JP2015173788A - 生体材料セラミックス焼結体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】機械的強度に優れるSiO 4‐イオン含有β‐TCP焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】原料となるリンイオン源物質とケイ素イオン源物質とカルシウムイオン源物質と電荷補償のための一価陽イオン源物質と構造安定化のための二価陽イオン源物質とを配合し、かつ、前記ケイ素イオン源物質の配合比率を4.0mol%未満として混合する混合ステップと、混合ステップにて得られた混合物を仮焼きする仮焼ステップと、仮焼ステップにて得られた仮焼成体を成形する成形ステップと、成形ステップにて得られた成形体を1000℃より高く1150℃より低い温度で焼成する焼成ステップと、を有する生体材料セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
【選択図】図1

Description

本発明はβ型リン酸三カルシウムのリン酸にケイ酸を置換固溶させた生体材料セラミックス、またはβ型リン酸三カルシウム構造内のリン位置にケイ素を置換固溶させた生体材料セラミックス及びその焼結体である生体材料セラミックス焼結体に関する。
現代の急激な少子高齢化社会への移行にともない増加傾向にある高齢者の骨粗鬆症や骨折の治療に用いる医療材料、特に人工骨をはじめとする硬組織用代替材料として利用されているリン酸三カルシウム[TCP;Ca(PO]は、生体親和性や骨誘導能に優れるだけでなく、生体内で次第に溶解しながら患者自身の骨(自家骨)と置換し、最終的には自家骨と完全に置換する生体吸収性セラミックスとして臨床応用されている。
一方、その結晶構造中のカルシウムイオン及びリン酸イオンと各種の金属イオンが置換固溶する特徴を有し、置換固溶する原子位置や置換固溶する金属イオンの種類と量にともない材料化学的性質や生物学的性質が変化する。
このようなリン酸三カルシウムの特徴に着目して、β型リン酸三カルシウム(β‐TCP)及びα型リン酸三カルシウム(α‐TCP)のカルシウムイオンと陽イオンを置換固溶した人工骨材としては、亜鉛イオン(Zn2+イオン)を置換した亜鉛含有TCPが特許文献1で報告されており、Zn2+イオンの溶出(除放)にともない通常のβ‐TCPよりも優れた骨形成促進作用を有することがin vitro(試験管)及びin vivo(生体)評価により明らかにされている。
また、β‐TCP結晶構造中におけるリン酸イオンと陰イオンが置換固溶することに着目し、骨形成を促進するバナジウムの一種であるバナジン酸イオン(VO 3−イオン)がβ−TCP構造中におけるリン酸位置に固溶したバナジン酸イオン固溶β‐TCPが特許文献2及び非特許文献1で報告されている。この硬組織用代替材料は、少量のVO 3−イオンの固溶であれば細胞毒性を示さず、機械的性質についてもβ‐TCP単体に比べて向上し、生体骨と同等の機械的強度を有する。
さらに、ケイ酸イオン(ケイ素)固溶ハイドロキシアパタイトは、既に海外では多くの研究があり、ハイドロキシアパタイト(HAp)に微量なケイ酸イオン(ケイ素)を加えて得られた焼結体材料と生体骨との界面において、ケイ酸イオン(ケイ素)は骨リモルディングを促進するという働きがあることが報告されている(非特許文献2)。
特開2004−175760号公報 特開2010−284506号公報
Matsumoto Naoyuki, Yokokawa Ayana, Ohashi Kenta, Yoshida Katsumi, Hashimoto Kazuaki, Toda Yoshitomo, Phosphorus Research Bulletin, Vol.24, pp. 73-78 (2010) A.E.Porter,N.Patel,J.N.Skepper,S.M.Best,W.Bonfield, Biomaterials, 25,3303-3314(2004)
従来技術におけるMg2+イオン、Zn2+イオン又はSiO 4‐イオン固溶β‐TCP又はα‐TCPは、ともに液相法(湿式法)を用いて合成している。しかし、湿式法によるβ‐TCP及びα‐TCPの合成では、β‐TCPがCa/Pモル比=1.50のみで生成するため、β‐TCPのほかに副生成物として水酸アパタイト(Hap)やピロリン酸カルシウム(Ca)が生成しやすく、実験操作が多いことに加え、β‐TCP相のみを得るためには実験条件(反応温度や反応溶液のpHなど)の厳密な制御及び熟練した実験操作や特別な実験装置が必要となる、等の問題点がある。
また、Mg2+イオン、Zn2+イオン固溶β‐TCPについては、生体材料に求められる性質の一つである機械的強度が明らかにされていない。さらにSiO 4‐イオン含有β‐TCPについても、焼結体の焼結性についての記述はあるが、機械的強度やその強度の向上については明らかにされていない。
