JP2016069255A - ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子 - Google Patents

ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子 Download PDF

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Abstract

【課題】1.75〜1.80の範囲の屈折率ndおよび47〜52の範囲のアッベ数νdを有し、安定供給可能であり、高い製造歩留りを達成可能なガラスを提供すること。【解決手段】La2O3、Y2O3、ZrO2、ZnOおよびNb2O5、ならびに、B2O3およびSiO2の一方または両方を少なくとも含み、質量%表示で、B2O3とSiO2との合計含有量が28〜38%、La2O3、Y2O3、Gd2O3およびYb2O3の合計含有量が48〜60%、Gd2O3含有量が3%未満、Yb2O3含有量が2%未満、ZrO2含有量が2〜14%、WO3含有量が1%未満、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が5%以下、質量比((La2O3+Y2O3)/(La2O3+Y2O3+Gd2O3+Yb2O3))が0.94以上、((La2O3+Y2O3+Gd2O3+Yb2O3)/(B2O3+SiO2))が1.9以下、((Nb2O5/(La2O3+Y2O3+Gd2O3+Yb2O3+Nb2O5+TiO2+WO3))が0.003以上、(ZnO/(ZrO2+Nb2O5+Ta2O5))が0.2〜1.4、(ZnO/Y2O3)が0.30以上、((Li2O+ZnO)/(La2O3+Y2O3+Gd2O3+Yb2O3+ZrO2+Nb2O5+Ta2O5))が0.11以下、ndが1.75〜1.80の範囲、νdが47〜52の範囲であるガラス。【選択図】なし

Description

本発明は、ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子に関する。詳しくは、屈折率ndが1.75〜1.80の範囲であり、かつアッベ数νdが47〜52の範囲であるガラス、ならびにこのガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子に関する。
カメラレンズなどの撮像光学系やプロジェクタなどの投射光学系等の光学系を構成する光学素子材料として、1.75〜1.80の範囲の屈折率ndおよび47〜52の範囲のアッベ数νdを有する高屈折率・低分散光学ガラスが使用されている。例えば特許文献1〜10に、そのような高屈折率・低分散光学ガラスが記載されている。なお以下において、屈折率、アッベ数は、特記しない限り、d線に対する屈折率nd、d線に対するアッベ数νdをいうものとする。
特開昭61−219738号公報 特開2004−231501号公報 WO2013/034082 特開昭59−195553号公報 特開昭55−116641号公報 特開昭56−041850号公報 特開2005−239544号公報 特開2007−269584号公報 特開2008−222479号公報 US2009/0088310A1
ガラス成分の中で、希土類酸化物は、分散を大きく高めることなく(アッベ数を大きく下げることなく)屈折率を高めることができるため、高屈折率・低分散ガラスを作製するために有用な成分とされている。そのため特許文献1〜3に記載の光学ガラスは、いずれも、希土類酸化物の一種以上を含んでいる。希土類酸化物の中でもGdは、高屈折率・低分散特性の付与とガラスの着色抑制とに寄与し得る成分として知られており、例えば特許文献1には、Gdを3.0質量%以上含む光学ガラスが開示されている。しかしGdを含む光学ガラスを作製するためのGd化合物は、重希土類金属化合物に属し、希土類化合物の中でも特に高価であり、例えば同じく希土類であるLa、Y化合物の4倍以上の高値で市場に流通されている。そのため高屈折率・低分散光学ガラスを低価格で安定供給するためには、Gd含有量を低減することが望ましい。
一方、特許文献3の実施例には、Gdを含まない光学ガラスが開示されている。しかし本発明者の検討によれば、特許文献3に記載の光学ガラスは、製造歩留りが低いという課題がある。これは、次の理由による。特許文献3に記載の光学ガラスは、ガラスを熔融するときに、原料が完全に熔けず、原料の一部がガラス中に残ってしまう。このようにガラス中に残った原料は未熔解物と呼ばれる。光学ガラスには高い均質性が求められるため、製造したガラスの未熔解物が存在する部分は不良品となり破棄せざるを得ず、製造歩留りが低下してしまう。
本発明者の検討によれば、上記と同様の課題は、特許文献4、6〜10に記載されている光学ガラスにも存在する。
また、本発明者らの検討によれば、特許文献5に記載されている光学ガラスにも、製造歩留りが低いという課題がある。これは、ガラス製造時に結晶化しやすいことが理由である。
以上の通り、従来の1.75〜1.80の範囲の屈折率ndおよび47〜52の範囲のアッベ数νdを有する高屈折率・低分散光学ガラスには、安定供給および製造歩留りの点で、更なる改善が求められる。
本発明の一態様は、1.75〜1.80の範囲の屈折率ndおよび47〜52の範囲のアッベ数νdを有し、安定供給可能であり、高い製造歩留りを達成可能なガラスを提供することを目的とする。
本発明の一態様は、
La、Y、ZrO、ZnOおよびNb、ならびに、BおよびSiOの一方または両方、を少なくとも含み、
質量%表示で、
とSiOとの合計含有量が28〜38%、
La、Y、GdおよびYbの合計含有量が48〜60%、
Gd含有量が3%未満、
Yb含有量が2%未満、
ZrO含有量が2〜14%、
WO含有量が1%未満、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が5%以下、
であり、
質量比((La+Y)/(La+Y+Gd+Yb))が0.94以上、
質量比((La+Y+Gd+Yb)/(B+SiO))が1.9以下、
質量比((Nb/(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO))が0.003以上、
質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が0.2〜1.4、
質量比(ZnO/Y)が0.30以上、
質量比((LiO+ZnO)/(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta))が0.11以下、
