JP2016018588A - リチウムイオン二次電池、およびその製造方法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池、およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
カチオン交換構造を有する活物質を使用した正極に対し、当該正極活物質の理論容量を満たすことのできるLiイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】
一般式Li(2−X)FeMn(1−Y)SiO(0<x<2、0<y<1)で表され、
空間群P2/nまたはPmn2の少なくともいずれか一方の結晶構造を持ち、さらにFe/Mnサイトの一部にLiが入り、Liサイトの一部にFeまたはMnのいずれかが入った、カチオン交換構造を持つことを特徴とする正極活物質を含有する正極と、負極とを含有するリチウムイオン二次電池であって、
負極活物質として、および/または負極以外の構成成分として、正極活物質の欠損したLiを補う量のLiを含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池に関し、具体的には、カチオン交換構造を有する活物質を使用した正極に対し、当該正極活物質の理論容量を満たすことのできるLiイオン二次電池に関する。
近年、電子機器のモバイル化と高機能化に伴い、駆動電源である二次電池は最重要部品のひとつになっている。特に、リチウムイオン二次電池は、用いられる正極活物質と負極活物質の高い電圧から得られるエネルギー密度の高さから、従来のNiCd電池やNi水素電池に替わり、二次電池の主流の位置を占めるに至っている。
リチウムイオン二次電池の材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)や、ケイ酸鉄リチウム(LiFeSiO)や、ケイ酸マンガンリチウム(LiMnSiO)などが挙げられる。これらの中でも、レアメタルであるコバルトよりも安価で熱安定性に優れ、さらにケイ酸鉄リチウムよりも高容量を実現し得る(特許文献1、非特許文献1〜3)、ケイ酸マンガンリチウムがより好ましく期待される材料である。
具体的には、正極材料としてのケイ酸マンガンリチウムは、合成後、充放電を行うことで、その反応電位が1電子目も2電子目も4.5V以下であることから、Liを2個分脱挿入することができ、高容量を実現できる材料であることが知られている。しかしながら、ケイ酸マンガンリチウムは初回の放電によって、結晶構造がアモルファス化し、2電子反応をサイクル特性良く行うことができない(非特許文献4)。
特許5298286号公報 特開2012−209195号公報 特開2010−232469号公報
Journal of Electrochemical Society,159(5) A525−A531(2012) Electrochemical Communications 8 (2006) 1292−1298 Journal of The American Chemical Society 2011,133,13031−13035 Chemistry of Materials 2010,22,5754−5761
このような問題を解決するために、出願人は、一般式Li(2−X)FeMn(1−Y)SiO(0<x<2、0<y<1)で表され、空間群P2/nまたはPmn2の少なくともいずれか一方の結晶構造を持ち、さらにFe/Mnサイトの一部にLiが入り、Liサイトの一部にFeまたはMnのいずれかが入った、カチオン交換構造を持つことを特徴とする正極活物質を発明するに至った。これにより、従来の電気化学的な手法を用いずに、合成化学的手法でカチオン交換構造を得ることができる。そのため、電気化学的な手法ではアモルファス化してしまうためにカチオン交換構造に転移することができなかったケイ酸鉄マンガンリチウムに対しても適用することができる。また、カチオン交換構造となったケイ酸鉄マンガンリチウムは、その後の充放電においてもアモルファス化せず、結晶構造を維持することができる。
しかしながら一方で、カチオン交換構造を有する活物質作成のためには、合成過程でLiの欠損が生じる。
図2は、リチウムイオン二次電池において、カチオン交換構造を持ちリチウムが欠損した正極と、従来の負極を組み合わせてなるリチウムイオン二次電池の、正極と負極におけるリチウムイオンの出入りを模式的に示したものである。ここで、113は正極活物質の骨格であり、正極活物質のうち、出入りするリチウムイオン以外の部分を模式的に示したものである。115は同様に負極活物質の骨格であり、カーボン系の材料であればグラフェン層を示す。
図2(1)に示すように、正極活物質骨格113の間にリチウムイオン103が存在するが、同時にカチオン交換構造特有のリチウム欠損部101も存在する。
次に、図2(2)に示すように、この構造の電池を初回充電すると、リチウムイオン103が正極から負極に移動した場合においても、リチウム欠損部101に相当する容量分は負極活物質にリチウムイオンが挿入されないことになる。
そして、図2(3)に示すように、充放電サイクルを繰り返した場合においても、同様にLi欠損部101は補充・回復されることはない。
上述の通り、カチオン交換構造は、充放電を繰り返してもアモルファス化せず結晶構造を維持することができるという利点があるものの、電池容量がLiの欠損分だけ少なくなってしまうという課題があった。
本願発明は、上述のカチオン交換構造を持ち、Li欠損したケイ酸鉄マンガンリチウム系正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、理論容量を満たすリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
即ち本願発明は、一般式Li2−XFeMn(1−Y)SiO(0<x<2、0<y<1)で表され、
空間群P2/nまたはPmn2の少なくともいずれか一方の結晶構造を持ち、さらにFe/Mnサイトの一部にLiが入り、Liサイトの一部にFeまたはMnのいずれかが入った、カチオン交換構造を持つ正極活物質を含有する正極と、負極を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池であって、
負極活物質として、および/または負極以外の構成成分として、正極活物質の欠損したLiを補う量のLiを含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池に関する。