さらに、上記従来技術のSiO 4‐イオン含有TCPは、TCPの高温相であるα‐TCPにSiO 4‐イオンが含有している。α‐TCPは低温相であるβ‐TCPに比べて溶解性が高く、水と水和しやすく、それにともない硬化する特長を有するため、実際に生体材料としては主に体内で硬化するリン酸カルシウムセメントの主要成分として使用されているが、β‐TCPのように顆粒もしくはバルクとしての骨補填材としての使用例がないことから、応用の範囲が限られている。
本発明では、ケイ素をβ‐TCPに固溶させることで、優れた材料科学的・生物学的性質を有する新規バイオセラミックス材料及びその焼結体を開発することを目指した。
上記課題を解決するための手段として、以下の発明などを提供する。すなわち、第一の発明として、β型リン酸三カルシウムの結晶構造内のリン酸のリン位置にケイ素を置換させ、置換元素の価電子数の変化にともなう電荷補償のために同結晶構造内に存在する空孔に一価陽イオンを置換させ、さらにこの置換固溶体の構造安定化のためにカルシウム位置に二価陽イオンを置換させたβ型リン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを焼結してなる生体材料セラミックス焼結体の製造方法であって、原料となるリンイオン源物質とケイ素イオン源物質とカルシウムイオン源物質と前記一価陽イオン源物質と前記二価陽イオン源物質とを配合し、かつ、前記ケイ素イオン源物質の配合比率を4.0mol%未満として混合する混合ステップと、混合ステップにて得られた混合物を仮焼きする仮焼ステップと、仮焼ステップにて得られた仮焼成体を成形する成形ステップと、成形ステップにて得られた成形体を1000℃より高く1150℃より低い温度で焼成する焼成ステップと、を有する生体材料セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
また、第二の発明として、混合ステップにおける前記二価陽イオン源物質の配合比率を10.0mol%未満とする第一の発明に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
また、第三の発明として、前記二価陽イオンは、マグネシウムイオン又は/及び、マンガンイオンである第一の発明又は第二の発明に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
また、第四の発明として、焼結ステップでの焼結温度は1050℃から1100℃までの範囲内である第一の発明から第三の発明のいずれか一に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法を提供する。
また、第五の発明として、第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法により製造された生体材料セラミックス焼結体を提供する。
本発明によって、従来技術においてCa位置に置換固溶させた陽イオン(Zn2+イオン、Mg2+イオン)では発現しない、P位置またはリン酸位置にケイ素またはケイ酸イオンの働きに起因するイオン独特の生体への作用、例えば骨生成促進作用などを有した新たな硬組織代替用バイオセラミックスの作製が可能となる。
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いていることから、高温相のα‐TCPではなく低温相のβ‐TCPに陰イオンを固溶させたバイオセラミックスを、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法及び高温処理(焼成)や新たな製造装置を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインをそのまま用いて製造できるため、少ない設備投資やコストでケイ素に起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
生体材料セラミックス焼結体の製造方法を示す処理フロー図 β型リン酸三カルシウムの(a−b)面の結晶配列モデルを示す図 β型リン酸三カルシウムの(a−c)面の結晶配列モデルを示す図 一価および二価金属イオンの固溶形態を示す図 ケイ素固溶β型リン酸三カルシウム粉末の合成方法を示す処理フロー図 ケイ素固溶β型リン酸三カルシウム焼結体の製造方法を示す処理フロー図 実施例1のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムのX線回折図 実施例1のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムのX線回折図(Mg無添加) 実施例1のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムのFT−IRスペクトルを示す図 実施例1のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムの格子定数変化を示す図 実施例2のケイ素固溶β型リン酸三カルシウム焼結体のX線回折図 実施例2のケイ素固溶β型リン酸三カルシウム焼結体の開気孔率変化を示す図 実施例2のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムの見かけ密度変化を示す図 実施例2のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムの曲げ強度変化を示す図 実施例2のケイ素固溶β型リン酸三カルシウムの微構造を示す図
