JP2015516986A - 眼疾患の治療における使用のための抗体又はそのフラグメント - Google Patents

眼疾患の治療における使用のための抗体又はそのフラグメント Download PDF

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Abstract

眼疾患の治療に用いる抗体又はそのフラグメント。本発明は、網膜疾患、特にあらゆる病因の血液網膜関門の変化又は障害などの機能障害となる外部血液網膜関門の機能不全で発症する網膜疾患の治療及び/又は予防に用いる抗体を提供する。その抗体が存在する製薬学的及び獣医学的組成物も開示されている。組成物は、広範囲の眼疾患に適用してもよい。

Description

本発明は、部分的又は全体的な失明につながる眼疾患のための医療的アプローチの分野に関する。本発明は、抗体又はそのフラグメントを含む医薬品に適用される有用なツールを提供する。
加齢黄斑変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫及びその他の遺伝性網膜変性、ブドウ膜炎、網膜剥離、及び眼癌を含む、網膜に影響を与える疾患(網膜疾患)がいくつかある。網膜は、眼の光感応部分であり、特殊な光受容体細胞、杆体錐体を含む複雑な組織である。光受容体は、視覚的な画像を得るため、脳に送られる視覚情報の部分的処理のための神経細胞のネットワークに接続する。杆体は、大部分が網膜周辺部における眼球の中心から離れて位置している。錐体の最高濃度は、視力に必要である網膜の中心、黄斑でみられる。
脈絡膜は網膜の下に位置している。網膜色素上皮(RPE)は、神経網膜と脈絡膜の間に位置する色素性細胞の単層である。RPEは、網膜視細胞に栄養を与える、神経感覚網膜のちょうど外側にある色素細胞層である。RPE細胞は、感光性網膜を保護、維持し、栄養を与える。これらRPE細胞の機能障害、破壊及び/又は損失は、失明の発現において決定的な役割を果たしている。このように、外傷性イベント又は外傷性疾患の結果として、RPE細胞は、多くの場合、退化又は損傷を受ける最初の細胞である。
網膜疾患の多くで非常に重要であるもう一つの眼の構造は、血液網膜関門(BRB)であり、ヘマト網膜関門とも呼ばれる。BRBは、内側血液網膜関門及び外側血液網膜関門によって構成されている。内側血液網膜関門は内皮細胞の密着結合によって形成される。外側血液網膜関門は、RPEによって構成され、その細胞はまた、密着結合によって接続されている。RPE細胞間の密着結合は、網膜に任意の有害物質が近づかないためだけでなく、BRBを介して液体及び可溶性化合物の輸送を制御するためにも不可欠である。したがって、RPEは網膜完全性を確保する外側血液網膜関門の主要成分である。外側BRBの障害が原因で網膜浮腫が生じてしまう、2つの最も頻発する網膜疾患は、糖尿病性黄斑浮腫及び加齢性黄斑変性症である。更に、BRBの変化は、例えば、ブドウ膜炎、外傷、眼内手術、血管網膜症、遺伝性ジストロフィーなどの眼の様々な状況でも発生する(Cunha-Vaz ら、“The Blood-Retinal Barrier in Retinal Disease”, European Ophthalmic Review -2009, Vol. No. 3, pp.:105-108)。
網膜疾患の多くの原因を識別するためのいくつかのアプローチが行われてきた。そのうちの一つは、硝子体液のプロテオミクス解析のパフォーマンスに基づいている。硝子体液は、ヒト及び他の脊椎動物の眼球のレンズと網膜との間の空間を満たす透明なゲルである。それはしばしば硝子体又は単に「ガラス質」と呼ばれる。
硝子体の示差ゲル電気泳動によるプロテオミクス解析は、増殖性糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫などの他の眼病変におけるプロテオームの特性評価に適用されてきた。この例としては、Ramirez ら、"Proteomic Analysis of Human Vitreous Fluid by DIGE: a New Strategy for Identifying Potential Candidates in the Pathogenesis of Proliferative Diabetic Retinopathy", Diabetologia 2007, Vol. 50, pp.:1294-1303;Gao ら、"Characterization of Vitreous Proteome in Diabetes without Diabetic Retinopathy and Diabetes with Proliferative Diabetic Retinopahty", Journal of Proteome Research - 2008, vol. 7, pp. 2516-2525;及びHernandez ら "New pathogenic candidates for diabetic macular edema detected by proteomic analysis", Diabetes Care 2010; 33:e92.において見られる。