であり、
屈折率ndが1.75〜1.80の範囲であり、かつアッベ数νdが47〜52の範囲であるガラス、
に関する。
上述の一態様にかかるガラスは、上記範囲の屈折率およびアッベ数を有するガラスであって、Gd含有量を低減しつつ、上述の含有量および質量比を満たすことにより、未熔解物の発生およびガラス製造時の結晶化を抑制することができる。
本発明の一態様によれば、Gd含有量が少なく安定供給可能であって、かつ高い製造歩留りを達成可能なガラスを提供することができる。更に、本発明の一態様によれば、上記ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子を提供することができる。
図1は、比較例2で評価したガラスの写真である。 図2は、比較例3で評価したガラスの写真である。 図3は、比較例2、3と同様の方法で評価した、後述の表1のNo.12の組成のガラスの写真である。
[ガラス]
本発明の一態様にかかるガラスは、上記ガラス組成を有し、1.75〜1.80の範囲の屈折率ndおよび47〜52の範囲のアッベ数νdを有するガラスである。以下、上記ガラスの詳細について説明する。
<ガラス組成>
本発明では、ガラスのガラス組成を、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成は質量基準(質量%、質量比)で表示するものとする。
本発明におけるガラス組成は、例えばICP−AES(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)などの方法により定量することができる。ICP−AESにより求められる分析値は、分析値の±5%程度の誤差を含んでいることがある。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。
以下に、上記ガラスのガラス組成について、更に詳細に説明する。
、SiOは、ともにガラスのネットワークを形成する成分である。Bの含有量とSiOの含有量の合計、すなわち、BとSiOの合計含有量(B+SiO)を28%以上とすることにより、ガラスの熱的安定性を高くすることができる。熱的安定性の高いガラスによれば、ガラス製造時の結晶化(失透)を抑制することができる。BとSiOの合計含有量を38%以下であることにより、屈折率を高めることができる。したがって、BとSiOの合計含有量の範囲を28〜38%とする。BとSiOの合計含有量の好ましい下限は29%、より好ましい下限は30%であり、BとSiOの合計含有量の好ましい上限は36%、より好ましい上限は35%である。
は、ガラスの熱的安定性、熔融性を改善する働きをする成分である。熔融性を改善することにより、ガラス原料の熔け残りがなく、均質なガラスを得ることができる。このような効果を得る上から、Bの含有量の好ましい下限は25%、より好ましい下限は28%である。一方、Bの含有量が多くなると、屈折率が低下する傾向を示す。ガラスの熱的安定性を維持しつつ、所望の光学特性を得る上から、Bの含有量の好ましい上限は36%、より好ましい上限は33%である。
SiOは、ガラスの熱的安定性、化学的耐久性を改善し、熔融ガラスを成形する際の粘度の調整に有効な成分ある。このような効果を得る上から、SiOの含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は1.5%である。一方、SiOの含有量が多くなると、屈折率が低下する傾向を示すとともに、ガラスの熔融性も低下する傾向を示す。また、ガラス転移温度が過剰に上昇する傾向を示す。ガラスの熱的安定性、熔融性を維持しつつ、所望の光学特性を得る上から、SiOの含有量の好ましい上限は5%、より好ましい上限は4%である。
La、Y、Gd、Ybは、いずれも分散を高めずに(アッベ数を低下させずに)屈折率を高める働きを有する成分である。La、Y、GdおよびYbの各成分の含有量の合計、すなわち、La、Y、GdおよびYbの合計含有量(La+Y+Gd+Yb)が48%以上であれば、所望の光学特性を得ることができる。一方、La、Y、GdおよびYbの合計含有量が60%以下であれば、ガラスの熱的安定性を向上することができ、ガラス製造時のガラスの失透を抑制することができる。また、熔融性も向上し、ガラスの中に原料の未熔解物が残留することを抑制することができる。また、ガラス転移温度の過剰の上昇を抑制することもできる。したがって、La、Y、GdおよびYbの合計含有量の範囲を48〜60%とする。La、Y、GdおよびYbの合計含有量の好ましい下限は50%、より好ましい下限は52%である。La、Y、GdおよびYbの合計含有量の好ましい上限は58%、より好ましい上限は56%である
La、Y、GdおよびYbの中で、Laは比較的多く含有させても、ガラスの熱的安定性が低下しにくい成分である。そこで、上記ガラスには、GdおよびYbの含有量を抑えつつ、ガラスの熱的安定性を維持し、所望の光学特性を得るために、LaとともにYを含有させる。所望の光学特性を実現しつつ、ガラスの熱的安定性を維持するために、La、Y、GdおよびYbの合計含有量に対するLaおよびYの合計含有量(La+Y)の質量比((La+Y)/(La+Y+Gd+Yb))を0.94以上とする。Gd、Ybの含有量を削減しつつ、ガラスの熱的安定性を維持し、所要の光学特性を得るために、質量比((La+Y)/(La+Y+Gd+Yb))を0.96以上にすることが好ましく、0.98以上にすることがより好ましい。
ガラスの熱的安定性を維持し、所望の光学特性を得る上から、質量比((La/(La+Y))は、0.9以下にすることが好ましい。ガラスの熱的安定性を維持し、所望の光学特性を得る上から、質量比((La/(La+Y))のより好ましい上限は0.85であり、好ましい下限は0.70、より好ましい下限は0.75である。
Gdは、ガラスの可視域の短波長側における透過率を低下させる作用を有する。また、ガラスの比重を増加させる作用を有する。さらに、Gdは、LaやYと比べ原料化合物の供給量が減少し、先に記載したように、原料価格が高騰している。したがって、上記ガラスでは、ガラスの可視域の短波長側に透過率を高め、比重の増加を抑え、ガラスの生産コストの上昇を抑える上から、Gdの含有量を3%未満(3.0%未満)にする。即ち、Gd含有量は、0〜3%の範囲である。Gd含有量の好ましい範囲は2%以下、より好ましい範囲は1%以下、更に好ましい範囲は0.5%以下である。ガラスがGdを含有しない、すなわち、Gd含有量をゼロにしてもよい。
