本発明は、対象面下の空洞厚探査方法に関するものである。
道路や滑走路、港湾におけるエプロン、その他の人や乗り物の通行面等の路面、物置場等の表面下では、時間の経過に伴い舗装内や地盤中に亀裂や空洞が発生し、またそれが成長する(大きくなる)ため、表面を維持するためにこれらの探査が必要となる。例えば、対象面の陥没は、対象面下に発生する空洞が原因であるため、陥没を未然防止するには地中空洞の有無を探査する必要がある。このような対象面下の探査手法としては、特許文献1〜4に示されるように、電磁波レーダーを車両に搭載して道路を走行する非破壊調査手法が効率的である。空洞が発見された場合、補修工事として、対象面から空洞に至る注入孔を削孔し、この注入孔から空洞内に固化材を充填することが一般的である。また、舗装の内部損傷(内部にのみ存在し、表面に露出していないひび割れ、層間剥離、滞水部分の他、表面に露出しているが内部まで延在しているひび割れや、ポットホール、パッチング、局部打ち換え部分等を含む)が発見された場合には、損傷の程度に応じた補修工事が行われる。
しかしながら、従来の手法では対象面下の空洞の天面、すなわち空洞の水平投影上面が捕捉されるに止まり、空洞の下面を把握できないケースが殆どという問題点があった。そのため、空洞の水平方向への広がりが把握できても、空洞厚の把握ができないという課題があった。空洞厚の調査については、非特許文献のようにどれだけの空洞厚であれば、電磁波レーダー法の非破壊検査法で検知できるかという技術的側面に偏り、レーダーの周波数の最適化についてモデル実験空洞について実験的に検証するものに限られる点、未だ実用的に十分な検討にも着手されていないのが実情である。というのは、実空洞では、空洞の下面は、地下水による浸食や天面の崩落により実質的に明確な境界面が形成されていない場合もあり、そのためにこの境界面でのレーダー反射波が微弱になること、次いでレーダー反射波も天面で再び反射し、空洞から再度土中やアスファルトやコンクリートへ反射波が再入する際に再度反射が起こることにより、地上で検出できる反射波がさらに微弱になるのである。空洞厚さは、空洞自体の検出でなく、空洞天面位置と空洞下面位置との差分により把握するので空洞下面の位置を特定できないときには、空洞厚さの推定も不可能となる。
本来、空洞厚さは、空洞の危険性評価にあたり重要な要素であって、厚ければ厚い程、その危険性は高くなるため、空洞厚の把握は重要である。深い位置にある空洞であっても、空洞下面が深く、空洞厚が厚いものは陥没の危険性が高いものと評価され得るのである。
さらに、空洞の危険性評価に当たっては、空洞の成長や上昇の早い空洞等と、遅い空洞等との区別をすることも重要な要素であり、この判別により、路面補修の必要性の評価や、補修計画の策定をする。例えば、対象面下の空洞を発見した場合、一般に深い位置にあるものはその時点では陥没の危険性が少ないと判断できるが、深い位置にあるものであっても上昇や成長が早い場合は陥没の危険性は高くなる。逆に空洞天面の位置に変化はなくとも空洞下面の深さ方向への進行によって、空洞厚が厚くなると陥没の危険性は高くなる。
したがって、空洞厚の成長も含めて対象面下の空洞等をモニタリングすることが望まれるが、実用に足る空洞厚を含めた空洞のモニタリングは提案もされていないのが現状である。
従来、空洞厚の探査が不可能であったため、陥没危険性評価では、空洞天面の属性により、評価せざるを得なかった。以下説明する。
現行、空洞を検出したときには、各反射波検出位置における、空洞天面の寸法W及び天面の深度Pを求め、陥没の危険性を評価している。空洞の天面の寸法W及び深度Pは、作業員が地中断面画像の印刷物を定規により計測したり、断面画像の寸法計測位置をコンピュータに入力(指定)してコンピュータにより算出したり、コンピュータにより断面画像を画像解析したりすることにより求める。そして、これら空洞天面の寸法Wが大きいほど、及び空洞天面の深度Pが浅いほど陥没の危険性が高いものとして、各反射波検出位置における陥没の危険性を評価する。このように、空洞下面の探査が実質上不可能であるため、探査可能な空洞天面の寸法と天面の深度という限られた情報から、該空洞を特定し、該空洞を原因とした陥没の危険性を評価するものとせざるを得なかった。実際には、地下に存する埋蔵物や土質等の諸要素により、天面より下の空洞の形状は様々な形状を呈する可能性があり、必ずしも天面の形状のみからでは空洞の形状が特定できないにも関わらず、便宜上、観測可能な天面の深さ及び形状を元に空洞を特定し、該空洞の危険性を評価せざるを得なった。
陥没は空洞上側の層の崩落により発生するため、前述のとおり空洞天面の寸法Wが大きいほど陥没が発生し易くなる。よって、空洞天面の寸法Wとしては、天面の面積、長径、短径等適宜定めることができるが、空洞が狭い幅で長く伸びている場合にはいくら長くても陥没の危険性は小さい。よって、空洞天面の寸法Wとしては、空洞天面の形状を楕円近似したときの短辺Wを用いるのが好ましいとし、楕円近似による短辺の算出手法により、例えば水平断面画像を作成し、所定の反射強度以上の部分を空洞と仮定して画像解析によりエッジの座標を検出し、このエッジを最小二乗法等で楕円近似することにより短辺を算出していた。
空洞天面の深度Pは、反射波データから正確に取得できる点で基準位置は対象面Rとし、また、経験上、陥没との相関性が高く、空洞天面における深度計測部位は空洞天面の最上部とするのが好ましい、つまり、空洞天面の深度Pは対象面Rから空洞天面の最上部までの深さとするのが最も好ましいものとして、空洞深度は天面の深度のみから便宜上特定されていた。そして、危険性評価方法では、測定可能な空洞天面の寸法及び空洞天面の深度Pのみを指標として採用するに止めざるを得なかった。それ故、空洞天面の寸法Wを横軸に、空洞天面の深度Pを縦軸にとり、原点(空洞天面の寸法Wが0、空洞天面の深度Pが0)を通る所定傾きの直線により複数の陥没危険度の領域に区画し、検出空洞がその天面寸法及び天面深度によりどの領域に属するかによって、その空洞に起因する陥没危険性をランク付けや点数等により評価するものとするに止めざるを得なかった。ケースによっては、天面の深度が深くとも、空洞の厚さが厚い場合には、空洞崩落の危険性が高い空洞の形状が存する場合があるにも関わらず、空洞天面の寸法Wと空洞天面の深度Pのみより、危険性の評価をせざるを得ないというものに止まっていたのである。
発明者は、空洞下面の微弱な反射波信号のみを特定することができれば、空洞下面の特定は可能と考えた。問題は、微弱な空洞下面の反射波をどう抽出するかである。
定常波であれば、入力波の特性を抽出するには、フーリエ変換により周波数特性を分析することが有効である。フーリエ変換では、入力波を三角関数波に分解し、その重ね合わせで入力波を構成しようとする。観測対象の定常波に、定常的なノイズが乗る時、ノイズから生成される周波数スペクトル成分を無限区間で逆フーリエ変換し、元信号から減ずることでノイズを除去することができることが知られている。
定常波であれば、フーリエ変換は有用であるが、電磁波レーダーの反射波の測定では、パルス波に対する反射波を非定常波として測定するのが一般であり、この場合には、反射信号及びノイズ信号が時系列的にどのように周波数変動するかを明らかにすることが求められる。したがって、観測信号を時間方向に切り出し、反射因子の特性を元に反射波の分析をするために周波数特性を抽出することが求められる。すなわち、時間―周波数分析となる実際の波の分析では、観測区間に区切り周波数分析する必要がある。この場合に、区間の両端での処理に不連続点が発生することが問題となる。この解消に区間のフーリエ変換に際して、両端での値を0とし、区間接続点で不連続が生じないものとするような窓関数をずらしながら畳込み、フーリエ積分する方法がある(短時間フーリエ変換)。しかし、時間区間を狭くすると周波数分解能に問題が生じ、時間区間を広げると信号の時間変動を詳細に把握することができなくなるという弊害を生じる。このことは、フーリエ変換の不確定性原理といわれる。この原理により、多様な周波数を含む非定常信号の解析に対しては、不向きであることがわかる。
この弊害を解消するため、高い振動数を観測するときには観測区間を短くし、低い振動数を観測するには観測区間を長くするウェーブレット関数なるものを使用すると便宜であることが知られている。ここでウェーブレットとは持続時間の短い波束をいい、振動しながら区間で減衰するウェーブレット関数窓関数として時間領域上で観測信号を切り出す手法がウェーブレット変換であり、周波数分解能と時間分解能を両立させることができ、非定常的・過渡的な変動特性があるものの分析に有効であるとされる。
ところが、ウェーブレット変換を活用しようとしても、ウェーブレット変換は数学的背景が整備されているだけで、その物理的な解釈が明らかでないため、以下の諸点で問題となる。
(1)時系列データとの関連性が十分に明らかにならないこと、
(2)位相データが得られないため、逆変換が一般にできない
(3)そのために、フーリエ変換で高周波成分を除去するように入力データから非定常ノイズを除去することが直ちに可能となるわけでないこと、
等の問題である。
一方、ウェーブレット変換の発展形として、Sトランスフォーム(S Transform、R.G.Stockwell氏により提案されている時間―周波数分析法)による局域スペクトル解析が提案されている(非特許文献3)。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、ウェーブレット変換の特性である高い振動数を観測するときには区間を短くし、低い振動数を観測するには区間を長くするという利点を有すると共に、前記(1)〜(3)の不具合を解消したものであり、特に、逆変換が可能であって、その線形性から、
S{入力データ}= S{観測したい信号データ}+ S{ノイズ}
の関係が成立するため、スペクトル分析によりノイズを特定することができれば、入力データからノイズスペクトルデータの逆変換を減ずるミキシングをすることにより、観測したい信号データを得ることができる。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、ウェーブレット変換との関係で以下のように表現される。以下、非特許文献3より連続Sトランスフォーム(S TRANSFORM)について引用説明する。これらは、本発明の実施の基礎となるからである。
まず、従来から地中探査に限らず、地上レーダー探査の定常波的ノイズのフィルタリングに活用されているウェーブレット変換は、原関数h(t)から式(1)のように定義される。
式(1)
・・・・・式(1)
ここで、w(t,d)は、マザーウェーブレット関数といい、スケールファクターdとタイムシフトファクターtの関数で平均がゼロという性質がある。このウェーブレット変換との比較で、原関数h(t)のSトランスフォーム(S TRANSFORM)は、
式(2)
・・・・ 式(2)
と表される。この式では、マザー・ウェーブレットは、
式(3)
・・・・式(3)
である。ここでスケールファクターは、周波数fの逆数となっている。このウェーブレット関数は、平均はゼロとはならない点、ウェーブレット変換とは異なる性質を持つ。明示的には、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、
式(4)
・・・・式(4)
で表され、局在的なスペクトル表現となる。局在的なスペクトルを無限区間で平均化すると以下のようにフーリエ・スペクトルとなる。
式(5)
・・・・式(5)
ここで、H(f)は、原関数h(t)のフーリエ変換である。これから、原関数は、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)から逆変換可能で、
式(6)
・・・・式(6)
である。逆変換可能であることが、ウェーブレット変換と異なる点である。
次に、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、以下のフーリエスペクトルを用いた別形式でも表現される。
式(7)
・・・・式(7)
この表現形式は、離散Sトランスフォーム(S TRANSFORM)の変換計算で有用である。
原関数h(t)がN個にサンプリング時間T毎に時分割され離散化されるとき、原関数は、h[kT],k=0,1,2,,,,,N−1 と表現され、離散フーリエ変換は、
式(8)
・・・・式(8)
と表される。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)もh[kT],k=0,1,2,,,,,N−1で離散化され式(7)を用いると、
式(9)
・・・・式(9)
と表現される。ここで、式(7)でτ→jT,f→n/NTとしている。
n=0では、
式(10)
・・・・式(10)
となり、離散形式でのSトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換は、以下となる。
式(11)
・・・・式(11)
このような特性を持つSトランスフォーム(S TRANSFORM)は、例えば、地震波のP波とその後に到来するS波、しかも地表による異なる伝搬経路により複雑に混在するような時間依存波の分離観測に有効であるものとされている。すなわち、周期的なノイズの除去ではなく、非定常波が重畳する原波形の一部をフィルタリングし、観測対象の原波形に対して、選択的に周波数分析する手法が有効である。
発明者は、電磁波レーダー波の地中空洞探査にSトランスフォーム(S TRANSFORM)が有効であることを見出し、本願発明に至った。電磁波レーダー波の地中空洞探査では、調査対象面の上部から電磁波レーダーを地中に向かい照射するが、まず、舗装面等の大気と路面下境界で電磁波レーダー波は反射する。この反射は強い反射であるが、次に大きな反射となる空洞天面の反射は、天面の反射波の強度が大きいので、まだ、独立に分離認識可能である。しかし、最も大きな舗装面での反射と2番目に大きな空洞天面の反射波は周囲に散逸反射すると空洞下面での本来の反射波と混じり、反射波の反射強度のみからは空洞下面の反射波によるものか他の反射からのものかは判別がつかなくなる。
上記の場合に限られず、空洞天面の上方、舗装面までの間に何らかの要因で反射波が生ずることもある。例えば、地層間での反射であったり、近傍の埋設物による反射、反響や路面の複層構造に起因するものである。
このような場合、定常波であれば、フーリエ変換によりスペクトル・位相解析をすることで反射面の属性を反映した反射波の周波数特性・位相特性から反射波を特定することが可能であり、なお、数次に反射するとしてもこれらは初期の一次反射面、すなわち、舗装面、空洞天面の反射特性をなお有するので、分離可能となる。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、ウェーブレット変換と異なり、上記式(4)、(5)、(6)に示されるようにフーリエ変換の性質をそのまま受け継いでいるため、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は時間依存、すなわち非定常波の観測に適するにも関わらず、フーリエ変換によりスペクトル・位相解析が可能であり、フーリエ逆変換により、舗装面、空洞天面の反射波を復元するということを発明者は見出したのであるが、これらについての知見は未だ得られていないものであった。しかも、発明者は、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、式(9)、(11)に明示されるように、フーリエ変換の離散化手法がそのまま活用でき、産業上利用するに極めて有用なものであることを一早く見出し、実用化に漕ぎつけたのである。
非特許文献4及び特許文献5は、地中浅く存在する埋設物の認識に、埋設管から発する横縞・縦縞ノイズの除去にウェーブレット変換を利用すること提案しているが、本発明に係る微弱な空洞下面の反射波分離を目的とするものでなく、課題に対する示唆も認識もない。特許文献6は、探査対象が埋設物であること及び探査方法が、信号レベルを均一化するよう個別に感度調整量を設定してSTC処理を行う点に技術的特徴があり、本願発明の課題認識と対応策とを異にするものである。いずれも、ウェーブレット変換では位相情報が失われていること、周波数スペクトルもスケール化された値であり、その値に物理的な意味は失われているので、そもそも非定常波に対するフィルタリングに逆ウェーブレット変換は対応できないという性質があり、ウェーブレット変換を用いて異なる原因から発生している複数の非定常波の重畳波から一つの非定常波の周波数スペクトルを取り出し、逆変換しミキシングすることは、従来の公知発明ではかなわないものなのであり、本願発明とは、次元を異にするのである。
特開平5−87945号公報
特開平8−62339号公報
特開2004−301610号公報
特開2012−184624号公報
特開2011−247844号公報
特開2012−154833号公報
レーダ法のコンクリート版厚と空洞厚計測における最適周波数,太田他、土木学会第55回年次学術講演会、平成12年9月
信号解析 信号処理とデータ分析の基礎 (P.56-64)、馬杉正男、森北出版株式会社,2013年4月12日, 第1版第1刷
LOCALIZATION Of THE COMPLEX SPECTRUM: THE S TRANSFORM , R.G.STOCKWELL,et.al,IEEE TRANSACTION On Signal PROCESSING,VOL .44,No.4,April,1996.
