JP2015188425A - 白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途 - Google Patents

白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途 Download PDF

Info

Publication number
JP2015188425A
JP2015188425A JP2014070234A JP2014070234A JP2015188425A JP 2015188425 A JP2015188425 A JP 2015188425A JP 2014070234 A JP2014070234 A JP 2014070234A JP 2014070234 A JP2014070234 A JP 2014070234A JP 2015188425 A JP2015188425 A JP 2015188425A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
leukemia
gene
cells
central nerve
mouse
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2014070234A
Other languages
English (en)
Inventor
格 加藤
Itaru Kato
格 加藤
中畑 龍俊
Tatsutoshi Nakahata
龍俊 中畑
俊男 平家
Toshio Heike
俊男 平家
亮 渡辺
Akira Watanabe
亮 渡辺
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyoto University
Original Assignee
Kyoto University
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kyoto University filed Critical Kyoto University
Priority to JP2014070234A priority Critical patent/JP2015188425A/ja
Publication of JP2015188425A publication Critical patent/JP2015188425A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Abstract

【課題】白血病中枢神経浸潤の早期診断と、その治療ターゲットの探索を可能にする方法の提供。【解決手段】白血病患者における中枢神経浸潤を判定するための検査方法であって、該白血病患者から採取した髄液中の、以下の(G1)〜(G17):(G1)GPM6A、(G2)BSN、(G3)BRUNOL4(CELF4)、(G4)LOC730032、(G5)GJA1;(G6)TUBB2B、(G7)CRYAB、(G8)LHX2、(G9)MAP2、(G10)THRA、(G11)TPPP、(G12)FBXL16、(G13)NFIB、(G14)DACT3、(G15)KIF1A、(G16)CTNND2、及び(G17)SNAP25からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する工程、並びに該測定値と各遺伝子における基準値とを比較する工程を含む、方法。【選択図】なし

Description

本発明は、中枢神経浸潤した白血病細胞で高発現する遺伝子群、それらを用いた白血病中枢神経浸潤の診断、並びにそれらを標的とした白血病中枢神経浸潤の治療に関する。
小児悪性腫瘍の最も多くを占める小児白血病は、近年治癒率が画期的に改善されているが、白血病中枢神経浸潤(中枢神経白血病ともいう)は現在でも予後不良因子であり(非特許文献1)、特に再発した場合の生存率は30%にすぎない。さらに、血液脳関門があるため抗癌剤が届きにくく、歴史的に放射線照射の追加や髄液化学療法の増量などの治療強化が図られてきた。これら中枢神経を標的とした治療強化の影響で、成長期にある小児患者では、二次がん、精神発達障害・痙攣性疾患などの神経毒性、成長障害・不妊症などの内分泌異常等、白血病は治癒したとしてもその後の人生の生活の質(QOL)を大きく損ねる長期的な合併症が生じ得る。
長期合併症の軽減は小児白血病治療において喫緊の課題であり、白血病細胞の中枢神経での動態を明らかにし、より中枢神経浸潤白血病細胞を特異的にターゲットとした治療開発が求められている。
また、白血病の骨髄微小環境(白血病細胞の周囲に存在してその生存・増殖に関わる支持細胞・分子・状態等の総称)が、抗がん剤抵抗性や再発に寄与することが報告されており(非特許文献2−4)、このような微小環境が白血病の治療応答に必須の要素であることが分かりつつある。しかし、適切な疾患モデルがないため、中枢神経を含めて骨髄以外の微小環境についてはほとんど解明されていない。
J. Clin. Oncol., 21(2): 184-188 (2003) J. Clin. Invest., 117: 1049-1057 (2007) Leukemia, 16: 1713-1724 (2002) Nat. Biotechnol., 25: 1315-1321 (2007)
従って、本発明の目的は、白血病、特に小児白血病の予後不良因子であり、かつQOL低下を招く長期合併症の要因でもある白血病中枢神経浸潤に対する、特異的かつ低毒性の新規治療法を開発するための基盤を提供することである。より具体的には、白血病中枢神経微小環境を的確に反映した遺伝子変化を捉え、予測・治療の確度を高めるような遺伝子群を明らかにし、以って白血病中枢神経浸潤の早期診断と、その治療ターゲットの探索を可能にする手段を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、まずヒト白血病の病態を高度に再現する白血病中枢神経浸潤マウスモデルの構築を試みた。即ち、臨床所見から中枢神経浸潤を認めないヒト白血病患者の骨髄より白血病細胞を採取し、高度免疫不全マウスであるNOD/SCID/γc null(NOG)マウス(Blood, 109: 3175-3182 (2002))に移植して無治療観察したところ、該マウスは、肝臓や脾臓の腫脹(肝脾腫)や門脈域への白血病細胞浸潤等に加えて、驚くべきことに、病理像、髄液所見、頭部MRIにおいて、ヒト白血病中枢神経浸潤の特徴を忠実に再現していた。
そこで、この中枢神経浸潤白血病マウスモデルを用い、中枢神経に浸潤した白血病細胞の特徴を解析するため、中枢神経など髄外に浸潤した白血病細胞と骨髄で増殖する白血病の遺伝子発現プロファイルを、マイクロアレイ解析にて比較した。その結果、調べたすべてのマウス個体で、骨髄由来白血病細胞と比較して中枢神経由来白血病で2倍以上又は3倍以上発現が上昇している遺伝子群を抽出した。
マイクロアレイによる遺伝子発現解析から、中枢神経白血病で高発現している遺伝子群には正常神経細胞で高発現している遺伝子が有意に濃縮されていることが判明した。また、Gene Ontology (GO) 解析の結果、上記抽出された遺伝子群には、正常神経活動に関わっているものが有意に多く含まれていた。即ち、中枢神経浸潤白血病細胞は骨髄で増殖する白血病細胞とは遺伝子発現レベルで異なり、中枢神経環境に順化・適応して増殖していることが示された。
そこで、このように中枢神経環境に順化・適応した中枢神経白血病細胞は白血病再現能を有するか、つまり中枢神経白血病細胞は再発に直接寄与するかを、2次移植にて検討した。その結果、中枢神経白血病細胞を移植したマウスでは、骨髄由来白血病細胞を移植したマウスと同様に生着を認め、full blastになることが分かった。つまり、中枢神経由来白血病細胞は、遺伝子発現パターンは異なるものの骨髄由来白血病細胞と同程度の白血病再現能を有しており、中枢神経白血病細胞が再発に直接寄与し得ることが示された。
以上の知見より、本発明者らは、上記抽出された遺伝子群の高発現は白血病中枢神経微小環境をよく反映しており、そのため、これらの遺伝子群は、浸潤抑制を目的とした創薬開発のターゲットとして、また、浸潤確立を予測する診断マーカーとして、利用し得るものであると結論して、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]白血病患者における中枢神経浸潤を判定するための検査方法であって、該白血病患者から採取した髄液中の、以下の(G1)〜(G17):
(G1) GPM6A;
(G2) BSN;
(G3) BRUNOL4(CELF4);
(G4) LOC730032;
(G5) GJA1;
(G6) TUBB2B;
(G7) CRYAB;
(G8) LHX2;
(G9) MAP2;
(G10) THRA;
(G11) TPPP;
(G12) FBXL16;
(G13) NFIB;
(G14) DACT3;
(G15) KIF1A;
(G16) CTNND2;及び
(G17) SNAP25
からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する工程、並びに
該測定値と各遺伝子における基準値とを比較する工程
を含む、方法。
[2](G1)〜(G17)からなる群より選択される2以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する、[1]記載の方法。
[3](G1)〜(G10)からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する、[1]又は[2]記載の方法。
[4]白血病中枢神経浸潤の診断剤であって、以下の(G1)〜(G17):
(G1) GPM6A;
(G2) BSN;
(G3) BRUNOL4(CELF4);
(G4) LOC730032;
(G5) GJA1;
(G6) TUBB2B;
(G7) CRYAB;
(G8) LHX2;
(G9) MAP2;
(G10) THRA;
(G11) TPPP;
(G12) FBXL16;
(G13) NFIB;
(G14) DACT3;
(G15) KIF1A;
(G16) CTNND2;及び
(G17) SNAP25
からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物を検出し得る物質を含み、該物質が、
(a) 該転写産物の一部もしくは全部に相補的な核酸プローブ;
(b) 該転写産物の一部もしくは全部を増幅し得るプライマー;又は
(c) 該翻訳産物に対する抗体
である、診断剤。
[5](G1)〜(G17)からなる群より選択される2以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物を検出し得る物質を含む、[4]記載の診断剤。
[6](G1)〜(G10)からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物を検出し得る物質を含む、[4]又は[5]記載の診断剤。
[7]免疫不全マウスに、白血病患者の骨髄から採取した白血病細胞を1×105〜7個、尾静脈より移植する工程、及び
該マウスを約20週間以上飼育する工程
を含む、ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの作製方法。
[8]免疫不全マウスがNOGマウスである、[7]記載の方法。
[9][7]又は[8]記載の方法により得られる、ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル。
[10]白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質のスクリーニング方法であって、以下の(G1)〜(G17):
(G1) GPM6A;
(G2) BSN;
(G3) BRUNOL4(CELF4);
(G4) LOC730032;
(G5) GJA1;
(G6) TUBB2B;
(G7) CRYAB;
(G8) LHX2;
(G9) MAP2;
(G10) THRA;
(G11) TPPP;
(G12) FBXL16;
(G13) NFIB;
(G14) DACT3;
(G15) KIF1A;
(G16) CTNND2;及び
(G17) SNAP25
からなる群より選択され、かつ[9]記載のマウスモデルにおいてその発現を正もしくは負に調節した場合に、白血病細胞の中枢神経への浸潤が変化する遺伝子Gn(nは1〜17のいずれかの整数)、又は該遺伝子Gnの転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞に、被検物質を接触させる工程、
前記細胞における該遺伝子Gn又は該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、並びに
被検物質の非存在下での発現レベルと比較して、該遺伝子Gn又は該レポーター遺伝子の発現レベルを減少もしくは増大させた被検物質を、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質の候補として選択する工程
を含む、方法。
[11]細胞と被検物質との接触が、[9]記載のマウスへの該被検物質の投与により行われる、[10]記載の方法。
[12]以下の(G1)〜(G17):
(G1) GPM6A;
(G2) BSN;
(G3) BRUNOL4(CELF4);
(G4) LOC730032;
(G5) GJA1;
(G6) TUBB2B;
(G7) CRYAB;
(G8) LHX2;
(G9) MAP2;
(G10) THRA;
(G11) TPPP;
(G12) FBXL16;
(G13) NFIB;
(G14) DACT3;