Ybは、前述の通り、希土類酸化物の中で、原料化合物が高価な成分である。また、ガラス中において近赤外線を吸収する作用を有する。したがって、ガラスの生産コストの上昇を抑え、近赤外線の透過率を改善する上から、Ybの含有量を2%未満とする。Ybの含有量の好ましい範囲は0%以上1%未満、より好ましい範囲は0〜0.9%、さらに好ましい範囲は0〜0.5%、一層好ましい範囲は0%以上0.1%未満であり、Yb含有量を0%としてもよい。
ガラスのネットワーク形成成分であるB、SiOは熱的安定性を維持する働きがある。一方、高屈折率低分散特性を得る上で有効な成分であるLa、Y、Gd、Ybを多量に含有させると、ガラスの熱的安定性が悪化し、ガラスが失透しやすくなる。そこで、ガラスの熱的安定性を良好に維持する上から、上記ガラスでは、La、Y、GdおよびYbの合計含有量をBおよびSiOの合計含有量で除した値、すなわち、質量比((La+Y+Gd+Yb)/(B+SiO))を1.9以下とする。質量比((La+Y+Gd+Yb)/(B+SiO))の好ましい上限は1.8、より好ましい上限は1.7、好ましい下限は1.45、より好ましい下限は1.55である。
ZrOは、屈折率を高めるとともに、ガラスの熱的安定性の改善に有効な成分である。ZrOの含有量が2%〜14%の範囲であれば、良好な熱的安定性を得ることができる。また、ZrOの含有量が14%以下であることにより、低分散特性を得ることもできる。したがって、上記ガラスでは、ZrOの含有量を2〜14%とする。ZrOの含有量の好ましい下限は3%、より好ましい下限は4%であり、好ましい上限は12%、より好ましい上限は10%である。
Nbは、ガラスの熱的安定性を維持しつつ、屈折率を高める働きをする必須成分である。ガラスの熱的安定性を維持しつつ、所望の光学特性を得るために、Nbの含有量を、La、Y、Gd、Yb、Nb、TiOおよびWOの合計含有量(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO)で除した値、すなわち、質量比(Nb/(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO))を0.003以上とする。熱的安定性を維持する上から、質量比(Nb/(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO))の好ましい下限は0.005、より好ましい下限は0.01である。ガラスの熱的安定性を維持しつつ、所望の光学特性を得る上から、質量比(Nb/(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO))の好ましい上限は0.04、より好ましい上限は0.03である。
Nb含有量の好ましい範囲は次の通りである。ガラスの熱的安定性を改善する上から、Nbの含有量の好ましい下限は0.3%、より好ましい下限は0.6%である。また、ガラスの熱的安定性を維持し、着色を抑える上から、Nbの含有量の好ましい上限は2%、より好ましい上限は1.5%である。
Taは、ガラスの熱的安定性を改善する働きのある成分である。ただし、高屈折率化成分の中でも高価な成分であり、ガラスの比重を増大させる働きをする。また、Taの含有量が多くなると、ガラスが着色する傾向を示す。したがって、ガラスの生産コストを抑えることによりガラスをより安定に供給し、比重の増加および着色を抑える上から、Taの含有量を0〜3%の範囲にすることが好ましく、0〜2%の範囲にすることは好ましい。Taの含有量を0%にすることもできる。
TiOもガラスの屈折率を高める働きをする成分である。ガラスの熱的安定性を維持しつつ、所望の光学特性を得る上から、TiOの含有量の好ましい範囲は0〜2%、より好ましい範囲は0〜1%であり、0%にすることもできる。
WOは、屈折率を高める働きを有する成分である。ただしWOを多く含むガラスは、分光透過率の短波長側の光吸収端が長波長化するため、紫外線の透過率は低下する。一方、光学素子を鏡筒などに固定する際、一般に、紫外線硬化型接着剤が使用され、通常、光学素子を通して接着剤に紫外線が照射される。また、光学素子が、光学素子(レンズ)同士を接合して接合レンズを得るために用いられる場合、一般に、レンズ同士の接合は、次のように行われる。まずレンズ同士の接合面に紫外線硬化型接着剤を塗布し、レンズ同士を貼り合せる。その後、レンズを通して接着剤に紫外線を照射し接着剤を硬化させる。ここで、レンズを構成するガラスの紫外線透過率が低いと、接着剤の硬化に時間がかかるか、または、硬化が困難となる。したがって、ガラスとしては、分光透過率の短波長側の光吸収端を短波長化されたガラスが望ましい。この点に関し、WOの含有量が1%未満であれば、ガラスの分光透過率の短波長側の吸収端が長波長化することにより紫外線の透過率が著しく低下することを回避することができる。そこで上記ガラスでは、WOの含有量を1%未満とする。即ち、上記ガラスにおいて、WO含有量は0%以上1%未満である。WO含有量は、好ましくは0.5%以下であり、0%としてもよい。
ZnOは、熔融性の改善、ガラス転移温度の過剰な上昇の抑制、光学特性の調整に有効な必須成分である。ZnOの含有量は、ZrO、NbおよびTaの合計含有量(ZrO+Nb+Ta2O5)、ならびにYの含有量によって、次のように定められる。
ZnO含有量をZrO、NbおよびTaの合計含有量で除した値、すなわち、質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が0.2以上であれば、熔融性を改善することができるため、原料が熔け残って(未熔解物が残って)、ガラスの均質性が著しく低下することを防ぐことができる。また、質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が0.2以上であれば、ガラス転移温度が過剰に高くなることによりガラスの成形性が悪化傾向を示すことを防ぐこともできる。またガラスの熱的安定性を維持しつつ、所要の光学特性を得ることもできる。原料に由来する未熔解物は、本来、他の成分とともにガラス化してガラス成分になるべきものが、ガラス化せずに異物としてガラス中に残ったものである。そのため、未熔解物が多量に発生したガラスでは、特定成分の含有量が目標の値より少なくなる。その結果、作製したガラスの特性が目標の値からずれてしまう。原料を完全に熔解させるためにガラスの熔解温度を過剰に高めると、熔融容器を構成する白金がガラス融液にイオンとして溶け込んでガラスの着色を増大させたり、固形物としてガラス融液に混入してガラスの均質性を低下させてしまう。さらに、ガラス熔融時にガラス融液から揮発性のあるホウ素Bなどの特定成分が揮発し、生産するガラスの特性が経時的に変化したり、成形したガラス中に脈理と呼ばれる光学的に不均一な部分が生じることもある。ガラス熔融時の結晶化を防ぐためにガラスの熔解温度を過剰に高めても同様の現象が生じる。