まず、カチオン交換構造について説明すると、空間群P2/nで表される結晶構造と、空間群Pmn2で表される結晶構造は、非常に近い関係にある。これらの結晶構造は、一般式Li2−XFeMn(1−Y)SiO(0<x<2、0<y<1)で表される組成の物質を、焼成によって製造することで通常生成する安定的な結晶構造なので、本明細書では通常構造と呼ぶ。ここで、非特許文献5のように、Yが1に近いとP2/nになり、Yが0に近いとPmn2となり、その間ではP2/nとPmn2の共存状態、あるいは固溶体状態になることが一般的であることが知られている。((非特許文献5)Journal of Materials Chemistry 2011,21,17823−17831)
しかし、実際の材料では必ずしも平衡状態は得られず、また結晶構造の差もわずかのため、X線回折による同定も困難であるため、結晶構造を組成との関係で一義的に決定するのは難しい。また、正極活物質として実用に供する場合は、上記の範囲の組成であればどちらの結晶構造であっても同様に使用が可能なので、本発明ではこれらを厳密に区別せず、空間群P2/nまたはPmn2の少なくともいずれか一方の結晶構造を持つもの、と定義する。
一方、これらの通常構造に対し、Fe原子またはMn原子と、Li原子が、本来の位置から入れ替わった結晶構造を、カチオン交換構造と呼ぶ。ここで、Fe/Mnサイトとは、通常構造でFe原子またはMn原子が存在する位置である。Liサイトとは、通常構造でLi原子が存在する位置である。
このようなカチオン交換構造は、結晶構造が安定化する一方で、合成過程でLiの欠損が生じる。
本願発明は、Liを予め含有した活物質を使用した負極、またはその他の部材を用いることによって、負極活物質として、および/または負極以外の構成成分として、正極活物質の欠損したLiを補うことができる。
その結果、前述したカチオン交換構造が有する利点とともに、カチオン交換構造をとる正極活物質の理論容量をも満たすリチウムイオン二次電池を提供することができる。
本件で扱う「正極活物質のLi欠損量」とは正極活物質において、化学処理により生じた理論組成からのLi欠損量を意味する。例えば、ケイ酸塩系正極材料LiFeMn(1−Y)SiO(0≦y≦1)に対し、Li2−XFeMn(1−Y)SiO(0<x<2,0<y<1)においてはXがLi欠損量に当たる。Liが欠損した正極活物質を正極に用いると、充電時に負極へ導入されるLiイオン量が理論値より減少するため、充電容量の低下を引き起こす。
当該正極活物質Li2−XFeMn(1−Y)SiO(0<x<2,0<y<1)においては、Li欠損量はX=0.8−1.2の範囲に収まることを確認している。そのため、正極活物質のLi欠損分を補うためのLiプレドープ量は、Li欠損量に対して実質的に過不足がない量が好ましいが、実用上問題のない公差は許容される。Liプレドープ量は、正極活物質1gあたり0.024〜0.036g(92〜138mAhに相当)程度であることがより好ましい。
一方、放電時においては「負極の不可逆容量」も発生するため、更に容量が低下する。「負極の不可逆容量」とは充電時負極に導入され、放電時に負極に内包されたまま正極に戻らないLiイオン量に相当する容量を指し、充電容量より放電容量が小さくなる現象が生じる。充放電特性向上のため、負極にLiをプレドープすることで、不可逆容量を低減する技術も公開されている(特許文献2、特許文献3)。なお、負極の不可逆容量は、負極活物質の種類によって異なり、負極の不可逆容量分に相当するLi量は、負極活物質それぞれに合わせた最適値が存在する。
本願発明で補うLiのドープ量とは、正極のカチオン交換構造に伴うLi欠損量と、負極の不可逆容量分に相当するLi量を足し合わせた量に対して実質的に過不足がない量であることが望ましいが、実用上問題のない公差は許容される。前記のLi量をドープすることで当該正極活物質を使用したLiイオン二次電池においても、容量を損なわずに使用することが可能である。
なお、正極活物質のLi欠損量と負極の不可逆容量を足し合わせた量を超えてLiを負極にプレドープして電池を作成した場合、金属Liが析出する場合があるので、非常に危険である。
また、上記カチオン交換構造において、Feおよび/またはMnの一部に代えて、CoまたはNiの少なくとも一方が置換されても、同様の効果を得ることができる。
また、上記カチオン交換構造において、Feおよび/またはMnの一部に代えて、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Sr、Zr、Moの少なくともいずれかが添加されることで、容量の増大およびエネルギー密度の増大という前記同様の効果に加え、結晶構造の安定化や、サイクル特性を向上させることができる。
また、上記カチオン交換構造において、Liの一部に代えて、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Moの少なくともいずれかが置換されることで、前記同様に、容量の増大、エネルギー密度の増大、結晶構造の安定化、サイクル特性の向上といった効果を得ることができる。
本願発明により、安定したカチオン交換構造を有するケイ酸マンガンリチウム系の正極活物質を用いた二次電池特有の問題を解決することができ、結果、良好なサイクル特性と高容量を併せ持つリチウム二次電池を提供することに成功した。
本願発明にかかるリチウムイオン二次電池の模式図((a)正極(カチオン交換構造)、(b)負極にLiをプレドープ) 従来技術にかかる、正極のリチウムが欠損したままのリチウムイオン二次電池((a)正極(カチオン交換構造)、(b)負極) 微粒子製造装置1を示す概略図。 空間群Pmn2の単位格子を示す図。 空間群Pmn2を持つ結晶構造を示す図で、(a)は通常構造を示す図、(b)はカチオン交換構造を示す図。 (a)は、合成直後の結晶構造20aを示す概念図、(b)は、Liの一部を脱離させた状態の結晶構造20bを示す概念図。 カチオン交換構造を示す図で、(a)は、1電子充電状態の結晶構造20cを示す概念図、(b)は、放電状態の結晶構造20dを示す概念図。 X線回折測定におけるピークを示す図。 X線回折測定におけるピークを示す図。
(正極活物質)
以下、本願発明の実施の形態を詳細に説明する。ケイ酸鉄マンガンリチウムは、一般式Li(2−X)FeMn(1−Y)SiO(0<x<2、0<y<1)で表される。
また、Feおよび/またはMnの一部を、実用量の増大や平均電位の向上による、エネルギー密度の向上が期待できるCoまたはNiの少なくとも一方に置換してもよく、また、Feおよび/またはMnの一部を、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zn、Moの少なくともいずれかに置換してもよい。このような元素を添加することで、結晶構造を安定化させて、サイクル寿命の向上を見込むことができ、さらに実容量の増大や電位の向上によるエネルギー密度の増大を見込むことができる。なお、ケイ酸鉄マンガンリチウムの結晶構造については、詳細を後述する。
