JP2016081363A - 機器診断装置、機器診断方法及び機器診断プログラム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の機器診断装置は、機器の複数の劣化要素が定量化された複数の劣化度と、複数の状態量と、複数の劣化度の複数の状態量に対する感度である複数のパラメータとの関係を示す数理モデルを使用して、パラメータの値を決定するパラメータ決定部と、数理モデルに対して、診断対象機の複数の状態量を適用し、診断対象機の複数の劣化度を推定する診断部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図3
Description
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
図1に沿って、吸収式冷温熱機42の構造を説明する。吸収式冷温熱機42は、冷凍機の一種である。一般に、冷凍機は、圧力を制御することによって冷媒を液体から気体に状態変化させ、その際の気化熱に相当する熱を冷水から奪う。吸収式冷温熱機42は、冷媒として水を使用し、吸収剤に冷媒(水)を吸収させることによって低圧力を生み出すことに特徴がある。吸収剤としては、一般的に臭化リチウム水溶液が使用される。本実施形態の吸収式冷温熱機42もまた、このような型式の吸収式冷温熱機である。
吸収式冷温熱機42は、蒸発器51、吸収器52、凝縮器53、低温再生器54、高温再生器55、低温熱交換器56及び高温熱交換器57を有する。蒸発器51においては、伝熱面積を極端に大きくしたコイル状のチューブに対して、冷媒が滴下される。チューブ中には冷水が通っている。蒸発器51の内部は、例えば、1/100気圧前後の超低圧状態になっているため、滴下した冷媒(水)は、例えば、5℃前後の低温で容易に気化する。すると、冷媒が冷水から気化熱を奪い、その分、冷水の温度は低下する。
高温再生器55は、吸収器52から低温熱交換器56及び高温熱交換器57を経由して流れて来た吸収剤を受け取り、ボイラでガスや重油等を燃焼させることによって、受け取った吸収剤を加熱する。すると、吸収剤から冷媒(水蒸気)が分離され、次第に吸収剤の濃度は高くなる。高濃度の吸収剤は、高温熱交換器57を経由して、低温再生器54に流れ込む。分離された水蒸気は、低温再生器54内のコイル状のチューブに流れ込む。
凝縮器53と低温再生器54とは連通しており、両者の間を冷媒(水蒸気)が通過する。凝縮器53は、冷却水が通るチューブを有する。高温再生器55から低温再生器54を経由して流れ込んだ冷媒(水蒸気)が、チューブ上で結露し、凝縮器53の底部に貯まる。貯まった冷媒(水)は、蒸発器51に流れ込む。
・冷水は、空調負荷(空調機等)において熱を吸収する。
・冷却水は、冷水からの熱を、冷媒を介して吸収し、その熱を外部(冷却塔等)に逃がす。
・冷媒は、自身が状態変化することによって、冷水の熱を冷却水に逃がす仲介をする。
・吸収剤は、冷媒(水蒸気)を吸収することによって、低圧を作り出す。
なお、本実施形態においては、冷媒は水である。冷媒は、吸収剤を含まない純水の状態(凝縮器53内、蒸発器51内)→吸収剤(水溶液)に含まれる状態(吸収器52内)→吸収剤から分離された純水蒸気の状態(高温再生器55の上部の空間)→吸収剤を含まない純水の状態、というように繰り返し遷移する。
本実施形態のセンサが計測する状態量の例として、例えば、高温再生器温度THG、高温再生器濃度ξHG、吸収器濃度ξA、低温再生器ドレン温度TLGd、吸収器出口溶液温度TsAout、蒸発器冷媒温度TE、凝縮器冷媒温度TC、高温熱交換器対数平均温度差θHX、低温熱交換器対数平均温度差θLX及び高温再生器圧力PHGの10種類を挙げることができる。
図2に沿って、機器診断装置1の構成、及び、機器診断装置1と吸収式冷温熱機42の関係を説明する。機器診断装置1は、例えばビルケアを行うサービス会社によって運営される。機器診断装置1は、一般的なコンピュータであり、中央制御装置11、入力装置12、出力装置13、主記憶装置14、補助記憶装置15及び通信装置16を有する。これらは、バスによって相互に接続されている。補助記憶装置15は、サンプル機情報31及び診断対象機情報32(詳細後記)を記憶している。主記憶装置14における、データ準備部21、パラメータ決定部22及び診断部23はプログラムである。以降、“○○部は”と主体を記した場合は、中央制御装置11が、補助記憶装置15から各プログラムを読み出し、主記憶装置14にロードしたうえで、各プログラムの機能(詳細後記)を実現するものとする。
