板状の部分は、蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分をまったく又はほとんど含まない。
図5(a)〜(c)は、比較例としてネッキングを行なわずにβ−Ga2O3系単結晶を成長させる工程を表す。
まず、図5(a)に示されるように、種結晶20を降下させてダイ14の表面のGa2O3系融液12に近づける。ここで、種結晶20には、Ga2O3系融液12の蒸発物23が付着している。
次に、図5(b)に示されるように、種結晶20をGa2O3系融液12に接触させた後、引き上げる。種結晶20を引き上げる際には、ネッキングを行わない。このため、β−Ga2O3系単結晶25の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分25bの成長が途切れない。
続けて、図5(c)に示されるように、β−Ga2O3系単結晶25を成長させながら、厚さ方向tに肩を広げる。このとき、部分25bの成長が続いているため、β−Ga2O3系単結晶25の平板状の部分に部分25bが含まれる。このため、図4(c)に示される本実施の形態の場合と比較して、部分25aの体積が小さくなり、β−Ga2O3系単結晶25から基板を切り出す場合、基板の径が小さくなってしまう。
以下に、幅方向wにはβ−Ga2O3系単結晶25の肩を広げずに、厚さ方向tにのみ肩を広げる理由を説明する。
図6(a)〜(c)は、主面26aの面方位が(001)であるβ−Ga2O3系単結晶25のb軸に垂直な断面図である。ここで、図6(a)は、肩広げ前のβ−Ga2O3系単結晶25の断面図である。図6(b)は、本実施の形態のように厚さ方向tに肩を広げた後のβ−Ga2O3系単結晶25の断面図である。図6(c)は、比較例としての幅方向wに肩を広げた後のβ−Ga2O3系単結晶25の断面図である。
(001)面はb軸に平行であるため、主面26aの面方位が(001)である平板状のβ−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させて形成することができる。β−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させる場合、成長方向に沿って劈開性の強い(100)面が存在する。
β−Ga2O3系単結晶25の肩を広げた場合、肩広げ前の輪郭の角部を含む(100)面が双晶面となりやすい。図6(b)、(c)の例では、図6(a)に示される四角形の角部から延びる(100)面が双晶面27となる。
図6(b)、(c)に示されるように、幅方向wに肩を広げた場合よりも、厚さ方向tに肩を広げた場合の方が、双晶面27により中央の本体と分けられる部分の体積が小さい。β−Ga2O3系単結晶25から基板を切り出す場合、双晶面27を含んだ部分を切り出すと基板として用いることができない。このため、図6(c)に示される幅方向wに肩を広げたβ−Ga2O3系単結晶25には、使用できない部分が多く、切り出し可能な部分の体積は肩広げによりほとんど増加しないことがわかる。一方、図6(b)に示される厚さ方向tに肩を広げたβ−Ga2O3系単結晶25には、使用できない部分が少なく、肩広げにより切り出し可能な部分の体積が大きく増加することがわかる。
図7(a)〜(c)は、主面26aの面方位が(−201)であるβ−Ga2O3系単結晶25のb軸に垂直な断面図である。ここで、図7(a)は、肩広げ前のβ−Ga2O3系単結晶25の断面図である。図7(b)は、本実施の形態のように厚さ方向tに肩を広げた後のβ−Ga2O3系単結晶25の断面図である。図7(c)は、比較例としての幅方向wに肩を広げた後のβ−Ga2O3系単結晶25の断面図である。
(−201)面はb軸に平行であるため、主面26aの面方位が(−201)である平板状のβ−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させて形成することができる。β−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させる場合、成長方向に沿って劈開性の強い(100)面が存在する。
図7(b)、(c)の例では、図7(a)に示される四角形の角部から延びる(100)面が双晶面27となる。図7(b)、(c)に示されるように、幅方向wに肩を広げた場合よりも、厚さ方向tに肩を広げた場合の方が、双晶面27により中央の本体と分けられる部分(基板として切り出すことのできない部分)の体積が小さい。
また、図6、図7で示されるような、主面26aの面方位が(001)、(−201)である場合と同様に、主面26aの面方位が(101)である場合も、(101)面がb軸に平行であるため、平板状のβ−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させて形成することができる。そして、幅方向wにβ−Ga2O3系単結晶25の肩を広げた場合よりも、厚さ方向tに肩を広げた場合の方が、双晶面27により中央の本体と分けられる部分(基板として切り出すことのできない部分)の体積が小さくなる。
