JP2015196844A - 緩冷却鋼材 - Google Patents

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Abstract

【課題】同じ化学組成を有する従来のホットスタンプ鋼材よりも低い強度を有し、かつ、りん酸塩処理性に優れる緩冷却鋼材を提供する。
【解決手段】本実施形態による緩冷却鋼材は、母材部と、亜鉛めっき層とを備える。亜鉛めっき層は、母材部上に形成される。亜鉛めっき層は、亜鉛めっき層中の面積率が30%以上のラメラ層と、亜鉛めっき層中の面積率が0〜70%の固溶体層とを含む。ラメラ層は、固溶体相とキャピタルガンマ相とを備える。固溶体相は、Feと、Feに固溶したZnとを含有する。固溶体層は、固溶体相からなる。
【選択図】図2

Description

本発明は、加熱されて後、緩冷却して製造される緩冷却鋼材に関する。
自動車等に用いられる構造部材を高強度にするために、ホットスタンプにより構造部材を製造する場合がある。ホットスタンプでは、Ac3点以上に加熱された鋼板を、金型でプレスしつつ、金型で鋼板を急冷する。つまり、ホットスタンプでは、プレス加工と焼入れとを同時に行う。ホットスタンプにより、形状精度が高く、高強度の構造部材を製造できる。このようなホットスタンプ鋼材はたとえば、特開2003−73774号公報(特許文献1)及び特開2003−129209号公報(特許文献2)及び特開2003−126921号公報(特許文献3)に開示されている。これらの特許文献に開示されるホットスタンプ鋼材は、耐食性を高めるために、亜鉛めっき層を有する鋼板に対してホットスタンプを実施して製造される。
特開2003−73774号公報 特開2003−129209号公報 特開2003−126921号公報
ホットスタンプ鋼材の降伏強度は1500MPa程度以上と高い。しかしながら、自動車用部材の中には、強度よりも、衝突時における衝撃吸収性が要求される部材もある。衝撃吸収性を高めるには、一般的に強度が低い材料の方が好ましい。したがって、ホットスタンプでの焼入れにより1500MPa程度以上の降伏強度が得られるホットスタンプ鋼材と同じ化学組成を有していても、600〜1450MPa程度の強度を有し、かつ、耐食性に優れたホットスタンプ鋼材が求められる。
さらに、ホットスタンプ鋼材では、りん酸塩処理により形成されるりん酸塩皮膜が付着しやすい(つまり、りん酸塩処理性が高い)方が好ましい。自動車等に利用される鋼材の表面は塗装される場合がある。りん酸塩処理性が高い場合、塗膜密着性も高まる。
したがって、従前のホットスタンプ鋼材と同じ化学組成を有していても、高い衝撃吸収性を有し、かつ、りん酸塩処理性が高いホットスタンプ鋼材が求められる。
本発明の目的は、同じ化学組成を有する従来のホットスタンプ鋼材よりも高い衝撃吸収性を有し、かつ、りん酸塩処理性に優れるホットスタンプ鋼材を提供することである。
本実施形態による緩冷却鋼材は、母材部と、亜鉛めっき層とを備える。亜鉛めっき層は、母材部上に形成される。亜鉛めっき層は、亜鉛めっき層中の面積率が30%以上のラメラ層と、亜鉛めっき層中の面積率が0〜70%の固溶体層とを含む。ラメラ層は、固溶体相とキャピタルガンマ相とを備える。固溶体相は、Feと、Feに固溶したZnとを含有する。固溶体層は、Feと、Feに固溶したZnとを含有する固溶体相からなる。
本実施形態による緩冷却鋼材は、同じ化学組成を有する従来のホットスタンプ鋼材よりも低い強度を有し、かつ、りん酸塩処理性に優れる。
図1は、加熱後の冷却時での保持温度とビッカース硬さとの関係を示す図である。 図2は、加熱後の鋼材を600℃で2分保持し、その後急冷した場合の、亜鉛めっき層及びその周辺の母材部の断面写真画像である。 図3は、図2の亜鉛めっき層のXRD測定結果を示す図である。 図4は、加熱後の鋼材を放冷した場合の、亜鉛めっき層及びその周辺の母材部の断面写真画像である。 図5は、図4の亜鉛めっき層のXRD測定結果を示す図である。 加熱後に、50℃/秒以上の冷却速度で急冷した場合(つまり、ホットスタンプ成形後)の、亜鉛めっき層及びその周辺の母材部の断面写真画像である。 図7は、図6の亜鉛めっき層のXRD測定結果を示す図である。 図8は、600〜500℃の中間温度域での保持時間と、XRDにより検出される、高Zn固溶体層(20〜40%のZnが固溶したFe)のピーク強度比との関係を示す図である。 図9は、Fe−Znの二元系状態図である。 図10は、実施例における冷却中において、保持温度600℃で2分間保持された緩冷却鋼材に対して上述のりん酸塩処理を実施した後の、緩冷却鋼材表面のSEM画像である。 図11は、図10のSEM画像を2値化した画像である。 図12は、50℃/S以上の冷却速度で急冷したホットスタンプ鋼材に対してりん酸円処理を実施した後の、ホットスタンプ鋼材表面のSEM画像である。 図13は、図12のSEM画像を2値化した画像である。
本発明者らは、ホットスタンプ鋼材にの衝撃吸収性及びりん酸塩処理性について検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
上述のとおり、ホットスタンプ鋼材の強度が低ければ、衝撃吸収性が高まる。ホットスタンプ鋼材は上述のとおりプレスしながら焼入れが実施される。そのため、母材はマルテンサイトで構成され、強度が高い。しかしながら、加熱後に急冷せず、緩冷却を実施すれば、母材のミクロ組織はマルテンサイト以外の構造(フェライト、パーライト、ベイナイト等によって構成される組織)になる。この場合、鋼材の強度は低くなる。
