以下、本実施形態に係る樹脂組成物及び物品について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本実施形態に係る樹脂組成物10は、図1に示すように、第1樹脂により形成される第1樹脂相2と、第1樹脂相2と相違し、第2樹脂により形成される第2樹脂相3とを有する相分離構造体1を備える。さらに樹脂組成物10は、相分離構造体1の内部に分散する無機フィラー4を備える。具体的には、本実施形態の樹脂組成物10は、第1樹脂相2と第2樹脂相3とを有し、さらにこれらの樹脂相が混合し、相分離した構造を有している。そして、相分離構造体1に分散する無機フィラー4は、第1樹脂相2に偏在している。
樹脂組成物10において、相分離構造体1は、第1樹脂相2及び無機フィラー4により形成される硬化層5を表面に備えている。さらに硬化層5は、第1樹脂相2及び第2樹脂相3により形成されている相分離構造体1の内部よりも無機フィラー4を高濃度に含有している。そのため、相分離構造体1の内部に比べて硬化層5は硬度が高いことから、耐久性や耐摩耗性を向上させることが可能となる。
ここで、硬化層5は、第1樹脂及び無機フィラーを用いて別途作製した後に相分離構造体に貼り付けるものではなく、第1樹脂相2と第2樹脂相3の相分離構造と共に相分離構造体1の表面に形成される層である。つまり、硬化層5は、相分離構造体1の表面に、第1樹脂相2及び第2樹脂相3と共に一体的に形成された層である。このように硬化層5は、第1樹脂相2と第2樹脂相3の相分離構造と共に形成されることから、硬化層5の剥離を抑制でき、さらに製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
相分離構造体1の表面に硬化層5が形成されるメカニズムは、次のように考えられる。後述するように、本実施形態の樹脂組成物10は、まず、第1樹脂相2を構成する第1樹脂、第2樹脂相3を構成する第2樹脂、無機フィラー及び硬化剤を添加して混練し、未硬化状態の樹脂組成物を調製する。そして、未硬化状態の樹脂組成物を基材に接触させた後に硬化させることにより、樹脂組成物10を得ることができる。この際、相分離構造を形成する複数の樹脂のうち、接触する基材との親和性の高い樹脂が硬化層を形成する。例えば、相分離樹脂としてエポキシ樹脂とポリエーテルスルホンとを用い、基材としてアルミニウムを用いた場合、エポキシ樹脂が硬化層を形成する。つまり、アルミニウムの表面には水酸基がありエポキシ樹脂との親和性が高いため、相分離構造を形成する際にエポキシ樹脂は自己組織化して硬化層を形成する。さらに無機フィラー4は第1樹脂との親和性が高く、第1樹脂相2に偏在する。そのため、樹脂と基材の親和性を考慮した上でこれらを選択することにより、相分離構造体1の表面に、第1樹脂及び無機フィラー4からなる硬化層5を形成することが可能となる。しかし、本実施形態の硬化層5が他のメカニズムにより形成されていたとしても、本実施形態の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
硬化層5の厚みtは、得られる樹脂組成物の表面硬度が向上するならば特に限定されない。ただ、硬化層5の厚みtは、例えば1μm〜50μmであることが好ましい。硬化層5の厚みtが1μm以上であることにより、硬化層における無機フィラーの密度を高め、表面硬度を十分に向上させることができる。また、硬化層5の厚みtが50μm以下であることにより、硬化層における無機フィラーの密度向上による成形不良や剥離をより抑制することができる。なお、硬化層5の厚みtは、3μm〜25μmであることがより好ましい。
本明細書において、硬化層5の厚みtは、硬化層5における、第1樹脂相2及び第2樹脂相3で形成される相分離構造とは反対側の表面5aから、第1樹脂相2と第2樹脂相3の最初の境界5bに至るまでの距離をいう。なお、図1に示すように、表面5aは、無機フィラー4の一部が接触した面である。また、境界5bは、後述するように、走査型電子顕微鏡で観察した際に、反射電子像における第1樹脂相2と第2樹脂相3の色の違いにより、明確に判別することができる。そのため、硬化層5の厚みtは、樹脂組成物10の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。その他、硬化層5の厚みtは、顕微ラマン分光装置等を用いても判別することができる。
本実施形態において、相分離構造体は、第1樹脂及び第2樹脂の少なくともいずれか一方を含有し、硬化層5の表面に設けられた表面樹脂層6をさらに備えることが好ましい。つまり、図2に示すように、相分離構造体1Aは、硬化層5の表面5aに、表面樹脂層6を一体的に備えることが好ましい。このような表面樹脂層6を相分離構造体1Aの最表面に備えることにより、表面硬度が高く、光沢のある樹脂組成物10Aを得ることができる。つまり、上述のように、無機フィラー4を高濃度に含有している硬化層5を備えることで、相分離構造体1Aの表面硬度を高め、耐久性や耐摩耗性を向上させることができる。さらに、相分離構造体1Aの最表面に表面樹脂層6を備えることで、表面樹脂層6の反射により光沢が得られ、意匠性を高めることが可能となる。
