1.含フッ素ポリイミド
本発明で用いるポリイミドは、繰り返し単位中に1個以上のフッ素原子を有する含フッ素ポリイミドであり、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上反応させて得られる含フッ素ポリイミドである。含フッ素ポリイミドの製造のためには、好ましくは、酸二無水物及びジアミンのうち少なくとも1種の化合物として、分子内にフッ素原子を有するものを用いる。該ポリイミドを含む、本発明の基材表面を構成する樹脂組成物中のフッ素含量は、1〜60質量%、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは15〜50質量%である。上記フッ素含有量とするためには、使用される酸二無水物又はジアミンの一方又は両方が1個以上のフッ素原子を含めばよい。かかるフッ素含有量の樹脂組成物により構成される基材表面では細胞が三次元的な組織を形成し易い。
前記酸二無水物及び前記ジアミンのうち少なくとも1種の化合物が有するフッ素原子は、酸二無水物とジアミンとのアミド化反応及びイミド化反応によって消滅しないことが好ましい。
ポリイミドは、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上重合させて得られるポリアミド酸をイミド化することにより得られるものである。本発明の基材において細胞の足場となる表面を構成する樹脂組成物は、ポリイミドに加えて、ポリアミド酸を一部に含んでいてもよい。本明細書中では、イミド化率が0%のものをポリアミド酸、イミド化率が0%を超えるものをポリイミドと称する。
また、本明細書中で、「含フッ素ポリアミド酸」を「ポリアミド酸」、「含フッ素芳香族ポリアミド酸」を「芳香族ポリアミド酸」、「含フッ素ポリイミド」を「ポリイミド」、「含フッ素芳香族ポリイミド」を「芳香族ポリイミド」と各々称することがある。
酸二無水物として式(1)で示される化合物を用い、ジアミンとして式(2)で示される化合物を用いて得られる本発明のポリイミドは、その主鎖(主鎖骨格とも言う)中に式(3)で示される繰り返し単位を含む。
式(1)〜(3)において、X0は、酸二無水物残基を表し、4価の有機基である。Y0は、ジアミン化合物残基を表し、2価の有機基である。X0及びY0に含まれるフッ素原子の合計は1個以上である。
本発明で用いられる樹脂組成物中の含フッ素ポリイミドは式(3)で示される繰り返し単位を有している限り、どのような製法で製造されたものでもよく、式(1)で示される酸二無水物と式(2)で示されるジアミンとを反応させて得られる含フッ素ポリイミドには限定されない。本発明での「酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上反応させて得られたポリイミド」において、酸二無水物は酸二無水物の誘導体の形態でもよく、ジアミンはジアミンの誘導体の形態でもよいことは当業者に自明である。
ポリイミドを製造する方法としては、実施例で示すような二段合成法や、一段合成法が使用できる。
ポリイミドの二段合成法は前駆体としてポリアミド酸を合成し、ポリアミド酸をポリイミド酸に変換する方法である。前駆体としてのポリアミド酸はポリアミド酸誘導体であってもよい。ポリアミド酸誘導体としては、例えばポリアミド酸塩、ポリアミド酸アルキルエステル、ポリアミド酸アミド、ビスメチリデンピロメリチドからのポリアミド酸誘導体、ポリアミド酸シリルエステル、ポリアミド酸イソイミドなどが挙げられる。
ポリイミドの一段合成法としては、例えば高温溶融重合法、イソシアナート法、テトラカルボン酸ジチオ無水物法、イオン液体を用いる方法などの、溶媒を用いる一段合成法が使用できる。その他の一段合成法としては、ナイロン塩型モノマーを経由する重合法として、高温固相重合法、高圧下での高温固相重合法、水中での固相重合法などが挙げられる。
また、本発明において、「酸二無水物残基」は上記構造を形成する4価の有機基であればよく、実際に酸二無水物が反応して形成された残基である必要はなく、同様に、「ジアミン化合物残基」は上記構造を形成する2価の有機基であればよく、実際にジアミン化合物が反応して形成された残基である必要はない。
1.1.含フッ素ポリアミド酸
式(3)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(1)の酸二無水物と式(2)のジアミンとを反応させて得られるポリアミド酸をイミド化して得ることができ、該ポリアミド酸は、その主鎖(主鎖骨格)中に式(4)で表される繰り返し単位を含む。
ポリアミド酸の1分子に含まれる式(4)の繰り返し単位の数は1〜1300であることが好ましく、1〜1000であることがより好ましい。
前記ポリアミド酸の分子量は、重量平均分子量として、1000〜100万であることが好ましく、5000〜70万であることがより好ましい。分子量がこの範囲内であると重合時にゲル化する恐れが無く、低粘度で重合やフィルム化が容易になり、適当な耐熱性や膜強度の付与と維持が期待できる。重量平均分子量は更に好ましくは1万〜50万である。
上記重量平均分子量は、後述する実施例と同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
前記ポリアミド酸は、好ましくは芳香族ポリアミド酸又は脂肪族ポリアミド酸であり、より好ましくは芳香族ポリアミド酸である。以下にポリアミド酸の好適な実施形態を説明する。
1.1.1.芳香族ポリアミド酸の具体例
芳香族酸二無水物とはX0が芳香族基を含む式(1)の化合物であり、芳香族ジアミンとはY0が芳香族基を含む式(2)の化合物である。芳香族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が、X0が芳香族基を含む式(1)の酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが、Y0が芳香族基を含む式(2)のジアミンを少なくとも含む。含フッ素芳香族ポリアミド酸とは、式(4)において、重合繰り返し単位に含まれる酸二無水物に由来するX0とジアミンに由来するY0の一方又は両方が1個以上のフッ素原子及び1個以上の芳香族環構造を有するものである。
芳香族ポリアミド酸の好ましい実施形態では、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
1)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が後述するY
1で示される基であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(I)で表される重合単位を含む。
ここで、X
1は2価の有機基を示し、Y
1は芳香族基を有する2価の有機基を示す。
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X1、Y1、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含む。
pは0又は1である。
上記式(I)及び(E1)中、p=0である場合は、X1は存在せず、左右のベンゼン環が直接結合しており、p=1である場合は、左右のベンゼン環がX1を介して結合する。
X1としては、具体的には、アルキレン基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンチオ基、−O−及び−S−からなる群から選択される少なくとも1つの基であり、これらの中でも、アルキレン基、アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基からなる群から選択される少なくとも1つの基が好ましく、アルキレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基からなる群から選択される少なくとも1つの基がより好ましく、アルキレン基及びアリーレンオキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの基が更に好ましく、これらはハロゲン原子(フッ素原子等)で置換されていてもよい。
X1の例であるアルキレン基としては、−C(CA3)2−及び−C(CA3)2−C(CA3)2−からなる群から選択される少なくとも1つの基を例示することができ、式中Aは独立して水素原子又はフッ素原子であり、好ましくは全てがフッ素原子である。X1の例である上述したアルキレン基の中では、Aが全てフッ素原子である−C(CA3)2−、すなわち−C(CF3)2−が好適である。かかるフッ素置換アルキレン基は、嵩高い構造を取り接触角が大きくなるため、生体物質付着防止性が向上するとともに三次元培養が容易となる。アルキレン基は、Y1にフッ素原子が含まれない場合は、フッ素置換されたアルキレン基であることが特に好ましい。
X1の例であるアリーレン基としては、例えば、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
X1の例であるアリーレンオキシ基としては、例えば、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
X1の例であるアリーレンチオ基としては、例えば、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
X1の例である上述したアリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基は、各々独立して、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基よりなる群から選択される少なくとも1つの基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基に置換している好適な置換基は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基は、Y1にフッ素原子が含まれない場合、少なくとも1つ以上のフッ素原子で置換されることが好ましい。
X1の例である上述したアリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基の中では、以下の群から選択される少なくとも1つの基が好適である。
[上記式中、W
1及びW
2はそれぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を示す。]
この場合、W1とW2は同一である、即ちW1とW2は共に酸素原子であるか或いは硫黄原子であることが好ましく、共に酸素原子であることがより好ましい。
Y1で示される芳香族基を有する2価の有機基としては、特に制限されないが、1個のベンゼン環からなる基若しくは、2個以上のベンゼン環が炭素原子、酸素原子又は硫黄原子を介して又は直接結合した構造を有する基が挙げられる。具体的には、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
Y1の例である上述した芳香族基を有する2価の有機基は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基、エチル基、及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される少なくとも1つの基により置換されていてもよく、前記置換基はより好ましくは、ハロゲン原子、メチル基、及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される少なくとも1つの基である。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。芳香環基を有する2価の有機基に置換している好適な置換基は、特にX1にフッ素原子が含まれない場合は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
Y
1の他の例としては下記の式(5):
で示される2価の有機基が好ましい。式(5)において、B
1は、CF
3又はCNを表す。B
2は、同一若しくは異なって、H、F、Cl、Br又はIを表す。R
1は、炭素数1〜20のハロゲン置換アルキル基を表す。X
Aは、同一若しくは異なって、O又はSを表す。X
Bは、O又はSを表す。nは、B
2の数を表し、0〜2の整数である。mは、R
1X
Bで表される基の置換数を表し、1〜3の整数である。また、n+m=3である。
Y0がY1であり、かつ該Y1が式(5)で示される基である式(2)のジアミンは国際公開2010/150908に記載されている。
式(5)において、R1はハロゲン置換アルキル基を表すが、ハロゲン置換アルキル基とは、アルキル基を構成する炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された基を意味し、構造は特に制限されず、直鎖、分岐、環状アルキル基のいずれの構造であってもよい。また、ハロゲン置換アルキル基中にエーテル結合を有するものであってもよい。
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、又はヨウ素原子(I)が好ましく、これらの2種以上の原子で置換されていてもよい。R1は炭素数1〜20のフッ素置換アルキル基であることが好ましい。
R1の炭素数は、2〜18であることがより好ましく、更に好ましくは3〜15である。
R1として特に好適な基としては、例えば、下記化学式で表される群から選択される少なくとも1つの基が挙げられる。
CF3−(CF2)7−(CH2)2−
CF3−(CF2)9−(CH2)2−
CF3−(CF2)2−CH2−
CF3−(CF2)3−CH2−
CHF2−(CF2)7−CH2−
(CF3)2−CF(CF2)2−(CH2)2−
CF3CH2−
HCF2CH2−
F(CF2)2CH2−
CHF2CF2CH2−
(CF3)2CH−
CF3CH2CH2−
H(CF2)2CH2−
Cl(CF2)2CH2−
(CF3)C(CH3)H−
F(CF2)3CH2−
F(CF2)2(CH2)2−
CF3CHFCF2CH2−
CF3(CH2)3−
F(CF2)2C(CH3)H−
CF3C(CH3)2−
CH3C(CF3)2−
(CF3)4C−
(CF3)2C(CCl3)−
F(CF2)4CH2−
F(CF2)3(CH2)2−
F(CF2)2(CH2)3−
CF3(CH2)4−
(CF3)2CFCH2CH2−
(CF3)2C(CH3)CH2−
H(CF2)4CH2−
Cl(CF2)4CH2−
Br(CF2)2(CH2)3−
CF3CH2CH(CH3)CH2−
CF3CF(OCF3)CH2CH2−
(CF3)2CHOCH2CH2−
F(CF2)3C(CH3)H−
F(CF2)5CH2−
F(CF2)4(CH2)2−
F(CF2)3(CH2)3−
F(CF2)2(CH2)4−
(CF3)2CF(CH2)3−
(CF3)3CCH2CH2−
CF3CF(OCF3)(CH2)3−
F(CF2)3OCF(CF3)CH2−
H(CF2)5CH2−
F(CF2)2C(CH3)2−
CF3CHFCF2C(CH3)2−
F(CF2)6CH2−
F(CF2)5(CH2)2−
F(CF2)4(CH2)3−
(CF3)2CF(CF2)2(CH2)2−
(CF3)2CFCHFCF(CF3)CH2−
CF3CF2CF(CF3)(CH2)3−
H(CF2)6CH2−
Cl(CF2)6CH2−
F(CF2)7CH2−
F(CF2)6(CH2)2−
F(CF2)5(CH2)3−
F(CF2)4(CH2)4−
F(CF2)2(CH2)6−
F(CF2)3OCF(CF3)(CH2)3−
(CF3)3C(CH2)4−
H(CF2)7CH2−
F(CF2)8CH2−
F(CF2)6(CH2)3−
(CF3)2CF(CH2)6−
(CF3)2CF(CF2)4(CH2)2−
F(CF2)3OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2−
H(CF2)8CH2−
F(CF2)4(CH2)6−
CF3(CF2)7(CH2)2−
F(CF2)8(CH2)3−
(CF3)2CF(CF2)6(CH2)2−
H(CF2)10CH2−
F(CF2)6(CH2)6−
F(CF2)10(CH2)2−
H(CF2)12CH2−
F(CF2)8(CH2)6−
式(5)中、mは1〜3の整数であり、より好ましくは2〜3である。
式(5)中、XAは2つともOであるか、2つともSであることが好ましく、2つともOであることが最も好ましい。
式(5)において、B2は、同一若しくは異なって、H、F、Cl、Br又はIを表すが、B2の少なくとも1つがハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)であることが好適である。中でも式(5)における2個のB2が、いずれもハロゲン原子であることが好ましい。また、ハロゲン原子の中でも塩素原子(Cl)やフッ素原子(F)が好ましく、より好ましくはフッ素原子(F)である。特に好ましくは、式(5)における2個のB2が、いずれもフッ素原子(F)であることであり、このように上記B2がF(フッ素原子)である形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
Y1の他の例としては、後述する「1.5.3.ビフェニル基を有する含フッ素ポリイミド」において詳述する式(D)で示される二価の基が挙げられ、より好ましくはY1は式(D1)〜(D6)のいずれか1つで示される二価の基である。
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれる。X1、Y1にフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子である。
式(I)で示される繰り返し単位の更に好ましい実施形態では、
pが1であり、
X1が、上記のX1のうち、フッ素原子を含有するアルキレン基であるか、フッ素原子を有していてもよいアリーレンオキシ基であり、
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6がフッ素原子又は水素原子であり、
Y1が、上記の有機基である。
式(I)で示される繰り返し単位の別の更に好ましい実施形態では、
X
1は、基x1:
−C(CF
3)
2−
基x2:
又は、基x3:
であることが好ましく、
Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5及びZ
6は、全て水素原子であるか、全てフッ素原子であることが好ましく、
Y
1は以下の基y1〜y9から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
ただし、X1、Y1、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を含む。
この実施形態において、X1が基x1のときZ1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は全て水素原子であることが好ましく、X1が基x2又はx3のときZ1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は全てフッ素原子であることが好ましい。
