JP2016094137A - 水中観察装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】水中推進器によって水中観察部を通常はダム壁面に押し付けて安定して観察できるようにすると共に、ダム壁面に障害物等がある場合は、水中推進器の噴出制御でダム壁面から一時的に離れることで壁面表面の障害物を回避でき、濁水中でも広い範囲で壁面の表面をきれいな画像で観察できる水中観察装置を提供する。
【解決手段】透明な液体で充填される中空部を有し且つその中空部に臨む面に外部を透かして見ることができる透明板が配置された筐体2と、中空部を挟んで透明板にレンズ部が対向するように配置されて筐体2に取り付けられたカメラ装置5と、筐体2を吊下げワイヤ8を介して吊り下げてその筐体2を水中で昇降させる吊下げ装置7と、筐体2に設けられ且つ水中内でその筐体2を移動可能な水中推進器9A,9Bを設けた。
【選択図】図1
【解決手段】透明な液体で充填される中空部を有し且つその中空部に臨む面に外部を透かして見ることができる透明板が配置された筐体2と、中空部を挟んで透明板にレンズ部が対向するように配置されて筐体2に取り付けられたカメラ装置5と、筐体2を吊下げワイヤ8を介して吊り下げてその筐体2を水中で昇降させる吊下げ装置7と、筐体2に設けられ且つ水中内でその筐体2を移動可能な水中推進器9A,9Bを設けた。
【選択図】図1
Description
本発明は、水中に没しているダムの壁面や桟橋の壁面、或いは、用水路や堤防等における水中にある部分の状態を観察するための水中観察装置に関する。
ダムや桟橋等の建築物においては、施設の安全性や機能性等を確保するために、その壁面にひび割れや破損等の欠陥が生じていないかどうかを確認し、欠陥がある場合には、その欠陥を補修しておく必要がある。また、用水路や堤防等の周面においても、ひび割れや破損等の欠陥がある場合には、それらに決壊が生じて危険となるおそれがあるため、その欠陥を補修しておく必要がある。
現在、水中にある壁面のひび割れや破損等の欠陥の有無の点検は、ダイバーによる潜水作業によって行っている。しかしながら、ダイバーは40m程度までしか潜水することができず、水深が100mを超すダム湖側の水中内の全面を点検することが困難であった。また、点検に際しては、点検場所の位置座標と壁面の表面状態を同時にデータベース化することが必要となるが、そのデータベース化ができていなかった。
一方、遠隔操縦型の水中探査機ROVを使用することも試みられているが、その運動を確保しようとして水上の制御装置と繋がるワイヤを緩めていると、それが湖底の障害物に絡まったり回収できなくなることもある。また、ROVの水中での正確な位置座標を計測し難いため、点検場所の位置座標と壁面の表面状態を同時にデータベース化することができなかった。更に、ダム湖の水が濁っているため、壁面の観察が難しく、その壁面にカメラを近づければ観察することができるが、カメラの視野が著しく狭くなってしまい、広い範囲を効率良く観察することができなかった。
また、従来の水中観察装置には、単純にダムの壁面の近傍にカメラを垂直に降下させ、そのカメラで壁面を観察する装置もあるが、壁面に突起等の段差があると、それを避けることができなかった。更に、ダム湖の水が濁っているため、従来の水中観察装置では壁面表面の観察が難しかった。
特許文献1には、開放された水域の濁水中であっても対象物を把握することができる水中観察装置及び方法に関するものが記載されている。この特許文献1に係る水中観察装置は、水中カメラと、この水中カメラにより撮影された画像を表示するモニタと、水中カメラの撮影窓部を覆って取り付けられる中空ケースとを備え、中空ケースを構成する面のうち、少なくとも撮影窓部に対向する面が透明であるとともに、中空ケースの内部が透明液体で充填されている、ことを特徴としている。
また、特許文献2には、オープンケーソン沈下方式で立坑を掘削しながらケーソンを水中に沈下する工程等における泥水中の掘削地盤の視認方法及びその装置に関するものが記載されている。この特許文献2に係る地盤の視認装置は、下面を開口し、四周及び上面を閉鎖し、下面が下向きになるように重錘を備えた筐体と、その筐体内に装着した光源装置及び水中カメラ装置と、その筐体内に清水を送水する清水送水装置と、光源装置及び水中カメラ装置を作動させ画像を地上に送達する制御装置とを備えた、ことを特徴としている。
しかしながら、特許文献1に記載された水中観察装置は、掘削孔内の水中地盤や海底等の水中地盤の状態を観察するもので、その公報の図5において、中空ケースの側壁面を対象物に接触又は2cm以内に近接させて水空カメラで対象物を撮影することが記載されている。ところが、このときの水中観察装置の状態については何ら記載されておらず、その水中観察装置が水中に浮遊した状態にあるのか、水中観察装置がワイヤ等で吊下げられているのか等が不明である。そのため、水中カメラの構造及び使用方法については明らかであるが、水中観察装置としての構造及び使用方法については不明な点が多々存在している。
また、特許文献2に記載された視認装置は、立坑を掘削しながらケーソンを水中に沈下する工程等において使用するものであり、水深が浅いところで使用されるため、水圧の影響をほとんど考慮する必要がなかった。そのため、筐体の強度計算において水圧を考慮しない構造設計が可能であるが、水深の深い場所での作業は困難であった。
本発明は、上述したような従来の方式の問題点を解決するためになされたもので、ダムの壁面に沿ってカメラを沈下させることによって、その沈下を開始するダム湖上の船等の位置座標情報と、高精度水深計で水中観察部の沈下距離を計測することによる下方方向の位置座標情報から、ダム壁面の観察地点を正確に計測できる特性を有する水中観察装置を提供することを目的としている。また、水中推進器によって水中観察部を通常はダム壁面に押し付けて安定して観察できるようにすると共に、ダム壁面に障害物等がある場合は、水中推進器の噴出制御でダム壁面から一時的に離れることで壁面表面の障害物を回避でき、更に、カメラの前の透明水を充填させた筐体の構造による効果で、濁水中でも広い範囲で壁面の表面をきれいな画像で観察できる水中観察装置を提供することを目的としている。