表面樹脂層6は、第1樹脂及び第2樹脂の少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。また、表面樹脂層6は、第1樹脂又は第2樹脂からなる層であってもよく、第1樹脂及び第2樹脂が混合してなる層であってもよい。なお、後述するように、第1樹脂は熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれか一方であることが好ましく、第2樹脂は熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の他方であることが好ましい。
なお、表面樹脂層6は、硬化層5と同様に、第1樹脂及び第2樹脂の少なくともいずれか一方を用いて別途作製した後に相分離構造体に貼り付けるものではなく、第1樹脂相2と第2樹脂相3の相分離構造と共に相分離構造体1Aの表面に形成される層である。つまり、表面樹脂層6は、相分離構造体1Aの表面に、第1樹脂相2、第2樹脂相3及び硬化層5と共に一体的に形成された層である。このように、表面樹脂層6は第1樹脂相2と第2樹脂相3の相分離構造及び硬化層5と共に形成されることから、表面樹脂層6の剥離を抑制でき、さらに製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
樹脂組成物10において、無機フィラー4は無機化合物を含有することが好ましく、無機化合物からなることがより好ましい。具体的には、無機フィラー4は、炭酸カルシウム(CaCO3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、シリカ(SiO2)及びアルミナ(Al2O3)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。これらの無機化合物は硬度が高いため、硬化層5に含有させることにより、表面硬度を向上させることが可能となる。
また、無機フィラー4の構成材料として、熱伝導性を有する無機化合物を使用することにより、樹脂組成物10に熱伝導性を付与することができる。高い硬度と熱伝導性を兼ね備える無機化合物としては、例えば、ホウ化物、炭化物、窒化物、酸化物、ケイ化物、水酸化物、炭酸塩などを挙げることができる。具体的には、無機化合物は、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、クレー、タルク、マイカ、酸化チタン(TiO2)、及び酸化亜鉛(ZnO)からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。
樹脂組成物10における無機フィラー4の割合は、15〜80体積%であることが好ましく、30〜60体積%であることがより好ましい。このような範囲であることにより、成形性を高めることが可能となる。また、硬化層5に含まれる無機フィラーの割合は、3体積%以上であることが好ましい。硬化層5中の無機フィラーが3体積%以上であることにより、硬化層の硬度をより高めることが可能となる。また、硬化層5に含まれる無機フィラーの割合は、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましい。なお、硬化層5に含まれる無機フィラーの割合の上限は特に限定されないが、例えば80体積%とすることができる。
樹脂組成物10において、無機フィラー4は平均粒子径が0.1μm〜50μmであることが好ましい。無機フィラー4の平均粒子径が0.1μm〜50μmであることにより、第1樹脂相2及び硬化層5の内部に偏在させやすくなり、さらに作業性及び成形性が良好な樹脂組成物を得ることができる。つまり、平均粒子径が0.1μm以上であることにより、樹脂の粘度が過度に高くなることを抑制でき、樹脂の流動性が確保されるため、作業性及び成形性が良好となる。また、平均粒子径が50μm以下であることにより、無機フィラー4を第1樹脂相2及び硬化層5の内部に分散させやすくなる。なお、より好ましくは、無機フィラー4の平均粒子径は3μm〜15μmである。
なお、本明細書において、「平均粒子径」はメジアン径を意味する。また、メジアン径は、積算(累積)重量百分率が50%となる粒子径(d50)を意味する。メジアン径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD2000」(株式会社島津製作所製)を用いて測定することができる。なお、樹脂組成物10の内部に含まれている無機フィラー4の平均粒子径は、樹脂組成物10を焼成して無機フィラー4を単離することにより、測定することができる。
また、上述のように、樹脂組成物10では、無機フィラー4が相分離構造体1の内部よりも硬化層5に高濃度に含有されていればよい。そのため、図1に示すように、無機フィラー4は硬化層5の内部に存在していてもよく、第1樹脂相2と第2樹脂相3との最初の境界5bを跨ぐように存在していてもよい。ただ、無機フィラー4が硬化層5の内部に存在することにより、硬化層5における無機フィラー4の密度を高め、硬度をより向上させることが可能となる。そのため、無機フィラー4の平均粒子径は、硬化層5の厚みtよりも小さいことが好ましい。これにより、無機フィラー4が硬化層5の内部に配置されやすくなるため、硬化層5の硬度を高めることができる。
上述のように、樹脂組成物10は第1樹脂相2と第2樹脂相3を有し、さらにこれらの樹脂相が混合し相分離した構造を有している。そして、無機フィラー4は、相分離構造体1の内部に分散し、さらに第1樹脂相2に偏在している。なお、無機フィラー4が第1樹脂相2に偏在している場合でも、無機フィラー4は全てが第1樹脂相2の内部に配置されている必要はなく、一部が第2樹脂相3に存在していても構わない。