図1は、鋼板を加熱後に種々の冷却条件で冷却した場合の、母材のビッカース硬さを示す図である。図1は次の方法により得られた。後述する好ましい化学組成を満たす母材(鋼板)を準備した。溶融亜鉛めっき法により、鋼板上に亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっき層が形成された鋼板に対して、緩加熱した後、種々の冷却条件で冷却した。具体的には、鋼板を鋼板のAc3点以上の温度である900℃に炉温を設定した加熱炉に装入して、4分以上加熱した。このとき、炉に装入してから2分程度で鋼板温度が900℃となった。その後、10秒間放冷した後に、保持温度500℃に設定した炉内に配置したブロックで鋼板を2分間挟み込んだ。その後、水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して、鋼板を挟み込んで室温まで急冷した。
図1中の鋼材S2では、保持温度を600℃に設定した炉内に配置したブロックで鋼板S2を2分間挟み込んだ。その他の条件は鋼材S1と同じとした。鋼材S3は、加熱後に放冷した。鋼材S4では、ホットスタンプを実施した。具体的には、水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して、鋼板を挟み込んでプレス加工及び焼入れを行い、ホットスタンプ鋼材(鋼板)を製造した。
製造された鋼材S1〜S4の板厚中央部からサンプルを採取した。サンプルの表面のうち、鋼材の板厚方向の表面において、JIS Z2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。ビッカース硬さ試験の試験力は10kgf=98.07Nとした。得られたビッカース硬さを用いて、図1を作成した。
図1を参照して、緩冷却を実施して製造された緩冷却鋼材S1〜S3では、ホットスタンプ鋼材S4と比較して、ビッカース硬さが低かった。
以上の結果から、上記の緩冷却を実施すれば、鋼材の降伏強度を低くすることができ、衝撃吸収性を高めることができる。
さらに、亜鉛めっき層を含む鋼材に対して、冷却時において、600〜500℃の温度域(以下、中間温度域という)での保持時間を一定時間保てば、亜鉛めっき層中に面積率で30%以上のラメラ層が形成され、りん酸塩処理性が高まる。
図2〜図7は、種々の条件で緩冷却を実施した後の、鋼材の亜鉛めっき層及びその周辺の断面写真画像と、XRD測定結果である。これらの結果は次の試験方法により得られた。
後述の化学組成を満たす鋼板を準備した。溶融亜鉛めっき法により、鋼板上に亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっき層が形成された鋼板に対して、緩加熱を実施した。具体的には、鋼板のAc3点以上の温度である900℃に炉温を設定した加熱炉に装入して、4分以上加熱した。このとき、炉に装入してから2分程度で鋼板温度が900℃となった。加熱後の鋼板を種々の冷却条件で冷却した。
具体的には、所定温度で2分間保持し、その後急冷するステップ緩冷却、又は、放冷を実施した。さらに、プレスしながら50℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却する急冷(ホットスタンプ)も実施した。ステップ緩冷却は、次の方法で実施した。加熱後の鋼材を10秒間放冷した後、保持温度(300〜600℃の範囲内の一定温度)で2分間保持した。2分間保持した後、鋼材を水冷ジャケットを備えた平板金型で挟み込んで急冷した。
図2は、保持温度600℃でステップ緩冷却を実施した鋼材の亜鉛めっき層及びその周辺の断面部の写真画像であり、図3は、そのXRD測定結果である。図4は、大気放冷後の鋼材の亜鉛めっき層及びその周辺の断面部の写真画像であり、図5はそのXRD測定結果である。図6は、ホットスタンプ(急冷)後の鋼材の亜鉛めっき層及びその周辺の断面部の写真画像であり、図7は、そのXRD測定結果である。
断面部のミクロ組織観察は次のとおり実施した。断面部を5%ナイタールで20〜40秒エッチングした。エッチング後、2000倍のSEMでミクロ組織を観察した。XRD測定には、Co管球を用いた。XRDにおいて、α−Feの強度ピークは、回折角2θ=99.7°に現れる。α−Feの強度ピークは、Zn固溶量が多くなるほど、低角度側にシフトする。キャピタルガンマ(Γ)の強度ピークは、回折角2θ=94.0°に現れる。図3、図5及び図7中の破線L4はα−Fe相の強度ピーク位置を示す。破線L3は固溶Zn量が少ない固溶体相(Zn含有量が5〜25質量%、以下、低Zn固溶体相ともいう)の強度ピーク位置を示す。破線L2は固溶Zn量が多い固溶体相(Zn含有量が25〜40質量%、以下、高Zn固溶体相ともいう)の強度ピーク位置を示す。破線L1はΓ相の強度ピーク位置を示す。強度ピーク位置が破線L4からL2にシフトするにしたがって、固溶体相中のZn固溶量が多くなる。
ミクロ組織観察及びXRD結果に基づいて、各焼戻し温度における亜鉛めっき層の組織を特定した。
600℃でのステップ緩冷却の場合、図3中の破線L3位置に低Zn固溶体相の強度ピークが現れ、破線L1にΓ相の強度ピークが現れた。図2を参照して、この温度域でのステップ緩冷却では、亜鉛めっき層の主体は、Γ相と低Zn固溶体相とからなるラメラ組織の層(以下、ラメラ層という)であった。ラメラ層は、固溶体層上に形成された。つまり、ラメラ層は亜鉛めっき層の表層に形成された。
