JP2016011247A - 板状リン酸化合物粒子、それを含む板状リン酸化合物粉体、及び、板状リン酸化合物粉体の製造方法、並びに板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法 - Google Patents

板状リン酸化合物粒子、それを含む板状リン酸化合物粉体、及び、板状リン酸化合物粉体の製造方法、並びに板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法 Download PDF

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俊彦 谷
彰敏 鈴村
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彰敏 鈴村
守 相澤
Mamoru Aizawa
守 相澤
明祐 石田
Akisuke Ishida
明祐 石田
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【課題】アスペクト比の平均値が5以上である異方形状性に優れた板状リン酸化合物粉体、及び該粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造法の提供。【解決手段】一般式:A3(PO4)2(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体を水熱処理にて製造する。該粉末と反応補完物質とを混合、焼成し結晶配向アパタイトを製造する方法。【選択図】なし

Description

本発明は、板状リン酸化合物粒子、それを含む板状リン酸化合物粉体、及び、板状リン酸化合物粉体の製造方法、並びに板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法に関する。
水酸アパタイトは、人体の骨を形成する物質と同じ組成であり、生体との親和性や自骨との接合性が良いので、人工骨や人工歯等の代替材料として用いられている。また、タンパク質等との親和性やアパタイト自体の有するイオン交換能を利用してクロマトグラフィー用の充填材やイオン交換材等の吸着材にも用いられている。
このような水酸アパタイト(Ca10(PO(OH);HAp)は、結晶学的には六方晶系に属し、a面({h00}面)とc面({00l}面)という二つの結晶面がある(例えば、S.Parres−Esclapez et al.、J.Catalysis、276(2010)、p.390〜401)。一般的に、a面({h00}面)側はCa2+イオンが多く存在して正に帯電し、一方、c面({00l}面)側は主にOHイオンとPO 3−イオンが存在するために負に帯電している。この結晶面の電荷により、タンパク質等の生体関連物質が吸着すると考えられ、例えばa面({h00}面)には負電荷をもつ酸性タンパク質が、c面({00l}面)には正電荷をもつ塩基性タンパク質が特異的に吸着する。したがって、アパタイト結晶の合成に際し、a軸及びc軸方向への結晶成長速度に異方性を与えることができれば、繊維状や六角板状の特異的な形態を備えたアパタイトを合成することができる。また、生体骨中のアパタイトはc軸方向に配向しており、一方、歯のエナメル質のそれはa軸方向に配向している。
このようなアパタイト粒子の異方性制御(形態制御)プロセスには、水熱法、水熱均一沈殿法、電気化学法等の方法が挙げられる。これらはいずれも溶液環境下での液相法であり、固相法や気相法での合成例は見受けられない。
水熱法を用いた代表的な合成例として、M.Yoshimura、H.Suda、K.Okamoto and K.Ioku、J.Mater.Sci.、29、3399−3402(1994)(非特許文献1)や、K.Ioku、G.Kawachi、S.Sasaki、H.Fujimori and S.Goto、J.Mater.Sci.、41、1341−1344(2006)(非特許文献2)には、α−リン酸三カルシウム(α−Ca(PO;α−TCP)を出発物質として、オートクレーブ中で攪拌しながら水熱処理を行なうことでα−TCPが水和され長さ約20μmの繊維状HAp単結晶が得られることが開示されている。
また、水熱均一沈殿法は、カルシウムイオンとリン酸イオンを含む酸性水溶液に尿素やアセトアミド等の沈殿剤を添加し、水熱処理すると、沈殿剤の加水分解によりアンモニアが生成し、水溶液のpHが上昇してHApが析出する方法である。H.Zhang and B.W.Darvell、Acta Biomater.、6、3216−3222(2010)(非特許文献3)や、H.Zhang and B.W.Darvell、Acta Biomater.、7、2960−2968(2011)(非特許文献4)には、水熱均一沈殿法を用いて長さが100μmを超える繊維状HAp単結晶を合成する例が開示されている。
更に、電気化学法は、カルシウムイオンとリン酸イオンを含む電解液中に金属電極を挿入し、電解液の温度、電流強度及び電解時間等の条件をコントロールすることで、HApの形態を制御する方法である。S.Ban and S.Maruno、Biomaterials、19、1245−1253(1998)(非特許文献5)や、S.Ban and J.Hasegawa、Biomaterials、23、2965−2972(2002)(非特許文献6)には、電気化学法により、チタン及び白金電極の表面において繊維状及び六角形板状HAp粒子を合成する例が開示されている。
また、木下真喜雄、岸岡昭、林栄子、板谷清司、石膏と石灰、No.219、23−29(1989)(非特許文献7)、M.Aizawa、A.E.Porter、S.M.Best and W.Bonfield、Biomaterials、26、3427−3433(2005)(非特許文献8)、M.Aizawa、H.Ueno、K.Itatani and I.Okada、J.Eur.Ceram.Soc.、26、501−507 (2006)(非特許文献9)には、尿素を用いた均一沈殿法によりc軸方向に伸長した繊維状アパタイト単結晶粒子を合成する方法が、特開2010−208896号公報(特許文献1)、Z.Zhuang、H.Yamamoto and M.Aizawa、Powder Technol.、222、193−200(2012)(非特許文献10)、相澤守、庄志、未来材料、11、2−5(2011)(非特許文献11)、Z.Zhuang、H.Yoshimura and M.Aizawa、Mater.Sci.Eng.C、33、2534−2540(2013)(非特許文献12)には、気液界面という特殊な反応場を利用してa(b)軸方向に伸長した板状アパタイト単結晶粒子を合成する方法が開示されている。
更に、これらの異方性を制御されたアパタイト単結晶粒子に対するタンパク質吸着特性も調べられており、Z.Zhuang and M.Aizawa、J.Mater.Sci.:Mater.Med.、24、1211−1216(2013)(非特許文献13)には、a面({h00}面)が多く露出した繊維状アパタイト単結晶粒子はアルブミン等の酸性タンパク質を、c面({00l}面)が多く露出した板状アパタイト単結晶粒子はリゾチーム等の塩基性タンパク質を特異的に吸着させることが開示されている。
このように、アパタイトは特異的な結晶面を発達させることにより新たな機能を発現させることが期待できる。
更に、近年は、様々な形状を呈しており異方性を有するアパタイトが求められるようになってきた。しかしながら、前記従来技術においては異方形状性を有する中間体の開示はなく、異方性アパタイトを製造するために有用な前駆体又は種結晶の開発が求められるようになってきた。
そこで、本発明者らは、このような異方性アパタイトを製造するためには、異方形状性を有する中間体を経由してアパタイトを得るのが有用であることを見出し、上記特許文献1及び非特許文献1〜13に開示のない本発明に想到した。
特開2010−208896号公報
M.Yoshimura、H.Suda、K.Okamoto and K.Ioku、J.Mater.Sci.、29、3399−3402(1994) K.Ioku、G.Kawachi、S.Sasaki、H.Fujimori and S.Goto、J.Mater.Sci.、41、1341−1344(2006) H.Zhang and B.W.Darvell、Acta Biomater.、6、3216−3222(2010) H.Zhang and B.W.Darvell、Acta Biomater.、7、2960−2968(2011) S.Ban and S.Maruno、Biomaterials、19、1245−1253(1998) S.Ban and J.Hasegawa、Biomaterials、23、2965−2972(2002) 木下真喜雄、岸岡昭、林栄子、板谷清司、石膏と石灰、No.219、23−29(1989) M.Aizawa、A.E.Porter、S.M.Best and W.Bonfield、Biomaterials、26、3427−3433(2005) M.Aizawa、H.Ueno、K.Itatani and I.Okada、J.Eur.Ceram.Soc.、26、501−507 (2006) Z.Zhuang、H.Yamamoto and M.Aizawa、Powder Technol.、222、193−200(2012) 相澤守、庄志、未来材料、11、2−5(2011) Z.Zhuang、H.Yoshimura and M.Aizawa、Mater.Sci.Eng.C、33、2534−2540(2013) Z.Zhuang and M.Aizawa、J.Mater.Sci.:Mater.Med.、24、1211−1216(2013)
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アスペクト比の平均値が5以上である異方形状性に優れた板状リン酸化合物の板状粒子とそれを含む板状リン酸化合物粉体、及び、板状リン酸化合物粉体の製造方法、並びに板状リン酸化合物粉体を用いた配向度が高い結晶配向アパタイトの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アパタイトの前駆体又は種結晶としてリン酸化合物に着目し、原料粉体として特定の平均粒径の微細なリン酸水素化合物粒子を用い、特定範囲内のpHの水溶液中で特定の温度で熱処理をすることにより、十分な異方形状性を有する板状リン酸化合物の板状粒子とそれを含む板状リン酸化合物粉体を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の板状リン酸化合物粉体は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることを特徴とするものである。
