JP2016074898A - フォトンアップコンバージョン組成物 - Google Patents

フォトンアップコンバージョン組成物 Download PDF

Info

Publication number
JP2016074898A
JP2016074898A JP2015198163A JP2015198163A JP2016074898A JP 2016074898 A JP2016074898 A JP 2016074898A JP 2015198163 A JP2015198163 A JP 2015198163A JP 2015198163 A JP2015198163 A JP 2015198163A JP 2016074898 A JP2016074898 A JP 2016074898A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
group
alkyl
aryl
alkyl group
hydrogen atom
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2015198163A
Other languages
English (en)
Inventor
君塚 信夫
Nobuo Kimizuka
信夫 君塚
伸浩 楊井
Kyoichi Arimizu
伸浩 楊井
鵬飛 段
Pengfei Duan
鵬飛 段
久乗 永冨
Hisanori Nagatomi
久乗 永冨
アスタナ ディーパック
Asthana Deepak
アスタナ ディーパック
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyushu University NUC
Original Assignee
Kyushu University NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kyushu University NUC filed Critical Kyushu University NUC
Publication of JP2016074898A publication Critical patent/JP2016074898A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Abstract

【課題】フォトンアップコンバージョン組成物及びフォトンアップコンバージョン方法の提供。【解決手段】光を吸収して励起三重項状態となり増感剤として機能するドナー分子と、当該ドナー分子からの三重項エネルギー移動を受けた後に励起一重項状態となり発光体として機能するアクセプター分子と、溶媒中で自己組織化して前記ドナー分子及びアクセプター分子を集積させる超分子マトリックスとを含む、フォトンアップコンバージョン組成物。【選択図】図1

Description

本発明は、フォトンアップコンバージョン組成物に関する。本発明はまた、前記組成物を使用してフォトンアップコンバージョンを達成するための方法に関する。
フォトンアップコンバージョンとは、低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換する技術である。近赤外光から可視光、あるいは可視光から紫外光への変換など、これまで活用できなかった低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換できれば、太陽電池や水の可視光分解(水素エネルギー製造)をはじめ、太陽光の利用効率が飛躍的に向上することが期待されることから、活発な研究が行われている(非特許文献1〜3)。
フォトンアップコンバージョンの機構として、これまで多光子吸収などの非線形光学現象に基づく機構が知られているが、この多光子吸収を起こすためにはレーザー光などの非常に強い励起光を必要とし、太陽光などの自然光を有効利用する用途には応用できない欠点を有する(非特許文献4、5)。そこで近年では、弱い励起光でもアップコンバージョン発光を観測できる三重項-三重項消滅(triplet-triplet annihilation; TTA)を経る機構が注目を集めている(非特許文献6〜9、図1)。
従来行われているTTA機構に基づくアップコンバージョン(UC)では、ドナー(増感剤)、アクセプター(発光体)として働く2種の色素分子を有機溶媒に溶解する。まず光を吸収して励起一重項状態となったドナー分子は、系間交差(ISC)を経て励起三重項状態となる。この励起三重項状態となったドナー分子からアクセプターに三重項エネルギーが移動し(三重項−三重項エネルギー移動(TTET))、これにより生じた励起三重項にある2つのアクセプター分子が溶液中を拡散し衝突してTTAが起こると、2分子のうち1分子が三重項状態よりも高い励起一重項状態となり、アップコンバージョン発光が生じる。すなわち、低いエネルギーしか持たない2つの光子を用いて、より高いエネルギーの1つの光子を生み出すこととなる。
光合成系によりインスパイアされた、光機能性分子を精密に自己集合させる技術の開発は、化学分野の最重要課題の1つとなっている(非特許文献10〜13)1。この観点から、チラコイド膜又は紅色細菌によって例示されるような生物学的光捕集系、すなわち光化学系I及びIIの超複合体並びに膜結合型のアンテナクロロフィル複合体が生体膜中で自己組織化する系の本質を人工系において再現することは必要不可欠である(非特許文献14、15)2。二次元ナノ構造にこれらの機能要素を集積することによって、その後に続く反応中心への効率的な励起エネルギー移動が可能となる2。すなわち、この分子組織化の概念に基づき、分子組織体中に自己組織化したπ電子系発色団間における高効率な三重項エネルギーマイグレーションならびに三重項−三重項消滅(TTA)現象に基づく新規な超分子フォトン・アップコンバージョン(UC)系を開発する必要がある。
TTA現象に基づくUCは、非コヒーレント光源を用いて波長をアンチストークスシフトさせる有望な技術として非常に注目されている。TTA-UCは、低強度の励起光を用いることができ、さらに高い量子収率が得られるなどの特徴を有することから、太陽電池、光触媒及びバイオセンシングなどの実際的な応用に適している(非特許文献16)3。このTTA-UC過程は多段階の光化学過程により起こる(図10)。
前述の通り、最初に増感剤(ドナー)の三重項励起状態が、光励起した一重項からの系間交差によって形成され、アクセプターの励起三重項が、ドナー三重項からの三重項−三重項エネルギー移動(TTET)によってもたらされる。三重項状態にある2つのアクセプター分子が拡散し、それらの寿命の間に衝突した場合、より高い一重項エネルギー準位がTTAによって形成され、次いで、アップコンバージョン遅延蛍光を発生させる。TTA-UCの励起及び発光波長は、増感剤及び発光体を独立に選択することによって制御することができる。三重項種の寿命が長い結果、励起光強度は、特定の励起波長における太陽光強度である約数mW cm-2まで低下させることができる。重要なことに、TTET過程とTTA過程はどちらも、電子交換機構(デクスター型エネルギー移動)で進行し、1nm以下の距離に分子間が接近しての軌道の重なりを持つ必要がある。これは、一般に10nm以下の距離にあるドナーとアクセプター対の間で起こる蛍光(フェルスター)共鳴エネルギー移動の場合とは異なる3
Auzel, F. Chem. Rev. 2004, 104, 139. Wang, F.; Liu, X. G. Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 976. Zhou, J.; Liu, Z.; Li, F. Y. Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 1323. Menzel, R. Photonics: Linear and Nonlinear Interactions of Laser Light and Matter; Springer: New York, 2001. He, G. S.; Tan, L. S.; Zheng, Q.; Prasad, P. N. Chem. Rev. 2008, 108, 1245. Singh-Rachford, T. N.; Castellano, F. N. Coord. Chem. Rev. 2010, 254, 2560. Zhao, J. Z.; Ji, S. M.; Guo, H. M. RSC Adv. 2011, 1, 937. Monguzzi, A.; Tubino, R.; Hoseinkhani, S.; Campione, M.; Meinardi, F. Phys. Chem. Chem. Phys. 2012, 14, 4322. Liu, Q.; Yin, B. R.; Yang, T. S.; Yang, Y. C.; Shen, Z.; Yao, P.; Li, F. Y. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 5029. Ajayaghosh, A.; Praveen, V. K.; Vijayakumar, C. Chem. Soc. Rev. 2008, 37, 109. Choi, M. S.; Yamazaki, T.; Yamazaki, I.; Aida, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 150. Calzaferri, G.; Huber, S.; Maas, H.; Minkowski, C. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 3732. Nakashima, T.; Kimizuka, N. Adv. Mater. 2002, 14, 1113. Dekker, J. P.; Boekema, E. J. Biochimica Biophysica Acta. 2005, 1706, 12. Strumpfer, J.; Sener, M.; Schulten, K. J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 536. Turro, N. J. in Modern Molecular Photochemistry, University Science Books, Sausalito, CA, 1991.
したがって、TTA-UCをより効率的なものにすることは、分子集積化学の重要な挑戦的課題となる。そこで本発明は、分子の自己組織化を利用したアップコンバージョン系を達成するための組成物及びアップコンバージョン方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、溶媒中で自己組織化して前記ドナー分子及びアクセプター分子を集積組織化させる超分子マトリックスを用いることで、上記課題を解決することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)光を吸収して励起三重項状態となり増感剤として機能するドナー分子と、当該ドナー分子からの三重項エネルギー移動を受けた後に励起一重項状態となり発光体として機能するアクセプター分子と、自己組織化により前記ドナー分子及びアクセプター分子を集積組織化させる超分子マトリックスとを含む、フォトンアップコンバージョン組成物。
前記ドナー分子としては、次式I:
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、又は縮環したベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環若しくはテトラセン環、若しくはこれらの誘導体を表し、前記基及び環は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
及びR、R及びR、R及びR並びにR10及びR11は、それぞれ独立して、飽和又は不飽和の5員環又は6員環を形成することができ、前記環は、任意に、C1−6アルキル基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよく、
は、白金、パラジウム、ニッケル、亜鉛及びスズから選ばれる金属原子、又はケイ素若しくは水素原子を表す。)
で示されるポルフィリン化合物、又は次式II:

(式中、R21及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、Mはイリジウム、白金、金、ルテニウム及びパラジウムから選ばれる金属原子を表す。)
で示される化合物が挙げられる。
また、前記アクセプター分子としては、次式III:
(式中、R31及びR32は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
33及びR34は、それぞれ独立して、水素原子、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意にハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数を表す。)
で示される化合物、次式IV:
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
43及びR44は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数を表す。)
で示される化合物、次式V:
(式中、R51及びR52は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表す。)
で示される化合物、次式(VI):
(式中、R61及びR62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意にハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
63は、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
j及びkは、それぞれ独立して、1〜3の整数を表す。)
で示される化合物、又は下記いずれかの式:
で示される化合物が挙げられる。
さらに、前記超分子マトリックスとしては、次式VII:
(式中、R71、R72及びR74は、それぞれ独立して、C10−30アルキル基又はOR700(R700は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)で示される基を表し、前記C10−30アルキル基は、任意に、その鎖内の炭素原子の少なくとも1つが酸素原子で置換されてもよく、また任意に、その鎖内のC-C一重結合が二重結合又は三重結合に置換されてもよく、R73は、次式VIII:
(式中、R731、R732及びR733は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表し、前記基は、任意に、ヒドロキシル基、アミノ基、エーテル基又はリン酸基で置換されてもよい。)
で示される化合物が挙げられる。
さらに、本発明においては、前記ドナー分子として、Pt(II)/Pd(II)-ポルフィリン、Pt(II)/Pd(II)-テトラフェニル-テトラベンゾポルフィリン、Pt(II)/Pd(II)-Ph4OMe8TNP、Pt(II)/Pd(II)-オクタブトキシナフタロシアニン、Pt(II)/Pd(II)-オクタブトキシフタロシアニン、Pyr3RuPZn3及びPt(II)/Pd(II)-テトラキスキノキサリノポルフィリン、ヨウ化物基を有するホウ素ジピロメタン(BODIPY)、フラーレン基を含有するホウ素ジピロメタン(BODIPY)、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、縮合ポルフィリンダイマー、及びα-カルコゲニルフタロシアニン基-15(P、As、Sb)錯体、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される1つの化合物を例示することができる。
さらに、前記ドナー分子としては、
で示されるものが挙げられる。
さらに、本発明においては、アクセプター分子として、9,10-ジフェニルアントラセン、ペリレン、ピレン、ホウ素ジピロメタン(BODIPY)、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、9,10-ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、ルブレン及びテトラセン、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される1つの化合物を例示することができる。
さらに、アクセプター分子としては、下記式:
で示されるものが挙げられる。
さらに、本発明においては、超分子マトリックスとして、N,N’-ビス(オクタデシル)-L-boc-グルタミン酸ジアミド、次式:
で示される化合物又は次式:
で示される化合物が挙げられる。
ここで、本発明の組成物において、ドナー分子/アクセプター分子のモル比は、例えば1/10〜1/100000の範囲内であり、アクセプター分子/超分子マトリックスのモル比は、例えば1/1〜1/100000の範囲内である。また、超分子マトリックスは、有機溶媒、水又はイオン液体中でドナー分子及びアクセプター分子の集積能を有することを特徴とする。
(2)さらに、本発明は、前記組成物に光を照射し、当該照射光のエネルギーよりも高いエネルギーの光を発生させることを特徴とする、フォトンアップコンバージョン方法を提供する。本発明の方法において、照射光は例えば近赤外光、可視光又は紫外光である。
本発明により、ドナー分子、アクセプター分子及び超分子マトリックス分子を含むアップコンバージョン組成物が提供される。本発明の組成物は、有機溶媒、水、イオン液体中のいずれにおいても、そして酸素共存下においても、効率良くアップコンバージョンを実現することができる。従って、本発明の組成物は太陽光利用技術をはじめ、バイオイメージング、光線力学療法、光触媒等に極めて有用である。
三重項-三重項消滅機構によるフォトンアップコンバージョンのエネルギーレベルを示す図である。 アップコンバージョンゲル系を示す概略図である。ドナー(赤色、sensitizer)及びアクセプター(青色,emitter)分子は、広がった凝集体又はドメイン(ラフト)としてLBGナノファイバー中に組み込まれている。ドナー分子は、長波長の光で励起される。次いで、ドナーから周囲のアクセプターへの三重項−三重項エネルギー移動(TTET)、アクセプター分子間の三重項エネルギーマイグレーション、三重項−三重項消滅(TTA)、及びアクセプターのアップコンバージョンされた一重項からの蛍光発光のシーケンスが続く。 (a)白色光及び(b)532nmグリーンレーザーのもとで、鋳型で成形したPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルの写真である([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)。写真撮影に際しフィルターは使用しなかった。(c)DMF中のPtOEP/LBG二成分ゲル(赤線;[PtOEP]=33μM、[LBG]=13.3mM)及びDPA/LBG二成分ゲル(黒色の実線;[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)の規格化された吸収(実線)及び発光(点線)スペクトル。(d)空気中における532nmレーザーの異なる入射光強度における、DMF中のPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルの発光スペクトル。532nmをカットするノッチフィルターを使用して、散乱した入射光を除去した。 (a)単一成分LBGゲル([LBG]=13.3mM)及び(b)PtOEP/DPA/LBG三成分ゲル([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)のSEM画像である。 試料は、超臨界CO2媒体を用いてDMFを抽出除去することにより乾燥した。(c)LBGゲル([LBG]=13.3mM)及びPtOEP/DPA/LBG三成分ゲル([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)について得られた貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)の負荷せん断応力に対する依存性。測定周波数は1Hzで固定した。 531nmのパルス励起下、(a)脱気DMF及び(b)空気飽和DMFにおいて、PtOEP/DPA/LBG三成分ゲルのUC発光が減衰する様子([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM、発光波長は440nm)。 532nmにおける同一励起強度のもとにおける、空気飽和DMF(赤色)及びCCl4(黒色)中でのPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルの発光スペクトルを示す図である([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)。 435nmにおける空気飽和DMF中のPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルのUC発光強度について、加熱-冷却サイクルによる変化を示す図である([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM;λex=532nm)。 PtOEP/DPA/LBG三成分ゲルについて観察されたTTA-UC発光強度を、532nm励起光強度の関数として示した両対数プロット図である。空気飽和DMF中で[PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM [LBG]=13.3mM。点線は、2.0(青色)及び1.1(赤色)の傾きでのフィッティング結果であり、Ithは、これらの2つの線の交点から1.48mW cm-2と決定した。 空気飽和DMFにおける三成分UCゲルの写真である。三成分ゲルを形成するために典型的なUC対を使用した。NIRから可視までのUCについてはPdPc(OBu)8/ルブレン/LBGゲル([PdPc(OBu)8]=67μM、[ルブレン]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)、赤からシアンまでのUCについてはPtTPBP/BPEA/LBGゲル([PtTPBP]=67μM、[BPEA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)、緑から青までのUCについてはPtOEP/DPA/LBGゲル([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM [LBG]=13.3mM)、及び青からUVまでのUCについてはIr(C6)2(acac)/DBP/LBGゲル([Ir(C6)2(acac)]=67μM、[DBP]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)とした。ショートパスフィルターを使用して、散乱した励起光を除去した。 TTA-UC(S=一重項、T=三重項)に関係するエネルギー準位を示すTTA-UC過程の概要を示す図である。TTA-UCは、高い系間交差(ISC)効率を有する増感剤(ドナー)及び高い蛍光量子収率を有する発光体(アクセプター)を含む。第一に、増感剤は低いエネルギー光を吸収して励起した一重項状態(S1)をもたらす。第二に、三重項状態(T1)がISCを介してもたらされる。第三に、デクスター機構によるドナーT1からアクセプターの三重項状態への三重項−三重項エネルギー移動(TTET)。最後に、2つのアクセプター三重系間での衝突及び消滅(TTA)は、アップコンバージョンされたフォトンを放射するアクセプターS1の高いエネルギー一重項励起状態をもたらす。 DMF中でのPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルのλmax=440nmにおけるUC発光強度の時間依存性を示す図である([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM;λex=532nm)。 LBGゲル([LBG]=10mg mL-1=13.3mM)及び異なるDPA量を有するLBG/DPA二成分ゲルのDSC加熱曲線を示す図である([DPA]=6.7mM又は13.3mM、[LBG]=13.3mM)。加熱速度は2℃/分で固定した。 室温での脱気DMFにおける(a)PtOEP/LBG二成分ゲル(赤色;[PtOEP]=33μM、[LBG]=13.3mM)及びPtOEP/DPA/LBG三成分ゲル(黒色;[PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)のリン光スペクトル(λex=532nm)、(b)77KでのDMFにおけるPtOEP/LBG二成分ゲル(赤色;[PtOEP]=33μM、[LBG]=13.3mM)及びPtOEP/DPA/LBG三成分ゲル(黒色;[PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)のリン光スペクトル(λex=532nm)を示す図である。 室温での脱気(赤色)及び空気飽和(黒色)DMF中におけるPtOEP/LBG二成分ゲルのリン光スペクトルを示す図である([PtOEP]=33μM、[LBG]=13.3mM;λex=532nm)。 DMFを溶媒とするPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルについて、加熱-冷却サイクルにおけるUC発光強度の温度依存性を示す図である([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM; λmax=435nm,λex=532nm)。 異なる入射光強度におけるDPA/PtOEP/LBG三成分DMFゲルの発光スペクトルを示す図である([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM;λex=532nm(ショートパスフィルター使用)、77K)。 (a)DMFゲル中におけるTBP(黒線)及びIr(Cs)2(acac)(赤線)の規格化された吸収及び発光スペクトル、(b)空気中における三成分DMFゲル(LBG/TBP/Ir(Cs)2(acac)=1/0.5/0.0005)の異なる入射光強度(光源,445nmレーザー(ショートパスフィルター,425nm))における発光スペクトル、及び(c)入射光強度に対するUC発光強度の両対数プロット。点線は、閾値Ith=28mW cm-2よりも低入射光強度領域、高入射光強度領域におけるデータをフィッティングして得られた傾き1.93(青色)及び1.12(赤色)の直線である。(d)DMFゲル中におけるBPEA(黒線)及びPtTPBP(赤線)の規格化された吸収及び発光スペクトル、(e)空気中における三成分DMFゲル(LBG/BPEA/PtTPBP=1/0.5/0.005)の異なる入射光強度(光源,635nmレーザー(ショートパスフィルター,625nm)における発光スペクトル、及び(f) 入射光強度に対するUC発光強度の両対数プロット。点線は、閾値Ith=4.1 mW cm-2よりも低入射光強度領域、高入射光強度領域におけるデータをフィッティングして得られた傾き1.89(青色)及び1.06(赤色)の直線である。(g)DMFゲル中におけるルブレン(黒線)及びPdPc(OBu)8(赤線)の規格化された吸収及び発光スペクトル、(h)空気中における三成分DMFゲル(LBG/ルブレン/PdPc(OBu)8=1/0.5/0.005)の異なる入射光強度(光源,725nmレーザー(ショートパスフィルター,710nm))における発光スペクトル、並びに(i)入射光強度に対するUC発光強度の両対数プロット。点線は、閾値Ith=20mW cm-2よりも低入射光強度領域、高入射光強度領域におけるデータをフィッティングして得られた傾き1.95(青色)及び1.02(赤色)の直線である。[LBG]=10mg mL-1 大気下室温において、水中におけるアップコンバージョン発光スペクトルを示す図。励起光の波長は532 nm。 アップコンバージョン発光の寿命を測定した結果を示す図。トリプレット寿命は5.1 msと見積もられた。 Lipid 2 (10 mM)、PtTPBP (0.03 mM)、perylene (1 mM)を含むイオノゲル(イオン液体ゲル)を示す写真。イオン液体としてはC4mimTFSAを用いた。 大気下室温において、イオノゲル中におけるアップコンバージョン発光スペクトルを示す図。励起光の波長は635 nm。 イオノゲル中におけるアップコンバージョン発光の寿命を測定した結果を示す図。トリプレット寿命は0.92 msと見積もられた。 イオノゲル中におけるアップコンバージョン発光強度の励起光強度依存性を示す図。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、光を吸収して励起三重項状態となり増感剤として機能するドナー分子と、当該ドナー分子からの三重項エネルギー移動を受けた後に励起一重項状態となり発光体として機能するアクセプター分子と、自己組織化により前記ドナー分子及びアクセプター分子を集積組織化させる超分子マトリックスとを含む、フォトンアップコンバージョン組成物に関する。