(G15) KIF1A;
(G16) CTNND2;及び
(G17) SNAP25
からなる群より選択され、かつ正常神経細胞で発現していない遺伝子の翻訳産物に対する抗体と、抗腫瘍活性を有する物質とが連結されてなる、白血病中枢神経浸潤抑制剤。
本発明で抽出された中枢神経浸潤白血病細胞で高発現する遺伝子群は、中枢神経浸潤の抑制を目的とした創薬開発のための新規ターゲットとなり得る。また、該遺伝子群は、白血病中枢神経浸潤を予測するための診断マーカーとなり得る。
本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル作製プロトコルを示す模式図(図1A)及びNOGマウスへの患者由来白血病細胞の生着を示す図である。 本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル(Leukemia)における肝臓及び脾臓の腫脹を示す写真(上)及び肝臓及び脾臓の重量(下)を示す図である。Normalは、正常NOGマウスを示す。 本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルが、ヒト白血病における髄外浸潤(門脈浸潤)を再現することを示す肝臓組織のヘマトキシリン-エオシン染色像である。図中、pvは門脈を示す。 本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの髄液中にヒト白血病細胞が存在することを示すFACS解析の結果図である。 本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルにおける、移植後20週以降の白血病中枢神経浸潤の経時変化を示す図である。 本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの髄液中のヒト白血病細胞をメイギムザ染色(左)及び抗ヒトCD45抗体を用いて免疫染色した結果を示す図である。 正常NOGマウス(左、中)及び本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル(右)の頭部MRI画像を示す図である。本発明のマウスモデルの頭部MRIに硬膜炎を疑う所見が認められる(矢印)。 ヒト白血病患者4症例由来の白血病細胞を移植したNOGマウス5個体のすべてにおいて、中枢神経浸潤した白血病細胞(CNS leukemia)で、骨髄白血病細胞(BM leukemia)と比較して発現が3倍以上に上昇した遺伝子群を示すヒートマップである。 中枢神経浸潤した白血病細胞で高発現する遺伝子群には、神経細胞で高発現する遺伝子が有意に濃縮されていることを示す図である。 骨髄白血病細胞と比較して、中枢神経浸潤した白血病細胞で3倍以上発現している遺伝子は、神経に関わる機能を有しているものが多いことを示す図である。 中枢神経浸潤した白血病細胞は、骨髄白血病細胞と同程度の白血病再現能を有することを示す図である。
本発明は、白血病患者における中枢神経浸潤を判定するための検査方法(以下、「本発明の検査方法」という場合がある)及びそのための試薬又はキット(以下、「本発明の試薬」・「本発明のキット」という場合がある)を提供する。当該検査方法は、白血病患者から採取した髄液中の、以下の(G1)〜(G17):
(G1) GPM6A;
(G2) BSN;
(G3) BRUNOL4(CELF4);
(G4) LOC730032;
(G5) GJA1;
(G6) TUBB2B;
(G7) CRYAB;
(G8) LHX2;
(G9) MAP2;
(G10) THRA;
(G11) TPPP;
(G12) FBXL16;
(G13) NFIB;
(G14) DACT3;
(G15) KIF1A;
(G16) CTNND2;及び
(G17) SNAP25
からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定することを特徴とする。
(G1)〜(G17)の遺伝子群(以下、「本発明の遺伝子群」という場合がある。また、該遺伝子群を構成する各遺伝子を「遺伝子Gn(nは1〜17のいずれかの整数;以下同様)」という場合がある)は、原発巣である骨髄中の白血病細胞や、末梢血、肝臓等の中枢神経以外の臓器に浸潤した白血病細胞と比較して、中枢神経浸潤白血病細胞において顕著に発現レベルが上昇している。特に、(G1)〜(G10)の遺伝子群は、後述する本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルにおいて、調べたすべての個体で、中枢神経浸潤白血病細胞における発現量が、骨髄白血病細胞におけるそれらと比較して、RNAレベルで3倍以上に上昇していた。該マウスモデルは、中枢神経浸潤を含めて、ヒト白血病の病態を非常によく再現するので、白血病患者の髄液中の、本発明の遺伝子群(I)もしくは(II)の転写産物又は翻訳産物のレベルを測定し、対照におけるレベル(基準値)と比較することにより、該患者における白血病中枢神経浸潤の有無を予測することができる。
本発明の適用対象となる白血病は特に制限されず、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)のいずれであってもよい。白血病中枢神経浸潤は、リンパ性白血病の方が骨髄性白血病よりも数倍起こりやすいとされているので、好ましくは、本発明の適用対象はリンパ性白血病患者、特にALL患者である。患者の年齢や性別も特に制限はないが、白血病中枢神経浸潤は小児に多く、また、治療強化に伴う合併症によるQOL低下が長期に及ぶことから、好ましくは、本発明の適用対象は小児白血病患者である。
本発明の検査方法における検体である髄液(脳脊髄液)は、脳室内や脳脊髄のくも膜と軟膜の間にある透明な液体である。通常、細胞成分はほとんど含まれない。髄液は、通常の髄液検査の際に行われる自体公知の方法により採取することができる。例えば、椎穿刺法、後頭下穿刺法、脳室穿刺法などがあるが、一般的に行われるのは腰椎穿刺法である。腰椎穿刺法とは、腰椎椎間腔より脊柱管に穿刺針を刺入してそこから脳脊髄液を取り出す方法である。具体的には、局所麻酔をして、後ろ腰のところから、第3、第4腰椎の間に針を刺し入れ、硬膜とくも膜を通してくも膜下腔に届かせ、その中にある髄液を採取する。
(1)本発明の遺伝子群の各遺伝子Gnの転写産物
本発明において、遺伝子の「転写産物」とは、mRNAと初期転写産物とを含む包括的な意味で用いられるが、好ましくはmRNAを意味する。
(G1)〜(G17)の各ヒト遺伝子のヌクレオチド配列はいずれも公知であり、例えば、National Center for Biotechnology Information (NCBI) データベース上で、
(R1) GPM6A遺伝子のcDNA配列(配列番号1)はNM_005277;
(R2) BSN遺伝子のcDNA配列(配列番号3)はNM_003458;
(R3) BRUNOL4(別名:CELF4)遺伝子のcDNA配列(配列番号5)はNM_020180;
(R4) LOC730032遺伝子のcDNA配列(配列番号7)はXM_001132160;
(R5) GJA1遺伝子のcDNA配列(配列番号9)はNM_000165;
(R6) TUBB2B遺伝子のcDNA配列(配列番号11)はNM_178012;
(R7) CRYAB遺伝子のcDNA配列(配列番号13)はNM_001885;
(R8) LHX2遺伝子のcDNA配列(配列番号15)はNM_004789;
(R9) MAP2遺伝子のcDNA配列(配列番号17)はNM_002374;
(R10) THRA遺伝子のcDNA配列(配列番号19)はNM_003250;
(R11) TPPP遺伝子のcDNA配列(配列番号21)はNM_007030;
(R12) FBXL16遺伝子のcDNA配列(配列番号23)はNM_153350;
(R13) NFIB遺伝子のcDNA配列(配列番号25)はNM_005596;
(R14) DACT3遺伝子のcDNA配列(配列番号27)はNM_145056;
(R15) KIF1A遺伝子のcDNA配列(配列番号29)はNM_004321;
(R16) CTNND2遺伝子のcDNA配列(配列番号31)はNM_001332;
(R17) SNAP25遺伝子のcDNA配列(配列番号33)はNM_130811
のaccession No.を付されて公開されている。
遺伝子Gnの転写産物Rn(nは1〜17のいずれかの整数;以下同様)には、配列番号2n-1(nは1〜17のいずれかの整数;以下同様)で表されるヌクレオチド配列(但し、tはuに読み替える)を有するmRNAだけでなく、それらのスプライスバリアント、アレル変異体及び多型も含まれる。例えば、
(R1) GPM6A遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_001261448、NM_201592等、多型としてrs1049820(配列番号1の1129番目のGがTに置換)等;
(R2) BSN遺伝子の多型としてrs34762726(配列番号3の2335番目のGがAに置換)、rs35762866(配列番号3の3752番目のGがAに置換)、rs2005557(配列番号3の11701番目のGがAに置換)等;
(R3) BRUNOL4(CELF4)遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_001025087、NM_001025088、NM_001025089、XM_005258307等、多型としてrs12458669(配列番号5の1558番目のGがAに置換)等;
(R5) GJA1遺伝子の多型としてrs2228966(配列番号9の622番目のCがGに置換)、rs2228960(配列番号9の693番目のGがAに置換)、rs2228961(配列番号9の752番目のGがAに置換)、rs2228962(配列番号9の803番目のTがCに置換)、rs2228964(配列番号9の854番目のCがTに置換)、rs2228965(配列番号9の861番目のCがTに置換)、rs17653265(配列番号9の1008番目のCがTに置換)等;
(R6) TUBB2B遺伝子の多型としてrs1054331(配列番号11の793番目のGがCに置換)等;
(R7) CRYAB遺伝子の多型としてrs2234703(配列番号13の147番目のCがAに置換)、rs2234704(配列番号13の246番目のCがTに置換)等:
(R9) MAP2遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_031845、XM_005246564、NM_001039538等、多型としてrs2271251(配列番号17の493番目のCがGに置換)、rs6749066(配列番号17の784番目のAがGに置換)、rs741006(配列番号17の1516番目のGがAに置換)、rs13425372(配列番号17の3175番目のAがTに置換)、rs35927101(配列番号17の3219番目のGがAに置換)、rs17745550(配列番号17の3543番目のAがGに置換)等;
(R10) THRA遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_19933、NM_001190918等;
(R12) FBXL16遺伝子の多型としてrs17855603(配列番号23の1614番目のTがCに置換)等;
(R13) NFIB遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_001190737、NM_001190738等;
(R14) DACT3遺伝子のスプライスバリアントとしてXM_005258551等;
(R15) KIF1A遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_001244008、XM_005247023等;
(R16) CTNND2遺伝子の多型としてrs61750706(配列番号31の1589番目のGがAに置換)、rs61754599(配列番号31の2573番目のGがCに置換)等;
(R17) SNAP25遺伝子のスプライスバリアントとしてNM_003081等
が報告されているが、これらに限定されない。
(2)本発明の遺伝子群の各遺伝子Gnの翻訳産物
本発明において、遺伝子の「翻訳産物」とは、該遺伝子のRNAから翻訳される初期翻訳産物と、翻訳後修飾により生じる成熟タンパク質とを含む包括的な意味で用いられるが、好ましくは成熟タンパク質である。
(G1)〜(G17)の各ヒト遺伝子にコードされるタンパク質Pn(nは1〜17のいずれかの整数;以下同様)のアミノ酸配列はいずれも公知であり、例えば、National Center for Biotechnology Information (NCBI) データベース上で、
(P1) neuronal membrane glycoprotein M6-aのアミノ酸配列(配列番号2)はNP_005268;
(P2) protein bassoonのアミノ酸配列(配列番号4)はNP_003449;
(P3) Bruno-like protein 4(別名:CUGBP Elav-like family member 4)のアミノ酸配列(配列番号6)はNP_064565;
(P4) PREDICTED: similar to RIKEN cDNA C230030N03のアミノ酸配列(配列番号8)はXP_001132160;
(P5) gap junction alpha-1 proteinのアミノ酸配列(配列番号10)はNP_000156;
(P6) tubulin beta-2B chainのアミノ酸配列(配列番号12)はNP_821080;