なお、β−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させる場合、主面26aが(100)面と交わるならば、幅方向wに肩を広げた場合よりも、厚さ方向tに肩を広げた場合の方が、双晶面27により中央の本体と分けられる部分の体積が小さくなる。すなわち、基板として切り出すことのできない部分の体積を減らし、基板として切り出すことのできる部分の体積を増やすことができる。ただし、双晶面27となる(100)面を成長方向であるb軸に平行にして、β−Ga2O3系単結晶25から切り出すことのできる部分の体積をより大きくするために、(001)面、(−201)面、(101)のようにb軸に平行な面を主面とするβ−Ga2O3系単結晶25をb軸方向に成長させることが好ましい。
次に、育成したβ−Ga2O3系単結晶25からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造する方法の一例について述べる。
図8は、β−Ga2O3系単結晶基板の製造工程の一例を表すフローチャートである。以下、このフローチャートを用いて説明する。
まず、例えば、平板状の部分の厚さが18mmのβ−Ga2O3系単結晶25を育成した後、単結晶育成時の熱歪緩和と電気特性の向上を目的とするアニールを行う(ステップS1)。雰囲気は窒素雰囲気が好ましいが、アルゴンやヘリウム等の他の不活性雰囲気でもよい。アニール保持温度は1400〜1600℃の温度が好ましい。保持温度でのアニール時間は6〜10時間程度が好ましい。
次に、種結晶20とβ−Ga2O3系単結晶25の分離を行うため、ダイヤモンドブレードを用いて切断を行う(ステップS2)。まず、カーボン系のステージに熱ワックスを介してβ−Ga2O3系単結晶25を固定する。切断機にカーボン系ステージに固定されたβ−Ga2O3系単結晶25をセッティングし、切断を行う。ブレードの粒度は#200〜#600(JISB4131による規定)程度であることが好ましく、切断速度は毎分6〜10mmくらいが好ましい。切断後は、熱をかけてカーボン系ステージからβ−Ga2O3系単結晶25を取外す。
次に、超音波加工機やワイヤー放電加工機を用いてβ−Ga2O3系単結晶25の縁を丸形に加工する(ステップS3)。また、縁の所望の場所にオリエンテーションフラットを形成することも可能である。
次に、マルチワイヤーソーにより、丸形に加工されたβ−Ga2O3系単結晶25を1mm程度の厚さにスライスし、β−Ga2O3系単結晶基板を得る(ステップS4)。この工程において、所望のオフセット角にてスライスを行うことができる。ワイヤーソーは固定砥粒方式のものを用いることが好ましい。スライス速度は毎分0.125〜0.3mm程度が好ましい。
次に、加工歪緩和、及び電気特性向上、透過性向上を目的とするアニールをβ−Ga2O3系単結晶基板に施す(ステップS5)。昇温時には酸素雰囲気でのアニールを行い、昇温後に温度を保持する間は窒素雰囲気に切替えてアニールを行う。温度を保持する間の雰囲気はアルゴンやヘリウム等の他の不活性雰囲気でも良い。保持温度は1400〜1600℃が好ましい。
次に、β−Ga2O3系単結晶基板のエッジに所望の角度にて面取り(べベル)加工を施す(ステップS6)。
次に、ダイヤモンドの研削砥石を用いて、所望の厚さになるまでβ−Ga2O3系単結晶基板を研削する(ステップS7)。砥石の粒度は#800〜1000(JISB4131による規定)程度であることが好ましい。
次に、研磨定盤とダイヤモンドスラリーを用いて、所望の厚さになるまでβ−Ga2O3系単結晶基板を研磨する(ステップS8)。研磨定盤は金属系やガラス系の材質のものが好ましい。ダイヤモンドスラリーの粒径は0.5μm程度が好ましい。
次に、ポリシングクロスとCMP(Chemical Mechanical Polishing)用のスラリーを用いて、原子レベルの平坦性が得られるまでβ−Ga2O3系単結晶基板を研磨する(ステップS9)。ポリッシングクロスはナイロン、絹繊維、ウレタン等の材質のものが好ましい。スラリーにはコロイダルシリカを用いることが好ましい。CMP工程後のβ−Ga2O3系単結晶基板の主面の平均粗さはRa0.05〜0.1nmくらいである。
図9は、上記の工程によりβ−Ga2O3系単結晶25から製造されたβ−Ga2O3系単結晶基板40の写真である。β−Ga2O3系単結晶基板40は双晶を含まず、また、主面の平坦性に優れるため、透けて見えるβ−Ga2O3系単結晶基板40の下の“β−Ga2O3”の文字に途切れや歪みが見られない。
なお、育成したβ−Ga2O3系単結晶25から種結晶を切り出し、その種結晶を用いて新たなβ−Ga2O3系単結晶を成長させ、その新たなβ−Ga2O3系単結晶からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造してもよい。次に、その方法の一例について述べる。