今日では、網膜に影響を及ぼす疾患の治療の大部分は、その発症を阻止又は予防するのではなく、疾患の進行した段階で実施される。したがって、黄斑浮腫の特定の場合において、又はいくつかの網膜症(増殖性又は非増殖性糖尿病性網膜症)においては、治療は通常、レーザー光凝固術、硝子体切除術及びコルチコステロイド硝子体内注射に基づいている。これら全ての治療は、これらの疾患の末期において奨励されている。つまり、有効な初期治療法はない。 その上、それらは多くの副作用(疼痛、炎症、出血など)が示唆され、高い割合で障害がさらに認められている。
これら全ての疾患の大きな影響は、それらが失明につながるか、又は視覚の変化により人が正常な生活をすることを妨げるだけでなく、一般的に、糖尿病(特に2型)、及び加齢性黄斑変性症(AMD)などの高度に蔓延している障害と関連があるため、留意に値する。このように、流行性の高い疾患との関連は、社会において一般的に存在するこれら全ての網膜疾患が、結果として保健機関にとっての課題となっていることを示している。
他の治療アプローチは、血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害することができる、抗体ラニビズマブ(商品名ルセンティス)などの化合物の注射に基づいており、これは、加齢性の失明でよくみられる「ウェット」(滲出性又は血管新生としても知られている)型の加齢性黄斑変性症(AMD)を治療するために承認されている。抗体は硝子体内に月に一度注入される。臨床試験において、この治療に関連する最も一般的な副作用は、結膜出血、眼痛、飛蚊症、眼圧上昇、眼内炎症であった。
したがって、網膜が影響される全ての疾患、特にRPE及びBRBに障害を来すこれらの疾患に対しては、追加の治療的アプローチが必要である。
国際公開第2008087049号 KR100792630 国際公開第2008141285号 JP2002220349
Cunha-Vazら、"The Blood-Retinal Barrier in Retinal Disease", European Ophthalmic Review -2009, Vol. No. 3, pp.:105-108 Ramirezら、"Proteomic Analysis of Human Vitreous Fluid by DIGE: a New Strategy for Identifying Potential Candidates in the Pathogenesis of Proliferative Diabetic Retinopathy", Diabetologia 2007, Vol. 50, pp.:1294-1303。 Gaoら、"Characterization of Vitreous Proteome in Diabetes without Diabetic Retinopathy and Diabetes with Proliferative Diabetic Retinopahty", Journal of Proteome Research - 2008, vol. 7, pp. 2516-2525。 Hernandezら "New pathogenic candidates for diabetic macular edema detected by proteomic analysis", Diabetes Care 2010; 33:e92。 Garcia-Ramirez Mら、"Measuring Permeability in Human Retinal Epithelial Cells (ARPE-19). Implications for the Study of Diabetic Retinopathy". Methods Mol Biol- 2011; Vol. No. 763, pp.:179-94。 Cunha-Vazら "Blood-retinal barrier", Eur J Ophthalmol- 2011, Vol. No. 21(S6), pp.:3-9。 Tongら、"Association of macular involvement with proliferative retinopathy in Type 2 diabetes". Diabet Med-2001, Vol. No. 18, pp.:388-94。
網膜又は網膜疾患に影響を与える疾患を治療するための更なる治療的アプローチを求める問題に直面して、本発明者らは、これらの病理、ヘモペキシンに関与する重要な化合物の阻害に基づく新しい方法を提供する。