上記本発明の板状リン酸化合物粉体においては、前記板状粒子の発達面の平均直径が5〜500μmであることが好ましい。
また、上記本発明の板状リン酸化合物粉体においては、前記リン酸化合物の板状粒子が、厚み方向がc軸方向となっている単結晶であることが好ましい。
更に、上記本発明の板状リン酸化合物粉体においては、前記リン酸化合物がSr(POであることが好ましい。
本発明の板状リン酸化合物粒子は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子であり、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることを特徴とするものである。
本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体の製造方法であって、
平均粒径が1μm以下の一般式:AHPO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸水素化合物粒子を含む原料粉体を、水熱処理して前記板状リン酸化合物粉体を得る熱処理工程を含むことを特徴とするものである。
上記本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法においては、前記熱処理工程の前に、アルカリ土類金属(A)の塩とリン酸塩とを含む水溶液を用いて沈殿法により生成した沈殿混合物を粉砕して前記原料粉体を得る原料粉体準備工程を更に含むことが好ましい。
また、上記本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法においては、前記アルカリ土類金属(A)の塩が酢酸ストロンチウムであり、前記リン酸塩がリン酸水素アンモニウムであり、前記リン酸水素化合物がSrHPOであり、かつ、前記リン酸化合物がSr(POであることが好ましい。
本発明の結晶配向アパタイトの製造方法は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体と、前記板状粒子と反応してアパタイト型物質となる反応補完物質とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形して前記板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向した成形体を得る配向工程と、
前記成形体を熱処理して前記板状粒子と前記反応補完物質とを反応せしめc軸が配向した結晶配向アパタイトを得る焼成工程と、を含むことを特徴とするものである。
上記本発明の結晶配向アパタイトの製造方法においては、前記板状粒子がc軸に垂直な面が発達面となっているSr(POであることが好ましい。
また、上記本発明の結晶配向アパタイトの製造方法においては、前記反応補完物質がアルカリ土類金属のフッ化物又はアルカリ土類金属の水酸化物であることが好ましい。
更に、上記本発明の結晶配向アパタイトの製造方法においては、前記成形がせん断応力を印加する方法であることが好ましい。
本発明によれば、アスペクト比の平均値が5以上である異方形状性に優れた板状リン酸化合物の板状粒子、それを含む板状リン酸化合物粉体、及び、板状リン酸化合物粉体の製造方法、並びに板状リン酸化合物粉体を用いた配向度が高い結晶配向アパタイトの製造方法を提供することが可能となる。
実施例1で得られたSrHPO結晶粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例1で得られたSrHPO結晶微粒子を含む原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例1で得られた板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例1で得られたリン酸ストロンチウム粉体中のリン酸化合物の板状粒子(板状リン酸化合物粒子)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(一部に電子線回折画像を含む)である。 実施例2で得られた板状リン酸化合物粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例3で得られた板状リン酸化合物粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例1〜3で得られたリン酸ストロンチウム粉体のXRDスペクトルを示すグラフである。 実施例4で得られた原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例4で得られた板状リン酸化合物粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例4で得られた板状リン酸化合物粉体のEDSスペクトルを示すグラフである。 比較例1で得られた比較用原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 比較例1で得られた比較用生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 比較例2で得られた比較用原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 比較例2で得られた比較用生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例5〜6で得られた結晶配向アパタイトのXRDスペクトルを示すグラフである。 実施例7で得られた結晶配向アパタイトのXRDスペクトルを示すグラフである。 実施例8〜9で得られた結晶配向アパタイトのXRDスペクトルを示すグラフである。 比較例3で得られた比較用焼結体のXRDスペクトルを示すグラフである。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明においては、平均粒径が1μm以下の一般式:AHPO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸水素化合物粒子を含む原料粉体を、水熱処理して前記板状リン酸化合物粉体を得る熱処理工程を含む板状リン酸化合物粉体の製造方法により、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である異方形状性(板状性)に優れた板状リン酸化合物粉体を得ることが可能となる。
また、本発明の結晶配向アパタイトの製造方法においては、上記本発明の板状リン酸化合物粉体と、前記板状リン酸化合物粉体に含まれる板状粒子と反応してアパタイト型物質となる反応補完物質との混合物を、前記混合物を成形して前記板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向させ、これを熱処理して前記板状粒子と前記反応補完物質とを反応せしめc軸が配向した結晶配向アパタイトを得る製造方法により、配向度が高い結晶配向アパタイトを得ることが可能となる。
先ず、本発明の板状リン酸化合物粉体について説明する。本発明の板状リン酸化合物粉体は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることを特徴とするものである。
本発明にかかる板状リン酸化合物粉体は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子においては、Aの元素としてはアルカリ土類金属であることが必要であり、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)からなる群より選ばれる少なくとも一種であればよく、二種以上であってもよい。なお、このようなAの元素としては、生体親和性の観点から、Sr、Caであることが好ましく、板状粒子生成容易性の観点から、Srであることがより好ましい。なお、一般式:A(POにおけるAのモル数とリン酸とのモル比は、それぞれ3:2である場合が一般的であるが、本発明の効果を損なわない範囲内で3:2からずれていてもよい。
また、本発明にかかる板状リン酸化合物粉体は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含むものであることが必要である。このように、前記化合物の板状粒子を含むものとすることにより、熱力学的に安定な板状粒子とすることができる。
ここで、「リン酸化合物の板状粒子を含む」とは、前記板状リン酸化合物粉体が前記リン酸化合物の板状粒子のみから構成されるもの、或いは、主として前記リン酸化合物の板状粒子からなり本発明の効果を損なわない範囲で他の物質を含み構成されるものであることを意味する。他の物質としては、この種の用途のリン酸化合物粒子又は粉体として用いられる他の化合物や添加剤等、微量の不純物を挙げることができる。後者の場合、板状リン酸化合物粉体における前記リン酸化合物の板状粒子の含有量は、板状リン酸化合物粉体の全質量100質量%に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。このような板状リン酸化合物粉体における前記リン酸化合物の板状粒子の含有量が前記下限未満では、板状リン酸化合物としての効果が発現しない傾向にある。
なお、このような他の物質としては、特に制限されないが、例えば、リン酸水素化合物、アパタイト型リン酸化合物等の化合物が挙げられる。また、これらは単独又は二種類以上を併用しても良い。また、添加剤としては、特に制限されないが、例えば、分散剤、結合剤等の有機化合物等が挙げられる。更に、このような他の物質として、前記リン酸化合物の板状粒子で前記アスペクト比が5未満のリン酸化合物も含まれる。
また、このような板状リン酸化合物粉体において、「リン酸化合物の板状粒子を含む」板状リン酸化合物粉体の形態としては特に制限されないが、前記リン酸化合物の板状結晶粒子が分散状態で存在していることが好ましい。このような形態とすることにより、板状粒子の発達面(広がった面)を反応サイト、結晶成長サイトのような機能面として利用することができる。更に、反応や結晶成長、吸着等の機能に選択性を持たせる観点から、前記リン酸化合物の六角板状単結晶粒子が分散状態で存在しているものであることがより好ましい。
