JP2016010792A - 繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】多孔質中空糸膜モジュールの耐荷重性、耐疲労性を向上せしめることを可能とし、高流量の気体あるいは液体などの流体による多孔質中空糸膜の破断あるいは疲労による破断を抑制しうる多孔質中空糸膜の製造方法を提供する。
【解決手段】
円筒状組紐を二重環状紡糸ノズルの内側ノズル内を通過させ、二重環状紡糸ノズルの内側ノズルを通過した円筒状組紐の外表面に二重環状紡糸ノズルの外側ノズルから吐出させた製膜原液を塗布し、含浸させた後、凝固液中で凝固させ、乾燥することにより製造される繊維補強多孔質中空糸膜の製造方法において、
製膜原液としてリン酸トリエチルにポリフッ化ビニリデンが濃度16〜27重量%となるように溶解した溶液を用いるとともに、紡糸後に得られる中空糸状物を10〜90重量%の濃度のリン酸トリエチル水溶液からなる凝固液中で40〜120秒間凝固させる。
【選択図】図2

Description

本発明は、繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、浄水処理や下廃水処理等の処理膜として有効に用いられる繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法に関する。
近年、環境への関心が高まり、排水や浄水など水処理分野において水質の規制が厳しくなっている中、高分離性、省エネの面から分離膜、中でも中空状多孔質膜の研究開発、実用化が進められている。
膜ろ過による浄水処理や下廃水処理は、これまでの凝集沈殿のろ過方式と比較し、運転の維持や管理が容易であり、処理水質も良好であることから、膜ろ過は水処理分野で幅広く用いられている。ここで、近年の水資源確保の観点より、高強度で単位容積当りの膜面積が大きい多孔質中空糸膜モジュールが多く用いられている。例えば廃水処理の場合、一般的には単位容積当りの膜面積が50〜100m2の多孔質中空糸膜モジュールが用いられ、かかる膜モジュールに毎分数十リットルから数百リットルといった量の水が供給されることとなる。その場合、発生する荷重影響により、多孔質中空糸膜が破断するおそれがある。また、多孔質中空糸膜モジュールが工業用途に用いられる場合には、通常数年〜10年といった長期間にわたって使用されることから、疲労による多孔質中空糸膜の破断を回避する必要もある。
化学的安定性にすぐれた中空糸膜材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が用いられている。本出願人は先に、特許文献1において、中空糸膜材料としてPVDFを、またその溶媒、凝固浴(および芯液)に添加する溶媒としてリン酸トリエチルを用い、さらに溶媒の置換速度を遅らせることによってスキン層およびボイド層のない均質なPVDF多孔質膜を製造する方法を提案している。しかしながら、かかる製法では凝固速度が遅くなることにより、中空糸状に形成することが容易ではない場合があった。
物理的安定性については、例えば特許文献2にみられるように、円筒状組紐をポリアクリロニトリル多孔質膜壁中に存在させることにより高強度化を達成せんとしており、また特許文献3では、ポリエステル短繊維糸束等を充填した丸打ちのひもにポリフッ化ビニリデンで被覆することによりすぐれた耐圧性を達成している。しかるに、いずれの場合にも製膜原液の円筒状組紐への含浸不足が否めず、剥離強度が十分ではない場合があった。
さらに特許文献4には支持体である円筒状組紐の編み方を斜編から丸編にし、かつ編目の最大開口幅を0.05〜0.3mmとすることにより製膜原液の含浸割合を高めているが、それでもその割合は50%を超える程度であり、中空糸膜と支持体との結合力といった点で不十分である上、汎用の組紐は斜編の円筒状組紐であり、製品化においても斜編の円筒状組紐を用いることが製造過程の簡素化およびコストの面からみて有利である。
特許第3,261,761号公報 特開昭53−132478号公報 特開平5−7746号公報 特開2012−179603号公報
本発明の目的は、多孔質中空糸膜モジュールの耐荷重性、耐疲労性を向上せしめることを可能とし、高流量の気体あるいは液体などの流体による多孔質中空糸膜の破断あるいは疲労による破断を抑制しうる多孔質中空糸膜の製造方法を提供することにある。
かかる本発明の目的は、円筒状組紐を二重環状紡糸ノズルの内側ノズル内を通過させ、二重環状紡糸ノズルの内側ノズルを通過した円筒状組紐の外表面に二重環状紡糸ノズルの外側ノズルから吐出させた製膜原液を塗布し、含浸させた後、凝固液中で凝固させ、乾燥することにより製造される繊維補強多孔質中空糸膜の製造方法において、