本実施形態では、相分離構造体1の内部において、第1樹脂相2が三次元的に連続することが好ましい。さらに、三次元的に連続した第1樹脂相2に無機フィラー4が偏在することが好ましい。この場合、第1樹脂相2の内部で、無機フィラー4同士が接触してなる熱伝導パスが形成されやすくなる。そのため、硬化層5中の無機フィラー4と、相分離構造体1の内部における偏在した無機フィラー4とにより熱伝導が行われる。その結果、樹脂組成物10の表面硬度に加え、樹脂組成物全体の熱伝導性も向上させることが可能となる。
ここで、本実施形態における相分離構造とは、海島構造、連続球状構造、複合分散構造、共連続構造のいずれかをいう。海島構造は、図3(a)に示すように、体積の小さい分散相3Aが連続相2Aに分散された構造をいい、微粒子状や球状の分散相3Aが連続相2Aの中に散在する構造である。連続球状構造は、図3(b)に示すように、略球状の分散相3Aが連結し、連続相2A中に分散した構造である。複合分散構造は、図3(c)に示すように、分散相3Aが連続相2Aの中に散在し、さらに分散相3A中に連続相を構成する樹脂が散在している構造である。共連続構造は、図3(d)に示すように、連続相2Aと分散相3Aとが複雑な三次元の網目状を形成している構造である。
そして、相分離構造体1における相分離構造が上記海島構造、連続球状構造及び複合分散構造の場合には、連続相2Aが第1樹脂相2であることが好ましい。ただ、共連続構造の場合は、連続相2Aと分散相3Aの両方が三次元的に連続しているため、いずれか一方が第1樹脂相2を構成すればよい。なお、海島構造、連続球状構造、複合分散構造及び共連続構造のような相分離構造は、樹脂組成物の硬化速度や反応温度等の硬化条件、樹脂の相溶性、配合比を制御することにより得ることができる。
本実施形態において、相分離構造体は、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。これらの樹脂を使用することにより、相分離構造を形成し、第1樹脂相2及び無機フィラー4からなる硬化層5を容易に得ることができる。
また、本実施形態において、第1樹脂相2は熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれか一方により形成され、第2樹脂相3は熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の他方により形成されることが好ましい。つまり、第1樹脂相2が熱硬化性樹脂からなる場合には、第2樹脂相3は熱可塑性樹脂からなることが好ましい。また、第1樹脂相2が熱可塑性樹脂からなる場合には、第2樹脂相3は熱硬化性樹脂からなることが好ましい。これにより、上記相分離構造を形成し易くなる。なお、この場合、硬化層5における樹脂成分は、当該熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が主成分となる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、アルキド樹脂、付加硬化型ポリイミド樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂は、これらのうちの一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、エポキシ樹脂は、耐熱性、電気絶縁性及び機械特性に優れるため好ましい。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合は、公知のものを用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を用いることができる。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂(トリグリシジルイソシアヌレート、ジグリシジルヒダントイン等)を用いることもできる。さらに、これらのエポキシ樹脂を種々の材料で変性させた変性エポキシ樹脂等も使用することができる。また、これらのエポキシ樹脂の臭素化物、塩素化物等のハロゲン化物も用いることができる。エポキシ樹脂は、これらのうちの一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤としては、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であれば、如何なる化合物を用いることができる。公知のエポキシ硬化剤を適宜用いることができるが、特にアミノ基、酸無水物基、ヒドロキシフェニル基を有する化合物が適している。例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、有機酸ヒドラジット、アミンイミド、脂肪族アミン、芳香族アミン、3級アミン、ポリアミンの塩、マイクロカプセル型硬化剤、イミダゾール型硬化剤、酸無水物、フェノールノボラック等が挙げられる。硬化剤は、これらのうちの一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、上記の硬化剤と併用して各種の硬化促進剤を用いることができる。例えば熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化促進剤としては、第3級アミン系硬化促進剤、尿素誘導体系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、ジアザビシクロウンデセン(DBU)系硬化促進剤を挙げることができる。また、有機りん系硬化促進剤(例えば、ホスフィン系硬化促進剤等)、オニウム塩系硬化促進剤(例えば、ホスホニウム塩系硬化促進剤、スルホニウム塩系硬化促進剤、アンモニウム塩系硬化促進剤等)を挙げることができる。さらに金属キレート系硬化促進剤、酸及び金属塩系硬化促進剤等も挙げることができる。
