JP2016075604A - 金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法 - Google Patents

金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法 Download PDF

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透 高山
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Abstract

【課題】グロー放電発光分光分析法による測定結果から、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量を容易に可能とする方法を提供する。【解決手段】本発明の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法は、グロー放電発光分光分析法による、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法であって、前記金属材料の表面をグロー放電でスパッタリングしながら、放電時間に対するAlおよびO(酸素)の発光強度を逐次測定する測定工程と、放電時間に対する前記Al発光強度の曲線の一部を、放電時間に対する前記O発光強度に基づいて得た疑似Al発光強度曲線で置換し、合成曲線を得る曲線合成工程と、前記合成曲線の発光強度値を時間で積分し、その積分値を用いてAl酸化物を定量する定量工程とを備える。【選択図】図3

Description

本発明は、金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法に関する。
溶融Znめっき鋼板(以下「GI鋼板」ともいう。)は、めっき層を構成するZn中に少量のAlを含有している。Zn中にAlを含有させない場合、溶融Znに鋼板を浸漬してめっきを形成する過程において、めっき層のZnと鋼板のFeとでアウトバーストと呼ばれる急激な反応が生じ、Fe−Zn金属間化合物が生成する。アウトバーストはめっき表面の凹凸の原因となるため、抑制する必要がある。Zn中のAlは、このアウトバーストの発生を抑制する目的で含有させたものである。Zn中にAlを含有させることにより、溶融Znに鋼板を浸漬してめっきを形成する過程でFe−Al金属間化合物が鋼板とめっきの界面に生成し、アウトバーストの発生が抑制される。
しかし、このZn中のAlは、めっき層を常温拡散し、表面と表面近傍のZnの結晶粒界において非晶質の酸化物(以下「表面Al酸化物」という。)として生成することが知られている(非特許文献1)。表面Al酸化物は、GI鋼板のスポット溶接性やプレス成形性等に影響を及ぼす。そのため、GI鋼板について表面Al酸化物の定量は重要である。
また、GI鋼板のめっき層の原料として、Alを含有するZn塊が用いられている。Alを含有するZn塊においても、表面と表面近傍のZnの結晶粒界において非晶質のAl酸化物、すなわち表面Al酸化物が生成する。GI鋼板およびZn塊のいずれの金属材料においても、表面Al酸化物は被膜として生成し、その厚さは数nm〜数十nmである。
従来、金属材料表面の化学組成の定量分析には、オージェ電子分光分析法(AES)、X線光電子分光法(XPS)およびグロー放電発光分光分析法(GD−OES。グロー放電分光法(GDS)と呼ばれることもある。)が用いられている。
例えば非特許文献1には、AESを用いてGI鋼板表面から深さ方向にZn、AlおよびOの濃度分布を測定することが記載されており、特許文献1には、XPSを用いて、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の酸化被膜中の酸化された状態にあるAl量を測定することが記載されている。また、特許文献2には、GD−OESを用いてGI鋼板のめっき層表層のAl濃度と、めっき層η相中のAl濃度の比を定量することが記載されている。
AESおよびXPSでは、試料の表面をArイオンビームでスパッタリングしては測定することを繰り返して深さ方向についての分析を進行する。そのため、分析の完了まで、数時間以上の測定装置の操作を必要とする。
これに対してGD−OESは、グロー放電した場合の各元素の発光強度に基づいて分析を行うため、通常、数十μmの深さまでの分析を数十秒で迅速に完了することができる。
また、特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成された燐酸塩化成処理皮膜の分離方法として、ヨウ素を含有する有機溶媒でめっき層を溶解する方法が開示されている。この方法によれば、化成処理皮膜を溶解させずに鋼板から分離できるとされている。この方法をGI鋼板に適用すれば、表面Al酸化物をAl酸化物の状態のままで鋼板から分離することができ、表面Al酸化物の定量が可能であると考えられる。しかし、この抽出分離による測定方法でも、定量分析の完了までGD−OESと比べて長時間を必要とする。