本発明の水中観察装置は、透明な液体で充填される中空部を有し且つ中空部に臨む面に外部を透かして見ることができる透明板が配置された筐体と、中空部を挟んで透明板にレンズ部が対向するように配置されて筐体に取り付けられたカメラ装置と、筐体をワイヤを介して吊り下げてその筐体を水中で昇降させる吊下げ装置と、筐体に設けられ且つ水中内でその筐体を移動可能な水中推進器を設けたことを特徴としている。
筐体に、水中推進器を動作させるためその筐体の状態を検出するセンサを設けることが好ましい。更に、筐体の上面に上方に突出する吊下げ棒を設け、その吊下げ棒の先部にワイヤの下端を連結させるとよい。
筐体を、カメラ装置が取り付けられる側の面積が透明板側の面積よりも小さくなるようそのカメラ装置の視野角に対応させて錐形に形成することが好ましい。また、筐体に、透明板を観察対象から離間させる一対の脚部材をその観察対象に対して左右対称に配置して設け、脚部材を観察対象に対して近接・離反可能に構成することが好ましい。更に、一対の脚部材に、水中推進器を1個づつ所定角度傾斜させて取り付けるとよい。
筐体の中空部内であってカメラ装置の視野角内に、筐体の下面又は透明板を介して外部を観察可能にするようにバックミラーを配置して設けることが好ましい。更に、筐体に、観察対象の壁面を払拭させるワイパー装置を設けることが好ましい。また、筐体に、中空部に透明な液体を注入するための給液口と、中空部内に充填された透明な液体を外部に排出するための排液口を設けることが好ましい。
本発明の水中観察装置によれば、ダム等の観察壁面の観察地点を正確に計測できると共に、水中推進器によって水中観察部を観察壁面に押し付けて安定して観察することができる。また、本発明によれば、観察壁面に障害物等がある場合は、水中推進器の噴出制御で観察壁面から一時的に離れることで壁面表面の障害物を回避できると共に、カメラの前の透明水を充填させた筐体の構造による効果で、濁水中でも広い範囲で観察壁面の表面をきれいな画像で観察できる水中観察装置を提供することができる。
以下に、図1乃至図17を参照して、本発明の水中観察装置の実施の例を説明する。
図1は、本発明の水中観察装置1を船に設置し、水に浮かべた船の上から水中に水中観察部を浸入させて壁面を観察する実施例を示すものである。また、図2は、本発明の水中観察装置1を自動車に設置し、ダムの上から水中に水中観察部を浸入させて壁面を観察する実施例を示すものである。
図1は、本発明の水中観察装置1を船に設置し、水に浮かべた船の上から水中に水中観察部を浸入させて壁面を観察する実施例を示すものである。また、図2は、本発明の水中観察装置1を自動車に設置し、ダムの上から水中に水中観察部を浸入させて壁面を観察する実施例を示すものである。
本発明の水中観察装置1は、水中に投入される水中観察部10と、この水中観察部10を吊下げて昇降させる吊下げ装置7等を備えて構成されている。
まず、本発明の水中観察装置1に係る水中観察部10の第1の実施例について、図3乃至図15を参照して説明する。
まず、本発明の水中観察装置1に係る水中観察部10の第1の実施例について、図3乃至図15を参照して説明する。
図3に示すように、水中観察部10は、水等の透明な液体で満たされる中空部3及び当該中空部3の一面に配設された透明板4を有する筐体2と、中空部3を挟んで透明板4にレンズ部6が対向するように配置されて筐体2に取り付けられたカメラ装置5と、筐体2に設けられ且つ水中内で筐体2を移動させる水中推進器9等を備えて構成されている。この水中観察部10の筐体2に吊下げワイヤ8の下端が連結され、その吊下げワイヤ8を含む吊下げ装置7の動作により水中観察部10が水中に投入され、また、水中から引き上げられる。
図4に示すように、筐体2は、方形をなすように枠組みされた枠体11と、この枠体11の一側に連続するように一体的に形成された胴体12と、枠体11に固定された吊下げ棒13等を有している。枠体11は、上下方向に所定間隔あけて平行に配置された上枠部11a及び下枠部11bと、左右方向に所定間隔あけて平行に配置された左枠部11c及び右枠部11dとを有しており、上枠部11aの両端に左右枠部11c,11dの上端を連結すると共に、下枠部11bの両端に左右枠部11c,11dの下端を連結することにより、四角形の枠体11が形成されている。この枠体11の幅方向の一側に胴体12が連結されて一体的に構成されている。
胴体12は、上下に対向された上面部12a及び下面部12bと、左右に対向された左側面部12c及び右側面部12dからなり、上面部12aの両側端縁に左右側面部12c,12dの上端縁が連結され、下枠部12bの両側端縁に左右側面部12c,12dの下端縁が連結されている。この胴体12は、その軸方向と直交する方向の断面形状が方形をなすと共に、その断面の大きさが軸方向の一側から他側に向かって逐次的に小さくなる四角錐形をなしている。また、下面部12bには、筐体2の外を見るために透明な板材によって形成された透視窓15が設けられている。なお、筐体2の4面のすべてに透明な板材によって形成された透視窓を設ける構成としてもよい。