更に、本発明にかかる板状リン酸化合物粉体は、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることが必要である。このような前記板状粒子の前記アスペクト比の平均値が前記下限未満になると、例えば、せん断応力場の下で板状粒子の配向度が低下しやすくなり「板状」の形状の特徴を活かしにくくなるという問題が生じる。なお、「直径」とは、前記板状粒子の発達面の最小外接円の直径を言い、c軸に直交する方向に沿った端から端までの隔たりの大きさのうち最大のものである。ここで、「c軸」とは、六方晶系であるリン酸化合物結晶構造における回転対称軸を言う。また、「厚み」とは、前記板状粒子の面的な広がりと垂直な方向の長さを言い、c軸方向に沿った端から端までの隔たりの大きさのうち最大のものである。前記板状粒子の面的な広がりと垂直な方向の形状が不均一な場合には、このような垂直な方向の長さのうち最大のものを「厚み」とする。なお、このような直径や厚み等は、前記板状粒子を走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察や透過型電子顕微鏡(TEM)観察等により求め、任意の10個以上の板状粒子の一次粒子について直径や厚み等を測定し、その直径や厚み等の平均値を算出することにより測定することができる。また、このようにして求めた直径を平均直径、厚みを平均厚みともいう。更に、前記アスペクト比の平均値の上限は、特に制限されないが、30以下であることが好ましい。このようなアスペクト比の平均値が30を超えると、作製がしにくく、製造コストが高くなる傾向にある。
また、このような板状リン酸化合物粉体においては、前記板状粒子の発達面の平均直径が5〜500μmであることが好ましい。このような板状粒子の発達面の平均直径が5μm未満になると、例えば、せん断応力場の下で板状粒子の配向度が低下しやすくなり「板状」の形状の特徴を活かしにくくなる傾向にあり、他方、500μmを超えると、せん断応力場で粒子が流れにくくなる傾向にある。このような前記板状粒子の発達面の平均直径としては、粒子の配向度と流れやすさの観点から、5〜50μmの範囲内であることがより好ましい。
更に、このような板状リン酸化合物粉体においては、前記リン酸化合物の板状粒子が、厚み方向がc軸方向となっている単結晶であることが好ましい。このようにすることにより、アパタイトの異方性制御がより容易となる傾向にある。
以上説明した本発明の板状リン酸化合物粉体は、以下に説明する本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法によって得ることができる。
[板状リン酸化合物粒子]
次に、本発明の板状リン酸化合物粒子について説明する。本発明の板状リン酸化合物粒子は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子であり、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることを特徴とするものである。なお、この板状リン酸化合物粒子は、上記本発明の板状リン酸化合物粉体において説明した板状リン酸化合物粒子と同様のものである。
[板状リン酸化合物粉体の製造方法]
次に、本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法について説明する。本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体の製造方法であって、
平均粒径が1μm以下の一般式:AHPO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸水素化合物粒子を含む原料粉体を、水熱処理して前記板状リン酸化合物粉体を得る熱処理工程を含むこと、を特徴とする方法である。
(熱処理工程)
本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法に係る熱処理工程は、原料粉体を水熱処理して前記板状リン酸化合物粉体を得る工程である。
このような本発明に係る熱処理工程において用いる原料粉体としては、平均粒径が1μm以下の一般式:AHPO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸水素化合物粒子を含むものである。このような原料粉体としては、具体的には、Ca(PO、Sr(PO、Ba(PO、Ra(POからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよく、二種以上であってもよい。その中でも、生体親和性の観点から、Ca(PO、Sr(POからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、板状粒子生成容易性の観点から、Sr(POがより好ましい。
なお、このような原料粉体の平均粒径としては、1μm以下であることが必要である。このような原料粉体の平均粒径が前記上限を超えると、分散したリン酸化合物板状粒子が得られにくいという問題が生じる。また、このような原料粉体の平均粒径としては、分散した板状粒子の歩留まりを高めるという観点から、0.5μm以下であることがより好ましい。更に、前記原料粉体の平均粒径の下限は、特に制限されないが、例えば、0.01μmであってもよい。このような原料粉体の平均粒径が0.01μm未満になると、小さい粒子が作製しにくい傾向にある。なお、このような原料粉体の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察、走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察等により測定することができる。具体的には、例えば、原料粉体の平均粒径は、走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察により求め、SEM観察視野内(例えば、2540μm×1900μm)における任意の10個以上の粒子の寸法から体積を算出し、同じ体積の球の直径を体積平均した値である。
また、このような本発明の製造方法に係る熱処理工程においては、水熱処理をpHが3〜9の範囲内の水溶液中で行うことが好ましい。このような熱処理開始時の前記水溶液のpHが前記下限未満になると、AHPO原料粉体が溶解する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分散した板状粒子が得られにくい傾向にある。また、このような熱処理開始時の前記水溶液のpHとしては、板状粒子生成容易性という観点から、pHが3.5〜7.5の範囲内であることがより好ましく、4〜6の範囲内であることが特に好ましい。更に、このような熱処理において用いる前記水溶液としては、特に限定されないが、アルカリ土類金属源として酢酸ストロンチウム或いは酢酸カルシウム、リン源としてリン酸水素二アンモニウム或いはリン酸二水素アンモニウム、及び、尿素、硝酸を含む水溶液であることが好ましい。このような溶液を単独又は二種以上組み合わせて上記範囲内のpHの水溶液とすることもできる。
また、このような熱処理工程における熱処理の温度としては、80〜180℃の範囲内の温度であることが好ましい。このような熱処理の温度が前記下限未満になると、尿素の加水分解が遅れるため反応が進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分散した板状粒子が得られにくい傾向にある。また、このような熱処理の温度としては、板状粒子生成容易性という観点から、120〜170℃の範囲内であることがより好ましく、140〜160℃の範囲内であることが特に好ましい。
更に、このような熱処理工程における熱処理の時間としては、特に制限されないが、1〜10時間であることが好ましく、2〜4時間であることがより好ましい。熱処理の時間が下限未満になると、反応が進行せず目的物質が得られにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ストロンチウム水酸アパタイト(Sr(PO(OH))や炭酸ストロンチウム(SrCO)等の第二相が生成しやすく、また、板状粒子が凝集する傾向にある。
また、このような熱処理工程において用いる装置としては、特に制限されないが、攪拌装置を有する水熱装置、オートクレーブ等の耐圧反応容器、等を用いることができる。この中でも、均一な微粒子を得るという観点から、攪拌装置を有する水熱装置であることが好ましい。
なお、このような熱処理工程においては、熱処理後に、遠心分離やろ過等の処理を行ってもよい。遠心分離やろ過等の方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
次に、本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法においては、前記熱処理工程の前に、アルカリ土類金属(A)の塩とリン酸塩とを含む水溶液を用いて沈殿法により生成した沈殿混合物を粉砕して前記原料粉体を得る原料粉体準備工程を更に含むことが好ましい。
(原料粉体準備工程)
このような本発明の製造方法の前記熱処理工程の前に行うことが好ましい原料粉体準備工程としては、先ず、アルカリ土類金属(A)の塩とリン酸塩とを含む水溶液を用いて沈殿法により沈殿混合物を生成する。
このような原料粉体準備工程において用いるアルカリ土類金属(A)の塩としては、特に制限されないが、具体的には、酢酸ストロンチウム[Sr(CHCOO)]、硝酸カルシウム[Ca(NO]、酢酸カルシウム[Ca(CHCOO)]、硝酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、等が挙げられる。その中でも、板状粒子生成容易性の観点から、酢酸ストロンチウム[Sr(CHCOO)]、酢酸カルシウム[Ca(CHCOO)]であることが好ましい。このようなアルカリ土類金属(A)の塩としては、前記塩を含む水溶液として用いてもよい。
また、このような原料粉体準備工程において用いるリン酸塩としては、特に制限されないが、具体的には、リン酸水素二アンモニウム或いはリン酸二水素アンモニウム等のリン酸水素アンモニウム、オルトリン酸、等が挙げられる。その中でも、板状粒子生成容易性の観点から、リン酸水素二アンモニウム或いはリン酸二水素アンモニウム等のリン酸水素アンモニウムであることが好ましい。このようなリン酸塩としては、前記リン酸塩を含む水溶液として用いてもよい。
このような前記アルカリ土類金属(A)の塩と前記リン酸塩とを含む水溶液を用い、必要に応じて各種添加剤を添加し、沈殿法により沈殿混合物を生成する。
このような添加剤としては、尿素、水、硝酸や塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、乳酸等の有機酸を添加することができる。なお、板状粒子生成容易性の観点から、尿素を添加することが好ましい。また、出発溶液の均質性の確保の観点から、硝酸や塩酸等の無機酸を添加することが好ましい。
また、このような沈殿混合物を生成する工程における処理の温度としては、70〜95℃の範囲内の温度であることが好ましく、75〜85℃の範囲内の温度であることがより好ましい。前記処理の温度が前記下限未満になると、尿素の加水分解が進行せず反応が進まない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第二相が生成しやすくなる傾向にある。