特開2010−106293号公報 特開2002−105614号公報 特開2001−279463号公報
千田 実、入江 広司、「薄膜塗装鋼板の耐食性におよぼす下地溶融亜鉛めっき鋼板表面性状の影響」、R&D神戸製鋼技報、株式会社神戸製鋼所、2011年8月1日、第61巻、第2号、p.83−86
上述のように、GD−OESは、AES、XPSおよび抽出分離による測定方法と比べて各元素の分析を迅速に行うことができる。しかし、GD−OESには、以下の問題がある。
めっき層表面とその近傍のZn中において、Alは、表面Al酸化物を構成するAlと、金属状態のAlとして存在する。このうち、表面Al酸化物として存在するAlの定量が重要である。上述したように、GI鋼板のスポット溶接性やプレス成形性等の指標としてAl酸化物を定量するためである。しかし、GD−OESでは、表面Al酸化物を構成するAlと、酸化していない金属Alとを区別して分析することができないため、表面Al酸化物の定量が困難である。
本発明はこの問題に鑑みてなされたものであり、GD−OESによる測定結果から、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量を容易に可能とする方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を重ねた結果、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料について、GD−OESによって表面から深さ方向へAl発光強度およびO発光強度を測定し、これらの発光強度の測定結果を組み合わせることにより、表面Al酸化物の定量を容易かつ高い精度で行うことができることを知見した。
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、下記の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法を要旨とする。
(1)グロー放電発光分光分析法(GD−OES)による、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法であって、
前記金属材料の表面をグロー放電でスパッタリングしながら、放電時間に対するAlおよびO(酸素)の発光強度を逐次測定する測定工程と、
放電時間に対する前記Al発光強度の曲線の一部を、放電時間に対する前記O発光強度に基づいて得た疑似Al発光強度曲線で置換し、合成曲線を得る曲線合成工程と、
前記合成曲線の発光強度値を時間で積分し、その積分値を用いてAl酸化物を定量する定量工程とを備える、金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(2)前記曲線合成工程において、前記Al発光強度曲線のうち、前記グロー放電開始後の所定時間経過した時点T以降の部分を、前記疑似Al発光強度曲線で置換する、上記(1)に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(3)前記時点Tは、前記Al発光強度曲線が前記グロー放電を開始してから最大値をとった後の任意時点である、上記(2)に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(4)前記時点Tは、前記Al発光強度曲線が前記グロー放電を開始してから最大値をとった後最初に変曲点となった時点Tである、上記(2)に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(5)前記曲線合成工程において、前記時点TにおけるAl発光強度SAldおよびO発光強度SOdの比(SAld/SOd)を、前記時点T以降の前記O発光強度に掛けて前記疑似Al発光強度曲線を得る、上記(3)または(4)に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(6)前記測定工程において、放電時間に対するAlおよびOの発光強度とともに、放電のプラズマ安定性の指標である参照発光強度を測定し、
前記Al発光強度曲線および前記O発光強度曲線の発光強度値として、前記Al発光強度および前記O発光強度を前記参照発光強度で割った値を用いる上記(1)から(5)までのいずれかに記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(7)前記金属材料の少なくとも表層がAlを含有するZn基材料である、上記(1)から(6)までのいずれかに記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
(8)前記金属材料が、溶融亜鉛めっき鋼板である上記(7)に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
本発明によれば、GD−OESにより得られた、金属材料の表面近傍におけるAl発光強度およびO発光強度の測定結果から、金属材料の表面近傍におけるAl酸化物を容易に定量することができる。定量されたAl酸化物量に基づいて、GI鋼板の製造条件を設定することにより、GI鋼板のスポット溶接性やプレス成形性を向上させることができる。