例えば、平板状の部分の厚さが18mmのβ−Ga2O3系単結晶25を育成した後、種結晶20とβ−Ga2O3系単結晶25を分離し、β−Ga2O3系単結晶25を育成方向に垂直な方向に沿って20〜40mmの幅で切断する。まず、カーボン系のステージに熱ワックスを介してβ−Ga2O3系単結晶25を固定する。切断機にカーボン系ステージに固定されたβ−Ga2O3系単結晶25をセッティングし、ダイヤモンドブレードを用いて切断を行う。ダイヤモンドブレードの粒度は#200〜#600(JISB4131による規定)程度であることが好ましく、切断速度は毎分6〜10mmくらいが好ましい。切断後は、分離された種結晶20と育成方向に垂直な方向に沿って20〜40mmの幅で切断されたβ−Ga2O3系単結晶25をカーボン系ステージから熱をかけて取外す。20〜40mmの幅で切断されたβ−Ga2O3系単結晶25の各々が新たな種結晶(以下、第2の種結晶と呼ぶ)となる。
次に、通常の単結晶育成方法、例えば通常のEFG法により第2の種結晶を用いて新たなβ−Ga2O3系単結晶(以下、第2のβ−Ga2O3系単結晶と呼ぶ)を育成する。ただし、上述の種結晶20を用いたβ−Ga2O3系単結晶25の育成と同様に、幅方向の肩広げを行わずに第2のβ−Ga2O3系単結晶を育成することが好ましい。
次に、上述のβ−Ga2O3系単結晶25からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造する方法と同様の方法により、育成した第2のβ−Ga2O3系単結晶からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造する。
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、β−Ga2O3系単結晶の平板状の部分に蒸発物の結晶情報を引き継いだ部分が含まれることを防止する方法において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
図10(a)〜(c)は、第2の実施の形態に係るβ−Ga2O3系単結晶を成長させる工程を表す。図10(a)〜(c)は、幅方向wに平行な方向から視た側面図である。
まず、第1の実施の形態と同様の種結晶20を用意する。
そして、図10(a)に示されるように、種結晶20を降下させて、その底部近傍の一方の主面20aをダイ14の縁に接触させて溶かす。続けて、他方の主面20aについても同様の処理を行う。その結果、種結晶20の底部近傍の主面20a上の蒸発物23が除去される。
次に、図10(b)に示されるように、種結晶20をダイ14の表面のGa2O3系融液12に接触させた後、引き上げる。このとき、種結晶20の底部近傍の主面20a上の蒸発物23が除去されているため、β−Ga2O3系単結晶25に、種結晶20の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されない。
なお、種結晶20の側面20b上の蒸発物23は除去しなくてもよい。種結晶20の幅方向wの幅がダイ14の幅方向wの幅以上である場合は、種結晶20の側面20b上の蒸発物23がGa2O3系融液12に接触しないため、この蒸発物23の結晶情報はβ−Ga2O3系単結晶25に引き継がれない。また、種結晶20の側面20b上の蒸発物23がGa2O3系融液12に接触する場合は、β−Ga2O3系単結晶25にこの蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されるが、後の工程において幅方向wの肩広げを行わないため、この部分の体積が増加することはなく、大きな問題にならない。
続けて、図10(c)に示されるように、β−Ga2O3系単結晶25を成長させながら、厚さ方向tに肩を広げる。このとき、β−Ga2O3系単結晶25の幅方向wには肩を広げない。
その後、所望の大きさになるまでβ−Ga2O3系単結晶25の育成を続ける。少なくとも種結晶20の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されないため、β−Ga2O3系単結晶25の肩広げ後に形成される平板状の部分は、蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分をまったく又はほとんど含まない。
β−Ga2O3系単結晶25からβ−Ga2O3系単結晶基板を作製する方法については、第1の実施の形態と同様である。また、β−Ga2O3系単結晶25を第2の種結晶に加工し、第2の種結晶を用いて育成した第2のβ−Ga2O3系単結晶からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造する方法についても、第1の実施の形態と同様である。
図11は、第2の実施の形態に係るβ−Ga2O3系単結晶を成長させる工程の変形例を表す。
