以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態によるクラッド材1の構成について説明する。
本発明の一実施形態によるクラッド材1は、自動車などの輸送機器や携帯電話などのモバイル機器の構造用部材として用いられる金属材料である。このクラッド材1は、図1に示すように、Mg芯材層10と、厚み方向(Z方向)の一方側(Z1側)の表層および他方側(Z2側)の表層にそれぞれ配置されるAl層11および12と、Mg芯材層10とZ1側のAl層11との間に配置される中間層13と、Mg芯材層10とZ2側のAl層12との間に配置される中間層14とを備えている。なお、Mg芯材層10、Al層11、中間層13、Al層12および中間層14は、それぞれ、本発明の「第1層」、「第2層」、「第3層」、「第4層」および「第5層」の一例である。
クラッド材1は、Z1側からZ2側に向かって、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12がこの順に積層された状態で接合された、5層構造を有している。また、クラッド材1では、接触する層同士が原子拡散や化合物形成などにより強固に接合されている。つまり、Al層11と中間層13とが接合界面1aにおいて強固に接合され、中間層13とMg芯材層10とが接合界面1bにおいて強固に接合されることによって、中間層13を介してAl層11とMg芯材層10とが強固に接合されている。同様に、Al層12と中間層14とが接合界面1cにおいて強固に接合され、中間層14とMg芯材層10と接合界面1dにおいてが強固に接合されることによって、中間層14を介してAl層12とMg芯材層10とが強固に接合されている。
また、クラッド材1は、熱間圧延によって平板状に形成されている。
また、クラッド材1の比重は、一般的に広く使用されているAlであるA1050の板材の比重(約2.7)よりも小さい。なお、クラッド材1の比重は、約2.61以下であるのが好ましく、約2.43(A1050の比重の約90%)以下であるのがより好ましい。また、クラッド材1の比重は、約2.3以下であるのさらに好ましく、約2.16(A1050の比重の約80%)以下であるのがより一層好ましい。
Mg芯材層10は、Mg基合金から構成されている。なお、Mg基合金としては、純MgまたはMg合金を用いることが可能である。なお、Mg合金としては、AZ31(3質量%のAlと1%のZnと残部Mgおよび不可避的不純物元素とからなるMg−Al−Zn合金)やAZ61(6質量%のAlと1%のZnと残部Mgおよび不可避的不純物元素とからなるMg−Al−Zn合金)などのMg−Al−Zn合金、AZ80(8質量%のAlと1%未満のZnと残部Mgおよび不可避的不純物元素とからなるMg−Al合金)などのMg−Al合金、Mg−Li合金などを用いることが可能である。また、Mg芯材層10を構成するMg基合金としては、比重が小さい方が好ましい。ここで、Mg基合金の一例としてのAZ31の比重は、約1.8である。
クラッド材1の表層に位置するAl層11および12は、共に、Mg基合金よりも耐食性に優れ、かつ、アルマイト処理などにより表面加工が容易なAl基合金から構成されている。なお、Al基合金としては、99.5質量%以上のAlとその他の元素とからなるA1050などの純Al、または、Al−2Si(2質量%のSiと残部Alおよび不可避的不純物元素とからなるAl−Si合金)などのA4000番台のAl−Si合金や、A5000番台のAl−Mg合金などのAl合金を用いることが可能である。また、Al層11および12を構成するAl基合金としては、延性の高い純Alを用いるのが好ましい。また、Al層11および12を構成するAl基合金の比重は、Mg芯材層10を構成するMg基合金の比重よりも大きい。ここで、Al基合金の一例としてのA1050の比重は、約2.7である。
また、Al層11および12は、略同一の組成を有するAl基合金から構成されているのが好ましい。これにより、クラッド材1の表裏を厳密に区別する必要がなくなる。
中間層13および14は、Ag基合金やAu基合金などと比べて安価なNi基合金、Fe基合金またはTi基合金の接合用金属から構成されている。なお、中間層13および14は、Ti基合金よりも安価なNi基合金またはFe基合金から構成される方が好ましく、塑性変形しやすいNi基合金から構成される方がさらに好ましい。
なお、Ni基合金としては、NW2200やNW2201などの純Ni、または、Ni−Cu合金、Ni−Cr合金などのNi合金を用いることが可能である。また、Fe基合金としては、低炭素鋼などの純Fe、または、Fe−Ni合金や、ステンレスなどのFe合金を用いることが可能である。また、Ti基合金としては、TP270などの純Ti、または、Ti−Al合金などのTi合金を用いることが可能である。
