JP2016014117A - シート状成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】平均繊維径が小さいセルロース繊維がポリアミド樹脂中に凝集することなく、分散性よく含有されたポリアミド樹脂組成物を少なくとも一部に用いたシート状成形体であり、易引裂性に優れ、かつ熱収縮率が小さく、熱寸法安定性に優れるシート状成形体を提供する。【解決手段】ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜10質量部含有するポリアミド樹脂組成物を用いて成形されてなるシート状成形体であって、シート状成形体中のセルロース繊維の平均繊維径が10μm以下であるシート状成形体。ポリアミド樹脂組成物が、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの重合反応を行うことにより得られたものであるシート状成形体。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアミド樹脂中に平均繊維径が小さいセルロース繊維が分散性よく含有されたポリアミド樹脂組成物を少なくとも一部に用いて成形されたシート状成形体に関するものである。
ポリアミド樹脂にガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイなどの無機充填剤を配合して強化した樹脂組成物を用いて、多くの成形体が成形されている。しかしこれらの強化材は、多量に配合しないと成形体の機械的特性や熱的特性が改善しないという問題点や、比重が高いために、得られる成形体の質量が大きくなるという問題点があった。
また、強化材としてガラス繊維、炭素繊維等を用いた場合、得られた成形体は、そりが大きくなるという問題点があった。また、強化材としてタルク、クレイ等を用いた場合は、得られた成形体を廃棄する際、これら強化材は、焼却残渣として残存するため、土中に埋設処理され、半永久的に地中に残留するという問題点があった。
近年、樹脂材料の強化材としてセルロースが用いられている。セルロースには、樹木から得られるものや、稲、綿、ケナフ、麻などの非木材資源から得られるものや、微生物が生産するバクテリアセルロースなどがあり、セルロースは地球上に非常に多量に存在する。セルロースは機械的特性に優れており、これを樹脂中に含有させることにより、樹脂組成物の特性、すなわち成形体の特性を向上させる効果が期待される。
熱可塑性樹脂中にセルロースを含有させる方法としては、樹脂とセルロースとを溶融混合する方法が一般的である。しかしながら、この方法ではセルロースが凝集した状態のまま樹脂中に混合され、セルロースが均一に分散された樹脂組成物を得ることはできない。このため、樹脂組成物の特性を十分に向上させることができない。
例えば、特許文献1には、熱可塑性プラスチック内にセルロースパルプ繊維を含む複合材が開示されており、熱可塑性プラスチックとしてポリアミド樹脂も記載されている。この発明においては、セルロースパルプ繊維をポリマー材料と混合しやすくするために、回転ナイフカッター等を用いて粒状とすることも記載されている。しかしながら、特許文献1には、粒状とすることにより繊維長が短くなると、セルロースパルプ繊維を添加することによる強化力は低下すると記載され、したがって、セルロースパルプ繊維の平均長は0.1〜6mmが好ましいことが記載されている。
さらに、引用文献1記載の発明では、セルロースパルプ繊維を熱可塑性プラスチック中に多量に混合しており、実施例においてはセルロースパルプ繊維を30質量%もの多量に添加している。
そして、引用文献1記載の発明では、セルロースパルプ繊維をポリマー材料と混合する際には、セルロースパルプ繊維を乾燥させた後、溶融混合を行っている。
以上のことから、引用文献1記載の発明では、セルロースパルプ繊維の凝集の問題は解決されておらず、また、セルロースパルプ繊維の添加量が多量のため、射出成形時において230〜240℃の温度となると、セルロースの分解による着色の問題も生じていた。
また、特許文献2には、プラスチック100重量部にセルロース繊維0.01〜20重量部を含有する熱可塑性プラスチックが記載されている。そしてセルロース繊維は、ビスコース繊維であり、50μm〜5mmの繊維長さ又は1〜500μmの繊維直径を有するものが好ましいことが記載されている。特許文献2記載の発明においては、特許文献1記載の発明よりもセルロース繊維の含有量が少量ではあるが、セルロース繊維の繊維長や繊維直径は大きいものであり、また、セルロース繊維を含有させる方法として、溶融混合する方法が示されているのみである。
したがって、特許文献2記載の発明においても、上記したようなセルロース繊維の凝集の問題は解決されていなかった。
特表2002−527536号公報 特表平9−505329号公報
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、平均繊維径が小さいセルロース繊維がポリアミド樹脂中に凝集することなく、分散性よく含有されたポリアミド樹脂組成物を少なくとも一部に用いたシート状成形体であり、易引裂性に優れ、かつ熱収縮率が小さく、熱寸法安定性に優れるシート状成形体を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜10質量部含有するポリアミド樹脂組成物を用いて成形されてなるシート状成形体であって、シート状成形体中のセルロース繊維の平均繊維径が10μm以下であることを特徴とするシート状成形体。