(P7) alpha-crystallin B chainのアミノ酸配列(配列番号14)はNP_001876;
(P8) LIM/homeobox protein Lhx2のアミノ酸配列(配列番号16)はNP_004780;
(P9) microtubule-associated protein 2のアミノ酸配列(配列番号18)はNP_002365;
(P10) thyroid hormone receptor alphaのアミノ酸配列(配列番号20)はNP_003241;
(P11) tubulin polymerization-promoting proteinのアミノ酸配列(配列番号22)はNP_008961;
(P12) F-box/LRR-repeat protein 16のアミノ酸配列(配列番号24)はNP_699181;
(P13) nuclear factor 1 B-typeのアミノ酸配列(配列番号26)はNP_005587;
(P14) dapper homolog 3のアミノ酸配列(配列番号28)はNP_659493;
(P15) kinesin-like protein KIF1Aのアミノ酸配列(配列番号30)はNP_004312;
(P16) catenin delta-2遺伝子のアミノ酸配列(配列番号32)はNP_001323;
(P17) synaptosomal-associated protein 25のアミノ酸配列(配列番号34)はNP_570824
のaccession No.を付されて公開されている。
遺伝子Gnの翻訳産物Pnには、配列番号2n(nは1〜17のいずれかの整数)で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドだけでなく、それらのアイソフォーム、アレル変異体及び多型も含まれる。例えば、
(P1) neuronal membrane glycoprotein M6-aのアイソフォームとしてNP_001248377、NP_963886等、多型としてrs1049820(配列番号2の242番目のValがLeuに置換)等;
(P2) protein bassoonの多型としてrs34762726(配列番号4の741番目のAlaがThrに置換)、rs35762866(配列番号4の1213番目のGlyがAspに置換)、rs2005557(配列番号4の3863番目のAlaがThrに置換)等;
(P3) Bruno-like protein 4(別名:CUGBP Elav-like family member 4)のアイソフォームとしてNP_001020258、NP_001020259、NP_001020260、XP_005258364等、多型としてrs12458669(配列番号6の388番目のGlyがSerに置換)等;
(P5) gap junction alpha-1 proteinの多型としてrs2228966(配列番号10の124番目のAspがGluに置換)、rs2228960(配列番号10の148番目のArgがGlnに置換)、rs2228961(配列番号10の168番目のAlaがThrに置換)、rs2228962(配列番号10の185番目のTyrがHisに置換)、rs2228964(配列番号10の202番目のArgがCysに置換)、rs2228965(配列番号10の204番目のThrがMetに置換)、rs17653265(配列番号10の253番目のAlaがValに置換)等;
(P6) tubulin beta-2B chainの多型としてrs1054331(配列番号12の201番目のCysがSerに置換)等;
(P7) alpha-crystallin B chainの多型としてrs2234703(配列番号14の41番目のSerがTyrに置換)、rs2234704(配列番号14の51番目のProがLeuに置換)等:
(P9) microtubule-associated protein 2のアイソフォームとしてNP_114033、XP_005246621、NP_001034627等、多型としてrs2271251(配列番号18の82番目のAlaがGlyに置換)、rs6749066(配列番号18の179番目のGluがGlyに置換)、rs741006(配列番号18の423番目のArgがLysに置換)、rs13425372(配列番号18の976番目のHisがLeuに置換)、rs35927101(配列番号18の991番目のGlyがArgAに置換)、rs17745550(配列番号18の1099番目のMetがValに置換)等;
(P10) thyroid hormone receptor alphaのアイソフォームとしてNP_955366、NP_001177847等;
(P12) F-box/LRR-repeat protein 16の多型としてrs17855603(配列番号24の429番目のLeuがProに置換)等;
(P13) nuclear factor 1 B-typeのアイソフォームとしてNP_001177666、NP_001177667等;
(P14) dapper homolog 3のアイソフォームとしてXP_005258608等;
(P15) kinesin-like protein KIF1AのアイソフォームとしてNP_001230937、XP_005247080等;
(P16) catenin delta-2の多型としてrs61750706(配列番号32の482番目のAlaがThrに置換)、rs61754599(配列番号32の810番目のGlyがArgに置換)等;
(P17) synaptosomal-associated protein 25のアイソフォームとしてNP_003072等
が報告されているが、これらに限定されない。
(3)転写産物レベルの測定法及びそのための試薬・キット
髄液中の遺伝子転写産物Rnのレベルの測定は、例えば、以下の検出用核酸:
(a) 該転写産物とハイブリダイズし得る、即ち該転写産物の一部もしくは全部と相補的な核酸(プローブ)、
(b) 該転写産物の一部もしくは全部を増幅するプライマーとして機能し得るオリゴヌクレオチドのセット
を用いて、自体公知の任意のRNA測定法により行うことができる。
即ち、該検出用核酸としては、配列番号2n-1で表されるヌクレオチド配列を有する核酸(センス鎖=コード鎖)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有する核酸(アンチセンス鎖=非コード鎖)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸が好ましく例示される。ここで「ストリンジェントな条件」とは、配列番号2n-1(nは1〜17のいずれかの整数)で表される各ヌクレオチド配列又はその相補鎖配列を有する核酸と、オーバーラップする領域において90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上の相補性を有するヌクレオチド配列を有する核酸とがハイブリダイズし得る条件をいう。具体的には、ストリンジェントな条件とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
検出用核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。
プローブとして用いられる核酸は、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、供される試料に応じてセンス鎖(例:cDNA、cRNAの場合)またはアンチセンス鎖(例:mRNA、cDNAの場合)を選択して用いることができる。該核酸の長さは標的核酸と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、例えば15塩基以上、好ましくは約20塩基以上、より好ましくは25塩基以上である。長さの上限は特に限定されないが、例えば、500塩基以下、好ましくは200塩基以下、より好ましくは100塩基以下である。
該核酸は、標的核酸の検出・定量を可能とするために、標識剤により標識されていることが好ましい。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔32P〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5などが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、プローブと標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジンを用いることもできる。一方、プローブとなる核酸を固相上に固定化する場合には、試料中の核酸を上記と同様の標識剤を用いて標識することができる。
プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドのセットとしては、各配列番号に示されるヌクレオチド配列(センス鎖)およびそれに相補的なヌクレオチド配列(アンチセンス鎖)とそれぞれ特異的にハイブリダイズすることができ、それらに挟まれるDNA断片を増幅し得るものであれば特に制限はなく、例えば、各々約15〜約100塩基、好ましくは各々約15〜約50塩基の長さを有し、約100bp〜数kbpのDNA断片を増幅するようにデザインされたオリゴDNAのセットが挙げられる。
微量RNA試料を用いて転写産物Rnの発現を定量的に解析するためには、競合RT-PCRまたはリアルタイムRT-PCRを用いることが好ましい。競合RT-PCRとは、目的のDNAを増幅し得るプライマーのセットにより増幅され得る既知量の他の鋳型核酸をcompetitorとして反応液中に共存させて競合的に増幅反応を起こさせ、増幅産物の量を比較することにより、目的DNAの量を算出する方法をいう。従って、競合RT-PCRを用いる場合、本発明の試薬は、上記プライマーセットに加えて、該プライマーセットにより増幅され、目的DNAと区別することができる増幅産物(例えば、目的のDNAとはサイズの異なる増幅産物、制限酵素処理により異なる泳動パターンを示す増幅産物など)を生じる核酸をさらに含有することができる。このcompetitor核酸はDNAであってもRNAであってもよい。DNAの場合、RNA試料から逆転写反応によりcDNAを合成した後にcompetitorを添加してPCRを行えばよく、RNAの場合は、RNA試料に最初から添加してRT-PCRを行うことができる。後者の場合、逆転写反応の効率も考慮に入れているので、元のmRNAの絶対量を推定することができる。
一方、リアルタイムRT-PCRは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニタリングできるので、電気泳動が不要で、より迅速に転写産物Rnの発現を解析可能である。通常、モニタリングは種々の蛍光試薬を用いて行われる。これらの中には、SYBR Green I、エチジウムブロマイド等の二本鎖DNAに結合することにより蛍光を発する試薬(インターカレーター)の他、上記プローブとして用いることができる核酸(但し、該核酸は増幅領域内で標的核酸にハイブリダイズする)の両端をそれぞれ蛍光物質(例:FAM、HEX、TET、FITC等)および消光物質(例:TAMRA、DABCYL等)で修飾したもの等が含まれる。
本発明の遺伝子転写産物Rnの発現を検出し得るプローブとして機能する核酸は、該転写産物の一部もしくは全部を増幅し得る上記プライマーセットを用い、ヒトのあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはがん細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織、骨格筋など]由来のcDNAもしくはゲノムDNAを鋳型としてPCR法によって所望の長さの核酸を増幅するか、前記した細胞・組織由来のcDNAもしくはゲノムDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション等により本発明の遺伝子群の各遺伝子GnもしくはそのcDNAをクローニングし、必要に応じて制限酵素等を用いて適当な長さの断片とすることにより取得することができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。あるいは、プローブ用核酸は、配列番号2n-1(nは1〜17のいずれかの整数)で表される各ヌクレオチド配列情報に基づいて、該ヌクレオチド配列及び/又はその相補鎖配列の一部もしくは全部を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによっても得ることができる。また、シリコンやガラス等の固相上で該核酸を直接in situ(on chip)合成することにより、該核酸が固相化されたチップを作製することもできる。
転写産物Rnの一部もしくは全部を増幅し得るプライマーとして機能する核酸は、配列番号2n-1(nは1〜17のいずれかの整数)で表される各ヌクレオチド配列情報に基づいて、該ヌクレオチド配列およびその相補鎖配列の一部を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによって得ることができる。
転写産物Rnの発現を検出し得る核酸は、乾燥した状態もしくはアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水もしくは適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。標識プローブとして用いられる場合、該核酸は予め上記のいずれかの標識物質で標識した状態で提供することもできるし、標識物質とそれぞれ別個に提供され、用時標識して用いることもできる。