また、中間層13および14を構成する接合用金属(Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金)の比重は、Mg芯材層10を構成するMg基合金の比重およびAl層11および12を構成するAl基合金の比重よりも大きい。なお、Ni基合金の一例としてのNW2201の比重は、約8.9であり、Fe基合金の一例としての低炭素鋼の比重は、約7.9であり、Ti基合金の一例としてのTP270の比重は、約4.5である。
また、中間層13および14を構成する接合用金属(Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金)の融点は、後述する熱間圧延時の温度条件Tの上限である約450℃よりも高い。具体的には、Ni基合金の一例としてのNW2201の融点は、1450℃程度であり、Fe基合金の一例としての低炭素鋼の融点は、1540℃程度であり、Ti基合金の一例としてのTP270の融点は、1670℃程度である。
また、中間層13および14は、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金のうち、共に同種の金属(たとえば、Ni基合金)から構成されているのが好ましい。さらに、中間層13および14は、略同一の組成を有する金属(たとえば、NW2201)から構成されているのがより好ましい。
また、本実施形態では、クラッド材1の厚み方向(Z方向)において、比重の小さいMg芯材層10の厚みt2は、Al層11の厚みt3、Al層12の厚みt4、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6のいずれの厚みよりも大きくなるように形成されている。なお、厚みt2は、5層構造のクラッド材1の厚みt1(=t2+t3+t4+t5+t6)の約50%以上である。また、厚みt2は、厚みt1の約75%以上であるのが好ましく、約90%以上であるのがさらに好ましい。
また、比重が大きな中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6は、共に、Mg芯材層10の厚みt2未満、Al層11の厚みt3以下、かつ、Al層12の厚みt4以下になるように形成されている。なお、クラッド材1全体の比重を小さくするために、厚みt5およびt6は、共に、t2未満、t3未満、かつ、t4未満であるのが好ましい。また、厚みt5およびt6は、共に、クラッド材1の厚みt1の約4%以下であるのが好ましい。なお、厚みt5およびt6は、共に、厚みt1の約3%以下であるのがより好ましく、約1.5%以下であるのがさらに好ましい。
また、Al層11の厚みt3およびAl層12の厚みt4は、共に、クラッド材1の厚みt1の約25%以下である。
なお、Al層11の厚みt3およびAl層12の厚みt4が略同一であるのが好ましく、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6が略同一であるのが好ましい。
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態では、上記のように、Mg芯材層10とZ1側のAl層11との間にNi基合金、Fe基合金またはTi基合金から構成される中間層13を設けることによって、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金はMg基合金およびAl基合金の両方に対して高い接合強度を発揮できるため、従来のCu基合金を中間層として用いたクラッド材よりも高い接合強度を有するMg−Alクラッド材1を得ることができる。この結果、Mg−Alクラッド材1において剥離が生じるのを抑制することができる。なお、この剥離を抑制することができるという効果は、構造用部材として用いられるクラッド材1において非常に重要である。また、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金は、ZnおよびSnと比べて共に融点が高いので、加熱炉での溶融や加熱炉の汚染がなく、その結果、クラッド材1を容易に作製することができる。また、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金は、Au、PtおよびPdと異なり工業的に実用化が可能な水準の低価格である。さらに、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金は、CdおよびPbと異なり環境面での使用規制がない。これらの結果、Mg芯材層10とAl層11とを接合する中間層13をNi基合金、Fe基合金またはTi基合金から構成することによって、Mg層(Mg芯材層10)とAl層(Al層11)との接合強度を大きくして剥離を抑制すること、工業的に実用化が可能な水準の低価格であること、環境面での使用規制がないこと、製造が容易であること、の全ての要件を満たすクラッド材1を提供することができる。
