以下、図面を参照しつつ本発明に係る車両走行制御装置の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両走行制御装置1を示すシステムブロック図である。図2は、車両走行制御装置1が適用される自車両3と他車両4との走行状態を示す平面図である。車両走行制御装置1は、自車両3(例えば、乗用車等の自動車)に搭載され、自車両3の自動運転を実行する。なお、車両走行制御装置1は、自車両3の完全な自動運転を行う必要はなく、運転支援として車速制御のみ行ってもよい。車両走行制御装置1は、車両状態センサー部5、周辺監視センサー部7、ナビゲーションシステム9、ECU[Electronic Control Unit]10、エンジン制御部21、ブレーキ制御部23、及び操舵制御部25を備えている。また、車両走行制御装置1は、他車両情報取得部11、追越候補車両判定部12、相対速度判定部13、走行形態決定部14、及び車両制御部15を備えている。
車両状態センサー部5は、現在の自車両3の運動状態を計測・出力可能なデバイスである。車両状態センサー部5は、車両に一般的に搭載されているセンサー群であり、例えば自車両3の速度情報を取得する車速センサー、ヨーレートセンサー、前後左右のGセンサー、及び自車両3の位置情報を取得するGPSセンサーなどを含む。
周辺監視センサー部7は、各種のセンサーと、それらのセンサーの出力を統合して自車両3の周辺の環境情報として処理し出力するデバイス(例えばECU)と、を備えている。周辺監視センサー部7が備える上記のセンサーとしては、例えば、ミリ波レーダ、レーザレーダ、ソナー、ステレオカメラ、単眼カメラなどがある。周辺監視センサー部7は、自車両3の周辺に存在する他車両4の有無、他車両4の位置、及び他車両4の速度や運動方向などを計測可能とする。
ナビゲーションシステム9は、運転者によって設定された目的地まで自車両3の運転者の案内を行う。ナビゲーションシステム9は、例えば、地図情報を記憶した地図データベースを有している。地図データベースの地図情報には、例えば、道路の位置情報、道路の車線に関する情報(例えば、車線毎の法定最高速度)、車線の種別情報(走行車線、追越車線などの種別情報)、交差点又は分岐点の位置情報等が含まれる。ナビゲーションシステム9は、車両状態センサー部5の取得した自車両3の位置情報と地図データベースの地図情報とを照合して、自車両3の走行する走行道路及び走行する車線を認識する。ナビゲーションシステム9は、例えば、自車両3の位置から目的地に至るまでの経路を演算し、表示部の表示及び音送信部の音声送信により運転者に対して当該経路の案内を行う。ナビゲーションシステム9は、例えば、自車両3の位置情報、自車両3の走行する車線の情報、及び自車両3の案内経路情報をECU10へ送信する。なお、車両走行制御装置1は、必ずしもナビゲーションシステム9を備える必要はない。
ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]等を有する電子制御ユニットである。ECU10では、ROMに記憶されているプログラムがRAMにロードされ、CPUで実行されることで、他車両情報取得部11、追越候補車両判定部12、相対速度判定部13、走行形態決定部14、及び車両制御部15等の機能が実現される。ECU10は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。
他車両情報取得部11は、車両状態センサー部5から得られた自車両3の位置情報及び速度情報と、周辺監視センサー部7から得られた他車両4の位置情報及び速度情報と、に基づいて、他車両4の自車両3に対する相対位置、及び他車両4の自車両3に対する相対速度を取得する。
追越候補車両判定部12は、他車両情報取得部11で取得された上記相対位置及び上記相対速度の情報と、車両状態センサー部5で取得された自車両3の位置情報及び速度情報と、ナビゲーションシステム9が有する地図情報とに基づいて、他車両4が所定の「追越候補車両」に該当するか否かを判定する。「追越候補車両」とは、自車両3が走行する走行車線53に隣接する追越車線54上で自車両3の後方を走行し自車両3に接近する車両を言う。他車両が追越車線54を走行しているか否かは、他車両4の位置と地図情報とを照合して認識することができる。ここでは、他車両4が追越候補車両に該当する場合、他車両4は自車両3を追い越そうとしていると仮定する。以下、他車両4が追越候補車両に該当すると判定されたものとして説明する。