あるいは、該核酸は、適当な固相に固定化された状態で提供することもできる。固相としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、固定化手段としては、予め核酸にアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入しておき、一方、固相上にも該核酸と反応し得る官能基(例:アルデヒド基、アミノ基、SH基、ストレプトアビジンなど)を導入し、両官能基間の共有結合で固相と核酸を架橋したり、ポリアニオン性の核酸に対して、固相をポリカチオンコーティングして静電結合を利用して核酸を固定化するなどの方法が挙げられるが、これらに限定されない。
核酸プローブが固相に固定化された状態で提供される好ましい一例として、High Throughput Genomics社より提供されるArrayPlateTM等が挙げられる。ArrayPlateTMは96ウェルプレートの各ウェル底面に種々の核酸プローブが規則正しく配置した状態(例、4×4アレイ)で固定化されたものである。プローブとハイブリダイズし得る一端と標的核酸とハイブリダイズし得る他端とを有する核酸をスペーサーとして介在させることで、プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーション反応を固相表面上ではなく液相中で行わせることができ、標的核酸の定量的な測定が可能となる。従って、単一のウェルで本発明の遺伝子群の種々の遺伝子Gnの発現変動を同時に一括検出することができ、十分な定量性が得られれば、各遺伝子の発現変動を別個に検出するリアルタイムPCRよりもさらに効率がよいという利点を有する。
転写産物Rnの検出用試薬は、該転写産物の発現を検出し得る核酸に加えて、該転写産物の発現を検出するための反応において必要な他の物質であって、共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない物質をさらに含有することができる。あるいは、該検出用試薬は、転写産物Rnの発現を検出するための反応において必要な他の物質を含有する別個の試薬とともにキット化して提供することもできる。例えば、転写産物Rnの発現を検出するための反応がPCRの場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、dNTPs、耐熱性DNAポリメラーゼ等が挙げられる。競合PCRやリアルタイムPCRを用いる場合は、competitor核酸や蛍光試薬(上記インターカレーターや蛍光プローブ等)などをさらに含むことができる。
本発明の遺伝子群の個々の遺伝子は、白血病中枢神経浸潤が起こっている場合に、すべての遺伝子の発現が変動し、中枢神経浸潤がない場合に、すべての遺伝子の発現が実質的に変動しないというのが理想的であるが、現実的には必ずしもそのような結果が得られない場合もある。そのため、個々の遺伝子の発現を単独の指標とした場合、通常は、ある程度の偽陽性および偽陰性化合物の出現は避けられない可能性もある。しかしながら、複数の遺伝子の発現を調べることにより、判定精度をさらに向上させることができる。
したがって、本発明はまた、2以上の転写産物Rnを検出し得る核酸セットを含有する試薬を組み合わせてなる、白血病中枢神経浸潤の判定用キットを提供する。ここで各試薬中に含有される核酸は、互いに異なる転写産物Rnを検出し得るものである。より好ましくは、上記17種の本発明の遺伝子群のうちのいずれか2個以上、さらに好ましくは3個以上、いっそう好ましくは4個以上、特に好ましくは5個以上、最も好ましくは6個以上を検出対象とするキットが挙げられる。
キットを構成する各試薬中に含有される核酸は、同一の方法(例:ノーザンブロット、ドットブロット、DNAアレイ技術、定量RT-PCR等)により本発明の遺伝子群の発現を検出し得るように構築されていることが特に好ましい。
本発明のキットの構成として、上記の試薬がそれぞれ別個に提供されるもの[例:核酸が標識プローブ(特にドットブロット解析の場合)やPCR(特にリアルタイム定量PCR)用プライマーとして機能する場合等]、異なる遺伝子の発現を検出し得る核酸が同一の試薬中に含有されて提供されるもの[例:核酸がPCR(特に、増幅産物のサイズ等により各遺伝子を区別し得る場合)や標識プローブ(特に、ノーザンブロット解析で転写産物のサイズにより各遺伝子を区別し得る場合)として機能する場合等]、あるいは、異なる遺伝子の発現を検出し得る核酸が、同一の固相の別個の領域にそれぞれ固定化されて提供されるもの[例:標識cRNA等とのハイブリダイゼーション用プローブとして機能する場合等]などが例示されるが、これらに限定されない。
本発明の検査方法において発現レベルを測定される遺伝子転写産物は、上記(R1)〜(R17)のうちの1以上の転写産物であるが、より正確な白血病中枢神経浸潤の判定を可能にするには、例えば2以上、好ましくは3以上、いっそう好ましくは4個以上、特に好ましくは5個以上、最も好ましくは6個以上の転写産物を測定対象とする方法が挙げられる。
上述のように、本発明の遺伝子群のうち、(G1)〜(G10)の10遺伝子は、骨髄白血病細胞に比べて中枢神経に浸潤した白血病細胞で、RNAレベルでの発現が3倍以上に上昇していることから、測定対象として、(G1)〜(G10)のうちの1以上の遺伝子の転写産物を含むことが好ましい。
白血病患者から採取した髄液中の本発明の遺伝子群の発現は、髄液からRNA(例:全RNA、mRNA)画分を調製し、該画分中に含まれる該遺伝子群の各遺伝子転写産物Rn(nは1〜17のいずれかの整数)のレベルを測定することにより調べることができる。RNA画分の調製は、グアニジン-CsCl超遠心法、AGPC法など公知の手法を用いて行うことができるが、市販のRNA抽出用キット(例:RNeasy Mini Kit; QIAGEN製等)を用いて、微量試料から迅速且つ簡便に高純度の全RNAを調製することができる。RNA画分中の転写産物Rnを検出する手段としては、例えば、ハイブリダイゼーション(ノーザンブロット、ドットブロット、DNAチップ解析等)を用いる方法、あるいはPCR(RT-PCR、競合PCR、リアルタイムPCR等)を用いる方法などが挙げられる。微量試料から迅速且つ簡便に定量性よく本発明の遺伝子群の発現を検出できる点で競合PCRやリアルタイムPCRなどの定量的PCR法が、また、複数のマーカー遺伝子の発現を一括検出することができ、検出方法の選択によって定量性も向上させ得るなどの点でDNAチップ解析が好ましい。
ノーザンブロットまたはドットブロットハイブリダイゼーションによる場合、転写産物Rnの検出は、標識プローブとして用いられる検出用核酸を含有する上記本発明の試薬又はキットを用いて行うことができる。すなわち、ノーザンハイブリダイゼーションによる場合は、上記のようにして調製したRNA画分をゲル電気泳動にて分離した後、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等のメンブレンに転写し、本発明の試薬又は本発明のキット中に含まれる各試薬を含むハイブリダイゼーション緩衝液中、上記「ストリンジェントな条件下で」ハイブリダイゼーションさせた後、適当な方法でメンブレンに結合した標識量をバンド毎に測定することにより、各転写産物の発現レベルを測定することができる。ドットブロットの場合も、RNA画分をスポットしたメンブレンを同様にハイブリダイゼーション反応に付し(各転写産物についてそれぞれ行う)、スポットの標識量を測定することにより、各転写産物の発現レベルを測定することができる。
DNAチップ解析(上記本発明の試薬において記載した固相化プローブ)による場合、例えば、上記のようにして調製したRNA画分から、逆転写反応によりT7プロモーター等の適当なプロモーターを導入したcDNAを合成し、さらにRNAポリメラーゼを用いてcRNAを合成する(この時ビオチンなどで標識したモノヌクレオチドを基質として用いることにより、標識されたcRNAが得られる)。この標識cRNAを上記固相化プローブと接触させてハイブリダイゼーション反応させ、固相上の各プローブに結合した標識量を測定することにより、各遺伝子の転写産物の発現量を測定することができる。当該方法は、検出すべき遺伝子(従って、固相化されるプローブ)の数が多くなるほど、迅速性および簡便性の面で有利である。
好ましい実施態様によれば、本発明の検査方法において、本発明の遺伝子群の発現を検出する方法として定量的PCR法が用いられる。定量的PCRとしては、例えば、競合PCRやリアルタイムPCRなどがあるが、増幅反応後の電気泳動が不要であるという点でリアルタイムPCRがより迅速性に優れている。
競合PCRによる場合、上記本発明の試薬において記載したプライマーセットに加えて、該プライマーセットで増幅でき、増幅後に標的核酸(すなわち、転写産物Rn)の増幅産物と区別することができる(例えば、増幅サイズが異なる、制限酵素処理断片の泳動パターンが異なるなど)既知量のcompetitor核酸が用いられる。標的核酸とcompetitor核酸とはプライマーを奪い合って増幅が競合的に起こるので、増幅産物の量比が元の鋳型の量比を反映することになる。competitor核酸はDNAでもRNAでもよい。DNAの場合、上記のようにして調製されるRNA画分から逆転写反応によりcDNAを合成した後に、本発明の試薬およびcompetitorの共存下でPCRを行えばよく、RNAの場合は、RNA画分にcompetitorを添加して逆転写反応を行い、さらに本発明の試薬を添加してPCRを実施すればよい。
一方、リアルタイムPCRは、蛍光試薬を用いて増幅量をリアルタイムでモニタリングする方法であり、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を必要とする。このような装置は市販されている。用いる蛍光試薬によりいくつかの方法があり、例えば、インターカレンター法、TaqManTMプローブ法、Molecular Beacon法等が挙げられる。いずれも、上記のようにして調製されるRNA画分から逆転写反応によりcDNAを合成した後に、本発明の試薬とインターカレーター、TaqManTMプローブまたはMolecular Beaconプローブと呼ばれる蛍光試薬(プローブ)をそれぞれPCR反応系に添加するというものである。インターカレーターは合成された二本鎖DNAに結合して励起光の照射により蛍光を発するので、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型cDNA量を推定することができる。TaqManTMプローブは両端を蛍光物質と消光物質をそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであり、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズするが消光物質の存在により蛍光を発せず、伸長反応時にDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質が遊離することにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型cDNA量を推定することができる。Molecular Beaconプローブは両端を蛍光物質と消光物質をそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るとともにヘアピン型二次構造をとり得るオリゴヌクレオチドであり、ヘアピン構造をとっている時は消光物質の存在により蛍光を発せず、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズして蛍光物質と消光物質との距離が広がることにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型cDNA量を推定することができる。
(4)翻訳産物レベルの測定法及びそのための試薬・キット
髄液中の遺伝子翻訳産物Pnのレベルの測定は、例えば、該翻訳産物に対する抗体(検出用抗体)を用いて、自体公知の任意の免疫学的測定法により行うことができる。
翻訳産物Pnに対する抗体は、公知の手法を用いて製造されるポリクローナル又はモノクローナル抗体、あるいはこれらのフラグメント(例えば、Fab、F(ab')2、ScFv、minibody等)であってもよい。
本発明で使用される検出用抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が好ましい。
哺乳動物由来のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体としては、動物の血中に産生されるもの、ハイブリドーマに産生されるもの、ハイブリドーマから遺伝子工学的手法により得た抗体遺伝子や、ファージディスプレイにより莫大なクローンライブラリーからスクリーニングされた最適抗体をコードする遺伝子を、CHO細胞等に導入して大量生産されるもの、あるいは、ヒト抗体を生産するトランスジェニックマウス(例えば、KMマウス等)や、重度免疫不全マウス(例えば、NOGマウス、Rag2null/IL2Rγnullマウス等)に造血幹細胞を移植したヒト造血・免疫系マウスの血中から直接得られるヒト抗体などが挙げられる。
モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は当業者に公知の方法によって作製することができる。
i) モノクローナル抗体の作製