地中レーダーによる埋設管の位置標定の現状と問題点 中野他、Proceedings of the MEXT&OKU2012 Workshop on Wevelet Theory and its Applications to Engineering ,2012
本発明の主たる課題は、電磁波レーダーを使用した対象面下の空洞厚探査方法を提供することにより、空洞厚を探査モニターする途を拓き、従来のようにボーリング孔による物理探査を経ることなく、非破壊検査のみで空洞探査を完結させることを可能とすることである。
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
対象面下に存在が予想される空洞を探査する方法であって、
原反射波データをSトランスフォームにより時間周波数解析データへ変換し、少なくともひとつの反射波発生時刻の周波数変換データを時系列反射波データへ逆変換し、該逆変換により復元される反射波データを複数の反射源からの反射信号から成る原反射波データから不要な反射波信号として除去することを特徴とする空洞厚探査方法。
(作用効果)
探査に電磁波や人工地震波等を用い、反射波により地下空洞探査を行うとき、複数の反射波が重畳する反射波を観測する場合に、探査対象特定の障害となる反射波が強く、例えば探査対象の空洞下面の反射波がこれらの反射波信号の反響波に埋もれ観測するに不十分な場合がある。この場合にSトランスフォーム(S TRANSFORM)により時間周波数解析し、観察の障害となる反射波の周波数特性を特定し、周波数特性データから該不要となる反射波の反射面から発生する時系列反射波信号を復元し、該観測取得された反射波観測原データから不要な反射波復元データを信号の減算ミキシングにより除去すると、空洞下面の反射波データを浮き上がらせることができる。空洞下面の反射時刻が把握されれば、空洞天面からの反射波時刻と合わせ空洞厚が把握され、より正確に空洞の危険性評価をすることができる。
請求項1に係る空洞厚探査方法は、電磁波レーダー反射波を使用して実施することが好ましく、天面よりも上方にある反射波のうち天面反射波よりも大きな反射波は空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましく、この典型は路面反射波である。空洞天面反射波は、空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましい。
<請求項2記載の発明>
対象面下に存在が予想される空洞を探査する方法であって、
探査対象面の上方から探査対象面下へ電磁波を深さ方向に入射する電磁波レーダーを走査し、入射波に対する反射波を対象面上方で受信取得するレーダー反射波データ取得工程と、
空洞天面の反射波の分析により空洞天面の位置及び深さを求める空洞天面検出工程と、
該反射波データ取得工程で得られた原反射波データをSトランスフォームにより時間周波数解析データへ変換する周波数解析工程と、
天面上方位置から発生する天面上方反射波の周波数変換データを時系列反射波データへ逆変換し、該逆変換により復元される反射波データを原反射波データから除去する天面上方障害反射波除去工程と、
空洞天面からの反射波の周波数変換データより空洞天面の反射波発生時刻を求め、該周波数変換データを時系列反射波データへ逆変換し、該復元される空洞天面からの反射波データを残余の原反射波データから除去する空洞天面反射波除去工程と、
残余の原反射波データから空洞下面の反射波発生時刻を求める空洞下面検出工程と、
該空洞天面及び空洞下面の反射波発生時刻から空洞厚又は空洞下面深さを求める空洞厚算出工程と、
からなることを特徴とする空洞厚探査方法。
(作用効果)
電磁波レーダーを路面上方からレーダーを照射すると路面と空洞天面の反射波が強く、空洞下面の反射波この両者の反射波信号の反響波に埋もれ観測するに不十分であるが、このようにSトランスフォーム(S TRANSFORM)により時間周波数解析し、例えば路面と、空洞天面の反射波の周波数特性を特定し、周波数特性データから路面及び空洞天面の時系列反射波信号を復元し、該観測取得された反射波観測原データから路面と空洞天面の反射波復元データを信号の減算ミキシングにより除去すると、空洞下面の反射波データを浮き上がらせることができる。空洞下面の位置、空洞厚、寸法及び深さが把握されれば、より正確に空洞の危険性評価をすることができる。
空洞下面の探査に障害となる反射波成分は、上記路面及び空洞天面からの反射波に限られず、路面と空洞天面との中間層に存する地層の境界であったり、路面アスファルトと地盤の間に施された施行物や埋設物である場合等様々が原因で生ずる。このような空洞天面と路面の間に存する天面上方で発生する反射波成分は、空洞下面の探査に障害となる限り、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)及びSトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換により原反射波データから除去し、相対的に微弱な空洞下面の反射波を観測可能とする天面上方障害反射波除去工程を経て、かつ、空洞天面の反射波の影響を除去した修正原反射波形で空洞下面の検知を可能とし、空洞天面反射波発生時刻と空洞下面反射波発生時刻の時間差、空気の比誘電率及び電磁波速度から空洞厚を求めることができ、空洞天面検出工程で得られる空洞天面深さと合わせ空洞下面の深さを判定できるという効果を有する。
<請求項3記載の発明>
前記空洞天面検出工程検出された空洞天面に電磁波が到達する時刻を求め、前記周波数解析工程で原反射波データからSトランスフォームにより時間周波数解析データを作成し、時間−エネルギ分布図を作成し、該空洞天面に電磁波が到達する時刻以前に時間−エネルギ分布図でエネルギ値ピークを観測する場合には、該エネルギ値ピークを呈する時刻で反射波が発生すると認定し、該ピーク値が所定の閾値を超えるものについて該反射波は空洞下面の検出に障害となる天面上方反射波とみなし、除去対象反射波とする請求項第2項記載の天面上方障害反射波除去工程を含む、請求項第2項に記載の空洞厚探査方法。
(作用効果)
前記原反射波データから求められる時間−エネルギ分布線図で、空洞天面に電磁波が到達する時間前までにエネルギ値ピークを観測する場合には、その時刻に電磁波が到達するときの面で反射波が発生するものと認定でき、その反射波は、空洞下面の検知の障害なる可能性があるが、影響の小さな反射波までそのすべてを除去する必要もなく、所定のエネルギ値ピーク値を閾値とし、その該閾値を超えるエネルギ値ピークを呈する反射波を空洞下面の検知の障害なるものとみなし、該天面上方反射波を原反射波から除外することで足りるというのは、このようなフィルタリングの経験則である。このように選択的に路面を含む天面上方で発生する障害反射波を除去する場合、路面と空洞天面との天面上方位置から発生する天面上方反射波のすべてを除去対象とすることは、非効率であり、数多く除去処理をすることから却って誤差の蓄積による不具合も生じかねない。所定のエネルギ値ピーク値を閾値とし、その該閾値を超えるエネルギ値ピークを呈する反射波のみ選択的に除去することで、数多くの反射波の除外により、却って雑音の累積を招くことを避け、効率的に空洞下面の位置を特定することを可能とする。
<請求項4記載の発明>
前記所定のエネルギ値ピークの閾値は、空洞天面の反射波が与えるエネルギ値ピーク値とし、該閾値を超えるもののみ除去対象反射波とする請求項第3項に記載の空洞厚探査方法。
(作用効果)
空洞下面の検出には、空洞天面での反射波が、空洞下面の近傍で発生すること、空洞天面での反射波は、比較的大きく空洞下面の検出の障害になることが経験的に認められることから、少なくとも空洞天面での反射波よりも大きな反射波については、空洞下面の検出の障害となる蓋然性が高く、これを請求項第2項に記載する閾値とすることが好ましい。
路面と空洞天面との天面上方位置から発生する天面上方反射波のすべてを除去対象とすることは、非効率であり、数多く除去処理をすることから却って誤差の蓄積による不具合も生じかねない。そこで、前記原反射波データから求められる時間−エネルギ分布線図で、空洞天面の反射波が呈するエネルギ値ピーク値よりも大きなエネルギを持つ反射波を観測する場合には、該空洞天面の反射波が与えるエネルギ値ピーク値を閾値とし、該閾値を超えるエネルギ値ピークを呈する反射波を空洞下面の検知の障害なるものとみなし、該天面上方反射波を原反射波から除外するものである。この閾値の設定により、選択的に路面を含む天面上方で発生する障害反射波を除去することとなり、このような限定により空洞下面で生ずる反射を十分に浮かび上がらせ、空洞下面の位置を特定することを可能とする。
<請求項5記載の発明>
前記時系列反射波データへの逆変換に際しては、低周波領域のエネルギ値の低下を補うガウシアンカーブの逆数を乗ずる補正をすることを特徴とする天面上方障害反射波除去工程又は空洞天面反射波除去工程のうち少なくともいずれかの一方を用いる請求項第1項〜第4項記載のうちいずれか1項に記載の空洞厚探査方法。
(作用効果)
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、区間境界での連続性を確保するためガウス窓関数を用いて観測窓への原データ切出しを行うが、ガウシアンの特性として、低周波成分変換データを広げ、低周波成分ほど時間分解能が低くなるという性質があり、その分エネルギ分布図も低周波ほど波が大きくなりピークがどこにあるか定まらなくなるという課題が生ずる。 この対応として、本請求項に示すようにガウシアンカーブの逆数を乗ずる処理を施す。この処理によってSトランスフォーム(S TRANSFORM)にガウシアン逆数を乗じ、低周波成分の振幅を持ち上げる処理が施され、フーリエ逆変換で波形を復元できるようになる。
請求項1〜5項記載の発明によれば、空洞天面の位置及び深さ並びに空洞厚を得て、空洞形状により、危険性評価する途が拓ける。施設の保全や空洞危険性の認識管理に有用であり、空洞の三次元形状や容量を危険性判定に利用することもでき、危険性評価精度も格段の向上が可能となる。
空洞天面の形状から空洞下半分の形状を楕円と推定することで空洞の大きさを推定するのでなく実際に探査した形状を元に空洞の大きさや容量を判定することにより、危険性評価精度も格段の向上が可能となる。
このように、同じ単位対象領域について、所定の期間を空けて複数回行い、同一の反射波検出位置における反射波データの時系列比較を行うことにより、当該探査対象領域における対象面下の変化をモニタリングすれば、空洞85の発生はもちろん、成長や上昇の早い空洞等と、遅い空洞等との区別をすることが可能となり、補修の必要性の評価や、補修計画の策定が容易となる。空洞の形状と空洞厚により、空洞の発生、空洞天面の上昇、空洞下面の下降及び空洞厚の成長モニタリングにより、陥没の危険性を評価することも好ましい。
以上のとおり、本発明によれば、電磁波レーダーを使用した空洞厚を含む空洞探査及び対象面下のモニタリングが可能となり、ボーリング孔による物理探査を不要とし、非破壊検査で閉じた形で空洞探査を可能とする。
空洞厚探査方法の工程フローである。
各工程を実現する処理機能図である。
電磁波レーダーの概略図である。
レーダーシステムのブロック図である。
レーダーシステムのセンサ配列例を示す平面図である。
レーダーシステムのセンサ配列例を示す平面図である。
探査車の概略図である。
レーダーシステムの処理プロセスを示す概略図である。
レーダー反射波データの取得概要を示す概略図である。
走行方向縦断面画像、水平断面画像、及び車幅方向縦断面画像の図である。
反射波データの多値化原理を示す説明図である。
空洞候補箇所の検出原理を示す説明図である。
空洞候補箇所の例を示す走行方向縦断面画像である。
周波数解析処理機能図である。
原電磁波反射波入力波形 時間−正規化振幅線図である。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM) 時間−周波数線図である。
時間−エネルギー線図である。
ノイズ信号除去処理機能図である。
t=3.11nsecでの周波数スペクトル(路面反射波)である。
t=3.11nsecでの位相スペクトル(路面反射波)である。
ガウシアン補正関数の周波数−正規化振幅逆数線図である。
補正後の周波数スペクトルである。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換後の路面反射波復元信号である。
路面反射波復元信号除去後の修正原反射波である。
修正原反射波の時間−周波数線図である。
修正原反射波の時間−エネルギー線図である。
t=8.03nsecでの周波数スペクトル(天面反射波)である。
t=8.03nsecでの位相スペクトル(天面反射波)である。
補正後の周波数スペクトルである。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換後の天面反射波復元信号である。
天面反射波復元信号除去後の修正原反射波である。
修正原反射波の時間−周波数線図である。
修正原反射波の時間−エネルギー線図である。
空洞厚算出処理機能図である。
時間差の導出(原信号の時間−正規化振幅図)である。
空洞の寸法及び深度の説明図である。
三次元空洞マップである。
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら詳説する。
請求項1に記載の空洞厚探査方法は、以下のように、電磁波レーダー反射波を使用して実施することが好ましく、天面よりも上方にある反射波のうち天面反射波よりも大きな反射波は空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましく、この典型は路面反射波であって、さらに空洞天面反射波を除去することも空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましいため、これら実施形態を含む請求項2の実施形態について詳細に記述する。
さて、本発明は、空洞厚探査方法及び対象面下のモニタリング方法に分類できるが、各方法を構成する各工程については、図1に示されるように、
レーダー反射波取得工程、空洞天面検出工程、周波数解析工程、天面上方障害反射波除去工程、空洞天面反射波除去工程、空洞下面検出工程、空洞厚算出工程からなり、
各工程について順に説明する。
<空洞探査対象面>
本発明の対象面Rは、各方法で共通である。陥没の危険性のある場所の表面であれば特に限定されず、例えば道路や滑走路、港湾におけるエプロン、その他の人や乗り物の通行面等の路面の他、物置場等、あらゆる場所の表面を対象とすることができる。また、対象面Rが舗装面(アスファルト舗装、コンクリート舗装等、舗装の種類を問わない)であるか非舗装面であるかは問わない。
<レーダー反射波取得工程>
対象面R下へ電磁波レーダーを照射し、反射波データを取得・記録する工程である。以下、詳細に説明する。本工程では、調査対象エリア・区間から調査ロットである走査対象面下を特定し、全体計画の中で対象面下走査計画を立て、対象面下走査のための機器準備の後、電磁波レーダーを照射し、反射波データをA/D変換し、データコントローラー・システムへ収集しデータ転送し、入力信号データをフレームデータとして記録管理し、深さ方向詳細調査地点を特定した場合にデータを呼び出せる形式でデータを保管準備するデジタルフレームデータ処理機能により処理される。
電磁波レーダーとしては、GSSI社(米国)製の各種電磁波レーダーシステム(例えばSIR3000等)、日本無線社製RCレーダー(例えばハンディサーチNJJ-95B等)、アイレック技建社製のコンクリート構造物の鉄筋探査装置(例えばライトエスパー)、コマツエンジニアリング社製のレーダー探査機(例えばアイアンシーカ)等、公知のものを特に限定無く用いることができるが、送受信センサを多数並設したレーダーシステムが作業効率と精度の点で好ましい。以下、具体例を元に本工程と本工程を実現する機能について説明する。
図3は電磁波レーダーの概略図である。符号aは電磁波の送受信アンテナおよび送受信回路を一体的にケースに組み込んだセンサa、符号cはn個のセンサaを並列に連結してアレイ状としたアレイアンテナ、符号bはアレイアンテナcを構成する各センサaに対して夫々スイッチングにより機能の切り替えを行い、個々に送受信および信号処理を行うようにするコントロールユニットをそれぞれ示している。なお、アレイアンテナcとコントロールユニットbとによりレーダーシステムkを構成している。
