しかしながら、特許文献1の構成では、原子炉格納容器内の熱を外部へ輸送することは可能であるが、燃料デブリ表面を十分に冷却できず燃料デブリが高温となり放射性物質が追加放出されるという問題がある。
そのため、十分な冷却効果を得るために従来通り燃料デブリの冷却材として冷却水を用いると、冷却水で燃料デブリの崩壊熱を吸収できても、燃料デブリによって冷却水が放射能汚染を受けてしまう。さらに、燃料デブリに含まれる放射性物質が崩壊することにより崩壊熱が発生するので、その放射性物質の半減期が膨大な時間である場合にはその期間継続して崩壊熱が発生していることになる。例えば、燃料デブリには、半減期が億単位のウラン235や、半減期が約29年のストロンチウム90などの半減期の長い放射性物質が含まれている場合がある。これは、数十トンの燃料棒が炉心溶融した場合には、上述した通りそれ以上の重さの燃料デブリが生じることになり、燃料デブリを冷却するために必要な冷却水が非常に大量になってしまうこと、すなわち燃料デブリの冷却処理で永年に亘って非常に大量の汚染水を副産物として発生させ続けることを意味している。つまり、大量の汚染水に対して放射性物質の除去処理を行うことや、数十万トンを超えるような大量の汚染水を長期間に亘って適切に保管することや、冷却処理を続けることにより保管すべき汚染水が増え続けることなどが課題として挙げられる。
加えて、その汚染水をコンクリート格納容器内から適切に回収することが別の課題として挙げられる。汚染水を適切に回収できない場合には、汚染水がコンクリート格納容器から外部に漏洩して地中に浸透してしまう可能性がある。すなわち、地下水に汚染水が流入することにより放射性物質が地中に拡散されていることになる。この場合、コンクリート格納容器外への汚染水の流出防止や、地中から汚染水を汲み上げることなど困難な課題が挙げられる。
ところで、崩壊熱の発生量は時間の経過に伴い減少する。つまり、放射性物質の半減期が短い場合には短期間に大きな崩壊熱を生じ、反対に半減期が長い場合には長期間に亘り緩やかに崩壊熱を生じるので短期間に生じる崩壊熱は小さくなる。いずれにせよ、炉心溶融から数年以上経過した時点では、燃料デブリが生じる崩壊熱は、炉心溶融後に連鎖反応(核分裂反応)が停止した直後の崩壊熱よりも小さいことは明らかである。
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、燃料デブリを継続的に冷却することができるとともに、その冷却処理によるコンクリート格納容器外への放射性物質の拡散防止を可能にする燃料デブリの空冷装置および方法を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明は、エアサイクル装置と、前記エアサイクル装置内を流動する空気と冷媒とを熱交換させる熱交換装置とを備え、前記エアサイクル装置は、燃料デブリが存在するコンクリート格納容器内に開口し、前記燃料デブリの崩壊熱により温度上昇した空気を前記コンクリート格納容器外へ吸気する吸気管と、吸気側に前記吸気管が接続され、かつ排気側に連絡流路が接続されているコンプレッサと、前記連絡流路を介して前記コンプレッサと接続され、かつ排気側に排気管が接続されている膨張タービンとを備え、前記熱交換装置は、前記連絡流路内を流動する圧縮空気を前記冷媒で冷却する第一熱交換器と、前記吸気管内を流動する空気を前記冷媒で冷却する第二熱交換器とを備え、前記排気管は、前記コンクリート格納容器内に開口し、前記膨張タービンにより膨張させられたことにより温度低下した空気を前記コンクリート格納容器内へ排気するように構成されていることを特徴とする燃料デブリの空冷装置である。
この発明は、エアサイクル装置と、前記エアサイクル装置内を流動する空気と冷媒とを熱交換させる熱交換装置とを備え、前記エアサイクル装置は、燃料デブリが存在するコンクリート格納容器内に開口し、前記燃料デブリの崩壊熱により温度上昇した空気を前記コンクリート格納容器外へ吸気する吸気管と、吸気側に前記吸気管が接続され、かつ排気側に排気管が接続されているコンプレッサとを備え、前記熱交換装置は、前記排気管内を流動する圧縮空気を前記冷媒で冷却する第一熱交換器と、前記吸気管内を流動する空気を前記冷媒で冷却する第二熱交換器とを備え、前記排気管は、前記コンクリート格納容器内に開口し、かつ膨張弁が設けられており、前記膨張弁により前記圧縮空気を膨張させ温度低下させて前記コンクリート格納容器内へ排気するように構成されていることを特徴とする燃料デブリの空冷装置である。