(2)ポリアミド樹脂組成物が、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの重合反応を行うことにより得られたものである、(1)記載のシート状成形体。
本発明のシート状成形体は、平均繊維径が小さいセルロース繊維が分散性よく適量含有されたポリアミド樹脂組成物を用いて成形されたものであるため、易引裂性に優れ、かつ乾熱収縮率が小さいものとなる。このため、本発明のシート状成形体は、熱寸法安定性に優れており、良好な手切れ性を有し、食品や医薬品などの各種包装材料として好適に使用することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のシート状成形体は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜10質量部含有するポリアミド樹脂組成物を用いて成形してなるシート状成形体である。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸とから形成されるアミド結合を有する重合体をいうものである。
このようなポリアミド樹脂を形成するモノマーの例として、アミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などが挙げられる。ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。
ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
ジカルボン酸としてはアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
より具体的には、本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))が挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。中でも特に好ましいポリアミド樹脂は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、およびこれらの共重合体や混合物である。
上記ポリアミド樹脂は、後述する重合法で、あるいはさらに固相重合法を併用して製造される。
本発明で用いるポリアミド樹脂の相対粘度は、溶媒として96%硫酸を用い、温度25℃、濃度1g/100mlの条件において、1.5〜5.0であることが好ましく、1.7〜4.0であることがより好ましい。ポリアミド樹脂の相対粘度が1.5未満では、製膜時にドローダウンが生じやすいうえに、機械的特性も低下しやすい。一方、相対粘度が5.0を超えると、ポリアミド樹脂の流動性が低下するため、シートを製膜することが困難である。
次に、本発明で用いるセルロース繊維としては、木材、稲、綿、麻、ケナフなどに由来するものの他にバクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロースなど生物由来のものも含まれる。また、再生セルロース、セルロース誘導体なども含まれる。
本発明において、易引裂性に優れ、乾熱収縮率の小さいシート状成形体とするには、セルロース繊維を凝集させることなく、樹脂中に均一に分散させることが必要である。そのためにはポリアミド樹脂に対するセルロース繊維の分散性や、ポリアミド樹脂とセルロース繊維の親和性が重要である。また、セルロース繊維が有する水酸基などの性質をできるだけ発揮させるためには、セルロース繊維の表面積を増やすことが重要である。このため、できるだけ微細化されたセルロース繊維を使用することが必要となる。
したがって、本発明においては、成形体中に含有されるセルロース繊維は、平均繊維径が10μm以下であることが必要であり、中でも平均繊維径は500nm以下であることが好ましく、さらには、300nm以下であることが好ましく、特に好ましくは100nm以下である。
平均繊維径が10μmを超えるセルロース繊維では、セルロース繊維の表面積を増やすことができず、ポリアミド樹脂や、ポリアミド樹脂を形成するモノマーに対する分散性や親和性を向上させることが困難となる。また、セルロース繊維の平均繊維径が10μmを超えると、シート製膜時にスクリーンフィルターに目詰まりしやすく、フィルター昇圧を生じやすくなりシートを製膜できないことがある。
平均繊維径の下限は、セルロース繊維の生産性を考慮すると4nm以上とすることが好ましい。
シート状成形体中に含有されるセルロース繊維の平均繊維径を10μm以下とするためには、ポリアミド樹脂に添加するセルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが好ましい。このような平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(以下、セルロース繊維(A)と称することがある)としては、セルロース繊維を引き裂くことによってミクロフィブリル化したものが好ましい。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、高圧粉砕装置、ミキサーなど各種粉砕装置を使用することができる。セルロース繊維(A)としては、市販されているものとして、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」を用いることができる。