また、本実施形態では、クラッド材1がAl層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12がこの順に積層された5層構造を有するように構成すれば、5層構造を有するMg−Alクラッド材1において剥離が生じるのを抑制することができる。また、Al層11とAl層12とでMg芯材層10を挟み込むことができるので、Mg基合金とAl基合金との延性の違いに起因してクラッド材1に反りが生じるのを抑制することができる。また、クラッド材1の両表層に化学的に安定なAl基合金から構成されるAl層11および12がそれぞれ位置するので、Al基合金よりも化学的に不安定で、加熱されると発火する虞などがあるMg基合金から構成されるMg芯材層10が、クラッド材1の表層に位置するのを防止することができる。これにより、クラッド材1の化学的な安定性を高めて耐食性を向上させることができる。
また、本実施形態では、中間層13および14をNi基合金から構成すれば、Ni基合金はFe基合金と比べて一般的に塑性変形しやすく延性が高いので、クラッド材1を作製する際の圧延において、中間層13および14にうねり(厚みの厚い部分と薄い部分)が発生するのを抑制することができる。これにより、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6が小さい場合においても、中間層13および14の破断を抑制することができる。
また、本実施形態では、Mg芯材層10の厚みt2を、Al層11の厚みt3、Al層12の厚みt4、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6のいずれの厚みよりも大きくすれば、軽量なMg基合金から構成されるMg芯材層10の占める割合を大きくすることができるので、クラッド材1をより軽量化することができる。さらに、Mg芯材層10の厚みt2をクラッド材1の厚みの約50%以上にした場合には、軽量なMg基合金から構成されるMg芯材層10の占める割合を確実に大きくすることができるので、クラッド材1をより一層軽量化することができる。
また、本実施形態では、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6を、共に、Mg芯材層10の厚みt2未満、Al層11の厚みt3以下、かつ、Al層12の厚みt4以下にすれば、Mg基合金およびAl基合金よりも比重の大きなNi基合金、Fe基合金またはTi基合金から構成される中間層13および14の占める割合を小さくすることができるので、クラッド材1をより軽量化することができる。さらに、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6を、共に、クラッド材1の厚みの約4%以下にすれば、中間層13および14の占める割合を確実に小さくすることができるので、クラッド材1をより一層軽量化することができる。
また、本実施形態では、クラッド材1の比重を約2.43以下にした場合には、比重が2.7程度であるAl基合金を単体で用いるよりも、クラッド材1の比重を十分に小さくして軽量化することができる。さらに、クラッド材1の比重を約2.16以下にした場合には、クラッド材1の比重をさらに小さくして軽量化することができる。
次に、図1および図2を参照して、本発明の一実施形態によるクラッド材1の製造方法について説明する。
まず、図2に示すように、Mg基合金から構成されるMg板材110と、Al基合金から構成される一対のAl板材111および112と、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金から構成される一対の接合用板材113および114とを準備する。なお、Mg板材110、Al板材111、112、接合用板材113および114は、所定の温度条件下で所定の時間焼鈍されることによって形成された焼鈍材である。
この際、Mg板材110の厚みを、Mg板材110の厚みと、一対のAl板材111および112の厚みと、一対の接合用板材113および114の厚みとの合計の厚みの約50%以上の厚みにしてもよい。また、一対の接合用板材113および114の厚みを、共に、Mg板材110の厚み未満にするとともに、一対のAl板材111および112の厚み以下にする。