相対速度判定部13は、他車両情報取得部11で取得された情報に基づいて、他車両4(追越候補車両)の自車両3に対する相対速度が閾値X以下であるか否かを判定する。他車両4が追越候補車両に該当する条件下では、他車両4の自車両3に対する相対速度とは、走行車線53に沿った自車両3の進行方向における他車両4の速度V4と自車両3の速度V3との差分(V4−V3)となる速度である。上記の閾値Xは、予め設定されECU10の記憶部に記憶されている。上記の相対速度が閾値X以下の場合、他車両4と自車両3との車速差が小さいために、追い越しに掛かる時間が許容できない程度の長時間になると考えることができる。
更に、相対速度判定部13は、自車両3が走行車線53の所定の上限速度で走行した際に上記相対速度が負になるか否かを判定する。上記相対速度が負になるとは、自車両3の速度が他車両4の速度よりも大きくなることを意味する。ここで走行車線53の上限速度としては、例えば、前述の地図情報等から取得される走行車線53の法定最高速度を採用してもよく、予め設定されECU10の記憶部に記憶された速度であってもよい。以下、「自車両3が上限速度で走行した際に他車両4の自車両3に対する相対速度(V4−V3)が負になる」といった条件を「条件A」と呼ぶ。
走行形態決定部14は、相対速度判定部13による判定結果に基づいて自車両3が実行すべき走行形態を決定する。具体的には、相対速度判定部13により、前記相対速度(V4−V3)が閾値X以下であり、かつ、条件Aが満足されると判定された場合には、走行形態決定部14は、現状の車線(走行車線53)を維持したまま前述の上限速度まで加速するという走行形態を、自車両3が実行すべき走行形態として決定する。それ以外の場合には、走行形態決定部14は、現状の車線及び速度を維持するという走行形態を、自車両3が実行すべき走行形態として決定する。
車両制御部15は、走行形態決定部14で決定された走行形態を実現するようにエンジン、ブレーキ及び操舵系を駆動するための制御信号を生成し、制御信号を後述のエンジン制御部21、ブレーキ制御部23、操舵制御部25に送信する。
エンジン制御部21は、自車両3のエンジンを制御する電子制御ユニットである。エンジン制御部21は、例えば、エンジンに対する燃料の供給量及び空気の供給量をコントロールすることで自車両3の駆動力を制御する。なお、エンジン制御部21は、車両がハイブリッド車又は電気自動車である場合には、動力源として駆動するモータの制御を行うモータ制御部として機能する。エンジン制御部21は、ECU10の車両制御部15からの制御信号に応じて自車両3の駆動力を制御する。
ブレーキ制御部23は、自車両3のブレーキシステムを制御する電子制御ユニットである。ブレーキシステムとしては、例えば、液圧ブレーキシステムを用いることができる。ブレーキ制御部23は、液圧ブレーキシステムに付与する液圧を調整することで、自車両3の車輪へ付与する制動力をコントロールする。ブレーキ制御部23は、ECU10の車両制御部15からの制御信号に応じて車輪への制動力を制御する。なお、ブレーキ制御部23は、自車両3が回生ブレーキシステムを備えている場合、液圧ブレーキシステム及び回生ブレーキシステムの両方を制御してもよい。
操舵制御部25は、自車両3の電動パワーステアリングシステム[EPS:Electric Power Steering]を制御する電子ユニットである。操舵制御部25は、電動パワーステアリングシステムのうち、自車両3の操舵トルクをコントロールするアシストモータを駆動させることにより、自車両3の操舵トルクを制御する。操舵制御部25は、ECU10の車両制御部15からの制御信号に応じて操舵トルクを制御する。
続いて、図3のフローチャート等を参照しながら上記の車両走行制御装置1が実行する処理について説明する。このフローチャートに示される処理は、自車両3のイグニッションスイッチがONになったときに開始され、その後繰り返し実行される。以下の説明においては、図2に示されるように、自車両3が道路の走行車線53を走行しており、走行車線53の右側に隣接して追越車線54が存在し、追越車線54上を他車両4が走行しているものとする。
図3に示されるように、周辺監視センサー部7及び他車両情報取得部11によって、自車両3の周辺の他車両4が検出され、他車両4の自車両3に対する他車両4の相対位置、及び他車両4の自車両3に対する相対速度が取得される(ステップS101)。次に、追越候補車両判定部12によって、上記他車両4が前述の追越候補車両に該当するか否かが判定される(ステップS102)。ここで、他車両4が追越候補車両に該当する場合には、相対速度判定部13によって他車両4の自車両3に対する相対速度(V4−V3)が閾値X以下であるか否かが判定される(ステップS103)。ここで、他車両4の自車両3に対する相対速度が閾値X以下である場合には、ステップS104に処理が進み、更に前述の条件Aが満足されるか否かが判定される(ステップS104)。