また、セルロース繊維(A)として、セルロース繊維を使用した繊維製品の製造工程において、屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を使用することもできる。繊維製品の製造工程とは紡績時、織布時、不織布製造時、そのほか繊維製品の加工時などが挙げられる。これらのセルロース繊維の集合体は、セルロース繊維がこれらの工程を経た後に屑糸となったものであるため、セルロース繊維が微細化したものとなっている。
また、セルロース繊維(A)として、バクテリアが産出するバクテリアセルロースを使用することもでき、例えば、アセトバクター族の酢酸菌を生産菌として産出されたものを使用することができる。植物のセルロースは、セルロースの分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されているものであるのに対し、酢酸菌より産出されたセルロースはもともと幅20〜50nmのリボン状であり、植物のセルロースと比較すると極めて細い網目状を形成している。
また、セルロース繊維(A)として、N−オキシル化合物の存在下にセルロース繊維を酸化させた後に、水洗、物理的解繊工程を経ることにより得られる、微細化されたセルロース繊維を使用してもよい。
N−オキシル化合物としては各種あるが、たとえば、Cellulose(1998)5,153−164に記載されているような2,2,6,6−Tetramethylpiperidine−1−oxyl radical(以下TEMPOと記す)などが好ましい。このような化合物を触媒量の範囲で反応水溶液に添加する。
この水溶液に共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸ナトリウムを加え、臭化アルカリ金属を加えることにより反応を進行させる。水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性の化合物を添加してpHを10付近に保持し、pHの変化が見られなくなるまで反応を継続する。反応温度は室温で構わない。反応後、系内に残存するN−オキシル化合物を除去することが好ましい。洗浄はろ過、遠心分離など各種方法を採用することができる。
その後、上記したような各種粉砕装置を用い、物理的な解繊工程を経ることで微細化されたセルロース繊維(A)を得ることができる。
シート状成形体中のセルロース繊維は、平均繊維径と平均繊維長との比であるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であることが好ましく、中でも50以上、さらには100以上であることが好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、得られるシート状成形体の乾熱収縮率を低くすることができる。
そして、上記のようなポリアミド樹脂とセルロース繊維からなるポリアミド樹脂組成物において、セルロース繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが必要であり、中でも0.1〜5質量部であることが好ましく、さらには0.2〜5質量部であることが好ましい。
セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.1質量部未満である場合は、得られるシート状成形体に易引裂性を付与することができず、また、乾熱収縮率を低くすることができない。
一方、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して10質量部を超える場合は、セルロース繊維を樹脂組成物中に均一に分散させることが困難となるため、シート成形が困難となったり、またシート状成形体を得られたとしても、表面平滑性に劣るものとなり、凹凸が生じたり、色調に劣るものとなる。
本発明のシート状成形体は、上記したようなポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜10質量部含有するポリアミド樹脂組成物を少なくとも一部に用いて成形されたものである。つまり、上記のようなポリアミド樹脂組成物のみで成形された単層構成のもの、もしくは、上記のようなポリアミド樹脂組成物が少なくとも一層を構成する複層構成のもののいずれであってもよい。
複層構成のシート状成形体について説明する。ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜10質量部含有するポリアミド樹脂組成物で構成される層をC層とし、それ以外の樹脂や樹脂組成物で構成される層をT層とすると、積層構成としては、C層/T層や、C層/T層/C層や、T層/C層/T層等の構成が挙げられる。
複層構成とする場合のC層とT層の厚み構成比率は、C層の合計厚みと、T層の合計厚みの比率(C層/T層)は、1/1000〜1000/1であることが好ましく、中でも1/100〜100/1であることがより好ましく、1/10〜10/1であることがさらに好ましい。
なお、本発明のシート状成形体が複層構成の場合、シート状成形体中のセルロース繊維の含有量は0.1質量%以上となるようにすることが好ましい。セルロース繊維の含有量が0.1質量%未満であると、本発明の効果である優れた易引裂性を付与することが困難となり、また乾熱収縮率を小さくすることも困難となる。
単層もしくは複層構成のシート状成形体の具体例としては、押出成形してなるシートや熱プレスシート、さらにシートを延伸してなるフィルムが挙げられる。なお、押出成形してなるシートとしては厚みが10〜500μm程度のものが好ましく、シートを延伸してなるフィルムとしては、厚みが200μm以下のものが好ましい。
