JP2016074636A - 抗菌性歯科用コーティング組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】(1)口腔内において使用でき、かつ(2)口腔内においても長期間抗菌性を発揮し得る酸化グラフェン被覆層形成を可能にするコーティング用組成物を提供する。【解決手段】酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物。前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が0.1〜20質量%の範囲である。【選択図】なし

Description

本発明は、抗菌性歯科用コーティング組成物に関する。より詳細には、本発明は、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物に関する。
日本における65歳以上の高齢者(以下「高齢者」といいます。)は、3186万人(平成25年9月15日現在推計)で、総人口に占める割合は25.0%となり、過去最高となっている。更に、75歳以上(後期高齢者)は、1560万人(平成25年9月15日現在推計)で、人口の12.3%にも至っている。22年後の平成47年(2035年)には、後期高齢者の割合が人口の約20%になると推計されている(総務局統計局資料)。また、要介護高齢者の人口も大幅に増加しており、2025年位には530万人に達するであろうと推計されている。
そのような中で、口腔ケアの課題は、ますます重要性を増しつつある。というのは、肺炎の年齢別の死亡率を見ると、65歳以上の高齢者がその90%を占めており、高齢者にとっては注意すべき課題である。高齢者肺炎の中でも、誤嚥性肺炎が大きな原因の1つとなって居り、それは歯、舌も含めた口腔内に定着した微生物を、誤嚥が原因で下気道に吸入することによると考えられている。特に、口腔ケアが不十分または不適切な高齢者においては、その問題が甚大である。更に、そのような高齢者においては齲蝕および/または歯周病も発症しやすい。即ち、高齢者、特に要介護者においては、日常での口腔ケアが健康管理の為に非常に重要な課題となっている。
現在の口腔ケア方法での第一選択は、歯ブラシを使用したブラッシングであるが、要介護高齢者、高度な認知症を発症している人、各種筋肉障害を発症している人、および重症疾患や大きな手術後の患者等、歯ブラシを使用したブラッシングが殆ど出来ない人、習慣を守れない人が多数存在する。彼らを看護する側にとっても、毎食後のブラッシングの実施または補助も大きな負担となっている。小児においても、母親がブラッシングを実施または補助するのも負担となっている。それ以外にも、睡眠時無呼吸症候群や夜間ブラキシズム(歯ぎしり)発症患者が、マウスピースを就眠中装着する行為も、また、日常で義歯を使用しているヒトにおいても、口腔内微生物を増加させ、歯周病等にかかりやすい環境を作っていると考えられている。
そのような方々の齲蝕や歯周病を予防するための含嗽剤やコーティング剤として各種の抗菌性薬剤が使われている。しかし、一般にその効果は弱く断続的で、また濃度を上げて効果を増強すると組織障害性が強くなる。
一方、齲蝕には好発部位があり、すなわち小窩裂溝、隣接面、歯頸部から発生することが多く、これらは3大不潔域といわれる。不潔域は食物による自浄作用が働かないため、齲蝕関連菌の増加と歯質を溶解する酸の産生を許すことになる。また、不潔域は歯ブラシによるブラッシングでも清掃が困難であり、菌を除去する齲蝕予防法には限界がある。現在はこれらの不潔域を予防的に埋める小窩裂孔填塞処置(シーラント)やフッ化ナトリウムによる歯質全体の耐酸性強化が行われている。
また、齲蝕の治療には感染歯質を除去したあとにコンポジットレジン、グラスアイオノマーセメント、金銀パラジウム合金等を充てんする方法が用いられているが、これらに抗菌性はなく、材料表面は歯と同様に細菌が付着する。材料自体は細菌の酸に対する抵抗性を有するが、材料と歯の間隙部分に細菌が侵入すると、ブラッシングも不可能で細菌を除去できなくなるため齲蝕になることがある(二次齲蝕)。治療で充てんされた材料を二次齲蝕が原因で再治療することは臨床的に頻度が高く、再治療時はさらに歯の欠損は大きくなり、歯髄や歯周組織への障害が強くなることから、抜髄や抜歯になることも少なくない。
一方、歯周病は歯頸部にプラークが蓄積され、細菌由来の毒素が歯肉や歯周組織に作用して発生する炎症疾患である。歯頸部のブラッシングを十分に行うと、細菌は除去され、炎症も消退する。しかしブラッシングが不十分な状態が続くことで炎症が深部へ波及し、歯肉上皮が深部伸長することで歯周ポケットが形成される。深い歯周ポケットには歯ブラシの毛先が届かなくなることから、ポケット内部に常に歯周病菌が付着増殖する状態となる。
更に、重度歯周病では垂直性骨欠損や根分岐部骨欠損等の大きな歯槽骨の吸収が発生しているため、歯周病治療(スケーリングルートプレーニング)による除菌を行っても深い歯周ポケットが消退しないケースが多い。これらの残存した歯周ポケットもハブラシの毛先が届かず、放置すると歯周病菌が増殖して炎症の再発が起こるため、歯科医院での定期的なイリゲーションが必要になる(歯周病安定期治療)。
また、高齢者で近年多くなっているインプラントにおいても、その周囲にプラークが蓄積され、細菌由来の毒素が歯肉や歯周組織に作用することで炎症が発生する(インプラント周囲炎)。その場合も歯肉上皮が深部伸長することで歯周病と同様にポケットが形成される。深いポケットには歯ブラシの毛先が届かなくなることから、ポケット内部に常に細菌が付着増殖する状態となる。またインプラントの表面は天然歯と異なり、ねじ切りやマイクロナノレベルの凹凸が付与され、また材質がチタンであることから削って表面を滑沢にすることが難しいため、除菌が困難であることが多い。
このように、口腔ケアを十分に行える場合でもブラッシングが不可能な場面も存在しており、それに代わる方法が希求されている。
ところで、酸化グラフェンは活性酸素を主体とする抗菌性を保有しており、in vitroで緑膿菌なども含めたグラム陰性菌、グラム陽性菌、およびカビ等広範囲の微生物に対する抗菌効果が報告されている(非特許文献1、4および5)。また、酸化グラフェンは象牙質表面にコーティングをすることができることも知られている(非特許文献2、3)。しかし、酸化グラフェンを口腔内に存在する細菌に対する抗菌性付与材料として実際に長期に利用した報告はなく、実際の口腔内において酸化グラフェンを一定期間以上抗菌性を付与できる状態で保持可能とする手段も知られていない。
特許第4798411号