この変形例においては、図11に示されるように、専門の器具28を用いて種結晶20の底部近傍の主面20a上の蒸発物23を除去する。器具28は、例えば、2本の線状の部材からなり、種結晶20を降下させて底部近傍の両側の主面20aを器具28の縁に接触させて溶かす。その結果、種結晶20の底部近傍の主面20a上の蒸発物23が除去される。その後の工程は、上記第2の実施の形態と同様である。
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態は、β−Ga2O3系単結晶の平板状の部分に蒸発物の結晶情報を引き継いだ部分が含まれることを防止する方法において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
図12(a)〜(c)は、第3の実施の形態に係るβ−Ga2O3系単結晶を成長させる工程を表す。図12(a)〜(c)は、幅方向wに平行な方向から視た側面図である。
まず、第1の実施の形態と同様の種結晶20を用意する。本実施の形態のダイ29は、上面のスリット29aの開口部29bを含む部分が突出した凸形状を有し、この凸形状の凸部分29cの厚さ方向tの幅は、種結晶20の厚さ方向tの幅以下である。
そして、図12(a)に示されるように、種結晶20を降下させてダイ29の表面のGa2O3系融液12に近づける。ここで、種結晶20には、Ga2O3系融液12の蒸発物23が付着している。
次に、図12(b)に示されるように、種結晶20を凸部分29cの表面のGa2O3系融液12に接触させた後、引き上げる。このとき、凸部分29cの厚さ方向tの幅は、種結晶20の厚さ方向tの幅以下であり、種結晶20は凸部分29cの表面のGa2O3系融液12にのみ接触するため、種結晶20の主面20a上の蒸発物23はGa2O3系融液12に接触しない。このため、β−Ga2O3系単結晶25に、種結晶20の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されない。
なお、種結晶20の幅方向wの幅がダイ29の幅方向wの幅以上である場合は、種結晶20の側面20b上の蒸発物23もGa2O3系融液12に接触しないため、この蒸発物23の結晶情報はβ−Ga2O3系単結晶25に引き継がれない。また、種結晶20の側面20b上の蒸発物23がGa2O3系融液12に接触する場合は、β−Ga2O3系単結晶25にこの蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されるが、後の工程において幅方向wの肩広げを行わないため、この部分の体積が増加することはなく、大きな問題にならない。
続けて、図12(c)に示されるように、β−Ga2O3系単結晶25を成長させながら、厚さ方向tに肩を広げる。このとき、引き上げ速度や温度を制御し、ダイ29の表面の凸部29cの両側の領域のGa2O3系融液12からもβ−Ga2O3系単結晶25を成長させる。なお、β−Ga2O3系単結晶25の幅方向wには肩を広げない。
その後、所望の大きさになるまでβ−Ga2O3系単結晶25の育成を続ける。少なくとも種結晶20の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されないため、β−Ga2O3系単結晶25の肩広げ後に形成される平板状の部分は、蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分をまったく又はほとんど含まない。
β−Ga2O3系単結晶25からβ−Ga2O3系単結晶基板を作製する方法については、第1の実施の形態と同様である。また、β−Ga2O3系単結晶25を第2の種結晶に加工し、第2の種結晶を用いて育成した第2のβ−Ga2O3系単結晶からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造する方法についても、第1の実施の形態と同様である。
〔第4の実施の形態〕
第4の実施の形態は、β−Ga2O3系単結晶の平板状の部分に蒸発物の結晶情報を引き継いだ部分が含まれることを防止する方法において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
図13(a)〜(c)、図14(d)〜(f)は、第4の実施の形態に係るβ−Ga2O3系単結晶を成長させる工程を表す。図13(a)〜(c)、図14(d)〜(f)は、幅方向wに平行な方向から視た側面図である。
まず、第1の実施の形態と同様の種結晶20を用意する。本実施の形態のダイ30は、スリット30aを有する。ダイ30は、後述する理由により、複数のスリット30aを有することが好ましい。
そして、図13(a)に示されるように、種結晶20を降下させてダイ30の表面のGa2O3系融液12に近づける。ここで、種結晶20には、Ga2O3系融液12の蒸発物23が付着している。
そして、図13(b)に示されるように、種結晶20をダイ30の表面のGa2O3系融液12に接触させる。