中でもシートを延伸してなるフィルムが好ましい。フィルムを得る際の延伸時に、ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維がより配向し、その結果、易引裂性がより向上するためである。
本発明のシート状成形体は、易引裂性に優れるものであり、その性能を示す指標として、引裂抵抗が2000mN以下であることが好ましく、1500mN以下であることがより好ましい。シート状成形体の引裂抵抗が2000mNを超えると、弱い力で良好に引裂くことができないものとなる。
さらに、本発明のシート状成形体は、熱収縮率が低いという性能を有し、シート状成形体の長手方向及び巾方向の少なくとも一方向につき、160℃、5分間の乾熱収縮率が−0.3〜2.0%であることが好ましく、より好ましくは、0%〜1.8%である。乾熱収縮率が上記範囲を超えると、熱寸法安定性が劣るために種々のトラブルを誘発することになり、好ましくない。
本発明のシート状成形体は、中でも、本発明におけるポリアミド樹脂組成物を、後述するような製造法で得ることにより、セルロース繊維の含有量が少量であっても、セルロース繊維がポリアミド樹脂中に均一に分散されるので、易引裂性に優れ、乾熱収縮率を低くすることが可能となる。
セルロース繊維は水との親和性が非常に高く、平均繊維径が小さいほど水に対して良好な分散状態を保つことができる。また、水を失うと水素結合により強固にセルロース繊維同士が凝集し、一旦凝集すると凝集前と同様の分散状態をとることが困難となる。特にセルロース繊維の平均繊維径が小さくなるほどこの傾向が顕著となる。
したがって、セルロース繊維は水を含んだ状態でポリアミド樹脂と複合化することが好ましい。そこで、本発明においては、ポリアミド樹脂の重合時に、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの重合反応を行うことにより、セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を得る方法を採ることが好ましい。このような製造法により、ポリアミド樹脂中にセルロース繊維を凝集させずに均一に分散させることが可能となる。この製造法の詳細については、後述する。
また、本発明におけるポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、他の重合体が含有されていてもよい。このような他の重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレンなどのエラストマー、およびこれらの無水マレイン酸などによる酸変性物、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−フェニルマレイミド共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
さらに、本発明におけるポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、合成スメクタイトなどの層状珪酸塩、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ、マイカ、ワラストナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの強化材、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤等が含有されていてもよい。
次に、本発明におけるポリアミド樹脂組成物の製造法について説明する。
本発明におけるポリアミド樹脂組成物を製造するにあたり、予め、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを、次の方法で調製しておくことが好ましい。すなわち、平均繊維径が10μm以下であり、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの重合反応を行うことにより、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを得ておくことが好ましい。たとえば、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維の水分散液とを混合し、重合反応を行うことが好ましい。
この調製方法におけるセルロース繊維の水分散液は、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を水に分散させたものであり、水分散液中のセルロース繊維の含有量は0.01〜50質量%とすることが好ましい。セルロース繊維の水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で攪拌することにより得ることができる。
そして、セルロース繊維の水分散液と、ポリアミド樹脂を構成するモノマーとを混合し、ミキサー等で攪拌することにより均一な分散液とする。その後、分散液を加熱し、150〜270℃まで昇温させて攪拌することにより重合反応させる。このとき、分散液を加熱する際に徐々に水蒸気を排出することにより、セルロース繊維の水分散液中の水分を排出することができる。なお、上記ポリアミド重合時においては、必要に応じてリン酸や亜リン酸などの触媒を添加してもよい。そして、重合反応終了後は、得られた樹脂組成物を払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。