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<実施形態 概要>
β−TCP結晶構造のCa位置の一部に二価陽イオンであるマグネシウム(Mg2+)イオン、空孔に一価陽イオンであるナトリウム(Na)イオン、P位置またはリン酸位置にケイ素(Si)またはケイ酸(SiO 4‐)イオンを、それぞれ固溶したβ‐TCP構造からなる生体材料セラミックス、及びその焼結体について説明する。
<実施形態 構成>
本実施形態の生体材料セラミックスとは、事故や病気などにより欠損、喪失した歯や骨などの生体硬組織の置換材料として用いられるものであって、β型リン酸三カルシウム構造内のリン酸位置に少なくともケイ酸イオンまたはP位置にSiを置換固溶し、さらに同時に結晶の電荷補償のために陽イオン位置の空孔に一価金属イオンとしてナトリウムイオンを固溶したβ‐TCPからなる生体材料セラミックスであればその形状は特に限定しない。粉体、顆粒体、膜状のものや、多孔体、緻密体などの焼結体が該当する。また、固溶とは、2種類以上の元素が互いに固相結晶内を拡散し、化学組成が非化学量論的にも均一になることをいい、焼結体とは、融点より低い温度で加熱し、原料粉末の粒子どうしが合着・融着して固化したものをいう。
図1は、本実施形態の生体材料セラミックス焼結体の製造方法を示すフロー図である。図示するように、原料となるリンイオン源物質とケイ素イオン源物質とカルシウムイオン源物質と前記一価陽イオン源物質と前記二価陽イオン源物質とを配合し、かつ、前記ケイ素イオン源物質の配合比率を4.0mol%未満として混合し(S0101:混合ステップ)、混合ステップにて得られた混合物を仮焼きし(S0102:仮焼ステップ)、仮焼ステップにて得られた仮焼成体を成形し(S0103:成形ステップ)、成形ステップにて得られた成形体を1000℃より高く1150℃より低い温度で焼成する(S0104:焼成ステップ)。以下に、各構成及び実施例について詳述する。
(1)固溶形態
本発明に係るβ‐TCPは、結晶中のリン位置をケイ素で置換固溶したものである。ケイ素の固溶によってβ‐TCP結晶性(粒子サイズなど)に影響し、結晶中の所定量のリンをケイ素で置換固溶することにより、当該β‐TCPからなる生体材料セラミックスの焼結性や機械的強度を制御する。さらには熱安定性の向上から溶解性も制御できる。
(リン酸三カルシウムの性質)
リン酸三カルシウム[Ca(PO:TCP]には、低温からβ、α、α'の三つの相が存在する。α'‐TCPは1450℃付近から高温で安定であり常温では得られない。α‐TCPは1120〜1180℃以下でβ‐TCPに相転移するが、転移の速度が遅いため常温で準安定相として存在する。天然にはWhitlockite[(Ca18(Mg、Fe)(PO14、β相と類似)として存在する。α‐TCP及びβ‐TCPはともに生体活性材料であり、バイオセラミックスとして利用されている。これらの生体内における挙動はHApと似ているが、溶解度はHApより大きく、β‐TCPの溶解度はHApの約2倍、α‐TCPはHApの約10倍である。
β−TCPはHApよりCa/Pモル比が低い(Ca/Pモル比=1.50)ため、他のリン酸カルシウム系セラミックスと比較して生体中での溶解及び吸収速度が大きく、新生骨の生成とともに自家骨と置換するため人工歯根や骨充填材として臨床応用されている。また、β‐TCPはα‐TCPへの転移温度である1150℃以下の温度で焼結体が作製でき、このような焼成プロセスにより分解などを起こさず、吸水性もある。材料の吸収速度が周囲に形成する骨生成速度と適合し、新たに形成した骨が十分な強度をもつことが理想的なバイオセラミックスと考えられるため、β‐TCPはこの条件を満たす可能性を有する数少ない材料である。
一方、α‐TCPは水和してHApとなり、その時に硬化する性質があるため生体用セメントとして応用されている。水のみによる硬化では硬化時間が生体用セメントの使用条件にくらべて長すぎるため、硬化促進のためクエン酸、ポリアクリル酸などの酸を硬化剤として添加する方法も用いられている。しかし、生体用セメントとして酸を用いた場合、充填部位周辺に炎症性の反応が生じるため、酸を用いないかまたは酸を積極的に中和させるタイプのセメントが開発されている。
(β‐TCPの結晶構造)
β‐TCPの空間群はR3cで菱面体晶系に属する。格子定数は六方格子設定でa=1.04391nm、c=3.73756nmである。図2にβ‐TCPの結晶構造を示す。図2(a)は(a−b)面の結晶配列モデルを示し、図2(b)は(a−c)面の結晶配列モデルを示すものである。β‐TCPは結晶構造(単位格子)中にCa多面体とPO四面体からなる結晶学的に独立なAとBの2本のカラムが、c軸に平行に存在している。