ここで、条件Aが満足されると判定された場合には、走行形態決定部14によって、現状の車線を維持したまま前述の上限速度まで加速するという走行形態が、自車両3が実行すべき走行形態として決定される(ステップS105)。その一方、条件Aが満足されないと判定された場合には、走行形態決定部14によって、現状の車線及び速度を維持するという走行形態が、自車両3が実行すべき走行形態として決定される(ステップS107)。なお、現在の速度を維持するとは、厳密に自車両3の速度を現在の速度に固定するという意味ではなく、例えば道路形状等に応じて予め計画された自動運転の車速制御を継続するという意味である。また、ステップS102において他車両4が追越候補車両に該当しない場合、及びステップS103において他車両4の自車両3に対する相対速度(V4−V3)が閾値X以下でない場合は、いずれも上記ステップS107の決定が行われる。
その後、車両制御部15によって自車両3の走行が制御され、ステップS105又はS107において決定された走行形態が実現される(ステップS109)。具体的には、車両制御部15は、ステップS105又はS107において決定された走行形態を実現するように制御信号を生成し、その制御信号をエンジン制御部21、ブレーキ制御部23、操舵制御部25に送信する。
続いて、車両走行制御装置1による作用効果について説明する。前述のとおり、追越候補車両である他車両4の自車両3に対する相対速度が閾値X以下の場合、自車両3を追い越そうとする他車両4と自車両3との車速差が小さいために追い越しに長時間を要すると考えることができる。この状態は、自車両3と他車両4とが並走に近い状態を長時間維持することになり、交通流を滞らせ渋滞の原因になる虞もある。また、自車両3にとっては緊急時の左右方向の回避が困難な状態が発生し、また、他車両4の位置する側の視界も不十分となるので、自車両3の安全確保が難しい状態となる。
そこで、車両走行制御装置1においては、追越候補車両である他車両4の自車両3に対する相対速度が閾値X以下の場合(ステップS103でYES)には、前述の条件Aが満足される条件下で、自車両3が現状の車線を維持しながら上記の上限速度まで加速する走行形態が選択され実行される(ステップS105)。このような加速により、自車両3の車速が他車両4の車速よりも大きくなるので、他車両4による自車両3の追い越しを断念させることができる。または、他車両4に更なる加速を促して追い越しを早期に完了させることができる。その結果、車両走行制御装置1によれば、他車両4の追い越しによる交通流への影響を低減することができ、自車両3の安全も確保することができる。
但し、条件Aが満足されない場合には、自車両3が上限速度を超えない限り上記の効果が得られない。従って条件Aが満足されない場合には、上限速度を超えないこと(例えば、法定最高速度を順守すること)を優先して、上記の加速は実行されず自車両3の車速は維持される(ステップS107)。
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、下記の実施形態の変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
例えば、他車両4が追越候補車両に該当するための条件として、他車両4と自車両3との距離(例えば道路の延在方向における距離)が所定距離Y以下(例えば100m以下)であるという条件を追加してもよい。これにより、自車両3と後方の他車両4とが交通流に影響を与えない程度に前後に離れて走行している場合には、他車両4が追越候補車両に該当せず、ステップS105の走行形態は実行されない。
以下、第1の変形例に係る車両走行制御装置30について説明する。図4は、第1の変形例に係る車両走行制御装置30を示すシステムブロック図である。上記実施形態と同じ又は相当する構成には同じ符号を付し、説明を省略する。第1の変形例に係る車両走行制御装置30は、上記実施形態に係る車両走行制御装置1と比べて、ECU10の機能の一部を情報管理センター60が行う点が主に異なっている。