レーダーシステムで用いられるセンサaとしては、ステップ波形によるインパルス発信を用いたものであって、周波数が0.1〜1GHzの中心帯域を持つものが好適であり、特に中心周波数を500MHz以下として、探査を行うと波長が長くなることから、ある程度の深度(1.5m程度)まで十分な探査を行うことができる。電磁波は周波数が高くなるにつれて、物体中での減衰が激しくなるが、空洞調査の場合には、調査対象の深度が深いものもあり、中心周波数を500MHzと低めにし、波長を長めに設定し、ある程度の深度(1.5m程度)まで十分な探査を行うことができることとした上で、分解能は10cm程度もたすことが好ましい。
なお、本発明者の知見によれば、砂地盤では空洞の発生し易い深度は60cm程度までであり、また陥没の危険性を考慮する必要がある深度も60cm程度までである。よって、空洞探査の場合、使用する電磁波の周波数をこの深度範囲に適切な周波数、すなわち中心帯域が300〜700MHzの周波数に限定することで、空洞等の検出精度が向上するだけでなく、不必要な深度の探査を行わないため探査効率及び評価効率が向上するようになる。
コントロールユニットbによりコントロールされた各センサaからは、対象面Rから内部に向けて略垂直に電磁波が発振される。そして、対象面R下からの反射波は各センサaに受信される。各センサaで受信された反射波は、コントロールユニットbを介してアナログ信号からデジタル信号に変換されたデータとしてデータ処理装置に出力される。
レーダーシステムkは、より具体的には図4に示すように構成することができる。すなわち、レーダーシステムkにおけるセンサaは送信部Txと受信部Rxとにより構成され、n個のセンサaへの給電は、例えばコントロールユニットbに設けられた電源電池31により供給され、また該電源電池はコントロールユニットb内の各回路に給電される。
n個のセンサaの送信部への送信指令は、スイッチ切り替え制御回路34が第1切り替えスイッチ34aを順次切り替えることにより、順次送信を行うようになっており、この切替のタイミングはタイミング源発振回路33bで発生した数十MHzのクロックパルスにより行われ、例えばタイミングクロックパルスの周期毎に順次スイッチングされ、数μs後にはアレイアンテナのn個のセンサaを一巡する。
各センサaの送信部Txで発信された電磁波は、測定対象物に対して反射と透過を繰り返し、その内部状況を反射信号としてセンサaの受信部Rxで受信する。受信された反射信号は、同期信号発生回路33からの同期信号に従ってサンプリングされ、低周波の受信信号1〜nに変換されて各センサから出力される。各センサから出力された受信信号は、スイッチ切り替え回路34にて、A/D変換回路35およびバッファ36により信号の処理が行われ、第2切り替えスイッチ34bの切り替えにより順次データ処理装置へ出力される。
図5の(a)は、レーダーシステムkが図3に示す単配列状態を示しており、車幅方向(副走査方向)におけるセンサaの間隔をdとすると、この単配列状態の分解能はdとなる。これに対し、図5の(b)に示すように、n列の単配列のアレイアンテナc1を千鳥状にm行配列することにより、このアレイアンテナc2は、m倍の分解能を得ることができ、これにより水平解像度が決定される。そして、単配列時におけるアレイアンテナc1の分解能dに対し、m行配列するアレイアンテナc2は、d/mの分解能となる。また、図5に示すように、センサaをm行×n列に配列したアレイアンテナc3としても良い。この構成では、アレイアンテナc3を移動させることなく一度にm行×n列の範囲で探査を行える。
探査に際しては、作業員がアンテナを逐次移動させながら測定を行っても良いが、図7に示すように、レーダーシステムkを搭載した自動車等の探査車10で対象面Rを走行しながら、対象面Rにおける調査対象領域の全体にわたり、走行方向に所定の間隔を空けて探査を行うのが望ましい。図7に示す探査車10は、レーダーシステムkの他に、光学式距離計(回転式距離計でも良い)11、対象面Rの状況を撮像するためのカメラ12、GPS装置13を搭載しており、これらの出力信号がデータ処理装置14に入力されるように構成されている。データ処理装置14としては、汎用のコンピュータを用いることができる。図示例では、データ処理装置14等の機器を制御するための制御装置15を車両に搭載している。この他、車両には周波数解析処理機能、ノイズ除去処理機能を担うSトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16を搭載し、これらはネットワークで接続されている。ここでSトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16は、デジタル化された信号をデジタル演算処理する独立した装置でも、データ処理装置14と一体のコンピュータシステムでもよいし、アナログ/デジタル信号処理機能を備え、原アナログ信号を直接処理する独立した装置でもよい。
レーダーシステムkにおけるセンサaの配列方向を副走査方向とし、副走査方向および電磁波の発信方向に対して直交する方向を主走査方向とすると、レーダーシステムkの主走査方向は探査車10の走行方向となっており、走行に伴う移動距離は距離計11からデータ処理装置14に対して入力されるようになっている。
図8は、レーダーシステムkを主走査方向に移動させて得られた情報を処理するプロセスを示している。レーダーシステムkは検査対象である対象面R上に支持され、主走査方向に沿って移動される。その際、コントロールユニットbは、例えばn個のセンサa(1,2,・・・・n)を順に駆動し、副走査方向の各位置における反射波データが主走査方向について時々刻々と出力する。つまり、図9に示すように、反射波データ(強度(振幅)及び深度(時間))は、主走査方向に所定の反射波検出間隔(走行方向の位置間隔)で、且つ副走査方向に所定の反射波検出間隔(センサ配列間隔)で定まる各検出位置で取得される。これらの検出間隔は適宜定めることができるが、10cm以下(当然ではあるが0は含まず、0より広い間隔となる)であることが望ましく、例えば1〜5cm程度とすることができる。主走査方向の反射波検出間隔(走行方向の位置間隔)と、副走査方向の反射波検出間隔(センサ配列間隔)とは異ならしめることができ、例えば、前者を1〜5cm程度とし、後者をそれよりも広く、例えば6〜10cm程度とすることができる。
取得される各検出位置40の反射波データ50は、各検出位置40の位置情報と関連付けて、データ処理装置14に内蔵又は接続された図示しない記憶装置に記録される。この際、各検出位置40の位置情報の生データは、主走査方向移動距離及び副走査方向のセンサ配列間隔であるが、必要に応じて三次元座標に変換し、生データと併せて記録することができ、また、反射波データ50は波形データであるが、必要に応じて他のデータとともに記録することができる。
本工程終了時には、地点を指定すると入力信号波データ及び反射波データが時系列に呼出しできるように整理保管されている。
<空洞天面検出工程>
本工程では、空洞推定処理を行う。空洞対象面下の水平断面、走査方向縦断面、横断面画像を保管されているデジタルフレームデータから作成し、空洞位置と天面の広がりと深さを求める空洞推定処理機能により探査する。以下、空洞推定処理機能を交えながら説明する。
前工程の計測により対象面Rにおける調査対象領域の全体にわたり反射波データ50を取得したならば、次いで取得データ50の解析を行うことにより、空洞を検出する。空洞の検出手法は特に限定されず、特許文献3記載の手法も採用することができる他、例えば以下に述べるように対象面R下の断面画像を作成し、この画像を基に空洞を検出することができる。
すなわち、取得データ50に基づいて、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度(振幅)を濃淡で表現した走行方向縦断面画像(図10参照。横軸が走行方向距離、縦軸が深さ。)を作成する。例えば図11に示すように、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度を多値化する。多値化は適宜の手法で行うことができるが、例えば反射波強度0を中央値として正側の上限値70及び負側の下限値71をそれぞれ設定し、強度下限値70から強度上限値71までの反射波強度値の範囲を等分で多段階化(3以上であれば良いが、256や65536程度であると後述の可視化画像の作成上も好適)し、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度が該当する段数を、その位置の多値化反射波強度とすることができる。また、「深度」は、電磁波の伝播速度と、電磁波の送信から反射波の受信までの時間とから求めることができる。そして、図10に示すように、横軸を走行方向距離とし、縦軸を深さとして、各走行方向位置及び各深度の多値化反射波強度の階調を有する単位画素を二次元的に配列することにより、走行方向縦断面画像80を作成することができる。なお、図10中の各画像の十字線は画像間の対応位置を示すものである。この走行方向縦断面画像80は、車幅方向の全ての反射波検出位置40について作成する他、いずれか一つ(例えば車幅方向中央)又は複数(例えば車幅方向両端部と中央部の三か所等)のみ作成しても良い。走行方向縦断面画像80は、反射波データ50取得のための車両走行中にリアルタイムに作成しても良いし、反射波データ50を取得後にまとめて作成しても良い。また、本発明の知見によると、空洞は60cm以浅に多く、深い位置にある空洞は陥没の原因となり難いため、所定深さ(1.5m等)以浅に限定して走行方向縦断面画像80を作成するのも一つの好ましい形態である。
走行方向縦断面画像80だけでは、空洞判別は困難であるため、例えば図10に示すように任意の深度における反射波強度を濃淡で表現した水平断面画像90や、任意の走行方向位置における車幅方向縦断面画像100を作成し、これら画像80,90,100から総合的に判断することが望ましい。これら水平断面画像90及び車幅方向縦断面画像100は例えば前述の走行方向縦断面画像80と同様の方法により作成することができる。すなわち、水平断面画像90は、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度を多値化し、横軸を走行方向距離とし、縦軸を車幅方向距離とし、目的の深さにおける各位置の多値化反射波強度の階調を有する単位画素を二次元的に配列することにより作成することができる。また、車幅方向縦断面画像100は、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度を多値化し、横軸を車幅方向距離とし、縦軸を深さとし、目的の走行方向位置における各位置の多値化反射波強度の階調を有する単位画素を二次元的に配列することにより作成することができる。これらの画像90,100を作成する場合、位置が異なる空洞が複数ある場合には、空洞ごとに画像90,100を作成することができる。また、もちろん空洞と異なる任意の位置でも画像90,100を作成することができる。
空洞を探す場合、先ず縦断面画像80,100を用いることが望ましい。例えば縦断面画像80,100では反射波が正極性で周囲よりも強度の強い部位(以下、強信号部位ともいう)、つまり図示例では白い層状の部分の下側に黒い層状の部分が重なる部位81が、空洞である可能性が高い。よって、この強信号部位81を空洞として検出することができる。図12は、通常のアスファルト舗装面下の層構造、反射波極性、及び走行方向縦断面画像80の関係の一例を示した比較図である。この例では、空洞の無い場所では、図12(a)に示すように下層へ向かうに従い比誘電率εrは大きくなり、対象面R及び層間の反射波は負極性(画像では黒から白)を示すのに対して、空洞のある場所では、図12(b)に示すように、空洞部位の比誘電率εrが最も小さくなり、空洞の天面で電磁波が正極性で反射し(画像では白から黒)、空洞天面の形状が現れる。
空洞を探すときには、反射極性及び反射波強度以外に、強信号部位81の形状も参考となる。例えば図13(a)に示すくさび形(又はドーム形)の強信号部位81は、空洞部位に発生するもののうち最も一般的なものである。この形状は、独立空洞がドーム形状を有することが多いことに起因している。これに対し、図13(b)に示す断続的な強信号部位81は多条管の上部やコンクリート版の撤去際における空洞に多く発生するものであり、図13(c)に示す強信号部位81は、構造物脇における圧密沈下に起因する空洞で発生するものである。また、図13(d)に示す強信号部位81は、舗装構造の変化点(打換箇所等)における空隙で発生するものである。よって、強信号部位81の形状と、これらの形状との一致性を評価して、一致する場合には空洞として検出することができる。
このように縦断面画像に基づいて強信号部位81を発見したら、次に強信号部位81における水平断面画像90に基づき、強信号部位81の形状と管等の埋設物の形状との一致性を評価して、一致しない場合にのみ空洞として検出するのも好ましい。これにより、反射極性だけでは区別し難い埋設物と空洞とを判別することができる。特にこのような水平断面画像90を作成する場合、反射波検出を10cm以下という細かい間隔で行うと、管等の埋設物の形状がはっきりと表れるため、空洞と埋設物との違いを見分け易い。また、対象面R下に埋設物があると、その周囲に空洞が発生する可能性が高いため、図43に示すように、埋設物122の強信号部位82に接する又は重なる強信号部位81を検出した場合、空洞85の可能性は極めて高いものと判断することができる。以上に述べた空洞天面検出工程は、作業員が目視で行うことができるが、コンピュータ(前述のデータ処理装置14でも良く、別のものでも良い)により取得データを直接情報処理することにより行っても良く、その場合には画像を生成する必要はない。
以上のように本工程では、前工程で記録・保存されたレーダー反射波の内容を分析することにより空洞天面の反射波信号から空洞の存在推定箇所を検出し、記録する。この推定空洞の路面位置(地点位置)と空洞天面の深さ及び電磁波到達時間を推定空洞情報として記録する。その地点の垂直下の電磁波レーザー反射波入力信号に対して、次の工程で周波数解析を行う。
<周波数解析工程(天面上方障害反射波解析)>
前工程で空洞推定路面位置と天面深さが推定空洞情報として記録されている。その一つの空洞の路面水平射影位置から複数を選定すれば空洞厚と合わせ空洞の形状をモデル化できる。選定された路面位置の反射波データを入力とし、本工程では、天面上方で発生する反射波のうち以後の工程で障害となる反射波(以下で障害反射波と呼ぶ)を除去するための周波数解析を実施する。
解析対象位置での空洞天面深さと電磁波到達時間も前工程で記録されているので、これら情報を用い、分析対象を特定する。
舗装面等の路面での反射波は最も強度が大きい。そのためにその二次反射波が他の経路を経て空洞下面の反射波信号と混信する等、これらに比して微弱な空洞下面の反射波の受信の障害となる。そこで、これら空洞下面の検出には不要な信号を除去するために、除去する信号の周波数特性を解析する。
図14に本工程の周波数解析処理機能ブロック図を示す。図7、図9のレーダーシステムkにて入力反射波信号を受信後、データ処理装置14にデジタル信号保存されている該信号の空洞天面位置に該当するところの時系列信号を取り出し、解析対象推定空洞路面位置、天面深さ(天面反射時刻)読込みステップを実行する。
次に、解析対象地点の波形 時間−振幅 チャート作成ステップで入力信号を確認する(図15)。ここで、振幅は、最大振幅値で正規化され、以後、この正規化振幅値を基準に検討が進められる。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM) 時間−周波数チャート作成ステップへ進み、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16へ反射波原データ(図15)を入力処理したものを、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)変換すると、図16に示す、時間−周波数分析グラフを得る。