そこで上記の現象が起こらないようにするため、ガラスの熔解性および熱的安定性を良好に維持することは、高品質のガラスを安定して生産する上で好ましい。
質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が1.4以下であれば、熱的安定性を維持しつつ、所要の光学特性を得ることができる。また、研削、研磨などの加工性が良好なガラスを得ることもできる。
以上の点から、上記ガラスでは、質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))を0.2〜1.4の範囲とする。質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))の好ましい下限は0.3、より好ましい下限は0.4であり、好ましい上限は1.1、より好ましい上限は0.9である。
ZrO、Nb、Taの合計含有量を適正化することにより、ガラスの熱的安定性を改善することができる。熱的安定性の改善により、液相温度を低下させることもできる。ZrO、Nb、Taは、同じ高屈折率化成分であるLa、Gd、Y、Ybと比較すると、含有量が増加するにつれて、ガラスを高分散化しやすい(アッベ数を低下させやすい)成分でもある。ガラスの熱的安定性を維持しつつ、所望の光学特性を実現する上から、ZrO、Nb、Taの合計含有量(ZrO+Nb+Ta)の好ましい下限は3%、より好ましい下限は4%、更に好ましい下限は5%であり、好ましい上限は14%、より好ましい上限は12%、更に好ましい上限は10%である。
ガラスの熔融性、熱的安定性を改善し、所望の光学特性を実現する上から、ZnOの含有量の好ましい範囲は2〜9%である。ZnOの含有量の好ましい下限は3%、より好ましい下限は4%であり、好ましい上限は7%、より好ましい上限は6%である。
ZnO含有量をY含有量で除した値、すなわち、質量比(ZnO/Y)を0.30以上とすることにより、ガラスの熔融性を改善することができるため、原料の熔け残りを防ぐことができる。また、ガラス転移温度が過剰に上昇してガラスの成形性が悪化することを防ぐこともできる。したがって、上記ガラスでは、質量比(ZnO/Y)を0.30以上とする。質量比(ZnO/Y)の好ましい下限は0.35、より好ましい下限は0.40である。
ところで、ガラス特性の中で、ガラス転移温度は、成形性、加工性に対応するガラスの物性値である。ガラス転移温度が高すぎるとガラスを高温で成形しなくてはならなくなる。そのため、成形型を長時間、高温に晒すことになり、成形型の熱劣化が著しくなる。一方、ガラス転移温度が低いと成形性を改善することはできるが、ガラスを研削したり、研磨したりするときの加工性が悪化傾向を示す。例えば前述の特許文献2に記載の光学ガラスは、ガラス転移温度が低く、ガラスを研削したり、研磨する際の加工性は良好とは言えない。成形性と加工性を両立する上からは、ガラス転移温度を低下させる働きのあるZnOやLiOの含有量と、ガラス転移温度を上昇させる働きのあるLa、Y、Gd、Yb、ZrO、Nb、Taの含有量のバランスを適正に保つことが望まれる。そのため、LiO含有量とZnO含有量の合計(LiO+ZnO)をLa、Y、Gd、Yb、ZrO、Nb、Taの合計含有量(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta)で除した値、すなわち、質量比((LiO+ZnO)/(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta))を0.11以下とする。上記質量比を0.11以下とすることにより、ガラス転移温度が低下し過ぎて加工性が悪化することを防ぐことができる。質量比((LiO+ZnO)/(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta))の好ましい上限は0.10、より好ましい上限は0.09である。一方、ガラスの成形性を維持する上から、質量比((LiO+ZnO)/(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta))の好ましい下限は0.04、より好ましい下限は0.06である。
MgO、CaO、SrO、BaOは、ガラスの熔融性を改善する働きを有するが、MgO、CaO、SrOおよびBaOの各成分の含有量の合計(MgO+CaO+SrO+BaO)が5%を超えると、屈折率が低下し、所望の光学特性を得ることが容易でなくなるとともに、ガラスの熱的安定性が低下する傾向を示す。したがって、上記ガラスにおいて、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)の範囲は、0〜5%とする。上記合計含有量の範囲は0〜3%とすることがより好ましく、0〜1%とすることが更に好ましく、0%としてもよい。
Fは、熔融時のガラスの揮発性を著しく高める。そのため、Fの含有量が多いガラスは光学特性が変動しやすく、脈理が発生したり、均質性が低下しやすい。均質性が高く、光学特性が安定しているガラスを得るために、Fの含有量を0.1%未満とすることが好ましく、0.05%以下にすることが好ましい。Fの含有量を0%としてもよい。
希土類成分のうち、Laは比較的多く含有させても、ガラスの熱的安定性を維持することができる。そこで上記ガラスは、Laを必須成分として含む。Laの含有量が多くなるとガラスの熱的安定性が低下する傾向を示すため、Laの含有量の範囲を35〜55%とすることが好ましい。Laの含有量のより好ましい下限は38%、更に好ましい下限は40%であり、より好ましい上限は50%、更に好ましい上限は48%である。
は、適量含有させることにより、ガラスの熱的安定性を改善する働きを示す成分である。このような効果を得るために、上記ガラスは、Yを必須成分として含む。Yの含有量は5%以上とすることが好ましい。一方、ガラスの熱的安定性を維持する上から、Yの含有量を15%以下とすることが好ましく、14%以下とすることがより好ましく、13%以下とすることがさらに好ましく、12%未満とすることが一層好ましい。Yの含有量のより好ましい下限は7%、更に好ましい下限は8%である。
LiO、NaO、KO、CsOは、ガラスの熔融性を改善する働きを有する。所望の屈折率および良好な熱的安定性を得る上で、LiO、NaO、KOおよびCsOの各成分の含有量の合計(LiO+NaO+KO+CsO)は、0〜5%の範囲とすることが好ましく、より好ましい範囲は0〜3%、更に好ましい範囲は0〜1%であり、0%としてもよい。