この胴体12の大きな開口側に枠体11が一体的に連結され、その枠体11の胴体12と反対側に、その開口部の全面を覆う透明板4が取り付けられている。透明板4としては、例えば、ポリカーボネート(PC)によって形成される板材を適用することができ、好適なものは無色透明のPC板であるが、有色であっても外部を視認できるものであればよく、PC板以外のエンジニアリングプラスチックからなる板材を用いることもできる。この透明板4と枠体11と胴体12とで囲まれた空間部によって筐体2の中空部3が構成されている。なお、筐体2の形状としては、この実施例で示した四角錐台形に限定されるものではなく、円錐台形、楕円錐台形等の形状としてもよい。
また、胴体12の小さな開口側にはカメラ装置5が取り付けられている。カメラ装置5は、胴体12の中空部3に充填される透明な液体及び透明板4を介して外部を視認することができる機能を有するものである。カメラ装置5としては、例えば、水中テレビシステム(アイボール:日立造船製)のセンサ部を適用することができる。しかしながら、カメラ装置5としては、これに限定されることがないことは勿論である。
カメラ装置5のレンズ部6の周囲には、複数のLEDを有する照明器16が設けられている。複数のLEDは、レンズ部6の周囲を囲うように配置されており、この照明器16から放射される光によって透明板4の前面を照明することができるようにしている。
このカメラ装置5のレンズ部6の視野角の角度と略同程度のこう配となるように筐体2における胴体12の4面の傾斜角度が設定されている。このように、筐体2の形状を四角錐台形とすることにより、筐体2を角柱形とした場合に比べて、レンズ部6の視野角を同一とした場合に、中空部3の容積を小さくすることができる。このように筐体2の中空部3の容積を小さくすることにより、中空部3内に充填される液体の量を少なくできるため、その充填や排水の時間を短縮でき、また、その液体の減少分だけ液体入り筐体2の重量を軽くすることができ、水中での筐体2の操作性を向上させることができる。
また、図6等に示すように、筐体2の中空部3の内部には、カメラ装置5のレンズ部6で見た目線ELにより透明板4の下部乃至透明窓15の先部から外部を覗き見ることができるようにするためのバックミラー17が配設されている。即ち、バックミラー17は、枠体11の上枠部11aの内面に固定されたミラーブラケット18によって鏡面が内向でレンズ部6と対向するように取り付けられており、そのレンズ部6によって透明板4の下部及び透明窓15の先部から筐体2の外を覗き見ることができるようになっている。
更に、筐体2の枠体11の上枠部11aには、中空部3内に透明な液体を注入するための給液口21が設けられている。この給液口21には、給液栓が着脱可能に装着されている。また、筐体2の枠体11の右枠部11dには、中空部3内に充填された液体を排出するための排液口22が設けられている。この排液口22には、排液栓が着脱可能に装着されている。給液は、筐体2を水に浮かべた状態で透明な液体を給液口21から供給するのが望ましい。こうすることで、給液されるに従い筐体2が自然に水中に沈下して行くため、地上で液体を充填した重たい筐体2を運んで水に入れる動作を避けることが可能である。なお、水を供給する場合は、濁度の高い水をフィルターで綺麗にして供給するのでもよい。
また、排液を水面でやり易くするために、排液口22の排液栓にワイヤを取り付けておき、そのワイヤを上枠部11aあたりに固定しておくことで排液栓を引き抜き、その後、筐体2をウインチでゆっくり引き上げることで行う。こうすると、中の透明液体は排液口22から流れ出す。
また、排液を水面でやり易くするために、排液口22の排液栓にワイヤを取り付けておき、そのワイヤを上枠部11aあたりに固定しておくことで排液栓を引き抜き、その後、筐体2をウインチでゆっくり引き上げることで行う。こうすると、中の透明液体は排液口22から流れ出す。
また、筐体2の左右方向の両側部には、透明板4を観察対象であるダムの壁面や桟橋の壁面等から離反させる脚部材の一具体例を示す4個で一対をなす車輪25A,25B,26A,26Bが配設されている。ここで、本発明における「一対の」とは、4個の車輪に限定されるものではなく、偶数個であれば2個又は6個以上の車輪であってもよい。更に、脚部材としては、この実施例で示した車輪に限定されるものではなく、ソリのような脚体であってもよい。
一対の脚部材は、筐体2の左側面において上下方向に所定間隔あけて配置された左上車輪25A及び左下車輪25Bと、筐体2の右側面において上下方向に所定間隔あけて配置された右上車輪26A及び右下車輪26Bを有している。4個の車輪25A〜26Bは、それぞれが車輪軸27の一側部に回転自在に支持されている。左車輪用の2個の車輪軸27及び右車輪用の2個の車輪軸27のそれぞれ他側部には、当該車輪軸27の軸方向と直交する方向に回動軸28がそれぞれ貫通されていて、各回動軸28と一体に車輪軸27が旋回動作するように構成されている。
2本の回動軸28は、筐体2の両側面に沿って上下方向に延在されていると共に、枠体11の左右枠部11c,11dの上下に固定された軸受部29によって回転自在に支持されている。2本の回動軸28は、2個の駆動モータ30のそれぞれ回転軸である。2個の駆動モータ30は、モータベースを兼ねる上軸受部29にそれぞれ固定されている。駆動モータ30を駆動してその回転軸である回動軸28を回転させると、その回転方向及び回転量に応じて車輪軸27を介して各車輪25A,25B,26A,26Bが旋回動作される。
2個の左車輪25A,25B及び車輪軸27に関連して設けた回動軸28、軸受部29及び駆動モータ30によって左車輪旋回機構31Aを構成している。同様に、2個の右車輪26A,26B及び車輪軸27に関連して設けた回動軸28、軸受部29及び駆動モータ30によって右車輪旋回機構31Bを構成している。なお、駆動モータとしては、例えば、パルスモータを適用することができ、また、直流モータや交流モータと減速機構を組み合わせたもの等を適用することができる。