図16を作成するにあたり、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16で行われる演算の数理の説明のため、離散Sトランスフォーム(S TRANSFORM)、式(9)、(10)を再掲すると、
式(9)
・・・・式(9)
n=0では、
式(10)
・・・・式(10)
である。ここで、サンプリング数N=256、サンプリング時間間隔T=0.16nsecである。
時間−エネルギーチャート作成ステップへ進み、時間−エネルギー図17を作成する。ここでエネルギーは、以下による。
式(12)
・・・・式(12)
こうして、原信号のSトランスフォーム(S TRANSFORM)値からエネルギー分布を離散式(12)で算出し、ピーク点を決定することで、反射波の生ずる境界面を特定することができる。問題は、反射波を生ずる境界面が、我々の関心がある空洞面かどうかであるが、空洞天面に限らず、舗装面の下部構造からも地層の境界面、地表近くの埋設物からも反射は生じ得る。
解析対象面の特定ステップへ進み、空洞天面深さに相当する時間以前に発生しているエネルギー・ピーク値が空洞天面で生じているピークよりも高いピークを選択し、その時間で発生している周波数スペクトルを与える波形を除去すべき反射波として特定する。本実施形態は、この反射波は路面反射波であるが、実際には、路面反射波には限られず、地層境界での反射波の場合等様々な因子で反射波は観測され得る。必ずしも空洞天面で生じているピークより低い反射波が空洞下面で生じる反射波の検知に障害とならないわけではないが、少なくとも空洞天面で生ずる反射波は、空洞下面よりもクリアな境界面を構成していることと、空洞下面に近接するところに位置し、空洞下面の反射波検知の障害となっていることから、空洞天面で生じているピークよりも高いピーク値を有する空洞天面の上方で生ずる反射波についても、該反射波を除去することには意義がある。
解析対象面からの反射波受信時刻を特定するステップへ進み、反射波エネルギー・ピークが示す時間を解析対象面からの反射波受信時刻として時間−エネルギー図から特定する。図17では、3.11nsecである。
以上の処理を終えると、反射波のノイズ信号除去処理をする準備が完了する。
<天面上方障害反射波除去工程>
前工程で特定された天面より上方で発生し、空洞下面検出の障害となる反射波を除去する工程である。
前工程で対象の反射波が発生する時間が3.11nsecと特定されている。その時刻の振幅スペクトル、位相スペクトルを反射波データから作成する。
図18には、本工程で使用するノイズ信号除去処理機能ステップを示し、路面で発生する反射波を除去する例を図19から図23で示す。
ここでは、フーリエ逆変換により、除去対象面からの反射波を復元するために該反射波受信時刻の周波数スペクトルを元に原波形を復元するステップに進む。
前工程で調査している除去対象の反射波が発生する時刻での振幅スペクトル(図19)、位相スペクトル(図20)から原波形をフーリエ逆変換により復元する。ここで、ある時間軸のみのデータからフーリエ逆変換をすると、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)の窓関数であるガウシアンの作用により、低周波成分が広く分散したものとなることを発明者は見出し、その補正も発明している。その補正には、ガウシアンの逆数(図21)を補正係数B(f)として作用させることが有効なのである。
もう一度、連続Sトランスフォーム(S TRANSFORM)式に戻ると、
式(7)
・・・・式(7)
であった。ここで、窓関数として、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)では、次式で表現されるガウシアンを採用している。
式(13)
・・・・式(13)
補正係数は、式(13)から
式(14)
・・・・式(14)
式(14)に式(13)を代入し、
式(15)
(ガウス積分の公式)
・・・・式(15)
を代入して、
式(16)
・・・・式(16)
式(16)の離散形式は、
式(17)
・・・・式(17)
f=0の場合、式(16)、(17)は、以下となる。
B(0)=0
結局、時刻jTの周波数スペクトル及び位相スペクトルから補正係数を考慮して原波形を復元するには、以下の離散式を用いる。
式(18)
・・・・式(18)
こうして、異なる原因から発生している複数の非定常波の重畳波から一つの非定常波の周波数スペクトルを取り出し、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換しミキシングにより減算し、当該原因から生ずる非定常波を除去し、その原波形よりも微弱な原波形の構成要素を分析するための逆変換処理方法が確立された。
図22には、ガウシアンの逆数を乗じて振幅スペクトルを補正したものを示す。
結局、純粋なSトランスフォーム(S TRANSFORM)後の振幅スペクトル(図19)、位相スペクトル(図20)から原波形を復元するのではなく、補正された振幅スペクトル(図22)、位相スペクトル(図19)から原波形をフーリエ逆変換により復元することとなる。
図23は、この操作により復元した路面の反射波の時系列データである。
図24は、原波形時間−振幅 チャート呼出ステップで得た原反射波波形から、復元した路面の反射波を減じミキサー処理後原波形データ再構成ステップで除去後の原波形を再構成したものである。
こうして、天面上方で発生している反射波、実施例では路面での反射波をノイズとして除去した後の修正された原波形が得られる。この工程を空洞天面上方、すなわち空洞天面からの反射波が受信されるよりも原点側にエネルギー・ピークが得られる限り、繰返し、最終的には、空洞天面と空洞下面の反射波が含まれるという修正された原波形データが得られる。この修正された原波形時系列データを残余の原波形データという。
<周波数解析工程(空洞天面反射波解析)>
前工程の処理を空洞天面での反射波について、同様の処理実施することで空洞天面の反射波を除去することができる。前工程で得られた路面反射波除去後の残余原波形データ(図24)に同様の処理を施す。
以下は、周波数解析工程(天面上方障害反射波解析)の天面版である。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)時間−周波数チャート作成ステップへ進み、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16へ残余の原反射波データ(図24)を入力処理したものを、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)変換すると、図25に示す、時間−周波数分析グラフを得る。
時間−エネルギーチャート作成ステップへ進み、時間−エネルギー図26を得る。
解析対象面の特定ステップへ進み、空洞天面深さに相当する時間以前に発生しているエネルギー・ピーク値が空洞天面で生じているピークよりも高いピークを選択し、その時間で発生している周波数スペクトルを与える波形を除去すべき反射波として特定する。ここでは、すでに天面の他に該当するものはなく、天面反射波が除去すべき反射波である。
解析対象面からの反射波受信時刻を特定ステップへ進み、反射波エネルギー・ピークが示す時間を解析対象面からの反射波受信時刻として特定する。天面の場合には、すでに検出工程で検知されている時刻に相当する。ここでは、8.03nsecである。
<空洞天面反射波除去工程>
天面で発生する反射波を除去する例を図27から図31で示す。
本工程で使用するノイズ信号除去処理機能ステップは前と同様、図18と同じである。
ここでは、まず、フーリエ逆変換、除去対象面からの反射波を復元するために該反射波受信時刻の周波数スペクトルを元に原波形を復元するステップに進む。
前工程で調査している除去対象の反射波が発生する時刻8.03nsecでの振幅スペクトル(図27)、位相スペクトル(図28)から原波形をフーリエ逆変換により復元する。ここで、ある時間軸のみのデータからフーリエ逆変換をすると、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)の窓関数であるガウシアンの作用により、低周波成分が広く分散したものとなることを発明者は見出し、その補正も発明したことは既述である。その補正には、ガウシアンの逆数(図21)を補正係数として作用させることが有効であることに変わりない。
図29には、ガウシアンの逆数を乗じて振幅スペクトルを補正したものを示す。
結局、補正された振幅スペクトル(図29)、位相スペクトル(図28)から原波形をフーリエ逆変換により復元することとなる。
図30は、この操作により復元した天面の反射波(図30の実線)である。
図31は、原波形時間−振幅 チャート呼出ステップで得た路面反射波の復元波を除去後の残余の原反射波波形(図24)から、本工程で復元した天面の反射波(図30)を減じミキサー処理後原波形データ再構成ステップで除去後の原波形(図31)を再構成したものである。図31は、路面及び天面の反射波を復元した時系列データを原反射波から除去した後の残余の修正原反射波時系列データ線図である。
このようにして天面での反射波をノイズとして除去した後の修正された原波形が得られる。この工程後には、空洞天面上方、すなわち空洞天面からの反射波が受信されるよりも原点側にエネルギー・ピークは得られないから、空洞下面の反射波を検定する段取りが整った。
<空洞下面検出工程>
空洞天面からの反射波も含め、すべての障害となる反射波を除去した後に、残余の修正原波形に対して同様の手順を実施する。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)を施し、時間―周波数線図32、時間―エネルギー線図33を求め、空洞下面の反射波のピークを与える時間が空洞天面反射波が生ずるときである。図33では、10.98nsecである。
こうして、空洞下面の検出に成功した。空洞下面は10.98ns後に反射波が発生する箇所にあると判定する。
<空洞厚算出工程>
図34は、空洞厚算出処理の処理ステップを示す。図35の時系列線図に示すように、空洞下面反射時刻と空洞天面での反射時刻との差分を求め、空洞天面から下面への電磁波到達時間差を得、
空洞厚=時間差 X 電磁波速度 ステップにより、天面反射から下面反射までの時間差をΔt、空気中の電磁波速度c、比誘電率を
式(19)
として
式(20)
・・・・式(20)
より、空気の比誘電率と電磁波速度から空洞厚を算出することに成功する。ここでは、空気の比誘電率=1,電磁波速度c=0.2998m/nsec,時間差測定値、2.95nsecから、空洞厚は、44cmとなる。
このように空洞厚が測定できるようになれば、空洞を例えば1cm単位のメッシュの離散点で特定し、各離散点での空洞厚を本発明の手法により測定することとすれば、各離散点から曲面を補間することで空洞形状を形成することができる。離散点のメッシュは、電磁波レーダーの測定メッシュが最高レベルであるが、楕円体形状のように空洞の形状の特異性が弱ければ、必ずしも最高レベルのメッシュでの測定が必須というわけではない。
空洞形状を把握できれば、複数の空洞の位置関係と空洞形状とのコンビネーションから生ずる危険の認識も可能となるし、同じ天面としてもその下方で空洞がどのように形成されているかをリアルに認識することができる。
例えば、空洞の体積等の新たな情報も空洞危険性の評価項目に追加することも可能となるし、観察される幾多の空洞形状を分析し、空洞をパターン分類し、各分類にしたがって危険性を統計解析する等様々な評価の道筋が拓ける。
本発明により空洞厚の把握が可能となれば、陥没危険性評価では、空洞天面の属性と空洞下面の属性とこれらから構成される空洞厚又はこれらからモデリングされる空洞形状により、評価する途が拓ける。例えば、図36に示すように空洞天面の寸法W、天面の深度P、空洞厚T及び空洞下面の深度P’を求める。地下に存する埋蔵物や土質等の諸要素により、天面より下の空洞の形状は様々であって、必ずしも天面の形状のみからでは空洞全体の形状が特定できないが、本発明では、空洞天面の寸法W、天面の深度P、空洞厚T及び空洞下面の深度P’を測定し、天面と空洞下面情報を元に空洞の危険性を評価する途を拓く。空洞天面が深くても、下面が深ければ危険性が高く評価されるという具合に空洞天面の深さと空洞天面の形状及び空洞厚とから総合的に危険性を評価したり、さらに、空洞の形状と位置や水平垂直射影面積、体積等の空洞の多面的な量的属性からも危険性の評価を可能とする。
陥没は空洞上側の層の崩落により発生するため、前述のとおり空洞天面の寸法Wが大きいほど陥没が発生し易くなるが、これら空洞の端面属性、空洞の水平射影面積のみならず空洞体積や空洞厚を活用することができるため、これまでとは、別の算定方法により危険因子を採用することが可能となる。例えば、空洞の寸法Wとしては、空洞85の形状を楕円近体似したときの断面の短辺Wを水平射影面積を元に算出したり、空洞体積と楕円体近似される形状の一部情報から、回転楕円体寸法を算出する等の新たなパラメータ判定をする途も提供する。
また、空洞の調査計画や補修計画を立てるためには、陥没の危険性の全体像を地域等のレベルで把握することが望ましい。そこで、前述の陥没の危険性の評価結果に基づき、図37に示すように、三次元で空洞を可視化し、例えば一つのレイヤーを地上レイヤーとして地下空洞の地理情報と関連付けをすると、通常の地図(航空写真や、地図と航空写真若しくはその他の写真との組み合わせでも良い)上の道路表示部等の地理的位置の陥没の危険性を表示した陥没危険性マップをこのレイヤーで表示することができ、さらに、地下地層に発生する空洞を地層レイヤーとして空洞厚を含む三次元空洞マップを地下に拡がる三次元マップとして提供するも、加えて、ガス配管、水道配管、電話線共同構等の地下構造物のレイヤーを含むように様々な観点で地中の三次元マップを構成することも可能となる。地下空洞の空洞厚が把握できるようになれば、三次元地下マップを提供し、個々の空洞やその成長を任意の仮想視点からのビューや、任意の断面スライス図として提供し、危険性判定の精度を上げる途を拓くことができる。
本発明は、道路や滑走路、港湾におけるエプロン、その他の人や乗り物の通行面等の路面、物置場等、あらゆる場所の表面下で発生する空洞について、電磁波レーダーを使用した空洞探査の実施にあたり、ボーリング孔による物理探査を不要とし、非破壊検査という閉じた形で空洞探査を可能とするものであり、かつ、対象面下の空洞の下方も含めたすべての方向への成長のモニタリングを可能とし、対象面の保全に革新をもたらす新しい空洞厚探査方法を提供する。
P…空洞天面の深度、P'…空洞下面の深度、R…対象面、W…空洞天面の寸法、a…センサ、k…コントロールユニットbを含む電磁波レーダーシステム、10…探査車、11…光学式距離計、12…カメラ、13…GPS装置、14…データ処理装置、15…制御装置、16…Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置、40…反射波検出位置、50…反射波データ、80…走行方向縦断面画像、85…空洞、90…水平断面画像、100…車幅方向縦断面画像。
本発明は、対象面下の空洞厚探査方法に関するものである。
道路や滑走路、港湾におけるエプロン、その他の人や乗り物の通行面等の路面、物置場等の表面下では、時間の経過に伴い舗装内や地盤中に亀裂や空洞が発生し、またそれが成長する(大きくなる)ため、表面を維持するためにこれらの探査が必要となる。例えば、対象面の陥没は、対象面下に発生する空洞が原因であるため、陥没を未然防止するには地中空洞の有無を探査する必要がある。このような対象面下の探査手法としては、特許文献1〜4に示されるように、電磁波レーダーを車両に搭載して道路を走行する非破壊調査手法が効率的である。空洞が発見された場合、補修工事として、対象面から空洞に至る注入孔を削孔し、この注入孔から空洞内に固化材を充填することが一般的である。また、舗装の内部損傷(内部にのみ存在し、表面に露出していないひび割れ、層間剥離、滞水部分の他、表面に露出しているが内部まで延在しているひび割れや、ポットホール、パッチング、局部打ち換え部分等を含む)が発見された場合には、損傷の程度に応じた補修工事が行われる。