更に、このような沈殿混合物を生成する工程における処理の時間としては、特に制限されないが、10〜40時間であることが好ましく、20〜30時間であることがより好ましい。熱処理の時間が下限未満になると、尿素の加水分解が進行せず反応が進まない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第二相が生成しやすくなる傾向にある。
また、このような沈殿混合物を生成する工程において、前記水溶液のpHとしては1〜5の範囲内であることが好ましく、2〜4の範囲内であることがより好ましい。前記水溶液のpHが前記下限未満になると、沈殿物が生成しなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第二相が生成しやすくなる傾向にある。
更に、このような沈殿混合物を生成する工程において用いる装置としては、特に制限されないが、オイルバス、マントルヒーター、等を用いることができる。この中でも、温度制御という観点から、オイルバスであることが好ましい。
なお、このような沈殿混合物を生成する工程において、沈殿処理後に、遠心分離やろ過、乾燥等の処理を行ってもよい。遠心分離やろ過、乾燥等の方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
次に、このような本発明の製造方法の前記熱処理工程の前に行うことが好ましい原料粉体準備工程においては、前記沈殿混合物を生成する工程において得られた沈殿混合物を粉砕して前記リン酸水素化合物粒子を得る。
このような沈殿混合物を粉砕する工程においては、前記沈殿混合物を生成する工程において得られた沈殿混合物を粉砕して前記リン酸水素化合物の微粒子とすることが好ましい。このような微粒子の粒径としては、平均粒径で1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。このような微粒子の粒径が前記下限未満では、分散したリン酸化合物板状粒子が得られにくい傾向にある。
また、このような沈殿混合物を粉砕する工程において用いる装置としては、特に制限されないが、ボールミル粉砕装置、湿式粉砕機、ジェットミル、等を用いることができる。この中でも、より微細で均一な前記リン酸水素化合物粒子を得るという観点から、回転又は振動装置付きのボールミル粉砕装置であることが好ましい。
なお、このような原料粉体準備工程においては、粉砕処理後に、遠心分離や吸引ろ過、乾燥等の処理を行ってもよい。遠心分離や吸引ろ過、乾燥等の方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
なお、本発明の板状リン酸化合物粉体の製造方法においては、前記アルカリ土類金属(A)の塩が酢酸ストロンチウムであり、前記リン酸塩がリン酸水素アンモニウムであり、前記リン酸水素化合物がSrHPOであり、かつ、前記リン酸化合物がSr(POであることがこのましい。このような本発明の製造方法により、分散性、結晶性、異方形状性(板状性)に優れたSr(PO粉体を得ることができる。
[結晶配向アパタイトの製造方法]
次に、本発明の板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法について説明する。本発明の結晶配向アパタイトの製造方法は、上記本発明の板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法である。本発明の結晶配向アパタイトの製造方法は、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体と、前記板状粒子と反応してアパタイト型物質となる反応補完物質とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成形して前記板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向した成形体を得る配向工程と、
前記成形体を熱処理して前記板状粒子と前記反応補完物質とを反応せしめc軸が配向した結晶配向アパタイトを得る焼成工程と、を含むことを特徴とする方法である。本発明の結晶配向アパタイトの製造方法により、前記板状リン酸化合物粉体と前記反応補完物質とを含む混合物を前記板状リン酸化合物粉体の板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向するように成形し、これを所定温度で熱処理すると、板状粒子の発達面にアパタイトの配向結晶核が生成し、この配向結晶核が粒成長することによってc軸が配向した配向焼結体(結晶配向アパタイト)となる。これにより、配向度が高い結晶配向アパタイトを得ることができる。
(混合工程)
本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る混合工程は、上記本発明の板状リン酸化合物粉体と、前記板状リン酸化合物粉体に含まれる板状粒子と反応してアパタイト型物質となる反応補完物質とを混合して混合物を得る工程である。
このような本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る混合工程において用いる板状リン酸化合物粉体としては、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体であることが必要であり、この板状リン酸化合物粉体は上記本発明の板状リン酸化合物粉体と同様である。このような板状リン酸化合物粉体は、アスペクト比の平均値が5以上であるリン酸化合物の板状粒子を含み、異方形状性に優れたものである。この異方形状性に優れた板状リン酸化合物粉体は、板状リン酸化合物粉体に含まれる異方形状性に優れた板状粒子の発達面(広がった面)を反応サイト、結晶成長サイトのような機能面として利用することができる。
なお、このような板状リン酸化合物粉体としては、より配向度が高い結晶配向アパタイトが得られるという観点から、前記板状粒子がc軸に垂直な面が発達面となっているSr(POであることが好ましい。
また、このような板状リン酸化合物粉体としては、より配向度が高い結晶配向アパタイトが得られるという観点から、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子であり、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることが好ましい。
更に、このような板状リン酸化合物粉体としては、アスペクト比の平均値が5未満であるリン酸化合物粒子を含む場合、このようなリン酸化合物粒子の含有量が、板状リン酸化合物粉体全質量(100質量%)に対して95質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。このようなアスペクト比の平均値が5未満であるリン酸化合物粒子の含有量が前記上限を超える場合は、配向度が高い結晶配向アパタイトが得られにくい傾向にある。
このような本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る混合工程において用いる反応補完物質としては、前記板状粒子と反応してアパタイト型物質となるものであることが必要である。このような反応補完物質としては、前記以外特に制限されないが、アルカリ土類金属のフッ化物、アルカリ土類金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の酸化物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、このような反応補完物質としては、アルカリ土類金属のフッ化物又はアルカリ土類金属の水酸化物であることがより好ましい。このような反応補完物質としては、具体的には、SrF(フッ化ストロンチウム)、CaF(フッ化カルシウム)、Sr(OH)(水酸化ストロンチウム)、Ca(OH)(水酸化カルシウム)、SrO(酸化ストロンチウム)、CaO(酸化カルシウム)及びそれらの間の固溶体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、このような反応補完物質が粉末状である場合は、粒径としては、平均粒径が5μm未満であることが好ましく、1μm未満であることがより好ましい。このような反応補完物質の粒径が前記上限を超えると配向工程で前記板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向した成形体を得ることが困難になり、かつ、前記板状粒子と反応する際に前記板状粒子の結晶方位を継承することが困難になる傾向にある。
本発明の結晶配向セラミックスの製造方法に係る混合工程においては、前記板状リン酸化合物粉体と前記反応補完物質の混合量については、特に制限されないが、前記板状リン酸化合物粉体中のアルカリ土類金属のモル量と前記反応補完物質中のアルカリ土類金属のモル量の比が、アパタイトが合成される化学量論比である90:10に近い値であることが好ましい。
また、本発明に係る混合工程においては、前記結晶配向アパタイトの原料となる混合物としては、前記板状リン酸化合物粉体及び前記反応補完物質を含むものであればよく、本発明の効果を損なわない範囲で用いることが可能な他の成分(例えば、アパタイト構造を有する固溶体を作るアルカリ化合物やアルカリ土類金属の炭酸塩)を適宜添加してもよい。なお、他の成分を添加する場合、他の成分を添加量は、混合物(前記板状リン酸化合物粉体、前記反応補完物質及び他の成分)全質量100質量%に対して20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましい。このような混合物における他の成分の添加量が前記上限以上では、本発明の効果が十分に得られない傾向にある。このような他の成分としては、NaCO、KCO、CaCO、SrCO等が挙げられる。
更に、このような本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る混合工程において、前記板状リン酸化合物粉体と前記反応補完物質との混合方法は、特に制限されないが、具体的には、ボールミル混合、攪拌機による混合等が挙げられる。なお、乾式で行っても良く、或いは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。更に、必要に応じてバインダー及び/又は可塑剤、更には溶剤等を加えても良い。また、前記板状リン酸化合物粉体及び前記反応補完物質に、必要に応じてバインダー及び/又は可塑剤や溶剤等を加えて混合し、スラリーを形成してもよい。
バインダー(結合材)としては、特に制限されないが、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル系樹脂等を用いることができる。中でも、テープ(シート)等の成形体を薄くしても十分な強度を得ることができ、結晶配向アパタイトを薄層化させやすいという観点から、ポリビニルブチラール、アクリル系樹脂であることが好ましい。