熱可塑性樹脂は、一般に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合からなる群より選ばれる少なくとも一つの結合を主鎖に有するものである。また、熱可塑性樹脂は、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合からなる群より選ばれる少なくとも一つの結合を主鎖に有していてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エラストマー系(スチレン系、オレフィン系、ポリ塩化ビニル(PVC)系、ウレタン系、エステル系、アミド系)樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。また、エンジニアリングプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、エチレンアクリレート樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂が挙げられる。さらに、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエラストマー樹脂、ポリアミドエラストマー樹脂、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフタレート樹脂等も挙げられる。熱可塑性樹脂は、これらのうちの一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
なかでも耐熱性の観点から、熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのエンジニアリングプラスチックが好ましい。さらに、力学的特性、絶縁性、溶媒への溶解性など、種々の点で優れたポリエーテルスルホンより好ましい。
さらに、これらの熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂と反応し得る官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えば、アミノ基や水酸基、塩素原子、アルコキシ基などが挙げられる。
樹脂組成物10において、相分離構造を形成する熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の組み合わせとしては、次のようなものが挙げられる。例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、熱可塑性樹脂としてポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドを用いることができる。また、熱硬化性樹脂として不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合、熱可塑性樹脂としてポリスチレンを用いることができる。
樹脂組成物10は、第1樹脂相2が熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれか一方により形成され、第2樹脂相3が熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の他方により形成されることが好ましい。そして、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、熱可塑性樹脂がポリエーテルスルホンであることがより好ましい。このような樹脂を用いることで、相分離構造を形成し、さらに高い硬度を有する硬化層5を容易に得ることが可能となる。
なお、本実施形態において、無機フィラー4は、樹脂との相溶性を向上させるために、カップリング処理などの表面処理を行ったり分散剤などを添加して、樹脂組成物10中への分散性を向上させてもよい。また、表面処理剤を適宜選択することにより、相分離構造において効果的に無機フィラー4を偏在させることができる。
表面処理には、脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコール、硬化油等の有機系表面処理剤を用いることができる。また、表面処理には、シリコーンオイル、シランカップリング剤、アルコキシシラン化合物、シリル化材等の無機系表面処理剤も用いることができる。これらの表面処理剤を用いることにより耐水性が向上する場合があり、さらに樹脂中への分散性が向上する場合がある。処理方法としては特に限定されないが、(1)乾式法、(2)湿式法、(3)インテグラルブレンド法等がある。
(1)乾式法
乾式法とは、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、振動ミルのような機械的な攪拌により無機フィラーを攪拌しながら、これに表面処理剤を滴下して表面処理を行う方法である。表面処理剤としてシランを用いる場合には、シランをアルコール溶剤で希釈した溶液や、シランをアルコール溶剤で希釈し、さらに水を添加した溶液、シランをアルコール溶剤で希釈し、さらに水及び酸を添加した溶液等が使用できる。表面処理剤の調製方法はシランカップリング剤の製造会社のカタログ等に記載されているが、シランの加水分解速度や無機フィラーの種類によって調製方法を適宜決定する。