また、左上車輪軸27には、水中内で筐体2を移動させるための左水中推進器9Aが取り付けられ、右上車輪軸27には、右水中推進器9Bが取り付けられている。水中推進器9A,9Bは、図示しないが、スクリューと、そのスクリューを回転駆動するモータと、これらが内蔵されるシリンダ等を備えて構成されている。モータはシリンダに支持されており、そのモータの駆動により回転軸を回転させ、その回転軸に取り付けられたスクリューの回転で押し出される水流の圧力によって推進力を得るように構成されている。更に、水中推進器9A,9Bのスクリューは、その回転方向が切り換え可能とされており、その回転方向に応じて、水流を後方又は前方に噴出させて前進及び後進の切り替えが可能とされている。
2個の水中推進器9A,9Bは、ブラケット34を介して左右の上車輪軸27に固定されている。図5等に示すように、各水中推進器9A,9Bは、その水流の方向が、カメラ装置5の視野の中心線CLに対して所定角度θだけ傾斜するよう左右の上車輪軸27に個別に取り付けられている。所定角度θは、この実施例では30度に設定しているが、これに限定されるものではなく、後述する(5)式で示される範囲内の値に設定することが好ましい。この水中推進器9A,9Bの取り付けに関して所定角度θを設定する理由は、後述する水中観察装置1の動作の説明において詳述する。
また、筐体2における枠体11の上枠部11aには吊下げ棒13と制御器35が取り付けられている。吊下げ棒13は、その下端部が上枠部11aの長手方向の中央部に固定されていて、上端側が真っ直ぐ上方に延在されている。吊下げ棒13の上端部には穴が設けられており、この穴を利用して吊下げワイヤ8の一端が連結されている。この吊下げ棒13の固定側の端部に制御器35が取り付けられている。
制御器35には、図13に示す動作及びその他の制御動作を実行するための演算部アンプと、その動作制御に必要な情報を取得するための水深センサや方位角センサ等が収容されている。制御器35は、水深センサや方位角センサ等で得られた情報に基づいて、左右の車輪旋回機構31A,31Bや左右の水中推進器9A,9Bその他のアクチュエータの動作を制御するもので、マイクロコンピュータ、LSI、その他の電子部品が搭載された制御基板を備えている。水深センサは、水中に浸水している筐体2の水面からの深さを検出する計測器であり、例えば、高精度圧力センサモジュールMU101(横河電機株式会社製)を用いることができる。また、方位角センサは、水中に浸水している筐体2の方位角を検出する計測器であり、例えば、方位角センサを内蔵した株式会社ハイボット製のTitech M4Controllerを用いることができる。
図13に示すように、方位角センサCSによって検出された方位角情報が制御器35に供給されると、制御器35は、検出情報に基づく検出値と予め設定されている指令値との差を算出し、その算出値に基づき制御器35が左右の水中推進器9A,9Bを制御し、水中観察部10を制御する。このような制御が連続して繰り返されることにより、水中観察部10の姿勢や移動等の制御を実行することができる。
このような構成を有する水中観察部10は、吊下げワイヤ8を介して吊下げ装置7で吊り下げることによって使用される。吊下げ装置7は、図1に示すように、ダム湖や用水路等に浮かべた船BSの船上に設置して使用することができる。また、吊下げ装置7は、図2に示すように、ダムや堤防等の平面部に乗り入れた自動車BTに設置して使用することもできる。
吊下げ装置7は、例えば、吊下げワイヤ8と、この吊下げワイヤ8の中途部を摺動可能に支持する滑車を有する吊下げアーム41と、吊下げワイヤ8の筐体2と反対側を巻き上げたり、繰り出す巻上げドラム42等を備えて構成されている。更に、船BSや自動車BTには、図示しないが、前記制御回路や前記センサ及びカメラ装置5や駆動モータ30等に電力を供給する電源装置、並びに、制御器35その他の動作を制御するためのコントローラ等が配設されている。コントローラは、船上(或いは自動車)に設置したモニタを見ながら、作業者が手動操作によって使用する。
このような構成を備えた水中観察装置1は、例えば、次のようにして使用することができる。
まず、水中観察部10を水中へ入れる前に、透明な液体、例えば、真水若しくは湖水を濾過して生成した透明水等を筐体2の中空部3に注入する。この透明水の供給作業は、筐体2の給液口21に装着されている給液栓を取り外し、その給液口21から透明水を注入して中空部3を透明水で満たす。このように、筐体2を水中へ投入する直前に中空部3へ透明水を充填することにより、それ以前の搬送時等における筐体2の重量を軽いものとして、運搬作業を容易なものにすることができる。
まず、水中観察部10を水中へ入れる前に、透明な液体、例えば、真水若しくは湖水を濾過して生成した透明水等を筐体2の中空部3に注入する。この透明水の供給作業は、筐体2の給液口21に装着されている給液栓を取り外し、その給液口21から透明水を注入して中空部3を透明水で満たす。このように、筐体2を水中へ投入する直前に中空部3へ透明水を充填することにより、それ以前の搬送時等における筐体2の重量を軽いものとして、運搬作業を容易なものにすることができる。
次に、筐体2の中空部3に透明水が満たされた水中観察部10を吊下げ装置7で吊り上げ、その後、湖上に水中観察部10を移動させた後、吊下げワイヤ8を繰り出して水中観察部10を降下して水中に浸入させる。更に、吊下げワイヤ8の繰り出しを続けることにより、中空部3が透明水で満たされた水中観察部10が自重によって降下を続ける。そして観測しようとする所望の位置で吊下げ装置7の動作を停止し、所望の水深位置で水中観察部10を停止させる。このときの水中観察部10の水深は、筐体2に設置されている水深センサから供給される水深に関する測定情報に基づいて知ることができる。