500〜600℃でのステップ緩冷却を実施した結果、亜鉛めっき層は、面積率で30%以上のラメラ層と、面積率で0〜70%の固溶体層(高Zn固溶体相からなる)とを含有した。500℃未満の温度域でステップ緩冷却を実施した場合、亜鉛めっき層中のラメラ層は30%未満であった。
放冷の場合も、500〜600℃でのステップ緩冷却と同様の結果が得られた。図5中の破線L3位置に低Zn固溶体相の強度ピークが現れ、破線L1にΓ相の強度ピークが現れた。図4を参照して、放冷の場合も、亜鉛めっき層の主体はラメラ層であった。放冷の場合、500〜600℃の温度域(中間温度域)の保持時間は5秒以上であった。
一方、ホットスタンプ鋼材(急冷)の場合、図6及び図7に示すとおり、亜鉛めっき層では、強度ピーク位置がL2である高Zn固溶体相からなる固溶体層が形成され、ラメラ層は形成されなかった。急冷時における中間温度域(500〜600℃)の保持時間は2秒未満であった。
以上のとおり、冷却条件、特に、中間温度域での保持時間に基づいて、亜鉛めっき層の組織は変化した。そこで、各冷却条件で冷却された鋼材のりん酸塩処理性を調査した。その結果、亜鉛めっき層が面積率で30%以上のラメラ層を含む場合、優れたりん酸塩処理性が得られた。
本実施形態の緩冷却鋼材は、以上の知見に基づく。本実施形態による緩冷却鋼材は、母材部と、亜鉛めっき層とを備える。亜鉛めっき層は、母材部上に形成される。亜鉛めっき層は、ラメラ層と、固溶体層とを含む。ラメラ層は、固溶体相及びキャピタルガンマ相とからなる。固溶体相は、FeとFeに固溶したZnとを含有する。亜鉛めっき層中のラメラ層の面積率は30%以上である。固溶体層は、固溶体相からなる。亜鉛めっき層中の固溶体層の面積率は0〜70%である。
本実施形態による緩冷却鋼材の母材部上にはラメラ層を含む亜鉛めっき層が形成される。鋼材を急冷した場合、ラメラ層は形成されない。したがって、母材部の強度は、急冷された同じ化学組成のホットスタンプ鋼材と比較して低い。そのため、高い衝撃吸収性が得られる。
本実施形態による緩冷却鋼材ではさらに、亜鉛めっき層が面積率で30%以上のラメラ層を含む。そのため、優れたりん酸塩処理性が得られる。
亜鉛めっき層はラメラ層からなっていてもよい。
以下、本実施形態の緩冷却鋼材について詳述する。
[緩冷却鋼材]
本実施形態による緩冷却鋼材は、母材部と、亜鉛めっき層とを備える。
[母材部]
母材部は母材の一部であってもよいし、母材全体であってもよい。母材は鋼材であり、たとえば鋼板を熱間プレスすることにより形成される。上述のとおり、母材部上の亜鉛めっき層内にはラメラ層が形成される。ラメラ層は、母材が熱間プレス後に緩冷却されることにより形成される。したがって、本実施形態の母材部は急冷されない。そのため、母材部強度が低い。具体的には、最高焼入れ硬さ(母材部を急冷してフルマルテンサイトとした場合の最高硬さ)の85%以下である。母材部は、同じ化学組成を有し、マルテンサイトからなるホットスタンプ鋼材と比較して、低い強度を有する。その結果、高い衝撃吸収性が得られる。
好ましくは、母材である鋼材は次の化学組成を有する。以下、元素に関する「%」は、質量%を意味する。
C:0.05〜0.4%
炭素(C)は、鋼材の強度を高める。C含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、鋼板の靭性が低下する。したがって、C含有量は、0.05〜0.4%である。C含有量の好ましい下限は0.10%である。C含有量の好ましい上限は0.35%である。
Si:0.5%以下
シリコン(Si)は不可避的に含有される。Siは鋼を脱酸する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、熱間プレス時において、加熱中に鋼中のSiが拡散し、鋼板表面に酸化物を形成する。酸化物はりん酸塩処理性を低下し得る。Siはさらに、鋼板のAc3点を上昇させる働きがあり、Ac3点が上昇すると熱間プレス時の加熱温度が、Znめっきの蒸発温度を超えてしまう。したがって、Si含有量は0.5%以下である。好ましいSi含有量の上限は0.3%である。Si含有量の好ましい下限は、0.05%である。
Mn:0.5〜2.5%
マンガン(Mn)は、鋼材の強度を高める。Mn含有量が低すぎれば、その効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。したがって、Mn含有量は0.5〜2.5%である。Mn含有量の好ましい下限は0.6%である。Mn含有量の好ましい上限は2.4%である。
P:0.03%以下
りん(P)は鋼中に含まれる不純物である。Pは粒界に偏析して鋼の靭性を低下し、耐遅れ破壊性を低下する。したがって、P含有量は0.03%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
S:0.01%以下
硫黄(S)は鋼中に含まれる不純物である。Sは硫化物を形成して鋼の靭性を低下し、耐遅れ破壊性を低下する。したがって、S含有量は0.01%以下である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
sol.Al:0.1%以下
アルミニウム(Al)は一般的に鋼の脱酸目的で使用されることが多く、その場合不可避的に含有される。Alは鋼を脱酸する。一方、Al含有量が高すぎれば、脱酸は十分となるが、Al含有量が高すぎればさらに、鋼材のAc3点が上昇して、熱間プレス時の必要な加熱温度がZnめっきの蒸発温度を超える。したがって、Al含有量は0.1%以下である。Al含有量の好ましい上限は0.05%である。Al含有量の好ましい下限は0.01%である。本明細書におけるAl含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