図1は、GI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向の元素濃度を示す図であり、図1(a)は表面から深さ15μmまでの元素濃度を示し、図1(b)は、図1(a)の拡大図に相当する。 スキンパスを施し、表面に粗度を付与したGI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向のAl発光強度曲線およびO発光強度曲線を示す図であり、図2(a)は放電開始から30秒間の発光強度曲線を示し、図2(b)は放電開始から5秒間の発光強度曲線を示す。 スキンパスを施さないGI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向のAl発光強度曲線およびO発光強度曲線を示す図であり、図3(a)は放電開始から30秒間の発光強度曲線を示し、図3(b)は放電開始から5秒間の発光強度曲線を示す。 図4は、図2に示すAl発光強度曲線およびO発光強度曲線から得た合成曲線である。 図5は、図3に示すAl発光強度曲線およびO発光強度曲線から得た合成曲線である。 図6は、GI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向のAl発光強度曲線およびZn発光強度曲線を示す図である。 図7は、Al発光強度曲線および金属Al発光強度曲線を示す図である。 図8は、酸化物として存在するAlの発光強度曲線を示す図である。 図9は、横軸を抽出分離によるAl定量値、縦軸を本発明のAl酸化物の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値とした図である。 図10は、横軸を抽出分離によるAl定量値、縦軸を参考発明のAl酸化物の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値とした図である。 図11は、横軸を抽出分離によるAl定量値、縦軸をAl発光強度曲線の最大発光強度とした図である。
1.本発明を完成させるために行った検討の内容
図1は、GI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向の元素濃度を示す図であり、図1(a)は表面から深さ15μmまでの元素濃度を示し、図1(b)は、図1(a)の拡大図に相当し、表面から深さ0.3μmまでの元素濃度を示す。図1(a)および図1(b)の横軸は、表面からの深さであり、グロー放電によるスパッタリング時間を純Znによるスパッタリング速度を用いて換算した値である。縦軸は、各元素の濃度であり、各元素の発光強度を、標準試料で校正した汎用のプログラムを用いて定量分析を行った値である。測定条件については、実施例で説明する。
図1(a)に示すように、表面から深さが5μmまでの範囲では、Zn濃度が100%、Fe濃度が0%であり、この範囲はGI鋼板のめっき層である。表面からの深さが12μmよりも深い範囲ではZn濃度が0%、Fe濃度が100%であり、この範囲はGI鋼板の地金である。また、表面からの深さが5μmから12μmまでの範囲は、地金とめっき層の界面であり、Al濃度が高くなっている。地金とめっき層の界面には、Zn中に含まれるAlと地金のFeにより、Fe−Al金属間化合物が生成している。
図1(b)は、図1(a)の表面部分の拡大図である。図1(b)に示すように、めっき層の表面近傍ではAlの濃化が生じ、より表面に近い部分ではOの濃化が生じている。めっき層表面近傍のAlとともにOが濃化している部分では、表面Al酸化物が生成していると考えられる。また、Alの濃度が最大値となる位置よりも表面に近い位置でOの濃度が最大値となるのは、Al酸化物として存在するOの他に、表面に吸着されたOも存在するからである。
ここで、図1(b)のAl濃度曲線には、金属AlとAl酸化物中のAlの両方の濃度が含まれており、金属Alの濃度とAl酸化物中のAlの濃度を区分することができない。そのため、Al濃度曲線からはAl酸化物中のAlを定量することができず、ひいてはAl酸化物の定量をすることもできない。そこで、本発明者らは、Al濃度曲線からAl酸化物中のAlを定量するため、以下の検討を行った。
図2は、GI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向のAl発光強度曲線およびO発光強度曲線を示す図であり、図2(a)は放電開始から30秒間の発光強度曲線を示し、図2(b)は放電開始から5秒間の発光強度曲線を示す。図2は、後の説明でも用いる。図2の測定条件については実施例で説明する。
本発明者らは、GI鋼板のめっき層において、表面から一定の深さまでは、Alは大気中のOと接触しやすいため、全てのAlはAl酸化物として存在していると仮定した。さらにこの一定の深さよりも深い位置では、Alは金属AlおよびAl酸化物として存在し、OはAl酸化物としてのみ存在すると仮定した。