(2)湿式法
湿式法とは、無機フィラーを表面処理剤に直接浸漬して行う方法である。使用できる表面処理剤は、上記乾式法と同様である。また、表面処理剤の調製方法も乾式法と同様である。
(3)インテグラルブレンド法
インテグラルブレンド法は、樹脂とフィラーとを混合するときに、表面処理剤を原液又はアルコール等で希釈して混合機の中に直接添加し、攪拌する方法である。表面処理剤の調製方法は乾式法及び湿式法と同様であるが、インテグラルブレンド法で行う場合の表面処理剤の量は、乾式法及び湿式法に比べて多くすることが一般的である。
乾式法及び湿式法においては、表面処理剤の乾燥を必要に応じて行う。アルコール等を使用した表面処理剤を添加した場合は、アルコールを揮発させる必要がある。アルコールが最終的に配合物に残ると、アルコールがガスとして発生しポリマー分に悪影響を及ぼす。したがって、乾燥温度は、使用した溶剤の沸点以上にすることが好ましい。さらに、表面処理剤としてシランを用いた場合には、無機フィラーと反応しなかったシランを迅速に除去するために、装置を用いて高い温度(例えば、100℃〜150℃)に加熱することが好ましい。ただ、シランの耐熱性も考慮し、シランの分解点未満の温度に保つことが好ましい。処理温度は約80〜150℃、処理時間は0.5〜4時間が好ましい。乾燥温度と時間を処理量により適宜選択することによって、溶剤や未反応シランを除去することが可能となる。
表面処理剤としてシランを用いる場合、無機フィラーの表面を処理するのに必要なシラン量は次式で計算することができる。
[シラン量(g)]=[無機フィラーの量(g)]×[無機フィラーの比表面積(m2/g)]/[シランの最小被覆面積(m2/g)]
「シランの最小被覆面積」は次の計算式で求めることができる。
[シランの最小被覆面積(m2/g)]=(6.02×1023)×(13×10−20(m2))/[シランの分子量]
式中、「6.02×1023」はアボガドロ定数であり、「13×10−20」は1分子のシランが覆う面積(0.13nm2)である。
必要なシラン量は、この計算式で計算されるシラン量の0.5倍以上1.0倍未満であることが好ましい。シラン量が1.0倍以上であっても本実施形態の効果を発揮することができる。しかし、シラン量が1.0倍以上の場合には未反応分が残り、機械物性の低下や耐水性の低下などの物性低下を引き起こす恐れがあるため、上限は1.0倍未満が好ましい。また、下限値を上記計算式で計算される量の0.5倍としたのは、この量であっても樹脂へのフィラー充填性の向上には十分効果があるためである。
樹脂組成物10には、本実施形態の効果を阻害しない程度であれば、着色剤、難燃剤、難燃助剤、繊維強化材、製造上の粘度調整のための減粘剤、トナー(着色剤)の分散性向上のための分散調整剤、離型剤等が含まれていてもよい。これらは公知のものを使用することができるが、例えば、以下のようなものを挙げることができる。
着色剤としては、例えば、酸化チタン等の無機系顔料、有機系顔料等、あるいはそれらを主成分とするトナーを用いることができる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤などが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、樹脂組成物10に難燃剤を含有させる場合は難燃助剤を併用することが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが挙げられる。また、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ、酸化鉄なども挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
次に、本実施形態の樹脂組成物の製造方法について説明する。まず、第1樹脂、第2樹脂、無機フィラー、硬化剤を添加して混練し、未硬化状態の樹脂組成物を製造する。各成分の混練は一段で行ってもよく、各成分を逐次添加しても多段的に行ってもよい。各成分を逐次添加する場合は、任意の順序で添加することができる。
各成分の混練及び添加方法としては、例えば、まず第1樹脂に、第2樹脂の一部又は全量を混練し粘度を調整する。次に、逐次的に残りの第2樹脂、無機フィラー、及び硬化剤を添加しながら混練する。添加順序は特に限定されないが、樹脂組成物の保存安定性の観点から、硬化剤は最後に添加することが好ましい。
なお、上述のように、樹脂組成物には、必要に応じて着色剤、難燃剤、難燃助剤、繊維強化材、減粘剤、分散調整剤、離型剤等の添加剤を添加してもよい。また、これらの添加剤の添加順序も特に制限されず、任意の段階で添加することができるが、上述のように硬化剤は最後に添加することが好ましい。
樹脂組成物の製造に用いる混練機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を供えた混合容器、横型混合槽などを挙げることができる。