これまで、最も効率的なTTA-UC系は、励起した分子の急速な拡散が可能な溶液中で実現されてきた。しかし、溶液中におけるTTA-UCは、溶存酸素が励起三重項状態を著しく失活させるという問題があり、実際には、厳密に脱気された溶液を用いる必要があった。酸素を豊富に含む環境においても効率的にTTA-UCを発現させることは、効率の改善にとどまらず、太陽光発電、再生可能エネルギー生産の用途を含む無数の用途をもたらすものと予想される。
最近、酸素の影響を低減するために、固体ポリマー及び特定の粘性液体中にドナー及びアクセプター分子を分散させ、溶存酸素存在下においてTTA-UCを検討した若干の報告がなされている4f,5。しかし、従来用いられているこれらの高粘性マトリックス中においては、励起した三重項分子の拡散が必然的に制限されるため、TTAを起こすために必要な励起三重項分子の濃度を確保するために、高出力の入射光が必要となる。
TTA-UCのための最適な励起光強度の指標として、アップコンバージョン効率φUCが最大化される閾値励起光強度(Ith)が用いられる6。太陽光などの比較的弱い自然光をアップコンバージョンするためには、利用する波長域について、このIth値が太陽の放射照度の強度より低くなければならない。例えば、一般的な緑色励起(532±5nm)にわたって積分された放射照度は1.6mW cm-2である。しかし、従来の空気中で安定なTTA-UC系について報告されているIth値は、数十mW cm-2より大きく、そのため有用性がなくなっている。従って、TTA-UCにおける重要な課題の1つは、良好な酸素遮蔽能力と低いIth値の両方を満たすことである。
本発明は、チラコイド膜の構造的特徴をヒントにして完成されたものであり、増感剤及び発光体分子を分散させるためのホストマトリックスとして、超分子ゲルを使用することを特徴とする。
超分子オルガノゲルは、低分子量の脂溶性分子が自己組織化してナノファイバー構造ならびにそのネットワークを形成することによって生成される7。「自己組織化」とは、複数の分子が自発的に安定な秩序構造又は配列構造を与える現象を意味する。超分子オルガノゲルは、一般に、多数のアミド基など構成物質の凝集エネルギーを増進させる官能基を含み、長距離にわたる分子配向秩序を有する7。以前、Shinkaiらは、リン光性金属錯体のオルガノゲルは好気状態でもリン光を示すことを報告しており、これは、ナノファイバー凝集体における酸素の溶解度が限られていることを示唆している8。この結果は、オルガノゲル中における金属錯体の会合に帰されているが、オルガノゲルナノファイバー構造の持つ本質的特徴として一般化されてはいない。ゲル化剤分子中に特定の官能基を共有結合的に導入することは、必然的に多段階の合成に要する時間と労力を増大させ8,9、またそのような改変を行ったとしてもゲル化剤分子間の凝集相互作用が必ずしも増進されるわけではない。したがって、光官能性分子を非共有結合的に導入し組織化させるためのマトリックスとして、簡単に合成できる低分子ゲル化剤を使用することができる11。低分子ゲル化剤を用いることは、光機能性超分子集合体を開発するために有効なアプローチであり、超分子ゲルの与える閉じ込めナノ空間における分子又は励起エネルギーの側方拡散を可能にする。
本発明においては、前項に記載の概念を実証するために、例えばゲル化剤として知られているN,N’-ビス(オクタデシル)-L-boc-グルタミン酸ジアミド(LBG)(図2)をホストマトリクスとして使用する11c
本発明の一態様では、増感剤及び発光体分子を、物理的なゲル化過程でゲルファイバー中に導入した。得られた三成分ゲルは、空気飽和条件下でも、強いアップコンバージョン発光を示した。この簡単な手法は極めて普遍的なものであり、異なるドナー-アクセプターの組合せを用いることにより、近赤外から黄、赤からシアン、緑から青、さらには青からUVまでの波長変換でのTTA-UCが首尾よく達成された。重要なことには、これらの三成分ゲルのIth値は、従来報告されている柔らかいマトリクスにおける空気中で安定なTTA-UCのIth値より低く、その値は1.5mW cm-2であった5e,f,h,i,12
超分子マトリクスで観察されるこれらのフォトンアップコンバージョン特性は、ゲルナノファイバー中に密に組織化された色素集合体中に三重項状態を高密度に発生させ、またナノファイバーが溶媒に溶解している分子酸素に対して驚くべきバリア特性を示すことに基づいている。これらの知見は、オルガノゲルナノファイバーが、多数の色素分子を高密度で受け入れる適応能、ならびに酸素バリア能を有することを示すものである。従って、本発明の組成物は、三重項エネルギーのマイグレーション、及び空気中における安定かつ効率的なTTA-UCを可能にする。本発明は、超分子ネットワークの新規な応用分野を開くものであり、本明細書ではこれらの画期的な発見について説明する。
さらに本明細書においては、水系におけるアップコンバージョン及びイオン溶液中におけるアップコンバージョンを説明する。
2.フォトンアップコンバージョン組成物
2.1.ドナー分子
本発明において、ドナー分子としては、次式Iで示されるポルフィリン化合物が挙げられる。
式I中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、又は縮環したベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環若しくはテトラセン環、若しくはこれらの誘導体を表し、前記基及び環は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。
及びR、R及びR、R及びR並びにR10及びR11は、それぞれ独立して、飽和又は不飽和の5員環又は6員環を形成することができ、前記環は、任意に、C1−6アルキル基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。
また、Mは、白金、パラジウム、ニッケル、亜鉛及びスズから選ばれる金属原子、又はケイ素若しくは水素原子を表す。
さらに、本発明において使用されるドナー分子は、次式IIに示される化合物である。
式IIにおいて、R21及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表す。これらの基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。また、Mはイリジウム、白金、金、ルテニウム及びパラジウムから選ばれる金属原子を表す。
本明細書において、「C1−10アルキル基」、「C1−6アルキル基」とは、炭素数がそれぞれ1〜10個、1〜6個の直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素基を意味する。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、2-メチル-1-プロピル基(i-ブチル基)、2-メチル-2-プロピル基(t-ブチル基)、1-ブチル基、2-ブチル基、1-ペンチル基、ヘキシル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基などである。他の炭素数を有するアルキル基の例も、当業者であれば上記と同様に理解することができる。また、下記の他の置換基についても同様に理解することができる。
「C2−10アルケニル基」、「C2−6アルケニル基」とは、炭素数がそれぞれ1〜10個、2〜6個の直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素基を意味し、二重結合を1個有する。このようなアルケニル基としては、例えばエテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
「C2−10アルキニル基」とは、炭素数が2〜10個の直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素基を意味し、三重結合を1個有する。このようなアルキニル基としては、例えばエチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、ペンチニル基などが挙げられる。
「C3−15シクロアルキル基」とは、炭素数が3〜15個の環状のアルキル基を意味し、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基等が挙げられる。
「C3−15シクロアルケニル基」とは、炭素数が3〜15個の環状のアルケニル基を意味し、二重結合を1個有する。例えばシクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキシニル等が挙げられる。
「C6−20アリール基」、「C6−14アリール基」とは、炭素数がそれぞれ6〜20個、6〜14個の芳香族炭化水素基を意味し、例えばフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、インデニル基などが挙げられ、好ましくはフェニル基である。
「5〜14員ヘテロアリール基」とは、環を構成する原子数が5〜14個であり、その原子中に1〜5個のヘテロ原子(窒素原子、酸素原子又は硫黄原子)を含有する芳香族基を意味する。このようなヘテロアリール基としては、例えばフリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チアジアゾリル基、オキサジアゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基などが挙げられる。
また本発明においては、ドナー分子として、
(i) Pt(II)/Pd(II)-ポルフィリン、Pt(II)/Pd(II)-テトラフェニル-テトラベンゾポルフィリン、Pt(II)/Pd(II)-Ph4OMe8TNP、Pt(II)/Pd(II)-オクタブトキシナフタロシアニン、Pt(II)/Pd(II)-オクタブトキシフタロシアニン、PyrRuPPZn2及びPt(II)/Pd(II)-テトラキスキノキサリノポルフィリン、
(ii) ヨウ化物基を有するホウ素ジピロメタン(BODIPY)、フラーレン基を含有するホウ素ジピロメタン(BODIPY)、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、及びα-カルコゲニルフタロシアニン基-15(P、As、Sb)錯体、並びに
(iii) 前記(i)及び(ii)の化合物の誘導体
からなる群から選択される1つの化合物を挙げることができる。なお、Ph4OMe8TNPは、下記具体例の式中のMTPBPを表す。
ここで、BODIPYの誘導体は、ヨウ素などの重原子、又はフラーレンなどの系間交差を起こしやすい分子を修飾することでドナーとすることができる。
ドナー分子として採用し得る具体的化合物を以下に示す。下記具体的化合物は上記化合物又はその誘導体の一例であり、これらに限定されるものではない。
<ドナー部位として採用しうるものの具体例>
2.2.アクセプター分子
本発明において、アクセプター分子は、下記の式III〜VIに示される化合物である。
式IIIにおいて、R31及びR32は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。
33及びR34は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意にハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。また、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数を表す。
ここで本明細書において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。また、R33及びR34において、SOXで示される基はスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。
式IVにおいて、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。
43及びR44は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意にハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。また、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数を表す。
式Vに示す化合物:
式Vにおいて、R51及びR52は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表す。
式VIに示す化合物:
式VIにおいて、R61及びR62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表す。前記基は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。
63は、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよい。
j及びkは、それぞれ独立して、1〜3の整数を表す。
下記いずれかの式で示される化合物:
本発明において、アクセプター分子は、9,10-ジフェニルアントラセン、ペリレン、ピレン、ホウ素ジピロメタン(BODIPY)、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、9,10-ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、ルブレン及びテトラセン、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される1つの化合物が好ましい。
アクセプター分子として採用し得る具体的化合物を以下に示す。下記具体的化合物は上記化合物又はその誘導体の一例であり、これらに限定されるものではない。
<アクセプター部位として採用しうるものの具体例>
上記化合物及び誘導体は、市販品として購入することができる。
2.3.超分子マトリックス
本発明において、超分子マトリックスは、次式VII:
で示されるものである。
式VIIにおいて、R71、R72及びR74は、それぞれ独立して、C10−30アルキル基又はOR700(R700は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)で示される基を表し、前記C10−30アルキル基は、任意に、その鎖内の炭素原子の少なくとも1つが酸素原子で置換されてもよく、また任意に、その鎖内のC-C一重結合が二重結合又は三重結合に置換されてもよく、R73は、次式VIII:
(式中、R731、R732及びR733は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表し、前記基は、任意に、ヒドロキシル基、アミノ基、エーテル基又はリン酸基で置換されてもよい。)
で示される化合物である。
好ましい実施形態では、次式:
で示される化合物(N,N’-ビス(オクタデシル)-L-boc-グルタミン酸ジアミド(LBG))又は次式:

で示される化合物又は次式:
で示される化合物が挙げられる。
LBGは、溶媒をゲル化させオルガノゲルを形成させるために使用される。
3.フォトンアップコンバージョン方法
本発明は、前記組成物を使用してフォトンアップコンバージョンを達成するための方法を提供する。本発明においては、LBGなどの超分子オルガノゲルを用いたアップコンバージョン、水中におけるアップコンバージョン、イオン液体におけるアップコンバージョンなどを実施することができる。
本発明の組成物は、ドナー分子とアクセプター分子と超分子マトリックスとを混合すればよい。例えば、それぞれの分子を適当な溶媒に溶解し、それを混合すればよい。本発明においては、溶媒として例えばジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム等を使用することができるが、水中におけるアップコンバージョンの場合は3成分を上記などの有機溶媒を用いて混合した後に真空下で乾固し、水(脱イオン水、蒸留水等)を加えて水分散液とすればよい。また、イオン液体におけるアップコンバージョンの場合は、イオン液体中にドナー分子、アクセプター分子及び超分子マトリックスを加えることにより得ることができる。
ドナー分子/アクセプター分子のモル比は、1/10〜1/100000の範囲内であり、好ましくは1/10〜1/1000、より好ましくは1/100〜1/1000である。
アクセプター分子/超分子マトリックスのモル比は、1/1〜1/100000の範囲内であり、好ましくは1/1〜1/100、より好ましくは1/1〜1/10である。
本発明の方法では、前記組成物に光を照射し、当該照射光のエネルギーよりも高いエネルギーの光を発生させることを特徴とする。
組成物に光を照射するときの波長、すなわち組成物中のドナー分子が吸収する光の波長は、特に限定されるものではなく、近赤外光であれば例えば800〜1600nm、可視光であれば例えば400〜800nmである。照射源は、太陽光、LED、Xeランプ、レーザーなどが挙げられ、特に限定されるものではない。また、照射時間は特に限定されるものではなく任意である。
組成物から発光するときの波長、すなわち組成物中のアクセプター分子が発する光の波長は、可視光であれば400〜800nm、紫外光であれば、例えば250〜400nmである。
フォトンアップコンバージョン組成物は、溶液、ゲル、又はゲルを乾燥させることによって得られたフィルムなどの様々な材料において使用することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
材料。
すべての試薬及び溶媒は、別段の指定のない限り、入手後精製することなく使用した。パラジウム(II)オクタブトキシフタロシアニン(PdPc(OBu)8)及び白金(II)テトラフェニルテトラベンゾポルフィリン(PtTPBP)は、Frontier Scientific, Inc.から購入した。白金(II)オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、ルブレン、9,10-ビス(フェニル-エチニル)アントラセン(BPEA)、9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)及び2,7-ジ-tert-ブチルピレン(DBP)はAldrich及びTCIから購入した。Ir(C6)2(acac)(C6=クマリン6、acac=アセチルアセトン)は報告されている方法にしたがって合成した13,14
分析用等級のジメチルホルムアミド(DMF)、四塩化炭素(CCl4)及びクロロホルムは、Wako Pure Chemicalから購入した。ゲル化剤N,N’-ビス(オクタデシル)-L-boc-グルタミン酸ジアミド(LBG)は文献にしたがって合成した11b
LBG、増感剤、発光体及び溶媒(DMF又はCCl4)の混合物を透明溶液が形成されるまで加熱し、次いで室温に冷却することによって、色素をドープしたゲルを調製した。ゲルの形成は、逆チューブ試験(inverse tube tests)及びレオロジー測定によって確認した。得られた色素ドープゲルは安定であり,2か月以上にわたってその形状を保持した。
特徴付け。
UV-vis(紫外光-可視光)吸収スペクトルはJASCO V-670分光光度計で記録した。発光スペクトルは、PerkinElmer LS55蛍光分光器を使用して測定した。時間分解蛍光寿命測定は、時間相関単一光子計数法寿命分光システム、HAMAMATSU Quantaurus-Tau C11367-02(蛍光寿命用)/C11567-01(遅延発光寿命用)を使用して行った。χ2(<1.2)などのフィッティングパラメーター並びに減衰曲線の目視検査によりフィッティングの質を判定した。
アップコンバージョン発光スペクトルは、調節可能な半導体レーザーを励起光源として使用し、Otsuka Electronics MCPD-7000機器で記録した。示差走査熱量測定(DSC)はSeiko Electronics SSC-5200機器で実施した。レオロジー実験はAnton Paar MCR-302レオメーターを25℃で使用して行った。測定の周波数は1Hzに設定した。
キセロゲルの走査電子顕微鏡(SEM)写真はHitachi S-5000(加速電圧、15KV)で撮影した。キセロゲルは、JASCO SCF超臨界CO2システムでゲルを乾燥することによって調製した15。共ゲルのUC量子収率は、レーザー励振源、及びHamamatsu Photonics社製の較正済み絶対量子収率測定システムを用いて測定した。
結果及び考察
オルガノゲル中における大気下で安定なTTA-UC現象
最初に、ドナー及びアクセプターは基準の緑色光を青色光へと変換するUC対であるPtOEPとDPAとの組み合わせを用い、超分子ゲルはLBGを用いてTTA-UCを行い、LGBのホストマトリックスとしての能力を試験した。従来の研究によれば、ゲル化剤LBGは、40種類超の非極性又は極性溶媒をゲル化し、多量の芳香族分子を添加しても、均一なゲル形成が乱されないことが示されている11b,c,16
LBGの3つのアミド基は有機溶媒中において安定な水素結合ネットワークを形成し、2本の長鎖アルキル鎖間の分子間凝集力ならびにキラル中心の効果に基づくナノファイバー構造形成を促進する17。予想通り、LBGは、PtOEP及びDPA分子の存在下においても超分子ゲルを形成した。DMF中でLBG、PtOEP及びDPAの固体粉末([LBG]=10mg mL-1=13.3mM、[PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM)を加熱溶解し、次いで室温に冷却することによって、均一なピンク色のゲルを得た。
三成分オルガノゲルは構造的安定性を示し、その結果、加熱して得られた溶液を鋳型に注入することによって、特定の形状を有するゲルを調製することができた(図3a)。図3cは、PtOEP及びDPA含有二成分LBGゲル(以下それぞれPtOEP/LBG及びDPA/LBGゲルと略記する)についての吸収及び発光スペクトルを示す。PtOEP/LPG二成分ゲルのスペクトルは、403及び510nmで典型的なSoret-及びQ−バンドをそれぞれ示し、660nmでリン光ピークを示した。DPA/LBGゲルのスペクトルは、アントラセンLa吸収の典型的な振動構造を示し、その蛍光は435nmにおいて観察された。これらのスペクトルはDMF液溶中でのPtOEP又はDPAのものと類似しており、これは、LBG分子がこれら色素分子の光物理的特性を妨げていないことを示している。
驚くべきことに、大気下においても、532nmグリーンレーザーの励起によるPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルからの強い青色のアップコンバージョン発光が肉眼で観察された(図3b)。様々な入射レーザー光強度での定常状態発光スペクトルは、明らかにDPAのアップコンバージョン発光であることを示した(図3d)。UC発光のスペクトル形状は、375nmで直接励起したDPA固有の蛍光スペクトルと類似している。一方,このUC発光は、LBGゲル非存在下において、脱気していないDMF中のPtOEP/DPA対については観察されず、三成分ゲルが大気下においてUC発光を示すのは、後述するようにマトリックスであるLBGゲルがPtOEP/DPA対を溶存酸素から遮蔽しているためである。図3dでは、PtOEPリン光の強度は非常に弱く、これは、系間交差によって発生したPtOEPの三重項励起状態が、DPAへの効率的なTTETを示すことを示している。
用いた実験条件([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)は、UC発光強度に基づいて最適化した(表1)。
表1。種々のモル比で混合したDPA/PtOPE/LBG三成分ゲル系のアップコンバージョン特性。LBG濃度は10mg mL-1=13.3mMに固定した。Q=消光、UC=アップコンバージョン、N=アップコンバージョンなし、WUC=弱いアップコンバージョンである。濃度比は、UC発光強度([PtOEP]=33mM、[DPA]=6.7mM)に基づいて、[LBG]/[DPA]=1/0.5及び[DPA]/[PtOEP]=200/1として最適化した。
このUC発光は非常に安定であり、UC発光強度は、空気に25日間曝露してもほとんど変化しないままであった(図11)。これらの観察は、ゲル形成によって酸素消光が効果的に防止されていることを示している。これを以下の項でさらに論じる。
ゲルにおける空気中で安定なTTA-UCの機構
空気中で観察された安定なTTA-UCは、LBGのゲルナノファイバー中に色素分子が効率的に内包されたことを意味しており、これは、SEM、レオロジー及びDSC測定によって支持された。まずゲルのミクロ構造を維持するために、ゲル試料を超臨界CO2を使用して乾燥した。LBGキセロゲルのSEM画像によると、70nmの平均厚さを有する繊維状ナノ構造が示された(図4a)。他方、三成分PtOEP/DPA/LBGゲルについては、数百nmの厚さを有する厚いナノファイバーが、平滑な表層構造は維持したまま観察された(図3b)。観察されたナノファイバーの厚さの増大は、PtOEP及びDPA分子がゲルナノファイバー中に取り込まれたことに由来しており、このことは事項で述べる粘弾性測定によってさらに確認された。
超分子ゲルの粘弾性を、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G'')がせん断応力に依存しない領域について評価した7a。限界応力を超えると、ゲルは部分的に崩壊して流動し始め、貯蔵弾性率は低下し始める。
図4cは、LBGゲル及びPtOEP/DPA/LBG三成分ゲルについての貯蔵弾性率及び損失弾性率をせん断応力の関数として示す。LBGゲルは14Paで流動し始めたが、驚くべきことに、三成分ゲルは40Paまで安定であった。これは、色素を包含した結果、ゲルナノファイバーが強化されたことを示すものである18
ゲルからゾルへの転移温度に及ぼす添加色素の効果を、DSC測定によりさらに調べた(図12)。DPAの濃度を増大させると、ゲル相からゾル相への転移温度は漸増を示した(Tc=43.9℃(LBGゲル)、Tc=44.8℃(LBG:DPA=1:0.5)、Tc=45.3℃(LBG:DPA=1:1))。観察されたゲル相の熱安定性の増進は、明らかにナノファイバー集合体中への色素分子の包含を示しており、これによってナノファイバー構造の熱安定性が高められている。
TTA-UC過程に対する酸素の影響を定量的に検討するために、三成分ゲルについてUC量子収率φUCを求めた。UC量子収率は通常、標準溶液を用いた相対的量子収率として得られる。しかし、ゲル試料が強い散乱を与えるため、正確なφUC値を得ることは困難であった。このため、積分球及び励起源としての532nmレーザーを使用することによって、三成分ゲルの絶対量子収率を測定した。
機器構成は、リポソームにおけるφUCを測定するためにBonnetらが使用したものと同様のものである19。量子収率は、一般的に放出されたフォトン数の吸収されたフォトン数に対する比として定義される。1つのアップコンバージョンされたフォトンを生成するためには2つのフォトンの吸収が必要とされることから、TTA-UC効率の理論最大値は50%と定義される4e,4h
その結果、脱気PtOEP/DPA/LBG三成分ゲルについて2.7%のφUCを得た([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)。これは、従来報告されているUC系において効果的なものに分類されるφUC 4hと同レベルのφUCである。注目すべきことに、この三成分ゲルは空気飽和条件下でも1.5%という高いφUCを維持しており、このゲル系が優れた酸素遮蔽能力を有することが確認された。この空気中でのφUCは、アクセプター濃度を[DPA]=66.7mMへさらに増大させることによって3.5%改善することができる3e。しかし、アクセプター濃度を増加しても([DPA]=66.7mM)、φUC値は増大しなかった(3.6%)。ここで用いた入射レーザー光強度(774 mWcm-2)においては、最大のTTA効率ならびにφUC値が得られている。次に、脱気三成分ゲル及び空気飽和三成分ゲルについてアクセプター三重項の寿命測定を行ったところ、UC発光減衰曲線における長寿命成分のフィッティングから得られたアクセプター三重項寿命τA,Tはそれぞれ228μs及び178μsであった (図5)5f,6
大気下における三重項寿命は脱気条件下において得られた三重項寿命の78%であり、アクセプター三重項が効果的に溶存酸素から遮蔽されていることは明らかである。一方、ドナーの三重項については、DPAによる効率的な消光を受けるため、酸素による消光の影響を正確に評価することは困難であった。三成分ゲルにおいて、77Kでは、分子の熱運動性は凍結され、酸素による拡散律速の消光は無視できる。このとき、PtOEPのリン光の70%はDPAによって消光されていることを見出した(図13a)。また室温の脱気ゲル中において、ドナーのリン光は、アクセプターによってほとんど消光されていた(図13b)。これらの結果は、PtOEP分子の大部分がDEP分子に近接して位置していることを示唆している。
以上の結果は、ドナー及びアクセプター分子の大部分はゲルナノファイバー中に一緒に組み込まれており、酸素による消光から保護されていることを示している。
図2に例示するように、ゲルナノファイバーにおいてUC対を効率的に包含すると、驚くべきことに空気中で安定なTTA-UCが観測される。このことは、非極性なドナー、アクセプター分子が、極性の高いDMF中で溶媒和されるよりむしろ、ゲルナノファイバー中に整列したアルキル鎖によって提供される低極性環境を好んだと考えられる。この仮説の妥当性をチェックするために、LBGによってゲル化される非極性溶媒であるCCl4を用いて対照実験を行った。
