JP2015189117A - 樹脂の流動固化挙動の解析方法 - Google Patents
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第1工程(S1)は、図3に示すように、金型1内を流動する樹脂2を挟むように金型1の壁面10に設けられた一対の対向電極3を用いて、その対向電極3間を流動して固化する樹脂2の各時刻tにおける静電容量Cm(t)を得る工程である。金型1は、静電容量の測定に影響しないように、例えば、セラミックなどの絶縁体(誘電体)によって構成される。対向電極3は、両電極間に所定の周波数の電圧を印加して電極間のインピーダンスを測定するインピーダンスアナライザ30に接続されている。静電容量は、インピーダンス測定によって測定される。
第2工程(S2)は、金型1をモデル化し、互いに異なる複数(n個)の計算条件J(i),i=1,・・,nのもとで、金型1内で対向電極3間を流動して固化する各時刻tにおける樹脂2の温度分布T(i,t)を、数値計算により求める工程である。温度分布T(i,t)のデータは、3次元樹脂流動解析ソフトを用いる計算によって取得される。また、互いに異なる複数の計算条件J(i)は、樹脂2の温度分布T(i,t)の経時変化を変化させる条件である。そこで、例えば、金型1の壁面10の熱伝達率、すなわち、壁面10と樹脂2との間の熱伝達の程度の高低が計算条件とされる。
第3工程(S3)は、上述の基礎工程で取得された誘電率の温度依存性のデータε(T)を用いて、上述の第2工程で求めた樹脂2の温度分布T(i,t)の各々を、それぞれ樹脂2の誘電率分布ε(i,t)に変換する工程である。
第4工程(S4)は、上述の第3工程で変換された各々の誘電率分布ε(i,t)のもとで樹脂2が対向電極3間に成起する静電容量Cc(i,t)をそれぞれ算出する工程である。
第5工程(S5)は、第1工程の静電容量Cm(t)と第4工程の静電容量Cc(i,t)とが等しくなる第2工程の時間スケールを求め、その時間スケールにおける温度分布T(i,t)を実時間スケールにおける金型内の温度分布の経時変化とする工程である。この処理は経時変化を整合させる処理であり、実測値と計算値の時間依存性における時間スケールを相互に一致させる処理である。言い換えると、静電容量Cc(i,t)の計算値の各々の経時変化の中から、静電容量Cm(t)の測定値の経時変化に整合する経時変化を選択する処理である。選択は、例えば、経時変化の波形間のパターンマッチングの度合いに基づいて、例えば、データ間の相互相関関数を用いて行われる。この選択により、計算条件J(i)のパラメータiが決定され、対向電極3間の樹脂2の温度分布T(i,t)が決定され、その経時変化が決定される。静電容量Cc(i,t)は、第2工程における互いに異なる複数の計算条件J(i)の各々に基づいて第3工程と第4工程とを経て算出された計算値である。また、静電容量Cm(t)は、第1工程による測定値である。このようにして樹脂2の温度分布T(i,t)とその経時変化とが得られることにより、金型1内を溶融状態で流動して固化する樹脂2の流動固化挙動が把握される。
図4,図5は、上述の実施形態の変形例を示す。図4(a)(b)に示すように、樹脂2が射出された後、金型1内で短時間で急激に冷却され、その冷却に伴って、樹脂2の比誘電率εrが低下する。また、比誘電率εrは、測定に用いる周波数が異なると、得られる測定値も異なる。一般に、測定用周波数が低いほど大きな比誘電率εrの測定値となって静電容量測定の感度が高くなり、測定用周波数が高いほど小さな比誘電率εrの測定値となって静電容量測定の感度が低くなる。また、測定用周波数が低いほど周期が長くなって静電容量測定の時間分解能が低下し、測定用周波数が高いほど周期が短くなって静電容量測定の時間分解能が向上する。
図6乃至図10は、樹脂の流動固化挙動の解析方法の他の実施形態を示す。この実施形態は、上述の図1、図2に示した工程の後に、図6、図7に示す工程を追加して成形品の熱的・機械的特性の異方性分布を解析するものである。本実施形態において、異方性を有する熱的・機械的特性のデータを成形品に取り込み、成形品における異方性分布の解析を行う。ここで、異方性を有する物性値は、例えば、繊維状のフィラーを含む樹脂によって成形された成形品における線膨張係数または弾性率である。また、樹脂そのものの分子が、樹脂の流動固化の間に剪断応力などを受けて一方向に揃う配向性を有した状態で成形品の内部に固定されることにより、成形品の各部の配向性の分布に伴う異方性が発生する。