本発明のケイ酸鉄マンガンリチウムの粒子は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により粒径を測定して1次粒子の粒径分布を求めると、10〜200nmの範囲に存在し、平均粒径が25〜100nmに存在することが好ましい。また、粒径分布は、10〜150nmの範囲、平均粒径が25〜80nmに存在することがより好ましい。なお、粒径分布が10〜200nmの範囲に存在するとは、得られた粒径分布が10〜200nmの全範囲にわたる必要はなく、得られた粒径分布の下限が10nm以上であり、上限が200nm以下であることを意味する。つまり、得られた粒径分布が10〜100nmであってもよいし、50〜150nmであってもよい。
また、SiOの一部を他のアニオンにより置換させることもできる。例えば、遷移金属の酸である、チタン酸(TiO)やクロム酸(CrO)、バナジン酸(VO、V)、ジルコン酸(ZrO)、モリブデン酸(MoO、Mo24)、タングステン酸(WO)、等々であり、あるいはホウ酸(BO)やリン酸(PO)による置換である。ケイ酸イオンの一部をこれらのアニオン種により置換することにより、Liイオンの脱離と挿入の繰り返しによる結晶構造変化の抑制と安定化に寄与し、サイクル寿命を向上させる。また、これらのアニオン種は、高温においても酸素を放出し難いので、発火につながることもなく安全に用いることができる。
正極活物質は、表面に炭素被覆を有することが好ましい。さらに、炭素被覆を有する正極活物質の粉体導電率が10−3S/cm以上であることが好ましい。正極活物質の粉体導電率が10−3S/cm以上であれば、正極に使用された際に十分な導電性を得ることができる。また、炭素被覆を有する正極活物質中の炭素の含有量が1.5重量%以上であることが好ましい。炭素の含有量が1.5重量%以上であれば、粉体導電率も高くなり、正極活物質を正極に使用する際に十分な導電性を得ることができる。
(本実施の形態に係る正極活物質の製造方法)
まず、ケイ酸鉄マンガンリチウムの前駆体を焼成する。ケイ酸鉄マンガンリチウムの前駆体は、火炎加水分解や熱酸化などの反応過程を含む製造方法、例えば噴霧燃焼法により合成される。
次に、得られた前駆体を炭素源と混合し、不活性ガス雰囲気中で焼成する。前駆体粒子に含まれる非晶質な化合物や酸化物形態の混合物が、焼成によりケイ酸鉄マンガンリチウム系の結晶形態の化合物に変化し、正極活物質が得られる。
さらに、正極活物質の表面を炭素で被覆することが好ましいため、正極活物質を炭化水素ガスの雰囲気下でアニールすることが好ましい。
(噴霧燃焼法による前駆体粒子の製造方法)
図3は、噴霧燃焼法により前駆体粒子を製造する微粒子製造装置1の例である。
反応容器11には、微粒子合成ノズル9が配置され、燃焼ガス供給部5、支燃性ガス供給部7、及び原料溶液供給部3が接続される。燃焼ガス供給部5、支燃性ガス供給部7、及び原料溶液供給部3からはそれぞれ、可燃性ガス、エア、原料溶液等が、微粒子合成ノズル9から生じる火炎中に供給される。また、反応容器11内で生成された排気中の前駆体粒子15が、フィルタ13により回収される。
噴霧燃焼法は、支燃性ガスと可燃性ガスにより発生させた火炎中へ、液体または溶液とした構成原料を気化器を通して供給し、構成原料を反応させ、熱酸化により目的物質を得る方法である。可燃性ガスとしては炭化水素系ガス、支燃性ガスとしては空気または酸素を用いるのが一般的である。また、炭化水素系ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどのパラフィン系炭化水素ガスや、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィン系炭化水素ガスが用いられる。火炎の温度は、可燃性ガスと支燃性ガスの混合比や、さらに構成原料の添加割合によって変化するが、通常1000〜3000℃の間にあり、特に1500〜2500℃程度であることが好ましく、さらに1500〜2000℃程度であることがより好ましい。火炎温度が低温であると、火炎中での反応が完了する前に、微粒子が火炎の外へ出てしまう可能性がある。また、火炎温度が高温であると、生成する微粒子の結晶性が高くなりすぎ、その後の焼成工程において、安定相であるが、正極活物質としては好ましくない相が生成しやすくなってしまう。
また、噴霧燃焼法以外の前駆体粒子の製造方法としては、火炎加水熱分解法、固相法、水熱法等がある。
火炎加水分解法は、火炎中で構成原料が加水分解される方法である。火炎加水分解法では、火炎として酸水素火炎が用いられ、原料は塩化物等の気体で供給されることが一般的である。不活性ガス充填雰囲気中で、可燃性ガスとして水素ガスが、支燃性ガスとして酸素ガスが供給されて生成した火炎の元に原料を導入し、目的物質を合成する。火炎加水分解法では、ナノスケールの極微小な、主として非晶質からなる目的物質の微粒子を得ることができる。析出の形状によっては、VAD(Vapor−phase Axial Deposition)法とも呼ばれる。
固相法とは、金属酸化物や金属塩などの固体を混合し、固相のまま高温で反応させることによって、目的の物質を合成する方法である。粉末状の原料固体をボールミル等で混合し、ペレット状に圧粉して雰囲気中で加熱することが一般的である。
水熱法とは、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物の合成法であり、オートクレーブと呼ばれる密閉容器中に原料物質と水を入れ、密閉したまま加熱加圧することで、反応させる方法である。常温や常圧では水に溶けない物質も溶解するため、通常は得にくい物質の合成が可能である。
(前駆体粒子を得るための構成原料)
本実施の形態の前駆体粒子を得るための構成原料は、少なくともリチウム源、鉄源、マンガン源、シリコン源である。さらに、必要に応じて他の元素の添加原料を用いてもよい。原料が固体の場合は、粉末のまま供給するか、液体に分散して、または溶媒に溶かして溶液とし、気化器を通じて、火炎に供給する。原料が液体の場合には、気化器を通じるほかに、供給ノズル前に加熱または減圧およびバブリングによって蒸気圧を高めて気化供給することもできる。特に、リチウム源、鉄源、マンガン源、シリコン源の混合溶液を、直径20μm以下の霧状の液滴にて供給することが好ましい。
リチウム源としては、塩化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウムなどのリチウム無機酸塩、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、ナフテン酸リチウムなどのリチウム有機酸塩、リチウムエトキシドなどのリチウムアルコキシド、リチウムのβ―ジケトナト化合物などの有機リチウム化合物、酸化リチウム、過酸化リチウム、などを用いることができる。なお、ナフテン酸とは、主に石油中の複数の酸性物質が混合した異なるカルボン酸の混合物で、主成分はシクロペンタンとシクロヘキサンのカルボン酸化合物である。