PtOEP/DPA/LBGの三成分ゲルを、CCl4において同様に調製した([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)。三成分DMFゲルが強いUC発光を示す一方で、空気飽和した状態にあるCCl4中での三成分ゲルにおいてはUC発光は観察されなかった(図6)。これは、UC対はバルクCCl4相中に存在して十分に溶媒和されており、そのためこれらの励起三重項種は溶存酸素分子によって容易に消光されることを示している。
一方で、アクセプターDPAの非存在下でのDMF中におけるPtOEP/LBG二成分ゲル([PtOEP]=33μM、[LBG]=13.3mM)について、予想外の現象を観察した。
LBGのDMFゲル中でのPtOEPのリン光スペクトルを、脱気及び溶存酸素存在下で測定したところ、ドナーのリン光は、溶存酸素存在下で99%消光されていることが分かった(図14)。二成分DMFゲルにおいては、PtOEPはLBGナノファイバーと強力に結合していないことが明らかである。この結果は、溶存酸素存在下でも、三成分PtOEP/DPA/LBGゲルにおいてPtOEPからDPAへの効率的なTTETと高い全UC量子収率が観察された結果と相違する。
これらの観察結果は、PtOEP分子がDPA組み込みLBGナノファイバーへと取り込まれていることよって説明可能である。DMF中でのLBGナノファイバーへのDPAの取り込みは、図4に示すように、SEM、DSC及びレオロジー測定によって支持されている。TTA-UCについての最適ゲル形成条件下でのLBGの濃度([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)と比較して、DPAが相当高いモル比で用いられているので、DPAはLBGナノファイバー中においてドメイン(DPAラフト)を形成するものと考えられる。すなわち、PtOEP分子は、LBGナノファイバー中には吸着されないが、LBGナノファイバー中に導入されたDPA分子が芳香族ドメイン(ラフト)を形成した場合、そのDPAドメイン中に取り込まれる。
上記結果は、前述の粘弾性測定結果とともにドナー(PtOEP)、アクセプター(DPA)分子がナノファイバーに結合した後も、ナノファイバー構造が維持されていることを支持するものである。この繊維状ナノ構造の構造安定性は、LBG分子が形成する水素結合ネットワークが、これらのゲスト分子を導入した後においても安定に保たれることを示している。LBGナノマトリクス中のDPA分子は、ドメイン構造(又は分子ラフト)を形成し、PtOEP分子はこのDPAドメインのπリッチなナノ環境中に容易に取り込まれる。
この構造モデルによれば、ドナーPtOEP分子は、繊維状ナノネットワーク中で、アクセプターDPA分子のホストによって十分に取り囲まれている。この分子組織構造によって、三成分ゲルナノファイバーについて観察された、効率的なTTET、三重項エネルギーマイグレーション及びTTA過程を十分に説明することができる。
LBGナノファイバー中におけるPtOEPのDPAラフトへの協同的取り込みは興味深い。これは、簡単なオルガノゲルナノファイバーマトリックスでも、オルガノゲルが機能指向性のナノ構造を構築するためのプラットホームとして働くことを示しており、これはオルガノゲル集合体において従来知られてない特徴である。
TTA-UCの温度誘発スイッチング。
超分子ゲルの顕著な特性は、熱応答性にある。LBGゲルを加熱すると、繊維状ゲルネットワークの解体を伴うゲルからゾルへの転移を誘発し、これは、その溶液を冷却することによって可逆的に再度集合する。上記したように、PtOEP/DPA/LBGの三成分ゲルは、ナノファイバー中への酸素分子の侵入を阻止することによって強いUC発光を示すが、TTA-UC発光は、LBGナノファイバーなしで、溶液中で完全に消光した。そこで、TTA-UCの温度誘発スイッチングを達成する目的で、熱によって誘発されたゲルからゾルへの転移の効果を検討した。
図15は、DMFにおける三成分PtOEP/DPA/LBG系に関し、25℃〜80℃の範囲におけるアップコンバージョン発光強度の温度依存性を示す([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM、λex=532nm)。加熱すると、UC発光強度は徐々に低下し、ゲルからゾルへの転移温度(約45℃)超で、ほとんど一定の値に達する。上述したように、TTET及びTTA事象に関与している三重項エネルギー移動過程は、温度の影響を受けないデクスター機構によって説明される6。また、DPAの蛍光量子収率は、溶媒及び温度とは独立している20。これらの情報から、加熱により観察されたUC発光の減少は、溶液相中に溶解した酸素による三重項種の消光によって説明することができる。
25℃に冷却することによって、UC発光強度は可逆的に回復した。これは、繊維状ナノ構造が再集合することにより、効率的なエネルギー移動過程およびTTA-UC過程が酸素による影響を受けなくなったためと考えられる。図7に示すように、UC発光のスイッチングは、良好な可逆性を示しており、何度も繰り返すことができる。
三成分ゲルにおける低いUC閾値励起強度Ith
太陽光などのかなり弱い励起光であっても、高いTTA-UC効率を達成することは重要である。TTA-UCの効率の有用な指標は、アップコンバージョン効率φUCが0.5となる閾値励起強度Ithによって与えられる6。したがって、太陽光を励起源として使用する場合、Ithは太陽の放射照度より低いことが望ましい。527nmから537nmまでのAM1.5の太陽のスペクトルの積分は1.6mW cm-2となる。
脱気された溶液中において、分子の拡散速度は、太陽の放射照度より低いIth値を得るのに十分大きい4e。一方、空気飽和条件下では、TTA-UCは、溶解酸素による励起三重項の消光によって妨害される。酸素による消光は、酸素の拡散を減速させるマトリックスとなる特定のポリマー又は粘性液体を使用することによって低減される。しかし、これらの場合、色素自体の拡散も抑えられるためIth値は高くなってしまう。
ポリウレタン及びポリブチルアクリレートマトリクスについて、それぞれ約100、20及び4.3mW cm-2のIth値が報告されている。Kimらは、ヘキサデカンとポリイソブチレンの混合物において約200mW cm-2のIthを報告しており、他方、Liらは、BSA-デキストラン安定化大豆油において約60mW cm-2のIthを得ている。これらの空気中で安定なUC系では、関係するTTET及びTTA過程は、三次元での分子の拡散及び衝突に基づいており、これらのマトリクスにおける分子の拡散は必然的に低い。
一方で、超分子ゲルにおいて観察される効率的なTTA-UCは、以下で論じるように、ナノファイバーにおける密に共組織化された色素間での効率的なエネルギーマイグレーションの寄与を示している。
一般に、TTAを介したアップコンバージョン発光の強度は、二分子の消滅過程から予想されるように、弱い励起領域で入射光強度に対する二次的依存性を示す。この領域では、アクセプター三重項の非輻射失活が優勢なためにTTAは非効率である。
一方で、入射光強度をIth以上に上げることによって、TTAがアクセプター三重項の主要な失活経路となる。結果として、Ithにおいて、入射光強度依存性が二次から一次へと変化する。
図8は、空気飽和PtOEP/DPA/LBG三成分ゲルのUC発光強度の入射光強度依存性を両対数プロットの形で示している。より低い励起光強度 (<1.48mW cm-2)において、2に近い傾きが観察されたが、より高い励起光強度(>1.48mW cm-2)で約1に変化した。より低い入射励起光強度でのUC発光強度の二次的依存性は、三成分ゲルにおいてTTA機構によるUCが起こっていることの直接的な証拠である。注目すべきことに、空気飽和条件において、観察された1.48mW cm-2のIthは、532±5nmでの1.6mW cm-2の太陽の放射照度より低い。これは、本発明の超分子TTA-UC系の優れた性能を示している。
観察された低いIth値を精査するために、以下の式4を用いて、脱気PtOEP/DPA/LBG三元ゲルにおけるアクセプター三重項の拡散定数DTを推定した([PtOEP]=33μM、[DPA]=6.7mM、[LBG]=13.3mM)。
(式中、α0は有効な三重項−三重項相互作用距離(DPA三重項について9.1Å)であり、αは励起波長532nmにおける吸収係数であり(4.19cm-1)、φETは、ドナーからアクセプターへのTTET効率である)。
脱気三成分ゲルにおいて、0.75mW cm-2というIth値を得た。これは、空気飽和ゲルにおけるIth値より若干低く、図5において観察されるように、三重項状態の部分的な酸素消光を反映している。
脱気ゲルにおいてアクセプターを用いると、ドナーリン光強度間の比により97.7%もの高いφET値が得られた(図13a)。したがって、PtOEP/DPA/LBG三成分ゲルについて、6.51×10-4cm2s-1のDTが得られる。このDT値は、低粘度溶媒におけるDPAの拡散定数(1.2×10-5cm2s-1)より、一桁大きい19。従来の低粘度溶媒系と比較して、剛性の結晶様のゲルファイバーにおける分子拡散はかなり抑制される筈であるから、この結果は励起分子の拡散では説明できない。
すなわち、観測された大きなDT値は、ゲルナノファイバー中において、密に自己組織化された色素分子間での速い三重項エネルギーマイグレーションが起きている事を表しており、これはIth値を低い値とすることに寄与している。このUCにおける三重項エネルギーマイグレーションの寄与は、低温測定によって確認された。77Kにおいて、70%というドナーからアクセプターへの高いTTET効率φETが得られ、これは、ナノファイバー内部における、ドナーがアクセプターに近接していることを示している(図13b)。分子拡散が抑制される77KにおいてもUC発光が明らかに観察された (図16)。この様に凍結したナノファイバーマトリックス系においてUC発光が観測されたのは、三重項エネルギー移動及びマイグレーションが起こるためと結論付けることができる。
上記観察結果は、ナノマトリクス中に閉じ込められたTTA-UC系の独特な特徴を明らかに表している。結晶様秩序のマトリクスであっても、効率的な三重項エネルギー移動及びマイグレーションのため、低い励起光強度でも効率的なUCが達成される。上述したように、PtOEPは、DPA/LBGナノファイバー中のDPAラフトに効率的に吸着され、驚くべきことに、低い入射光強度(すなわち、低いIth値)での効率的なTTA-UCを可能にする。
この状況は、励起光エネルギーが効果的に捕集されていることを示しており、生体膜中に組み込まれた光合成色素の光捕集システムを連想させるものである2。三成分ナノファイバーネットワークから成るTTA-UC系においては、バルク溶媒に溶解した酸素分子からドナー分子、アクセプター分子が遮蔽されており、自己組織化したナノ構造の驚くべき能力を示している。
共ゲルにおける空気中のTTA-UCの普遍性
4つの異なるUC対、すなわちNIRから可視までのUCについてPdPc(OBu)8/ルブレン21、赤からシアンまでのUCについてPtTPBP/BPEA22、緑から青までのUCについてPtOEP/DPA4a、及び可視からUVまでのUCについてIr(C6)2(acac)/DBP23を用いて、ナノマトリクスへの包摂による空気中TTA-UCをさらに一般化するための検討を行った。
空気飽和DMF溶液中では、UC対のすべてについてUC発光を観察することはできなかった。しかし、DMF中でLBGを用いて三成分ゲルを形成した後、すべてのゲルは、空気飽和条件下でも強いUC発光を示した(図9)。
NIR(730nm)から黄(570nm)へ、赤(635nm)からシアン(507nm)へ、緑(532nm)から青(440nm)へ、及び青(445nm)からUV(377nm)への光変換が、光ルミネッセンススペクトルによって確認された(図3及び図17)。これらは低いIth値を示し、TTA機構に基づくUC発光であることは、励起光強度に対するUC発光強度の二次の依存性と、その一次への転移によって確認された(図17)。
PtOEP/DPA/LBG三成分ゲルの場合と同様に、三成分ゲルのための溶媒として非極性CCl4を使用した場合、他の3つのUC対もUC発光を示さなかった。したがって、すべてのドナー及びアクセプターは、極性DMFを溶媒として用いた場合、疎媒性相互作用を駆動力とするゲルネットワーク中への自己集合を示し、この結果、TTA-UCが溶解酸素分子から効果的に遮蔽されている。本発明の超分子ナノマトリックスを用いるアプローチは、このように広範なTTA-UC系において、空気中でのアップコンバージョンを可能にする画期的なものといえる。
結論
光合成生体膜における高度な光エネルギー捕集系にインスパイアされ、種々のドナー-アクセプターUC対を超分子ナノファイバー中に集積することによって、TTA-UCゲルを構築するための、簡単かつ普遍的なアプローチを開発した。
従来、色素集合体における励起子挙動の制御に対して多くの検討がなされているが、TTA-UCなどのように複数の励起子移動を伴う現象は未開拓のまま残っている。ゲルナノファイバーにおける本発明のアクセプターとドナー分子の適応的及び協同的結合により、溶存酸素存在下であっても、効率的な三重項エネルギー移動及びマイグレーション過程、それに続くTTA-UCを観察することができた。
空気中での安定性及び低閾値励起強度Ithを同時に達成することは、従来のTTA-UCの研究において、決して両立することのできない課題であった。疎媒性相互作用を利用して、ゲストである色素分子をゲルナノファイバー中に自己集積させることは、光機能性の分子組織体を得るための新規かつ有効な方法論である。ナノファイバー内部への分子酸素の侵入をブロックしているのは、自己組織化したLBG分子間に形成される水素結合ネットワークであることが、水溶性の配位結合ネットワークナノ粒子において酸素遮蔽特性が観測されたことから推定される。24
以上のように、本実施例では、分子の自己組織化との融合によって三重項エネルギーマイグレーション過程による光捕集とTTA-UCを結びつけ、TTA-UCの研究を刷新した。ナノファイバーゲルネットワークの適応的特性、空気感受性官能基の簡易な安定化、及びそれらの蓄積は、多くの分野において機能性分子系を設計するために広く適用可能である。
水中におけるアップコンバージョン
有機溶媒中において超分子マトリックス中に色素を密にドープすることで、酸素共存下でも低励起光強度からアップコンバージョンを確認することができた。このコンセプトを一般化するため、水系へと展開した。水中・酸素共存下でアップコンバージョンを発現することができれば、バイオイメージングや光線力学療法、光触媒など、応用の幅が広がると期待される。
今回用いた超分子マトリックスと色素を以下に示す。超分子マトリックスとしては水中で自己組織化する能力を有するLipid 1を用いた。Lipid 1は複数のアミド基を有し、またそのアミド基が疎水的なアルキル鎖に囲まれているため、水中でも効果的に水素結合ネットワークを形成可能である。更に親水性部位としてヒドロキシル基を有する4級アンモニウム塩部位を導入した。この両親媒性分子は水中で高い自己組織化能を示す。この超分子マトリックスに色素を集積化するため、アニオン性のアクセプターDPA-SO3を用い、イオン性相互作用によりマトリックス中へとアクセプターを高密度集積させた。また、ドナー分子としてはPtOEPを用い、疎水性相互作用により超分子マトリックスへと取り込ませた。本実施例で用いた超分子マトリックス及び色素の分子構造を以下に示す。