第6工程(#1)は、上述の第5工程(S5)で決定された温度分布T(x,t)とその経時変化とを与える計算条件J(x)のもとで、成形される樹脂2に作用した剪断応力の積算値である剪断歪エネルギEcの分布を数値計算によって求める工程である。剪断歪エネルギEcは、樹脂が金型内で流動中に固化して流動停止する間に樹脂中に蓄積される剪断応力を時間的に積分した値であり、上述の温度分布T(i,t)と同様に、3次元樹脂流動解析ソフトを用いる計算によって取得される。射出成形時の樹脂の剪断応力は、金型内で樹脂が流動しつつ固化する間に、金型内の各空間において時々刻々変化する。溶融状態の樹脂の各分子は、流動中に剪断による力を受け、その力を受けた時間に応じて、最終停止位置における配向状態が決定される。従って、剪断応力を時間積分して得られる剪断歪エネルギEcのデータは、分子配向状態、より一般的に樹脂成形品の異方性の情報を含むデータとなる。剪断歪エネルギEcのデータは、各部位におけるスカラー値として取得する以外に、樹脂の流動方向や樹脂の配向方向に関連づけて、ベクトル量として取得したり、テンソル量として取得してもよい。
第7工程(#2)は、金型1を用いて成形された成形品について、その成形品内の樹脂2の分子配向Gmの分布を測定によって求める工程である。ここで、分子配向Gmのデータは、樹脂2の分子(例えば、液晶ポリマー分子)の配向度と配向方向とを合わせたデータである。配向度は、ある領域内の多数の分子の長手方向の向き(角度)の揃い具合を表す指標であり、配向方向は、それらの分子の向きが一番揃った方向である。分子配向Gmの分布を示すデータは測定によって取得される。その測定は、例えば、図8(a)に示すように、成形品から切り出した試験片TPを用いて行うことができ、また、測定精度が許容される場合には成形品をそのまま用いて行うこともできる。
第8工程(#3)は、金型1を用いて成形された成形品について直接測定ができない物性値(例えば、線膨張係数Lmや弾性率σm)のデータを、測定に特化して射出成形した参照試料について取得したデータに関連づけて決定する工程である。参照試料は、測定に特化した金型である参照用金型を用いて射出成形される。参照試料は、測定に適した成形品、例えばシート状の成形品を成形できる参照用金型と、上述の樹脂2と同じ組成を有する樹脂と、によって射出成形される。上述の成形品についての剪断歪エネルギEcのデータおよび分子配向Gmの分布のデータと同様に、この参照試料についての剪断歪エネルギFcのデータおよび分子配向Hmの分布のデータが、それぞれ数値計算および測定によって取得される。さらに、この参照試料について、線膨張係数Lmのデータや弾性率σmのデータが、測定によって取得される。
(Fc,Hm,Lm,σm)という参照試料についてのデータが、
(Ec,Gm, ?, ?)という成形品についてのデータに対応づけられる。
この対応付けにより、
(Ec,Gm,Lm,σm)という成形品について補完されたデータが取得される。
ここで、重要なことは、参照試料の各データ(Fc,Hm,Lm,σm)は、その参照試料内の同一点におけるデータ値を有するように取得されることである。すなわち、各データ(Fc,Hm,Lm,σm)は、参照試料に設定された空間座標の各点の座標値によって、互いに関連づけられているデータである。
図6、図7に戻って説明する。第9工程(#4)は、上述のEc,Gmのデータを取得した成形品の成形に用いた金型と、繊維状のフィラーを含む樹脂と、によって成形された解析対象成形品に含まれるフィラーの3次元配向Dmのデータを取得する工程である。解析対象成形品は成形品の樹脂がフィラーを含むものである。フィラーは、例えば、ガラス製の略一定の直径を有する短繊維である。フィラーの3次元配向Dmのデータは、例えば、X線CTを用いて取得した射出成形品内のフィラーの3次元画像から取得することができる。その取得は、3次元画像中の個々のフィラーの形状と配置とを確定することにより行われる。その確定の処理は、例えば、フィラーを表すモデルの形状と配置とをランダムに変化させて確定するモンテカルロ法を用いた画像処理によって行うことができる。
第10工程(#5)は、第8工程で決定された線膨張係数Lmのデータと第9工程で取得されたフィラーの3次元配向Dmのデータとに基づいて、解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcのデータを数値計算で求める工程である。この工程では、線膨張係数Lcと同様に、解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する弾性率σcのデータを求めることができる。
この変形例は、上述の、図6、図7に示した解析方法において、第1工程の金型を任意の金型に替えて、第6工程から第10工程を実施するものである。この変形例によれば、任意の金型を用いて成形した解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数Lcや弾性率σcを求めることができる。また、そのような線膨張係数Lcや弾性率σcを用いて、その解析対象成形品の反り解析を行うことができる。