この発明は、上記発明において、前記吸気管は、フレキシブルチューブにより構成され、前記排気管は、断熱機能を有するフレキシブルチューブにより構成されていることを特徴とする燃料デブリの空冷装置である。
この発明は、上記発明において、前記空気に含まれる放射性物質を除去する処理装置をさらに備え、前記処理装置は、前記吸気管による空気経路中で前記第二熱交換器と前記コンプレッサとの間に設けられ、前記吸気管内を流動する空気中の放射性物質を除去するように構成されていることを特徴とする燃料デブリの空冷装置である。
この発明は、コンプレッサにより空気を圧縮し、前記コンプレッサにより圧縮された空気を、第一熱交換器により冷媒と熱交換し、前記第一熱交換器により冷却された圧縮空気を、膨張タービンにより膨張させ、前記膨張タービンにより膨張された空気を排気管からコンクリート格納容器内へ排気し、前記コンクリート格納容器内で燃料デブリの崩壊熱により温度上昇した空気を吸気管から吸気し、前記吸気管内を流動する空気を、第二熱交換器により冷媒と熱交換し、前記第二熱交換器により冷却された空気を前記コンプレッサにより再び圧縮することを特徴とする燃料デブリの空冷方法である。
この発明は、上記発明において、前記第二熱交換器により冷却された空気に含まれている放射性物質を除去し、前記放射性物質を除去された空気を前記コンプレッサにより再び圧縮することを特徴とする燃料デブリの空冷方法である。
この発明によれば、燃料デブリを継続的かつ十分に空冷することができるとともに、汚染水が地中に浸透するようなコンクリート格納容器外への放射性物質拡散を防止できる。そのため、従来のような冷却処理の副産物としての汚染水が発生しないため、汚染水の長期保管などの必要がなくなる。
以下、図面を参照して、この発明の一例における燃料デブリの空冷装置について具体的に説明する。
図1は、この具体例における燃料デブリの空冷装置を示している。燃料デブリの空冷装置(以下、単に「空冷装置」という)1は、コンクリート格納容器2内で核燃料が溶融したことにより生じた燃料デブリFDを空冷するように構成されている。具体的には、空冷装置1は、エアサイクル装置10と、エアサイクル装置10内を流動する空気を冷媒と熱交換させる熱交換装置20と、エアサイクル装置10における空気流路内を流動する空気中の放射性物質を除去するための装置(以下「処理装置」という)30とを備えている。
エアサイクル装置10は、コンクリート格納容器2内で燃料デブリFDが存在しているエリアS内に排気管11から冷たい空気(冷却空気)Acを供給するとともに、エリアS内で燃料デブリFDの崩壊熱により温度上昇した熱い空気(高温空気)Ahを吸気管12からコンクリート格納容器2外へ吸気することにより、空気が循環するように構成されている。また、高温空気Ahは、燃料デブリFDによって汚染された空気である。
排気管11および吸気管12は、フレキシブルチューブであって、いずれもコンクリート格納容器2側の先端がエリアS内に開口している。特に排気管11は断熱機能を有する断熱チューブとして構成されており、望ましくは、排気管11の開口が燃料デブリFD近傍に位置するように配置されている。また、吸気管12の開口は、燃料デブリFDよりも上方、すなわち排気管11の開口位置よりも上方に位置するように配置される。これにより、効果的に冷却空気Acを燃料デブリFDに向けて排気させることができるとともに、燃料デブリFDの崩壊熱により温度上昇して上方移動した高温空気(汚染空気)Ahを効率的にコンクリート格納容器2外へ吸気することができる。加えて、排気管11が断熱チューブであることにより排気管11内を流動する冷却空気Acを超低温に保つことができ、燃料デブリFDを効率的に冷却することができる。さらに、排気管11および吸気管12がフレキシブルチューブにより構成されていることにより、仮に障害物が散在しているコンクリート格納容器2内であっても、排気管11および吸気管12を自由度をもって配管させることができるので、空冷装置1の大型化を抑制することができる。
例えば、コンクリート格納容器2の外側からコンクリート側壁部に遠隔操作ロボットなどにより貫通孔を形成する。そして、その側壁部の外側から、各貫通孔内に排気管11と吸気管12をそれぞれ挿入し、排気管11および吸気管12の先端がエリアS内に開口するように配置される。なお、コンクリート格納容器2内における排気管11および吸気管12の配管作業は遠隔操作ロボットが行ってもよい。