次いで、同じく筐体2に設置されている方位角センサから供給される方位角に関する測定情報に基づいて左右の水中推進器9A,9Bを動作させて、筐体2に取り付けられている透明板4を観察しようとするダム等の観察位置の壁面WTに対向させる。そして、2機の水中推進器9A,9Bを動作させて、水中観察部10を観察壁面WTに近づける。このとき、2つの水中推進器9A,9Bを動作させると、吊下げワイヤ8で吊るされている水中観察部10は、吊下げワイヤ8を回転の中心として任意の方向(ヨー軸回り)に回転してしまうため、供給された方位角情報に基づいて左右の水中推進器9A,9Bの動作を制御し、筐体2の透明板4を壁面WTに向けるようにする。この際の、左右の水中推進器9A,9Bを制御する制御系を図13に示している。
図13に示すように、この制御系では、予め分かっている壁面WTの方位角を表す信号が指令値として制御器35に入力され、この制御器35に、方位角センサCSにより検出された方位角の計測値を表す情報が供給される。これにより制御器35では、方位角の計測値と指令値との差を取り、その値から左右の水中推進器9A,9Bの噴射方向を算出し、その噴射を実施する。これにより、筐体2をヨー軸回りに回転させることなく、筐体2を壁面WTに近づけることができる。
図5は、左右の水中推進器9A,9Bから噴射される水流の噴射方向を後方(透明板4からカメラ装置5に向かう方向)として、筐体2の2個の上車輪25A,26A(2個の下車輪25B,26Bも同様)を壁面WTに接触させた状態を示している。このとき、4個の車輪25A,25B,26A,26Bの各車輪軸27は、壁面WTと略平行に延在されており、筐体2の前面に配設された透明板4と壁面WTとの間にはある程度の隙間があり、カメラ装置5に写る画像は不鮮明なものとなっている。この状態において、吊下げワイヤ8を繰り出すことによって水中観察部10は、透明水を含んだ筐体2の重量により壁面WTに沿って降下する。また、吊下げワイヤ8を巻き上げることにより、水中観察部10が壁面WTに沿って上昇する。
図7は、図5に示す状態から、筐体2の前面に設置されている透明板4を観察壁面WTに接近させる動作を説明する図である。この動作は、4個の車輪25A,25B,26A,26Bを壁面WTから離反させるように左右の車輪旋回機構31A,31Bを動作させると共に、後方へ水流を噴射するように左右の水中推進器9A,9Bを動作させることによって実行することができる。即ち、図7において、左上車輪25A(左下車輪25Bも同様)を反時計方向へ旋回させるように左車輪旋回機構31Aを駆動すると共に、右上車輪26A(右下車輪26Bも同様)を時計方向へ旋回させるように右車輪旋回機構31Bを駆動する。これと同時に、左右の水中推進器9A,9Bを、その水流が後方へ噴射されるように動作させる。
これにより、水中観察部10の姿勢が、図5に示す状態から図8に示す状態に変化し、筐体2の前面に設置されている透明板4が壁面WTに接近した状態となる。このとき、透明板4と壁面WTの間の濁水がほとんど無くなり、カメラ装置5のレンズ部6の焦点位置が壁面WTと略一致した状態となるため、その壁面WTのきれいな画像を取得することができ、その画像情報が作業者によって操作される図示しないコントローラに供給される。通常の検査時は、左右の水中推進器9A,9Bによる水流を後方(壁面WTと反対側)に噴射して水中観察部10を壁面に押し付け、透明板4を観察すべき壁面近くに常に対向させた状態を保ちながら、水中観察部10を降下させて対象壁面の水中観察を行う。これにより、観察画面をきれいな画像で見ることができ、その画像に基づいて観察壁面の状態を正確に把握することができる。
図9は、水中観察部10を壁面WTから離反させるように制御する状態を説明するものである。この場合には、図5に示す状態において、同時に左右の水中推進器9A,9Bによる水流を前方(壁面WT側)に噴射する。これにより、水中観察部10を壁面WTから離反させることができる。
また、図14に示すように、図5に示す姿勢を保持して水中観察部10が降下しているときに、筐体2の中空部3内に設置されているバックミラー17越しに、降下する下方の壁面(WT)に障害物の一具体例を示す段部SGが見つかり、それを避けるときには、2つの水中推進器9A,9Bの水流を前方に噴射して水中観察器10を壁面WTから離すようにしながら降下させると、図5の破線で示すように、障害物SGを回避することができる。その後に、また水中推進器9A,9Bを後方に噴射して壁面WTに接した状態に戻れば観察が続けられる。ただし、水中観察部10が一旦壁面WTから離れると、吊下げワイヤ8で吊るされている水中観察部10は、吊下げワイヤ8を回転中心として任意の方向(ヨー軸回り)に回転してしまう場合もある。
しかしながら、その水中観察部10のヨー軸回転は、筐体2に搭載している方位角センサで検出できるため、水中観察部10が壁面WTから離れた状態で、透明板4の方位を壁面に向けるように左右の水中推進器9A,9Bを互いに逆方向(例えば、左水中推進器9Aを前方、右水中推進器9Bを後方)に噴射してヨー軸回りに回転させる制御を行う。この方位を制御する制御系は、図13に示す通りであり、予め分かっている壁面WTの方位角を指令値とし、水中観察部10に搭載されている方位角センサCSで計測された計測値と指令値の差を取り、その値から2つの水中推進器9A,9Bの噴射方向を算出し、上記噴射を実施する。
なお、壁面WTから離れてヨー軸回りの回転を生成するために左右の水中推進器9A,9Bの噴射方向を逆方向にする場合、その水中推進器9A,9Bが取り付けられている車輪軸27の取付角度を調整して、互いの水中推進器9A,9Bの噴射方向が平行になるようにしておくのが好ましい。その理由は、平行でない状態で2つの水中推進器9A,9Bを互いに逆向きに噴射すれば、水中観察部10は回転するが、その回転運動だけでなく、2つの水中推進器9A,9Bの推進力で左右方向への推進力分力が生成されるため、回転と同時に横方向への運動も生成されてしまうためである。