PtOEPとLipid 1を含むクロロホルム溶液とDPA-SO3のメタノール溶液を混合し、室温真空下で乾固した。その後脱イオン水を加え、やや濁った混合水溶液を得た。濃度はLipid 1が4 mM、DPA-SO3が2 mM、PtOEPが4 mMである。
大気下において、得られた水分散液に532 nmのレーザー光を照射したところ、400~500 nmにアップコンバージョン発光を明確に観測できた(図2)。この発光が確かにTTAに基づくアップコンバージョン発光であることを確かめるため、寿命の測定を行った(図3)。ミリ秒に及ぶ長寿命の発光であることが分かり、確かにTTAを経由したアップコンバージョンであることが確かめられた。またデータの長寿命成分を一次でフィッティングすることにより、アクセプターのトリプレットの寿命が5.1 msと見積もられた。
イオン液体中におけるアップコンバージョン
今回のコンセプトをイオン液体系へと展開できれば、不揮発性の材料とすることができ、応用の幅が広がると期待される。
今回用いた超分子マトリックスと色素を以下に示す。超分子マトリックスとしてはイオン液体中で自己組織化する能力を有するLipid 2を用いた。Lipid 2は複数のアミド基を有し、またそのアミド基が非極性なアルキル鎖に囲まれているため、イオン液体中でも効果的に水素結合ネットワークを形成可能である。更に親媒性部位としてヒドロキシル基を有する4級アンモニウム塩部位を導入した。この両親媒性分子はイオン液体中で高い自己組織化能を示す。この超分子マトリックスに疎媒性相互作用により色素を集積化するため、非極性なドナーとしてPtTPBPを、非極性なアクセプターとしてperyleneを用いた。イオン液体としては汎用的なC4mimTFSAを用いた。本実施例で用いた超分子マトリックスと色素、イオン液体の分子構造を以下に示す。
イオン液体C4mimTFSA中に上記のLipid 2 (10 mM)、PtTPBP (0.03 mM)、perylene (1 mM)を加え、加熱後冷却することにより、イオン液体中でLipid 2が発達した自己組織化ネットワーク構造を形成することにより、イオン液体がゲル化したイオノゲル状態となった(図5)。
空気中において、得られたイオノゲルを635 nmのレーザー光により励起したところ、470 nm付近にアップコンバージョンを明確に観測した。この発光が確かにTTAに基づくアップコンバージョン発光であることを確かめるため、寿命の測定を行った(図3)。ミリ秒に及ぶ長寿命の発光であることが分かり、確かにTTAを経由したアップコンバージョンであることが確かめられた。またデータの長寿命部分を一次でフィッティングすることにより、アクセプターのトリプレットの寿命が0.92 msと見積もられた。
更に、アップコンバージョン発光強度の励起光強度依存性を調べた。両対数プロットにおいて傾きが2に近いところから1に近いところへの変化がみられ、そのしきい励起光強度Ithは28.8 mW cm-2と比較的低励起光強度であることが分かった。
参考文献
(1) (a) Ajayaghosh, A.; Praveen, V. K.; Vijayakumar, C. Chem. Soc. Rev. 2008, 37, 109. (b) Choi, M. S.; Yamazaki, T.; Yamazaki, I.; Aida, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 150. (c) Calzaferri, G.; Huber, S.; Maas, H.; Minkowski, C. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 3732. (c) Nakashima, T.; Kimizuka, N. Adv. Mater. 2002, 14, 1113.
(2) (a) Dekker, J. P.; Boekema, E. J. Biochimica Biophysica Acta. 2005, 1706, 12. (b) Strumpfer, J.; Sener, M.; Schulten, K. J. Phys. Chem. Lett. 2012, 3, 536.
(3) Turro, N. J. in Modern Molecular Photochemistry, University Science Books, Sausalito, CA, 1991.
(4) (a) Baluschev, S.; Miteva, T.; Yakutkin, V.; Nelles, G.; Yasuda, A.; Wegner, G. Phys. Rev. Lett. 2006, 97, 143903. (b) Singh-Rachford, T. N.; Castellano, F. N. Coord. Chem. Rev. 2010, 254, 2560. (c) Cheng, Y. Y.; Khoury, T.; Clady, R.; Tayebjee, M. J. Y.; Ekins-Daukes, N. J.; Crossley, M. J.; Schmidt, T. W. Phys. Chem. Chem. Phys. 2010, 12, 66. (d) Zhao, J. Z.; Ji, S. M.; Guo, H. M. RSC Adv. 2011, 1, 937. (e) Monguzzi, A.; Tubino, R.; Hoseinkhani, S.; Campione, M.; Meinardi, F. Phys. Chem. Chem. Phys. 2012, 14, 4322. (f) Kim, J. H.; Kim, J. H. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 17478. (g) Liu, Q.; Yin, B. R.; Yang, T. S.; Yang, Y. C.; Shen, Z.; Yao, P.; Li, F. Y. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 5029. (h) Gray, V.; Dzebo, D.; Abrahamsson, M.; Albinsson, B.; Moth-Poulsen, K. Phys. Chem. Chem. Phys. 2014, 16, 10345.
(5) (a) Laquai, F.; Wegner, G.; Im, C.; Busing, A.; Heun, S. J. Chem. Phys. 2005, 123. (b) Singh-Rachford, T. N.; Lott, J.; Weder, C.; Castellano, F. N. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 12007. (c) Monguzzi, A.; Tubino, R.; Meinardi, F. J. Phys. Chem. A 2009, 113, 1171. (d) Tanaka, K.; Inafuku, K.; Chujo, Y. Chem. Commun. 2010, 46, 4378. (e) Kim, J. H.; Deng, F.; Castellano, F. N. Chem. Mater. 2012, 24, 2250. (f) Monguzzi, A.; Frigoli, M.; Larpent, C.; Tubino, R.; Meinardi, F. Adv. Funct. Mater. 2012, 22, 139. (g) Simon, Y. C.; Weder, C. J. Mater. Chem. 2012, 22, 20817. (h) Jiang, Z.; Xu, M.; Li, F. Y.; Yu, Y. L. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 16446. (i) Duan, P. F.; Yanai, N.; Kimizuka, N. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 19056.
(6) Monguzzi, A.; Tubino, R.; Meinardi, F. Phys. Rev. B 2008, 78, 195122.
(7) (a) Terech, P.; Weiss, R. G. Chem. Rev. 1997, 97, 3133. (b) Sangeetha, N. M.; Maitra, U. Chem. Soc. Rev. 2005, 34, 821. (c) Liu, X. Y. In Low Molecular Mass Gelators: Design, Self-Assembly, Function; Fages, F., Ed., 2005; Vol. 256. (d) Kimizuka, N.; Shimizu, M.; Fujikawa, S.; Fujimura, K.; Sano, M.; Kunitake, T. Chem. Lett.1998, 27, 967. (e) Nakashima, T. Kimizuka, N. Polym. J. 2012, 44, 665.
(8) (a) Shirakawa, M.; Fujita, N.; Tani, T.; Kaneko, K.; Shinkai, S. Chem. Commun. 2005, 4149. (b) Shirakawa, M.; Fujita, N.; Tani, T.; Kaneko, K.; Ojima, M.; Fujii, A.; Ozaki, M.; Shinkai, S. Chem. Eur. J. 2007, 13, 4155.
(9) (a) Wang, H.; Li, X.; Fang, F.; Yang, Y. J. Dalton Trans. 2010, 39, 7294. (b) Tam, A. Y. Y.; Yam, V. W. W. Chem. Soc. Rev. 2013, 42, 1540.
(10) Dawn, A.; Shiraki, T.; Haraguchi, S.; Tamaru, S.; Shinkai, S. Chem. Asian J. 2011, 6, 266.
(11) (a) Lal, M.; Pakatchi, S.; He, G. S.; Kim, K. S.; Prasad, P. N. Chem. Mater. 1999, 11, 3012. (b) Li, Y. G.; Wang, T. Y.; Liu, M. H. Soft Matter 2007, 3, 1312. (c) Duan, P. F.; Li, Y. G.; Jiang, J.; Wang, T. Y.; Liu, M. H. Sci. China Chem. 2011, 54, 1051.
(12) Monguzzi, A.; Bianchi, F.; Bianchi, A.; Mauri, M.; Simonutti, R.; Ruffo, R.; Tubino, R.; Meinardi, F. Adv. Energy Mater. 2013, 3, 680.
(13) Lamansky, S.; Djurovich, P.; Murphy, D.; Abdel-Razzaq, F.; Lee, H. E.; Adachi, C.; Burrows, P. E.; Forrest, S. R.; Thompson, M. E. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 4304.
(14) Borisov, S. M.; Klimant, I. Anal. Chem. 2007, 79, 7501.
(15) Moneghini, M.; Kikic, I.; Voinovich, D.; Perissutti, B.; Filipovic-Grcic, J. Int. J. Pharm. 2001, 222, 129.
(16) (a) Duan, P. F.; Li, Y. G.; Liu, M. H. Sci. China Chem. 2010, 53, 432. (b) Lv, K.; Qin, L.; Wang, X. F.; Zhang, L.; Liu, M. H. Phys. Chem. Chem. Phys. 2013, 15, 20197.
(17) (a) Takehara, M. Colloids Surf. 1989, 38, 149. (b) Kira, Y.; Okazaki, Y.; Sawada, T.; Takafuji, M.; Ihara, H. Amino Acids 2010, 39, 587.
(18) Tian, Y.; Zhang, L.; Duan, P. F.; Liu, F. Y.; Zhang, B. Q.; Liu, C. Y.; Liu, M. H. New J. Chem. 2010, 34, 2847.
(19) Askes, S. H. C.; Bahreman, A.; Bonnet, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 1029.
(20) Ting, C. H. Chem. Phys. Lett. 1967, 1, 335.
(21) Singh-Rachford, T. N.; Castellano, F. N. J. Phys. Chem. A 2008, 112, 3550.
(22) Baluschev, S.; Yakutkin, V.; Miteva, T.; Wegner, G.; Roberts, T.; Nelles, G.; Yasuda, A.; Chernov, S.; Aleshchenkov, S.; Cheprakov, A. New J. Phys. 2008, 10, 013007
(23) (a) Singh-Rachford, T. N.; Castellano, F. N. J. Phys. Chem. A 2009, 113, 5912. (b) Zhao, W.; Castellano, F. N. J. Phys. Chem. A 2006, 110, 11440.
(24) Nishiyabu, R.; Aime, C.; Gondo, R.; Noguchi, T.; Kimizuka, N. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 9465.