したがって、第1の態様において、本発明は、あらゆる病因の血液網膜関門の変化又は障害などの機能障害となる外側血液網膜関門の機能不全が存在する網膜疾患の治療及び/又は予防に用いる、ヘモペキシンに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントに関する。したがって、抗体又はそのフラグメントは、外部血液網膜関門の機能不全を引き起こす、あらゆる病因の血液網膜関門の変化又は障害などの機能障害となる網膜疾患の治療及び/又は予防に用いる。
本発明の第一の態様は、あらゆる病因の血液網膜関門の変化又は障害などの機能障害となる外血管網膜関門の機能不全(又は同様の障害、機能不全を引き起こす障害)が存在する網膜疾患を治療及び/又は予防するための方法として代替的に調合することができ、その方法は、抗体又はそのフラグメントを必要とする被験者のヘモペキシンに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントを投与することを含む。この態様は、あらゆる病因の血液網膜関門の変化又は障害などの機能障害となる外血管網膜関門の機能不全が存在する網膜疾患の治療及び/又は予防用の薬剤製造のため、ヘモペキシンに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントの使用として代替的に調合しうる。
ベータ−1β糖タンパク質としても知られるヘモペキシン(HPX)はHPX遺伝子によってコードされるタンパク質であり、タンパク質のヘモペキシンファミリーに属する。ヒトのHPX遺伝子は第11染色体に位置し、GenBankエントリー3263に相当する。ヒトの翻訳されたタンパク質は462個のアミノ酸を有し、かつ配列番号:1に相当する。また、1996年10月1日のバージョン2のUniProt/SwissProtよりP02790として同定した。
ヘモペキシンは、任意の既知のタンパク質の中で最も高い親和性を有するヘム基と結合する。その生理学的機能は、ヘモグロビンのようなヘムタンパク質のターンオーバーによって放出されるか、又は失われたヘム基を捕捉しているため、それは、遊離ヘムが引き起こす可能性がある酸化的損傷から身体を保護する。 また、ヘモペキシンは、肝細胞の表面上に位置する特異的受容体と相互作用する際に内在化するための結合リガンドを放出する。ヘモペキシンのこの機能は、身体の鉄分を保存することである。ヘモペキシンは、基本的には肝臓で合成されるが、合成の証拠は、脳及び網膜に存在する。
従来の技術において、ヘモペキシンは、国際公開第2008087049号に示すように、急性心不全のバイオマーカーとして、KR100792630及び国際公開第2008141285号によれば、糖尿病性腎症のためのバイオマーカーとして、JP2002220349によれば、白血病における治療試験のバイオマーカーとして使用されてきた。
驚くべきことに、下記実施例において例示されるように、ヘモペキシンは、RPEを破壊しうる。この事実に基づき、これにより提供される抗体又はそのフラグメントは、いくつかのヘモペキシンエピトープと特異的に結合し、網膜に位置する受容体とヘモペキシンとの相互作用を阻害しうる。これらの抗体の全ては、RPEの破壊を防止、又は外(又は外部)BRBの一部を形成している破壊されたRPEの復元を可能にする。
図1は、ARPE−19細胞の単層の共焦点顕微鏡で撮影したタイトジャンクションタンパク質ZO−1(細胞間の灰色の線)を示す免疫蛍光像である。核(DAPI染色;ほとんど球状の集合体として示される)は、(顕微鏡で可視化した場合、本来は青色)ライトグレー凝集体として認識されている。Cは対照を意味する;HPXはヘモペキシン治療後の細胞単層を意味する;HPX+抗体D17は、ヘモペキシン、さらにヤギ抗ヒトヘモペキシン抗体による治療を意味する;HX+抗体H−300は、ヘモペキシン、さらにウサギ抗ヒトヘモペキシン抗体による治療を意味する;そしてHX+Ab013は、ヘモペキシン、さらにマウス抗ヒトヘモペキシン抗体による治療を意味する。
図2は、異なる外部条件のARPE−19細胞のデキストラン透過性を示す棒グラフである。略語の意味は、図1と同じである。3M及び180Mは、それぞれ、3分、180分を意味する。
以下の定義は、本発明の理解を容易にするために含まれている。
本発明の文脈において、「エピトープ」は、ペプチドタイプの高分子(又は抗原)の一部であって、その配列及び/又は空間的配置が免疫系(抗体、T細胞、B細胞)によって認識されるものを意味すると理解される。
「抗体フラグメント」は、ヘモペキシンに存在するエピトープに特異的に結合するのに十分な大きさがあり、適切な構造である抗体の部分をいう。フラグメントの例としては、あるF(ab)、F(ab’)及びFvが含まれる。
用語「網膜疾患」は、網膜が多種多様な病因に影響されている任意の疾患を意味する。