この実施形態において、X1は、基x1であることがより好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が後述する式(E2)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E3)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E4)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0がY1であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0がY1であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY1であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他のジアミンとしては、特に限定されないが、Y0が後述するY2であるジアミンや、Y0が後述するY3であるジアミンや、Y0が後述するY4であるジアミンが挙げられる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY1であるジアミンと、Y0がY2であるジアミンと、Y0がY3であるジアミンと、Y0がY4であるジアミンとの合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX1、Y1、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は式(I)に関し上記で定義した通りである。
1.1.2.脂肪族ポリアミド酸
本発明において、着色の観点から芳香族ポリアミド酸樹脂の代わりに又はこれと共に脂肪族ポリアミド酸樹脂を採用することができる。
脂肪族ポリアミド酸樹脂は、例えば(1)芳香族ジアミンと脂肪族酸二無水物、(2)脂肪族ジアミンと芳香族酸二無水物、又は(3)脂肪族ジアミンと脂肪族酸二無水物の重合物である。脂肪族ポリアミド酸樹脂は、芳香族又は脂肪族のジアミン及び酸二無水物の一方又は両方が1分子中に1個以上のフッ素原子及び1個以上の脂肪族構造を有することが好ましく、前記脂肪族ポリアミド酸樹脂は、下記式(II)〜(IV)で表される構造を有する少なくとも1種の脂肪族ポリアミド酸樹脂であることが好ましい。
式(II)で表される脂肪族ポリアミド酸
好適な脂肪族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
2)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が下記のY
2であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(II)で表される重合単位を含む。
ここでX2は2価の有機基を示し、Y2は脂肪族基を有する2価の有機基を示す;Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X2、Y2、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含み、pは0又は1である。
上記式(II)及び式(E2)中、p=0である場合は、X2は存在せず、左右のベンゼン環が直接結合しており、p=1である場合は、左右のベンゼン環がX2を介して結合する。
X2で示される2価の有機基は、上記X1として示されるものと同様の基であることができる。
上記式(II)及び式(E2)中、Y2で示される脂肪族基を有する2価の有機基としては、特に制限されないが、1個の脂環族基若しくは、2個以上の脂環族基が炭素原子、酸素原子、硫黄原子を介して又は直接結合した構造を有する基が挙げられる。具体的には、以下の群から選択される少なくとも1つの基を例示することができる。
Y2の例である上述した脂肪族基を有する2価の有機基は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される少なくとも1つの基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。脂肪族基を有する2価の有機基に置換している好適な置換基は、特にX2にフッ素原子が含まれない場合は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
上記式(II)及び式(E2)中、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X2、Y2にフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子である。
X2、Y2、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含むことが好ましく、X2はフッ素原子含有アルキレン基が好ましく、Y2は上記の脂肪族基であることが好ましく、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は全て水素原子がより好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が前記式(E1)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E3)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E4)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0がY2であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0がY2であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY2であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他のジアミンとしては、特に限定されないが、Y0が前記Y1であるジアミンや、Y0が後述するY3であるジアミンや、Y0が後述するY4であるジアミンが挙げられる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY1であるジアミンと、Y0がY2であるジアミンと、Y0がY3であるジアミンと、Y0がY4であるジアミンとの合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX2、Y2、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は式(II)に関し上記で定義した通りである。
式(III)で表される脂肪族ポリアミド酸
好適な脂肪族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
3)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が下記のY
3であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(III)で表される重合単位を含む。
ここで、X3は2価の有機基を示し、Y3は脂肪族基又は芳香族基を有する2価の有機基を示す;Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X3、Y3、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含み、pは0又は1である。
上記式(III)及び式(E3)中、p=0である場合は、X3は存在せず、左右のエチレン基が直接結合しており、p=1である場合は、左右のエチレン基がX3を介して結合する。X3で示される2価の有機基は、好ましくは脂肪族基を有する2価の有機基であり、炭素数1〜40の脂肪族炭化水素基が特に好ましい。前記有機基としては、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、及び環と環とを単結合等の結合基で結合した構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有する有機基が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基及びシロキサン基からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。X3で示される2価の有機基は、例えば以下に示される群から選択される少なくとも1つの基であることが好ましい。
X3の例である2価の有機基(pは1の場合)は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される少なくとも1つの基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。
Y3は脂肪族基又は芳香族基を有する2価の有機基を示し、上記X1、Y1、Y2又はX3に示されるものと同様の基であることができる。
上記式(III)及び(E3)中、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X3、Y3にフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6の少なくとも1つはフッ素原子である。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が前記式(E1)で示される基である酸二無水物や、X0が前記式(E2)で示される基である酸二無水物や、X0が後述する式(E4)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0がY3であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0がY3であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY3であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他のジアミンとしては、特に限定されないが、Y0が前記Y1であるジアミンや、Y0が前記Y2であるジアミンや、Y0が後述するY4であるジアミンが挙げられる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY1であるジアミンと、Y0がY2であるジアミンと、Y0がY3であるジアミンと、Y0がY4であるジアミンとの合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX3、Y3、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5及びZ6は式(III)に関し上記で定義した通りである。
式(IV)で表される脂肪族ポリアミド酸
好適な脂肪族ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させたポリアミド酸であって、重合に用いられる酸二無水物が式(1)においてX
0が式(E
4)
で示される基である酸二無水物を少なくとも含み、重合に用いられるジアミンが式(2)においてY
0が下記のY
4であるジアミンを少なくとも含むポリアミド酸である。該ポリアミド酸は好ましくは、下記式(IV)で表される重合単位を含む。
ここで、X4は脂肪族基を有する4価の有機基を示し、Y4は脂肪族基又は芳香族基を有する2価の有機基を示す;Z1、Z2、Z3、及びZ4は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X4、Y4、Z1、Z2、Z3、及びZ4の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含む。
X4で示される脂肪族基を有する4価の有機基としては、炭素数1〜40の脂肪族炭化水素基が好ましい。前記有機基としては、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、及び環と環とを単結合等の結合基で結合した構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有する有機基が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基及びシロキサン基からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。具体的に、X4は、下記から選ばれる少なくとも1つの基であることが好ましく、これらは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される少なくとも1つの基により置換されていてもよい。
上記式(IV)及び(E4)中、Z1、Z2、Z3、及びZ4は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X4、Y4にフッ素原子が含まれない場合、Z1、Z2、Z3、及びZ4の少なくとも1つはフッ素原子である。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(1)の酸二無水物のうち、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物の割合は特に限定されず、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物の特性が発揮される範囲であれば他の酸二無水物を併用することもできる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物の使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他の酸二無水物としては、特に限定されないが、X0が前記式(E1)で示される基である酸二無水物や、X0が前記式(E2)で示される基である酸二無水物や、X0が前記式(E3)で示される基である酸二無水物が挙げられる。酸二無水物の総使用量を100モル%としたとき、X0が式(E1)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E2)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E3)で示される基である酸二無水物と、X0が式(E4)で示される基である酸二無水物との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
上記構造を有するポリアミド酸の製造に用いられる式(2)のジアミンのうち、Y0がY4であるジアミンの割合は特に限定されず、Y0がY4であるジアミンの特性が発揮される範囲であれば他のジアミンを併用することもできる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY4であるジアミンの使用量は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。用い得る他のジアミンとしては、特に限定されないが、Y0が前記Y1であるジアミンや、Y0が前記Y2であるジアミンや、Y0が前記Y3であるジアミンが挙げられる。ジアミンの総使用量を100モル%としたとき、Y0がY1であるジアミンと、Y0がY2であるジアミンと、Y0がY3であるジアミンと、Y0がY4であるジアミンとの合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
ここで、式(1)及び(2)におけるX4、Y4、Z1、Z2、Z3及びZ4は式(IV)に関し上記で定義した通りである。
1.1.3.含フッ素ポリアミド酸の製造方法
式(4)或いはその具体例である式(I)、(II)、(III)又は(IV)で示される前記ポリアミド酸は、式(1)で示される芳香族又は脂肪族の酸二無水物と、式(2)で示される芳香族又は脂肪族のジアミンとを溶媒中で公知の手法によりアミド化反応させることにより、製造することができる。ここで、原料として用いる酸二無水物及びジアミン化合物は、得ようとするポリアミド酸樹脂の構造に応じて適宜選択すればよい。
式(1)で示される芳香族酸酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(10FEDAN)、4,4’−[(1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(6F4HEDAN)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)等が挙げられる。
式(1)で示される脂肪族酸二無水物としては、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸酸二無水物等が挙げられる。
式(2)で示される芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FAP)、1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(4FMPD)、2,6−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジフルオロ−4−(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロ−n−デカノキシ)ベンゾニトリル(AFDM)等が挙げられる。
式(2)で示される芳香族ジアミンとしてはまた、後述する「1.5.3.ビフェニル基を有する含フッ素ポリイミド」に詳述する式(IX)で示されるジアミン化合物が挙げられ、より好ましくは、式(IX−1)〜(IX−6)で示されるジアミン化合物が挙げられる。
式(2)で示される脂肪族ジアミンとしては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
また、式(2)で示される脂肪族又は芳香族ジアミンは、以下の化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物であってもよい。
アミド化反応は、溶媒中に酸二無水物とジアミンとを溶解させた溶液を、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気中、室温で攪拌して均一溶液とすることにより進行する。溶媒は、原料として用いる酸二無水物及びジアミンに応じて適宜選択すればよい。アミド化反応終了後の反応混合物は、溶媒中にポリアミド酸を含む。当該反応混合物はそのまま熱イミド化に供することができる。また、生成されたポリアミド酸を反応混合物から分離し再度適当な溶媒に溶解してから熱イミド化に供することも可能である。