図11乃至図17は実施例を示す。図11は、金型内で冷却される樹脂の静電容量Cm(t)の経時変化の測定結果を5段階の異なる測定周波数、すなわち1,2,3,4,5kHzについて示す。測定周波数が高いほど測定点の時間軸方向の間隔が密になって時間分解能が高くなり、逆に、測定周波数が低くなるほど測定点の間隔が疎らになって時間分解能が低下する。図12は、樹脂の比誘電率の測定値の測定周波数依存性を示す。測定周波数が高いほど比誘電率εrが小さい値に測定されて測定感度が低くなり、信号対ノイズ比(S/N比)が低下し、逆に、測定周波数が低くなるほど比誘電率εrが大きい値に測定されて測定感度が高くなりS/N比が向上する。
2 樹脂
3 対向電極
Cc(i,t) 静電容量
Cm(t) 静電容量
Dm フィラーの3次元配向
Ec 剪断歪エネルギ(成形品の)
Fc 剪断歪エネルギ(参照試料の)
Gm 分子配向(成形品の)
Hm 分子配向(参照試料の)
J(i) 計算条件
Lm 線膨張係数(参照試料の)
Lc 線膨張係数(解析対象成形品の)
T(i,t),T(x,t) 温度分布
ε(T) 誘電率
ε(i,t) 誘電率分布
σm 弾性率
σc 弾性率(解析対象成形品の)
Claims (6)
- 射出成形における金型内の樹脂の流動固化挙動の解析方法において、
対向電極を有する誘電体製の金型に樹脂を射出して射出成形を行い、該対向電極間の静電容量の経時変化を測定する第1工程と、
前記第1工程の金型をモデル化して樹脂の流動固化挙動による金型内の温度分布の経時変化を数値計算する第2工程と、
樹脂の誘電率の温度依存性のデータを用いて、前記第2工程で得られる各時刻における金型内の温度分布を、誘電率分布に変換する第3工程と、
前記第3工程で変換された誘電率分布を用いて前記対向電極間の静電容量の経時変化を数値計算により求める第4工程と、
前記第1工程の静電容量と前記第4工程の静電容量とが等しくなる前記第2工程の時間スケールを求め、その時間スケールにおける前記第2工程の温度分布を実時間スケールにおける前記金型内の温度分布の経時変化とする第5工程と、を備えることを特徴とする樹脂の流動固化挙動の解析方法。 - 前記第2工程は、前記金型の壁面の熱伝達率を変化させて前記時間スケールを変化させることを特徴とする請求項1に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。
- 前記第1工程では、前記対向電極間に交流電圧を印加して行うインピーダンス測定によって前記静電容量を測定し、測定される前記静電容量の経時変化の速さに対して測定の時間分解能が不足する場合に、より高い周波数の交流電圧を用いて測定し、
前記第3工程では、前記第1工程の測定に用いられた周波数による誘電率の温度依存性のデータを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。 - 前記第1工程では、前記対向電極間に交流電圧を印加して行うインピーダンス測定によって前記静電容量を測定し、測定される前記静電容量の信号レベルが不足する場合に、より低い周波数の交流電圧を用いて測定し、
前記第3工程では、前記第1工程の測定に用いられた周波数による誘電率の温度依存性のデータを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。 - 前記第5工程で決定された温度分布の経時変化を与える前記時間スケールのもとで、前記金型内で成形される前記樹脂に作用した剪断応力の積算値である剪断歪エネルギの分布を数値計算によって求める第6工程と、
前記金型を用いて成形された成形品について、その成形品内の前記樹脂の分子配向の分布を測定によって求める第7工程と、
参照用金型と前記樹脂とを用いて成形された参照試料について得られた剪断歪エネルギの計算値のデータ、分子配向の測定値のデータ、およびこれらのデータに関連づけられた異方性を有する線膨張係数または弾性率の測定値のデータを用いて、前記第6工程によって求めた前記剪断歪エネルギの分布および前記第7工程によって求めた前記分子配向の分布に、前記線膨張係数または前記弾性率のデータを関連づけることにより、前記成形品についての異方性を有する線膨張係数または弾性率のデータを決定する第8工程と、
前記樹脂に繊維状のフィラーを含めて前記第1工程の金型を用いて成形された解析対象成形品における前記フィラーの3次元配向のデータを取得する第9工程と、
前記第8工程によって決定された前記線膨張係数または前記弾性率のデータおよび前記第9工程によって取得された前記フィラーの3次元配向のデータを用いて、前記解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数または弾性率のデータを数値計算によって求める第10工程と、を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。 - 前記第1工程の金型に替えて任意の金型を用いて前記第6工程から第10工程を実施することにより、前記任意の金型によって成形した解析対象成形品についてフィラーを考慮した異方性を有する線膨張係数または弾性率のデータを求めることを特徴とする請求項5に記載の樹脂の流動固化挙動の解析方法。
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