製膜原液としてリン酸トリエチルにポリフッ化ビニリデンが濃度16〜27重量%となるように溶解した溶液を用いるとともに、紡糸後に得られる中空糸状物を10〜90重量%の濃度のリン酸トリエチル水溶液からなる凝固液中で40〜120秒間凝固させることによって達成される。
本発明に係る製造方法によって製造された繊維補強多孔質中空糸膜は、製膜原液として特定濃度のポリフッ化ビニリデンのリン酸トリエチル溶液を用い、かつ凝固液としてリン酸トリエチル水溶液を用い、紡糸後の凝固時間を40〜120秒間とすることにより、円筒状組紐内部空隙部の75%以上に製膜原液が含浸して凝固しているため、円筒状組紐に中空糸膜が強固に結合し、剥離強度が高く、継続的使用にも十分耐えうる高い機械的強度を有するといったすぐれた効果を奏する。また、円筒状組紐内部に中空糸膜製膜原液を含浸せしめた状態においても、製造される中空糸膜内部の孔径は大きく、均質であることから、高い透過特性も繊維補強が行われない多孔質膜と同様に遜色なく発揮しうる。
この中空糸膜は高い透過性能を有するとともに、水ろ過時のエアレーションに対し十分に耐え、また目詰まりしたろ過物質の除去が容易であり、モジュール形状がコンパクトな膜ロ過モジュールの形成を可能とする。
以上の効果は、円筒状組紐の編み方によらず、すなわち丸編みのみならず汎用の組紐である斜編のものについても同様であることから、製造過程の簡素化およびコストの面からみて有利な製造方法であるいえる。
実施例1で用いられたポリエステルスリーブの側面図である 実施例1で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の断面図である 実施例1で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜において、ポリフッ化ビニリデンのポリエステルスリーブ内部への浸透状態を示す図である 実施例1で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の表面三次元網目構造を示す図である 実施例1で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の断面均質構造を示す図である 実施例2で用いられたポリフェニレンサルファイドスリーブの側面図である 実施例2で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の断面図である 実施例2で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜において、ポリフッ化ビニリデンのポリエステルスリーブ内部への浸透状態を示す図である
本発明に係る繊維強化多孔質中空糸膜の製造方法は、円筒状組紐を二重環状紡糸ノズルの内側ノズル内を通過させ、二重環状紡糸ノズルの内側ノズルを通過した円筒状組紐の外表面に二重環状紡糸ノズルの外側ノズルから吐出させた製膜原液を塗布、含浸させた後、凝固液中で凝固させ、乾燥することにより製造される繊維補強多孔質中空糸膜の製造方法において、製膜原液としてリン酸トリエチル溶液にポリフッ化ビニリデンが濃度16〜27重量%となるように溶解した溶液を用いるとともに、紡糸後に得られる中空糸状物を10〜90重量%の濃度のリン酸トリエチル水溶液からなる凝固液中で40〜120秒間凝固させるのもであり、得られる繊維強化多孔質中空糸膜は、中空糸膜内部の孔径が大きく、均質であるとともに、円筒状組紐内部空隙部の75%以上に製膜原液が含浸して凝固しているため、円筒状組紐に中空糸膜が強固に結合し、剥離強度が高く、継続的使用にも十分耐えうる高い機械的強度を有する。
円筒状組紐としては、従来用いられている円筒状組紐であれば丸編、斜編などの編み方を問わず特に制限なく用いることができる。例えばモノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸などの筒状ネットが用いられ、具体的にはその厚みが0.15〜0.5mm、糸繊度200〜600デシテックス(dtex)、打数16〜48のポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、レーヨン、ビニロン、ポリアミド、ポリイミド、アラミドなどの有機繊維基材が挙げられ、好ましくはポリフェニレンサルファイド、ポリエステルが用いられる。