International Journal of Nanomedicine 2012:7 5901-5914 第137回日本歯科保存学会2012年秋期学術大会(広島)、P−61(グラフェンおよび酸化グラフェンによる象牙質コーティング法の検討) 第56回日本歯周病学会2013年春季学術大会、P−54(酸化グラフェンおよびグラフェンによる歯根象牙質コーティングとタンパク質吸着性の評価) ACS Nano 2010:4 5731-5736 Nanoscale 2014:6 1879-1889
非特許文献2および3においては、in vitroにおいける酸化グラフェン粒子の象牙質へのコーティングを、象牙質に対する浸透性が高いN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することがある)を溶媒(水:NMP質量比=10:90)として用いて検討し、酸化グラフェン粒子が象牙質表面に対して良好な付着を有することを示した。しかし、本発明者らの検討においては、in vivoにおいて酸化グラフェンのコーティングを行う場合、上記NMPを溶媒として用いた酸化グラフェン粒子分散液をそのまま利用することはできなかった。何故なら、NMPは生体組織に対する刺激性が強く、例えば、歯の表面をコーティングするコーティング液として90質量%NMPを溶媒として用いた酸化グラフェン粒子分散液をそのまま利用すると、歯周辺の組織への局所刺激性のため激しい痛みに襲われ、動物実験においては、麻酔を施した実験動物にであっても、口腔内への塗布と同時に激しい体動が観察された。従って、90質量%NMPの生体への使用は、高い侵襲性、強い刺激性があり、実用は困難であった。
非特許文献2および3では、NMPを高濃度で含有する溶媒(水:NMP質量比=10:90)を用いることで、酸化グラフェン粒子を象牙質表面に対して良好に付着させることができることは示されている。しかし、付着した酸化グラフェンの耐久性、特に実際の口腔内での耐久性については示唆すらされていない。NMPを高濃度で含有する溶媒(水:NMP質量比=10:90)を用いることなしに、象牙質表面に対して酸化グラフェン粒子を良好に付着させることができる方法も知られていない。
そこで本発明は、(1)in vivo、即ち口腔内において使用でき、かつ(2)口腔内においても長期間抗菌性を発揮し得る酸化グラフェン被覆層形成を可能にするコーティング用組成物を提供することを目的とする。換言すれば、(1)口腔内で用いても高い局所刺激性がなく(生体に対する侵襲性が低く)、(2)形成された被覆層が口腔内において使用されるに際しても構造面・機能面で適度な耐久性を示す、抗菌性歯科用コーティング組成物を提供することを目的とする。
さらに本発明は、口腔内に存在し得るさまざまな状況、即ち、健全な歯(表面はエナメル質)、浸食されまたは研削された歯(表面は象牙質である場合がある)、本来は露出していない歯肉との付着部であるセメント質が露出した歯、人工歯(義歯またはインプラント)などが存在する可能性があるが、何れの場合にも、被覆層が形成され、かつ形成された被覆層が口腔内において使用されるに際しても構造面・機能面で適度な耐久性を示すことが好ましく、そのような耐久性を示す抗菌性歯科用コーティング組成物を提供することも、本発明の目的の一部である。
本発明者らは、種々の実験を行った結果、水に対するNMPの比率を一定以上に低下させることで、周辺組織に対する局所刺激を使用できる程度に低減でき、かつ依然として種々の歯表面に対して良好な付着を有するコーティング液が得られることを見出し、水とNMPの比率を所定範囲に設定した溶媒に酸化グラフェン粒子を分散させた分散液は、口腔内で用いても、生体に対する高い侵襲性を有さず、かつ口腔内における使用に際しても適度な耐久性を示し、長期間抗菌効果を発揮し得る酸化グラフェン被覆層形成を可能にするコーティング用組成物を見出して、本発明を完成させた。
本発明は以下のとおりである。
[1]
酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物であって、
前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が0.1〜20質量%の範囲である、前記組成物。
[2]
前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が5〜20質量%の範囲である、[1]に記載の組成物。
[3]
前記酸化グラフェン粒子は、厚さが0.4〜10nmであり、平面方向の大きさが20nm以上である薄膜状粒子である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]
前記組成物は、1日〜365日に1回または2回以上前記歯表面に塗布するために用いられ、塗布形成された酸化グラフェン被覆層は塗布形成後3日以上は、抗菌性を有する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5]
前記抗菌性は、口腔内の微生物に対する抗菌性である[1]〜[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6]
前記口腔内の微生物は、S.mutans、S. sobrinus、Lactobacillus、P.gingivalis、T. forsythia、P.intermedia、T.denticola、A.actinomycetemcomitans、E. corrodens、Spirochetes、Fusobacterium、およびC.albicansから成る群から選ばれる少なくとも1種である[5]に記載の組成物。
[7]
前記歯表面は、前記組成物を塗布前に表面を清浄化される、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の組成物。
[8]
前記分散液における酸化グラフェン粒子の濃度は0.01質量%以上の範囲である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[9]
前記分散液における酸化グラフェン粒子の濃度は0.1〜0.5質量%の範囲である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[10]
前記組成物は、前回塗布形成された被覆層の抗菌性が少なくとも一部残存している間に、次の塗布を行うために用いられる、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[11]