可塑剤としては、特に制限されないが、具体的には、フタル酸系可塑剤やグリコール系可塑剤等を用いることができる。フタル酸系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、ジオクチルフタレート(DOP)が挙げられる。グリコール系可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ブチルフタリルグリコレート、トリエチレングリコール−2−エチルブチレートを用いることができる。
溶剤としては、特に制限されないが、具体的には、エタノール、トルエン、ブタノール、イソプロピルアルコールのようなアルコール類等を用いることができる。
(配向工程)
次に、本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る配向工程は、前記混合物を成形して前記板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向した成形体を得る工程である。これにより、前記板状粒子が配向した配向成形体を得ることができる。なお、「略平行」とは、必ずしも完全な平行のみを意味するものではなく、本発明の効果を奏する範囲内で多少の角度があるものを許容するものである。具体的には、板状粒子の発達面同士のなす角度が、その50%以上が30度(°)以内であることが好ましく、15度(°)以内であることがより好ましい。
このような本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る配向工程において、前記混合物を成形する方法としては、前記板状粒子が配向した配向成形体を得ることができる方法であれば特に制限されないが、具体的には、テープ成形法、押出成形法、プレス成形法(一軸加圧成形法を含む)、圧延(ロールプレス)法、カレンダー成形法、遠心成形法、射出成型法、鋳込み成形法(スリップキャスト法)、冷間静水圧成形法(CIP)等の成形方法が挙げられる。このような成形方法の中でも、前記板状粒子の発達面の配向度を高める傾向にあるという観点から、せん断応力を印加する方法であることが好ましい。このような成形方法としては、テープ成形法、押出成形法、プレス成形法、圧延法及びカレンダー成形法からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、圧延(ロールプレス)法又は圧延(ロールプレス)法と前記他の成形方法との組合せであることが特に好ましい。
なお、このような成形方法により得られた板状粒子が配向した成形体(以下、これを「配向成形体」という。)の配向度をより高める観点から、配向成形体に対して更に積層圧着、プレス、圧延(ロールプレス)等の配向処理を行っても良い。この場合、配向成形体に対して、いずれか1種類の配向処理を行っても良く、或いは2種以上の配向処理を行っても良い。また、配向成形体に対して、1種類の配向処理を複数回繰り返し行っても良く、或いは2種以上の配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行っても良い。
また、このような成形方法としては、前記板状粒子の発達面の配向度をより一層高める傾向にあるという観点から、テープ成形法、押出成形法、プレス成形法等の成形方法により成形体を作製し、次いで、得られた成形体を圧延(ロールプレス)することが好ましい。更に、成形体がテープ(シート)状の場合には、配向成形体の厚みを増したり、前記板状リン酸化合物粒子の発達面の配向度をより一層高める傾向にあるという観点から、テープ(シート)状の成形体の積層圧着及び圧延(ロールプレス)を複数回繰り返しても良い。
更に、このような成形方法における成形条件としては、特に制限されるものではなく、出発原料の組成、結晶配向アパタイトに要求される特性等に応じて最適な条件を選択する。
なお、前記配向工程において得られた配向成形体がバインダー(結合剤)や可塑剤等を含む場合、後述する焼成工程の前に、成形体中の有機成分を燃焼除去する脱脂処理(熱処理)を行うことが好ましい。このような脱脂処理における加熱温度は、少なくともバインダー(結合剤)及び/又は可塑剤を熱分解させるに十分な温度であれば良く、具体的には、400〜600℃で行うことが好ましい。更に、成形体の密度又は配向度を高める観点から、脱脂処理の後に静水圧加圧(CIP)処理等を行うことが好ましい。
(焼成工程)
次いで、本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る焼成工程は、前記成形体を熱処理して前記板状粒子と前記反応補完物質とを反応せしめc軸が配向した結晶配向アパタイトを得る工程である。このような焼成工程により、前記板状粒子と前記反応補完物質が反応し、前記板状粒子の発達面にアパタイトの配向結晶核が生成し、この配向結晶核が粒成長することによってc軸が配向した配向焼結体(結晶配向アパタイト)となる。これにより、配向度が高い結晶配向アパタイトを得ることができる。
このような本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る焼成工程において、前記混合物を熱処理する方法(熱処理方法)としては、特に制限されないが、具体的には、電気炉、ガス炉、イメージ炉等の各種の炉等の加熱手段を使用して、常圧焼結法、或いは、ホットプレス(Hot Press)、熱間静水圧加圧焼結(HIP:Hot Isostatic Press)等の加圧焼結法やプラズマ焼結(SPS)等のいずれを用いても良く、結晶配向アパタイトの組成や用途等に応じて、最適な方法を選択することができる。また、熱処理温度の条件としては、特に制限されないが、配向結晶核の粒成長及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、目的とする組成を有する配向度が高い結晶配向アパタイトが生成するように、使用する板状リン酸化合物粉体、反応補完物質、作製しようとする結晶配向アパタイトの組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。具体的には、800〜1600℃であることが好ましい。更に、熱処理の雰囲気としては、特に制限されないが、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行ってもよい。なお、反応補完物質がアルカリ土類金属の水酸化物の場合は、水蒸気を付与した雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。また、アルカリ土類金属のフッ化物の場合は、水蒸気を含まない雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。更に、反応補完物質がアルカリ土類金属のフッ化物であり、かつ、フルオロアパタイトを作製する場合は、水蒸気を含まない雰囲気で行うことが好ましく、フッ化物粉末を成形体や脱脂体の近くに配置する等によりフッ素を含む雰囲気で行うことが更に好ましい。また、熱処理時間の条件としては、特に制限されないが、具体的には、所定の焼結体密度が得られるように、熱処理温度に応じて最適な時間を選択すればよい。
また、焼成工程は、成形体を直接、焼結温度まで加熱する1段階の熱処理でも良いが、高密度かつ高配向度の結晶配向アパタイトを作製する観点から、熱処理を2段階に分けて行うことが好ましい。
2段階の熱処理を行う場合、一次熱処理は、前記板状粒子の発達面に反応補完物質の配向結晶核を生成させ、前記板状粒子の配向性を承継しながら結晶配向アパタイトを生成させるために行われる。従って、この一次熱処理の熱処理温度は、前記結晶配向アパタイトの合成反応が開始する温度より高く、かつ、緻密化が大きく進行する温度より低いことが好ましい。一次熱処理の処理温度は、具体的には、800〜1200℃の範囲内であることが好ましく、800〜1100℃の範囲内であることがより好ましい。
次に、2段階の熱処理を行う場合の二次熱処理は、焼結によって緻密化を進行させ、同時に前記配向結晶核を粒成長させ、c軸が配向した配向焼結体(結晶配向アパタイト)を生成するために行われる。これにより、c軸が配向した配向度が高い結晶配向アパタイトを作製することができる。二次熱処理の処理温度は、特に制限されないが、具体的には、使用する板状リン酸化合物粉体、反応補完物質、作製しようとする結晶配向アパタイトの組成等によって若干異なるが、通常、1200〜1600℃の範囲内であることが好ましい。また、このような二次熱処理における雰囲気としては、特に制限されないが、大気中又は酸素雰囲気中であることが好ましい。なお、反応補完物質がアルカリ土類金属の水酸化物の場合は、水蒸気を付与した雰囲気で熱処理を行うことがより好ましい。また、アルカリ土類金属のフッ化物の場合は、水蒸気を含まない雰囲気で熱処理を行うことがより好ましい。また、高密度の焼結体を得るという観点から、酸素雰囲気中であることが更に好ましい。
本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る焼成工程において得られる結晶配向アパタイトとしては、具体的には、一般式:A(POZ(式中、Aはアルカリ土類金属を示し、ZはOH又はFを示す。)で表わされる結晶配向アパタイトであることが好ましい。このような結晶配向アパタイトとしては、例えば、Ca(POFやSr(POF等のフルオロアパタイト(フッ素アパタイト又はフッ化アパタイト)、Ca(PO(OH)やSr(PO(OH)等の水酸アパタイト(ハイドロキシアパタイト又はヒドロキシアパタイト)、Sr−Ca混合型アパタイト(例えば、Sr7.3Ca2.7(PO)等の混合型アパタイト、リン酸塩の一部が炭酸塩に置換し、アルカリ土類金属の一部がアルカリ金属に置換したアパタイト等が挙げられる。このような結晶配向アパタイトの中でも、生体材料としての安定性の観点から、Sr(POF、Ca(POF、Sr(PO(OH)、Ca(PO(OH)及びその固溶体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
また、本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る焼成工程においては、前記成形体から一般式:A(POZ(式中、Aはアルカリ土類金属を示し、ZはOH又はFを示す。)で表わされる結晶配向アパタイトへの転化率(%)が20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが特に好ましい。 更に、本発明の結晶配向アパタイトの製造方法に係る焼成工程において得られる結晶配向アパタイトの配向度としては、March−Dollase関数に準拠して測定される配向因子rの値が0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