Aカラムはc軸(3回軸)上に存在し、p(1)−Ca(4)−Ca(5)−P(1)‐空孔(□)−Ca(5)−P(1)の繰り返しである。天然鉱物であるWhitlockiteではCa(4)及びCa(5)位置にはMgやFeなどの他金属イオンが置換する。また、Ca(4)位置は席占有率が約0.5であるため、カラムAには空孔が存在する特異な結晶構造である。
BカラムはP(2)−P(3)−Ca(1)−Ca(3)−Ca(2)−P(2)−P(3)の繰り返しであるが、3つのCaは、一直線上にのらずに折れ線を形成する。下記の表1と表2には空孔を考慮したβ‐TCP単位格子(Ca21□(PO14)中の各Ca位置および各PO位置の割合をそれぞれ示す。
(金属イオン固溶β‐TCP)
図3に一価及び二価金属イオンの固溶形態を示す。図3(a)に示すように、β‐TCPへの一価金属イオンはCa(4)位置のカルシウムイオンと空孔に2M=Ca2+イオン+□(□:空孔)の形態で固溶し、その固溶限界は全陽イオン位置に対して9.1mol%である。また、図3(b)に示すように、二価金属イオンの場合には、まずCa(5)位置に9.1mol%まで固溶した後、Ca(4)位置に4.6mol%だけ置換し、全体量として13.6mol%固溶する(3MII+□=3Ca2++□)。各原子位置の固溶限界まで固溶しなかった原子位置は空孔になる。一般的にはβ−TCP(Ca21□(PO14)のCa(4)位置にはCa2+イオンが4.6mol%しか存在せず、それ以外に空孔が4.6mol%存在している。以上の通り、一価と二価の金属イオンでは、β‐TCP構造への置換固溶位置が異なることが特徴である。
(ケイ酸イオンの生体反応)
ケイ素はR−O−Si−O−Rのような結合によって多糖類との間で、またはヒアルロン酸硫酸塩やコンドロイチン硫酸などの酸性ムコ多糖類との間で橋かけ構造を形成し、結合組織に強度や弾性を付与している。このようなケイ素の橋かけ構造によって、皮膚は化学的、機械的に安定化され、また血管壁の透過性や弾性も保たれ、正常な機能を発現している。
ケイ素は結合組織を構成する主要なタンパク質であるコラーゲン分子中のα-プロテイン鎖あたり3〜6個存在しているといわれている。したがって、ケイ素が欠乏すると、骨組織や結合組織に障害があらわれる。また、ヒトは加齢とともに大動脈、胸腺、皮膚などのケイ素含有量が低下し、それにともなって動脈硬化が増加することから、ケイ素は脂質の沈着を阻止し、動脈硬化を予防する作用があるといわれている。また、ケイ酸を含む無機材料では、表面電荷が負電荷を示し、この負電荷になる効果によって、細胞外マトリックスの吸着等を促進する。さらにケイ酸が材料表面にあることで骨類似アパタイトの形成を促進し、材料と生体骨との接着性および新生骨形成を増大させることができる。
(マグネシウムイオンの生体反応)
マグネシウムは、細胞内でエネルギー源となる最も重要な酵素ATPアーゼを活性化する。マグネシウムが基質であるATPと結合し、この複合体にATPアーゼが作用してエネルギーを産生する。細胞膜に存在するナトリウム―カリウムポンプ、カルシウムポンプなどのイオン輸送機構には、前述したATPアーゼが作用する。したがって、マグネシウムは、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどのイオン濃度の勾配を保つ働きをしている。
(ナトリウムイオンの生体反応)
ナトリウムイオンは、一価陽イオンとして、水素イオンと並んで生体内で重要な機能と密接に関連している。具体的には、生体内のアパタイトとの細胞接着や骨代謝、吸収の過程で必要となる。
(本発明の目的)
既存の研究によって、β‐TCPにナトリウムイオン及びマグネシウムイオンを同時固溶させると優れた機械的強度をもつ焼結体を得ることできることが明らかとなっている。また、微量必須元素で骨形成を促進する作用をもつケイ酸イオン(ケイ素)を固溶させたTCPの研究が報告されている。
そこで、本発明では、Ca(5)位置にマグネシウム(Mg2+イオン)、Ca(4)位置の空孔にナトリウム(Naイオン)、P位置にSi(Si4+イオン)を(言い換えればAカラム上にあるP(1)を含むリン酸位置にケイ酸(SiO 4‐)イオンを置換させる)固溶したβ‐TCPを作製し、生体の皮質骨の機械的強度と同等の優れた強度をもつ焼結体を作製することを目的とする。
(2)ケイ素固溶β−TCP粉末の合成
本発明に係るβ−TCP粉末の合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、実用性及び汎用性が高く、高温相のα−TCPではなく低温相のβ−TCPに陰イオンを固溶させたバイオセラミックスを、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法及び高温処理(焼成)や新たな製造装置を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインをそのまま用いて製造できる点で、乾式法が好ましい。