図2を参照して説明すると、Al発光強度曲線は、放電開始後増大し、最大値をとった後、大きく減少し始め、時点Tで曲線の傾きが急激に小さくなる。上記の仮定によれば、めっき層の表面から放電開始後時点Tの深さまでは、全てのAlはAl酸化物として存在しているのに対し、時点Tの深さよりも深い位置では、AlはAl酸化物だけでなく金属Alとしても存在するため、Al発光強度曲線の傾きが急激に小さくなると考えられる。
このように考えると、図2に示すAl発光強度曲線において、放電開始から時点Tまでの部分はAl酸化物として存在するAlの発光強度であり、O発光強度曲線において、時点T以降の部分は、Al酸化物として存在するOの発光強度である。
ここで、Al酸化物中のAlとOの原子数比は一定であるため、Al酸化物についてGD−OESを用いて元素の発光強度を測定した場合、Alの発光強度曲線およびOの発光強度曲線は、発光強度自体は異なるものの、深さ方向への変化は同じ挙動をとる。そこで、図2に示すAl発光強度曲線の時点T以降の部分を、O発光強度曲線に基づいて得た疑似Al発光強度曲線で置換することにより、Al酸化物として存在するAlの発光強度曲線(以下「合成曲線」という。)が得られると考えた。
そして、合成曲線の発光強度値に基づいてAl酸化物を半定量し、めっきを溶媒で溶解し、抽出分離したAl酸化物の定量結果と比較したところ、高い相関があることがわかった。すなわち、合成曲線の発光強度値に基づく半定量値を、標準試料を用いて定量値に変換することにより、高い精度でAl酸化物を定量することが可能であることがわかった。
本発明の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法は、以上の検討の結果に基づいて完成されたものである。以下では、本発明のAl酸化物の定量方法について説明する。
2.本発明の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法
本発明の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法は、グロー放電発光分光分析法(GD−OES)によって、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面近傍におけるAl酸化物を定量する方法であり、(1)測定工程、(2)曲線合成工程、および(3)定量工程を順に備える。本発明で、「金属材料の表面近傍」とは、Al酸化物の定量を行う範囲であり、金属材料の表面から深さ方向に1μmまでの範囲をいう。また、Al酸化物の定量を迅速に行うため、「金属材料の表面近傍」の範囲は金属材料の表面から深さ方向に500nmまでの範囲が好ましく、300nmまでの範囲がより好ましい。
(1)測定工程
測定工程では、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面をグロー放電でスパッタリングしながら、放電時間に対するAlおよびO(酸素)の発光強度を逐次測定し、Al発光強度曲線およびO発光強度曲線を得る。
測定条件の一例を挙げる。例えば、GD−OES装置の光源用電源としてJIS K 0150:2009(表面化学分析−亜鉛及び/又はアルミニウム基金属めっきのグロー放電発光分光分析方法)に準じた直流電源または高周波電源を用いる。試料表面は、適切な溶媒(アセトン、エタノールなど)を使用して脱脂し、測定に供する。中空陽極(試料の放電によるスパッタリング部。「アノード」ともいう。)の内径は2〜8mmとし、分析元素の適切なスペクトル線を分光素子(回折格子など)で分光して複数の元素の発光強度を同時に測定する。
ここで、発光強度曲線の補正について説明する。GD−OES測定時には、グロー放電による発光強度の変動が生じることがあり、特に放電初期段階で生じやすい。発光強度の変動が生じると、元素の分析精度が低下することとなる。このような発光強度の変動の影響を低減する方法として、参照発光強度を用いてAl発光強度曲線およびO発光強度曲線を補正する方法がある。
参照発光強度とは、放電のプラズマ安定性をモニタリングした発光強度である。具体的には、測定工程において、放電時間に対するAlおよびOの発光強度を逐次測定するのと同時に、参照発光強度として、雰囲気ガス(Ar)を含めた測定元素全体の発光強度も逐次測定する。そして、測定されたAl発光強度およびO発光強度を、それぞれ参照発光強度で割ってAl発光強度およびO発光強度の補正値を求める。これらの補正値を用いてAl発光強度曲線およびO発光強度曲線を得る。この補正値を用いることにより、発光強度の変動の影響を低減することができる。
図2は、スキンパスを施し、表面に粗度を付与したGI鋼板についてのAl発光強度曲線およびO発光強度曲線であり、図3は、スキンパスを施さないGI鋼板についてのAl発光強度曲線およびO発光強度曲線である。いずれの発光強度曲線も、Al発光強度およびO発光強度を参照発光強度で補正したものである。図2(a)および図3(a)は、放電開始から30秒間の発光強度曲線を示し、図2(b)および図3(b)は放電開始から5秒間の発光強度曲線を示す。図2および図3の測定条件については実施例で説明する。