「外側血液網膜関門の機能不全で発症する」又は「外側血液網膜関門の機能不全が存在する」網膜疾患は、任意の病因により外側血液網膜関門の変化又は障害がある全ての網膜疾患を含む (Cunha-Vaz ら“Blood-retinal barrier”、Eur J Ophthalmol-2011, Vol. No.21(S6), pp.:3-9)。これらの網膜疾患は、そのような網膜浮腫に至る外側血液網膜関門の障害に起因する可能性がある。実際、外側血液網膜関門の機能障害(変化又は障害)は、この関門の透過性の増大をもたらす。好ましい実施形態では、外側血液網膜関門の機能不全で発症する網膜疾患、又は結果として網膜浮腫に至らせる外側血液網膜関門の障害に起因する同様の網膜疾患は、加齢黄斑変性、黄斑浮腫、網膜色素変性症、及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される。全てのこれらの疾患は、外側血液網膜関門、即ちRPEによって構成される層がいくつかの原因のために破壊されているという共通の特徴を共有している。この病理学的状態は、視界に黒い斑点があり、明瞭ではなく、視力が低下又は全くないとして認識される障害をもたらす。
したがって、特定の実施態様において、本発明により、ヘモペキシンに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントは、加齢黄斑変性、黄斑浮腫、網膜色素変性症、及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される網膜疾患の治療及び/又は予防に用いる。
したがって、本発明は、網膜疾患の治療及び/又は予防に用いる、ヘモペキシンに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントにも関する。
液体及びタンパク質の堆積物が眼の黄斑(網膜の黄色の中心領域)の上又は下に集まり、それが厚くなり膨れるとき、黄斑浮腫が発症する。これは、一般的にはBRBの破壊に起因している。黄斑が眼球の奥の網膜中心付近にあるので、その腫れは、その人の中心視力を歪める可能性がある。この領域は、錐体細胞が密に分布しており、人が視線を直接向ける方向の詳細、形、色を見るのを可能にするための鋭くはっきりした中心視力を提供している。黄斑浮腫は、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、又はびまん性黄斑浮腫に分類される。
糖尿病性網膜症(DR)は、先進国の生産年齢人口における失明の主な原因である。増殖性糖尿病網膜症(PDR)が、1型糖尿病における最も一般的な視力に影響を及ぼす病変であるのに対し、糖尿病性黄斑浮腫(DME)は、2型糖尿病における視力低下の主な原因である。2型糖尿病の高い有病率のため、DMEは、糖尿病患者における視力障害の主な原因である。大集団ベースの研究において、10年間のDMEの発生率は、2型糖尿病患者のほぼ40%であったのに対し、1型糖尿病患者ではこの率は20%であった (Tong ら、“Association of macular involvement with proliferative retinopathy in Type 2 diabetes”Diabet Med-2001, Vol. No.18, pp.:388-94)。また、PDRが2型糖尿病患者において検出された場合、DMEはほとんど常に存在している。BRBの破壊による血管漏出は、DMEの病因に関与する主なイベントであるのに対し、重度の低酸素症に起因する血管新生はPDRの特徴である。
加齢性黄斑変性症(AMD)は、通常、高齢者に影響を与え、網膜への損傷により視野中心部(黄斑)で視力の低下をもたらす疾患である。黄斑変性は、他の日常生活ができる十分な周辺視野が残っていても、読んだり、顔を認識したりすることを困難にするか、又は不可能にしうる。高齢者のうち視力低下の主な原因は、黄斑変性症であり、その徴候は50歳以降に現れる。西洋で報告されているように、それは54歳未満の人において8.5%、75歳を超える人では37%の有病率であり、永久的な視力喪失の主要な原因となっている。AMDは、読むこと、又は運転することに必要な、明瞭な中心の視野を担う網膜の一部である黄斑が変性することで発生する。それは、ドライ(非新生血管)又はウエット(新生血管)のいずれかとして診断される。新生血管とは、それらが存在すると想定していない黄斑において新たな血管が成長することを意味する。診断された患者の約85〜90%はドライ型であり、ウェット型よりも一般的である。通常、滲出型の疾患は更に深刻な視力低下につながる。
網膜色素変性症(RP)は、網膜に影響を与え、桿体及び錐体の漸進的な破壊によって特徴づけられ、進行性の視力低下及び、おそらくは失明に至る遺伝性疾患のグループを指定する。通常、桿体細胞は最初に悪化し、夜盲症及び視野狭窄を引き起こす。疾患の後期には中心視力の喪失が発症する場合がある。その進行の速度は変化する。現在までに、網膜の変性を食い止めるか、又は疾患を治癒する方法は知られていない。
それらは外側血液網膜関門の一部を形成する網膜色素上皮の変化を妨げるか又は最小限に抑えることができるので、抗体又はそのフラグメントは、本発明の態様に言及されるこれら全ての疾患の治療に有用である。