齲蝕及び/又は歯周病抑制または防止用である、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の組成物。
[12]
前記歯表面は、天然歯および/または人工歯の表面である、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の組成物。
[13]
前記天然歯の表面は、非研削表面および/または研削表面である、[12]に記載の組成物。
[14]
前記天然歯の表面は、エナメル質表面および/または象牙質表面および/またはセメント質である、[12]に記載の組成物。
[15]
前記人工歯は、義歯および/またはインプラントである、[12]に記載の組成物。
[16]
[1]〜[15]のいずれか一項に記載の組成物を含有する歯磨き用組成物または口腔内洗浄用組成物。
本発明によれば、生体に対する高い侵襲性を示さず、かつ口腔内における使用に際しても適度な耐久性を示し、長期間抗菌効果を発揮し得る酸化グラフェン被覆層形成を可能にするコーティング用組成物を提供することができる。
実施例1の実験(蛍光)結果を示す。 実施例1の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例1のコロニー形成計測試験結果を示す。 実施例2の実験結果(色調変化)を示す。 実施例2の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例2の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例2の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例2の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例2の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例3の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例3の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例3の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例3の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例4の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例4の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例4の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例5の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例5の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例6の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例6の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例6の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例6の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例6の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例7の実験結果(写真)を示す。 実施例7の実験結果(SEM観察)を示す。 実施例7の実験結果(SEM観察)を示す。
<抗菌性歯科用コーティング組成物>
本発明は、酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物に関する。本発明の組成物においては、前記水及びNMPの混合溶液は、NMPの濃度が0.1〜20質量%の範囲である。NMPの濃度が0.1〜20質量%の範囲の溶媒に分散した酸化グラフェンを用いることで、口腔内で用いても、生体に対する高い侵襲性を示さず、かつ口腔内における使用に際しても適度な耐久性を示し、長期間抗菌効果を発揮し得る酸化グラフェン被覆層を形成することができる。
NMPは、非特許文献2及び3に記載のように、象牙質に対して高い浸透性を有する溶媒である。そのため、非特許文献2及び3においては、90質量%のNMP(水10質量%)の溶媒がコーティングに用いられ、これにより象牙質表面に対して高い付着性を示すコーティングが可能であった。しかし、高濃度のNMPは、周辺組織に対する刺激性が高く、非特許文献2及び3に記載のコーティング剤をそのまま口腔内で使用はできなかった。これに対して、本発明者らが検討した結果、水とNMPとの比率が所定の範囲にある混合溶媒を用いることで、局所刺激性を抑制でき、かつ口腔内で使用に耐え得る適度な付着性を有するコーティング剤を提供できることを見出した。
水とNMPとの比率は、水の比率が高いほど、生体組織に対する刺激性は抑制できるが、付着性及び被覆層の耐久性が低下する。一方、NMPの比率が高いほど、付着性及び被覆層の耐久性は向上するが、生体組織に対する刺激性も高まる。水及びNMPの混合溶液におけるNMPの濃度は、0.1質量%未満では付着性及び被覆層の耐久性の低下が著しく、実用に耐え得ない。他方、20質量%を超えるNMPを含有すると、組織に対する高い刺激性を有する。そこで、NMPの濃度は0.1〜20質量%の範囲であり、前記範囲の下限は好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、である。前記範囲の上限は好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。尚、20質量%以下の濃度では、NMPの濃度が高いほど、弱いなりに刺激性はあるので、その点で低い方が好ましいが、歯表面への付着性および形成される被覆層の耐久性の観点では、NMPの濃度が高い方が好ましい。特に、付着の難易度が高く、耐久性においても厳しい条件である象牙質へのコーティングを良好に行うためには、NMPの濃度が高い方(例えば、5〜20質量%)が好ましい。
前記分散液における酸化グラフェン粒子の濃度としては、歯表面に耐久性の高い良好な被覆層を形成するという観点からは、例えば、0.01質量%以上の範囲であることが適当であり、より好ましくは、0.01〜0.5質量%の範囲であり、さらにより好ましくは0.1〜0.5質量%の範囲が適当である。