次に、図13(c)に示されるように、種結晶20をダイ30の表面に接触させた状態で、種結晶20の一方の主面20a上の蒸発物23がダイ30に接触しない位置までスライドさせる。このとき、種結晶20をほぼ水平にスライドさせることが好ましい。
次に、図14(d)に示されるように、種結晶20を引き上げる。このとき、ダイ30に接触する主面20a上の蒸発物23からは結晶が成長し、蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分25bが形成されるが、ダイ30に接触しない主面20a上の蒸発物23からは結晶が成長しない。ここで、種結晶20を引き上げる距離は、例えば、数ミリである。
次に、図14(e)に示されるように、図13(c)に示される工程におけるスライド方向と反対の方向に、部分25bがダイ30に接触しない位置(種結晶20の他方の主面20a上の蒸発物23がダイ30の真上の領域から外れる位置)まで種結晶20をスライドさせた後、種結晶20を引き上げる。これより、部分25bの成長が途切れる。このとき、種結晶20をほぼ水平にスライドさせることが好ましい。また、種結晶20を引き上げる距離は、例えば、数ミリである。
次に、図14(f)に示されるように、ダイ30の厚さ方向tの中心近傍の上方までスライドさせた後、引き上げ、β−Ga2O3系単結晶25を成長させながら、厚さ方向tに肩を広げる。なお、β−Ga2O3系単結晶25の幅方向wには肩を広げない。
その後、所望の大きさになるまでβ−Ga2O3系単結晶25の育成を続ける。少なくとも種結晶20の主面20a上の蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分が形成されないため、β−Ga2O3系単結晶25の肩広げ後に形成される平板状の部分は、蒸発物23の結晶情報を引き継いだ部分をまったく又はほとんど含まない。
図14(d)〜(f)に示される工程において、種結晶20を引き上げる際に、結晶を効率的に成長させるために、種結晶20がスリット30aの真上に位置することが好ましい。このため、スリット30aが広い範囲で配置されていることが好ましく、ダイ30は、複数のスリット30aを有することが好ましい。この場合、種結晶20は、少なくとも1つのスリット30aの真上に位置すればよい。
なお、図13(c)に示される種結晶20をスライドさせる工程の前に種結晶20がダイ30の表面から離れており、種結晶20の両方の主面20a上の蒸発物23から結晶が成長している場合であっても、一方の主面20a上の蒸発物23がダイ30の真上の領域から外れる位置まで種結晶20をスライドさせることにより、図14(e)に示される工程のように、ダイ30の真上の領域から外れた位置の蒸発物23の情報を引き継いだ部分の結晶成長を途切れさせることができる。
すなわち、本実施の形態においては、種結晶20の一方の主面20a上の蒸発物23がダイ30の真上の領域から外れる位置で少なくとも一度種結晶20を引き上げ、さらに、他方の主面20a上の蒸発物23がダイ30の真上の領域から外れる位置で少なくとも一度種結晶20を引き上げればよい。
β−Ga2O3系単結晶25からβ−Ga2O3系単結晶基板を作製する方法については、第1の実施の形態と同様である。また、β−Ga2O3系単結晶25を第2の種結晶に加工し、第2の種結晶を用いて育成した第2のβ−Ga2O3系単結晶からβ−Ga2O3系単結晶基板を製造する方法についても、第1の実施の形態と同様である。
(実施の形態の効果)
上記第1〜4の実施の形態によれば、種結晶20に付着したGa2O3系融液12の蒸発物23の結晶情報を引き継がないように平板状のβ−Ga2O3系単結晶25を成長させることにより、β−Ga2O3系単結晶25の肩広げ後に形成される平板状の部分の双晶化、多結晶化を抑えることができる。そのため、β−Ga2O3系単結晶25から面積の大きいβ−Ga2O3系単結晶基板を製造することができる。
また、劈開性の強い(100)面と交わる主面26aを有するβ−Ga2O3系単結晶25を、厚さ方向tにのみβ−Ga2O3系単結晶の肩を広げることにより、肩広げによって生じる双晶面によって分けられる部分の体積を小さくし、基板として切り出し可能な部分の体積を増やすことができる。そのため、β−Ga2O3系単結晶25から多くの枚数のβ−Ga2O3系単結晶基板を切り出すことができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。例えば、上記実施の形態においては、EFG法を用いてβ−Ga2O3系単結晶を育成する例を示したが、他の育成方法を用いてもよい。例えば、マイクロPD(pulling-down)法等の引き下げ法を用いてもよい。また、ブリッジマン法に本実施の形態のダイ14のようなスリットを有するダイを適用し、β−Ga2O3系単結晶を育成してもよい。
また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。