また、セルロース繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合においては、セルロース繊維の水分散液として、バクテリアセルロースを精製水に浸して溶媒置換したものを使用してもよい。バクテリアセルロースの溶媒置換したものを用いる際には、溶媒置換後、所定の濃度に調整した後、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと混合し、上記と同様に重合反応を進行させることが好ましい。
このような調製方法では、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維を用い、かつセルロース繊維を水分散液のまま重合反応に供することで、分散性が良好な状態で重合反応に供されることとなる。さらに、重合反応に供されたセルロース繊維は、重合反応中のモノマーや水との相互作用により、また上記のような温度条件で攪拌することにより、分散性が向上し、繊維同士が凝集することがなく、平均繊維径が小さいセルロース繊維が良好に分散した混合物を得ることが可能となる。このように、この調製方法によれば、セルロース繊維の分散性が向上するため、重合反応前に添加したセルロース繊維の平均繊維径や繊維長よりも、重合反応終了後に混合物中に含有されているセルロース繊維のほうが、平均繊維径や繊維長が小さいものとなることもある。
また、この調製方法では、セルロース繊維を乾燥させる工程が不要となり、微細なセルロース繊維の飛散が生じる工程を経ずに製造が可能であるため、操業性よく混合物を得ることが可能となる。またモノマーとセルロースを均一に分散させる目的として水を有機溶媒に置換する必要がないため、ハンドリングに優れるとともに製造工程中において化学物質の排出を抑制することが可能となる。
次に、本発明のシート状成形体の製造法について説明する。セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を、押出機で加熱溶融してTダイよりフィルム状に押出し、エアーナイフキャスト法、静電印加キャスト法等の公知のキャスティング法により回転する冷却ドラム上で冷却固化して、未延伸状態のシート状成形体を得ることができる。
また、複層構成のシート状成形体は、例えば、セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を押出機Aで加熱溶融し、またセルロース繊維を含有しないポリアミド樹脂を押出機Bで加熱溶融し、それぞれ溶融した2種の樹脂をダイス中で重ね合わせて、2層構成のフィルムをTダイから押出し、上記同様、冷却固化することによって、未延伸状態のシート状成形体を得ることができる。
未延伸状態のシート状成形体は、80℃を超えないように温調した水槽に移送し、5分間以内で浸水処理を施し、0.5〜15%吸湿処理することが好ましい。
次に、未延伸状態のシート状成形体を延伸する場合、延伸倍率は、一軸延伸の場合は1.5倍以上であることが好ましく、縦横二軸延伸の場合は、縦横に各々1.5倍以上であることが好ましい。また、面積倍率で、3倍以上であることが好ましく、4〜20倍であることがより好ましく、6.5〜13倍であることがさらに好ましい。延伸倍率がこの範囲であると、優れた易引裂性と乾熱収縮率がより向上するシート状成形体を得ることが可能となる。
延伸工程を経たシート状成形体(フィルム)は、延伸処理が行われたテンター内において150〜300℃の温度で熱固定され、必要に応じて0〜10%、好ましくは2〜6%の範囲で、MD(経)および/またはTD(横)方向において弛緩処理が施される。熱収縮率を低減するためには、熱固定時間の温度および時間を最適化するだけでなく、弛緩処理を熱固定処理の最高温度より低い温度で行うことが望ましい。
シート状成形体は、配合しているセルロース繊維が配向することで、易引裂性と乾熱収縮率がより向上するため、MDまたはTD方向に延伸することによって、これらの性能を最大限に引き出すことが可能である。
延伸方法は特に限定されないが、同時二軸延伸方法を用いることが好ましい。同時二軸延伸方法は、一般に、機械的特性、光学特性、熱寸法安定性、耐ピンホール性等の実用特性を兼備させることができる。このほか、縦延伸のみを行う一軸延伸方法では、延伸方向のみにフィルムの配向結晶化が進行し、一方向のみではあるが容易に易引裂性と乾熱収縮率を得ることができる。また、縦延伸後に横延伸を行う逐次二軸延伸方法では、縦延伸時にフィルムの配向結晶化が進行して横延伸時の熱可塑性樹脂の延伸性が低下することにより、セルロース繊維の配合量が多い場合にフィルムの破断頻度が高くなる傾向がある。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明の実施例中の各種特性値の測定法や評価法は以下のとおりである。
(1)セルロース繊維の平均繊維径
(1.1)重合反応前のセルロース繊維の平均繊維径
必要に応じて凍結乾燥したセルロース繊維を、電界放射型走査型電子顕微鏡(日立製作所社製S−4000)を用いて観察した。電子顕微鏡(SEM)画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さを測定した。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径とした。同様にして10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径とした。
(1.2)シート状成形体中のセルロース繊維の平均繊維径