好ましい実施態様において、本発明の態様に言及されている、抗体又はそのフラグメントは、哺乳動物ヘモペキシン、より好ましくはヒトヘモペキシンに特異的に結合する。好ましい実施態様において、抗体又はそのフラグメントが配列番号1のヒトヘモペキシンに結合する。好ましい実施態様において、抗体又はそのフラグメントは、配列番号1のアミノ酸50〜100によって定義されたヒトヘモペキシンのエピトープである配列番号2に特異的に結合する。別の好ましい実施態様において、第1及び第2の態様に言及されている、配列番号1のアミノ酸163〜462によって定義されたヒトヘモペキシンのエピトープである抗体又はそのフラグメントは、特異的に配列番号3に結合する。
更に別の好ましい実施態様において、抗体又はそのフラグメントはポリクローナル抗体である。
また別の好ましい実施態様では、抗体又はそのフラグメントはモノクローナル抗体である。
上記で定義した使用のために、特異的にヘモペキシンに結合する抗体又はそのフラグメントは、薬学的及び/又は獣医用組成物の一部又は成分であってもよい。
好ましい実施態様においては、上記で定義した使用のために、特異的にヘモペキシンに結合する抗体又はそのフラグメントは、局所用薬学的及び/又は獣医学的組成物の一部又は成分である。最も好ましくは、抗体又はそのフラグメントは、眼投与のための液体製剤(点眼薬)、又は軟膏などの局所用組成物の一部又は成分である。
あるいは、上記で定義した使用のために、特異的にヘモペキシンに結合する抗体又はそのフラグメントは、注射用溶液又は懸濁液、好ましくは、硝子体内注射用の液体(懸濁液又は溶液)の一部又は成分であってもよい。またあるいは、抗体又はそのフラグメントは、錠剤、丸剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、シロップ剤、凍結乾燥粉末、液状製剤などの形態で経口投与可能な薬学的及び/又は獣医学的組成物の一部であってもよい。賦形剤の選択及び製剤のための最も適切な方法は、組成物(局所用、注射用又は経口投与)の特定の目的を考慮すると、製薬技術分野の当業者の通常の範囲内である。
例えば、点眼液を製剤化しなければならない場合、それらは液滴及び溶液と等張でなければならず、懸濁液又は軟膏は、緩衝剤として0.7%〜0.9%w/wの濃度の塩化ナトリウム又はリン酸二ナトリウムなどの塩、ポリビニルアルコールなどの防腐剤、及び眼の耐久性を確保する増粘剤を含む。増粘剤の例としては、とりわけメチルセルロース誘導体(即ちメチルセルロース)が挙げられる。一方、抗体又はそのフラグメントは、注射用組成物の一部を形成する場合、例えば、硝子体内注射のために、注射用の水、トゥイーン20、トレハロース三水和物及びリン酸二ナトリウム、又はアミノ酸の塩(例えば塩ヒスチジン)などの緩衝剤を含む。
本発明の別の態様は、2つ以上の特異的にヘモペキシンに結合する抗体又はそのフラグメントを含む薬学的及び/又は獣医学的組成物を含む。薬学的及び/又は/獣医学的組成物は、好ましくは、特異的にヘモペキシンに結合する2つ以上の抗体又はフラグメント、異なるヘモペキシンのエピトープ、又は異なる感度と特異性を有する同じエピトープに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントを含む。これはまた、網膜疾患、特に外側血液網膜関門の機能不全を引き起こす網膜疾患の治療及び/又は予防において薬学的に許容される任意の賦形剤及び/又は担体と共に使用する、特異的にヘモペキシンに結合する有効量の抗体又はそのフラグメントを含む薬学的及び/又は獣医組成物として製剤しうる。
好ましい実施態様において、本発明は、網膜疾患、特に外側血液網膜関門の機能不全を引き起こす網膜疾患の治療及び/又は予防において薬学的又は獣医学的に許容される適切な量を持つ賦形剤と共に使用する、少なくとも有効量の、特異的に配列番号1のヒトヘモペキシンに結合する抗体又はそのフラグメントを含む薬学的及び/又は獣医学的組成物を提供する。
最も好ましい実施形態では、薬学的及び/又は獣医学的組成物は、特異的に配列番号2に結合する抗体又はそのフラグメント、及び/又は特異的に配列番号1に結合する抗体又はそのフラグメント、及び/又は、特異的に配列番号1のヒトヘモペキシンの任意のエピトープに結合するその他の抗体又はそのフラグメントを含む。
配列番号2は、配列番号1のアミノ酸50〜100によって定義されたヒトヘモペキシンに相当する。
配列番号3は、配列番号1のアミノ酸163〜462によって定義されたヒトヘモペキシンに相当する。
また、好ましいのは、特異的に配列番号2に結合する抗体又はそのフラグメント、及び薬学的又は獣医学的に許容される適切な量の賦形剤からなる医薬品及び/又は獣医学的組成物である。他に好ましいのは、特異的に配列番号3に結合する抗体又はそのフラグメント及び薬学的又は獣医学的に許容される適切な量の賦形剤からなる薬学的及び/又は獣医学的組成物である。