GeOは、網目形成酸化物、すなわち、ガラスのネットワーク形成成分であり、屈折率を高める働きもする。そのため、ガラスの熱的安定性を維持しつつ屈折率を高めることができる成分である。しかし、GeOは非常に高価な成分であるため、その含有量を控えることが望まれる成分である。GeOの含有量の好ましい範囲は0〜3%、より好ましい範囲は0〜1%であり、更に好ましくは0〜0.5%であり、一層好ましくは0〜0.1%である。GeOの含有量を0%にすることができる。
Biは、屈折率を高めるとともにガラスの熱的安定性を改善する働きをする。Biを過剰に含有すると、分光透過率の短波長側の吸収端を短波長化するため、Biの含有量の好ましい範囲は0〜3%、より好ましい範囲は0〜1%、更に好ましい範囲は0〜0.5%であり、一層好ましい範囲は0〜0.1%である。Biの含有量を0%にすることもできる。
Alは、少量であればガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善する働きをするが、過剰の導入により、液相温度が上昇し、熱的安定性が悪化する傾向がある。以上の点から、Alの含有量の好ましい範囲は0〜3%、より好ましい範囲は0〜1%、更に好ましい範囲は0〜0.5%であり、一層好ましい範囲は0〜0.1%である。Alの含有量を0%にすることもできる。
Sbは、清澄剤として添加可能であり、少量の添加でFeなどの不純物混入による光線透過率の低下を抑える働きもするが、Sbの添加量を多くすると、Sb自身の光吸収によってガラスの着色が増大傾向を示す。以上の点から、Sbの添加量は、外割りで0〜0.1%の範囲であることが好ましく、より好ましい範囲は0〜0.06%、更に好ましい範囲は0〜0.04%である。なお外割りによるSb含有量とは、Sb以外のガラス成分の含有量の合計を100質量%としたときの質量%表示によるSbの含有量を意味する。
SnOも清澄剤として添加可能である。外割りで0.5%を超えて添加するとガラスが着色したり、ガラスを加熱、軟化してプレス成形などの再成形をする際に、Snが結晶核生成の起点となって失透傾向が生じる。したがって、SnOの添加量を外割りで0〜0.5%の範囲とすることが好ましく、より好ましい範囲は0〜0.3%であり、添加しないことが更に好ましい。なお外割りによるSnO含有量とは、SnO以外のガラス成分の含有量の合計を100質量%としたときの質量%表示によるSnOの含有量を意味する。
上記ガラスは、ガラスの熱的安定性を維持しつつ高屈折率低分散の光学特性を実現することができ、Lu、Hfといった成分を含有させることを必要としない。Lu、Hfも高価な成分なので、Lu、HfOの含有量をそれぞれ0〜3%に抑えることが好ましく、それぞれ0〜1%に抑えることがより好ましく、それぞれ0〜0.5%に抑えることが更に好ましく、それぞれ0.1%未満に抑えることが一層好ましく、Lu2O3を導入しないこと、HfOを導入しないことがそれぞれ特に好ましい。
また、上記ガラスは、環境影響に配慮し、Pbを実質的に含まないことが好ましい。Pbを実質的に含まないとは、PbOに換算し、PbOの含有量が0.05%よりも少ないことを意味し、0%であってもよい。
その他、環境に影響を及ぼすAs、U、Th、Cdも導入しないことが好ましい。
Teも環境に影響を及ぼすため、多量のTeを導入することは好ましくない。TeOの含有量の好ましい範囲は0〜1%、より好ましい範囲は0〜0.5%、更に好ましい範囲は0〜0.1%であり、TeOを含有しなくてもよい。
さらに、ガラスの優れた光線透過性を活かす上から、Cu、Cr、V、Fe、Ni、Coなどの着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
上記ガラスは、高屈折率・低分散ガラスであり、着色が少ないガラスとなり得るものであり、光学ガラスとして好適である。
以上、上記ガラスのガラス組成について説明した。次に、上記ガラスのガラス特性について説明する。
<ガラス特性>
(屈折率nd、アッベ数νd)
撮像光学系、投射光学系等の光学系を構成する光学素子材料としての有用性、詳しくは、色収差補正、光学系の高機能化などの観点から、上記ガラスの屈折率ndは1.75〜1.80の範囲である。屈折率ndの下限は、好ましくは1.76であり、より好ましくは1.765である。屈折率ndの上限は、好ましくは1.79であり、より好ましくは1.785である。
また、同様の観点から、上記ガラスのアッベ数νdは47〜52の範囲である。アッベ数νdの下限は、好ましくは48、より好ましくは49である。アッベ数νdの上限は、好ましくは51、より好ましくは50である。
(着色度λ5、λ70、λ80)
先に記載したように、光学素子を通して紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射する場合、光学素子は、分光透過率の短波長側の吸収端が短い波長域にあることが好ましい。この短波長側の吸収端を定量的に評価する指標として、着色度λ5を用いることができる。λ5は、紫外域から可視域にかけて、厚さ10mmのガラスの分光透過率(表面反射損失を含む)が5%となる波長を表す。後述の実施例に示すλ5は、280〜700nmの波長域において測定された値である。分光透過率とは、例えばより詳しくは、10.0±0.1mmの厚さに研磨された互いに平行な面を有するガラス試料を用い、上記研磨された面に対して垂直方向から光を入射して得られる分光透過率、すなわち、上記ガラス試料に入射する光の強度をIin、上記ガラス試料を透過した光の強度をIoutとしたときのIout/Iinのことである。
着色度λ5によれば、分光透過率の短波長側の吸収端を定量的に評価することができる。効率よく紫外線硬化型接着剤の硬化を行う上から、上記ガラスのλ5は、335mm以下であることが好ましく、325nm以下であることがより好ましく、315nm以下であることがさらに好ましい。λ5の下限は、一例として、300nmを目安とすることができるが、低いほど好ましく特に限定されるものではない。
一方、ガラスの着色度の指標としては、着色度λ70、λ80も挙げられる。λ70は、λ5について記載した方法で測定される分光透過率が70%となる波長を表す。λ80は、λ5について記載した方法で測定される分光透過率が80%となる波長を表す。上記ガラスのλ70は、好ましくは380nm以下、より好ましくは370nm以下、さらに好ましくは365nm以下である。λ70の下限は、一例として、340nmを目安とすることができるが、低いほど好ましく特に限定されるものではない。また、上記ガラスのλ80は、好ましくは420nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは390nm以下である。λ80の下限は、一例として、360nmを目安とすることができるが、低いほど好ましく特に限定されるものではない。