例えば、既存の方法に従い、(NHHPOとCaCOをそれぞれリン源及びカルシウム源として、マグネシウム源としてMgO、ナトリウム源としてNaNOを、ケイ酸源にはSiOを使用することが考えられる。具体的には、β−TCPを構成する結晶構造の各イオン位置を基本とし、Ca2+イオンを陽イオン位置のCa(1)位置席占有率1.0、Ca(2)位置席占有率1.0、Ca(3)位置席占有率1.0およびCa(4)位置席占有率0.5になるように全陽イオン位置に対して86.4 mol%を、Mg2+イオンをCa(5)位置席占有率1.0になるように9.1 mol%を、SiO 4−イオン(Siとして)を全陰イオン位置に対して0から7.1mol%まで、PO 3−イオン(Pとして)はSi添加量に対して逆に100mol%から減じて配合した。また、電荷補償のためのナトリウムイオンは、添加したSiO 4−イオンに対して等量のモルをCa(4)位置の空孔量に対して添加した。しかし、(Ca+Na+Mg+□)/(P+Si)=1.571となることから、ナトリウム添加量は、ケイ素添加量に1/1.571モル比を乗じた量になる。原料粉末作製のための原料配合比(mol%配合)を表3に示す。なお、表4にはCa(5)に二価陽イオンとしてマグネシウムを加えない配合についても示した。表3に示した配合は、マグネシウム源の配合比率を10.0mol%未満とする点に特徴を有する。これは不純物して生成するケイ酸マグネシウム、ケイ素含有アパタイトまたはマグネシウム組成のガラス相を極めて少なくするためである。
合成方法の一例を図4に示す。各出発原料を、エタノール溶媒としたアルミナボールミルで48時間湿式混合する。混合試料のエタノールをロータリーエバポレーターで除去し、焼成温度900℃、大気雰囲気下の条件で12時間焼成する。そして得られた焼成体が本発明に係るβ−TCP粉末となる。このβ−TCP粉末を評価対象とした。
(3)ケイ素固溶β−TCP焼結体の作製
本発明に係るケイ素固溶β−TCPの焼結は既存の方法に従い行えばよい。一例を図5に示す。表3に示した各出発原料を所定の配合比で調合し、アルミナボールミルで湿式混合する。混合試料を大気雰囲気下で900℃、12時間仮焼し、得られた試料を75μm以下に分級後する。仮焼粉末を金型に流し込み、一軸加圧成形器を使用し、ゲージ圧力33MPaで1分間圧力を保持して一軸加圧成形し、成形体を作製する。成形時の条件は、金型:20mm×45mm、シリンダー内径:Φ60.5mm、圧力:100MPaである。一軸加圧成形した成形体を真空包装した後、CIP成形器を使用し、水を溶媒として200MPaで1分間静水圧成形(CIP成形)する。この成形体を、大気雰囲気下で、それぞれ1000℃、1050℃、1100℃、1150℃で24時間焼成する。そして得られた焼結体が本発明に係るβ−TCP焼結体となる。
<実施形態1:置換効果>
β−TCPやα−TCP結晶構造中のリン位置またはリン酸位置にリンとは異なる元素またはその酸素酸塩の陰イオンを固溶したTCPバイオセラミックスに関する本発明によれば、固溶させたケイ素またはケイ酸イオンの働きに起因する。これまで報告されているCa位置に置換固溶させた金属イオン(Zn2+イオン、Mg2+イオン)の固溶(働き)では発現しないリン位置および陰イオン位置独特の生体への作用、例えば骨生成促進作用などを有した、新たな硬組織代替用バイオセラミックスの作製が可能となる。
本発明によれば、これまでの陽イオン固溶TCPでは実現できなかった焼結性や溶解性などを有する硬組織代替材料が作製可能となり、理想的な生体硬組織代替材料とされる埋入する患者の年齢や性別、及び患部に合わせた骨補填剤や生体骨セメントなどの作製を促進することが可能となる。
本発明は、一般的なβ−TCPの製造方法である固相法を用いていることから、実用性及び汎用性が高く、高温相のα−TCPではなく低温相のβ−TCPの陰イオン位置にケイ素を置換固溶させたバイオセラミックスを、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法及び高温処理(焼成)や新たな製造装置を必要とせず、現在のβ−TCPの製造ラインをそのまま用いて製造できるため、少ない設備投資やコストで骨生成促進効果などを有したβ−TCPの製造が可能となる。
ケイ素固溶β−TCPの評価
図3に示す方法により作製した粉末試料の評価方法は、以下に述べる通りである。
(1)X線回折
RAD−2C型X線回折装置を用いて、試料の結晶相の同定を行った。測定条件は、ターゲット:CuKαモノクロメーター、管球電流:30mA、管球電圧:40kV、スキャンスピード:8℃/min、回折角度:10°〜60°、スキャンステップ:0.020°である。
図6に、ケイ素又はケイ酸(SiO 4−)イオン添加量を変化させた混合粉末を焼成して得た粉末試料のX線回折図を示す。焼成して得た粉末の回折線はケイ素添加量3mol%までは、β−TCPの回折線と一致したことから、β−TCP構造であることを認めた。しかし、4mol%以上の添加量では、β−TCPの回折線のほかに副生成物としてアパタイト構造を有する物質の回折線を認めた。このアパタイト構造を有する物質の回折線は、その回折線の位置からケイ素を含むアパタイトであることがわかった。