また別の好ましい実施形態は、特異的に配列番号2に結合する抗体又はそのフラグメント、特異的に配列番号3に結合する抗体又はそのフラグメント、及び薬学的又は獣医学的に許容される適切な量の賦形剤からなる薬学的及び/又は獣医学的組成物である。別の好ましい実施形態は、特異的に配列番号2に結合する抗体又はそのフラグメント、特異的に配列番号3に結合する抗体又はそのフラグメント、特異的に配列番号1のヒトヘモペキシンの配列に結合する抗体又はそのフラグメント、配列番号2及び配列番号3とは異なる配列、及び薬学的に又は獣医学的に許容される適切な量の賦形剤からなる医薬品及び/又は獣医用組成物である。
この点において、本発明に従って使用する薬学的及び/又は獣医組成物は、特に局所投与、最も好ましくは、点眼薬として適用される液体製剤(溶液、懸濁液)の形態で、又は眼にも適用可能な軟膏又はクリームの形態での眼局所投与を含むいくつかの手段によって投与されるように調製されてもよい。
したがって、本発明の好ましい実施形態では、薬学的及び獣医学的組成物は、局所用組成物である。より好ましい実施態様において、局所用組成物は、液体製剤(点眼剤)、又は軟膏などの眼投与用の局所用組成物である。
局所投与が好ましいが、他の形態では、注射又は経口投与などが可能である。したがって、有効量の抗体(単数又は複数)又はそのフラグメント(単数又は複数)を含む組成物注射用溶液又は懸濁液、好ましくは、硝子体内注射用液体(懸濁液又は溶液)として投与されうる。またあるいは、組成物は、錠剤、丸剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、シロップ剤、凍結乾燥粉末、液状製剤などの形態で経口投与されうる。賦形剤の選択及び製剤のための最も適切な方法は、組成物(局所用、注射用又は経口投与)の特定の目的を考慮すると、製薬技術分野の当業者の通常の範囲内である。
用語「薬学的に許容される」とは、本明細書においては、妥当な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に対応して、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答又は他の問題もしくは合併症を伴うことなく被験者(例えば、ヒト)の組織と接触して使用されるのに適した化合物、物質、組成物及び/又は剤形を示すために用いられる。各担体、賦形剤などは、製剤の他の成分と適合するという意味で「許容可能」でなければならない。適切な担体、賦形剤は、標準的な薬学の教科書において見出すことができ、一例として、防腐剤の粘着剤、保湿剤、皮膚軟化剤、及び抗酸化剤が含まれる。同様に、用語「獣医学的に許容される」は、非ヒト動物の組織と接触させて使用するのに適していることを意味する。
本明細書で使用する用語「有効量」とは、所望の恩恵(疾患の治療又は予防のいずれか)を提供するのに十分に高いが、医学的判断の範囲内で重篤な副作用を回避するのに十分に低い活性剤(抗体又はそのフラグメント)の量を意味する。
明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、単語「含む(comprise)」とその単語の変形は、他の技術的特徴、添加物、成分、又は工程を排除することを意図するものではない。更に、単語「含む」及びその変形は、用語「からなる」を包含する。本発明の更なる目的、利点及び特徴は、明細書の検討により当業者に明らかとなるか、又は本発明の実施によって知ることができる。以下の実施例及び図面は例示として提供されており、これらは本発明を限定することを意図するものではない。更に、本発明は、本明細書に記載の特定の好適な実施態様の全ての可能な組合せを包含する。
実施例1:ヘモペキシンは、外部血液網膜関門を破壊する。
外部血液網膜関門の障害による(又はその機能不全で発症する)網膜疾患、すなわちRPEの変化を伴ったものの治療及び/又は予防に用いる抗体又はそのフラグメントの効果を説明するために、本発明者らは、RPEの自然発生的に不死化した細胞株である細胞株ARPE−19(ATCC、マナッサス、バージニア州)を用いて透過性アッセイを開発した。培養物を75cmのボトル内で37℃、CO(5%)、10%のウシ胎仔血清(SBF、Hyclone、Cultek、バルセロナ、スペイン)を補充した標準培地(DMEM Ham’s F−12)で維持した。ストレプトマイシン(100mg/ml)及びペニシリン(100U/ml)を防腐剤として添加した。グルコース濃度は、25mMで調整した。培地は3日毎に交換した。20継代からのARPE−19細胞を透過性試験のために使用した。
RPEを含む外側BRBの透過性については、Garcia-Ramirez M ら“Measuring Permeability in Human Retinal Epithelial Cells (ARPE-19): implications for the Study of Diabetic Retinopathy”, Methods Mol Biol- 2011; Vol. No. 763, pp.:179-94によって開示された方法に従って分析した。