そして、本実施形態の製造方法では、Z1側からZ2側に向かって、Al板材111、接合用板材113、Mg板材110、接合用板材114およびAl板材112をこの順で連続的に積層させる。そして、積層された5枚の金属板を、圧延ロール101を用いて連続的に圧延する。この圧延においては、圧延ロール101の圧下率R((1−圧延後の板厚/圧延前の板厚)×100)を45%以上に設定する。なお、この圧延は、温度条件Tを約250℃以上約450℃以下に設定した熱間圧延であるのが好ましい。なお、熱間圧延の温度条件Tは、約350℃以上約450℃以下の値であるのがより好ましい。また、圧延ロール101の圧下率Rは、約50%以上であるのが好ましい。なお、熱間圧延の温度条件Tの環境下では、接合用板材113および114を構成する、融点の高い接合用金属(Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金)は溶融しないとともに、蒸気として放出されることもほとんどない。
これにより、図1に示すように、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12がこの順に積層された状態で接合された、5層構造を有するクラッド材1が作製される。この際、熱間圧延が行われることによって、Mg芯材層10が塑性変形するようになるため、新生面(界面に新たに露出する面)が出現して中間層13および14の新生面と接触することが可能となる。この結果、中間層13とMg芯材層10との接合界面1bおよびMg芯材層10と中間層14との接合界面1dにおいて密着性が得られる。
そして、熱間圧延後のクラッド材1を約250℃以上約350℃以下の温度条件下で60分程熱処理を行うことによって、クラッド材1に対して拡散焼鈍を行う。これにより、クラッド材1の接合界面1a〜1dにおいてさらに原子拡散が生じることによって、接合界面1a〜1dでの接合強度が向上するとともに、各層の金属層(Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12)が焼鈍されることによって、各層の金属層の脆性が改善する。これにより、構造用部材に用いられるクラッド材1が作製される。
本実施形態の製造方法では、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態の製造方法では、上記のように、Al板材111、接合用板材113、Mg板材110、接合用板材114およびAl板材112を45%以上の圧下率Rで圧延することによって、Mg芯材層10と中間層13との密着性と、中間層13とAl層11との密着性とを確実に高めることができる。同様に、Mg芯材層10と中間層14との密着性と、中間層14とAl層12との密着性とを確実に高めることができる。これらにより、Mg−Alクラッド材1において剥離が生じるのを抑制することができる。
また、本実施形態の製造方法では、Al板材111、接合用板材113、Mg板材110、接合用板材114およびAl板材112をこの順で連続的に積層させた状態で、約250℃以上約450℃以下の温度条件(T)下で、かつ、45%以上の圧下率Rで熱間圧延した場合には、約250℃未満の温度条件ではMg基合金の延性は低いため、45%以上の圧下率で圧延を行う際に、Mg基合金から構成されるMg芯材層10に割れなどが生じるのを抑制することができる。また、約450℃より高い温度条件であることに起因してMg基合金が化学的に不安定になるのを抑制することができる。
(実験1)
次に、図1〜図10を参照して、本発明の効果を確認するために行った実験1を説明する。
実験1では、中間層として適した金属材料を確認するために、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12の5層構造のクラッド材1(図1参照)のうち、中間層13および14の接合用金属の種類を異ならせたクラッド材1を作製して接合強度を測定した。
具体的には、図2に示すように、Mg基合金としてのMg合金(AZ31)から構成されるMg板材110と、Al基合金としての純Al(A1050)から構成される一対のAl板材111および112と、Ni基合金としての純Ni(NW2201)から構成される一対の接合用板材113および114とを準備した。なお、Mg板材110、Al板材111、112、接合用板材113および114は、所定の温度条件下で所定の時間焼鈍した。ここで、Mg板材110の厚みを640μm、一対のAl板材111および112の厚みを160μm、一対の接合用板材113および114の厚みを40μmにした。なお、Al板材111、112、接合用板材113および114は、それぞれ、本発明の「第1Al板材」、「第2Al板材」、「第1接合用板材」および「第2接合用板材」の一例である。