凍結ウルトラミクロトームを用いてシート状成形体から厚さ100nmの切片を採取し、OsO(四酸化オスミウム)で切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM−1230)を用いて観察を行った。電子顕微鏡画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さを測定した。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径とした。同様にして10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径とした。
なお、セルロース繊維の繊維径が大きいものについては、ミクロトームにて10μmの切片を切り出したものか、射出成形体をそのままの状態で、実体顕微鏡(OLYMPUS SZ−40)を用いて観察を行い、得られた画像から上記と同様にして繊維径を測定し、平均繊維径を求めた。
(2)ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の含有量
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のTG/DTA 7200装置を用いて下記条件で測定した。十分に乾燥されたセルロースと樹脂をそれぞれ既知濃度となるように専用パンの中で量り取り、290℃から320℃までの重量減少を樹脂中のセルロース量として検量線を作成し、この検量線を用いて、ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維含有量を算出した。
このとき、シート状積層体を構成するポリアミド樹脂組成物を取り出し、凍結粉砕して用い、試料量10mgを精密天秤で量り取り、窒素雰囲気中での昇温測定を行った。なお、昇温条件は、30℃から285℃まで5℃/minで昇温し、285℃から320℃まで0.63℃/minで昇温し、再び320℃から350℃まで5℃/min昇温し、最後に350℃から550℃まで10℃/minで昇温させた。
(3)シート状成形体の引裂抵抗
得られたシート状成形体を、オートグラフAG-1(島津製作所社製)を用いて測定した。使用セルは100kgまたは5kgとし、試験速度は200mm/minとした。MD方向に205mm、TD方向に20mmの短冊状のフィルム片を切り出し、このフィルム片の一方のTD辺の中央部に長さ5mmの切り込みを入れた試験片を作製した。試験片は5点作製し、各試験片についての測定し、平均値を求めた。
(4)シート状成形体の乾熱収縮率
得られたシート状成形体を用い、MD方向及びTD方向に標線をいれた短冊試料を切り出し、オーブン内で160℃×5分間処理し、処理前後の標線間寸法を20℃×65%RHの平衡状態で測定し、乾熱処理による縮み量を処理前寸法に対する百分率で表した。
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε−カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を重合装置に投入後、攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行った。重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が1質量部のもの)を得た。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
次に、得られたペレットを押出機に投入し、温度270℃に加熱したシリンダー内で溶融した。溶融物をTダイオリフィスよりシート状に押出し、10℃に冷却した回転ドラムに密着させて急冷することで、厚さ150μmの未延伸シートを得た。
次に、得られた未延伸シートを50℃の温水槽に送り、2分間の浸水処理を施した後に同時二軸延伸機にて延伸温度180℃でMD方向に3倍、TD方向に3.3倍に延伸した。続いて、200℃で5秒間の熱処理(熱固定)を行い、さらにTD方向に5%の弛緩処理を行った後、冷却を施し、二軸延伸された厚さ15μmのシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例2
セルロース繊維の水分散液の量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が0.5質量部のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
実施例3
セルロース繊維の水分散液の量を10質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が0.25質量部のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
実施例4
セルロース繊維の水分散液の量を4質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が0.1質量部のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
実施例5
セルロース繊維の水分散液の量を200質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が5質量部のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
実施例6
セルロース繊維の水分散液の量を400質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が10質量部のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