免疫原としては、翻訳産物Pn自体あるいはそのフラグメントが用いられる。翻訳産物Pnは、上記したそれを産生するヒト細胞又は組織から、自体公知のタンパク質分離精製法を用いて単離することもできるし、核酸プローブの調製に関して上記したようして、翻訳産物PnをコードするcDNAを単離し、これを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、産生する組換えタンパク質を回収することによっても取得できる。あるいは、各翻訳産物のアミノ酸配列情報に基づいて、そのフラグメントを公知のペプチド合成法により化学合成してもよい。
得られた翻訳産物Pnもしくはそのフラグメントは、哺乳動物に対して投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行なわれる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギが挙げられるが、マウス及びラットが好ましく用いられる。
モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原を免疫された哺乳動物、例えば、マウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓又はリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化S38AAと抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。融合操作は既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法[Nature, 256, 495 (1975)]に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0などが挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくは、PEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、約20〜40℃、好ましくは約30〜37℃で約1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば、蛋白質等の抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)又はプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体又はプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識した蛋白質等を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。
モノクローナル抗体の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別及び育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%のウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%のウシ胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))又はハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM-101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相又はプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行なうことができる。
ii) ポリクローナル抗体の作製
翻訳産物Pnに対するポリクローナル抗体は、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行なうかニワトリに免疫を行ない、該免疫動物から抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。
哺乳動物及びニワトリを免疫するために用いられる免疫原とキャリアー蛋白質との複合体に関し、キャリアー蛋白質の種類及びキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプルさせる方法が用いられる。
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、哺乳動物又はニワトリに対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なうことができる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水、母乳など、好ましくは血液から採取することができ、ニワトリの場合は血液及び卵黄から採取できる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
検出用抗体は、蛍光標識抗体、酵素標識抗体、ストレプトアビジン標識抗体、ビオチン標識抗体あるいは放射性標識抗体であってもよい。該抗体は、通常、水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBSなど)中に適当な濃度となるように溶解された水溶液の態様、あるいは凍結乾燥品の態様で提供される。
上述のように、本発明の遺伝子群の個々の遺伝子の発現を単独の指標とした場合、通常は、ある程度の偽陽性および偽陰性化合物の出現は避けられない可能性もあるが、複数の遺伝子の発現を調べることにより、判定精度をさらに向上させることができる。
したがって、本発明はまた、2以上の翻訳産物Pnを検出し得る抗体セットを含有する試薬を組み合わせてなる、白血病中枢神経浸潤の判定用キットを提供する。ここで各試薬中に含有される抗体は、互いに異なる翻訳産物Pnを検出し得るものである。より好ましくは、上記17種の本発明の遺伝子群のうちのいずれか2個以上、さらに好ましくは3個以上、いっそう好ましくは4個以上、特に好ましくは5個以上、最も好ましくは6個以上を検出対象とするキットが挙げられる。
キットを構成する各試薬中に含有される抗体は、同一の方法(例:ELISA、FIA、RIA、ウェスタンブロット等、あるいは直接法、間接法、サンドイッチ法等)により、本発明の遺伝子群の発現を検出し得るように構築されていることが特に好ましい。
本発明のキットは、翻訳産物Pnの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、ウエスタンブロッティングで測定する場合には、本発明のキットは、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等、検出試薬、標準液などをさらに含むことができる。ここで「標準液」としては、上記翻訳産物Pn又はそのフラグメントの精製標品を水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBSなど)中に特定の濃度となるように溶解した水溶液が挙げられる。
また、サンドイッチELISAで測定する場合には、本発明のキットは、上記に加え固相化抗体測定プレート、洗浄液等をさらに含むことができる。ラテックス凝集法を含む凝集法で測定する場合には、抗体コーティングしたラテックス、ゼラチン等を含むことができる。化学蛍光法、化学蛍光電子法で測定する場合には、抗体結合磁性粒子、適当な緩衝液を含むことができる。LC/MS、LC-MS/MSあるいはイムノクロマトグラフィー法を用いた翻訳産物Pnの検出には、抗体コーティングしたカラムあるいはマイクロカラム、マクロチップを検出機器の一部として、含むことができる。さらに時間分解蛍光測定法あるいはそれに類似した蛍光測定法であれば、複数のラベル化した検出用抗体と必要な他の成分を構成として含んでもよい。
本発明の検査方法において発現レベルを測定される遺伝子翻訳産物は、上記(P1)〜(P17)のうちの1以上の翻訳産物であるが、より正確な白血病中枢神経浸潤の判定を可能にするには、例えば2以上、好ましくは3以上、いっそう好ましくは4個以上、特に好ましくは5個以上、最も好ましくは6個以上の翻訳産物を測定対象とする方法が挙げられる。
上述のように、本発明の遺伝子群のうち、(G1)〜(G10)の10遺伝子は、骨髄白血病細胞に比べて中枢神経に浸潤した白血病細胞で、発現が3倍以上に上昇していることから、測定対象として、(G1)〜(G10)のうちの1以上の遺伝子の翻訳産物を含むことが好ましい。
白血病患者から採取した髄液中の本発明の遺伝子群の各遺伝子翻訳産物の検出は、公知の方法により実施することができる。例えば、ウエスタンブロッティング、ゲル電気泳動(例:SDS-PAGE、二次元ゲル電気泳動など)や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動など)、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計など)等に供することにより行うことができる。
また、翻訳産物Pnの検出は、公知の免疫化学的方法(ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法、化学蛍光法、化学蛍光電子法及びサンドイッチ法等)で実施することもできる。これらの免疫化学的方法は、例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
(5)白血病中枢神経浸潤の判定
本発明の検査方法においては、上記のようにして得られた、髄液中の本発明の遺伝子群の1以上の遺伝子の転写産物もしくは翻訳産物のレベルを、当該遺伝子における基準値(カットオフ値)と比較する。各遺伝子の最適な基準値は、ROC曲線(Receiver Operator Characteristic Curve)などを用いて設定される。ROC曲線は縦軸に感度、横軸に偽陽性率(1-特異度)をとって、基準値を変動させながらプロットしたときに得られる曲線である。感度、特異度をともに高めるためには、基準値はROC曲線上で、偽陽性率0, 感度1の点(0,1)に最も近い点を与える値に設定すればよい。取りこぼしをより少なくするためには、ROC曲線上の(0,1)に最も近い点より高感度の点を与える値を基準値として設定すればよい。あるいは、白血病中枢神経浸潤を有しない対照群における髄液中の転写産物Rnもしくは翻訳産物Pnレベルの平均値+0.5〜5SD(SDは標準偏差)、好ましくは平均値+1〜3SDを基準値に設定することもできる。
2以上の転写産物もしくは翻訳産物を測定対象としたときに、測定値が基準値を上回る遺伝子と、基準値を下回る遺伝子とが混在した場合の、白血病中枢神経浸潤の有無を判定する基準は、その基準に基づく判定結果が、白血病中枢神経浸潤の診断への使用に堪え得る程度に十分な信頼性を有する限り、特に制限されない。例えば、(1) 測定対象であるすべての遺伝子について発現が基準値を上回る場合に、白血病細胞が中枢神経に浸潤しているか、近い将来浸潤する可能性が高いと判定し、いずれかの遺伝子の発現が基準値を下回る場合には、白血病細胞が中枢神経に浸潤しておらず、近い将来浸潤する可能性も低いと判定する方法、(2) 測定対象であるすべての遺伝子の発現が基準値を下回る場合に、白血病細胞が中枢神経に浸潤しておらず、近い将来浸潤する可能性も低いと判定し、いずれかの遺伝子の発現が基準値を上回る場合に、白血病細胞が中枢神経に浸潤しているか、近い将来浸潤する可能性が高いと判定する方法、(3) 測定対象であるm種の遺伝子のうち一定数(例えば、2〜m-1種)以上の発現が基準値を上回る場合に、白血病細胞が中枢神経に浸潤しているか、近い将来浸潤する可能性が高いと判定する方法などが挙げられる。上記(1)の方法によれば、偽陽性率を低減することはできるが、偽陰性率が高くなり、相当数の白血病中枢神経浸潤が見落とされるという欠点がある。一方、(2)の方法によれば、偽陰性率を低減することはできるが、偽陽性率が高くなり、無用な治療強化が図られ、結果として患者のQOLを損なう可能性がある。
望ましくは、上記ROC曲線を用いて、各遺伝子について曲線下面積(AUC)を算出し、AUCの大きさに応じて各遺伝子間に重みをつけ、より重みの大きな遺伝子の発現が基準値を上回るか否かで、白血病中枢神経浸潤の有無を判定する方法が挙げられる。
(6)ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル及びその作製方法
本発明はまた、ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルを提供する。該モデルは、免疫不全マウスに、白血病患者の骨髄から採取した白血病細胞を1×105〜7個、尾静脈より移植し、該マウスを約20週間以上飼育することにより作製することができる。
免疫不全マウスとしては、例えば、NOGマウス、NOD-scidマウス、IL-2RγKOマウス、RAG2 KOマウス、RAG2, IL-2Rγ dKOマウス、NOD/Shiマウス、SCIDマウス等が挙げられるが、好ましくはNOGマウス又はRAG2, IL-2RγdKOマウス、より好ましくはNOGマウスである。
NOGマウスは、NOD-scidマウスに、免疫不全症XSCIDの原因遺伝子であり、数種のサイトカインレセプター共通ドメインであるIL-2レセプターγ鎖のノックアウト (IL2RγKO) マウス(Ohbo K et al., Blood 1996)を戻し交配することにより樹立された、極めて重度な複合型免疫不全を呈するマウスである(Ito M et al., Blood 2002; 特許第3753321号公報; 米国特許第7,145,055号明細書; 欧州特許第1338198号公報)。