そして、Al板材111、接合用板材113、Mg板材110、接合用板材114およびAl板材112をこの順で連続的に積層させて熱間圧延した。その際、温度条件Tを400℃に設定するとともに、圧下率Rを50%に設定した。これにより、A1050から構成されるAl層11、NW2201から構成される中間層13、AZ31から構成されるMg芯材層10、NW2201から構成される中間層14、および、A1050から構成されるAl層12がこの順に積層された状態で接合された、5層構造を有するクラッド材1を作製した。なお、実施例1のクラッド材1において、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みは、それぞれ、80μm、20μm、320μm、20μm、および、80μmになった。なお、各層の厚みは、後述するクラッド材の断面における層状態を示した断面写真から複数地点の厚みをそれぞれ測定し、複数の測定した厚みを平均することによって求めた。この際、Mg芯材層10の厚み比率は、61.5%であり、中間層13および14の厚み比率は、共に、3.8%になった。
そして、熱間圧延後のクラッド材1を300℃の温度条件下で60分間熱処理を行うことによって、クラッド材1に対して拡散焼鈍を行った。これにより、実施例1のクラッド材1を作製した。
また、接合用板材113および114をSPCCから構成することによって、中間層13および14を純Fe(低炭素鋼)から構成する点以外は実施例1のクラッド材1と同様にして、実施例2のクラッド材1を作製した。また、中間層13および14(接合用板材113および114)を純Ti(TP270)から構成する点以外は実施例1のクラッド材1と同様にして、実施例3のクラッド材1を作製した。
一方、比較例1のクラッド材として、中間層13および14を設けない点以外は、実施例1のクラッド材1と同様にして、A1050から構成されるAl層、AZ31から構成されるMg芯材層、および、A1050から構成されるAl層がこの順に積層された3層構造のクラッド材を作製した。この際、Mg芯材層10の厚み比率を、66.7%にした。また、比較例2のクラッド材として、中間層13および14(接合用板材113および114)を純Cu(C1020)から構成する点以外は実施例1のクラッド材1と同様にして、比較例2のクラッド材を作製した。
そして、各々のクラッド材について断面写真を撮影するとともに、剥離試験を行った。この剥離試験では、図3に示すように、ペンチなどの図示しない冶具を用いてクラッド材の端部の接合界面を強制的に剥離させた。なお、接合強度が高く強制的な剥離が困難なクラッド材については、熱間圧延時に、端部を予め剥離しやすいようにクラッド材を接合させた。そして、クラッド材に対して図4に示す剥離試験を行った。具体的には、剥離した界面(たとえば図4に示す接合界面1d)の一方側(Z2側)の層(たとえば図4に示すMg芯材層10とAl層12と中間層14)を固定部材102に固定するとともに、剥離した界面の他方側(Z1側)の層(たとえば図4に示すAl層11と中間層13)をZ1方向に引っ張ることによって、界面をさらに剥離させた。そしてその際に要した荷重をクラッド材の幅(紙面垂直方向におけるクラッド材の幅)で除することによって、単位幅あたりの荷重としての接合強度を求めた。また、クラッド材の比重を、断面写真から求めた各々の層の厚み比率と各々の層を構成する金属材料の比重とから算出した。なお、水浸法を用いてクラッド材の比重の実測値も測定したが、クラッド材の比重の実測値も、厚み比率と金属材料の比重とから算出したクラッド材の比重の算出値と略同様になった。さらに、各々のクラッド材の断面写真を用いて、クラッド材の断面における層状態について観察した。
図5に示す実験1の結果としては、中間層として、純Ni、純Feおよび純Tiをそれぞれ用いた実施例1〜3のクラッド材では、接合強度が50N/mm以上になった。つまり、クラッド材の層間(Al層11と中間層13との接合界面1a、中間層13とMg芯材層10との接合界面1b、Mg芯材層10と中間層14との接合界面1d、および、Al層12と中間層14との接合界面1c)の密着性が高く剥離しにくいことが確認できた。一方、中間層を設けない比較例1、および、中間層として純Cuを用いた比較例2のクラッド材では、接合強度がそれぞれ16N/mmおよび15N/mmになり、クラッド材の層間の密着性が低く剥離しやすいことが確認できた。
この結果から、Al基合金から構成されるAl層とMg基合金から構成されるMg芯材層との間にNi基合金、Fe基合金またはTi基合金から構成される中間層を配置することによって、Al層とMg芯材層とを直接接合する場合よりも、クラッド材において剥離を生じにくくすることができることが確認できた。一方、Al層とMg芯材層との間にCu基合金から構成される中間層を配置した場合には、クラッド材において剥離が生じやすいことが確認できた。