先ず、ガラス製メスフラスコ(容積500mL)を用いて原料混合水溶液(500mL)を準備した。原料混合水溶液は、酢酸ストロンチウム[Sr(CHCOO)・0.5HO]が0.0167mol・dm−3、リン酸水素二アンモニウム[(NHHPO]が0.0100mol・dm−3、尿素[(NHCO]が0.0500mol・dm−3及び硝酸[HNO]が0.0480mol・dm−3となるように調製した。
次に、得られた原料混合水溶液(200mL)を丸底フラスコ(250mL)容器に移して、ドラフト内に設置したオイルバス中にて80℃の温度条件で24時間加熱して、SrHPO結晶の沈殿物を得た。次いで、得られた沈殿物を吸引濾過して固液分離したのち、沈殿物を、空気中、110℃の温度条件で24時間の乾燥を行い、SrHPO結晶粒子の粉体を調製した。なお、固液分離された溶液は別に保存し、次のプロセスである水熱処理に使用した。この溶液を「水熱処理液」とする。
次に、得られたSrHPO結晶粒子の粉体0.7gを遊星型ボールミル粉砕装置(フリッチュ・ジャパン社製、商品名:P−6)を用いて微粉砕し、SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体を得た。
<ボールミル条件>
・遊星型ボールミル:2mmφZrO×179.8g
・溶媒:純水40cm
・粉砕時間:1時間
・回転速度:300rpm
次いで、得られたSrHPO結晶微粒子からなる原料粉体(0.5g)を、上記の水熱処理溶液とともに攪拌装置を有するTEM−DS型水熱装置(耐熱硝子工業社製、商品名:簡易型オートクレーブ)中に入れ、水熱処理を行った。その後、吸引濾過により固液分離して、板状のα−リン酸ストロンチウム[α−Sr(PO]粒子からなる板状リン酸化合物粒子(リン酸ストロンチウム粉体)を得た。
<水熱処理条件>
・溶媒:上記水熱処理溶液
・水熱処理溶液のpH:5.0
・処理温度:150℃
・処理時間:3時間
・攪拌回転数:150rpm
<SEM観察>
実施例1で得られたSrHPO結晶粒子の粉体、SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体及びリン酸ストロンチウム粒子からなる板状リン酸化合物粉体の微構造観察は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて行った。なお、SrHPO結晶粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に、SrHPO結晶微粒子を含む原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に、板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。なお、SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体の平均粒径は、SEM観察視野内(2540μm×1900μm)における寸法から体積を算出し、同じ体積の球の直径を体積平均した値である。その結果、原料粉体の平均粒径は0.5μmであった。
図1に示したSrHPO結晶粒子の粉体のSEM写真及び図2に示したSrHPO結晶微粒子からなる原料粉体のSEM写真より、沈殿法により生成したSrHPO結晶粒子の粉体をボールミル粉砕することにより、微細なSrHPO結晶粒子が得られていることが確認された。
また、図3に示した実施例1のリン酸ストロンチウム粉体のSEM写真より、単分散な六角板状α−Sr(PO結晶粒子が得られていることが確認された。
<TEM観察>
実施例1で得られたリン酸ストロンチウム粉体中のリン酸化合物の板状粒子(板状リン酸化合物粒子)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(一部に電子線回折画像を含む)を図4に示す。TEM画像より、図3のSEM写真と同様に六角板状の形態であることが確認された。また、電子線回折では明確なスポットが認められ、単分散な六角板状α−Sr(PO結晶粒子は単結晶であることが確認された。
更に、実施例1で得られたリン酸ストロンチウム粒子の発達面の形状、直径、厚み及び発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み)の平均値(平均アスペクト比)を表1に示す。
(実施例2)
SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体の水熱処理条件の攪拌回転数を100rpmとした以外は、実施例1と同様にして本実施例の板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)を作製した。なお、実施例2において得られた板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。また、実施例2において得られた原料粉体中のSrHPO粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真は図1示す実施例1の原料粉体中のSrHPO粒子のSEM写真と同様のものであった。更に、SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体の平均粒径を実施例1と同様にして求めた結果、原料粉体の平均粒径は0.5μmであった。また、実施例2で得られたリン酸ストロンチウム粒子の発達面の形状、直径、厚み及び発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み)の平均値(平均アスペクト比)を表1に示す。
図5に示した実施例2のリン酸ストロンチウム粉体のSEM写真より、単分散な六角板状α−Sr(PO結晶粒子が得られていることが確認された。
(実施例3)
SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体の水熱処理条件の攪拌回転数を200rpmとした以外は、実施例1と同様にして本実施例の板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)を作製した。なお、実施例3において得られた板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図6に示す。また、実施例3において得られた原料粉体中のSrHPO粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真は図1示す実施例1の原料粉体中のSrHPO粒子のSEM写真と同様のものであった。更に、SrHPO結晶微粒子からなる原料粉体の平均粒径を実施例1と同様にして求めた結果、原料粉体の平均粒径は0.5μmであった。また、実施例3で得られたリン酸ストロンチウム粒子の発達面の形状、直径、厚み及び発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み)の平均値(平均アスペクト比)を表1に示す。
図6に示した実施例3のリン酸ストロンチウム粉体のSEM写真より、単分散な六角板状α−Sr(PO結晶粒子が得られていることが確認された。
<XRD解析>
実施例1〜3で得られたリン酸ストロンチウム粉体は、試料水平型X線回折装置(リガク社製、商品名「Ultima IV」)を用い、OPML−XRD法(OPML:Oriented Particlulate Mono−Layer Method、XRD:X−ray diffraction)により結晶相の同定を行った。なお、OPML−XRD法は、試料の配向性を特に際立たせて測定することが可能な方法である。
先ず、X線回折測定用のサンプル(OPML−XRDサンプル)を作製した。各実施例で得られたリン酸ストロンチウム粉体試料1質量%に、純水及びゼラチン3mass%を加えて混合し、更に40℃で5分間の超音波分散を行い、試料分散体を得た。得られた試料分散体をスライドガラスに塗付し(約0.1cm、2.5cm×2.5cm)、室温で約30分間乾燥し、更に、冷風で30分間乾燥してOPML−XRDサンプルを作製した。
次に、得られたOPML−XRDサンプルを用いてX線回折測定を行った。測定条件は、加速電圧30kV、電流15mAのCu−Kα線で2θ=3〜60°、スキャンスピード2°・min−1とした。X線回折プロファイルは、MDI社の粉末X線回折パターン総合解析ソフトJADE9を用い、バックグランド除去の処理を行った。リン酸ストロンチウム粉体の結晶構造をX線回折の測定により確認した結果(XRDスペクトル)を図7に示す。なお、参考のために、通常の粉末X線回折法により得られたリン酸ストロンチウム粉体のXRDスペクトル(水熱処理条件での攪拌回転数が150rpmのもの)を図7に示す。
図7に示した実施例1〜3により得られたリン酸ストロンチウム粉体のXRDスペクトルより、粉体はほぼ単相のα−Sr(POであり、かつ、発達面(広がり面)が{00l}であることが確認された。
(実施例4)
原料混合水溶液(500mL)を酢酸ストロンチウム[Sr(CHCOO)・0.5HO]が0.03006mol・dm−3、酢酸カルシウム[Ca(CHCOO)・HO]が0.00334mol・dm−3、リン酸水素二アンモニウム[(NHHPO]が0.0200mol・dm−3、尿素[(NHCO]が0.1000mol・dm−3及び硝酸[HNO]が0.0960mol・dm−3となるように調整して用いた以外は、実施例1と同様にして本実施例の板状リン酸化合物粉体を調製した。なお、実施例4において得られた原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図8に、板状リン酸化合物粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図9に、EDSスペクトル(エネルギー分散型蛍光X線スペクトル)を図10に示す。また、原料粉体の平均粒径を実施例1と同様にして求めた結果、原料粉体の平均粒径は0.5μmであった。更に、実施例4で得られた板状リン酸化合物粒子の発達面の形状、直径、厚み及び発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み)の平均値(平均アスペクト比)を表1に示す。
なお、水熱処理後の最終生成物の粉末X線回折パターンは、リン酸ストロンチウム[α−Sr(PO]結晶粒子と同様であったが、その回折線は僅かにシフトしていた。また、走査電子顕微鏡(SEM)観察及びエネルギー分散型X線分光分析(EDS)の結果から、水熱処理後の最終生成物は六角板状(板状)であり、SrとともにCaも検出された。これらの結果は、α−Sr(POの固溶体である(Sr2.7Ca0.3(PO結晶粒子が合成されていることを示している。