水、NMP及び酸化グラフェン粒子を含有する分散液は、市販の酸化グラフェン含有溶液と水及びNMPを任意に混合することで、調製することができる。酸化グラフェン含有溶液と水を混合した後にNMPを添加混合しても良いし、酸化グラフェン含有溶液を水とNMPの混合溶液に添加混合しても良い。
一般に、酸化グラフェン含有溶液に含有される酸化グラフェン粒子は黒鉛を特定の方法で酸化することにより製造される黒鉛の層間化合物である。酸化グラフェンを得るための黒鉛の酸化法としては、公知のBrodie法(硝酸、塩素酸カリウムを使用)、Staudenmaier法(硝酸、硫酸、塩素酸カリウムを使用)、Hummers−Offeman法(硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを使用)などが利用できる。これらのうち、特に酸化が進行するのはHummers−Offeman法(W.S.Hummers et al.,J.Am.Chem.Soc.,80,1339(1958);米国特許No.2798878(1957))であり、本発明でもこの酸化方法が特に推奨される。なお、層数が多い酸化グラフェンは通常酸化黒鉛と呼ばれるが、本発明では層数が多い場合も含めて酸化グラフェンと呼ぶことにする。
酸化グラフェンを層状に剥離し、層数の少ない酸化グラフェンを得るためには、例えば酸化グラフェンの精製を十分行えばよい。精製操作には、デカンテーション、濾過、遠心分離、透析、イオン交換などの公知の手段を用いればよい。精製時において、多層構造の分離は自発的に生じるが、これに加えて、振とうなどの撹拌操作やせん断力などの物理力を加えると分離がさらに促進されるので望ましい。超音波照射も利用可能であるが、層の分離と共に各層の基本構造が破壊されてアスペクト比が小さくなる傾向がある。以上の方法により、酸化グラフェン含有溶液を作製することができる。酸化グラフェンは単層または複層構造を有する物であることができる。
酸化グラフェン含有溶液中の酸化グラフェンの酸素含有量としては、5質量%以上であることが好ましく10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。酸素含有量が5質量%未満になると、酸化黒鉛からの層分離が困難になる。また、酸素含有量が30質量%以上であれば、酸化黒鉛からの層分離が容易になる。十分に酸化された状態として酸素含有量の上限は一般に50質量%程度までである。酸化グラフェン含有溶液中の酸化グラフェンの酸素含有量は、40℃で真空乾燥させた酸化グラフェンについて、前記のようにXPS(X線光電子分光法)等により評価することができる。
本発明で用いる酸化グラフェン含有溶液中の酸化グラフェン粒子は、厚さが0.4〜10nmであり、平面方向の大きさが20nm以上である薄膜状粒子であることが好ましい。この薄膜状粒子である酸化グラフェンは層構造を有する酸化グラフェンの基本層の層数が20層未満であり、緻密な炭素骨格を持っているにも関わらず、しなやかに変化することができる。そのため、歯表面において歯表面の微細な凹凸形状に沿って密着することができ、その結果強固な密着を実現でき、さらに、比較的薄膜であるために、歯表面に密着中に外力に対する抵抗が比較的小さく歯表面からの剥離に対する耐性も高くなる。その結果、歯表面に長期間とどまることが出来、持続的に抗菌性を付与することができる。
酸化グラフェン含有溶液中の酸化グラフェン粒子の厚みはできるだけ薄いものほど、薄い酸化グラフェン層を形成できるため望ましい。そこで、酸化グラフェン粒子の厚みとしては、5nm以下の厚みの酸化グラフェン粒子を60%以上含有しているものが好ましく、1.5nm以下の厚みの酸化グラフェン粒子を60%以上含有するものであるとさらに好ましい。厚みの評価は原子間力顕微鏡を用いて次のような方法で行うことができる。希釈した酸化グラフェン粒子の水分散液を基板(マイカ)の上に滴下し、原子間力顕微鏡により重なりのない孤立した粒子を見つけ、原子間力顕微鏡で測定される基板と孤立粒子の高さの差が粒子の厚みとなる。粒子にしわが形成されている場合、しわの部分は厚さを反映していないので、しわのない部分と基板との高さの差で厚みを評価するようにする。吸着水の影響もあるため、厚みが1.5nm以下は酸化グラフェンの層数が1層と考えられる。一定厚み以下の酸化グラフェンの含有割合は、30個の粒子について厚みを測定し、30個中の一定厚み以下の酸化グラフェンの割合で算出することとする。
さらに本発明で用いる酸化グラフェンは、一般的に極性の高い溶媒に分散がより良好である。本発明の組成物では、NMPの濃度が0.05〜20質量%の範囲の水との混合溶媒を用いることから、先行技術における分散液(90質量%NMP溶液)より、より分散状態が良好で、酸化グラフェン被覆層とした際に薄い膜を形成し易いという利点がある。
本発明で用いる酸化グラフェンは、厚さが0.4〜10nmであり、平面方向の大きさが20nm以上であり、比誘電率が15以上の液体に分散可能である薄膜状粒子である酸化グラフェンは、例えば、日本特許第4798411号公報に記載の製造方法を用いて製造することができる。また、酸化グラフェン分散液(nano GRAX(登録商標)、1wt%、三菱瓦斯化学(株))を用いることもできる。
本発明の歯科用コーティング組成物は、1日〜365日に1回または2回以上の頻度で、歯表面に塗布するために用いられる。本発明の歯科用コーティング組成物は、歯表面に比較的強固に付着した酸化グラフェン被覆層を形成するので、日常生活において容易に剥離しない。その為、塗布形成された酸化グラフェン被覆層は、塗布形成後少なくとも3日以上は抗菌性を発揮し得る程度に歯表面に存在し得る。通常の使用態様では、3日以上、あるいは4週間以上抗菌性を発揮し得る程度に歯表面に存在し得る。抗菌性を発揮し得る期間は、使用態様により異なる。長期に継続して本発明の組成物を使用する場合は、前回塗布形成された被覆層の抗菌性が少なくとも一部残存している間に、次の塗布を行うことが好ましい。