樹脂組成物を製造する際の混練温度は、混練できれば特に限定されないが、例えば10〜150℃の範囲が好ましい。150℃を超えると部分的な硬化反応が開始し、得られる樹脂組成物の保存安定性が低下する場合がある。10℃より低いと樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混練が困難となる場合がある。好ましくは20〜120℃であり、さらに好ましくは30〜100℃の範囲である。
次に、未硬化状態の樹脂組成物を基材に接触させた状態で、樹脂組成物を硬化させる。硬化方法は、硬化剤の種類に応じて、加熱、光照射又は電子線照射などの方法を用いることができる。そして、上述のように、相分離構造を形成する複数の樹脂のうち、基材との親和性の高い樹脂が硬化層を構成すると考えられるため、未硬化の樹脂組成物を基材に接触させた状態で硬化処理を行うことにより、硬化層を形成することができる。なお、この未硬化の樹脂組成物は、任意の形状に成形することが可能である。そして、成形方法は任意の方法が可能であり、例えば、圧縮成形(直圧成形)、トランスファー成形、射出成形、押し出し成形、スクリーン印刷、注型成形等の各種手段を用いることができる。
なお、基材の材質は特に限定されないが、セラミック、金属、ガラス、プラスチック、化粧合板又はそれらの複合物等、基本的に何でもよい。基材の形状も特に限定されず、例えば板状物や球状物、円柱状物、円筒状物、棒状物、角柱状物、中空の角柱状物などの単純形状のものでも複雑形状のものでもよい。
本実施形態の樹脂組成物10は、第1樹脂により形成される第1樹脂相2と、第1樹脂相と相違し、第2樹脂により形成される第2樹脂相3とを有する相分離構造体1と、第1樹脂相に偏在する無機フィラー4とを備える。そして、相分離構造体は、第1樹脂相及び無機フィラーにより形成された硬化層5を表面に備える。本実施形態では、硬化層5に無機フィラー4を高濃度に分散させるか、又は硬度の高い無機フィラーを選択的に分散させている。そのため、表面硬度が向上し、耐候性や耐久性、耐摩耗性が良好な樹脂組成物10を得ることができる。また、硬化層5は内部の相分離構造と一体的に形成されているため、成形不良や剥離を抑制しながら樹脂組成物の表面硬度を高めることができる。
本実施形態に係る物品は、上述の樹脂組成物を備えている。具体的には、本実施形態の樹脂組成物10は、住宅、園芸、自動車、電気・電子部品などの分野において、高い表面硬度が必要とされる物品に使用することができる。例えば、樹脂組成物は、洗面所、浴室、トイレ、及び台所などの水回りの物品として使用することができる。
洗面所の物品としては、洗面ボウル、手洗いボウル、洗面カウンター、手洗いカウンター、収納ケース、収納棚、鏡枠、水栓部材、床、及び壁等を挙げることができる。浴室の物品としては、浴槽、風呂蓋、浴室洗い場、浴室壁、浴室カウンター、浴室床、防水パン、浴室収納棚、浴室天井、洗い桶、シャワー水栓部材、洗い場イス、及び手すり等を挙げることができる。トイレの物品としては、便器、便器フタ、便座、トイレカウンター、洗浄ノズル、トイレ収納棚等を挙げることができる。また、台所の物品としては、キッチンカウンター、キッチンシンク、キッチンバック、キッチン天板、収納棚および収納棚扉等を挙げることができる。
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例の樹脂組成物を製造するに際し、以下の樹脂、硬化剤、フィラー及びシランカップリング剤を用いた。
[熱硬化性樹脂]
エポキシ樹脂(DGEBA(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)、三菱化学株式会社製「jER(登録商標)828」、エポキシ当量189g/eq)
[熱可塑性樹脂]
ポリエーテルスルホン(PES、住友化学株式会社製、「スミカエクセル(登録商標)5003P」)
[硬化剤]
・4,4’−メチレンジアニリン(MDA、和光純薬工業株式会社製、活性水素当量49.5g/eq)
・エポキシ樹脂硬化剤(三菱化学株式会社製「jERキュア(登録商標)LV11」)
[フィラー]
・フィラーA:水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製「B703」、平均粒子径3.5μm)
・フィラーB:シリカ(キンセイマテック株式会社製「F−HD05」、平均粒子径5μm)
・フィラーC:アルミナ(昭和電工株式会社製「CB−A09S」、平均粒子径9μm)
・フィラーD:アルミナ(昭和電工株式会社製「CB−P40」、平均粒子径44μm)
[シランカップリング剤]
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製「Z−6040N」)
[実施例1]
まず、シランカップリング剤とpH4に調整した水とを混合して混合液を調製し、次に、ヘンシェルミキサーを用いて当該混合液にフィラーAに分散させた。その後、フィラーAの分散液を乾燥し、135℃で10時間焼付けを行い、ミキサーを用いて解砕した。これにより、シランカップリング処理フィラーAを得た。
次に、表1に示す配合量でエポキシ樹脂にポリエーテルスルホンを混合した。さらに、その混合物を120℃に温めたオイルバス中で攪拌することで、ポリエーテルスルホンをエポキシ樹脂に完全に溶解させ、エポキシ樹脂溶液を得た。
そして、80℃に設定したロールミルを用いて、上述のエポキシ樹脂溶液にシランカップリング処理フィラーAを混練した。さらに混練したエポキシ樹脂溶液に、MDAを混練した。その後、得られた混練物を120℃に設定の真空乾燥機に入れ、5分間減圧脱泡を行うことにより、樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を150℃に温めた金型に投入し、乾燥オーブンにて150℃で2時間保持し、さらに180℃で2時間加熱することにより、実施例1の試験片を得た。