図7に、Ca(5)位置に二価金属イオンとしてマグネシウムを9.1mol%配合しない場合について、前述と同様にケイ素又はケイ酸(SiO 4−)イオン添加量を変化させた混合粉末を焼成して得た粉末試料のX線回折図を示す。図からわかるとおり、Ca(5)位置にマグネシウムを配合しない場合には、いずれのケイ素添加量においてもβ−TCPの単一相の回折線は得られなかった。また、ケイ素の配合量とともに、ケイ素を含有したアパタイトの回折線の強度も高くなり、ケイ素はアパタイトの生成に関与していることがわかった。このことから、β−TCPを安定的に得るためには、Ca(5)位置にCaイオンのイオン半径より小さなイオン半径の二価金属イオンを置換させる必要があることが明らかとなった。また、このCa(5)位置に置換させる二価金属イオンには、Mg、Mnなどが適切であった。さらに、Ca(5)位置に二価金属イオンの添加量を変えても、Ca(5)位置の固溶限界の9.1mol%より少ない量ではアパタイトが生成し、β−TCPの安定性が低下することも分かった。
(2)FT−IR
フーリエ変換型赤外分光光度計を用いて、試料の定性分析を行った。FT−IR測定はKBrを用いた拡散反射法で行った。試料とKBrの混合重量比は、試料1に対してKBrを約20とした。測定範囲は400〜4000cm−1、積算回数は68回である。
図8に、ケイ酸イオン添加量を変化させて作製した粉末のFT−IRスペクトルを示す。得られた試料 のFT−IRスペクトルには945cm−1(ν)、432cm−1(ν)、1010cm−1(ν)、550cm−1(ν)付近にPO の四つの基準振動が認められ、νとνは伸縮振動、νとνは変角振動である。すべての試料についてPO基に帰属する四つの基準振動を認めた。副生成物のケイ素を含有するアパタイトに起因するピークは、生成量が微量であるために明らかな存在としての結果は認められなかった。
以上のことから、作製した粉末はケイ素添加量3mol%までは各種の金属イオンを固溶したβ−TCP構造であることが明らかになった。
(3)格子定数の精密化
格子定数の精密化は、回転対陰極型X線回折装置を使用し、内部標準法及び最小二乗法で行った。測定条件は、ターゲット:CuKαモノクロメーター、管球電流:200mA、管球電圧:40kV、スキャンスピード:10°/min、回折角度:25〜70°、スキャンステップ:0.020°である。
β−TCPと内部標準試料であるSi素粉末(純度99.99%)を重量比4:1で混合し、これを測定試料とした。測定試料について上記の測定条件で標準測定を行い、得られたβ−TCPの回折線(2 0 10)、(2 1 8)、(2 2 0)、(3 2 8)、(2 0 20)及びSiの回折線(1 1 1)、(2 2 0)、(3 1 1)、(4 0 0)について最適な条件下で予備測定した。そして、ピークトップ法を用いた内部標準法で角度補正を行った後、次式を用いた最小二乗法で格子定数を精密化した。
ケイ素又はケイ酸イオン添加量を変化させて作製した粉末の格子定数変化を図9に示す。各試料の格子定数の変化は、ケイ素添加量の増加にともないa軸長はわずかに増加し、c軸長は減少した。とくに、c軸長はケイ素3mol%添加量までの変化と、4mol%ケイ素添加量以上の変化との間には、連続性は認められなかった。これは、既に示したX線回折図の結果を裏付け、ケイ素4mol%添加量以上の試料には、副生成物として微量にケイ素を含むアパタイトの生成を認めたことから、添加したケイ素の一部がβ−TCPには固溶していないことを示唆する。一方で、ケイ素3mol%添加量までの試料は、添加したケイ酸イオンはP位置に固溶していることがわかった。さらにa軸長の増加はリン酸四面体(PO)のP−O結合間距離は1.56オングストロームであるが、置換するケイ酸四面体(SiO)のSi−O結合間距離は1.64オングストロームであり、リンにケイ素の置換固溶を裏付けている。一方、c軸長の減少は、β−TCPのAカラムの空孔にナトリウムイオンが置換固溶すると減少することが既に分かっていることから、本実験の場合にも、電荷補償のためのナトリウムイオンが空孔に位置していることを示唆する。
以上の格子定数測定の結果から、本実験の配合と仮焼温度900℃の場合、β−TCPへのケイ素又はケイ酸イオンの固溶限界は添加量3mol%であることと、ケイ素又はケイ酸イオンの置換固溶のために電荷補償するCa(4)の空孔(席占有率0.5)にナトリウムイオンが過剰に存在できることを示した。
(4)まとめ
Si(SiO 4−イオン)を添加したβ−TCP粉末のX線回折図より、ケイ素3mol%添加量までの試料の結晶相はβ−TCP構造であり、β−TCPの回折ピークと一致することが明らかとなった。また、FT−IRスペクトルからは、Si(SiO 4−イオン)添加量の増加にともないSiO基に帰属する吸収強度が増加し、一方のPO基に帰属する吸収が低下したことから、Si(SiO 4−イオン)がβ−TCP中のP位置に固溶したことを明らかにした。また、作製した試料の格子定数は、ケイ素3mol%添加量までの増加にともない、a軸長は増加し、c軸長はそれぞれ連続的に減少した。したがって、ケイ素3mol%添加量までは、添加したSi(SiO 4−イオン)はP位置(Pを含むリン酸イオン)に固溶し、電荷補償のためにCa(4)位置の空孔にナトリウムイオンが置換することが明らかにした。