鉄源としては、塩化第二鉄、シュウ酸鉄、酢酸鉄、硫酸第一鉄、硝酸鉄、水酸化鉄、2−エチルヘキサン酸第二鉄、ナフテン酸鉄等を用いることができる。さらに、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、アセチルアセトネート、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの鉄の有機金属塩や、酸化鉄なども条件により使用される。
マンガン源としては、塩化マンガン、シュウ酸マンガン、酢酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、オキシ水酸化マンガン、2−エチルヘキサン酸第二マンガン、ナフテン酸マンガン、ヘキソエートマンガン等を用いることができる。さらに、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、アセチルアセトネート、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などのマンガンの有機金属塩、酸化マンガンなども条件により使用される。
シリコン源としては、四塩化ケイ素、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、二酸化ケイ素や一酸化ケイ素またはこれら酸化ケイ素の水和物、オルトケイ酸やメタケイ酸、メタ二ケイ酸等の縮合ケイ酸、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン、TEOS)、テトラメチルオルトシリケート(テトラメトキシシラン、TMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルトリシロキサン(OMTSO)、テトラ−n−ブトキシシラン、等々を用いることができる。
また、ケイ酸鉄マンガンリチウムのケイ酸の一部を他のアニオンにより置換する場合は、アニオン源として、遷移金属の酸化物、ホウ酸、リン酸の原料を加える。
例えば、酸化チタン、亜チタン酸鉄や亜チタン酸マンガンなどの亜チタン酸金属塩、チタン酸亜鉛やチタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムなどのチタン酸塩、酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化クロム、クロム酸塩や二クロム酸塩、酸化マンガン、過マンガン酸塩やマンガン酸塩、コバルト酸塩、酸化ジルコニウム、ジルコン酸塩、酸化モリブデン、モリブデン酸塩、酸化タングステン、タングステン酸塩、ホウ酸や三酸化二ホウ素、メタホウ酸ナトリウムや四ホウ酸ナトリウム、ホウ砂などの各種ホウ酸塩、亜リン酸、オルトリン酸やメタリン酸などのリン酸、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウムなどのリン酸水素アンモニウム塩などを、それぞれ所望のアニオン源と合成条件に応じて用いることができる。
これらの原料を同一反応系に火炎原料と共に供給して前駆体粒子を合成する。生成した前駆体粒子は、排気中からフィルタで回収することができる。また、以下のように芯棒の周囲に生成させることもできる。反応器の中にシリカやシリコン系の芯棒(種棒とも呼ばれる)を設置し、これに吹き付けている酸水素火炎中やプロパン火炎中に火炎原料と共にリチウム源、鉄源、マンガン源、シリコン源を供給し、加水分解または酸化反応させると、芯棒表面に主にナノメートルオーダーの微粒子が生成付着する。これらの生成微粒子を回収し、場合によってはフィルタやふるいに掛けて、不純物や凝集粗大化した部分を除く。このようにして得られた前駆体粒子は、ナノスケールの極微小な粒径を持ち、主として非晶質である微粒子からなる。
本実施の形態に係る前駆体粒子の製造方法である噴霧燃焼法は、製造できる前駆体粒子が、非晶質であり、粒子の大きさも小さい。さらに、噴霧燃焼法では、従来の水熱合成法や固相法に比べて、短時間で大量の合成が可能であり、低コストで均質な前駆体粒子を得ることができる。
本発明においては、前駆体粒子を還元剤と混ぜて焼成することで、正極活物質を得ることができる。本実施の形態における前駆体とは、焼成することで、ケイ酸鉄マンガンリチウムの結晶を得ることができる材料である。特に、本実施の形態における前駆体は、鉄やマンガンの価数が3価でありアモルファスであるが、還元剤と混ぜて焼成することで鉄やマンガンの価数が3価から2価に変化する。前駆体粒子の組成は、化学量論的組成を満足することが望ましい。
また、前駆体粒子の形状が略球形であり、粒子の平均アスペクト比(長径/短径)が、1.5以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。なお、粒子が略球形であるとは、粒子形状が幾何学的に厳密な球形や楕円球形であることまでは意味せず、わずかな突起部があっても粒子の表面がおおむね滑らかな曲面で構成されていればよい。
これら前駆体粒子を2θ=10〜60°の範囲の粉末法X線回折によって測定すると、ほとんど回折ピークを有しないか、有したとしても回折ピークが小さく幅の広い回折角を示す。すなわち、前駆体粒子は、結晶子の小さい微粒子または小さな単結晶の集まった多結晶微粒子で構成されるか、これら微粒子の周囲に非晶質成分が存在する微結晶形態である。
本実施の形態の噴霧燃焼法では、火炎中で炭素は燃焼するので、得られた前駆体粒子には、炭素が含まれない。仮に炭素成分が混入したとしても、ごく微量であり、正極に使用する際の導電助剤となるほどの量ではない。
(正極活物質の製造)
噴霧燃焼法による得られた、前駆体粒子をさらに炭素源と混合した後に、不活性ガス充填雰囲気下で焼成する。この際、前駆体粒子に含まれる非晶質な化合物や酸化物形態の混合物が、焼成により主にポリアニオン系のケイ酸鉄マンガンリチウム系の結晶形態の化合物に変化する。
また、不活性ガス充填雰囲気下では、焼成時に炭素源が燃焼してしまうこと、正極活物質が酸化してしまうことを防ぐことができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガスなどを使用することができる。焼成後の生成物の導電性を高めるために、ポリビニルアルコールなどの多価アルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースなどのポリマー、ショ糖などの糖類、カーボンブラックなどの導電性炭素を、炭素源として焼成前に前駆体粒子に加えて焼成する。ポリビニルアルコールは、焼成前の前駆体粒子のバインダとしての役割を果たすうえ、焼成中に鉄やマンガンを良好に還元できるので、特に好ましい。