(部分分散特性)
色収差補正の観点から、上記ガラスは、アッベ数νdを固定したとき、部分分散比が小さいガラスであることが好ましい。
ここで、部分分散比Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、ncを用いて、(ng−nF)/(nF−nc)と表される。
高次の色収差補正に好適なガラスを提供する上から、上記ガラスの部分分散比Pg,Fは、0.545〜0.560の範囲であることが好ましい。
(ガラス転移温度Tg)
アニール温度、プレス成形時のガラスの温度が高くなり過ぎると、アニール炉やプレス成形型の消耗を招く。アニール炉やプレス成形型への熱的負荷を軽減する上から、ガラス転移温度Tgは680℃以下であることが好ましく、675℃以下であることがより好ましい。
ガラス転移温度Tgが低すぎると、研削や研磨などの機械加工における加工性が低下傾向を示す。したがって、加工性を維持する上から、ガラス転移温度Tgを645℃以上にすることが好ましく、650℃以上にすることがより好ましい。
(液相温度LT)
ガラスの熱的安定性の指標の一つに液相温度がある。ガラス製造時の結晶化、失透を抑制する上から、液相温度LTが1100℃以下であることが好ましく、1080℃以下であることがより好ましい。液相温度LTの下限は、一例として1000℃以上であるが、低いことが好ましく特に限定されるものではない。
(比重)
例えば、上記ガラスをオートフォーカス機能を有するレンズに用いる場合など、レンズの質量が大きいと、フォーカシング時の消費電力が増加し、電池の消耗が早まる。レンズを軽量化するための1つの手段としては、ガラスの比重を低下させることが挙げられる。上記ガラスの比重は、4.60以下であることが好ましく、4.50以下であることがより好ましく、4.60以下であることがさらに好ましい。また、比重の下限は上記組成範囲より自ずと定まる。比重の下限の目安は4.0である。
<ガラスの製造方法>
上記ガラスは、目的のガラス組成が得られるように、原料である酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物などを秤量、調合し、十分に混合して混合バッチ(バッチ原料)とし、例えば、白金などの貴金属で作られた熔融容器内で加熱、熔融し、脱泡、攪拌を行い均質かつ泡を含まない熔融ガラスを作り、これを成形することによって得ることができる。具体的には公知の熔融法を用いて作ることができる。ガラスA、Bは、上記光学特性を有する高屈折率低分散ガラスでありながら、熱的安定性が優れているため、公知の熔融法、成形法を用いて、安定的に製造することができる。
[プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、およびそれらの製造方法]
本発明の他の一態様は、
上述のガラスからなるプレス成形用ガラス素材;
上述のガラスからなる光学素子ブランク、
に関する。
本発明の他の一態様によれば、
上述のガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法;
上述のプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法;
上述のガラスを光学素子ブランクに成形する工程を備える光学素子ブランクの製造方法、
も提供される。
光学素子ブランクとは、目的とする光学素子の形状に近似し、光学素子の形状に研磨しろ(研磨により除去することになる表面層)、必要に応じて研削しろ(研削により除去することになる表面層)を加えた光学素子母材である。光学素子ブランクの表面を研削、研磨することにより、光学素子が仕上げられる。一態様では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスをプレス成形する方法(ダイレクトプレス法と呼ばれる。)により、光学素子ブランクを作製することができる。他の一態様では、上記ガラスを適量熔融して得た熔融ガラスを固化することにより光学素子ブランクを作製することもできる。
また、他の一態様では、プレス成形用ガラス素材を作製し、作製したプレス成形用ガラス素材をプレス成形することにより、光学素子ブランクを作製することができる。
プレス成形用ガラス素材のプレス成形は、加熱して軟化した状態にあるプレス成形用ガラス素材をプレス成形型でプレスする公知の方法により行うことができる。加熱、プレス成形は、ともに大気中で行うことができる。プレス成形後にアニールしてガラス内部の歪を低減することにより、均質な光学素子ブランクを得ることができる。
プレス成形用ガラス素材は、そのままの状態で光学素子ブランク作製のためのプレス成形に供されるプレス成形用ガラスゴブと呼ばれるものに加え、切断、研削、研磨などの機械加工を施してプレス成形用ガラスゴブを経てプレス成形に供されるものも含む。切断方法としては、ガラス板の表面の切断したい部分にスクライビングと呼ばれる方法で溝を形成し、溝が形成された面の裏面から溝の部分に局所的な圧力を加えて、溝の部分でガラス板を割る方法や、切断刃によってガラス板をカットする方法などがある。また、研削、研磨方法としてはバレル研磨などが挙げられる。
プレス成形用ガラス素材は、例えば、熔融ガラスを鋳型に鋳込みガラス板に成形し、このガラス板を複数のガラス片に切断することにより作製することができる。または、適量の熔融ガラスを成形してプレス成形用ガラスゴブを作製することもできる。プレス成形用ガラスゴブを、再加熱、軟化してプレス成形して作製することにより、光学素子ブランクを作製することもできる。ガラスを再加熱、軟化してプレス成形して光学素子ブランクを作製する方法は、ダイレクトプレス法に対してリヒートプレス法と呼ばれる。
[光学素子およびその製造方法]
本発明の他の一態様は、
上述のガラスからなる光学素子
に関する。
また、本発明の一態様によれば、
上述の光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法、
も提供される。