本発明の歯科用コーティング組成物は、広く口腔内に存在する、または存在し得る微生物に対して良好な抗菌性を発揮する。酸化グラフェンの抗菌性は、表面性状からの菌の付着制御と活性酸素による殺菌であると推察され、活性酸素で抑制される多くの菌に対して抗菌性を発揮すると考えられる。このような観点から、本発明の歯科用コーティング組成物が有効な菌には特に制限はなく、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans、S.mutansと表記することがある)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus、S. sobrinusと表記することがある)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ポルフィロモナス・ギンギバリス(Porphyromonas gingivalis、P. gingivalisと表記することがある)、タンネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia、T. forsythiaと表記することがある)、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia、P.intermediaと表記することがある)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola、T.denticolaと表記することがある)、アグレガチバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans、A .actinomycetemcomitansと表記することがある)、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens、E. corrodenと表記することがある)、スピロヘータ(Spirochetes)、フゾバクテリウム(Fusobacterium)、および カンジダ・アルビカンス(Candida albicans、C. albicansと表記することがある)等の微生物を例示できる。但し、これらは例示であって、これらの菌に制限される意図ではない。
本発明の歯科用コーティング組成物は、広く口腔内に存在する、または存在し得る微生物に対して良好な抗菌性を発揮するため、齲蝕及び/又は歯周病抑制又は防止用としても有用である。尚、上記菌の内、S mutans、sobrinus、Lactobacillusはう蝕原因菌であり、P gingivalis、T forsythia、P intermedia、T denticola、A actinomycetemcomitans、E corrodensは歯周病原因菌であり、 Spirochetes、 Fusobacteriumは壊死性歯肉炎原因菌であり、C albicansはカンジタ症原因菌である。
本発明の歯科用コーティング組成物を適用する、歯表面は、特に制限はなく、天然歯および/または人工歯の表面であることができる。天然歯の表面は、例えば、非研削表面および/または研削表面であることができ、あるいは天然歯の表面は、例えば、エナメル質表面および/または象牙質表面および/またはセメント質であることができる。また、人工歯は、例えば、義歯および/またはインプラントであることができる。本発明の組成物は、種々の歯の表面に対して良好な接着性を有す被覆層を形成でき、特に、比較的接着が難しい象牙質表面であっても、良好な接着性を示し、さらに優れた耐久性を有す被覆層を形成できる。また、天然歯のみならず、人工歯の表面に対しても、良好な接着性および耐久性を示す被覆層を形成できることから、入れ歯あるいはインプラントを有する対象者に対しても、良好な抗菌性効果を提供できる。
歯表面は、本発明の組成物塗布前に表面を清浄化することができ、清浄化することが好ましい。歯表面の清浄化は、例えば、精製水、EDTA(エチレンジアミン四酢酸) 含有水溶液またはEDTA含有アルカリ水溶液(pH=9〜10)等を挙げることができる。特に、象牙質面切削後のスミア層(切削屑)を効率よく除去する目的においては、EDTA含有水溶液またはEDTA含有アルカリ水溶液を用いて、歯表面を清浄化して、歯表面に酸化グラフェンが直接付着できるようにすることが好ましい。EDTA含有水溶液の場合は、EDTA濃度は10〜20%であることが適当であり、EDTA含有アルカリ水溶液の場合、EDTA濃度は1〜5%であることが適当である。
本発明の歯科用コーティング組成物は、前述のようにそのまま歯表面に塗布する使用形態以外に、この組成物を含有する歯磨き用組成物または口腔内洗浄用組成物として使用することもできる。本発明の歯科用コーティング組成物を含有する歯磨き用組成物は、通常の歯磨き用組成物に、本発明の歯科用コーティング組成物を添加したものであることができる。歯磨き用組成物がペースト状の組成物である場合、このペーストに適当量練り込んだ物であることができる。練り込む量は、特に限定はなく、本発明の歯科用コーティング組成物の組成及び歯磨き用組成物に求められる物性、特に、酸化グラフェン粒子を含む抗菌性被覆層の形成状況などを考慮して適宜選択できる。また、本発明の歯科用コーティング組成物を含有する口腔内洗浄用組成物は、通常の口腔内洗浄用組成物に、本発明の歯科用コーティング組成物を添加したものであることができる。口腔内洗浄用組成物が液状の組成物である場合、この液体に適当量の歯科用コーティング組成物を混合した物であることができる。混合量は、特に限定はなく、本発明の歯科用コーティング組成物の組成及び口腔内洗浄用組成物に求められる物性、特に、酸化グラフェン粒子を含む抗菌性被覆層の形成状況などを考慮して適宜選択できる。
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
実施例1
GO塗布プレートでのS.mutansに対する増殖阻害効果
<材料および方法>
酸化グラフェン(GO)分散液(nano GRAX(登録商標)、三菱瓦斯化学、1wt%)を蒸留水で希釈して0.5wt%GO溶液と0.1wt%溶液を作成した。ポリスチレンの培養用ディッシュを1cm×1cmの正方形にカットし、それぞれの溶液を塗布、大気中で乾燥させ、GOプレートを作製した。
S.mutansをBHI培地中で37℃で1日間嫌気培養した後、1分間超音波をかけて撹拌して懸濁液とした。1%スクロース含BHI培地にS.mutans が2.4×106個/mlとなるように懸濁液を加えた。作成した各GOプレートとコントロールとして未コーティングのプレートを24wellに垂直に固定し、調整したS.mutansを播種し、5日間、37℃嫌気培養した。各プレートをLIVE/DEAD染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。また、試料をホルマリン固定、脱水後SEM観察を行った。