NOGマウスは、公益財団法人 実験動物中央研究所より購入することができる。他の免疫不全マウスについても、例えばJackson Laboratory等の周知の実験動物育種施設から入手することができる。NOGマウスをはじめとする免疫不全マウスの飼育は、SPFマウスを飼育できる装置(ビニールアイソレーター、バリア飼育室、バイオバブル飼育装置、クリーンラック、その他複合装置)を用い、23〜25℃、湿度40〜60%に維持して行う。飼料は放射線もしくは高圧蒸気滅菌した固形飼料を用い、飲水は滅菌水を用いる。ケージ交換は週1回以上行う。また、通常の微生物検査に加えて、緑膿菌、黄色ブドウ球菌などの日和見感染菌の検査も行う。
本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの作製にあたって、免疫不全マウスに移植されるヒト白血病細胞の由来は特に制限されず、上記本発明の検査方法の被検対象となるいかなる白血病患者であってもよいが、好ましくは小児白血病患者であり、より好ましくは小児リンパ性白血病患者、特に小児急性リンパ性白血病患者である。白血病細胞の採取源となる患者は、中枢神経浸潤陽性である必要はなく、TCCSG(Tokyo Children's Cancer Study Group)の診断基準のCNS status分類でCNS-1(中枢神経浸潤陰性)、CNS-2, -3(中枢神経浸潤陽性)のいずれのステージの患者であってもよい。移植用の白血病細胞は、患者の骨髄から常法により採取することができ、例えば、フローサイトメトリーにより、CD10陽性・CD19陽性細胞を単離することにより調製することができる。
上記のようにして調製したヒト白血病細胞1×105〜7個を、尾静脈より免疫不全マウスに移植する(図1A)。免疫不全マウスの性別は特に限定されず、8〜10週齢の雌雄いずれのマウスを用いてもよい。放射線照射などの免疫抑制のための前処置を行ってもよいが、本マウスモデルについては、前処置なしでも十分なヒト白血病の生着と、その後の白血病中枢神経浸潤の病態を再現することができる。移植後、上記条件下で無治療のまま飼育を続けると、約6〜15週間後に、高頻度に骨髄中の芽球の著増を認め(図1B)、急性期症状を呈する。このヒト白血病細胞の生着が認められたマウスを選別し、種々の病理像を観察すると、肝臓や脾臓の腫脹(図2)や門脈域への白血病細胞浸潤(図3)を認める。さらに、移植した白血病細胞の由来する患者における白血病中枢神経浸潤の有無にかかわらず、移植後20週以降の中枢神経から回収した単核球のフローサイトメトリーにて、ヒトCD19陽性の白血病細胞を認め(図4)、経時的病理評価ではヒト白血病の中枢神経浸潤を病理像レベルで再現している(図5)。この中枢神経浸潤したマウスの髄液所見からもヒト白血病細胞の存在を確認することができ(図6)、頭部MRI検査においては、硬膜炎を疑う所見が認められ(図7)、白血病中枢神経浸潤を伴う白血病患者の所見と一致する。このように、免疫不全マウスに白血病患者の骨髄から採取した白血病細胞を移植したマウスは、病理像、髄液所見、頭部MRI画像においてヒト白血病中枢神経浸潤の特徴的な病態をよく再現しており、ヒト白血病中枢神経浸潤のマウスモデルとして極めて有用である。
(7)白血病中枢神経浸潤の抑制薬のスクリーニング方法
(G1)〜(G17)の遺伝子群の中には、白血病中枢神経浸潤の結果発現が上昇したものだけでなく、その発現上昇が原因となって白血病中枢神経浸潤を惹起するものや、逆に白血病中枢神経浸潤に対する防御機構として発現が上昇したものも含まれ得る。従って、本発明の遺伝子群の中で、白血病中枢神経浸潤を惹起もしくは亢進し得る遺伝子(「CNS-Ls遺伝子」と略記する場合がある)又は白血病中枢神経浸潤を抑制し得る遺伝子(CNS-Li遺伝子」と略記する場合がある)の発現変動を指標として、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質(「本発明の抑制薬」ともいう)をスクリーニングすることができる。白血病中枢神経浸潤を惹起又は抑制し得る遺伝子を総称して、「白血病中枢神経浸潤調節遺伝子」(CNS-Lm遺伝子」と略記する場合がある)ともいう。
即ち、該スクリーニング法は、
(i) 本発明の遺伝子群から選択されるCNS-Lm遺伝子又は該遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞に、被検物質を接触させる工程、
(ii) 前記細胞における該CNS-Lm遺伝子又は該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、並びに
(iii) 被検物質の非存在下での発現レベルと比較して、該CNS-Lm遺伝子又は該レポーター遺伝子の発現レベルを減少(CNS-Ls遺伝子の場合)もしくは増大(CNS-Li遺伝子の場合)させた被検物質を、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質の候補として選択する工程
を含む。
本発明の遺伝子群の各遺伝子がCNS-Lm遺伝子であるか否かは、本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルにおいてその発現を正もしくは負に調節した場合に、白血病細胞の中枢神経への浸潤が変化するか否かを調べることにより同定することができる。
本発明のマウスモデルにおいてその発現を正に調節する方法としては、該マウスモデルに被検遺伝子を導入して過剰発現させる方法、例えば、被検遺伝子をコードする核酸を該マウスモデルの髄腔内に投与して中枢神経局所で一過的に過剰発現させる方法、あるいは免疫不全マウスに被検遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、該Tgマウスに、上記のようにしてヒト白血病細胞を移植してヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルを得る方法等が挙げられる。後者の場合、中枢神経局所で被検遺伝子が特異的に発現するように、中枢神経細胞特異的遺伝子のプロモーターの下流に被検遺伝子を挿入した発現ベクターを導入することが望ましい。後述のように、本発明の遺伝子群では中枢神経特異的遺伝子(例えば、MAP2、CTNND2、TUBB2B)が濃縮されているので、被検遺伝子の中には、その遺伝子の内在プロモーターを利用することができるものもある。あるいは、誘導性プロモーターやCre-loxP系等を用いて発現ベクターを構築し、得られたTgマウスから作製したヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルに、誘導物質やCreリコンビナーゼを髄腔内投与することにより、中枢神経局所で被検遺伝子を特異的に発現させることもできる。本発明のマウスモデルにおいてその発現を正に調節したときに、白血病中枢神経浸潤が亢進された場合、被検遺伝子はCNS-Ls遺伝子であると判定することができ、白血病中枢神経浸潤が抑制された場合は、被検遺伝子はCNS-Li遺伝子であると判定することができる。
本発明のマウスモデルにおいてその発現を負に調節する方法としては、例えば、被検遺伝子の発現を阻害する核酸(siRNA、shRNA、アンチセンス核酸、miRNA、リボザイム等)や被検遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体を、該マウスモデルの髄腔内に投与して、中枢神経局所で被検遺伝子の機能発現を抑制する方法、あるいは免疫不全マウスにおいて被検遺伝子を欠損させたノックアウト(KO)マウスを作製し、該KOマウスに、上記のようにしてヒト白血病細胞を移植してヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルを得る方法等が挙げられる。後者の場合、被検遺伝子の欠損が致死性であるときは、Cre-loxP系等を用いてターゲッティングベクターを構築し、得られた相同組換えマウスから作製したヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルにCreリコンビナーゼを髄腔内投与することにより、中枢神経局所で被検遺伝子を特異的に欠損させることができる。本発明のマウスモデルにおいてその発現を負に調節したときに、白血病中枢神経浸潤が亢進された場合、被検遺伝子はCNS-Li遺伝子であると判定することができ、白血病中枢神経浸潤が抑制された場合は、被検遺伝子はCNS-Ls遺伝子であると判定することができる。
本発明のスクリーニング方法の工程(i)では、上記のようにして同定されたCNS-Lm遺伝子又は該遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞に、被検物質を接触させる。CNS-Lm遺伝子を発現する細胞は、該遺伝子の内在プロモーターの制御下にあり、かつ該遺伝子を高発現している細胞であれば特に制限されないが、例えば、本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの髄液から、例えば、フローサイトメトリー等により、CD10陽性、CD19陽性、CD45陽性などを指標に単離された中枢神経浸潤ヒト白血病細胞や、CNS-Lm遺伝子が中枢神経特異的遺伝子の場合には、ヒト神経細胞株等を用いることができる。あるいは、Hela細胞、HEK293細胞等のヒト細胞株に、ヒトゲノムDNAライブラリーから常法により単離したCNS-Lm遺伝子を導入した形質転換細胞も用いることができる。一方、CNS-Lm遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞としては、ヒトゲノムDNAライブラリーから単離したCNS-Lm遺伝子の転写調節領域の下流にレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子等)をライゲーションして構築した発現ベクターで、ヒト細胞をトランスフェクトした細胞や、被検遺伝子の発現を正もしくは負に調節する方法について上記したのと同様に、CNS-Lm遺伝子の転写調節領域の下流にレポーター遺伝子をライゲーションして構築した発現ベクター、あるいはCNS-Lm遺伝子のコード領域をレポーター遺伝子で置換したターゲッティングベクターを免疫不全マウスの初期胚やES細胞に導入し、該発現ベクターが組み込まれたTgマウスもしくは該ターゲッティングベクターで置換されたノックイン(KI)マウスを作製し、該TgもしくはKIマウスに、上記のようにしてヒト白血病細胞を移植して得られるヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの髄液から単離されたヒト白血病細胞等が挙げられる。
あるいは、CNS-Lm遺伝子又は該遺伝子の転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞として、本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル自体、又は上記のようにしてCNS-Lm遺伝子の転写調節領域の下流にレポーター遺伝子が挿入された該マウスモデル自体を、in vivoスクリーニング系として用いることができる。
上記のようにして得られる細胞は、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122, 501 (1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology, 8, 396 (1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association, 199, 519 (1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine, 73, 1 (1950)〕などの培地中で培養することができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
被検物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
被検物質の上記細胞との接触は、例えば、上記の培地や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)の中に被検物質を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される被検物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約10分〜約24時間が挙げられる。
細胞が、本発明のマウスモデルのような動物個体の形態で提供される場合、被検物質の該細胞との接触は、該動物個体への被検物質の投与によって行われる。投与経路は、被検物質が標的細胞、即ち、中枢神経浸潤ヒト白血病細胞に十分な量で送達される限り、特に制限されず、例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、経口投与、気道内投与、直腸投与、鼻腔内投与、髄腔内投与等が挙げられる。被検物質が血液脳関門を通過しにくい物質である場合は、髄腔内投与によることが望ましい。投与量も特に制限はないが、例えば、1回量として約0.5〜20 mg/kgを、1日1〜5回、1日〜数ヶ月程度投与することができる。
本発明のスクリーニング方法の工程(ii)では、前記細胞におけるCNS-Lm遺伝子又はレポーター遺伝子の発現レベルを測定する。
CNS-Lm遺伝子の発現量は、本発明の試薬・キットについて前記した検出用核酸を用いて、該遺伝子の転写産物レベルを測定することにより、あるいは、本発明の試薬・キットについて前記した検出用抗体を用いて、該遺伝子の翻訳産物レベルを測定することにより、測定することができる。一方、レポーター遺伝子の発現量は、用いられるレポーター遺伝子に応じて、自体公知の方法により、該遺伝子にコードされるタンパク質(例えば、ルシフェラーゼ、GFP等)を検出・定量することにより測定することができる。