(比較例1)
実施例1で得られたSrHPO結晶の沈殿物(直径約300μm、長さ1〜2mmの柱状粒子、柱状粒子の平均粒径250μm)を乾燥後、ボールミル粉砕をせずに、150℃×3時間の水熱処理を行った。その結果、反応後の生成物は、元の柱状粒子がほぼ同じ大きさで残っており、表面にSr(POが生成していたが、SrHPO相が未反応のまま多く残留していた。なお、比較例1において得られた比較用原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図11に、比較用生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図12に示す。また、比較用原料粉体の平均粒径を実施例1と同様にして求めた結果、比較用原料粉体の平均粒径は1.5μmであった。更に、比較用生成物の平均粒径を、SEM観察視野内における寸法から体積を算出し、同じ体積の球の直径を体積平均して、平均粒径を求めた結果、比較用生成物の平均粒径は786μmであった。また、比較例1で得られた比較用生成物の発達面の形状、直径、厚み及び発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み)の平均値(平均アスペクト比)の確認を試みたが、板状ではなく、異形(不定形)粒子の集合体が生成していたため、比較用生成物の直径、厚み及び平均アスペクト比は測定できなかった。結果を表1に示す。なお、比較用生成物の長さは、50〜3500μmで、長径は50〜850μmであった。
(比較例2)
SrHPO結晶粒子粉体の遊星型ボールミル粉砕装置を用いた微粉砕におけるボールミル処理時間(ボールミル条件の粉砕時間)を15分とした以外は、実施例1と同様にして比較用粉体を作製した。なお、比較例2において得られた比較用原料粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図13に、比較用生成物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図14に示す。また、比較用原料粉体の平均粒径を実施例1と同様にして求めた結果、比較用原料粉体の平均粒径は1.5μmであった。更に、比較用生成物の平均粒径を実施例1と同様にして求めた結果、比較用生成物の平均粒径は158μmであった。また、XRD分析では、原料(未反応SrHPO)が確認された。更に、比較例2で得られた比較用粉体の発達面の形状、直径、厚み及び発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み)の平均値(平均アスペクト比)の確認を試みたが、板状ではなく、異形(不定形)粒子の集合体が生成していたため、比較用粉体の直径、厚み及び平均アスペクト比は測定できなかった。結果を表1に示す。なお、比較用生成物の長さは、50〜250μmで、長径は50〜250μmであった。
以上説明したように、本発明においては、平均粒径が1μm以下の一般式:AHPO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸水素化合物粒子を含む原料粉体を、水熱処理して前記板状リン酸化合物粉体を得る熱処理工程を含む板状リン酸化合物粉体の製造方法により、一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である異方形状性に優れた板状リン酸化合物粉体を製造することが可能となる。なお、リン酸化合物A(POは、AHPO上に核生成するため、このA(PO粒子の微細化により、単一のA(PO核が優先成長し、平衡結晶形状である板状形状が発達するものと考える。
(実施例5)
実施例1で得られた板状リン酸化合物粒子からなる板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)を用いて、結晶配向アパタイトを作製した。
すなわち、先ず、実施例1で得られた板状リン酸ストロンチウム粉体17.5gとフッ化ストロンチウム(SrF)粉末(シグマアルドリッチ社製「フッ化ストロンチウム」(品番:342203)を乳鉢で粉砕したもの、平均直径1μm以下、平均アスペクト比1.0)1.4741gを配合し、これらの原料粉末にバインダー(トルエン+エタノール+ポリビニルブチラール)と可塑剤(フタル酸ジブチル)及び混合撹拌用ジルコニアボール(φ15mm×20個)を加え、ボールミルで1時間混合した。得られた混合物をドクターブレード装置によりテープ形状に成形し、テープ形状の成形体(テープ状成形体)を得た。その後、テープ状成形体を室温で乾燥した。これにより、テープ状成形体は厚さが約100μmとなった。
得られたテープ状成形体を5.0cm×8.0cmの大きさに切断し、これを12枚重ねて80℃、20kg/cmの条件下で熱プレス(圧着)し、その後、1.0cm×1.0cmの大きさに切断して積層テープ状成形体を得た。
得られた積層テープ状成形体を、酸素雰囲気中500℃で1時間加熱して脱脂し、1000℃で10時間加熱して一次熱処理を施した後、更に大気中1500℃で2時間加熱して二次熱処理を施し、焼結体(結晶配向アパタイト)を得た。
(実施例6)
実施例5で得られた積層テープ状成形体を用いて、ロールプレス機(2軸ロール)により厚みが約2分の1になるまで圧延し、その後、1.2cm×1.2cmの大きさに切断してロールプレス成形体を得た。
得られたロールプレス成形体を、酸素雰囲気中500℃で1時間加熱して脱脂し、1000℃で10時間加熱して一次熱処理を施した後、更に大気中1500℃で2時間加熱して二次熱処理を施し、焼結体(結晶配向アパタイト)を得た。
(実施例7)
一次熱処理及び二次熱処理において、ロールプレス成形体試料に近接してフッ化ストロンチウムの粉末を設置し、かつ、ロールプレス成形体試料を設置したアルミナ製容器の隙間にもフッ化ストロンチウム粉末を配置することにより、熱処理雰囲気をフッ素を含む雰囲気とした以外は、実施例6と同様にして焼結体(結晶配向アパタイト)を得た。
(実施例8)
実施例1で得られた板状リン酸化合物粒子からなる板状リン酸化合物粉体(リン酸ストロンチウム粉体)を用いて、結晶配向アパタイトを作製した。
すなわち、先ず、実施例1で得られた板状リン酸ストロンチウム粉体0.136gと水酸化カルシウム(Ca(OH))粉末(和光純薬工業社製、商品名:「038−16295」を乳鉢で粉砕したもの、平均直径1μm以下、平均アスペクト比1.0)0.007gを配合し、これらの原料粉末にバインダー(トルエン+エタノール+ポリビニルブチラール)と可塑剤(フタル酸ジブチル)を加え、攪拌機で混合した。得られた混合物を手動ドクターブレードによりテープ形状に成形し、テープ形状の成形体(テープ状成形体)を得た。その後、テープ状成形体を室温で乾燥した。これにより、テープ状成形体は厚さが約200μmとなった。
得られたテープ状成形体をロールプレス機により、厚さ約140μmまで圧延した。
得られた圧延成形体を、酸素雰囲気中500℃で1時間加熱して脱脂し、室温で大気により水をバブリングすることにより、空気と水蒸気の気流中で1000℃で10時間加熱して一次熱処理を施した後、更に同じ空気と水蒸気の気流中で1400℃で2時間加熱して二次熱処理を施し、焼結体(結晶配向アパタイト)を得た。
(実施例9)
反応補完物質として水酸化カルシウム(Ca(OH))粉末に代えて水酸化ストロンチウム(Sr(OH))粉末(高純度化学研究所社製、商品名:「SRI06XB」を乳鉢で粉砕したもの、平均直径1μm以下、平均アスペクト比1.0)0.012gを用いた以外は、実施例7と同様にして焼結体(結晶配向アパタイト)を得た。
(比較例3)
等方性のリン酸ストロンチウム粒子(三津和化学薬品社製、商品名:「リン酸ストロンチウム粉末」)とフッ化ストロンチウム(SrF)粉末(シグマアルドリッチ社製「フッ化ストロンチウム」(品番:342203)を乳鉢で粉砕したもの、平均直径1μm以下、平均アスペクト比1.0)をSr(POF(ストロンチウムフルオロアパタイト)の化学量論比となるように秤量して比較用原料粉末を得た。次に、得られた比較用原料粉末を乳鉢に入れ、エタノール中で湿式混合により粉砕・混合した。次いで、大気中80℃で3時間乾燥した後、一軸プレスを用いて20MPaの条件でペレット化し比較用成形体を得た。次に、得られた比較用成形体を、200℃/時間で昇温し、1000℃で10時間加熱して一次熱処理を施した後、更に1500℃まで昇温し、大気中1500℃で2時間加熱して二次熱処理を施して比較用焼結体を得た。
なお、実施例5〜6及び比較例3の酸化物粒子準備工程において用いた板状リン酸化合物粉体の形状、熱処理条件として一次熱処理の温度(℃)及び時間(時間)、二次熱処理の温度(℃)及び時間(時間)を表2に示す。
<XRD解析>
実施例5〜6で得られた結晶配向アパタイトは、X線回折装置(リガク社製、商品名「Ultima IV」)を用いて結晶相の同定を行った。測定条件は、加速電圧40kV、電流40mAのCu−Kα線で2θ=10〜90°、スキャンスピード10°・min−1とした。得られた実施例5〜6の結晶配向アパタイトの結晶構造をX線回折(XRD:X−ray diffraction)の測定により確認した結果を図15に示す。図15に示した実施例5〜6により得られた結晶配向アパタイトのXRDスペクトルより、Sr(POF(ストロンチウムフルオロアパタイト)が得られていることが確認された。
また、実施例7で得られた結晶配向アパタイトについて、実施例5〜6と同様にしてX線回折装置を用いて結晶相の同定を行った。得られた実施例7の結晶配向アパタイトの結晶構造をX線回折の測定により確認した結果を図16に示す。図16に示した実施例7により得られた結晶配向アパタイトのXRDスペクトルより、ほぼ単相のSr(POF(ストロンチウムフルオロアパタイト)が得られていることが確認された。
更に、実施例8〜9で得られた結晶配向アパタイトについて、X線回折装置を用いて結晶相の同定を行った。測定条件は、スキャンスピードを1°・min−1とした以外は前記と同様とした。得られた実施例8〜9の結晶配向アパタイトの結晶構造をX線回折(XRD:X−ray diffraction)の測定により確認した結果を図17に示す。図17に示した実施例8〜9により得られた結晶配向アパタイトのXRDスペクトルより、Sr(PO(OH)(ストロンチウム水酸アパタイト)が得られていることが確認された。
なお、比較のために、比較例3で得られた比較用焼結体について、上記と同様にしてX線回折装置を用いて結晶相の同定を行った。なお、測定条件は、加速電圧40kV、電流40mAのCu−Kα線で2θ=10〜90°、スキャンスピード10°・min−1とした。得られた比較例3の比較用焼結体の結晶構造を上記と同様にしてX線回折の測定により確認した結果を図18に示す。