アミド化反応は有機溶媒中で行われることが好適である。上記有機溶媒としては、原料である酸二無水物とジアミンとの反応が効率よく進行でき、かつこれらの原料に対して不活性であれば、特に限定されるものではない。例えば、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ジメチルスルフォキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メタノール等の極性溶媒;トルエンやキシレン等の非極性溶媒等が挙げられる。中でも、極性溶媒を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。
1.2.含フッ素ポリイミドの製造方法
前記ポリアミド酸を、熱イミド化又は化学イミド化のいずれかによりイミド化してポリイミドを含む樹脂組成物を得る。
ポリアミド酸をイミド化する際、ポリアミド酸が完全にポリイミドに転化されるとは限らず、生成された樹脂組成物中には、ポリイミドだけでなくポリアミド酸や、その他の成分が含まれていてよい。後述するイミド化率の範囲内でイミド化されていることが好ましい。
1.2.1.熱イミド化
熱イミド化によりイミド化する場合、例えば、前記ポリアミド酸を、空気中で、又はより好ましくは窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、或いは真空中で、好ましくは温度50〜400℃、より好ましくは100〜380℃、好ましくは時間0.1〜10時間、より好ましくは0.2〜5時間の条件下で焼成してイミド化反応を行うことによりポリイミドを含む樹脂組成物を得ることができる。熱イミド化反応に供する前記ポリアミド酸は、適当な溶媒中に溶解された形態であることが好ましい。溶媒としては、ポリアミド酸を溶解するものであれば良く、アミド化反応に関して上記した溶媒を用いることもできる。例えば、N−メチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ジメチルスルフォキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メタノール等の極性溶媒;トルエンやキシレン等の非極性溶媒等が挙げられる。中でも、極性溶媒を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物として使用されてもよい。上記の通り、アミド化反応後の反応混合物をそのまま熱イミド化に供してもよい。前記ポリアミド酸の溶液中の前記ポリアミド酸の濃度は特に限定されないが、得られる樹脂組成物の重合反応性と重合後の粘度、その後の製膜、焼成での取り扱いやすさから、好ましくは、5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
1.2.2.化学イミド化
化学イミド化によりイミド化する場合では、適当な溶媒中で後述の脱水環化試薬の使用によりポリアミド酸を直接イミド化することができる。
前記脱水環化試薬は、ポリアミド酸を化学的に脱水環化してポリイミドとする作用を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。このような脱水環化試薬としては、第三級アミン化合物を単独で用いるか、又は、第三級アミン化合物とカルボン酸無水物とを組合せて用いることが、イミド化を効率よく促進させうる点で好ましい。
第三級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも特に、ピリジン、DABCO、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタンが好ましく、DABCOがより好ましい。3級アミンは1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。カルボン酸無水物は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
化学イミド化においてポリアミド酸を溶解する溶媒としては、溶解性に優れる極性溶媒が好適である。例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、これらの中でも特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンからなる群より選ばれる1種以上であることが均一反応をする観点から好ましい。アミド化反応の溶媒としてこれらの溶媒を用いた場合、アミド化反応後の反応混合物からポリアミド酸を分離せずそのまま化学イミド化に用いることができる。
前記ポリイミド溶液を調製するに際しては、上述したポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒を混合すればよく、混合によりイミド化が進行し、ポリイミド溶液が得られる。
また、芳香族ポリアミド酸の溶液及び脂肪族ポリアミド酸の溶液を別々に調製して、これらを混合して、芳香族ポリイミドと脂肪族ポリイミドをランダム又は交互に重合させてもよい。
ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒を含む前記混合物中でのポリアミド酸の混合量は、ポリイミド生成時に室温でポリイミドが析出しない程度の濃度であればよい。かかる観点から、ポリアミド酸の混合量は、ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒の合計質量に対し、ポリアミド酸の濃度として45質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。ポリアミド酸の濃度の下限は特に制限されず、例えば、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上である。いずれにしても、具体的な濃度は予備実験により決定すればよい。
前記混合物中での脱水環化試薬の混合量は、ポリアミド酸の混合量に応じて適宜設定すればよく、例えば、脱水環化試薬として3級アミンを用いる場合には、ポリアミド酸中のアミド単位に対して、0.005当量以上、0.3当量以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01当量以上、0.2当量以下である。3級アミンが0.005当量未満であると、イミド化が充分に進行しない虞があり、一方、0.3当量を超えて添加してもその触媒効果は飽和し経済的に不利になることが懸念される。また脱水環化試薬としてカルボン酸無水物をも併用する場合には、ポリアミド酸中のアミド単位に対して、カルボン酸無水物を1当量以上、20当量以下とすることが好ましく、より好ましくは1.1当量以上、15当量以下である。カルボン酸無水物が1当量未満であるとアミド結合が残り脱水剤としての効果を十分に発揮できない虞があり、一方、20当量を超えて添加してもその触媒効果は飽和し経済的に不利になることが懸念される。
前記混合物中での溶媒の混合量は、ポリアミド酸の濃度が上述した範囲になるよう適宜設定すればよい。
前記ポリイミド溶液を調製するにあたり、ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒の混合順序には、特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸と溶媒との混合物に対して、脱水環化試薬を直接加えるか、若しくは脱水環化試薬を溶媒に溶解してポリアミド酸に加えるようにすればよい。また、脱水環化試薬として3級アミンとカルボン酸無水物との組合せを用いる場合の両者の混合順序も特に制限されず、例えば、3級アミンとカルボン酸無水物を同時に加えてもよいし、まず何れか一方をポリアミド酸樹脂と溶媒との混合物に加え、ある程度攪拌した後に、他方を加えるようにしてもよい。
前記ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒の混合は、通常、特段加熱や冷却を行うことなく、好ましくは5〜40℃、より好ましくは20〜30℃で行われるが、イミド化を促進するために必要に応じて100℃程度以下の範囲で加温してもよい。
前記ポリアミド酸、脱水環化試薬及び溶媒を混合する際の混合時間は、特に制限されないが、自転公転式混合法を用いた場合には極めて効率よく混合が進むので、例えば1分間〜30分間程度とすることができる。具体的な混合時間は、予備実験により決定すればよい。その後、得られたポリイミドは、脱水環化触媒等の成分を除去する観点から、アセトンなどの有機溶媒に溶解させて希釈し、水含有メタノール中に再沈させて、精製することもできる。化学的にイミド化したポリイミドは、溶媒可溶性があるため、精製された粉末状ポリイミドを合成時とは別の有機溶媒に溶解させてポリイミド溶液を調製してもよい。
1.3.含フッ素ポリイミドの化学構造
以上のようにして得られた樹脂組成物は、繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子を有するポリイミドを含有する。該ポリイミドは、より好ましくは、下記式(V)で表される繰り返し単位構造を含む芳香族ポリイミドである。かかる特定構造を有するポリイミドを表面に含む基材では、細胞の三次元的な培養が可能である。
上記式(V)において、X1、Y1、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、Z6及びpの定義と好適な具体例は、式(I)の定義で説明したものと同様である。
また、以上のようにして得られた樹脂組成物は、繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子を有する脂肪族基を有する脂肪族ポリイミド、より好ましくは、下記式(VI)〜(VIII)のいずれかで表される繰り返し単位構造を含む少なくとも1種の脂肪族ポリイミドを含むことができる。かかる特定構造を有するポリイミドを表面に含む基材では、細胞の三次元的な培養が可能である。
[上記式(VI)中、X
2、Y
2、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5、Z
6及びpの定義と好適な具体例は、式(II)の定義で説明したものと同様とする。]
[上記式(VII)中、X
3、Y
3、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5及びZ
6の定義と好適な具体例は、式(III)の定義で説明したものと同様とする。]
[上記式(VIII)中、X
4、Y
4、Z
1、Z
2、Z
3及びZ
4の定義と好適な具体例は、式(IV)の定義で説明したものと同様とする。]
前記ポリイミドを含む樹脂組成物は、必要に応じて、通常用いられる各種添加剤、例えば、分散剤、有機溶媒、無機充填材、離型剤、カップリング剤、難燃剤等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。前記ポリイミドとその前駆体である未反応のポリアミド酸とを主成分とする樹脂組成物である。ポリイミドと前記ポリアミド酸との合計量が、樹脂組成物の全量に対して、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
本発明において「ポリイミドを含む樹脂組成物」は、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種以上重合させて得られるポリアミド酸をイミド化することにより得られるポリイミド樹脂を指す。
本発明で用いられる樹脂組成物中のポリイミドは、製法に関わりなく、式(3)で示される繰り返し単位を含むポリイミドであることができ、前記式(3)中のX0及びY0は、本明細書中で説明した酸二無水物、ジアミン及び/又はポリアミド酸におけるX0及びY0と同様の構造であることができる。特に好ましい式(3)で示される繰り返し単位の例は、上記の式(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)のいずれかで表される構造である。
式(V)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E1)で表される基であり且つY0がY1である構造である。式(V)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(V)において、式(E1)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY1が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E1)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y1及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(V)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E2)で示される基、式(E3)で示される基、式(E4)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(V)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY2、Y3、Y4等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
式(VI)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E2)で表される基であり且つY0がY2である構造である。式(VI)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(VI)において、式(E2)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY2が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E2)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y2及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(VI)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E2)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E1)で示される基、式(E3)で示される基、式(E4)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(VI)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y2の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY1、Y3、Y4等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
式(VII)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E3)で表される基であり且つY0がY3である構造である。式(VII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(VII)において、式(E3)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY3が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E3)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y3及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(VII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E3)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E1)で示される基、式(E2)で示される基、式(E4)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(VII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y3の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY1、Y2、Y4等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
式(VIII)で示される繰り返し単位は、式(3)におけるX0が式(E4)で表される基であり且つY0がY4である構造である。式(VIII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、式(VIII)において、式(E4)で示される基が他の4価の有機基に置換され及び/又はY4が他の2価の有機基に置換された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。ここで便宜上、式(E4)で示される基及び他の4価の有機基を総称して「4価残基」といい、Y4及び他の2価の有機基を総称して「2価残基」と呼ぶ。式(VIII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、好ましくは、4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E4)で示される基の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の4価残基としては、式(E1)で示される基、式(E2)で示される基、式(E3)で示される基等が挙げられる。4価残基の総量を100モル%としたとき、式(E1)で示される基と、式(E2)で示される基と、式(E3)で示される基と、式(E4)で示される基との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。また、式(VIII)で示される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価残基の総量を100モル%としたとき、Y4の割合は25モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましく、100モル%が最も好ましい。他の2価残基としてはY1、Y2、Y3等が挙げられる。2価残基の総量を100モル%としたとき、Y1と、Y2と、Y3と、Y4との合計が90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
1.4.ポリイミド含有樹脂組成物の化学的、物理的特徴
1.4.1.イミド化率
前記含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物は、イミド化の時点又は後述する細胞培養用基材の形態とする時点で加熱処理又は環化触媒処理を行うことによりイミド化率を高めることができる。