水中観察部10の姿勢が壁面WTと一致したところで、水中観察部10が壁面WTに押し付けられる方向へ2つの水中推進器9A,9Bによる噴射を続ける。これにより、水中観察部10は、2つの水中推進器9A,9Bの推進力でその透明板4側が壁面WTに押し付けられた状態で降下を行う図5に示す本来の姿勢に復帰する。この際には、2つの水中推進器9A,9Bを互いの姿勢が平行になるようにするため傾けていた車輪軸27の角度を調整して、壁面WTを接触移動する際の基準の角度に戻す制御も行うようにする。なお、壁面WTの表面状態が平滑で壁面状態を詳しく観察しながら上下運動したい場合は、図8のように透明板4を壁面WTに近接させてもよい。また、壁面WTの表面に突起等がある場合は、図10に示すような姿勢で、透明板4を壁面WTから離して移動させてもよい。
4つの車輪25A,25B.26A.26Bが壁面WTに接触して水中観察部10が壁面WTに対して所定の隙間をあけて対向しているとき(図5に示す状態)は、通常2つの水中推進器9A,9Bを両方とも噴射させて水中観察部10を壁面WT側に付勢している(図5に示す状態)が、図11に示すように、この状態において一方の水中推進器(本実施例では、右水中推進器9Bの場合について説明するが、左水中推進器9Aによる場合も同様である。)9Bだけを動作させて水流を後方に噴射させると、その噴出力の作用により、図11において紙面の下方となる左側へ水中観測部10をスライドさせる動きが生成される。
この場合、水中観察部10は4つの車輪25A,25B,26A,26Bで支持され、それらの車輪25A〜26Bが壁面WTに接触しているため、通常は車輪25A〜26Bが壁面WTの間に相当の摩擦抵抗を生ずるが、ここでは壁面WTは滑りやすく、各車輪25A〜26Bの表面は横方向にもスライドできるような表面状態にあるものと仮定する。
この場合の推進力Fを斜めに加えても水中観察部10が右車輪26A,26Bの接触点TCを中心として、図12において反時計回りに回転しない条件は、次の通りである。
ここで、車輪25A〜26Bの回転中心から壁面WTまでの距離をHとし、右車輪26A,26Bの接触点TCを通って前後方向へ延びる線から、この線と平行をなし且つ右水中推進器9Bの中心を通る平行線PCまでの距離をMとする。そして、平行線PCに対する右水中推進器9Bの傾斜角をθとする。
ここで、車輪25A〜26Bの回転中心から壁面WTまでの距離をHとし、右車輪26A,26Bの接触点TCを通って前後方向へ延びる線から、この線と平行をなし且つ右水中推進器9Bの中心を通る平行線PCまでの距離をMとする。そして、平行線PCに対する右水中推進器9Bの傾斜角をθとする。
右水中推進器9Bの推進力をFとすると、壁面WTと垂直をなす方向には垂直分力Fcosθが作用し、これと直交する壁面WTと平行する方向には平行分力Fsinθが作用する。従って、水中観察部10が右車輪26A,26Bの接触点TCを中心として図12において反時計回りに回転しない条件は、垂直分力Fcosθによって接触点TC回りに生成される時計回りのモーメントが、推進力Fによって壁面WTに沿って生成される平行分力Fsinθの接触点TC回りの反時計回りのモーメントより大きいことが必要である。
即ち、
Fcosθ×M≧Fsinθ×H ……(1)式
θ≦tan−1M/H=θmax ……(2)式
となる。
なお、この考察は、接触点TCの摩擦が大きくて、この部分が壁面WTに沿って滑らない条件でのものである。ただし、滑る条件でも、転倒の反時計周りの回転運動が生ずる条件は、結果的に同じである。このことから、水中推進器の噴射方向のなす傾斜角θが最大値θmaxを越えない限り、接触点TC回りに反時計回りの回転は起こらない。
Fcosθ×M≧Fsinθ×H ……(1)式
θ≦tan−1M/H=θmax ……(2)式
となる。
なお、この考察は、接触点TCの摩擦が大きくて、この部分が壁面WTに沿って滑らない条件でのものである。ただし、滑る条件でも、転倒の反時計周りの回転運動が生ずる条件は、結果的に同じである。このことから、水中推進器の噴射方向のなす傾斜角θが最大値θmaxを越えない限り、接触点TC回りに反時計回りの回転は起こらない。
また、推進力Fの横方向成分(水平分力)で横方向の動きが生成される条件は、この水平分力が壁面WTの摩擦力より大きくなる条件であるため、車輪と25A〜26Bと壁面WTの間の横方向の摩擦係数をμとすると、
μ×Fcosθ≦Fsinθ ……(3)式
θ≧tan−1μ ……(4)式
と言える。
そのため、水中推進器9A,9Bを取り付けるときの傾斜角θは、
tan−1μ≦θ≦θmax ……(5)式
の範囲で選択すればよい。
μ×Fcosθ≦Fsinθ ……(3)式
θ≧tan−1μ ……(4)式
と言える。
そのため、水中推進器9A,9Bを取り付けるときの傾斜角θは、
tan−1μ≦θ≦θmax ……(5)式
の範囲で選択すればよい。
このとき、右水中推進器9Bの噴射により水中観察部10の左車輪25A,25B側が壁面WTから離れるように回転してしまうことは、噴射方向が十分に大きい場合、即ち、右水中推進器9Bの噴射方向が接触点TCを通過する最大傾斜角θmaxよりも大きくなったときである。従って、最大傾斜角θmaxよりも小さい場合には、水中観察部10に上記回転を生ずることはなく、壁面WTの摩擦係数μが低ければ、水中観察部10は横方向へ滑って移動する。例えば、傾斜角θが30度に設定されている場合には、壁面WTの摩擦係数μが0.58以下であれば、水中観察部10は横方向に移動することができる。
このように、水中推進器9A,9Bの傾斜角θを(5)式の範囲に設定すれば、水中観察部10は壁面WTに押え付けられた状態で横方向へ移動が可能である。