[実施例2]
まず、シランカップリング剤とpH4に調整した水とを混合して混合液を調製し、次に、ヘンシェルミキサーを用いて当該混合液にフィラーBに分散させた。その後、フィラーBの分散液を乾燥し、135℃で10時間焼付けを行い、ミキサーを用いて解砕した。これにより、シランカップリング処理フィラーBを得た。
次に、表1に示す配合量でエポキシ樹脂にポリエーテルスルホンを混合した。さらに、その混合物を120℃に温めたオイルバス中で攪拌することで、ポリエーテルスルホンをエポキシ樹脂に完全に溶解させ、エポキシ樹脂溶液を得た。
そして、80℃に設定したロールミルを用いて、上述のエポキシ樹脂溶液に、シランカップリング処理フィラーBとシランカップリング処理を施していないフィラーAとを混練した。さらに混練したエポキシ樹脂溶液に、MDAを混練した。その後、得られた混練物を120℃に設定の真空乾燥機に入れ、5分間減圧脱泡を行うことにより、樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を150℃に温めた金型に投入し、乾燥オーブンにて150℃で2時間保持し、さらに180℃で2時間加熱することにより、実施例2の試験片を得た。
[実施例3]
まず、シランカップリング剤とpH4に調整した水とを混合して混合液を調製し、次に、ヘンシェルミキサーを用いて当該混合液にフィラーCに分散させた。その後、フィラーCの分散液を乾燥し、135℃で10時間焼付けを行い、ミキサーを用いて解砕した。これにより、シランカップリング処理フィラーCを得た。
さらに、別途シランカップリング剤とpH4に調整した水とを混合して混合液を調製し、次に、ヘンシェルミキサーを用いて当該混合液にフィラーDに分散させた。その後、フィラーDの分散液を乾燥し、135℃で10時間焼付けを行い、ミキサーを用いて解砕した。これにより、シランカップリング処理フィラーDを得た。
次に、表1に示す配合量でエポキシ樹脂にポリエーテルスルホンを混合した。さらに、その混合物を120℃に温めたオイルバス中で攪拌することで、ポリエーテルスルホンをエポキシ樹脂に完全に溶解させ、エポキシ樹脂溶液を得た。
そして、80℃に設定したロールミルを用いて、上述のエポキシ樹脂溶液に、シランカップリング処理フィラーCとシランカップリング処理フィラーDとを混練した。さらに混練したエポキシ樹脂溶液に、MDAを混練した。その後、得られた混練物を120℃に設定の真空乾燥機に入れ、5分間減圧脱泡を行うことにより、樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を150℃に温めた金型に投入し、乾燥オーブンにて150℃で2時間保持し、さらに180℃で2時間加熱することにより、実施例3の試験片を得た。
[実施例4]
まず、表1に示す配合量でエポキシ樹脂にポリエーテルスルホンを混合した。さらに、その混合物を120℃に温めたオイルバス中で攪拌することで、ポリエーテルスルホンをエポキシ樹脂に完全に溶解させ、エポキシ樹脂溶液を得た。
そして、80℃に設定したロールミルを用いて、上述のエポキシ樹脂溶液に、シランカップリング処理を施していないフィラーC及びフィラーDを混練した。さらに混練したエポキシ樹脂溶液に、MDAを混練した。その後、得られた混練物を120℃に設定の真空乾燥機に入れ、5分間減圧脱泡を行うことにより、樹脂組成物を得た。
この樹脂組成物を150℃に温めた金型に投入し、乾燥オーブンにて150℃で2時間保持し、さらに180℃で2時間加熱することにより、実施例4の試験片を得た。
[比較例1]
ポリエーテルスルホンを用いず、さらに熱硬化性樹脂及び硬化剤の配合量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様の手法で、比較例1の試験片を得た。
[比較例2]
ポリエーテルスルホンを用いず、さらに熱硬化性樹脂及び硬化剤の配合量を表1のように変更したこと以外は、実施例2と同様の手法で、比較例2の試験片を得た。
[比較例3]
ポリエーテルスルホンを用いず、さらに熱硬化性樹脂及び硬化剤の配合量を表1のように変更したこと以外は、実施例4と同様の手法で、比較例3の試験片を得た。
[評価]
実施例1〜4及び比較例1〜3の各試験片における硬化層の厚み、硬化層に含まれる無機フィラーの割合、表面硬度、硬化層の密着性、並びに硬化層の成形性及び外観を次の方法で評価した。評価結果を表1に合わせて示す。
(硬化層厚み、及び硬化層に含まれる無機フィラーの割合(体積))
まず、断面試料作製装置(日本電子株式会社製、クロスセクションポリッシャSM−09010)を用いて、試験片の断面を作製した。このサンプルに対し、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7000F)で反射電子像の観察を行った。この際、エポキシ樹脂は黒色で観察され、ポリエーテルスルホン成分は硫黄を含有しているため灰色で観察され、無機フィラーは白色で観察される。この測定により相構造及びフィラーを判別し、硬化層の厚みを計測した。
また、硬化層に含まれる無機フィラーの体積は、以下の方法で測定した。まず、上記サンプルの断面を3000倍以上で任意に100枚観察し、上記方法で判断した硬化層中の樹脂の体積とフィラーが占める体積の比率を算出した。そして、得られた体積比率の平均を硬化層に含まれる無機フィラーの体積(vol%)とした。