しかしながら、従来の手法では対象面下の空洞の天面、すなわち空洞の水平投影上面が捕捉されるに止まり、空洞の下面を把握できないケースが殆どという問題点があった。そのため、空洞の水平方向への広がりが把握できても、空洞厚の把握ができないという課題があった。空洞厚の調査については、非特許文献のようにどれだけの空洞厚であれば、電磁波レーダー法の非破壊検査法で検知できるかという技術的側面に偏り、レーダーの周波数の最適化についてモデル実験空洞について実験的に検証するものに限られる点、未だ実用的に十分な検討にも着手されていないのが実情である。というのは、実空洞では、空洞の下面は、地下水による浸食や天面の崩落により実質的に明確な境界面が形成されていない場合もあり、そのためにこの境界面でのレーダー反射波が微弱になること、次いでレーダー反射波も天面で再び反射し、空洞から再度土中やアスファルトやコンクリートへ反射波が再入する際に再度反射が起こることにより、地上で検出できる反射波がさらに微弱になるのである。空洞厚さは、空洞自体の検出でなく、空洞天面位置と空洞下面位置との差分により把握するので空洞下面の位置を特定できないときには、空洞厚さの推定も不可能となる。
本来、空洞厚さは、空洞の危険性評価にあたり重要な要素であって、厚ければ厚い程、その危険性は高くなるため、空洞厚の把握は重要である。深い位置にある空洞であっても、空洞下面が深く、空洞厚が厚いものは陥没の危険性が高いものと評価され得るのである。
さらに、空洞の危険性評価に当たっては、空洞の成長や上昇の早い空洞等と、遅い空洞等との区別をすることも重要な要素であり、この判別により、路面補修の必要性の評価や、補修計画の策定をする。例えば、対象面下の空洞を発見した場合、一般に深い位置にあるものはその時点では陥没の危険性が少ないと判断できるが、深い位置にあるものであっても上昇や成長が早い場合は陥没の危険性は高くなる。逆に空洞天面の位置に変化はなくとも空洞下面の深さ方向への進行によって、空洞厚が厚くなると陥没の危険性は高くなる。
したがって、空洞厚の成長も含めて対象面下の空洞等をモニタリングすることが望まれるが、実用に足る空洞厚を含めた空洞のモニタリングは提案もされていないのが現状である。
従来、空洞厚の探査が不可能であったため、陥没危険性評価では、空洞天面の属性により、評価せざるを得なかった。以下説明する。
現行、空洞を検出したときには、各反射波検出位置における、空洞天面の寸法W及び天面の深度Pを求め、陥没の危険性を評価している。空洞の天面の寸法W及び深度Pは、作業員が地中断面画像の印刷物を定規により計測したり、断面画像の寸法計測位置をコンピュータに入力(指定)してコンピュータにより算出したり、コンピュータにより断面画像を画像解析したりすることにより求める。そして、これら空洞天面の寸法Wが大きいほど、及び空洞天面の深度Pが浅いほど陥没の危険性が高いものとして、各反射波検出位置における陥没の危険性を評価する。このように、空洞下面の探査が実質上不可能であるため、探査可能な空洞天面の寸法と天面の深度という限られた情報から、該空洞を特定し、該空洞を原因とした陥没の危険性を評価するものとせざるを得なかった。実際には、地下に存する埋蔵物や土質等の諸要素により、天面より下の空洞の形状は様々な形状を呈する可能性があり、必ずしも天面の形状のみからでは空洞の形状が特定できないにも関わらず、便宜上、観測可能な天面の深さ及び形状を元に空洞を特定し、該空洞の危険性を評価せざるを得なった。
陥没は空洞上側の層の崩落により発生するため、前述のとおり空洞天面の寸法Wが大きいほど陥没が発生し易くなる。よって、空洞天面の寸法Wとしては、天面の面積、長径、短径等適宜定めることができるが、空洞が狭い幅で長く伸びている場合にはいくら長くても陥没の危険性は小さい。よって、空洞天面の寸法Wとしては、空洞天面の形状を楕円近似したときの短辺Wを用いるのが好ましいとし、楕円近似による短辺の算出手法により、例えば水平断面画像を作成し、所定の反射強度以上の部分を空洞と仮定して画像解析によりエッジの座標を検出し、このエッジを最小二乗法等で楕円近似することにより短辺を算出していた。
空洞天面の深度Pは、反射波データから正確に取得できる点で基準位置は対象面Rとし、また、経験上、陥没との相関性が高く、空洞天面における深度計測部位は空洞天面の最上部とするのが好ましい、つまり、空洞天面の深度Pは対象面Rから空洞天面の最上部までの深さとするのが最も好ましいものとして、空洞深度は天面の深度のみから便宜上特定されていた。そして、危険性評価方法では、測定可能な空洞天面の寸法及び空洞天面の深度Pのみを指標として採用するに止めざるを得なかった。それ故、空洞天面の寸法Wを横軸に、空洞天面の深度Pを縦軸にとり、原点(空洞天面の寸法Wが0、空洞天面の深度Pが0)を通る所定傾きの直線により複数の陥没危険度の領域に区画し、検出空洞がその天面寸法及び天面深度によりどの領域に属するかによって、その空洞に起因する陥没危険性をランク付けや点数等により評価するものとするに止めざるを得なかった。ケースによっては、天面の深度が深くとも、空洞の厚さが厚い場合には、空洞崩落の危険性が高い空洞の形状が存する場合があるにも関わらず、空洞天面の寸法Wと空洞天面の深度Pのみより、危険性の評価をせざるを得ないというものに止まっていたのである。
発明者は、空洞下面の微弱な反射波信号のみを特定することができれば、空洞下面の特定は可能と考えた。問題は、微弱な空洞下面の反射波をどう抽出するかである。
定常波であれば、入力波の特性を抽出するには、フーリエ変換により周波数特性を分析することが有効である。フーリエ変換では、入力波を三角関数波に分解し、その重ね合わせで入力波を構成しようとする。観測対象の定常波に、定常的なノイズが乗る時、ノイズから生成される周波数スペクトル成分を無限区間で逆フーリエ変換し、元信号から減ずることでノイズを除去することができることが知られている。
定常波であれば、フーリエ変換は有用であるが、電磁波レーダーの反射波の測定では、パルス波に対する反射波を非定常波として測定するのが一般であり、この場合には、反射信号及びノイズ信号が時系列的にどのように周波数変動するかを明らかにすることが求められる。したがって、観測信号を時間方向に切り出し、反射因子の特性を元に反射波の分析をするために周波数特性を抽出することが求められる。すなわち、時間―周波数分析となる実際の波の分析では、観測区間に区切り周波数分析する必要がある。この場合に、区間の両端での処理に不連続点が発生することが問題となる。この解消に区間のフーリエ変換に際して、両端での値を0とし、区間接続点で不連続が生じないものとするような窓関数をずらしながら畳込み、フーリエ積分する方法がある(短時間フーリエ変換)。しかし、時間区間を狭くすると周波数分解能に問題が生じ、時間区間を広げると信号の時間変動を詳細に把握することができなくなるという弊害を生じる。このことは、フーリエ変換の不確定性原理といわれる。この原理により、多様な周波数を含む非定常信号の解析に対しては、不向きであることがわかる。
この弊害を解消するため、高い振動数を観測するときには観測区間を短くし、低い振動数を観測するには観測区間を長くするウェーブレット関数なるものを使用すると便宜であることが知られている。ここでウェーブレットとは持続時間の短い波束をいい、振動しながら区間で減衰するウェーブレット関数窓関数として時間領域上で観測信号を切り出す手法がウェーブレット変換であり、周波数分解能と時間分解能を両立させることができ、非定常的・過渡的な変動特性があるものの分析に有効であるとされる。
ところが、ウェーブレット変換を活用しようとしても、ウェーブレット変換は数学的背景が整備されているだけで、その物理的な解釈が明らかでないため、以下の諸点で問題となる。
(1)時系列データとの関連性が十分に明らかにならないこと、
(2)位相データが得られないため、逆変換が一般にできない
(3)そのために、フーリエ変換で高周波成分を除去するように入力データから非定常ノイズを除去することが直ちに可能となるわけでないこと、
等の問題である。
一方、ウェーブレット変換の発展形として、Sトランスフォーム(S Transform、R.G.Stockwell氏により提案されている時間―周波数分析法)による局域スペクトル解析が提案されている(非特許文献3)。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、ウェーブレット変換の特性である高い振動数を観測するときには区間を短くし、低い振動数を観測するには区間を長くするという利点を有すると共に、前記(1)〜(3)の不具合を解消したものであり、特に、逆変換が可能であって、その線形性から、
S{入力データ}= S{観測したい信号データ}+ S{ノイズ}
の関係が成立するため、スペクトル分析によりノイズを特定することができれば、入力データからノイズスペクトルデータの逆変換を減ずるミキシングをすることにより、観測したい信号データを得ることができる。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、ウェーブレット変換との関係で以下のように表現される。以下、非特許文献3より連続Sトランスフォーム(S TRANSFORM)について引用説明する。これらは、本発明の実施の基礎となるからである。
まず、従来から地中探査に限らず、地上レーダー探査の定常波的ノイズのフィルタリングに活用されているウェーブレット変換は、原関数h(t)から式(1)のように定義される。
式(1)
・・・・・式(1)
ここで、w(t,d)は、マザーウェーブレット関数といい、スケールファクターdとタイムシフトファクターtの関数で平均がゼロという性質がある。このウェーブレット変換との比較で、原関数h(t)のSトランスフォーム(S TRANSFORM)は、
式(2)
・・・・ 式(2)
と表される。この式では、マザー・ウェーブレットは、
式(3)
・・・・式(3)
である。ここでスケールファクターは、周波数fの逆数となっている。このウェーブレット関数は、平均はゼロとはならない点、ウェーブレット変換とは異なる性質を持つ。明示的には、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、
式(4)
・・・・式(4)
で表され、局在的なスペクトル表現となる。局在的なスペクトルを無限区間で平均化すると以下のようにフーリエ・スペクトルとなる。
式(5)
・・・・式(5)
ここで、H(f)は、原関数h(t)のフーリエ変換である。これから、原関数は、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)から逆変換可能で、
式(6)
・・・・式(6)
である。逆変換可能であることが、ウェーブレット変換と異なる点である。
次に、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、以下のフーリエスペクトルを用いた別形式でも表現される。
式(7)
・・・・式(7)
この表現形式は、離散Sトランスフォーム(S TRANSFORM)の変換計算で有用である。
原関数h(t)がN個にサンプリング時間T毎に時分割され離散化されるとき、原関数は、h[kT],k=0,1,2,,,,,N−1 と表現され、離散フーリエ変換は、
式(8)
・・・・式(8)
と表される。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)もh[kT],k=0,1,2,,,,,N−1で離散化され式(7)を用いると、
式(9)
・・・・式(9)
と表現される。ここで、式(7)でτ→jT,f→n/NTとしている。
n=0では、
式(10)
・・・・式(10)
となり、離散形式でのSトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換は、以下となる。
式(11)
・・・・式(11)
このような特性を持つSトランスフォーム(S TRANSFORM)は、例えば、地震波のP波とその後に到来するS波、しかも地表による異なる伝搬経路により複雑に混在するような時間依存波の分離観測に有効であるものとされている。すなわち、周期的なノイズの除去ではなく、非定常波が重畳する原波形の一部をフィルタリングし、観測対象の原波形に対して、選択的に周波数分析する手法が有効である。
発明者は、電磁波レーダー波の地中空洞探査にSトランスフォーム(S TRANSFORM)が有効であることを見出し、本願発明に至った。電磁波レーダー波の地中空洞探査では、調査対象面の上部から電磁波レーダーを地中に向かい照射するが、まず、舗装面等の大気と路面下境界で電磁波レーダー波は反射する。この反射は強い反射であるが、次に大きな反射となる空洞天面の反射は、天面の反射波の強度が大きいので、まだ、独立に分離認識可能である。しかし、最も大きな舗装面での反射と2番目に大きな空洞天面の反射波は周囲に散逸反射すると空洞下面での本来の反射波と混じり、反射波の反射強度のみからは空洞下面の反射波によるものか他の反射からのものかは判別がつかなくなる。
上記の場合に限られず、空洞天面の上方、舗装面までの間に何らかの要因で反射波が生ずることもある。例えば、地層間での反射であったり、近傍の埋設物による反射、反響や路面の複層構造に起因するものである。
このような場合、定常波であれば、フーリエ変換によりスペクトル・位相解析をすることで反射面の属性を反映した反射波の周波数特性・位相特性から反射波を特定することが可能であり、なお、数次に反射するとしてもこれらは初期の一次反射面、すなわち、舗装面、空洞天面の反射特性をなお有するので、分離可能となる。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、ウェーブレット変換と異なり、上記式(4)、(5)、(6)に示されるようにフーリエ変換の性質をそのまま受け継いでいるため、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は時間依存、すなわち非定常波の観測に適するにも関わらず、フーリエ変換によりスペクトル・位相解析が可能であり、フーリエ逆変換により、舗装面、空洞天面の反射波を復元するということを発明者は見出したのであるが、これらについての知見は未だ得られていないものであった。しかも、発明者は、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、式(9)、(11)に明示されるように、フーリエ変換の離散化手法がそのまま活用でき、産業上利用するに極めて有用なものであることを一早く見出し、実用化に漕ぎつけたのである。
非特許文献4及び特許文献5は、地中浅く存在する埋設物の認識に、埋設管から発する横縞・縦縞ノイズの除去にウェーブレット変換を利用すること提案しているが、本発明に係る微弱な空洞下面の反射波分離を目的とするものでなく、課題に対する示唆も認識もない。特許文献6は、探査対象が埋設物であること及び探査方法が、信号レベルを均一化するよう個別に感度調整量を設定してSTC処理を行う点に技術的特徴があり、本願発明の課題認識と対応策とを異にするものである。いずれも、ウェーブレット変換では位相情報が失われていること、周波数スペクトルもスケール化された値であり、その値に物理的な意味は失われているので、そもそも非定常波に対するフィルタリングに逆ウェーブレット変換は対応できないという性質があり、ウェーブレット変換を用いて異なる原因から発生している複数の非定常波の重畳波から一つの非定常波の周波数スペクトルを取り出し、逆変換しミキシングすることは、従来の公知発明ではかなわないものなのであり、本願発明とは、次元を異にするのである。
特開平5−87945号公報
特開平8−62339号公報
特開2004−301610号公報
特開2012−184624号公報
特開2011−247844号公報
特開2012−154833号公報
レーダ法のコンクリート版厚と空洞厚計測における最適周波数,太田他、土木学会第55回年次学術講演会、平成12年9月
信号解析 信号処理とデータ分析の基礎 (P.56-64)、馬杉正男、森北出版株式会社,2013年4月12日, 第1版第1刷
LOCALIZATION Of THE COMPLEX SPECTRUM: THE S TRANSFORM , R.G.STOCKWELL,et.al,IEEE TRANSACTION On Signal PROCESSING,VOL .44,No.4,April,1996.