N:0.01%以下
窒素(N)は鋼中に不可避的に含まれる不純物である。Nは窒化物を形成して鋼の靭性を低下する。Nはさらに、Bが含有される場合、Bと結合して固溶B量を減らす。その結果、焼入れ性が低下する。したがって、N含有量はなるべく低い方が好ましい。N含有量は0.01%以下である。
本実施形態の鋼材の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。本明細書において、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入するものを意味する。
本実施形態による鋼材はさらに、Feの一部に代えて、B及びTiを含有してもよい。
B:0〜0.005%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Bは鋼材の強度を高める。しかしながら、B含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。したがって、B含有量は、0〜0.005%である。B含有量の好ましい下限は0.0001%である。
Ti:0〜0.1%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、TiはNと結合して窒化物を形成する。そのため、BとNとの結合が抑制される。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、上記効果が飽和し、さらに、Ti窒化物が過剰に析出して鋼の靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜0.1%である。Tiはそのピン止め効果により、熱間プレスの加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、それにより鋼材の靱性等を高める。Ti含有量の好ましい下限は0.01%である。
本実施形態による鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Cr及びMoからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、鋼の強度を高める。
Cr:0〜0.5%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Crは鋼の強度を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、Cr炭化物が形成され、熱間プレスの加熱時に炭化物が溶解しにくくなる。そのためオーステナイト化が進行しにくくなる。したがって、Cr含有量は0〜0.5%である。Cr含有量の好ましい下限は0.1%である。
Mo:0〜0.5%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Moは鋼の強度を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、Mo含有量は0〜0.5%である。Mo含有量の好ましい下限は0.05%である。
本実施形態による鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Nb及びNiからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、鋼の靭性を高める。
Nb:0〜0.1%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nbは炭化物を形成して、熱間プレス時に結晶粒を微細化する。細粒化により、鋼の靭性が高まる。しかしながらNb含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、Nb含有量は0〜0.1%である。Nb含有量の好ましい下限は0.02%である。
Ni:0〜1.0%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Niは鋼の靭性を高める。Niはさらに、熱間プレスでの加熱時に、溶融Znに起因した脆化を抑制する。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、Ni含有量は0〜1.0%である。Ni含有量の好ましい下限は0.1%である。
[亜鉛めっき層]
本実施形態の緩冷却鋼材は、母材部上に亜鉛めっき層を有する。亜鉛めっき層は、亜鉛めっき層中の面積率が30%以上のラメラ層と、亜鉛めっき層中の面積率が0〜70%の固溶体層とを含む。
固溶体層は、固溶体相からなる。固溶体相は、Feと、Feに固溶したZnとを含有する。好ましくは、固溶体層中のZn含有量は25〜40質量%である。亜鉛めっき層は固溶体層を有さなくてもよい。つまり、固溶体層の面積率は0%であってもよい。
ラメラ層は、固溶体相とキャピタルガンマ(Γ)相とのラメラ組織を有する。Γ相は、
金属間化合物(Fe3Zn10)である。ラメラ層の固溶体相中のZn含有量は5〜25質量%であり、固溶体層中のZn含有量よりも低い。ラメラ層は、亜鉛めっき層の表層に形成される。固溶体層が存在する場合、ラメラ層は、固溶体層上に形成される。