吸気管12は、圧縮機(以下「コンプレッサ」という)13の吸気側に接続されている。排気管11は、膨張タービン14の排気側に接続されている。コンプレッサ13の動力源として圧縮用モータ15が設けられている。圧縮用モータ15は、電動式であり、そのロータ軸15aは、コンプレッサ13の回転軸および膨張タービン14の回転軸と一体回転するように構成されており、各軸は同一回転中心軸線上に配置されている。すなわち、膨張タービン14の翼車はコンプレッサ13の翼車よりも大径に形成されているとともに、圧縮用モータ15を膨張タービン14の動力源とみなすことができる。要するに、一つの圧縮用モータ15によってコンプレッサ13および膨張タービン14を同時に駆動させることができるように構成されていればよく、圧縮用モータ15の配置は、図1に示すようなコンプレッサ13と膨張タービン14との間に限定されない。例えば、図1上でのコンプレッサ13の左側に圧縮用モータ15を配置してもよく、あるいは図1上での膨張タービン14の右側に圧縮用モータ15を配置してもよい。
さらに、コンプレッサ13の排気側と膨張タービン14の吸気側とは、連絡流路16を介して接続されている。圧縮用モータ15が駆動することにより、コンプレッサ13において吸気管12内の空気を吸引して圧縮し、かつ連絡流路16に圧縮空気を圧送し、膨張タービン14では連絡流路16を介して圧送された圧縮空気を膨張させて排気管11へ排気するように構成されている。そして、空冷装置1では、吸気管12内を流動する空気と、連絡流路16内を流動する空気とが、熱交換装置20によって冷媒と熱交換されて冷却される。
熱交換装置20は、冷媒として海水Wを用いるように構成され、連絡流路16内の圧縮空気と海水Wとを熱交換させるように構成された第一熱交換器21と、吸気管12内の高温空気(汚染空気)Ahと海水Wと熱交換させるように構成された第二熱交換器22とを備えている。
熱交換装置20では、海水WをポンプPにより海から吸い上げ、供給管23を介して第一熱交換器21および第二熱交換器22に供給するとともに、第一熱交換器21および第二熱交換器22で熱交換された後の海水Wを排水管24内に流動させて海へ戻すように構成されている。
図1に示すように、熱交換装置20における海水経路は、ポンプPの下流側で供給管23が第一熱交換器21側と第二熱交換器22側とに枝分かれし、第一熱交換器21および第二熱交換器22の下流側で排水管24が合流するように構成されている。なお、供給管23および排水管24により形成される海水経路は、図1に示す海水経路に限定されず、適宜の変更が可能である。
処理装置30は、エアサイクル装置10が燃料デブリFDを空冷する際に、エアサイクル装置10内を流動する汚染空気Ahの放射性物質を除去するように構成されている。図1に示すように、エアサイクル装置10による空気経路において、吸気管12による空気経路中で第二熱交換器22とコンプレッサ13との間に設けられている。
例えば処理装置30は、吸気管12内を流動する汚染空気Ahと触れるように構成された放射能除去フィルタ31と、その空気経路中で放射能除去フィルタ31の下流側に設けられた誘引ブロワ(誘引送風機;IDF)32とにより構成されている。この場合、吸気管12内の空気は、誘引ブロワ32によって吸引されて放射能除去フィルタ31を通過し、誘引ブロワ32を介してコンプレッサ13側へ向けて流動する。つまり、吸気管12による空気経路中に、放射能除去フィルタ31を設けることにより圧力損失が生じるので、放射能除去フィルタ31の下流側に誘引ブロワ32を設けて流動性能の低下を抑制している。すなわち、コンプレッサ13により生じる吸引力を誘引ブロワ32により生じる吸引力でアシストしている。また、処理装置30として従来から知られている多核種除去設備(ALPS)を設けてもよい。
なお、エアサイクル装置10の空気経路中と、熱交換装置20の海水経路中とには、調圧弁や流量制御弁などの図示しない弁が設けられていてもよい。
図2は、空冷装置1による熱サイクルを示している。空冷装置1では、開放型空気ブレイトンサイクルと呼ばれる熱サイクルを形成する。コンプレッサ13において空気を圧縮することにより温度Taの圧縮空気を発生させる。例えば、圧縮により温度Taが200℃程度の高温かつ高圧の空気が発生する。
コンプレッサ13による圧縮空気(温度Ta)は、下流側の第一熱交換器21によって海水Wと熱交換(一次冷却)されることで温度Tbに冷却される。例えば、一次冷却により温度Tbが50〜100℃程度の低温かつ高圧の空気となる。