地中レーダーによる埋設管の位置標定の現状と問題点 中野他、Proceedings of the MEXT&OKU2012 Workshop on Wevelet Theory and its Applications to Engineering ,2012
本発明の主たる課題は、電磁波レーダーを使用した対象面下の空洞厚探査方法を提供することにより、空洞厚を探査モニターする途を拓き、従来のようにボーリング孔による物理探査を経ることなく、非破壊検査のみで空洞探査を完結させることを可能とすることである。
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
対象面下に存在が予想される空洞を探査する方法であって、
原時系列反射波データをSトランスフォームにより時間周波数解析データへ変換し、
除去対象とする特定の反射波発生時刻における周波数変換データを特定し、
低周波領域のエネルギ値の低下を補う周波数領域の重み関数を該除去対象とする周波数変換データへ全周波数領域に亘り重畳適用し、
該重畳適用後の周波数データを時系列反射波データへ逆変換し、
該逆変換により復元される時系列反射波データを複数の反射源からの時系列反射信号から成る原時系列反射波データから不要な時系列反射波信号としてフィルタ除去することを特徴とする空洞厚探査方法。
(作用効果)
探査に電磁波や人工地震波等を用い、反射波により地下空洞探査を行うとき、複数の反射波が重畳する反射波を観測する場合に、探査対象特定の障害となる反射波が強く、例えば探査対象の空洞下面の反射波がこれらの反射波信号の反響波に埋もれ観測するに不十分な場合がある。この場合にSトランスフォーム(S TRANSFORM)により時間周波数解析し、観察の障害となる反射波の周波数特性を特定し、周波数特性データから該不要となる反射波の反射面から発生する時系列反射波信号を復元し、該観測取得された反射波観測原データから不要な反射波復元データを信号の減算ミキシングにより除去すると、空洞下面の反射波データを浮き上がらせることができる。空洞下面の反射時刻が把握されれば、空洞天面からの反射波時刻と合わせ空洞厚が把握され、より正確に空洞の危険性評価をすることができる。
請求項1に係る空洞厚探査方法は、電磁波レーダー反射波を使用して実施することが好ましく、天面よりも上方にある反射波のうち天面反射波よりも大きな反射波は空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましく、この典型は路面反射波である。空洞天面反射波は、空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましい。
<請求項2記載の発明>
対象面下に存在が予想される空洞を探査する方法であって、
探査対象面の上方から探査対象面下へ電磁波を深さ方向に入射する電磁波レーダーを走査し、入射波に対する反射波を対象面上方で受信取得するレーダー反射波データ取得工程と、
空洞天面の反射波の分析により空洞天面の位置及び深さを求める空洞天面検出工程と、
該反射波データ取得工程で得られた原反射波データをSトランスフォームにより時間周波数解析データへ変換する周波数解析工程と、
天面上方位置から発生する天面上方反射波の周波数変換データを時系列反射波データへ逆変換し、該逆変換により復元される反射波データを原反射波データから除去する天面上方障害反射波除去工程と、
空洞天面からの反射波の周波数変換データより空洞天面の反射波発生時刻を求め、該周波数変換データを時系列反射波データへ逆変換し、該復元される空洞天面からの反射波データを残余の原反射波データから除去する空洞天面反射波除去工程と、
残余の原反射波データから空洞下面の反射波発生時刻を求める空洞下面検出工程と、
該空洞天面及び空洞下面の反射波発生時刻から空洞厚又は空洞下面深さを求める空洞厚算出工程と、
からなることを特徴とする空洞厚探査方法。
(作用効果)
電磁波レーダーを路面上方からレーダーを照射すると路面と空洞天面の反射波が強く、空洞下面の反射波この両者の反射波信号の反響波に埋もれ観測するに不十分であるが、このようにSトランスフォーム(S TRANSFORM)により時間周波数解析し、例えば路面と、空洞天面の反射波の周波数特性を特定し、周波数特性データから路面及び空洞天面の時系列反射波信号を復元し、該観測取得された反射波観測原データから路面と空洞天面の反射波復元データを信号の減算ミキシングにより除去すると、空洞下面の反射波データを浮き上がらせることができる。空洞下面の位置、空洞厚、寸法及び深さが把握されれば、より正確に空洞の危険性評価をすることができる。
空洞下面の探査に障害となる反射波成分は、上記路面及び空洞天面からの反射波に限られず、路面と空洞天面との中間層に存する地層の境界であったり、路面アスファルトと地盤の間に施された施行物や埋設物である場合等様々が原因で生ずる。このような空洞天面と路面の間に存する天面上方で発生する反射波成分は、空洞下面の探査に障害となる限り、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)及びSトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換により原反射波データから除去し、相対的に微弱な空洞下面の反射波を観測可能とする天面上方障害反射波除去工程を経て、かつ、空洞天面の反射波の影響を除去した修正原反射波形で空洞下面の検知を可能とし、空洞天面反射波発生時刻と空洞下面反射波発生時刻の時間差、空気の比誘電率及び電磁波速度から空洞厚を求めることができ、空洞天面検出工程で得られる空洞天面深さと合わせ空洞下面の深さを判定できるという効果を有する。
<請求項3記載の発明>
前記空洞天面検出工程検出された空洞天面に電磁波が到達する時刻を求め、前記周波数解析工程で原反射波データからSトランスフォームにより時間周波数解析データを作成し、時間−エネルギ分布図を作成し、該空洞天面に電磁波が到達する時刻以前に時間−エネルギ分布図でエネルギ値ピークを観測する場合には、該エネルギ値ピークを呈する時刻で反射波が発生すると認定し、該ピーク値が所定の閾値を超えるものについて該反射波は空洞下面の検出に障害となる天面上方反射波とみなし、除去対象反射波とする請求項第2項記載の天面上方障害反射波除去工程を含む、請求項第2項に記載の空洞厚探査方法。
(作用効果)
前記原反射波データから求められる時間−エネルギ分布線図で、空洞天面に電磁波が到達する時間前までにエネルギ値ピークを観測する場合には、その時刻に電磁波が到達するときの面で反射波が発生するものと認定でき、その反射波は、空洞下面の検知の障害なる可能性があるが、影響の小さな反射波までそのすべてを除去する必要もなく、所定のエネルギ値ピーク値を閾値とし、その該閾値を超えるエネルギ値ピークを呈する反射波を空洞下面の検知の障害なるものとみなし、該天面上方反射波を原反射波から除外することで足りるというのは、このようなフィルタリングの経験則である。このように選択的に路面を含む天面上方で発生する障害反射波を除去する場合、路面と空洞天面との天面上方位置から発生する天面上方反射波のすべてを除去対象とすることは、非効率であり、数多く除去処理をすることから却って誤差の蓄積による不具合も生じかねない。所定のエネルギ値ピーク値を閾値とし、その該閾値を超えるエネルギ値ピークを呈する反射波のみ選択的に除去することで、数多くの反射波の除外により、却って雑音の累積を招くことを避け、効率的に空洞下面の位置を特定することを可能とする。
<請求項4記載の発明>
前記所定のエネルギ値ピークの閾値は、空洞天面の反射波が与えるエネルギ値ピーク値とし、該閾値を超えるもののみ除去対象反射波とする請求項第3項に記載の空洞厚探査方法。
(作用効果)
空洞下面の検出には、空洞天面での反射波が、空洞下面の近傍で発生すること、空洞天面での反射波は、比較的大きく空洞下面の検出の障害になることが経験的に認められることから、少なくとも空洞天面での反射波よりも大きな反射波については、空洞下面の検出の障害となる蓋然性が高く、これを請求項第2項に記載する閾値とすることが好ましい。
路面と空洞天面との天面上方位置から発生する天面上方反射波のすべてを除去対象とすることは、非効率であり、数多く除去処理をすることから却って誤差の蓄積による不具合も生じかねない。そこで、前記原反射波データから求められる時間−エネルギ分布線図で、空洞天面の反射波が呈するエネルギ値ピーク値よりも大きなエネルギを持つ反射波を観測する場合には、該空洞天面の反射波が与えるエネルギ値ピーク値を閾値とし、該閾値を超えるエネルギ値ピークを呈する反射波を空洞下面の検知の障害なるものとみなし、該天面上方反射波を原反射波から除外するものである。この閾値の設定により、選択的に路面を含む天面上方で発生する障害反射波を除去することとなり、このような限定により空洞下面で生ずる反射を十分に浮かび上がらせ、空洞下面の位置を特定することを可能とする。
<請求項5記載の発明>
前記時系列反射波データへの逆変換に際しては、低周波領域のエネルギ値の低下を補うガウシアンカーブの逆数を乗ずる補正をすることを特徴とする天面上方障害反射波除去工程又は空洞天面反射波除去工程のうち少なくともいずれかの一方を用いる請求項第2項〜第4項記載のうちいずれか1項に記載の空洞厚探査方法。
(作用効果)
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)は、区間境界での連続性を確保するためガウス窓関数を用いて観測窓への原データ切出しを行うが、ガウシアンの特性として、低周波成分変換データを広げ、低周波成分ほど時間分解能が低くなるという性質があり、その分エネルギ分布図も低周波ほど波が大きくなりピークがどこにあるか定まらなくなるという課題が生ずる。 この対応として、本請求項に示すようにガウシアンカーブの逆数を乗ずる処理を施す。この処理によってSトランスフォーム(S TRANSFORM)にガウシアン逆数を乗じ、低周波成分の振幅を持ち上げる処理が施され、フーリエ逆変換で波形を復元できるようになる。
<請求項6記載の発明>
対象面下に存在が予想される空洞を探査する方法であって、
原反射波データをSトランスフォームにより時間周波数解析データへ変換し、少なくともひとつの反射波発生時刻の周波数変換データを時系列反射波データへ逆変換し、該逆変換により復元される反射波データを複数の反射源からの反射信号から成る原反射波データから不要な反射波信号として除去することを特徴とする空洞厚探査方法であって、
該時系列反射波データへの逆変換に際しては、低周波領域のエネルギ値の低下を補うガウシアンカーブの逆数を乗ずる補正をすることを特徴とする天面上方障害反射波除去工程又は空洞天面反射波除去工程のうち少なくともいずれかの一方を用いる空洞厚探査方法。
<請求項7記載の発明>
前記重み関数は、ガウシアンカーブの逆数であることを特徴とする請求項1記載の空洞厚探査方法。
請求項1〜5項記載の発明によれば、空洞天面の位置及び深さ並びに空洞厚を得て、空洞形状により、危険性評価する途が拓ける。施設の保全や空洞危険性の認識管理に有用であり、空洞の三次元形状や容量を危険性判定に利用することもでき、危険性評価精度も格段の向上が可能となる。
空洞天面の形状から空洞下半分の形状を楕円と推定することで空洞の大きさを推定するのでなく実際に探査した形状を元に空洞の大きさや容量を判定することにより、危険性評価精度も格段の向上が可能となる。
このように、同じ単位対象領域について、所定の期間を空けて複数回行い、同一の反射波検出位置における反射波データの時系列比較を行うことにより、当該探査対象領域における対象面下の変化をモニタリングすれば、空洞85の発生はもちろん、成長や上昇の早い空洞等と、遅い空洞等との区別をすることが可能となり、補修の必要性の評価や、補修計画の策定が容易となる。空洞の形状と空洞厚により、空洞の発生、空洞天面の上昇、空洞下面の下降及び空洞厚の成長モニタリングにより、陥没の危険性を評価することも好ましい。
以上のとおり、本発明によれば、電磁波レーダーを使用した空洞厚を含む空洞探査及び対象面下のモニタリングが可能となり、ボーリング孔による物理探査を不要とし、非破壊検査で閉じた形で空洞探査を可能とする。
空洞厚探査方法の工程フローである。
各工程を実現する処理機能図である。
電磁波レーダーの概略図である。
レーダーシステムのブロック図である。
レーダーシステムのセンサ配列例を示す平面図である。
レーダーシステムのセンサ配列例を示す平面図である。
探査車の概略図である。
レーダーシステムの処理プロセスを示す概略図である。
レーダー反射波データの取得概要を示す概略図である。
走行方向縦断面画像、水平断面画像、及び車幅方向縦断面画像の図である。
反射波データの多値化原理を示す説明図である。
空洞候補箇所の検出原理を示す説明図である。
空洞候補箇所の例を示す走行方向縦断面画像である。
周波数解析処理機能図である。
原電磁波反射波入力波形 時間−正規化振幅線図である。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM) 時間−周波数線図である。
時間−エネルギー線図である。
ノイズ信号除去処理機能図である。
t=3.11nsecでの周波数スペクトル(路面反射波)である。
t=3.11nsecでの位相スペクトル(路面反射波)である。
ガウシアン補正関数の周波数−正規化振幅逆数線図である。
補正後の周波数スペクトルである。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換後の路面反射波復元信号である。
路面反射波復元信号除去後の修正原反射波である。
修正原反射波の時間−周波数線図である。
修正原反射波の時間−エネルギー線図である。
t=8.03nsecでの周波数スペクトル(天面反射波)である。
t=8.03nsecでの位相スペクトル(天面反射波)である。
補正後の周波数スペクトルである。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換後の天面反射波復元信号である。
天面反射波復元信号除去後の修正原反射波である。
修正原反射波の時間−周波数線図である。
修正原反射波の時間−エネルギー線図である。
空洞厚算出処理機能図である。
時間差の導出(原信号の時間−正規化振幅図)である。
空洞の寸法及び深度の説明図である。
三次元空洞マップである。
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら詳説する。
請求項1に記載の空洞厚探査方法は、以下のように、電磁波レーダー反射波を使用して実施することが好ましく、天面よりも上方にある反射波のうち天面反射波よりも大きな反射波は空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましく、この典型は路面反射波であって、さらに空洞天面反射波を除去することも空洞下面検出の障害になることが多くこれを除去することも好ましいため、これら実施形態を含む請求項2の実施形態について詳細に記述する。
さて、本発明は、空洞厚探査方法及び対象面下のモニタリング方法に分類できるが、各方法を構成する各工程については、図1に示されるように、
レーダー反射波取得工程、空洞天面検出工程、周波数解析工程、天面上方障害反射波除去工程、空洞天面反射波除去工程、空洞下面検出工程、空洞厚算出工程からなり、
各工程について順に説明する。
<空洞探査対象面>
本発明の対象面Rは、各方法で共通である。陥没の危険性のある場所の表面であれば特に限定されず、例えば道路や滑走路、港湾におけるエプロン、その他の人や乗り物の通行面等の路面の他、物置場等、あらゆる場所の表面を対象とすることができる。また、対象面Rが舗装面(アスファルト舗装、コンクリート舗装等、舗装の種類を問わない)であるか非舗装面であるかは問わない。
<レーダー反射波取得工程>
対象面R下へ電磁波レーダーを照射し、反射波データを取得・記録する工程である。以下、詳細に説明する。本工程では、調査対象エリア・区間から調査ロットである走査対象面下を特定し、全体計画の中で対象面下走査計画を立て、対象面下走査のための機器準備の後、電磁波レーダーを照射し、反射波データをA/D変換し、データコントローラー・システムへ収集しデータ転送し、入力信号データをフレームデータとして記録管理し、深さ方向詳細調査地点を特定した場合にデータを呼び出せる形式でデータを保管準備するデジタルフレームデータ処理機能により処理される。