ラメラ層は、固溶体層よりもりん酸塩処理性に優れる。その理由として次の事項が考えられる。ラメラ層は、上述のとおり、固溶体相(低Zn固溶体相)とΓ相とのラメラ組織を有する。さらに、ラメラ組織内では、固溶体相及びΓ相は、母材の表面に対して略垂直な方向に延びる。
上述のとおり、ラメラ層は亜鉛めっき層の表層に形成される。りん酸塩処理が実施されると、りん酸により亜鉛めっき層の表面、つまり、ラメラ層がエッチングされる。このとき、亜鉛濃度が高い部分が優先的にエッチングされやすい。ラメラ層におけるΓ相中のZn濃度は、固溶体相中のZn濃度よりも高い。そのため、りん酸により、Γ相が固溶体相よりも優先的にエッチングされる。したがって、亜鉛めっき層の表面には微細な凹凸が形成され、りん酸塩が付着しやすくなる。そのため、ラメラ層のリン酸塩処理性は高い。
本実施形態の亜鉛めっき層中のラメラ層の面積率が30%以上であれば、亜鉛めっき層のりん酸塩処理性が高くなる。
固溶体相(高Zn固溶体相、低Zn固溶体相)中のZn含有量は次の方法で測定できる。高Zn固溶体相中の任意の5箇所で、EPMA(電子線マイクロアナライザ)により、Zn含有量(質量%)を測定する。5箇所のZn含有量の平均を、高Zn固溶体相中のZn含有量と定義する。低Zn固溶体相においても、高Zn固溶体相と同様の方法で、Zn含有量を求める。
[緩冷却鋼材の製造方法]
本実施形態の緩冷却鋼材の製造方法の一例を説明する。本実施形態の製造方法は、母材である鋼材を準備する工程(母材準備工程)と、母材に亜鉛めっき層を形成する工程(亜鉛めっき処理工程)と、亜鉛めっき層を備える母材に対して加熱する工程(加熱工程)と、加熱後の鋼材を緩冷却する工程(緩冷却工程)とを備える。以下、各工程の詳細を説明する。
[母材準備工程]
初めに、母材である鋼板を準備する。たとえば、上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、鋳造法によりスラブを製造する。製造された溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造してもよい。製造されたスラブ又はインゴットを熱間圧延して鋼板(熱延鋼板)を製造する。必要に応じて、熱延鋼板に対して酸洗処理を実施し、酸洗処理後の熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して鋼板(冷延鋼板)としてもよい。
[亜鉛めっき処理工程]
上述の鋼板に対して、亜鉛めっき層を形成する。亜鉛めっき層の形成方法は、溶融亜鉛めっき処理であってもよいし、合金化溶融亜鉛めっき処理であってもよいし、電気亜鉛めっき処理であってもよい。
溶融亜鉛めっき処理による亜鉛めっき層の形成は次のとおりである。鋼板をめっき浴(溶融亜鉛めっき浴)に浸漬して鋼板表面にめっきを付着させる。めっきが付着した鋼板をめっき浴から引きあげる。好ましくは、鋼板表面のめっき付着量を調整して20〜100g/m2にする。鋼板の引き上げ速度や、ワイピングのガスの流量を調整することにより、めっき付着量を調整できる。溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度は特に限定されない。以上の工程により、亜鉛めっき層(溶融亜鉛めっき層)を備える鋼板(GI)が製造される。
合金化溶融亜鉛めっき処理(以下、合金化処理ともいう)による亜鉛めっき層の形成は次のとおりである。上述の溶融亜鉛めっき層が形成された鋼板を、470〜600℃で加熱する。加熱後、30秒以内で均熱し、その後、冷却する。上記加熱温度まで加熱した直後に冷却してもよい。均熱時間は上述の時間に限定されない。めっき層中の所望のFe濃度に応じて、加熱温度及び均熱時間は適宜設定される。合金化処理における加熱温度の好ましい下限は540℃である。以上の合金化処理により、亜鉛めっき層(合金化溶融亜鉛めっき層)を備える鋼板(GA)が製造される。
電気亜鉛めっき処理による亜鉛めっき層の形成は次のとおりである。電気亜鉛めっき浴として、周知の硫酸浴、塩酸浴、ジンケート浴及びシアン浴等のいずれかを準備する。上述の鋼板を酸洗する。酸洗後の鋼板を電気亜鉛めっき浴に浸漬する。鋼板を陰極として、電気亜鉛めっき浴中に電流を流す。これにより、鋼板表面に亜鉛が析出して亜鉛めっき層(電気亜鉛めっき層)が形成される。以上の工程により、電気亜鉛めっき層を備える鋼板(EG)が製造される。
亜鉛めっき層が合金化溶融亜鉛めっき層である場合、及び、亜鉛めっき層が電気亜鉛めっき層である場合、好ましい亜鉛めっき層の付着量は、溶融亜鉛めっき層の場合と同じである。つまり、これらの亜鉛めっき層の好ましい付着量は20〜100g/m2である。
これらの亜鉛めっき層は、Znを含有する。具体的には、溶融亜鉛めっき層及び電気亜鉛めっき層の化学組成は、Zn及び不純物からなる。合金化溶融亜鉛めっき層の化学組成は、5〜20%のFeを含有し、残部はZn及び不純物からなる。
[加熱工程]
上述の鋼板に対して、緩加熱を実施する。緩加熱では、主に輻射熱を加熱に利用する。初めに、鋼板を加熱炉(ガス炉、電気炉、赤外線炉等)に装入する。加熱炉内で、鋼板をAc3点〜950℃に加熱し、この温度で保持(均熱)する。加熱によりめっき層中のZnが液化する。しかしながら鋼板を上記温度で均熱することにより、めっき層中の溶融ZnがFeと結合して固溶体相(Fe−Zn固溶体相)となる。めっき層中の溶融ZnをFeと相互拡散して固溶体相(Fe−Zn固溶体相)となる。めっき層中の溶融ZnがFe中に固溶化して固相となった後、加熱炉から鋼板を取り出す。好ましい均熱時間は1〜10分である。