Claims (13)

  1. 光を吸収して励起三重項状態となり増感剤として機能するドナー分子と、当該ドナー分子からの三重項エネルギー移動を受けた後に励起一重項状態となり発光体として機能するアクセプター分子と、自己組織化により前記ドナー分子及びアクセプター分子を集積組織化させる超分子マトリックスとを含む、フォトンアップコンバージョン組成物。
  2. 前記ドナー分子が、次式I:
    (式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、又は縮環したベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環若しくはテトラセン環、若しくはこれらの誘導体を表し、前記基及び環は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
    及びR、R及びR、R及びR並びにR10及びR11は、それぞれ独立して、飽和又は不飽和の5員環又は6員環を形成することができ、前記環は、任意に、C1−6アルキル基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよく、
    は、白金、パラジウム、ニッケル、亜鉛及びスズから選ばれる金属原子、又はケイ素若しくは水素原子を表す。)
    で示されるポルフィリン化合物、又は次式II:
    (式中、R21及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、Mはイリジウム、白金、金、ルテニウム及びパラジウムから選ばれる金属原子を表す。)
    で示される化合物である、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記ドナー分子が、
    で示されるものである請求項1又は2に記載の組成物。
  4. 前記ドナー分子が、Pt(II)/Pd(II)-ポルフィリン、Pt(II)/Pd(II)-テトラフェニル-テトラベンゾポルフィリン、Pt(II)/Pd(II)-Ph4OMe8TNP、Pt(II)/Pd(II)-オクタブトキシナフタロシアニン、Pt(II)/Pd(II)-オクタブトキシフタロシアニン、Pyr3RuPZn3及びPt(II)/Pd(II)-テトラキスキノキサリノポルフィリン、ヨウ化物基を有するホウ素ジピロメタン(BODIPY)、フラーレン基を含有するホウ素ジピロメタン(BODIPY)、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、縮合ポルフィリンダイマー、並びにα-カルコゲニルフタロシアニン基-15(P、As、Sb)錯体、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される1つの化合物である、請求項1に記載の組成物。
  5. 前記アクセプター分子が、次式III:
    (式中、R31及びR32は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
    33及びR34は、それぞれ独立して、水素原子、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意にハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数を表す。)
    で示される化合物、次式IV:
    (式中、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
    43及びR44は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意に、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、m及びnは、それぞれ独立して、1〜4の整数を表す。)
    で示される化合物、次式V:
    (式中、R51及びR52は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表す。)
    で示される化合物、次式(VI):
    (式中、R61及びR62は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−15シクロアルキル基、C6−20アリール基、5〜14員ヘテロアリール基、C1−6アルキルエーテル基、C6−20アリールエーテル基、SOX(XはH、Na又はKを表す。)で示される基、リン酸基又はカルボキシル基を表し、前記基は、任意にハロゲン原子、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
    63は、水素原子、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C3−15シクロアルキル基、C3−15シクロアルケニル基、又はC6−20アリール基を表し、前記基は、任意に、C1−6アルキル基、C6−14アリール基、並びにOR101、COR102及びCOOR103(R101、R102及びR103は、前記と同様である。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されてもよく、
    j及びkは、それぞれ独立して、1〜3の整数を表す。)
    で示される化合物、又は下記いずれかの式:
    で示される化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 前記アクセプター分子が、下記式:
    で示されるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
  7. 前記アクセプター分子が、9,10-ジフェニルアントラセン、ペリレン、ピレン、ホウ素ジピロメタン(BODIPY)、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、9,10-ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、ルブレン及びテトラセン、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される1つの化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
  8. 前記超分子マトリックスが、次式VII:
    (式中、R71、R72及びR74は、それぞれ独立して、C10−30アルキル基又はOR700(R700は、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表す。)で示される基を表し、前記C10−30アルキル基は、任意に、その鎖内の炭素原子の少なくとも1つが酸素原子で置換されてもよく、また任意に、その鎖内のC-C一重結合が二重結合又は三重結合に置換されてもよく、R73は、次式VIII:
    (式中、R731、R732及びR733は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6アルキル基又はC2−6アルケニル基を表し、前記基は、任意に、ヒドロキシル基、アミノ基、エーテル基又はリン酸基で置換されてもよい。)
    で示される化合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
  9. 超分子マトリックスが、N,N’-ビス(オクタデシル)-L-boc-グルタミン酸ジアミド、次式:
    で示される化合物又は次式:
    で示される化合物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
  10. ドナー分子/アクセプター分子のモル比が、1/10〜1/100000の範囲内であり、アクセプター分子/超分子マトリックスのモル比が、1/1〜1/100000の範囲内である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
  11. 超分子マトリックスが、有機溶媒、水又はイオン液体中でドナー分子及びアクセプター分子の集積能を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物に光を照射し、当該照射光のエネルギーよりも高いエネルギーの光を発生させることを特徴とする、フォトンアップコンバージョン方法。
  13. 照射光が近赤外光、可視光又は紫外光である請求項12に記載の方法。
JP2015198163A 2014-10-06 2015-10-06 フォトンアップコンバージョン組成物 Pending JP2016074898A (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014206003 2014-10-06
JP2014206003 2014-10-06