(2)曲線合成工程
曲線合成工程では、放電時間に対するAl発光強度の曲線の一部を、放電時間に対するO発光強度に基づいて得た疑似Al発光強度曲線で置換し、合成曲線を得る。
図2に示すAl発光強度は、放電開始直後から増加し、放電開始から2.0秒で最大値をとり、その後減少を開始し、放電開始から3.0秒経過した時点で減少率が大きく変化する。同様に、図3に示すAl発光強度は、放電開始直後から増加し、放電開始から1.3秒で最大値をとり、その後減少を開始し、放電開始から1.8秒経過した時点で減少率が大きく変化する。Al発光強度の減少率が大きく変化した時点をTとする。
本発明の方法では、GI鋼板において、表面から時点Tの深さまでは、Alは全てAl酸化物として存在しており、時点Tの深さよりも深い位置では、Alは金属AlおよびAl酸化物として存在しているとする。そこで、Al発光強度曲線の時点T以降の部分を、O発光強度曲線の時点T以降の部分で置換し、合成曲線を得る。
しかし、O発光強度曲線をそのままの状態で置換したのでは、時点TにおけるAl発光強度とO発光強度とが一致しないため、時点Tで合成曲線が不連続となる。この場合、酸化物として存在するAlの発光強度曲線を正確に得ることができない。
そこで、時点T以降のO発光強度曲線を疑似Al発光強度曲線に変換する。疑似Al発光強度曲線は、例えば時点T以降のO発光強度曲線を、時点TでAl発光強度曲線に連続するように、図2および図3の縦軸方向上下に移動させることによって得られる。なお、時点T以降のO発光強度曲線を図2の縦軸方向下方に移動させた場合、疑似Al発光強度曲線が図2の横軸と交差することがある。この場合には、時点T以降、横軸と交差するまでの部分を疑似Al発光強度曲線とする。
また、疑似Al発光強度曲線は、時点TにおけるAl発光強度SAldおよびO発光強度SOdの比(SAld/SOd)を求め、時点T以降のO発光強度にSAld/SOdを掛けることによっても得られる。すなわち、時点T以降のO発光強度曲線を、縦軸方向にSAld/SOd倍に拡大または縮小することによっても得られる。
図4および図5は、それぞれ図2または図3に示すAl発光強度曲線およびO発光強度曲線から得た合成曲線であり、参考としてAl発光強度曲線も示した。Al発光強度曲線と合成曲線との間の部分が金属Alの発光強度に相当する。
図4および図5の合成曲線を得るのに用いた疑似Al発光強度曲線は、いずれも図2または図3の時点T以降のO発光強度にSAld/SOdを掛けて得たものとした。図2ではSAld/SOd=0.99であり、図3ではSAld/SOd=0.96であった。
上記の説明では、図4および図5の合成曲線を得るに際し、図2および図3においてAl発光強度曲線の傾きが変化する時点TをAl発光強度曲線の形状から目視で判断した。しかし、時点Tの決定方法として、Al発光強度曲線を微分し、変曲点を求め、放電開始からAl発光強度曲線が最大値を取った後、最初に変曲点となった時点Tを時点Tとする方法を採用してもよい。
(3)定量工程
定量工程では、曲線合成工程で得た合成曲線の発光強度値を時間で積分し、その積分値を用いてAl酸化物を定量する。
しかし、合成曲線の発光強度値を時間で積分した積分値は、酸化物として存在するAlの半定量値であり、Al酸化物の相対的な量しか得られない。そのため、あらかじめAl含有量が正確に分かっている標準試料についてGD−OESを行い、Alの半定量値であるAl発光強度曲線の積分値を定量値に換算する換算式を求めておく。この換算により、合成曲線の発光強度値を積分して得られた酸化物として存在するAlの半定量値を定量値に換算することができ、この酸化物として存在するAlの定量値から、Al酸化物を定量することができる。
さらに、本発明のAl酸化物の定量方法には、以下の利点がある。市販のGD−OES装置では、標準試料の発光強度から検量線を作成し、この検量線を基準として、発光強度曲線の最大値から元素の定量分析を行う。しかし、この定量分析結果には、試料表面の粗度(粗さ)が発光強度に及ぼす影響が考慮されていない。
実際のGD−OES測定では、試料表面の粗度が大きいほど、発光強度の挙動が放電時間に対して変動しやすい。具体的には、上述の図2および図3を比較してわかるように、表面の粗度が大きいと放電時間に対して発光強度のブロードニング(発光強度の広がり)が生じやすく、表面の粗度が小さい場合と比べて発光強度曲線の最大値が小さくなる。そのため、発光強度曲線の最大値で定量分析した場合、粗度が大きい場合には粗度が小さい場合と比べて測定された定量値が実際よりも小さくなりやすく、定量精度が低い。しかし、本発明の定量方法では、発光強度曲線の積分値を使用するため、試料表面の粗度による発光強度のブロードニングの影響を低減し、高い精度でAl酸化物を定量することができる。
以上の説明では、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料として、GI鋼板を使用した。しかし、少なくとも表層がAlを含有するZn基材料であれば本願発明のAl酸化物の定量方法を適用することができる。