図3に沿って、劣化度、状態量の偏差、及び、感度行列の関係を説明する。一般に、劣化度及び状態量の偏差は、それぞれ、原因及び結果の関係にある。想定し数式モデル化する原因数が、真の原因数よりも少ない場合、想定していない劣化が発生すると、たとえ状態量の偏差が変化しても、その劣化を突き止めることができない。これを“観測スピルオーバ”という。これとは別に、原因数が、結果数よりも多い場合、少ないデータからより多くの原因を求めることになり、原理的に判定が不可能となる。機器診断装置1のユーザは、原因数と結果数を任意に設定することができる。しかしながら、前記の理由により、原因数と結果数を等しくすることが好ましい。そこで、図3においては、両者とも“5”としている。5種類の劣化度(ζA,ζC,ζLG,ζHX,οHX)に対して、5種類の状態量の偏差(ΔTHG,ΔξHG,ΔTLGd,ΔTsAout,ΔPHG)が、“5対5”の関係で対応している。偏差“Δ”の意味については直ちに後記する。
高温再生器温度の値を例として、偏差を詳しく説明する。いま、西暦B年においてあるサンプル機(又は診断対象機)の高温再生器温度の値がv個計測されたとする。すると、THG(B,n)は、西暦B年において計測されたv個の高温再生器温度の値のうち、n番目の値を示すことになる。THGo(RQ,TCHout,TCDout)を、高温再生器温度の基準値とする。基準値とは“劣化していない状態のあるべき温度”を意味する理論値である。ここで、RQは、冷房定格能力比であり、TCHoutは、冷水出口温度であり、TCDoutは、冷却水出口温度である。つまり、RQ、TCHout及びTCDoutの値が決まれば、THGoの値も一意に決まる。そして、高温再生器温度の偏差ΔTHG(B,n)を式(1)のように定義する。ΔTHG(B,n)は、高温再生器温度が、劣化していない場合の温度に比較してどの程度異なるかを示す。なお、冷水出口温度は、蒸発器51を出た直後の冷水の温度であり、冷却水出口温度は、凝縮器53を出た直後の冷却水の温度である。
・冷房定格能力比RQ、冷水出口温度TCHout及び冷却水出口温度TCDoutを入力し、高温再生器温度の基準値THGoを出力する関数を想定することができる。
・他の入力値が一定である条件のもとで、冷却水出口温度TCDoutが高くなるほど、基準値THGoは大きくなる。
・同様に、冷水出口温度TCHoutが高くなるほど、基準値THGoは小さくなる。
・同様に、冷房定格能力比RQが大きくなるほど、基準値THGoは大きくなる。
ちなみに、例えば、冷房定格能力比RQが0.80であるとする。そして、冷却水出口温度TCDoutが35.0℃であり、冷水出口温度TCHoutが8.0℃であるとする。このとき、基準値THGoは約120℃となる(図4の破線参照)。前記では、ΔTHG(B,n)の定義を説明した。同様にして、任意の状態量の偏差を定義することが可能である。
・2005年から2008年にかけて、劣化度が低下している。これは(図5からは直接わからないが)2005年のオフシーズンに部品交換等をしたことに起因する。
・2008年から2011年にかけて劣化度が上昇している。これは(図5からは直接わからないが)2008年のオフシーズンに部品交換等をしなかったことに起因する。
・2011年から2013年にかけても、劣化度が低下している。これは(図5からは直接わからないが)2011年のオフシーズンに部品交換等をしたことに起因する。
なお、どの部品が劣化したことによりΔTHGの傾きが大きくなったか、及び、どの部品を交換したことによりΔTHGの傾きが小さくなったかは不明である。
式(5)のような数式の集合を“数理モデル”と呼ぶ。式(8)は、数理モデルのうちの簡単な例である。線形モデル及び非線形モデルを含む一般的な数理モデルを式(9)で表す。
詳しくは後記するが、機器診断装置1は、以下のような手順で劣化度を推定する。
(1)機器診断装置1は、計測値として、サンプル機の劣化度及び状態量の偏差を取得する。あるいはシミュレーションにより、診断したい機種の劣化度に対する状態量の偏差を計算しておく。