情報管理センター60は、例えば、自動車の交通に関連する情報を管理する施設である。情報管理センター60は、情報の記憶及び演算を行うための情報管理設備を備えている。図4に示されるように、情報管理センター60は、車両情報取得部61、地図データベース62、追越候補車両判定部63、及び通信装置64を備えている。
車両情報取得部61は、情報管理センター60と車両の通信により、各車両の位置情報及び速度情報などを取得する。車両情報取得部61は、自車両3との通信により得られた自車両3の位置情報及び速度情報と、他車両4との通信により得られた他車両4の位置情報及び速度情報に基づいて、他車両4の自車両3に対する相対位置、及び他車両4の自車両3に対する相対速度を取得する。なお、上記実施形態のように自車両3の他車両情報取得部11が他車両4の自車両3に対する相対位置及び相対速度を取得している場合、車両情報取得部61は、自車両3との通信により当該相対位置及び相対速度を直接取得してもよい。なお、自車両3は、他車両情報取得部11を必ずしも備える必要はない。
地図データベース62は、地図情報を記憶したデータベースであり、例えば上記実施形態に係るナビゲーションシステム9の地図データベースと同様の情報を有している。追越候補車両判定部63は、情報管理センター60に設けられている点以外は、上記実施形態に係る追越候補車両判定部12と同様の機能であるため説明を省略する。通信装置64は、自車両3及び他車両4と無線通信を行うための装置である。
第1の変形例において、自車両3は、情報管理センター60及び他車両4と無線通信を行うための通信装置31を備えている。同様に、第1の変形例において、他車両4は、車両状態センサー部41、周辺監視センサー部42、及び通信装置43を備えている。車両状態センサー部41及び周辺監視センサー部42は、他車両4に備えられている点以外は、上記実施形態に係る車両状態センサー部5及び周辺監視センサー部7と同様の機能であるため説明を省略する。通信装置43は、情報管理センター60及び自車両3と無線通信を行うための装置である。
第1の変形例に係る車両走行制御装置30では、例えば、情報管理センター60の車両情報取得部61により、他車両4の自車両3に対する相対位置、及び他車両4の自車両3に対する相対速度が取得される。そして、情報管理センター60の追越候補車両判定部63により、他車両4が追越候補車両に該当するか否かが判定される。追越候補車両判定部63により他車両4が追越候補車両に該当すると判定された場合、その判定結果が通信によって自車両3のECU10に伝えられる。その後、自車両3のECU10では、上記実施形態と同様に、相対速度判定部13、走行形態決定部14、及び車両制御部15による処理が行われる。これにより、第1の変形例に係る車両走行制御装置30においても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
続いて、第2の変形例に係る車両走行制御装置70について説明する。図5は、第2の変形例に係る車両走行制御装置70を示すシステムブロック図である。第2の変形例に係る車両走行制御装置70は、第1の変形例に係る車両走行制御装置30と比べて、相対速度判定部の機能も情報管理センター60が備えている点のみが異なっている。情報管理センター60の相対速度判定部71は、情報管理センター60に備えられている点以外は、上記実施形態に係る相対速度判定部13と同様の機能であるため説明を省略する。
第2の変形例に係る車両走行制御装置70では、情報管理センター60の相対速度判定部71により、他車両4の自車両3に対する相対速度が閾値X以下であり、かつ、条件Aが満足される否かが判定される。相対速度判定部71により、前記相対速度(V4−V3)が閾値X以下であり、かつ、条件Aが満足される否かが判定された場合、その判定結果が通信によって自車両3のECU10に伝えられる。その後、自車両3のECU10では、上記実施形態と同様に、走行形態決定部14及び車両制御部15による処理が行われる。これにより、第2の変形例に係る車両走行制御装置70においても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
以上のように、本発明に係る車両走行制御装置は、上記実施形態に係るECU10の機能の一部が情報管理センター60で行われてもよい。その他、本発明に係る車両走行制御装置は、上記実施形態に係るECU10の機能の一部が他車両(他車両4又は他車両4とは別の他車両)において行われてもよく、上記実施形態に係るECU10の機能の一部が情報管理センター60及び他車両のそれぞれにおいて行われてもよい。