還元性ガスは、水素、アセチレン、一酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄、ホルムアルデヒドの中から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
(炭化水素ガスによるアニール)
焼成により正極活物質を形成した後、炭化水素ガスでアニールして、正極活物質の表面に炭素被覆を形成する。アニールにより、炭化水素ガスが鉄または炭化鉄を含む粒子と反応し、炭化水素ガスが分解・結合し、正極活物質の表面を炭素被覆することができる。
なお、得られた正極活物質は、焼成工程やアニール工程において凝集していることが多いため、乳鉢やボールミルほか粉砕手段に掛けることにより、再び微粒子とすることができる。
図5(a)は、以上のようにして形成された微粒子の、空間群Pmn2を持つ結晶構造を示す図である。
図4は、参考として空間群Pmn2を持つ結晶構造の単位格子を示したものであるが、以下の説明は、空間群P2/nを持つ結晶構造についても同様である。空間群Pmn2を持つ結晶構造は、斜方晶を単位格子とし、単位格子中に16個の原子を持つ結晶構造である。単位格子を斜視図で表すと図4のようになり、a、b、cの各辺は直交している。LiFeMn(1−Y)SiOの系においては、a、b、cの長さ(格子定数)はそれぞれ6.3オングストローム、5.3オングストローム、5.0オングストローム程度の値を持ち、組成によって1%程度の変化がありうる。
単位格子を繰り返し並べると、図5(a)のようになるが、図5(a)上でAで示される原子がFe/Mn原子である。同様に、Bで示される原子がSi原子である。Cで示される原子がLi原子である。Oで示される原子がO原子である。
また、P2/nの空間群を持つ結晶構造とは、図5(a)のPmn2の、Fe/MnサイトとSiサイトがなすa軸に平行な列の原子を取り囲む、O原子の四面体の向きが周期的に変化した構造である。よってP2/nの単位格子は図4に示す斜方晶とは異なり、軸の異なる単斜晶で長周期構造を持つが、原子の配列としては非常に近い関係にあることがわかる。
図5(a)に示す結晶構造を通常構造と呼ぶ。この通常構造は、Si−O結合による四面体(図5に破線で記載)とFe/Mn−O結合による四面体(図5に不記載)が連なった鎖部分と、Li−O結合による四面体(図5に不記載)が連なった鎖部分で構成される。図5(a)において、Fe/Mn原子の原子位置をFe/Mnサイト、Li原子の原子位置をLiサイトと呼ぶこととする。すなわち、通常構造では、Fe/MnサイトにFe/Mn原子が、LiサイトにLi原子が入った構造を取っている。なお図5における、それぞれ各原子とO原子が作る四面体については、図での説明を明快にするため、Si−O結合による四面体のみ記載している。
図6(a)は、図5(a)に示す通常構造を簡略化し、二次元的に表した結晶構造20aを示す概念図である。なお、実際には、SiおよびFeは、酸素と結合して四面体を構成しているが、図示は省略する。通常構造では、Fe/MnサイトにFe/Mn原子が、LiサイトにLi原子が入った構造を取り、通常は、この状態で、正極活物質として用いられる。
本発明では、この状態から、さらに化学処理を行う。例えば、塩酸による酸処理や、水への浸漬を行う。この処理を行うことで、図6(b)に示す結晶構造20bのように、Liサイトの一部から、Li原子を脱離することができる。すなわち、Liサイトの一部が空孔となる。
この状態から、不活性ガス雰囲気下において、所定の温度で加熱処理すると、Fe/MnサイトのFe/Mn原子の一部が、空孔となったLiサイトに移動すると考えられる。
図7(a)は、Fe/Mn原子がLiサイトに移動し、Fe/Mnサイトに空孔ができた状態の結晶構造20cを示す図である。この状態が、カチオン交換構造を有する正極活物質の結晶構造となる。
すなわち、従来は、この形態にするために、結晶構造20aから充電を行うことで、結晶構造20cとすることができる。しかし、本発明では、このような電気化学的な手法を用いずに、カチオン交換構造を得ることができる。したがって、結晶構造20aの状態から充電を行うことでアモルファス化するようなマンガンを含んだケイ酸鉄マンガンリチウムであっても、本手法により合成化学的にカチオン交換構造を得ることができる。
図7(b)は、上記結晶構造20cの状態から放電を行うことによって変化した、結晶構造20dの状態を表すものである。図5(b)は、図7(b)の構造を立体的に表したものである。
なお、図中、ACは、FeまたはMn原子とLi原子の両者が配置しうることを示す。すなわち、Li原子が、Fe/Mnサイトにできた空孔に挿入される。この後は、充放電を繰り返しても、このカチオン交換構造を維持した状態で、結晶構造20c、20dの変化を繰り返す。
次に、上記方法で得られた正極活物質の結晶構造を、CuKα線を用いたX線回折測定で評価した。図8、図9は、測定結果である。
図8において、Dは、LiFeSiOの通常構造(結晶構造20a)の測定結果であり、空間群P2/nを含み、またはPmn2の結晶構造が一部含まれている可能性を有する測定結果である。Eは、LiFeSiOのカチオン交換構造(結晶構造20d)の測定結果、Fは、Li(Fe0.75Mn0.25)SiOのカチオン交換構造(結晶構造20d)の測定結果である。
LiFeSiOとLi(Fe0.75Mn0.25)SiOのいずれも、空間群P2/nまたはPmn2の少なくともいずれか一方のカチオン交換構造が、電気化学的ではなく合成化学的に得られたことが分かる。特に22.2度付近と23.0度付近にある2つのピークが、本組成でのカチオン交換構造の特徴である。これらは、非特許文献1、または非特許文献2に示されたカチオン交換構造と同様のピークを有している。すなわち、Mnを含むLi(Fe0.75Mn0.25)SiOであっても、実質的にアモルファス化することなくカチオン交換構造へ転移することができた。
図9は、Li(Fe0.75Mn0.25)SiOについて、充放電を繰り返した際の結晶構造の変化を示す。Gは、充放電前の結果であり、Hは、1サイクルの充放電後の結果であり、Iは、5サイクルの充放電後の結果である。
結果より、Mnを含むLi(Fe0.75Mn0.25)SiOであっても、アモルファス化することなくカチオン交換構造を維持した。
(非水電解質二次電池)
本実施の形態の正極を用いた高容量な二次電池を得るには、従来公知の負極活物質を用いた負極や電解液、セパレータ、電池ケース等の各種材料を、特に制限なく使用することができる。
(負極活物質へのLiプレドープ)