上述の説明では、加熱炉を用いて鋼板を加熱した。しかしながら、通電加熱により熱間プレス用鋼板を加熱してもよい。この場合であっても、通電加熱により鋼板を均熱し、亜鉛めっき層中の溶融Znを固溶体相にする。
[緩冷却工程]
鋼材を加熱した後、緩冷却を実施する。緩冷却により、亜鉛めっき層中に面積率で30%以上のラメラ層を形成する。
緩冷却方法は、所定温度で均熱した後、再び冷却するステップ緩冷却でもよいし、放冷でもよい。好ましくは、冷却時において、500〜600℃の中間温度域での保持時間を5秒以上とする。
図8は、中間温度域での保持時間と、XRDにより検出される、高Zn固溶体層(25〜40%のZnが固溶したFe)のピーク強度比との関係を示す図である。ピーク強度比は、急冷時の高Zn固溶体層のピーク強度を100として求めた。
図8は次の方法により得られた。上述の化学組成を満たす母材を準備した。溶融亜鉛めっき法により、鋼板上に亜鉛めっき層を形成した。亜鉛めっき層が形成された鋼板に対して、緩加熱による熱間プレスを実施した。熱間プレス後、鋼材に対して、種々の冷却条件で冷却を実施した。冷却時の中間温度域(500〜600℃)の温度範囲の保持時間を測定した。冷却後の鋼材の亜鉛めっき層に対してXRD測定を実施し、高Zn固溶体相(つまり、固溶体層)のピーク強度を求めた、中間温度域の温度範囲での保持時間と、得られたピーク強度とを用いて、図8を作成した。
図8において、高Zn固溶体相のピーク強度が低いほど、亜鉛めっき層中の固溶体層(高Zn固溶体相)の面積率が小さく、ラメラ層の面積率が大きいことを意味する。図8を参照して、中間温度域(500〜600℃)での保持時間が増大するにしたがい、固溶体層のピーク強度は急速に低下した。そして、保持時間が40秒を超えると、保持時間の増加にともない、ピーク強度はそれほど低下せず、ほぼ一定となった。このことは、保持時間が40秒以上となると、ほぼ100%固溶体層が存在せずに、亜鉛めっき層が実質的にラメラ層となることを意味する。
加熱後の冷却において、少なくとも中間温度域(500〜600℃)の温度範囲の保持時間を5秒以上とすれば、亜鉛めっき層中に面積率で30%以上のラメラ層が形成される。
中間温度域での保持時間がラメラ層の形成に影響するのは、次の理由によると考えられる。図9は、Fe−Znの二元系状態図である。熱間プレスにおける加熱により、鋼材の亜鉛めっき層のZn濃度は25〜35%程度になる。ここで、熱間プレス時の亜鉛めっき層のZn濃度が30%であると仮定する。熱間プレス時の鋼材温度が900℃であった場合、熱間プレス後、図9中の地点B1から冷却が開始される。
固溶体相から低Zn固溶体相及びΓ相へ二相分離するための駆動力は、境界線Ax上の地点B2から低温側で発生し、地点B2から低温側に離れるほど強くなる。一方、亜鉛めっき層中の拡散速度は、高温になるほど高くなる。二相分離への駆動力と、拡散速度との関係で、冷却時にラメラ層が形成されるか否かが決まる。具体的には、二相分離への駆動力が高く、拡散速度が高いほど、ラメラ層が形成されやすくなる。
冷却時において、亜鉛めっき層の温度域が700℃近傍まで下がったと仮定する。このとき、亜鉛めっき層の温度域は境界線Ax近傍となる(地点B2に相当)。この場合、拡散速度は高いものの、二相分離への駆動力がほぼ働かない。そのため、この温度域の保持時間を長くしても、二相への分離が起りにくい。
一方、亜鉛めっき層の温度がさらに低下して500〜600℃の中間温度域となったと仮定する(地点B3に相当)。中間温度域は、境界線Ax(地点B2)からある程度の距離を有する。そのため、二相分離への駆動力が働く。さらに、拡散速度も高い。そのため、この温度域では、亜鉛めっき層は二相に分離しやすく、ラメラ層が形成されやすい。図9の地点B3の場合、Zn含有量が10%程度の低Zn固溶体相(図中C1)と、Zn含有量が70%程度のΓ相(図中C2)とからなるラメラ層が形成される。したがって、この温度域での保持時間を長くすれば、亜鉛めっき層中にラメラ層が形成される。
亜鉛めっき層の温度がさらに低下して、500℃未満の温度域になったと仮定する(地点B4に相当)。この温度域は、境界線Axから十分に遠い。そのため、二相分離への駆動力は高い。しかしながら、低温であるため、拡散速度が低すぎる。その結果、この温度域の保持時間が長くても、ラメラ層は形成されにくい。
以上のとおり、ラメラ層は、二相分離の駆動力と拡散速度とがいずれも高くなる500〜600℃の中間温度域で生成されやすい。したがって、この温度域の保持時間を長くすれば、ラメラ層が形成される。上述のとおり、この温度域での保持時間を5秒以上とすれば、面積率で30%以上のラメラ層が形成される。
なお、中間温度域以外の他の温度域での冷却速度は特に限定されない。中間温度域での保持時間を5秒以上とすれば、その後の冷却は急冷してもよく、放冷してもよい。
加熱後に放冷を実施した場合、中間温度域での保持時間が5秒以上となりやすく、ラメラ層が形成される。
上記の緩冷却工程は、加熱後の鋼材の一部に対してのみ実施されてもよい。たとえば、鋼材の一部に対しては上述の緩冷却を実施する。そして、他の部分に対してはホットスタンプを実施してもよい。
鋼材に対するプレスは、緩冷却工程中のいずれの段階で実施してもよい。たとえば、加熱後、鋼材の一部を温間金型でプレスしながら、緩冷却を実施してもよい。また、加熱後、鋼材を金型でプレスし、その後、金型を鋼材から離して放冷してもよい。加熱後に鋼材の一部を放冷し、500℃以下となった後にプレスを実施してもよい。