電磁波レーダーとしては、GSSI社(米国)製の各種電磁波レーダーシステム(例えばSIR3000等)、日本無線社製RCレーダー(例えばハンディサーチNJJ-95B等)、アイレック技建社製のコンクリート構造物の鉄筋探査装置(例えばライトエスパー)、コマツエンジニアリング社製のレーダー探査機(例えばアイアンシーカ)等、公知のものを特に限定無く用いることができるが、送受信センサを多数並設したレーダーシステムが作業効率と精度の点で好ましい。以下、具体例を元に本工程と本工程を実現する機能について説明する。
図3は電磁波レーダーの概略図である。符号aは電磁波の送受信アンテナおよび送受信回路を一体的にケースに組み込んだセンサa、符号cはn個のセンサaを並列に連結してアレイ状としたアレイアンテナ、符号bはアレイアンテナcを構成する各センサaに対して夫々スイッチングにより機能の切り替えを行い、個々に送受信および信号処理を行うようにするコントロールユニットをそれぞれ示している。なお、アレイアンテナcとコントロールユニットbとによりレーダーシステムkを構成している。
レーダーシステムで用いられるセンサaとしては、ステップ波形によるインパルス発信を用いたものであって、周波数が0.1〜1GHzの中心帯域を持つものが好適であり、特に中心周波数を500MHz以下として、探査を行うと波長が長くなることから、ある程度の深度(1.5m程度)まで十分な探査を行うことができる。電磁波は周波数が高くなるにつれて、物体中での減衰が激しくなるが、空洞調査の場合には、調査対象の深度が深いものもあり、中心周波数を500MHzと低めにし、波長を長めに設定し、ある程度の深度(1.5m程度)まで十分な探査を行うことができることとした上で、分解能は10cm程度もたすことが好ましい。
なお、本発明者の知見によれば、砂地盤では空洞の発生し易い深度は60cm程度までであり、また陥没の危険性を考慮する必要がある深度も60cm程度までである。よって、空洞探査の場合、使用する電磁波の周波数をこの深度範囲に適切な周波数、すなわち中心帯域が300〜700MHzの周波数に限定することで、空洞等の検出精度が向上するだけでなく、不必要な深度の探査を行わないため探査効率及び評価効率が向上するようになる。
コントロールユニットbによりコントロールされた各センサaからは、対象面Rから内部に向けて略垂直に電磁波が発振される。そして、対象面R下からの反射波は各センサaに受信される。各センサaで受信された反射波は、コントロールユニットbを介してアナログ信号からデジタル信号に変換されたデータとしてデータ処理装置に出力される。
レーダーシステムkは、より具体的には図4に示すように構成することができる。すなわち、レーダーシステムkにおけるセンサaは送信部Txと受信部Rxとにより構成され、n個のセンサaへの給電は、例えばコントロールユニットbに設けられた電源電池31により供給され、また該電源電池はコントロールユニットb内の各回路に給電される。
n個のセンサaの送信部への送信指令は、スイッチ切り替え制御回路34が第1切り替えスイッチ34aを順次切り替えることにより、順次送信を行うようになっており、この切替のタイミングはタイミング源発振回路33bで発生した数十MHzのクロックパルスにより行われ、例えばタイミングクロックパルスの周期毎に順次スイッチングされ、数μs後にはアレイアンテナのn個のセンサaを一巡する。
各センサaの送信部Txで発信された電磁波は、測定対象物に対して反射と透過を繰り返し、その内部状況を反射信号としてセンサaの受信部Rxで受信する。受信された反射信号は、同期信号発生回路33からの同期信号に従ってサンプリングされ、低周波の受信信号1〜nに変換されて各センサから出力される。各センサから出力された受信信号は、スイッチ切り替え回路34にて、A/D変換回路35およびバッファ36により信号の処理が行われ、第2切り替えスイッチ34bの切り替えにより順次データ処理装置へ出力される。
図5の(a)は、レーダーシステムkが図3に示す単配列状態を示しており、車幅方向(副走査方向)におけるセンサaの間隔をdとすると、この単配列状態の分解能はdとなる。これに対し、図5の(b)に示すように、n列の単配列のアレイアンテナc1を千鳥状にm行配列することにより、このアレイアンテナc2は、m倍の分解能を得ることができ、これにより水平解像度が決定される。そして、単配列時におけるアレイアンテナc1の分解能dに対し、m行配列するアレイアンテナc2は、d/mの分解能となる。また、図5に示すように、センサaをm行×n列に配列したアレイアンテナc3としても良い。この構成では、アレイアンテナc3を移動させることなく一度にm行×n列の範囲で探査を行える。
探査に際しては、作業員がアンテナを逐次移動させながら測定を行っても良いが、図7に示すように、レーダーシステムkを搭載した自動車等の探査車10で対象面Rを走行しながら、対象面Rにおける調査対象領域の全体にわたり、走行方向に所定の間隔を空けて探査を行うのが望ましい。図7に示す探査車10は、レーダーシステムkの他に、光学式距離計(回転式距離計でも良い)11、対象面Rの状況を撮像するためのカメラ12、GPS装置13を搭載しており、これらの出力信号がデータ処理装置14に入力されるように構成されている。データ処理装置14としては、汎用のコンピュータを用いることができる。図示例では、データ処理装置14等の機器を制御するための制御装置15を車両に搭載している。この他、車両には周波数解析処理機能、ノイズ除去処理機能を担うSトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16を搭載し、これらはネットワークで接続されている。ここでSトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16は、デジタル化された信号をデジタル演算処理する独立した装置でも、データ処理装置14と一体のコンピュータシステムでもよいし、アナログ/デジタル信号処理機能を備え、原アナログ信号を直接処理する独立した装置でもよい。
レーダーシステムkにおけるセンサaの配列方向を副走査方向とし、副走査方向および電磁波の発信方向に対して直交する方向を主走査方向とすると、レーダーシステムkの主走査方向は探査車10の走行方向となっており、走行に伴う移動距離は距離計11からデータ処理装置14に対して入力されるようになっている。
図8は、レーダーシステムkを主走査方向に移動させて得られた情報を処理するプロセスを示している。レーダーシステムkは検査対象である対象面R上に支持され、主走査方向に沿って移動される。その際、コントロールユニットbは、例えばn個のセンサa(1,2,・・・・n)を順に駆動し、副走査方向の各位置における反射波データが主走査方向について時々刻々と出力する。つまり、図9に示すように、反射波データ(強度(振幅)及び深度(時間))は、主走査方向に所定の反射波検出間隔(走行方向の位置間隔)で、且つ副走査方向に所定の反射波検出間隔(センサ配列間隔)で定まる各検出位置で取得される。これらの検出間隔は適宜定めることができるが、10cm以下(当然ではあるが0は含まず、0より広い間隔となる)であることが望ましく、例えば1〜5cm程度とすることができる。主走査方向の反射波検出間隔(走行方向の位置間隔)と、副走査方向の反射波検出間隔(センサ配列間隔)とは異ならしめることができ、例えば、前者を1〜5cm程度とし、後者をそれよりも広く、例えば6〜10cm程度とすることができる。
取得される各検出位置40の反射波データ50は、各検出位置40の位置情報と関連付けて、データ処理装置14に内蔵又は接続された図示しない記憶装置に記録される。この際、各検出位置40の位置情報の生データは、主走査方向移動距離及び副走査方向のセンサ配列間隔であるが、必要に応じて三次元座標に変換し、生データと併せて記録することができ、また、反射波データ50は波形データであるが、必要に応じて他のデータとともに記録することができる。
本工程終了時には、地点を指定すると入力信号波データ及び反射波データが時系列に呼出しできるように整理保管されている。
<空洞天面検出工程>
本工程では、空洞推定処理を行う。空洞対象面下の水平断面、走査方向縦断面、横断面画像を保管されているデジタルフレームデータから作成し、空洞位置と天面の広がりと深さを求める空洞推定処理機能により探査する。以下、空洞推定処理機能を交えながら説明する。
前工程の計測により対象面Rにおける調査対象領域の全体にわたり反射波データ50を取得したならば、次いで取得データ50の解析を行うことにより、空洞を検出する。空洞の検出手法は特に限定されず、特許文献3記載の手法も採用することができる他、例えば以下に述べるように対象面R下の断面画像を作成し、この画像を基に空洞を検出することができる。
すなわち、取得データ50に基づいて、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度(振幅)を濃淡で表現した走行方向縦断面画像(図10参照。横軸が走行方向距離、縦軸が深さ。)を作成する。例えば図11に示すように、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度を多値化する。多値化は適宜の手法で行うことができるが、例えば反射波強度0を中央値として正側の上限値70及び負側の下限値71をそれぞれ設定し、強度下限値70から強度上限値71までの反射波強度値の範囲を等分で多段階化(3以上であれば良いが、256や65536程度であると後述の可視化画像の作成上も好適)し、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度が該当する段数を、その位置の多値化反射波強度とすることができる。また、「深度」は、電磁波の伝播速度と、電磁波の送信から反射波の受信までの時間とから求めることができる。そして、図10に示すように、横軸を走行方向距離とし、縦軸を深さとして、各走行方向位置及び各深度の多値化反射波強度の階調を有する単位画素を二次元的に配列することにより、走行方向縦断面画像80を作成することができる。なお、図10中の各画像の十字線は画像間の対応位置を示すものである。この走行方向縦断面画像80は、車幅方向の全ての反射波検出位置40について作成する他、いずれか一つ(例えば車幅方向中央)又は複数(例えば車幅方向両端部と中央部の三か所等)のみ作成しても良い。走行方向縦断面画像80は、反射波データ50取得のための車両走行中にリアルタイムに作成しても良いし、反射波データ50を取得後にまとめて作成しても良い。また、本発明の知見によると、空洞は60cm以浅に多く、深い位置にある空洞は陥没の原因となり難いため、所定深さ(1.5m等)以浅に限定して走行方向縦断面画像80を作成するのも一つの好ましい形態である。
走行方向縦断面画像80だけでは、空洞判別は困難であるため、例えば図10に示すように任意の深度における反射波強度を濃淡で表現した水平断面画像90や、任意の走行方向位置における車幅方向縦断面画像100を作成し、これら画像80,90,100から総合的に判断することが望ましい。これら水平断面画像90及び車幅方向縦断面画像100は例えば前述の走行方向縦断面画像80と同様の方法により作成することができる。すなわち、水平断面画像90は、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度を多値化し、横軸を走行方向距離とし、縦軸を車幅方向距離とし、目的の深さにおける各位置の多値化反射波強度の階調を有する単位画素を二次元的に配列することにより作成することができる。また、車幅方向縦断面画像100は、各反射波検出位置40における各深度の反射波強度を多値化し、横軸を車幅方向距離とし、縦軸を深さとし、目的の走行方向位置における各位置の多値化反射波強度の階調を有する単位画素を二次元的に配列することにより作成することができる。これらの画像90,100を作成する場合、位置が異なる空洞が複数ある場合には、空洞ごとに画像90,100を作成することができる。また、もちろん空洞と異なる任意の位置でも画像90,100を作成することができる。
空洞を探す場合、先ず縦断面画像80,100を用いることが望ましい。例えば縦断面画像80,100では反射波が正極性で周囲よりも強度の強い部位(以下、強信号部位ともいう)、つまり図示例では白い層状の部分の下側に黒い層状の部分が重なる部位81が、空洞である可能性が高い。よって、この強信号部位81を空洞として検出することができる。図12は、通常のアスファルト舗装面下の層構造、反射波極性、及び走行方向縦断面画像80の関係の一例を示した比較図である。この例では、空洞の無い場所では、図12(a)に示すように下層へ向かうに従い比誘電率εrは大きくなり、対象面R及び層間の反射波は負極性(画像では黒から白)を示すのに対して、空洞のある場所では、図12(b)に示すように、空洞部位の比誘電率εrが最も小さくなり、空洞の天面で電磁波が正極性で反射し(画像では白から黒)、空洞天面の形状が現れる。
空洞を探すときには、反射極性及び反射波強度以外に、強信号部位81の形状も参考となる。例えば図13(a)に示すくさび形(又はドーム形)の強信号部位81は、空洞部位に発生するもののうち最も一般的なものである。この形状は、独立空洞がドーム形状を有することが多いことに起因している。これに対し、図13(b)に示す断続的な強信号部位81は多条管の上部やコンクリート版の撤去際における空洞に多く発生するものであり、図13(c)に示す強信号部位81は、構造物脇における圧密沈下に起因する空洞で発生するものである。また、図13(d)に示す強信号部位81は、舗装構造の変化点(打換箇所等)における空隙で発生するものである。よって、強信号部位81の形状と、これらの形状との一致性を評価して、一致する場合には空洞として検出することができる。
このように縦断面画像に基づいて強信号部位81を発見したら、次に強信号部位81における水平断面画像90に基づき、強信号部位81の形状と管等の埋設物の形状との一致性を評価して、一致しない場合にのみ空洞として検出するのも好ましい。これにより、反射極性だけでは区別し難い埋設物と空洞とを判別することができる。特にこのような水平断面画像90を作成する場合、反射波検出を10cm以下という細かい間隔で行うと、管等の埋設物の形状がはっきりと表れるため、空洞と埋設物との違いを見分け易い。また、対象面R下に埋設物があると、その周囲に空洞が発生する可能性が高いため、図43に示すように、埋設物122の強信号部位82に接する又は重なる強信号部位81を検出した場合、空洞85の可能性は極めて高いものと判断することができる。以上に述べた空洞天面検出工程は、作業員が目視で行うことができるが、コンピュータ(前述のデータ処理装置14でも良く、別のものでも良い)により取得データを直接情報処理することにより行っても良く、その場合には画像を生成する必要はない。
以上のように本工程では、前工程で記録・保存されたレーダー反射波の内容を分析することにより空洞天面の反射波信号から空洞の存在推定箇所を検出し、記録する。この推定空洞の路面位置(地点位置)と空洞天面の深さ及び電磁波到達時間を推定空洞情報として記録する。その地点の垂直下の電磁波レーザー反射波入力信号に対して、次の工程で周波数解析を行う。
<周波数解析工程(天面上方障害反射波解析)>
前工程で空洞推定路面位置と天面深さが推定空洞情報として記録されている。その一つの空洞の路面水平射影位置から複数を選定すれば空洞厚と合わせ空洞の形状をモデル化できる。選定された路面位置の反射波データを入力とし、本工程では、天面上方で発生する反射波のうち以後の工程で障害となる反射波(以下で障害反射波と呼ぶ)を除去するための周波数解析を実施する。
解析対象位置での空洞天面深さと電磁波到達時間も前工程で記録されているので、これら情報を用い、分析対象を特定する。