カチオン交換構造を有する正極活物質の欠損したLiを補うため、負極活物質としてLiをあらかじめドープ(プレドープ)させる方法が挙げられる。
図1は、このプレドープさせた状態を図示した模式図である。
図2と比較すると、負極にリチウムイオン103がプレドープされていることが異なる。
この構造の電池を初回充電すると、リチウムイオン103が正極から負極に移動した場合において、リチウム欠損部101に相当する量のリチウムイオンが負極にプレドープされているため、初回充電完了後の負極において挿入されているリチウムイオン103は、正極の理論容量分に相当する。
そして、充放電サイクルを繰り返して正極−負極間でリチウムイオン103が移動しても再びリチウムイオン103が欠損するようなことはなく、理論容量を保つことができる。
これによって、カチオン交換構造の利点を有したまま、理論容量を保った、容量、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
Liをプレドープする方法としては、負極活物質として、および/または負極以外の構成成分として、正極活物質の欠損したLiを補うためのLiを含有する方法が挙げられる。
具体的には、負極をLi金属箔に接触させる方法、Li粉末表面にLiCOの皮膜を形成した安定化リチウムを、負極表面に塗布する方法、粉砕した酸化ケイ素材料とリチウム金属を不活性ガス雰囲気下で混合・反応させる方法、Li極を作成し、電気化学的手法によってLiをドープする方法などが挙げられる。
以下、本願発明の効果をさらに明確にするために、実施例、比較例について説明するが、本願発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<試料準備>
(1)負極にLiプレドープしたLiイオン二次電池
〔正極活物質の作製〕
活物質は噴霧燃焼法により作製した。原料(ナフテン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸第二鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、オクタメチルシクロテトラシロキサンの組成比が4:2:2:1となるように混合)を混合した後、気化器を通して原料溶液を供給し、噴霧ガス(O、流量 4SLM)により噴霧燃焼させることに依り前駆体となる粉末を得た。得られた粉末100gに対してポリビニルアルコール3wt%水溶液を100g混合し、乾燥後、不活性ガス雰囲気下で650℃8時間焼成し、正極活物質を得た(通常構造)。活物質をICP分析したところ結果は表1のようになった。Siを1としたモル比も同表に記載した。また、BET測定より比表面積は34.6m/gであった。(島津製作所社製、トライスターII 3020シリーズにて測定)
Figure 2016018588
さらに、正極活物質の表面を炭素で被覆し導電性を得るため、ブタンガスの雰囲気下で650℃1時間の熱処理を施し、正極活物質Aを得た。
サンプルの一部は、この状態からさらに塩酸を用いた酸処理を施し(酸処理は活物質10gに対して、1mol/L塩酸50mLに1時間浸漬した。)、大気中にて250℃1時間の熱処理を施し、正極活物質Bを得た(カチオン交換構造)。酸処理後の活物質をICP分析したところ結果は表2のようになった。Siを1としたモル比も同表に記載した。
Figure 2016018588
炭素コート後の正極活物質A、正極活物質Bそれぞれの導電率を測定した結果は表3のようになった。(三菱アナリテック社製、紛体導電率測定システムにて測定)
Figure 2016018588
〔正極の作製〕
前記により得られた正極活物質Aの粉末80wt%を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むバインダー10wt%、導電性カーボンブラック10wt%と混合し、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を加えて十分混練し、スラリーを得た。その後、スラリーを、アルミニウム箔上に、ドクターブレード法によって塗工した。スラリーの塗工量は、17mg/cmとした。その後100℃で30分間乾燥した。その後、ロールプレスにて厚さ100μmに成型し、φ15mmに打ち抜いて正極とした。正極活物質Bについても同様に作製した。
〔正極の単極試験〕
作製した電極に対し、対極には金属リチウム(厚さ500μm、φ16mm)、セパレータとしてポリオレフィン系微多孔膜、電解液(エチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)を体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)1モル/Lの濃度で溶解したもの)を用い、単極試験用セルを作製した。なお、セルの作製は露点−60℃以下のアルゴン置換グローブボックス内で行った。各極は集電体の付いた電槽缶に圧着して用いた。上記正極、負極、電解質及びセパレータを用いて直径20mm、厚さ3.2mmのコインセルとした。
試験温度25℃、0.60mAの電流レートにて、CC−CV法(定電流定電圧)により、4.5V(対Li/Li+)まで充電を行い、その後電流レートが0.06mAまで低下した後に充電を停止した。その後、0.60mAレートにて、CC法(定電流)により1.5V(前記に同じ)まで放電を行った。充放電試験より活物質および電極面積あたりの初期充放電容量(mAh/g活物質、mAh/cm)を測定した。正極活物質Bについても同様に測定した。その結果を表4に示す。
Figure 2016018588
上記単極試験の初期充電容量はICPの結果と整合性があり、正極活物質Bにおいて、正極の理論容量に達するためには121mAh/g分のLiを負極にプレドープする必要があることが分かった。
〔負極の作製〕
負極活物質として黒鉛活物質(日立化成社製、商品名MAGD)と、バインダーとしてPVDFとを、重量比94:6で混合し、NMPを加えて十分混練し、スラリーを得た。このスラリーは貫通孔を有する銅製集電体上に、塗工量10.8mg/cmとなるように塗布し、100℃で30分間乾燥した。その後、ロールプレスにて厚さ70μmに成型し、φ15mmに打ち抜いて負極とした。
〔負極の単極試験〕
作製した電極に対し、対極には金属リチウム(厚さ500μm、φ16mm)、セパレータとしてポリオレフィン系微多孔膜、電解液(エチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)を体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)1モル/Lの濃度で溶解したもの)を用い、単極試験用セルを作製した。なお、セルの作製は露点−60℃以下のアルゴン置換グローブボックス内で行った。各極は集電体の付いた電槽缶に圧着して用いた。上記正極、負極、電解質及びセパレータを用いて直径20mm、厚さ3.2mmのコインセルとした。