(2)機器診断装置1は、パラメータを決定する。このとき、機器診断装置1は、数理モデルFに対して、(1)で取得した劣化度及び無作為に発生させたパラメータの候補を代入し、状態量の偏差を算出する。そして、このように算出した状態量の偏差と(1)で取得した状態量の偏差との差分の二乗和を算出する処理を所定の回数だけ繰り返す。そして、二乗和が最小となるようなパラメータを決定することによって、数理モデルを完成させる。式(8)の線形モデルの場合は、感度行列Sの5×5個の成分の値を決定することとなる。
(4)機器診断装置1は、完成させた数理モデルFに対して、無作為に発生させた劣化度の候補を代入し、状態量の偏差を算出する。そして、このように算出した状態量の偏差(推定値)と、(3)で取得した状態量の偏差(計測値)との差分の二乗和を算出する処理を所定の回数だけ繰り返す。そして、二乗和が最小となるような劣化度を決定する。なお、式(8)の線形モデルを使用する場合は、感度行列Sの逆行列S−1を、状態量ベクトルyに対して左から乗算することによって劣化度を決定する。感度行列及びその逆行列を使用する処理速度は、最小二乗法の処理速度よりも速い。
図6及び図7に沿って、感度の意味を説明する。図6(a)は、吸収器の伝熱面積の低下が、ΔTHG等の各状態量の偏差に及ぼす影響を示す棒グラフである。図6(a)の横軸は、10種類の状態量の偏差である。縦軸は、劣化度ζAが0から1に上昇するまでの期間に、すなわち、吸収器のチューブが新品である状態から寿命となる状態に至るまでの期間に、ΔTHG等の値がどれだけ変化するかを示している。そして、この変化量が、前記した感度に他ならない。縦軸の単位系は3種類ある。したがって、単位系が異なる物理量同士を直接比較することはできない。しかしながら、縦軸の変化は、劣化が進むにつれて、得られた計測データがどれだけ変化するかを示している。
・吸収器の劣化は、ΔPHGの増加として最も大きく現れる。
・吸収器の劣化は、ΔTHGの増加としてその次に大きく現れる。
・吸収器の劣化は、ΔTLGd及びΔTsAoutの増加としても無視できない程度に現れる。
・吸収器の劣化は、ΔTE及びΔTCの変化としてはほとんど現れない。
・ΔTCが増加している場合、凝縮器が劣化している可能性が高い(図6(c))。
・高温熱交換器の劣化の症状には2つのパターンがある。ΔθHXが増加していれば、伝熱面積が低下している可能性が高い(図7(b))。ΔTHGが増加していれば、穴開きが発生している可能性が高い(図7(c))。
ユーザが状態量の偏差の種類(結果数)を任意に設定できることは前記した。そこで、実際にどの状態量の偏差を選択するかが問題になる。図6(c)に注目すると、凝縮器の伝熱面積の低下ζCの、凝縮器冷媒温度の偏差ΔTCに対する感度は十分大きい。したがって、10種の状態量の偏差のうちから、ΔTCを選択することは一見して好ましいと考え得る。しかしながら、例えば、他のチューブからの熱が凝縮器に伝わり、凝縮器冷媒温度TCが冷却水温度より低く計測されてしまうことがある。ユーザは、このような計測誤差を考慮して状態量の偏差を選択できる。本実施形態では、ΔTHG、ΔξHG、ΔTLGd、ΔTsAout及びΔPHGが選択されている。
図8に沿って、サンプル機情報31を説明する。サンプル機情報31においては、サンプル機ID欄101に記憶されたサンプル機IDに関連付けて、高温再生器温度欄102には高温再生器温度THGが、高温再生器濃度欄103には高温再生器濃度ξHGが、低温再生器ドレン温度欄104には低温再生器ドレン温度TLGdが、吸収器出口溶液温度欄105には吸収器出口溶液温度TsAoutが、高温再生器圧力欄106には高温再生器圧力PHGが、吸収器伝熱面積劣化度欄107には吸収器の伝熱面積についての劣化度ζAが、凝縮器伝熱面積劣化度欄108には凝縮器の伝熱面積についての劣化度ζCが、低温再生器伝熱面積劣化度欄109には低温再生器の伝熱面積についての劣化度ζLGが、高温熱交換器伝熱面積劣化度欄110には高温熱交換器の伝熱面積についての劣化度ζHXが、高温熱交換器リーク率欄111には高温熱交換器のリーク率οHXが、計測時点欄112には計測時点が、記憶されている。