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2016074898A true JP2016074898A (ja) 2016-05-12

Family

ID=55951023

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2015198163A Pending JP2016074898A (ja) 2014-10-06 2015-10-06 フォトンアップコンバージョン組成物

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2016074898A (ja)

Cited By (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2016204301A1 (ja) * 2015-06-18 2016-12-22 国立大学法人九州大学 複合材料、フォトンアップコンバージョン材料およびフォトンアップコンバーター
WO2017099110A1 (ja) * 2015-12-08 2017-06-15 国立大学法人熊本大学 円偏光発光組成物及びその製造方法、並びに円偏光発光方法
CN107118761A (zh) * 2017-06-15 2017-09-01 陕西师范大学 基于两亲性铂配合物的白色发光材料
JP2018168257A (ja) * 2017-03-29 2018-11-01 旭有機材株式会社 光アップコンバージョン組成物、フィルム及び光アップコンバージョン方法
JP2019132945A (ja) * 2018-01-30 2019-08-08 東ソー株式会社 層状化合物と金属錯体と多環芳香族化合物を含む波長変換材料
CN110655523A (zh) * 2018-06-28 2020-01-07 三星显示有限公司 有机金属化合物、包括其的有机发光装置和包括该有机发光装置的设备
CN113480550A (zh) * 2021-08-06 2021-10-08 南京林业大学 一种双香豆素共轭卟啉衍生物及其制备方法
WO2023063289A1 (ja) * 2021-10-14 2023-04-20 出光興産株式会社 有機固体アップコンバージョン材料

Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011505479A (ja) * 2007-12-04 2011-02-24 ソニー株式会社 光子のエネルギーをアップコンバージョンさせるための媒体
JP2014031348A (ja) * 2012-08-06 2014-02-20 Shimane Univ 希土類発光錯体および発光材料
JP2015163676A (ja) * 2014-01-31 2015-09-10 日本化薬株式会社 イオン液体を含む光波長変換要素およびその光波長変換要素を含む物品

Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011505479A (ja) * 2007-12-04 2011-02-24 ソニー株式会社 光子のエネルギーをアップコンバージョンさせるための媒体
JP2014031348A (ja) * 2012-08-06 2014-02-20 Shimane Univ 希土類発光錯体および発光材料
JP2015163676A (ja) * 2014-01-31 2015-09-10 日本化薬株式会社 イオン液体を含む光波長変換要素およびその光波長変換要素を含む物品

Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
DUAN P. ET AL.: "Photon Upconversion in Supramolecular Gel Matrixes: Spontaneous Accumulation of Light-Harvesting Don", JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY, vol. Volume 137, Number 5, JPN6019021987, 11 February 2015 (2015-02-11), pages 1887 - 1894, ISSN: 0004235735 *

Cited By (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2016204301A1 (ja) * 2015-06-18 2016-12-22 国立大学法人九州大学 複合材料、フォトンアップコンバージョン材料およびフォトンアップコンバーター
WO2017099110A1 (ja) * 2015-12-08 2017-06-15 国立大学法人熊本大学 円偏光発光組成物及びその製造方法、並びに円偏光発光方法
JP2018168257A (ja) * 2017-03-29 2018-11-01 旭有機材株式会社 光アップコンバージョン組成物、フィルム及び光アップコンバージョン方法
CN107118761A (zh) * 2017-06-15 2017-09-01 陕西师范大学 基于两亲性铂配合物的白色发光材料
CN107118761B (zh) * 2017-06-15 2019-08-20 陕西师范大学 基于两亲性铂配合物的白色发光材料
JP2019132945A (ja) * 2018-01-30 2019-08-08 東ソー株式会社 層状化合物と金属錯体と多環芳香族化合物を含む波長変換材料
JP7075577B2 (ja) 2018-01-30 2022-05-26 東ソー株式会社 層状化合物と金属錯体と多環芳香族化合物を含む波長変換材料
CN110655523A (zh) * 2018-06-28 2020-01-07 三星显示有限公司 有机金属化合物、包括其的有机发光装置和包括该有机发光装置的设备
CN113480550A (zh) * 2021-08-06 2021-10-08 南京林业大学 一种双香豆素共轭卟啉衍生物及其制备方法
WO2023063289A1 (ja) * 2021-10-14 2023-04-20 出光興産株式会社 有機固体アップコンバージョン材料

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP2016074898A (ja) フォトンアップコンバージョン組成物
Liang et al. Phosphorescent carbon-nanodots-assisted forster resonant energy transfer for achieving red afterglow in an aqueous solution
Duan et al. Photon upconversion in supramolecular gel matrixes: spontaneous accumulation of light-harvesting donor–acceptor arrays in nanofibers and acquired air stability
Kumar et al. A review on advancements in carbon quantum dots and their application in photovoltaics
Abulikemu et al. Solid-state, near-infrared to visible photon upconversion via triplet–triplet annihilation of a binary system fabricated by solution casting
Sun et al. Artificial light-harvesting supramolecular polymeric nanoparticles formed by pillar [5] arene-based host–guest interaction
CN109423278B (zh) 一种荧光钙钛矿纳米晶及其制备方法和应用
Gao et al. Biocompatible Nanoparticles Based on Diketo‐Pyrrolo‐Pyrrole (DPP) with Aggregation‐Induced Red/NIR Emission for In Vivo Two‐Photon Fluorescence Imaging
Baluschev et al. Annihilation upconversion in nanoconfinement: solving the oxygen quenching problem
Deng et al. H-and J-aggregation of fluorene-based chromophores
Jiang et al. Triplet–triplet annihilation photon upconversion in polymer thin film: sensitizer design
Xu et al. A thermochromic silver nanocluster exhibiting dual emission character
Hu et al. Twisted intramolecular charge transfer and aggregation-induced emission of BODIPY derivatives
WO2016204301A1 (ja) 複合材料、フォトンアップコンバージョン材料およびフォトンアップコンバーター
Dou et al. Bioimaging and biodetection assisted with TTA-UC materials
Panniello et al. Luminescent oil-soluble carbon dots toward white light emission: a spectroscopic study
Cai et al. Two-dimensional self-assembly of boric acid-functionalized graphene quantum dots: Tunable and superior optical properties for efficient eco-friendly luminescent solar concentrators
JP6744217B2 (ja) 凝集誘起発光の発光ハイブリッドナノ材料
Su et al. 1, 3, 5-triazine-based Pt (II) metallogel material: synthesis, photophysical properties, and optical power-limiting performance
McCusker et al. Materials integrating photochemical upconversion
Gao et al. Triplet fusion upconversion using sterically protected 9, 10-diphenylanthracene as the emitter
Liu et al. Design, synthesis, photophysical properties and intrinsic mechanism of two difluoroboron β-diketonate complexes with TPE and N-alkyl pyrrole units
Oddo et al. Micelles Embedded in Multiphasic Protein Hydrogel Enable Efficient and Air-Tolerant Triplet Fusion Upconversion with Heavy-Atom and Spin–Orbit Charge-Transfer Sensitizers
CN113462380B (zh) 一种在空气状态下实现三重态湮灭光子上转换有机凝胶及其制备方法和应用
Fu et al. Non‐Blinking Luminescence from Charged Single Graphene Quantum Dots

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20171003

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20180905

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20190523

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190618

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20190726

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20191007

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20200317