本発明において基材の表面を構成するポリイミドを含む樹脂組成物でのイミド化率は、20%以上であり、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上であり、好ましくは100%以下、より好ましくは99.5%以下、さらに好ましくは99%以下である。イミド化率をこの範囲とすることにより、樹脂組成物の柔軟性と疎水性が、細胞の三次元培養が可能となる範囲に調整され好適である。また、得られた膜をオートクレーブ等による滅菌処理等により再加熱した場合もクラックや寸法変化を起こすことがなく好ましい。なお、イミド化率とは、ポリアミド酸をイミド化して得られるポリイミドにおいて、ポリアミド酸のアミド結合のうち脱水縮合してイミド基へと変換されたものの割合を指す。あるポリイミド樹脂試料のイミド化率(%)は、IR測定でのイミド特定波長(実施例では1370cm−1付近)における吸光度の相対値(イミド化相対値という)を、380℃1時間の最終イミド化反応後のポリイミド樹脂試料でのイミド化相対値を100%として示したものである。芳香族基を有するポリイミドのイミド化率は実施例に記載の方法で測定することができる。また脂肪族基を有するポリイミドのイミド化率は、実施例に記載のIR測定を用いたイミド化測定法における、「ベンゼン環骨格振動に由来する1500cm−1付近の吸光度」の代わりに、C−H変角に由来する1460cm−1付近の吸光度」を基準ピークとすることで、同様にIR測定を用いたイミド化測定法により測定可能である。ここで、上述したイミド化の条件でポリアミド酸をポリイミドに変換することにより、イミド化率を上記範囲に調節することができる。また、以下の基準を満たすことによって上記範囲のイミド化率を実現することが可能である。基準:加熱処理によりイミド化率を高める場合には、好ましくは温度50〜400℃、より好ましくは100〜380℃、好ましくは時間0.1〜10時間、より好ましくは0.2〜5時間の条件下で処理する。
1.4.2.水接触角
本発明の細胞培養用基材においてポリイミドを含む樹脂組成物(フィルム状、膜状、板状等の形状に加工された状態)により構成される表面の水接触角は、好ましくは70°以上、より好ましくは73°以上、更に好ましくは75°以上であり、好ましくは115°以下、より好ましくは112°以下、更に好ましくは110°以下である。水接触角がこの範囲内であるとき、細胞が基材表面に適度な強度で付着し易く、該表面を足場として細胞が三次元的な組織を形成することが可能となる。なお、接触角は自動接触角計(協和界面科学製:DM−500)を用いて温度25℃において水による接触角測定を行うことにより算出できる。
1.4.3.引張弾性率
前記ポリイミドを含む樹脂組成物はまた、柔軟性に優れるものであることが好ましい。柔軟性は、引張弾性率によって評価することができる。例えば、引張弾性率が2GPa以下とすることができる。このように前記樹脂組成物が引張弾性率が2GPa以下である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。引張弾性率がこの範囲である柔軟性を有する樹脂組成物により構成される表面上において細胞は三次元組織を形成し易い。前記樹脂組成物の引張弾性率は、より好ましくは1.5GPa以下、更に好ましくは1.2GPa以下である。引張弾性率の下限は特に限定されないが、好ましくは0.3GPa以上、より好ましくは0.5GPa以上である。引張弾性率(GPa)は、実施例に示す、動的粘弾性測定方法により測定することができる。
1.4.4.ポリイミドの分子量
前記樹脂組成物中での前記ポリイミドの分子量は、重量平均分子量として、1000〜100万であることが好ましく、5000〜70万であることがより好ましい。分子量がこの範囲内であると重合時にゲル化する恐れが無く、低粘度で重合やフィルム化が容易になり、適当な耐熱性や膜強度の付与と維持が期待できる。重量平均分子量は更に好ましくは1万〜50万である。
上記重量平均分子量は、後述する実施例と同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
1.5.含フッ素ポリイミドのより好ましい形態
1.5.1.エーテル結合及び/又はチオエーテル結合を含む含フッ素ポリイミド
本発明で用いるポリイミドは、より好ましくは、
繰り返し単位中に1個以上のフッ素原子を有する含フッ素ポリイミドであり、
前記ポリイミドを構成する重合繰り返し単位中でのエーテル結合及びチオエーテル結合の総和が1以上である
ことを特徴とするポリイミドである。
前記ポリイミドは、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上反応させて得られるポリイミドであり、前記酸二無水物及び前記ジアミンのうち少なくとも1種の化合物は、分子内にフッ素原子を有するものである。そして、前記酸二無水物及び前記ジアミンのうち少なくとも1種の化合物は、分子内にエーテル結合及び/又はチオエーテル結合を有しており、前記ポリイミドを構成する前記酸二無水物及び前記ジアミンに由来する重合繰り返し単位でのエーテル結合及びチオエーテル結合の総和が1以上である。
ただし該ポリイミドは、
主鎖(主鎖骨格)中に前記式(3)で示される繰り返し単位であって、式中X0が4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物残基であり、Y0が2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン残基である前記単位を含むポリイミド、
主鎖(主鎖骨格)中に前記式(3)で示される繰り返し単位であって、式中X0が4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物残基であり、Y0がビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基である前記単位を含むポリイミド、及び
主鎖(主鎖骨格)中に前記式(3)で示される繰り返し単位であって、式中X0が4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物残基であり、Y0がビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基である前記単位を含むポリイミド、
からなる群から選択される少なくとも1種であることはない。
ここで、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物残基とは、式(1)が4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物を表す4価の有機基X0を指し;2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン残基とは、式(2)が2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパンを表す2価の有機基Y0を指し;ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基とは、式(2)がビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンを表す2価の有機基Y0を指し;ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基とは、式(2)がビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンを表す2価の有機基Y0を指す。
すなわち本発明で用いるポリイミドは、好ましくは、
4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物と、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパンとを反応させて得られるポリイミド、
4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物と、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンとを反応させて得られるポリイミド、及び、
4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物と、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンとを反応させて得られるポリイミド
からなる群から選択される少なくとも1種であることはない。
すなわち、前記ポリイミドが式(I)で表される繰り返し単位を含み、X1が基x1、基x2及び基x3から選択され、Y1が基y1、基y2、基y3、基y4、基y5、基y6、基y7、基y8及び基y9から選択される少なくとも1種である上記の好適な実施形態のポリイミドにおいて、X1が基x1である場合は、Y1は基y3以外の基であることが好ましく、基y1、基y2、基y4、基y5、基y6、基y7、基y8及び基y9から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明者らは、重合繰り返し単位(例えば、酸二無水物及びジアミンに由来する重合繰り返し単位)中でのエーテル結合及びチオエーテル結合の総和が1以上である含フッ素ポリイミドを表面に含む基材上では、細胞がスフェロイド、三次元細胞集合体等の三次元的な組織を形成し易いという驚くべき知見を見出した。この特徴を備える細胞培養用基材は、適度な柔軟性と疎水性を備えた表面を有するため、該表面上で細胞が三次元的な組織を形成し易いと考えられる。また、本発明の基材は、細胞の足場となる表面に立体的な構造を付与する必要がないため製造が容易である。
該ポリイミドを構成する重合繰り返し単位(例えば、酸二無水物及びジアミンに由来する重合繰り返し単位)中のエーテル結合及びチオエーテル結合の総和は1以上であり、上限は特に限定されないが、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましい。かかるエーテル結合及びチオエーテル結合の数がこの範囲内であるポリイミドは適度な柔軟性を有しており、それにより細胞の三次元的な培養が可能となる。
なお、上記エーテル結合とは−O−で表される結合であるが、本発明でいうエーテル結合の数には、酸二無水物が有する酸無水物基(−C(O)−O−C(O)−部分)中の−O−部分の数は含まない。
上記エーテル結合及びチオエーテル結合の数は、分子内にエーテル結合及び/又はチオエーテル結合を有する化合物中の当該エーテル結合及びチオエーテル結合の数と、当該分子内にエーテル結合及び/又はチオエーテル結合を有する化合物の反応モル比とから算出することができる。以下に計算方法の例を示すが、以下の形態のみに限定されるものではない。
(1)1分子内にエーテル結合を2個有する酸二無水物と、分子内にエーテル結合及びチオエーテル結合を有さないジアミンとを、モル比1/1で反応させてポリアミド酸を得、ポリイミドを得る場合、エーテル結合及びチオエーテル結合の総和は、2×1+0×1=2個となる。分子内にエーテル結合及びチオエーテル結合を有さない酸二無水物と、1分子内にエーテル結合を2個有するジアミンとを、モル比1/1で反応させてポリアミド酸組成物を得、ポリイミドを得る場合も同様に計算され、2個となる。
(2)1分子内にエーテル結合を2個有する酸二無水物と、1分子内にエーテル結合を1個有するジアミンとを、モル比1/1で反応させてポリアミド酸を得、ポリイミドを得る場合、エーテル結合及びチオエーテル結合の総和は、2×1+1×1=3個となる。1分子内にエーテル結合を1個有する酸二無水物と、1分子内にエーテル結合を2個有するジアミンとを、モル比1/1で反応させてポリアミド酸を得、ポリイミドを得る場合も同様に計算され、3個となる。
(3)1分子内にエーテル結合を2個有する酸二無水物aと、分子内にエーテル結合及びチオエーテル結合を有さない酸二無水物bと、1分子内にエーテル結合を1個有するジアミンとを、モル比0.5/0.5/1.0で反応させてポリアミド酸を得、ポリイミドを得る場合、エーテル結合及びチオエーテル結合の総和は、2×0.5+0×0.5+1×1=2個となる。
(4)1分子内にエーテル結合を2個有する酸二無水物と、1分子内にエーテル結合を1個有するジアミンaと、1分子内にエーテル結合を2個有するジアミンbとを、モル比1/0.5/0.5で反応させてポリアミド酸を得、ポリイミドを得る場合、エーテル結合及びチオエーテル結合の総和は、2×1.0+1×0.5+2×0.5=3.5個となる。
なお、上記のように、全ての酸二無水物、ジアミン各々の和がそれぞれ等モルとなるように、原料成分の反応モル比を設定するものとする。
エーテル結合及び/又はチオエーテル結合、並びにフッ素原子を含むポリイミドの製造に用いる酸二無水物及びジアミンのうち、少なくとも1種の化合物が有するエーテル結合及び/又はチオエーテル結合、並びにフッ素原子は、酸二無水物とジアミンとのアミド化反応及びイミド化反応によって消滅しない結合であることが好ましい。すなわち、上記ポリイミドは、その主鎖(主鎖骨格)中に、酸二無水物及び/又はジアミン化合物に由来するエーテル結合及び/又はチオエーテル結合、並びにフッ素原子を有する構造単位を含むものであることが好適である。また、製法に関わらず、上記ポリイミドは、その主鎖(主鎖骨格)中に、エーテル結合及び/又はチオエーテル結合、並びにフッ素原子を有する構造単位を含むものであることが好適である。
1.5.2.熱イミド化により得られた含フッ素ポリイミド
本発明で用いるポリイミドは、より好ましくは、
ポリアミド酸を加熱処理によりイミド化させて得られたポリイミドであり、且つ、繰り返し単位中に1個以上のフッ素原子を有する含フッ素ポリイミドである。
前記含フッ素ポリアミドは、典型的には、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上重合させて得られたポリアミド酸を加熱処理によりイミド化させて得られた、前記酸二無水物及び前記ジアミンのうち少なくとも1種の化合物は分子内にフッ素原子を有する化合物である、ポリイミドである。
このような含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される基材表面は、該イミド化触媒を必要としない熱イミド化により行われるため、三次元培養を妨げる原因となる可能性のあるイミド化触媒の存在しない表面とすることが可能であり、該表面上で細胞が三次元的な組織を形成し易いと考えられる。
熱イミド化の具体的な条件としては、上記1.2.1に例示した条件を採用することができる。熱イミド化におけるポリアミド酸の加熱処理は第三級アミン化合物の不存在下で行うことが好ましい。
第三級アミン化合物の例は、上記1.2.2において化学イミド化触媒として例示した通りである。第三級アミン化合物とは、アンモニア分子の3つの水素原子がいずれも炭化水素基により置換された構造を有する化合物である。本発明においては、イミド化合物、アミド化合物のようにカルボニル基(C=O)の炭素原子が窒素原子に結合した構造は第三級アミン化合物の範囲から除外する。すなわち、本発明での第三級アミン化合物とは、アンモニア分子の3つの水素原子がいずれも炭化水素基により置換された構造(ただし、イミド化合物、アミド化合物のようにカルボニル基(C=O)の炭素原子が窒素原子に結合した構造を除く)を有する第三級アミン化合物を指す。
上記ポリイミドを得るための熱イミド化は、イミド化触媒として第三級アミンに加えてカルボン酸無水物も存在しない条件下で行われることが更に好ましい。ここでカルボン酸無水物とは上記1.2.2において例示したものが挙げられる。
本発明で用いる樹脂組成物の、他のより好ましい形態は、
繰り返し単位中に1個以上のフッ素原子を有する含フッ素ポリイミド(例えば、酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上反応させて得られたポリイミドであって、前記酸二無水物及び前記ジアミンのうち少なくとも1種の化合物は、分子内にフッ素原子を有するポリイミド)を含み、
前記樹脂組成物中の上記の第三級アミン化合物の量が、前記樹脂組成物中の前記ポリイミド及び残存する前記ポリアミド酸の合計量に対して0.030質量%以下であり、より好ましくは0.015質量%以下であり、更に好ましくは0.005質量%以下であり、最も好ましくは前記イミド化触媒が全く存在しない。
このような含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される基材表面は、三次元培養を阻害する原因となる可能性のある第三級アミン化合物の量が十分に少ないため、該表面上で細胞が三次元的な組織を形成し易いと考えられる。
前記樹脂組成物中の第三級アミン化合物の量は、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトル、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)(SIM法)等の任意の測定手段により定量することができ、適当な標準試料の分析結果を参照することで、前記樹脂組成物中のポリイミド及び残存する前記ポリアミド酸の合計量に対する量を求めることができる。ポリイミド及び残存する前記ポリアミド酸の合計量は、ポリイミドを製造するための成分(例えば、酸二無水物及び/又はジアミン)が有する基のうち重合後も保持される基の化学構造に由来する特性値に基づき評価することができる。
1.5.3.ビフェニル基を有する含フッ素ポリイミド
本発明で用いるポリイミドは、より好ましくは、
酸二無水物とジアミンとを各々1種又は2種以上反応させて得られるポリイミドであり、
前記ジアミンが、ビフェニル基を含み、該ビフェニル基の2つのベンゼン環の各々が1つのアミノ基で置換されたジアミン化合物を含み、
前記酸二無水物及び前記ジアミンのうち少なくとも1種の化合物は、分子内にフッ素原子を有することを特徴とする。
また、本発明で用いるポリイミドは、より好ましくは、
主鎖(主鎖骨格)中に式(3)で示される繰り返し単位を含み、
式(3)中、X0は4価の有機基であり、Y0は2価の有機基であり、
X0及びY0に含まれるフッ素原子の合計は1個以上であり、
Y0は、ビフェニル基を含み、該ビフェニル基の2つのベンゼン環の各々が1つのアミノ基で置換されたジアミン化合物の構造であって、前記各アミノ基が窒素原子への単結合に置換された構造を有する
含フッ素ポリイミドであることを特徴とする。ここでY0は、特に好ましくは、下記式(D)で示される基である。
このような特徴を有するポリイミドを含む樹脂組成物により構成される基材表面上では、細胞が三次元的な組織を形成することが容易であるため好ましい。
本発明のこの態様では、重合に用いる前記の式(2)で示されるジアミンとして、ビフェニル基を含み、該ビフェニル基の2つのベンゼン環の各々が1つのアミノ基で置換されたジアミン化合物を少なくとも含むものを用いる。該ビフェニル基の水素原子は、アミノ基以外の他の置換基により置換されていてよく、アミノ基以外の他の置換基により置換されていることがより好ましい。他の置換基の数は特に限定されないが、1又は2個であることが好ましい。