円筒状組紐の外周面には、多孔質中空糸膜形成用製膜原液の付着が行われる。製膜原液の円筒状組紐の外周面への付着は、二重環状紡糸ノズルの内側ノズル内を通過する円筒状組紐外表面に二重環状紡糸ノズルの外側ノズルから吐出させた製膜原液を塗布する方法、円筒状組紐を一定時間製膜原液の入っている容器中に浸せきする方法、円筒状組紐表面に製膜原液を連続的に噴霧、噴射する方法などが挙げられるが、好ましくは二重環状紡糸ノズルを用いて、その内側ノズル内を通過する円筒状組紐の外表面に製膜原液を塗布する方法が用いられる。ここで、円筒状組紐を二重環状紡糸ノズルの内側ノズルを通過させる際には、一般には円筒状組紐に対して4〜50N程度の張力がかけられる。
製膜原液としては、リン酸トリエチルにポリフッ化ビニリデンが濃度16〜27重量%、好ましくは18〜25重量%となるように溶解した溶液が用いられる。ポリフッ化ビニリデン濃度がこれより低くなると、膜孔径が大きくなりすぎるようになり、一方濃度がこれより高くなるとポリフッ化ビニリデンの溶解が困難になる。また、リン酸トリエチルへのポリフッ化ビニリデンの溶解は、好ましくは80〜110℃、さらに好ましくは90〜100℃で行われる。なお、リン酸トリエチル以外の溶媒、例えば後記比較例に示されるようにジメチルホルムアミド溶媒を用いた場合には、中空糸膜と円筒状組紐との十分な結合を達成することができない。
紡糸に際し、製膜原液の温度は20〜100℃、好ましくは25〜80℃、さらに好ましくは25〜60℃に設定される。具体的には、例えば製膜原液を二重環状紡糸ノズルへ供給するためのドープタンク、配管およびノズルの各温度が上記温度範囲内に調整されることにより行われる。
多孔質中空糸膜形成用製膜原液が付着された円筒状組紐は、好ましくは乾湿式紡糸法または湿式紡糸法により、凝固液を用いた凝固が行われ、洗浄、乾燥を経て繊維強化多孔質中空糸膜が形成される。
凝固は、凝固液中に40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間浸漬されることにより行われる。凝固時間がこれより短い場合には膜が凝固せず異形状となり、凝固時間をこれより長くした場合であっても製造時間が長くなるにとどまり、それ以上の効果が得られることはない。
凝固液としては、10〜90重量%、好ましくは60〜90重量%、さらに好ましくは70〜80重量%のリン酸トリエチル水溶液が用いられる。凝固液としてこれ以下の濃度のリン酸トリエチル水溶液が用いられた場合には、多孔質膜を得ることができない。
次に、実施例について本発明を説明する。
実施例1
ポリフッ化ビニリデン樹脂(クレハ製品KF-1550)100gをリン酸トリエチル400gに90℃で2時間攪拌することにより溶解させて製膜原液を調製した。次いで、図1に示される円筒状組紐であるポリエステルスリーブ(圓井繊維機械製品、外径1.0mm、内径0.6mm)を内管径1.5mmの二重環状紡糸ノズルの内側ノズル内を通過させ、二重環状紡糸ノズルの内側ノズルを通過した支持体に対して、その外表面に二重環状紡糸ノズルの外側ノズルからギアポンプを用いて圧送、吐出させた製膜原液を塗布し、含浸させ、80重量%リン酸トリエチル水溶液からなる凝固液中に押し出して90秒間凝固させた後、ボビンへの巻き取りが行われた。製膜に際して、ドープタンク、配管、ノズルの温度はいずれも25℃とされた。
得られたポリエステル繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜は、その孔径が2μmであり、引張強度は165N以上、透水量は100kPa下において940ml/cm2/時間であった。中空糸膜の断面図は図2に示される。図3に示されるように、ポリフッ化ビニリデンはポリエステルスリーブの厚みの100%まで浸透しており、ガムテープ接着試験において剥離は認められなかった。図4は電子顕微鏡を用いて繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の表面三次元網目構造を示したものであり、図5は繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の断面均質構造を示している。
また、得られた中空糸膜について、カオリン濃度8000mg/Lの汚泥ろ過試験が行われたところ、逆洗による初期性能への回復が確認された。具体的には、濃度8000mg/Lのカオリンについて、ろ過を9分間行ない、1分間静置するというサイクルを24サイクル行った後、逆洗Air 150kPa、1分間という条件下で試験を行ったところ、カオリン(汚泥)ろ過試験前に膜間差圧が13kPaであったものが、240分後の試験終了時には膜間差圧が45kPaとなったが、逆洗によって膜間差圧は再び初期性能である13kPaへと回復した。