また、図6〜図10に示す断面写真から、中間層が純Niから構成された実施例1と中間層が純Cuから構成された比較例2とにおいては、中間層にうねりはあまり発生しておらず中間層の厚みのばらつきは小さかったものの、中間層が純Feから構成された実施例2と中間層が純Tiから構成された実施例3とにおいては、中間層にうねりが発生しており中間層の厚みのばらつきは多少大きくなった。これは、純Niおよび純Cuが、純Feおよび純Tiよりも圧延により塑性変形しやすく延性が高いからであると考えられる。この結果、圧延や圧延後のプレス加工などの加工性の観点から、クラッド材の中間層は、純Niから構成するのが好ましいことが判明した。
ここで、実施例1〜3を比較すると、接合強度と断面写真の観察結果(加工性)とから、中間層をNi基合金(純Ni)から構成することが、接合強度および中間層の厚みのばらつきの少なさから最も適していると考えられる。一方、純Niは純Feや純Tiと比べて比重が大きいため、クラッド材の比重を小さくする観点からはあまり適していないと考えられる。そこで、次に示す実験2を行った。
(実験2)
次に、図1および図11〜図14を参照して、本発明の効果を確認するために行った実験2を説明する。
実験2では、Ni基合金から構成される中間層の厚みを小さくすることによって比重を小さくした場合においても、中間層の破断が生じにくく、かつ、接合強度が高くすることが可能であるか否かを確認するために、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12の5層構造のクラッド材1(図1参照)において、中間層13および14を純Niから構成するとともに、各層の厚みの比率を異ならせたクラッド材1を作製して接合強度を測定した。
具体的には、実施例11のクラッド材では、Mg板材110の厚みを760μm、一対のAl板材111および112の厚みを400μm、純Ni(NW2201)から構成される一対の接合用板材113および114の厚みを20μmにした。そして、上記実験1の実施例1と同様の条件(圧下率R:50%)で熱間圧延することによって、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みを、それぞれ、200μm、10μm、380μm、10μm、および、200μmにした。それ以外は、上記実施例1のクラッド材1と同様にして、実施例11のクラッド材を作製した。この際、Mg芯材層10の厚み比率は、47.5%であり、中間層13および14の厚み比率は、共に、1.3%であった。
また、実施例12のクラッド材では、Mg板材110の厚みを760μm、一対のAl板材111および112の厚みを20μm、一対の接合用板材113および114の厚みを20μmにした。そして、上記実施例1と同様の条件で熱間圧延することによって、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みを、それぞれ、10μm、10μm、380μm、10μm、および、10μmにした。それ以外は、上記実施例1のクラッド材1と同様にして、実施例12のクラッド材を作製した。この際、Mg芯材層10の厚み比率は、90.5%であり、中間層13および14の厚み比率は、共に、2.4%であった。
また、実施例13のクラッド材では、Mg板材110の厚みを760μm、一対のAl板材111および112の厚みを20μm、一対の接合用板材113および114の厚みを10μmにした。そして、上記実施例1と同様の条件で熱間圧延することによって、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みを、それぞれ、10μm、5μm、380μm、5μm、および、10μmにした。それ以外は、上記実施例1のクラッド材1と同様にして、実施例13のクラッド材を作製した。この際、Mg芯材層10の厚み比率は、92.7%であり、中間層13および14の厚み比率は、共に、1.2%であった。
そして、各々のクラッド材について実験1と同様の剥離試験を行うとともに、各々のクラッド材の断面写真を用いて、クラッド材の断面における層状態について観察した。
図11に示す実験2の結果としては、実施例11〜13の結果から、純Niから構成される中間層の厚みの比率を小さくして、クラッド材の比重をAl(A1050)の比重(2.7)の90%(2.43(=2.7×0.9))以下にしたとしても、50N/mm以上の十分な接合強度が得られることが判明した。さらに、実施例12および13の結果から、クラッド材の比重をAlの比重の80%(2.16(=2.7×0.8))以下にした場合であっても、50N/mm以上の十分な接合強度が得られることが判明した。さらに、実施例13の結果から、中間層を有さない比較例1の比重(2.09、図5参照)よりも小さな比重を有するクラッド材であっても、50N/mm以上の十分な接合強度が得られることが判明した。