簡単に述べると、表面が0.33cmのポリスチレンインサート(HTS−Transwells; Costar; Corning Inc、ニューヨーク州、米国)内で80.000細胞/ウェルのRPEを示したARPE−19細胞を、400.000細胞/mlの密度で播種した。この密度で、3日ごとに培地を交換しながら、15日間培養し、細胞は単層を形成した。一日に15の異なる処理(4回の反復/処理)を、ウェルの頂端部を介して適用した:
ヘモペキシンによる処理
先端部におけるインサートの頂端媒体を血清欠乏培地(1%のウシ胎児血清BFS)で置き換え、血漿ヘモペキシン(50g/mL、SIGMA、マドリード、スペイン)を添加した。15時間後に、100μg/mLで、蛍光デキストラン(10kDa;SIGMA、マドリード、スペイン)を添加した。その後、インサートの基底部における培地200μLを30分間隔で取り出し、新鮮な培地に置き換えた。吸光度は、SpectraMax Gemini(Molecular Devices、サニーベール、カリフォルニア州)の分光光度計で485nmの励起波長及び528nmの発光波長で測定した。デキストラン濃度は、蛍光の標準曲線からの外挿により決定した。
配列番号1の抗体抗ヒトヘモペキシンによる処理。
抗体を用いた処理のために、ヘモペキシン(50μg/mL)を含む培地をタブの中で調製し、必要とされる抽出物濃度の抗体(0.75μg/mL)を溶液に加えた。その後、溶液は短時間ボルテックスされ、37oCで1時間インキュベートされた。
抗体は以下の通りであった:ヤギ抗ヒトヘモペキシン抗体Ab D17(HPX+AB D17の処理)(Santa Cruz Biotechnology, Inc、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国);ウサギ抗ヒトヘモペキシン抗体Ab H−300(HPX+AB H−300の処理)(Santa Cruz Biotechnology, Inc、サンタクルーズ、カリフォルニア州、米国); 及びマウス抗ヒトヘモペキシンAb 013(HPX+AB 013の処理)(Santa Cruz Biotechnology, Inc、サンタクルーズ、CA、USA)。
ヤギ抗ヒトヘモペキシン抗体Ab D17は、配列番号2に特異的に結合するポリクローナル抗体であり、配列番号1のアミノ酸50〜100によって定義されるヒトヘモペキシンのエピトープである。
ウサギ抗ヒトヘモペキシン抗体Ab H−300は、配列番号3に特異的に結合するポリクローナル抗体であり、配列番号2のアミノ酸163〜462によって定義されるヒトヘモペキシンのエピトープである。
マウス抗ヒトヘモペキシンAb 013は、ヒト由来の完全長天然ヘモペキシンに対するモノクローナル抗体である。
図2は、ヘモペキシン(HPX)及び抗体での処理のインサート基部から(処理の添加から3分又は180分の時点で)取り除いた培地200μLの中で、検出可能な蛍光デキストランとして測定されたARPE−19細胞のデキストラン透過性を示している。HPXの棒の高さから推定されるように、ヘモペキシンでの処理は、重要な透過性の増加をもたらし、その増加は、ヘモペキシンが異なる抗体で中和した場合に防止される。
一方で、ARPE−19単層の免疫組織化学的分析を行った。細胞は、HPX、又はHPX及び上記抗体の一つに作用させた。
抗体での処理については、欠乏培地(DMEN Ham’s F−12 SBF 1%)中でヘモペキシンの溶液50g/mLをエッペンドルフチューブ中で調製した。さらに、抗体を含む溶液も添加した。溶液をボルテックスし、37oCで1時間インキュベートした。
このアッセイのため、ARPE−19細胞単層(Thermo scientific、Menzel−Glaser;ブラウンシュヴァイク、ドイツ)を、15日間、結晶上に成長させたヘモペキシン抗体で処理し、次いで10分間冷却メタノール(−20℃)で固定し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、その後、ブロックし、PBS及び0.05%のツイーン中で、ウシ血清アルブミン(2%)で(4oCで)一晩透過処理を行った。さらに、それらは、一次抗体マウス抗ヒトZO−1(zona occludens−1;1:200、Zymed Laboratories Inc、サンフランシスコ、カリフォルニア州)で1時間インキュベートした。二次抗体として、Alexa594抗マウス(1:200、Invitrogen、サンディエゴ、カリフォルニア州)を1時間使用した。
調製物は、核(Vector Laboratories;バーリンゲーム、カリフォルニア州)を染色するために、4’、6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を含む蛍光封入剤(Vector Laboratories;バーリンゲーム、カリフォルニア州)でマウントした後、スペクトル共焦点顕微鏡FV1000(オリンパス、ハンブルグ、ドイツ)で可視化した。元々の画像は(60倍で)液浸顕微鏡対物レンズで撮影された。