該ジアミン化合物の好適な形態としては式(IX):
[式中、
R
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち、1個は−NH
2であり、残りの4個はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、−SO
3H及び−OHからなる群から選択される基であり、
R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25のうち、1個は−NH
2であり、残りの4個はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、−SO
3H及び−OHからなる群から選択される基であり、
或いは、R
11とR
21、及び/又は、R
15とR
25は、一体となって−S(=O)
2−を形成してもよい]
で示される化合物が挙げられる。
前記アルキル基としては、エチル基又はメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
前記アルコキシ基としては、エトキシ基又はメトキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
前記アルキル基は、一部又は全部の水素原子がフッ素原子により置換されていてもよく、好ましくは、トリフルオロメチル基である。
前記アルコキシ基は、一部又は全部の水素原子がフッ素原子により置換されていてもよく、好ましくは、トリフルオロメトキシ基である。
式(IX)の化合物として特に好ましい化合物群としては、
化合物群1: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のフッ素原子で置換されたアルキル基(好ましくはトリフルオロメチル基)であり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のフッ素原子で置換されたアルキル基(好ましくはトリフルオロメチル基)であり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群2: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基(好ましくはメチル基)であり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基(好ましくはメチル基)であり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群3: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が−OHであり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が−OHであり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群4: R11とR21とが一体となって−S(=O)2−を形成し、R12、R13、R14及びR15のうち1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり、残りが水素原子であり、且つ、R22、R23、R24及びR25のうち1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルキル基であり、残りが水素原子である。
化合物群5: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が−SO3Hであり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が−SO3Hであり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
化合物群6: R11、R12、R13、R14及びR15のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルコキシ基(好ましくはメトキシ基)であり、残りが水素原子であり、且つ、R21、R22、R23、R24及びR25のうち、1個が−NH2であり、1個が炭素数1〜6のアルコキシ基(好ましくはメトキシ基)であり、残りが水素原子である、式(IX)の化合物。
上記化合物群1〜6において、R13及びR23が−NH2である。
化合物群1のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)が好ましい。
化合物群2のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち2,2’−ジメチルー4.4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
化合物群3のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
化合物群4のなかでも特に、
で示される化合物、すなわちO−トリジンスルホンが好ましい。
化合物群5のなかでも特に、
で示される化合物、すなわちO−トリジンジスルホン酸が好ましい。
化合物群6のなかでも特に、
で示される化合物、すなわち2,2’−ジメトキシー4.4’−ジアミノビフェニルが好ましい。
すなわち式(2)で示されるジアミンは、Y
0が
式(D)
[ただし、式Dにおいては、R
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち1個は上記式(IX)について定義したR
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち−NH
2に相当し窒素原子への単結合を示し、残りは上記式(IX)について定義したR
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち−NH
2以外の基であり、且つ、R
21、R
22、R
23、R
24及びR
25のうち1個は上記式(IX)について定義したR
11、R
12、R
13、R
14及びR
15のうち−NH
2に相当し窒素原子への単結合を示し、残りは上記式(IX)について定義したR
21、R
22、R
23、R
24及びR
25のうち−NH
2以外の基である]
で示される基であるジアミンを含むことが好ましく、更に、式(D
1)〜(D
6)
のいずれかで示される基であるジアミンを含むことがより好ましい。
すなわち前記の式(I)又は式(V)のY1、式(III)又は式(VII)のY3、式(IV)又は式(VIII)のY4は、それぞれ、前記式(D)の基であることが好ましく、前記式(D1)〜(D6)の基であることがより好ましい。
2.細胞培養用基材
本発明の細胞培養用基材は、表面の少なくとも一部が前記含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成されていることを特徴とする。
細胞培養用基材は、細胞培養に用いられる、細胞の増殖の足場となる表面を有する部材である限り形態は特に限定されない。例えばフィルム状又は板状の形態である細胞培養用基材は、その一方の表面に細胞を含む培地を載せて細胞培養を実施することや、該基材をシングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、シャーレ、培養ディッシュ、フラスコ、培養バック等の各種細胞培養用容器に収容して固定し、該容器に細胞を含む培地を加えて細胞培養を実施することができる。また、細胞培養用基材自体がシングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、バッグ等の各種容器の形状であってもよい。
前記樹脂組成物により構成される表面は、細胞培養用基材の表面のうち、細胞培養時に細胞を含む培地と接触する表面の一部又は全部であり、好ましくは、細胞培養用基材の表面のうち、細胞培養時に細胞を含む培地の鉛直方向下方に位置する表面の一部又は全部である。細胞培養用基材の表面の全体が前記樹脂組成物から構成されていてもよい。細胞培養用基材の、前記樹脂組成物により表面が構成されている部分では、培養時に細胞が足場として利用する最表面が前記樹脂組成物により構成されていればよく、該部分の厚さ方向に沿って前記最表面から離れた位置の材料は特に限定されない。すなわち本発明の細胞培養用基材は、少なくとも、細胞培養時に細胞を含む培地と接触する表面の一部又は全部に、前記樹脂組成物により構成される層を備えていればよい。例えば、図5に示す実施形態1のように、細胞培養用基材10の、前記樹脂組成物を表面Sに含む部分は、表面だけでなく、厚さ方向の全体にわたって前記樹脂組成物のフィルム1により構成されていてもよく、或いは、図6に示す実施形態2のように、培養時に細胞にとっての足場となる最表面S及びその近傍に前記樹脂組成物のフィルム1が形成され、フィルム1の前記最表面Sと反対の側には任意の材料からなる支持体2が配置されていてもよい。
本発明の細胞培養用基材の好ましい実施形態は、前記樹脂組成物により構成されるフィルム状の細胞培養用基材(実施形態1)、又は、支持体と、該支持体に一体化され表面の少なくとも一部を覆う、前記樹脂組成物により構成されるフィルムとを備える細胞培養用基材(実施形態2)である。すなわち、図5に示すように、実施形態1に係る細胞培養用基材10は前記樹脂組成物により構成されるフィルム1を備える。図6に示すように、実施形態2に係る細胞培養用基材10は前記樹脂組成物により構成されるフィルム1と支持体2とを備える。どちらの実施形態においても、前記樹脂組成物により構成されるフィルムは同様の方法で形成することができる。実施形態2において支持体は、フィルム状、板状、メッシュ状等の、細胞培養用途に用いることができる任意の形状とすることができる。
本発明において「酸素ガス透過係数」及び「酸素ガス透過度」は、それぞれ、JIS K7126−1(差圧法)付属書2に準拠した方法により測定した値を指す。「酸素ガス透過係数」及び「酸素ガス透過度」はどちらも25℃、相対湿度ほぼ0%の乾燥条件で測定した値を0℃、1気圧の標準状態に換算した値で示す。具体的には以下の測定条件を採用することができる。
試験方法:差圧法(JIS K7126−1付属書2に準拠)
検知器:ガスクロマトグラフ(熱伝導検出器:TCD)
試験差圧:1atm
試験気体:酸素ガス(乾燥状態(相対湿度ほぼ0%))
試験条件:25℃±2℃
透過面積:1.52×10−3m2
装置:差圧式ガス・蒸気透過率測定装置(GTR−30XAD2,G2700T・F)GTRテック(株)・ヤナコテクニカルサイエンス(株)製
図6に示す例のように、細胞培養用基材が複数の層から構成される場合は、細胞培養用基材の全体の酸素ガス透過度を直接測定により求めてもよいし、各層の酸素ガス透過度から基材全体の酸素ガス透過度を算出してもよい。
本発明で用いる細胞培養用基材は、酸素ガス透過度が219cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上である。本発明の細胞培養用基材が219cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上という高い酸素ガス透過度を有する場合、該基材の、前記樹脂組成物を含む表面上で細胞を培養するとき酸素の供給がされ易く、細胞の生育と、細胞による三次元組織の形成と組織の生育が進み易い。本発明の細胞培養用基材の酸素ガス透過度は、より好ましくは1094cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上、より好ましくは2189cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上、より好ましくは3283cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上、より好ましくは4378cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上、より好ましくは5472cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上、より好ましくは6566cm3(STP)/(m2・24h・atm)以上である。本発明の細胞培養用基材の酸素ガス透過度が高いほど、培養細胞への酸素供給が進み易く好ましい。本発明の細胞培養用基材の酸素ガス透過度の上限値は特に限定されないが、通常は437760cm3(STP)/(m2・24h・atm)以下、好ましくは328320cm3(STP)/(m2・24h・atm)以下の値である。
本発明の細胞培養用基材は含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面を有している。本発明の細胞培養用基材が上記の酸素ガス透過性を有するためには、前記樹脂組成物として高い酸素ガス透過係数を有するものを使用することが好ましい。具体的には、樹脂組成物の酸素ガス透過係数は好ましくは0.10×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上であり、より好ましくは0.50×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上、より好ましくは1.0×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上、より好ましくは1.5×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上、より好ましくは2.0×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上、より好ましくは2.5×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上、より好ましくは3.0×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以上である。含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物の酸素ガス透過係数が高いほど、培養細胞への酸素供給が進み易く好ましい。該樹脂組成物の酸素ガス透過係数の上限値は特に限定されないが、通常は2.0×10−8cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下、好ましくは1.5×10−8cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)以下である。
本発明の細胞培養用基材における、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される層(「フィルム」或いは「膜」ともいう)の厚さ(支持体の厚さを含まない)は、基材全体として適度な酸素ガス透過度となるように適宜調整することができるが、典型的には0.1μm以上、5mm以下とすることが好ましく、0.5μm以上、3mm以下とすることがより好ましく、1μm以上、2mm以下とすることが更に好ましく、5μm以上、1mm以下とすることが特に好ましい。
本発明の細胞培養用基材が、図6の実施形態2のように、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成されるフィルム1と、支持体2とから構成される場合、支持体2は、フィルム1と組み合わされた基材10全体として酸素ガス透過度が上記の範囲となるように適宜選択することが好ましい。支持体2としては特に、多孔質の支持体や、メッシュ状の支持体等の、フィルム1の酸素ガス透過性を実質的に妨げない支持体を使用することが好ましい。
本発明の細胞培養用基材に含まれる、ポリイミドを含む樹脂組成物により構成されたフィルムを形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶液流延法、溶液キャスト法などの溶液製膜法;カレンダー法;プレス成形法などが挙げられる。これらの方法のなかでは、生産性に優れていることから、溶液製膜法が好ましい。
フィルム形成のための溶液としては、前記含フッ素ポリアミド酸の溶液や、前記含フッ素ポリイミドの溶液が利用できる。前記ポリアミド酸の溶液を用いたフィルム形成では、熱イミド化とフィルム形成を同時に行うことができる。本発明では、前記含フッ素ポリアミド酸が溶媒中に溶解した溶液と、前記含フッ素ポリイミドが溶媒中に溶解した溶液を総称して「樹脂溶液」と呼ぶ。
さらに、前記樹脂組成物のフィルムは、延伸されていてもよい。該フィルムの延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。一軸延伸は、縦延伸(フィルムの巻取り方向の延伸)であってもよく、横延伸(フィルムの幅方向の延伸)であってもよい。縦延伸の場合、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であってもよく、フィルムの幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、縦延伸後に横延伸を行なう逐次二軸延伸であってもよく、縦横延伸を同時に行なう同時二軸延伸であってもよい。また、フィルムの厚さ方向の延伸又はフィルムのロールに対して斜め方向の延伸を行なってもよい。延伸方法、延伸温度及び延伸倍率は、目的とする前記含フッ素ポリイミドフィルムの光学特性、機械的強度などに応じて適宜選択することが好ましい。
フィルムを形成する典型的な方法としては、前記樹脂溶液を製膜用支持体の表面に、例えば、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、スプレイコーティング法、バーコーティング法、フレキソ印刷法、ディップコーティング法等の通常の方法で塗布して塗膜を形成する。前記樹脂溶液を製膜用支持体に塗布する際の塗布量は、乾燥膜厚が0.1μm以上、5mm以下となるようにすることが好ましく、0.5μm以上、1mm以下となるように調整することがより好ましい。その後、溶媒を除去し、必要に応じて焼成することで熱イミド化又は化学イミド化された含フッ素ポリイミドを含むフィルムを得ることができる。