欄102〜欄106のTHG等は、サンプル機についての各状態量である(偏差ではない)。これらの値は、センサによって計測される。
欄107〜欄111のζA等は、サンプル機についての各劣化度又はリーク率である。これらの値は、実際の伝熱面積等を計測することによって取得されたものである。
計測時点欄112の計測時点は、欄102〜欄111の値がセンサ等によって計測された時点の西暦年月日時分秒である。
サンプル機情報31は、別に欄を設け、その計測時点における、冷水出口温度、冷却水出口温度、冷房能力、冷水流量、及び、定格冷房能力(定数)等を記憶していてもよい(図示せず)。各欄に記載されている“・・”は、計測されたデータ値を省略的に表現している(空欄ではない)。
図9に沿って、診断対象機情報32を説明する。診断対象機情報32の構成は、サンプル機情報31(図8)と同じである。
診断対象機ID欄121に記憶されている診断対象機IDは、診断対象機を一意に特定する識別子である。
欄122〜欄126のTHG等は、診断対象機についての各状態量である。
欄127〜欄131のζA等は、診断対象機についての各劣化度又はリーク率である。ただし、これらの欄は、当初空欄になっており、機器診断装置1が各劣化度及びリーク率を推定した後、それらの推定値が記憶される。
計測時点欄132の計測時点は、欄122〜欄126の値がセンサによって計測された時点の西暦年月日時分秒である。
以降で、本実施形態の処理手順を説明する。処理手順には、(1)データ準備処理手順、(2)パラメータ決定処理手順、及び、(3)診断処理手順の3つがある。(3)を開始するためには、(1)及び(2)が終了していることが前提となる。(1)及び(2)の前後関係は問われない。(2)を開始する前提として、サンプル機情報31(図8)が完成した状態で補助記憶装置15に記憶されているものとする。さらに、(1)を開始する前提として、診断対象機情報32(図9)が、欄121〜欄126及び欄132にデータを有する状態で補助記憶装置15に記憶されているものとする。
図10に沿って、データ準備処理手順を説明する。データ準備処理手順は、診断対象機情報32に記憶されている診断対象機の各状態量から、処理に適したデータを抽出・加工するための手順である。
ステップS201において、機器診断装置1のデータ準備部21は、診断開始指示を受け付ける。具体的には、データ準備部21は、出力装置13にメニュー画面(図示せず)を表示する。そして、ユーザが、メニュー画面に表示されている“診断を開始する”の文字列をマウス等の入力装置12で選択するのを受け付ける。
ステップS204において、データ準備部21は、運転中のレコードを抽出する。運転中とは、例えば、診断対象機の高温再生器温度が所定の閾値以上である状態を言う。具体的には、データ準備部21は、ステップS203において取得したレコードのうちから、取得時点における高温再生器温度が閾値以上であるものを抽出する。
ステップS208の処理が終了した段階で、データ準備部21は、それぞれの状態量について、1日ごとに1つの代表データを保持していることになる。因みに、この代表データのうち高温再生器温度についてのものが、前記したTHG(B,n)である。
ステップS210において、データ準備部21は、傾きを算出する。具体的には、データ準備部21は、各状態量の偏差の冷房定格能力比に対する傾きを算出する。
図11に沿って、パラメータ決定処理手順を説明する。パラメータ処理手順は、サンプル機情報31に記憶されているサンプル機の各状態量及び各劣化度に基づいて、数理モデルのパラメータを決定するための手順である。
ステップS301において、機器診断装置1のパラメータ決定部22は、数理モデルを取得する。具体的には、パラメータ決定部22は、任意の数理モデルを取得する。補助記憶装置15には、線形モデル及び非線形モデルを含む複数の数理モデルが記憶されているものとする(図示せず)。ここでは、式(8)の線形モデルが取得されたものとする。
ステップS303において、パラメータ決定部22は、劣化度を取得する。具体的には、第1に、パラメータ決定部22は、ステップS202において受け付けた診断対象機IDを、その診断対象機と同じ型式のサンプル機のサンプル機IDに変換する。