実施例7
実施例2で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が0.5質量部のもの)のペレットを用い、実施例1と同様にしてシート状成形体を得る際の工程において、延伸を施すことなく厚さ150μmの未延伸シートを得、これをシート状成形体とした。
実施例8
実施例2で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が0.5質量部のもの)のペレットを用い、実施例1と同様にしてシート状成形体を得る際の工程において、未延伸シートを得た。次にこの未延伸シートを周速の異なる加熱ローラ群を備え、ローラ温度を55℃とした縦延伸機によりMD方向に3.0倍延伸し、厚さ50μmのシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例9
セルロース繊維の種類をセリッシュKY110Nに代えて、不織布の製造工程において屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を用い、このセルロース繊維の集合体に精製水を加えてミキサーで攪拌し、繊維径が500nm〜5000nmのセルロース繊維が6質量%含有された水分散液を20質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が1質量部のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
比較例1
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は実施例1と同様にして、ポリアミド樹脂のペレットを得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にして未延伸シートを得、そして実施例1と同様にして未延伸シートに延伸を施してシート状成形体を得た。
比較例2
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)100質量部と、ε−カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するポリアミド樹脂組成物のペレット(セルロース繊維の含有量が15質量%のもの)を得た。
得られたペレットを用いて実施例1と同様にしてシート状成形体を得ようとしたが、ポリアミド樹脂組成物中にセルロース繊維を均一分散させることができなかったため、延伸工程でトラブルが生じ、シート状成形体を得ることができなかった。
比較例3
セルロース繊維として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を凍結乾燥後、粉砕処理を施し、粉末状セルロースとしたものを使用した。ナイロン6(ユニチカ社製BRL 数平均分子量17000)99質量部と、得られた粉末状セルロース1質量部をブレンドし、スクリュー径が30mm、平均溝深さが2.5mmの二軸押出機(池貝社製PCM−30)に供給し、バレル温度240℃、スクリュー回転数120rpm、滞留時間2.7分にて溶融混練した。溶融混練で得られたポリアミド樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
次に、得られたペレットを実施例1と同様に押出機に投入し、温度270℃に加熱したシリンダー内で溶融した。しかしながら、溶融物をTダイオリフィスよりシート状に押出す際、異物除去用のスクリーンフィルター昇圧が生じ、未延伸シートを得ることができなかった。
なお、得られたペレット中のセルロース繊維の平均繊維径を、上記したシート状成形体中のセルロース繊維の平均繊維径を測定する方法と同様にして測定した(ペレットから厚さ100nmの切片を採取した)。その結果、平均繊維径は11700nmと非常に大きかった。溶融混練法を採用したことによりセルロース繊維が凝集して平均繊維径が大きくなり、セルロース繊維がスクリーンフィルターを通過することができず、フィルター昇圧が起こったものと推定される。
表1より明らかなように、実施例1〜9で得られたシート状成形体は、本発明の構成要件を満足するものであったため、引裂抵抗が低く、易引裂性に優れ、かつ熱収縮率が小さく、熱寸法安定性に優れるシート状成形体であった。
一方、比較例1で得られたシート状成形体は、セルロース繊維を含有しないポリアミド樹脂組成物で形成されたものであったため、引裂抵抗が高く、易引裂性に劣り、かつ熱収縮率が大きく、熱寸法安定性にも劣るものであった。また、比較例2においては、ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の含有量が多すぎたため、セルロース繊維を均一分散させることができず、このため、延伸工程でトラブルが生じ、シート状成形体を得ることができなかった。比較例3においては、ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径が本発明で規定する範囲を超えるものであったため、フィルター昇圧のトラブルが生じ、未延伸シートを得ることができなかった。
実施例10
実施例2で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が0.5質量部のもの)を押出機Aに投入し、温度260℃で溶融押出した。一方、比較例1で得られたポリアミド樹脂を押出機Bに投入し、温度260℃で溶融押出した。押出機A、押出機Bでそれぞれ溶融した2種の樹脂をダイス中で重ね合わせて、ポリアミド層A/ポリアミド層Bの2層構成のシートをTダイオリフィスよりシート状に押出し、表面温度20℃の冷却ロールに密着させて、A/B=30/120μmとなる厚み150μmの複層未延伸シートを得た。