次に、24wellプレートに0.5および0.1wt%GO溶液を200μl加えたのち大気中で乾燥してフィルムを作製し、S.mutans(2.4×106/ml)を播種し37℃で1日間嫌気培養した。コントロールとして、GOフィルムの無いプレートで同様に培養した。培地を除去後、PBSにて2回洗浄し、PBSを1ml添加、GOフィルムごとwell底面からスパチュラで剥離して1分間超音波をかけて撹拌して懸濁液とした。各懸濁液を100倍希釈し、寒天培地に4μlずつ播種し、37℃で12時間嫌気培養した。その後、各群のコロニー数を計測した。
<結果と考察>
5日後LIVE/DEAD染色の結果、GOフィルム上でもS.mutansは散在して付着していた。コントロールでは菌が増殖し、コロニーを形成しているのが観察されたが、GO群ではコントロールに比べて菌はかなり少なく、増殖抑制されたと考えられた(図1)。また、GOフィルムのSEM観察の結果、S.mutansの付着は認めたことから、S.mutansは付着できるものの、その後増殖できない可能性が考えられた(図2)。
コロニー形成数計測において、GO群はコントロール(32.9×104/μl)に比べ有意にコロニー形成抑制をみとめ、0.1wt%GO(8.9×104/μl)にくらべ0.5wt%GO(4.2×104/μl)でさらに抑制されていた(図3)。
<結論>
GOフィルムにS.mutansは付着できるがその後の増殖を強く抑制する可能性が示された。
実施例2
GO塗布義歯におけるS.mutansに対する増殖抑制効果
<材料および方法>
酸化グラフェン分散液(nano GRAX(登録商標)、三菱瓦斯化学、1wt%)を用いて、酸化グラフェン分散液を1、 NMPを1、蒸留水を8の割合で混合した0.1wt%酸化グラフェン溶液(10%-NMP。)と、酸化グラフェン分散液を1、NMP。を9で混合した0.1wt%酸化グラフェン溶液(90%-NMP。)の2種類を作製した。
義歯用レジン(アクロン、ライブピンク、GC)を用いて5×5mmの正方形のプレートを作製し、各酸化グラフェン溶液に10秒浸漬することでコーティングを行い、エタノールで洗浄、脱水・乾燥させ、表面をSEMにて観察した。また、酸化グラフェンコーティングした試料にS.mutans(2.4×106/ml)を播種し、37℃嫌気下にて3日間培養した。試料を固定後、通法に従ってSEM観察を行い、義歯用レジン表面への細菌の付着性について評価した。
<結果と考察>
酸化グラフェンコーティングの結果、肉眼的な変化は認めないが(図4)、SEM像においてコントロール(図5)に比較してどの条件でもレジン表面に酸化グラフェンと思われるしわ構造を観察した(図6矢印)。
細菌培養の結果、コントロールではしばしば大きなコロニーを認めたが(図7)、酸化グラフェンコーティング群では細菌付着は認めるもののコロニー形成は認めず(図8、9)、増殖が抑制されていると考えられた。
<結論>
義歯用レジンに酸化グラフェンコーティングすることで、抗菌性を発揮できた。
実施例3
GOコーティングにおけるGO濃度の影響
<材料および方法>
ヒト新鮮象牙質をトリミングして象牙質ブロックを形成した。象牙質表面を#600および#240の耐水ペーパーで研磨した。次にEDTA(スメアクリーン、日本歯科薬品、EDTA=3%)にて2分間処理して表面清掃を行い、蒸留水(大塚蒸留水)にて洗浄した。
酸化グラフェン(GO)水分散液(nano GRAX(登録商標)、三菱瓦斯化学)にNMPと蒸留水を添加して濃度の異なるGO分散液を作製した。NMP。の濃度は10wt%になるように設定し、GO濃度を0.5、0.1、0.01、0.001wt%および0wt%(コントロール)とした。
象牙質ブロックを各GO分散液に120秒間浸漬後、直ちに蒸留水にて洗浄した。また一部の象牙質ブロックは同様にGO分散液に浸漬して洗浄後、超音波洗浄器を用いて蒸留水中にて20秒間の超音波処理を行い、直ちに洗浄した。通法に従ってSEM観察を行い表面に形成されたGOフィルムを観察、またGOフィルムによる象牙細管の封鎖および管間部への付着に関してスコアを算出した。尚、超音波処理は以下の条件にて行った。
超音波発生装置:超音波洗浄器UC-0310 日本理化学器械
使用媒体:水
その他の条件:27kHz
尚、本実施例で採用した超音波処理条件は、ブラッシング10回(圧力30g)(ほぼ一般的なブラッシング条件)とほぼ同等か、超音波処理が若干除去力が強い条件である。
スコア3 象牙細管の封鎖率が80〜100%、管間部にフィルム形成があるもの
スコア2 象牙細管の封鎖率が20〜80%、管間部にフィルム形成があるもの
スコア1 象牙細管の封鎖率が0〜20%、管間部にフィルム形成があるもの
スコア0 象牙細管の封鎖率が0〜20%、管間部のフィルム形成がない、または不十分なもの
<結果と考察>
スコアを表1に示す。GO濃度0.5、0.1、0.01wt%では象牙細管を封鎖するように象牙質ブロック表面にGOフィルムが形成されており(図10a、c、図11a)、スコアは3であった。0.5、0.1wt%ではGOフィルム特有の皺構造を多く認め、フィルムが厚く形成されていると考えられた(図10a、c)。0.001wt%では象牙細管の開口が多く認められたが、管間部ではフィルムが形成されており(図11c)、スコアは2であった。0wt%(コントロール)では象牙細管の開口および管間部に象牙質コラーゲン線維の露出を認め(図12a、c)、スコアは0であった。
超音波処理後、GO濃度0.5、0.1wt%ではGOフィルムの脱落は少なく(図10b、d)、スコアも0.5wt%で3、0.1wt%で2を示した。0.01wt%では象牙細管の開口を多く認めたが、管間部にはフィルムが残存しており(図11b)、スコアは1であった。0.001wt%では管間部のフィルムの脱落も多く、象牙質のコラーゲン線維を多く認め(図11d)、スコアは0であった。コントロールでは象牙細管の開口と象牙質コラーゲンが観察された(図12b)。スコアは0であった。
<結論>
GO濃度0.5、0.1、0.01、および0.001wt%のGO分散液を塗布することで象牙質表面をほぼまんべんなくGOコーティングできることが明らかとなった。特に、GO濃度0.5、0.1、0.01wt%の分散液では象牙質の管間部のみならず象牙細管も封鎖できた。また、GO濃度0.5、0.1、0.01wt%では20秒の超音波処理に対しても象牙質管間部のGO塗布面は抵抗性を示したことから、GO濃度0.01wt%以上のGO塗布が物理的刺激に対しコントロールより明らかに高い耐久性が確認された。更に、0.1および0.5%wt%のGO塗布では、20秒もの超音波処理後においても大部分の象牙細管部の塗布も保持されており、0.1〜.0.5wt%GO塗布は、0.01%wtGO塗布に比し、更に強力な物理的刺激にも耐えられることが示された。
実施例4