第2に、パラメータ決定部22は、変換したサンプル機ID、及び、ステップS202において受け付けた診断対象期間を検索キーとしてサンプル機情報31を検索し、該当したレコードの劣化度を取得する。
ステップS305において、パラメータ決定部22は、計測値と推定値との差分の二乗和を算出する。具体的には、第1に、パラメータ決定部22は、ステップS303の“第2”において取得したレコードの状態量を式(1)に代入して、サンプル機の状態量の偏差を算出する。
第3に、パラメータ決定部22は、二乗値の和を、ステップS302において発生させたパラメータの候補に関連付けて、主記憶装置14に一時的に記憶する。
図12に沿って、診断処理手順を説明する。診断処理手順は、診断対象機の劣化度を要素別に求めるための手順である。
ステップS401において、機器診断装置1の診断部23は、数理モデルが線形モデルであるか否かを判断する。具体的には、診断部23は、ステップS301において取得された数理モデルが線形モデルである場合(ステップS401“YES”)、ステップS402に進み、それ以外の場合(ステップS401“NO”)、ステップS406に進む。
ステップS402において、診断部23は、感度行列の逆行列を求める。具体的には、診断部23は、ステップS307において決定した最終的なパラメータを感度行列Sとし、その感度行列Sの逆行列S−1を求める。
第2に、診断部23は、式(8)の左辺の状態量ベクトルyに対して、左から感度行列Sの逆行列S−1を乗算する。乗算結果が劣化度ベクトルxとなる。ただし、xkは、本来求めるべき劣化度の二乗値である。そこで、“二乗値”の正の平方根を求めることによって、0≦劣化度≦1の範囲の劣化度を求め得るか否かが問題となる。
(1)診断部23は、各成分が0≦xk≦1を満たすような劣化度ベクトルの近似値の候補を、所定の数だけ無作為に発生させる。
(2)診断部23は、x0とのノルム(差分の二乗和)が最小となるような候補を近似値x1として決定する。基本処理の最小化条件を数式で表すと以下の式(10)となる。式(10)において、“s.t.”及び“w.r.t.”は、それぞれ“subject to”及び “with regard to”の意である。“S−1y”は、その近似値を取得するべき不適な解(x0)であり、“x”は、近似値である。
ここで決定された近似値x1が、例えば、x1(0.6,0.5,0.0,0.8,0.7)のようになる場合もある。x0に比して、x1では、ζLG 2が“0.0”に変化している以外に、他の成分も変化している。これは、候補の劣化度ベクトルの各成分を無作為に発生させたことに起因する。
(1)診断部23は、x0の成分のうち、0≦xk≦1を満たさないものを特定する。
(2)診断部23は、 “1.0”又は“0.0”のうち特定したxkに近い方を、特定したxkの近似値として決定する。
ここで決定された近似値x2は、例えば、x2(0.5,0.6,0.0,0.7,0.8)である。x0に比して、x2では、ζLG 2が“0.0”に変化している。それ以外の成分は変化していない。基本処理による近似値x1は、簡易処理による近似値x2に比して、より正確な劣化度を示していることが多い。ただし、基本処理の処理工数は、簡易処理の処理工数よりも多い。
(1)診断部23は、0≦xk≦1を満たす劣化度ベクトルの候補を無作為に発生させる。
(2)診断部23は、無作為に発生させた劣化度ベクトルxを、(パラメータが既に決定しておりかつ非線形の)数理モデルFに対して代入する。そして、数理モデルを連立方程式として任意の方法でその解を求める。求めた解が、状態量ベクトルyの推定値となる。ここでの推定値をymと表記する。
(4)診断部23は、状態量ベクトルの計測値yと状態量ベクトルの推定値ymとの間のノルム(差分の二乗和)を求める。
(5)診断部23は、(1)〜(4)の処理を所定の回数だけ繰り返し、ノルムが最小となるような劣化度ベクトルxを求める。当該処理の最小化条件を数式で表すと式(11)となる。
診断部23は、ステップS406の処理をすべての運転日について繰り返し、劣化度(二乗値)の平均値を求める。さらに、すべてのシーズン(又は年)について繰り返す。なお、このとき、データ準備部21は、データ準備処理手順をシーズン(又は年)について繰り返すものとする。