温度Tbの低温かつ高圧の空気は、膨張タービン14によって膨張されることで、ジュールトムソン効果により、温度Tcに温度低下させられる。例えば、膨張により温度Tcがマイナス50℃程度の超低温空気(冷却空気Ac)が発生する。
温度Tcの超低温空気(冷却空気Ac)は、断熱機能を有する排気管11を介して、コンクリート格納容器2内の燃料デブリFD近傍に排気される。冷却空気Acを燃料デブリFDに向けて排気して、燃料デブリFDを冷却すると、コンクリート格納容器2内の燃料デブリFDが存在しているエリアSでは崩壊熱によって空気が温度Tdに温度上昇される。例えば、崩壊熱の吸収により温度Tdが100℃程度の高温空気(汚染空気)Ahが発生する。
温度Tdの高温空気(汚染空気)Ahは、吸気管12によってコンクリート格納容器2外へ吸気されて、第二熱交換器22によって海水Wと熱交換(二次冷却)されることで温度Teに冷却される。例えば、二次冷却により温度Teが50℃程度の空気となる。
温度Teの空気(汚染空気)Ahは、処理装置30によって放射性物質が除去されてから、再びコンプレッサ13で圧縮されて温度Taに温度上昇される。したがって、空冷装置1によれば、上述したような熱サイクルを形成する燃料デブリの冷却方法を実施することになる。
以上説明した通り、この具体例の燃料デブリの空冷装置によれば、従来のように冷却処理による副産物として大量の汚染水を発生させ続けることなく、燃料デブリを継続的に冷却することができる。そのため、従来のような汚染水の長期保管などの必要がなくなるとともに、地下水に汚染水が流入することを防止できる。つまり、この空冷方法によってコンクリート格納容器外への放射性物質が拡散することを防止できる。
また、気温よりも低温の冷却空気で燃料デブリを冷却するので、この空冷方法で放射性物質に汚染される空気の量(汚染空気量)を低減できる。仮に常温空気(大気)で燃料デブリを空冷すると燃料デブリとの温度差を大きくとれず、冷却には大量の常温空気を必要とする結果、汚染空気量が増大してしまう。しかしながら、この具体例によれば燃料デブリの冷却に必要な冷却材の量を低減できる。
さらに、燃料デブリにより放射能汚染を受けた汚染空気に対して、処理装置によって放射性物質を除去することができるため、その汚染空気をエアサイクル装置で循環させても高濃度の汚染空気が生じることを抑制できる。
なお、この発明における燃料デブリの空冷装置は、上述した具体例に限定されず、この発明の目的を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、空冷装置1を密閉された完全なクローズドシステムに構成することができる場合には、汚染空気の漏洩を防止できるので、処理装置30を設けなくてもよい。この場合、上述したような放射能除去フィルタ31による圧力損失が生じないので、コンプレッサ13により生じる吸引力により吸気管12内の空気を流動させることができ、誘引ブロワ32が不要になる。これにより、空冷装置1の大型化や設備コストを抑制できる。
さらに、上述した具体例の変形例として図3に示す空冷装置1を構成することができる。この変形例の空冷装置1では、上述した具体例とは異なり膨張タービン14が設けられておらず、膨張タービン14の代わりに、排気管11による空気経路中にオリフィスなどの膨張弁17が設けられている。
例えば、排気管11は、コンプレッサ13の排気側に接続され、かつコンクリート格納容器2内に開口するように構成されている。つまり、排気管11内を圧縮空気が流動し、第一熱交換器21は排気管11内を流動する高温かつ高圧の空気と海水Wとを熱交換させるように構成されている。そして、排気管11におけるコンクリート格納容器2側の開口先端部分がオリフィスとしての膨張弁17に形成されている。その膨張弁17によって排気管11内を流動した圧縮空気を膨張させて温度低下された冷却空気Acをコンクリート格納容器2内へ排気することができる。その熱サイクルを図4に示してある。
図4に示すように、温度Tbの低温かつ高圧の空気は、膨張弁17によって膨張されることで、ジュールトムソン効果により、温度Tc’に温度低下させられる。例えば、膨張により温度Tc’がマイナス50℃程度の超低温空気(冷却空気Ac)が発生する。温度Tc’の超低温空気(冷却空気Ac)はコンクリート格納容器2内の燃料デブリFD近傍に排気される。この変形例によれば、上述した具体例のように膨張タービンが設けられている場合よりも空冷装置のサイズを大幅に低減することができる。また、排気管に空気を膨張されるためのオリフィスを設ければよいため、排気管の大型化も抑制できる。