(表面硬度)
日本工業規格JIS K6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に従って、実施例及び比較例の各試験片における硬化層のバーコル硬さを測定した。
(密着性)
実施例及び比較例の各試験片に対して、JIS K5600−5−6(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準拠して、1mmのカット間隔にて密着性を評価した。なお、密着性の評価結果は、クロスカットにて形成させたマス目の総数に対する、剥離が生じなかったマス目の数で示す。
(成形性/外観)
実施例及び比較例の各試験片の外観を目視で観察し、クラックなどの成形欠陥が全く観察されず、外観のよいものを「○」と評価し、欠陥が観察されるものを「×」と評価した。
表1に示すように、実施例1及び2は、比較例1及び2と比べて、それぞれフィラー含有率が同じであるにも関わらず、高い表面硬度を示した。また、走査型電子顕微鏡で観察した結果、実施例1及び2では相分離構造及び硬化層の存在が確認されたが、比較例1及び2では相分離構造及び硬化層の存在が確認されなかった。また、実施例1及び2の硬化層には、無機フィラーが存在していることも確認した
実施例1が比較例1に比べ高い表面硬度を示した理由は、次の通りであると考えられる。実施例1において、無機フィラーである水酸化アルミニウムは硬化層を形成するエポキシ樹脂相に偏在している。そのため、比較例1に比べて硬化層に含まれる水酸化アルミニウムの充填量が多くなり、高い表面硬度を示したと考えられる。
実施例2が比較例2に比べ高い表面硬度を示した理由は、次の通りであると考えられる。実施例2では、硬度の高いシリカが硬化層を形成するエポキシ樹脂相に偏在している。そのため、比較例2に比べてシリカが硬化層に選択的に存在しており、高い表面硬度を示したと考えられる。
図4は、実施例3の樹脂組成物の走査型電子顕微鏡写真を示す。図4に示すように、実施例3の樹脂組成物では、表面に無機フィラーが偏在し、硬化層が形成されていることが分かる。さらに、樹脂組成物の内部で相分離構造が形成されていることも確認できる。
図5は、実施例4の樹脂組成物の走査型電子顕微鏡写真を示す。図5に示すように、実施例4の樹脂組成物も、表面に無機フィラーが偏在し、硬化層が形成されていることが分かる。さらに、硬化層の表面に表面樹脂層が形成されていることも確認できる。また、樹脂組成物の内部で相分離構造が形成されていることも分かる。
図6は、比較例3の樹脂組成物の走査型電子顕微鏡写真を示す。図6に示すように、比較例1の樹脂組成物は、図4の実施例3及び図5の実施例4と比べて、表面に無機フィラーが存在しておらず、硬化層が形成されていないことが分かる。さらに、比較例1は熱可塑性樹脂を含有していないため、樹脂組成物の内部で相分離構造が形成されていないことも分かる。
[比較例4]
まず、表2に示す配合量でエポキシ樹脂に硬化剤を混合した。さらに、その混合物に希釈剤及び無機フィラーを混合することにより、コーティング剤を調製した。なお、希釈剤は、メチルイソブチルケトン(MIBK)とプロピレングリコールモノメチルエーテル (PM)を用いた。
次に、上記コーティング剤を、乾燥膜厚が30μmとなるように基材へスプレーコーティングした後、80℃で3時間熱処理を行った。これにより、基材の表面にエポキシ樹脂層を積層した比較例4の試験片を得た。なお、基材は、比較例3で作製した試験片を用いた。
[比較例5]
無機フィラーの添加量を表2に示す割合とした以外は比較例4と同様にして、比較例5の試験片を得た。
[評価]
比較例4及び5の各試験片におけるコーティング層の厚み、表面硬度、コーティング層の密着性、並びにコーティング層の成形性及び外観を上述と同様に評価した。なお、コーティング層に含まれる無機フィラーの割合(vol%)は、次の方法で評価した。評価結果を表2に合わせて示す。
まず、基材を削らないように注意しながら、コーティング層のみを削り取った。さらに、削り取ったコーティング層の粉末に対し、熱重量測定(TG)を600℃まで実施した。そして、重量減少分はエポキシ樹脂成分とし、灰分はフィラー成分とし、それぞれの重量及び密度から、コーティング層に含まれる無機フィラーの体積比率を計測した。なお、密度はエポキシ樹脂が1.2g/cm3とし、Al2O3が3.9g/cm3とした。
比較例4及び5は、実施例1〜4と異なり、基材の表面にコーティング剤を塗布することでコーティング層を形成している。そのため、表2に示すように、コーティング層の密着性が低下し、剥離が生じる結果となった。つまり、実施例1〜4において、硬化層は、試験片の表面に、第1樹脂相及び第2樹脂相と共に一体的に形成された層であるため、剥離が抑制されている。これに対し、比較例4では、基材の表面にコーティング層を別途形成しているため、基材とコーティング層との間の接着力が向上せず、剥離が生じる結果となった。
なお、比較例5では、高い表面硬度を得るために無機フィラーの充填量が多くした。しかし、コーティング層にクラックが生じたため、表面硬度、密着性及び成形性/外観を評価できる試験片を得ることができなかった。
以上、本実施形態を実施例及び比較例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。