要するに、本実施形態の緩冷却鋼材の製造において、上記緩冷却の条件さえ満たせば、プレスの実施時期は特に限定されない。したがって、鋼材に対して緩冷却を実施した後、冷間でプレスを実施してもよい。緩冷却工程は、鋼材全体に対して実施されてもよい。
以上の工程により製造された緩冷却鋼材の母材部は、5%未満含まれる残留オーステナイトとマルテンサイトのみで構成されるものではなく、フェライト、パーライト及びベイナイトの少なくとも1種以上を含む。そして、亜鉛めっき層は面積率で30%以上のラメラ層を含む。そのため、衝撃吸収性に優れ、りん酸塩処理性にも優れる。
[その他の実施の形態]
[防錆油膜形成工程]
上述の実施の形態はさらに、めっき処理工程後であって加熱工程の前に、防錆油膜形成工程を含んでもよい。
防錆油膜形成工程では、加熱前の鋼板の表面に、防錆油を塗布して防錆油膜を形成する。熱間プレス用鋼板が製造されてから、加熱工程が実施されるまでの期間が長い場合があり得る。その場合、鋼板の表面が酸化する場合があり得る。本工程により防錆油膜が形成された鋼板の表面は酸化しにくく、スケールの発生がより抑制される。
[ブランキング加工工程]
上述の製造方法はさらに、防錆油膜形成工程の後であって、加熱工程の前に、ブランキング加工工程を実施してもよい。
ブランキング加工では、加熱前の鋼板に対して剪断加工及び/又は打ち抜き加工等を実施して、特定の形状に成形する。ブランキング加工後の鋼板の剪断面は酸化しやすい。鋼板表面に防錆油膜が形成されていれば、剪断面にも防錆油がある程度広がる。そのため、ブランキング加工後の鋼板の酸化が抑制される。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Gの鋼板を準備した。
表1を参照して、いずれの鋼の化学組成も、本実施形態の鋼板の化学組成を満たした。
上記化学組成の各鋼の溶鋼を製造した。溶鋼を用いて連続鋳造法によりスラブを製造した。スラブを熱間圧延し、熱延鋼板を製造した。熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造した。冷延鋼板を緩冷却鋼材の製造に利用する鋼板とした。表1に示すとおり、各鋼種の鋼板の板厚はいずれも1.6mmであった。
鋼A〜Gの鋼板の一部を採取した。鋼板のミクロ組織がフルマルテンサイトとなるように、水焼入れを実施した。水焼入れ後の鋼板のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さ試験は、JIS Z2244(2009)に準拠し、試験力は10kgf=98.07Nとした。得られたビッカース硬さを最高焼入れ硬さB0(HV)と定義した。
鋼A〜Fの鋼板を利用して、表2中の試験番号1〜14の製造条件で緩冷却鋼材及びホットスタンプ鋼材を製造した。
表2中の「保持温度」(℃)は、緩冷却中での保持温度を意味し、「保持時間」は、中間温度域(500〜600℃)で保持した時間(秒)を意味する。試験番号1〜14の鋼板に対して、亜鉛めっき処理を実施した。試験番号6では、溶融亜鉛めっき処理により、鋼板に溶融亜鉛めっき層(GI)を形成した。試験番号6以外の試験番号では、溶融亜鉛めっき層を有する鋼板に対して合金化処理を実施して、合金化溶融亜鉛めっき層(GA)を形成した。合金化処理での最高温度はいずれも約530℃であり、約30秒加熱した後、室温まで冷却した。
合金化溶融亜鉛めっき層内のFe含有量は質量%で12%であった。Fe含有量は次の測定方法により得られた。合金化溶融亜鉛めっき層を含む鋼板のサンプルを採取した。サンプル中の合金化溶融亜鉛めっき層内の任意の5箇所において、EPMA(電子線マイクロアナライザ)によりFe含有量(質量%)を測定した。測定された値の平均値を、その試験番号の合金化溶融亜鉛めっき層のFe含有量(質量%)と定義した。
これらのめっき層の付着量は次の方法により測定した。各鋼板からめっき層を含むサンプルを採取した。JIS H0401に準拠してサンプルのめっき層を塩酸で溶解した。溶解前のサンプル重量と、溶解後のサンプル重量と、めっき層が形成されていた面積とに基づいて、めっき付着量(g/m2)を求めた。測定結果を表2(付着量)に示す。
めっき層を形成した後、各試験番号の鋼板に対して、緩加熱による熱間プレスを実施した。具体的には、各鋼板に対して鋼板のAc3点以上の温度である900℃に炉温を設定した加熱炉に装入した。そして、鋼A〜FのAc3点以上の温度である900℃に加熱した。そして、各鋼板を900℃で2分以上均熱した。
均熱後、試験番号13の鋼板に対して、水冷ジャケットを備えた平板金型を利用して、鋼板を挟み込んでホットスタンプ鋼材(鋼板)を製造した。ホットスタンプ時冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点である410℃程度まで、50℃/秒以上の冷却速度となるように焼入れした。試験番号13では急冷を実施したため、冷却時における中間温度域(500〜600℃)の保持時間は4秒未満であった。
試験番号14では、水冷ジャケットを有さない平板金型で鋼板を挟み込んだ後、鋼板から平板金型を離して、鋼板を水冷した。冷却時における中間温度域の保持時間は2秒未満であった。
試験番号1〜12の鋼板に対しては、鋼材を上述のとおり900℃に加熱し、2分以上均熱した後、プレスを実施した。具体的には、水冷ジャケットを有さない平板金型を利用して、鋼板を挟み込んだ。その後、表2に示す緩冷却条件(保持温度及び中間温度域での保持時間)で冷却した。
具体的には、試験番号1〜5、8及び9では、加熱後にプレスされた鋼材を、表2に示す保持温度で2分間保持した。保持時間を経過した後、鋼材を水冷(急冷)した。試験番号10では、300℃の保持温度で2分間保持した後、急冷した。試験番号10での中間温度域保持時間は10秒であった。