GOコーティングにおけるNMP濃度の影響
<材料および方法>
ヒト新鮮象牙質をトリミングして象牙質ブロックを形成した。象牙質表面を#600および#240の耐水ペーパーで研磨した。次にEDTA(スメアクリーン、日本歯科薬品、EDTA=3%)にて2分間処理して表面清掃を行い、蒸留水(大塚蒸留水)にて洗浄した。
酸化グラフェン(GO)水分散液(nano GRAX(登録商標)、三菱瓦斯化学)に各種濃度のNMPあるいは蒸留水を添加して0.1wt%GO分散液を作製した。NMPの濃度は、90、20、10、5、1、0.1wt%の6種類とし、コントロールとして蒸留水のみで希釈したものを設定した。
象牙質ブロックを各GO分散液に120秒間浸漬後、直ちに蒸留水にて洗浄した。また一部の象牙質ブロックは同様にGO分散液に浸漬して洗浄後、超音波洗浄器にて水中にて、実施例3と同様の装置および媒体を用いて、20秒間の超音波振動を与え、直ちに洗浄した。通法に従ってSEM観察を行い表面に形成されたGOフィルムを観察、またGOフィルムによる象牙細管の封鎖および管間部への付着に関してスコアを算出した。
スコア3 象牙細管の封鎖率が80〜100%、管間部にフィルム形成があるもの
スコア2 象牙細管の封鎖率が20〜80%、管間部にフィルム形成があるもの
スコア1 象牙細管の封鎖率が0〜20%、管間部にフィルム形成があるもの
スコア0 象牙細管の封鎖率が0〜20%、管間部のフィルム形成がない、または不十分なもの
<結果と考察>
スコアを表2に示す。いずれのNMP濃度においても象牙質ブロック表面にGOフィルムが形成されており、象牙細管は封鎖されていた(図13a、c、図14a、c、図15a、c、図16a)。すべてのサンプルでスコアは3であった。
超音波処理後、NMP濃度90、20、10、5wt%ではGOフィルムの脱落は少なく(図13b、d、図14b、d)、スコアは2〜3を示し、1、0.1wt%では象牙細管の開口を多く認めたが管間部にはフィルムが残存しており(図15b、d)、スコアは1〜2であった。コントロールでは管間部のフィルムの脱落も多く、象牙質のコラーゲン線維を多く認めた(図16b)。スコアは0であった。
<結論>
NMPの有無にかかわらず象牙質表面をGOコーティングできることが明らかとなった。但し、水のみで調製されたGO分散液(コントロール)の場合、超音波処理でのGOフィルムの剥離が管間部にまで及んでおり、物理的な刺激に非常に弱いことが確認され、GO分散液中のNMP濃度としては0.1wt%以上が好ましいと考えられた。更に、より強力な物理刺激に対しては、5%以上がより好ましいことが示唆された。但し、別途行った動物実験で、NMP濃度90wt%は、組織局所への刺激性が強くin vivoでの使用には向かないことを考慮すると、NMP濃度としては、5〜20 wt%が最も好ましいと言える。
実施例5
GO塗布ヒト歯におけるGO塗布濃度のS.mutansの増殖抑制に対する影響
<材料および方法>
ヒト新鮮象牙質をトリミングして象牙質ブロックを形成した。象牙質表面を#600および#240の耐水ペーパーで研磨した。次にEDTA(スメアクリーン、日本歯科薬品、EDTA=3%)にて2分間処理して表面清掃を行い、蒸留水(大塚蒸留水)にて洗浄した。
酸化グラフェン(GO)水分散液(nano GRAX(登録商標)、三菱瓦斯化学)にNMPと蒸留水を添加してGO濃度の異なるGO分散液を作製した。NMPの濃度は10wt%になるように設定し、GO濃度を0.1、0.01、0.001wt%および0wt%(コントロール)とした。
象牙質ブロックを各GO分散液に120秒間浸漬後、直ちに蒸留水にて洗浄した。また一部の象牙質ブロックは同様にGO分散液に浸漬して洗浄後、超音波洗浄器を用いて蒸留水中にて20秒間の超音波処理を行い、直ちに洗浄した。
これらの試料にS.mutans(2.4×106/ml)を播種し、37℃嫌気下にて24時間培養した。試料を固定後、通法に従ってSEM観察を行い、象牙質表面への細菌の付着性について評価した。
<結果と考察>
GO濃度0.1、0.01wt%では細菌が散在して付着しているのに対し(図17a-d)、GO濃度0.001wt%1、およびコントロールでは細菌が増殖して層をなしバイオフィルムを形成しているのが観察された(図18a-d)。
<結論>
GOコーティング象牙質のS.mutansに対する抗菌性は、GOコーティング濃度0.01wt%以上で十分発揮されることが示された。また、GO濃度0.001wt%の塗布の場合、実施例3で示したように象牙質管間部のGO塗布面も20秒間の超音波処理で剥離が認められており、象牙質管間部のGOの剥離は、抗菌活性を大きく減弱することを示している。
また、実施例3、4および5の結果を総合すると、長期の抗菌性を期待して象牙質にGO塗布する場合、GO分散液中のGO濃度およびNMP濃度としては、それぞれ下記の条件が好ましいことが判明した。
(1)GO濃度としては、0.01wt%以上が好ましく、より好ましくは、0.01〜0.5質量%の範囲であり、更により好ましくは、0.1〜0.5wt%の範囲である。
(2)NMP濃度としては、0.1〜20wt%が好ましく、5〜20 wt%がより好ましい。
上記結果をもとに、本発明組成物の口腔内での耐久性を確認する目的で、代表的事例としてGO濃度0.1wt%、NMP濃度10%のGO分散液を用いてラットおよびイヌの歯の窩洞部分にGOコーティングし、in vivoでのコーティングの持続性および抗菌活性の持続性をSEMを用いて確認した。
実施例6
ラットを用いたGO塗布歯窩洞での長期的な抗菌効果の持続性
<材料および方法>
酸化グラフェン分散液(1wt%、nano GRAX(登録商標)、三菱瓦斯化学)を用いて、酸化グラフェン分散液を1、 NMPを1、蒸留水を8の割合(質量比、以下、特に断らない限り同様)で混合して、0.1wt%酸化グラフェン溶液(NMP10質量%)を作製した。
ウィスターラット(10週齢)に全身麻酔下を行い、ラウンドバーを用いて下顎切歯(門歯)及び上顎臼歯の頬側面に象牙質が露出するまで窩洞を形成した(図1-a)。次に窩洞をEDTA(スメアクリーン、日本歯科薬品、EDTA=3% )にて清掃して乾燥し、上述の酸化グラフェン溶液をたっぷり塗布した。コントロールはEDTA清掃および乾燥のみとした。下顎切歯は施術直後、3日後に、また上顎臼歯は2週間後、4週間後に摘出して、固定後、通法に従ってSEM観察を行い、象牙質面への細菌の付着性について評価した。
<結果と考察>