上記光学素子の製造方法において、研削、研磨は公知の方法を適用すればよく、加工後に光学素子表面を十分洗浄、乾燥させるなどすることにより、内部品質および表面品質の高い光学素子を得ることができる。このようにして、屈折率ndが1.75〜1.80の範囲であり、かつアッベ数νdが47〜52の範囲である上記ガラスからなる光学素子を得ることができる。光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、プリズムなどを例示することができる。
また、上記ガラスからなる光学素子は、接合光学素子を構成するレンズとしても好適である。接合光学素子としては、レンズ同士を接合したもの(接合レンズ)、レンズとプリズムを接合したものなどを例示することができる。例えば、接合光学素子は、接合する2つの光学素子の接合面を形状が反転形状となるように精密に加工(例えば、球面研磨加工)し、接合レンズの接着に使用される紫外線硬化型接着剤を塗布し、貼り合わせてからレンズを通して紫外線を照射し接着剤を硬化させることで作製することができる。このように接合光学素子を作製するために、先に記載した吸収特性を有するガラスは好ましい。接合する複数個の光学素子を、アッベ数νdが相違する複数種のガラスを用いてそれぞれ作製し、接合することにより、色収差の補正に好適な素子とすることができる。
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す組成を有するガラスが得られるように、原料として炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物、ホウ酸等を適宜、用いた。各原料粉末を秤量して十分混合し、調合原料とした。この調合原料を白金製坩堝に入れて1100〜1400℃で、1〜3時間、加熱、熔融し、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスを得た。この熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込んで急冷し、ガラス転移温度近傍の温度で1時間保持した後、徐冷して表1に示す組成を有する各ガラスを得た。なお表1に示すガラスは、いずれもFを含まない。
いずれのガラス中にも結晶の析出は認められなかった。また、ガラス中に原料の熔け残り(未熔解物)も無いことを確認した。
各ガラスの特性は、以下に示す方法で測定した。測定結果を表1に示す。
(1)屈折率ndおよびアッベ数νd
1時間あたり30℃の降温速度で冷却したガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度Tg
熱機械分析装置を用いて、昇温速度4℃/分の条件下で測定した。
(3)液相温度LT
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
(4)比重
アルキメデス法により測定した。
(5)着色度λ5、λ70、λ80
互いに対向する2つの光学研磨された平面を有する厚さ10±0.1mmのガラス試料を用い、分光光度計により、研磨された面に対して垂直方向から強度Iinの光を入射し、ガラス試料を透過した光の強度Ioutを測定し、分光透過率Iout/Iinを算出し、分光透過率が5%になる波長をλ5、分光透過率が70%になる波長をλ70、分光透過率が80%になる波長をλ80とした。
(6)部分分散比Pg,F
屈折率nF、nc、ngを測定し、測定結果から算出した。
熱的安定性の評価(1)
ガラスNo.12の組成を有するガラスが得られるよう、ガラス原料を調合し、白金坩堝中に各調合原料150gを入れて1350℃で120分間、加熱、熔融した後、熔融物を冷却して固化物を得た。固化物を観察したところ、結晶は析出しなかった。更に、ガラスを1100℃で120分間、保持しても結晶は析出せず、保持温度を1060℃に下げて保持したが、結晶は析出しなかった。
表1に示す他の組成についても同様に評価を行ったところ、同様に、結晶は析出しなかった。
(比較例1)
特許文献5の実施例の中で、Nbを含まない実施例3、6、7、質量比((La+Y+Gd+Yb)/(B+SiO))が1.93の実施例11の各組成について、上記と同様に、1350℃で120分間、加熱、熔融した後に熔融物を冷却して得られた固化物を観察したところ、実施例3、7、11については多量の結晶が析出していた。実施例6については、結晶の析出は見られなかった。
次に、実施例6のガラスを加熱し、1100℃で120分間保持した後、室温に冷却して、観察したところ、多数の結晶が認められた。実施例3、7、11についても同様の実験を行ったところ、多数の結晶析出が見られた。
以上の結果から、実施例のガラスは、比較例1で評価したガラスよりも優れた熱的安定性を有することが確認できる。
(比較例2)
特許文献3の実施例1〜10の中で、質量比(ZnO/Y)が最も大きい実施例8(質量比(ZnO/Y)は0.28)の組成を有するガラスが得られるよう、ガラス原料を調合し、白金坩堝中に調合原料50gを入れて1150℃で20分、熔融した。
その後、熔融物を坩堝ごと急冷し、固化したガラスを坩堝から取り出し、ガラスの内部を観察した。
図1は、比較例2で評価したガラス(坩堝から取り出したガラス)の写真である。図1より明らかなように、ガラス片の幾つかは、原料の熔け残りが多く含まれており、白濁して透明性が失われていた。
熔解温度を1200℃にした以外は、上記方法と同じ方法でガラスを作製したところ、坩堝から取り出したガラスの縁の部分に原料が多く熔け残っていた。
(比較例3)
質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が0.044である特許文献4の実施例2の組成を有するガラスが得られるよう、ガラス原料を調合し、白金坩堝中に調合原料50gを入れて1150℃で20分、熔融した。
その後、熔融物を坩堝ごと急冷し、固化したガラスを坩堝から取り出し、ガラスの内部を観察した。
図2は、比較例3で評価したガラス(坩堝から取り出したガラス)の写真である。図2より明らかなように、ガラス片の幾つかは、原料の熔け残りが多く含まれており、白濁して透明性が失われていた。
熱的安定性の評価(2)
表1のガラスNo.12の組成について、比較例2、3と同様の実験を行った。すなわち、白金坩堝中に調合原料50gを入れ、1150℃で20分間、熔融を行い、坩堝ごと熔融物を急冷し、固化したガラスを坩堝から取り出した。
図3は、上記のように比較例2、3と同様の方法で評価した、表1のNo.12の組成のガラス(坩堝から取り出したガラス)の写真である。図3から明らかなように、ガラス中には原料の熔け残りは認められず、均質なガラスを作ることができた。
さらに熔解温度を1130℃まで下げても、原料の熔け残りは無く、均質なガラスを得ることができた。