試験温度25℃、0.61mAの電流レートにて、CC−CV法(定電流定電圧)により、0.0V(対Li/Li+)まで充電を行い、その後電流レートが0.06mAまで低下した後に充電を停止した。その後、0.61mAレートにて、CC法(定電流)により1.0V(前記に同じ)まで放電を行った。充放電試験より活物質および電極面積あたりの初期充放電容量(mAh/g活物質、mAh/cm)を測定した。その結果を表5に示す。
Figure 2016018588
上記単極試験の初期充電容量と放電容量の差より、負極の不可逆容量は17mAh/g(=372−355)であり、負極の不可逆容量を抑えるためには17mAh/g分のLiをプレドープする必要があることが分かった。
<リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験>
[実施例1]
〔正極の作製〕
正極活物質B(カチオン交換構造)を用いた。作製方法は前記に同じ。スラリー塗工・成型後、50×100mm四方に裁断して正極とした。
〔負極の作製〕
前記に同じ。スラリー塗工・成型後、52×102mm四方に裁断して負極とした。
〔負極にLiをプレドープしたリチウムイオン二次電池の作製〕
上記の作製した正極と負極を、セパレータとしてのポリオレフィン系微多孔膜を介して積層した。そして、さらにセパレータを介して、ステンレス多孔箔に金属リチウム(厚さ50μm、40×22mm四方(90.2mAhに相当))を貼り付けたリチウム極を負極側の最外層に配置して、正極、負極、リチウム極およびセパレータからなる電極積層ユニットを作製した。なお、この金属リチウム量は、正極活物質のLi欠損分と、負極活物質の不可逆容量分の合計に相当する。この電極積層ユニットを1対のアルミラミネートフィルムで覆い、3辺に熱癒着を施した。正極・負極の集電体にはそれぞれ電極タブを接続し、印加可能な状態とした。その後、袋状となったラミネートフィルムに電解液(エチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート(MEC)を体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)1モル/Lの濃度で溶解したもの)を注入して、減圧含浸を施した後に真空の状態でラミネートフィルムの残りの1辺を熱融着することで、ラミネートセルを得た。
〔初期および30サイクル後の放電容量測定〕
作製したリチウムイオン二次電池を、40℃48時間放置した後、1セルを分解した。金属リチウムはいずれも完全に消失していたことから、添加したリチウムが消費されていることが確認された。
また、残りの1セルの電池を用いて、試験温度25℃、16.96mAの電流レートにて、CC−CV法(定電流定電圧)により、4.4V(対負極)まで充電を行い、その後電流レートが1.70mAまで低下した後に充電を停止した。その後、16.96mAレートにて、CC法(定電流)により1.5V(前記に同じ)まで放電を行った。充放電試験より電池あたりの初期充放電容量(mAh)および30サイクル後の放電容量を測定した。また、充放電試験後にリチウムイオン二次電池を解体し、負極における金属リチウム析出の有無を確認した。その結果を表6に示す。
実施例1では、リチウムのプレドープにより、正極のリチウム欠損分および負極の不可逆容量分が補われ、初回放電容量は正極の理論容量を示し、かつ正極がカチオン交換構造であることで、初回放電容量と比べ30サイクル後の放電容量の低下が小さかった。
[比較例1]
〔正極の作製〕
実施例に準じて、正極活物質B(カチオン交換構造)を用いた正極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、50×100mm四方に裁断して正極とした。
〔負極の作製〕
実施例に準じて、負極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、52×102mm四方に裁断して負極とした。
〔負極にLiをプレドープしないリチウムイオン二次電池の作製〕
実施例に準じて、リチウムイオン二次電池の作製を行った。比較例1においては、リチウム極は使用しなかった。
〔初期および30サイクル後の放電容量測定〕
実施例に準じて、電池あたりの初期充放電容量(mAh)、30サイクル後の放電容量の測定結果、および負極における金属リチウム析出の有無について表6に示す。
充放電試験結果より、Liプレドープをしなかったことにより、正極のLi欠損量および負極の不可逆容量分だけ初期放電容量が減少していることが確認された。ただし、正極がカチオン交換構造であることで、初回放電容量と比べ30サイクル後の放電容量の低下は小さかった。
[比較例2]
〔正極の作製〕
実施例に準じて、正極活物質B(カチオン交換構造)を用いた正極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、50×100mm四方に裁断して正極とした。
〔負極の作製〕
実施例に準じて、負極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、52×102mm四方に裁断して負極とした。
〔負極にLiをプレドープしたリチウムイオン二次電池の作製〕
実施例に準じて、リチウムイオン二次電池の作製を行った。比較例2においては、ステンレス多孔箔に金属リチウム(厚さ50μm、28×17mm四方(48.7mAhに相当))を貼り付けたリチウム極を用いた。
〔初期および30サイクル後の放電容量測定〕
実施例に準じて、電池あたりの初期充放電容量(mAh)、30サイクル後の放電容量の測定結果、および負極における金属リチウム析出の有無について表6に示す。
充放電試験結果より、比較例2では比較例1よりも初期放電容量は増加しているが、正極のリチウム欠損分を補う量には足りなかったため、正極の理論容量分の初期放電容量には足りないことが確認された。ただし、正極がカチオン交換構造であることで、初回放電容量と比べ30サイクル後の放電容量の低下は小さかった。
[比較例3]
〔正極の作製〕
実施例に準じて、正極活物質B(カチオン交換構造)を用いた正極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、50×100mm四方に裁断して正極とした。
〔負極の作製〕
実施例に準じて、負極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、52×102mm四方に裁断して負極とした。
〔負極にLiをプレドープしたリチウムイオン二次電池の作製〕