実施例2
実施例1において、ポリエステルスリーブの代わりに、図6に示される円筒状組紐であるポリフェニレンサルファイドスリーブ(圓井繊維機械製品、外径1.0mm、内径0.6mm)が用いられた。得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜は、その孔径が2μmであり、引張強度は100N以上、透水量は100kPa下において800ml/cm2/時間であった。中空糸膜の断面図は図7に示される。図8に示されるように、ポリフッ化ビニリデンはポリフェニレンサルファイドスリーブの厚みの100%まで浸透しており、ガムテープ接着試験において剥離は認められなかった。
実施例1〜2で得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜を次亜塩素酸0.5重量%および水酸化ナトリウム5重量%を含む水溶液中に室温で100時間浸漬し、耐薬品性を破断強度および伸びの低下率により確認した。その結果、ポリエステル繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の破断強度低下率は10.3%、伸び低下率は20.7%であり、ポリフェニレンサルファイド繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の破断強度低下率は1.6%、伸び低下率は4.7%であった。ポリエステル繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜はコスト的に有利である一方、ポリフェニレンサルファイド繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜は耐塩素性にすぐれていることが確認された。
比較例
実施例1において、リン酸トリエチルの代わりにジメチルホルムアミド同量が用いられて製膜原液が調整され、また製膜原液が塗布されたポリエステルスリーブ(中空糸状物)は水凝固液に押し出して4秒間凝固させた後、ボビンへの巻き取りが行われた。
得られた繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜は、ポリエステルスリーブの厚みの20%程度しかポリフッ化ビニリデンが浸透しておらず、ガムテープを用いた接着試験において容易に大部分の剥離が認められた。
本発明に係る製造方法により製造された繊維補強ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜は、高い透過特性および機械的強度を有することから、排水、浄水などの水処理分野で有効に用いられる。

Claims (6)

  1. 円筒状組紐を二重環状紡糸ノズルの内側ノズル内を通過させ、二重環状紡糸ノズルの内側ノズルを通過した円筒状組紐の外表面に二重環状紡糸ノズルの外側ノズルから吐出させた製膜原液を塗布し、含浸させた後、凝固液中で凝固させ、乾燥することにより製造される繊維補強多孔質中空糸膜の製造方法において、
    製膜原液としてリン酸トリエチルにポリフッ化ビニリデンが濃度16〜27重量%となるように溶解した溶液を用いるとともに、紡糸後に得られる中空糸状物を10〜90重量%の濃度のリン酸トリエチル水溶液からなる凝固液中で40〜120秒間凝固させることを特徴とする繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法。
  2. リン酸トリエチルへのポリフッ化ビニリデンの溶解が80〜110℃で行われる請求項1記載の繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法。
  3. 製膜原液の温度を20〜100℃として紡糸が行われる請求項1記載の繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法。
  4. 円筒状組紐として、ポリエステルスリーブが用いられる請求項1記載の繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法。
  5. 円筒状組紐として、ポリフェニレンサルファイドスリーブが用いられる請求項1記載の繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜の製造方法。
  6. 請求項1〜5記載の製造方法により得られる繊維強化ポリフッ化ビニリデン多孔質中空糸膜。
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