製膜用支持体を構成する材料としては、例えば、石英;ガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス等の無機ガラス;カーボン;金、銀、銅、シリコン、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステン等の金属;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;環状オレフィン開環重合/水素添加体(COP)、環状オレフィン共重合体(COC)等の環状オレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂;エポキシ樹脂;AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PST)、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニルエーテル、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミド酸(PAA)、ポリアミドイミドアクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂等の樹脂;上記金属、又はその酸化物若しくは混合酸化物等を表面に有するガラス、金属、樹脂;木材等が挙げられる。前記混合酸化物としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)等の透明導電性酸化物、SiO2等が挙げられる。混合酸化物等を表面に有する金属としては、SiO2/Si基材等が挙げられる。製膜用支持体は、それ自体が実施形態2における「支持体」であることができ、この場合は、フィルムと該支持体との組み合わせによって本発明の細胞培養用基材が形成される。この実施形態2において、該支持体は、板状、フィルム状等の任意の形態であることができ、細胞培養用容器の形態を有していてもよい。また、製膜用支持体上で形成されたフィルムは、そのまま用いてもよいし、フィルム形成後に剥離しフィルム単体で前記実施形態1の細胞培養用基材として用いてもよい。或いは、製膜用支持体から剥離されたフィルムを他の支持体の表面に貼付して一体化し、フィルムと支持体とを備える前記実施形態2の細胞培養用基材としてもよい。フィルムと支持体とを一体化する手段としては接着剤等の任意の手段を採用することができる。
なお前記樹脂溶液が、化学イミド化処理により得られたポリイミドの溶液である場合、当該溶液の塗膜を、溶媒が抜ける温度と時間で加熱することが好ましく、例えば、窒素雰囲気下、好ましくは50〜400℃、より好ましくは100〜300℃、好ましくは10分〜5時間、より好ましくは30分〜3時間の条件下で焼成して前記樹脂組成物から構成されるフィルムとすることができる。
本発明の細胞培養用基材における、前記含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面は、平滑な表面であることが好ましい。平滑な表面としては、例えば表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra)が0.5μm以下である表面が好ましい。本発明において中心線平均粗さ(Ra)はレーザー法で測定した値であり、例えば菱化システム製表面粗さ計R5300GL−L−A100−ACを用いて測定することができる。本発明によれば、作成が容易な平滑な表面上で細胞を三次元的に培養することが可能となる。ただし、本発明の細胞培養用基材でのポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面は目的に応じて適切な粗さとなるよう加工されていてもよく、例えば、非特許文献1に記載されているようなラビング処理により微細な凹凸を形成することも可能である。また、本発明の細胞培養用基材に直径50〜500μm、深さ50〜500μmの円柱又は円錐の穴(キャビティ)を付与することで大きさが均一なスフェロイドを形成することが可能となる。さらにキャビティ構造を付与することで、培地除去時に培地ととともにスフェロイドが基材から除かれることも回避することができる。
本発明の細胞培養用基材は、これまでに述べた効果に加えて、好ましくは更に以下の効果を有する。本発明の基材は好ましくは高い耐熱性を有するため高圧蒸気滅菌が可能である。高圧蒸気滅菌を行うことで、γ線滅菌時にみられる基材の品質の変化がなく、またEOG滅菌時の残存ガスの除去等が不要となり、簡便な滅菌処理により、細胞培養時の雑菌混入のリスク及び培養細胞の増殖を抑制する成分が混入するリスクが低減できる。なお、一般的なポリスチレン製細胞培養用基材は耐熱性が低いため高圧蒸気滅菌を行うことはできない。上記滅菌方法以外にも、本発明の細胞培養用基材は一般的な滅菌方法での滅菌が可能である上述の高圧蒸気滅菌の他、γ線滅菌、電子線滅菌、エタノールなどのアルコール滅菌、EOG滅菌などの方法により滅菌することができるが、これらは一例であり他の滅菌方法を採用しても良い。また、本発明の基材は好ましくは透明で、一般的に免疫染色等で使用されている蛍光色素の励起波長、蛍光波長付近に自家蛍光がなく、蛍光色素を用いた免疫染色にも利用することができる。本発明の細胞培養用基材が前記樹脂組成物により構成されるフィルム状の細胞培養用基材である場合、一般的に本段落で述べた効果を有する。
3.細胞培養用容器
本発明また、酸素透過性を有する前記細胞培養用基材を少なくとも一部に備える細胞培養用容器を提供する。
本発明の細胞培養用容器では、前記細胞培養用基材が、該基材のフッ素含有ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面が、細胞及び培地の収容部の底面を形成し、該基材の他方の表面が容器外に露出するように配置されていることを特徴とする。すなわち、図5に示すように、細胞培養用基材10がフッ素含有ポリイミドを含む樹脂組成物により構成されるフィルム1のみからなる場合、細胞培養用基材10は、どちらか一方の主面が細胞及び培地を収容する区画の底面を形成し、他方の主面が容器外に露出して容器外の空気等に接するように配置される。図6に示すように、細胞培養用基材10がフッ素含有ポリイミドを含む樹脂組成物により構成されるフィルム1と支持体2とを備える場合、細胞培養用基材10は、フィルム1が配置されたほうの表面Sが細胞及び培地を収容する区画の底面を形成し、支持体2が配置されたほうの表面が容器外に露出して容器外の空気等に接するように配置される。本発明の細胞培養用容器は、細胞培養のための使用状態において、前記細胞培養用基材の前記他方の面が容器外に露出して容器外の空気等の酸素含有ガスに接触するように構成されている。
本発明の細胞培養用容器では、フッ素含有ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面が培養される細胞の足場として機能する。そして、前記基材は酸素透過性を有しているため、容器外に露出して空気等の酸素含有ガスと接する表面から前記基材を通じて細胞及び培地へ酸素が供給される。この組み合わせにより、細胞の生存率が高く、細胞の機能を高く維持しながらの細胞培養、特に三次元的な細胞培養が可能となる。
本発明の細胞培養用容器は、本発明の細胞培養用基材を上記の形態となるよう備えていればよく、全体としてどのような形状であってもよい。例えば、シングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、バッグ等の各種容器の形状であることができる。本発明の細胞培養用容器はまた、大量培養装置や潅流培養装置などの培養装置における細胞培養用容器の形態であってもよい。
本発明の細胞培養用容器は、本発明の細胞培養用基材と他の部材とが組み合わされて構成されていてもよいし、本発明の細胞培養用基材と他の部材とが一体化されて構成されていてもよいし、本発明の細胞培養用基材のみにより構成されていてもよい。本発明の細胞培養用基材がフィルム状等の柔軟な基材である場合は、剛性を有する適当な支持部材(フレーム等)を用いて張設した状態で細胞培養用容器の底を形成することも可能である。
図7(a)には、本発明の細胞培養用容器の一実施形態である細胞培養用容器100を示す。図7(a)に示す細胞培養用容器100は、容器底部を形成する細胞培養用基材10と、細胞培養用基材10の縁から起立した容器側壁を形成する壁部材20とを備え、細胞培養用基材10と壁部材20とにより収容部101が形成される。細胞培養用基材10の構成は上記の通りであり、フッ素含有ポリマーを含む樹脂組成物により構成される表面Sは容器内(収容部101)に臨むように配置される。壁部材20を、開口した側から平面視したときの内郭形状及び外郭形状はそれぞれ例えば円、多角形(四角形、三角形等)などの任意の形状であることができる。
図8(a)、8(b)及び8(c)に示す細胞培養用容器100は、本発明の細胞培養用容器の他の実施形態である、マルチウェルプレートである。図8(a)、8(b)及び8(c)に示す細胞培養用容器100は、細胞培養用基材10と、細胞培養用基材10のフッ素含有ポリマーを含む樹脂組成物により構成される表面Sを覆うように配置された、厚さ方向に貫通する複数(図では24)の貫通孔が形成されたプレート状の壁部材20とを備える。壁部材20の各貫通孔を囲う部分と細胞培養用基材10とにより細胞及び培地を収容する収容部101が複数形成される。細胞培養用基材10の構成は上記の通りであり、フッ素含有ポリマーを含む樹脂組成物により構成される表面Sは容器内(収容部101)に臨むように配置される。ここで図8(c)では、フッ素含有ポリマーを含む樹脂組成物により構成される表面Sが容器内(収容部101)に臨み、且つ、細胞培養用基材10の表面Sと反対側の面が、平坦面上に細胞培養用容器100を置いた時に前記平坦面に接触せず、前記表面Sと反対側の面と前記平坦面との間に空隙4が形成されるように壁部材20に接続されている。
図9に示す細胞培養用容器100は、本発明の細胞培養用容器の更なる実施形態である。図9に示す細胞培養用容器100は、容器底部を形成する細胞培養用基材10と、容器側壁を形成する壁部材20とを備え、細胞培養用基材10と壁部材20とにより収容部101が形成される。ここで細胞培養用基材10は、フッ素含有ポリマーを含む樹脂組成物により構成される表面Sが容器内(収容部101)に臨み、且つ、細胞培養用基材10の表面Sと反対側の面が、平坦面上に細胞培養用容器100を置いた時に前記平坦面に接触せず、前記表面Sと反対側の面と前記平坦面との間に空隙4が形成されるように壁部材20に接続されている。
図7(a)、図8(a)、8(b)及び8(c)、並びに図9に記載されてい各実施形態の細胞培養用容器100ではいずれにおいても、壁部材20と細胞培養用基材10とがどのような手段で接続されていてもよく、例えば感圧式の両面テープ等の接着性材料又は接着性部材を介して接続することができる。
以上のように容器内の底面にフッ素含有ポリマーを含む樹脂組成物により構成される表面Sが配置され、他方の面が容器外に露出した細胞培養用基材を有する細胞培養用容器を製造することができる。本発明の細胞培養用容器はこの形態には限定されず、任意の形態であることができる。
4.培養方法
本発明はまた、細胞を培養する方法であって、前記細胞培養用基材の含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成された表面に細胞及び培地が接し、前記細胞培養用基材の他方の表面が空気等の酸素含有ガスに接した状態で細胞を培養する工程を特徴とする方法を提供する。
具体的には図1に示すように、細胞培養用基材10(図5又は図6に示す構造を有する)の、含フッ素ポリイミドを含む樹脂組成物により構成された表面S(図5,6参照)に細胞3及び培地2が接し、細胞培養用基材10の他方の表面が空気等の酸素含有ガス4に接した状態で細胞を培養する。この方法では、基材10の、フッ素含有ポリイミドを含む樹脂組成物により構成される表面Sは培養される細胞の足場として機能する。そして、基材10は酸素透過性を有しているため、空気等の酸素含有ガス4と接する表面から基材10を通じて細胞3及び培地2へ酸素が供給される。この方法によれば、細胞の生存率が高く、細胞の機能を高く維持しながらの細胞培養、特に三次元的な細胞培養が可能である。例えば上述した図7(a)に示す細胞培養用容器100を用いる場合、細胞培養用容器100の下面(細胞培養用基材10の表面Sとは反対側の表面)の少なくとも一部が空気等の酸素含有ガスと接触するように細胞培養用容器100を配置して細胞培養を行うことで、上記の細胞培養方法を実現することができる。例えば図7(b)に示すように、平坦面300上に幅の狭い適当なスペーサー200を配置し、スペーサー200上に細胞培養用容器100を載せれば、培養用基材10の容器外に露出した表面は酸素含有ガス(空気)4と接触することができる。このように配置された細胞培養用容器100を用いて上記の細胞培養を行うことができる。なお、スペーサー200を介さず細胞培養用容器100を直接平坦面300に置いた場合でも、通常は、培養用基材10の容器外に露出した表面と平坦面300との間には部分的には酸素含有ガス(空気)4が介在しており本発明の細胞培養方法を行うことができる。図8(a)(b)(c)に示す細胞培養用容器100も同様に使用することができる。図8(c)及び図9に示す細胞培養用容器100は、壁部材20の底側の端部が、細胞培養用基材10よりも下に突出しているため、平坦面上に置いたとき、壁部材20の前記端部がスペーサーとして機能し、細胞培養用基材10の表面Sとは反対側の表面と平坦面との間には空隙4が形成され、該空隙4に酸素含有ガス(空気等)が存在できるため、本発明の細胞培養方法を容易に行うことができる。
本発明の方法では細胞の三次元培養が可能であるが、それには限定されず、三次元的な組織を形成しない細胞を培養する形態や、三次元的な組織を形成可能な細胞を三次元的な組織が形成される前の段階まで培養する形態なども包含される。
本発明の細胞培養方法で培養される細胞の種類は特に限定されないが、例えば、ヒト正常肝細胞、ラット正常肝細胞、マウス正常肝細胞、ヒト肝臓癌細胞、ヒト肝芽腫細胞、ラットヘパトーマ細胞、マウスヘパトーマ細胞、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells:iPS細胞)、胚性幹細胞(Embryonic stem cells:ES細胞)、間葉系幹細胞等の一般的に三次元培養を行うことが求められている細胞や、各種前駆細胞及び幹細胞を含む、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵臓細胞、乳腺細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、樹状細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞、各種血液系細胞、その他間葉系前駆細胞、各種癌細胞等の他の細胞が挙げられる。
細胞は適当な培地中で培養することができる。培地の種類は特に限定されないが、例えば、任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地等を用いることができる。具体的にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、RPMI1640、ハムF12、MCDB培地、ウィリアムス培地E等が挙げられるが、これらには限定されず、細胞が増殖や分化に必要な成分が含まれる培地であれば利用可能である。さらに、血清や各種増殖因子、分化誘導因子を添加した培地を使用してもよい。
5.三次元培養
本発明の細胞培養方法を用いて、細胞を三次元培養することも可能である。
ここで三次元培養により形成される組織としては、スフェロイドや、三次元細胞集合体が挙げられる。スフェロイド又は三次元細胞集合体はラット正常肝細胞のような単一な細胞で形成されたスフェロイド又は三次元細胞集合体でも、各種線維芽細胞や血管内皮細胞等とラット正常肝細胞のような2種以上の異なる細胞種が混在したスフェロイド又は三次元細胞集合体でも良い。使用できる細胞としては、上記の各種細胞が挙げられる。
三次元培養する際の培地の種類は特に限定されないが、例えば任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地等を用いることができる。具体的にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、RPMI1640、ハムF12、MCDB培地、ウィリアムス培地E等が挙げられるが、これらには限定されず、細胞が増殖や分化に必要な成分が含まれる培地であれば利用可能である。さらに、血清や各種増殖因子、分化誘導因子を添加した培地を使用してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
<フッ素含有量の測定方法>
元素分析装置(ジェイサイエンス製 マイクロコーダー JM−10)により、ポリイミドフィルム中のフッ素含有量の定量を行った。
<イミド化率の測定方法>
FT−IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック製 Nicolet Nexus670)によるポリイミドフィルム分析で、ポリイミドのCN伸縮振動に由来する1370cm-1付近の吸光度(A(1370cm-1))とベンゼン環骨格振動に由来する1500cm-1付近の吸光度(A(1500cm-1))との吸光度比(A(1370cm-1)/A(1500cm-1))を用いて、以下の式に基づいてポリイミドフィルムのイミド化率を算出した。
イミド化率(%)
=[試料ポリイミドフィルムの(A(1370cm-1))/(A(1500cm-1))]÷[熱処理後の試料ポリイミドフィルムの(A(1370cm-1))/(A(1500cm-1))]×100
なお、上記「熱処理後の試料ポリイミドフィルムの(A(1370cm-1))/(A(1500cm-1))」は、試料ポリイミドフィルムを、完全イミド化(イミド化率:100%)する温度及び時間の条件(380℃、1時間)で処理したポリイミドフィルムにおける測定値である。
<重量平均分子量の測定>
装置:東ソー株式会社製 HCL−8220GPC
カラム:TSKgel Super AWM−H
溶離液(LiBr・H2O、リン酸入りNMP):0.01mol/L
測定方法:0.5%の溶液を溶離液で作製し、ポリスチレンで作製した検量線をもとに分子量を算出した。
ポリアミド酸、ポリイミドともに同じ方法で測定可能である。
<動的粘弾性測定方法>
装置:ティー・エイ・インスツルメント社製
動的粘弾性 RSA III
測定方法:厚さ20μmのポリイミドフィルムを5×40mmの短冊状に作製し、25℃での伸びと応力を測定し、引っ張り弾性率を算出した。
<水接触角の測定>
装置:自動接触角計(協和界面科学製:DM−500)
測定方法:25℃の温度での水2μlの滴下直後の液滴の付着角度を測定した。
<酸素ガス透過度及び酸素ガス透過係数の測定>
酸素ガス透過度(単位:cm3(STP)/(m2・24h・atm))及び酸素ガス透過係数(単位:cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg))はJIS K7126−1(差圧法)付属書2に準拠した方法により測定した。具体的には以下の条件のもと行った。
試験方法:差圧法(JIS K7126−1付属書2に準拠)
検知器:ガスクロマトグラフ(熱伝導検出器:TCD)
試験差圧:1atm
試験気体:酸素ガス(乾燥状態(相対湿度はほぼ0%))
試験条件:25℃±2℃
透過面積:1.52×10−3m2
装置:差圧式ガス・蒸気透過率測定装置(GTR−30XAD2,G2700T・F)GTRテック(株)・ヤナコテクニカルサイエンス(株)製
<膜厚の測定>
各フィルムの膜厚はマイクロメーターを用いて測定した。
第一部:実施例及び比較例
<酸二無水物>
酸二無水物として4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)(自社合成品)、及び、無水ピロメリット酸(関東化学製)を用いた。