この結果から、比重の比較的大きな純Niを用いた場合であっても、中間層のクラッド材全体における厚み比率を小さくする(4%以下にする)ことによって、クラッド材の比重を十分に小さくしたとしても、中間層の破断が生じにくく、かつ、接合強度を高くすることができることが判明した。
また、図12〜図14に示す断面写真から、純Niからなる中間層(断面写真における黒いすじ状の部分よりもAl層側の白いすじ状の部分)は、いずれにおいても明確に層状に存在しており、最も中間層の厚みの小さい実施例13(中間層の厚み:5μm)であっても、中間層に破断箇所は少なく、MgとAlとの金属間化合物の形成が抑制されていた。このことから、中間層の厚みを5μmに小さくしたとしても、十分な接合強度がクラッド材の全体において得られることが判明した。さらに、図13に示す実施例12の断面写真および図14に示す実施例13の断面写真から、Al層の厚みを10μmに小さくしたとしても、クラッド材全体においてAl層がクラッド材の表層に位置するとともに、Al層の破断は確認できなかった。これにより、Al層の厚みを10μmに小さくしたとしても、クラッド材の耐食性を確保することが可能であることが判明した。
(実験3)
次に、図1および図15を参照して、本発明の効果を確認するために行った実験3を説明する。
実験3では、圧下率Rによる接合強度の違いを確認するために、熱間圧延時の圧下率Rを変化させて、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14およびAl層12の5層構造のクラッド材1(図1参照)を作製して接合強度を測定した。
具体的には、実施例21では、上記実験1の実施例1と同様に、AZ31(Mg合金)から構成されるMg板材110と、純Al(A1050)から構成される一対のAl板材111および112と、純Ni(NW2201)から構成される一対の接合用板材113および114とを準備した。また、Mg板材110の厚みを800μm、一対のAl板材111および112の厚みを40μm、一対の接合用板材113および114の厚みを20μmにした。
ここで、実施例21では、圧下率Rを45%に設定する以外は、上記実験1の実施例1と同様に熱間圧延を行うことによって、A1050から構成されるAl層11、NW2201から構成される中間層13、AZ31から構成されるMg芯材層10、NW2201から構成される中間層14、および、A1050から構成されるAl層12がこの順に積層された状態で接合された、5層構造を有するクラッド材1を作製した。なお、実施例21のクラッド材1において、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みは、それぞれ、22μm、11μm、440μm、11μm、および、22μmであった。この際、Mg芯材層10の厚み比率は、87.0%であり、中間層13および14の厚み比率は、共に、2.2%であった。
また、実施例22のクラッド材では、圧下率Rを50%に設定する以外は、実施例21と同様にして、クラッド材1を作製した。なお、実施例22のクラッド材1において、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みは、それぞれ、20μm、10μm、400μm、10μm、および、20μmであった。
また、実施例23のクラッド材では、圧下率Rを60%に設定する以外は、実施例21と同様にして、クラッド材1を作製した。なお、実施例23のクラッド材1において、Al層11、中間層13、Mg芯材層10、中間層14、および、Al層12の各々の厚みは、それぞれ、16μm、8μm、320μm、8μm、および、16μmであった。
一方、比較例21のクラッド材では、圧下率Rを30%に設定する以外は、実施例21と同様にして、クラッド材を作製した。なお、比較例21のクラッド材において、Al層、中間層、Mg芯材層、中間層、および、Al層の各々の厚みは、それぞれ、28μm、14μm、560μm、14μm、および、28μmであった。
また、比較例22のクラッド材では、圧下率Rを40%に設定する以外は、実施例21と同様にして、クラッド材を作製した。なお、比較例22のクラッド材において、Al層、中間層、Mg芯材層、中間層、および、Al層の各々の厚みは、それぞれ、24μm、12μm、480μm、12μm、および、24μmであった。
なお、実施例21〜23、比較例21および22のクラッド材では、各々の層の厚み比率および比重(2.08)はいずれも同一である。