第2に、診断部23は、出力装置13に、図1のような吸収式冷温熱機42の模式図を表示する。そして、例えば、ζA=0.6である場合、吸収器52を示す図形に関連付けて“0.6”を表示する。劣化度が大きくなるに従って、よりユーザの注意を促す態様でその図形及び/又は劣化度を表示する。例えば、劣化度が大きくなるに従って、図形及び/又は劣化度を表示する色彩を青→黄→赤のように変化させてもよい。
第3に、診断部23は、診断対象機情報32(図9)の各運転日のレコードのうち冷房能力が最大であるレコードの欄127〜欄131に、劣化度ベクトルの各成分(正の平方根)を記憶する。
・いずれの年も、吸収器の劣化度が最も大きいこと
・2011より前に、高温熱交換器の穴開きが発生していること。
・低温再生器の劣化が2011年に急激に進行していること。
・(図14からは直接わからないが)吸収器及び凝縮器は同じ冷却水系にあるので、吸収器が劣化しているのと並行して、凝縮器も劣化している可能性があること。
ここでは、年次推移を例として説明したが、診断部23は、月次、週次を含む任意の時系列で、劣化度を表示することができる。
図15に沿って、本実施形態の特徴を説明する。
・機器診断装置1は、状態量の推定値61と状態量の基準値63との差分である偏差の推定値65を求める。このとき、数理モデルが使用される。当該処理は、ステップS406(2)に相当する。
・機器診断装置1は、状態量の計測値62と状態量の基準値63との差分である偏差の計測値64を求める。当該処理は、ステップS406(3)に相当する。
・機器診断装置1は、偏差の計測値64と偏差の推定値65を比較して、それらの差分が最小になるような劣化度を求める(劣化度の要素別分解診断66)。当該処理は、ステップS406(4)及び(5)に相当する。
本実施形態の機器診断装置1は、以下の効果を奏する。
(1)機器診断装置1は、機器の劣化度を要素別かつ定量的に求めることができる。
(2)機器診断装置1は、計測した状態量が“はずれ値”である場合でも、所定の数値範囲に属する劣化度を求めることができる。
(3)機器診断装置1は、特に吸収式冷温熱機42の診断において、一般的に計測される状態量を使用することができる。
(5)機器診断装置1は、計測された状態量から正常な場合の理論値を減算するので、正確に劣化を判断できる。
(6)機器診断装置1は、サンプル機のデータや事前のシミュレーション計算値を使用して数理モデルのパラメータを決定する。したがって、既存データを有効に活用し、客観的に劣化を判断することができる。
(7)機器診断装置1は、線形の数理モデルを使用するので、情報処理が単純になる。
(9)機器診断装置1は、1年のうち所定の期間における状態量を使用するので、劣化の推移を時系列で表示できる。
(10)機器診断装置1は、機器が1日のうち最大の能力を出力している時点の状態量を使用するので、正確に劣化を判断できる。
(12)機器診断装置1は、劣化度を時系列で表示する。したがって、ユーザは、過去の運転履歴を見直し、将来の運転を容易に計画することができる。
(13)機器診断装置1が使用する状態量の種類の数は、劣化度の種類の数に等しい。したがって、原理的な判定不可能を回避することができる。
また、前記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウエアで実現してもよい。また、前記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウエアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆どすべての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
2 ネットワーク
11 中央制御装置
12 入力装置
13 出力装置
14 主記憶装置
15 補助記憶装置
21 データ準備部
22 パラメータ決定部
23 診断部
31 サンプル機情報
32 診断対象機情報
42 吸収式冷温熱機
46 センサ
51 蒸発器
52 吸収器
53 凝縮器
54 低温再生器
55 高温再生器
56 低温熱交換器
57 高温熱交換器
Claims (15)
- 機器の複数の劣化要素が定量化された複数の劣化度と、複数の状態量と、前記複数の劣化度の前記複数の状態量に対する感度である複数のパラメータとの関係を示す数理モデルを使用して、前記パラメータの値を決定するパラメータ決定部と、