<ジアミン>
ジアミンとして、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)(和歌山静加工業株式会社)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)(東京化成工業製)、及び、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(和歌山静加工業株式会社)を用いた。
各化合物の化学構造と分子中のフッ素原子の数は次表に示す通りである。
酸二無水物とジアミンから実施例及び比較例のポリイミドのフィルムを調製した。
≪調製例1≫6FDA/TPEQポリアミド酸の調製
100ml容量の三口フラスコに1,4−ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン2.976g(10.2ミリモル)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.524g(10.2ミリモル)、N、N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込んだ。窒素雰囲気下、室温で、5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は18万であった。
≪調製例2≫6FDA/TFMBポリアミド酸の調製
100ml容量の三口フラスコに2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン3.141g(9.81ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.359g(9.81ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は25万であった。
≪比較調製例1≫無水ピロメリット酸/ODAポリアミド酸の調製
100ml容量の三口フラスコに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.393g(12.0ミリモル)、無水ピロメリット酸2.607g(12.0ミリモル)、N、N−ジメチルアセトアミド45.0gを仕込んだ。窒素雰囲気下、室温で、5日間攪拌することで、エーテル結合を含むがフッ素原子を含まないポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度10.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は80万であった。
≪実施例1≫6FDA/TPEQポリイミドの熱イミド化による調製
調製例1において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いてフィルム状に製膜し、300℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、硝子基材より剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。
得られた含フッ素ポリイミドフィルムの膜厚は33μm、フッ素含有量は17質量%、イミド化率は90%、水接触角は88°、引張弾性率は2.31GPa、酸素ガス透過係数は3.5×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)、酸素ガス透過度は7030cm3(STP)/(m2・24h・atm)であった。引張弾性率の値は当初の測定では63.9MPaであったが誤りがあり再測定した結果2.31GPaに訂正した。
≪実施例2≫6FDA/TPEQポリイミドの化学イミド化による調製
調製例1において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物20gを100mlガラス容器に移し、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン0.013g(0.01ミリモル)、無水酢酸0.8744g(8.5ミリモル)を加え、5分間撹拌反応させた後24時間静置することで、含フッ素ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた含フッ素ポリイミド樹脂溶液をアセトンで希釈し、水及びメタノール中に再沈させて、精製し、得られた粉末状含フッ素ポリイミド樹脂を15%濃度の2−ブタノン溶液に溶解させて含フッ素ポリイミド樹脂組成物を得た。この含フッ素ポリイミド樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが30μm程度となるようにフィルム状に製膜し、200℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、基材より剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムの膜厚は33μm、フッ素含有量は17質量%、イミド化率は93%、水接触角は88°、引張弾性率は2.02GPaであった。当該ポリイミドフィルムを溶媒に溶解して測定された重量平均分子量は25万であった。引張弾性率の値は当初の測定では64.5MPaであったが誤りがあり再測定した結果2.02GPaに訂正した。
≪実施例3≫6FDA/TFMBポリイミドの熱イミド化による調製
調製例2において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いてフィルム状に製膜し、300℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、硝子基材より剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。
得られた含フッ素ポリイミドフィルムの膜厚は26μm、フッ素含有量は31質量%、イミド化率は92%、水接触角は94°、引張弾性率は1.68GPa、酸素ガス透過係数は1.9×10−9cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)、酸素ガス透過度は48900cm3(STP)/(m2・24h・atm)であった。引張弾性率の値は当初の測定では50.8MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.68GPaに訂正した。
≪実施例4≫6FDA/TFMBポリイミドの化学イミド化による調製
調製例2において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物20gを100mlガラス容器に移し、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン0.013g(0.1ミリモル)、無水酢酸0.84g(8.2ミリモル)を加え、5分間撹拌反応させた後24時間静置することで、含フッ素ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた含フッ素ポリイミド樹脂溶液をアセトンで希釈し、水及びメタノール中に再沈させて、精製し、得られた粉末状含フッ素ポリイミド樹脂を15%濃度の2−ブタノン溶液に溶解させて含フッ素ポリイミド樹脂組成物を得た。この含フッ素ポリイミド樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いてフィルム状に製膜し、200℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、基材より剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムの膜厚は27μm、フッ素含有量は31質量%、イミド化率は93%、水接触角は94°、引張弾性率は1.45GPaであった。当該ポリイミドフィルムを溶媒に溶解して測定された重量平均分子量は25万であった。引張弾性率の値は当初の測定では51.2MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.45GPaに訂正した。
≪比較例1≫ポリスチレン製マルチウェルプレート
比較のために、表面がプラズマ処理されたポリスチレン製の24穴マルチウェルプレート(コーニング社製Falcon(登録商標)マルチウェルセルカルチャープレート,カタログ番号353047)を用いた。
ポリスチレンの酸素ガス透過係数は文献(新訂 最新ポリイミド −基礎と応用−,第369頁,日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編,株式会社エヌ・ティー・エス発行)によれば2.6×10−10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)である。また、この文献値から算出される厚み30μmのポリスチレンフィルムでの酸素ガス透過度は5691cm3(STP)/(m2・24h・atm)である。
≪比較例2≫無水ピロメリット酸/ODAポリイミドの熱イミド化による調製
比較調製例1において得られたポリアミド酸樹脂組成物を、硝子基材上に、ダイコーターを用いて、焼成後のポリイミドフィルム厚みが30μmとなるようにフィルム状に製膜し、340℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、硝子基材より剥離し、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムのフッ素含有量は0質量%、イミド化率は95%、水接触角は68°、引張弾性率は3.0GPaであった。引張弾性率の値は当初の測定では「100MPaよりも大きい値」であったが誤りがあり再測定した結果3.0GPaに訂正した。
無水ピロメリット酸/ODAポリイミドフィルムの酸素ガス透過係数は文献(新訂 最新ポリイミド −基礎と応用−,第369頁,日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編,株式会社エヌ・ティー・エス発行)によれば0.076×10−10cm3(STP)cm/(cm2・s・cmHg)である。また、この文献値から算出される厚み30μmの無水ピロメリット酸/ODAポリイミドフィルムの酸素ガス透過度は約166cm3(STP)/(m2・24h・atm)である。
<細胞培養によるスフェロイドの形成−1>
1.ラット初代肝細胞の取得
Wistarラット、オス、6週齢、体重130gを日本エスエルシー株式会社より購入した。ラット初代肝細胞の取得は培養細胞実験ハンドブック (羊土社) 第10章、肝細胞記載の方法を参考に実施した。具体的には、Wistarラットをペントバルビタール麻酔下で開腹し、門脈にカテーテルを挿入して前灌流液(Ca2+とMg2+不含のEGTA溶液)を注入した。同時に肝臓下部の下大静脈を切開して血液を放出させた。次に胸腔を開き、右心房に入る下大静脈を切開し、肝臓下部の下大静脈をかん止で止めて灌流を行った。肝臓からの脱血が十分になされたことを確認した後に灌流を止め、灌流液をコラゲナーゼ溶液に換えて、灌流を行った。細胞間組織がコラゲナーゼにより消化されたことを確認した後、灌流を止めた。肝臓を切り離し、ガラスシャーレに移した後、冷したハンクス溶液を添加して、ピペッティングにより細胞を分散させた。次に150mm濾過器により未消化の組織を除去した。細胞懸濁液は、50G、1分の遠心分離を数回繰り返して非実質細胞を除去した。得られた肝細胞の生存率はトリパンブルー排除法で計測し、生存率70%以上の肝細胞をラット初代肝細胞として培養試験に使用した。
2.ラット初代肝細胞の培養(1)
前述の方法で取得したラット初代肝細胞を、以下組成の培地で懸濁し、5.3×104cells/cm2となるように比較例1のポリスチレン製マルチウェルセルカルチャープレート、実施例1の6FDA/TPEQ膜、実施例3の6FDA/TFMB膜に播種し、37℃,5% CO2条件下で培養した。6FDA/TPEQ膜及び6FDA/TFMB膜は高圧蒸気滅菌処理後に細胞培養に使用した。培地は毎日交換した。
6FDA/TPEQ膜又は6FDA/TFMB膜上での細胞培養は、細胞及び液体培地を収容する収容部の底を形成する底壁部の一部を、6FDA/TPEQ膜又は6FDA/TFMB膜のみにより形成した細胞培養用容器を用いて行った。当該容器は、それを実験台表面に載置したとき、実験台表面と前記膜の下面(容器外に露出する面)とが接触せずそれらの間に大気が介在するように形成されている。当該培養容器を用いることで、図1に示すように、前記膜(基材)10の一方の面が細胞3を含む液体培地2と接して培養細胞3の足場を提供し、且つ、前記膜10の他方の面が容器外の大気4に露出した状態で細胞培養を行うことができる。
培地組成
William’s E medium(和光純薬)+10% FBS(和光純薬) + 8.6nM インスリン + 255nM デキサメサゾン + 50ng/mL EGF + 5KIU/mL アプロチニン + 抗生物質(ペニシリン(100unit/mL)/ストレプトマイシン(100μg/mL)/アムホテリシンB(0.25μg/mL))
培養5日目の位相差顕微鏡写真を図2に示した。
一般的に付着細胞の培養で使用される比較例1のマルチウェルセルカルチャープレートでは単層状に細胞が増殖し細胞凝集塊の形成は見られなかったが、6FDA/TPEQ膜及び6FDA/TFMB膜では3次元的な構造の細胞凝集塊の形成が確認され、かつ細胞凝集塊は大きさが均一で、適度なサイズであり、基材全面に均一にスフェロイドが分布していた。
培養24時間毎に0.25%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理後、0.4w/v%トリパンブルー溶液(和光純薬)及び血球計算盤を用いて総細胞数の測定を行った。また、培養24時間毎に培養液をサンプリングし、−20℃で保存した。
3.アルブミン定量
培養5日目の各試験区の培養液を用いてアルブミンの定量を実施した。アルブミンの定量にはRat Albumin ELISA Quantitation Set (Bethyl Laboratories社)を使用し、添付されているプロトコールに従ってアルブミンの定量実験を行った。各試験区のアルブミン定量の結果を図3に示した。アルブミン生成量は6FDA/TFMB膜、6FDA/TPEQ膜、マルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)の順で高く、酸素透過性の高い材料を用いることで肝細胞の機能を高いレベルで維持できることが明らかとなった。
4.免疫染色
培養5日目に実施例3の6FDA/TFMB膜上に形成された細胞凝集塊のカドヘリン及びアクチンの免疫染色を実施した。具体的には、固定液として4%パラホルムアルデヒド/PBS(−)溶液、ブロッキング液として0.1% BSA添加PBS(−)溶液、洗浄液として0.05% Triton−X/PBS(−)溶液を使用した。また、抗体としては、Rabbit E−cadherin polyclonal antibody(Santa Cruz社)、Biotinylated anti−rabbit IgG antibody(Vector Laboratories社)、Streptavidin−Fluorescein(PerkinElumer社)、Rhodamine phalloidin(Invitrogen社)を使用し、共焦点レーザースキャン顕微鏡 LSM700 (ZEISS社)を使用して蛍光顕微鏡写真の撮影を行った。蛍光顕微鏡像を示した。緑色がカドヘリン、赤色がアクチンである。結果を図4に示す。
これにより、6FDA/TFMB膜上に形成された細胞凝集塊がカドヘリンを発現したスフェロイドであることが確認された。
5.フッ素を含まないポリイミド膜上での培養
比較例2の無水ピロメリット酸/ODAポリイミド膜(フッ素原子を含まない)上でのラット初代肝細胞の培養を、上記2にて説明した6FDA/TPEQ膜又は6FDA/TFMB膜上でのラット初代肝細胞の培養と同様の方法で行った。すなわち、図1に示すように、無水ピロメリット酸/ODAポリイミド膜10の一方の面が細胞3を含む液体培地2と接して培養細胞3の足場を提供し、且つ、該膜10の他方の面が容器外の大気4に露出した状態でラット初代肝細胞の培養を行った。ラット初代肝細胞の取得も上記1に記載した手順で行った。
培養5日目に位相差顕微鏡を用いて培養細胞の様子を観察したところ細胞凝集塊の形成は確認できなかった。
6.ラット初代肝細胞の培養(2)
上記1の方法で取得したラット初代肝細胞を、フィルムを変更した以外は上記2での培養と同様の条件で培地に懸濁し、5.3×104cells/cm2となるように比較例1のポリスチレン製マルチウェルセルカルチャープレート、実施例2の6FDA/TPEQ膜、実施例4の6FDA/TFMB膜に播種し、37℃,5%CO2条件下で培養した。6FDA/TPEQ膜及び6FDA/TFMB膜は高圧蒸気滅菌処理後に細胞培養に使用した。培地は毎日交換した。培養5日目に位相差顕微鏡で培養細胞の状態を確認したところ、実施例2の6FDA/TPEQ膜、実施例4の6FDA/TFMB膜の両者ともに細胞凝集体の形成が確認された。
第二部:実施例及び参考実験の手順と結果
<酸二無水物>
酸二無水物として、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)(自社合成品)を用いた。
<ジアミン>
ジアミンとして、2,6−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジフルオロ−4−(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロ−n−デカノキシ)ベンゾニトリル(AFDM)(自社合成品)、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)(和歌山静加工業株式会社)、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)(和歌山静加工業株式会社)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)(和歌山静加工業株式会社)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)(和歌山静加工業株式会社)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)(和歌山静加工業株式会社)を用いた。
各化合物の化学構造と分子中のエーテル結合及びフッ素原子の数は次表に示す通りである。
酸二無水物とジアミンを下記表に示すように組み合わせて各試験区のポリイミドのフィルムを調製した。
≪調製例2−1≫6FDA/AFDM