舗装面等の路面での反射波は最も強度が大きい。そのためにその二次反射波が他の経路を経て空洞下面の反射波信号と混信する等、これらに比して微弱な空洞下面の反射波の受信の障害となる。そこで、これら空洞下面の検出には不要な信号を除去するために、除去する信号の周波数特性を解析する。
図14に本工程の周波数解析処理機能ブロック図を示す。図7、図9のレーダーシステムkにて入力反射波信号を受信後、データ処理装置14にデジタル信号保存されている該信号の空洞天面位置に該当するところの時系列信号を取り出し、解析対象推定空洞路面位置、天面深さ(天面反射時刻)読込みステップを実行する。
次に、解析対象地点の波形 時間−振幅 チャート作成ステップで入力信号を確認する(図15)。ここで、振幅は、最大振幅値で正規化され、以後、この正規化振幅値を基準に検討が進められる。
Sトランスフォーム(S TRANSFORM) 時間−周波数チャート作成ステップへ進み、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16へ反射波原データ(図15)を入力処理したものを、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)変換すると、図16に示す、時間−周波数分析グラフを得る。
図16を作成するにあたり、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16で行われる演算の数理の説明のため、離散Sトランスフォーム(S TRANSFORM)、式(9)、(10)を再掲すると、
式(9)
・・・・式(9)
n=0では、
式(10)
・・・・式(10)
である。ここで、サンプリング数N=256、サンプリング時間間隔T=0.16nsecである。
時間−エネルギーチャート作成ステップへ進み、時間−エネルギー図17を作成する。ここでエネルギーは、以下による。
式(12)
・・・・式(12)
こうして、原信号のSトランスフォーム(S TRANSFORM)値からエネルギー分布を離散式(12)で算出し、ピーク点を決定することで、反射波の生ずる境界面を特定することができる。問題は、反射波を生ずる境界面が、我々の関心がある空洞面かどうかであるが、空洞天面に限らず、舗装面の下部構造からも地層の境界面、地表近くの埋設物からも反射は生じ得る。
解析対象面の特定ステップへ進み、空洞天面深さに相当する時間以前に発生しているエネルギー・ピーク値が空洞天面で生じているピークよりも高いピークを選択し、その時間で発生している周波数スペクトルを与える波形を除去すべき反射波として特定する。本実施形態は、この反射波は路面反射波であるが、実際には、路面反射波には限られず、地層境界での反射波の場合等様々な因子で反射波は観測され得る。必ずしも空洞天面で生じているピークより低い反射波が空洞下面で生じる反射波の検知に障害とならないわけではないが、少なくとも空洞天面で生ずる反射波は、空洞下面よりもクリアな境界面を構成していることと、空洞下面に近接するところに位置し、空洞下面の反射波検知の障害となっていることから、空洞天面で生じているピークよりも高いピーク値を有する空洞天面の上方で生ずる反射波についても、該反射波を除去することには意義がある。
解析対象面からの反射波受信時刻を特定するステップへ進み、反射波エネルギー・ピークが示す時間を解析対象面からの反射波受信時刻として時間−エネルギー図から特定する。図17では、3.11nsecである。
以上の処理を終えると、反射波のノイズ信号除去処理をする準備が完了する。
<天面上方障害反射波除去工程>
前工程で特定された天面より上方で発生し、空洞下面検出の障害となる反射波を除去する工程である。
前工程で対象の反射波が発生する時間が3.11nsecと特定されている。その時刻の振幅スペクトル、位相スペクトルを反射波データから作成する。
図18には、本工程で使用するノイズ信号除去処理機能ステップを示し、路面で発生する反射波を除去する例を図19から図23で示す。
ここでは、フーリエ逆変換により、除去対象面からの反射波を復元するために該反射波受信時刻の周波数スペクトルを元に原波形を復元するステップに進む。
前工程で調査している除去対象の反射波が発生する時刻での振幅スペクトル(図19)、位相スペクトル(図20)から原波形をフーリエ逆変換により復元する。ここで、ある時間軸のみのデータからフーリエ逆変換をすると、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)の窓関数であるガウシアンの作用により、低周波成分が広く分散したものとなることを発明者は見出し、その補正も発明している。その補正には、ガウシアンの逆数(図21)を補正係数B(f)として作用させることが有効なのである。
もう一度、連続Sトランスフォーム(S TRANSFORM)式に戻ると、
式(7)
・・・・式(7)
であった。ここで、窓関数として、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)では、次式で表現されるガウシアンを採用している。
式(13)
・・・・式(13)
補正係数は、式(13)から
式(14)
・・・・式(14)
式(14)に式(13)を代入し、
式(15)(ガウス積分の公式)
・・・・式(15)
を代入して、
式(16)
・・・・式(16)
式(16)の離散形式は、
式(17)
・・・・式(17)
f=0の場合、式(16)、(17)は、以下となる。
B(0)=0
結局、時刻jTの周波数スペクトル及び位相スペクトルから補正係数を考慮して原波形を復元するには、以下の離散式を用いる。
式(18)
・・・・式(18)
こうして、異なる原因から発生している複数の非定常波の重畳波から一つの非定常波の周波数スペクトルを取り出し、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)逆変換しミキシングにより減算し、当該原因から生ずる非定常波を除去し、その原波形よりも微弱な原波形の構成要素を分析するための逆変換処理方法が確立された。
図22には、ガウシアンの逆数を乗じて振幅スペクトルを補正したものを示す。
結局、純粋なSトランスフォーム(S TRANSFORM)後の振幅スペクトル(図19)、位相スペクトル(図20)から原波形を復元するのではなく、補正された振幅スペクトル(図22)、位相スペクトル(図19)から原波形をフーリエ逆変換により復元することとなる。
図23は、この操作により復元した路面の反射波の時系列データである。
図24は、原波形時間−振幅 チャート呼出ステップで得た原反射波波形から、復元した路面の反射波を減じミキサー処理後原波形データ再構成ステップで除去後の原波形を再構成したものである。
こうして、天面上方で発生している反射波、実施例では路面での反射波をノイズとして除去した後の修正された原波形が得られる。この工程を空洞天面上方、すなわち空洞天面からの反射波が受信されるよりも原点側にエネルギー・ピークが得られる限り、繰返し、最終的には、空洞天面と空洞下面の反射波が含まれるという修正された原波形データが得られる。この修正された原波形時系列データを残余の原波形データという。
<周波数解析工程(空洞天面反射波解析)>
前工程の処理を空洞天面での反射波について、同様の処理実施することで空洞天面の反射波を除去することができる。前工程で得られた路面反射波除去後の残余原波形データ(図24)に同様の処理を施す。
以下は、周波数解析工程(天面上方障害反射波解析)の天面版である。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)時間−周波数チャート作成ステップへ進み、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置16へ残余の原反射波データ(図24)を入力処理したものを、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)変換すると、図25に示す、時間−周波数分析グラフを得る。
時間−エネルギーチャート作成ステップへ進み、時間−エネルギー図26を得る。
解析対象面の特定ステップへ進み、空洞天面深さに相当する時間以前に発生しているエネルギー・ピーク値が空洞天面で生じているピークよりも高いピークを選択し、その時間で発生している周波数スペクトルを与える波形を除去すべき反射波として特定する。ここでは、すでに天面の他に該当するものはなく、天面反射波が除去すべき反射波である。
解析対象面からの反射波受信時刻を特定ステップへ進み、反射波エネルギー・ピークが示す時間を解析対象面からの反射波受信時刻として特定する。天面の場合には、すでに検出工程で検知されている時刻に相当する。ここでは、8.03nsecである。
<空洞天面反射波除去工程>
天面で発生する反射波を除去する例を図27から図31で示す。
本工程で使用するノイズ信号除去処理機能ステップは前と同様、図18と同じである。
ここでは、まず、フーリエ逆変換、除去対象面からの反射波を復元するために該反射波受信時刻の周波数スペクトルを元に原波形を復元するステップに進む。
前工程で調査している除去対象の反射波が発生する時刻8.03nsecでの振幅スペクトル(図27)、位相スペクトル(図28)から原波形をフーリエ逆変換により復元する。ここで、ある時間軸のみのデータからフーリエ逆変換をすると、Sトランスフォーム(S TRANSFORM)の窓関数であるガウシアンの作用により、低周波成分が広く分散したものとなることを発明者は見出し、その補正も発明したことは既述である。その補正には、ガウシアンの逆数(図21)を補正係数として作用させることが有効であることに変わりない。
図29には、ガウシアンの逆数を乗じて振幅スペクトルを補正したものを示す。
結局、補正された振幅スペクトル(図29)、位相スペクトル(図28)から原波形をフーリエ逆変換により復元することとなる。
図30は、この操作により復元した天面の反射波(図30の実線)である。
図31は、原波形時間−振幅 チャート呼出ステップで得た路面反射波の復元波を除去後の残余の原反射波波形(図24)から、本工程で復元した天面の反射波(図30)を減じミキサー処理後原波形データ再構成ステップで除去後の原波形(図31)を再構成したものである。図31は、路面及び天面の反射波を復元した時系列データを原反射波から除去した後の残余の修正原反射波時系列データ線図である。
このようにして天面での反射波をノイズとして除去した後の修正された原波形が得られる。この工程後には、空洞天面上方、すなわち空洞天面からの反射波が受信されるよりも原点側にエネルギー・ピークは得られないから、空洞下面の反射波を検定する段取りが整った。
<空洞下面検出工程>
空洞天面からの反射波も含め、すべての障害となる反射波を除去した後に、残余の修正原波形に対して同様の手順を実施する。Sトランスフォーム(S TRANSFORM)を施し、時間―周波数線図32、時間―エネルギー線図33を求め、空洞下面の反射波のピークを与える時間が空洞天面反射波が生ずるときである。図33では、10.98nsecである。
こうして、空洞下面の検出に成功した。空洞下面は10.98ns後に反射波が発生する箇所にあると判定する。
<空洞厚算出工程>
図34は、空洞厚算出処理の処理ステップを示す。図35の時系列線図に示すように、空洞下面反射時刻と空洞天面での反射時刻との差分を求め、空洞天面から下面への電磁波到達時間差を得、
空洞厚=時間差 X 電磁波速度 ステップにより、天面反射から下面反射までの時間差をΔt、空気中の電磁波速度c、比誘電率を
式(19)
として
式(20)
・・・・式(20)
より、空気の比誘電率と電磁波速度から空洞厚を算出することに成功する。ここでは、空気の比誘電率=1,電磁波速度c=0.2998m/nsec,時間差測定値、2.95nsecから、空洞厚は、44cmとなる。
このように空洞厚が測定できるようになれば、空洞を例えば1cm単位のメッシュの離散点で特定し、各離散点での空洞厚を本発明の手法により測定することとすれば、各離散点から曲面を補間することで空洞形状を形成することができる。離散点のメッシュは、電磁波レーダーの測定メッシュが最高レベルであるが、楕円体形状のように空洞の形状の特異性が弱ければ、必ずしも最高レベルのメッシュでの測定が必須というわけではない。
空洞形状を把握できれば、複数の空洞の位置関係と空洞形状とのコンビネーションから生ずる危険の認識も可能となるし、同じ天面としてもその下方で空洞がどのように形成されているかをリアルに認識することができる。
例えば、空洞の体積等の新たな情報も空洞危険性の評価項目に追加することも可能となるし、観察される幾多の空洞形状を分析し、空洞をパターン分類し、各分類にしたがって危険性を統計解析する等様々な評価の道筋が拓ける。
本発明により空洞厚の把握が可能となれば、陥没危険性評価では、空洞天面の属性と空洞下面の属性とこれらから構成される空洞厚又はこれらからモデリングされる空洞形状により、評価する途が拓ける。例えば、図36に示すように空洞天面の寸法W、天面の深度P、空洞厚T及び空洞下面の深度P’を求める。地下に存する埋蔵物や土質等の諸要素により、天面より下の空洞の形状は様々であって、必ずしも天面の形状のみからでは空洞全体の形状が特定できないが、本発明では、空洞天面の寸法W、天面の深度P、空洞厚T及び空洞下面の深度P’を測定し、天面と空洞下面情報を元に空洞の危険性を評価する途を拓く。空洞天面が深くても、下面が深ければ危険性が高く評価されるという具合に空洞天面の深さと空洞天面の形状及び空洞厚とから総合的に危険性を評価したり、さらに、空洞の形状と位置や水平垂直射影面積、体積等の空洞の多面的な量的属性からも危険性の評価を可能とする。
陥没は空洞上側の層の崩落により発生するため、前述のとおり空洞天面の寸法Wが大きいほど陥没が発生し易くなるが、これら空洞の端面属性、空洞の水平射影面積のみならず空洞体積や空洞厚を活用することができるため、これまでとは、別の算定方法により危険因子を採用することが可能となる。例えば、空洞の寸法Wとしては、空洞85の形状を楕円近体似したときの断面の短辺Wを水平射影面積を元に算出したり、空洞体積と楕円体近似される形状の一部情報から、回転楕円体寸法を算出する等の新たなパラメータ判定をする途も提供する。
また、空洞の調査計画や補修計画を立てるためには、陥没の危険性の全体像を地域等のレベルで把握することが望ましい。そこで、前述の陥没の危険性の評価結果に基づき、図37に示すように、三次元で空洞を可視化し、例えば一つのレイヤーを地上レイヤーとして地下空洞の地理情報と関連付けをすると、通常の地図(航空写真や、地図と航空写真若しくはその他の写真との組み合わせでも良い)上の道路表示部等の地理的位置の陥没の危険性を表示した陥没危険性マップをこのレイヤーで表示することができ、さらに、地下地層に発生する空洞を地層レイヤーとして空洞厚を含む三次元空洞マップを地下に拡がる三次元マップとして提供するも、加えて、ガス配管、水道配管、電話線共同構等の地下構造物のレイヤーを含むように様々な観点で地中の三次元マップを構成することも可能となる。地下空洞の空洞厚が把握できるようになれば、三次元地下マップを提供し、個々の空洞やその成長を任意の仮想視点からのビューや、任意の断面スライス図として提供し、危険性判定の精度を上げる途を拓くことができる。
本発明は、道路や滑走路、港湾におけるエプロン、その他の人や乗り物の通行面等の路面、物置場等、あらゆる場所の表面下で発生する空洞について、電磁波レーダーを使用した空洞探査の実施にあたり、ボーリング孔による物理探査を不要とし、非破壊検査という閉じた形で空洞探査を可能とするものであり、かつ、対象面下の空洞の下方も含めたすべての方向への成長のモニタリングを可能とし、対象面の保全に革新をもたらす新しい空洞厚探査方法を提供する。
P…空洞天面の深度、P’…空洞下面の深度、R…対象面、W…空洞天面の寸法、a…センサ、k…コントロールユニットbを含む電磁波レーダーシステム、10…探査車、11…光学式距離計、12…カメラ、13…GPS装置、14…データ処理装置、15…制御装置、16…Sトランスフォーム(S TRANSFORM)処理装置、40…反射波検出位置、50…反射波データ、80…走行方向縦断面画像、85…空洞、90…水平断面画像、100…車幅方向縦断面画像。