実施例に準じて、リチウムイオン二次電池の作製を行った。比較例3においては、ステンレス多孔箔に金属リチウム(厚さ50μm、50×28mm四方(143mAhに相当))を貼り付けたリチウム極を用いた。
〔初期および30サイクル後の放電容量測定〕
実施例に準じて、電池あたりの初期充放電容量(mAh)、30サイクル後の放電容量の測定結果、および負極における金属リチウム析出の有無について表6に示す。比較例3では、プレドープにより正極のリチウム欠損分と負極の不可逆容量分が補われ、初期放電容量が正極の理論容量になり、さらに正極がカチオン交換構造であることで30サイクル後の放電容量の低下が小さかった。
しかし、充放電試験後、リチウムイオン二次電池を解体すると、負極にリチウムデンドライトの析出が確認された。これは、プレドープ量が必要量に比べて過剰だったためであり、この状態は電池を使用する上で非常に危険である。
[比較例4]
〔正極の作製〕
実施例に準じて、正極活物質A(通常構造)を用いた正極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、50×100mm四方に裁断して正極とした。
〔負極の作製〕
実施例に準じて、負極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、52×102mm四方に裁断して負極とした。
〔負極にLiをプレドープしたリチウムイオン二次電池の作製〕
実施例に準じて、リチウムイオン二次電池の作製を行った。比較例4においては、ステンレス多孔箔に金属リチウム(厚さ50μm、40×22mm四方(90.2mAhに相当))を貼り付けたリチウム極を用いた。
〔初期および30サイクル後の放電容量測定〕
実施例に準じて、電池あたりの初期充放電容量(mAh)、30サイクル後の放電容量の測定結果、および負極における金属リチウム析出の有無について表6に示す。比較例4では、プレドープが負極の不可逆容量分を補うことで、初期充電容量と初期放電容量の差は小さかったが、正極が通常構造であることで30サイクル後の放電容量が大きく低下した。
また、充放電試験後、リチウムイオン二次電池を解体すると、負極にリチウムデンドライトの析出が確認された。これは、通常構造の正極はリチウムが欠損しておらず、プレドープが過剰だったためであり、この状態は電池を使用する上で非常に危険である。
[比較例5]
〔正極の作製〕
実施例に準じて、正極活物質A(通常構造)を用いた正極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、50×100mm四方に裁断して正極とした。
〔負極の作製〕
実施例に準じて、負極の作製を行った。スラリー塗工・成型後、52×102mm四方に裁断して負極とした。
〔負極にLiをプレドープしないリチウムイオン二次電池の作製〕
実施例に準じて、リチウムイオン二次電池の作製を行った。比較例5においては、リチウム極は使用しなかった。
〔初期および30サイクル後の放電容量測定〕
実施例に準じて、電池あたりの初期充放電容量(mAh)、30サイクル後の放電容量の測定結果、および負極における金属リチウム析出の有無について表6に示す。比較例5では、負極の不可逆容量分で初期充電容量と初期放電容量に差が生じ、さらに正極が通常構造であることで30サイクル後の放電容量が大きく低下した。
Figure 2016018588
比較例に比べ、本願発明は初回放電容量が高く、30サイクル後も容量を維持しており、金属リチウムの析出もなかった。これにより、カチオン交換構造を有する正極活物質を用いたリチウムイオン電池において、容量とサイクル特性と安全性を満たすという、極めて高い効果が得られた。
1………微粒子製造装置
3………原料溶液供給部
5………燃焼ガス供給部
7………エア供給部
9………微粒子合成ノズル
11………反応容器
13………フィルタ
15………前駆体微粒子
20a、20b、20c、20d………結晶構造
101………リチウム欠損
103………リチウムイオン
111(a)………正極
111(b)………負極
113………正極活物質骨格
115………負極活物質骨格

Claims (8)

  1. 一般式Li(2−X)FeMn(1−Y)SiO(0<x<2、0<y<1)で表され、
    空間群P2/nまたはPmn2の少なくともいずれか一方の結晶構造を持ち、さらにFe/Mnサイトの一部にLiが入り、Liサイトの一部にFeまたはMnのいずれかが入った、カチオン交換構造を持つことを特徴とする正極活物質を含有する正極と、負極とを有するリチウムイオン二次電池であって、
    負極活物質として、および/または負極以外の構成成分として、正極活物質の欠損したLiを補う量のLiを含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
  2. 正極活物質1gあたり0.024〜0.036gのリチウムが、前記欠損分を補うためのLiとして含有されていることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
  3. 前記欠損分を補うためのLiが、Li金属箔または安定化リチウムの粉末として、負極側に供給されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
  4. 前記欠損分を補うためのLiが、電気化学的に負極側に供給されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  5. 前記欠損分を補うためのLiに加えて、負極の不可逆容量分を補う量のLiが含有されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  6. Feおよび/またはMnの一部に代えて、CoまたはNiの少なくとも一方が置換されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  7. Feおよび/またはMnの一部に代えて、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Sr、Zr、Moの少なくともいずれかが置換されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
  8. Liの一部に代えて、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Zr、Moの少なくともいずれかが置換されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
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