このように、水中推進器9A,9Bの傾斜角θを(5)式の範囲に設定すれば、水中観察部10は壁面WTに押え付けられた状態で横方向へ移動が可能である。
このように、本発明に係る水中観察部10によれば、水中推進器が2つしかないのに、壁面WTと垂直をなす方向の直進運動と、吊下げワイヤ8を回転中心とした回転運動の2種類の運動だけでなく、壁面WTに沿って左右方向に移動する並進運動も行うことができる。即ち、一般に、2つの駆動装置では2自由度の運動しか生成できないはずであるが、この水中観察部10によれば、壁による拘束を利用することにより、3自由度的な運動を行うことができる。
図15A,15Bは、筐体2に設けた吊下げ棒13の作用を説明するもので、図15Aは吊下げ棒13を筐体2に取り付けた場合、図15Bは吊下げ棒13を筐体2に取り付けない場合を示している。
図15Bに示すように、筐体2に吊下げ棒13を取り付けない場合、重量Gの水中観察部10が下降しているときに段部SGにぶつかったりして姿勢を傾けたときの姿勢を復帰するために必要なモーメントをG×Dに相当するモーメントMである場合、吊下げワイヤ8と水中観察部10の水平距離は距離Dまでずれることになり、水中観察部10は角度φ0だけ傾く。
これに対して、筐体2に吊下げ棒13を取り付けた場合、同じだけの復元モーメントM=G・Dを生成するための水中観察部10が傾く角度φ1は、吊下げ棒13の長さが追加される分だけ吊下げワイヤ8と吊下げ棒13との結合部から接触点TCまでの長さが長くなる、そのため、吊下げ棒13を取り付けた場合に、水中観察部10の傾く角度φ1は、吊下げ棒13を取り付けない場合の傾く角度φ0より小さくなる。従って、水中観察部10の傾き角が小さくなる分だけ、水中観察部10があまり傾かずに段部(障害物)SGを乗り越えることができ、水中観察部10としての性能が向上できる。
吊下げ棒13の長さLの条件は、次の通りである。
吊下げ棒13の長さLの条件は、原理的にはゼロ以上の長さであれば、取り付けたことの効果を発揮することができる。吊下げ棒13の長さLは、水中観察部10の高さ(上下方向の長さ)の0.2倍以上あることが好ましい。
一方、吊下げ棒13の長さLが長すぎると、その取り扱いが不便なものになる。そのため、吊下げ棒13の長さLの上限は、水中観察部10の高さ(上下方向の長さ)の4倍以下であることが好ましい。しかしながら、不使用時において吊下げ棒を折り曲げたり、分解したりすることが可能な構造とした場合には、吊下げ棒の長さLは、水中観察部10の高さの10倍程度まで長くしてもよい。
吊下げ棒13の長さLの条件は、原理的にはゼロ以上の長さであれば、取り付けたことの効果を発揮することができる。吊下げ棒13の長さLは、水中観察部10の高さ(上下方向の長さ)の0.2倍以上あることが好ましい。
一方、吊下げ棒13の長さLが長すぎると、その取り扱いが不便なものになる。そのため、吊下げ棒13の長さLの上限は、水中観察部10の高さ(上下方向の長さ)の4倍以下であることが好ましい。しかしながら、不使用時において吊下げ棒を折り曲げたり、分解したりすることが可能な構造とした場合には、吊下げ棒の長さLは、水中観察部10の高さの10倍程度まで長くしてもよい。
水中観察部10による所定の壁面WTの観察が終了した場合には、吊下げ装置7を駆動して水中観察部10を、船上或いはダム上等に引き上げる。船上等に引き上げられた水中観察部10の筐体2の中空部3内には透明水が充填されているため、この透明水を筐体2から排水する。これは、筐体2の側面下部に設置されている排液口22を閉じている排液栓を取り外すと共に、筐体2の上面に設置されている給液口21を閉じている給液栓も取り外す。排水ポンプを筐体上面の給液口21から入れて排水を補助してもよい。このとき、排液口22は、筐体2の低い位置に設定されているため、中空部3内にある透明水の略すべてを筐体2外に排水することができる。
一般に、ダムの湖面側には大量の水が貯水されており、例えば、水深が100mの深さでは水圧は10気圧にもなる。そのため、例えば、水深100mにおけるダム壁面を観察するための装置の内部には10気圧もの圧力が付与される。この圧力に対しても破壊されない強さを有する装置を作成するためには、箱体の強度を極めて大きなものにする必要があるが、単純にその強度を満足する筐体を金属材料で作成しようとすると、重量が大きなものとなり、不経済であるばかりでなく、観測時における筐体の操作性が困難になるという問題がある。
一方、中空部に水を充填して筐体を使用すると、液体の圧縮はほとんど無視できるので、ほんの少しの筐体の変形で筐体の内外が同一気圧となることから水深100mの深い場所であっても、10気圧という圧力の対策を考えないで済むことになる。そのため、内部に水を充填して使用する筐体の場合には、その筐体に過度に大きな強度を求める必要がないことから、筐体の重量が必要以上に大きくなることが無く、材料の無駄をなくすことができる。
ところが、筐体2を立方体又は円筒体で形成してその一面に透明板4を配置し、カメラ装置5の撮影面積を大きくするためにその透明板4の面積を大きくすると、中空部3全体の容積が大きくなる。そのため、筐体2の中空部3内に充填される透明水の容積が多量になり、充填された透明水を含む筐体2の重量が極めて重いものになり、筐体2の操作性が困難になるという問題があった。
これに対して、本願発明の水中観察部10を上述したような構成とすることにより、水深の深い所で使用する装置であることを考慮して、装置全体の重量が比較的軽いものでありながら、水深の深い所で使用できると共に、観察作業の際の装置の操作性に優れた水中観察装置を得ることができる。