100ml容量の三口フラスコに2,6−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジフルオロ−4−(1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロ−n−デカノキシ)ベンゾニトリル4.855g(5.95ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ 4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物 2.645g(5.95ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は7万であった。
≪調製例2−2≫6FDA/HFBAPP
100ml容量の三口フラスコに2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン2.693g(5.19ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物2.307g(5.19ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は50万であった。
≪調製例2−3≫6FDA/BAPP
100ml容量の三口フラスコに2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン3.602g(8.77ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物3.898g(8.77ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は28万であった。
≪調製例2−4≫6FDA/BAPB
100ml容量の三口フラスコに4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル3.400g(9.23ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ 4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.100g(9.23ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は22万であった。
≪調製例2−5≫6FDA/ODA(DPE)
100ml容量の三口フラスコに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル 2.330g(11.64ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ 4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物5.170g(11.64ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は19万であった。
≪調製例2−6≫6FDA/TPER
100ml容量の三口フラスコに1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン2.976g(10.2ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ 4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.524g(10.2ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は18万であった。
≪調製例2−7≫6FDA/6FAP
100ml容量の三口フラスコに2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン3.220g(9.63ミリモル)、N,N−ジメチルアセトアミド42.5gを仕込み溶解した。そこへ4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.280g(9.63ミリモル)を加え、窒素雰囲気下、室温で5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15質量%)を得た。該ポリアミド酸の重量平均分子量は8万であった。
≪参考例1≫
調製例2−1の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では20.8MPaであったが誤りがあり再測定した結果0.93GPaに訂正した。
≪実施例5≫
調製例2−2の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率、膜厚、酸素ガス透過係数、酸素ガス透過度をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では42.6MPaであったが誤りがあり再測定した結果2.3GPaに訂正した。
≪参考例2≫
調製例2−3の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率、膜厚、酸素ガス透過係数、酸素ガス透過度をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では48.4MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.94GPaに訂正した。
≪実施例6≫
調製例2−4の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では44.6MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.94GPaに訂正した。
≪実施例7≫
調製例2−5の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率、膜厚、酸素ガス透過係数、酸素ガス透過度をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では57.7MPaであったが誤りがあり再測定した結果2.62GPaに訂正した。
≪参考例3≫
調製例2−6の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では23.9MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.02GPaに訂正した。
≪実施例8≫
調製例2−7の含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を用いた以外は第一部実施例1と同様の方法により含フッ素ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルムにおけるフッ素含有量、イミド化率、水接触角、引張弾性率、膜厚、酸素ガス透過係数、酸素ガス透過度をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。引張弾性率の値は当初の測定では27.6MPaであったが誤りがあり再測定した結果1.39GPaに訂正した。
<スフェロイドの形成>
6FDA/AFDM膜(参考例1)、6FDA/HFBAPP膜(実施例5)、6FDA/BAPP膜(参考例2)、6FDA/BAPB膜(実施例6)、6FDA/ODA膜(実施例7)、6FDA/TPER膜(参考例3)、6FDA/6FAP膜(実施例8)、ピロメリット酸/ODA膜(比較例2(第一部と同じ))を用いた培養試験を実施した。なお、各試験膜は高圧蒸気滅菌後に培養試験に使用した。第一部で説明したのと同様の方法でWistarラット、オス、6週齢、体重130gからラット初代肝細胞を取得し、第一部で説明したのと同様の培地を用い、37℃,5% CO2条件下で培養試験を行った。培養5日目に位相差顕微鏡を用いて各試験区の培養細胞の様子を観察したところ、比較例2以外の試験区では細胞凝集塊の形成が確認された。
<細胞培養によるスフェロイドの形成−2>
1.ラット初代肝細胞の取得
Specific viral pathogen freeのWistarラット、オス、9週齢、体重200gを日本エスエルシー株式会社より購入した。ラット初代肝細胞の取得は培養細胞実験ハンドブック (羊土社) 第10章、肝細胞記載の方法を参考に実施した。具体的には、Wistarラットをイソフルラン麻酔下で開腹し、門脈にカテーテルを挿入して以下の表4に示す組成の前かん流液を注入した。同時に肝臓下部の下大静脈を切開して血液を放出させた。次に胸腔を開き、右心房に入る下大静脈を切開し、肝臓下部の下大静脈をかん止で止めてかん流を行った。肝臓からの脱血が十分になされたことを確認した後にかん流を止め、かん流液を以下の表4に示す組成のコラゲナーゼ溶液に換えて、かん流を行った。細胞間組織がコラゲナーゼにより消化されたことを確認した後、かん流を止めた。肝臓を切り離し、ガラスシャーレに移した後、冷したハンクス溶液を添加して、ピペッティングにより細胞を分散させた。次に150mm濾過器により未消化の組織を除去した。細胞懸濁液は、50G、1分の遠心分離を数回繰り返して非実質細胞を除去した。得られた肝細胞の生存率はトリパンブルー排除法で計測し、生存率85%以上の肝細胞をラット初代肝細胞として培養試験に使用した。
2.無血清培地を用いたラット初代肝細胞の培養
前述の方法で取得したラット初代肝細胞を、以下の表5に示す組成の無血清培地で懸濁し、1.33×104細胞/cm2となるように、6.25×105細胞/mLのラット初代肝細胞懸濁液0.4mLを、NanoCulture Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)、PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)、及び6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレートに添加し、37℃,5%CO2条件下で培養を行った。培地交換は播種後4時間、培養1日目、3日目、5日目に培地を全量除去後、無血清培地を0.4mL添加して行った。なお、NanoCulture Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)には微細な凹凸が存在するため、細胞懸濁液を播種する前に以下の操作を行い、凹凸内の気泡を除去する脱気作業を実施した。
図10に、培養5日目のNanoCulture Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)(図10A)、PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)(図10B)、及び6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレート(図10C)の位相差顕微鏡写真を示した。
PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)では細胞凝集体を形成したが凝集体は培地中に浮遊し、大きな塊を形成していた(図10B)。さらに、細胞の数も少なく、培地交換時に培地中に浮遊した細胞を培地とともに除去したことが原因と考えられる。また、NanoCulture Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)では一部凝集体の形成は確認できたが、大半の細胞は単層状に細胞が基材に付着していた(図10A)。一方で、FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレートでは単層状に基材に付着した細胞は少なく、3次元的な構造の細胞凝集塊が形成された(図10C)。
3.CYP1A活性測定
各培養5日目にPrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)及び6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレート上の細胞を用いて、CYP1A活性の測定を実施した。培地を除去し、3−メチルコラントレンが終濃度で2μMとなるように調整した上記無血清培地を添加した。培地を添加してから24時間経過した後に、培地を除去した。次に、エトキシ−レゾルフィンが終濃度で10μMとなるように調整した上記無血清培地を添加して、37℃,5%CO2条件下で75分インキュベートした。インキュベート後の各ウェル内の蛍光強度を蛍光光度計を用いて測定した。結果を図11に示した。
6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレート上の細胞と比較して、PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)上の細胞はCYP1A活性が低い値となった。PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)上の細胞は大きな塊を形成していたために、細胞塊中央部の細胞に培地成分や酸素が十分に供給されなかったため、細胞の機能が低下したと考えられる。また、PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)上の大きな細胞塊では、3−メチルコラントレンやエトキシ−レゾルフィンの細胞内への取り込みが効率的に行われずCYP1A遺伝子の発現量が低下したことも原因と考えられる。
4.血清培地を用いたラット初代肝細胞の培養
前述の方法で取得したラット初代肝細胞を、以下組成の血清培地で懸濁し、1.33×104細胞/cm2となるように、6.25×105細胞/mLのラット初代肝細胞懸濁液0.4mLを、コラーゲンタイプIコートマイクロプレート24ウェル(旭硝子社)、NanoCulture Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)、PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)、Lumoxマルチウェルプレート24ウェル(グライナー社)、及び6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレートに添加し、37℃,5%CO2条件下で培養を行った。培地交換は播種後4時間、培養1日目、3日目、5日目に培地を全量除去後、血清培地を0.4mL添加して行った
血清培地の組成
William’s E medium(和光純薬)+10%FBS(和光純薬)+8.6nMインスリン+255nMデキサメサゾン+50ng/mL EGF+5KIU/mLアプロチニン+抗生物質(ペニシリン(100unit/mL)/ストレプトマイシン(100μg/mL)/アムホテリシンB(0.25μg/mL))
培養5日目の各ウェル上の細胞の位相差顕微鏡写真を図12に示した。
コラーゲンタイプIコートマイクロプレート24ウェル(旭硝子社)(図12A)及びLumoxマルチウェルプレート24ウェル(グライナー社)(図12D)では多数の細胞が単層状に増殖し細胞凝集塊の形成はほとんど見られなかった。また、NanoCulture Plate MSパターン/高接着/24ウェル(サイバックス社)(図12B)及びPrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)(図12C)では細胞凝集塊は形成されたが細胞凝集塊は基材には付着せずに培地中に浮遊しており、浮遊した細胞凝集塊同士がさらに大きな塊を形成していた。細胞凝集塊のサイズが大きすぎると細胞凝集塊中央部の細胞まで培地成分や酸素が供給されないため、中央部の細胞が壊死することが知られている。一方で、6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレートでは適度な大きさの細胞凝集塊が基材に付着した状態でウェル全体に均一に分布して形成された(図12E)。細胞凝集塊が基材に付着したことで、細胞凝集塊同士が会合することが抑制され、適度な大きさを保てていると考えられる。さらに、細胞凝集塊が基材に付着していることで、培地交換時に培地とともに細胞が取り除かれることも抑制されたと考えられる。
5.アルブミン定量
培養5日目の各試験区の培養液を用いてアルブミンの定量を実施した。アルブミンの定量にはRat Albumin ELISA Quantitation Set (Bethyl Laboratories社)を使用し、添付されているプロトコールに従ってアルブミンの定量実験を行った。各試験区のアルブミン定量の結果を図13に示した。
6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレートでもっとも高いアルブミン生成を確認した。6FDA/TPEQ(実施例1)24wellプレート上で形成された適切な大きさの細胞凝集塊では効率的に培地成分や酸素が細胞に供給され、高い肝機能を発現したと考えられる。
6.HepG2細胞の培養
HepG2細胞をDSファーマバイオメディカル社より購入した。HepG2細胞を、終濃度10%のウシ胎児血清(FBS)(DSファーマバイオメディカル社)、100×MEM用非必須アミノ酸(DSファーマバイオメディカル社)、及び終濃度2mMのグルタミン溶液(DSファーマバイオメディカル社)を添加したEMEM培地(DSファーマバイオメディカル社)で懸濁し、100mmセルカルチャーディッシュ(BD Falcon社)に播種、37℃,5%CO2条件下で培養した。70%コンフルエントの状態となるまで培養後、0.25%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理、前述の培地を添加してトリプシン反応を停止させ、HepG2細胞の浮遊細胞懸濁液を得た。HepG2細胞の浮遊細胞懸濁液中の細胞数を0.4w/v%トリパンブルー溶液(和光純薬)を用いて測定し、3.13×104細胞/cm2となるようにマルチウェルセルカルチャープレート24well(BD Falcon社)、6FDA/TPEQ膜(実施例1)、PrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)に播種し、37℃,5%CO2条件下で培養した。培養4日目に培地全量を除去後、前述の培地1mLを添加して培地交換を実施した。なお、6FDA/TPEQ膜は高圧蒸気滅菌処理後に細胞培養に使用した。
培養7日目の倒立顕微鏡写真を図14に示した。
一般的に付着細胞の培養で使用されるマルチウェルセルカルチャープレート24well(BD Falcon社)では単層状に細胞が増殖し細胞凝集塊の形成は見られなかった(図14A)。またPrimeSurfaceマルチウェルプレート24well(住友ベークライト社)では細胞凝集塊は形成されたが細胞凝集塊は基材には付着せずに培地中に浮遊しており、浮遊した細胞凝集塊同士がさらに大きな塊を形成していた(図14B)。細胞凝集塊のサイズが大きすぎると細胞凝集塊中央部の細胞まで培地成分や酸素が供給されないため、中央部の細胞が壊死することが知られている。一方で、6FDA/TPEQ膜(実施例1)上では適度な大きさの細胞凝集塊が基材に付着した状態でウェル全体に均一に分布して形成された(図14C)。細胞凝集塊が基材に付着したことで、細胞凝集塊同士が会合することが抑制され、適度な大きさを保てていると考えられる。さらに、細胞凝集塊が基材に付着していることで、培地交換時に培地とともに細胞が取り除かれることも抑制されたと考えられる。