細胞が、本発明のマウスモデルのような動物個体の形態で提供される場合、発現量の測定は、該動物個体から採取した髄液中のCNS-Lm遺伝子の転写産物もしくは翻訳産物レベル、あるいはレポータータンパク質のレベルを測定することにより行われる。
本発明のスクリーニング方法の工程(iii)では、上記のようにして測定されたCNS-Lm遺伝子又はレポーター遺伝子の発現レベルを、被検物質の非存在下でインキュベートした細胞における該遺伝子の発現レベルと比較する。比較の結果、CNS-Lm遺伝子又はレポーター遺伝子の発現レベルを減少(CNS-Ls遺伝子の場合)もしくは増大(CNS-Li遺伝子の場合)させた被検物質を、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質の候補として選択する。
上記のスクリーニング方法により本発明の抑制薬の候補として選択された被検物質が、実際に白血病中枢神経浸潤の抑制効果を有するか否かの確認は、本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルに該被検物質を投与し、該マウスモデルが呈する種々の中枢神経浸潤の病態が軽減されるか否かを調べることにより行うことができる。被検物質の投与経路及び投与量については、本発明のスクリーニング法について上記したのと同様の投与経路及び投与量を採用することができる。中枢神経浸潤の病態としては、髄液中に含まれるヒト白血病細胞数、中枢神経における白血病細胞のびまん性浸潤、頭部MRIによる硬膜肥厚等が挙げられる。
白血病中枢神経浸潤を惹起もしくは亢進するCNS-Ls遺伝子の機能発現を抑制し得る、該遺伝子に対するsiRNA、shRNA、miRNA、それらをコードするDNA、アンチセンス核酸又はリボザイム、あるいは該遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体は、上記本発明のスクリーニング方法で得られる本発明の抑制薬と同様、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質である。また、白血病中枢神経浸潤を抑制するCNS-Li遺伝子の機能発現を増強し得る、該遺伝子の発現ベクター、該遺伝子にコードされるmRNA又はタンパク質も、上記本発明のスクリーニング方法で得られる本発明の抑制薬と同様、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質である。
(8)白血病中枢神経浸潤抑制剤
上記のようにして選択された本発明の抑制薬は、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、中枢神経浸潤した白血病患者に対して、経口的または非経口的に投与することができる。本発明の抑制薬が核酸の場合、該核酸を単独で用いてもよいし、あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入することもできる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記核酸を単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
本発明の抑制薬が抗体や低分子化合物の場合、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、上記の抗体もしくは低分子化合物と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤、鼻腔内投与剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、本発明の抑制薬を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、本発明の抑制薬を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。本発明の抑制薬は、投薬単位剤形当たり通常0.1〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
本発明の抑制薬を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、白血病の種類、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、本発明の抑制薬を1回量として、通常0.0001〜20mg/kg体重程度、低分子化合物であれば1日1〜5回程度、経口または非経口で、核酸もしくは抗体であれば1日〜数ヶ月に1回、髄腔内注射により投与するのが好都合である。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
(9)DDSキャリアーとしての本発明の遺伝子群の翻訳産物に対する抗体
後述の実施例に示すとおり、本発明の遺伝子群では中枢神経特異的遺伝子が濃縮されているが、中枢神経細胞での発現がないもしくは発現レベルが低い遺伝子も含まれ得る。例えば、公知のデータベースであるModel Organism Protein Expression Database(MOPED)、Protein abundance across organisms database(PaxDb)及びThe MaxQuant DataBase(MAXQB)から得られる情報によれば、(G1)〜(G17)の各遺伝子のうち、BRUNOL4(CELF4)、LTX2、THRA、DACT3遺伝子は、中枢神経細胞での発現が低いとされている。従って、これらの遺伝子の翻訳産物に対する抗体を用いて、正常中枢神経細胞を傷害することなく、中枢神経浸潤した白血病細胞に特異的に抗がん剤等の薬剤を送達させることができる。即ち、本発明はまた、本発明の遺伝子群に属し、かつ正常神経細胞で発現していない遺伝子の翻訳産物に対する抗体と、抗腫瘍活性を有する物質とが連結されてなる、白血病中枢神経浸潤抑制剤を提供する。ここで「抗腫瘍活性を有する物質」は白血病細胞に対する選択毒性を有する物質であることが望ましいが、白血病細胞を傷害し得る限り、正常ヒト細胞に対しても毒性を有するものであってもよい。抗体と抗腫瘍活性を有する物質との結合は、従来のがんミサイル療法におけるイミノコンジュゲート作製に用いられる公知の手法を、適宜選択して用いることができる。
該イムノコンジュゲートは、上記本発明の抑制薬と同様の方法により製剤化することができ、同様の投与経路及び投与量で、中枢神経浸潤した白血病患者に投与され得る。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例になんら限定されるものではない。
実施例1 ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの構築
中枢神経(以下CNS)浸潤陰性の小児急性リンパ性白血病(以下ALL)患者の骨髄より採取した白血病細胞(1×105〜7細胞/マウス)を、NOGマウス(8-10週齢, オス; 公益財団法人 実験動物中央研究所より購入)の尾静脈より前処置なしで移植した(図1A)。9症例についての、移植28週間後までのヒト白血病細胞の生着の様子(骨髄中の芽球の割合)と、3症例における骨髄中の芽球の増加の経時変化を図1Bに示した。移植15週間後には、極めて高頻度に、骨髄中のほぼすべての単核球がヒト白血病細胞で占められており、高い生着が認められた。骨髄がヒト白血病細胞で高度に占められた後に、ヒト白血病細胞移植マウスから肝臓、脾臓及び骨を切除し、腫脹の度合を対照NOGマウスと比較した。その結果、肝臓及び脾臓の腫脹が認められた(図2)。また、肝臓の組織切片のヘマトキシリン-エオシン染色像から門脈域への白血病細胞浸潤を認めた(図3)。このように、NOGマウスに患者由来の白血病細胞を移植したヒト白血病マウスは、ヒトでの白血病細胞の髄外浸潤をよく再現していた。
次に、中枢神経における白血病細胞の動態について検討した。ヒト白血病マウスを無治療観察し、移植後20週以降のCNSから回収した単核球のフローサイトメトリー(FACS)にてヒトCD19陽性・マウスCD45陰性のヒト白血病細胞を認め(図4)、経時的病理評価ではヒト白血病の中枢神経浸潤を病理像レベルで再現していることが確認された(図5)。このCNS浸潤したヒト白血病マウスの髄液約20μLを採取し、メイギムザ染色及び抗ヒトCD45抗体による免疫染色を行った。その結果、患者急性リンパ性白血病と同様の形態を示す細胞が観察され(図6左)、免疫染色でもヒトCD45陽性の白血病細胞であることが確認された(図6右)。
続いて、このヒト白血病マウスの頭部MRI検査を施行した。正常NOGマウスと比較すると、ヒト白血病マウスでは硬膜炎を疑う所見が認められた(図7)。これは中枢神経浸潤を伴うALL患者の頭部MRI画像の所見と一致するものであり、ヒト白血病マウスの頭部MRIは患者所見と類似したものと考えられた。これらの結果から、NOGマウスに患者白血病細胞を移植したマウスは、病理像、髄液所見、頭部MRIのいずれにおいても、ヒト白血病CNS浸潤の特徴を忠実に再現したマウスモデルであることが確認できた。
実施例2 CNS浸潤ヒト白血病細胞で示差的に高発現する遺伝子群の同定
実施例1で作製したヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルを用い、CNS浸潤した白血病細胞の特徴を解析するため、髄外(末梢血、肝臓及び脳)に浸潤した白血病細胞と、骨髄で増殖する白血病細胞との、遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイ解析にて比較した。4症例の白血病患者の骨髄由来の白血病細胞をNOGマウス(5匹; 1症例のみ2匹に移植)に移植し、骨髄で白血病細胞の割合が90%以上に達したヒト白血病マウスから、以下の手順で白血病細胞を採取した。各臓器から回収・純化した白血病細胞から、RNeasy kitと、キアシュレッダーカラム(QIAshredder columnTM Qiagen社)を用いてRNAを回収・精製し、RNA微量増幅kit(NuGEN)にて増幅した。Array解析はSurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K(Agilent Technologies)にてプロファイルを行い、GeneSpringにて解析した。その結果、CNS浸潤白血病細胞で特に発現が高くなっている以下の17遺伝子:
(G1) GPM6A;
(G2) BSN;
(G3) BRUNOL4(CELF4);
(G4) LOC730032;
(G5) GJA1;
(G6) TUBB2B;
(G7) CRYAB;
(G8) LHX2;
(G9) MAP2;
(G10) THRA;
(G11) TPPP;
(G12) FBXL16;
(G13) NFIB;
(G14) DACT3;
(G15) KIF1A;
(G16) CTNND2;及び
(G17) SNAP25
からなる遺伝子群が存在することが判った。このうち、(G1)〜(G10)の10遺伝子は、5匹のマウスモデル全てにおいて、骨髄白血病細胞と比較して、CNS浸潤白血病細胞中での発現が、RNAレベルで3倍以上上昇していた(図8)。
参考例1 抽出遺伝子に対する組織特異的遺伝子の濃縮度の検討
骨髄白血病細胞に比べてCNS浸潤白血病細胞で3倍以上発現が上昇している遺伝子群には、正常神経細胞で特異的に発現している遺伝子が散見されたため、正常神経細胞で特異的に発現している遺伝子がこの遺伝子群の中に有意に濃縮されているかを検定した。複数のデータベースにおいて、CNS浸潤白血病細胞で高発現している遺伝子群には、正常神経細胞で高発現している遺伝子が有意に濃縮されていることが判明した(図9)。
参考例2 CNS浸潤白血病細胞で高発現する遺伝子の機能解析
続いて、CNS浸潤白血病細胞で、骨髄由来白血病細胞と比較して高発現している遺伝子の機能を、Gene Ontology(GO)解析にて検討した。GeneSpring にて行ったGO解析では、骨髄由来白血病細胞と比較して、CNS浸潤白血病細胞で3倍以上発現している遺伝子の機能を見ると、正常神経活動に関わっているものが有意に多く含まれていることが分かった(図10)。
以上のように、マイクロアレイによる遺伝子発現解析とGO解析という異なる2つの検討のいずれにおいても、CNS浸潤白血病細胞が正常神経細胞の性質を帯びていることが分かった。これらの検討から、CNS浸潤白血病細胞は、骨髄で増殖する白血病細胞とは遺伝子発現レベルで異なり、CNS環境に順化・適応して増殖しているという新たな知見が得られた。
参考例3 CNS浸潤白血病細胞の白血病再現能の検討
最後に、CNS環境で増殖しているCNS浸潤白血病細胞は白血病再現能を有すのか、即ち、CNS浸潤白血病細胞は再発に直接寄与するのか否かを、2次移植にて検討した。CNS浸潤白血病細胞、骨髄由来白血病細胞ともに、1×105個又は1×106個ずつNOGマウスに移植し、骨髄におけるキメリズムを経時的に解析すると、CNS浸潤白血病細胞を移植したマウス、骨髄由来白血病細胞を移植したマウスともに生着を認め、full blastになることが分かった(図11)。つまり、CNS浸潤白血病細胞は、遺伝子発現パターンは異なるものの、骨髄由来白血病細胞と同程度の白血病再現能を有することがわかり、CNS浸潤白血病細胞が再発に直接寄与し得ることが示された。