ケイ素固溶β−TCPの焼結体の評価
図4に示した方法により作製した焼結体の評価方法は、以下に述べる通りである。
(1)アルキメデス法による開気孔率及び見かけ密度の測定
開気孔率及び見かけ密度はJIS R 1634に基づいて、水を溶媒に用いたアルキメデス法で測定した。開気孔率及び見かけ密度は下記の式より算出した。
ここで、Wは試料の乾燥重量(g)、Wは飽水試料の水中重量(g)、Wは飽水試料の空中質量(g)、Sは純水の密度(1.0g/cm)である。
図10に、焼成温度を1100℃としてケイ素又はケイ酸(SiO 4−)イオン添加量を変化させて得た焼結体試料のX線回折図を示す。焼結体試料の回折線はケイ素添加量7.1mol%までは、β−TCPの回折線と一致したことから、β−TCP構造であることを認めた。しかし、すでに図5で示した粉末原料の場合には4mol%以上の添加量では、β−TCPの回折線のほかに副生成物として微量なケイ素を含有したアパタイトの回折線を認めていたが、焼結温度を高めて焼結するとこのアパタイト構造を有する物質の回折線は焼失した。これは仮焼温度よりも高温加熱することにより、焼結反応に寄与し、冷却の際に不純物相としてガラス相を生成していることが考えられる。そのため、4mol%以上の添加量での焼結体の微構造への大きな影響が示唆された。
図11には焼成温度及びケイ素添加量を変化させて作製した焼結体の開気孔率変化を、図12には焼成温度及びケイ素添加量を変化させて作製した焼結体の見かけ密度変化を、それぞれ示す。図11に示した焼成温度及びケイ素添加量を変化させて作製した焼結体の開気孔率の変化は、焼結温度を高くするにともない低下した。また、各焼結温度においてケイ素添加量を変化させるとケイ素添加量の増加にともない増加した。とくに1100℃および1150℃ではケイ素添加量4mol%までは開気孔率は低いが、それ以上の条件では開気孔率は急激に増大した。これは原料粉体に含まれていたケイ素含有アパタイトの副生成物による影響が考えられる。
一方、図12に示した焼成温度及びケイ素添加量を変化させて作製した焼結体の見かけ密度の変化は、焼結温度を高くするにともない増大した。また、各焼結温度においてケイ素添加量を変化させるとケイ素添加量の増加にともない低下した。とくに1100℃および1150℃ではケイ素添加量4mol%まで高い見かけ密度を示したが、それ以上の条件では逆に低下した。これも原料粉体に含まれていた副生成物による影響が考えられた。これらのことから、β−TCPの理論密度は3.07g/cmであることから、焼結温度を1100℃および1150℃にしたときにケイ素添加量を3mol%までの条件で高密度な焼結体が得られることがわかった。
(2)焼結体の曲げ強度測定
曲げ強度測定には、オートグラフを使用し、支点間距離:30mm、クロスヘッド速度:0.5mm/min、試料片本数3〜5本、試料片サイズ3.0×4.0×36mm、試験温度:室温、試験雰囲気:大気中の条件で三点曲げ試験を行った。なお、焼結体の切断には低速切断機を、表面研磨には研磨機をそれぞれ使用して、耐水研磨紙#200及び#400で研磨と面取りを行った。曲げ強度はJIS R 1601に基づき、次式から求めた。
ここで、σは三点曲げ強さ(MPa)、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)、Lは支点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)である。曲げ強度試験は一試料につき4〜6本行い、曲げ強度はその平均値とした。
図13に、焼成温度及びケイ酸イオン添加量を変化させて作製した焼結体の曲げ強度変化を示す。1000℃、1050℃および1100℃と焼結温度を高くするにともない作製した焼結体の曲げ強度は増大した。とくに1100℃の焼結条件では、生体骨の皮質骨と同等の機械的な強度をもつことがわかった。また、各焼結温度においてケイ素添加量を変化させるとケイ素添加量を3mol%までは曲げ強度の増大を認めたが、4mol%以上では曲げ強度は低下した。これも原料粉体に含まれていた副生成物による影響が考えられ、この曲げ強度の低下は、既に示した図10および図11に示した開気孔率の増大と見かけ密度の低下によるものと考えられる。さらに1150℃の焼結温度では、1100℃の焼成温度の強度を持つものも有るが、全体的に強度にばらつきが大きく、焼結粒子の異常粒成長や一部ガラス反応の進行が考えられ、焼結体の微構造に欠陥を生じたために曲げ強度の向上が認められなかったものと変えられた。また、本実験では、1150℃の焼結温度よりも1050〜1100℃のほうが、焼結体の物性等のバラツキが少なく、製品製造には適切な焼結温度あることがわかった。
(3)微構造観察
三点曲げ試験後の焼結体の破断面を、走査型電子顕微鏡を使用し、フィラメント:W(タングステン)、加速電圧:2〜3kVの条件で微構造観察した。イオンスパッタ装置を使用して、あらかじめ金蒸着した試料を検鏡試料とし、必要な場合にはドータイト(藤倉化成株式会社の製品名)で前処理を行った。試料の加工には研磨機を使用し、耐水研磨紙#200、#400、#800、#1500、ラッピングダイヤ液、ポリシングダイヤ液を用いて鏡面研磨を行った試料を、大気雰囲気下で3時間、焼結温度に対して100℃低くした所定の加熱温度でサーマルエッチングを行った。