そして、各々のクラッド材について上記実験1と同様の剥離試験を行った。
図15に示す実験3の結果としては、実施例21〜23の結果から、圧下率を45%以上にすることによって、プレス加工が可能であると想定される40N/mm以上の十分な接合強度が得られることが確認できた。さらに、圧下率を50%以上にすることによって、50N/mm以上のより十分な接合強度が得られることが確認できた。一方、比較例21および22の結果から、圧下率を45%未満(40%以下)にすることによって、40N/mm未満(34N/mm以下)の不十分な接合強度しか得られず、クラッド材の層間の密着性が低く剥離しやすいことが確認できた。さらに、比較例21の結果から、圧下率を30%にすることによって、接合自体ができないことが確認できた。
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記実施形態および実施例では、クラッド材1が、Al層11(第2層)、中間層13(第3層)、Mg芯材層10(第1層)、中間層14(第5層)およびAl層12(第4層)がこの順に積層された状態で接合された、5層構造を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド材は、少なくとも、Al層(第2層)、中間層(第3層)、Mg芯材層(第1層)がこの順に積層された状態で接合された構造を有していればよい。たとえば、図16に示す上記実施形態の変形例のように、クラッド材201が、Al基合金から構成されるAl層211、Ni基合金、Fe基合金またはTi基合金から構成される中間層213、および、Mg基合金から構成されるMg芯材層210がこの順に積層された状態で接合された3層構造を有していてもよい。なお、Mg芯材層210、Al層211、中間層213は、それぞれ、本発明の「第1層」、「第2層」および「第3層」の一例である。また、クラッド材は、Al層(第2層)、任意の金属層、中間層(第3層)およびMg芯材層(第1層)がこの順に積層された状態で接合された4層構造を有していてもよい。さらに、クラッド材は、Al層(第2層)、中間層(第3層)およびMg芯材層(第1層)がこの順に積層された構造を有していれば、6層以上の層構造を有していてもよい。
また、上記実施形態および実施例では、比重の小さいMg芯材層10の厚みt2を、Al層11の厚みt3、Al層12の厚みt4、中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6のいずれの厚みよりも大きくなるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Mg芯材層(第1層)の厚みは、Al層(第2層または第4層)の厚み、および、中間層(第3層または第5層)の厚みの少なくともいずれか1つの厚み以下であってもよい。この場合、クラッド材の比重を小さくする観点から、Mg芯材層(第1層)の厚みは、比重の大きな中間層(第3層または第5層)の厚みよりも大きい方が好ましい。
また、上記実施形態では、比重の小さいMg芯材層10の厚みt2を、5層構造のクラッド材1の厚みt1の約50%以上にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Mg芯材層(第1層)の厚みを、クラッド材の厚みの約50%未満にしてもよい。
また、上記実施形態および実施例では、比重が大きな中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6を、共に、Mg芯材層10の厚みt2未満、Al層11の厚みt3以下、Al層12の厚みt4以下になるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、中間層(第3層または第5層)の厚みは、Mg芯材層(第1層)の厚み以上であってもよいし、Al層(第2層または第4層)の厚みよりも大きくてもよい。
また、上記実施形態および実施例では、比重が大きな中間層13の厚みt5および中間層14の厚みt6を、共に、クラッド材1の厚みt1の約4%以下にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、中間層(第3層または第5層)の厚みは、クラッド材の厚みの約4%よりも大きくてもよい。
また、上記実施形態および実施例では、Al層11の厚みt3およびAl層12の厚みt4を、共に、クラッド材1の厚みt1の約25%以下にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Al層(第2層または第4層)の厚みを、クラッド材の厚みの約25%よりも大きくしてもよい。