前記数理モデルに対して、診断対象機の前記複数の状態量を適用し、前記診断対象機の前記複数の劣化度を推定する診断部と、を備えること、
を特徴とする機器診断装置。 - 前記診断部は、
前記推定した複数の劣化度の値が所定の範囲に属さない場合は、前記推定した複数の劣化度の近似値を、前記所定の範囲内において取得すること、
を特徴とする請求項1に記載の機器診断装置。 - 前記機器は、
吸収式冷温熱機であり、
前記複数の状態量は、
高温再生器温度、高温再生器濃度、低温再生器ドレン温度、吸収器出口溶液温度、及び、高温再生器圧力のうちの少なくとも1つを含むこと、
を特徴とする請求項2に記載の機器診断装置。 - 前記診断部は、
前記数理モデルを使用して、前記診断対象機の前記複数の状態量を推定し、
前記診断対象機の前記複数の状態量の計測値と、前記推定した複数の状態量との差分を最小とする前記診断対象機の前記複数の劣化度を推定すること、
を特徴とする請求項3に記載の機器診断装置。 - 前記複数の状態量は、
前記診断対象機の前記複数の状態量の計測値の、前記機器が正常である場合の当該状態量の理論値に対する偏差であること、
を特徴とする請求項4に記載の機器診断装置。 - 前記パラメータ決定部は、
サンプル機の前記複数の劣化度の計測値と、前記サンプル機の前記複数の状態量の計測値とを使用して、前記数理モデルの前記複数のパラメータを決定すること、
を特徴とする請求項5に記載の機器診断装置。 - 前記数理モデルは、
前記複数の劣化度に対して前記複数のパラメータを乗算した項の総和を前記複数の状態量とする線形の数理モデルであり、
前記診断部は、
前記複数のパラメータを成分として有する行列の逆行列を使用して前記診断対象機の前記複数の劣化度を推定すること、
を特徴とする請求項6に記載の機器診断装置。 - 前記機器診断装置は、
データ準備部を備え、
前記データ準備部は、
所定の期間における前記診断対象機の前記複数の状態量から、所定の基準を満たす程度に安定している安定データを抽出し、前記抽出したデータからノイズを除去し、
前記診断部は、
前記ノイズを除去した安定データを前記数理モデルに対して適用し、前記診断対象機の前記複数の劣化度を推定すること、
を特徴とする請求項7に記載の機器診断装置。 - 前記複数の状態量は、
1年のうち所定の期間における状態量であること、
を特徴とする請求項8に記載の機器診断装置。 - 前記複数の状態量は、
前記機器が、1日のうち最大の能力を出力している時点の状態量であること、
を特徴とする請求項9に記載の機器診断装置。 - 前記診断部は、
前記推定した劣化度を、劣化が生じている前記劣化要素に関連付けて、前記推定した劣化度に応じて変化する態様で画面表示すること、
を特徴とする請求項10に記載の機器診断装置。 - 前記診断部は、
前記推定した劣化度を時系列で表示すること、
を特徴とする請求項11に記載の機器診断装置。 - 前記複数の状態量の種類の数は、
前記複数の劣化度の種類の数に等しいこと、
を特徴とする請求項12に記載の機器診断装置。 - 機器診断装置のパラメータ決定部は、
機器の複数の劣化要素が定量化された複数の劣化度と、複数の状態量と、前記複数の劣化度の前記複数の状態量に対する感度である複数のパラメータとの関係を示す数理モデルを使用して、前記パラメータの値を決定し、
前記機器診断装置の診断部は、
前記数理モデルに対して、診断対象機の前記複数の状態量を適用し、前記診断対象機の前記複数の劣化度を推定すること、
を特徴とする前記機器診断装置の機器診断方法。 - 機器診断装置のパラメータ決定部に対して、
機器の複数の劣化要素が定量化された複数の劣化度と、複数の状態量と、前記複数の劣化度の前記複数の状態量に対する感度である複数のパラメータとの関係を示す数理モデルを使用して、前記パラメータの値を決定する処理を実行させ、
前記機器診断装置の診断部に対して、
前記数理モデルに対して、診断対象機の前記複数の状態量を適用し、前記診断対象機の前記複数の劣化度を推定する処理を実行させること、
を特徴とする、前記機器診断装置を機能させるための機器診断プログラム。
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