図14に、焼結温度を変化させて作製した焼結体の微構造を示す。いずれもケイ素添加量3mol%である。1000℃焼結では、焼結温度が低く、開気孔が大きく粒子同士の焼結が進行していないことがわかる。1050℃焼結では、焼結粒子の増大は認めらないが気孔が存在していることがわかる。1100℃焼結では、焼結粒子の増大は認めらないがわずかに気孔が存在しているが、焼結体として適切な微構造を示している。これら温度では、焼結温度の増加によって焼結は進行するが構成粒子の著しい粒成長は認められなかった。しかし、1150℃焼結では、焼結粒子の増大が認められ、気孔も存在している。このような1150℃の焼結条件では、焼結粒子の粒成長が認められることから、この粒子成長が既に示した1150℃での曲げ強度のばらつきを大きくしていることを裏付け、この焼結温度は高温すぎて適当ではないことが分かった。なお、ここには示していないが、ケイ素添加量4mol%以上の原料粉体を用いて焼結した場合には、1150℃で示したように焼結粒子の粒子径と気孔の増加を認めた。これは既に示したように、不純物相による液相又はガラス相の生成を裏付けた。
(4)まとめ
焼結して得た試料はβ−TCP構造であり、原料と同じようにβ−TCP構造にマグネシウム、ナトリウム、ケイ素が置換した固溶体であることを明らかにした。ケイ素(ケイ酸イオン)固溶試料の固溶限界は3mol%にあり、それ以上の配合ではケイ素を含有したアパタイトの混合物を生成した。
ケイ素(ケイ酸イオン)固溶β−TCP焼結体の開気孔率は、焼結温度の上昇にともない減少し、逆に見かけ密度は増大した。ケイ素(ケイ酸イオン)添加量をかえると固溶限界の3.0mol%までの条件では、得られた焼結体の開気孔率は低下し、見かけ密度は増大した。とくに焼結温度1100℃、ケイ素(ケイ酸イオン)添加量3mol%までの条件で緻密化した焼結体が得られることがわかった。ケイ素(ケイ酸イオン)固溶β−TCP焼結体の曲げ強度は、焼結温度の上昇にともない増大し、ケイ素(ケイ酸イオン)添加量をかえると固溶限界の3.0mol%まで増大した。曲げ強度からも。焼結温度1100℃、ケイ素(ケイ酸イオン)添加量3mol%までの条件で生体の緻密骨と同等な機械的な強度をもつ焼結体が得られることがわかった。さらに、1150℃、24時間の焼結条件では、焼結性の向上は促すが、同時に粒子成長も起こすために機械的強度に優れた焼結体作製の焼結条件としては適切ではなく、これよりも低温度、短時間での焼結条件が必要であることがわかった。
<実施形態 効果>
本実施形態の生体材料セラミックス焼結体の製造方法により、物性等のばらつきが少なく機械的強度に優れるケイ素(ケイ酸イオン)固溶β−TCP焼結体を製造することが可能となる。

Claims (5)

  1. β型リン酸三カルシウムの結晶構造内のリン酸のリン位置にケイ素を置換させ、置換元素の価電子数の変化にともなう電荷補償のために同結晶構造内に存在する空孔に一価陽イオンを置換させ、さらにこの置換固溶体の構造安定化のためにカルシウム位置に二価陽イオンを置換させたβ型リン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを焼結してなる生体材料セラミックス焼結体の製造方法であって、
    原料となるリンイオン源物質とケイ素イオン源物質とカルシウムイオン源物質と前記一価陽イオン源物質と前記二価陽イオン源物質とを配合し、かつ、前記ケイ素イオン源物質の配合比率を4.0mol%未満として混合する混合ステップと、
    混合ステップにて得られた混合物を仮焼きする仮焼ステップと、
    仮焼ステップにて得られた仮焼成体を成形する成形ステップと、
    成形ステップにて得られた成形体を1000℃より高く1150℃より低い温度で焼成する焼成ステップと、
    を有する生体材料セラミックス焼結体の製造方法。
  2. 混合ステップにおける前記二価陽イオン源物質の配合比率を10.0mol%未満とする請求項1に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法。
  3. 前記二価陽イオンは、マグネシウムイオン又は/及び、マンガンイオンである請求項1又は2に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法。
  4. 焼結ステップでの焼結温度は1050℃から1100℃までの範囲内である請求項1から3のいずれか一に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法。
  5. 請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックス焼結体の製造方法により製造された生体材料セラミックス焼結体。
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