塗布直後のSEM観察において、コントロールでは露出象牙質表面に象牙細管の開口を認めたが(図19−b)、酸化グラフェン塗布後は窩洞表面に酸化グラフェン被膜が形成されており、象牙質表面の象牙細管は封鎖されていた(図19−c)。術後3日(切歯、図20a、b)、2週(臼歯、図21)、4週(臼歯、図23a、b)ともに酸化グラフェン塗布窩洞面は酸化グラフェン被膜が形成されており、細菌の付着はほとんど認めず、まれに細菌が存在してもコロニー・プラーク形成はほとんど認めなかったことから、細菌増殖を抑制しているものと考えられた。一方でコントロール(図20c、d、図22、図23c、d)では、しばしば細菌の付着を認め、象牙細管内に侵入する様子や、大量にプラーク形成されている部位も認めた。
<結論>
酸化グラフェンをラット歯面に塗布すると、表面に酸化グラフェンフィルムが形成され、口腔内細菌の付着増殖を抑制した。酸化グラフェン塗布後3日間以上、4週間後においても、その塗布面は維持されており、その抗菌効果も持続していた。
また、ラット口腔内でのNMP10質量%の酸化グラフェン分散液の塗布において、口腔内での侵襲性(強い刺激性に伴う麻酔を施したラットの反応)は、特に、観察されなかった。
実施例7
イヌを用いたGO塗布歯窩洞での長期的な抗菌効果の持続性
<材料および方法>
酸化グラフェン分散液(nano GRAX(登録商標)、1wt%、三菱瓦斯化学)を用いて、酸化グラフェン分散液を1、NMPを1、蒸留水を8の割合で混合して、酸化グラフェン溶液(0.1wt%)(NMP10質量%)を作製した。
ビーグル犬(メス、12-16か月齢)に全身麻酔を行い、ラウンドバーを用いて下顎切歯の頬側面に象牙質が露出するまで窩洞を形成した(図24-a)。次に窩洞をEDTA(スメアクリーン、日本歯科薬品、EDTA=3%)にて清掃して乾燥し、上述の酸化グラフェン溶液をたっぷり塗布した(図24)。コントロールはEDTA清掃および乾燥のみとした。塗布直後および1週間後に歯を摘出して、固定後、通法に従ってSEM観察を行い、窩洞面の微細構造、細菌の付着性について評価した。
<結果と考察>
酸化グラフェンフィルム塗布イヌでは、歯の表面に酸化グラフェンフィルムが形成されており象牙細管も封鎖されていた。塗布後1週において、窩洞に形成された酸化グラフェンフィルム上に細菌の付着はほとんど認めなかった。一方、コントロールでは象牙細管の開口が認められ(図25)、1週間後において窩洞部位に大量のプラークが形成されていた(図26)。
<結論>
酸化グラフェンを塗布すると、酸化グラフェン皮膜が歯面に形成され、菌の付着増殖を抑制し、その効果は少なくても1週間は持続した。
また、イヌ口腔でのNMP10質量%の酸化グラフェン分散液の塗布においては、口腔内での侵襲性(強い刺激性に伴う麻酔を施したビーグル犬の反応)は、特に、観察されなかった。
本発明は歯科用コーティング、特に抗菌性に関する分野に有用である。

Claims (16)

  1. 酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物であって、
    前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が0.1〜20質量%の範囲である、前記組成物。
  2. 前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が5〜20質量%の範囲である、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記酸化グラフェン粒子は、厚さが0.4〜10nmであり、平面方向の大きさが20nm以上である薄膜状粒子である、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記組成物は、1日〜365日に1回または2回以上前記歯表面に塗布するために用いられ、塗布形成された酸化グラフェン被覆層は塗布形成後3日以上は、抗菌性を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
  5. 前記抗菌性は、口腔内の微生物に対する抗菌性である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
  6. 前記口腔内の微生物は、S.mutans、S. sobrinus、Lactobacillus、P.gingivalis、T. forsythia、P.intermedia、T.denticola、A.actinomycetemcomitans、E. corrodens、 Spirochetes、Fusobacterium、およびC.albicansから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の組成物。
  7. 前記歯表面は、前記組成物を塗布前に表面を清浄化される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
  8. 前記分散液における酸化グラフェン粒子の濃度は0.01質量%以上の範囲である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
  9. 前記分散液における酸化グラフェン粒子の濃度は0.1〜0.5質量%の範囲である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
  10. 前記組成物は、前回塗布形成された被覆層の抗菌性が少なくとも一部残存している間に、次の塗布を行うために用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
  11. 齲蝕及び/又は歯周病抑制または防止用である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
  12. 前記歯表面は、天然歯および/または人工歯の表面である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
  13. 前記天然歯の表面は、非研削表面および/または研削表面である、請求項12に記載の組成物。
  14. 前記天然歯の表面は、エナメル質表面および/または象牙質表面および/またはセメント質である、請求項12に記載の組成物。
  15. 前記人工歯は、義歯および/またはインプラントである、請求項12に記載の組成物。
  16. 請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物を含有する歯磨き用組成物または口腔内洗浄用組成物。
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