3.本発明の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法の参考発明
Al発光強度曲線およびZn発光強度曲線から、Al酸化物を定量する方法を、本発明の参考発明として説明する。
図6は、GI鋼板について、GD−OESを用いて測定した深さ方向のAl発光強度曲線およびZn発光強度曲線を示す図である。図6の測定条件については実施例で説明する。
図6は、めっき部分についての測定結果であり、Zn発光強度曲線はめっき中のZnに由来する。GI鋼板のめっき部分においてAlは、Zn中に金属Alとして固溶するものとAl酸化物として存在するものとがある。Al発光強度曲線は、金属Alの発光強度とAl酸化物として存在するAlの発光強度との合計である。そのため、Al発光強度曲線だけではAl酸化物として存在するAlを定量することができない。しかし、図6に示すZn発光強度曲線を利用することにより、Al発光強度曲線からAl酸化物として存在するAlを定量することができる。
Zn中のAl固溶量が一定であると仮定する。このように仮定した場合、Zn発光強度曲線は、Zn中に固溶するAlの発光強度曲線と同じ挙動をとる。さらに、図6においてAl発光強度曲線が最低値をとる時点T、すなわちめっき内でAl濃度が最低となる深さでは、Alは、酸化物としては存在せず、Zn中に固溶するもののみであると仮定する。このように仮定した場合、Al発光強度曲線と時点Tで接するように、Zn発光強度曲線を図6の縦軸方向に拡大または縮小した曲線は、Zn中に固溶する金属Alの発光強度曲線となる。図6では、時点Tは12.0秒である。
図7は、Al発光強度曲線および金属Al発光強度曲線を示す図である。図7に示す金属Al発光強度曲線は、図6に示すZn発光強度曲線を縦軸方向に1/7に縮小したものである。金属Al発光強度曲線は、時点TでAl発光強度曲線に接する。Al発光強度曲線と金属Al発光強度曲線の差分から、酸化物として存在するAlの発光強度が得られる。
図8は、酸化物として存在するAlの発光強度曲線を示す図である。図8に示す発光強度曲線は、Al発光強度曲線と金属Al発光強度曲線の差分として得たものである。なお、図8から、時点Tの深さよりも深い部分でも金属AlではないAlが存在しているが、これはFe−Al金属間化合物として存在するAlであると考えられる。そのため、酸化Al発光強度曲線を時点Tまで積分することにより、酸化物として存在するAlを半定量することができる。この酸化物として存在するAlの半定量値は、標準試料についてのGD−OES測定結果から定量値に換算することができる。
本発明の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法の効果を確認するため、以下の試験を行い、その結果を評価した。
試料として、鋼板に溶融Znめっきを施したもの(GI鋼板)を用いた。鋼板は、表1に示す化学組成であった。GI鋼板のZnめっきの付着量は60〜80g/mであった。
GI鋼板は、表2に示す通り3種類の表面粗度とした。表2には、粗度付与条件も記載した。表2に記載のEDT#50およびEDT#120は、それぞれスキンパスに用いたロールの表面状態を示し、放電ダル加工機(EDT)によりロール面の粗さを#50または#120としたものを用いたことを意味する。
GD−OES測定条件は、表3に示す条件とした。
なお、Alの発光強度のみを測定するのであれば、発光強度の測定時間は、放電部試料の内径が4mmの場合は3s、8mmの場合は10sで十分である。この場合、試料の表面から約1μmの深さまで測定することができる。
測定対象とする元素の発光線の波長は表4に示す通りであり、いずれも原子発光線(I)である。なお、上述した図1、2および6は試料cのGI鋼板についての測定結果であり、図3は試料aについての測定結果である。
上述した図1、2および6は、試料cのGI鋼板について以上の条件で測定した測定結果であり、図3は試料aについての測定結果である。
試料a〜cのGI鋼板のめっきを、2%ヨウ素−メタノール溶液を用いて溶解し、溶液中の残さを孔径0.2μmのニュークリポアフィルターでろ過回収した。この残さを加圧酸分解または塩酸で溶解し、定容した溶液をICP発光分光分析法で定量分析した。この残さは、Al酸化物であると考えられるため、残さについてのAlの定量値はめっき中にAl酸化物として存在するAlの定量値であると考えられる。以下では、このAlの定量値を「抽出分離によるAl定量値」という。
また、試料a〜cについて、本発明のAl酸化物の定量方法および参考発明のAl酸化物の定量方法を適用して、Al酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値を求めた。積分は、バックグラウンドを考慮して、放電開始から25sまでについて行った。
図9は、横軸を抽出分離によるAl定量値、縦軸を本発明のAl酸化物の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値とした図である。図9から、抽出分離によるAl定量値と、本発明のAl酸化物の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値との間に正の相関があることがわかる。