次に、得られた複層未延伸シートを実施例1と同様にして延伸、熱処理、弛緩処理を行い、二軸延伸された厚さ15μmの複層のシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例11
押出機Aに投入するポリアミド樹脂組成物を、実施例5で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が5質量部のもの)に変更した以外は、実施例10と同様にして複層未延伸シートを得た。
そして、得られた複層未延伸シートを実施例1と同様にして延伸、熱処理、弛緩処理を行い、二軸延伸された厚さ15μmの複層のシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例12
押出機Aに投入するポリアミド樹脂組成物を、実施例6で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が10質量部のもの)に変更した以外は、実施例10と同様にして複層未延伸シートを得た。
そして、得られた複層未延伸シートを実施例1と同様にして延伸、熱処理、弛緩処理を行い、二軸延伸された厚さ15μmの複層のシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例13
押出機Aに投入するポリアミド樹脂組成物を、実施例6で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が10質量部のもの)に変更し、押出機Bに投入するポリアミド樹脂組成物を、実施例5で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が5質量部のもの)に変更した以外は、実施例10と同様にして複層未延伸シートを得た。
そして、得られた複層未延伸シートを実施例1と同様にして延伸、熱処理、弛緩処理を行い、二軸延伸された厚さ15μmの複層のシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例14
実施例2で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が0.5質量部のもの)を押出機Aに投入し、温度260℃で溶融押出した。一方、比較例1で得られたポリアミド樹脂を押出機Bに投入し、温度260℃で溶融押出した。押出機A、押出機Bでそれぞれ溶融した2種の樹脂をダイス中で重ね合わせて、ポリアミド層A/ポリアミド層B/ポリアミド層Aの3層構成のシートをTダイオリフィスよりシート状に押出した以外は、実施例10と同様にして複層未延伸シートを得た。
次に、得られた複層未延伸シートを実施例1と同様にして延伸、熱処理、弛緩処理を行い、二軸延伸された厚さ15μmの複層のシート状成形体(フィルム)を得た。
実施例15
実施例12と同様にしてシート状成形体を得る際の工程において、延伸を施すことなく、厚さ150μmの未延伸シートを得、これをシート状成形体とした。
比較例4
押出機Aに投入するポリアミド樹脂組成物を、比較例1で得られたポリアミド樹脂に変更し、両層ともに比較例1で得られたポリアミド樹脂とした以外は、実施例10と同様にして複層未延伸シートを得た。
そして、得られた複層未延伸シートを実施例1と同様にして延伸、熱処理、弛緩処理を行い、二軸延伸された厚さ15μmの複層のシート状成形体(フィルム)を得た。
比較例5
押出機Aに投入するポリアミド樹脂組成物を、比較例2で得られたポリアミド樹脂組成物(セルロース繊維の含有量が15質量%のもの)に変更した以外は、実施例10と同様にしてシート状成形体を得ようとしたが、ポリアミド樹脂組成物中にセルロース繊維を均一分散させることができなかったため、延伸工程でトラブルが生じ、シート状成形体を得ることができなかった。
表2から明らかなように、実施例10〜15で得られた複層タイプのシート状成形体は、本発明の構成要件を満足するものであったため、引裂抵抗が低く、易引裂性に優れ、かつ熱収縮率が小さく、熱寸法安定性に優れるシート状成形体であった。
一方、比較例4で得られたシート状成形体は、セルロース繊維を含有しないポリアミド樹脂組成物で形成されたものであったため、引裂抵抗が高く、易引裂性に劣り、かつ熱収縮率が大きく、熱寸法安定性にも劣るものであった。また、比較例5においては、ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の含有量が多すぎたため、セルロース繊維を均一分散させることができず、このため、延伸工程でトラブルが生じ、シート状成形体を得ることができなかった。

Claims (2)

  1. ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜10質量部含有するポリアミド樹脂組成物を用いて成形されてなるシート状成形体であって、シート状成形体中のセルロース繊維の平均繊維径が10μm以下であることを特徴とするシート状成形体。
  2. ポリアミド樹脂組成物が、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーの重合反応を行うことにより得られたものである、請求項1記載のシート状成形体。
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