このアッセイの結果は、図1において見ることができる。コントロール(C、無処理)は、組織化された細胞を示し、一方でヘモペキシン(HPX)による処理では、乱された組織の単層を見ることができる。組織の乱れの防止は、抗体、抗ヒトヘモペキシンによって達成される。
これら全てのデータはいずれも、驚くべくことに、ヘモペキシンに対して産生された抗体は、網膜色素上皮のモデルの破壊を防ぎ、その結果、網膜疾患、特に、網膜色素上皮の変化を引き起こす、より一般的には、外側血液網膜関門の機能不全を引き起こす、あらゆる病因又は原因の血液網膜関門の変化又は障害などの機能障害となる網膜疾患を治療することができることを結論付けることを可能にする。
加えて、発明者らは、このプロセスに関与する作用機序をより詳細に調査することを目的とし、細胞間組合(タイトジャンクション)がある場合、組織の乱れを引き起こすような、RPEの組織を乱しうる物質としてのヘモペキシンの役割の証拠を本明細書に提供してきた。外側血液網膜関門の主な構成要素の一つが組織の乱れを起こせば、透過性の亢進を引き起こすなど、関門全体に機能的な影響を及ぼす。関門の透過性が増加すると、栄養素などの、血液網膜関門を通る液体及び可溶性化合物の輸送が変化したコントロールから生じる深刻な問題につながる。更に、関門の障害は、網膜を毒性化合物に近づきやすくさせる。
本発明で提案する実施態様は、単独で又は互いの組み合わせで、 上記で開示された例と同様に、いくつかのヘモペキシンエピトープに特異的に結合する抗体又はフラグメントが、網膜に位置する受容体とヘモペキシンとの相互作用を効率的に遮断することができ、その結果、RPEの破壊の防止、又は破壊されたRPEの復元を可能にすることができることを結論付けることを可能にする。これは、特に視力を損なうことの影響により、重度の機能的制限を進行させる疾患を含めた、外側血液網膜関門の機能不全を引き起こす網膜疾患を治療及び/又は予防するうえで_興味深く、また効率的なアプローチさえも示すものである。

Claims (13)

  1. 外部血液網膜関門の機能不全が存在する網膜疾患の治療及び/又は予防における使用のためのヘモペキシンに特異的に結合する抗体又はそのフラグメントであって、前記機能不全が、あらゆる病因に対する血液網膜関門の変化又は障害である、抗体又はそのフラグメント。
  2. 前記ヘモペキシンが哺乳動物のヘモペキシンである、請求項1に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  3. 前記哺乳類ヘモペキシンが配列番号1のヒトヘモペキシンである、請求項1又は2に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  4. 配列番号2に特異的に結合する、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  5. 配列番号3に特異的に結合する、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  6. ポリクローナル抗体又は前記ポリクローナル抗体からのフラグメントである、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  7. モノクローナル抗体又は前記モノクローナル抗体からのフラグメントである、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  8. 加齢黄斑変性、黄斑浮腫、網膜色素変性症、及び糖尿病性網膜症からなる群から選択される、網膜疾患の治療及び/又は予防における使用のための、請求項1から7のいずれか1項に記載の前記抗体又はそのフラグメント。
  9. 薬学的及び/又は獣医学的組成物の成分としての、請求項1から8のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  10. 局所用薬学的及び/又は獣医学的組成物の成分としての、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  11. 眼投与用である、請求項10に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  12. 注射用薬学的及び/又は獣医学的組成物の成分としての、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
  13. 硝子体内投与用である、請求項12に記載の使用のための前記抗体又はそのフラグメント。
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