そのため、この相関に基づけば、試料a〜cのみならず、試料a〜c以外の任意の金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料について、本発明のAl酸化物の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値から、Al酸化物として存在するAlの定量値を求めることができることがわかる。すなわち、本発明のAl酸化物の定量方法によれば、任意のGI鋼板について表面Al酸化物を定量できることがわかる。さらに、図9から、GI鋼板の表面粗度によらず、表面Al酸化物を定量できることがわかる。
図10は、横軸を抽出分離によるAl定量値、縦軸を参考発明のAl酸化物の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値とした図である。図10からも、抽出分離によるAl定量値と、参考発明の定量方法を適用して求めた積分値との間に正の相関があることがわかる。そのため、この相関に基づけば、参考発明の定量方法を適用して求めたAl酸化物として存在するAlの発光強度値の積分値からも、表面Al酸化物を定量できることがわかる。
図11は、横軸を抽出分離によるAl定量値、縦軸をAl発光強度曲線の最大発光強度とした図である。図11から、横軸を抽出分離によるAl定量値と、Al発光強度曲線の最大値との間に相関がないことがわかる。そのため、Al発光強度曲線の最大値からは、Al酸化物として存在するAlを半定量も定量もできないことがわかる。
本発明によれば、GD−OESにより得られた、金属材料の表面近傍におけるAl発光強度およびO発光強度の測定結果から、金属材料の表面近傍におけるAl酸化物を容易に定量することができる。定量されたAl酸化物量に基づいて、GI鋼板の製造条件を設定することにより、GI鋼板のスポット溶接性やプレス成形性を向上させることができる。

Claims (8)

  1. グロー放電発光分光分析法による、金属AlおよびAl酸化物が混在している金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法であって、
    前記金属材料の表面をグロー放電でスパッタリングしながら、放電時間に対するAlおよびO(酸素)の発光強度を逐次測定する測定工程と、
    放電時間に対する前記Al発光強度の曲線の一部を、放電時間に対する前記O発光強度に基づいて得た疑似Al発光強度曲線で置換し、合成曲線を得る曲線合成工程と、
    前記合成曲線の発光強度値を時間で積分し、その積分値を用いてAl酸化物を定量する定量工程とを備える、金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  2. 前記曲線合成工程において、前記Al発光強度曲線のうち、前記グロー放電開始後の所定時間経過した時点T以降の部分を、前記疑似Al発光強度曲線で置換する、請求項1に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  3. 前記時点Tは、前記Al発光強度曲線が前記グロー放電を開始してから最大値をとった後の任意時点である、請求項2に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  4. 前記時点Tは、前記Al発光強度曲線が前記グロー放電を開始してから最大値をとった後最初に変曲点となった時点Tである、請求項2に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  5. 前記曲線合成工程において、前記時点TにおけるAl発光強度SAldおよびO発光強度SOdの比(SAld/SOd)を、前記時点T以降の前記O発光強度に掛けて前記疑似Al発光強度曲線を得る、請求項3または4に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  6. 前記測定工程において、放電時間に対するAlおよびOの発光強度とともに、放電のプラズマ安定性の指標である参照発光強度を測定し、
    前記Al発光強度曲線および前記O発光強度曲線の発光強度値として、前記Al発光強度および前記O発光強度を前記参照発光強度で割った値を用いる請求項1から5までのいずれかに記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  7. 前記金属材料の少なくとも表層がAlを含有するZn基材料である、請求項1から6までのいずれかに記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
  8. 前記金属材料が、溶融亜鉛めっき鋼板である請求項7に記載の金属材料の表面近傍におけるAl酸化物の定量方法。
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