以上の結果から、実施例のガラスが、比較例2、3で評価したガラスよりも優れた熱的安定性を有することが確認できる。
(実施例2)
実施例1で得られた各種ガラスからプレス成形用ガラス塊(ガラスゴブ)を作製した。このガラス塊を大気中で加熱、軟化し、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
(実施例3)
実施例1において作製した熔融ガラスを所望量、プレス成形型でプレス成形し、レンズブランク(光学素子ブランク)を作製した。作製したレンズブランクをプレス成形型から取り出し、アニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスなる球面レンズを作製した。
(実施例4)
実施例1において作製した熔融ガラスを固化して作製したガラス塊をアニールし、研磨を含む機械加工を行い、実施例1で作製した各種ガラスからなる球面レンズを作製した。
(実施例5)
実施例2〜4において作製した球面レンズを、他種のガラスからなる球面レンズと貼り合せ、接合レンズを作製した。実施例2〜4において作製した球面レンズの接合面は凸面、他種のガラスからなる球面レンズの接合面は凹面であった。上記2つの接合面は、互いに曲率半径の絶対値が等しくなるように作製した。接合面に光学素子接合用の紫外線硬化型接着剤を塗布し、2つのレンズを接合面同士で貼り合せた。その後、実施例2〜4において作製した球面レンズを通して、接合面に塗布した接着剤に紫外線を照射し、接着剤を固化させた。
上記のようにして接合レンズを作製した。接合レンズの接合強度は充分高く、光学性能も充分なレベルのものであった。
最後に、前述の各態様を総括する。
一態様によれば、La、Y、ZrO、ZnOおよびNb、ならびに、BおよびSiOの一方または両方、を少なくとも含み、質量%表示で、BとSiOとの合計含有量が28〜38%、La、Y、GdおよびYbの合計含有量が48〜60%、Gd含有量が3%未満、Yb含有量が2%未満、ZrO含有量が2〜14%、WO含有量が1%未満、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が5%以下であり、質量比((La+Y)/(La+Y+Gd+Yb))が0.94以上、質量比((La+Y+Gd+Yb)/(B+SiO))が1.9以下、質量比((Nb/(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO))が0.003以上、質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が0.2〜1.4、質量比(ZnO/Y)が0.30以上、質量比((LiO+ZnO)/(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta))が0.11以下であり、屈折率ndが1.75〜1.80の範囲であり、かつアッベ数νdが47〜52の範囲であるガラスを提供することができる。
上記ガラスは、上記範囲の屈折率およびアッベ数を有するガラスであって、Gd含有量およびYb含含有量が低減されているため安定供給可能であり、かつ上述の含有量および質量比を満たすことにより、未熔解物の発生およびガラス製造時の結晶化を抑制することができる。
一態様では、ガラスの熱的安定性を一層改善する観点で、Y含有量が12質量%未満であることが好ましい。
一態様では、研削や研磨などの機械加工における加工性の観点から、上記ガラスのガラス転移温度は、645℃以上であることが好ましい。
以上説明したガラスから、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子を作製することができる。即ち、他の態様によれば、上記ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子が提供される。
また、他の態様によれば、上記ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法も提供される。
さらに他の態様によれば、上記プレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法も提供される。
さらに他の態様によれば、上記ガラスを光学素子ブランクに成形する工程を備える光学素子ブランクの製造方法も提供される。
さらに他の態様によれば、上記光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法も提供される。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかるガラスを得ることができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。
本発明は、各種光学素子の製造分野において有用である。

Claims (6)

  1. La、Y、ZrO、ZnOおよびNb、ならびに、BおよびSiOの一方または両方、を少なくとも含み、
    質量%表示で、
    とSiOとの合計含有量が28〜38%、
    La、Y、GdおよびYbの合計含有量が48〜60%、
    Gd含有量が3%未満、
    Yb含有量が2%未満、
    ZrO含有量が2〜14%、
    WO含有量が1%未満、
    MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量が5%以下、
    であり、
    質量比((La+Y)/(La+Y+Gd+Yb))が0.94以上、
    質量比((La+Y+Gd+Yb)/(B+SiO))が1.9以下、
    質量比((Nb/(La+Y+Gd+Yb+Nb+TiO+WO))が0.003以上、
    質量比(ZnO/(ZrO+Nb+Ta))が0.2〜1.4、
    質量比(ZnO/Y)が0.30以上、
    質量比((LiO+ZnO)/(La+Y+Gd+Yb+ZrO+Nb+Ta))が0.11以下、
    であり、
    屈折率ndが1.75〜1.80の範囲であり、かつアッベ数νdが47〜52の範囲であるガラス。
  2. 含有量が12質量%未満である請求項1に記載のガラス。
  3. ガラス転移温度が645℃以上である請求項1または2に記載のガラス。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。
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