試験番号6では、保持温度600℃で40秒間保持した後、急冷した。試験番号7では、プレス後の鋼材を放冷した。その結果、試験番号7での中間温度域保持時間は30秒であった。
試験番号11及び12では、プレス後の鋼材に対して大型のファンを用いて風冷した。その結果、試験番号11での中間温度域保持時間は10秒であり、試験番号12での中間温度域保持時間は5秒であった。
[ビッカース硬さ試験]
各試験番号の鋼材(鋼板)の板厚中央部の母材からサンプルを採取した。サンプルの表面(鋼板の圧延方向に垂直な面に相当)に対して、JIS Z2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は10kgf=98.07Nとした。得られたビッカース硬さB1(HV10)を表2に示す。さらに、B1/最高焼入れ硬さB0(%)を表2に示す。
[亜鉛めっき層のミクロ組織観察試験]
各試験番号の鋼材から、亜鉛めっき層を含むサンプルを採取した。サンプルの表面のうち、圧延方向に垂直な断面を5質量%のナイタールでエッチングした。2000倍のSEMにより、エッチングされた亜鉛めっき層の断面を観察し、固溶体層及びラメラ層の有無を判断した。
ラメラ層が観察された場合はさらに、次の方法によりラメラ層の面積率を求めた。上記断面のうち任意の5視野(50μm×50μm)において、亜鉛めっき層全体の面積に対する、固溶体層の面積率(%)、及び、ラメラ層の面積率(%)を求めた。このとき、表面に浮上して配置されるZn酸化物層は、亜鉛めっき層の面積に含めなかった。得られた固溶体層及びラメラ層の面積率(%)を表2に示す。
なお、ミクロ組織観察で観察された固溶体層に対して、EPMAによる測定を実施した。その結果、観察された固溶体層はいずれも、25〜40%のZnを含有した。さらに、ラメラ層中の固溶体相に対して、EPMAによる測定を実施した。その結果、ラメラ層中の固溶体相はいずれも、5〜25%のZnを含有した。
[りん酸塩処理性評価試験]
各試験番号の鋼材に対して、日本パーカライジング株式会社製の表面調整処理剤プレパレンX(商品名)を用いて表面調整を室温で20秒実施した。さらに、日本パーカライジング株式会社製のりん酸亜鉛処理液パルボンド3020(商品名)を用いてりん酸塩処理を実施した。処理液の温度は43℃とし、鋼材を処理液に120秒間浸漬した。
りん酸塩処理後、ホットスタンプ鋼材の任意の5視野(125μm×90μm)を1000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図10は、冷却中において、保持温度600℃で2分間保持されたホットスタンプ鋼材(試験番号3)に対して上述のりん酸塩処理を実施した後の、ホットスタンプ鋼材表面のSEM画像(1000倍)である。
SEM画像に対して、2値化処理を実施した。図11は、図10のSEM画像を2値化して得られた画像である。2値化された画像において、白色部分には微細な化成結晶が形成されている。微細な化成結晶が多いほど、りん酸塩処理性が高い。そのため、2値化された画像を用いて、白色部分の面積率TRを求めた。各試験番号で得られた面積率TRを表2に示す。面積率TRが30%以上であれば、りん酸塩処理性に優れると判断した。
[試験結果]
図12は、50℃/S以上の冷却速度で急冷したホットスタンプ鋼材(試験番号13)に対してりん酸円処理を実施した後の、ホットスタンプ鋼材表面のSEM画像(1000倍)であり、図13は2値化された画像である。
表2を参照して、試験番号1〜12の冷却速度は、試験番号13の冷却速度(急冷)よりも遅かった。そのため、鋼材は緩冷却鋼材のビッカース硬さは、試験番号13のホットスタンプ鋼材のビッカース硬さよりも低かった。
さらに、試験番号1〜9、11及び12の冷却時における中間温度域の保持時間は適切であった。そのため、亜鉛めっき層中のラメラ層の面積率は30%以上であった。その結果、りん酸塩処理性評価試験での面積率TRは30%以上であり、優れたりん酸塩処理性を示した。さらに、これらの試験番号の母材の硬さは、ビッカース硬さの85%以下であった。そのため、降伏強度が低く、優れた耐衝撃吸収性を有した。
一方、試験番号10、13及び14では、中間温度域の保持時間が短すぎた。そのため、亜鉛めっき層中のラメラ層の面積率が30%未満であった。その結果、面積率TRが30%未満と低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (3)

  1. 母材部と、前記母材部上に形成される亜鉛めっき層とを備え、
    前記亜鉛めっき層は、
    FeとFeに固溶したZnとを含有する固溶体相及びキャピタルガンマ相からなり、前記亜鉛めっき層中の面積率が30%以上のラメラ層と、
    前記固溶体相からなり、前記亜鉛めっき層中の面積率が0〜70%である固溶体層とを含む、緩冷却鋼材。
  2. 請求項1に記載の緩冷却鋼材であって、
    前記亜鉛めっき層は、前記ラメラ層からなる、緩冷却鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の緩冷却鋼材であって、
    前記母材部及び前記亜鉛めっき層は、熱間でプレスされた後、500〜600℃の温度域での保持時間が5秒以上となるよう冷却されて製造される、緩冷却鋼材。
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