本発明で抽出された中枢神経浸潤した白血病細胞で高発現する遺伝子群は、がん浸潤の抑制を目的とした創薬開発のターゲットとして、また、中枢神経浸潤の診断マーカーとして利用することができるので、白血病中枢神経浸潤の早期発見と、患者のQOLを損なわない中枢神経浸潤白血病細胞を特異的に攻撃し得る治療法の開発に極めて有用である。また、本発明のヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルは、ヒト白血病の病態を正確に再現することができるので、白血病の治療薬の開発や病態のメカニズム解明のための研究ツールとして極めて有用である。

Claims (12)

  1. 白血病患者における中枢神経浸潤を判定するための検査方法であって、該白血病患者から採取した髄液中の、以下の(G1)〜(G17):
    (G1) GPM6A;
    (G2) BSN;
    (G3) BRUNOL4(CELF4);
    (G4) LOC730032;
    (G5) GJA1;
    (G6) TUBB2B;
    (G7) CRYAB;
    (G8) LHX2;
    (G9) MAP2;
    (G10) THRA;
    (G11) TPPP;
    (G12) FBXL16;
    (G13) NFIB;
    (G14) DACT3;
    (G15) KIF1A;
    (G16) CTNND2;及び
    (G17) SNAP25
    からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する工程、並びに
    該測定値と各遺伝子における基準値とを比較する工程
    を含む、方法。
  2. (G1)〜(G17)からなる群より選択される2以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する、請求項1記載の方法。
  3. (G1)〜(G10)からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物レベルを測定する、請求項1又は2記載の方法。
  4. 白血病中枢神経浸潤の診断剤であって、以下の(G1)〜(G17):
    (G1) GPM6A;
    (G2) BSN;
    (G3) BRUNOL4(CELF4);
    (G4) LOC730032;
    (G5) GJA1;
    (G6) TUBB2B;
    (G7) CRYAB;
    (G8) LHX2;
    (G9) MAP2;
    (G10) THRA;
    (G11) TPPP;
    (G12) FBXL16;
    (G13) NFIB;
    (G14) DACT3;
    (G15) KIF1A;
    (G16) CTNND2;及び
    (G17) SNAP25
    からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物を検出し得る物質を含み、該物質が、
    (a) 該転写産物の一部もしくは全部に相補的な核酸プローブ;
    (b) 該転写産物の一部もしくは全部を増幅し得るプライマー;又は
    (c) 該翻訳産物に対する抗体
    である、診断剤。
  5. (G1)〜(G17)からなる群より選択される2以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物を検出し得る物質を含む、請求項4記載の診断剤。
  6. (G1)〜(G10)からなる群より選択される1以上の遺伝子の転写産物又は翻訳産物を検出し得る物質を含む、請求項4又は5記載の診断剤。
  7. 免疫不全マウスに、白血病患者の骨髄から採取した白血病細胞を1×105〜7個、尾静脈より移植する工程、及び
    該マウスを約20週間以上飼育する工程
    を含む、ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデルの作製方法。
  8. 免疫不全マウスがNOGマウスである、請求項7記載の方法。
  9. 請求項7又は8記載の方法により得られる、ヒト白血病中枢神経浸潤マウスモデル。
  10. 白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質のスクリーニング方法であって、以下の(G1)〜(G17):
    (G1) GPM6A;
    (G2) BSN;
    (G3) BRUNOL4(CELF4);
    (G4) LOC730032;
    (G5) GJA1;
    (G6) TUBB2B;
    (G7) CRYAB;
    (G8) LHX2;
    (G9) MAP2;
    (G10) THRA;
    (G11) TPPP;
    (G12) FBXL16;
    (G13) NFIB;
    (G14) DACT3;
    (G15) KIF1A;
    (G16) CTNND2;及び
    (G17) SNAP25
    からなる群より選択され、かつ請求項9記載のマウスモデルにおいてその発現を正もしくは負に調節した場合に、白血病細胞の中枢神経への浸潤が変化する遺伝子Gn(nは1〜17のいずれかの整数)、又は該遺伝子Gnの転写調節領域の制御下にあるレポーター遺伝子を発現する細胞に、被検物質を接触させる工程、
    前記細胞における該遺伝子Gn又は該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、並びに
    被検物質の非存在下での発現レベルと比較して、該遺伝子Gn又は該レポーター遺伝子の発現レベルを減少もしくは増大させた被検物質を、白血病中枢神経浸潤を抑制し得る物質の候補として選択する工程
    を含む、方法。
  11. 細胞と被検物質との接触が、請求項9記載のマウスへの該被検物質の投与により行われる、請求項10記載の方法。
  12. 以下の(G1)〜(G17):
    (G1) GPM6A;
    (G2) BSN;
    (G3) BRUNOL4(CELF4);
    (G4) LOC730032;
    (G5) GJA1;
    (G6) TUBB2B;
    (G7) CRYAB;
    (G8) LHX2;
    (G9) MAP2;
    (G10) THRA;
    (G11) TPPP;
    (G12) FBXL16;
    (G13) NFIB;
    (G14) DACT3;
    (G15) KIF1A;
    (G16) CTNND2;及び
    (G17) SNAP25
    からなる群より選択され、かつ正常神経細胞で発現していない遺伝子の翻訳産物に対する抗体と、抗腫瘍活性を有する物質とが連結されてなる、白血病中枢神経浸潤抑制剤。
JP2014070234A 2014-03-28 2014-03-28 白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途 Pending JP2015188425A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014070234A JP2015188425A (ja) 2014-03-28 2014-03-28 白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014070234A JP2015188425A (ja) 2014-03-28 2014-03-28 白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2015188425A true JP2015188425A (ja) 2015-11-02

Family

ID=54423496

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014070234A Pending JP2015188425A (ja) 2014-03-28 2014-03-28 白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2015188425A (ja)

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN107773573A (zh) * 2016-08-30 2018-03-09 张超 白血病疾病模型及其构建方法
CN107858428A (zh) * 2017-11-09 2018-03-30 中国人民解放军第三〇九医院 一种与食管胃交界腺癌相关的生物标志物及其应用
JP2020153937A (ja) * 2019-03-22 2020-09-24 東ソー株式会社 オートタキシン測定による中枢神経への癌細胞浸潤を検出する方法及び検出試薬
WO2021024263A1 (en) * 2019-08-08 2021-02-11 Tel Hashomer Medical Research Infrastructure And Services Ltd. Compositions targeting gpm6a and methods for diagnosis and treatment of cancer

Cited By (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN107773573A (zh) * 2016-08-30 2018-03-09 张超 白血病疾病模型及其构建方法
CN107858428A (zh) * 2017-11-09 2018-03-30 中国人民解放军第三〇九医院 一种与食管胃交界腺癌相关的生物标志物及其应用
CN107858428B (zh) * 2017-11-09 2020-05-19 中国人民解放军第三〇九医院 一种与食管胃交界腺癌相关的生物标志物及其应用
JP2020153937A (ja) * 2019-03-22 2020-09-24 東ソー株式会社 オートタキシン測定による中枢神経への癌細胞浸潤を検出する方法及び検出試薬
JP7311858B2 (ja) 2019-03-22 2023-07-20 東ソー株式会社 オートタキシン測定による中枢神経への癌細胞浸潤を検出する方法及び検出試薬
WO2021024263A1 (en) * 2019-08-08 2021-02-11 Tel Hashomer Medical Research Infrastructure And Services Ltd. Compositions targeting gpm6a and methods for diagnosis and treatment of cancer

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Yang et al. Slit–Robo signaling mediates lymphangiogenesis and promotes tumor lymphatic metastasis
JP7328641B2 (ja) 悪性リンパ腫又は白血病の罹患の有無の判別方法並びに白血病の治療及び/又は予防のための薬剤
WO2021128516A1 (zh) CircRNA PVT1及肽段在肿瘤生长预测、转移预测、预后评估和治疗中的应用
WO2016084883A1 (ja) 胆道がんにおける新規治療標的融合遺伝子
JP2008527998A (ja) Nsclcの診断のためのgitr抗体
JP2015188425A (ja) 白血病中枢神経浸潤関連遺伝子及びその用途
WO2007004692A1 (ja) 非小細胞肺がんの予防・治療剤および診断薬
KR101300777B1 (ko) 과산소 노출에 의한 폐손상 모델 동물, 및 taz 마커를 이용한 과산소 노출에 의한 폐손상 진단용 키트
EP2148932B1 (en) Sox11 expression in malignant lymphomas
US20160297860A1 (en) Identification of a novel b cell cytokine
JP5843170B2 (ja) グリオーマの治療方法、グリオーマの検査方法、所望の物質をグリオーマに送達させる方法、及びそれらの方法に用いられる薬剤
JP6675605B2 (ja) 細胞遊走調節に関する疾患の予防・治療剤および肺間質の疾患の疾患活動性判定・予後評価
JP4705469B2 (ja) 抗bambi抗体、及びそれを含有する大腸癌及び肝臓癌の診断剤又は治療剤
JP6721571B2 (ja) 15種類の男性生殖関連タンパク質またはその組み合わせの使用
JP2014532408A (ja) USP2aペプチドおよび抗体
WO2021172315A1 (ja) Lamc2-nr6a1スプライシングバリアント及びその翻訳産物
US9644026B2 (en) Antibody against mutant α-actinin-4
WO2006134960A1 (ja) 抗炎症剤のスクリーニング方法
JP2003116560A (ja) 新規なポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチド
WO2012160031A1 (en) Method for prognosing solid tumor outcome
JPWO2005021739A1 (ja) Nox1ポリペプチドに対する抗体、Nox1遺伝子を利用したガン診断方法、及びガン増殖抑制物質のスクリーニング方法
JP2011079831A (ja) 癌の診断と治療において有用な新規ポリペプチド
KR20190083801A (ko) 데스모글레인 3의 유전적 변이 및 이의 용도
WO2004018678A1 (ja) 癌の予防・治療剤
JP2013002831A (ja) 脳腫瘍幹細胞の検出方法