図16及び図17は、本発明の水中観察装置に係る水中観察部の第2の実施例を示すものである。この実施例で示す水中観察部50は、筐体2にワイパー装置を取り付け、そのワイパー装置で観察対象となる壁面WTを払拭するように構成したものである。この水中観察部50が前述した水中観察部10と異なる点は、筐体2にワイパー装置51を追加して設けた点だけであるため、同一部分には同一の符号を付して、その他の重複した部分の説明は省略する。
ワイパー装置51は、軸方向の一側にブラシ部52を有する揺動アーム53と、この揺動アーム53を所定角度揺動させる揺動モータ54と、揺動アーム53を観察する壁面WT側に付勢するスプリング55等を備えて構成されている。揺動アーム53は細長い棒状の部材からなり、その軸方向の一側の一方の側面に、プラスチックの線材を植毛する等によって軸方向に所定長さをもって形成されたブラシ部52が設けられている。揺動アーム53のブラシ部52と軸方向の反対側には、揺動モータ54の回転軸56に取り付けるための軸受部が設けられている。
揺動モータ54は、筐体2における枠体11の上枠部11aの長手方向の略中央部に、回転軸56を前方へ突き出すように配置されて固定されている。この揺動モータ54の回転軸56が、揺動アーム53の軸受部に設けた軸受穴に摺動可能に挿入されている。更に、回転軸56にはスプリング55が緩く装着されており、このスプリング55のバネ力によって揺動アーム53が常時前方へ付勢されている。そして、スプリング55のバネ力に抗して揺動アーム53を後方へ押圧することにより、そのスプリング55のバネ力によってブラシ部52を壁面WTに押し付けることができる。
図16は、水中観察部50を観察対象とする壁面WTに接触させた状態を示しており、この状態では、スプリング55は伸びた状態にあり、ブラシ部52は壁面WTには接触していない。図17は、ワイパー装置51による壁面WTの払拭作業が終了し、壁面WTを観察するときの水中観察部50の姿勢を示している。このとき、ブラシ部52による壁面WTの払拭作業が終了した揺動アーム53は、枠体11の外側に旋回移動して上枠部11aの上方へ退避した状態となっている。この第2の実施例に係る水中観察部50によれば、ブラシ部52で払拭されたきれいな壁面WTを観察することができ、壁面WTのひび割れや傷等の有無をより美しい画面で正確に視認することが可能となる。
以上説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、均等の範囲内で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは、当業者によって容易に理解されよう。
1…水中観察装置、 2…筐体、 3…中空部、 4…透明板、 5…カメラ装置、 6…レンズ部、 7…吊下げ装置、 8…吊下げワイヤ、 9,9A,9B…水中推進器、 10,50…水中観察部、 11…枠体、 11a…上枠部、 12…胴体、 13…吊下げ棒、 15…透明窓、 16…照明器、 17…バックミラー、 21…給液口、 22…排液口、 25A…左上車輪、 25B…左下車輪、 26A…右上車輪、 26B…右下車輪、 27…車輪軸、 31A…左車輪旋回機構、 31B…右車輪旋回機構、 35…制御器、 41…吊下げアーム、 42…巻上げドラム、 51…ワイパー装置、 52…ブラシ部、 53…揺動アーム、 BS…船、 BT…自動車、 CS…方位角センサ、 SG…段部(障害物)、 TC…接触点、 WT…壁面
Claims (9)
- 透明な液体で充填される中空部を有し且つ前記中空部に臨む面に外部を透かして見ることができる透明板が配置された筐体と、
前記中空部を挟んで前記透明板にレンズ部が対向するように配置されて前記筐体に取り付けられたカメラ装置と、
前記筐体をワイヤを介して吊り下げて当該筐体を水中で昇降させる吊下げ装置と、
前記筐体に設けられ且つ水中内で当該筐体を移動可能な水中推進器を設けた
ことを特徴とする水中観察装置。 - 前記筐体に、前記水中推進器を動作させるため当該筐体の状態を検出するセンサを設けた
ことを特徴とする請求項1記載の水中観察装置。 - 前記筐体の上面に上方に突出する吊下げ棒を設け、当該吊下げ棒の先部に前記ワイヤの下端を連結させた
ことを特徴とする請求項1又は2記載の水中観察装置。 - 前記筐体を、前記カメラ装置が取り付けられる側の面積が前記透明板側の面積よりも小さくなるよう当該カメラ装置の視野角に対応させて錐形に形成した
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1記載の水中観察装置。 - 前記筐体に、前記透明板を観察対象から離間させる一対の脚部材を当該観察対象に対して左右対称に配置して設け、
前記脚部材を前記観察対象に対して近接・離反可能に構成した
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1記載の水中観察装置。 - 前記一対の脚部材に、前記水中推進器を1個づつ所定角度傾斜させて取り付けた
ことを特徴とする請求項5記載の水中観察装置。 - 前記筐体の前記中空部内であって前記カメラ装置の視野角内に、前記筐体の下面又は前記透明板を介して外部を観察可能にバックミラーを配置して設けた
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1記載の水中観察装置。 - 前記筐体に、観察対象の壁面を払拭させるワイパー装置を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1記載の水中観察装置。 - 前記筐体に、前記中空部に透明な液体を注入するための給液口と、前記中空部内に充填された透明な液体を外部に排出するための排液口を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1記載の水中観察装置。
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