<焼結体の結晶配向度:March−Dollase関数の配向因子r値により算出>
実施例5〜9及び比較例3により得られた各焼結体のXRDプロファイルから、ストロンチウムフルオロアパタイト及びストロンチウム水酸アパタイトの配向度に関して、以下に示す式で選択配向ベクトル(0 0 1)の配向因子rの値を求めた。対象は2θ=10〜90°の範囲の全ピークである。
すなわち、先ず、前記XRD解析において測定した2θ=10〜90°の前記焼結体の各XRDスペクトルに対してRietveld法(リートベルト法)を用いた解析を行い、次いで、March−Dollase関数に準拠して測定される選択配向ベクトルの配向因子rの値を下記式(1):
(式(1)中、Kは反射の番号、jはKと等価な反射の番号、Pは反射Kに対する選択配向による重み付け関数、mは反射Kの多重度、rは配向因子、αは選択配向ベクトルとPにより補正する反射jの逆格子ベクトルの成す角度、を示す)を用いて算出し、この配向因子rの値を各焼結体の結晶配向度とした。なお、March−Dollase関数の配向因子rの値は、無配向の試料では1となる。また、適切な選択配向ベクトルを選択するとXRDの反射面の法線方向への特定の結晶方位の配向度が高いほど配向因子rの値は1より小さくなり、完全に配向した試料や単結晶では配向因子rの値は約ゼロ(0)となる(今回の測定系であるブラッグ・ブレンターノ光学系の場合)。解析には汎用ソフトRIETAN−FP(例えば、参考文献:F.Izumi and K.Momma、“Three−dimensional visualization in powder diffraction”、Solid State Phenom.、130、15−20(2007)に示される)を用いて、実施例5〜6はSrFAp(ストロンチウムフルオロアパタイト、Sr(POF)とα−TSP(α−リン酸ストロンチウム、α−Sr(PO)、実施例9はSrHAp(ストロンチウム水酸アパタイト、Sr(PO(OH))とα−TSP、比較例3はSrFApとSrOの各2相で解析を行い、実施例7はSrFAp(ストロンチウムフルオロアパタイト)で解析を行い、実施例8はSrHApとα−TSPとCaOの3相で解析を行った。フィッティング関数としては拡張分割pseudo−Voigt関数を用いた。解析に用いた結晶構造は、それぞれ国際結晶構造データベース(ICSD:International Crystal Structure Database)に収録されているSrFAp(ICSD番号95737)、SrHAp(ICSD番号2855)、α−TSP(ICSD番号15869)、SrO(ICSD番号28904)、CaO(ICSD番号90486)である。なお、解析では、ピークシフト因子、バックグランドパラメータ、及び各相の尺度因子、非対象パラメータ、減衰パラメータ、選択配向ベクトルの配向因子r、格子定数、原子位置を最適化した。選択配向ベクトルは、(0 0 1)、(1 0 0)、(1 1 0)、(1 0 1)、(1 1 1)、のうち1つ又は2つを選択した。
解析の結果、いずれのXRDスペクトルの解析結果も選択配向ベクトル(0 0 1)とした時に信頼度因子が最小となり、重み付けを行った信頼度因子RWPは全て12%以下であった。また、実施例8のSrHApの格子定数a及びcは、それぞれa=9.735、c=7.257で、ICSD番号2855に記載のSrHApの格子定数a=9.745、c=7.265と比べてそれぞれ0.1%ずつ小さかった。これは、CaがSrHApに固溶している可能性を示している。
実施例5〜9により得られた各焼結体のMarch−Dollase関数に準拠して測定される選択配向ベクトル(0 0 1)の配向因子rの値はいずれも1未満となり、c軸方向([0 0 1])に配向していた。なお、比較例3により得られた焼結体のMarch−Dollase関数に準拠して測定される選択配向ベクトル(0 0 1)の配向因子rの値は1.02であり、誤差範囲内で無配向であった。得られた結果を表2に示す。
なお、このような結晶配向アパタイトの配向度としては、March−Dollase関数に準拠して測定される選択配向ベクトル(0 0 1)の配向因子rの値が0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
<アパタイト転化率:Rietveld解析により算出>
実施例5〜9及び比較例3により得られた各焼結体のアパタイトへの転化率(アパタイト転化率)(%)を以下のようにして測定した。
すなわち、前記XRD解析において行ったRietveld解析結果としてのSrFAp(若しくはSrHAp)の尺度因子SSrFApとα−TSPの尺度因子Sα−TSPを用いて、アパタイトへの転化率(アパタイト転化率)(%)を下記式(2):
(式(2)中、SSrFApはSrFAp(若しくはSrHAp)の尺度因子、Sα−TSPはα−TSPの尺度因子、を示す)を用いて算出した。得られた結果を表2に示す。なお、比較例3については、α−TSPが含まれていなかったのでのアパタイト転化率を100%とした。
(実施例5〜9、比較例3の評価試験結果)
表2及び図15〜図18に示した実施例5〜9の結果と比較例3の結果との比較から明らかなように、実施例5〜9の本発明の板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法により得られた結晶配向アパタイトは、いずれも配向度が高い結晶配向アパタイトであることが確認された。
これに対して、比較例3により得られた比較用焼結体は、無配向であり、配向度が高い焼結体が得られなかったことが確認された。すなわち、図18に示した比較例3により得られた比較用焼結体のXRDスペクトルより、XRDは主相としてSr(POFが得られたがSrOのピークもあり、単相でなかったことが確認された。また、March−Dollase関数に準拠して測定される選択配向ベクトル(0 0 1)の配向因子rの値が1.02であり、無配向であることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、アスペクト比の平均値が5以上である異方形状性に優れた板状リン酸化合物の板状粒子とそれを含む板状リン酸化合物粉体、並びに配向度が高い結晶配向アパタイトを得ることが可能となる。
したがって、本発明の板状リン酸化合物粉体は、Sr(PO(OH)やCa(PO(OH)等の異方性水酸アパタイト[A(PO(OH)(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)]の製造に好適な前駆体又は種結晶として有用である。例えば、このような板状リン酸化合物粉体を前駆体又は種結晶として、エレクトレット、レーザー媒質、生体硬組織代替材料として利用が可能な、異方性を制御した結晶配向アパタイト型セラミックスを作製することができる。
また、本発明の結晶配向アパタイトの製造方法により得られる結晶配向アパタイトは、配向度が高い結晶配向アパタイトであるため、例えば、エレクトレット、レーザー媒質、生体硬組織代替材料等として有用である。

Claims (12)

  1. 一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることを特徴とする板状リン酸化合物粉体。
  2. 前記板状粒子の発達面の平均直径が5〜500μmであることを特徴とする請求項1に記載の板状リン酸化合物粉体。
  3. 前記リン酸化合物の板状粒子が、厚み方向がc軸方向となっている単結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載の板状リン酸化合物粉体。
  4. 前記リン酸化合物がSr(POであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の板状リン酸化合物粉体。
  5. 一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子であり、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上であることを特徴とする板状リン酸化合物粒子。
  6. 一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体の製造方法であって、
    平均粒径が1μm以下の一般式:AHPO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸水素化合物粒子を含む原料粉体を、水熱処理して前記板状リン酸化合物粉体を得る熱処理工程を含むことを特徴とする板状リン酸化合物粉体の製造方法。
  7. 前記熱処理工程の前に、アルカリ土類金属(A)の塩とリン酸塩とを含む水溶液を用いて沈殿法により生成した沈殿混合物を粉砕して前記原料粉体を得る原料粉体準備工程を更に含む、ことを特徴とする請求項6に記載の板状リン酸化合物粉体の製造方法。
  8. 前記アルカリ土類金属(A)の塩が酢酸ストロンチウムであり、前記リン酸塩がリン酸水素アンモニウムであり、前記リン酸水素化合物がSrHPOであり、かつ、前記リン酸化合物がSr(POであることを特徴とする請求項7に記載の板状リン酸化合物粉体の製造方法。
  9. 一般式:A(PO(式中、Aはアルカリ土類金属を示す。)で表わされるリン酸化合物の板状粒子を含み、かつ、前記板状粒子の発達面の直径を厚みで割った値(直径/厚み:アスペクト比)の平均値が5以上である板状リン酸化合物粉体と、前記板状粒子と反応してアパタイト型物質となる反応補完物質とを混合して混合物を得る混合工程と、
    前記混合物を成形して前記板状粒子の発達面が相互に略平行となるように配向した成形体を得る配向工程と、
    前記成形体を熱処理して前記板状粒子と前記反応補完物質とを反応せしめc軸が配向した結晶配向アパタイトを得る焼成工程と、
    を含むことを特徴とする結晶配向アパタイトの製造方法。
  10. 前記板状粒子がc軸に垂直な面が発達面となっているSr(POであることを特徴とする請求項9に記載の結晶配向アパタイトの製造方法。
  11. 前記反応補完物質がアルカリ土類金属のフッ化物又はアルカリ土類金属の水酸化物であることを特徴とする請求項9又は10に記載の結晶配向アパタイトの製造方法。
  12. 前記成形がせん断応力を印加する方法であることを特徴とする請求項9〜11のうちのいずれか1項に記載の結晶配向アパタイトの製造方法。
JP2015020187A 2014-06-03 2015-02-04 板状リン酸化合物粒子、それを含む板状リン酸化合物粉体、及び、板状リン酸化合物粉体の製造方法、並びに板状リン酸化合物粉体を用いた結晶配向アパタイトの製造方法 Pending JP2016011247A (ja)

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